( ^ω^)ξ゚ー゚)ξ風呂屋VIPのようです

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:15:20.16 ID:e0/sVxbh0
手には、蛇の目を
腹には、腹巻を
足には、下駄を



そんな、古臭いものが似つかわしいこの町で、僕達はお風呂屋さんを営むことになりました。


( ^ω^)  

僕ですか? 僕はブーン。
一年ちょっと前に亡くなった叔父の遺志を継ぎ、風呂屋VIPを経営することになりました。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:17:18.48 ID:e0/sVxbh0
ξ゚ー゚)ξ

彼女はツン。僕の妻です。
高度経済成長なんて知らないよ、といった風情のこの町並みには少し似つかわしくないほど、洗練された美しい女性です。

そう褒めると照れ隠しに蹴ってきますが、本当は心優しい子です。


ξ*゚ー゚)ξ   ( #ω^メ) 


心優しい子です。



これはそんな僕達と、この町の人々との、とりとめのないお話。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:20:25.40 ID:e0/sVxbh0
///
子どもの頃の話です。

夏休みになると毎年、僕は田舎にある叔父の家に遊びに行きました。

同い年の従兄弟と遊ぶことはもちろん楽しみでしたが、それよりも楽しみだったのが、
その叔父の経営する銭湯に入ることでした。

僕の家はお世辞にも裕福とはいえませんでしたから、浴槽はすこし窮屈なものでした。
しかし、その大きな浴槽はさながらプールのようで、よく潜水艦ごっこをしては頭を浴槽にしたたかに打ち付けてました。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:22:26.77 ID:e0/sVxbh0
せっけんを配置して大人を転倒させたり、桶を積み上げてタワーを作ったり。
僕はこの風呂屋が、そしてこの町が大好きになっていました。

第二の故郷、とも呼べるほどに。


( ^ω^) 浴槽に亀逃がした奴ちょっと出て来い


でもそのときはまさか、僕がこの風呂屋を継ぐだなんて少しも考えませんでした。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:25:22.75 ID:e0/sVxbh0
///
僕の田舎通いはそれから、一年前に叔父が亡くなるまで続きました。
成人してからは、叔父や従兄弟と晩酌を交わし、さまざまな話も交わしました。

/ ,' 3 あっぴょんぴょん

↑叔父


三年ほど前、僕は今の仕事にやりがいを見出すことが出来ない、と言った旨の相談をすると、叔父は笑って
「じゃあ、わしの銭湯を継いでくれ」

というのです。なるほど、それも悪くないなとその頃から漠然と考えていました。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:28:05.33 ID:e0/sVxbh0
……叔父の死について触れましょう。
彼はある日突然亡くなりました。心臓関係の病気がその原因だったそうです。

訃報を知り、おぼつかない足取りで葬式に向かったことを覚えています。



やはり、人徳のある方だったのでしょう。
多くの方が多くの涙と多くの謝辞を、彼の亡骸に向けて捧げていました。


/ ,' 3

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:30:25.38 ID:e0/sVxbh0
一段落済んでようやく激務から開放された従兄弟と、少し寂しい晩酌を交わしました。
その表情は――肉親が亡くなったからそれは当然でしょうが――優れず、なにか悩みを抱えているように僕には思えました。


二人で静かに酒を飲む中、ようやく僕は叔父の死を実感しました。
彼の存在は、あまりにも大きかったのです。



葬式が全て終わり彼はようやく踏ん切りがついたのか、僕にこう言いました。
「今すぐでなくてもいい、この銭湯を継いでくれないか」 と。


ただならぬ程真剣な態度の彼の話を、僕は同様に真摯に聞きました。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:33:07.71 ID:e0/sVxbh0
その話を簡単にまとめると、

・叔父が死に際に、VIP風呂の存続を頼み没した

・従兄弟には子どもがいるため、転居できない

・他の親族にも頼めそうなものが居ない

ということでした。


僕はというと、真剣に今の仕事の進退について考えていましたし、子どもも居ません。

前向きに考える、と前置きした後で 「妻に相談してみるよ」 と僕は返事し、その次の日に帰途に付きました。


今振り返ると、僕の心はこのとき既に決まっていたのかもしれません。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:35:10.07 ID:e0/sVxbh0
///
結論からいうと、ツンは多少の難色を示しましたがその話に賛成してくれました。

やはり僕が仕事や人間関係がうまく行っていないことを、とても心配してくれていたようです。


しかしながら今日決めてすぐに引越し、というわけには行きません。
退職、転居、その他もろもろの手続き。

それらを時間をかけながらも全てこなし、僕らはあの町へ向かいました。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:37:44.12 ID:e0/sVxbh0
///
この町には、徐々に消えつつある前世紀の匂いを、まだ強く残していました。

元気に缶蹴りを楽しむ子ども達。本物の井戸のそばで会議にいそしむ主婦達。
セピア色の駄菓子屋。うたかたの眠りを楽しむ三毛猫。

そんな昭和の風を受けながら僕達は、どちらともなく微笑み合いました。


ξ*゚ー゚)ξ  (^ω^ )  

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:40:36.82 ID:e0/sVxbh0
///
……雇われの身からいきなり自営業に転じる、ということはかなり難儀なことでした。

浴槽や汽缶の管理はもちろん、老朽化した部分の改装、法律的な問題など、それらを処理することに非常に骨が折れました。


僕としては叔父の遺した物ですからそれらに出来るだけ手を加えたくありませんでした。
しかし、半世紀以上地元の人々の生活を支えてきただけあり、大掛かりなリフォームをそれらは必要としていました。

――資金面では僕にいささかの蓄えはありましたし、叔父の遺産の一部を準備金として頂いていたのでそれは問題とはなりませんでした――


ゆっくりと時間をかけながらもそうした諸問題を解決し、いよいよ風呂屋VIP、リニューアルと相成りました。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:42:23.98 ID:e0/sVxbh0
 ∬

■  ←まごうことなき風呂屋VIP


AAを参考にしていただけばお分かりでしょう。
全体的に渋めの色合いを施し、昭和テイストを前面に押し出した意匠溢れる風呂屋VIPは、この町に良く馴染んでいました。


銭湯の華、と呼ぶべき風呂場のペンキ絵は叔父の旧友の絵師に委託。
息を呑むほどの見事な作品が、銭湯の情緒を盛り上げます。


そして湯上り後に必須のドリンクも、サイダー、コーヒー牛乳、フルーツ牛乳と、御三家を入荷。
もちろん、自動販売機ではなく対人販売形式をとりました。

その他にもこだわりポイントがたくさんあり、僕らの意気込みがその建物からは強く感じ取れることでしょう。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:45:34.88 ID:e0/sVxbh0
いよいよ訪れた店開きの日。
来訪されるたくさんの人々を見て、僕達は落涙を禁じえませんでした。


('A`)(´・ω・`)

地元で商店を営む人々。


( ・∀・)( ^Д^) コンドハキノボリダ

学校帰りの小学生達。


从'ー'从 ζ(゚ー゚*ζ

うら若き乙女達。


ハハ ロ -ロ)ハ

この町では珍しい、異国の方。

……そこに僕らは生きがいを見つけました。
それらの人々のために、安らげる空間を作ろうと。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:47:28.46 ID:e0/sVxbh0
/// 
……もともと地元でただ一つの銭湯だったこと、亡き叔父の人柄が優れていたこと、見目麗しいツンが店番をしていたこと。

その他様々な理由が重なり僕たちの銭湯は大繁盛、やがて猫の手を借りたいほどの盛況振りを見せるようになりました。


(,,゚Д゚)(*゚ー゚)ノパ听) ニャー

店先にはリアルに猫が集まっています。残念ながらその手は借りれません。


(,,゚Д゚)つ¥

虫を捕まえてくるのは止めてください。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:48:03.28 ID:e0/sVxbh0
ξ;凵G)ξ ¥⊂(゚Д゚,,)

ほら、ツンは大の虫嫌いで見ると泣いちゃいます。


ξ;凵G)ξ   ( #ω^メ) 

そして僕にとばっちりが来ますから。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:50:59.91 ID:e0/sVxbh0
///
しかし、全てが順風だったわけではありません。
急に生活リズムが変わり、風習や文化の違いもあって肉体的、精神的に疲れることもありました。

ご老人の方達は僕達にとても優しく接してくれましたが、やはり年の差というものは存在します。
変に気を使ってしまったり、使われたりしてそれにも少し気疲れしてしまうこともしばしばでした。


( ФωФ)
  モローン
お客さん、裸でうろついちゃ駄目ですよ。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:54:02.18 ID:e0/sVxbh0
……ようやく営業に少し慣れてきた頃、僕らに友人と呼べる存在が出来ました。
それは同じ商店街に住む、ドクオ、ショボン、そしてクーさんでした。

彼らはそれぞれ八百屋、喫茶店、美容院を営んでおり、年齢も似通っていました。

彼らは足繁くこの銭湯に通ってくれ、時にはさまざまな相談に乗ってくれました。
とくにツンは少し年上のクーさんを実の姉のように慕うようになり、クーさんもまたツンを妹のように可愛がってくれました。

自身の妻といえどもその悩みの全てを把握できるわけではなく、僕はクーさんにとても感謝していました。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:57:18.83 ID:e0/sVxbh0
そして僕はというと、ドクオ、ショボンとは裸の付き合いということもあってかすぐに意気投合。
店が休みの日にこっそり浴槽に日本酒などを持ち込んで、酒宴をもよおすほどの仲になりました。

僕にとってそれは日ごろの疲れを吹き飛ばす、良い手段でした。


(# ^ω^メ)(#'A`メ)(#・ω・メ)

その後壮絶にツンに怒られましたが。



それ以外にも門外不出の男同士の相談にも乗ってくれ、精神的にも大変助けられました。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 21:59:49.14 ID:e0/sVxbh0
///
風呂屋VIPの近くには、とても大きな広場があります。

そしてそこの中央にはもうその成長を止めた、引退した樹が生えています。
現役時代はそれはそれは生命感に溢れた、立派な樹でした。

僕が子どもの頃は、たくましい枝からブランコを下げたり、従兄弟と共に木登りの速さを競ったりした、とても思い入れのある存在です。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/17(火) 22:01:40.81 ID:e0/sVxbh0
今ではその広場で遊ぶ子ども達を、優しく見守る樹となりました。
僕はそれを見るたびに、時代の流れを感じました。


そしてこう願いました。
これからは僕達の銭湯も見守ってください、と。


ξ*゚ー゚)ξ( ^ω^)<第一話、end  


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