('A`)萌えて燃えるようですノパ听)

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:07:51.30 ID:QvR65UacP
 
彼は名前をジョルジュと名乗った。
  _
( ゚∀゚)「俺はな、あれだ、萌えの精霊だよ」

僕はジョルジュをしばらく見つめ、
彼の立派な眉毛と自分の小指の爪を見比べた。

そして思った。

('A`)「ああ、これは夢だ」

実際それは夢だった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:09:41.18 ID:QvR65UacP
 


('A`)萌えて燃えるようですノパ听)



8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:12:34.84 ID:QvR65UacP
 
いわゆる覚醒夢というやつだろう、
僕はこの世界が夢の中であると自覚しながらに存在している。

これまでも覚醒夢を見ることはたまにあった。
しかし、僕のこれまでの経験では、その世界が夢の中に存在していると
自覚した瞬間、僕は夢から醒めてしまっていた。

それ以後の僕の行動は、ただの妄想と成り果て、
夢の中特有の強烈な実感は伴わないものとなっていたのだ。

('A`)「ところが今回はどうだろう」

僕の脳内にあるのであろう『バー』のイメージをそのまま具現化したような
ぼんやりとしたカウンター席に僕とジョルジュは腰かけている。

ジョルジュはウィスキーだかブランデーだかの入ったグラスを大きく傾け
中に入ったぼんやりとした色の液体を飲み干した。

そして彼はこう訊いた。
  _
( ゚∀゚)「で、お前は何だ?」

僕の想定の範囲外にある質問を浴びせられるということは、
この夢はまだ醒めていないということだろう。

僕はこっそりと頬をつねった。

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:15:22.27 ID:QvR65UacP
 
ちょっと意味がわかんねーんだけど、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「お前はいつも自己紹介を求められると
     頬っぺたをつねるのか? 合コンの持ちネタか?」

('A`)「違う。それに僕は合コンに行ったことがない」
  _
( ゚∀゚)「だろうな。なんだよこのバーのイメージ、
     ドラマの見すぎか?」

('A`)「どっちかというと漫画の読みすぎだと思う」
  _
( ゚∀゚)「好きな漫画は?」

('A`)「オヤマ菊之助」
  _
( ゚∀゚)「なんでだよwww お前何歳だwww」

('A`)「17歳だ」
  _
( ゚∀゚)「今日びの17歳はすんなり菊之助挙げられねーよwww」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:19:02.74 ID:QvR65UacP
 
なんでファーストチョイスがそれなんだよ、と
ジョルジュはひとしきり笑い転げた。

僕はいつの間にかカウンターに置かれている
ぼんやりとした色合いの液体の入ったグラスを手に取り口に運んだ。

('A`)「なんだこれ」

まだ酒を飲んだことのない僕の持つ
漠然としたアルコールのイメージはよくわからない味をしていた。

それでもなんとなくカッコ良さそうな気がしたので
僕はそれを飲み干した。
そして大きくひとつ息を吐き、僕はジョルジュをじっと見つめた。

彼は自分を萌えの精霊だと称していた。

こいつは一体何なのだろう?

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:22:43.59 ID:QvR65UacP
 
ジョルジュに菊之助トークを終える素振りは見られなかった。
  _
( ゚∀゚)「あれさ、途中から絵柄がガラッと変わったよな」

('A`)「……絵柄だけに?」
  _
( ゚∀゚)「ぶははww くだらねー ダジャレかよ」

('A`)「あんたが偶然ダジャレになってたから
   恥ずかしくないように拾ってやったんだよ」
  _
( ゚∀゚)「おおそうかww ありがとよwww」

('A`)「あと、萌えの精霊らしいあんたには悪いけど、
   僕は菊之助の初期の絵柄が好きなんだ」

あの萌え絵に走っていなかったころの絵だ、と僕は言った。

これは萌えの精霊に対する冒涜ではないだろうかと僕は思っていた。
彼の存在意義に関わってくる主張だろう。
夢の中でなければそっと胸の中にしまっておくべき内容である。

しかし、意外にもジョルジュは僕に同意した。
  _
( ゚∀゚)「おう、俺もだ。お前はよくわかってるよ」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:25:43.67 ID:QvR65UacP
 
初期の『オヤマ!菊之助』の絵柄は悪く言えば荒削りで、
そこには洗練されていない魅力があった。

('A`)「魂がこもっていたとさえ僕は思う」

僕は夢の中であることを良いことに
現実世界ではとても晒せない胸の内を打ち明けた。

('A`)「質感があるっていうのかな、よく言い表せないんだけど、
   そこには確かに何かがあった。
   僕はその何かに惹かれていたんだ」
  _
( ゚∀゚)「萌えていたんだろ?」

('A`)「そうだ。僕は記号的な萌え絵に萌えることはない。
   キャラクターが伴っていれば別だがね」

特別な何かが必要なんだ、と僕は繰り返すように言った。
  _
( ゚∀゚)「なるほど、俺がどうしてお前のところにやってきたのか
     少しわかってきた気がするぞ」

('A`)「……というと?」

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:29:27.85 ID:QvR65UacP
 
ジョルジュはしばらく考えるようにして黙り、
やがて、いつの間にかグラスに補充されていた
よくわからない色の液体を飲み干した。
  _
( ゚∀゚)「俺は萌えの精霊だ。
     俺は俺の宿主としてもっともふさわしい人間の下に現れる」

それがお前だ、とジョルジュは言った。
僕は冗談半分に頷いた。
  _
( ゚∀゚)「ところでお前はどんなおっぱいが好きなんだ?」

('A`)「それは僕が巨乳派か貧乳派か、ってことかな」
  _
( ゚∀゚)「そうだ。人は大きく3つに分けられる」

('A`)「3つ?」
  _
( ゚∀゚)「そうだ。お前はどれだ?」

('A`)「そうだな、僕はおそらく第三勢力なんだろう。
   巨乳にせよ貧乳にせよ、特別な何かがある乳にこそ魅力を感じる」

合格だ、とジョルジュは笑った。
  _
( ゚∀゚)「ま、俺が現れた時点でわかってたことだけどな」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:32:25.19 ID:QvR65UacP
 
僕たちはしばらく乳についての話を続けた。

僕は言葉を続けながら何杯かのアルコールらしき液体を飲み、
ジョルジュは腕を振りって語りながら何杯かの
アルコールらしき液体を飲んだ。

ところで、と僕は切り出した。

('A`)「僕が巨乳派、もしくは貧乳派と答えていたらどうなったんだ?」
  _
( ゚∀゚)「それはそれでかまわねーよ、掘り下げて訊くだけだ」

重要なのは確固とした萌えを持っているかどうかだ、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「覚えておけ、萌えはパワーだ、
     俺たちを最終的に救うものは萌え以外にないことだろう」

僕は笑って頷いた。
想像上のアルコールは想像上の酩酊を僕にもたらしている。
  _
( ゚∀゚)「お前のその萌える気持ち、力に変えてみないか?」

そう言うジョルジュと目が合ったところで僕の覚醒夢は終わりを告げた。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:36:46.38 ID:QvR65UacP
 
夢から醒めた僕を待っていたのは、当然のことながら現実だった。

僕は古ぼけたベッドに横たわり、
そろそろ干してやらなければならない布団に胸まで包まれている。

枕元には携帯電話が転がっていた。
それを手に取り時刻を確認しようとしていると、
少し離れた机の上で目覚まし時計が鳴り出した。

午前7時30分、僕の起床時間である。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:39:10.70 ID:QvR65UacP
 
目覚まし時計を止めた僕は、窓まで歩き、
カーテンを開けて太陽の光を頭から浴びた。

窓を開けると朝の空気が部屋に吹き込んでくる。
向かいの家の2階、
僕の部屋の真正面にある窓のカーテンが勢い良く開かれた。

続けて窓が開かれる。
そこから僕の良く知った顔が現れた。

彼女こそが僕が毎朝決まって7時30分に起床する理由であり、
彼女というかわいい幼馴染がいることが
僕にとって数少ない他人に自慢できる点なのである。

ノパ听)「おードクオ! おはよー!」

今日も良い天気だなー、とヒートはパジャマ姿で大きく手を振った。

僕は平静を装って朝の挨拶をヒートに返し、
じんわりと心を満たすなんともいえない温かな感情を満喫した。

大いに萌えたわけである。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:42:11.29 ID:QvR65UacP
 
1階のダイニングルームに降りていくと朝食の支度ができていた。
我が家のいつもの風景である。

僕はいつも通りに食欲を満たし、洗面所に向かって歯を磨いてから
2階の自室へと戻っていった。

窓越しにヒートの部屋を伺うと、窓とカーテンが閉められている。

これもいつもの光景であり、
おそらくヒートは現在着替えをしている最中なのだろう。
僕もいつも通りに制服に着替え、
時間割を参照して鞄に必要なものを詰め込んだ。

腕を組んで窓枠に置き、その上に頭を乗せて目を閉じる。
日差しがぽかぽかと僕の頭部を暖めてくれ、とても良い按配である。

そうしてしばらく待っていると、
いつも決まってカーテンと窓が再び勢い良く開かれる。

ノパ听)「こらードクオ! 遅刻するぞー!」

遅刻しそうなのはお前の方だ、と僕は決まって微笑まされる。

僕は毎朝こうして登校を開始するわけである。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:45:46.56 ID:QvR65UacP
 
学校指定の革靴を履いて玄関を出ると、
ヒートが仁王立ちで待っていた。

ノパ听)「ドクオはだらしないな!
     いつも私に起こされてばかりじゃないか!」

('A`)「あれは寝ているわけじゃない」

ああしてると気持ち良いんだ、と僕が歩きはじめると、
ヒートは僕の半歩先を行くようにして歩く。

ここまでは僕の日常的な幸せである。
今日という一日は、ここから先がこれまでとは違っていた。

ノパ听)「なんかさー、私、今日変な夢見ちゃったんだよね」

('A`)「夢って大概変なもんじゃないか?」

ノパ听)「そうだけどさ、なんか今日のは特別変だった。
     ちょっと聞いてよ」

こういうの誰かに話さないと気持ち悪くって、とヒートは言った。

自分がその誰かに選ばれたことを表に出すことなく喜びながら、
僕はヒートに話をはじめるよう促した。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:48:38.04 ID:QvR65UacP
 
ノパ听)「それがさ、精霊に会ったんだよ私」

ヒートがそう言った瞬間、僕はあやうく吹き出しそうになった。
数秒を費やして落ち着くと、僕はヒートに向き直った。

('A`)「精霊ってなんだよ」

ノパ听)「私に訊かれてもなー。
     とにかくそいつは自分は燃えの精霊だって言ってた」

('A`)「もえ?」

ノパ听)「鉄をも溶かすその力! だって」

('A`)「どういう意味だ」

ノパ听)「私も訊いた。
     どうだ、語呂が良いだろ、ってなんか威張られた」

('A`)「よくわかんねーな」

ノパ听)「だから、特別変な夢の話なんだって!」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:52:12.80 ID:QvR65UacP
 
ヒートの話は学校に到着するまで続けられた。

恥ずかしいので僕の見た夢の話はしなかったが、
ヒートの見た夢は僕のものと非常に似通ったものだった。

大きく違うのはひとつだけ、
僕の夢に出現したのは『萌えの精霊』であり、
ヒートの夢に出現したのは『燃えの精霊』だったということである。

昨夜、夢の中で僕とジョルジュが乳について語ったように、
ヒートと燃えの精霊は友情パワーについて語ったらしい。

('A`)「友情パワーって何だよ。そんな話題聞いたことないぞ」

ノパ听)「ドクオはドラえもんズを知らないのか!」

('A`)「ああ、知ってる。たぶん読んだこともある。
   でもあれドラえもんとは別だよね」

ノパ听)「ザ・ドラえもんズはF先生の承諾を得て
     正式にドラえもんシリーズ化、キャラクター化してるんだ!」

失礼は許さん、とばかりにヒートはいきり立っていた。

その様子も大変よろしい、と僕は静かに萌えた。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:55:26.62 ID:QvR65UacP
 
学校に到着し、教室に入ってからは、
登校時の会話とはうって変わって平凡な日常が待っていた。

僕は窓際の最後列、怠惰な生徒がもっとも良く好む席に腰かけた。
ヒートは僕の斜め前に着席する。
それが僕たちに与えられた席順だからだ。

明るく活発でその上かわいいヒートの周りには
即座に友人たちの輪が発生し、彼らはしばし談笑に興じる。

僕にも友人がいないわけではないけれど、
ヒートとは違って僕は足を運ぶ側の人間である。

気が向いた日は談笑の輪へ足を運び、
気が向かない日はそのまま日向ぼっこで幸せに暮らす。
それが僕の日常的な朝であり、僕はそれを気に入っていた。

('A`)「……精霊ね」

僕は横顔を太陽に照らされ、ぼんやりと考え事を続けることにした。

ジョルジュは自らを萌えの精霊であると称していた。
僕のところに現れたのは、僕が彼にとって
もっともふさわしい人間であるから、と。

('A`)「……必要だから現れたんだとも言ってたな」

ホームルーム開始のチャイムが鳴り響き、
僕の漠然とした思考はそこで切り上げられた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 22:57:39.39 ID:QvR65UacP
 
ホームルームがはじまり、終わり、1時間目の授業がはじまる。
いつもと変わらずつまらない内容だ。

僕の成績は良くもなく悪くもない。
勉強をしないわけではないが、勉強に面白みを感じることはないし、
何かしらのモチベーションをもって学業に励むこともない。

('A`)「いや、モチベーションはあるな」

廊下側の席で眠っていた生徒が教師に起こされる。
何日かに1度は必ず行われる儀式めいた説教を右から左に聞き流し、
僕は斜め前の席に座るヒートの頭をぼんやりと眺めた。

ヒートは勉強が不得意である。
そのため、試験前や大きな課題が出された際には、
相対的に勉強ができる僕の助けを必ず求める。

それこそが僕の勉強に対するモチベーションだった。
これがなければ僕の学業成績は
地を這うヤモリの同情をも見込める有様となることだろう。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:00:51.57 ID:QvR65UacP
 
('A`)「ヤモリは壁も這うけどな」

カベチョロっていうくらいだしな、と僕は頭に遊ばせた。

その瞬間、ぼけっとしている僕の頭をぶん殴るような
乾いた音がどこかで鳴った。

特徴的なその音の原因はすぐにわかった。
僕たちの教室のドアである。

建てつけが悪いのか、僕たちの教室のドアは
開閉するたび決まって特定の音をたてるようにできていた。

('A`)「あーあ、追い出されたか」

何日かに1度は必ず行われる儀式めいた説教の中で、
何回かに1度は居眠りしていたものが教室から追い出される。
『廊下に立ってなさい』というやつだ。

それが今回は違っていた。

教室のドアが視界に入るよう首を捻った僕に見えたのは、
そこから続々と入ってくる見知らぬ男たちの姿だった。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:03:36.07 ID:QvR65UacP
 
突然の男たちの乱入に
教室内は時間が止まったように静まりかえった。
このまま5秒ほど放置されれば、
遠慮がちなざわめき、あるいはパニックが生じていたところだろう。

乱入してきた3人の男たちは教壇に上がり、
そのうち2人は黒板を背にして直立不動の体勢をとった。

残りの1人は素早く教師に近寄り、
教師の肩を片手で固定し、もう片方の手で腹部を激しく打ち抜いた。

教師が身を丸めるようにして苦しむ。
男は作業的に教師の頭を片手で固定し、
やはりもう片方の手で教師の後頭部に打撃を与えた。

教師はその場に崩れ落ち、それきり僕の視界には入らなくなった。

黒板を背にして直立不動の体勢をとる他の2人と
バランスを取るような位置に、男は黒板を背にして直立不動の体勢をとった。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:06:23.41 ID:QvR65UacP
 
男たちのあまりになめらかな手際の良さに、
僕は恐怖するというよりも見入ってしまっていた。

当然声もあげられない。
他の生徒たちも僕と同様なのか、
僕たちの教室は授業中よりも静まっていた。

教室にふたつあるドアのうち、
黒板側ではなくロッカー側にあるものの開く気配がした。

教室のドアが開くとき特有の、特徴的な乾いた音が鳴り、
人が入ってくるのがひしひしと感じられる。

どうやら入ってきたのは一人のようだった。
教室のドアが閉じられる。

僕たちをこの状況から解放する者、
ひょっとしたらドッキリカメラのようなものかもしれないし、
あるいは僕の想像の及ばないところにある者の
到来ではないかと僕は思った。

しかし、その気配は教室に入ったところから動くことをせず、
教壇に立つ男たちに動揺している様子は見られなかった。

彼らの仲間なのだろう。
僕たちは退路を塞がれたのだ。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:09:18.64 ID:QvR65UacP
 
教壇に並んだ3人のうち、僕から見て左側にいるのが
先ほど教師に打撃を与えていた男である。
3人の男たちは教室内をゆっくりと見回した。

教室内に緊張が充満していく。

やがてこのプレッシャーに堪えきれなくなった誰かが
爆発するようにヒステリーを起こすだろう。
僕にはその景色が想像された。

僕の目が周りの様子を伺う。
まずはじめに見たのは斜め前に座るヒートだった。
教壇を見つめるヒートの表情は僕の席からはよく見えない。

充満した緊張が、教室内に音にならないざわめきをもたらしはじめた。
空気を過剰に入れられパンパンに膨らんだ風船が連想される。

教室内の緊張が刻一刻と増していく。
風船。割れる。

僕がそう思った瞬間、僕から見て右側にいる男が大声をあげた。

( ・`ー・´)「静まれいッ!」

身体に響くようなバリトンだ。
その言葉は教室内に秩序をもたらした。

僕たち生徒は騒ぎだすきっかけを奪われ、
ただただ黙ることしかできなくなった。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:12:24.02 ID:QvR65UacP
 
喉が渇きを訴える。
心臓が胸を突き上げるように鼓動しているのが感じられる。
僕の両手はじっとりと冷たい汗に包まれていた。

しっかりと意識をしていないと
呼吸をすることを忘れてしまいそうだった。

僕は意識して静かに深く息を吸い、
細く長い吐息を吐いた。
少し落ち着いたような気持ちを作る。

僕は自分に言い聞かせる。

('A`)「こんな状況に突然放り投げられ、
   動揺しないほうがおかしいんだ」

僕は今動揺し恐怖しているが、
それは当たり前のリアクションなのだろう。

周りの様子を伺った。
彼も恐怖している。彼女も恐怖している。
それが当たり前のことなのだ。

('A`)「特別騒ぎ立てるようなことではない」

僕の前に座る女の子の頭が過度の緊張でふるふると震えている。
いったん恐怖を受け入れてしまえば、
彼女の様子は、間違いなくかわいらしいものだった。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:15:38.57 ID:QvR65UacP
 
バリトンによってもたらされた秩序が少しずつ失われようとしていた。

男たちからは何の説明もなされていない。
僕たちは沈黙に支配され、動くことを禁じられている。
そろそろ誰かが動き出そうとしてもおかしくはない頃合である。

絶妙な間で、教壇に3人立っていた男のうち、真ん中の男が口を開いた。

(´・ω・`)「そんなに怖がる必要はない」

怖いだろうがね、と彼は言った。

(´・ω・`)「僕はショボン。本名と思うかどうかは君らに任せる。
     僕たちは君たちの学校に人探しをしに来たんだ」

ショボンの声はこの状況下で驚くほどに穏やかに聞こえ、
僕は催眠術師に会ったことがないけれど、
きっと催眠術師はこんな声をしているのだろうと思われた。

(´・ω・`)「他の教室も一斉に制圧されているはずだ。
     だから君たちが騒ぐことに意味はない」

他の男たちに動揺している素振りは見られない。
ショボンがこのような演説を行うことは
最初から決まっていたのかもしれなかった。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:17:22.21 ID:QvR65UacP
 
(´・ω・`)「おそらく他の教室でも同じような説明が行われているはずだ。
     ただ君たちは特別でね、この教室には僕の仲間が
     僕を含めて4人いるけれど、他の教室は3人で制圧している」

人探しを行うのは僕だ、とショボンは言った。

(´・ω・`)「この教室が最初だ。君たちはラッキーかもしれない。
     もちろん大人しくしていなければならないが、
     僕がこの教室を調べた後は本を読むくらいの自由は与えよう」

でははじめるよ、とショボンは言い、
教壇を降りて廊下側の最前列に歩いていった。

ショボンは生徒を立たせて顔をしばらく眺め、
僕の座席からは聞き取ることのできないボリュームで
2言3言会話を交わした。

そして生徒を座らせ、あっけなく思うほどあっさりと次の席へと移動した。
次の席では、同様に、生徒を立たせて顔を眺め、会話を交わす。

僕が座っているのは窓側の最後尾なので、
僕が調べられるのはおそらく最後となるだろう。

こめかみを血流が勢い良く遡っているのが感じられる。
僕は意識してゆっくりと呼吸した。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:20:03.38 ID:QvR65UacP
 
止まらないしゃっくりのように時々吹き出してくる恐怖と戦いながら、
僕はショボンの取調べを眺め続けた。

生徒を立たせ、顔を眺め、ときには身体を眺めて会話を交わす。
そして小さく頷いたり首を傾げたりしながら生徒を1人ひとり回っていく。

やがてショボンは僕のお気に入り女の子のひとりである
生き物係の渡辺さんを立たせた。

渡辺さんはとてもかわいい。
生き物係ということもあり、下校時中庭を眺めると、
人参やキャベツの切れ端を幸せそうにウサギに与えているのだ。

僕は度々渡辺さんの行動をぼんやりと見守り
じんわりと心を満たすなんともいえない温かな感情を満喫していた。

大いに萌えていたわけである。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:22:53.56 ID:QvR65UacP
 
渡辺さんはすっかり怯えている様子で
涙ぐみながらショボンとの受け答えをしていた。

渡辺さんの席は教室後方に位置しており、
ショボンの立ち位置も良い按配であったため、
その表情は僕の座席からも手に取るように見えていた。

渡辺さんはショボンに促されてハンカチで涙を拭い、
心配そうな顔を覗かれ、オーバーリアクションで言葉を交わしていた。

(*'A`)「うーんやっぱりかわいいなあ」

こんなときに呑気だなあ、と僕は自分のことながら思っていると、
こんなときにハァハァできるとはさすがだな、と
僕の頭の中に聞いたことのある声が響いた。

ジョルジュの声だ。
  _
( ゚∀゚)「覚えててくれてありがとーよ、調子はどうだ?」

どうだもこうだもねーよ、と僕は思った。

('A`)「つーかお前夢じゃなかったのかよ」
  _
( ゚∀゚)「あれは夢だ、今は現実、夢ならいいのにと思ってるか?」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:25:49.31 ID:QvR65UacP
 
別に、と僕は思った。

('A`)「なんだろうな。確かに怖いんだけど、
   今は実感が沸いてないのかな」
  _
( ゚∀゚)「それならそれでかまわねーが、
     お前、夢で俺が言ったこと覚えてるか?」

('A`)「萌えはパワーだ?」
  _
( ゚∀゚)「その辺りかな。
     俺はお前の萌えを力に変えることができる」

どうだ、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「その気持ち、力に変えてみないか?
     上手くいけばみんなのヒーロー、もてもてだぜ?」

もてもてかどうかは置いといて、と僕は思った。

('A`)「この状況を打破したいという気持ちはある」
  _
( ゚∀゚)「だろ?」

('A`)「しかし、僕は疑い深い性格をしててね。
   ひょっとして、ジョルジュの力を借りたら
   何かしらの代償があるんじゃあないのか?」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:28:29.42 ID:QvR65UacP
 
んなもんねーよ、とジョルジュは笑った。
  _
( ゚∀゚)「まあでも何でも疑うって姿勢は悪くないぜ。
     代償があるとしたら、そうだな、お前に頼みたいことはある」

('A`)「ほらみろ、あるんだ」
  _
( ゚∀゚)「あるっていうか、もう協力してもらうことは決まってるんだ」

悪いけどな、とジョルジュは悪がってる風ではなく言った。
  _
( ゚∀゚)「精霊を宿した者同士は引かれあう。
     俺は必要があるから現れたって言ったよな?」

('A`)「……なんか読めてきたぞ。
   他のやつらと戦えとかなんとかって言うんじゃないだろうな」
  _
( ゚∀゚)「正解ではないが、近い。
     精霊界にも色々あってな、お前には俺の役に立ってもらう」

('A`)「断ったら?」
  _
( ゚∀゚)「そりゃーお前、あれだよ」

死ぬよ、とジョルジュは軽い口調で言い放った。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:30:44.06 ID:QvR65UacP
 
('A`)「お前ふざけんなよ、なんだよそれ」
  _
( ゚∀゚)「いやーすまん。まあでも決まっちゃったことだからさ、
     俺の方としてもお前の役に立ちたいわけよ」

戦い方に慣れる必要もあるしな、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「精霊にはそれぞれ特徴がある、
     それを活かせるかどうかは俺たち次第だ、
     俺は俺のことをわかっているが、
     お前は俺のことをわかってないだろ?」

('A`)「まあな。ていうかなんで協力する感じになってんだよ」
  _
( ゚∀゚)「頼むって。お前なら大丈夫だ、
     なぜなら、お前はもっとも俺にふさわしい人間だからだ」

('A`)「なんだよそれ」

僕はそう思い、大きくひとつ息を吐いた。
そして訊いた。

('A`)「で、どうすればいんだって?」
  _
( ゚∀゚)「オーケーお前はいい奴だ、
     答えは単純、もっと萌えろ」

萌えはパワーだ、とジョルジュは言った。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:33:50.13 ID:QvR65UacP
 
もっと萌えろと言われた僕は、
反射的に先ほどまで萌えていた渡辺さんに目をやった。

渡辺さんは既に着席させられていて、
応答を終えた開放感からか、
ややリラックスした雰囲気をかもしだしていた。

('A`)「だめだ、今僕の位置からは顔が見えない」

残念ながら、僕は今回渡辺さんで萌えることはできなかった。

そもそも僕にとっての萌えとは自然と湧き上がる感情なのだ。
自分から探して見つけられるものではない。

僕の前に座る女の子の様子を伺ってみたが、
何分か前に萌えたときの感情を思い出すことはできなかった。
この女の子は特別僕のお気に入りであるわけでもない。

ではヒートならどうだろう。
そう思い、僕はヒートに視線を向けることにした。

しかし、先ほど見たときと同様に、
僕の位置からヒートの表情を伺い知ることはできなかった。

ショボンの現在位置を確かめる。

ショボンはまさにヒートのいる列に差し掛かったところだった。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:36:28.84 ID:QvR65UacP
  _
( ゚∀゚)「おい、どうしたよ、萌えられねーのか」

ジョルジュの急かす声が頭に聞こえる。

('A`)「急かされてどうなるもんじゃないだろ。
   萌えは自分から探っていくものじゃないんだ」
  _
( ゚∀゚)「そうだな、まずはそれだ、
     お前はお前のことをもっとよく理解しておかなければならない」

良い精霊使いはフォームを持つんだ、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「萌えはパワーだ。
     お前はパワーを引き出す術を知る必要がある」

('A`)「いずれにせよ、今は無理だよ」

この教室には現在萌えられるものがない。

渡辺さんやヒートの表情や、
心情を表すようなものがあれば別なんだけどな、と僕は思った。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:40:08.93 ID:QvR65UacP
 
ショボンは生徒のひとりを立たせ、
その顔をしげしげと眺める。
そしていくつかの会話を交わし、生徒を着席させ、次へと向かう。

ショボンは人探しをしていると言っていた。

この学校の生徒全員を調べる気があるなら
こんなところでめげてもいられないのだろうが、
僕たちの教室の8割がたを調べた時点においても
探し人は見つかっていないようである。

ショボンがあと2人を立たせて座らせるとヒートの番となるだろう。
僕は自分の斜め前に座るかわいい幼馴染に目をやった。

やはり僕の位置からヒートの表情を見ることはできない。
普段は活発なヒートの緊張している雰囲気は伝わってくるが、
いまだ萌えに達するほどではない。

僕の視線がヒートの身体を上から下に辿っていく。
ヒートの手元に目がいった。

いつも健康的な血色をしているヒートの手が、緊張からか怯えからか、
真っ白に強ばるほどに制服のスカートの一部を握り締めていた。

その光景を脳が受容した瞬間、
とてつもない何かが僕の背筋を次から次に駆け登ってきた。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:44:39.94 ID:QvR65UacP
 
僕の身体中を走り回る圧倒的な何かは
それまで僕が感じていた『萌え』とは一線を画すものだった。

素晴らしいサッカーの試合を見たとき生じるもの、
素晴らしい小説を読んだときに生じるもの、
素晴らしいアニメを見たときに生じるものに似通っている。

とにかく腹から叫びたい。
あらん限りの力でもってこのエネルギーを発散したい。

僕は肺の許す限りの空気を吸い込み、
もはや僕の身体には入りきれない自分自身を打ち立てる。

(*'A`)「みwwなwwぎwwっwwてwwきwwたwwwwwwww」

この瞬間、僕を中心とした一帯が突然の輝きに包まれた。

教室内が混沌とする。

僕を中心に発生した衝撃波のようなものに僕のものを含めた
いくつかの机がなぎ倒された。
生徒の何人かが椅子から転がり落とされる。

ヒートもその中の一人だった。
良い按配にバランスを失ったヒートは、フロアリングに倒れこみ、
乱れたスカートからチラリズムする白いパンツは僕の力をさらに増す。

輝きが収まった後その場に立っていたのは、
特撮ヒーローのような格好に変身した僕だった。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:48:05.06 ID:QvR65UacP
 
なんだこれ、と僕は心の中で叫んだ。

('A`)「なんかなったぞ!」
  _
( ゚∀゚)「それがお前だ、素晴らしい力だろう?」

確かに素晴らしい力だった。
拳を握りしめたくなるようなテンションが
湧き水のように止まることなく与えられ続ける。

気づくと僕は叫んでいた。

('A`)「僕は萌えの戦士――」

名前は、と僕は一瞬迷った。
そのときジョルジュの顔が頭の中にちらりと浮かんだ。

('A`)「――ジョルジュ仮面ッ!」

ババーン! と何かが決まったような気持ちになった。
体が勝手にポージングを取っている。
  _
( ゚∀゚)「オーケー、行くぞッ」

ジョルジュがそう言ったときには
僕は教室後部のドアを塞ぐ男の前に立っていた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:53:22.53 ID:QvR65UacP
 
僕の右腕が勝手に動き、男の腹部に突き刺さる。
  _
( ゚∀゚)「これからお前に説明をする」

僕は自分の右腕が男を殴っている様子を見ながら、
同時に数メートル離れたところから自分が男を殴っている様子を
視界内に捉えていた。
  _
( ゚∀゚)「変身すると、俺とお前は混ざり合う。
     俺はお前でお前は俺だ。
     ふたりはすべてを共有することになる」

客観的に見えているのは俺の視界だ、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「ほら、教壇に立ってるやつが
     銃を取り出したのがわかるだろう?」

確かに僕には見えていた。
目の前で悶絶する男のこめかみを肘で打つと、
僕はこれまでに経験したことのない動作でバク転をした。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:56:46.81 ID:QvR65UacP
 
僕がバク転をする前にいた空間を銃弾が襲う。
教室後方のドアの窓ガラスがパリンと割れた。
  _
( ゚∀゚)「飛ぶぞッ」

ジョルジュがそう予告すると、僕は教壇の近くまで飛んでいた。

3人の男のうち、僕の席から向かって左側にいた者の前に降り立つ。
教師の意識を刈った男だ。

想定の範囲内になかったであろう僕との戦闘に混乱しながら、
男は僕に拳を振るった。
  _
( ゚∀゚)「見えるな?」

('A`)「遅いッ」

僕は左手に男の右拳を握っていた。
そのまま万力のような力を込めて彼の拳を破壊する。

僕は男の左肩を右手で掴み、空けた左手をその腹部に打ち込んだ。

男は背を丸めて悶絶する。

その頭を左手で固定し、空けた右手で手刀を作り、
僕は男の後頭部を強打した。

男はその場に崩れ落ち、教師の上に重なった。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/27(金) 23:59:51.43 ID:QvR65UacP
 
教室が大きくざわめいていた。
残っているのは僕の席から見て右側にいた男と、
真ん中にいたショボンである。

右側にいた男は先ほど撃った銃を僕に向けた。
ふたつの視界を利用し、
その軌道が自分の体を貫いていないことを僕は知る。

彼は銃から弾が出なくなるまで当たらない連射を繰り返した。

僕の視線がショボンに移る。
すっかり動揺している右側の男とは対照的に、
ショボンは落ち着き払っていた。

そしてショボンはこう言った。

(´・ω・`)「名前からして君はジョルジュか?
     こんなに早く出会うとは思っていなかったよ」

僕は反射的にジョルジュの様子を伺った。
  _
( ;゚∀゚)「えー……まじかよ」

ジョルジュがそう呟いた途端、
ショボンの立っていた一帯が激しく輝きだした。

その輝きから出てきたのは、
ボディビルダーのような筋肉をてかてかと身にまとったショボンだった。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:03:16.94 ID:Ok9nitqtP
 
(´・ω・`)「今日は純粋な人探し、変身するつもりはなかったんだ。
     生徒さんたちに危害を加えるつもりもね」

ショボンはムキムキとそう言った。

(´・ω・`)「あーあ、君のせいだからね、ジョルジュ」

僕の持つふたつの視線は共にショボンを捉えていたはずなのに、
気づくとショボンは僕の前に立っていた。

(´・ω・`)「見えるかな?」

ショボンが僕に拳を突き出す。

その予備動作は僕の目にも見えていたが、
殴られたことを知覚することなく僕は宙を舞っていた。

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:06:10.52 ID:Ok9nitqtP
 
窓際の壁に身体を受け止められた。
少し遅れてこれまでに体験したことのない痛みが僕を襲う。

(;'A`)「なんだこれ! どうなってんだ!」
  _
( ;゚∀゚)「悪いなドクオ、俺の読みが甘かった」

そう言うと、ジョルジュは僕の身体を操り、窓から外に飛び出した。

(;'A`)「どこ行くんだよ!」
  _
( ゚∀゚)「戦略的撤退ってやつだ、
     今のお前じゃあいつには勝てない」

お前のためだ、と自由落下する無重力状態でジョルジュは言った。

それなりの高さからの着地となったが、
僕の身体はすんなりとそれに伴う衝撃を受け入れた。
その運動エネルギーを利用し、弾けるように校舎から遠のく。

しかし、僕は自分の意思で移動を止めた。
ショボンの声が聞こえたからだ。

(´・ω・`)「逃げるなら、それでもいいよ。
     ただしここの生徒は皆殺しにする」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:09:08.72 ID:Ok9nitqtP
 
おい、よせ、とジョルジュの声が頭に聞こえる。
  _
( ;゚∀゚)「今のお前じゃあいつに勝てないって言っただろ?
     向かって行っても無駄だって!」

(;'A`)「うるせーな! しょーがねえだろ!
    他にどうしろって言うんだ!」
  _
( ;゚∀゚)「お前とあいつの違いは経験だ、年季だ、
     だから戦い方を学ばなければならないって言ったんだ!」

一度引いて形勢を立て直せ、とジョルジュは言った。
  _
( ;゚∀゚)「俺はお前がちゃんと経験を積んでいれば
     必ずあいつに勝たせてやれる!」

(;'A`)「それにどれだけの時間がかかるんだ!」
  _
( ;゚∀゚)「そんなにはかからねーよ。
     2回か3回変身して……」

(;'A`)「その間にあいつはヒートを殺す!」

そう言ったところで僕は気がついた。

僕はヒートを守りたいのだ。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:12:08.28 ID:Ok9nitqtP
 
(´・ω・`)「1分待つ!
      その間にお前が姿を現さなければ、
      僕はこの教室の学生を1分間にひとりずつ殺していく!」

ショボンは教室から僕にそう言った。
ジョルジュが強く舌打ちをする。
  _
( ゚∀゚)「追いかけっこになったらあいつじゃ俺に勝てないからな、
     正面から戦わせたいんだ」

('A`)「行くぞ、ジョルジュ、なんとかしてくれ」
  _
( ゚∀゚)「くそー、どうにもなんねえよ。
     戦闘ではお前の能力に依存するところが大きいんだ」

もう一度訊くぞ、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「経験を積んだお前となら、俺はあいつに勝つ自信がある。
     そして、今のお前とだったら勝てない確信をもっている」

どうする、とジョルジュは訊いた。

('A`)「変身する前ならなんて答えてたかわからないけどな」

パジャマ姿で僕に手を振るヒートを思い出し、僕は大きくひとつ息を吐く。
萌えはパワーだ。
特別な何かが僕の体にエネルギーを注入しつづける。

行くぞ、と僕はジョルジュに言った。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:15:33.10 ID:Ok9nitqtP
 
正面から向かったのでは到底僕たちに勝ち目はない。

そんなことくらいはいくら僕でもわかっていた。
  _
( ゚∀゚)「おー、そうだ、お前には勝ち目がない。
     それでどうするんだよ?」

('A`)「正面から戦わなければいいんじゃないか?」

不意を打つことができれば
あの筋肉だるまにも勝てるかもしれない、と僕は言った。
  _
( ゚∀゚)「そうかもしれない、お勧めはしないがな」

('A`)「お前もいい加減に腹をくくれ。
   僕はこれから校舎に向かう」
  _
( ゚∀゚)「くそー、お前クラスの萌え素質を持ってるやつは
     ほとんどいないんだ、俺は苦労したんだぞ!」

('A`)「ここでやられるならそのくらいの素質だったってことだ」

萌えはパワーなんだろ、と僕は言った。

('A`)「だったら僕がパワーで負けるわけないじゃあないか!」

だから経験がな、とジョルジュが呟いているのを僕は聞こうとしなかった。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:19:23.98 ID:Ok9nitqtP
 
1分待つ、とショボンは宣言していた。
おそらく彼はその約束を守ってくれることだろう。

再び校舎に入った僕たちは、僕の考えに沿って
僕の教室へと向かっていった。

その経路は靴箱から僕の教室を結ぶ最短距離ではなかった。

僕は渡り廊下をフル活用し、
ぐるりと回りこむようにして教室へ向かった。

僕の向かった教室は僕の教室ではない。

その隣の教室だった。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:22:30.81 ID:Ok9nitqtP
 
主にジョルジュの働きにより、
僕は隣の教室を制圧している男たちを音もなく処理することができた。
  _
( ゚∀゚)「おう、これからどうするんだ?」

ベランダを渡って窓から奇襲をかけるのか、とジョルジュは訊いた。

('A`)「それでは十分な効果が得られない」

僕は教室内をぐるりと見回した。
お気に入りの女の子がこの教室内にはひとりいる。

彼女の名前は橘さん。橘ルカさんだ。

('A`)「君!」

僕はルカさんにヒーローらしく声をかけた。
ルカさんはびくりとこちらを向いた。

从;゚ーノリ「は、はい! なんでしょうか!」

('A`)「君、部活には入っているかな?」

僕は答えを知っている質問をした。
ルカさんはバレー部に所属しているはずだ。

从;゚ーノリ「はい、ええと、バレー部に入っています!」

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:24:57.78 ID:Ok9nitqtP
 
('A`)「バレー部はスカートの下にスパッツを穿いているな?」

从;゚ーノリ「は、穿いています!」

('A`)「よろしい!」

僕はそう言いルカさんを頭頂部からつま先まで眺めていった。
僕は女の子のスパッツ姿が大好きなのだ。

ルカさんは次に何を求められるのかとびくびくしながら待っている。
その姿もそれはそれで魅力的だった。

萌えはパワーだ、と僕は呟く。

('A`)「どっせーい!」

僕はあふれんばかりのエネルギーを用いて
ロッカールームの壁を突き破り、
そのまま僕の教室へと突っ込んでいった。
  _
( ゚∀゚)「おいあんまり無茶すんなwww」

ジョルジュの様子を伺うと、彼もテンションが上がってしまったようだった。
  _
( ゚∀゚)「しょーがねえ、いくぞドクオ!」

萌えはパワーだ、とジョルジュは言った。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:27:30.18 ID:Ok9nitqtP
 
壁を突き破って教室内に突入した僕の前には
ショボンがムキムキと立っていた。

さすがに予想外だったのだろう、
驚愕の表情であっけに取られている。

チャンスだ、ここしかない、と僕は思った。

('A`)「うおお! ニーソパンチ!」

僕の右手が拳を握り、
燃えるような熱さでショボンの胸部に叩きこまれる。
僕は無意識のうちに必殺技のようなものを口走っていた。
  _
( ゚∀゚)「萌えろ! ブルマキック!!」

僕の左足が自分では考えてみたこともない軌道をに沿って
ショボンのわき腹を深くえぐる。
ムキムキとしたショボンの体が一瞬くの字に曲がり、
教壇から最前列の机へと激しく弾き飛ばされた。

僕はすかさずショボンに詰め寄り
サッカーボールを蹴るようにショボンのあご先を蹴り上げる。

べしゃり、と嫌な音をたててショボンの顔面が床に沈んだ。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:29:30.23 ID:Ok9nitqtP
 
('A`)「……やったか?」

自分で言って背筋が凍った。

古今東西あらゆる戦闘において、この台詞を吐いた者が
生き残ることは極めて稀である。

ショボンの後頭部を踏み抜けようと足を打ち下ろすと、
そこにショボンの頭はなくなっていた。

ぞくり。
僕にエネルギーとテンションを運搬するはずの背筋が
ありえない感情を僕にもたらす。

ぞくり。
僕の視線先にはショボンがムキムキと立っており、
前歯がバキバキに折れて血に溢れたものすごい笑顔を作っていた。

(´・ω・`)「もう……止められないよ」

ショボンはそう言い、もうひとり残っていた
彼の味方である男の背中に右手を伸ばした。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:32:21.44 ID:Ok9nitqtP
 
ショボンの右手が上から下へと縦に動いた。
その動作でいとも簡単に男の衣服は背面が破られていた。

( ;・`ー・´)「……ショボンさん?」

男が心配と不審に恐怖がブレンドされたような声で訊く。

ショボンは言葉を発することなく男の背後にまわる。
いつの間にか、ショボンは股間を露にしていた。

まさか、と僕は小さく呟いた。

その瞬間、男の絶叫が少なくとも教室中、おそらく校舎中に轟いた。

( ;・`ー・´)「アッー!!!」

(´・ω・`)「……ふぅ」

ショボンは男を貫いていた。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:36:36.97 ID:Ok9nitqtP
 
(´・ω・`)「僕についている精霊は、くそみその精霊だ」

君の原動力が何かは知らないが、
僕はホモセックスで強くなる、とショボンは言った。

(´・ω・`)「ここまで力を使うのは久しぶりだ。
     ジョルジュ、僕を追ってきてご苦労だったが、
     その苦労もじきに終わることだろう」

ショボンは背筋を伸ばして立っている。

右足、左足、右足、左足、と、ショボンはまったく体の軸をぶらすことなく
僕に向かってゆっくりと歩いてきた。

ショボンはそのまま僕に近づき、
僕と正確に1メートルの距離をとって歩みを止めた。

(´・ω・`)「さて、西部劇風に言うとしようか。
     抜きな、どっちが速いか試してみようぜ」

そして僕が拳を握った瞬間、
ショボンの足が僕の胸部をしたたかに打ち抜いた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:39:08.39 ID:Ok9nitqtP
 
教室の黒板に僕の背中がまるでピン止めするように打ち付けられた。

空気という空気が逃げ場を求めて僕の肺から飛び出し、
僕は本能的に新しい空気を求めて息を吸った。

僕の肺は新しい空気を吸い込めるコンディションにはなく、
その行動は僕がむせ返る原因にしかならなかった。

僕の体が教壇に崩れ落ちる。
体中の骨が折れてしまったのではないかと思うほどの衝撃だった。
黒板には僕の背中の形が残ってしまっているかもしれない。

('A`)「……こんなに力が違うのか」

僕は上目遣いにショボンを睨みながらそう言った。
  _
( ゚∀゚)「ああ。もうちょっとがんばれるかも、と思ってたがな」

あいつはフォームができている、とジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「優れた精霊使いにはフォームがあるって言っただろ?」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:43:06.97 ID:Ok9nitqtP
 
フォーム、と僕は考える。

ショボンは原動力の話をしていた。
僕の原動力は今さら言うまでもなく萌えである。

萌えはパワーだ。
そのパワーを効率よく引き出すためのシステムが
フォームなのではないだろうか。

('A`)「確かに僕にはまだそのシステムが構築されていない」

ショボンは余裕を見せているのか、
それとも僕の絶望する表情を見たいのか、
倒れこんでいる僕をとどめをさすことなく眺めている。

僕は生まれたての小鹿のようにぷるぷると立ち上がった。
既に十分なダメージを与えられている僕の体は
スタミナの切れかけたプロレスラーのように愚鈍な動きしか生み出せない。

('A`)「それでも僕にはこの視点の高さが必要だった」

僕の視線はヒートを捉える。

かわいい僕の幼馴染は、僕の戦いぶりに何かを感じてくれたのか、
真っ白に強張らせていた手をほどよい強さに握り締め、
大きな目に涙を浮かべて僕のことを見つめていた。

僕の背筋を、ぞわぞわと、
恐怖とは対極にある感情が次から次に登り始めた。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:46:17.34 ID:Ok9nitqtP
 
僕は自分の状態を確認していく。

右手、大丈夫だ、拳を握れる。
左手、大丈夫だ、拳を握れる。

頭は冷静に働いてくれている。
体は傷つきながらもしっかりとエネルギーを溜め込んでくれている。

右足、左足、大丈夫だ、まだ踏ん張れる。

僕はまだ戦える。

ならば戦わない理由がなかった。

('A`)「ジョルジュ、すまない、
   やっぱり僕は一度引き下がるべきだったのかもしれない」
  _
( ゚∀゚)「いや、そいつは違うね。
     これは俺たちに必要なことだった」

行けよ、とジョルジュは僕に呟いた。

僕は地を蹴り、ショボンに向かって力の限り向かっていった。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 00:49:39.83 ID:Ok9nitqtP
 
僕の体は見るも無残に跳ね除けられた。

ピンボールのように弾き飛ばされた僕は
教室内を机と生徒を押しのけながら滑らされ、
ようやく止まったときには教室後方、ヒートの席まで来てしまっていた。

('A`)「くそ……僕はまだ戦える!」

しかし、僕の足には力が入らなくなってしまっていた。
骨が折れているのかもしれないし、血を失いすぎてしまったのかもしれない。
あるいは、単純にエネルギーを使い切ってしまったのかもしれなかった。

左手を杖のように使って上体を持ち上げようとしたところで
僕は完全に崩れ落ちた。

体の下敷きになってしまった左手を動かすことはできなかった。
もはや自分の体重に打ち勝つことさえ僕にできはしないのだ。

('A`)「しかし……僕の右手はまだ動く」

僕はショボンに向かってその右手を伸ばした。
右手が伸びていったその先ではショボンが冷淡な笑みを浮かべている。

やがては右手を伸ばしていることさえ困難になってきた。
力の入らなくなった右手が床に落ちていく。

僕の右手が教室の床に触れる。触れなかった。

誰かが僕の右手を握っていた。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 01:07:21.74 ID:Ok9nitqtP
  _
( ゚∀゚)「いやー、俺もさっき気づいたんだ」

プライバシーってやつがあるだろ、と
まばゆい輝きの中でジョルジュは言った。
  _
( ゚∀゚)「普段俺たち精霊はお前らの会話なんて聞いてないんだ、
     変身後はお前の記憶をみることができるが
     毎回遡っておくことなどしない」

僕の右手は誰かに力強く握られている。

その感触はどこか懐かしくもあり、
僕の心はなんともいえない温かな感情にじんわりと満たされた。

僕の体にエネルギーが注入された。
いくらか楽になった僕は、左手で踏ん張って上体を逸らし、
僕の右手を握り続ける輝きの中心に目を向けた。

輝きの中には、セーラー服美少女戦士のような格好に変身した
素直ヒートが立っていた。

かつて僕がそうしたように、ヒートは有り余ったエネルギーを叫びに変えた。

ノパ听)「うおお私は燃えの戦士! 素直ヒートだッ!」

ババーン! とヒートはかわいらしいポーズを決めている。
本名だ、と僕は思った。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 01:09:13.18 ID:Ok9nitqtP
 
ヒートは一足飛びに教壇まで移動した。
短いスカートが空気抵抗を受けひらひらとめくれあがる。

見えそうで見えない物理学の絶妙さに僕はエネルギーを注入された。

ヒートはショボンの胸部を拳を握って鋭く突いた。

見よう見まねで行う僕の打撃とは大きく違い、
腰の入ったヒートの打撃は
拳の小ささも相まってかショボンの厚い胸板にめり込んだ。

正直グロい、と僕は思った。

続いてヒートは左手で掌底を作り、
左フックの軌道でショボンの顎をぐるりと刈った。

それで発生したモーメントによりショボンの頭部が
上部頚椎を支点にした回転運動を強制される。

ショボンのムキムキとした肉体がぐらついたのは
これまでのヒートの打撃で脳にダメージが与えられたからではなかった。

ヒートの細いが健康な左足が、膝関節を破壊するのにふさわしい角度で
ショボンの右膝に打ち込まれていた。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 01:11:31.04 ID:Ok9nitqtP
 
ヒートは残虐の限りをショボンに尽くした。
タイミングが良ければ『世界の残虐史』といった種類の本に
載ることも有り得たかもしれない。

袈裟切りチョップ、地獄突き、エルボースマッシュ、アックスボンバー、
ケンカキックにフライングニールキック、スコーピオライジング、
ファイヤーマンキャリーからデスバレーボム。

カウント2で立ち上がるも、低空タックルで両足を刈られたショボンは
容易にテイクダウンを許してしまった。

素早くサイドポジションに回ったヒートは
もがくショボンのムキムキとした力強さに動じることなく
きわめて冷静に袈裟固めを極めていった。

ヒートの腰がショボンの脇に密着している。

ヒートはわずかにショボンに体重をかけながら、
体を開いてショボンの顎と胸の間に腕を絡ませ燃える力を注ぎ続ける。
頭部を絞り切ろうとしているのかとさえ僕には思えた。

やがてショボンがぐったりと動かなくなった。

ヒートは仰向けに横たわったショボンから離れ、
その頭側に僕たちに向かって仁王立ちした。

そして美少女戦士のような格好に含まれている
手から肘までを覆うロンググローブから右手を抜き取った。

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 01:12:55.76 ID:Ok9nitqtP
 
ヒートの右手から抜き取られたロンググローブは
僕に向かって投げられた。

僕はそれを受け取り、素肌の晒されたヒートの右手を凝視する。

ヒートは右手をまっすぐ高く掲げていた。

教室内にいる者すべての注目がヒートの右手に集まっているのが
僕にはひしひしと感じられた。

その注目は、やがては声にならない歓声となり、
教室内にヒートの熱が充満していく。
空気を過剰に入れられパンパンに膨らんだ風船を僕は連想した。

風船。割れる。

最初のヒートコールが叫ばれると、
ヒートは両手を大きく広げ、体の前で交差させた。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 01:14:41.34 ID:Ok9nitqtP
 
ヒートが壁に向かって走りはじめた。

廊下側の壁まで突進し、ヒートはその壁を蹴って反転すると、
ショボンを飛び越え窓側の壁に走っていった。

窓際の壁を蹴ってヒートはさらに勢いをつける。

その大きな動作は教室内の熱気をあおり続ける。
教室内はヒートコール一色となり、
ヒートの行動の中心にはショボンが横たわっている。

ヒートは燃えるような勢いをショボンの横で一瞬溜めた。
そして片足を上げて倒れこみ、
僕たちの熱気を凝縮させた右肘を標的に向かって打ち下ろした。

ノパ听)「ピープルズエルボー!!!」

娯楽スポーツ界最高の美技の名前を叫んだヒートは
いつまでも止むことのない声援に包まれていた。

かくして燃えのヒーロー素直ヒートが誕生した。

次なるヒートの戦いは如何に!? といった按配であり、
物語の中心は僕ではないのか、と僕は驚愕に目を見開いた。



     おしまい

100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/03/28(土) 01:16:58.39 ID:Ok9nitqtP
 
投下は以上です。ありがとうございました。

この作品は没ネタスレ>>168-169を原作としたものです。
もし面白かったら原作者さんに拍手を。
俺は面白かったので拍手をします。ぱちぱち。


補足:ピープルズエルボー

みんな大好きロック様の決め技
『娯楽スポーツ界の至宝』とか『娯楽スポーツ界最高の美技』とか言われる

http://www.youtube.com/watch?v=L_3Zi6t7W4s&feature=related


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