エルの翼のようです
134 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:39:16 ID:Y3858kHA0
( ^ω^)「おはようございますだおデレさん」

ζ(゚ー゚*ζ「おはようブーン君」

最後の収穫から三日がたった。収穫後は村の皆が収穫したベリーを加工するので、僕達は特にやる事がなくなり、
加工品を売る作業になるまでは自由なのだ。
よって、僕はこの暇な時間をタカナと妹者ちゃんと、釣りをしたり、北の森に出かけたりしていた。

( ^ω^)(うーん、昨日は森に行ったから、今日は釣りにでも行こうかお)

デレさんの作ってくれた朝食を食べながら、僕は今日の予定を考える。
今日の朝食は、バタートースト。

ζ(゚ー゚*ζ「今日はどこにいくの?」

( ^ω^)「今日は川に釣りに行こうと思ってますお」

川で釣りをすれば、釣った魚を食料として得る事ができる。
普段デレさんに食事を作って貰っているので、たまには僕が材料を取ってこなければ。

ζ(゚ー゚*ζ「そっかー、じゃあ私も行こうかな」

( ^ω^)「おっおっ、デレさんもですかお! そりゃ楽しみですお」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、私はお昼ご飯を用意するから、その間にタカナちゃん達を呼んできてあげて」

( ^ω^)「はいですお」

僕は教会から飛び出して、タカナ達を呼びに向かった。

135 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:40:06 ID:Y3858kHA0
(*^д)「あ、ブーン君おはよ!」

僕がタカナの家についた時、タカナは花壇に水をやっていた。
これは彼女の朝の日課のようなものである。

( ^ω^)「タカナ、釣りに行かないかお?」

(*^д)「行く!」

タカナが飛び跳ねて喜ぶ。
僕はタカナに、準備をして教会に行くように告げ、妹者ちゃんを呼びに向かった。
流石さんの家についた時、妹者ちゃんは兄者さんと朝食をとっていた所だった。

( ´_ゝ`)「やぁブーン君、今日は妹者とどこに行くんだい?」

( ^ω^)「釣りに行こうかと思ってますお」

( ´_ゝ`)「おー、そりゃいいな」

l从・∀・*ノ!リ人「釣りなのじゃ? 妹者、釣り大好きなのじゃ!」

( ´_ゝ`)「俺も行きてぇが、加工の仕事があるからな……妹者、沢山釣ってきてくれ、晩飯はそれにしよう」

l从・∀・*ノ!リ人「うん、がんばるのじゃ!」

( ^ω^)「じゃあ、準備を終えたら教会前にきておくれお」

l从・∀・*ノ!リ人「うん!」

136 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:41:26 ID:Y3858kHA0
教会につき、僕は階段に腰を下ろした。
後はタカナ達がくるのを待つだけだ。
だいたい十五分程待ったであろうか、教会に一人の女の子がやってきた。
タカナ達が普段纏っている服とは違うのが遠目でも分かった。あれはツーちゃんだ。

(*゚∀゚)「おーブーン! 今日は暇か?」

( ^ω^)「ん、暇してるお! 今日は釣りに行こうかと思ってるお」

(*゚∀゚)「釣りかー! アタシも行っていいか?」

( ^ω^)「うん、ぜんぜん構わないお」

ただ、今回はデレさんが一緒に行く予定だ。
それをツーちゃんが許容するかどうか不安だ。

ζ(゚ー゚*ζ「ブーン君、準備できたよ」

釣竿を持ったデレさんが丁度教会からでてきた。
背中には青いバッグを背負っており、左手にはバケツを持っている。

(*゚∀゚)「……デレも行くのか」

ζ(゚−゚*ζ「ストランド様……」

(;^ω^)「……ツーちゃん、行くかお?」

(*‐∀‐)「……いや、やめておくよ」

ζ(゚−゚*ζ「ブーン君、私は教会の掃除をしなきゃいけないの思い出したから、楽しんできて」

137 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:42:31 ID:Y3858kHA0
デレさんはそう言うと、僕にバケツと背負っていた青いバッグを渡してきた。
きっと、これが大人の対応という奴なのだろう……僕はなんとも言えない気分になりながら、教会へ戻るデレさんの背を見つめていた。

(*゚∀゚)「……悪いなブーン」

( ^ω^)「いや、しょうがないお」

(*゚∀゚)「アタシ、父上に知らせてくるよ」

( ^ω^)「うん、分かったお」

パタパタと走り出していくツーちゃん。
その後姿を見送っている内に、タカナと妹者ちゃんが釣竿を持ってやってきた。
タカナの方は息が荒く、額や頬に汗が浮かんでいるのを見ると、走ってきたか釣竿を探して家の中を走り回ってたのだろう。

(;^д)「はふぅ……どこに釣竿が閉まってあるか分からなかったから、お兄ちゃんに聞きにいったよ……」

はぁはぁと呼吸を整えるタカナ。

l从・∀・ノ!リ人「準備できたのじゃー!」

( ^ω^)「あ、ツーちゃんが来るお! 今は準備のために屋敷に戻ってるけど」

l从・∀・ノ!リ人「ストランド様がくるのじゃ?」

(*^д)「一杯連れたら、ストランド様に分けてあげようね」

( ^ω^)「大丈夫だお、ツーちゃんは釣りうまいし」

138 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:44:43 ID:Y3858kHA0
シベリア村の北西に位置する場所に、巨大な屋敷が存在する。
そこはストランドと呼ばれる貴族の別荘で、ベリーの収穫時期に彼は別荘にやってくる。

( ノAヽ)「……いい香りなノーネ、どこ産の茶葉なノーネ?」

ミ*゚ー゚彡「ロアエ産の茶葉です、少々値は張りましたが、ラウンジでは有名な茶葉ですよ」

( ノAヽ)「ああ、いい茶葉を買ってきてくれと頼んでいたな」

紅茶を啜る男。
ノーネ=ストランド、この屋敷の主である。
その隣で、メイド服をきた長毛種の女性はフサミナ=ウォーナ、ストランド家に幼い頃から買われた女性である。

( ノAヽ)「ふむ、いい味だ」

カップを机に置き、新聞を広げる。
そこにはラウンジ国、首都ラージウンで現在起きている事について断片的な情報が載っていた。
その断片的な情報は、市民に見せるまでもないと予め遮断されているのだろう。

( ノAヽ)「……しかし、この程度の情報で国民を納得すると思っているノーネ?」

新聞には、この大規模の徴兵と税金の徴収の理由が、僅かばかり書かれているだけである。
その具体的な理由も、大半はお茶を濁すような情報で、当然ながら納得のいくような情報ではない。

( ノAヽ)(一言、大規模な戦争をすると書けばいいものを……
      まあ、それができれば苦労はしないノーネ)

もし、この戦争がおきれば今度は十数年単位で戦争が続くだろう。
それだけ、国王がこんかいの戦争に力を入れているのをノーネは理解している。
だが、そのような戦争を起こしてこの国の経済も人的資源も持つか怪しい事もノーネは理解している。
この国は現在小康状態なのだ。
三百年の戦争の爪あとはとても深い。

139 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:46:00 ID:Y3858kHA0
( ノAヽ)(国王も老いたものなノーネ……)

かつては賢王とも呼ばれていたが、ここ数年の行動は少々斜め上を行き過ぎていると思うノーネ。
早いところ息子達の誰かに王座を譲ればいいと思うが、その息子達も色々問題があるらしい。

( ノAヽ)(もし譲るとしても、王位を継ぐ後継者が十一人もいれば問題なんて幾らでも起こるものなノーネ)

家は、子供が一人しかいないため、後継者選びは簡単なのだが。
色々と思うところがあり、一概に簡単とは言えない状況であった。

ミ*゚ー゚彡「どうかなさいましたかノーネ様? 紅茶が冷めてしまったのなら淹れなおしますが」

( ノAヽ)「いや、すまない……くだらない事を考えていたノーネ」

紅茶を啜る。
その味と香りに舌鼓をうちながら、新聞に連載されている小説に目をやる。

ミ*゚ー゚彡「ストランド様、昼食は何にいたしましょうか?」

( ノAヽ)「なんでもいい……と言いたい所だが、今日は魚が食いたいな」

ミ*゚ー゚彡「分かりました、川魚にしますか? 海魚にしますか?」

( ノAヽ)「そうだな、塩焼きが食いたいから川魚がいいか」

ミ*゚ー゚彡「分かりました、貯蔵庫にないか確認してきますね」

フサミナが部屋をでようとした時、ツーが部屋へと入ってきた。
その表情から、なにかうれしい事があったのがうかがい知れた。

140 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:47:30 ID:Y3858kHA0
(*゚∀゚)「父上、ブーン達と釣りに行ってよいでしょうか?」

( ノAヽ)「ブーン……ああ、ホライゾン君か、彼となら構わないノーネ」

ノーネの言葉に嬉しそうな笑顔を浮かべ、尻尾も激しく上下する。
その感情の表現の仕方にフサミナは微笑んだ。

(*゚∀゚)「やったぁ! 早速準備しないと」

( ノAヽ)「んで、どこに釣りに行くのか聞いてるノーネ?」

(;゚∀゚)「あっ」

( ノAヽ)「……まったく、お前は肝心な所が抜けてノーネ」

額に手をあて、ため息をつくノーネ。
貴族の娘という身分上、誘拐というものが一番怖い。
故に、どこかにでかけるのであれば、行き先を知る必要がある。
もっとも、この村の付近にそのような者がでるという話は何故か聞かないのだが……
強力な魔物でも潜んでいるのかと、常々ノーネは思っているのだが、そんな話は聞かない。

( ノAヽ)「シーン、悪いが、ツーについていってやって欲しいノーネ」

ノーネの言葉の後、ノーネ達が居る居間に一人の若者が入ってくる。
鉄製の胸当てをつけた軽装な身なりで、右手には銀色の小手をしていた。

(・−・ )「了解しましたノーネ様」

シーン=カラリス、かつて奴隷として売られ、ノーネに買われた経歴の持ち主である。
現在は様々な剣術や体術を学び、護衛としての役目を受け持っている。

141 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:48:59 ID:Y3858kHA0
(・−・ )「ではお嬢様、行きましょうか」

(*゚∀゚)「ああ、まあ誘拐犯なんてでないとは思うが、よろしく頼むよ」

(・−・ )「なにがあるかわかりませんから」

そう言い装備を確認するシーン。
胸当ての後ろにしまってある、投げナイフ、服の下、胸に巻いたサラシの間に挟んだ数本の小さな投げナイフ、
腰に挿したソードブレイカー、スティレット、腰のベルトにつけた数本の小さなナイフ、バックパックに入れた煙球etcetc…

(;゚∀゚)「な、なぁシーン、そんな沢山に武器持ってく必要あるか?」

(・−・ )「少し物々しいですか……なら、サラシのナイフは置いていきましょうか、
      一応心臓に刃が迫った時の防衛用に入れてもある物なのですが」

(;゚∀゚)「いや、そういう事を言ってるわけじゃ……まあ、別にいいか」

(・−・ )「万が一があっては、ノーネ様に申し訳がありませんので」

( ノAヽ)「まあ、世の中なにがあるか分からんノーネ……天使が落ちてきたりな」

(;゚−゚)「天使……か」

( ノAヽ)「村長は、危険がないと言って、診療所で寝ている天使を公開してるが……
      ツーは見てきてないノーネ?」

あのような美しい者はここまで生きていた中で見たことはない。
まあ、天使というだけはある。人外の美しさを目の当たりにしたノーネの感想であった。

142 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:50:07 ID:Y3858kHA0
(;゚∀゚)「いえ……アタシはいいです」

あの天使と会い、実際に会話して思った事が、天使というのは歴史書に載っているような野蛮な存在ではないという事。
しかし、あの天使だからなのかも知れないと思うと、やはり天使という存在は危険である。
よって、ノーネは天使を怖がるツーに、無理に会いに行かせる様な事はしなかった。

( ノAヽ)「まあ、気をつけて行ってくるノーネ」

(*゚∀゚)「はい! 沢山魚を釣ってきますね」

( ノAヽ)「それなら……今日の夕食はツーが釣った魚にするとするノーネ」

ミ*゚ー゚彡「はい、解りましたストランド様」

( ノAヽ)「じゃあ昼食は、フサミナに任せるノーネ」

ミ*゚ー゚彡「分かりました」

頭を下げ、台所に向かうフサミナ。
それに続くようにツーとシーンも部屋を出、教会へと向かっていった。

143 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:52:53 ID:Y3858kHA0
(*゚∀゚)「遅くなった!」

( ^ω^)「おっおっ、シーンさんこんにちはだお」

(・−・ )「こんにちは」

(*^д)「皆そろったね! 釣りに行こうよ!」

l从・∀・ノ!リ人「楽しみなのじゃ!」

バッグを背負い、釣竿とバケツを持つ。
沢山釣って、行けなかったデレさんにも喜んで貰おう。
そう思うと気持ちがはやり、すぐにでも川に走って向かいたくなる。

( ^ω^)「出発だお!」

(*^д)「おー!」

l从・∀・ノ!リ人「おーなのじゃー!」

(;゚∀゚)「お、ぉー」

僕の掛け声に、タカナと妹者ちゃんが続く。
ツーちゃんは、恥ずかしいのか小さい声で続いていた。
シーンさんの方は、無表情のまま。
仕事で来ているのだから、しょうがないか……。

144 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:53:49 ID:Y3858kHA0
ブーン達が釣りに向かった時、村の入り口で珍しく来客が訪れていた。

(,,゚д)「ペルティナ=ヴランさんですか」

(#゚;;-)「教会関係者……デレさんに会いにですか?」

彡*゚ー゚ミ「ええ、デレとは同期なの」

淡いピンク色の毛を揺らしながら答えるペル。
その美しさに見とれながらギコードは門番の仕事をこなしてゆく。

(,,゚д)「村の中での布教はご遠慮くださいね」

(#゚;;-)「この村は、教会に関しては排他的なので……」

彡*゚ー゚ミ「ええ、知ってるわ……余計な事は一切するつもりがないから安心して」

そう言い、門番の二人に手を振りながら村に入るペル。
彼女の目的は、同期のデレと久しぶりに会うためで、天使の事はまだ知らない。

(,,゚д)「……天使を見に来たのかなぁ?」

(#゚;;-)「違うんじゃないかな? だって、情報が外に漏れるような事は流石にしてないでしょ?」

そもそもこの村に人の出入りなんて滅多にないんだし、と続き、ギコードも納得し頷く。
となると、本当にデレに会いにきただけなのであろう。

(,,‐д)「綺麗な人だったなぁ」

(#゚;;-)「天使とはまた違った美しさだよね」

145 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:54:59 ID:Y3858kHA0
(,,゚д)「長毛種の人は、綺麗な人多いよな」

(#゚;;-)「人によるんじゃない? もっとも僕達はフサミナさんしか見た事なかったからなんとも言えないけど」

(,,゚д)「結婚するなら長毛種の人としたいもんだよ」

(#゚;;-)「ふーん」

(,,゚д)「ディノ、お前はどんな人が好みなんだ?」

(#゚;;-)「まだ今の所はなんとも言えないかな……女の子がこの村には少ないし」

σ;‐д)「あー、まあな」

頭を掻きながら肯定する。
この村で嫁探しというのは実に大変な事を理解しているからだ。
タカナと妹者を除けば、この村にいる女の子は二人しかいない。
もっとも、皆年が十歳以下なので、結婚相手として選ぶ事すらできないのだが

(#゚;;-)「徴兵されたら、向こうで女の子捜そうかな」

(,,゚д)「んだな……かわいい子いないもんかな」

(#゚;;-)「いるんじゃない? ここよりは」

(,,゚д)「いなきゃ困るけどな」

今日も平和だ。
会話をしながら二人はそう思った。

146 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:56:23 ID:Y3858kHA0
彡*゚ー゚ミ(村の規模に比べて人が極端に少ないわね……。
      それに、若い人の姿がぜんぜん見えない)

大規模徴兵の影響がこうまでもろに出ている村というのも珍しいとペルは思った。
ここに来る途中で通った街ではまだ若い人はここより残っていたが、この村の現状は酷かった。

彡*゚−゚ミ(小さな村一つ滅ぼしかねないわね、この状況だと)

かといってペルにはどうする気もない。
この村はこの村、自分がなにかをしてやるほどの義理など存在しないのだから。

彡*゚ー゚ミ「やっほーデレー! 遊びにきたよー」

教会の裏口から声と共に内部に入るペル。
関係者は、だいたい裏口から入るのが習慣なためである。

ζ(゚ー゚*ζ「あらペル、手紙では後2〜3日かかると思っていたけど」

彡*゚ー゚ミb「乗ってきた馬車の馬の調子がよくってね、思ったより早くついちゃった」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、ちょっとまってて! 今お茶いれてくるから」

彡*゚ー゚ミ「ん、ありがとう」

台所にある椅子に腰掛けるペル。
机の上には新聞と、見たことのない純白の羽が置いてあった。

彡*゚ー゚ミ(アヒル……のじゃないわね)

羽を手に取り眺めるペル。
なにか魔物の羽なのだろうと結論づけると、ペルは羽を置き、お茶ができるのを黙々と待つ。

147 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:57:58 ID:Y3858kHA0
ζ(゚ー゚*ζ「おまちどおさま、シタラバ産のニラ茶だけど」

彡*゚ー゚ミ「ありがとう、ありがたく頂くわ」

シタラバ産は、ロアエ産に比べると値段は安く、味の質が落ちる。
それゆえ市民に愛されている、茶葉の一つである。
 |ヽ_λ
彡*゚ー゚ミ「あら、これおいしいわね。シタラバ産っていうけど質がよくなくて?」
 0且と|

やはり気づいたか、茶の味には五月蝿いペルなら気づくだろうと思い、入れたニラ茶である。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、それ表には出回らない茶葉よ」

彡*゚ー゚ミ「ふーん、どんなルート使ったのかしら、少し気になるわね」

ζ(^ー^*ζ「教えてあげない♪ だって、貴女に教えちゃったら私の分が減っちゃうもの」

彡*゚−゚ミ「むっ、一人占めはよくないわよ! 私にも教えなさい!」

立ち上がり、デレを追い掛け回すペル。
知己だからこそできる、戯れであった。

ζ(^ヮ^*ζ「やーん♪」

/)*゚ー゚ミ')「まちなさいデレー!」

パタパタとテーブルの周りを走り回る二人。
その追いかけっこは、湯のみの茶が少し冷めるまで続いた。

148 名前:名も無きAAのようです:2012/03/11(日) 23:59:14 ID:Y3858kHA0
彡*゚ー゚ミ「で、この茶葉はどうやって手に入れたのかしら?」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、子供の頃からのお友達が送ってくれた物なのよ、それ」

そうなの、と呟き茶をすするペル。
デレの話から推測すると、彼女の友人にニラ茶を作っている人がいるか、それを扱う人がいるのが把握できた。
かと言って、ここまで上質な物を送って貰えるという事は、よほど親しい間柄なのだろう。

彡*゚ー゚ミ「そのお友達って男でしょ?」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、よく分かったわね」

彡*^ー^ミ「だって、こんな上質な物送ってくるんだから、貴女に好意を持つ男の人っていう可能性が真っ先に浮上するもの」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、その人もう結婚してるけどね」

彡*゚ー゚ミ「あらそうなの」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ、私のお友達の詮索はもうやめて、お茶を飲みましょう?
       折角淹れたのに、冷めちゃう」

彡*゚ー゚ミ「そうね」

デレに、湯のみに茶を淹れてもらい、それを静かに啜るペル。
はぁ、と大きく息を吐くと、なんとも言えぬ恍惚感が全身を巡った。

彡*゙ー゙ミ「しあわせ……」

ζ(^ー^;ζ「ちょっと大げさじゃない?」

149 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:00:35 ID:Hr75oH6g0
彡*゚−゚ミ「仕方ないわよ。兄さんが神官になってからずっと働きっぱなしだったもの」

彡*゚〜゚ミ「毎日毎日、ミミズがうねったような文字が書いてある書類と睨めっこして、スペルミスやらなんやらの訂正、
      各教会に送る必要な物資の計算、予算の計算、式典の際の予算と規模の計算、etcetc……」

ζ(゚ー゚;ζ「苦労してるみたいね」

彡*゚−゚ミ「ねぇデレ……こんな辺鄙な村にいないで、ラージウンに戻ってきてよ……
      貴女の才能、ここで腐らせるには惜しいのよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう、でもね……私、この村が好きなのよ」

教会には排他的と聞いたけど? と出しかけた言葉を飲み込むペル。
それを言うのは野暮だと途中で気づいたのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ここは自然が豊かだし、季節毎に取れる果物や野菜も美味しい……」

ζ(゚−゚*ζ「それに……」

ζ(゙−゙*ζ「聖堂の喧騒はもう嫌なのよ」

彡;゙−゙ミ「デレ……」

デレ=リトバス。
彼女はシベリアに来る前に、聖堂の派閥争いに巻き込まれた。
その聖堂の有様に、祈りを目的として入った彼女は大きなショックを受けた。
欲、欲、欲。派閥争いを続ける者達の奥深くに根付いていた物は結局欲望だった。

150 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:01:46 ID:Hr75oH6g0
(  ∀ )   (∀  )    ζ(゙−゙*ζ   (  ∀) <♀   (∀  ) 
     つ$⊂          (S)  ゝ   と   つ    Σd   

欲を捨て、ただ人のために行動する事を理念として掲げている教会。
欲に塗れたものを見て、「愚者」と罵る多くの神官。
だが、その神官達こそが真の愚者である有様であった。

ζ(- ゚*ζ     (  ∀ )

故に彼女は、背を向けた。
神官に疎まれようとも、彼女は己の信じる祈りのために神官に背を向けたのである。
そしてそれはデレ=リトバスという女性の立場を危め、結果的に彼女は、このシベリア村の古びた教会へ
飛ばされる事となった。

ζ(゚−゚*ζ「聖堂は今どうなっているの?」

彡*゚−゚ミ「色々変わったわ……、貴女が飛ばされる前にいた連中は、結構追放されたわ」

ζ(゚−゚*ζ「追放? どうやってあの神官達を?」

彡*゚−゚ミ「大神官様が動いたのよ……それでもまだ、しぶとく残ってるのはいるけど」

ζ(゚−゚;ζ「だ、大神官様ってまだ生きていたの? もう200歳近いって聞いてたけど」

彡*゚−゚ミ「私が見たときは、とても若々しく見えたわ……とても200歳には思えなかった」

ζ(゚−゚;ζ「そ、そうだったの……でも、本当に大神官様だったのかしら?」

彡*゚−゚ミ「兄さんは本物って言ってたわよ」

ζ(゚−゚;ζ「そう……世の中不思議な事が色々あるのね」

151 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:03:04 ID:Hr75oH6g0
不思議と言えば……デレは机の上に置いてある羽に目をやる。
ブーンが持ってきた天使の羽、あの天使も不思議の一部なのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇペル……この羽、なんの羽だと思う?」

彡*゚ー゚ミ「ハーピーかなにかかしら? 少なくとも動物の羽じゃないわよね」

ζ(゚ー゚*ζ「これ、天使の羽なのよ」

彡;゚ー゚ミ「ハァ?」

驚き素っ頓狂な声を上げるペル。
まさか、この独特な時間の流れの村に長い事いすぎて狂ったかと彼女は思った。

彡;゚ー゚ミ「デレ、貴女も冗談を言うようになったのね……ちょっと意外だわ」

ζ(゚ー゚*ζ「ううん、冗談なんかじゃないわ……彼女は本物の天使様よ」

彡;゚ー゚ミ「だ、だって天使なのよ! 昔、私達の世界を滅ぼしたあの天使なのよ!
       それが姿を見せたって事は!」

すなわち世界の終わり。
この我欲に塗れた世界に失望し、天使がまた滅ぼそうとしているのだとペルは思いパニックになる。
そんな取り乱したペルの頭を、デレはピシャリと叩き彼女を正気に戻す。

ζ(゚ー゚*ζ「安心してペル、天使様はね、魔物に襲われて落ちてきたのよ」

彡;゚ー゚ミ「ま、魔物に!?」

152 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:04:35 ID:Hr75oH6g0
ζ(゚ー゚*ζ「うん」

彡*゚−゚ミ「もし、その話が本当で、貴女がこうして存在しているって事は……その天使は私達の文明を滅ぼしにきた訳じゃ
       ないのね?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、そんな事する気はないって言ってたわ」

彡*゚ー゚ミ「……デレ、貴女がそう言うなら信じるわ」

今までの付き合いの中、デレはペルに対して決して嘘をつく事はなかった。
その事を知るペルは、デレの言葉を聞き、疑う事もなく内容を信じた。
あのデレがそう言うのだ。一種の思考の放棄にも似ているが、それ程まで二人の絆は強いという表れであった。

ζ(゚ー゚*ζ「天使様に会いにいく?」

彡*゚ー゚ミ「いいの?」

ζ(゚ー゚*ζ「夜なら会っても大丈夫よ。許可貰ってるから」

彡*゚ー゚ミ「楽しみにするわ、デレ」

153 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:05:22 ID:Hr75oH6g0
ペルの言葉に、デレは「ええ」と微笑みながら言い、急須の湯を湯のみに入れる。
その入れた茶を一口啜ると、デレは顔を顰める。

ζ(゚、゚*ζ「いけない……お茶が冷めちゃった! ちょっと淹れなおしてくるわね」

彡*^ヮ^ミ「ついでにお茶菓子もお願いね」

ζ(゚、゚;ζ「そんなのあったかしら?」

ごそごそと戸棚を漁るデレ。
そんな彼女の後ろ姿を見ながら、冷めた茶を啜るペル。
冷めて風味と味は落ちてしまったが、その味は決して不味くは感じなかった。

彡*゙ヮ゙ミ「はぁ…………しあわせ」

154 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:06:44 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「おっおっ! 一匹連れたお!」

魚の口から針を外して、川の水を入れたバケツに魚を入れる。
バケツの中には、既に僕が釣った魚が一匹入っていて、これで魚は二匹になる。

(*^д)「すごーい! 私もがんばらなきゃ」

(*゚∀゚)「チョイサー!」

ツーちゃんが思い切り竿を挙げ、魚を釣り上げる。
それを見たシーンさんがツーちゃんに駆け寄り、魚の口から針を外しツーちゃんのバケツに入れる。

l从・∀・ノ!リ人「ストランド様、凄いのじゃー!」

(*゚∀゚)「釣りは得意だからなー! お前等の分もアタシが釣ってやるよ」

( ^ω^)「こりゃツーちゃんには負けてられんお!」

僕は急いで針に餌をつけて、糸を川に垂らす。
競争している訳じゃないが、ツーちゃんの快調な成績を見て、僕の勝負魂に火がついたみたいだ。

(・−・ )「餌つけましたよ」

(*゚∀゚)「ありがとうなシーン!」

実はツーちゃんは、針に餌がつけられない。
石の裏に生息している、餌となる虫を触れないのだ。
だから普段は僕がツーちゃんの針に餌をつけている。
昔はタカナ達もそうだったが、今は平気で触っている。

155 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:07:40 ID:Hr75oH6g0
(;^ω^)(かからん)

僕が魚を釣り上げてから、だいたい三十分ぐらいがたった。
僕もツーちゃんも、タカナ達も当たりはまったくこず、川のせせらぎを聞きながら竿を握っていた。

(*゚∀゚)「暇だな」

l从・∀・ノ!リ人「釣りはかかるまでいっつも暇なのじゃー」

(*^д)「せめてお兄ちゃん達の分はかかって欲しいなぁ」

(;^ω^)「まあ、まだ釣りを始めて一時間ぐらいしかたってないし、頑張ろうお」

l从・∀・ノ!リ人「うん、妹者がんばるのじゃ!」

竿を握りなおす妹者ちゃん。
気合は十分といったところだが

l从・、・;ノ!リ人「かかんないのじゃー」

気合で釣れれば苦労しないのが釣りである。

156 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:08:38 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「おっおっ、やっと三匹目だお」

パシャという小気味良い音と共に、釣り上げた魚を手に取る。
あれからさらに三十分近く経過して、ようやく僕の竿に当たりがきたのだ。
その間、タカナと妹者ちゃんも其々一度ずつ魚がかかり、皆一匹は魚を釣る事ができた。

(*^д)「できるなら後二匹〜」

l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者の分、かかるのじゃー」

(*゚∀゚)「……暇だぁー」

ツーちゃんにはまだ当たりがきてない。
まあ、その内釣れるだろうと思い、僕は針に餌をつけ糸を川に垂らす。

( ^ω^)(大物でもかからないもんかお)

竿を持ち、岩の上で僕は景色を眺めながらひたすら当たりをまつ。
丁度そんな時、砂利を踏む音が聞こえ、僕は後ろを振り向いた。

157 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:10:13 ID:Hr75oH6g0
ξ ゚听)ξ「あらブーン、釣り?」

僕の後ろにいたのは、黒い傘を持ち、黒のゴシックドレスに身をつつんだ、デレさんと似たような髪形の金髪の女性だった。
彼女の名前はツン=アルデッドさん。魔物の研究で、北の森に住んでいる人なのだ。

l从・∀・ノ!リ人「あ、ツンさんなのじゃー!」

(*^д)「ツンさん、お久しぶりです!」

ξ ゚听)ξ「タカナちゃん達、久しぶりね……元気にしてた?」

(*゚∀゚)「なぁブーン、あの人誰だ?」

( ^ω^)「ああ、あの人はツンさんって言って、北の森に住んでる人なんだお!」

そういえばツーちゃんとツンさんは初対面だ。
まあ、ツーちゃんは常に村に居る訳じゃないから、いままで会う事はなかったんだろう。

ξ ゚听)ξ「あら、お嬢ちゃん、いい素材のドレス着てるわね」

(*゚∀゚)「そ、そうなのか? アタシ、服の素材とか詳しくなくてさ」

ξ ゚听)ξ「ええ、いい素材使ってるわよ……見た感じ貴族の子かしら?
       もしかして、ストランド様の家の子?」

(*゚∀゚)「おー、アンタすげぇな! そうだよ、アタシはツー=ストランドだよ」

ξ ゚ー゚)ξ「そう、貴女があのストランド家のお子さんだったのね」

158 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:11:14 ID:Hr75oH6g0
そう言いツーちゃんを見つめるツンさん。
その視線を不思議に思ったのかツーちゃんは首を傾げる。
僕は、ツンさんが見つめる意味を知ってるため、釣りを中断してツンさんの許に向かった。
耳打ちをするためだ。

(;^ω^)(だ、だめですお! ツーちゃんは貴族様なんですから)

ξ ゚听)ξ(解ってるわよ……でも、長い間、家に篭りきりだったから)

ξ ゚ー゚)ξ「ねぇブーン、今度アレくれないかしら?」

(;^ω^)「じゃあ、ジャムを届けに行った時に」

ξ ゚ー゚)ξ「ありがとうブーン、心待ちにしてるわ」

(*゚∀゚)「アレってなんだ?」

( ^ω^)「内緒だお」

こればっかりは流石に教える事はできない。
僕は何度も聞いてくるツーちゃんに、ただ内緒と答え続けるしかなかった。
だがその内、ツーちゃんはちょっと誤解して。

(*゚∀゚)「ああ解ったぞ! Hな事してんだろお前等」

(;^ω^)「ブッ!」

僕は思わず吹いてしまった。

159 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:12:17 ID:Hr75oH6g0
(;^д)「Hな事じゃないよ……」

ちなみに、タカナはアレを知っている。
彼女も当事者だったから。

l从・∀・ノ!リ人「じゃあなんなのじゃ?」

でも妹者ちゃんは知らない。

ξ ゚听)ξ「貴方達がもう少し大人になったらわかる事よ」

(;^ω^)「その言い方は誤解しか招きませんお」

ξ ゚−゚)ξ「と、言っても……他になんて言えばいいのかしら?」

ツンさんの言葉に僕は肩を竦め、さぁと言うほかなかった。

(*゚∀゚)「ずりぃーなー、なんか仲間外れにされてるみたいだ」

(・−・ )「お嬢様、人には言えない事も幾つかありますので、詮索はそのぐらいにして」

(*‐∀‐)「ん、そうだな……悪いブーン」

( ^ω^)「いえ、気にしなくて大丈夫ですお」

ξ ゚听)ξ「そうそう、そんな大した事じゃないんだし」

(;^д)「えー……」

160 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:14:00 ID:Hr75oH6g0
ξ ゚听)ξ「そんな事より、釣竿もう一本あまってないかしら? 久々に私も釣りをしたいわ」

l从・∀・ノ!リ人「余ってないから、これ貸すのじゃ!」

妹者ちゃんはついに飽きてしまったらしい。
ツンさんに釣竿を渡すと、川原の石を積んで遊び始める。

ξ ゚听)ξ「隣失礼するわよブーン」

( ^ω^)「はいですお」

ゆっくりと岩の上に腰を下ろすツンさん。
着ている物が物なだけに、他人が見たらちょっとした光景だと僕は思う。

(*゚∀゚)「なぁなぁ、ツンさんって貴族か?」

ξ ゚听)ξ「んー、家は古くからあるけど、爵位は持ってないわね……」

(*゚∀゚)「へー珍しいなぁ」

ξ ゚听)ξ「ちなみに商いもやってないわよ」

(*゚∀゚)「じゃあ何してんだ?」

ξ ゚听)ξ「さあ? 実家からは離れて暮らしてるから、今は何してるかわからないわ」

(*゚∀゚)「ツンは今何してるんだ?」

ξ ゚听)ξ「北の森で魔物の生態を研究してるのよ……たまに学会にレポートだしたりしてるのよ」

161 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:15:06 ID:Hr75oH6g0
(*゚∀゚)「あんなとこに住んでて危なくないか?」

ξ ゚听)ξ「平気よ、魔物の一匹や二匹、私には余裕だから」

(*゚∀゚)「へー、アンタ強いんだなぁ! シーンと戦ったらどっちが強いかなぁ?」

ξ ゚听)ξ「シーン? ああ、あの従者ね」

(・−・ )「……」

ξ ゚听)ξ「フーン……」

(・−・ )「あまり人をじろじろ見るのは関心しませんが」

ξ ゚ー゚)ξ「あら、御免あそばせ……観察するのを生業としていますので」

(・−・ )「……」

ξ ゚听)ξ「ま、どっちが強いとかは興味なんてないわね。
       お互い、殺りあう必要なんてないもの」

(・−・ )「ですね」

ξ ゚听)ξ「あ、かかった! ブーン、悪いけど魚とってくれるかしら? ドレスに水はねちゃうわ」

(;^ω^)「だったらそんな格好で釣りしないでくださいお!」

ξ ゚听)ξ「仕方ないじゃない、たまたまこんな格好だったんだし」

162 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:16:01 ID:Hr75oH6g0
僕は魚の口から針を外し、魚を僕のバケツに入れる。

( ^ω^)「この魚、どうするんですかお?」

ξ ゚听)ξ「そうね、ストランド様に上げてきて貰えるかしら?」

(*゚∀゚)「ん、アタシにくれるのか?」

ξ ゚ー゚)ξ「お近づきの印」

僕は魚を手に取り、ツーちゃんのバケツに魚を入れた。
ツーちゃんは一言、ありがとうと呟くと、魚釣りを再開する。

ξ ゚听)ξ「平和ねぇ」

僕が釣りを再開した時、ふいにツンさんがポツリと呟いた。
たしかに平和だ。この光景を見る限りでは本当に平和だと僕は思う。

( ^ω^)「そうですおね」

竿を振り、針を水面に飛ばす。
チャポっという音を聞いた僕は、ツンさんの隣に腰掛け、魚がかかるのを待った。

ξ ゚听)ξ「貴方達の村、徴兵でごっそり人手が持ってかれたと聞いたけど、大丈夫なの?」

( ^ω^)「分かりませんお」

ξ ‐凵])ξ「そう……まあ、分からないのも無理はないわね」

( ^ω^)「申し訳ないですお」

163 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:17:08 ID:Hr75oH6g0
ξ ゚听)ξ「なんで謝るのよ……」

(;^ω^)「いえ、なんか失望させたような感じがして」

ξ ゚听)ξ「そんな事ないわよ。
       子供の貴方が分からないっていうのは、大人が明確な策を打ち出せていないって事の表れ。
       それか、策はあるけど、まだ実行に移していないか……」

( ^ω^)「ほぅほぅ」

ξ ゚听)ξ「一番最悪なのは、子供の貴方達がもうだめって言うことかしらね。
       子供は素直なのよ、良くも悪くも」

ξ ゚ー゚)ξ「貴方もね。ホライズン=ナイトール」

( ^ω^)「僕って素直なんですかお?」

ξ ゚ー゚)ξ「ええ」

なんだが後頭部がむず痒くなる。
僕がぽりぽりと頭を掻いていると、ツンさんはくすりと微笑んでいていた。

ξ ゚听)ξ「っと、そろそろお昼ね……」

ふとツンさんが首から提げていた小さな懐中時計を手に取りながらそう呟いた。
どうりでお腹の虫が騒ぎ始めた訳だ。
僕はデレさんが持たせてくれたバッグの中を見る。

164 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:18:27 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「デレさんがお昼ご飯作って入れてくれてますからどうですかお?」

ξ ゚ー゚)ξ「あら、じゃあ少し頂こうかしら」

( ^ω^)「ツーちゃん達も、そろそろお昼だから釣りは一旦中止してお昼御飯にしようお」

(*゚∀゚)「おー、もうそんな時間かー!」

l从・∀・ノ!リ人「御飯なのじゃー!」

近くの草原に向かい、僕はバッグの中に入っていた布を広げる。
その上に、妹者ちゃんとタカナ、ツーちゃん、ツンさんが座り、僕とシーンさんは草の上にそのまま腰を下ろした。

( ^ω^)「お握りが入ってたからこれを皆で食べおうお」

l从・∀・ノ!リ人「食べるのじゃー!」

バッグの中から、ガラス容器を取り出し、それをタカナ達の前に僕は置く。
真っ先に容器の中に手を伸ばし、お握りを取ったのは妹者ちゃん。
彼女は、両手を使ってお握りを頬張り、笑顔を浮かべていた。

ξ ゚ー゚)ξ「ふふ、顎に御飯粒ついてるわよ」

l从・∀・ノ!リ人「あ、本当なのじゃ」

( ^ω^)(微笑ましいお……)

なんだかあの輪の中に、僕が手を伸ばすのが無粋に感じられる。
それぐらいの空間が目の前に広がっていた。
困った、これでは僕がお握りを食べられない。

165 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:19:33 ID:Hr75oH6g0
(*^д)「ブーン君、シーンさん食べないの?」

一向に手を伸ばさない僕達を不思議に思ったんだろう。
タカナがガラス容器を持って、僕達の許にやってきた。
彼女のこういう気配りできる所は、本当にすばらしいと思う。

( ^ω^)「お、ありがとうだおタカナ」

(・−・ )「どうも」

僕とシーンさんは、お握りを取り、それを食む。
ほんのりと塩気を感じる、おいしいお握りだった。

( ^ω^)(具は、梅干かお)

このやたら強い塩気は、ワカッテマスさん家で漬けた梅干だろう。
ワカッテマスさんは、この村で数少ない教会を毛嫌いしない人である。
かといって、僕達みたいにデレさんと進んで交流をするような人ではないけど。

(・−・;)「しょっぱ……」

隣でシーンさんが口元を押さえながら、半かじりした梅干を見つめていた。
たしかに僕も初めて食べた時は、思わず口に出してしまったものだ。

( ^ω^)「その梅、ワカッテマスさんが漬けた奴ですお」

(・−・;)「あの人が……」

ξ ゚听)ξ「あら、あそこの梅干が入ってたの? ご愁傷様ね」

くすくすと笑うツンさん。
梅干の扱いが、まるで罰ゲームみたいで僕は思わず苦笑してしまった。

166 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:20:22 ID:Hr75oH6g0
l从・∀・ノ!リ人「そういえば、ワカッテマスさん家にいる天使様、今どうしてるのじゃ?」

ξ ゚听)ξ「天使?」

ああ、そういえばまだツンさんには話していなかった。
村には住んでないけど、一応近くに住んでいるので、話しておいた方がいいと思い、僕はツンさんに
事の次第を全部話したのだ。

ξ ゚听)ξ「ふーん……そう、なにやら面白そうな事がおきてたのね」

(;゚∀゚)「て、天使だぞ! それを面白そうって……」

ξ ゚听)ξ「あら、面白いじゃないの……できるなら天使の生態を観察してレポートに纏めて学会に出したいぐらいよ」

(;゚∀゚)「命知らずだなぁ、あんた……」

ξ ゚听)ξ「そうかしら? だってその天使、危険はないんでしょ?」

( ^ω^)「恐らく」

ξ ゚听)ξ「じゃあ平気じゃないの、その天使に限っては恐れる必要性なんて皆無だわ」

(;゚∀゚)「でも、怖いじゃん……もしかしたら仲間呼ぶかも知れないし」

ξ ゚听)ξ「あー、可能性はあるかもね」

(;゚∀゚)「でしょ?」

ξ ゚听)ξ「じゃあ、せいぜい仲間を呼ばれないように、丁重に扱ってあげたら?」

167 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:21:17 ID:Hr75oH6g0
ξ ゚ー゚)ξ「さ、このお話はこれでお仕舞い、折角のお握りの味が落ちちゃうわ」

(*゚∀゚)「……わかった」

ξ ゚ー゚)ξ「聞き分けがいいのが一番よ、特にこういう私達が議論してもどうにもならない内容の時はね」

l从・∀・ノ!リ人「むつかしい話だったのじゃ」

(*^д)「だねぇ」

ξ ゚听)ξ「さて、話題を変えましょうか……どんな話題がいいかしら?」

(*゚∀゚)「じゃあ、あんたがやってる観察っていうの教えてよ」

ξ ゚听)ξ「魔物とか魔族の観察ね……かなり趣味とかの領域に入ってるけどいいかしら?」

( ^ω^)「おっおっ興味ありますお」

実は僕も、ツンさんの研究には前々から興味があった。
なんどかそれとなく、研究内容の話は聞いたことあるが、踏み込んだ内容までは教えて貰ってない。

ξ ゚听)ξ「そうね、まずは魔族と、魔物の定義って分かるかしら?」

(*゚∀゚)「どっちも同じなんじゃないのか? 辞書で調べた事あるけど、魔族は魔物の別名称って書いてあったぞ」

ξ ゚听)ξ「まあ、合ってるっちゃあ合ってるわね」

168 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:22:25 ID:Hr75oH6g0
ξ‐ー゚)ξb「けど、私のようにもっと踏み込んでる者からすれば、その辞書の答えには○をあげられないわ」

(*゚∀゚)「へぇ」

ξ ゚听)ξ「たしかに魔族は、魔物よ……けど、魔物とは違う点が存在するの。
       分かるかしら?」

僕とタカナ以外を指差すツンさん。
僕とタカナは、その違う点を知っているから、除外されている。

l从・∀・ノ!リ人「んー、食べられるか食べられないかとか?」

ξ;゚听)ξ「物騒なこと言うのね貴女……ちょっと意外な答えだったわ」

(*^д)「妹者ちゃんのお母さん、猟師やってて、たまに魔物を仕留めて持って帰ってきたりするの」

ξ;゚听)ξ「妹者? 貴女、流石さん家の娘だったの……どおりで」

( ^ω^)「母者さんと面識あったんですかお?」

ξ;゚听)ξ「ええ、森の中をバトルアックスと、複合弓を持って歩いてたあの人と出くわして」

母者さんが持つバトルアックスは特別製で、重さが20kg以上ある。
それを片手で軽々と扱い、魔物や動物を仕留めるのだ。
人づてに聞いた話では、昔ワイバーンの首を取ったらしい。

ξ;゚听)ξ「あの時はトロールと出会ったかと思ったわ……
       人語話してたから、違うって分かったけど」

意外な出会いがあるものだなぁと僕は思った。

169 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:23:27 ID:Hr75oH6g0
ξ ゚听)ξ「貴女は分かるかしら? 違う点」

(;゚∀゚)「んー、分からないなぁ……習ってないし」

ξ ゚听)ξ「そこの無口さんは?」

(・−・ )「……さぁ」

肩をすくめて答えるシーンさん。
興味がないと露骨に態度でしめしているシーンさんを見て、ツンさんは苦笑いしていた。

ξ ゚听)ξ「じゃあ、教えてあげる……魔物は、まあ貴方達を見たら問答無用で襲いかかってくる低脳な連中よ
       ゴブリンとかトロールとかオークとか鬼とか」

ξ ゚听)ξ「で、次に魔族だけど……これは、貴方達人間と話をするだけの知性がある魔物の事なのよ」

l从・∀・ノ!リ人「そんな魔物いるのじゃ?」

( ^ω^)「あー、妹者ちゃん達は知らないけど、天使が落ちてきた時に僕とロマネスクさんがハーピーに会ったって
      話したおね? あのハーピー、実は人語喋っていたんだお」

l从・、・;ノ!リ人「お、おぉぅ……凄いのじゃ……人語喋る魔物は本当にいたのじゃ」

ξ ゚听)ξ「つまり、そのハーピーは魔族っていう事ね。
       人間と会話ができる魔物なら、オークでもゴブリンでもワイバーンでも魔族って言うのよ」

(*゚∀゚)「へー」

(・−・ )「国ではそんな定義は作られていませんけどね」

170 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:24:23 ID:Hr75oH6g0
ξ ‐凵])ξ「そうなのよね……会話できても、襲ってくる奴は平気で襲ってくるし……
        だから、一括りにされのよね」

(*゚∀゚)「あー、つまり魔物の中でもお喋りできる奴がいるけど、中には魔物と同じく襲ってくる奴もいるって事か」

ξ ゚听)ξ「ん、そういう事かな」

(*゚∀゚)「襲ってくるなら魔物でもいいんじゃないの? 害しかないじゃん」

ξ ゚听)ξ「まあ、中には友好的なのもいるんだけどねぇ……そういう連中にまで害は及んで欲しくないのよ」

(*゚∀゚)「友好的な連中って……たとえばどんなのがいるんだ?」

ξ ゚听)ξ「そうね、ブーンの話を聞いてその内容だけで判断するなら、天使とか」

(;^ω^)「て、天使も魔族なんですかお!?」

ξ ゚听)ξ「ええ、だって魔物の定義は人間か動物か否かでしょ?
       つまり、人間か動物じゃなければ魔物なのよ」

ξ ‐凵])ξ「尤も、動物と魔物の線引きは曖昧な所が多々あるけれどね」

l从・、・;ノ!リ人「研究ってむつかしいのじゃ……」

ξ ゚ー゚)ξ「妹者ちゃんには難しすぎたわね……このへんにしておきましょうか」

結局また踏み込んだ内容までは教えて貰えなかったが、ツンさんの話を聞けてよかったと僕は思う。
けれども、天使まで魔物になるのは吃驚だった。
その定義でいけば、モンスターハンターの人は天使を狙うことになるんだろうか?
まあ、これはツンさんに聞いても分からない事だと思うので、僕は尋ねる事はしなかった。

171 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:25:42 ID:Hr75oH6g0
ξ ゚听)ξ「さーて、お腹も膨れた事だし、釣りを再開するとしましょうか!」

l从・∀・ノ!リ人「おー、釣るのじゃー!」

立ち上がり、妹者ちゃんと川原に向かって歩いていくツンさん。
その後に、ツーちゃんとシーンさんが続き、僕とタカナは後片付けを始める。

(*^д)「はいこれ」

( ^ω^)「ありがとうだお」

畳まれた布を受け取りバッグにしまった僕は、バックを背負い、タカナと一緒に川原へ向かった。
途中、彼女が僕の手を握ってきたので、僕は彼女の手を優しく握り返した。

( ^ω^)「タカナは手を繋ぐの好きだおね」

(*^д)「うん、お兄ちゃん達やブーン君と手を繋ぐの大好きだよ」

( ^ω^)「ははは、かわいい奴め」

立ち止まり僕はタカナの頭を撫でた。
まだ7歳でお父さんは徴兵、お兄さん達は仕事、甘えたい年頃なのにかわいそうだと僕は思う。
まあ、もっとも僕も結構似たような境遇だけど、あの頃は親父は狂ってなかったし、
いい父親をしてたからタカナとは甘えるという意味では違う。
でも、寂しさを感じていたのはたしかだ。

( ^ω^)(お兄さん達も徴兵……残されたタカナは一体どうなっちまうんだお)

何時も、どんな時でもにこやかな笑顔を絶やさないタカナ。
そんな彼女がお兄さん達をも失ってしまったとき、僕はどうしてやればいいのだろうか?
なんとか彼女を構ってやりたいが、僕には門番の仕事が入る。
どうする事もできやしない。

172 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:27:11 ID:Hr75oH6g0
(*^д)「ん、どうしたのブーン君?」

( ^ω^)「あ、いや……なんでもないお」

手に力を込めてしまったようだ。
タカナが不思議そうな表情で僕の顔を覗き込んでいた。

( ^ω^)「本当になんでもないお」

(*^д)「ほんとう? なにかあったらいつでも言ってね! 私にできる事ならお手伝いするから」

( ^ω^)「うん……頼りにさせて貰うお」

僕の言葉に胸を張って喜ぶタカナ。
僕はいつまでこの子の笑顔を見ることができるのだろうか?
僕はいつまでこの子を守る事ができるのだろうか?

(*^д)「ブーン君、急ごう!」

(;^ω^)「おっおっ、走ると危ないお」

僕は無力だ。
だから、託すしかないのだ……僕の代わりに彼女を守ってくれるようにと。

173 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:27:56 ID:Hr75oH6g0
彡*゚ー゚ミ「ねぇデレ〜、貴女いつもこうやってこの時間を過ごしてるの?」

教会の裏にある一本の針葉樹、その木蔭の下にある白いカフェテーブルに頬を載せたペルが脱力した声を出す。
そんな彼女の向かいでは、デレが小説を片手に紅茶を啜っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「いつもじゃないわ……今日は貴女がきたから特別よ」

彡*゚ー゚ミ「ふーん……でも、羨ましいわねぇ。こんな時間があるなんて」

ζ(゚ー゚*ζ「いつもは教会のお掃除とかしてるんだけどね」

彡*゚ー゚ミ「祈りに来る人はいないの?」

ζ(゚−゚*ζ「皆徴兵されちゃったわ……男の人も女の人も」

彡*゚−゚ミ「そっか……」

ζ(゚ー゚*ζ「紅茶のおかわり、どうかしら?」

彡*゚ー゚ミ「頂くわ」

上体を起こし、空になったカップをデレに渡すペル。
それを受け取ったデレは、ポットからカップに紅茶を注ぎ、ペルに渡す。

彡*゚ー゚ミ「貴女、紅茶いれるの巧くなったわよね」

ζ(゚ー゚*ζ「教えて貰ったのよ」

彡*゚ー゚ミ「へぇ、誰に教えて貰ったの? 私も御教授願いたいわ」

174 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:29:36 ID:Hr75oH6g0
ζ(゚ー゚*ζ「マリナさんっていう人に教えて貰ったのよ」

彡*゚ー゚ミ「マリナ? 今、この村に居るかしら?」

ζ(゚−゚*ζ「残念だけど……マリナさんは昨年亡くなったの」

彡*゚−゚ミ「そう、残念だわ……本当に」

彡*゚ー゚ミ「ねぇ、そのマリナっていう人の事教えて貰えない? こういう時間の流れは好きだけど暇なのよ」

ζ(゚ー゚*ζ「もしかしたら貴女も聞いたことあるかも知れないし、実際にお会いした事あるかもしれないわよ」

彡*゚ー゚ミ「ほぇ? マリナっていう人に?」

腕を組み過去の記憶を掘り返すペル。
けれども出てくるのは、小うるさい欲の塊の神官とのやりとりや、兄との会話等の記憶だけだった。
その内に彼女は、降参といわんばかりに両手を上げ頭を左右にふる。

ζ(゚ー゚*ζ「マリナ=ナイトールさんって言えば分かるかな?」

彡*゚ー゚ミ「うーん、マリナっていう人は過去にも結構会ってるし……」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、マリナ=マルナの方はどうかしら?」

彡;゚ー゚ミ「えっ、あのマリナ=マルナさん!? ママさんに教えて貰ったの!?」

ζ(゚ー゚*ζ「あの人、この村に住んでたのよ」

彡;゚ー゚ミ「そ、そうだったんだ……吃驚だわ」

175 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:30:53 ID:Hr75oH6g0
彡*゚−゚ミ「亡くなったって話はラージウンでたしかに聞いたけど……そう、ここに住んでたのねママさん」

ζ(゚ー゚*ζ「とっても優しい人だったわ……私がここに来た時、とっても良くして貰ったわ」

彡*゚ー゚ミ「へぇ、そうだったんだ……」

ζ(゚ー゚*ζ「紅茶の入れ方は五年戦争後に教えて貰ったの」

五年戦争、今から五年前におきた戦争で、戦争をした期間が五年間だった事からついた名前である。
本来ならばもっと長引く予定であったのだが、プラス内部で揉め事が発生し、ラウンジ国王も病を得たため
急遽和平を結び終結した戦争である。
また、この戦争は他の戦争と違い、規模的に言えば小規模な小競り合いが続いた戦争である。
もっとも、一部の箇所では激戦が発生してはいたが。

彡*゚ー゚ミ「そうなんだ……あの人、紅茶入れるの巧かったんだぁ」

ζ(゚ー゚*ζ「なんでも、昔はお茶汲み係をやられて、そこで覚えたみたいよ」

彡*゚ー゚ミ「へー、あの人も苦労してたんだねぇ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだ、マリナさんの息子さんがいるから、彼にマリナさんの話を聞いたらどうかしら?
       彼が憶えている範囲なら答えてくれるんじゃないかしら?」

彡*゚ー゚ミ「息子さんいたんだ……でも、いいわ。
       お母さんの事思い出すのってその子にとって辛いと思うし」

ζ(゚−゚*ζ「そう……ね、まだ亡くなってやっと一年たつかどうかって所だしね」

176 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:31:57 ID:Hr75oH6g0
彡*゚ー゚ミ「ちなみにその子幾つ?」

ζ(゚ー゚*ζ「15歳よ、もうすぐ16になるけどね」

彡;゚ー゚ミそ 「うそん、てことはママさん23歳でママになってたんだ」

彡*゚−゚ミ「てことは、五年戦争の時はまだ小さいその子を置いて戦地に向かってたのね」

ζ(゚−゚*ζ「ええ、でもしょうがないわよ……戦争だったんですから」

彡*゚−゚ミ「嫌ね、戦争っていうのは」

ζ(゚−゚*ζ「そうね……でも、戦争をするのは私達人だわ」

彡*゚−゚ミ「きっと、昔も戦争ばかりしてたんでしょうね……だから、天使様が怒ったのかしら」

ζ(゚−゚*ζ「どうして滅ぼされたかは、分からない……文献がないもの」

彡*゚−゚ミ「やーね本当に……この有様を見て、この村にいる天使様が怒らないといいんだけど」

ζ(゙−゙*ζ「そうね」

彡;゚ー゚ミ「と、暗い話になっちゃったわね……紅茶、もう一杯いただけるかしら?」

急いで紅茶を飲み干し、カップを渡すペル。
それを受け取ったデレは笑みを浮かべ、カップに紅茶を注ぐ。

177 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:33:04 ID:Hr75oH6g0
ζ(゚ー゚*ζ「はい、どうぞ」

彡*゚ー゚ミ「ありがとうデレ」

カップを口に運び、紅茶を啜る。
聖堂にある、紅茶に比べると質は劣るが、それを腕でカバーしているのが分かる程、紅茶の味はよかった。
できる事なら、聖堂にある茶葉を使って貰って紅茶を淹れて貰いたかったが、生憎茶葉は持ってきていない。
次来る時は聖堂の茶葉を持ってこようと、紅茶を啜りながらペルは思うのだった。

彡*゙ー゙ミ「おいしい」

ζ(^ー^*ζ「ありがとうペル」

彡*゚ー゚ミ「ところで、貴女の読んでる本、どんな内容なの?」

ζ(゚ー゚*ζ「恋愛小説よ、お互いがお互いを好きなんだけど、どっちもその想いを告白できないお話なの」

彡*゚ー゚ミ「なんだかじれったい話なのね」

ζ(゚ー゚*ζ「しょうがないわよ、男の方は24歳、女の子は15歳……しかも女の子はもうすぐ街を離れていってしまうもの」

彡*゚ー゚ミ「なんだか複雑な内容なのね……」

ζ(゚ー゚*ζ「限りある時間だから、二人は互いに時を過ごして、大切な思い出を作るの……」

ζ(゙ー゙*ζ「私も、こんな二人みたいな恋をしてみたいわ……」

彡*゚ー゚ミ(しっかし24と15かぁ……ロリコンって言われそうな年の差ね)

178 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:34:19 ID:Hr75oH6g0
ζ(゚ー゚*ζ「ペルには誰かいい人できた?」

彡*゚ー゚ミ「まっさかー、ろくなのいないもの……聖堂には」

ζ(゚ー゚*ζ「でも、結構人が入れ替わったんでしょう? その中にちょっといいかもっていう人はいなかったの?」

彡*゚ー゚ミ「いないいない、顔はよくても中身が駄目な人ばっかりよ」

ζ(゚ー゚*ζ「中にはそういう駄目な人を好きになる人がいるっていうけど」

彡*゚−゚ミ「私はお断りね……自分でやった後始末は自分でつけてくれる人がいいわ」

彡#^ー^ミ「どいつもこいつも、不始末ばっかり! その後始末をさせられてるのが私ですからね!
       主に書類の面でね」

ζ(ー゙;ζ「苦労してるのね、ペルも……」

彡#゚Д゚ミ「特に最近入ってきたあの馬鹿女! あの女なに考えてるのよ!
       態度もチャラければ言葉もチャラい! ふざけんじゃないわよ!」

ζ(ー゙;ζ「うん、うん……大変だねぇ」

彡#゚Д゚ミ「後、あのスケベ神官! 毎度毎度私のお尻を触ってきやがって! ふざけんじゃねぇぞ!
      そんなに女の尻触りたければ、娼婦の尻を触ってろよ!」

ζ(ー゙;ζ(あの人は追放されなかったんだ……ペルも気の毒に)

その後、彼女は十分近くにわたり愚痴を吐き出し続け、デレをそれを聞き遂げた。

彡;>>「ぜぇ……ぜぇ……」
 |J+J

179 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:35:13 ID:Hr75oH6g0
ζ(ー゙;ζ「お疲れ様、ペル……」

彡;゙−゙ミ「ごめん、取り乱したわ……」

頭を垂れ、項垂れるペル。
かける言葉の見つからないデレは、静かに席を立ち、彼女の許へ歩み寄り彼女の肩を優しく覆う。
それがデレにできる唯一の事だった。

彡;゙−゙ミ「ありがとうデレ」

ζ(ー゙,,ζ「気にしないで、私にはこれしかできないから」

ペルの頭をそっと抱きしめ、彼女の背を撫でるデレ。
かつて自分が、聖堂内の腐敗に絶望した時、ペルがこうして自分を慰めてくれた。
それを今、自分がやってあげているだけなのだから。

彡,,゙−゙ミ「帰ってきてよ……デレ」

ζ(ー゙,,ζ「ごめんね、ペル」

たとえ聖堂に居る者が入れ替わっても、デレにはもうあそこに戻る気はなかった。
あそこに戻れば、また嫌な事を思い出してしまう。
ペルにも話す事のできなかった出来事を……。

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           腐り果てた膿のような人の欲望を……

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

180 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:36:30 ID:Hr75oH6g0
ζ(゚ー゚*ζ「晩御飯、お魚以外に何食べたい?」

空が茜色に染まり始めてきた頃、小説を読んでいたデレがふいにそんな事を尋ねてきた。
どうやら魚は決定事項のようで、他に何を決めればいいのだろう? とペルは思うのであった。

ζ(゚ー゚*ζ「たとえば野菜のスープが飲みたいとか、他にお肉も少し食べたいとかないかしら?」

黙って考え込んでいたペルに、デレが一例を出す。
それを聞いたペルは、先ほどとは違う表情を浮かべながら献立の事を考える。
そういえば、最近はサンドイッチやクロワッサン等のパンばかりを主食にしていた記憶がある。

彡*゚ー゚ミ「白いご飯が食べたいわ! 最近、ずっとパンとかしか食べてなかったし」

ζ(゚ー゚*ζ「そう、他になにかリクエストはあるかしら?」

彡*゚ー゚ミ「んー、他にはいいかな……しいて言うならサラダを沢山食べられるとうれしいかしら」

ζ(゚ー゚*ζ「サラダね、菜園から取れた野菜があるからそれを使うわ」

彡*゚ー゚ミ「どうもありがとう、デレ」

ζ(゚ー゚*ζ「気にしないで……それじゃあ、台所に戻りましょうか」

彡*゚ー゚ミ「ポットとカップは持っていくから、先に準備してて」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、どうもありがとうペル」

椅子をしまい、教会へ駆け足で向かうデレ。
そんな彼女の後ろ姿を少し見送り、ペルは紅茶の入っていたポットとティーカップを両手に抱え、ゆっくりと教会へ向かう。

181 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:37:42 ID:Hr75oH6g0
彡*゚ー゚ミ「これ、どこ置けばいい?」

ζ(゚ー゚*ζ「そこの桶の中に入れておいて」

デレが指差した机の下を見ると、水が張られた桶が置いてあった。
ペルはそこに静かにポットとティーカップを入れ、デレが忙しなく動き回る台所の横に置いてある机へ向かう。

ζ(゚ー゚*ζ「できるまで時間かかるから、本でも読んでまってて」

彡*゚ー゚ミ「はいはーい」

部屋の奥に置いてある本棚に向かい、本を選ぶ。
デレの趣味なのだろう、やたら恋愛小説の題名が目に付く。

彡;゚−゚ミ(ラージウンの書店で売ってる恋愛系の小説がだいたい揃ってる……)

自分も恋愛小説を愛読する身だが、デレには負けたと思った。
そんな中、ペルは一冊の本の存在に気づく。
一人の男が騎士を目指す話で、デレの恋愛小説ゾーンから隔離されてるかのようにポツリと置いてあったのだ。

彡*゚ー゚ミ(黒騎士物語か……結構前に発売された本よね)

椅子に座り軽くパラパラと捲ると、ページの至る所に手垢がついていた。
どうやら相当熟読しているらしい。

彡*゚ー゚ミ「ねぇデレ、この本誰の?」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、それブーン君のよ!」

彡*゚ー゚ミ「ブーン? あー、ママさんの息子さん?」

182 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:38:48 ID:Hr75oH6g0
背中越しに「そうよー」と返事するデレ。

彡*゚ー゚ミ(どんな子かしら……)

まだ見ぬ、ホライズン=ナイトールを想像する。
マリナに似て、優しく、そして内に熱いものを秘めている優男が脳内で出来上がる。

( `ー´)「俺の名前はホライズン=ナイトールなんじゃネーノ」

彡*゚ー゚ミ(あら素敵……)

理想と現実は得てしてかけ離れるものである。
ペルの想像する、ホライズン=ナイトール像は、割と早いうちに崩れ去った。

( ^ω^)「ただいまですおー!」

ζ(゚ー゚*ζ「お帰り、ブーン君」

彡;゚ー゚ミ(うーん、全然違った……)

( ^ω^)「おっ、お客さんですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええ、私の同期のペルよ」

( ^ω^)「ホライズン=ナイトールです……あだ名はブーンっていいます。
       よろしくお願いいたしますお」

ペコリと頭を下げるブーン。
それを見たペルは、あの年にしてはとても礼儀正しいと好印象をブーンに対して持つ。

183 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:39:45 ID:Hr75oH6g0
彡*゚ー゚ミ「ペルティナ=ヴランよ、どうもよろしくね」

( ^ω^)「あ、はい! こちらこそよろしくお願いいたしますお」

再度頭を下げるブーン。
そんな彼を見て、聖堂に入る彼ぐらいの年の者も、彼ぐらい礼儀正しければいいのにと思う。

( ^ω^)「デレさん、魚四匹連れましたお!」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとうブーン君! 出来上がるまで、待っててね」

デレの言葉を聞き、本棚へ向かうブーン。

彡*゚ー゚ミ「ブーン君、この本君のなんですってね」

( ^ω^)「あ、はい。家に置いておくと、親父に薪代わりにされるからこっちで預かって貰ってるんですお」

ペルから本を受け取り、椅子に座りページを捲り始めるブーン。

彡;゚ー゚ミ「本を薪代わりって……ぶっとんだお父さんね」

( ^ω^)「ええ、アル中で頭いかれちまってますから」

頭の上で渦巻きを作り、苦笑いするブーン。
どうやら彼の父親は相当重症らしい。

彡;゚ー゚ミ「そうなんだ……苦労してるのね、貴方」

( ^ω^)「カーちゃんが死んで、酒に溺れてからはずっとですお」

184 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:41:07 ID:Hr75oH6g0
淡々と答えるブーンの姿を見て、ペルは親子の情というものがほとんど切れてしまっているのを伺いしれた。
もう彼の中では、父親という存在はほぼ第三者に成り下がってしまったのだろう。

( ^ω^)「ペルさんのお父さんは、どうですかお?」

彡*゚ー゚ミ「元気よ。ラージウンで金物屋を母と営んでるわ」

( ^ω^)「そうですかお」

彡*゚ー゚ミ「……ブーン君のお父さんは、昔はどんな人だったの?」

( ^ω^)「農業やってる普通の人でしたお。
      親父の作る野菜は質がいいらしく、街に持っていって売ったら良い売れ行きでしたお」

彡*゚ー゚ミ「へぇ、作物作るのが上手かったのね」

( ^ω^)「家庭面に関しては、カーちゃんがいない間、僕をよく面倒みてくれていたと思いますお。
      まあ、飯作るのが下手糞で、カーちゃんが稼いだ金でよくマニーさんにご飯を作って貰ってましたけど」

彡*゚ー゚ミ「そうなんだ」

( ^ω^)「……カーちゃんについては聞かないんですかお?」

彡*゚ー゚ミ「ふふ、ママさんとは何度かお会いした事があるから」

( ^ω^)「そのあだ名、カーちゃんあんま好きじゃなかったですお」

彡;゚ー゚ミ「そ、そうだったの? 皆マリナさんの事ママさんって呼ぶから」

( ^ω^)「実年齢よりも10歳以上老けたように感じるからっていう理由で、いい顔はしてなかったですお」

彡;゚ー゚ミ「そっかー、じゃあ私もマリナさんって言わないと」

185 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:41:54 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「そうして貰えると、カーちゃんもきっと喜んでくれますお」

本を閉じ立ち上がるブーン。
本棚へ向かい、読んでいた本をしまうと、別の本を取り出して椅子に腰掛ける。

彡*゚ー゚ミ「なんの本かしら? それ」

( ^ω^)「料理の本ですお」

彡*゚ー゚ミ「あら、男の子なのに料理に興味があるの?」

( ^ω^)「デレさんにいつも作って貰う訳にはいきませんから」

彡*゚ー゚ミ「そっか……料理が上手くなるように応援してるわ」

(*^ω^)「そう言って貰えるとありがたいですお」

ζ(゚ー゚*ζ「ブーン君、お皿出して貰えるかしら?」

( ^ω^)「あ、はい! 大皿は何枚ですかお?」

ζ(゚ー゚*ζ「二枚おねがーい!」

( ^ω^)「了解しましたお!」

テキパキと動き始めるブーン。
行動の一切の無駄の無さを見たペルは、こういう後輩が来て欲しいと切々に願うのだった。

186 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:42:44 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「ご馳走様でしたお!」

彡*゚ー゚ミ「ご馳走様、とってもおいしかったわよデレ」

ζ(^ー^*ζ「そう言って貰えると作った側としてはうれしいわ」

食器を皆で片付け、食後のニラ茶を啜る。
こんな何気ない事が幸せなのだと、ペルは改めて気づかされる。
それ程までに聖堂は慌しく、休まる暇のない場所である事の表れでもあった。

( ^ω^)「そろそろ僕は出かけてきますお」

ニラ茶を飲み干したブーンが、ランプ片手に教会を出て行く。
こんな時間になんの用事があるのだろうか、気になったペルはデレに尋ねた。

ζ(゚ー゚*ζ「ああ、ブーン君は今ね、流石さん家で何か作ってるのよ」

彡*゚ー゚ミ「流石さん家? 何してる家なの?」

ζ(゚ー゚*ζ「鍛冶屋さんよ、包丁とか作ってくれてる人なの」

彡*゚ー゚ミ「へー、じゃあ剣でも作りにいくのかな?」

ζ(゚ー゚*ζ「そういう物を作ってるわけじゃないみたいよ」

彡*゚ー゚ミ「ふーん」

ζ(゚ー゚*ζ「さてと、そろそろ私達も天使様に会いに行きましょうか」

彡*゚ー゚ミ「おっ! やっと噂の天使様に会えるのね!」

187 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:43:29 ID:Hr75oH6g0
ランプを片手に村の中を歩く。
普段ならば、まだこの時間は家々に明かりが灯っているはずなのだが、徴兵された影響で明かりが灯された家は
少なく、人の気配もろくに感じる事はできない。

まるでゴーストタウンになりかけているようだ。

(;‐д)「チッ、こんな時間に村長に呼ばれるなんてなぁ」

(#゚;;-)「何か用事があるんだろう? なんでこんな時間に呼ばれたのかは検討がつかないけど」

(;‐д)「タカナともっと遊んでやりたかったんだがなぁ」

(#゚;;-)「大丈夫だよ、今日はブーン君達と釣りをしてきたんだし」

(,,゚д゚)「そうは言うけどな、やっぱり兄としては妹をもっと構ってやりたいんだよ」

(#゚;;-)「その点には同意するよ……僕達には残された時間も少ないし、あまりにも妹を構ってやらなすぎた」

(;‐д)「内容が徴兵の回避だったらうれしいんだがなぁ」

(#゚;;-)「それはないんじゃないかな」

(;‐д)「だよな……憂鬱だよ」

そんな話をしていると、前方からランプの明かりがゆっくりとこちらに近づいてきた。
こんな時間に出歩くとは珍しいと思いながら、二人は明かりの主が誰だか確認を始める。

188 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:44:40 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「おこんばんわですお」

明かりの主はブーンだった。
こんな時間に彼が出歩くのは珍しい。

(,,゚д゚)「よぅブーン! こんな時間になにしてんだ?」

( ^ω^)「今から流石さん家に行って、アクセサリーの製作の続きをするんですお」

(#゚;;-゚)「誰か好きな人にあげるのかい?」

( ^ω^)「あー、この際だから言っちゃいますけど、タカナにあげる為に作ってるんですお」

(´゚д゚)「……ほほぅ、家のタカナにねぇ……ふーん」

(#゚;;-゚)「ブーン君なら心配いらないじゃないか、是非とも幸せにしてやってくれ」

(;^ω^)「ちょっwwwまっwwww! 話が飛躍しすぎですお」

(´゚д゚)「誕生日もまだ遠いし……一体どんな意味があって妹にアクセサリーをプレゼントするのかね?」

( ^ω^)「もうすぐ、ギコードさん達は村を離れてしまいますお」

(#゚;;-゚)「ああ、まだ時間はあるけど……多いとはいえないな」

( ^ω^)「そしたら、今度は僕が門番の仕事をしないといけなくなりますおね」

(#゚;;-゚)「うん、辛いだろうけどがんばってとしか言えないな」

189 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:46:04 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「門番の仕事をすると、タカナが虐められた時、助けにいけなくなりますお」

(;‐д)「……」

何も言えなくなるギコード。
そう、たしかにその通りなのだ。
今までは、ブーンがいたからタカナは虐められずにすんだ。
虐められている所をブーンが助け、虐めた連中を叩きのめし、その家族の親に罵られ様とも、彼はタカナを助け続けてくれた。
そのブーンが、門番の仕事から離れられなくなるという事は、タカナはまた虐められる可能性がでてくるのだ。

しかも、自分達まで居なくなってしまい、タカナには頼れる人がかなり減ってしまう。
デレ、流石家、ロマネスク、考えられるのはこれだけ……あまりにも少なすぎるのだ。

( ^ω^)「だから、僕は僕の代わりにタカナを守ってくれる道具を自分で作ってるんですお」

(;‐д)「そう……か、スマン」

(#゚;;-゚)「ありがたいよ、妹にそこまでして貰って」

( ^ω^)「僕にとっても、タカナは妹のようなものですから」

(;‐д)「ありがとうなブーン……感謝しきれないよ」

( ^ω^)「だったら必ず生きて帰ってきてあげてくださいお。
      それが一番の恩返しですお」

(#‐;;-)「約束はできないが、善処するよ」

(#゚Д゚)「ディノ!」

(#゚;;-)「断言はできないだろう? 冷たいようだけど、僕にはこれしか言う事はできないよ」

190 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:47:09 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「善処してくれるだけありがたいですお! では、僕はこのへんで失礼しますお」

頭を深々と下げ、その場を立ち去るブーン。
彼の後ろ姿を、ランプの明かりが見えなくなるまで見送った二人は、改めて村長の家へと歩き始める。

(,,゚д)「タカナは、幸せなんだろうか?」

(#゚;;-)「本人に聞いてみるのが一番だよ」

(,,゚д)「幸せって答えるだろうな……満面の笑みで」

(#゚;;-)「僕もそう思うよ……」

(,,‐д)「ぜんっぜん幸せそうに見えないんだけどな」

(#゚;;-)「ブーン君達がいるから、幸せって言えるんだよ」

(,,‐д)「俺達が消えて、ブーンまでいなくなったら、アイツどうするんだろうな」

(#゚;;-)「教会に厄介になる事は決まってるし、デレさんと妹者ちゃんと一緒に過ごすと思うよ」

(,,‐д)「そんな平穏に事が進むと思うか?」

(#゚;;-)「できれば進んで欲しいけどね」

(,,‐д)「……俺もそう思うよ」

その言葉を最後に、二人は無言で歩き続け、村長の家へとたどり着く。
扉をノックすると、少し遅れて村長の声がし、二人は家の中へと招かれるのだった。

191 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:47:59 ID:Hr75oH6g0
( ^ω^)「兄者さん、こんばんですお!」

( ´_ゝ`)「おー、待ってたぞブーン」

兄者さんは既に準備を終えていてくれて、後は僕が着手するのを待つだけだった。
僕は兄者さんにお礼を言い、早速作業の続きに取り掛かった。

( ´_ゝ`)「昨日の時点で、だいたいできてきているから、後二日ぐらいすれば完成だな」

僕が今作っているのは鈴がついた耳飾である。
あまり大きくもなく、凝った装飾も一切ついていないただの鈴だが、僕のかわりにこの鈴が彼女を守ってくれるようにと
作っている最中は、鈴に念じ続けている。

( ^ω^)「さぁーて、今日もがんばるお!」

( ´_ゝ`)「おう、がんばれ! 手取り足取り、今日も指導してやっから」

l从・∀・ノ!リ人「がんばるのじゃーブーン!」

( ^ω^)「おっおっ! がんばるお」

これが完成したら次は妹者ちゃんに作ってあげようと思っている。
その次はデレさんかな? こうして考えてみると、僕にはプレゼントをする人が少ないと思う。

かといって、あの糞親父にくれてやる気はないけど。

(;^ω^)「あの、ここってどうすればいいんですかお?」

( ´_ゝ`)「あー、ここをこうして、ああしてみろ」

(;^ω^)「了解しましたお」

192 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:48:55 ID:Hr75oH6g0
鈴作りは、製作経験のない僕にはとても難しい代物だった。
耳につける飾りの部分は兄者さんが作ってくれているが、鈴はなにからなにまで、僕一人の手で作っている。

故に当初思い描いていた出来とは、作っている内に大分異なってしまったが、
それでも作っている内に、僕はこの鈴を気に入りはじめている。

( ^ω^)(僕の代わりにタカナを守ってやっておくれお……お前にしか頼めない事なんだお)

(;^ω^)「あいた、指切っちゃった」

金属片で指の腹を少し切ってしまったらしい。
僕は指を舐めながら、鈴についた血を拭う。

( ´_ゝ`)「気をつけろよ、小さい破片でもよく切れるんだからな」

(;^ω^)「身をもってしりましたお」

l从・∀・ノ!リ人「指に包帯まくのじゃ」

( ´_ゝ`)「このぐらいの傷なら大丈夫だ、むしろ指先に布をまくと、精密操作がしづらいからそのままがんばれ」

( ^ω^)「了解しましたお!」

その後も僕は兄者さんの指導の下、夜中まで鈴作りを続けた。
時間が来て製作を終える頃には、鈴はだいぶ形になってきて、完成までもう一息という所までこれた。

( ´_ゝ`)「ほんじゃおつかれさん」

( ^ω^)「ありがとうございましたお!」

今日は本当にがんばった。
きっとよく寝れるだろう。
帰路につきながら、僕はあの布団に包まれる感覚を思い出し、ちょっと恍惚な気分に浸っていた。

193 名前:名も無きAAのようです:2012/03/12(月) 00:49:55 ID:Hr75oH6g0

第四話 『緩やかな時の流れのなかで』 END


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