- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:20:41.24 ID:z2vKhqYy0
- 戦場を駆け回る、戦い回るウォードッグ。
お前はどこまで走って行く? 何時まで走って行く?
ウォードッグ。
私はお前に戦場で、戦いの最中で出会った。
戦争しか知らぬ、闘うことしか知らぬ、
軍に忠誠を誓い敵に噛みつくウォードッグ。
お前が吠えると私は怯える。
お前の牙を見ると私は竦みあがる。
戦争犬。争いを日々の糧にして戦場を縄張りとする者。
ウォードッグ、ウォードッグ。
私はお前が恐ろしい。私はただの人だ。弱く臆病な人間だ。
安全を保障され、日々を生きていくことに何の不安も持たない、ただの人間。
お前たちの縄張りでは為す術も無く狩り取られてしまうような、
弱く、脆い、普通の人間だ。
お前達は狩人だ、ウォードッグ。
徹底的で、見事な狩りをする。もしくは―――ただの殺戮者。
人を殺して命を奪い、愛する者を奪い、志すらも奪い取ってしまう、
最低で最悪で、残酷で残忍な人間の屑共。
戦争に取り憑かれた戦争屋共。
しかしだ、ウォードッグ。
ウォードッグよ。私を助けてくれた貴方達は、
私と共に戦場を駆け抜けてくれたお前は、決してそんな奴らとは違った。
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:23:15.01 ID:z2vKhqYy0
- 私にしてみれば貴方達とお前は狗などではなく、
戦争屋などではなく、ましてや人間の屑などでは無かった。
むしろ、その反対の生き物であった。
誇りを持ち、人らしく生き、何かを守って戦う人達。
誰にも賞賛されない貴方達とお前ではあるが、私にとっては英雄だ。
貴方達とお前にそう言ったら、よしてくれ、と恥ずかしがってしまうだろう。
だから私は貴方達を、お前を、畏敬の念と親しみを持ってこう呼ぶことにする。
戦争犬“ウォードッグ”と。
呼び方こそ戦争屋の屑共と一緒ではあるが、
私は英雄についた仇名のようにこう呼ぶ。
行こう、ウォードッグ。
共に駆けようウォードッグ。
私を守ってくれウォードッグ。
一緒に居てくれウォードッグ。
戦場を駆け抜けた先を、私と人らしく駆け回ろう。ウォードッグ―――
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:26:19.73 ID:z2vKhqYy0
- ******
瓦礫の山が築かれ、あたり一面が廃墟となった、
ニューソク国の小さな街、カラマロスDNの中。
街に溶け込むような白黒の、スプリッター迷彩が施された戦闘服を着た者達が、
隊形を組んで歩いている。
从 ゚∀从 「ちっ、酷い有り様だな。こいつは」
白髪で左目を隠した、どこかガサツな雰囲気を持っている女性、
ハインリッヒ高岡が舌打ちをする。
縦に組まれた隊形の真ん中に彼女がいることから考えて、
彼女がこの分隊の隊長のようだ。
( ´∀`) 「十時間前にここに来ていたらと思うと、ゾッとするモナ」
そのすぐ後ろ、付き添う様にして歩いている、
頬笑みを絶やさない男、モナーが呟く。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:30:07.27 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 「フン、今の状況のほうが幾分マシか」
ハインリッヒが倒壊したビル群を見まわし、
忌々しそうに吐き捨て、前方を歩く隊員達に合わせて歩き続ける。
土を蹴る音が9人分重なり、自分の物か相手の物か、
ピッタリと重なっているそれは判断し辛かった。
ハインリッヒとモナーの前方を歩く者達は、三人いる。
( ^ω^)(・A・) ( ∵) 「………」
先頭を歩くのは、ガタイが良く、
丸っこい顔をしたどこか幼さが残る青年、ブーンと、
その少し後ろを歩くのは、小さい、
まだ成長期に入ったばかりの少年兵、ドクオだ。
最後に、ハインリッヒの目前を歩き、
前方160度を油断なく見渡す男はビコーズと言う。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:33:21.90 ID:z2vKhqYy0
- ブーンとドクオの二人は、分隊内で非常に優秀と言うわけでもないが、
高い注意力と体力、肝っ玉を持つことから、
先頭を切らせるのには適任だ。
そして二人の背後。
ビコーズは部隊内でもトップクラスの射撃技術を誇り、
冷静な判断力を持ち合わせ、前方の二人のサポートを行う。
屋根が辛うじて残されている廃屋の側面を歩き続けていると、
そんな彼等の足が止まった。
ブーンが右手を上げて、制止のサインを後方に送る。
ドクオとビコーズは既に身構えており、
ブーンが口を開く前に、その動きは何が起きているのかを彼女達に連想させた。
( ^ω^) 「敵だお。向かいの瓦礫の山の周辺に5名。他にもいるはずだお」
从 ゚∀从 σ「散開するぞ、このままじゃカモだ。
ブーン、ビコーズ、つーはアタシについて来い。あのビルまで移動する。
他の者はアタシらが移動を終えるまでここで待機。合図と共に攻撃開始だ」
ハインリッヒがとなりの崩壊したビルを指で指し、
ブーン、ビコーズ、つーの三人と共に姿勢を低くして向かっていく。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:37:50.05 ID:z2vKhqYy0
- (・A・) 「モナー」
( ´∀`) 「モナ?」
(・A・) 「僕かブーンが斥候をすれば済む話なんじゃないかな?」
ドクオは、ハインリッヒの判断を疑っているわけじゃないが、
子供らしい、純粋な疑問としてモナーに尋ねてみた。
( ´∀`) 「こんなところで、君かブーンが偵察を終えるのを待っていたら、
良い的になってしまうモナー」
( ´∀`) 「敵の戦力は分からないモナー。不確定要素の多い中で、
行動してみせることも、生き残るには必要なことなんだモナー」
(・A・) 「へー。分かったよ」
( ´∀`) 「モナ? ハインは別にドクオの技量に不安があったわけじゃないモナ。
今の状況ではこうするべきだっただけ。彼女を、『ニューソク最強の兵士』を信じるモナ」
ドクオの子供特有のちょっとした不満を感じ取ったのか、
モナーは笑顔で言い聞かせる。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:40:18.51 ID:z2vKhqYy0
- (・A・) 「ハインの判断を信じてないわけじゃないよ。
僕たちの中に、ハインを疑う奴なんているはずも無い」
肩に掛けたアサルトライフルの安全装置を外し、
ドクオはグリップを握って敵を観察し、
ハインリッヒの攻撃命令が下るのをじっと待つ。
彼の後方。
モナー、ペニサス、アサピー、ジョルジュといったメンバーは、
360度全域をカバーするように警戒する。
皆、いつ戦闘が始まっても、それに即座に対応できる態勢だ。
【おっほ〜う! 敵が丸見えだぜぇい!】
モナーの無線機から女性としては低めの声が発せられる。
どうやら、ハインリッヒがビルに辿り着き、
その内部に侵入したようだ。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:43:11.41 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 【ビル内部に侵入した。階段が崩れていて6階までしか登れなかったが、
ここからでも充分敵が見える。お前等の向かいに見える瓦礫の山の影に4人。
このビルの正面の塹壕に6人、見えるだろうが、お前等の正面に5人だ】
从 ゚∀从 【数の上では不利だが、奇襲をしかけてやれば充分やれる。
ましてや、お前等の腕なら当然であり、遠く及ばない物だ】
从#゚∀从 【攻撃開始!】
ハインリッヒが無線機にその言葉を叩き込むと、
銃声が響きわたり、彼女の視界に映っていた瓦礫の山の影に隠れていた兵士が2人と、
周辺を巡回していた兵士が4人倒れて行った。
从 ゚∀从 【ハーハッハッハッハ、ハインリーッヒッ! 本当に戦場は地獄だぜ!】
快活に、豪快に笑うハインリッヒ。
彼女の笑い声が聞こえたかと思うと、
モナーの無線機から渇いた銃声が響き渡った。
更に笑い声は、ビルの中に木霊していく。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:47:20.46 ID:z2vKhqYy0
- ******
コンクリート片が散らばり、灰色一色となった、
崩れかけたビルの傍で、ブーンはブロックと砂袋で作られた塹壕へと向けて射撃を行っていた。
(;^ω^) 「おっおっおっ、いっそグレネードでもぶん投げてやりてーお」
気楽そうに言う彼は、心底面倒臭そうに、
身を屈めてビルから身を乗り出したり、隠したりしつつ、
手榴弾を放り投げたいところだが、勿体無いので塹壕にむけて弾丸を放つ。
弾は砂袋に衝突して爆ぜ、砂を撒き散らす。
それを確認するよりも早く、ブーンは自らの巨体をビルへと潜ませる。
すると、彼の目前の壁から火花が爆ぜた。
( ゚ω^) 「おっ……危ねーお」
腕を伸ばし、塹壕があるはずの場所へとアサルトライフルを向ける。
レバーを倒し、セミオートからフルオートへと変更し、
身を隠したまま連射する。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:50:13.35 ID:z2vKhqYy0
- 安全ではあるが、射撃の精度は劣る。
しかし、威嚇には充分だ。
ブーンの後ろから、男がビルから身を乗り出す。
彼と同じく、スプリッター迷彩を身に纏い、ハインリッヒに同行した者。
( ∵) 「………」
ビコーズだ。
彼は瞬時にアサルトライフルを塹壕へと向けると、
セミオートで3回放った。
渇いた音が三つ響きわたり、血飛沫が塹壕から立ち昇る。
遅れて薬莢が地面に転がってゆき、
コロン、という軽い金属音が2人の耳朶を打った。
追撃。
そう言わんばかりに塹壕から2人の兵士が身を乗り出し、
ビコーズに銃撃を行う。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:53:36.53 ID:z2vKhqYy0
- もう1人飛び出してくるが、
ブーンが当てずっぽうに放った威嚇射撃の弾に当たってしまい、
それもよりによって運悪く頭部に被弾し、即死した。
二つの火線がビコーズに迫るが、
彼は既にそこにはおらず、
ビルの壁に身を隠していた。
( ^ω^) 「まさか当たるとは……ついてるおー。ナイスだおビコーズ」
(( ∵)) 「………」
ブーンがビコーズの戦果を褒めるが、
彼は「なんのことはない」と言う様に首を左右に振るだけだ。
二つの銃がやかましいまでに怒鳴り声を上げ、
弾雨がビルの側面に向けて降り注ぎ、壁を抉り取っていく。
ブーンとビコーズは、飽き飽きとしたようにそれを見もせずに、
自分の銃のリロードを行う。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:56:40.64 ID:z2vKhqYy0
- (;^ω^) 「おー、ちょっと無駄遣いしちゃったお。増援が来たらちょっと不安になっちゃうお」
ブーンがアサルトライフルのマガジンに弾を込めながら、
残弾数を見て、悔しげな表情を浮かべる。
( ∵) 「………」
その様を見て、ビコーズは冷ややかな視線を浴びせた。
( ^ω^) 「いや……ビコみたいにそんな上手くやってらんないお。
むしろ僕が普通だお。“1ショット1キル”なんてアサルトライフルで出来っかお。
スナイパーライフルなら百発百中なんて当然だけどお」
( ∵) 「………」
(;^ω^) 「………ゴメン、見栄張ったお」
ガチッという、マガジンを嵌め込んだ音が小さく響き、
ビコーズがリロードを終えた事をその音が告げた。
遅れてもう一回響き、ブーンもリロードを終える。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 20:59:41.42 ID:z2vKhqYy0
- 浴びせられてきた銃撃の勢いが弱まわっていき、
騒がしかった銃声も虚しく響くだけだ。
敵の弾薬が無くなってきたのかもしれない。
今こそ、反撃のチャンスである。
が、彼等はそれほど楽観的ではない。
( ^ω^) 「おっおっおっ、これは誘ってるお。
ビコ、今度は君が援護してくれお。僕の本気を見せてやるお」
( ∵)b 「………」
ビコーズは親指を立て、片腕でアサルトライフルを構え、
銃口だけを壁から覗かせる。
引き金へと指を掛け、引き絞る。
銃弾が連続して銃口から吐き出されて行き、
ブロックと砂袋を抉っていく。
すると、それが起点となったのか、
2人の兵士がほぼ同時に、塹壕の左右から身を乗り出して銃を向けてくる。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:03:31.92 ID:z2vKhqYy0
- ( ^ω^) 「取ったお」
身を遮蔽物から露出させた、その刹那。
銃声が二つ響き、2人の敵兵士の頭に赤い点が穿たれた。
力を無くしたように、彼等はそのまま倒れていく。
( ^ω^) 【おっおっおっ、クリアだお】
【――――】
Σ(;゚ω゚) 【マジかおっ】
ブーンがヘッドセットに声を吹き込むと、
そこからは状況の悪化を知らせる言葉が返ってきた。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:06:23.44 ID:z2vKhqYy0
- ******
真っ青な空の下で、太陽を遮る屋根が残った、
瓦礫に埋もれた廃墟の影で、
ドクオは銃口を向かいの瓦礫の山に向けていた。
(・A・) 「一人仕留め損ねたな」
先程まで、その周辺を巡回していた4人を見て、
何の感慨も無しにそう呟き、
反射的に身を伏せた生き残りに向けて銃弾を撃ち込む。
火薬の破裂する音が響きわたり、
生き残りの頭頂部が、脳漿と血が入り混じった液体を宙に散らせた。
(-@∀@) 「物影にも残っている」
ドクオの背後からアサピーが身を乗り出して、
瓦礫の山の端へと銃撃を行う。
ドクオへと銃を向けようとした兵士が、
アサピーの銃弾を受けて倒れた。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:09:59.80 ID:z2vKhqYy0
- ( ´∀`) 「スムーズに進むもんだモナ。残存敵1。
塹壕のほうはブーンとビコーズがやってるモナ」
( ´∀`) 「ドクオ、アシストするモナ。残った1人を仕留めて来て欲しいモナ」
(・A・) 「了解」
ドクオは短く答え、マガジンを新しいものに交換すると、
姿勢を低くして、微塵の躊躇いも見せずに廃墟の影から飛び出す。
血と硝煙の臭いが漂う、自分達が死体にした者達を尻目に、
彼は通りを風の如く駆け抜けていき、
敵兵士がいる場所から、反対の側面に背を預けた。
そのまま息をつく暇も無しに直進していき、
敵が居る筈の場所に回り込んでいく。
銃声が先程の通りから響いた。
どうやら、モナー達が威嚇射撃をしているようだ。
彼等の銃声以外にも、ドクオは近くから銃声を聞きとり、
敵が応戦しているのだと認識する
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:12:36.75 ID:z2vKhqYy0
- 背を低くしながら、
足音を立てぬようにゆっくりと壁伝いに進んでいき、敵を発見する。
辺りには血塗れになった死体が転がっていて、
敵兵士はモナー達の応戦に集中しているようだ。
(・A・) 「………」
ドクオは息を殺し、気配までも殺して、
辺りを包む空気と一体化して、ゆっくりと男に銃口を向ける。
狙いを頭に定め、確実に仕留めるられるように。
(・A・) 「………」
引き金へと掛けた指に力を加え、
ドクオは殺気すらも殺して銃弾を発射した。
鳴り響く銃声と肉を穿つ音。
宙を舞う血液に、血飛沫が地を撥ねる音。
ドクオは、少年兵はまさしく熟練の兵士と遜色無しに人を殺した。
彼はそのまま来た道を戻り、
瓦礫山の側面から、眼で合図を送る。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:16:15.00 ID:z2vKhqYy0
- ( ´∀`) 【ハイン、こっちはクリアだモナ。指示をお願いするモナ】
モナーがヘッドセット越しにハインリッヒにそう伝える。
从 ゚∀从 【よし、それじゃブーン達の加勢に行って貰う。
敵の増援をこちらから確認した。急げ】
ハインリッヒの命令が、無線機越しに下される。
だが、その後に男の言葉が加わった。
「待ってくれ」と。
_
(;゚∀゚) 「瓦礫に誰かが埋まってる! どうする!? 助けてやれないのか!?」
眉毛の太い、精悍な顔立ちをした男、
ジョルジュが狼狽して言う。
( ´∀`) 「要救助者……? 本当かモナ?」
モナーは慌てふためくジョルジュと対照的に、
普段通りの能天気な声で応える。
彼の顔には、普段通りの笑みが張り付いていた。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:19:35.88 ID:z2vKhqYy0
- _
(;゚∀゚) 「ホントだって! さっきの銃撃戦の最中に声を聞いたんだ。
声って言っても、擦れてて聞こえにくかったけど、
風に流れてきたせいか聞こえたんだ! 苦しいって女の子の声でよ!!」
ジョルジュが必死に説明するが、モナーの顔の笑みは一切崩れず、
ただ言葉を受け止めているだけで、
何の感慨も浮かんでいないように見える。
( ´∀`) 「そうかモナ」
从 ゚∀从 【どうした?】
応答の無いモナーに、
不審げにハインリッヒが短く尋ねる。
( ´∀`) 【すまないモナ。ジョルジュが要救助者を見付けたらしいモナ。
どうやら僕達が隠れている廃墟の中で瓦礫の下敷きになってるようで、
ジョルジュが女の子の声を聞いたらしいモナ】
( ´∀`) 【ハイン。どうするモナ?】
モナーは指示を請う。
ハインリッヒ高岡が組織し、モナー達が所属している部隊、
特殊遊撃部隊≪GJ≫は『ニューソク最強の兵士』とまで呼ばれる、伝説の兵士、
ハインリッヒの決定に、隊員達は盲目なまでに忠実であり、
絶対的な信頼を寄せているのだ。
彼女の決定には誰も逆らわず、愚痴の一つ、舌打ち一つすら零さない。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:22:41.04 ID:z2vKhqYy0
- (-@∀@) 「私は反対だ。敵の増援も迫って来ているんだ。
救助などしてる暇はない。残念だがな。
今すぐブーン達の加勢に行くべきだ」
アサピーが、ジョルジュの申し立てに反対する。
_
(;゚∀゚) 「軍人が民間人見捨てられっかよ。
急げばまだ間に合う!」
(-@∀@) 「ほう。なら、その民間人を助けた後、
我々は生き残れるのか? 負傷者を抱えて戦火の只中を抜けられるとでも?
いいか。生き埋めになっている人間なんて、他にも大勢いるんだ」
(-@∀@) 「たった1人を救う為に、たったそれだけの正義の為に、
身を滅ぼすような真似をするべきではない」
_
(;゚∀゚) 「じゃあ! 何の為に俺達は戦ってんだよ。殺しの為か?
金の為か? 生き延びる為か? 違うだろ! 俺達は守る為に戦ってんだろ!?」
ジョルジュが、冷徹とも言えるアサピーの判断に必死に否定する。
だが、彼の意見は間違ってはいない。
救助を行えたとしても、その後に安全地帯まで逃げきることが出来なければ、
ただの犬死となってしまうのだ。
加えて、敵の増援がやってくるという間の悪さだ。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:25:50.48 ID:z2vKhqYy0
- (-@∀@) 「守るため? 私はお前のようにちっぽけなプライドを守る為では無く、
仲間や家族を守る為に戦っているつもりだ。
ジョルジュ、お前は狙撃手失格だな。そんな冷静な判断もできないなんてな」
_
(#゚∀゚) 「俺は目の前で死にかけてる奴を、
まだ助けられる奴を見捨てる為にスコープを覗いてきたわけじゃねー!
まだだ! まだ間に合う! そんなに時間が掛かるもんじゃねーんだ!」
激昂したジョルジュがアサピーに向かって吠える。
アサピーは不快そうな視線をジョルジュに浴びせて、
口を開こうとするが、2人を諌める言葉が投げかけられた。
( ´∀`) 「2人とも、それ以上の口論はするんじゃないモナ。
ハインリッヒは救助しろ、と命令を下したモナー」
モナーが冷静に言うが、その言葉には、
うむも言わせぬような重みが籠もっていた。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:28:51.15 ID:z2vKhqYy0
- ******
ここはどこなんだろう……もう十時間ぐらいはここにいる気がする。
いや、十時間とは言ったが、もしかしたら私はまだ10分ぐらいしかここにいないのかもしれないし、
もう一日はここに居るのかもしれない。
暗くてまったく分からない。
今が朝なのか、夜なのか、一切の光も無い私の視界では、
それすらも判断出来ない。黒だ。私の目には黒しか映っていない。
目もだいぶそれに慣れてきて、夜目が聞くが、移す物は黒だけだ。
黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、
黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、
黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、
黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、
黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、黒、
全てが黒く塗りつぶされてしまっている。
もしかしたら、私の目は失明しているのかもしれない。
怖い。目を失ったのかと考えると、怖い。
言いようの無い不安に駆られてしまう。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:31:26.97 ID:z2vKhqYy0
- 痛い。苦しい。
何かに上から押し付けられているみたいだ。
強い力が、私を力づくで地面に釘付けにしているようだ。
肺がその何かに圧迫されているのか、息苦しさを感じる。
そして何より、痛い。
頭が痛い。鈍い痛みが頭に残っている。
何かに殴られたような、そんな感じだ。
何が起きたんだろう、私に。
何が起きたんだろう、家に。
分からない。まったく分からない。
だけど、さっき銃声みたいな火薬の音がしていた。
戦争か? それともテロ?
この状況に私が陥っているのも、それに関係している?
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:34:34.88 ID:z2vKhqYy0
- 背筋に寒気が走ってくる。
その寒気は、私を更なる恐怖に誘おうとする。
銃声が連続して聞こえてくる。
あちらこちらで撃ち回っているようだ。
私は怖い、私は苦しい。
「苦しい! 助けてくれ! 誰か! 誰か、頼む! 助けてくれ、苦しいんだ!
どうしようもないほどに苦しいんだ! 怖いんだ! 泣きそうだ! 助けてくれ! 助けて!!」
耐えられずに、私は必死に叫び出してしまった。
何をやっているんだろう。
自分で自分にそう思ってしまい、呆れかえる。
だが、声を上げたら幾ばくか不安が晴れて行った気がする。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:38:06.11 ID:z2vKhqYy0
- 私は、気晴らしにもう一度叫ぶ。
「助けてくれ! 苦しい! 苦しいんだ!! 誰か! 何が起きているんだ! 何でこんなに痛いんだ!?
苦しいんだ!? 怖いんだ!? 何で私がこんなめに合わないといけない!? 誰か、頼む! 苦しいんだ……」
私の声が響きわたり、
それは私の耳朶を打ち震わせる。
何をやっているんだ……
「虚しいだけじゃないか!」
そう思うと、言葉も一緒に出てきた。
内心では苦笑いが止まらない。
「おい! 誰かそこにいるのか!? 返事をしろ! 苦しいんだろ!?」
男の声が聞こえてくる。
私は反射的に声を上げた。
「誰だ!?」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:41:53.98 ID:z2vKhqYy0
- 「いや、誰だってお前……俺はニューソクの兵士だ! そこに居るんだな!?
今助けてやるから、もうちょっとだけ辛抱してろよ!!」
そう男が落ち着きなく言うと、
慌ただしい足音が、銃声が煩く響きわたる中でも、
はっきりと聞こえてきた。
「行ってしまったか……」
何だったんだ今のは?
ニューソクの兵士って……やっぱり、戦争なのか?
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:44:27.52 ID:z2vKhqYy0
- ******
数々の廃屋や廃ビルが視界の後ろへと引かれていく。
全力で駆けることによって生まれる風が、
鬱田ドクオの小さな肢体と頬を打つ。
(;・A・) 「―――――ッ!」
ドクオは、狙撃銃を抱えて走っている。
子供であり、成長期に突入したばかりの彼には、長くて持ち難い銃だ。
それを器用に抱えながら全力疾走する彼の額には、
玉のような汗が浮かんでいる。
全力疾走による発熱もあるのだろうが、
この汗が流れる大方の理由は、
大勢の敵の射線上に立っているからであろう。
ドクオは力の限り、命ある限り走る。
目的のビルが見えてきた。地面を大きく蹴ると、
先程まで自分の右足があった場所のアスファルトが爆ぜた。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:47:59.53 ID:z2vKhqYy0
- 目標まで1、2メートル。
ビルの壁面が抉られ、火花が飛び散る。
白煙が漂い、風が火薬の臭いを運んでいき、ドクオはそれを嗅ぎ取る。
ダメだ。このままじゃ撃たれる!
脳内に警鐘がけたたましく鳴り響き、
彼は足からビルへと滑り込んでいった。
(;・A・) 「――――あっつ! 熱っ!!」
ドクオの背中が地面に擦れ、熱が発生し、
彼はビルの影に滑り込むと、その痛みに身悶えた。
摩擦熱で背中が擦れはしたが、銃弾は受けてはいない。
ドクオは立ち上がって、ビルの中へと入っていく。
既にビルの上部は崩れており、階段を登っていくことは困難ではあるが、
初めにハインリッヒの通信があったように、六階までは上がっていけると聞いた。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:50:36.06 ID:z2vKhqYy0
- その情報を頼りに、ドクオは階段を駆け上がっていく。
ビルの中は暗く、コンクリート片だらけになっていて、
侵入できなくなっている場所も多いようだ。
先程も全力で疾走していたと言うのに、
ドクオは息も切らさずに、1分も掛からずに六階へと辿り着いた。
六階は光が差し込んでいた。オフィスらしき部屋の窓から、光が漏れ出ている。
窓を覗き込んでいる者がいる。
警戒心から、ドクオは銃を構えるが、その必要はなかった。
そこに居たのは、己が所属している部隊の隊長。
ハインリッヒだったのだから。
彼女はこちらを振り返りもせずに、じっと窓から外を観察して、
从 从 「おっと、アタシをやってみるか? お前に果たしてアタシが撃てるのかな?
やってみせろよウォードッグ。お前が思ってるほど世界は広くは無いぞ」
ハインリッヒがこちらを振り向きもせずに、
挑発じみたセリフを浴びせてくる。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:53:41.94 ID:z2vKhqYy0
- (・A・) 「ハイン、僕だって。撃つつもりは全くないよ。単なる警戒心から構えただけださ」
ドクオがそう弁解すると、ハインリッヒが彼の方を振り返り、
日を浴びた彼女の顔がハッキリと彼の顔に映る。
从 ゚∀从 「フン、警戒心でね。その歳で戦争犬に成り下がっちまうとは、哀れな奴だ。クソガキめ。
まぁ、お前に戦う術を授けたのはアタシなんだが……染まったのはお前だ」
(・A・) 「あまり喋ってる暇はないよ。敵は何人ぐらい?」
从 ゚∀从 「アタシが確認しただけで、救助を行っている廃墟の向かいの瓦礫山に、6人ずつ配置され、
塹壕には8人。さらに奥からぞろぞろやってきてるぞ」
(;・A・) 「はぁ、暫定20人か……厳しいな。いや、勝ち目あんのかこれ?」
ドクオが溜息交じりに、呆れたように尋ねる。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:56:18.36 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 「諦めたらそこで試合終了だぜ?」
(;・A・) 「戦争はフェアプレイの精神ないからな。始まる前から終わってたりするからね」
从 ゚∀从 b「よろしい、ならば戦争だ」
(;・A・) 「よろしくない。そんな余裕見せてないで、ちゃんと観測しろよ」
そう言いつつ、ドクオはガラスが吹き飛ばされた窓に向けて銃口を構える。
狙撃銃、減音器が備え付けられた“VSS”を構え、照準を敵に合わせる。
狙うのは、救助作業を邪魔する者だ。
从 ゚∀从 「ドクオ。今回の戦い、狙撃が要になるぞ。
落ち着いて、一人一人仕留めていけ。“1shot 1kill”ってな。
お前の援護が必要になったら、無線から連絡が入る。冷静な判断を忘れるな」
ハインリッヒが、VSSを構えたドクオに言い聞かせる。
プレッシャーを掛けているようにも見えるが、これは彼女なりの気遣いだ。
ドクオはそのことを知っていた。だからこそ、一切の緊張も無しに、
(#・A・) 「だったらアンタがやればいいだろ!」
力強い言葉と共に、弾丸が瓦礫の山の影にいた敵兵士の頭を貫いた。
从 ゚∀从 「ヘッドショット、ヒット」
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 21:59:36.86 ID:z2vKhqYy0
- ******
廃墟の陰から、ペニサスは銃を瓦礫の山の陰に潜む敵へと向け、
引き金を引こうとすると、それよりも早く、
狙いを定めていた兵士の頭が弾け飛んでいった。
('、`;*川 「ドックンかー、ビックリしたじゃないの。
狙撃ポイントについたみたいね」
ペニサスが呟き、後ろにいるアサピーが、
先程の兵士とは反対方向に隠れる兵士へと向け、威嚇射撃を行う。
(-@∀@) 「今通信が入った。どうやらドクオが狙撃ポイントに着いたようだ。
本腰を入れて攻撃していくぞ」
('、`*川 「んなこととっくに把握してるっつーの」
(-@∀@) 「そうか、随分と物分かりの良い兵隊だな」
アサピーは身を引き、廃墟に隠れていく。
そして、腰に備え付けられたバックパックからグレネードを取り出し、
(-@∀@) 「それじゃあ、派手に行かせて貰うぞ!!」
グレネードッ!と叫び声をアサピーが上げると、
黒い球体が綺麗な放物線を描いて、瓦礫の山の陰へと投げ捨てられた。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:04:36.99 ID:z2vKhqYy0
- 数秒の後に、衝撃波が巻き起こり、
熱風と破片がぶちまけられ、
逃げ遅れた二人の兵士が破片と爆発によって、死傷を負った。
('、`;*川 「――――ッ!」
ペニサスが息を飲み込む。
爆発が起こったかと思われた、その直後。
自分の目の前に、コロン、といった軽い金属音が耳朶を打ち、
見覚えのある黒い球体が転がってきたからだ。
Σ(゚д゚;*川 「あばばばばっ!」
彼女は一心不乱に目の前へ転がって来た敵のグレネードを掴み取り、
半狂乱になりながらも敵に向けて投げつけた。
しかし、時間が足りず。
敵の隠れている場所まで届かずに、
それは空中で煙と破片を撒き散らして爆発する。
(;-@Д@) 「危ねー」
アサピーが呆けたように口を大きく開けて呟き、
その後は何も無かったかのように、瓦礫の山に隠れた敵に向けて射撃を行った。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:07:14.95 ID:z2vKhqYy0
- ******
屋根の残った廃墟に、崩れて積もった瓦礫を撤去していると、
爆発が二回聞こえてきた。
(;^ω^) 「危ないおー。こっちにきてたら、中の人が無事じゃすまないお」
白黒のスプリッター迷彩を施された服は、
コンクリートの粉塵によって、瓦礫の上に立つブーンを見事に周囲に溶け込ませていた。
( ´∀`) 「運が良かったモナー」
笑みを浮かべたまま、モナーは淡々と瓦礫を撤去していく。
幸いなことに、瓦礫は粉々に砕け散っており、
工具無しに人の手で運べるような小さな物ばかりだった。
_
( ゚∀゚) 「ブーン。こっち手伝ってくれ、重すぎる!」
瓦礫の山の中、ジョルジュが屋根周辺の瓦礫を撤去しようとしているが、
彼が手にしている物はその中でも一際大きな物であった。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:10:10.40 ID:z2vKhqYy0
- ( ^ω^) 「今行くおーっ!」
ブーンは巨体を揺らしてジョルジュの元へと走って行く。
筋骨隆々とした彼のものとは思えない程の、軽やかな走りだ。
( ´∀`) 「ブーン。中は空洞になっているみたいだモナ。
気をつけて移動するモナ。
それに、そんなに太くて硬くて大きいの二人だけじゃ無理だモナ」
モナーは軽い下ネタ混じりにそう言うと、ジョルジュの元へと近づいていき、
瓦礫を三人で持ち上げようとする。
中肉中背のジョルジュと比べ、ガタイの良い三人の力は、
逞しいの一言に尽きる物であった。
ジョルジュが持ち上げようとしてもピクリともしなかった瓦礫が、
軽々と持ち上がったのだ。
三人はそのまま移動し、持ち上げた瓦礫を置く。
すると、先程まで瓦礫のあった場所には、
穴が開いており、そこから内部を見渡すことが出来た。
光が差し込み、うっすらとではあるが中が見える。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:14:03.21 ID:z2vKhqYy0
- そこには、コンクリート片の下敷きになっている少女が居た。
川メ - ) 「………」
少女は憔悴しきっているようであり、こちらを見向きもしない。
三人の中で一番背の高いブーンが穴へと手を伸ばし、
少女へと呼びかける。
( ^ω^) 「聞こえるかお!? 君を助けに来たお! ほら、こっちに手を伸ばすお!!」
川メ - ) 「うぅ………?」
ブーンが必死に手を伸ばすが、届かず、
少女は項垂れるだけだ。
_
( ゚∀゚) 「ヘイヘイ! どうしたお譲ちゃんよぉ!
俺が呼びかけた時にはあんなに元気だったじゃねーか! しっかりしろよ!!」
ジョルジュが大声をあげて激励すると、
少女はピクリとではあるが、体に動きが現れる。
動いた。まだ、少女は動けるだけの体力が残っている。
その現状はジョルジュ達を奮い立たせるが、
自分達の身体では中に入っては行けないもどかしさを感じる。
敵の増援が迫っており、あまり長居も出来ない。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:18:07.45 ID:z2vKhqYy0
- _
(#゚∀゚) 「チクショォォォォォォッ!! 待ってやがれ! 今助けてやっからな!!」
ジョルジュが叫びを上げ、瓦礫を手にとって力任せに放り投げていくが、
自分達が入っていくほどの穴を作るには、
まだ時間がかかりそうだ。
不意に、ジョルジュの肩に大きな手が置かれる。
モナーの手だ。
振り向くと、いつも通りのモナーの笑顔がそこにあった。
だが、その笑みを浮かべた口から、冷徹な言葉が浴びせられることを、
ジョルジュは覚悟する。
( ´∀`) 「ジョルジュ。僕たちじゃ助けられないモナー。敵の増援がまだまだやってくる。
敵はどんどん増えていく。でも、僕達は消耗していくだけモナー」
_
( ∀ ) 「………」
( ´∀`) 「一刻の猶予もならないモナ。僕たちじゃこの穴には入れない」
( ´∀`) 「今、ドクオに連絡したモナ。あの子なら何とか入って行けるはずだモナー」
_
Σ( ゚∀゚) 「――――ッ!」
モナーの言葉に、諦めを覚悟していたジョルジュは、
パッと顔を輝かせる。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:23:09.84 ID:z2vKhqYy0
- _
( ゚∀゚) 「そうか、そうだな! ドク坊ならこの穴に入れる!!」
( ^ω^) 「おっおっお、良かったお。でも、戦力は下がっちゃうお」
( ´∀`) 「そこは、ハインがカバーするモナー」
(;^ω^) 「おっ……スポッター無しに狙撃するのかお?」
( ´∀`) 「ハインなら問題無いモナー。むしろ、あの人は1人の方がやり易いはずモナ。
ドクオの救出劇よりも、ハインの狙撃のほうが見物になるモナー」
( ´∀`) 「早速ですまないけど、ブーンとジョルジュには戦闘班に戻ってもらうモナー。
今すぐに2人でハインの居るビルに向かって欲しいモナ。
ドクオの移動の援護。その後はつーちゃんのカバーに回って欲しいモナー」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:26:51.21 ID:z2vKhqYy0
- ******
廃ビルを全速力を以って抜け出したドクオは、
廃屋方面へと向けてスモークグレネードを放り捨て、
煙の中に紛れて疾走していく。
あちこちから銃声が聞こえ、狙われたのか、
流れ弾が飛んで来たのか知らないが、弾丸がドクオの左腕を掠めた。
しかし、この程度の傷など、ドクオにとっては傷の内にも入らない。
全神経を集中させ、彼はモナーが指定した、
廃屋へと駆け抜けていく。
スモークグレネードが起こす、白煙を潜り抜けたドクオは、
敵の射線に身を曝すこととなり、姿勢を低くした状態で走っていく。
地面が爆ぜ、空を切る弾丸の音が、
自分は狙われているのだという実感をドクオにもたらす。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:30:16.44 ID:z2vKhqYy0
- (#・A・) (ちっ! 後少しなんだよぉぉぉ!! 邪魔すんなボケェェェェ!!)
内心に絶叫を上げ、ドクオは死に物狂いで走り続ける。
すると、音が聞こえる。金属が転がっていくような、小気味の良いものだった。
が、戦場では絶対に聞きたくない音トップ3に入るような、危険な物だ。
(;・A・) (グレネード!?)
そう判断すると、よりいっそう力を入れて走り抜ける。
数秒が経つと、爆発するかと思われたが、
何時になってもそれは訪れない。
だが、その代わりに白煙が巻き起こる。
ドクオの眼前には、ブーンとジョルジュが居た。
2人はそれぞれ、塹壕と瓦礫の山へと向けて威嚇射撃を行っており、
ドクオを援護していた。
あのスモークグレネードを投げたのも、あの二人のどちらかだろう。
ドクオは一抹の安心感を得て、廃屋へと辿り着いていった。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:34:27.72 ID:z2vKhqYy0
- ******
( ´∀`)σ「お疲れだモナ。これが例の穴モナ。スグに中に居る少女を救出して欲しいモナー」
モナーが笑みを浮かべて、瓦礫の山に空いた穴を人差し指で差す。
ドクオは息を上げながらもそこへ近づいていき、中を覗く。
(・A・) 「……なんとか入れそうだな」
彼はそう言うと、穴の中に足を踏み入れていく。
足場になりそうなところはあるらしい。
生憎、暗くて見難いが、何とかなりそうだ。
中は薄暗く、上の穴から延びる太陽の光が無ければ、
真っ暗闇となってしまうだろう。
川メ - ) 「うぅ………たすけ……か…?」
暗闇の中、ドクオは少女を見付けた。
憔悴してはいるが、怪我自体は軽いものに見える。
それを確認すると、ドクオは軽い安堵感を得た。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:37:30.44 ID:z2vKhqYy0
- 彼女を早く助けよう。
その一心でドクオは少女へと近づいていくが、一つだけ問題があった。
彼女の上に乗った瓦礫だ。
ブーンかモナー。もしくはジョルジュなら、
この程度の瓦礫なら簡単に退けてしまうだろう。
だが、自分は子供だ。
自分にこのような物を持ち上げられるとは思えない。
試しに持ち上げてみようとするが、
いくら力を込めてもビクともしなかった。
(;・A・) (ちっ……)
ドクオは心の内に舌打ちをする。
少女に不必要な不安を与えないために、実際にはしない。
子供だからこそ、この場に侵入できた。
だが、子供だからこの瓦礫を退けることはできない。
大人の腕力がなければ、彼女を助けることができない。
なんという皮肉だ。
ドクオは仕方なしに銃へと手を伸ばし、
彼女へと銃口を向ける。
暗闇の中に銃火が灯り。
一発の銃弾が少女へと放たれた。
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:40:34.47 ID:z2vKhqYy0
- *****
聞き慣れた、乾いた火薬の音が穴から響き渡って来た。
(;´∀`) 「モナっ!?」
思わず、モナーは素っ頓狂な声を上げてしまい、
身体を穴へと反射的によせていった。
まさか!? その一念で頭が一杯になっていき、穴を覗きこもうとする。
(;´∀`) 「ドクオ!?」
が、穴から灰だらけになったぐったりとした少女が、
ドクオに押し出されて出てきたのでそれは叶わなかった。
(・A・) 「どうしたのモナー?」
穴から這い上がって来たドクオは、
周囲を警戒していたはずのモナーが、
穴を覗きこもうとしていたので、疑問を投げかける。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:43:14.22 ID:z2vKhqYy0
- (;´∀`) 「さっきの銃声は何なんだモナ?」
モナーは明らかに狼狽して尋ね返す。
(・A・) 「あぁ、要救助者の体の上に瓦礫が乗ってたんだけど、
僕の腕力じゃ持ち上げられないから、仕方なくハンドガンで壊したんだ」
(;´∀`) 「はぁ〜そうだったモナか。流石の僕も胆が冷えたモナー」
(・A・) 「……?」
ドクオが疑問符を浮かばせるが、
モナーは慌てて気を持ち返し、ハインリッヒへと無線を繋げる。
( ´∀`) 【要救助者の救助完了。ハイン、指示をお願いするモナ】
从 ゚∀从 【敵の増援が予想以上に多い。包囲されつつあるようだ】
从 ゚∀从 【この場を離脱し、帰還するぞ】
( ´∀`) 【了解モナー】
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:46:12.50 ID:z2vKhqYy0
- ******
ハインリッヒ達が戦闘を開始した頃には真っ青だった空も、
彼女達が基地に帰還した頃には、真っ黒に染まり上がっていた。
基地は有刺鉄線に囲まれており、内部には兵舎や倉庫といった施設が並んでいる。
基地内には多くはないが戦車が配置されており、
サーチライトが周囲を照らし、戦闘態勢へと入っていた。
兵舎の中の一室で、ハインリッヒ達は大きな長机に座って向かい合い、
ホワイトボードを立て掛け、会議を行っている。
从 ゚∀从 「アタシらは現在、かなり追いつめられている。
カラマロスDN基地の応援に駆け付けた、このアタシらGJ部隊がだ」
从 ゚∀从 「このままじゃ、ここを守りきれない。
まともにやりあっても、数日持ちこたえられるか、否かってとこだ」
ハインリッヒの現実的な見解に、
この会議に参加している者達は皆、生唾を飲み込むこととなる。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:49:12.41 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 「そこでだ、ここら辺でアタシらの今後の方針を決めていきたい。
何か、効果的な作戦とかはないか、案を練って貰いたい」
彼女がそう言うと、モナーが挙手をして発言の許可を請う。
( ´∀`) 「現状の戦力じゃ、到底太刀打ちできそうにないモナー。
だから、ここは徹底的に粘って戦い抜いて、
他の基地からの援軍を待つべきだモナー」
从 ゚∀从 「フム……援軍か」
ハインリッヒが呟きながらホワイトボードに、
“じきゅうせん”と平仮名で書きこむ。
すると、アサピーが挙手をする。
(-@∀@) 「このままでは、いずれ、いや。今日中にでも包囲されてしまいます。
そこで、私はここ、カラマロスDNから撤退することを提案いたします。
敵の数が多すぎます。いくら精強なニューソク兵とは言え、あの数では二日も持ちますまい。
援軍がニーソクと太刀打ちできる程に揃うまで、我々はもちませんよ」
从 ゚∀从 「フム……撤退ね…」
ハインリッヒは何かを思索しながら、
ホワイトボードに“けつまくってにげる”と平仮名で書き足していく。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:53:08.11 ID:z2vKhqYy0
- (;-@∀@) 「あの……ハインリッヒ少佐? ケツまくってn从 ゚∀从 「他に何か案はないのか?」
ハインリッヒは有無も言わさずに、
他の案を求める。
すると、ジョルジュが挙手をした。
_
( ゚∀゚) 「まともにやっても勝てない。
だったら、いっそのこと散らばってゲリラ戦法を取るってのはどうよ?」
从 ゚∀从 「フム……ゲリラ戦か…」
ホワイトボードにまたしても平仮名で、
“げりら”と付け加えていく。
次に挙手をしたのはつーだ。
彼女は元気いっぱいに手を振り上げて、提案する。
(*゚∀゚) 「はい、はい、はい、はい! はーい!
あたしは、ダンボールを被ってやり過ごすってのが良いと思いまーす」
次にドクオが挙手する。
(・A・) 「とりあえず、それはお前一人でやってればいいんじゃね?って思いまーす」
从 ゚∀从 「ほう……ダンボールか…」
ハインリッヒは感心したかのように、“スネーク”と片仮名でホワイトボードに書き足した。
その後、彼女は腕組みをしながら目を伏せて思考する。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 22:56:57.07 ID:z2vKhqYy0
- 从 ‐∀从 「………」
_
( ^∀^) 「アサピーよぉ、お前、撤退って、逃げてどーすんだってーの。
なんだなんだ? ビビっちまったのか?
そういやお前は救助の時もブルっちまってたもんなー」
ジョルジュは憎らしさ満点の笑顔で、
アサピーを嘲るように言い放つ。
(-@∀@) 「お前こそ、ゲリラ戦とはいかにも馬鹿らしい発想だな。
諦めの悪い、何時までも戦争を長引かせるタイプの戦争屋だ。ゲスが」
アサピーがそう吐き捨てると、
ジョルジュは自分の特徴的な眉を顰めて、ドスの効いた声で言う。
_,
(#゚∀゚) 「あん? テメーなんつったコラ。誰が馬鹿だコラ。あ?」
それを傍目に、つーが口を開く。
(*゚∀゚) 「ドクオー何が駄目なんだよー、ダンボールを大切にしない兵士は任務に生き残れないんだぞ?
ダンボールに真心を込めろ、ダンボールに愛情を注げって世界を救った英雄が……」
(・A・) 「僕達とは違う世界の英雄だからねその人。
プレイステーションとかで活躍する英雄だからねそれ」
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:00:56.40 ID:z2vKhqYy0
- (*゚∀゚) 「あぁ、そっか。ドラム缶なら良いんだな!?
そうか〜、やっぱ現代戦に対応するには次世代機で活躍したドラム缶が……」
(・A・) 「スネークは現実にいないんだよ。第一、隠れるだけじゃ勝てないだろ……」
各々、勝手に雑談を始めていると、
ハインリッヒが唐突に「よしっ!!」と声を張り上げた。
今まで騒々しかった部屋の中が、その鶴の一声で静まり返る。
从 ゚∀从 「援軍を待つぞ。ここを守り切らないと、ニューソクにとって痛手になる。
もしここが落ちたら、それを皮切りにして続々とニーソクの奴らが本土に上陸してくる」
从 ゚∀从 「それだけは防がなきゃならない。それにカラマロスDNは、
歴史的に重要な街だ。それが落ちたとなれば、兵士達の士気にも関わるだろうしな」
そのハインリッヒの発言を聞いた者達は、
淀みなく「了解」と応え、作戦を受け入れた。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:03:57.93 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 「そんじゃ、解散。巡回はカラマロスDNの兵士達がやってくれるそうだから、
お前等はゆっくり休んどけよ」
ただし、と付け加え、
从 ゚∀从 「ドクオ。お前は残れ」
彼女が治めている部隊の隊員達が席を立ち、
ぞろぞろと部屋を出ていく。
が、ドクオだけがポツリと椅子の上に座ったまま、
ハインリッヒを見据えていた。
(・A・) 「ハイン……どうしたの?」
彼は、ここに呼び止められる理由が全くわからない、
と言ったように疑問を投げかける。
从 ゚∀从 「ドクオ……今日はご苦労さんだ……
今日、一番の立派な戦果を上げたよドクオ一等兵」
(;・A・) 「あっ……はい、ありがとうございます」
ドクオは階級と共に名を呼ばれ、一抹の緊張感を抱く。
从 ゚∀从 「お前、アタシに拾われた時のこと覚えてるよな?
あん時のお前は、まるで野良犬みたいだったよ」
(・A・) 「………」
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:07:23.10 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 「そいつをアタシの部隊に招いて、アタシの技術を全て叩き込んでやって。
野良犬だったお前は、今じゃ戦争犬だ。戦いの中でしか生きる術を知らない」
从 ゚∀从 「いや、生きることは戦いの為の術でしかない。戦いの中にしか己を見出せず、
己を戦いでしか表現できず、他人と戦いの中でしか手を取り合えない。ウォードッグだ」
ハインリッヒはドクオを見つめる。
その瞳はドクオを見ておらず、
彼女はドクオの心を、今までの人生を見ているかのようだ。
(・A・) 「………」
ドクオは、その瞳を美しいと思った。
淀みの無い光を放ち、真っ直ぐとものを見る瞳孔。
その奥底に鏡のように映る自分の姿。
女性の美しさ、そう言った物では無い。
ハインリッヒ高岡。その人の、人としての美しさの表れのように感じられる。
(・A・) 「ハイン……僕は何も後悔してないよ?」
(・A・) 「ハインに鍛えられて、モナー達と一緒に居るのが、すっごく楽しいんだ。
僕はすっごく嬉しい。ここにいられて、ハイン達と一緒にいられて、すっごくね」
从 ゚∀从 「そうか……ドクオ。お前にな、お前にしか頼めない任務があるんだ。頼めるか?」
ハインリッヒは、感慨深そうにドクオを見つめ続け、
彼の頭の上に手を乗せて撫でる。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:11:26.86 ID:z2vKhqYy0
- (・A・) 「どんな任務でもやってみせるよ」
从 ゚∀从 「そうか―――任務を説明する」
从 ゚∀从 「救助したクールって女の子がいるだろ? あいつを難民キャンプに送り届けたいんだが、
生憎、カラマロスDNは危険だと判断されて、ここから30キロ近く離れたイミフに移されたんだ」
从 ゚∀从 「そこでだ、鬱田ドクオ一等兵。お前に彼女の護送を命ずる」
(;・A・) 「えっ?………僕一人……?」
予想外であった任務の内容に、
ドクオは呆気にとられてしてしまう。
从 ゚∀从 「あぁ……あだ名も付けておいた……クールだからクーちゃんだ。
仲良くしてやってくれ。ちなみにお前はドックンだ」
(#・A・) 「ざけんじゃねーぞぉ畜生がっ!!」
ドクオが肩をわなわなと震わせて、ハインリッヒを怒鳴り付ける。
彼の目には激しい怒りの色が浮かんでいた。
从 ゚∀从 「おいおい、そんなに気にくわなかったか? ドッくんが。
仕方のない奴だぁ〜ね〜。じゃあ、ドクちゃんでどうだ?」
(#・A・) 「気にくわねーのはあだ名じゃねぇ! 任務の方だ!!
アンタは僕にこう言ってるんだ! アタシ達を見捨てて逃げろってな!! 違うか!?」
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:14:10.02 ID:z2vKhqYy0
- 从 ゚∀从 「あぁ、そうだとも。戦況は絶望的だ。
お荷物を抱えて勝てるほど甘くはないんだよ」
(#・A・) 「僕が荷物だって言うのか!? アンタはさっき今日一番の戦果だって言ったろ!!」
从 ゚∀从 「そんなことは言ってない。ただ、民間人が紛れ込んでたらやりにくいのさ。
あの子は人並み以上に落ち着いてて、冷静なようだが、
所詮は民間人、戦火の只中で恐慌状態に陥ってもおかしくはない」
从 ゚∀从 「それによ、あの子、可愛いだろ? もしもの時、あの子を守り切れるとも限らないだろ?
だからよぉ、お前にアタシは難民キャンプまでの護送を頼んでるってわけだ」
(#・A・) 「何で僕だけなんだ!? GJのみんなで行けばいいだろ!?」
从 ゚∀从 「あーもう、落ちつけよ。アタシらがここを離れたら、
援軍に来た意味がなくなっちまうだろ。
だから、手痛いけどよ。あんた一人に頼むのが最良なんだ」
从 ゚∀从 「それに、人数が少ない方が敵に発見され難い。
夜間迷彩服を着ていけ。クーは……黒いコートでも着せとけばいいか」
(#・A・) 「僕はッ!」
从#゚∀从 「いい加減聞き分けやがれクソガキ!!」
ハインリッヒは堪忍袋の緒が切れた、とでも言わんばかりにドクオに怒鳴り散らす。
鋭い目が、よりいっそう研ぎ澄まされていく。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:17:14.83 ID:z2vKhqYy0
- 从#゚∀从 「いいか? お前はまだガキだ。まだまだガキなんだ。
お前はまだ何も見ちゃいねー。何も知っちゃいねー。
お前が知ってるほど世界は狭くはない!」
从#゚∀从 「だが、お前の世界は、お前の生きている人殺し共の世界はなぁ!
とんでもなく狭っ苦しいもんなんだよ!!」
ハインリッヒが一際大きな声を上げると、彼女の表情は翳っていった。
燃え尽きたかのように、彼女の声がか細いものへと変わっていく。
从 ∀从 「お前はまだ若い。生きろ、生きて生きぬけ。
そうすれば、いずれ銃を捨てることも出来る。
銃を捨てた時、お前はもっと広い世界を駆けていくことが出来る。
お前の世界が全部じゃあねーんだ。頼むから、死に急ぐんじゃねー」
从 ∀从 「あの娘を、守りぬけ。お前も死ぬな。
死ぬな、死なせるな……」
从 ゚∀从 「あたしはお願いしてるんじゃねぇ、命令だ。お前に断ることはできない」
( A ) 「……了解」
ドクオは部屋を後にし、救助した少女のいる部屋へと向かって行った。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:20:28.14 ID:z2vKhqYy0
- ******
コンコン、と言った小気味の良い、
扉をノックする音が響いていき、その音は内部にまで聞こえていく。
すると、「だーれー?」と言った、
ペニサスの間延びした声が扉越しに聞こえ、
(・A・) 「鬱田ドクオだよ」
と、フルネームで名乗ってみせた。
直後、カギを掛けられていた扉をペニサスが開けた。
彼女は、ドクオをとても不思議そうな目で見まわす。
('、`*川 「ふーん、ドッくんが女の子口説くようなタイプには見えなかったんだけどねー。
このマセガキめ。鏡を見て出直して来なさい」
(・A・) 「そういうわけにもいかないんだ」
ドクオは部屋の中へと押し入っていくが、
ペニサスは止めようともせず、彼の侵入を許した。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:22:51.33 ID:z2vKhqYy0
- 部屋の中は個室になっているようで、
軍施設の物にしては割とキレイなベッドに、
その傍にパイプイスが置かれており、部屋の隅に小さな机が置かれているだけだ。
川 ゚-゚) 「君は……」
ベッドの上には、ドクオが救助した後に背中に背負い、
死に物狂いで戦場を駆け抜けて基地に帰還した時の、
背中に背負われた少女が腰を掛けていた。
黒の長髪が艶やかに輝き、鋭く切れ上がった黒の瞳をしており、
大人びた雰囲気を彼女は放っている。向き合う彼等はまるで姉と弟のようだ。
(・A・) 「僕は鬱田ドクオね。君は?」
川 ゚-゚) 「私は素直クールだ。さっき、君のお母さんにクーってあだ名を付けられたよ。だから、クーで良い」
(;・A・) 「僕の“お母さん”?」
川 ゚-゚) 「ん? あの白髪の、アシンメトリーの人じゃないのか?」
(;・A・) 「あしんめとりー?」
川 ゚-゚) 「あぁ、すまない。男の子だものな。ヘアー用語を知らないのも無理はないか。
左右非対称のことで、つまり私は左目を隠した白髪の女性のことを言ったんだよ」
左目を隠した白髪の女性。ドクオの身の回りで、
その特徴に当てはまる者は一人しかいない。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:25:03.99 ID:z2vKhqYy0
- (;・A・) 「………ハインリッヒ少佐は僕のお母さんじゃないよ」
川 ゚-゚) 「え? だが、あの人はそうだと言っていたぞ」
(;・A・) 「うーん、母親って言ったら近いかもしれないけど、あの人は違うよ」
川 ゚-゚) 「じゃあ、何であの人は君のお母さんだって名乗ったんだ?」
(;・A・) 「分かんないけど、少佐は僕の師匠だよ。これだけは言える」
川 ゚-゚) 「ほう、君の何の師匠だ(;・A・) 「ちょっと待った」
川 ゚-゚) 「何だと言うんだ。いきなり遮って」
(・A・) 「話があるんだ。黙って聞いてほしい」
川 ゚-゚) 「スマン、生理的に無理だ」
(#・A・) 「だから黙って聞いてって言ってるだろ!」
ドクオはイラついてきたようで、語気に少々力が入ってしまう
もしかしたら、先ほどのハインリッヒとの会話が尾を引いているのかもしれない。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:28:01.68 ID:z2vKhqYy0
- (・A・) 「これから、カラマロスDNを抜けて、
難民キャンプのあるイミフまで君を護送する。ついて来て」
('、`*川 「ちょっと待ちなさい」
それまで静観していた、ペニサスがその場に割って入る。
('、`*川 「アンタ、武器も持たずにどうやって戦場を抜けようってわけ? 2人でお散歩でもしに行くつもり?」
(・A・) 「ハンドガンがある、サプレッサー付きのね。こころもたないけど、
サプレッサーが装着できる銃が支給されてないんだ。持ってく必要は無いよ。
使えばマズルフラッシュと発射音で見つかって、僕はミンチさ。
それに、皆の弾薬を減らすわけにもいかない。僕の銃はここに置いてく」
扉をノックする音が聞こえ、ペニサスが誰かを確認すると扉を開く。
そこから入って来たのはハインリッヒであった。
从 ゚∀从 「クーちゃんの病室はここかな〜? ハインお姉さんがお見舞いに来ましたよ〜っと」
陽気な声を出して言う彼女の肩には、
サプレッサーが装着されたアサルトライフル、M4カービンを肩に掛け、
手榴弾や弾薬が入っているであろうバックパックを腰に付けている。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/30(木) 23:58:05.47 ID:z2vKhqYy0
- (・A・) 「お見舞いにそんな物騒なもんいらないでしょうが……」
Σ从 ゚∀从 「おぉ、ドクオじゃーん。ちょうどいい所にいたな」
彼女はわざとらしく、
「何でここにいるの?」とでも言わんばかりに、驚いてみせる。
从 ゚∀从 「この肩にかけてる銃と、このバックパック。お前にやるよ。
まっ、アタシのお古なんだけどな」
そう言いながら、彼女はドクオの肩にM4カービンを掛け、
腰にバックパックを巻き付けていく。
(;・A・) 「えぇ〜? 何その演技。てか、重い!」
从 ^∀从 「母親がガキにプレゼントを渡すのは当然のことだろ? なっ? だから“遠慮なく”貰っとけよ」
(・A・) 「了解……とっととここを出させて貰いますよ。クー、行こう」
从 ゚∀从 「待て、こいつも持ってけ。
それと、夜間迷彩と黒いコートも用意してあるから、着替えていけ」
ハインリッヒが、腰のベルトに差したハンドガンを抜いて、
銃身を掴んでドクオに渡す。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/01(金) 00:02:49.94 ID:H235GNko0
- (・A・) 「ハンドガンは持ってるよ」
从 ゚∀从 「こいつは御守りみたいなもんだ、アタシはこいつで10年近く戦ってきた。
取りあえず、お前に持ってて欲しいんだ。アタシの、最初で最後の弟子にな」
差し出されたハンドガンは大きな物であり、
ハンドキャノンと呼ばれている、デザートイーグルだ。
从 ゚∀从 「求めよ、さらば与えられん。お前が望めば、銃を捨てることも、持つことも出来る。
お前が求めれば、もっと良い世界が見られる。己を変えるのは己でしか無い。
じゃあな、ドクオ。クー。お前等が幸いであることを願う」
('、`*川 「まっ、私たちがそうそう死ぬわけないじゃないの。
アンタは私達みんなの子供よ。だから、アンタも死にはしない。またね、ドクオ」
(・A・) 「うん。またね、ハイン。ペニサス。アンタらの勝利を願っているよ」
川 ゚-゚) 「助けて頂いて、ありがとうございました。それでは」
ドクオとクールが部屋を出ていくのを、ハインリッヒとペニサスは見届けた。
恐らく、これが今生の別れになるのであろうと、噛みしめながら。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/01(金) 00:04:25.46 ID:H235GNko0
- ******
ドクオは夜間迷彩を施した戦闘服に着替え、クールは黒い軍用コートを羽織ると、
彼等は夜闇に溶け込んでしまった。
敵に包囲されつつある基地を、誰にも見付からないように抜けだし、
クールが付いていける速度でドクオは移動する。
空は真っ黒に染まり、三日月が世界を照らしていた。
彼等は残骸となった市街地を、敵に注意を張り巡らしながら抜けて行く。
幸いなことに、未だに敵に遭遇してはいない。
川 ゚-゚) 「………」
敵に遭遇しないのは運がいいのか、
それともクールの目の前を歩く少年が、そういった道を選んで進んでいるからなのか、
非戦闘員であるクールにはわからないことであった。
難民キャンプへの進行は、着々と進んでいる。
そういうことだけを知っていれば、彼女には十分だ。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/01(金) 00:05:55.59 ID:H235GNko0
- スーパーマーケットであったのであろう、廃屋を見つけ、
そこを壁伝いに進んでいく。巨大な駐車場には瓦礫が積もっており、
何台か車の残骸も見かける。
川 ゚-゚) 「あ……」
クールが、見覚えのある光景を見て声を漏らす。
(・A・) 「どうかした?」
川 ゚-゚) 「いや、見覚えのある光景でね。
スーパーだっていうのは、見て分かるだろう?」
(;・A・) 「すーぱー? これが?」
ドクオが信じられないと言ったように、
疑問符を浮かべる。
川 ゚-゚) 「いや、見れば普通分かるだろう。とにかく、ここはスーパーだったんだ。
先週の日曜、私は家族と一緒にここに来たんだ。先週だぞ? 先週。
大きなところだったよ。でも、たったの一日で、一撃でこんな風に朽ち果ててしまうんだな……」
クールが先週の出来事を思い出すように、遠い目をして、
自らの骨組みを曝したスーパーマーケットの残骸を見詰める。
感慨深そうにしながらも、彼女は目の前を歩いていく、
自分よりも小さな背中から離れずに歩き続ける。
戻る 次へ