- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:29:15.22 ID:H5x+yK7xO
散らばった目玉は赤い海で溺れる
泳げないくせに
飛び込んだりするから
歌う悲鳴は脳みそを混ぜる
ひどく高い
だけど濁った声
どこまでもどこまでも上に行く
光も色も凹凸も
何もかもを失った世界はどう?
開いた口には唾を吐いてあげようか
並んだ白が
次々と倒れていく
桃色から群青へと変わりゆく
その頬を
ぶっつプツン――――
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:31:26.47 ID:H5x+yK7xO
- 从 -∀从 「……」
(-_-)「あ、まだ途中……」
ハインは無言でプレイヤーの停止ボタンに手を伸ばしたかと思うと、すぐさま取り出しボタンを押した。
出てきたMDをひったくるようつかみ、荒々しくテーブルの上に投げる。
かなり手首のスナップきかせてやがる。もう少し丁寧扱ってあればいいのにと思うが、今日ばっかりはハインの気持ちが分からないでもない。
それに引き換え、ヒッキーは頭にハテナを浮かべたような顔をした。
>从 ゜∀从 「もういい、しまって」
(-_-)「だってまだ、途中」
从#゜∀从 「いいから、しまえ!」
ハインの拳がバンッとけたたましい音を立ててテーブルを揺らす。
渋々MDを手にとり鞄にしまうヒッキーの眉は完全に垂れさがっていた。やっとハインが怒っていることに気づいたらしい。
(-_-)「ね、この曲どうかな?」
前言撤回。
どうやら気付いてなかったようだ。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:35:39.47 ID:H5x+yK7xO
- 从 ゜∀从 「兄者、煙草あるか?」
( ´_ゝ`)「どうぞ」
俺は言われた通りに、前に座るハインに向かって煙草の箱を滑らせた。
彼女はイライラした様子で煙草に火を灯す。
ふーっと大きく煙を吐き出すと、こめかみ部分を指先で軽く揉み、がっくりと首を下に垂らした。
(-_-)「……もしかして、ハインちゃん機嫌悪いの?」
隣から、こっそり耳打ちされる。
これは機嫌が悪いのではなくうんざりしてるのだ、と伝えるべきなのかもしれないが、苦笑いで流してしまった。
コイツにそれを伝えたところで、「なんで」の3文字が返ってくるのが手にとるように分かる。
(-_-)「ね、どうだった?」
先ほどの返事はまだもらっていない、と主張するかのようにもう一度聞いた。
お前にはこの変な空気が見えないのか、ああ、見えないんだな。
从 ゜∀从 「……だめに決まってんだろ」
蛇のように鋭い視線を彼に突き刺しながら、低い声をぶつけた。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:40:49.36 ID:H5x+yK7xO
- >>9
指摘ありがとう!
直します
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:47:31.01 ID:H5x+yK7xO
从 ゚∀从 「てめー、前回のどんな曲だったか覚えてんの?」
(-_-)「もちろん。 我侭王子のファイティングロード☆、だよ」
从 ゚∀从 「そうだな、少年と大人の女の恋を描いた歌詞だったな」
ハインは眉間に皺を寄せた状態でうんうんと頷きながら、ヒッキーの言葉に説明文を付け足すように相槌を打った。
灰皿に燃えカスをぼとりと落とすと「んじゃあ、その前は?」と問う。
(-_-)「ドキッ!真夏のメープル♪ハニー♪♪」
从 ゚∀从「そう、小悪魔きどりの女目線をイメージしたやつ……で、今回のは?」
(-_-)「題名はまだ決めてないや」
彼女は目を細めた。そして何故か俺に視線をずらし、目玉をまじまじと見つめてくる。
俺は何もしていない、という意志を伝えるため黙って首を横に振ると、彼女は何か言いかけたが、再び煙草を口にしす。
じっと目を瞑り、ニコチンを吸っては煙を吐くの繰り返しを続けた。
このまま長い沈黙が続くのだろうかと思ったが、案外早い段階で彼女は言葉を発した。
从 ∀从 「…………一体テメェは何をイメージしてこれを書いたわけ?」
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:50:59.46 ID:H5x+yK7xO
- 从# ゚∀从 「今までと明らかに路線が違うじゃねぇかあぁぁぁ!!!」
ヒッキーが口を開くより先に、ハインが凄まじい剣幕で立ち上がり、隣の椅子を蹴飛ばした。
理不尽な仕打ちを受けた椅子が、ガターン、と部屋中に響き渡る音を立てて倒れる。
ああ、可哀想、可哀想。
( ;´_ゝ`)「ちょ、ハイン、落ち着けって」
从# ゚∀从 「うっせーな! 俺だって冗談だったらこんなに怒らねーよ!! でもよぉぉ!……コイツの場合は本気で言ってるんだろ、どうせ……」
煙草を灰皿にキツく押し付けたあと、静かに椅子に座り直した。
慌ててヒッキーにもフォローを入れようとしたが、彼の目はすっかり不機嫌な色に染まっている。
口を尖らせ、ハインに対して完全に体を横に向けていた。
(-_-)「…………たまには、いいかなって」
从 ゚∀从 「テメーはっ」
( ´_ゝ`)「まぁ、まぁ」
今にもヒッキーに文字通りの意味で噛みつきそうな彼女を、右手で制して再び椅子に座るように示した。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 00:53:51.56 ID:H5x+yK7xO
- ( ´_ゝ`)「なぁ、ヒッキー。 俺達もう遊びでやってんじゃねんだぞ」
(-_-)「…………」
( ´_ゝ`)「去年デビューしてさ、デビュー曲は微妙だったけど…セカンドはすげー運良くオリコンで結構いい順位もらってさ。 サードで固定のファンもついてくれて」
( ´_ゝ`)「俺達、これからがものすごく大事な時期な訳なのよ。 伸びるも止まるもこれからなんだよ。 分かんだろ?」
ヒッキーは黙ったまま、こっくりと頷いた。
本当に分かっているのか不安ではあるが、とりあえず話を進めることにした。
( ´_ゝ`)「たまにはって言ったけど、デビューしてから次でまだ4枚目なんだよ。 まぁバンド自体はずっと前からやってたからお前は”たまには”って思うかもしんないけど、客はそうは思わないってわけなんだな」
( ´_ゝ`)「俺たちの、まぁ売りっつーか、イメージっつーか……一般的にハインの作るクソ激しい曲調とお前のクソ甘ったるい歌詞の組み合わせって認識されてるわけよ」
从 ゜∀从 「ロックと言え、ロックと」
俺が喋っている間に、ハインはすっかり冷静さを取り戻したようだ。
ああもう、うぜぇ。俺は今ヒッキーに話しているんだ。
……聞いてるか、分かんないけど。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:00:48.40 ID:H5x+yK7xO
( ´_ゝ`)「ちょっと黙ってろ」
从# ゚∀从 「ああん!?」
( ´_ゝ`)「でな、今応援してるれてる人たちは”そういう”可愛いヒッキーや”そういう”演奏をする俺らを待ってるって思わないか?」
ヒッキーはいつの間にか椅子の上に足を持ち上げ膝に顎を置くという態勢を取っていた。
これはいよいよ聞いてるかどうか、分からなくなってきたぞ。
( ;´_ゝ`)「ねーえ、ヒッキーくん聞いてる?」
(-_-)「うん、わかった。 これはダメってことでしょ」
( ´_ゝ`)「いやー、まぁ…そうなんだけど、そうじゃないっていうか」
>
>从#゜∀从 「だあああぁぁぁっぁ! 俺達が言いたいのはっ、もう少しメジャーになった意識を持てって言ってんだよっ!!」
从# ゚∀从 「てめーの好きなように歌って客が喜んで儲かりゃいいけどな、今の俺達じゃそれができねって言ってんだ!」
从# ゚∀从 「こんなどこにでもありそうな陳腐な歌詞じゃ、インパクトもクソもねっつの!! 今は結果を出さなきゃいけねんだよ!」
ハインは身を乗り出し、乱暴に彼の胸倉をつかむと無理やり自身の方に体を反転させた。
ヒッキーはひどいしかめっ面で、彼女から視線をそらす。
チッ、と大きな舌打ちをひとつすると、彼の身体を投げ捨てるように手離した。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:03:59.95 ID:H5x+yK7xO
从 ゚∀从 「あ゛ー! 今日はもう帰るっ!」
( ´_ゝ`)「おーそうしろ、そうしろ」
ハインは自身のカバンをひっつかみ、不機嫌なオーラをぶちまけながら出口へ向かって行く。
彼女がヒッキーの前を通り過ぎた瞬間、彼は口を開いた。
(-_-)「ハインちゃん……我侭言ってごめん……。 これからはもっと考えるよ……」
从 ゚∀从 「!! ……わ、わかりゃいーんだよ、わかりゃ」
从 ゚∀从 「”今の路線”がきちんと確立できるようになったあと、時期を見てそういう曲も出してみてもいいと思ってるから」
(-_-)「うん」
从 ゚∀从 「俺は……、これからもお前とバンドやっていきたいんだ…… きついこと言って悪かったな」
(-_-)「ううん」
从* ゚∀从 「じゃあな」
ハインは必死に平常心を装うとするあまり、口元に妙に力を入れているように見えた。
しかし、部屋から出る瞬間には、歪んでいた。本当に単純な奴だ。
なんだかんだ言って、あいつは結局ヒッキーには甘い気がする。
惚れた弱みってやつなのかもしれない。ハインは彼の歌声に魅了されている一人なのだ。無論、それは俺もだけども。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:06:34.06 ID:H5x+yK7xO
- ドアが閉まった瞬間に深いため息が聞こえた。
(;-_-)「ねぇ、ハインちゃん生理だったのかな……月1であんな当たり方されたんじゃ堪んないよ」
それはそれは面倒臭そうに頭を掻いたあと、両手を上に持ち上げぐっと背延びをした。
あいた口が塞がらないってこういうことなのだろうなと思う。
( ´_ゝ`)「……なに、お前結局理解してないわけ?」
(-_-)「わかってるよ、僕には今のバンドとしての立場が分かってないって言いたかったんでしょ? プロ意識を持てとか、儲からなきゃ意味ないとか」
( ´_ゝ`)「まぁ、そこまでは言わないだろうが……そんな感じだな」
(-_-)「一言”これじゃだめだ”って言ってくれれば、素直に違うの書くつもりだったよ。 ダメ元で聞いてみただけだし、ゴリ押ししようなんて思ってなかったもん。 なのにさぁ……」
( ´_ゝ`)「じゃあ、最後のなんだよ。 急に謝って機嫌とったりなんかして」
(-_-)「え? だってあれは弟者くんが……」
( ´_ゝ`)「あいつか……」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:11:47.31 ID:H5x+yK7xO
―ガチャ
(´<_` )「ハレヒレホーハレヒレホーハレヒレハレヒレハレヒレホ〜♪」
ご機嫌な鼻歌と共に奴は部屋に入ってきた。
先ほどまでハインが座っていた椅子に、意気揚揚と腰を下ろし、白い紙袋をテーブルの上に置く。
(´<_` )「やあやあ諸君、おはよう!」
(-_-)「おはよう、弟者くん」
弟者はヒッキーに対してニコニコと気持ち悪い笑みを浮かべた。コイツにとってヒッキーは可愛い弟的な存在であるに思う。
ヒッキーもヒッキーで、何故かこんな奴に懐いている。本当に謎だ。
彼の中でコイツ=すごい奴という方程式が確立されてしまっているのだ。
(´<_` )「ほら、見ろよこれ! 限定販売のVIPあんぱん! みんなの分買ってきてやったぞ」
( ´_ゝ`)「これ、1人2つまでじゃなかったっけ?」
(´<_` )「ちょっとイチャモンつけたらくれた」
(*-_-)「弟者くん、すごいね」
(´<_`* )「そうだろう、そうだろう」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:16:21.71 ID:H5x+yK7xO
- ( ´_ゝ`)「そうだろう、じゃねーよ。 お前ヒッキーに変なこと教えるなよな」
(´<_` )「? なんのこと?」
集合時間に1時間も遅れてきて「ごめん」の一言も言えないグズの弟に、先ほど起こったことについて説明した。
終始、強引に買ってきたであろう8個のあんぱんを見つめながら「ほうほう」と適当な相槌を打つ。
すべて話し終えたあと、待ってましたとばかりにあんぱんに手を伸ばし、一人一人に配り始めた。
( ´_ゝ`)「聞いてたのか?」
(´<_` )「聞いてたから今あんぱん食おうとしてんだろ。 前に人の話の途中でモノを食うなって言ったの兄者だぞ?」
(-_-)「あ……ハインちゃんいないから、2つ余るね」
(´<_` )「いいよいいよ、2人でわけよーぜっ」
(´<_` )「だいたい、間違ったこと教えてないじゃん。 面倒くさいことになったら、さも自分が悪かった振りして謝っときゃまぁるく収まるんだって。 特に女なんて自分の意見に同意してほしいだけなんだから」
( ´_ゝ`)「……はぁ」
(*-_-)「おいしい」
(´<_` *)「おーそうか! じゃあいっぱい食え食え!」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:20:52.69 ID:H5x+yK7xO
- (´<_` )「つーか、本当に生理だったんじゃねーか? そんなにカリカリしちゃってぇ」
(´<_` )「普段は男勝り(笑)気取ってるくせに、こーいうときには女ならではの一面押し出してくるんだから……アイツも変わったよな」
( ´_ゝ`)「おい、やめろよ」
(´<_` )「だーって、そうしょ? 組んだばっかの頃は、コイツ本当に男なんじゃ?って思うくらいカッコイカッたのによぉ、今じゃだたのヒステリー女じゃん! メンヘラメンヘラ」
(-_-)「メンヘラって?」
(´<_` )「んー? メンヘラってのはなぁ」
( ´_ゝ`)「いいから、ハインのこと悪くいうのはやめろ」
ケラケラと笑いながら「ふぁーい」と水素よりも軽い返事したあと、再びアンパンをかじった。
弟者は憶測や適当なことをさも正しいかのように話す。
俺や他の人にとっては、またテキトーなこと言って…って飽きれることでも、ヒッキーは目を輝かせてそうなんだ!と頷くから困ったもんだ。
どこでこんなに捻くれたか知らないが、ヒッキーにとって弟者は悪影響しか及ぼさない存在だろうなと常々感じている。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:22:55.85 ID:H5x+yK7xO
(´<_` )「あ、そういやあのドアのとこにあるでっっけー旅行バッグなんだよ?」
ドアのすぐ右側においてあるキャリーケースを指差した。それはそれは大きなサイズであり、見事な光沢を含んだ青色のものだ。
すごく目立つ色だから最初はハインのものだとばかり思っていたが、よく考えればアイツならきっと赤を買うだろう。
( ´_ゝ`)「ああ、あれな。 ヒッキーのだよ、朝買ってきたんだと」
(´<_` )「朝から!?」
(-_-)「うん」
(´<_` )「どっか旅行いくのかよ?」
(-_-)「……行かない」
(´<_` )「じゃあ何で今日の朝買ったんだ?」
(-_-)「欲しかったから」
最もな理由であるのは確かだが、何も朝から買うことないだろうに。しかも使う予定がないなら尚更だ。
( ´_ゝ`)「いくら空っぽでも、さすがに持ち運ぶの大変じゃないか?」
(-_-)「……大変」
でしょうね。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:26:06.27 ID:H5x+yK7xO
以前にも似たようなことがあった。
練習の帰り道、ヒッキーが彼女の家にいくと言った。
その日は、彼女の誕生日だったらしく、いくつかプレゼントを買いたいから付き合って欲しいと頼まれた。
こういう時に弟者ではなく俺を誘うということは、実はヒッキーも弟者がかなり適当であることに気付いているのかもしれない。
まず最初に向かったのが花屋。
俺なら彼女に花のプレゼントなんて恥ずかしくて死んでもできないが、彼ならきっとスマートにできるのだろうなと思いながら、一緒に花を選んだ。
無事に購入し、「さぁ帰ろうか」というとまだ寄りたいところがある、と下りのエスカレーターへ乗り込む。
着いた先は食品売り場。
何本ものブラックティーの束を抱えながら、うろうろする彼の姿は、まさに注目の的となった。どうやらアイスを買いたかったご様子。
早速取ろうとしたが、どう考えてもとれるはずがなかった。悪戦苦闘する彼に仕方なく「俺が買ってきてやるよ」と言うとまるで「その手があったか!」て顔をして、大袈裟に礼を言った。
今度こそ帰ろうとしたときに、次は本屋に行きたいと言いだした。
片手に花束を抱えて、片手にアイスの袋をぶら下げて、何を言っているのだと正直驚いた。
結局本も俺がレジに行くことになった。
いろいろ面倒かけたからコーヒーをご馳走したいと言う誘いをやんわりと断り、早く彼女の家に向かうように伝える。
もうアイスはひどいことになっているだろう。
やっと帰ろうとなったときに、彼も駅までいくと言った。
男なんだし、送らなくていいよとまた断ろうとしたら、「ここから三駅先までいくんだ」とにこりと笑った。
ヒッキーの頭の中は未知数である。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:28:13.00 ID:H5x+yK7xO
(´<_` )「ぶっは! ばっかでー、ちゃんと考えて買い物しろよなー」
(-_-)「うん、少し前に兄者くんにも同じ注意された……」
(´<_` )「学習力ねぇなー」
( ´_ゝ`)「おお、なんだ、覚えてたのか。 ……そういや、昨日の話だけど、あの彼女とどうだ?」
(´<_` )「ああ、あの浮気あのバンギャか」
( ´_ゝ`)「お前なぁ、またそうやってテキトーに…」
(-_-)「別れた」
>( ;´_ゝ`)「ええ!!?? 本当に!?」
(-_-)「うん」
(;´_ゝ`)「何で!?」
(-_-)「…………浮気」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:41:49.67 ID:H5x+yK7xO
- (´<_` )「ぎゃっははは!やっぱりなー。 な、俺の言った通りだったろ?」
(-_-)「うん。 あ、ハインちゃんのパン食べていい?」
(´<_` )「おーおー、食べろ」
兄者はいつのまにかヒッキーの隣に周り込み、彼の肩にポンと肘を乗て、ニヤケ顔を近づけた。
ヒッキーがもぐもぐとアンパンを咀嚼している姿を見ながら、満足そうに2回ほど頷く。
俺はというと、驚きのあまり立ち上がっていた。
ヒッキーに無言で差し出されたアンパンを受けとってすぐ机のうえに置き、弟者の頭を一発叩いてから、再びゆっくりと座った。
(´<_` )「いってー!」
( ´_ゝ`)「うんって……もう、解決した話なのか?」
(-_-)「した、昨日キレイさっぱり切ったよ」
( ´_ゝ`)「そうか……」
(-_-)「ふふ、そんな顔しないでよ。 大丈夫だよ、僕彼女のこと引きずってないし」
そう言って笑うヒッキーの顔はなんだかやけに穏やかだった。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:44:11.64 ID:H5x+yK7xO
- >>28
すみません、気を付けます
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:46:57.17 ID:H5x+yK7xO
(´<_` )「だから言ったじゃん、女なんてろくな奴いねーんだって! 遊ぶくらいがちょーどいいのよ」
(-_-)「僕はもう遊びたくもないよ」
(´<_`* )「ぶはは、だろーなぁ! まぁまぁ、お前には俺がいるじゃないか」
(# ´_ゝ`)「ヒッキーをやらしい目で見るな!!」
(´<_` )「冗談だろ、ジョーダン。 お前はそんなんだからモテないんだよ」
(-_-)「……弟者くんには感謝してるんだよ」
( ´_ゝ`)「え?」
(´<_` )「?」
(-_-)「だって、弟者くんのアドバイスで、作ったんだもん」
( ´_ゝ`)「なにを?」
(-_-)「あの歌」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:51:16.32 ID:H5x+yK7xO
( ´_ゝ`)「あの歌……今日見せたやつ?」
(-_-)「うん。 弟者くんが失恋の歌詞書いたらどうだって言ってくれたから」
(´<_`* )「うっわー、さすが俺!」
弟者はヒッキーの頭をぐちゃぐちゃに撫でまわした。
ヒッキーも嫌そうにする素振りは見せずに、にここにと笑っている。
俺の頭の中は、変な感情がぐるぐると渦巻いていた。
あれが失恋の歌?あんな格好ばかりを気にしたような言葉の序列が?あれは、ただの……
( ´_ゝ`)「ヒッキー……」
( ´_ゝ`)「どういうこと?」
(-_-)「聞く?」
無邪気な笑顔で話し始める彼を見て、確信したことがひとつ。
やはり、ヒッキーにとって弟者は悪影響しか及ぼさない存在だ。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 01:53:46.49 ID:H5x+yK7xO
- 支援ありがとうございます
ミスが多くてすみません
ちょっと休んで後半書きます
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:27:51.99 ID:H5x+yK7xO
◆◆◆
電車は嫌いだ。
変な人がたくさん乗ってる。
例えば、目の前にいる太っているおじさん。
ベルトのうえにはみ出たものはなんともみっともない。なんでこんなになるまでほっといたのだろうか。
食事制限するとか、運動するとか、いろいろ対策はあったはずなのに。
カバンのポケットにはペットボトルのコーラがささっていることから推測するに、彼はきっと今後も痩せる気はなさそうだ。
こんだけパンパンに張っている腹をみると、いったい臓器以外の何が入っているのだろうと思う。
ゲロのような異臭を放つ汚物がぐちゃぐちゃに詰まっているのかもしれない。刃物でちょん、と突き刺せばそのドロドロした汚物が勢いよくピューと噴き出したりして。
それとも、臓器しか入っていないが、その臓器が腐り、爛れてしまっているのかもしれない。
どちらにしても、気持ち悪すぎる。
例えば座って化粧をしている女性。
ただ単に、意味が分からない。なぜ家でしてこないのだろう。人に見られて恥ずかしくないのだろうか。
スポンジのようなものでパタパタと頬を叩く度に、微粒子がふわふわと宙を舞う。ガチャガチャとポーチを漁る姿はひどく気味がわるい。
こういう人は人前でも平気で排泄行為を行えるような人なのかもしれない。
服装もなんとも恥知らずな格好だ。
いくら夏とはいえ、肩も太ももも露わにして、一体何を考えているのだろう。裸体とほぼ変わらない格好で歩くなんてまるで野生動物じゃないか。
それならいっそ、犬や猫のように裸で歩けばいいんだ。
不快以外のなにものでもない。
早く、降りたいな。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:31:20.89 ID:H5x+yK7xO
――――――
――――
――
――ガチャン
(-_-)「弟者くん」
(´<_` )「おっすー」
(-_-)「太ったおじさんの腹の中には何が入っているの?」
(´<_` )「はぁ?」
从 -∀从( ;´_ゝ`)(またか……)
(´<_` )「そんなもん、贅肉に決まってんだろ」
(-_-)「でもすっごくパンパンだよ?」
(´<_` )「だから、パンパンに肉がつまってんの」
(-_-)「ふーん……じゃあ、なんで女の人は電車で化粧するの?」
(´<_` )「お前……、それ前も聞かなかったっけー?」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:35:09.55 ID:H5x+yK7xO
弟者くんはすごい。
僕がどんな質問しても即座に返答してくれる。
彼はなんでも知っていて、自分に自信をもってるんだと思う。かっこいい。
(´<_` )「朝、時間なかったんだろ」
(-_-)「じゃあ、朝時間なくてトイレ行けなかったら、電車でおしっこする人もいるの?」
从 ゚∀从( ´_ゝ`)(何でそうなるんだ……)
(´<_` )「いるいる」
从 ゚∀从( ´_ゝ`)(いねーよ)
(;-_-)「うへぇ、汚いね……」
(´<_` )「なー、世の中汚い野郎ばっかりだよ。 人間としての意識が足りないんだよ、そういう馬鹿は」
( ´_ゝ`)(お前が言えることじゃないだろ)
从 ゚∀从「おら、そろそろ練習始めるぞ」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:38:49.61 ID:H5x+yK7xO
(-_-)「ねぇ、兄者くん、弟者くん」コソコソ
( ´_ゝ`)「ん、どした?」
(-_-)「あとで2人に相談があるんだけど…」
(´<_` )「相談?」
( ´_ゝ`)「ハインがいたらだめなのか?」
(-_-)「……うん、ハインちゃんには聞かれたくないな」
( ´_ゝ`)「そうか。じゃああとでな」
「おらァ! さっさと位置につけ!!」
(-_-)「はーい」
(´<_` )( ´_ゝ`)「へいへい」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:43:20.33 ID:H5x+yK7xO
―――――――
―――
( ´_ゝ`)「さて」
(´<_` )「相談とやらを聞こうじゃないか」
(-_-)「クーのことなんだけど」
(´<_` )「なーんだ、女の話かよ」
弟者くんは目を細くし口を曲げて、露骨に嫌な顔をする。
でも、こうなることはなんとなく予想してた。弟者くんは恋愛話をクソの役にも立たないと毛嫌いしているのを知ってたから。
( ´_ゝ`)「まぁ、そういうなって。 この前は誕生日にプレゼントあげたりして、仲良かったじゃないか。 喧嘩でもしたか?」
兄者くんは優しい。そして弟者くん同様、すごい人だ。
僕には思いつかないようなことばかり発言するし、頭もいいし、すごく頼りになる。
ただ、ちょっと真面目すぎる気がしなくもない。
- 42 名前:>>40 気を付けます、ごめんね 投稿日:2010/10/08(金) 02:49:32.62 ID:H5x+yK7xO
(-_-)「喧嘩じゃないんだけど……最近、あんまり連絡とれない」
( ´_ゝ`)「え! 音信不通ってやつ?」
(-_-)「えと、次の日に寝てちゃってたとか、飲み会だったとか、そういう連絡は来るんだけど」
( ´_ゝ`)「なるほど、うーん……」
(-_-)「ここ2週間くらい、ずっとなんだ。 こっちからの連絡は繋がりづらくて……ちょと心配……もしかしたら何か事件とか」
(´<_` *)「なあーに、そんなのも分かんねぇの?」
( ´_ゝ`)「おい、弟者」
(-_-)「弟者くん、分かるの?」
(´<_` *)「そんなん決まってるしょ、浮気だよ、う・わ・き」
(-_-)「う、わき……?」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:53:40.32 ID:H5x+yK7xO
- 興味のないはずの恋愛話に、弟者くんはご機嫌で混じってきた。
僕は彼の”浮気”という言葉に、頭が揺らぐほどの衝撃を受ける。
(´<_` )「連絡とれないのは他の男と会ってるから」
(-_-)「なんで会うの……?」
(´<_` )「セックスするためだろーが」
(-_-)「……僕がいるのに?」
(´<_` )「そーだよ。 それが浮気だろ」
( ´_ゝ`)「おい、適当なこというなよ」
(-_-)「そうだよ、ありえないよ……」
(´<_` )「ヒッキーよ、この世は何だってありなんだぜ」
そう言って、片方の口角を釣り上げた弟者くんの顔は何もかもを知り尽くしている表情だった。
それから彼は歌うようにスラスラと話始める。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 02:58:14.97 ID:H5x+yK7xO
いいか、ヒッキー。
女ってのはな、信じられないことがきっかけで浮気する生き物なんだよ。
この子に限ってそれはない、って奴ほどするもんだ。
お前、最近忙しかったんじゃない?
バンドもやっと軌道に乗りかかってきたわけだし、俺は弾くだけだけどお前は歌詞書いてるだろ?
うんうん、あーやっぱり。それが原因だわ。
だぁかぁらぁ、お前が忙しくなって、クーちゃんに構う時間がなくなっちゃったことが原因だって。
そんなことないって言っても、前よりはデートの回数減っただろ?な?
電話だけじゃ冷たいってなるんだよ、あの馬鹿どもは……言われたことなかった?
あーあ、それ一番タチ悪いわ。
思ってることも言わないで、勝手に貯め込んで、挙句に他の男で不満を解消しつつテメーの男の悪口言うんだよ。
うーうー、気持ち悪いね。
ああ、ごめんごめん、クーちゃんじゃなくて女って生き物がよ。
ま、クーちゃんもその可能性がなくはないってこったね。
寂しいからってすぐ股開くのが女、悪口言わないと生きていけないのが女、心と口では全く違うこと言うのが女。
どう、わかった?
ハッキリさせたいなら、証拠見つければいいんじゃない?どうやってって…携帯電話見るなり、尾行してみるなり……
でもまぁ、俺が思うに、そんなことしなくても”クロ”なのは明らかだから、さっさと別れたら?
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:01:45.09 ID:H5x+yK7xO
愕然とした。
あの弟者くんがこうも豪語してるのだ。
クーの浮気は真実に違いない。
信じられない……あのクーが……クーが…………
( ;´_ゝ`)「おい、ヒッキー! 大丈夫か?」
兄者くんが優しく肩を揺らす。
僕の顔を覗き込んでいた彼の表情は、憐れみの色を帯びていた。
( ´_ゝ`)「またコイツの適当な発言なんだから……まだそうと決まったわけじゃないよ」
( ´_ゝ`)「まぁーしかし、一度話合った方がいいかもしれないな、うん」
(;-_-)「でも…………」
( ´_ゝ`)「ヒッキー?」
でも、その真実を彼女の口から聞いたら、僕はきっと、おかしくなってしまいそうだ。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:06:22.76 ID:H5x+yK7xO
(´<_` )「ま、兄者の言う通りだねん」
弟者くんに強く頭を掴まれ、彼の肩に引き寄せられた。
(´<_` )「女ごときで、お前が落ち込んでるところは見たくないよ。 はっきりさせてこい」
頭を掴んでいる手の力を抜き、ゆっくりと撫でた。
先ほどの軽快な口調とは違い、低く甘い声で僕の鼓膜を揺らす。彼の唇の熱は耳たぶで感じられるほどの距離にあった。
(# ´_ゝ`)「やめろ」
弟者くんの頭の方からパシンと乾いた音が聞こえた。
彼は渋りながらも、僕の頭からそっと手を退ける。
(´<_` )「でもまーあれよ、もし本当に別れることになったらさ、失恋の歌でも書けばいいじゃん? 実体験書けば切なーいのできんじゃね? ぶはははっ」
( ´_ゝ`)「お前はまたそういうこと軽々しく言うな!」
(-_-)「……クーと話してみる」
( ´_ゝ`)「おう、それがいいよ」
兄者くんは笑顔で言った。なんだか背中を押されたような気がした。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:10:29.49 ID:H5x+yK7xO
- ――――――
――――
――
(-_-)「もしもし、僕だけど」
(-_-)「明日、会える?」
(-_-)「そう、じゃあVIP公園のベンチで待ってる」
(-_-)「聞きたいこと、あるんだ」
(-_-)「うん、それじゃあ今夜また…………」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:17:34.39 ID:H5x+yK7xO
電話の電源ボタンを押すと同時に、ショッピングセンターのトイレに駆け込んだ。
便座に手をつき、胃の中のものすべて吐き出す。
視界がうっすらと歪んだ。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
「ゴホッ、、、うぇぇっ」
気持ち悪い。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:21:58.11 ID:H5x+yK7xO
- 僕にとってクーは特別だ。
彼女はもともと僕らのバンドのファンだった。
ライブのあとはいつも声を掛けにきてくれたし、大きなイベントのときには花束をくれた。
そういう女の子は他にも何人かいたけど、あまり嬉しくなかった。
ライブだというのに、ヒールや短いスカートをはく子、化粧が汗でべっとりくずれている子ばかりで、正直気色悪い。
その点、彼女はまったく違っていた。
彼女はいつも細みのズボンとスポーツメーカーのスニーカーを着用し、長い髪をひとつに結っている。もちろん化粧は何も施しておらず、腕にはいつもかっこいいリストバンドをはめていた。
僕らのことをよく褒めてくれたが、中でも僕の歌声が好きだと言ってくれた。
「君の歌なら、ずっと聞いていたいな」
そう言ってふっくらと笑う彼女の顔は、とても美しかった。
口々にかっこいいと言ってくるピラピラと着飾る女の子よりも、彼女が渡してくれる花束よりも、ずっとずっと綺麗だった。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:24:34.74 ID:H5x+yK7xO
他の子とは違う。
今までそう思ってきたのに、一気にすべてが変わってしまった。
電話で彼女の声を聞いた時、自分の耳がいつの間にか誰かのものと交換されたのではないかと思った。
それほどにも、彼女の声が気持ちの悪いものに聞こえた。耳の壁にべたりべたりとこびり付くような感覚に襲われる。
(;-_-)「うえぇぇ」
もしかしたら、もしかしたら……
弟者くんが間違ったことを言ったのかもしれない。弟者くんだって人間だ、間違うこともあるかもしれない。
でも、もし、クーも他の女と同じだったら?
弟者くんの言った通りな、ライブハウスに来ていた女みたいな、そんな人だったら?
そんな人と僕は会話を交わしたの?手を繋いだの?キスをしたの?セックスをしたの?
(;-_-)「げっえぇ、ごほっ、ごほっ」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:28:13.32 ID:H5x+yK7xO
―――――
―――
――
川 ゚ -゚)「ヒッキー、おまたせ」
(-_-)「……うん」
川 ゚ -゚)「顔色がよくないが、大丈夫か?」
(-_-)「平気……」
川 ゚ -゚)「そうか、ならいいんだが。 無理はないでくれよ?」
(-_-)「うん……」
クーはゆっくりと公園のベンチに腰をおろした。僕も、彼女と少し距離をおいて座った。
湿気を多く含んだ空気が、Tシャツから伸びた僕の腕にべたべたと張り付く。
背中には一筋の汗がすうっと流れた気がした。
川 ゚ -゚)「外は意外に涼しいな」
(-_-)「そうかな……」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:31:20.02 ID:H5x+yK7xO
僕と会うときの彼女は、ライブのときとはまるで別人のようだった。
髪はおろしたままだし、化粧もするし、スカートばかりを穿いているように思う。
今日も白い刺繍のはいった黒色のワンピースを着ている。
裾からは肘から下しか出ていないし、スカートの丈も膝下だった。
ぎらぎらとした装飾品を付けることもなければ、きちんとストッキングもはいている。
やはりそこら辺にいる下品な女とは違う。
今回ばかりは弟者くんが間違えていたのだ。そうだ、きっとそうだ。
夏の風は、彼女の絹のような長い髪をさらさらと歌わせ、スカートの裾をほんのり揺らした。
丁寧に髪の毛を耳に掛ける仕草は、以前となんら変わりがない。
川 ゚ -゚)「会って話すのは少し久しぶりだな、会えて嬉しいよ」
思ったことを真っすぐ目を見て伝えてくれる。彼女はそういう人だ。
心と口でちぐはぐなことが言えるわけない。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:33:15.62 ID:H5x+yK7xO
(-_-)「突然、ごめんね」
川 ゚ -゚)「そんなことはない。 会えて嬉しいと言ったじゃないか」
(-_-)「うん」
川 ゚ -゚)「忙しいのに時間作ってくれて、ありがとう」
(-_-)「忙しい……?」
川 ゚ -゚)「ん? 忙しくないのか?」
(-_-)「……もしかして、寂しかった?」
川 ゚ ー゚)「はは、ずいぶんとハッキリ聞くな。 そりゃ、寂しかったさ。 でもその分」
(-_-)「寂しかったの!?」
>川;゚ -゚)「! あ、ああ……、でもその分会える楽しみが大きかったぞ?」
(-_-)「…………そう」
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:39:25.74 ID:H5x+yK7xO
川 ゚ -゚)「どうしたんだ、やっぱり具合でも悪いのか? 元気ないぞ?」
(-_-)「実は…………」
川 ゚ -゚)「……ごめん、私のせい、だよな」
(-_-)「………………なにが?」
ごめん、ごめん、ごめん、なにがごめん?
彼女は表情を隠すようにして下を向き、もう一度「ごめん」と言った。
だから……なにが……?
川 - )「電話で、話があるって言われたとき……胸が痛くて、苦しくて……正直に、自分から話そうと思ってた」
彼女が俯いたまま、ポツリポツリと言葉を溢していく。
白く細い指先で、自分の右の目頭をそっと撫でた。左側からは、一粒の雫が落ちた。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:41:09.68 ID:H5x+yK7xO
近頃、夜に連絡とれないこと……不審に思っていたんだろ?
実は……、男の人と会ってた……
友人との飲み会で知り合った人なんだ。
最近、ヒッキーは有名になってきて……仕事も忙しいみたいだし……
なんだかヒッキーの存在が遠ざかってしまった気がしてた……
そんなときに、出会ったんだ。
え?……言えるわけないだろう……
頑張って歌ってるヒッキーに対して、寂しいからもっと構え、なんて……言えるわけ……言えるわけないよ……
勝手なのは分ってるさ。
私が勝手にヒッキーの才能や女の子に人気があることに嫉妬してしまったんだから……
でも、でも、、、、
誰かにこの気持ちを知ってほしくて……、分かってほしくて……
その人とずっと会ってた……
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:46:46.25 ID:H5x+yK7xO
(-_-)「……うぇっっ」
川;゜ -゜)「ヒッキー!?」
(#-_-)「触らないで!!!!!!!!!!!」
川;゜ -゜)「!」
(#-_-)「うっ……、」
ばかだばかだばかだ
こんなばかおんながほんとうにいるなんて
しっと?さみしかった?とおいそんざい?
そんなおとじゃくんがいってたてんぷれーとどおりのおんながすぐとなりにいるなんて
きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい
こんなおんなとてでふれあってくちびるをかわしてまたをなめていやらしいことをして
きもちわるいきもちわるいきもちわるいきもちわるい
でも、ほんとうにいちばんきもちわるいのは
僕だ。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:47:55.58 ID:H5x+yK7xO
川 ; -;)「ヒッキー……ごめん……ごめんなさい」
クーの瞳からは次々と涙が零れ落ちていく。
僕に差しのべたであろう彼女の手は、行き場をなくし、宙を泳いでいた。
川 ; -;)「でもね、でもね、聞いてくれ……」
やめてよ。
その先の言葉聞きたくない。
川 ; -;)「その人といてわかった」
やめてよ……
もう、君を……
川 ; -;)「自分が、どんなにヒッキーのことが好きか」
―――バチンッ
綺麗だとは思えないよ
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:54:38.32 ID:H5x+yK7xO
川 ゚ -゚#)「………………え?」
彼女は左頬にゆっくりと手をあて、目をまるまるとさせた。
不思議なことにぴたりと涙が止まっていた。もしかしたら、最初から嘘泣きだったのかもしれない。
ああ、なんて恐ろしいんだ。
川 ゚ -゚#)「い、痛いよ……なんで」
僕は立ち上がった。
思い切り胸倉をひっつかんでひっぱりあげると、彼女も軽々と立ち上がる。
先ほどより、力を込めて振り下ろした僕の掌は、彼女の頬とぶつかりひどく大きな音を出した。
川 - #)「いっ!」
どさり、とクーが土のうえに寝転ぶ。恐怖の色に満ち満ちた目で、僕を見上げた。
怖いのは、この女のほうだというのに。
川;゚ -゚#)「き、聞いてくれ! 浮気をしたわけじゃないんだ!」
(-_-)「心と口では全く違うこと言うのが女……」
川;゚ -゚#)「ち、ちがっ! 本当に、何もしてない、ただ……」
(-_-)「ただ?」
川;゚ -゚#)「…………」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:57:37.93 ID:H5x+yK7xO
彼女の頬はみるみるうちに真っ赤に腫れあがっていった。
(-_-)「ふっ」
川;゜ -゜#)「なんで……笑うの?」
ちょっと面白い。
あれほど綺麗だと思っていた彼女は、まるで幻だったようだ。
目の前で土のうえに座りこみ、片方だけふっくりと膨らんだ顔をして、瞳を揺らしながら僕見つめるこの女が、”クー”だなんて。
おかしい、きもちわるい、ふゆかい、ゆかい、なんだか不思議な気持ちだ。
(-_-)「ふふふ」
川 ; -;#)「ヒッキぃ……聞いてくれ、本当に会って話しただけで、ひぃっ!、いたい、いたい、!」
―バチン
―バチン
―バチン
川 ; -;#)「やめ、やめろっ!」
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 03:59:32.84 ID:H5x+yK7xO
僕の腕は何度も風を切った。
徐々にじんわりと掌が熱くなるのを感じる。
それでもなお、僕は腕をふることをやめようとは思わなかった。
川 - #)「ひっ、いたっ……やめっ……」
川 - #)「いっ…………ひゅっ……」
目の前にある左右が非対称な顔が、苦しそうに呼吸をしていた。
川 - #)「もっ、ゆるしっ……ご、……ん……っ」
死んだ魚のように目の光を失い、左頬は大きな柘榴をくっつけて、僕に必死に許しを乞う。
なんて気持ちが悪いのだろう。
毅然としていたあの頃の面影はもうない。
すべて幻だったのだ。僕がみていた、愛したあの人は……
気付けば、僕の頬にも涙が伝っていた。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:06:52.14 ID:H5x+yK7xO
川 - #)「き、て……ほんと………あなた、だけ……」
(-_-)「もう、声も聞きたくない」
(#-_-)「きもちわるい……きもちわるいんだよおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
今まで騙されていたんだ。そしてそれに気付くこともできなかったんだ。
なんで、なんでぼくはこんなおんなを愛おしいとおもっていたんだろう。
腹が立って仕方無かった。
悔しくて悔しくて、左足で強く地面を踏みつけた。
川 - #)「ぎゃあああああぁぁぁっぁぁぁぁ!い゛だい゛い゛だい゛よおおおお゛!」
足の裏に違和感を感じたのと同時に、女が奇妙な声を発した。
そっとどけると、女の指が土と赤い液体でまみれていた。よくみると、先についている爪がいくつかに割れていた。
川 - #)「い゛っ、、、い゛だ……」
そのうえにもう一度足をおき、地面にぐりぐりと擦りつけた。
川 - #)「あ゛あああぁぁぁぁあああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!」」
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:11:08.93 ID:H5x+yK7xO
けたたましい千切れるような悲鳴が、僕の脳みそをぐわんぐわんと揺らす。
川 - #)「い゛あ……いだい……」
僕は自分の鞄からタオルを取り出し、女の口に無理やり押し込む。
手足をばたんばたんと動かし、邪魔をしたので、もう一度力を込めて左頬をなぐると、ぱたりと騒ぐのをやめた。
再び足をどかしのちに、地面に座り、女の手を取った。
砂と体液が入り混じり、さっきよりも汚らしい指になっている。
その指先をぎゅっと力を込めて掴むと、女は不気味な声にならない声で何かを訴えた。
川 - #)「ん゛ん゛ん゛んんんっん゛ん゛んんんっっ!!!」
女はぼろぼろと涙を零し、激しくかぶりを振った。足もずりずりと上下に動かし、まるで虫ケラのようだ。
そして反対側の手で僕の衣服を掴んだ。
素早くそれを振り払い、近くに転がっていた大きめの石を拾い上げ、他の爪も砕いた。
女の汚い手首を握り、地面に押し付けて、それがばらばらになるまで何度も何度も石を振り落とした。割れた破片が皮を破って肉に突き刺さり、女の指先を徐々に赤く染めていく。
石をぶつける度に変な声で唸っていたが、その声は段々と力を失くしていき、最後の指のときには、体をびくんと揺らしただけだった。
女は二度と僕に触れてくることはなくなった。
◆◆◆
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:13:08.34 ID:H5x+yK7xO
(-_-)「そこからはあんまり覚えてない」
俺は手から零れたアンパンを拾うことができなかった。
無表情のままおかしな言葉をつらつらと並べていくヒッキーを、ただただ見つめていた。
(-_-)「あ、でも」
(-_-)「首、絞めたらね……びっくりするほど黒目が上にいっちゃったのは覚えてる」
(-_-)「口からはよだれをだらだらこぼしちゃってて……本当に醜かったよ」
そう言って小さく笑う彼に対して、俺はいったいどんな顔をすればいいのだろうか。
体は急速に冷えていくのを感じているのに、こめかみからは汗が滲んだ。
これは”恐怖”というものなのだろうか。そんな言葉で片付く感情なのだろうか。
今まで、何かに対して怖いと感じたことは何度もあるが、この感情がそれと同じとは思えなかった。
( ´_ゝ`)「おまえ…………」
(-_-)「え?」
思った以上に声が出ない。
でも、聞かなくちゃ、
( ´_ゝ`)「お前……それ、本当に言ってるのか…………?」
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:17:25.76 ID:H5x+yK7xO
(´<_` )「ばーーーーーっかじゃねぇの?」
ぴりぴりと冷え切っていた空気(そう感じていたのは俺だけのようだが)を、その一言がぶち壊した。
今までヒッキーばかりをとらえていた俺の視線は、久しぶりに弟者に向けられた。
(´<_` )「うっわ、お前顔青っ! うけるー!」
そう言って肩を揺らす。
わけも分からず、ただひたすらに弟者をぼんやりと眺めた。
(´<_` )「嘘に決まってるじゃーん、うそうそ」
(´<_` )「なぁにが、本当に言ってるのか?、だよ! お前はホントくそ真面目だなぁ」
目を細めて歯を見せる弟者は、なぜか自信満々に、そして得意気に俺を馬鹿にした。
(´<_` )「本当なわけねーじゃん! 全部コイツの作り話だっつの!」
( ´_ゝ`)「…………」
(´<_` )「だってさ、考えてみろよ。 あの公園、確かに朝や夜は全然人いねーし、人殺してもバレないだろうけどさ」
(´<_` )「午後になればたーくさん人くるんだぜ? 死体があったら今頃大騒ぎになるっての!」
ゆっくりと自分の腕時計に目をやると、もう午後の3時をとっくに過ぎていた。
当たり前だった、だって今日の集合は午後1時なのだから。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:18:59.95 ID:H5x+yK7xO
( ´_ゝ`)「死体は普通……隠すだろ」
(´<_` )「どこに?」
( ´_ゝ`)「家、とか……」
(´<_` )「コイツんち、公園から二駅もあるんだぜ? 車の免許も持ってないのにどうやって運ぶんだよ? 担ぐなんてむりだぜ、こんのもやしっ子に」
確かにヒッキーはかなりの細身で、ひょろりと伸びたその腕では人を抱えて何キロも歩くなんてできなそうではある。
( ´_ゝ`)「…………公園に埋めたとか」
(´<_` )「埋めるのも同様。 こんなもやしに、でっけースコップで穴掘って埋めるなんてできないよ」
(´<_` )「その前にさ、コイツ普通じゃねーだろ」
( ´_ゝ`)「あ、」
そう言ってやれやれといった具合に深いため息をついた弟者を見てやっと安心した。
そうだ、ヒッキーは少し変わっているんだった。普通の人が考えることをなかなか思い付かないような人間だった。
買い物のときもそうだったじゃないか。なんだ、そうか、そうか。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:22:41.28 ID:H5x+yK7xO
( ´_ゝ`)「ヒッキー、嘘なんだよな?」
(-_-)「…………びっくりした?」
少年のように悪戯に笑う彼を見て、肩の力がどっと抜けた。
( ´_ゝ`)「したよ〜、もう勘弁してくれよな」
苦く笑うと、ヒッキーは更に笑顔になった。
冷静になってみれば当たり前だ、ヒッキーが人なんて殺すわけないんだ。
変わり者ではあるが、素直で優しい奴なのは俺だってよく知っている。
(´<_` *)「迫真の演技だったなぁー! ま、俺は見抜けたけどねん」
(-_-)「ふふっ」
(-_-)「あ、僕もそろそろ帰る……」
(´<_` )「なんかあんの?」
(-_-)「美容室」
( ;´_ゝ`)「打ち合わせの日に入れるなよな……」
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:26:39.16 ID:H5x+yK7xO
( ´_ゝ`)「じゃあ、今日できなかった分は明日な。 ヒッキーは歌詞間に合いそうか?」
(-_-)「他の候補もあるから……たぶん大丈夫」
( ´_ゝ`)「そうか、頼んだぞ」
(-_-)「うん、じゃあ美容室行ってくるね」
(´<_` )「おうおう、かっこよくしてもらってこーい!」
ヒッキーはゆっくりと立ちあがって、帰り支度を始めた。
俺も弟と二人でいてもしょうがないし、そろそろ帰ろうかな。と、その前にハインにでもメールすっか。
(-_-)「じゃあ、ばいばい」
(´<_` )「じゃーなぁ」
そう言ってヒッキーがあのてらてらと青く光るばかでかいキャリーケースに手をかけた。
( ´_ゝ`)「美容室にもそれ持ってくのかよー……まったく(……あれ?)」
その瞬間に、いやな思考がよぎる。
彼は、本当に、迫真の演技をしていたのかも、しれない。
買ったばかりで何も入っていないのそれは、がらがらとやけに鈍い音を響かせながら部屋から消えた。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/10/08(金) 04:28:19.62 ID:H5x+yK7xO
-
( ´_ゝ`)解散の危機のようです
おわり
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