- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 20:57:45.72 ID:DaHYJduI0
- 濃霧の掛かった森を抜けると、そこには悪魔の館があった。
訪れる人は滅多にいないが、それでも極稀に。
館に迷い込む人がいるのです。
今回館を訪れたのは、一組の中年夫婦でした。
(,,゚Д゚)「いやあ、助かった。たまの休暇に旅行をしてみたらこれだ。まったくついてない」
(*゚ー゚)「まったくだわ。……それにしてもこの館、薄気味悪いわね。もっとまともな場所は無かったのかしら」
(,,゚Д゚)「……今贅沢を言ってもどうしようもないさ。ひとまず主人に挨拶をしよう」
夫婦はもう何十年もの時を一緒に過ごしてきたようですが、
どうやら関係はよろしくないようで。
妻は昔のつつましさを忘れ、夫も彼女に飽いている様でした。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:06:37.09 ID:DaHYJduI0
- ( ・∀・)「……ようこそいらっしゃい、私の館へ」
哀れな夫婦は、きっと食べられてしまうでしょう。
ですが、ご安心。
この館に住む悪魔はとても小食です。
( ・∀・)「いきなりで不躾ですが、あなた方のどちらか一人」
きっと犠牲になるのは、ひとりだけでいいでしょう。
( ・∀・)「私の食事になってもらいます」
言うや否や、悪魔は翼を広げ夫婦に襲い掛かりました。
当然、夫婦は逃げ出します。
とは言え、男と女。
どちらが捕まるかは、決まりきった事で。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:09:10.14 ID:DaHYJduI0
- 疲れきった体で森の中を歩く、人影がありました。
それは館から逃げ帰った夫の姿で。
彼はからからに渇いた喉から声を零します。
(,,゚Д゚)「やれやれ……せっかくの休暇だと言うのに、本当に酷い目にあった」
(,,゚Д゚)「しかし……アレが食われてくれたのは少々ありがたいかも知れない。もうアレの世話はこりごりだ」
(,,゚Д゚)「そう考えれば、この休暇もなかなか悪いものではなかったのかもしれないな」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:12:47.71 ID:DaHYJduI0
- 濃霧の掛かった山の中に、そこには悪魔の館があった。
訪れる人は滅多にいないが、それでも極稀に。
館に迷い込む人がいるのです。
今回館を訪れたのは、一組の男女でした。
_
( ゚∀゚)「……こんな所に館があるとはな。まあとにかくありがたい。世話になるとしようぜ」
从 ゚∀从「……」
_
( ゚∀゚)「まだ怒ってんのか? もうそろそろ機嫌を直してくれよ」
二人は恋仲にありましたが、 些細な事で喧嘩をしてしまいました。
男はもう気にしていないようですが、女の方は未だにその事で怒っているようです。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:15:47.12 ID:DaHYJduI0
- ( ・∀・)「……ようこそいらっしゃい、私の館へ」
哀れな男女は、きっと食べられてしまうでしょう。
ですが、ご安心。
この館に住む悪魔はとても優しいのです。
( ・∀・)「いきなりで不躾ですが、あなた方のどちらか一人」
最後に女の気持ちを再び男に寄せてやるくらいは、きっとしてくれるでしょう。
( ・∀・)「私の食事になってもらいます」
言うや否や、悪魔は翼を広げ夫婦に襲い掛かりました。
当然、男女は逃げ出します。
とは言え、男と女。
どちらが捕まるかは、決まりきった事です。
_
(;゚∀゚)「クソ……逃げろ! 急げ!」
けれども、女がもたつく足で逃げ出す間。
男は体を張って悪魔に立ちふさがりました。
当然勝てる訳はありませんが、その間に女は逃げ出す事に成功したのです。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:18:52.96 ID:DaHYJduI0
- 震える体で山を下る人影がありました。
それは館から逃げ帰った女の姿で。
彼女は歯をがたがたと震わせしゃくり上げながら、男の名を呼んでいました。
从 ;∀从「私のせいだ……私のせいだ……」
从 ;∀从「ごめんね……。私なんかの為に……ごめんね……」
ほら見ての通り。
女の気持ちは、再び男に寄ったでしょう?
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:25:01.70 ID:DaHYJduI0
- 濃霧の掛かった湖畔の先に、そこには悪魔の館があった。
訪れる人は滅多にいないが、それでも極稀に。
館に迷い込む人がいるのです。
今回館を訪れたのは、一組の母子でした。
('A`)「見てよ母さん。あんな所に館があるよ。霧が晴れるまであそこに泊めてもらおう。ほら、おぶっていくよ」
J( 'ー`)し「あらホントだねえ。……いたた、船で座りっぱなしだったから腰が痛いよ……」
('A`)「何やってるのさ、ホラ早く立って」
母親はもう若くないようで、体にもガタが来ているようでした。
しかし息子はそんな事は気にもかけない様子で、
一人歩いていってしまいました。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:31:29.02 ID:DaHYJduI0
- ( ・∀・)「……ようこそいらっしゃい、私の館へ」
哀れな母子は、きっと食べられてしまうでしょう。
ですが、ご安心。
この館に住む悪魔はとても厳格です。
( ・∀・)「いきなりで不躾ですが、あなた方のどちらか一人」
孝行をしない息子にもう一度、母のありがたみを思い出させてくれるでしょう。
( ・∀・)「私の食事になってもらいます」
言うや否や、悪魔は翼を広げ親子に襲い掛かりました。
当然、母子は逃げ出します。
とは言え、男と女。
どちらが捕まるかは、決まりきった事です。
(;'A`)「うわぁ!」
ですが恐怖にすくんでしまった息子は、足を絡ませて転んでしまいました。
ここぞとばかりに、悪魔は彼に飛び掛かります。
しかし、悪魔の牙が息子の体を抉る事はありませんでした。
息子の悲鳴にすぐさま振り向いた母親が、彼に覆いかぶさり庇ったからです。
(;'A`)「あ……あ……うわあああああああああ!」
血の滴る音、肉のちぎれる音、骨の折れる音が背後から聞こえても、
息子は振り返る事なく再び走り出しました。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:35:56.57 ID:DaHYJduI0
- 咽び泣きながら船を漕ぐ、人影がありました。
それは館から逃げ帰った息子の姿で。
彼はオールをしっかりと握りながら、しきりに何かを呟いていました。
(;A;)「ごめんよ母さん……。もっと孝行してやれずにごめんよ……」
(;A;)「一緒に旅行行きたいって言ってたのに……花嫁が見たいって言ってたのに……」
ほうら。
母親のありがたみが、彼もわかったようですよ。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:41:37.08 ID:DaHYJduI0
- 濃霧の掛かった廃墟の奥に、そこには悪魔の館があった。
訪れる人は滅多にいないが、それでも極稀に。
館に迷い込む人がいるのです。
今回館を訪れたのは、一組の主従でした。
(´・ω・`)「やれやれ……すまないな。私の酔狂でこんな所にまで来させてしまって」
(#゚;;-゚)「……ご主人様の言う事なら」
(´・ω・`)「……そうか。おや、あそこに館があるぞ。丁度いい、何とか頼んで泊めてもらおう」
主人はその奴隷がとても気に入っていました。
もちろん嫌らしい感情など伴わないで。
ですが奴隷はそうは思ってはおらず、主人には冷たい反応ばかりしていました。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:51:33.56 ID:DaHYJduI0
- ( ・∀・)「……ようこそいらっしゃい、私の館へ」
哀れな主従は、きっと食べられてしまうでしょう。
ですが、ご安心。
この館に住む悪魔は素晴らしい慧眼をお持ちです。
( ・∀・)「いきなりで不躾ですが、あなた方のどちらか一人」
主人の愛を彼女に分からせて、更には実らせてくれるに違いありません。
( ・∀・)「私の食事になってもらいます」
言うや否や、悪魔は翼を広げ二人に襲い掛かりました。
当然、主従は逃げ出します。
とは言え、男と女。
どちらが捕まるかは、決まりきった事です。
(#゚;;-゚)「……っ!」
更には奴隷の足には、体裁の為に嵌められた鎖の枷があるのです。
そんなものがあっては、到底逃げることなど出来ません。
奴隷は死を覚悟しました。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:55:31.86 ID:DaHYJduI0
- (;´・ω・`)「待ってろ! 今外してやるからな……!」
しかし主人は逃げ出す事なく、奴隷の足枷に鍵を差し込みました。
けれどもそうする為には、彼女の後ろに回る必要がありまして。
(;´・ω・`)「ぎゃああああああああああああああ!」
座り込んだ主人の背に、悪魔の爪が突き刺さります。
それでも主人は力を振り絞り、彼女を枷から解き放ちました。
(;´・ω・`)「今まですまなかった……。これで君は自由だ。さあ、どこへでも行っておくれ」
奴隷はこくこくと頷くと、恐怖よりも驚愕に顔を染めながら逃げていきました。
廃墟の瓦礫に時たま躓きながらも歩く、人影がありました。
それは館から逃げ帰った元奴隷の姿で。
彼女はつい今しがたの事が信じられないと言った表情を浮かべていました。
(#゚;;-゚)「ご主人様……どうして……」
(#゚;;-゚)「もしかして……あの人は本当に、私に優しく……?」
(#゚;;-゚)「っ……! そんな……っ!」
少女はぴたりと立ち止まり、しかしまた歩き出しました。
主人が与えてくれた自由は、いつかきっと実りを見せる事でしょう。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 21:59:50.32 ID:DaHYJduI0
- このように、悪魔の館には様々な噂があるのです。
ところで、これは噂とは全く関係ないのですが。
とある森の大樹の下には、見目は美しい婦人の死体が眠っています。
とある山奥の崖下には、若い男が白骨となって転がっています。
とある湖畔の奥底には、初老の女性が沈んでいます。
とある廃墟の奥では、首に鎖のあとが残る裕福そうな男が死んでいます。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 22:01:32.11 ID:DaHYJduI0
- ( ・∀・)「……あー暇だなあ」
( ・∀・)「ここに屋敷を立てて、かれこれ数百年」
( ・∀・)「人間なんて、一度も来なかったなあ」
( ・∀・)「何でかなあ。寂しいなあ。門の前に犬を飼ってるのがいけないのかなあ」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/24(木) 22:02:43.51 ID:DaHYJduI0
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悪魔よりも 何よりも 人間が 一番 怖い
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