- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:39:01.77 ID:HQSeDPRaO
-
( ・∀・)「ん……もう朝か……」
視界の端に映った時計の針が8時を示していた。
眠っていたのか起きていたのか定かではない、空白の時間から意識が浮かび上がる。
( ・∀・)「どこまでやったんだっけ……?」
真っ黒な画面に真っ白な文字が浮かぶPCのモニタに目を落とす。
一見何の意味も成していないような数字の羅列をざっと見渡し、取り敢えずの目標までの作業が終わっているのを確認した。
( -∀-)「さすが僕だね……」
いつどうやって終わらせたか記憶に無いが、この部分を担当しているのは自分だけだ。
自分以外にこれを終わらせる事は出来ない故、これは自分がやったのだろう。
僕はPCのモニタの電源を落とし、立ち上がる。
研究室の扉を開け、廊下に出る。
靄がかかったような頭の眠気を覚ましに喫煙室に向かった。
ぼんやりとした蛍光灯の明かりに照らされた、そう明るいとは言えない廊下では誰ともすれ違わなかった。
窓が無く、不均等に並ぶ扉があるだけの長い廊下は、ここに来た当初はとても息苦しく感じたが、今はもう慣れた。
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:41:14.33 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「まあ、窓なんかあっても無駄なんだけどね」
何故ならこの施設は地下にあるから。
窓などあったところで、見えるのは土だけだろう。
息苦しく感じたのは、その圧迫感のせいもあったのかもしれない。
喫煙室の扉を開け、室内に入る。
ここにも誰もいないようだ。
朝もまだ早い時間なので、そう珍しい事でもないだろう。
煙草を1本取り出し、置いてあった誰のものとも知らないライターで火を点けた。
( -∀-)「ふぅ……」
苦味しか感じない煙を吸う行為。
これが自分の煙草への認識だ。
はっきり言って不味い。
では、何故吸うのかと言えば、煙草は言葉通り覚醒剤だ。
眠気を覚ますため、頭をはっきりさせるためだ。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:42:47.42 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「……」
徐々に血の巡る頭に思い浮かぶのは先程の作業、この研究の事のみ。
そういう環境に身を置き、それしかやる事もないのだから当然といえば当然だ。
ここは望んで来た場所でもある。
研究の事だけを考える生活に、疑問を持つ人間は少なくとも自分達研究員の中にはいないのではないかと思う。
そんな事を考えながら、無機質で飾り気のない室内を見渡す。
そう狭くはない部屋にテーブルと何脚かの椅子が置かれた部屋。
研究員の皆ほとんどが煙草を嗜むので、この部屋の利用率は高い。
テーブルの上には新聞と雑誌が置かれている。
好んで見る人間は研究員の中にはいないが、考え事の最中に何とはなしに目を落とす事はある。
今の自分の様に。
僕は近い方にあった雑誌を手に取り、開いてみた。
( ・∀・)「……パズル雑誌ね」
雑誌はいわゆるパズル雑誌、それもクロスワードパズルが書かれているものだった。
明らかに暇つぶし目的のそれだが、持ち込んだ人間の見当は付く。
確かに彼女なら暇を潰す必要も出て来るだろう。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:44:10.74 ID:HQSeDPRaO
- 見当は付くと言ったが、現在の所、外部からこの施設の自分達の所に足を運んでいる人間は彼女しかいないのだ。
消去法で考えても彼女しかいない。
女性らしい細い字で書かれた文字を目で追う。
いくつかのパズルは完成されていたが、途中でやり掛けのページに行き当たった。
それ以降のページはすべて白紙だ。
この問題が解けない事には先に進みたくないのだろう。
彼女の几帳面な性格を考えれば想像は付く。
( ・∀・)「どこで詰まってんのかね……?」
僕は空白と書き込みが混ざっている部分に目を向ける。
□(10)
□
□ (12)
(11)サルモキカラオチル
. サ
(10)の縦の鍵は、『無謀を讃える』。
(11)の横の鍵は、『達人も時に失敗を招く事がある』。
(12)の縦の鍵は、『雨の日に差すもの』。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:46:27.81 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「ふむ……」
僕は左手を顎に当て、考え込む。
この手のパズルは、ここにいる研究員が誰であれ本気で取り掛かったら瞬く間に解けてしまうようなものだろう。
知識で補えない部分も、その調査能力を考慮すればすぐだ。
それだけの人間が集められている。
しかし、この問題は……
( ・∀・)「少々難解だね……」
(10)の部分に入る言葉が思い付かない。
『さ』で終わる4字の言葉で『無謀を讃える』言葉。
残念ながら自分のライブラリの中には存在しない。
( ・∀・)「……」
一度研究室に戻り、調べてみるかと思いもしたが、それはそれで少し悔しい気もしたので再度ページを見詰める。
生憎、文字や文学といった分野は専門ではないのでわからなくてもそれほど恥ずかしくもない話なのだろうが、
その辺りは性格にも因るのかもしれない。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:47:22.83 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「いや、違うな」
誰に言うでもなく自然に口をつく言葉。
恐らく自分を始めとして、ここにいる研究員は皆、わからない事があるとそのままにしておく事はしないだろう。
ある種の自尊心と知識欲を合わせた様な感覚に突き動かされて。
□(10)
□
□ (12)
(11)サルモキカラオチル
. サ
(10)の縦の鍵は、『無謀を讃える』。
(11)の横の鍵は、『達人も時に失敗を招く事がある』。
(12)の縦の鍵は、『雨の日に差すもの』。
( ・∀・)「なるほど」
(10)に関わる部分を見直し、程なくしてある事に気付く。
間違いがある事に。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:49:25.15 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「この部分の答えとしてだけなら間違ってないんだが……」
僕はページの上部、問題の解説が書かれている部分に目を向ける。
こうの手のパズルには確かテーマ的なものがあったはずだ。
( ・∀・)「お、あったあった」
パズルのタイトルと共に、添えられた文章には、水に関することと書かれてある。
それを基に考えれば、先程の箇所は明らかにおかしい部分がある。
□(10)
□
□ (12)
(11)サルモキカラオチル
. サ
( ・∀・)「こうだな」
□(10)
□
□ (12)
(11)カッパノカワナガレ
サ
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:51:18.06 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「それでこう……かな?」
ヒ(10)
.ョ
ウ (12)
(11)カッパノカワナガレ
サ
細く几帳面な字を消し、手近にあったボールペンで書き込む。
これで間違っていたらひどいものだが、恐らくこれであっているはずだ。
( ・∀・)「しかし、ひょうか(馮河)なんて言葉、普通使わないよね……」
大衆的なパズルに用いるにはいささか一般的ではない言葉だ。
随分と意地の悪い問題に思えるが、懸賞付きと考えれば時にはそういう難解なものも混ぜる必要があるかもしれない。
僕はそのまま他のマスに目を落とし、次々と言葉を書き込んでいく。
それ以降は一度も詰まることなく、全てのマスを埋め尽くした。
( ・∀・)「よし、完成と」
右手に持っていたボールペンをくるりと回し満足げに頷く。
見直しはするまでも無く、全てあっている自信はある。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:52:46.41 ID:HQSeDPRaO
- ( ・∀・)「結局、難しいのはあそこだけだったな……」
あまり馴染みの無い言葉という事もあったが、やはり大きかったのは別の箇所を間違っていたせいだろう。
言葉の意味はあっているが、この問題には適していなかった言葉。
間違いが間違いを呼び、事を難解にする。
そう珍しくも無い現象であろう。
問題の前提を間違っていた。
忘れていたというべきだろうか。
解いてる内に忘れてしまったのか、それとも先に浮かんだ言葉の先入観、文字数が同じだった事もあり、
ミスを犯してしまったのか。
何にせよ、間違っていたのだ。
( ・∀・)「しかし……ちょっとまずったかな?」
よく考えなくてもこの雑誌は彼女の暇つぶしの道具だ。
それを勝手に埋めてしまったのはあまりよろしくはないだろう。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/19(土) 23:56:23.31 ID:HQSeDPRaO
- しかしながら、ここに置いていたということは、勝手に見て、やってしまってもいいという意思表示とも取れる。
単に忘れただけの可能性もあるが。
( ・∀・)「まあ、いいか」
聞かれたら答えればいいし、こちらから言ってもいい。
そんな事で怒り出す様な人ではない。
むしろこちらの気が紛れたならそれでいいとでも言われそうだ。
僕は雑誌を静かにテーブルに下ろし、立ち上がった。
そろそろ研究に戻る頃合だ。
特に時間は決められてなく、完全に自己責任ではあるが、頭の具合もほど良くほぐれた今は研究に適している。
( ・∀・)「お?」
扉を開け、廊下に出た所で誰かが近付く足音に気付いた。
方向は僕の進行方向と真逆、研究室ではなく上階に通じる北階段の方。
この方向から来る人間は限られている。
噂をすればというやつだろうか。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:00:06.29 ID:w7ciPg/6O
- (゚、゚トソン「あ、おはようございます、モララーさん」
( ・∀・)「やあ、おはよう、都村さん。ということは今はそんな時間なのかな?」
僕の問い掛けに、そんな時間ですと彼女は笑って答える。
廊下には時計は架かってなく、僕自身も腕時計は着けていない。
ここでは時間は計測の単位であり、生活の指針ではないのだ。
研究中でもない限り時間を気にする人間は研究員の中にはいない。
(゚、゚トソン「相変わらず皆さん研究熱心ですね」
( ・∀・)「そういう感覚とは少し違うんだけどね」
研究は仕事である以前に、自分達にとっては普段の生活の一部、いや、大半を占めるものだ。
皆好き好んでこんな隔離施設に籠る様な人間なのだから。
研究があれば他には何もいらない。
動機に多少の差はあれど、ここにはそういった魅入られた人間が集う場所である。
(゚、゚トソン「皆さんそんな風には見えませんけどね……」
ごく普通の方々に見えるという彼女だが、一見普通見えて実は狂っている人間ばかりということは僕自身がよく
理解している。
狂っているは言い過ぎかもしれないが、研究以外何もいらないと考える様な人間をそれ以外の言葉で表す術を僕は知らない。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:02:40.72 ID:w7ciPg/6O
- (゚ー゚トソン「でも、狂っていると感じておられるという事は、モララーさんは普通の方なんですね」
( ・∀・)「……」
そう言って笑い掛ける彼女に、僕は何も言い返せずにいた。
確かに、彼女の言い分は正しいのかもしれない。
この状態をおかしいと思っていなれば、狂っている等という言葉は出て来ないはずだ。
(゚、゚;トソン「すみません、失言でしたね」
自分の言の不適切さに気付いたのか、慌てて弁明する彼女だが、単なる認識の違いなだけで、そう思われる事もあると
我々は理解しているのだ。
気にする話じゃない。
しかし……
( ・∀・)「いや……別に……」
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:04:10.66 ID:w7ciPg/6O
- おかしい。
僕はここへ望んで来たはずだった。
毎日何も気にせず、研究だけに没頭出来る夢の様な職場。
そんな認識は今でも変わっていない。
だのに何故、狂っている等という言葉が僕の中から出て来てしまったのだろうか?
(゚、゚トソン
黙ってしまった僕に、首を傾げてこちらを見る彼女。
その目をまっすぐ見返せば、その理由に気付けたのかもしれない。
( ・∀・)「……あめ」
(゚、゚トソン「はい?」
( ・∀・)「いや、ここ」
僕はそう言って自分の側頭部を指差す。
彼女は再び首を傾げ、僕と同じ様に自分の側頭部手を当てると何かに気付いたようだ。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:06:13.89 ID:w7ciPg/6O
- (゚、゚トソン「あ、はい、外は少し雨でしたね」
わずかに濡れたように見える髪の毛が、外の天気を教えてくれた。
小雨だったので車からここまで傘を差さずに来たと彼女は言う。
ちゃんと拭いたつもりだったのに、よく気付いたと彼女は感心していた。
( ・∀・)「観察は本職だからね」
(゚ー゚トソン「モララーさんにとっては、目に入るもの全てが研究対象なんですね」
彼女は笑って言ったが、必ずしもそういうわけでもない。
研究するような価値のないものもあるし、興味が湧かなければ研究対象からは外れる。
( ・∀・)(……興味か)
自分の頭に浮かんだ事だが、我ながら少し意外に思えた。
人間観察は確かに面白いが、人間に関することはすでに散々研究され尽くしていてそう新しい発見はない。
だのに何故、僕はそんな些細な彼女の変化に気付けたのだろうか。
( ・∀・)「そういえば、喫煙室のパズル雑誌、都村さんのだよね?」
ひとまず疑問は置いておき、僕は話を変えるべく先程のクロスワードの話を彼女に振った。
眼前の疑問を後回しにするのは研究者としてはよろしくないが、何となく今はそうするべきだと判断した。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:08:05.93 ID:w7ciPg/6O
- 僕はまず勝手に解いた事を謝り、誤りの箇所についての話をする。
(゚ー゚トソン「ああ、そういう事でしたか。確かにあれは先入観だと思います」
思い付いた言葉が偶然正解と字数が同じで、一旦それがあっていると思ってしまうと容易に変える事が
出来なかったのだろうと彼女は言う。
感心した表情でこちらを見る彼女からは、勝手に解いてしまった事に対する怒りは全く感じられなかった。
(゚、゚トソン「暇潰しに置いてるものですしね。誰が解いても構わないのですが」
解く人がいたのが意外だったと彼女は言う。
理由は言わずもがな。
僕らがああいったパズルに興味を持つ事があるとは思わなかったようだ。
( ・∀・)「まあ、何となく目に入ったからだけどね」
彼女がそう思うのも無理のない話だ。
僕の今日の行動はかなりのイレギュラーだと我ながら思う。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:10:15.69 ID:w7ciPg/6O
- (゚、゚トソン「何にせよ、気が紛れたのなら置いておいた価値があったというものです」
正しくは忘れただけなのですがと彼女は笑う。
職場に暇つぶしの道具を持って来てるのもどうなのかと思うと続けて言った。
ほぼ予測通りの言葉を告げる彼女に、僕は満足気に頷いて言う。
( ・∀・)「まあ、いいんじゃないの? 実際僕らの相手は暇だろうし」
(゚、゚;トソン「すみません、そういうつもりはなかったのですが……」
慌てて弁解する彼女だが、実際僕ら研究員の相手は暇で仕方がないと思う。
ほとんどの者が研究に没頭し、喋る事もないだろう。
時折難題を吹っかける者もいるが、本当にごく稀だ。
その場合も研究に関する事なので、大体上に伝えれば便宜を取り計らってもらえる。
( ・∀・)「君は良くやってると思うよ」
こんな息が詰まりそうな地下で、変人ばかりの中で、彼女は気難しい研究員と巧く付き合っていると思う。
それどころか、時には意見対立する僕らの間を上手く収めた事もあった。
彼女の対人折衝のスキルは申し分ないと思う。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:12:09.40 ID:w7ciPg/6O
- (゚、゚トソン「……」
( ・∀・)「ん? どうしたの?」
僕の言葉に彼女は足を止め、こちらを不思議そうに見ている。
(゚、゚トソン「いえ、その……そんな言葉を言って頂けるとは思いませんでしたので……」
( ・∀・)「そう? でも、皆口には出さないけど君に感謝してると思うよ?」
研究を滞りなく進められるのは、彼女が上手く取り計らってくれている部分による所も少なからずある。
この役割に就いたのは彼女で3人目だが、どう考えても前任の2人よりは気がきいている。
少なくとも、形だけの所長の何十倍も僕らにとって有益な存在だ。
(゚、゚*トソン「さすがに疎まれてるとは思っていませんでしたが、そうはっきり言われると何だか照れますね……」
僕らがお世辞の様な無駄な事は言わないのは彼女もわかっているだろう。
ただ、そういう事を直接告げられる事もないと思っていた様だった。
( ・∀・)「そう言われるとそうかもしれないね。他の誰かが君にこんな事を言ってる姿が想像出来ない」
(゚ー゚トソン「自分は言っておいてですか?」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:15:14.93 ID:w7ciPg/6O
- 彼女は笑ってまた歩き出した。
ありがとうございますと、礼の言葉を添えて。
同じ様に僕も歩き出す。
少しだけ浮かんだ疑問、何故僕はこんな話を彼女にしたかを気にしつつ、クロスワードと同じ様に、何となくと片を付けて。
( ・∀・)「そういうわけだから、暇つぶしは気にしなくていいと思うよ」
何なら寝ててもいいと言う僕に、彼女は苦笑いを浮かべつつ首を振った。
(゚、゚トソン「そういうわけには参りませんので。一応国民の税金で雇われた公務員ですし……」
彼女が言う様に、彼女は総務省から派遣された公務員だ。
同様に、僕らも同じく一応公務員となる。
所属は彼女とは別で、文部科学省ではあるが。
別の省から来てるという事は、彼女の仕事の中に査察も含まれていると見ているのだが、彼女を始めとして、前任の2人にも
そういった活動をしている様子は見られなかった。
( ・∀・)「真面目だねー」
(゚、゚トソン「皆さんに比べれば全然ですけどね」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:18:29.02 ID:w7ciPg/6O
- ( ・∀・)「僕らは真面目なわけじゃないよ。あれは単に呼吸をしてるようなものだからね」
(゚、゚トソン「呼吸ですか……」
先程もそういう話をしたのだが、やはり普通の感覚であるであろう彼女には僕らのこの考え方は伝わり辛いのだろう。
好んで隔離施設に閉じ籠るような事は。
( ・∀・)「まあ、それは置いといて。そういうわけだから、あんまり気負わずにね」
(゚、゚トソン「はい、がんばります」
彼女の少し気負ったような返事に、僕は苦笑いを浮かべた。
その笑いの意味に気付いたのか、彼女は少し照れたような笑みを浮かべる。
( ・∀・)「真面目でも適当でも給料はそう変わらないだろうしね。まあ、安定してるのは国家公務員の強みだろうけど」
世は大不況だと前に聞いた覚えがある。
そんな中、安定した給料の得られる国家公務員という職業に就けた彼女は幸運なのだろう。
無論、幸運だけでなく、彼女が努力した結果なのだろうが。
( ・∀・)「国が引っくり返りでもしない限り、老後まで安泰だね」
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:21:31.29 ID:w7ciPg/6O
- (゚ー゚トソン「そうですね……」
僕のさして面白くもない冗談に、彼女は少し表情を曇らせる。
それでも笑みを絶やさなかったのは調整役としてのプロ意識の現われか。
( ・∀・)「……ああ、そうか」
さして時間を必要ともせず、僕は彼女のその表情の理由に思い当たった。
( ・∀・)「今度の選挙、負けるかもしれないんだっけ?」
長年政権を保っていた政党が今度の選挙で負けるかもしれないというような記事を以前新聞で見た気がする。
普段は政治のニュース等に全く関心を持たない他の研究員達も、このニュースには興味を持っていた。
(゚、゚トソン「ええ、おそらくは……」
( ・∀・)「おやおや……」
研究室に辿り着いたので、会話は一旦そこで途切れた。
研究室のドアを開け、彼女と共に部屋に入る。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:24:59.83 ID:w7ciPg/6O
- 彼女は一旦荷物を共用のテーブルの上に置き、廊下に出た。
いつもの様に掃除用具を取りに行ったのだろう。
それが彼女の仕事いうわけでもなく、多少汚れていた所で気にする研究員はいないが、部屋が綺麗な事に文句を言う
研究員もいない。
自分のテーブルの上を勝手に弄られると怒るやつはいるが。
( ・∀・)(真面目だねえ……)
戻って来た彼女がテーブルを拭くのを眺めながら、僕は自分の席に座る。
落としていたモニターの電源を点けると、喫煙室に向かう前と寸分違わない画面が浮かび上がる。
この部屋は大研究室と呼ばれ、共用の作業場だ。
階下に個室もあるが、大体皆ここで作業をしている。
主に利便性の問題で。
様々な機器がこの部屋に集中しているし、時には共同作業も必要になる事もあるからだ。
研究の分野は多岐に渡る。
美味しく炊ける炊飯器の開発の様な些細な研究の様なものもあれば、核兵器の数十倍の威力を誇る兵器の研究もある。
表に出せるものも出せないもの、清濁合わせた研究が行われている。
当然、そこには研究員の倫理という問題も浮かび上がるが、ここではさして問題にはならない。
何故ならここにはある意味狂った人間しかいないから。
研究をする事が目的であり、その結果には何の興味も抱かない人間ばかりなのだ。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:28:30.28 ID:w7ciPg/6O
- ( ・∀・)(とはいえ、少しは影響してくるかな……)
僕はモニターに向かいながら、珍しく研究に集中出来ずにいた。
先の話、国が引っくり返った場合の話だ。
この研究施設は秘密裏に作られたもので、あてがわれている莫大な予算等は当然表に出ていない。
政権が変われば、最悪、この施設の破棄も有り得る話だ。
研究の成果は存分に出しているつもりではあるが、かかる予算も考えれば新政権がここをどう扱うか予測はつかない。
( ・∀・)「まあ、政権が変わっても都村さんは別に失職するわけでもないよね」
(゚、゚トソン「え? あ、はい、私は議員というわけではないですので、恐らくは……」
掃除の手を止め、何の事かすぐにはわからなかったのか少しの間の後にそう答える。
彼女はそう言ったが、この研究所という機密に関わったばかりに失職する可能性もゼロではない。
( ・∀・)(……失職で済めばいいけど)
頭をよぎった不吉な考えを振り払い、モニターに目を向ける。
しかし、どうにも集中出来ず、大きく椅子にもたれ掛かり、視線を天井に向けた。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:33:25.81 ID:w7ciPg/6O
- 打ち放しのコンクリートの無機質な灰色。
この施設は機能的には作られているが、お世辞にも装飾に気を配ってあるとは言い難い。
( ・∀・)(そんな事を気にする人間は誰もいない……いや、彼女ぐらいかな……)
この施設は地下にある。
しかし、どこの地下にあるのか僕は知らない。
連れて来られる時は、ご丁寧に麻酔で眠らされて運ばれて来た。
施設は5階層からなり、地下1階、最上階のフロアはここの責任者である所長のフォックスの部屋があり、地上に
出るためのエレベーター、そして非常用の階段がある。
他に外部からの来客用のゲストルームもあるが、こんな所に人が来る事はまずないので、使われる事も無い。
地下2階がここ、メインの研究用のフロアだ。
いくつかの大きな実験室があり、研究員8名の個室もある。
その他には喫煙室や給湯室といった部屋もいくつかあり、ほとんどがこのフロアだけで事足る様になっている。
研究員の個室は地下3階にもあるが、こちらは主にプライベート、と言ってもほとんどの者が寝るだけの部屋と化している。
他にも食堂など、どちらかと言えば日常生活用のフロアだが、先にも述べた様に、研究員の日常生活は研究が主となるので
寝る時以外あまり使われる事のないフロアとも言える。
その寝るときでさえ、昨日の僕の様に研究室で夜を明かす事も多い。
( -∀-)(昨日は珍しく、僕以外は部屋で寝てたけどね……)
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:37:18.64 ID:w7ciPg/6O
- 地下4階はこの施設の心臓部とも言える動力炉、発電機器等が備えられている。
ここは世間一般にはまだ出回っていない技術の宝庫とも言える場所だ。
地下深くにこんな施設を作るという前例にない計画が通ったのも、この技術に寄る所が大きい。
普段はある程度外から供給されているのだが、水や酸素、電気も含めてここだけで賄えるほぼ完全なる永久機関が構築されている。
嘘の様な話だが、この規模、人数限定、特定の行動のみと制限をいくつか設ければ可能なのだ。
つまり外部と遮断されても、ここは存続する事は一応可能ではある。
( -∀-)(精神的に耐えられればね……)
核戦争が勃発しても耐えられるシェルターの様な施設ではあるが、外に出られないという抑圧に耐えられるかどうかが一番の
問題だろう。
外部からの情報も遮断される。
今は彼女を通じて、新聞や雑誌、たまに差し入れという形でのお菓子など外部との接点を保てているが、それもなくなるのだ。
だから、一応可能という話だ。
( -∀-)(研究員は皆耐えられるだろうけどね)
確証はないが恐らく耐えられるだろう。
その状況をシミュレートしてみても、特に問題となる点は思い付かない。
研究に必要な資料、データは全てメインサーバーに備えられている。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:40:31.52 ID:w7ciPg/6O
- 問題があっても自分達で補修出来る。
発電機が止まれば多少問題が出てくるだろうが、予備電源は確保されているし、それを使い切る前に修繕は終わるだろう。
( -∀-)(ただ、その他の所員はどうだろね……)
流石にこれだけの巨大な研究施設を研究員8名だけで維持出来るものではない。
実験には人手も必要だし、食料生産など、雑事に関わる人間も必要だ。
そういった人間がいる層が最下層の5階だ。
他のフロアに比べ、莫大な広さを持ち、各種生産設備、実験用の施設、そして所員の部屋がある。
( -∀-)(彼らはそうなった場合どう思うのだろうか?)
深く考えるまでもなくその答えは導き出される。
どうしようもない。
その状況を恐れ、慌てふためいた所で彼らの置かれた境遇は変わり様がない。
この施設に来た時点で、彼らはここから出る事を許されないのだから。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:43:30.35 ID:w7ciPg/6O
- ( -∀-)(出た所で待つのは死か、永遠の牢獄か)
僕らの様にこんな訳有り施設に好んで来る人間は限られている。
他省から派遣されている所長と彼女を除けば、後はここに来ざるを得なかった人間だけだ。
死刑囚、無期懲役の囚人。
そんな人間が死や拘束の代わりに得たものが、ここで人間らしい生活だ。
その代わりに、半永久的に労働力を提供してもらう。
無論、人員の選定は行われ、著しく労働に不適合な人格破綻者などは除外されている。
作業も個人作業がほとんどで、他者と顔を合わせる事もない。
最も、顔を隠し、番号で呼ばれる彼らが顔を合わせた所で互いが誰かもわからないのではあるが。
当然、人道的、道徳的、法律的にとあらゆる面で問題のある施設運営だ。
徹底された機密保持がなされている。
だが、土日を除けば毎朝ここに通っている彼女はこの場所がどこにあるのか知っているのだろう。
たとえ、この場で行われている研究の内容に一切関わっていなかったとしても、この場所を知っている事が彼女に
どう影響するか、考えれば答えはいくつかに絞られる。
この施設に関わっている人間が、人道的な話を考慮してくれるとは思い難い。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:47:06.30 ID:w7ciPg/6O
- ( -∀-)(あまり考えたくない答えだね……)
そういえば彼女の前任の2人はどうなったのだろうか?
2回ともある日突然担当者が変わった。
彼女はその辺りの話は聞かされてない様だったが、先の想像の様な話でなければいいのだが。
( -∀-)(……)
珍しく研究以外の事を考え込んでいる自分に気付き、我が事ながら少し戸惑う。
今考えていた事は、自分にとってはっきり言ってしまえば些事だ。
僕は研究をしにここに来ている。
研究が出来ればそれで良かった。
元いた研究室に比べればここは天国だ。
それなりの結果を残していた研究室で、その結果に何の頓着も見せない僕に向けられる奇異の視線。
そんなわずらわしい事象はここには存在しない。
( -∀-)(……何でだろうね)
背後の方で人の動く気配がある。
僕が考え事をしているのがわかっているのだろう。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:52:16.89 ID:w7ciPg/6O
- 彼女はなるべく静かに、邪魔にならないように掃除を続けている様だ。
よく気が利く子だと思う。
「!?」
( ・∀・)「どうし──」
不意に、彼女の息を飲むのがわかった。
僕は目を開け、彼女の方に目を向け様としたが、彼女が驚いた理由にはすぐ気付いた。
( ・∀・)「停電?」
(゚、゚;トソン「は、はい……、そうみたいです」
ずっと目を閉じていた僕は、すぐに暗闇に慣れ、彼女の姿をすぐに探し当てた。
不安そうに胸に手を当て、じっと立ちすくんでいる。
( ・∀・)「珍しいね、外の不具合かな? まあ、すぐ内部電源に切り替わると思うよ」
先にも述べた様に、普段は外部から電気が供給されている。
ここに来た当初はまだ整備が完璧ではなかったのか、停電する事もたまにあった。
最近では珍しいので少し驚いたが、想定された範囲の内だ。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 00:57:38.62 ID:w7ciPg/6O
- (゚、゚;トソン「そうなんですか……。こういった事は初めてなので驚きましたが……」
( ・∀・)「停電する度にワカッテマスが怒って所長に文句言いに行ってたからね。だいぶ改善はされたはずなんだけど」
僕は同僚の黒目がちな研究員の顔を思い浮かべる。
神経質な彼は、細かい事に拘り過ぎる部分を除けば僕がここでは最も一目置いている研究員だ。
今回もまた所長に詰め寄るのだろうかと考えていると、ゆっくりと部屋の電気が点いた。
( -∀-)「うお、眩しい」
(゚、゚トソン「ああ、点きましたね。内部電源に切り替わったんですね」
( ・∀・)「だね」
僕は自分の席のモニターに視線を向ける。
落ちていたモニターの電源も回復している。
そこには浮かぶ数式には何の変化はない。
『・・・・・・・・・・・・』
モニターとは違い、PCには当然のように無停電装置が備え付けられており、電源復旧までの時間で落ちる事はない。
(゚、゚トソン「原因は何だったのでしょうか?」
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:00:10.46 ID:w7ciPg/6O
- ( ・∀・)「さてね。配線のトラブルか……まあ、その内所長からアナウンスがあるでしょ」
それくらいしか仕事がないんだし、と続けた僕に彼女は吹き出す様な笑みを浮かべた。
所長であるフォックスは、一応僕らと同じ研究員で、文部科学省に属している。
僕らとは比べ物にならないぐらい高名な研究員ではあるが、それは肩書きだけだ。
成果を上げたのは彼ではなく、彼の研究室。
彼はそれを口下手な研究員に代わって上手く披露したに過ぎない。
下にいたものが、成果に拘らない人間だった事も功を奏したのだろう。
そんな彼がこんな隔離施設の所長を勤めているのは少し謎ではある。
表立って成果を披露出来ない、いわば陰の部署にいる事が。
(゚、゚トソン「彼は時々地上に出てますしね」
そんな話をすると、彼女の方からそんな情報の提供があった。
なるほど、僕らとは違い、ある程度の自由は保障されているのか。
大方この施設の計画段階で、名前だけは知られている彼が一役買ったという所だろう。
事の露見が自分の進退にも関わる話なら、あの俗物も迂闊な事を口走る事もないと見ての自由だろうか。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:02:16.43 ID:w7ciPg/6O
- 『・‥…──vw√Vw──』
( ・∀・)「おっと、噂をすれば、というやつかな」
目立たぬ様に研究室の前面に備え付けられたスピーカーからノイズが響く。
先の停電の説明を所長がしてくれるのだろう。
( ・∀・)「……ん?」
(゚、゚トソン「どうされました?」
( ・∀・)「いや……」
随分と放送のノイズがひどい様に思える。
最新の技術を誇る施設にしてはお粗末に思えるほどの。
(゚、゚トソン「これも不調でしょうか?」
( ・∀・)「いや、うーん……」
そうは言った物の、最後に放送を聞いたのはだいぶ前だ。
元からこんなだったかもしれない。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:04:11.68 ID:w7ciPg/6O
- さして使いもしない設備である。
さほど気を配って作られてないのかもしれない。
そんな事を考えてると、予想通りフォックスの少しハスキーな声がスピーカーから響いて来る。
『──本日、9時をもってこの施設の封鎖が決定した』
(;・∀・)「は?」
(゚、゚;トソン「え?」
しかし、スピーカーから流れる声は、予想だにしないものだった。
所長が何を言っているのか考える間もなく、スピーカーからは同じ言葉が繰り返される。
『繰り返す。本日9時をもってこの施設の無期限封鎖が決定した』
(;・∀・)「無期限封鎖……?」
『研究員は各自の部屋で待機。指示があるまで自室で待機。以上───wv…‥・』
唐突に放送は途切れ、室内には静寂が戻る。
考えるまでもなく言葉の意味はわかる。
言葉通り、ここの封鎖が決まった。
それだけのことだ。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:06:14.94 ID:w7ciPg/6O
(;・∀・)「何が……?」
(゚、゚;トソン「……」
言葉の意味はわかる。
しかし、あまりにも突然過ぎた。
僕は彼女に視線を向けるも、彼女もただ放心したような表情を見せるだけで何も言えないでいる。
(;・∀・)「……」
(゚、゚;トソン「……」
どれくらいそうしていたかわからない。
時間にしてみればわずか数分だったような気もするし、何時間も経ったような気もする。
ただ見詰め合い、止まって時間は、研究室の後方の扉が開く音によって動き出した。
( ^Д^)( ><)ハハ ロ -ロ)ハ 川 ゚ -゚)(´<_` ) ('A`)
続け様に6人、研究員がなだれ込んで来る。
こいつらが走る姿など滅多に見られるものではないが、今はそんな事を言っている場合ではない。
研究員の1人、プギャーが一直線にこちらに歩み寄る。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:08:22.17 ID:w7ciPg/6O
(;^Д^)「おい、いったいどういう事だ!?」
(゚、゚;トソン「え!? あ、いや、その……」
プギャーは僕には目もくれず、彼女に掴みかかる。
貧弱な体系の研究員の中では珍しくそれなりに体格の良いプギャーにシャツを掴まれた彼女は、目に見えて狼狽していた。
その周りを他の研究員が取り囲んでいる事も彼女を威圧するには十分だ。
(;・∀・)「あ、そうか……」
よく考えなくてもプギャーを始め、彼らがこういった行動に出る事は理に適っている。
彼女は外部との連絡役だ。
つまりこの事態について何らかの情報を持っている可能性が高い。
普通に考えればそうだ。
しかし……
(;^Д^)「何とか言え! この状況は──」
( ・∀・)「はい、ストップ。プギャー、その手を離せ」
僕はプギャーと彼女の間に入り、少し強引にプギャーの手を彼女から離させた。
僕の当然の行動に面食らったのか、プギャーは割とすんなりその手を離してくれた。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:10:19.25 ID:w7ciPg/6O
(;^Д^)「な!? モララーお前、何を……」
( ・∀・)「推測だけど、彼女はこの件について何も知らない」
(;^Д^)「何を根拠にそんな……」
( ・∀・)「僕はずっとここに彼女といた。その僕の見立てだ」
プギャーをまっすぐ見据え、言葉を放つ。
ひとまず落ち着けというゆっくりとした僕の言葉に、その場の空気が少し弛緩するのがわかった。
(;^Д^)「お前、いくらなんでもそれが理由にはならんだろ?」
( ・∀・)「まあ、確かに無理はあるね。でも……」
彼女の驚き様は本物だった。
普段から真面目な顔を装っている様で、その実感情の動きは顔に出やすい彼女が、あの場面で感情を押し隠せるとは思い難い。
それに彼女自身がここにいる事が、その答えではないだろうか。
( ・∀・)「知ってたらここにはいないだろ。こうなる事は誰にでも想像が付く」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:12:54.34 ID:w7ciPg/6O
もし詰め寄られるのがわかっていてここにいたなら、何らかの返答を用意していたはずだ。
僕らに理由を説明し、決定事項を伝えればそれで済む。
納得のいく説明があれば僕らが素直に聞き分ける事は彼女もわかっているはずだろう。
(;^Д^)「それはまあ、確かに……」
研究員の中では僕と一番仲が良いプギャーは、僕の言葉を受け入れかけている。
しかしながら、他の5人にの中には、未だ不信感を表している者もいる。
(´<_` )「どうだかな。伝えられない決定事項もあるんじゃないか?」
( ・∀・)「……かもね」
施設の破棄による研究員の以後の処遇。
彼、弟者の言いたい事は僕にもわかる。
しかし、それと彼女がこの件を知っているかどうかの繋がりを示す証拠とはなり得ない。
( ・∀・)「ならば尚更、彼女が無防備にここにいるメリットはないと思うんだが」
僕の言葉に、弟者は何も言わずに彼女に目を向ける。
彼女は先程よりもだいぶ落ち着きを取り戻したように見えるが、その顔色はあまり良くない。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:14:04.01 ID:w7ciPg/6O
川 ゚ -゚)「……なるほど。モララー、確かに君の言う事は理に適っている様だな」
( ><)「都村さん、何か聞いてないんですか?」
(゚、゚;トソン「い、いえ……私は何も……すみません……」
現状、考え付く可能性を頭の中で1つずつ潰して行く。
そのどれもが説得力のない、決め手に欠ける考えだ。
やはり言葉通りに受け取るのが一番可能性が高い。
それか、もう1つの……
比較的穏やかな質疑応答が進む中、今度は研究室の前方の扉が開かれる。
皆の視線が向いたその先には、この場にいない最後の研究員、ワカッテマスの姿があった。
( <●><●>)「エレベーターは止まっていました。どうやら封鎖はすでに済んでいるようですね」
開口一番に告げられたワカッテマスの言葉に、皆の顔に再び緊張が走る。
最後に残ったもう1つの可能性、所長の悪ふざけという線はこれで消えた。
( ・∀・)「それで、所長室には行ってないのか?」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:16:22.11 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「ええ、取り急ぎそれだけ確認し、こちらに来ました」
合理的な行動を旨とするワカッテマスなら、その足で所長室に向かいそうなものだから、少し意外に感じた。
普段なら、真っ先に抗議に所長室に怒鳴り込みに行きそうなものだ。
そう思ったのは僕だけではない様で、誰かがその事を聞く。
( <●><●>)「事が事ですし、1人で行くのは避けるべきかと思いまして……」
ハハ ロ -ロ)ハ「……その方が賢明かもですね」
ワカッテマスの言葉が意味する所は皆に通じた様だ。
先に弟者が述べた事と似たニュアンスの意味が。
( ・∀・)「んじゃ、行くか」
(;^Д^)「お、おい、行くのかよ?」
僕の言葉に、プギャーだけでなく他の研究員も驚いた顔を見せる。
頷いたのはワカッテマスぐらいだ。
こいつと意見が合うのは最終的な研究の答え以外では珍しいかもしれない。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:18:19.21 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「他にこの件を知る手段はないんだ。行くしかないだろ?」
(;^Д^)「そうだけどさ……」
僕らの中で一番体格も良く、どちらかと言えば強面なプギャーだが、あまり気は強くない。
目に見えて狼狽した姿に、僕は無理に来なくても良いと告げる。
( <●><●>)「全員で行く必要もないですからね。2、3人でよいでしょう」
最初から事を構えるつもりで行くわけではない。
ただ話をするだけだ。
向こうがそう思っていない場合も考えられるが、その場合は何人で行こうが変わりないだろう。
勿論、そんな事は思っていても口にはしないが。
( ・∀・)「僕とワカッテマス、あと誰か行くかい?」
(;><)「ぼ、僕が行きます」
ワカッテマスと一番仲の良いビロードが手を挙げる。
僕は曖昧に頷き、プギャーに目を向けるがプギャーは気付かない。
それほど期待していたわけではないので、僕は軽く肩をすくめてワカッテマスを見やる。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:22:28.10 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「ではこの3人で。皆はどうしますか?」
放送では、自室で待機となっていたがどうせ閉鎖空間だ、律儀にそれを守る必要もない。
そう思いはしたが、皆は自室に戻ると言う。
自室でも研究は出来るからと、階下のプライベートの自室ではなく、この階にある研究室の事だ。
( ・∀・)「……」
僕は無言で残る5人の顔を見回す。
ごく当たり前の顔で言う5人共に、自分の言葉に疑問を感じてはいない様だった。
( ・∀・)(研究ね……この状況でか……)
狂っている。
今朝と同じ言葉が、僕の頭に唐突に浮かび上がった。
(゚、゚;トソン「あの……」
( <●><●>)「何でしょう?」
それまでずっと黙っていた彼女が口を開く。
僕は思考を中断させ、彼女に目を向けた。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:25:12.82 ID:w7ciPg/6O
-
(゚、゚;トソン「私はどうするべきでしょうか?」
( <●><●>)「そうですね……」
ワカッテマスはちらりと僕の方を見る。
彼女がここにいる事、それを研究員が皆受け入れている事がどういう事か、勘のいいワカッテマスには説明せずとも
わかっているのだろう。
( ・∀・)「恐らくだけど、封鎖の大本の話は政権交代だよね?」
彼女はゆっくりと頷く。
ただ、こんな早く措置が決まるとは思っていなかったと彼女は続ける。
( <●><●>)「という事は、そういう話は元々あったわけですね?」
(゚、゚;トソン「はい、あるにはありましたが、現状維持という意見と五分五分で……」
( ・∀・)「ふーん……」
流石に世事に疎い研究員達も、政権交代という話が初耳の者はいなかった。
それがこういう形で自分達に圧し掛かってくると考えてなかった様な者もいたが。
新聞すら読まない者もいる象牙の塔の人間としては、それが普通なのかもしれないが。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:29:06.71 ID:w7ciPg/6O
-
彼女の話では今度の選挙までまだ2ヶ月以上あり、何らかの措置が決まるのはそれ以降だと考えていた様だ。
現在の政権が選挙に負けるのはもう確定事項の様で、変わる前に隠蔽工作を前倒しで進めたいのだろうか。
( ・∀・)「まあ、その辺も含めて所長さんに聞いて見ますかね」
( <●><●>)「ええ、その方が手っ取り早いでしょうね」
ワカッテマスが僕の言葉に頷く。
またも揃う意見に、僕はうんざりした目をワカッテマスに向けた。
( ・∀・)「……どうにも調子が狂うな」
( <●><●>)「この状況ではやるべき事はある程度決まってますからね」
普段の研究ではその方向性、アプローチの仕方、理論の筋道、あらゆる部分で差異が出る。
しかしながら辿り着く結論は大体同じと、似てるんだか真反対なんだかよくわからないとプギャーによく揶揄された。
( ・∀・)「そういう事にしとくか」
僕は肩をすくめ、どうでもいい話だと言葉を切る。
今は彼女の問題を考える場面だ。
( <●><●>)「それで、都村さんですが……」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:33:05.33 ID:w7ciPg/6O
( ・∀・)「自由にしてもらって……と言いたい所だけど……」
それは彼女にとってあまり良い決定とは言えないだろう。
現状、彼女への疑いの全てが晴れたわけではない。
先ほどは擁護したが、それら全て計算ずくでここに来ている可能性もゼロではないのだ。
普段の彼女を知っている身ではあるが、これまでのここでの所作の全てが演技だったとしたら。
それはあまり考えたくないケースではあるが、彼女の動機は思い付かなくても、向こう側の人間である可能性が一番高い事は
否めない。
単純に彼女が機会、立場の面において最も高い確率を有する。
その状況でこれ以降、何かが起こった場合は、まず真っ先に彼女が疑われる。
その際に彼女が自由に、それも1人で行動していたとしたら今度はかばいきれないだろう。
たとえ彼女が無実であっても。
それが研究を阻害する様な事であれば尚更、この状況では彼女の身の安全は保障出来ない。
( ・∀・)「下の1部屋に籠ってもらう方がいいんじゃないかな?」
下の個室は各自がカードキーで鍵を掛けるタイプだ。
外から封鎖する事も出来る。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:36:18.63 ID:w7ciPg/6O
-
悪い言い方をすれば監禁だが、部屋の中では自由にしてもらえるし、シャワーやトイレなど一通りの設備はある。
外との連絡はインターフォンが使えるし、これが一番安全ではないかと考えられる。
( <●><●>)「部屋はどこにします?」
( ・∀・)「所長室に行く3人の誰かの……と言ってもどこも大して変わらないから僕の部屋でいいかな?」
どうせどこも同じ間取りで、見られて困る様な物も貴重品もない。
鍵はワカッテマスに預ける事にして、と僕は提案した。
( ・∀・)「どうかな?」
居並ぶ面々を見回すが、誰からも言葉での返事はない。
あまり興味なさそうに頷くのが確認は出来た。
この話は僕らに任せるといったとこだろうか。
さっさと研究に戻りたいという態度が見て取れる。
( ・∀・)「都村さんはそれでいいかな?」
(゚、゚;トソン「は、はい……」
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:40:46.09 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「ごめんね、ちょっと窮屈かもしれないけど」
彼女は首を振り、感謝しますとようやくぎこちないながらも笑顔を見せてくれた。
話次第では彼女も被害者なのだと、僕は少し胸が痛んだ。
( <●><●>)「では、そういう方向で。3人共、行きましょうか」
先にっ立って歩くワカッテマスに続き、ビロードが研究室を出る。
僕は彼女の方を見やり、行こうと促した。
(゚、゚トソン「お手数をお掛けします」
( ・∀・)「災難だね……」
(゚、゚トソン「いえ、これも仕事ですので」
( ・∀・)「何かわかったら伝えるよ。なるべく早く出られるように努力する」
(゚ー゚トソン「どうせ暇なお仕事なのですから、お気になさらず」
ようやく普段の調子を取り戻した様に見える彼女が、冗談交じりに笑う。
それが強がりなのか本心なのかはわからないまま、僕は彼女を僕の部屋に閉じ込めた。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:44:38.77 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「ほい、鍵」
( <●><●>)「確かに。……別に貴方が持っていても誰も気にしないと思いますが」
鍵を手渡すと、ワカッテマスにしては珍しいほど控えめな調子で話し掛けて来た。
さらに言えば、あまり彼らしいとは思えない判断だといえる。
( ・∀・)「……合理的に考えれば、さっき彼女をかばった僕がここの鍵を持っているのは宜しくないだろ?」
( <●><●>)「その場面は見ておりませんので」
確かにそうだが、恐らくワカッテマスはあの場がどういう流れでそうなったか全て把握していただろう。
立ち位置にしろ場の空気にしろ、気付かないほど彼は鈍くもない。
( ・∀・)「君にしては珍しいね」
こうも些細な話で僕に話しかけてくる事が珍しいと僕は言う。
ワカッテマスの意図は掴めないが、少し面白く感じている自分がいた。
( <●><●>)「取り敢えず所長室に急ぎましょう。全てをはっきりさせれば、考えるまでもない話です」
( ・∀・)「だな」
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:47:11.71 ID:w7ciPg/6O
-
ワカッテマスを先頭に、僕、ビロードといった順で後に続く。
地下3階から上に上がる階段はフロアの両端にある。
しかし、地下1階に上がる階段は片方にしかないので、僕らはその階段がある方、北階段に向かって地下3階を歩く。
大雑把に言えば長方形のフロアで、その両サイドに各自の部屋がある。
その先に食堂や談話室があり、そこを抜ければ階段だ。
僕らは階段を上がり、地下2階、1階へと辿り着いた。
( ><)「エレベーターは完全に止まってますね」
( <●><●>)「ええ、恐らく地上で固定されているのか……」
地下1階には地上に通じるエレベーターがある。
彼女はここから施設内に通勤している。
( ・∀・)「ドアは開きそうだな」
( <●><●>)「ええ、非常用の手動のハンドルがありますので」
という事は、ここを登れば地上に出られるという事になる。
しかしながら、とんでもない高さを登る事になり、いささか現実的とは言えない。
それに、ここを使わずとも非常用の階段がこの階には備え付けられているのだ。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:51:43.80 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「階段は?」
( <●><●>)「施錠されています」
エレベーターの隣にある階段に向かうまでもなく、ワカッテマスから即座に答えが返ってきた。
所長の持つ鍵、マスターキーはこの施設の全ての鍵に対応しているはずだ。
出ようと思えばいつでも出られるはずだ。
(;><)「そうですね、出られますよね……」
少し安心した様な口調でビロードが言う。
自ら好んで閉じ籠っていてるのに、完全に閉じ込められる事が怖いのは不思議な話かもしれない。
( <●><●>)「気分的な話でしょう」
( ・∀・)「君は平気そうだね」
( <●><●>)「貴方もでしょう?」
ワカッテマスの言葉に僕は軽く肩をすくめる。
それは僕に限った事ではないと言う前に、ああは言ったビロードも含め、研究員全てが平気だろうとワカッテマスが呟く様に言った。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:55:13.88 ID:w7ciPg/6O
-
( ><)「そうですね。今の暮らしに不自由してませんし」
( ・∀・)「……」
再び湧き上がるあの言葉。
彼らは皆、自分が口にした言葉の違和感に気付いていないのか。
( <●><●>)「研究が続けられればの話ですがね」
(;><)「そ、そうなんです! それは当たり前なんです」
こちらに向いた黒目がちのワカッテマスの目が意味ありげに見えた。
何を言いたいのか、僕にはわかった気がした。
僕は視線を逸らし、呟く様に答えて歩き出す。
( ・∀・)「……まあ、そうだな」
歩きながら、思考を現状分析に戻す。
階段がそのままという事は、先に言った様に出ようと思えば出られるわけだ。
ここにまだ鍵があればの話だが。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 01:59:05.70 ID:w7ciPg/6O
-
あの放送の後、所長がここからさっさと逃げ出していても不思議はない。
その時はまだエレベーターも動いていたかもしれない。
所長がいなくても、鍵は残されている可能性はある。
その場合、階段から外に出る事も可能ではあるだろうが、無事に出してもらえる保証はない。
出口に何が待ち受けているかわかったものではないのだ。
( <●><●>)「その線は薄いでしょうね」
( ・∀・)「そんなまどろっこしい事をするぐらいなら、直接乗り込んでくるだろうな」
僕は気持ち悪いほど意見が揃うワカッテマスに、若干うんざりした顔を見せた。
しかし、考えてみれば研究以外の話を彼とした事はないし、一般的な事象に向かった場合は、お互い同じ様に前例や常識から
最も効率の良い手段を取るだろうから、意見が揃うのは当たり前なのかもしれない。
研究という、常識や前例のない未知の分野での話だからこそ、僕らは意見が合わなかっただけなのだろうか。
そんな事を考えていたが、今の状況分析とは関係ないので口にはしなかった。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:00:04.02 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「さて所長室に着いたわけだが」
飾り気のない扉に貼られた所長室プレート。
滅多に来る事はないが、前に見た時と何ら変わる事のない様子ではある。
( ・∀・)「ここの鍵が閉まってたらお手上げだね」
(;><)「その考えはなかったんです」
( <●><●>)「……開けますよ」
躊躇なく扉に手を掛けるワカッテマス。
この場の危険性を理解しているはずの人間の行動にしてはいささか無用心過ぎるとも思いもしたが、誰かが開けないことには
始まらないのもまた事実だ。
( <●><●>)「鍵は掛かってないようですね。失礼します」
ノックはせず、ゆっくりと扉を引くワカッテマス。
僕はワカッテマスの背中越しに所長室内に目を向けた。
( ・∀・)「真っ暗。こりゃいないかな……」
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:02:03.28 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「……電気はどこでしたかね」
停電はしたものの、内部電源に切り替わっていない所を見ると、自分で消したのだろう。
それが意味する所は、この部屋には誰も……
( ><)「何か臭いますね……」
( ・∀・)「臭い?」
そう言われてみれば確かに何か臭いがする。
この臭いはどこかで……実験中に……
かちりという音と共に、部屋の明かりが点く。
その眩しさに、一瞬目を閉じるが、室内の違和感にはすぐに気が付いた。
爪 − )
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:04:27.72 ID:w7ciPg/6O
-
(;><)「ヒッ!?」
( ・∀・)「──ッ!?」
( <●><●>)「……ご在室でしたか」
( ・∀・)「……みたいだね。この状況を在室と呼べるか甚だ疑問だけど」
シャツの胸元を真っ赤に染め、ソファにもたれ掛かるように倒れている所長のフォックス。
その目には既に生気はなく、確かめるまでもなく死んでいるのだろう。
無造作に所長の亡骸に歩み寄るワカッテマス。
( ・∀・)「……」
僕はどこか懐かしい気がするその顔を見詰めたまま、所長のデスクの方に向かった。
( ・∀・)「鍵はある?」
( <●><●>)「見当たりませんね」
(;><)「し、し、し、死んで……」
( <●><●>)「胸を鋭利な刃物で一突き、といった所ですかね」
( ・∀・)「んじゃ、他殺か」
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:06:05.22 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「でしょうね」
淡々と続けられる会話に、ビロードが怯えた様に後退る。
( <●><●>)「どうしましたか?」
(;><)「どうって──し、死んで……それに他殺って……何でそんな淡々と言えるんですか?」
( ・∀・)「見たままを話してるだけだ」
今必要なのは事実確認。
元々そういう目的で僕らはここに来ている。
そうしたら偶々所長が殺されていただけだ。
だとしても調べる事には変わりはない。
( <●><●>)「貴方も研究員なら、今やるべき事はわかるでしょう?」
(;><)「し、しかし、殺されたって事は犯人が」
( ・∀・)「いるだろうね」
(;><)「い、いるって、それに──」
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:09:09.09 ID:w7ciPg/6O
( <●><●>)「我々の誰かである可能性もあります」
いちいちわかりきった事を聞いてくるビロード。
あまり優秀ではないとわかっていたが、こうも状況の変化に対応が出来ないかと思うと頭が痛くなる。
人の死体など、僕らは初めて見るわけでもない。
今最優先する事は、状況を正しく把握する事だ。
( ・∀・)「もし僕やワカッテマスが犯人でも、今は何もしないよ」
( <●><●>)「私が犯人で、全員の殺害が目的なら、残って各個に殺してますね」
淡々と、とんでもない事を言うワカッテマス。
同じ事を考えた自分が言えた事ではないが。
先の考えで言えば、どうやらワカッテマスは僕やビロードが所長を殺した犯人ではないと思っている様だ。
犯人の目的が所長だけを殺す事にあったとしたら、その限りではないのかもしれないが、少なくとも自分に危害を加える
相手だとは見なしていないのだろう。
そうでなければああも無用心に背中を晒したりはしないのではないかと思う。
それに、動機で言えば所長を一番嫌っていたのは他ならぬこのワカッテマスだろう。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:10:12.16 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「犯人は既に外に逃げたと考える方が理に適ってますね。それか……」
言葉を切り、こちらを見るワカッテマス。
その意味は当然、もう1人の外からの存在、彼女の事を指している。
( ・∀・)「死亡推定時刻はわかる?」
( <●><●>)「流石にそこまでは……」
( ・∀・)「必要なら検死でもするかい?」
( <●><●>)「どうでしょうね。本音を言えば、彼の死に思う所は何もないので」
( ・∀・)「そりゃ手厳しい」
実の所、僕も同じ意見ではあるのだが。
別に彼を恨んでいたわけではないし、僕らとは考え方を異にする人間だ。
ワカッテマスが言う様に特に思う所はない。
ないはずだ。
(;><)「ど、どうするんです?」
先程よりは若干落ち着いたビロードがおずおずと尋ねて来る。
彼もまた、所長の死には特に感慨はない様だ。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:12:07.29 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「そうだねー……」
所長のアナウンスが聞こえて来てからまだ1時間も経っていない。
普通に考えれば、あのアナウンスの後、誰かが殺したと見るべきだが、そうなると最も怪しいのはあの場に1人遅れて来て、
なおかつこの階に来たと言っていたワカッテマスが一番怪しいという事になる。
しかしながら、この死体は明らかにそれ以上の時間が経っていると思える。
そうなると、あのアナウンスの方に何らかの細工があったと怪しむべきだろう。
ともかく、死亡推定時刻がわかれば彼女の無実が証明出来るかもしれない。
一旦はそう考えはしたが、それはどうかとも考え直す。
例えば、所長の死亡推定時刻が彼女がこの施設にいないはずの昨夜頃だったとしても、彼女がこの施設にいなかった事を
証明する手段が……
( ・∀・)「監視カメラ」
( <●><●>)「それがありましたね」
僕の言葉に、ワカッテマスはポンと手を合わせ、先に立って隣の部屋に向かう。
所長室から直接繋がる隣室に、監視用の設備が備え付けられているのは周知の事実だ。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:14:17.09 ID:w7ciPg/6O
-
ワカッテマスを先頭に僕、ビロードの順に続き隣室に入る。
目的の物はすぐに見つかったが、それは程なく落胆に変わる。
( ・∀・)「切られてるね」
( <●><●>)「停電の所為、というわけではなさそうですね」
ワカッテマスが破損したモニターを指差す。
さらに、本来記録されているはずのこのフロアへの入出力記録が一切なくなっている。
その他の階、といっても地下4階と5階だけだが、そちらの方は問題なく動いているようだ。
( <●><●>)「下の階のものは記録も残ってますね」
( ・∀・)「一応確認する?」
5階の人間が上がって来て、という線も有り得ない話ではないが、この施設の厳重さを理解した身で言わせてもらえれば、
それは100パーセントないと思う。
それに加え、5階の人間が外に出たがってるとは思い難い。
出た所で、法的には死んだ人間ばかりだ。
どんな悲惨なな生が待っているか、簡単に想像が付く。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:16:09.69 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「ええ、その線はないでしょうから確認する必要はないでしょう」
( ><)「外部の人間が潜んでいるというような事は……」
( ・∀・)「潜む理由がないだろ?」
外部から、それも単独で行動するような人間が潜入しているとは思えない。
ここの電気が止められ、その復旧に人が降りてきてない以上、止めたのは個人ではない。
こちらの予測通り、政権交代の影響と見る方が有り得る話だ。
ならばやはり、単独でここに潜入し、尚且つ4階や5階に潜む理由は見当たらない。
( <●><●>)「ここの制圧なぞ、特務班の一部隊もあれば容易いものでしょうしね」
( ・∀・)「皆、体力には自信ないからねー」
(;><)「笑い事ではないと思うんですが……」
無論、現在の所その心配がないから笑っていられるのだ。
その考えが現実味を帯びた所で結局笑うしかないというのもあるが。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:19:10.15 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「どうする?」
( <●><●>)「鍵も見当たりませんし、一旦戻って報告、再検討というのが無難ですかね」
(;><)「ちょ、ちょっと待ってください、あの放送の謎がまだ……」
( ・∀・)「あの音質ならカセットテープだろうね」
(;><)「カセットテープ?」
忘れていたわけではないが、些細な事だと見切りを付けていた放送の話を持ち出されたので、隣の部屋に戻り、
アナウンス用の機材の前にビロードを案内する。
( ・∀・)「ほら、これだろ?」
(;><)「ホントなんです。……でも、何で──」
( <●><●>)「テープは当然自分で吹き込んだものでしょうね」
( ・∀・)「封鎖の話は前もって聞かされてたか、それとも聞かされてすぐ録ったか」
(;><)「自分でって、何で所長は──」
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[thx] 投稿日:2009/12/20(日) 02:42:14.79 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「そりゃ、あの放送を聞いてすぐ怒鳴り込んでくるやつがいるかもしれないだろ?」
僕はワカッテマスの方に視線を向け、少し意地の悪い笑みを浮かべた。
しかし、ワカッテマスは動じる事もなく、ごく普通の調子で返す。
( <●><●>)「実際にこの階まで来てます身としては反論はありません。彼もその危険性を考慮したのでしょう」
( ・∀・)「まあ、実際に身の危険を感じるほどでもなかったんだろうけどね。面倒臭いと思うぐらいで」
(;><)「なるほど。しかし、なんでテープだったんでしょう? それに、どうやって時限装置を……」
( ・∀・)「そりゃPCでの録音なんてあの人が出来るわけないからでしょ」
僕はテープレコーダーをポンポンと叩き、呆れた様に答える。
ここには最新型のPCも置かれているが、どうせテキストを打つ程度にしか使っていなかったはずだ。
(;><)「え、でも、所長は元々高名な研究者で、色んな研究を自ら……」
( ・∀・)「名前だけだよ、あの人は……そういう事」
( <●><●>)「時限装置は多分これでしょうね」
吐き捨てる様な僕の言葉が終わらぬ内に、ワカッテマスがもう一方の説明を始める。
彼はビロードと違い、色々と理解しているのだろう。
所長の事も、僕の事も。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:44:17.47 ID:w7ciPg/6O
-
ワカッテマスは放送機材のコードを手繰り、壁際まで歩いて行く。
( <●><●>)「非常用の内部電源のコンセントです。外部との兼用でなく、内部電源専用の」
( ・∀・)「停電の後、内部電源に切り替わったときに放送機材とテープレコーダの電源が入る」
( <●><●>)「どちらもボタン固定式ですからね。電源はオンに固定したままにしておいたのでしょう」
(;><)「な、なるほどなんです……」
引きつった顔で頷くビロード。
すらすらと説明する僕やワカッテマスにある種の恐怖を抱いているのだろうか?
僕ら2人が犯人だとでも。
( <●><●>)「それでは、戻りますか」
( ・∀・)「そうしよう」
(;><)「は、はい……」
ワカッテマスを先頭に、来た時と同じ並びで歩き出す。
明らかに怯えを見せているビロードだが、平時ならビロードもすぐにこの辺りの仕掛けに気付いたはずだ。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:46:38.61 ID:w7ciPg/6O
-
ビロードもここで研究員をやれるくらい優秀で、狂った人間なのだ。
単に生来の気の弱さが判断を鈍らせているに過ぎないのだろう。
( ・∀・)(監視カメラは……ああ……)
僕は地下1階の出入りを監視している監視カメラに目を向け、それが破損しているのを確認した。
僕はその事は誰にも言わず、無言のまま地下2階まで下りる。
( ・∀・)「説明はどうする? 一ヶ所に集める? それとも……」
( <●><●>)「1人ずつ、の方がよろしいでしょうかね?」
相変わらずの勘の良さでワカッテマスは僕が言いたかった言葉を告げる。
1人ずつ話して反応を見る、中々興味のある観察事項だ。
僕は満足げに頷き、ビロードはただただ頷いた。
( <●><●>)「では、この階の6人に私が伝えてもよろしいですか?」
( ・∀・)「ん? 全員? 僕は……ああ、そうか……」
僕は無言で足元を指差す。
ワカッテマスも無言で頷く。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:49:07.68 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「んー……逆の方が良くない?」
( <●><●>)「どちらに興味がお有りですか?」
公平性という点に置いては、彼女にはワカッテマスが伝えた方が余計な私情が入らずに済むと思う。
僕が私情を挟まなくとも、先程彼女をかばった僕が彼女の様子を観察し、皆に伝えるのは信憑性を欠く。
心情といった、甚だ非合理的な話に因る所ではあるのだが。
ただ、ワカッテマスの言葉にある様に、どちらに興味があるかと言ったら断然彼女だ。
どう考えても残った6人の研究員が犯人であるはずがない。
彼らはそんな非合理的な事はしないし、興味もないだろう。
( -∀-)(加えて、あんな殺し方をする度胸もないんじゃないかな……)
そんな事は普段の彼らを見ていればわかる。
だとしたら彼らに話す作業は、非常時の反応として多少は面白いかもしれないが、皆画一的なもので、1人に話せば
飽きる話だろう。
最初からビロードが話すと言う案は除外されているが、彼はまあ、ワカッテマスが言えば納得するだろう。
( ・∀・)「んじゃ、お言葉に甘えとくわ」
( <●><●>)「鍵はどうしますか?」
( ・∀・)「インターフォンにしとくよ」
声だけでも判断は付くだろうと踏んで、僕はそう答えた。
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:52:11.97 ID:w7ciPg/6O
-
僕はワカッテマスにひらひらと手を振り、階下に下りる。
研究以外でほとんど話す事もなく、その研究では反りが合わないと思っていたワカッテマスだが、話してみれば中々面白い
という事がわかった。
単純に頭の回転が速いという事で話す手間が省けて楽だからかもしれない。
他の研究員も皆速くはあるのだが、ワカッテマスは頭一つ抜けてる感じがする。
( -∀-)「それがわかっただけでも有意義だったかもしれんね」
僕は1人呟き、地下3階の廊下を1人進む。
誰もいない廊下、静まり返った空間。
この静寂が僕は好きだ。
物事を考えるのに一番妨げになる雑音が一切聞こえてこない。
防音には気を配られている施設だ。
モーターの音1つ聞こえる事はない。
望んでこの場に来た僕の判断は間違ってないと今でも思っている。
( ・∀・)「さて……」
僕は自室の前に辿り着き、インターフォンを取り上げる。
自分のインターフォンを使う機会などそうないが、考えてみればこのフロアでインターフォンを使う事自体が初めてだ。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:56:07.33 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「都村さん? いる?」
当然いるはずなのだが、それ以外に適切な言葉も思い付かなかったのでそう呼びかけた。
若干の間の後、受話器から少し小さめな彼女の声が届く。
「はい、モララーさんですか?」
( ・∀・)「そう、僕。所長室から戻って来た所」
返事があった事に僕は安心し、彼女も僕の声に安心したのか、少し声量が上がった。
「お疲れ様です。どうでしたか?」
( ・∀・)「うーん……色々わかったけど、結論から言えば、今の所はここから出られないみたいだね」
「やはり所長さんは既に……」
( ・∀・)「うん、死んでたね……」
「……え? 死……って……!?」
既に逃げた後だと思ってたのか、彼女は僕の言葉に声を上ずらせる。
演技なら中々堂にいったものだ。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 02:59:12.62 ID:w7ciPg/6O
( ・∀・)(……僕はどっちだと思ってるのかな?)
一旦はかばった彼女ではあるが、犯人である可能性がゼロだとは思っていない。
今の所、一番可能性が高いのは外部から来た人間に殺され、そのまま犯人は去ったという説だとは思っているが。
それが一番納得がいく。
別にその段階では封鎖されていたわけではないのだし、所長は殺されるに足る理由がある。
旧政権にとっても新政権にとっても、この場の事を知る所長が生きている事はデメリットでしかないのだ。
しかし、その考えだと一点が引っかかる部分がある。
僕は彼女に、所長が殺されていた事を話し、自分の考えを伝えた。
折角だから相談に乗って貰う事にしよう。
それが先の自問への僕の答えなのだろう。
「確かにそうですね。彼は計画遂行の資金集めの為に据えられたお飾りでしたからね」
( ・∀・)「ありゃ、知ってたんだ」
「ええ、まあ、話せばわかりますし……」
彼女はここの研究員と話した後に所長と話せば彼が如何に無知かよくわかると笑っていた。
どうやら彼女も所長の事は良く思っていなかったらしい。
この場で動機を増やす発言はどうかと思うが、その彼女の意見は当然の事だと思う。
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:00:12.84 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「まあ、所長の事はどうでもいいんだけど」
問題は犯人が外に出ていない場合。
もしくは自分達の中にいる場合だ。
その場合は誰か、そしてその動機は。
「やはり私が怪しまれてますね……」
( ・∀・)「どうだろね? その場合の動機がイマイチ思い付かないんだけど……」
「……」
わずかな沈黙の後、彼女が吹き出したのがわかった。
何がおかしかったのか、僕にはわからなかったのでそのまま彼女に聞いてみた。
「すみません、私を疑っている事を隠そうともされませんし、極めて普通に接されますのでつい……」
( ・∀・)「ああ、そういう事か。……そうだね、やっぱり動機なんだよね」
現状の様々の要素を判断しても、今僕が彼女を恐れる理由がない。
たとえ彼女が犯人であったとしても、今僕が殺される理由が思い付かないのだ。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:02:05.89 ID:w7ciPg/6O
-
「モララーさんが考えもしないような単純な理由かもしれませんよ?」
( ・∀・)「たとえば?」
「仕事だから……とか」
今度は僕が彼女の言葉に吹き出した。
なるほど、確かに単純かつ国家公務員として理に適った理由だ。
( ・∀・)「その線もあったね。理由は知らず、仕事だから殺すか……」
「ですから、最後までお疑いなさった方が……」
( ・∀・)「ありがとう。ご忠告は有り難く受け止めておくよ」
冗談はそのくらいにしておき、僕は犯人をひとまず定めず、この場に残っていた場合の目的を考える。
口封じなら所長だけでなく、全員を殺してしまえばいいし、所長だけが目的ならそのまま外に出ればいい。
「何故、犯人が残ってる前提で考えておられるのですか?」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:04:04.25 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「監視カメラかな」
監視カメラは地下1階のものだけ使えないようになっていた。
監視側のモニターの破損だけかと思ったが、カメラ自体も使えない様になっていた。
( ・∀・)「外に出るだけなら電源を切るだけでいいからね」
他の階、地下4階、5階のカメラは全くの手付かずであった事も、犯人の行動を絞らせる要因になる。
「いるなら元からカメラのない2階か3階……」
( ・∀・)「それと一応1階もかな」
一応所長室は全て、モニター室、執務室、私室と調べたが、人の気配はなかった。
まだ1階にはゲストルームもあるし、犯人がマスターキーを持っているのなら、階段の扉の外に隠れる事も出来る。
( ・∀・)「まだまだ可能せいだらけだね」
「現状、犯人を外の人間と仮定すると、いくらでも考えられるわけですが」
ひとまず、元々内部にいた人間と考えると、現場不在証明、いわゆるアリバイの線から考えてみるのはどうかと彼女から
提案があった。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:06:09.57 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「うーん、所長の死亡推定時刻がはっきりしてないからね」
状況から考えると、あの放送の後、1人遅れて来たワカッテマスは怪しいと考える事も出来る。
しかし、少なくとも血の乾き具合から判断して、僕らが所長室を訪れる直前に殺されたという事はないと考えられる。
そうなって来ると、昨夜から1人地下2階にいた自分も怪しい事になる。
僕がずっと地下2階にいた事を証明する手立てはないのだ。
同時に、残りの7人がずっと地下3階にいた事も証明する手立てもない。
さらに彼女がいつこの施設に入ってきたのかもわからない。
( ・∀・)「監視カメラの記録もないし、そうなって来ると誰のアリバイも証明出来そうにないんだよね」
「そうですね……」
どうやらアリバイの点から考える事は不可能の様だ。
厳密に証明するなら、まず所長の検死から始める必要があるだろう。
( ・∀・)「やっぱ動機かな……」
僕は再び思考の海に沈む。
所長を殺した動機ではなく、まずはその発端に目を向けるべきかと考える。
- 102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:08:10.86 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「何で、この施設は封鎖されるんだろうね?」
「それは……」
彼女が聞かされていないと上で答えていたのは知っているが、この件に関してのその他の情報を一番持っているのは
やはり彼女だ。
この施設に対してどういう風聞があったのか、その点を詳しく聞く事にした。
「諸刃……ですかね……」
( ・∀・)「諸刃ね……」
上がってくる成果も大きいが、抱える事によるリスクも大きいといった所か。
厳密にこの国の法に照らし合わせれば、随分と抵触する事項も出て来るだろう。
「成果による利益は莫大でした。それだけは確かです」
( ・∀・)「ありがとう」
こんな時でも研究員に気を使える彼女はやはりプロなのだと思う。
予測は出来る扱いなのだから、そんなに気はしてはいないのだが。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:10:08.43 ID:w7ciPg/6O
( ・∀・)「用済みになったというわけではなさそうだね」
完全に利用価値がなくなったというわけではなさそうだ。
自負するわけではないが、今行われてる伝導効率に優れた新素材の開発も、完成すれば莫大な利益を生むだろう。
「一番考えられるのは、現政権が次期政権奪取の時の為に不安材料を消そうとしているといった所でしょうか」
( -∀-)「有り得そうだねー」
結果の為の手段を問うてないこの施設の存在は、格好のスキャンダルのネタだろう。
非常時ならまだしも、この平和な世では道徳的な意見の方が勝る。
( ・∀・)「だとしても、何で封鎖なんだろうね?」
「え……?」
( ・∀・)「破棄、破壊、放棄、いくらでも言い方はあるけど、何で機能を残したまま閉じちゃったのかなってこと」
「それは……」
( ・∀・)「封鎖した所で僕らならその気になれば出られるよね」
すぐにとは言わないが、鍵を解析して開けるぐらい僕らならそう難しい事でもない。
その気になれば外壁を崩し、地面を掘り進むような機器を作る事も出来るだろう。
封鎖だけなら、ここは単独でも存続出来るのだ。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:12:04.32 ID:w7ciPg/6O
「確かにそうですね。でも……」
( ・∀・)「でも?」
「出ようという気になりますか?」
( ・∀・)
彼女の口から問われた言葉に、僕はすぐに答える事が出来なかった。
彼女の声がいつもより平坦に聞こえたのは気の所為だろうか。
( ・∀・)「……で──」
僕は、いや、僕らは皆望んでここに来た。
研究をする為に、研究をする以外何もないこの場所に。
世間一般的に言われる人間らしい生活とは乖離した、地下に伸びる象牙の塔に。
( ・∀・)(ここを……を出る……?)
研究だけを考え、それだけで生きていけるこの場所を出て外に出る。
そこに待つ世界がどんなものか、考えるまでもなくわかる。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:14:15.40 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)(ここを……?)
出た先に何があるというのだ?
( ・∀・)(研究……)
よしんば、ここに来る以前の研究者としての生活に戻れたとしても、そこにあるのは決まり切った答えを埋めていく
歯車を回す作業の連続。
様々な思惑に翻弄され、気付けば何も残っていなかったあの頃と同じ様な──
「モララーさんは、普通の方なんですよね?」
( ・∀・)「え?」
不意に届いた彼女の言葉に、僕は現実に引き戻される。
どこかで聞いた、いや、つい何時間か前に彼女から聞いた同じ言葉。
「きっと誰もここから出ようとしない。でも……」
( ・∀・)「……」
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:16:14.82 ID:w7ciPg/6O
-
「狂っていない貴方なら、ここを出られますよね?」
一言一句、確認する様な響きを帯びた彼女の平坦な言葉が僕の脳に直接響く。
底知れぬ狂気を感じながらも必死にその意味を解析し、研究する僕はやはり研究者なのかもしれない。
あの時は僕の口から出たはずの言葉が、今度は彼女の口から告げられた。
自分もそう思っていたはずの言葉を、自分に向けられると答えに窮した。
( ・∀・)「僕は……狂って……?」
視界が歪む。
僕の世界が歪む。
僕がここに来た理由。
僕がここにいる理由。
僕がここでして来た事。
僕がここでやりたい事。
僕はここにいて、僕はここで生きて来て。
僕がここを出て、僕はどこへ行く?
僕は……
( ・∀・)「僕は……」
- 110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:18:14.52 ID:w7ciPg/6O
-
「犯人がまだここに残ってるとしたら、何が目的なんでしょうね?」
( ・∀・)「え?」
不意に世界が形を成し、無機質な扉が眼前に佇む。
左手の受話器から耳に直接言葉が流れ込むような錯覚を受けた。
「いえ、動機という話でしたので……」
( ・∀・)「ああ、動機ね……」
平素な口調で言う彼女からは、先程の感じた様な狂気の色は消えていた。
まるで何もなかったかの様に。
( ・∀・)(幻聴? いや……)
確かに聞いた。
「何かしら目的があって残っているのでしょうけど……」
( ・∀・)「……」
確かに聞いた……のか?
「考えられるとしたら、人か物か……それとも……」
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[再びさるるん] 投稿日:2009/12/20(日) 03:38:03.81 ID:w7ciPg/6O
-
( ・∀・)「データかな?」
「データ……あっ」
彼女の言葉に導かれる様に思い付いた答え。
この施設において最も価値のあるものの1つ。
すなわち、研究の成果。
完成したものは外に出ているが、まだ途中のもの、使い道のないものはここで止められたままのものもある。
それらのデータは破棄するには惜しいものではないだろうか。
( ・∀・)「普通に考えれば有り得る話だね……何で気付かなかったのやら」
すぐに辿り着きそうな答えだが、成果に無頓着な人間ばかりのこの場所だ。
気付かなくても不思議はないと自己弁護しておく。
( ・∀・)「となると大研究室のサーバーか……」
僕は彼女との話を中断し、地下2階の大研究室に向かう事にした。
( ・∀・)「ごめんね、もうしばらくそのままだけど……」
「いえ、お気になさらず。……私は──」
「貴方を信じていますから」
最後に届いた彼女の言葉はやけに平坦に感じた。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:41:07.70 ID:w7ciPg/6O
-
( <●><●>)「おや、もうお話はお済みですか?」
( ・∀・)「そっちも終わり?」
大研究室の扉を開けると、そこにはワカッテマスの姿があった。
人数からして僕より話に時間が掛かりそうなものだが、特に得られるものはなかったと、僕が聞くよりも先に
答えて来る。
( ・∀・)「だろうね」
僕もそちらには期待していなかったし、予想通りの答えだ。
ビロードはこの階の自室に戻っているらしく、この場に姿はなかった。
( ・∀・)「こっちはまあ、1つ思い付いた事があったんだけど……」
そう言いながらワカッテマスの方を見やる。
その立ち位置を見る限り、同じ答えに辿り着いている様だ。
( <●><●>)「すでに回収済み、といった所ですかね」
サーバーのそばに立っていたワカッテマスが肩をすくめて言う。
僕も同じ様に肩をすくめ、抜き取られた時間がわかるか聞いてみた。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:44:38.35 ID:w7ciPg/6O
( <●><●>)「昨夜、日付が変わった以降のログがありませんから、それ以降じゃないかと思われます」
( ・∀・)「その理屈でいくと、犯人は僕だねぇ」
昨夜1人でここにいたのは僕だ。
機会はいくらでもあった。
僕が少しとぼけた口調で答えると、再びワカッテマスは肩をすくめる。
( <●><●>)「そうであれば助かります」
( ・∀・)「何故だい?」
( <●><●>)「これ以上何もないでしょうから」
( ・∀・)「……そうかもね」
僕が犯人で、残された目的がデータの回収なら、後はここを出るだけだろう。
残念ながら僕は犯人ではないはずだが。
( <●><●>)「我々が所長室に行っている間にも抜き取る事は出来たでしょうしね」
( ・∀・)「だね」
そう簡単には犯人になれそうにもない。
僕はワカッテマスに背を向け扉に向かう。
早々に目的を達してしまったので、ここの部屋にいる理由はなくなった。
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:47:10.09 ID:w7ciPg/6O
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( <●><●>)「貴方はどう思われますか?」
僕の背にワカッテマスが問い掛けてくる。
随分と抽象的な問いだが、それは察する事が出来ると思われているのだろう。
僕は彼にそれなりに評価されているらしかった。
( ・∀・)「犯人は誰でもいいよ。でも、いまいち目的がなー」
この施設が不用になったのは間違いないだろう。
不用所か、存在が露見すれば現政権にとって致命的なスキャンダルになる事も。
口が固いとは言い難い、情報露見の恐れがある所長を殺した理由も、研究データを抜き取った理由も納得がいく。
しかし……
( ・∀・)「僕らに対しては何もないんだよね」
僕は背を向けたままワカッテマスに答える。
今の所僕らへ対する指示は自室待機という1つだけだ。
( <●><●>)「自由、という事ではないのですか?」
僕の考えを述べる前に、ワカッテマスから予期せぬ答えが返って来た。
- 131 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:50:04.55 ID:w7ciPg/6O
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( ・∀・)「自由?」
封鎖しておいて自由も何もあったものではないが、ここから出る手段がないわけでもない。
確かに僕らの自由意志でどうするか決められはするが、出た所ですんなりといかしてもらえるかは定かではない。
僕の考えを余所に、ワカッテマスは言う。
どこかで聞いた様な平坦な調子で。
( <●><●>)「我々にとって自由とは何なのでしょうね」
( ・∀・)「自由……」
僕は扉に手を掛ける。
僕は僕の意思で、僕の自由で扉を押し開けた。
( <●><●>)「私は、我々研究員の中に犯人はいないと確信しています」
閉まる扉の小さな音と共にワカッテマスの言葉は消えていった。
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:52:13.62 ID:w7ciPg/6O
( ・∀・)「……」
僕の足音だけが聞こえる廊下を1人歩く。
今しがた聞いた言葉を、頭の中で反芻しながら。
自由。
かつては息苦しささえ感じた、この閉ざされた空間においては甚だ不似合いな言葉ではある。
灰色に囲まれた飾り気のない廊下。
飾りが必要かと問われれば、僕の答えはノーだろう。
( ・∀・)「……煙草でも吸うか」
靄がかった頭を晴らすにはそれが一番だろう。
僕は歩く速度も向きも変えず、目的地だけを変えた。
( ・∀・)「そう言えば煙草は外からのものだったな……」
僕は喫煙室の扉を無造作に開く。
室内に目を向けると、意外な顔がそこにあった。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:55:45.61 ID:w7ciPg/6O
( ^Д^)「ん? モララーか」
( ・∀・)「プギャー」
素で少しにやけて見える同僚は、煙草を片手に新聞に向かっていた。
この部屋で彼を見るのは初めてかもしれない。
( ^Д^)「何だよ?」
( ・∀・)「いや、君がここにいるのは珍しいなと思ってね」
僕はプギャーが煙草を吸う事さえ知らなかった。
プギャーは他人の煙草の煙は嫌いだから、普段は人がいない時に来ていたと言う。
( ・∀・)「僕も吸っても?」
( ^Д^)「ん、ああ、別にいいよ」
僕の方にライターの火を差し出し、嫌いだったのは昔の話だと呟く様にプギャーは言う。
昔、ここに来る前の話の事だろうと僕は判断した。
- 140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 03:58:11.90 ID:w7ciPg/6O
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( ^Д^)「……煙じゃなくて、喫煙室の空気が嫌いだったのかもな」
( ・∀・)「そりゃ喫煙室の空気は濁ってるもんだろ」
( ^Д^)「いや、そうじゃなくてだな……」
( ・∀・)「冗談だよ」
プギャーの言う喫煙室の空気、それはそこに集まる人の空気の事を指すのだろう。
研究という仕事から解き放たれた私人が話す言葉がどんなものか、どこの研究施設でも似たようなものだったのだろう。
( ・∀・)「まあ、どっちも煙たいもんだよ」
( ^Д^)「……だな」
僕の言葉にプギャーは笑みを浮かべる。
2つの紫煙は、混ざり合うことなく揺れる。
研究が仕事ではないここなら、プギャーも他人と煙草が吸えるだろう。
( ・∀・)「煙草もだけど、新聞も珍しいかな」
( ^Д^)「俺もそう思う」
プギャーは先程より大きく笑って新聞に目を落とした。
そういえば新聞もこれが最後のものになるのだなと、漠然とそう思った。
- 141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:00:22.52 ID:w7ciPg/6O
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( ^Д^)「知ってたか? 今は連休の真っ最中らしいぞ?」
( ・∀・)「いや、初耳だね」
理解はしていたのかもしれないが、意識はしていなかった。
ここでは日付の区切りなど、さして意味を成さない。
時間はただの計測時間で、共同作業が必要な際の約束の事だ。
( ^Д^)「俺もだ。ほれ、全国的に絶好の行楽日和だとさ」
プギャーが指し示した新聞の写真には、人手溢れかえるどこかの神社の写真があった。
僕はその場所にどこか見覚えがあった。
( ・∀・)「あ、これVIP神社? 懐かしいな……近かったから子供の頃はよく行ってたな」
(;^Д^)「ちょ、お前同郷だったの?」
僕の言葉に慌てた様にこちらに目を向けるプギャー。
プギャーの故郷がこの神社の近くなら、必然的にそういう事になるのだろう。
(;^Д^)「マジかよ……。知らなかったぜ……」
大げさに驚くプギャーだが、知っていた所で僕らが故郷の話で盛り上がるとは到底思えないのだから、どうでも
いい話ではないかと思うがそれは口にしなかった。
- 143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:02:02.02 ID:w7ciPg/6O
代わりに写真をもっとよく見てみたが、記憶の中の景色との差異がよくわからなかった。
人が多かったぐらいしか覚えていない。
ある時期何かの祭りがあって、結構な人が集まっていたはずだが、それが今の時期なのだろう。
( ^Д^)「……俺達、知らな過ぎたよな」
唐突に呟かれたプギャーの言葉に、僕は首を捻った。
僕らは多くを知っている。
あらゆる知識を吸収し、研究に費やしているのだから。
知っていても、今必要のない事は使わないだけだ。
そんな僕の考えには気付くことなく、プギャーは言葉を続ける。
( ^Д^)「もう少し、外の事にも関心を向けるべきだったよな」
些事に目を向けた所で、何か変わっただろうか。
( ^Д^)「そうすれば今回の事だって……」
気付いた所で、僕らに出来る事はあっただろうか。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:04:10.13 ID:w7ciPg/6O
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( ^Д^)「……すまん、つまらん話をしたな」
無も言わずに聞く僕に、プギャーは自分から話を打ち切った。
プギャーと研究以外の話をしたのは数えるほどしかない。
今僕の目の前にいるプギャーは、狂っている人間なのだろうか。
( ・∀・)「僕らはやるべき事をやっていただけだよ」
慰めとものか開き直りとも取れる言葉を、僕はプギャーに向ける。
お前らしい言葉だと、プギャーは少し笑った。
( ^Д^)「自分のやりたい様にして来たんだ。別に後悔はしてないさ」
プギャーはほとんどくわえなかった煙草を灰皿に押し潰し、勢いよく立ち上がった。
その言葉通り、普段と変わらない、少しにやついて見える表情で。
( ・∀・)「どうするの?」
( ^Д^)「ん? 研究に戻るよ」
僕の問いにプギャーは不思議そうな顔を見せ、ごく当たり前の様に言葉を返す。
僕は無言で頷き、狂った人間を見送った。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:06:12.04 ID:w7ciPg/6O
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( ・∀・)「研究ね……」
1人残された僕は、もう1本煙草を取り出し、テーブルの上に投げ出されていたライターに手を伸ばした。
( ・∀・)「不味い……」
喉に絡みつくような苦味がすこぶる不味い。
煙草は吸えなくなってしまっても、別に構わない気もする。
( ・∀・)「研究か……」
封鎖された所で、この施設は単独でも稼動出来る。
全てが元のままとは言わないが、ある程度時間をかければほとんどの研究が問題なく進められるだろう。
必要な資料は全てサーバーに揃っているし、元々外部からの情報には頼っていない。
( ・∀・)「でも……」
その研究の全てが、意味をなさなくなる。
引き取り手がいないのだ。
その使い道がない。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:08:21.72 ID:w7ciPg/6O
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元々、自分たちが使う事を前提にしていないし、結果が変わるわけでもない。
報酬はなくなるが、元から報酬目当ての人間は研究員の中にはいない。
だから、今までと何も変わる事はない。
僕らは研究が全てで、研究があればそれでいいのだ。
( ・∀・)「……それを狂っていると言うのだろうけどね」
僕は不味い煙草を吸い、汚れた煙を吐き出す。
既に活性化している頭に、この行為がもたらすものは何もない。
世の中には、意味を成さない事はいくつもある。
意味を成さないことでも、それだけを続けていられれば生きていけるのなら、それをし続ける事を誰が責められようか。
( ・∀・)「煙草に新聞、なくても研究には影響ない」
僕は彼女が残した最後の新聞に手を伸ばす。
( ・∀・)「今日が何月何日だったか」
新聞で日付を確認する。
( ・∀・)「今日の天気がどうなのか」
新聞で天気を確認する。
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:10:12.94 ID:w7ciPg/6O
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( ・∀・)「そんなものは、研究には関係ないんだ」
僕はテーブルに新聞を放り投げた。
彼女の残した答えに何の意味もない。
後は自分の答えだけなのだから。
僕はプギャーがした様に煙草を灰皿に押し潰し、ゆっくりと立ち上がる。
喫煙室を出て向かう先は、プギャーが向かった先と反対の方向。
僕は階段を上がり、地下1階に出た。
( ・∀・)「……」
人の気配はない。
先ほどワカッテマス達と来た時と何ら変わる事のないように見えたが、どこかに違和感がある。
( ・∀・)「扉……」
違和感の元にはすぐに気付いた。
エレベーターの隣、非常階段の扉がほんのわずかこちらに開かれている。
扉が、外への出口が開かれている。
- 159 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:12:03.80 ID:w7ciPg/6O
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( ・∀・)「御自由にどうぞ、といった所かな」
扉から、いつもの調子のあの声が聞こえてきた気がした。
僕はゆっくりと扉に歩み寄る。
このまま出てしまっても、きっと身の安全は保障されるのだろう。
僕らは所長と違い、口を封じる必要もない。
僕らは研究さえあれば、そんな些事を気に掛ける事はないのだから。
僕は扉に手を掛けた。
( ・∀・)「……外に出て、今と同じ様に研究は出来るのかな」
恐らく、研究の場は用意されているのだろう。
しかし、今と同じレベルの、生活の全てが研究に結び付いた施設はここの他にはない。
それは断言出来る。
( ・∀・)「……」
研究、そしていわゆる普通の人としての生活が合わさった毎日。
つまらない些事に振り回され、聞きたくもない話が耳に届く。
普通の人が集まれば、そこには常にくだらない軋轢が生じる。
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:13:16.78 ID:w7ciPg/6O
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今まで嫌というほど経験した出来事。
誰とも調和を果たせず、研究室の隅でろくに設備を使わせてもらえなかったあの頃。
( ・∀・)「……教授」
不意に脳裏に浮かんだ顔に、僕は懐かしい呼び方をしていた。
僕に研究の場を与えてくれたのは誰だったか。
研究の成果による無駄な肩書きを、束縛を取り払ってくれたのは誰だったか。
そしてこの施設に呼んでくれたのは誰だったか、僕の恩師は誰だったか、今は亡きその顔を僕は思い出した。
( ・∀・)「……ここでも、お墓ぐらいは作れるかな」
『モララーさんは、普通の方なんですよね?』
扉に掛けた手に力を込めようとした瞬間、彼女の言葉が思い出された。
普通の僕、それは僕の、いや、彼女が言う狂っていない僕。
( ・∀・)「僕は……普通……?」
普通である僕は、ここを出て、普通の生活を送る事が出来る。
普通の生活、僕の、僕と彼女の普通の、そして自由の──
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:15:15.53 ID:w7ciPg/6O
『我々にとって自由とは何なのでしょうね』
再び脳裏に声が響く。
優秀な研究員である彼の言葉。
この施設で最も狂っていて、それを自覚している人間の言葉。
彼の言う自由、僕の自由。
彼が選ぶものと、僕が選ぶもの。
同じ様に狂った人間が、望むものは──
( ・∀・)「……」
僕は扉に伸ばした右手に力を込める。
( ・∀・)「……僕は普通だよ」
鋼鉄の扉が音も無く動き出す。
( ・∀・)「僕にとっては、僕自身が普通なんだ」
- 167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/12/20(日) 04:18:17.04 ID:w7ciPg/6O
僕は扉をゆっくりと押した。
── ごじゅう のようです 終 ──
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