( ^ω^)ブーンは励まされ続けるようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 19:55:51.10 ID:Mxo68NWJ0







『じゅー年ごのぼくえ。


ぼくわ、ゆーめー人になれていますか?


それはとてもしあわせなゆーめー人ですか?


おへんじまつてます。

         ブーン 』






2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 19:57:54.23 ID:Mxo68NWJ0
( ^ω^)「ふぅ……」

薄っすら闇がかった部屋で小さな吐息が聞こえる。
その息の主である少年は、先ほどまで必死に動かしていた鉛筆を、様々な物が陣取る机の上に乱雑に放った。
投げられた勢いそのままに転がる鉛筆は、既に少年の興味を引くことはない。

少年は、机の上に申し訳程度に陣とっていた紙を満面の笑みで拾い上げ、四つ折りにして部屋を飛び出した。
少し太めの身体を揺らし、自らの母の下へと向かう。

( ^ω^)「お母さん! これ書いたお!」

少年は嬉しそうに自分の母親へと小さな紙片を渡した。
それは折り紙を利用して書かれた粗末なものであったが、母親は少年を一目見て。
紙片を受け取り中身を見て、そして優しそうに微笑む。

J( 'ー`)し「ブーン、よく書けたね。これは庭の木の下に埋めて、大事にとっておこうね」

少年は、返事代わりにニッコリと大きく頷いた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:00:24.36 ID:Mxo68NWJ0
少年は、自宅の庭が大好きだった。
高台に位置する自宅の庭からは、全体とまではいかないまでも、街並みを見渡すことができたし、
夕暮れ時には茜空に輝く夕日が庭にたつ立派な一本松を金色に照らして、それは素晴らしく見事なものだった。

このような家で母とは微笑ましいやり取りを繰り返し、夜になれば優しい父親がお土産を持って帰ってくる。
時には一家で外食や旅行に出たりして。
こんな幸せな日々が続くと、少年、ブーンは信じ切っていた。

( ^ω^)「お父さん、おかえり!」

(´・ω・`)「あぁ、ただいま」

J( 'ー`)し「あなた、お疲れ様」

いつまでも続くのだと。
一片の疑問も抱かずに、ブーンは信じていた。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:03:28.85 ID:Mxo68NWJ0
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( ^ω^)ブーンは励まされ続けるようです








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7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:04:49.43 ID:Mxo68NWJ0
翌朝、小学校へ向かう準備を済まし、ブーンは朝食を取っていた。
父親は、ニュースを見ながら煙草を吸っている。
母親は、何やら慌しげに使い終わった食器を洗っていた。

普段は何気なくつけているテレビ。
いつもならブーンは番組の内容など意も介さないのだが、その日は違った。
ニュースでは、いかにも不思議そうな表情をしたアナウンサーが、いかにも不思議なニュースを読み上げはじめる。

(*‘ω‘ *) 『最近、発言した事柄通りの症状が自分自身に起きてしまうといった現象が稀に起きています。
       原因は不明。自己暗示の一種なのではないかと研究が進んでいます』

父の煙草から上がる紫煙にわずかな不快感を抱きながらも、ブーンはそのニュースに関心を持った。
発言した事柄通りの症状が自分自身に起きてしまうといった現象。
ブーンの幼い頭では理解はできなかったが、それでもニュースを読み上げるアナウンサーの表情から異常な事態が起きていることは掴めた。

( ^ω^)「お父さん、これってどういうことだお?」

ブーンが父親に聞く。
だが、その声は来訪者を知らせるインターフォンの音によって、父親の意識に届くことはなかった。
整った、機械的な音が各々の耳に届くと、母親は手を泡だらけにしたままブーンに対して口を開く。

J( 'ー`)し「ほら、ブーン。ツンちゃんが来たみたいよ」

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:06:45.86 ID:Mxo68NWJ0
六年間使い古され、そこらに傷が入っているランドセルを背負い、ブーンは家を出る。
玄関先には、一人の小柄な少女が立っていた。
ツン。隣人同士で、ブーンとはまだ言葉も喋れなかった頃からの付き合いだ。

僅かに茶色がかった、ふわふわの猫毛を風に揺らし。
少女特有のどこか大人びた口調で、いつもブーンの面倒を見ている。

そんな幼馴染は、毎朝のようにブーンを迎えに来てくれていた。
その小さな背に、ブーンと同じく傷だらけのランドセルを背負って。
 
ξ ゚听)ξ「「おはよう」」(^ω^ )

どちらともなく挨拶を交わして、二人は通学路を歩み始めた。
ブーンの歩幅は広く、ツンの歩幅は狭い。
異なる歩幅ながらも、互いに歩く速度を調節して横並びに、何気ない会話を交わしながら歩く。

会話に夢中になっていれば、意外と時間を忘れてしまうもので。
二人は気がつけば校門の前にたどり着いていた。

( ´ω`)「はぁ……」

ξ ゚听)ξ「……」

そこでブーンが小さくため息を漏らしたのを、ツンは聞き逃さなかった。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:09:40.11 ID:Mxo68NWJ0
( ´ω`)「僕、学校はあまり好きじゃないお」

外履きから上履きに履き替え、古びた廊下の雑踏に紛れながらブーンは溜息混じりに呟いた。

ξ ゚听)ξ「そんなこと言っちゃ駄目でしょ」

それに対して、ツンはなだめる。
だが、彼女は何故ブーンが学校を嫌がるのか、その理由を知っていた。

ふと、ツンが窓に目を見遣ると、そこに映る空は暗く、
分厚い雲が我が物顔で居座っていたので、ツンはブーンの発言と合わせて深く心が沈んだ。


廊下を歩いていくと、やがて古ぼけたプレートが見えてくる。
六年三組。ブーンとツンの在籍するクラスだ。
そこにたどり着き、ブーンは浮かない気分を押し込めて扉を開いた。

( ・∀・)「あ、バカ男がきたぞ!」

扉の開く音とほぼ同時に、その言葉はブーンとツンの耳に届く。
ブーンは時が止まったかのように身体の運動をやめ、ツンは一瞬眉をひそめた。
 
10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:12:03.07 ID:Mxo68NWJ0
ブーンとツン。
彼らが在籍するクラスには、問題児が一人いた。
まさに先程、ブーンに暴言を吐いたモララーという少年だ。

大柄で色黒。
小学六年生には見えない容姿に、頭脳明晰。
このようなスペックを要していれば、自然と周囲から持ち上げられる。

こうしてモララーは、気付けば自他共に認める六年三組のリーダー的存在となったのだ。
そして、このような人間は得てして自分より遥かに劣る人物を見下すらしい。
その人物に当たるのが、ブーンだった。

トップがブーンを排除し始めれば、周囲の人間もそれに従ってしまう。
結果的に今、ブーンの周りにいる友達といえる存在はツン、ただ一人となってしまった。

( ・∀・)「あれ? ここは小学校だよな? 僕ちゃん、ここは幼稚園じゃないでちゅよー」

モララーがふざけながらブーンに声をかける。
何が面白いのか、モララーの取り巻き達は腹を抱えて笑っていた。

( ・∀・)「頭脳が追いついてないんだからお前は小学校に来るなよ」

( ´ω`)「お……ごめん、だお……」

笑うモララー。
何も言い返せず、瞳に涙を溜めるブーン。
口をへの字に結び、苛立ちを隠しきれないツン。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:14:43.18 ID:Mxo68NWJ0
その日の帰り道。
アスファルトで塗装された道を、小さな足音が二つ重なって響く。

ξ#゚听)ξ「ほんと、モララーのやつ最低!」

小さな口を極限まで尖らせ。
ツンは整った顔を怒りに歪ませながら、モララーを非難していた。

( ´ω`)「違うお。僕がいけないんだお」

ξ#゚听)ξ「何言ってるの! ブーンは何も悪くないんだよ!」

ツンの高ぶった怒りは、いまや行き先を選ばず。
たとえ本人がフォローしているつもりでも、確かにその矛先はブーンに向けられてしまっていた。

( ´ω`)「お……ごめんお……」

ξ#゚听)ξ「そうやって簡単に謝らないっ!」

日が傾き、ゆっくりと暗くなりつつある夕空の下。
ツンの怒声が響き渡った。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:16:41.56 ID:Mxo68NWJ0
( ^ω^)「ツンを怒らせちゃったお……。明日学校で謝らないと」

帰宅後、ブーンは自宅の庭に出ていた。
一本松に背を預け、既に姿を半分以上地に沈めた太陽を眺める。
こうすることで、ブーンの中の学校での嫌な思い出も少しは忘れることが出来るのだった。

細い一筋の線を残し、夕日は沈んでいく。
夜が訪れた町並みを一望し、ぽつぽつと明かりの灯った家屋を眺める。
それぞれの家には、それぞれの家族と、それぞれの幸せがあるはずだった。

J( 'ー`)し「ブーン、ごはんよ」

( ^ω^)「お、今行くおー」

家の中から母親の声が聞こえる。
ブーンは尻についた泥を軽く叩き落とし、声に答えて家の中へと戻っていった。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:19:06.71 ID:Mxo68NWJ0
ξ ゚听)ξ「おはよう」

翌朝。
いつものようにツンはブーンを迎えに来ていた。

( ^ω^)「おはようだお」

ブーンもそれに答える。
二つ並んだ赤と黒のランドセルが、一定の間隔で揺れ始めた。

空は、昨日の雲をまだ引き連れたままであった。

( ・∀・)「よう、バカ男。よく小学校までの道を覚えていられたな」

教室に着くたびに、寄せられる罵声。
モララーのやけに通る声が、ブーンの耳から進入し。
彼の心を揺さぶった。

( ´ω`)「おぉ……」

ξ#゚听)ξ「……」

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:24:03.38 ID:Mxo68NWJ0
翌日も。

( ・∀・)「おい、ブーン。今までどうやって生きてきたらそんな価値のない人間になれるのか教えてくれよ」

( ´ω`)「……おぉ」

ξ#゚听)ξ「……」

その翌日も。

( ・∀・)「本当、お前に学校来られると困るんだよね。その小さな脳みそが感染するかもしれないだろ」

( ´ω`)「……ごめんだお」

ξ#゚听)ξ「……」

さらにその翌日も。

( ・∀・)「そろそろ息の仕方も忘れて死んでみるとかどうよ?」

( ´ω`)「それは……むりだお」

ξ#゚听)ξ「……」

ブーンに対するいじめが止むことはなかった。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:27:52.00 ID:Mxo68NWJ0
だが、ある日を機転に、この物語は大きく動く。

ξ ゚听)ξ「おはよう」

( ^ω^)「おはようだお」

ツンとブーンは、二人並んで歩いていく。
既に見慣れた通学路。

朝の静かな空気に、二人の会話が響く。

ξ ゚听)ξ「モララーのことは気にしないで頑張るのよ」

( ^ω^)「……ありがとうだお。いつもツンは僕のこと励ましてくれるお」

ξ ゚听)ξ「というか、モララーが嫌いなだけなんだけどね」

( ^ω^)「お……」

ブーンは、気付いていた。
いつもブーンがいじめられるとき、ツンが怒りと悔しさを織り交ぜたような複雑な顔をしていることを。
そして、そのことから、このツンの言葉は単なる照れ隠しなのだと。

(*^ω^)「……」

ξ;゚听)ξ「な、何笑ってるのよ」

ブーンは、ツンが自分のことを心配してくれていることが、たまらなく嬉しかった。
自分には、まだ立派な味方がいるのだと再確認できたからだ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:31:39.17 ID:Mxo68NWJ0
二人が学校に着き、クラスを目指す。
ブーンはこの時間が、一日の中で一番嫌いな時間であった。

(;^ω^)「ゴクリ……」

これから自分がいじめられる。
確定的な出来事を前に、それに対する覚悟を決めなければならない時間だったから。

ξ ゚听)ξ「……」

ツンもそのことを理解している。
だからこそ、二人の口数は減っているのだ。

それでも教室は近付いてくる。
今まで何度も通ってきて、これから何度も通うことになる教室だ。
ドアにツンが手を掛ける。

( ・∀・)「……お?」

扉を引く音に、室内のモララーが反応した。
また、ブーンに雑言が投げかけられる。
そうブーンが覚悟した時。

( ・∀・)「よう、ツン」

モララーは意外な行動に出た。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:35:32.25 ID:Mxo68NWJ0
(;^ω^)「お……?」

ξ;゚听)ξ「……え?」

ブーンのことなど目もくれず、モララーはツンの元へと歩み寄る。
これにはブーンだけではなく、ツンも驚いたようで。
二人の口からは拍子抜けした声が漏れた。

( ・∀・)「ちょっと、良いか?」

ξ;゚听)ξ「な、何よ……?」

モララーに連れられ、ツンはブーンの傍から離れていく。
教室の角にはモララーの取り巻き達が溜まっており、
どうやらツンはそこへと連れて行かれるようだった。

(;^ω^)「おー……」

しばらくは唖然としていたブーン。
だが、そう間を置かない内に彼の耳へ強烈な怒声が届くこととなる。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:38:15.03 ID:Mxo68NWJ0
ξ#゚听)ξ「ふざけないで! なんで私までブーンをいじめなくちゃいけないのよ!」

Σ(;^ω^)「おぉっ!?」

ツンの声が響く。
視界の先で、ツンが頭一つ分もの身長差があるモララーに飛び掛ったのを、
ブーンの目はしっかりと捉えていた。

騒然とする教室。
様々な言葉が飛び交う。

(;^ω^)「……?」

いまだドア付近で立ち止まっているブーンは、
全く状況を把握できていなかった。

ただひとつ。

(;^ω^)「ツン……」

自分の幼馴染が、この騒動の原因であること以外は。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:41:45.68 ID:Mxo68NWJ0
帰宅後、ブーンは自宅の庭にはえる一本松に背をあずけ、
沈みゆく夕日が照らし出す町並みを眺めていた。

( ´ω`)「どうするお……」

呟くブーンの影は西日に照らされ東へと色濃く伸びる。
普段は好きな町の夕暮れも、今のブーンには哀愁だけを感じさせる。

ツンに飛び掛られたモララーは体格差も味方してツンを軽くいなした。
それでも今まで歯向かわれた事のないモララーにとって、初めての抵抗はいささか面食らったらしい。
少し驚いた顔をして、その後すぐに顔を真っ赤に染めながら。

(#・∀・)「調子に乗るな!」

そう叫んで、その日のブーンいじめは終了した。

ツンはブーンに対し、勝利の笑みを浮かべていたが、
ブーンは素直に喜べなかった。

王者に謀反を起こした平民は一体どうなるのか。
当然、処刑が待っている。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:43:19.30 ID:Mxo68NWJ0
( ´ω`)「明日から絶対ツンがいじめられるお……」

今日の出来事に対し、ブーンは小さく呟く。
ツンが自分を庇ってくれたのは嬉しかった。
だが、今度はそのせいでツンがいじめのターゲットにされるだろう。

結果的には、ブーンがいるから、ツンがいじめられてしまう。
今のブーンにはそれが何よりも辛かった。

自分が愚かなせいで、周囲の人間を傷つけてしまう。
自分が一人でモララーに立ち向かえば、ツンを巻き込むことはなかった。

一度、マイナスに向かった感情は留まる事を知らずに、どんどんとブーンを落ち込ませる。
もういやだ、と零すブーンの頬には一筋の涙が道を作っていた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:51:56.90 ID:Mxo68NWJ0
( ;ω;)「……お?」

ふと、ブーンは気が付く。
夕日は既に沈んでいるのにもかかわらず。
ブーンのいる庭が夕日に照らされているかのように黄金色に輝いているのを。

よくよく周囲を観察してみれば、ブーン自身も輝いていることに気付く。
何故だろうと光源を探すも、近くには黄金色に照らされる松が、
その高貴な姿を更に輝かせるのみ。

ブーンが心を奪われていると、いつの間にか不可思議な現象はおさまっていた。
夜の暗闇と静寂がブーンを包み込む。

謎の輝きに気をとられたブーンは先程までの悲しみをすっかりと忘れ。
暖かな光が宿る家へと戻っていった。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:53:35.29 ID:Mxo68NWJ0
翌日、やはりブーンの予想通りに、ツンはモララーのターゲットになっていた。
普段と同じく、ブーンと一緒に通学してきたツン。
クラスに着き、彼女は友人に挨拶をする。

ξ ゚听)ξ「おはよー」

だが、返事はない。
まるで腫れ物を扱うかの態度で、そそくさと挨拶された人物は自らの席へと向かうのであった。

(;^ω^)「……お」

ξ ゚听)ξ「まぁ、でしょうね」

ツンは大概予想がついていたようで、特に意に介さずに自分の席へと向かう。
むしろ、ブーンの方が動揺していたくらいだ。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:56:10.63 ID:Mxo68NWJ0
だが。
ツンが彼女の席へと着いた時。
初めて驚きの声が上がった。

ξ;゚听)ξ「あらら、ここまでは予想していなかったわ」

机の上には大量の虫の死骸。
椅子には大量の画鋲。
それも、一つ一つ丁寧に接着剤で固定されている。

机の中を覗いてみれば、まるでこの机はゴミ箱かと見間違うほどの。
教室中のゴミが集結されていた。

戸惑う姿を見ながら、ニヤニヤと笑うモララーとその取り巻き。
あまりにもわかりやすすぎる犯人であった。

ξ ゚听)ξ「ちょっと、ブーン。空き教室から机持ってくるの手伝ってくれない? さすがにこれで授業は受けられないわ」

(;^ω^)「お? わ、わかったお」

ツンの冷静な対応に、やはり驚きながらブーンも返事をする。
二人が出て行った教室からは、モララー達の笑い声が響いていた。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 20:59:57.41 ID:Mxo68NWJ0
結局、その後もツンに対する陰湿ないじめはやむことがなかった。
授業中も教師の目を盗み、ツンに絶えず投げ込まれるゴミの数々。
教師も、時折不穏には思っていたようだが。

ξ ゚听)ξ「別に何でもありません」

張本人のツンが、その度にこの一言で片付けてしまうため。
教師達からの救いもなく、ツンは為すがままにいじめられていた。

(;^ω^)「ツン……」

一方ブーンは、いじめのターゲットがツンに移った為、自身への被害は殆どなくなっていた。
だが彼の心は、自分自身がいじめられているとき以上に傷付いている。
いじめられていた事は辛かったが、それでもツンがいじめられるよりはマシだとさえ、感じていた。

そして、その日の授業は滞りもなく進んでいく。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:02:08.36 ID:Mxo68NWJ0
放課後。
ブーンがツンの元へと歩み寄る。
一緒に帰宅するためと、もう一つ。

(;^ω^)「ツン、何で先生に言わなかったんだお?」

疑問をツンにぶつけるためだ。

ツンは、ひたすらいじめられても教師には隠していた。
まるで、モララーを庇っているようにも捉えられる。
だが、ツンは表情一つ変えずに答えた。

ξ ゚听)ξ「別に、私がモララーなんかにいじめられてるとか先生に思われたくなかっただけ」

それに、と続けて。

ξ ゚听)ξ「ブーンだって今まで先生に言わなかったじゃん。ブーンが言わないのに私が言うのはなんかずるくない?」

(;^ω^)「お……」

ブーンが今まで教師に言わなかったのは、その後のモララーからの報復を恐れていたためだ。
ツンの論理がずれていることは、いくら頭の悪いブーンでも気付いていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:04:51.14 ID:Mxo68NWJ0
だが、ブーンが口を開こうとする前に。

ξ ゚听)ξ「あとごめん。私、放課後モララーに屋上へ呼び出されているから今日は一緒に帰れないの」

ツンが強引に言葉を続ける。
そして、ブーンの言葉は押さえつけられることとなった。

(;^ω^)「モララーに、かお?」

ξ ゚听)ξ「そう、だから先に帰っててね」

飄々と言い放つツンに対し、混乱し続けるブーン。
何故モララーがツンを呼び出しているのか。
考えに考えても、その答えは出ない。

ξ ゚听)ξ「とにかく、帰りなさい」

(;^ω^)「お……、わかったお」

結局、ブーンはツンに言葉に圧されて、一人で帰ることとなってしまった。

ξ ゚听)ξ「……」

ツンの顔に落ちた、一瞬の憂いに気づくこともなく。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:11:35.66 ID:Mxo68NWJ0
( ・∀・)「お、ちゃんと来たのか」

ξ ゚听)ξ「……」

屋上へ入るため、鋼鉄製の扉を開く。
少女であるツンにとっては、重い。
それでも、ツンは迷うこともなく開いた。

その先には、絶えずニヤニヤと笑みを浮かべたモララーとその取り巻き達。
一斉にたくさんの視線がツンへと向けられた。

ξ ゚听)ξ「で、なんの用?」

ツンは態度を崩さずに言葉を発する。
対して、モララーは相変わらず嫌味な笑みを浮かべたまま。

( ・∀・)「なに、大したことはないんだ」

そして、ゆっくりとモララーから言葉が紡がれる。

( ・∀・)「たださ、小学生のうちに童貞卒業しておくのも良いかなって思って」

ξ ゚听)ξ「……は?」

モララーの言葉に、一瞬思考が止まるツン。
取り巻き達から歓声が湧き上がる。
屋上に、一際強い風が吹き込んだ。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:17:47.01 ID:Mxo68NWJ0
( ・∀・)「おい、やれ」

モララーが取り巻き達に小声で指示をする。
一つ頷き、数人がツンの元へと歩み寄っていった。

ξ#゚听)ξ「なにバカなこと言って……」

ξ;゚听)ξ「きゃっ」

ただでさえツンは女子なのだ。
力で男子にかなうわけがない。
それも、数人の男子になど。

手首をつかまれ、腕を持たれ。
身体の自由を奪われたツン。
そんな彼女の元へ、モララーが一歩一歩踏みしめながら寄ってくる。

( ・∀・)「よろこべよ。俺の最初の女になれるんだからな」

ξ;゚听)ξ「……!」

普段は気丈なツンであったが、この時ばかりは恐怖心から声を上げることができなくなっていた。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:22:27.09 ID:Mxo68NWJ0
( ・∀・)「へぇ、かわいいパンツはいてるじゃん」

この時、ツンはスカートをはいていた。
それを、軽く持ち上げるモララー。
取り巻き達から、感嘆の声が漏れる。

ξ;゚听)ξ「ひっ……」

( ・∀・)「まぁ中身は後のお楽しみ、っと」

一旦、ツンのスカートから手を離し。
今度は上着へと手を掛ける。

( ・∀・)「おらっ」

ξ;゚听)ξ「……っ!」

一気に捲し上げられた上半身。
そこにはまだ膨らみ始めの小振りな胸と。
それを包み込むスポーツブラがあった。

( ・∀・)「へぇ、やっぱりもうブラはつけてるんだな」

モララーはマジマジとそれを観察する。
そして、その時であった。

屋上の扉が一気に開けられたのは。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:28:39.97 ID:Mxo68NWJ0
一斉にその場にいる全員の目が扉へと向けられる。
そこには、全力で走ってきたのだろう。
肩で息をするブーンの姿があった。

(;^ω^)「ツン……! 大丈夫かお?」

ξ;゚听)ξ「ブーン!?」

( ・∀・)「……チッ。本当にあいつは空気読めないな」

ブーンの目に映ったのは、モララーの取り巻き達。
取り巻き達に捕まるツン。
そしてツンの服を捲し上げるモララーであった。

ξ;゚听)ξ「なんで……先帰ってって言ったじゃない」

(;^ω^)「やっぱりなんか嫌な予感がして……戻ってきちゃったんだお」

( ・∀・)「……」

二人の会話を、どこか冷めた目で眺めるモララー。
その口から、ブーンへと言葉が放たれる。

( ・∀・)「おい、そういうのは正義の味方がやることだ。お前の出番じゃない」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:33:57.02 ID:Mxo68NWJ0
(;^ω^)「そんなの関係ないお! お願いだからツンをいじめるのはやめてくれお!」

ξ;゚听)ξ「ブーン……」

この時、ブーンは初めてモララーに口答えをした。
だがしかし。
絶対的強者に対する口答えは、対象の機嫌を損ねるだけだった。

(#・∀・)「うるせぇな。俺は今からこの女と童貞を卒業するところだったんだ」

怒りをあらわにして。
モララーはブーンへと叫び始めた。

(#・∀・)「良いからさっさと帰れよ! お前はまた明日から遊んでやるからな」

(#・∀・)「バカはバカなりに、バカらしい人生を歩んでろ!」

モララーは一気に捲くし立てる。
取り巻き達も、モララーに便乗し、ブーンへと罵言を投げかけていた。

屋上が、一気に騒がしくなる。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:35:46.57 ID:Mxo68NWJ0
.







(#^ω^)「うっさいお! バカって言った奴がバカなんだお!」







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47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:40:47.24 ID:Mxo68NWJ0
ブーンはモララーへ向かって叫んだ。
精一杯の勇気に、怒りを加えた行動だ。
モララーは一瞬、驚愕の表情を浮かべたが、すぐに反論しようとする。

その時であった。

コンクリートで塗装されている屋上が。
鉄製の重い扉が。
ツンやモララーや、その取り巻き達が。

ブーンの周囲、全てのものが黄金一色に染まったのは。

(;^ω^)「お……? これ、昨日の庭と同じやつだお……」

見覚えのある光に心を奪われるブーン。
昨夜見た光が、今度は屋上で発生した。
ブーンは二度も、驚くべき光景に遭遇したのだ。

しかし、すぐにそれ以上の驚きがブーンの眼前に現れた。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:45:22.18 ID:Mxo68NWJ0
ξ;゚听)ξ「なんなの……今の?」

光が止んだ頃。
ツンが驚きの声を上げた。
しかし、その驚きは光に対してではない。

彼女の目の前の人物に対しての驚きであった。

ξ;゚听)ξ「ってあれ……? モララー?」

(;^ω^)「……お?」

(・∀ ・)「ぴろぷれぽらにゅろっちょwwwwwww」

突如、モララーが奇声を発し始めたのだ。
それも、上半身を脱ぎながら。
しっかりと荒ぶる鷹のポーズまで決めている。

それどころではない。
モララーと一緒にブーンに罵声を浴びせた取り巻き達も、何人かはモララーのように奇行を取り始めたのだ。

まるで、バカになったかのように。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:50:00.52 ID:Mxo68NWJ0
その翌日から、モララーは姿を見せなくなっていた。
当然、モララーと同時に正気を失った取り巻き達も。

(*^ω^)「おっおっ」

ξ ゚听)ξ「……」

結果的に、ブーンやツンへのいじめはなくなった。
トップの人間が消えてしまえば、案外すんなりと解決するものだ。

ブーンは、初めて学校生活を楽しみ始めた。
しかし、ツンの表情だけは、いじめがなくなっても険しいままであった。

数人分。
彼らの教室には使う人間がいなくなった机と椅子が。
寂しげに置かれていた。

ξ ゚听)ξ「……」

どこか遠い目で。
ツンはブーンとその机たちを交互に見比べていた。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 21:56:09.32 ID:Mxo68NWJ0
そんな日々が何日か過ぎた頃。

ξ ゚听)ξ「……今日ブーンの家に行っていいかな?」

(*^ω^)「お? おkだお」

ξ ゚听)ξ「……話したいことがあるの」

学校からの帰り道。
モララーの魔手から逃れ、幸せな日々を送っているブーンに、ツンが声をかける。
その表情は、暗い。

対照的にブーンは、モララーをはじめ、取り巻き達も不思議な現象で退けられ、
その上、ツンを助けることが出来たため、連日上機嫌であった。
満面の笑みで、首を縦に振る。

一旦、各々の家に帰宅し。
数分後。

夕日へと姿を変える太陽が見守る中、ブーンとツンは一本松のそびえる庭にいる。
ツンが家に来るときは、毎回庭で遊んでいた。
風が、そよぐ。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:00:43.29 ID:Mxo68NWJ0
(*^ω^)「で、話って何だお?」

ブーンが、若干の下心を織り交ぜつつ声をかける。
一方、ツンの表情は浮かないまま。

ξ ゚听)ξ「まずは、助けてくれてありがとうね」

だけど、とツンは続ける。

ξ ゚听)ξ「なんでモララー達を学校に来れなくなるまでしちゃったの?」

ξ ゚听)ξ「みんな、おかしくなっちゃったんだよ?」

ξ ゚听)ξ「ブーンがやったんだよね?」

ツンの示していることは、モララー達の変化のことだろう。
それならば、ブーンも何故彼らがおかしくなったのかは知らない。
だが、ツンはブーンが原因なのだと確信していた。

(*^ω^)「僕も何がなんだかわからないお」

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:05:43.35 ID:Mxo68NWJ0
ブーンの返答を聞いたツンの表情は、暗い。

ξ )ξ「じゃあなんで……」


「ブーンは笑っているの?」


( ^ω^)「……お?」

そこでブーンは気がつく。
思えば、モララー達が奇行をとりだしてから今まで、
ツンを救えた嬉しさと、モララーを退けた誇らしさから、絶えず笑みを浮かべていたことを。

ξ ;;)ξ「ブーン……変わっちゃったね。だっておかしいよ」

夕日がツンの顔を赤く染める。
ツンの頬が、光を反射して僅かに輝く。
そこで、ブーンはツンが泣いていることに気がついた。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:11:43.84 ID:Mxo68NWJ0
ξ ;;)ξ「モララーだって一応クラスの仲間でしょ? それがおかしくなったのに何で笑ってられるの?」

ξ ;;)ξ「私、モララーの家まで行ったよ。モララーのお母さんに様子聞いたよ?」

ξ ;;)ξ「今、モララーは学校までの道すらも忘れちゃって学校に来れないんだって。バカになっちゃったんだって」

ξ ;;)ξ「確かにモララーは最低なやつだったけど、でも壊れて良いわけないでしょ?」

ほぼ一息でツンは言い切った。

ξ ;;)ξ「こんなブーンは私の好きなブーンじゃないよ!」

ξ ;;)ξ「人が壊れて喜ぶブーンなんて死んじゃえ!」

ξ ;;)ξ「元のブーンに戻ってよ!」

(;^ω^)「え……?」

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:12:46.66 ID:Mxo68NWJ0
.









まさにその瞬間。
黄金色の光が、庭を覆いつくした。










.

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:14:19.45 ID:Mxo68NWJ0
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ツンが叫び終えるのと、
ブーンがショックを受けるの。

黄金色の光が庭を覆ったのと、
ツンが倒れたの。

それらが起きたのは、ほぼ同時であった。









.

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:19:40.37 ID:Mxo68NWJ0
(;^ω^)「ツン……?」

ブーンは、先日見たニュースを、ふと思い出した。

――(*‘ω‘ *) 『最近、発言した事柄通りの症状が自分自身に起きてしまうといった現象が稀に起きています。
         原因は不明。自己暗示の一種なのではないかと研究が進んでいます』

そして、ブーンの頭は今まででは考えられないほどの速度で回りだす。

モララーが、ブーンにバカと言った。
結果、モララーがバカになった。
『発言した事柄どおりの症状が自分自身に起きてしまうといった現象』に、当てはまるのではないか。

また、その時。
黄金色の輝きが、屋上を覆った。
光と同時に、モララーはバカになった。

もしや、あの現象は自己暗示でもなんでもない。
放った言葉をあの光が跳ね返して、実現させているのだとしたら。

ならば、今のツンは。
最悪の予想がブーンの頭をよぎった。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:26:22.02 ID:Mxo68NWJ0
即座にブーンがツンの元へと駆け寄る。

ξ ;;)ξ「ブーン……苦しいよ……ブーン……」

(;^ω^)「ツン!? 大丈夫かお?」

ξ ;;)ξ「またあの時みたいに助けてよ……ブーン……」

(;^ω^)「僕が助けるから! だからしっかりしてくれお!」

ξ ;;)ξ「痛い……苦しい……。なんで……こんな……急に……つらいの……?」

(;^ω^)「すぐお医者さん呼ぶから! 大丈夫だお!」

ブーンの叫びが、庭に響く。
対照的に、ツンの声はどんどんと力を失っていった。

ξ ;;)ξ「わた、し……死んじゃうんだね……。大好き、なブーンに、死んじゃえ、なん、て言った、から……」

( ;ω;)「ツン!? 何言ってるんだお? また明日も一緒に学校行くお!」

ξ ;;)ξ「ごめ、んね……ブーン……。大好き、だった、よ……」

( ;ω;)「駄目だお! ツン! 死んじゃ駄目なんだお!」

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:32:41.43 ID:Mxo68NWJ0
ブーンが叫んだときであった。
その瞬間。
またも例の光が、今度はツンの体から発せられた。

それは今までのどの光よりも強く。
そして美しい輝きであった。

しかしブーンは気付いていなかった。
自らの身に訪れた変化を。

今までの光は、ブーンから発せられていた。
ブーンから発せられた光は、ブーンに向けて放たれた言葉を跳ね返していた。

今回は、ツンから光が発せられた。
その光は確かにブーンを包み込み、彼の体に変化を及ぼしたのだ。


最期の光を放ち、ついに息を引き取ったツンの身体を支えたまま。
夕日の暖かな光が二人を照らし。
町中の悲しみを携えたような冷たい風が、何度もブーンの濡れた頬を撫でていった。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:38:37.69 ID:Mxo68NWJ0
時は経ち、十年後。
更地となったその場に、一人の痩せ細った青年が訪れた。
その手には、一枚の手紙が握られている。

ここに住んでいた家族は、子どもが不審死した家として、
当時、大きくマスメディアに取り上げられた。

多大なるストレスからか、世間体からか、一家は離散。
その家族の少年は、光の現象の調査として、どこかへ連れ去られていったらしい。




家は無くなれど、かつて少年だった頃の彼が気に入っていた大きな一本松は姿を残していた。
その大木の元。

青年が子どもの頃に手紙を埋めた場所へ、埋められる。

92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:43:01.12 ID:Mxo68NWJ0
『十年前の僕へ。

 僕は、有名人にはなれました。ただし、幸せではありません。

 深い悲しみを覚えることによって、自己防衛の一種として手に入れたこの力は

 君の一番大切な友人を殺してしまいました。

 周囲の人間からは避けられ、家族からすらも避けられて。

 僕はとある大学の研究対象として連れて行かれました。

 やがて、そこで僕のような症状が発生した場合の活用方法が発見されます。

 その活用方法が発表されたとき、僕はやっと外に出られました。

 外にいる人たちは情報を聞きつけたのか、僕に幸せになれ、だの元気になれ、だのを
  
 それはそれは嬉しそうに言ってくるのです。』

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/02/20(土) 22:46:47.47 ID:Mxo68NWJ0
『本当にもう、最悪です。

 あまりの絶望から死のうとも思いました。

 しかし、僕は大切な友人にも深い悲しみを覚えさせてしまったためか
 
 不死となってしまったのです。

 もうすでに何日も食事をしていません。息だって止めています。

 ですが、不死となったこの体が死ぬことを許してはくれないのです。

 どうか十年前の僕よ。

 このような過ちを起こさないでください。

 それではまた僕は、死にたがりながらも皆に励まされ続ける旅路を続けたいと思います。

 お元気で。さようなら。



                                       ブーン』


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