( ^ω^)は怪鳥の腹の中で出会ってしまったようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:41:06.17 ID:MlNWgV7t0

 ククゥル山の頂上には人喰い鳥が住んでいる
 
 そんな話を聞いたのはいつの頃だっただろう

 もう彼らはそんな話、覚えてすらないかもしれないけれど

 今向かっている先にその怪鳥が、もしいたとしたら
 
 僕はその鳥に希望を見出すだろう



 薄汚れたこの世界から、どうか僕を連れ出して下さい



3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:41:47.30 ID:MlNWgV7t0







( ^ω^)は怪鳥の腹の中で出会ってしまったようです







4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:42:32.45 ID:MlNWgV7t0

 嫌いだ、皆
 
 大嫌いだ


 消えてなくなれ、ぜんぶ


(メメ;ω;)「あっあぁぁぁああああああああ!!」

 ちぎれ、煤けて、ボロボロになった服は、お母さんが僕に買ってくれたものだった
 僕の家は貧乏だったけど、お母さんは頑張って頑張って働いて、僕にプレゼントだよ、って渡してくれた

(メメ;ω;)「うあぁあああああああああ!! おぉおおおおおおおおお!」

 服から伸びる腕には、沢山の傷と、そして這うように伸びる火傷の痕
 子供の頃についたこの大火傷の跡は、同じ年代の子供たちから畏怖の目でよく見られたこと、僕は忘れない

 僕という存在は消えるべきだ、そういったのは近所のガキ大将だった

 醜く焼け爛れた後が残る体は、人々が避けて通る

(メメ;ω;)「あっうあぁ……あぁぁぁ!!」

 あの子に近付いちゃいけません
 あの子に触ったら病気が移っちゃうよ

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:43:22.35 ID:MlNWgV7t0

 好奇の目も誹謗も中傷も、もう聞き飽きた、もういやだ、沢山なんだよ
 頑張って働いてた母さんも、過労で死んだ、父さんは昔出て行ったきり帰ってこない

 もう無理だ、僕は僕の存在を消してしまいたい

 だから、この山を登ってそして


 ―――ククゥル山の頂上には人を喰う怪鳥が住んでいる

 隣に住む悪ガキがそんな話をしていた
 本当かどうかなんて知らない、肝試しのための作り話だったのかもしれない

 でも仮にいなかったとしても、僕はもう消えようと思う

 いてくれたなら、大きいであろうその口に丸呑みにされて
 苦しまずに殺してもらえる

 ばくりと食べて貰えれば、痛みもなく、この世界から解放されて、僕は幸せになれるんだ


( うω;)「あぁはぁ……おっ……」

 だから、僕はこの山を登り、そうしてたどり着いたのだ
 大人たちすら近付くことはない、ククゥル山の山頂に

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:44:13.21 ID:MlNWgV7t0


(;^ω^)「おーっ……」

 頂上まで登ったのは初めてのことだった
 昨日から休まず上り続けた甲斐があったというものだ

 僕は大きく深呼吸して、空を見上げる


( ^ω^)「…………おっ…………!」


 透き通るような青い空を隠す体

(;^ω^)「おぉっ……」

 それはそれは、大きく、綺麗な鳥だった

 頂上の巣の上に座っていたのは、真っ白い羽毛の中に一房だけ虹色のような羽根が混じった見たこともない鳥

 燃える様に赤いトサカが、太陽を覆い隠している
 
 嘴は体の白に映える黄金色で、キラキラと輝いていた

 琥珀色の瞳が僕を見つめると、その大きな嘴をゆっくり開き始める

 ああ、いよいよ僕は食べられてしまうんだ、そう思うと体が震えた
 怖くてじゃない、嬉しくてだ

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:45:26.26 ID:MlNWgV7t0

(*^ω^)「あぁ……」

 これでやっと、僕は解放される
 しかし、返って来たのは予想外のものだった


( ゚∋゚)「……誰だ」

(;^ω^)そ 「!?しゃ、しゃべっ……!?」

 恍惚とした表情を浮かべていた僕を前に、目の前の怪鳥は、低い声でそう言った
 彼?は確かに、人間の言葉を、話したのだ
 
 驚きに思わずへたりこんだ、すると鳥は僕が怖がっているのだと思ったのだろう、スイと目線を逸らして
 再び低い声をふるわせた

( ゚∋゚)「人の子がこんなところに……夜の山は冷えるぞ、早く村に帰りなさい」

(;^ω^)「…………は……」

 おまけに、怪鳥は、僕が想像しているような鳥ではなかった
 
 鳥は僕の身を心配して言ってくれたのだろう
 しかし、僕はその発言に理不尽な怒りを覚えてしまう

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:46:25.96 ID:MlNWgV7t0

(  ω )

 人喰い鳥ではなかったのか
 僕を食ってくれはしないのか、と

 村に帰れ? 僕に帰る村なんて、もうありはしないというのに

( ^ω^)「……お断りだお」

( ゚∋゚)「……?」

( ^ω^)「ブーンを食ってくれお、お願いだお」

( ゚∋゚)「生憎、私は草食故、人は喰わぬのだ」

(  ω )「っ……嘘つくなお!」

( ゚∋゚)「………………」

 僕は両手を広げて、怪鳥の元へと近付いた

(  ω )「喰えお、早く、頭から丸呑みしてしまえば、人も植物も変わらんお」

( ゚∋゚)「……人の子よ」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:47:50.53 ID:MlNWgV7t0

(  ω )「さぁ、ブーンは喰ってくれるまで、こっから動かないお!」

(  ω )「怪鳥よ! ククゥル山に住む怪鳥よ! さぁさっさとこの身を喰ろうてしまえお!!」

( ;ω;)「早く! お願いしますだお……、もう苦しいのは嫌だお……」

( ゚∋゚)「……変わった人の子だ」

 怪鳥がそういった瞬間、すごい突風が、僕の体を揺らした
 山の頂上で吹く風は、ちっぽけな僕の体を簡単に吹き飛ばしてしまう

( ;ω;)「おっ……!?」

( ゚∋゚)「おっと」

 しかし飛ばされる前に、怪鳥が大きく羽ばたいた
 その、雪のように白い翼で僕の体を受け止めたのだ

 僕は真っ白い羽根の中に埋もれながら、小さくもがいた

( ;ω;)「喰えおー! 早く喰えおー!」

( ゚∋゚)「人の子というのは、皆、私の姿を見たら逃げていくものだと思っていたが……」

( うω;)「おっ……?」
 
( ゚∋゚)「お前は私に己を喰えと言う、こんな不思議な感覚は久しぶりだ」

 クゥ、と小さく喉を鳴らし、怪鳥は愛おしげに目を細めた

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:48:55.17 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「久しぶり……?」

( ゚∋゚)「ああ、そういえば、人と話すのも随分と久しぶりだ……人というのはあっという間に消えてしまうから」

 慈しむ様に目を閉じると、怪鳥はそのまま羽根の中に顔を埋めこませた

(;^ω^)「お、おい!寝るなお! 寝るなら僕を喰ってからにしろお!」

( -∋-)「私は人を食わぬのだ……」

 それでは困る、なぜならば僕は喰ってもらうためにここに来たのだ
 今まで散々痛い思いをした、苦しい思いもした
 悲しい思いも、辛い思いも、たくさんたくさんした

 最後くらい、楽に消えたっていいじゃないか

(;^ω^)「頑張ればいけるお!頑張れ!」

( ゚∋゚)「……おかしなやつめ」

 怪鳥は喉を鳴らすと、獣臭い息を僕の頭へと吐きかけた

(;^ω^)「オウフ!」

( ゚∋゚)「人の子よ、私の昔話を聞いてくれるか? 人と話すのは久しぶりなのだ」

( ^ω^)「…………聞いたら、僕を喰ってくれるかお?」

( ゚∋゚)「……そうだな」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:49:57.40 ID:MlNWgV7t0

 それなら、と僕は大きく頷いた
 帰る家も、村も最早ない

 時間だけなら有り余っている

 僕は暖かな羽毛にくるまれながら、語り出す怪鳥の話に、耳を傾けることにした
 その感覚はほんの少しだけ、母親の話してくれる寝物語に雰囲気が似ていた

( ゚∋゚)「その昔、私は一羽の鶏だった」

( ^ω^)「鶏? コケコッコーって鳴くあれかお?」

( ゚∋゚)「そうだ、そして、私は一人の農夫に飼われていた」

( ^ω^)「おー……」

 案外庶民的な産まれであることに、僕は少なからず驚いた
 そもそも、怪鳥の正体が鶏だったなんて

( ゚∋゚)「元々食用の鶏だったのだが、農夫のところにいた子供が私のことをいたく気に入ってしまってな
     そのまま愛玩用の家畜として飼われることになったのだ」

( ^ω^)「ふぅん……、暢気なもんだお、食用の鶏は食われるのが運命なのに
     その中の一匹だけ逃がしたら他の鶏が可哀相だお」

 自分も助かるかもしれないなんていう、馬鹿な幻想を抱いてしまうかもしれない
 己に待っている運命は、死だけなのに

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:50:51.63 ID:MlNWgV7t0

 僕の村にも、鶏は居た
 だけど皆決して情は持たない、持ったら殺せなくなってしまうから

 だけどその女の子は鶏に情を持ってしまったらしい


( ゚∋゚)「そう言わないでくれ、思えば私の生きてきた時間の中で、あの時が一番の幸せだったのだ」

( ^ω^)「…………?」

 そっと目を瞑ると、怪鳥は懐かしむように、あるいは頭の中にかつての情景を思い浮かべているのか
 うっとりしたような顔で語り出す

( -∋-)「子供の名前は、ツンと言ってな、彼女はいつでも私に語りかけてきた」

( -∋-)「美しい金色の巻き毛を風に靡かせて、にこやかに微笑みかけてくれるのさ」

( ゚∋゚)「そうそう、クックルという名もつけてくれた、クックル、今日は何をして遊ぶ? 私追いかけっこがいいわ
     などと鈴を転がすような声で笑うたもので、私はすっかり彼女の虜になってしまったものよ」

( ^ω^)「へー」

( ゚∋゚)「しかし鶏の寿命は人に比べて遥かに短い、やがて私はその命を天へと返した」

( ^ω^)「おっ? でも……」

( ゚∋゚)「ああ、私は今、この化け物の姿となり、この山の頂を守っている
     いや、守っているというのは、私の思い込みに過ぎないのかもしれないが」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:51:46.70 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「…………」

( -∋-)「私も当初は運命に従い、そのまま空へ還ろうと思うたのだ……、これは神の命なのだと
     しかし、しかしな、彼女が、ツンが泣くのだよ」

( -∋-)「置いていかないで、私を置いていかないでと、泣くのだ」

( ゚∋゚)「その頃には彼女も更に美しく成長していて、まるで天女のようだったよ、私はもう、彼女に心底惚れこんでいたのだ」

( ゚∋゚)「人の子よ、お前は笑うか? 家畜の分際で己の主人を愛してしまったこと」

( ゚∋゚)「愛玩動物の分際で、人に恋してしまったこと、お前は愚かだと嘲るか?」

( ^ω^)「僕には、愛とか、恋とか、そういうの、よくわからないお」

 唯一知っているのは母の愛、だけどそれも、僕のせいで随分辛い思いをさせてしまった
 僕がこんな体のせいで、母も村中から虐げられていたのを、知っている

 僕がまともであれば、村からも父からも愛されていたのだろうか?
 だけど、それすらももうよくわからない

 愛とはなんてむずかしいものなのだろう

( ゚∋゚)「子供にはむずかしいかもしれぬ、しかし、私はこの身を焼き焦がすような恋情にかられ
     死んでも死に切れなかったのだ」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:53:00.59 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「……それから、どうなったお?」

( ゚∋゚)「私は祈った、彼女と一緒にいさせて欲しいと、神に祈ったのだ」

( ゚∋゚)「すると神は、願いを聞き届けてくれた、不死の体を与えてくれると、そう仰ったのさ」

( ^ω^)「そりゃ、よかったお」

 祈っても祈っても、叶わない願いもあるというのに、神様というのは気まぐれだ

( ゚∋゚)「よかった、か……。人の子よ、お前は本当にその話をよかったと思ってくれるのか?」

( ^ω^)「好きな子と一緒にいれるなら、嬉しいんじゃないのかお?」

 僕は、母が不老不死になり、一生自分と一緒にいてくれる絵を想像してみる
 それは酷く甘美で、ゆるやかなぬくもりに包まれているように思えた

 寒露の海に溶けてしまった様な甘い感覚
 ああ、なんて素晴らしいのだろう

( ゚∋゚)「そうか、そうだな。始めは、私も幸せだったよ、永遠に彼女といられるなんて、素敵だと」

( -∋-)「しかし、神は意地が悪かった」

( ^ω^)「おっ?」

( ゚∋゚)「どんなに頑張っても彼女が長生きしたとしても、彼女は私より先に死ぬ
     それは私が不老である限り、絶対だ。そのことにはすぐに気づいてしまった」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:53:49.86 ID:MlNWgV7t0

( -∋-)「彼女が笑えば笑うほど、楽しそうにすればするほど、私は言い知れぬ恐怖に駆られてしまう」

( ゚∋゚)「この笑顔が消える時、この温もりが消える時、きっと私は狂ってしまうだろう
     しかし彼女が消えたとて後を追い死ぬこともできぬ……、その恐怖は日ごと強さを増していった」

( -∋-)「……私の精神を、蝕んでいった」

 思い出しているのか、怪鳥の体がブルブルと震えだした
 目には大粒の涙が溜まり、僕の顔へびちゃりと落ちる

 こんな怪鳥でも、涙は塩っからいものなのか
 僕は満天に輝く星を見ながら、場違いなことを考えた

( ;∋;)「だから、だから、私は彼女を喰ろうたのだ、不思議なもので、彼女を喰おうと思ったとたんに
      ちっぽけな鶏の体は今のこの化け物へと変化した」

( ;∋;)「神は最初から全て知っていたのかもしれぬ、私がこうするであろうことを、こう考えるであろうことを」

( ;∋;)「私の中に取り込んでしまえば、彼女は生涯を終えることもなく、永遠に私のもの
      醜い独占欲が、彼女の命を奪ってしまったのだ」

( ;∋;)「後ろから彼女を一飲みすると、私は空高くと舞い上がった、高い、誰も人の近付かぬ場所へと行きたかった」

( ^ω^)「………………」

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:54:50.51 ID:MlNWgV7t0

( ゚∋゚)「それから、何年も過ぎた、目を閉じたまま、その場にいれば死ぬるかとも思ったが
     やはり死ぬことはなかった、そのことに絶望して、何度も鳴いた」

 ククゥル山というのは、この怪鳥の鳴き声が由来だっていうのを、昔母さんに聞いたことがある
 だけれど、この怪鳥の鳴き声の由来を知っている者は、恐らくいないだろう

 知っているのは、この怪鳥と、僕、そして食べられた彼女だけだ

( ゚∋゚)「それからまた何年も過ぎた、人は移り変わり、四季は私の周りを通り過ぎていく
     私のこの姿を疎んじて、人も近付かない、私は永遠にこの狂ったようなときを過ごすのだ」

( -∋-)「彼女と一緒にな」

 話し終えたのだろう、怪鳥は羽根を震わせると、羽の中に頭をもぐりこませた

( ^ω^)「……それで」

( ゚∋-)「……なんだ?」

( ^ω^)「ブーンはいつ食べてくれるのかお?」

(;゚∋゚)「……人の子よ、お前は私の話を聞いていたのか」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:55:47.48 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「聞いていたお、最初に話を聞き終えたら僕を喰ろうてくれるって言ってたお」

( ゚∋゚)「私は、彼女と永遠二人きりが良いのだ、だからお前は喰わぬ」

(#^ω^)「そんなのズルいお! 最初に言ったのは嘘だったのかお!」

 頭の中に、沸々とした怒りが沸いてきた
 悲恋だったのかもしれない、しかし美しい恋だったのかもしれない
 儚くも悲しい愛だったのかもしれない

 でも、そんなの僕には全然関係のないことだ

( ゚∋゚)「ひと……」

(#^ω^)「ブーンは早く食べてもらいたいんだお! 神様にその姿にしてもらった怪鳥なら
     ブーンも向こうで母さんに会えるかもしれないんだお! 早く喰えお!」

( ゚∋゚)「…………」

(#^ω^)「なんならブーンが腹の中の彼女に伝えてあげるお! 
      君が喰われたのは嫌われてたからでも、鶏が化け物だったからでもないって!
      君を好きだったからだって!だからさっさと喰えお!」

( ゚∋゚)「っ……!!」

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:56:29.16 ID:MlNWgV7t0

(#^ω^)「だから早く……、お願いしますお……」

 切実な声で、そう伝えると、怪鳥は再び喉を鳴らした
 顔を上げると、その顔はどこか穏やかなものだった

( ゚∋゚)「人の子、お前は……、私に救いをもたらしてくれるのか?」

( ^ω^)「救い?」

 それはこっちの台詞だろうと、僕は思う
 怪鳥に喰われることで、僕のこの身は救われる

 この忌々しい世界から別れられる
 だから僕はここまで来たというのに、しかし怪鳥には別の考えがあったようだ

( ゚∋゚)「私はずっと……ずっと、悔やんでいた、彼女を喰ろうてしまったこと

( ^ω^)「………………」

( ゚∋゚)「彼女に伝えたい言葉も、伝えたい想いも……もう伝わることはないのだと
     そう諦めていた」

( ゚∋゚)「しかし人の子よ、お前がそれを伝えてくれるというのならば」

( -∋-)「例えそれが私の都合の良い幻想なのだとしても」

( ゚∋゚)「私はそれを信じ、お前を喰らおう」

( ^ω^)「…………!」

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:57:23.69 ID:MlNWgV7t0

 まるで睦言のようにゆったりと脳に響くその言葉に、僕は歓喜した

(*^ω^)「ほ、本当かお?」

( ゚∋゚)「ああ」

(*^ω^)「本当の本当に、本当かお? あとで嘘だなんて言っても、通用しないお」

( ゚∋゚)「本当だ、私も長く生き過ぎた、そのうち彼女に伝えるはずだった言葉も忘れてしまいそうだ」

( -∋-)「だから、お前に託そう……私の全てを」

 ゆっくりゆっくり、怪鳥は立ち上がる
 
 足場の岩を蹴り、空高く舞い上がった

 嘴に僕を咥え、どんどん上へと飛んでいく

 風が礫みたいに僕へと当たるが、そんなのもうへいちゃらだった

( ゚∋゚)「後悔は?」

(*^ω^)「ないお!」

( -∋-)「……そうか」

 それを合図に、怪鳥は僕を大空へと放り投げた
 重力に従い落ちていく僕の体を、受け止めるように、その大きな嘴をあんぐりとあける

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:58:11.09 ID:MlNWgV7t0

 まるで、黒い渦のようだ

 その中に僕は落ちていく

 中心に、目掛けて、すべてがスローモーションに感じられた

( ^ω^)「…………!」


 ありがとう、神様、僕をこの世界から連れ出してくれて

 さよなら、最低なこの世界、僕は最後の最後まで、君のことが大嫌いだったよ


( ゚∋゚)「……………………」





                        ごくり


24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 13:59:04.76 ID:MlNWgV7t0

 パイプオルガンが軽やかな音楽を奏でている

 アップテンポなその曲は、遠い昔

 一度だけ母に連れられていったエイガの中に出てきた曲に、よく似ていた

( -ω-)「…………」

 ぽーん、ボン、ピン
 ああ、頭の中で音楽がまわるまわる

「ねぇ……」

 ふと、音楽が途切れた
 だけど僕の頭は相変わらず、くるくるくるくる、その中で案山子のように突っ立っているのだ
 
「ねぇったら!」

 それにしてもこの心地よさはどうだろう?まるで夢の中にいるようじゃないか

 僕はその優しさに身を任せて、そのまま……

「起きろって言ってるでしょぉ!!」

(#)゚ω^)「ブォホオォ!?」

 星が、飛んだ

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:00:54.75 ID:MlNWgV7t0

 金色の巻き毛を靡かせて、実に堂々とした風体で
 高飛車な態度で少女は言った

ξ゚听)ξ「レディがこんなにも呼びかけているのに、無視するなんて、貴方それでも男なの!?」



( ^ω^)「は……」


 これは、夢だろうか

 僕は確かにあの怪鳥に喰われたはずだ

 喰われた瞬間まで覚えている、ならばこれはやはり夢だ

 でなければ、ここはあの世か?

ξ゚听)ξ「き・い・て・る・の?」

<;^ω^)「いだだだだだ! いだいお!」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:05:57.79 ID:MlNWgV7t0

 しかし、頬に伝わるこの痛みは確かなものだった
 ぼくは頬を擦りながら、改めて彼女をまじまじと見る

 姿かたちは、実に美しい少女だった
 怪鳥が言っていた少女と特徴は似ている気もする

 僕よりは年上だろうか
 なぜか光あるその場所で、彼女はまるで僕が来るのを待っていたとでも言うように
 恭しくお辞儀をした

(;^ω^)「おっ……?」

ξ--)ξ「いきなり殴って悪かったわね。ようこそ、クックルのお腹の中へ」

(;^ω^)「お腹の、中?」

 では、やはりここはあの怪鳥の腹の中なのだろうか
 僕が問いかけると、少女はにっこりと微笑み返してきた

 それは、実に美しい笑みだった

ξ゚ー゚)ξ「そうよ、ここは怪鳥と呼ばれた私の恋人、クックルの腹の中」

ξ゚听)ξ「そして私は、彼の恋人、一生にして唯一、最後の、恋人ツンよ。よろしくね」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:12:09.02 ID:MlNWgV7t0

(;^ω^)「はぁ……」

 子供の頃、母に寝物語として聞かされた、おとぎ話がある

 主人公の少年は、ある日森に一匹の豚を見つけた
 それは人語を解する豚だった

 少年と豚は話していくうちに友情を育むのだけれど、ある日森に迷った少年は
 酷くお腹をすかして、その豚を食べてしまうのだ

 やがて少年は森を抜け出すのだけれど、段々と少年の顔は豚へと変化していく
 そして最後には完全な豚になり、森をさ迷うのだ
 それから、森にやってくる人間と心を通わせるという、奇妙な話

 あの話のどこに教訓めいたものがあったのかは、子供の僕には理解できなかった

 今、どうして、そんな話を思い出してしまったのかもわからない

 だけど、もしかしたら、彼女は待っていたのではなかろうか
 自分と同じく、怪鳥に飲み込まれた人間が腹の中にやってくるのを

 森で人間を待つ、哀れな豚のように

ξ゚听)ξ「あなた、何か失礼なこと考えてない?」

( ^ω^)「とんでもないお」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:14:18.43 ID:MlNWgV7t0

 僕は柔和に笑って、ごまかした
 いかな僕であろうとも、豚と同列にされて喜ぶ女の子はいないだろう

 彼女のように「レディ」という単語を使ってくる女の子は、特に

ξ゚听)ξ「何か、聞くことはないのかしら」

( ^ω^)「何から聞けばいいのか、わからないお」

ξ゚听)ξ「じゃあ、私から聞かせてもらうわ」

( ^ω^)「おっ」

ξ゚听)ξ「あなた、名前は」

( ^ω^)「ブーン」

ξ゚听)ξ「そう、ブーン、年は?」

( ^ω^)「13だお」

ξ゚听)ξ「まだ子供じゃない」

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:21:07.45 ID:MlNWgV7t0

 そういう彼女の姿だって、大人には見えなかったが
 確かに僕よりは年上なのかもしれない

ξ゚听)ξ「で、どうして死にたいなんて思ってたの?」

( ^ω^)「…………なんで」

ξ゚听)ξ「どうして私がそんなこと知っているのかって顔ね。簡単よ
     私の意識は、クックルと共有されているから」

 クックルというのは、あの怪鳥の名前だ
 愛しい愛しい彼女につけてもらったと、うっとりとあの怪鳥は語っていたではないか

 とすると、やはり彼女は、昔怪鳥に飲み込まれたという、少女なのだろう
 こんな展開になった時点で、僕はもう現実的なことを考えるのはやめていた

( ^ω^)「生きていても、仕方ないからだお」

ξ゚听)ξ「へぇ?」

( ^ω^)「この体、見るお」

ξ;゚听)ξ「ちょっ……!」

 僕は彼女の静止の声も聞かず、上の服を脱ぐ
 服といっても、もうほとんどボロきれに近いような布だった


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:27:24.89 ID:MlNWgV7t0

ξ゚听)ξ「…………っ」

 しかし、僕の体を見た途端、彼女の表情は曇った

 体に浮かび上がっていたのは、無数の火傷の跡
 顔にまで及んでいないっせいか、そのおぞましさがいっそう際立って浮かんでいた

 まるで蛇のように体の上に蔓延っている
 レディ、ならば、こんな姿見たくはないのだろう

( ^ω^)「なんだか知らないけど、僕はこんな火傷痕みたいなのをつけて、産まれてきたお」

ξ゚听)ξ「…………」

( ^ω^)「僕の産まれた村は、信仰深く、体に痣を持ったり、障害を持ったりして
      産まれた子は、迫害されるんだお」

( ^ω^)「酷いとかじゃなくて、それは村の掟だから、運命だったんだお」

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:35:41.42 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「だから、僕が石を投げられるのも、苛められるのも、母さんが
     物を売ってもらえないのも、父さんが出ていったのも、当たり前のことだお」

( ^ω^)「僕は忌み子なんだから、迫害されて当然の運命だったんだお」

 ただ、運命だからって、それを頭から信じる気はなかった
 しかし抗い難いものの中に組み込まれてしまったという怒りだけが沸いてきて

 僕はいつだって神様を呪う

ξ゚听)ξ「でて……」

( ^ω^)「出て行けばよかったかお? でも考えてもみてくれお。僕の村は山奥にあった
      村を出るには、山を越えなくてはいけないし、おまけに山には野犬や夜盗も出る」

( ^ω^)「女一人と子供一人でどうやって越えられたかお?」

( ^ω^)「それに、山を越えられたとて、僕みたいな子供が、他の街では受け入れられるだなんて
      それは考えがたいことだったお」

( ^ω^)「結局、僕達は村に怯えて、びくびくと暮らすしかなかったんだお」

 ああ、今思い出しても忌々しい
 あの小さな小屋で、母さんはどれだけ辛い思いをしたのだろう

 母さんは綺麗な人だった

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:38:46.73 ID:MlNWgV7t0

 だから、僕を捨てて他の人と一緒になれば、まだあの村で生き残れる可能性はあったのに
 それなのに、母さんは最後まで僕を捨てようとはしなかった

 あの村で

 閉鎖されたあの小さな空間で、最後まで僕を守って、そうして死んだ

( ^ω^)「僕みたいなのは、生きてちゃいけないんだお」

 そのことに、もっと早く気づいていたらよかったのだ
 そうすれば、母さんだって死なずにすんだのかもしれない

 どこまでも僕はバカで、愚かで、忌むべき子供だった

ξ゚听)ξ「そうかしら」

 しかし、彼女はそんな僕の考えを断ち切るように発言する

ξ゚听)ξ「仮に貴方がいなくなったところで、貴方の母親に貴方を産んだという事実は消えないわ」

ξ゚听)ξ「それどころか、話を聞く限り、貴方の母親は貴方を拠り所にしていた」

ξ゚听)ξ「その拠り所が死んでしまったら、母親はどうなるのかしら」

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:44:23.25 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「母さんが自殺したとでも言いたいのかお? 大丈夫だお、母さんは強いから」

ξ゚听)ξ「強いのはどうして?」

(;^ω^)「どうして、って……」

 彼女は何を言いたいのだろう、僕が言いよどむと、はっきりと目を見て言ってくる

ξ゚听)ξ「貴方がいたから、強かったのでしょう、女性なんて、元はか弱いのよ
     母になるから、強くなれるの」

 子供を産んだこともないだろうに、彼女はきっぱりと言い切った
 まったく、理解に苦しむ

( ^ω^)「でも君は、母でもないのに強そうだおね」

ξ゚听)ξ「あなた、本当に失礼ね、そんなんじゃ、立派な紳士になれないわよ」

( ^ω^)「もう僕に未来はないお」

ξ゚听)ξ「卑屈な男は嫌いよ」

 ツン、と顔をそっぽに背けて、何故かある椅子の上に腰掛けた
 よく見ると、ここは胃袋というよりも部屋の中のようだった

 地面だけは柔らかい肉の感触だが
 灯りもあるし、ベッドもある、本棚も、お人形さんも、服も、何もかも揃った
 少女のためにあつらえたような部屋だった

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:49:07.28 ID:MlNWgV7t0

( ^ω^)「ところで、ここは何処なんだお?」

ξ゚听)ξ「さっきも言ったじゃない。クックルの腹の中よ」

( ^ω^)「じゃあ、どうしてこんな部屋みたいになっているのかお?」

ξ゚听)ξ「彼が運んできてくれたの」

 愛おしそうに、ベッドへほお擦りすると、彼女はうっとりとした視線でそういった
 
ξ゚听)ξ「愛しい、愛しい子、私の大切なクックル。彼は私を殺してしまったと思って
    供養のためか、私のために、私だけのために、食べたくもない家具や嗜好品を
    飲み込むの」

ξ゚ー゚)ξ「可愛いでしょう?」

( ^ω^)「よくわからないお」

 それは歪んでいるのかもしれないし、彼らにとっては正しい形の愛情なのかもしれない
 だけどそんなの、僕にはよくわからないし、関係もなかった

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 14:54:56.77 ID:MlNWgV7t0

ξ゚听)ξ「だから、彼が私に伝えたかった言葉があるように、私も彼に伝えたい言葉があるわ」

ξ゚听)ξ「それを、貴方に伝えて欲しいの」

( ^ω^)「どうして僕がそんなことしなくちゃいけないんだお」

 僕は早く死にたいのに、こんな所まできて生かされるなんて、理不尽にも程がある

ξ゚ー゚)ξ「もちろん、タダでとは言わないわ」

 しかし、彼女は、僕が口答えするのをわかりきっていたように、いたずらそうな顔をして
 指を立てた

ξ゚听)ξ「彼に飲み込まれてから、私も長く長く生きている、神様とだってマブダチよ」

( ^ω^)「なんだお、それ」

 ふざけている

ξ゚听)ξ「だから、私の言うことを聞いてくれたなら、貴方をお母様のところに送ってあげる」

( ^ω^)

ξ゚听)ξ「私、嘘はつかないわ」

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/27(金) 15:01:15.65 ID:MlNWgV7t0

 彼女の言っていることが、本当かどうかなんて、わからない
 だけど、どうせここにいたってすることがないし

 ツンという彼女が、昔飲み込まれたという少女なのだとしたら、ここには時間というものが
 存在しないのかもしれない

 そうすると、僕もまた、永遠をこの腹の中で生きなくてはいけなくなる
 そんなのはちゃんちゃらごめんだった

( ^ω^)「……僕は、何をすればいいんだお」

ξ゚听)ξ「簡単よ」



ξ゚ー゚)ξ「この腹の中から、出て行けばいいの」


 こともなげにそういって、彼女は僕の火傷の痕をなぞった
 ただ死ぬということが、こんなに難しいだなんて、思わなかった

 僕は内心頭を抱えたい気持ちで、ゆっくりと頷いたのだった

前編、終わり



戻る

inserted by FC2 system