- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:27:32.26 ID:F4S3k0jb0
- まどろみの中、朧気に浮かぶ景色。
映るのは青き大空、微かに揺れる木々。
聞こえるのは囀る小鳥たちの鳴き声。
不意にかかる柔らかな声。
−やっぱり、ここにいた……
−やぁ 。どうしたお?
−先生方が探していましたわ。にい様ったら、たまには座学も真面目に受けてはよろしくて?
−おっお、じっと話を聞くのは嫌いなんだお
−あーらあら、民の皆がその言葉を聞いたら悲しみますわ?
−向いてないもんは仕方ないお。それより 、君こそ勉強中じゃないのかお?
−にい様と違って午前の分はもう終わったんですー
−これはこれは、失礼しましたお。我が妹君
−まったくもう……いっつもそんな調子で…
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:30:48.91 ID:F4S3k0jb0
- 突如、景色が揺れる。介入する異界の声。
−おい!ブーン、起きろ。戦局が動いた!
霧散していく追憶の風景。目の前にいた の顔は、もう分からない。
埃まみれの一室で固いベッドにもたれていたブーンはうっすらと眼を開ける。
( ‐ω^) ………
( ^Д^) おい、起きろって!
ブーンが俯いたままの為、彼が起きている事に気付かず、男は再びブーンの肩を揺さぶった。
( ^ω^) もう、起きてる。
(;^Д^) 何だよ、だったらさっさと返事してくれよ。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:33:20.77 ID:F4S3k0jb0
- 視線を上げず、ブーンは身体の隅々に意識を張り巡らす。
鍛え上げた四肢に違和感は無く、調子は悪くなさそうだ。
不意に肩にかかる立て掛けた剣の重みを感じ、眼球だけを動かして視線を剣に送る。
簡素な鞘に包まれた幾人もの血を吸った長剣の刀身は、自身の出番をいまかいまかと待ち侘びているように見えた。
( ^ω^) 悪いな、それで状況は?
( ^Д^) あぁ、第一陣が城壁を何とか登って城門を開ける事に成功したみたいだ。
剣を手に取り、ブーンは立ち上がる。
男が扉を開けた。
( ^ω^) 出番だな。
( ^Д^) あぁ、俺達の出番だ。
男が先導するように廊下へと出て歩き始める。
( ^ω^) 配置は?
(#^Д^) 正面は3番隊にとられちまった。俺達は西門から出発だ。
男は悔しそうに舌打ちをする。
一番おいしい場所を取られたことが余程悔しかったようだ。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:36:04.75 ID:F4S3k0jb0
- 遠い昔、まだドラゴンが空を飛んでいた時代。
地上では「VIP連合軍」と「ラウンジ帝国軍」の二大勢力が世に調和をもたらす女神を巡って争いを続けていた。
( ゚ω゚) ああああああああああああっ
長剣を両手に持ち、叫び声と共に男は突進する。
放たれた刺突の一撃は過たずに鎧の隙間を縫い、敵兵は苦悶の声を上げながら倒れる。
「ラウンジ帝国軍」は短期間に恐るべき強さを身につけ
「VIP連合軍」が女神を匿っている城を襲撃する。
( ^ω^) ……
男はうつ伏せに倒れる敵兵を足で仰向けに転がす。
( ゚ω゚) 死ねっ!!
そして、苦しむ敵兵の顔に躊躇なく長剣を突き立てた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:38:21.14 ID:F4S3k0jb0
調和を崩し始めた世界の運命は今
たった一人の男の手に託されようとしていた。
男は辺りを振り返る。
そこには彼以外に立つものは、否、生きるものは無く、沢山の死体が転がっていた。
( ^ω^) はは、ははは……
( ゚ω゚) あはっ、ははっ……ははははははははははははははははははは
死屍累々。
積み上げた死体の傍らで男は高らかに、そして楽しげに笑い声を上げる。
( ^ω^)望まぬ結末に向う英雄のようです。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:42:20.73 ID:F4S3k0jb0
ξ‐凵])ξ ……
殺風景な城内の一室で、清楚な白い衣装に身を包んだ可憐な少女が机に広げた本の前で祈るように両手を組んでいた。
窓から入る日射しがそんな少女を明るく照らす。
しかし明るい日差しとは対照的に、少女の顔は暗い。
不意に、広げられた本が独りでに、捲られていく。
一瞬、息を詰まらせると、少女は椅子から立ち上がり、格子の付いた窓の外に視線を向けて呟いた。
ξ‐凵])ξ ……
ξ゚听)ξ 来ます。
本は依然、独りでに捲られ続けていた。
〜【胎動】〜
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:44:45.73 ID:F4S3k0jb0
- 大空高くを飛ぶ鷹は辺りをゆっくりと周りながら大地を睥睨していた。
暫くの間、辺りを飛んでいた鷹はやがて興味が無くなったのか、力強く羽ばたくとその場を離れていく。
鷹の眼に映っていたのは、無数の人々が入り乱れ、争う地。
剣が裂き、槍が貫き、斧が砕き、矢が雨のように降り注ぎ、砲弾が大地で爆ぜ、大軍の行進が地鳴りとなって大地を震わせる『戦場』だった。
( ^ω^) おおぉっ!
ラウンジ兵と鍔迫り合うブーンは気合と共に敵の剣を弾く。
体格に似合わぬ彼の膂力はいともたやすくラウンジ兵の剣を跳ね上げた。
素早く剣を引き、敵が態勢を整えるよりも先に斬撃を放つ。
力強く踏み込んだ足は柔らかな地面に食い込む。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:47:06.27 ID:F4S3k0jb0
- 踏み込みと同時に肉を切る感触が手に伝わると、ブーンは目の前のラウンジ兵から目を離し、次の敵を求めて視線を彷徨わせる。
丁度ブーンへと斬りかかってくる所だった敵へと視線を定めると、迫る打ち下ろしの一撃を逸らしつつ、背後に周り込んで一刀の下に斬り伏せる。
更に横合いから斬りつけてくる別のラウンジ兵の剣撃を避けると同時にその胴へと剣を奔らせた。
( `ω´) ああああああああっ
続けて、戦斧を振りまわして味方を蹴散らす一際体格の良いラウンジ兵へと怒声と共に突っ込んで行く。
敵もブーンの存在に気付き、戦斧を振りかぶる。
しかし、凄まじい速度で敵の懐に飛び込んだブーンは敵が戦斧を振り下ろすより早く、構えた長剣を叩きつけるように振り下ろす。
荒れ狂う暴風のようにラウンジ兵を倒していくブーンの勢いは止まる事無く、次の敵へと剣が振われる。
(#^ω^) うううううううるるぁっ!!
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:49:40.87 ID:F4S3k0jb0
- 間一髪の所でラウンジ兵はブーンの剣を受け止める事に成功するが、両手で握り、力強く押し込む彼の力にラウンジ兵の剣が耐えきれずに砕ける。
ラウンジ兵はそのまま首元を斬られ、鮮血を撒き散らしながら倒れる。
敵を倒した余韻に浸る事無く、ブーンは即座に背後を振り向き、迫って来ていたラウンジ兵の剣を弾くと、大きく踏み込みつつ刺突を放った。
長剣は何の抵抗も無くラウンジ兵の腹部を深々と貫き、背中へと抜ける。
思いの外長剣は深く刺さった為に、ブーンは引き抜く動作に刹那の時間をとられる。
そして、その刹那の時間が致命傷となる。
( 十) ハァ!
( ゚ω゚) がぁ?!
背後から振り下ろされたラウンジ兵の一刀は過たずにブーンの背中に命中。
ブーンの黒き装甲を切り裂き、背部から鮮血が滴り落ちる。
仰け反り、痛みに悲鳴を上げる。
苦痛に悶えそうになるが、ブーンは強靭な精神力で抑えつけて僅かな硬直の後に振り向きざまに剣を奔らせる。
(;^ω^) はぁはぁ
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:52:32.77 ID:F4S3k0jb0
- その一撃を受けて崩れ落ちる敵を眺めると、ブーンは激痛と戦いながら次の目標を定めようとする。
だが、そんな彼の視界の端に燃えるVIP連合の旗が映った。
防衛しているはずのニュー速城の城壁に掲げられたVIP連合の旗が燃えている。
(;゚ω゚) ツンデレッ?!
その意味を理解したブーンは、守るべき者の名前を呟き一直線にニュー速城へと走り出ていた。
防衛隊の中でもラウンジ帝国の兵を蹴散らす突撃部隊として、最前線を駆けまわっていたブーンには戦況の詳細は分からない。
しかしながら、彼我の戦力。敵と味方の配置。趨勢。それらが、既に防衛部隊が瓦解している事を示していた。
背中に受けた傷をものともせず、ブーンは全速力でニュー速城へと駆け戻る。
VIP連合軍が守護する封印の女神、ツンデレを守る為に。
そして、いまやVIP連合の傭兵にまで身を落とした彼のたった一人の守るべき妹であるツンデレを守る為に。
ラウンジ兵には目もくれずにブーンは一心に走り続ける。
(; ―) ブーン、城がラウンジ兵に囲まれた!!
駆けるブーンへと横合いから声が飛んでくる。
(; ―) アンタの妹、いや、女神ツ
かけられる声に反応せずにブーンは走り抜ける。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:54:02.04 ID:F4S3k0jb0
彼の心の中で幼少の記憶が溢れだす。
平和で、毎日が幸せで、輝かしかった幼少時代。
その時間を一瞬で引き裂いたラウンジ帝国。
国王と王妃であった両親を殺し、国さえも滅ぼしたラウンジ帝国。
あらゆるものを奪ったラウンジ帝国は、自分がこの世に希望を抱く唯一最後の存在、妹まで奪おうとするのか。
怒り、憎くしみ、悲しみ、殺意、あらゆる負の感情を纏ったブーンは悪鬼と化してニュー速城を包囲するラウンジ軍勢へと斬り込んで行く。
( ゚ω゚) るるるるるるるるぅらあっっ!!
剣風と化したブーンは、更に勢いを増して立ちはだかるラウンジ兵を斬り伏せて行く。
(#゚ω゚) 帝国のダニ共めっ!死ぬがいいッ!!!
剣舞いを踊るように回転しながら連続して剣撃を放つ。
閃く彼の長剣は、戦場のどの武器よりも早く空間を奔り、敵を切り裂いていく。
敵の剣がその勢いを止めようと彼の剣を弾こうとするが、ブーンは長剣が弾かれると、その勢いすら利用して逆回転しつつ、ラウンジ兵の首を容赦なく薙いだ。
神懸かった、否、悪魔が宿ったかのような強さを纏いつつ、ブーンはニュー速城の城門まで辿り着く。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:56:17.47 ID:F4S3k0jb0
- 城門、城壁を攻略する為にラウンジが用意した投石機や破城鎚を片っ端から叩き潰しながら、ブーンは劣勢の中で戦う味方に問う。
(;^ω^) どうなっている?!
(;><) ブーン様!城内に敵兵が侵入してしまっているんです。このままではツンデレ様が……
(;^ω^) ちぃ!!
その言葉を聞くや否やブーンは再び走り出す。
破壊された城門を抜けると、城へと向かうラウンジ帝国の部隊に後ろから斬りかかる。
不意を突かれたラウンジ兵は苦悶の声すら上げる事無く首を斬り飛ばされ、噴水のように首から鮮血を噴出させながら倒れる。
(#`ω´) おらおらおらおらおらおらおらぁ!
驚き、迎撃しようとする数人のラウンジ兵をブーンはあっという間に斬り殺すと、同様の不意打ちを繰り返し、死体の山を築きながら内門へと辿り着く。
未だ無事なのか、内門は格子降りたままであった。
ブーンは後ろを振り向き、状況を把握する。
( ^ω^) 無事でいろよ、ツンデレ。
周囲には既に動くラウンジ兵はおらず、一帯の敵を一掃した事を確認し、妹の無事を祈りながら内門の格子を解錠して城内へと入って行った。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 20:59:10.59 ID:F4S3k0jb0
- やけに静かな城内を一直線に走り、ブーンはVIP連合の、そして自らの護るべき対象であるツンデレの居る場所へと向かう。
暗い廊下を走り抜け、日射しが差し込む城内の庭園に出た所でブーンは息を呑んだ。
臓物を撒き散らして死んでいる無数のラウンジ帝国とVIP連合の兵達。
そんな庭園の中央に横たわる赤き怪物。
周囲を血文字のような呪文に囲まれ、無数の鎖で身体を絡めとられた紅き体躯。
(#^ω^) ドラゴンッ!
最強の生物と呼ばれるその怪物、『竜』を眺めたブーンは顔を歪め、憤怒の声を上げると少し頼りない歩みでゆっくりと近付き、頭部に回り込む。
紅き竜の顔を覗こうとしたブーンの脳裏に幼き日の惨劇がフラッシュバックされる。
優しき母を、踏み潰し、偉大な父を噛み千切った黒竜。
茫然と眺める幼き日のブーンの眼の前で、原形を止めぬ程に潰された両親。
もはや肉塊と呼ぶに相応しい物体に変わり果てた彼らを弄ぶ黒竜。
その紅き瞳はブーンの脳裏にいつまでも焼き付いていた。
(#^ω^) う、うううううう……
憎き仇の同種が今、目の前で横たわっている。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:01:06.51 ID:F4S3k0jb0
- よく見てみると、その体躯には沢山の槍や矢が突き刺さっており、そこから止めどなく血が滴り落ちていた。
(#゚ω゚) うおおおおおおおお!
黒い衝動に駆られたブーンは長剣を逆手に持ち直すと、高く振り上げる。
彼が全力で、伏せる怪物の紅き頭部に長剣を突きたてようとしたその時
(‘、メ 川 殺すが、良い
首をもたげた紅き竜がブーンを眺めながら喋った。
(‘、メ#川 ただ……我の命は奪えても、この魂までは奪えぬぞ
息も絶え絶えに竜は言葉を続ける。
その言葉から、竜の穢れなき高貴さが窺えた。
喋る竜に驚きを覚えながらブーンは長剣を握る手の力を弱める。
彼の心の変化を表しているのか、はたまた別の原因か、刀身はゆらゆらと揺れる。
一瞬の逡巡の後にブーンは口を開いた。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:01:59.47 ID:F4S3k0jb0
- ( ^ω^) ……お前に生きる意志は、まだあるのか?
(‘、メ;川 何?
(;^ω^) 他に道はない。
(;^ω^) 契約だ!
(‘ーメ*川 ふん、お主にそれ程の資格があるのか?
『契約』と言うブーンの言葉を、紅き竜は嘲笑う。
(;^ω^) 資格など無い。ただ、俺は生きたいだけだ
大きく息を吐いたブーンの背中からは真っ赤な液体が間断なく流れ、切り裂かれた装甲を伝って大地に落ちる。
受けた傷は溢れる血の量から決して浅くはない。
気付けば彼の足元には血だまりが出来ようとしていた。
(;^ω^) 憎むなら憎め!それでも俺は生きてやる!
ブーンの握る長剣は更に揺れる。
(‘、メ*川 ……
( `ω´) 答えろ!『契約』か? 『死』か?!
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:04:07.67 ID:F4S3k0jb0
- −『契約』。
それは人間と強力な力をもった生物とが互いの心臓を交換して成立する儀。
契約が成立されれば、双方は文字通り運命共同体となり、仮に片方が命を落とした場合、もう一体の契約者も命を落とす事となる。
しかしこの契約で、契約した人間は契約相手の強力な力の恩恵を授かる。
その恩恵は多岐に渡るが、根本的な身体能力が遥かに向上したり、素養の無いものでも武器に秘められた力を開放して魔法を使用することが可能になる等の、超常の力を手にすることが出来るようになる。
契約相手となる生物のメリットは未だはっきりと解明されていないものの、契約を行なった人間は通じて、エゴやコンプレックス等の負の感情が強いものであるという噂はこの世界に広く流布されている。
死神の足音はゆっくりと、しかし着実に彼の傍へと近付いてくる。
ブーンはこれまでの経験から何となく理解していた。
背中の傷は、例え今から治療に専念しても助かる程浅いものではない事を。
( 十) ……物音がしたと思えば!生き残りがこちらに居るぞ!
一人と一体の会話は思いの外大きな声量でなされていたのか、異変を聞きつけたラウンジの兵が全身を覆う甲冑を鳴らしながら駆けつけて来る。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:05:14.04 ID:F4S3k0jb0
- たちまちに中庭にラウンジ帝国の兵がぞろぞろとやって来る。
その数は両手では足りず、ブーンは数える事を止めた。
(;`ω´) 大事な話し合いの最中だ。ザコは引っ込んでろ!
ブーンの怒声を皮切りに、ラウンジ兵は嬉々に手負いの一兵へと押し寄せる。
対するブーンは、既に疲労は極限に達し、傷も深く、息も絶え絶えの状態。
しかし瞳は、生への執着か、ラウンジ帝国への憎悪か、はたまた、助けを待つツンデレへの思いなのか、そのどれかは分からなかいが、確かな輝きを放っていた。
押し寄せる先頭の一人を上段に構えた打ち下ろしの一刀で斬って捨てると、ブーンはすぐさま横転してその場を離脱する。
ラウンジ兵達は彼の動きに付いて行けず、彼らがブーンを捉えるよりも先に態勢を立て直した剣鬼の長剣が一番近くの兵を薙いだ。
既に正確な剣撃を放つ体力を失っているブーンの一撃は甲冑に直撃する。
精度を失った剣撃はしかし、ラウンジ兵の予想を遥かに上回る力が込められていた。
その一撃をもらったラウンジ兵は傍で固まっていた数人の味方を巻き込んで派手に吹き飛ぶ。
しかし、彼が一息吐く間もなく、残り三方からラウンジ兵は残酷に押し寄せる。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:08:16.96 ID:F4S3k0jb0
- ブーンは一番近くに迫る敵へと危機迫る形相で一足飛びに跳びかかり、防ごうとした剣ごと叩き斬ると、その場で回転し、迫りくるラウンジ兵へと遠心力を活かした下段の斬撃を放った。
正面、右手、後方に迫っていたラウンジ兵は等しくその鋭い一閃を脚にもらい、悲痛の声を上げながら倒れる。
( ゚ω゚) かかってこい!皆殺しにしてやる!
最大限に声を張り上げたブーンの啖呵は、悪鬼のような形相と、その強さと相まって、十二分にラウンジ兵を怯ませる効果があった。
既に当初の勢いがなくなっているラウンジ兵は、包囲戦に切り替えようとして遠巻きにブーンを囲もうとする。
そんなラウンジ兵の一角へと一瞬の躊躇もなくブーンは斬り込んでいく。
当の昔に限界を超えているはずの彼の肉体は、目の前のラウンジ兵を斬るという、彼が求めてやまない行為の為に死力を振り絞っていた。
(;^ω^) この俺が、父と母の仇…ドラゴンと契約しようとする事になるとは………
しかし、そんなブーンでも全ての攻撃を弾き、避け切る事は叶わない。
紙一重の差であらゆる方向から飛んでくる攻撃の直撃だけは何とかかわすものの、次第に着々と傷を負って行く。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:09:30.89 ID:F4S3k0jb0
- ( `ωメ) それでも!俺は…
気合と共に放たれた突きは正面の敵と、更にその向こうに迫っていた敵をも貫く。
苦悶の声を出す敵を蹴り、長剣を引き抜く。
肩で息をしながら、状況を確認しようとブーンは振り向く。
その視界には猛然と迫る大剣が映った。
( ωメ) がはっ
寸での所で長剣を胸元へと引き、その斬撃を防ぐ。
しかし、既に真っ向から力に対抗する体力は残っておらず、ブーンは吹き飛ばされて庭園の石畳の上を転がった。
何とか起き上がり、彼は正面を見据える。
先程の兵達よりも明らかに上等な甲冑に身を包み、大剣を両手に持つラウンジ兵がゆっくりとこちらに向かって来ていた。
恐らくは部隊長か。
その背後から残りの数人のラウンジ兵も近付いてくる。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:12:21.58 ID:F4S3k0jb0
- (‘ーメ*川 所詮、人間の力など、そんなものだ……
その光景を眺める紅き竜は嘲笑と共に呟く。
その呟きはブーンの耳にも入るが、無言のまま長剣を杖代わりにして立ち上がると残りの余力を振り絞り、部隊長へと突進していく。
その突進に合わせてラウンジ帝国の部隊長は横薙ぎを放った。
しかし、その必殺の一撃は空を切る。
ブーンは紙一重の差で滑り込み、部隊長の脇を抜けて近付いて来ていたラウンジ兵へと斬りかかった。
(#^ωメ) 俺は………まだ死ねん!
力任せに剣を振るい、最後の一人を斬り伏せるとその場に長剣を突き立てて、よりかかる。
(‘、メ;川 あ奴…人の命を奪う事を生きる意味としておるのか……愚かな人間だ。
ブーンの叫びと、その一部始終を眺める竜は呆れた声を出す。
着る甲冑の重さの為かゆっくりとブーンに近付いていた部隊長は、大剣の間合いに捉えると、容赦なくその重き一撃を振り下ろした。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:15:28.57 ID:F4S3k0jb0
- 横転しつつ長剣を引き抜き、ブーンは先程まで自分が居た位置を見る。
石畳は鉄塊とも言える大剣の威力に耐えきれずに粉砕されていた。
ラウンジ帝国の部隊長の周りを土煙が舞う。
再びこちらへと迫る部隊長は重そうな大剣を軽々と持ち上げて上段に構える。
対するブーンは呼吸を無理矢理に整えつつ、長剣を下段に構え、柄を握り直した。
じりじりと滲み寄る部隊長を全体に捉えつつ、ブーンは時を待つ。
( ゚ωメ) ハッ!
気合の声と共にブーンは一気に踏み込む。
その動きを見てとった部隊長は彼の頭部目がけて大剣を振り下ろした。
先に放たれていたブーンの切り上げは宙を薙ぐ。
ここに来て、疲労が出たのか、彼の踏み込みは後少し足りなかった。
僅かに遅れて振り下ろされていた大剣はそんなブーンへと無慈悲に落下。
石畳を破壊する音と同時に大剣は石畳の下の大地をも穿つ。
乾いた大地は重量のある一撃を受けて粉砕され、細かく砕かれた土が土煙のように宙を舞い二人の周囲を包みこむ。
遅れて金属音が鳴り響いた。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:17:52.01 ID:F4S3k0jb0
- 恐らくはブーンの長剣が石畳に転がったのだろう。
あっけない幕切れに、紅き竜はさして驚く事もなく鼻を鳴らして差し迫る死を享受しようと、もたげていた首をゆっくりと大地に落ちつけようとした。
その最中に、晴れゆく土煙を見て、竜はふと、先程の傲慢な男の死に様を最期に見届けようと思い、眺めた。
それは只の気まぐれだった。
しかし、竜が見たのは大地に片膝を着くブーンともんどりをうって倒れている部隊長の姿だった。
宙を薙いだと思われたブーンの切り上げは、実際の所は部隊長の大剣を握る指を斬り落としていた。
激痛と不安定になった支点に、振り下ろしの一撃はブーンの頭部を大きく逸れて、脇の石畳へ落下。
派手な破砕音が鳴る中、ブーンは力を振り絞り、甲冑の隙間から覗く首へと長剣を差し込んでいた。
(‘、メ;川 生き残れたのか……悪運、いや、その執念か…
驚きと僅かな称賛を込めた竜の声は中庭に響く。
しかしその声を聞くものは、もはや発した本人と荒い息を吐きながらこちらに向かってくるブーンのみだった。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:23:07.45 ID:F4S3k0jb0
- 虚ろな目で、ふらつきながら紅き竜へと近付く。
転がるラウンジ兵の死体に躓き、撒き散らされた大量の血に足を滑らしてこけそうになりながらも、何とか竜の頭部まで辿り着く事に成功する。
(;^ωメ) ……さぁ………答えろ……
つんのめり転倒しそうになるのを、杖代わりにした長剣で防ぎつつ、先程の問答の続きに戻る。
(‘、メ*川 契約か? ……死か?
紅き竜も余力を振り絞り、首を擡げてブーンを見る。
いつ大地に膝を着いてもおかしくない状況で、尚も立ち続けるその男を眺めると、紅き竜は決断した。
(‘、メ*川 その生への執着心……原動力は分からぬが、お主の生きる意志に誓おう………
( ^ωメ) !……では?
ブーンは眼を見開き、その言葉の真意を問う。
(‘ーメ*川 いいだろう、『契約』だ……
その言葉を聞くと、ブーンは自身の胸へと長剣を持たぬ手を這わせる。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 21:23:55.16 ID:F4S3k0jb0
- 手が胸元に辿り着くと、彼の胸は水面のように波打った。
奇怪な現象に対して何の躊躇もせずに手を押し込んでいく。
ずぶずぶと胸の中に呑まれる手はすぐに目当ての物へと辿り着いた。
鼓動の感触を掌に感じながら、目当てのモノ、心臓を握りしめる。
波打つ胸元は次第に光輝き始める。
ブーンは心臓を掴んだまま呑まれた手を胸から引き抜こうとする。
( ゚ωメ) があああああああああああっ
生きたまま心臓を取り出すという作業にその苦痛から発狂しそうになり、ブーンは思わず絶叫を上げる。
同様に、地鳴りのようなうめき声を上げつつ竜は口から心臓を取り出そうとしていた。
ブーンは徐々に引き抜こうとするのを一旦止め、一拍後に勢い良く腕を胸から引き抜いた。
( ωメ) あがががああああああああっ
繋がる全ての血管を千切り、ブーンは顔の前に自身の心臓を掲げた。
未だ鼓動する心臓をおぼろげに眺めながら、その場に両膝をつく。
遅れて長剣が転がり、乾いた金属音が辺りに響く。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:22:40.92 ID:F4S3k0jb0
- 緩慢な動作で首を動かし、契約相手となる竜を眺めた。
丁度紅き竜も舌の上に心臓をのせてブーンへと掲げていた。
重い体を引きずり、這うようにして竜に近付くと両者は互いの心臓を一つに重ねる。
その瞬間、辺り一面が白い光に包まれた。
光の中、宙に浮くブーンはその不思議な浮遊力に身を委ねてたゆたう。
心地よい安息に身を委ねていると、次第に全身の痛みが引き、傷が瞬く間に塞がる。纏う軽装の鎧もまるで新調されたかのような輝きを放ち、ついていた傷が消え去った。
紅き竜もブーンと同様の現象に包まれ、全身の縛鎖や刺さる得物は忽ちに消え去り、負っていた傷も全て塞がる。
光が終息すると、そこには先程まで瀕死の状態だった一体の竜と、一人の男の姿無かった。
(#^Д^) こっちかぁ!ラウンジのクソ共!ってうおっ
(;―) ド、ドラゴン?
(;―) うわわ……
そこにVIPの兵達が現れる。
侵入したラウンジ帝国の兵を追撃していたのだろう。
しかし、彼等の予想していた敵はそこにはおらず、代わりに居たのは最強の生物たる竜と、一人の剣士。
- 106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:32:12.66 ID:F4S3k0jb0
- (;^Д^) って、おい!お前、ブーンじゃねぇか?!お前突撃部隊じゃ
(;^ω^) プギャー、どうなっている?!
驚くVIP連合の兵達の中の一人がブーンへと呼びかける。
弾かれたようにブーンはそちらを見る。そこには軽薄そうな面構えのよく知る人物がいた。
今まで、数多の戦場で背中を預け合った戦友のプギャーだった。
その姿を確認するとブーンはプギャーの声を押しのけてすぐさま尋ねた。
(;^Д^) はぁ?どうって、つーかお前その…
(;゚ω゚) ツンデレは?!ツンデレは無事なのか?!
( ^Д^) あぁ、そう言う事か。大丈夫だ。女神の間には虫の一匹も近寄らせていない。
(;^ω^) そうか…
その言葉を聞き、ブーンは肩の力を抜いた。
(;^Д^) しかしお前、何だよ、一体どういう事だよ?その…
(‘、`*川 ……
そんなブーンと紅き竜を交互に見ながら、プギャーは尋ねる。
( ^ω^) 心配するな、味方だ。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:36:44.26 ID:F4S3k0jb0
- (;^Д^) 味方って…なんて奴だよ、お前はよ……
(;―) おい、世間話をしている暇は無いぞ!ブーンだな?そのドラゴンが味方と言うなら頼む、空のラウンジ兵を倒すように言ってくれ!
彼等の会話にVIPの兵が割って入る。
(;^ω^) 空?!
(;^Д^) あぁ、そうだった。奴らの空戦部隊が続々と集まって来ている。こんな籠城戦。制空権を取られたら一瞬で終わるだろ?
(;^ω^) わかっているさ、しかしこちらの部隊は?
(;^Д^) 第一陣は全滅だ。第二陣が出ようとしたタイミングで奴らが侵入してきた。それどころじゃんなかった!
( ^ω^) そう言う事か。わかった。聞いていたな?行くぞ!
言うや否や、ブーンは紅き竜に飛び乗る。
紅き竜は歓喜の声を高らかに上げると、翼を大きくはためかせ、上空へと向かった。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:38:59.39 ID:F4S3k0jb0
- (‘、`*川 矮小な人間共め。数だけは一人前だな。
ニュー速城の上空を旋回すると、紅き竜は空と大地を隈なく見渡す。
少し先の空にはラウンジの対地用の気球船がニュー速城を囲むように犇めき、大地では数にものを言わせたラウンジ軍がVIP軍を着実に追いこんでいた。
不意に響く轟音。
その音を聞くより早く竜は翼を動かしてその場から急速で移動する。
(;^ω^) くぅ……
急な加速に、ブーンは振り落とされないように必死にしがみつく。
そんな竜とブーンの傍らを大きな砲弾が通り過ぎる。
すぐさま砲弾が飛んできた方向を見る。
遥か先の気球船から煙が出ていた。
(‘、`*川 敵は我らを狙っておるな…当然か……まぁよい。振り落とされるなよ!
竜はそう告げると同時に、先程攻撃してきた気球船へと大きく翼をはためかせる。
僅か一度の羽ばたきで気球船との距離を一気に縮めると、前方を見据えたまま軽く首を持ち上げる。
慌てふためきながら、正面の気球船は大砲に次弾を装填し、発射準備に移る。
ここにきて、竜と対峙する気球船を落とすまいと、周りの気球船は無鉄砲に砲撃を始める。
- 124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:41:11.08 ID:F4S3k0jb0
- しかし、空を自由自在に駆る大空の覇者は周りを見ずに、四方八方からの攻撃を右に左に、上に下にと鮮やかにかわしていく。
砲撃の間隙を縫って、竜は初めに攻撃してきた気球船へと接近する。
気球船からは竜の頭部を狙った砲弾が発射されるが、紅き竜は造作もなく首を捻りその攻撃をかわす。
(‘、`*川 味わえ!
大きく口を開けた竜は口内から熱線を吐き出される。
その直撃を受けた気球船の搭乗部は音もなく消失。
軽々と敵を撃破した余韻に浸る事無く、竜は素早くその場から離脱する。
遅れて竜が先程いた場所を、無数の砲弾が通過する。
(‘ー`*川 人間共の羽が、我が真紅の翼にかなうわけがなかろう。愚かな。
侮蔑を込めた竜の言葉は大気を震わせる。
先程までよりも更に俊敏に砲撃を避けながら気球船とすれ違いざまに熱線を吐きかけ、一つ、二つと破壊していく。
紅き竜はようやく準備運動を終えたようだった。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:42:19.50 ID:F4S3k0jb0
- 竜は一度、砲弾の飛び交う戦域から高度を上げつつ離脱すると、すぐさま旋回して、気球船が多数犇めく空域へと猛然と急降下していく。
前方より飛んでくる砲弾は、竜の接近する速度と相まって、もはやブーンの眼で追いきれる速度ではなくなっていた。
しかし、万物の頂点に君臨する竜にはそんな砲弾すら止まって見えるのか、僅かな羽ばたきを繰り返して無数の砲弾を最小限の動きでかわしていく。
(‘、`*川 しっかりとつかまっていろ
(;^ω^) なにっ?
その間にも、竜と気球船団の距離はみるみる縮まっていく。
一瞬にして二者はすれ違うが、竜は攻撃せずに風に乗ったまま通り過ぎる。
その途中で急に身体を反転させる。
視界には先程すれ違った気球船団が映る。
竜は首をしならせると、口内から火弾を吐き出していく。
ブーンの背丈ほどある火球は続々と吐き出され、気球船団へと吸い込まれるように向かう。
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:45:37.14 ID:F4S3k0jb0
- 初弾が先頭の気球船に着弾。
すぐさま気球船は燃え上がり、揚力を失って無残に落下していく。
(‘ー`*川 どうだ、空を飛ぶ気分は?
(;^ω^) うるさい!
続く次弾、三弾と吐き出された火球は過たずに気球船に命中していく。
火炎地獄に包まれる気球船団を眺めながら、紅き竜は必死に自身の首にしがみつく剣士をからかう。
同様の攻撃を繰り返し、気球船を殲滅していく。
一頻り気球船を片付けた後、ゆっくりと羽ばたきながら竜は周囲を見渡した。
上空の敵をあらかた撃破した事を確認し、一息つく一人と一体に衝撃が奔る。
地上のラウンジの砦からの砲撃だった。
(‘、`;川 まだ敵が残っているのか。やれやれ、うるさい小蠅共め。
竜は不愉快そうに鼻を鳴らす。
掠った砲撃のダメージは殆ど無いものの、いたくプライドを傷つけられたようだった。
人が蟻を踏み潰すかのように、紅き竜は一方的に周囲のラウンジの砦を破壊していく。
(‘、`*川 ………そろそろ本命に向かうぞ。
- 136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:48:24.75 ID:F4S3k0jb0
- ニュー速城に接近しようとする船団へと竜は翼を動かす。
そんな竜へと、正面から光弾が迫ってくる。
砲弾程の速度は無いものの、確実にこちらに向かう怪しげな攻撃を、更に高度を上げてやり過ごそうとする。
(;^ω^) ドラゴン、追いかけてくるぞ?!
(‘、`;川 ほぅ。魔法か……ならば……
しかし、避けたはずの光弾は反転して紅き竜を追いかけてくる。
更なる追撃の光弾をも容易に避けるが、その光弾すらも竜を追尾してくる。
(‘、`*川 やはりそういう事か、しかしガーゴイルとはな………下らん!
先程まで礫程の大きさであった敵の全容がブーンにも視認できる距離まで接近する事に成功する。
敵は棺桶に翼が生えたかのような奇怪な姿形をしていた。
紅き竜はガーゴイルを一瞥すると、至近距離で火球を放ち、撃破する。
忽ち先程まで竜を追尾していた光弾は消え去る。
船団を囲むように点在するガーゴイルを、竜は一体一体仕留めていく。
その真紅の翼は魔法の光弾すら寄せ付けず、只の一度たりともラウンジの攻撃は竜に届かない。
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:51:27.00 ID:F4S3k0jb0
- 急速で旋回しつつ、大型の武装船の一隻に接近すると、竜は死の吐息を船尾から船首まで一文字に吹きかける。
(‘、`*川 血の足跡をつけずに人類が歩むことは、不可能なのか…
血の尾を曳きながら、或いは燃え盛りながら落下するラウンジ兵を眺めつつ、紅き竜は呟く。
そして最後の大型武装船へと三発火球を放ち、撃破する。
(;^ω^) ドラゴンッ空はもういい!地上だ!クソッ、いつの間に増援が現れたんだ。これでは……
(‘、`*川 騒ぐな、馬鹿者…
落下するが如く竜は急降下する。
目指す地表はニュー速城を包囲せんとするラウンジの軍勢。
大地まで後数メートルという所で紅き竜は一際大きく翼を動かし、全力で羽ばたきつつ宙返りをする。
竜から生み出された凄まじい風圧はラウンジの軍勢ごと大地を叩く。
風圧の直撃を受けた兵達は吹き飛ばされ、宙を舞い、落下して事切れる。
(‘、`*川 城の周囲を一層せねばなるまい。…だがまずは……行くぞ!
続々と押し寄せるラウンジ軍の侵攻を懸命に防ぐVIP軍を見渡すと、竜はニュー速城より離れていき、ニュー速城へと進軍するラウンジ軍の増援部隊へと狙いをつける。
竜から放たれる灼熱の火球は大地に着弾すると、周囲に拡散して灼熱地獄を創り上げる。
火球の直撃を受けた者は骨も残らず炭化し、拡散する炎に巻き込まれた者は身体を灼熱で焼かれ、悶死してゆく。。
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:52:38.65 ID:F4S3k0jb0
- ニュー速城へと進軍して来ていた部隊を片付けるとドラゴンは城壁の周りを旋回し、戦況を観察する。
( ^ω^) ドラゴン!ここより先はVIPの防衛軍も多く残っている!貴様のブレスで巻き込むことは避けたい。降ろせっ!
そう言うや、否や、ブーンは竜の首から飛び降りて大地に沈み込むように着地する。
(‘、`*川 ならば言うとおりにしようか、我は上空で待機しておく。必要になれば呼べ。
紅き竜は悠然と翼をはためかせて空を昇っていく。
大地に降り立ったブーンは一番近くにいたラウンジの弓兵へと踊りかかった。
憤怒を込めたブーンの一刀は弓兵の肩口から侵入。
鎧を易々と切り裂きながら対角線に反対側の腰へと到達する。
( ^ω^) 剣が……軽い?
思えば弓兵に接近した時も足が軽く、その癖いつもよりも力強く大地を蹴る事が出来ていた。
−契約相手の強力な力の恩恵を授かる−
彼の脳裏に、契約に伝わる伝承の一節が流れる。
( ^ω^) ………ならばっ!
頭を動かしながらもブーンは周囲に居る弓兵達を容赦なく斬り捨てていく。
手にする愛用の長剣は、偉大なる父の唯一の形見。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:54:04.23 ID:F4S3k0jb0
- そして今は亡き、自国に代々受け継がれてきた剣。
幼き頃に伝え聞いた剣の伝承を思い出しながら、剣を持つ手に一層力を込める。
ブーンは最後の弓兵を右腕、胴、左腕と、一文字に両断しながら辺りを見回す。
一番近くのラウンジ兵の集団まで十数メートル以上。
どれほど斬っても、吹き出す血飛沫を何度浴びても、彼の心の内で荒れ狂う劫火の黒炎は鎮火されることは無く、一層燃え盛っていく。
仇敵であるラウンジ兵との距離にもどかしさを覚えながら、長剣を構えてブーンは突進する。
その時、ブーンは身体の奥底で滾る黒炎が溢れ出してくる感覚に捉われた。
皮膚の内側を伝わり全身の隅々にまで行き渡った黒炎の感覚は、ついには長剣へと流れていく。
そして長剣は黒炎を受け入れ怪しく輝いた。
その輝きは、彼にしか見えぬものだったのかもしれない。
考えるよりも先に身体が、口が動いていた。
ラウンジ兵の集団へとブーンは手をかざす。
- 146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:55:44.05 ID:F4S3k0jb0
- ( `ω´) ブレイジングウィング!
身体と長剣に流れていた黒炎は、かざした手の先に集束される。
それは紅き竜が放った火球のような真紅の炎弾となって、放物線を描きながらラウンジ兵達に着弾する。
命中すると炎弾はその場で拡散されて固まっていたラウンジ兵達全員へと燃え広がる。
突然起こった出来事にラウンジ兵達はパニックになる。
( ^ω^) 全く……
その隙にあっという間に接近するブーン。
( ゚ω゚) 死ねっ
短く言葉を吐くと次々に斬殺していく。
( ^ω^) これが魔法か……
頬に飛んだ血を拭うと、長剣を持たぬ掌を見つめる。
( ^ω^) これはいい
怒り、憎しみ、怒り、悲しみ、怒り、憎しみ、憎しみ、嘆き、憤怒憤怒憤怒憎悪憎悪憤怒憎悪憎悪像
全て出し切ったと思われた黒炎は再び彼の身体に満ちようとしていた。
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:57:27.37 ID:F4S3k0jb0
- ( ^ω^) これで
空を見上げ大きく深呼吸をする。
紅き竜が一層したお陰で、見上げた空は澄んだ青が広がっていた。
( ゚ω゚) もっともっと殺せる。
再び地上へと視線を移した彼の瞳には狂気が宿っていた。
走りだしたブーンは止まる事無くラウンジ兵を斬り倒していく。
頭から股間まで両断されるもの。
首を飛ばされるもの。
胴を中心に真っ二つにされるもの。
深々と胸を貫かれ、城壁に叩きつけられるもの。
彼の手にかかった者の死に様は総じて眼も当てられぬほど惨たらしいものだった。
(‘、`*川 ブーンよ、貴様が与する軍はラウンジなるものに随分と圧倒されているが……勝ち目はあるのか?
しかし、いくらブーンが人の域を超えた力を持ってラウンジ兵を薙ぎ倒そうが、限界があった。
彼が暴れる戦域以外のVIP軍は依然、むしろ更なる劣勢に追い込まれていた。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 22:59:17.48 ID:F4S3k0jb0
- (;^ω^) どうなっている?
(;><) ブーン様!駄目なんです。新手の増援部隊が現れたみたいなんです。
(;><) 反対側はどこを見渡してもラウンジの軍団なんです。更には城内に新手の侵入を許してしまったんです。
(;><) わからないんです!わからないんです!奴らの数は……病的なんです!
先程見かけたVIP軍の兵士に再び声をかける。
彼もこちらに気付き、ラウンジ兵を斬り倒すとブーンに駆け寄って、絶望の戦局を伝える。
(;^ω^) クソッ!ドラゴン!
ブーンは大声で空に吠える。
(‘、`*川 見えておるぞ
すぐさま脳内に竜の声が流れた。
(‘、`;川 こやつら………いったい何処からやってくるのだ?まったくキリがない。
呆れた声は耳を伝わらずに直接頭に響く。
その奇妙な感覚を無視して、彼は更に吠える。
- 154 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:00:22.50 ID:F4S3k0jb0
- (;^ω^) 俺は今度こそ城内に向かう!奴らを倒してくれ。
(‘ー`*川 よかろう!一気に灰にしてくれるわ!
頭上で、気高き声が轟く。
すぐさまブーンは城内に向かって駆けだす。
( ゚ω゚) 散れっ!
そんな彼を待ち構えるように重装甲に覆われた槍兵3名が道を塞ぐ。
烈風の如き速度で突進すると、気合と共に刺突を放つ。
道を塞ぐ一人を突き殺したブーンは傍らに残る槍兵達へと回転斬りを放つ。
一人の胴を切断した長剣は勢いを殺さずに反対側の槍兵をも切断。
切り離された胴が大地に落ちるよりも早く、再び走り出したブーンは先程とは別の内門から中に入る。
(; ―)ブーン!俺たちじゃ食い止める事が……
必死で護るVIPの防衛軍の一人がブーンへと喋りかけるが、横手から伸びてきた槍に貫かれ苦悶の声を上げて倒れる。
( ゚ω゚) きっさまらあああああ!
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:01:52.66 ID:F4S3k0jb0
- 激昂を抑える事無く、猛る怒りに身を委ねてブーンは長剣を奮う。
(‘、`*川 ブーンよ、城内が不穏だ。……疾く急げ!
再び脳内に竜の声が流れる。
恐らくは上空より何かの異変を感じ取ったのだろう。
庭園にいる最後の一兵を斬り殺すと、先にある城内の廊下へと駆ける。
廊下へと足を踏み入れようとした時、ブーンの歩みが止まった。
目を見開き、掌で首を掴む。続いて大きく口を開けて、暫くして口を閉じる。
何度か首を振り、再び口を開けるが、彼の口は何も発さない。
(‘、`*川 声を失ったか………
再び声が脳内に響く。
(;^ω^)−どらごん
何も発する事が出来ない口を大きく開けて、ブーンは懸命に竜を呼んだ。
(‘ー`*川 まぁ、減らず口はあって百害。契約の代償としては軽いものよ。
- 158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:04:18.39 ID:F4S3k0jb0
- 彼の声が届いたのか、紅き竜は楽しげに語りかける。
(#^ω^)−ひとごとのように
竜の態度にブーンは怒りを隠さずに思いを声にする。
戦場において声による交信手段を失う事がどれほどの痛手かこの傲岸なドラゴンには分からないのだ。
しかし契約を求めたのは自身である事を思い出す。
(#^ω^)
ブーンは歯を噛みしめて、身に起きた不条理を堪える。
(‘ー`*川 案ずるな。我がお主の声となろうぞ。
冷静になったブーンは、失ったものが声だけというのは代償としては確かに高いものではないと結論付け、城内へと向かおうとする。
(‘、`*川 城へはお主一人で行くのか?
(#^ω^)−おまえがどうやってついてくるという
(‘ー`*川 それはそうか…では、お主が戻るまでには地上の敵兵は残らず殺しておこう。
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:06:26.28 ID:F4S3k0jb0
- ( ^ω^)
ブーンは振り向いて上空を長剣で指す。
(‘、`*川 案ずるな……お主が死んだことはすぐ分かる。我が命もそこで尽きるゆえ………
( ^ω^)
(^ω^ )
暫く空を眺めた後、ブーンは城内へと歩んで行く。
(‘、`*川 何がそこまでお主を駆りたてるのだ。憎しみだけでは生き残れぬぞ?
竜の声は確かに伝わるが、その声に答えずにブーンは駆けて行く。
城内は非惨の一言に尽きる惨状だった。
要所要所を守るVIP軍の城内守備部隊は道を塞ぎ、必死の抵抗を続けるも、数に任せて振われる剣や槍、斧の攻撃を過剰に受けて凄絶に死んでゆく。
もはや残存戦力は僅かであり、ニュー速城はラウンジの手に墜ちたも同然だった。
そんな、城内に一陣の颶風が吹き荒れた。
- 165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:08:28.00 ID:F4S3k0jb0
- 封印の女神が匿われている場所へと進むラウンジ帝国の一部隊を襲ったその颶風は、一瞬にして部隊を瓦解させると部隊長を斬り刻み、移動していく。
(‘、`*川 調子はどうだ?
颶風と化したブーンの脳内に竜の声が響く
(;^ω^)−わるくはない そりより、この【こえ】はどうなっている
竜の声に答えつつもブーンは見えるラウンジ兵を片っ端から斬り殺しつつ妹であり、封印の女神でもあるツンデレの下へと向かう。
(‘、`*川 もう分かっていると思うが我々契約者同士は離れていてもこの声を通わす事が出来る。
(‘、`*川 声とは……そうさなぁ…………思念による通信と考えてよかろう。
( ^ω^)−しねんによるつうしん ふん こえをうしなったかわりにちょうのうりょくをてにいれたといったところか
(‘ー`*川 超能力?ふははは、お主が手に入れた力は超能力などという不確かなものを超越しておるわ。
ブーンの足は、剣を振う腕は、尚も止まらない。
彼の通った道は阿鼻叫喚と化し、VIP軍の者ですら目を背けたくなる惨状を創り上げていた。
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:10:30.72 ID:F4S3k0jb0
- 階段を駆け上り踊り場に出ると、固まって移動していたラウンジ帝国の集団を見つけ、手を翳す。
瞬時に現れた炎弾は至近距離でラウンジ兵の一人に命中。
(;十) ぎゃああああああああああ
甲冑の中を潜り込んだ炎はこの世の地獄のような痛みを招きつつ、ラウンジ兵の全身を蹂躙する。
その余波を受けて悲鳴を上げる周りの兵を近いものから斬り倒していく。
ブーンはふと思った。
今日の戦が始まってから何人殺したか。
そして心中で呟いた。
−一日でこれ程殺し続けたのは今日が初めてだ。と
(*^ω^)
込み上げる愉悦を押し殺しながら、ブーンは切り上げる。
ラウンジ兵は辛うじて手に持った盾で剣鬼の切り上げを防ぐが、そのまま掬い上げられて石畳の天井に激突。
落ちてきた所に蹴りをもらい、首があらぬ方向に曲がって絶命する。
周りで動くものがいない事を確認すると、ブーンは肩の力を抜いた。
ここまで全力で動きっぱなしだったブーンだが、流石に疲労を感じ始めていた。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:12:11.02 ID:F4S3k0jb0
- 全身を脱力感が襲う。今までならもう一歩も動けない程の運動量だった。
しかし、目的地はもうすぐそこにまで迫っている。
ブーンは自らの四肢に活を入れると、再び全速力で駆け始める。
( ―) 味…方か、ツンデ、レ、様の部屋…は、その先、に………
目的の部屋の前で瀕死のVIP兵が壁にもたれていた。
ブーンの軽装を見て、彼がVIP軍である事を確認すると、最後にそう呟いて事切れる。
片膝をつき、事切れた兵士の瞼を下げるとブーンはすぐさま扉を開けて中に入った。
床に倒れるツンデレ。
にじり寄るラウンジ兵。
立ちはだかる男。
(;・∀・) 待て!
視線の先十数メートルの所で複数のラウンジ兵にたった一人で大立ち周りを繰り広げる男がいた。
周りにVIP軍の兵士が倒れ、彼とツンデレを囲むラウンジ兵の状況から、彼が最後のVIP連合の一人なのだろう。
- 173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:13:24.99 ID:F4S3k0jb0
- ツンデレへと斬りかかろうとしたラウンジ兵の首を片手で無造作に掴むと、男は尋常ではない膂力で放り投げる。
その隙に斬りかかってきたラウンジ兵の剣を、男は鮮やかに弾く。
しかし、それすらも囮にした別のラウンジ兵が大きく周り込み、倒れるツンデレの側面で剣を振り上げた。
(;・∀・) ツンデレ!
瞬間
ξ゚-゚)ξ おにいちゃま
ξ゚听)ξ にー様ー
ξ゚―゚)ξ まったく!にい様ったら……
ξ;凵G)ξ にい様ぁああああ
ξ#゚听)ξ にい様っ!!
ξ*゚听)ξ に、い、様……
ξ゚ー゚)ξ にぃ様っ
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:14:56.02 ID:F4S3k0jb0
- 笑った顔
怒った顔
むくれた顔
泣いた顔
照れた顔
赤子の頃
幼少の頃
帝国に滅ぼされた頃
女神となった頃
呆けた状態でその状況を見ていたブーンの脳裏に、一瞬にして様々な妹の顔が過る。
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:15:59.72 ID:F4S3k0jb0
- ( ω )
大切な妹。
( ω )
帝国に両親を殺されて運命に翻弄された妹。
( ω )
封印の女神として、世界の供物となり、警護という名目で幽閉された妹。
( ω )
そして今、そんな薄幸の妹は殺されようとしていた。
( ω )
何故だ?
彼女はとても優しいただの女の子なのに。
( ω )
何故だ?
彼女ばかりがこんな目に合う?
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:18:30.24 ID:F4S3k0jb0
- ( ω )
何故だ?
誰が悪いんだ?
何が悪いんだ?
何故なんだ!
( ω )
依然呆けたまま、視線を床に落としたブーンの脳内をぐるぐると様々な思いが駆け巡る。
不意に上げた視線はツンデレを斬ろうとしているラウンジ兵を捉えた。
剣は振り上げられたままだった。
ブーンは手を動かそうとして思うように動かない事に気付く。
時間は止まっていた。
( ω )
そうだ。
( ω )
そうだった。
- 187 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:23:36.13 ID:F4S3k0jb0
全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全全部
全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部
ぜーんぶ
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:25:24.60 ID:F4S3k0jb0
- ( ^ω^)
ラウンジがわるいんじゃないか………
( ^ω^)
ふ ざ け る な
( ゚ω゚)
殺す
死ね
殺す殺す
殺す死ね死ね殺す
殺す殺す殺す殺す死ね殺す殺す
殺す殺す死ね死ね死ね死ね死ね殺す死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
- 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:28:05.56 ID:F4S3k0jb0
- (;・∀・) ブーン?!
ブーンの脳内で何かが切れる音がする。
同時に止まっていた時間が正常に動き始めた。
男がブーンの名前を呼んだ。
全てが同時に進んだ。
・
・
・
・
・
・
−ン
何かが聞こえる。
−ーン
呼んでいる?誰が?誰を?
−ブーン!
引き戻される。
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:29:26.51 ID:F4S3k0jb0
(;・∀・) ブーン、もういい!もう、死んでいる。
男の言葉を聞き、ブーンは我に返った。
しかし、勝手に動く手は止まらない。
訳が分からずにブーンは自身の両手を見下ろす。
手は逆手に長剣を持って振り上げ、振り下ろすという行為を繰り返していた。
(####)
突き立てる長剣の先には倒れたラウンジ兵の顔があったが、もはや頭部というしかない状態だった。
(;・∀・) 相変わらず激しい奴だな。だが……助かったよ。またお前に助けられた。
その言葉を聞いてブーンは辺りを見回す。壁一面に血飛沫が飛び散り、四肢を斬り飛ばされ、臓腑をぶちまけたラウンジ帝国の兵が無数に転がっていた。
ブーンの目にツンデレの姿が映る。その顔色は死者のように青白い。
心配そうに、そして切なげに彼女は上目づかいでこちらを見つめていた。
そしてブーンに喋りかける男へと視線を移す。
- 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:31:02.82 ID:F4S3k0jb0
- ( ^ω^)−もららー
(;^ω^)−?!
モララー。
幼馴染にして妹、ツンデレの元婚約者。
国が滅びる前はよく一緒になって馬鹿をして遊び、VIPの傭兵となってからは、立場は違えど共に修練に明け暮れた友。
よく知るその男の名前を呼ぼうとして口を開けるが、その口から何一つ発されることは無かった。
( ^ω^)−つんでれ
再び口を開けて今度は妹の名前を呼ぼうとするが、それも叶わない。
( ω )
ブーンは頭を振って後ろを向く。
( ・∀・) ……?
ξ゚听)ξ …兄様?
そんなブーンの様子を二人とも訝しむ。
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:33:05.98 ID:F4S3k0jb0
- 意を決したブーンは再び振り返り、二人と対峙すると、二三、口を開いた後に顔を左右に振った。
(;・∀・) ブーン、お前…喋れないのか?
ブーンは頷く代わりに舌を出す。
そこには契約の証したる印が刻まれていた。
(;・∀・) ……契約者に?!
ブーンは頷く。
ξ゚听)ξ ッ!!
驚くモララー。
その傍らでツンデレが両手を握りしめる。
モララーはブーンに対して何か声をかけようとするが、かける言葉見つからずに2、3歩、歩く。
( ・∀‐) …この城も、もう安全じゃない。
そんな彼の口から出てきたのは話題を変える言葉だった。
城下では未だラウンジとVIPが戦っている。
しかし、紅き竜の助成により、VIP軍が巻き返し始めている事をブーンは当の竜の声により知っていた。
( ・∀・) 俺は………ツンデレをエルフの里に連れて行こうと思っている。
- 202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:36:28.98 ID:F4S3k0jb0
- モララーは続ける。
( ・∀・) あそこは永世中立の里なんだ。きっとラウンジ軍も簡単には手が出せないはずさ。
モララーは更に続ける。
( ・∀・) 女神を連れ回すなど畏れ多いことだが……状況が状況だ。止むを得ん…
モララーの言葉に、ブーンはどうすればよいか分からずその場で固まる。
モララーはツンデレの肩に手をかけた。
( ・∀・) 今やツンデレは世界の封印を保つ女神だ。
(・∀・#) ……しかしもともとは俺の許嫁だろっ!死なせたくないんだ!
( ・∀・) なぁブーン。俺に、俺に任せてくれ!ブーンにとってもツンデレは女神である前に大切な妹だろ?
ブーンへと向けられたその言葉は彼の胸の中に容赦なく侵入する。
ブーンは頷くしかなかった。
(*・∀・) わかってくれるか。……よし、旅立ちの記念に歌を唄おう。
モララーは辺りを見回して、奥に立て掛けられたハープと椅子を手にとり、ブーンとツンデレの前に座る。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:38:25.99 ID:F4S3k0jb0
- ( ・∀-) それでは祝杯を
やや芝居がかった調子で大きく腕を広げるとモララーは弦を鳴らして音を確かめる。
繊細な弦が紡ぐ音色は室内に響き渡る。
( ・∀・) いつもの歌だが…
そう前置くと、モララーはハープの音色に合わせて唄いはじめた。
彼の唄う歌はブーンもツンデレも幼少の頃より聞き慣れた歌だった。
幼い頃、女性のように高かった声は、今や成人男性特有の低いものへと変化していた。
ソプラノの高さを失ったモララーの歌声は、その代わりに、聞き惚れてしまう程のアルトの旋律を得ていた。
これ程の美声を、ブーンは他に聞いた事が無かった。
自身にはないその才能に、心の底からブーンは感嘆する。
(*^ω^)
ξ*゚ー゚)ξ
(・∀・*)
- 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/06/15(水) 23:40:22.57 ID:F4S3k0jb0
- 懐かしき歌を聞きブーンの顔も次第に和らいでいく。
彼はツンデレの傍に立ち、その頭を優しく撫でた。
久しぶりに触れ合う兄妹。
気恥ずかしいのか、ツンデレは俯いて照れる。
その様子を眺め、微笑みながら唄うモララー。
三人の間に一時の安寧が生まれた。
しかし、彼らは気付かない。
その周りには夥しい量の血と無残な死体が横たわり、そこから異臭が放たれている事に。
その光景がどれほど異常で、どれほど狂気的かという事に。
【胎動】 終
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