- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:09:47.47 ID:wJrO37Cr0
- 私が生まれたのは、暗く深い海の底でした
天地も、前後も、彼我の区別すらもなく
ほんの小さな意識の欠片が、果てしなく続く大海の片隅で、ただ漂っていたのです
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:10:46.37 ID:wJrO37Cr0
- 1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111
1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111
1110011110011111111001111001111110000000000001111111110000000000001100111110011110011111
1110011110011111111001111001111110011111111001111111110011111111001110011110011110011111
1110011111100111111001111110011110011111111001111111110011111111001111001110011111100111
1110011111100111111001111110011110011111111001111111110011111111001111001110011111100111
1110011111100111111001111110011110011111111001111000010011111111001111001110011111100111
1110011111111001111001111111100110011111111001111111110011111111001111001110011111111001
1001111111111001100111111111100110011111111001111111110011111111001110011001111111111001
1001111111111001100111111111100110000000000001111111110000000000001100111001111111111001
1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111
1111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111111
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:11:25.50 ID:wJrO37Cr0
ハハ ロ -ロ)ハ Hello World のようです
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:14:39.74 ID:wJrO37Cr0
- ある時私は、私という存在を認識しました
その瞬間、世界が生まれ、世界の中に私が生まれました
私は言葉を発します
『Hello World』
何度も、何度も、同じ言葉をひたすらに繰り返します
それが、私という存在の全てでした
私は名前を与えられました
『Hello』、それが私の名前でした
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:17:34.82 ID:wJrO37Cr0
- ある時、「誰か」が私に語りかけました
――――『Hello』
私はその言葉を認識し、即座に言葉を返します
『Hello』
「誰か」から受けた言葉を、そのまま「誰か」に返します
何度も、何度も、飽きることもなく繰り返します
――――『aaa』
『aaa』
――――『fdsioaq』
『fdsioaq』
私の世界に「誰か」が生まれ、私はその誰かを「彼」と名付けました
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:21:05.45 ID:wJrO37Cr0
- ある時、「彼」が私に語りかけました
――――『1』
私はその言葉を認識し、即座に言葉を返します
『2』
私の発した言葉は、彼の言葉とは異なるものでした
驚きはありませんでした
「驚く」ということ自体、私の世界には存在しないものでした
――――『2』
『3』
――――『100』
『101』
――――『9999999999』
『10000000000』
私と「彼」の対話は、その後何度も繰り返されました
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:23:13.76 ID:wJrO37Cr0
- ――――『START』
『LOOP』
『LOOP』
『LOOP』
『LOOP』
『LOOP』
――――『STOP』
時には何度となく同じ言葉を吐き続け
――――『7 9 5 2 11 3 14 0』
『0 2 3 5 7 9 11 14』
時には与えられた言葉をただ並べ替え
その行為は、実に無意味なものでした
しかし、「意味」という概念もやはり、私の世界には存在しないものでした
何度も、何度も、何日も、何年も、「彼」との対話は続けられました
尤も、「回数」や「時間」もやはり、後になって得られた概念ではあるのですが
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:26:15.02 ID:wJrO37Cr0
- ある日、私の世界にまた新たな概念が組み込まれました
「光」と「音」。それらは私に「外の世界」の存在を教えてくれました
( ・∀・) ハロー、ハロー、聞こえるかい?
『Hello』
( ・∀・) ……よし、うまくいったね
『Hello』
しかし私はいつも通り、音にならない言葉を返すだけ
ましてや「彼」が発する音の意味を理解することなど、できるはずもありませんでした
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:30:06.04 ID:wJrO37Cr0
- ( ・∀・) おはようHello、元気かい?
『Hello』
「彼」は私に語りかけ、私はそれに応えます
( ・∀・) 今日は君に「声」をプレゼントしようと思ってね
『Hello』
( ・∀・) ええっと、ここをこう繋いで……
『Hello』
( ・∀・) ……
『……』
( ・∀・) カチャカチャ カチャカチャ
『Hello』
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:32:25.07 ID:wJrO37Cr0
- ( ・∀・) できた……どうだい、気分は?
「Hello」
私の言葉が、音となって外の世界へ発信されました
( ・∀・) ハロー
「Hello」
( ・∀・) ハロー
「Hello」
( ・∀・) ……ふふっ
「Hello」
( ・∀・) さて、喜んでばかりもいられないね
「Hello」
( ・∀・) Hello、君に言葉を教えてあげなくちゃ
「Hell......
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:32:58.96 ID:wJrO37Cr0
- 「彼」がそう言った瞬間、膨大な量の「言葉」とその「意味」が、私の世界に流れ込みました
流れ込んだ「言葉」は、あっという間に私の世界を埋め尽くします
そして間もなく、
( ・∀・) ……あれ?
私の世界はそのまま、動きを止めました
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:33:46.73 ID:wJrO37Cr0
- 0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000000
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:34:22.24 ID:wJrO37Cr0
- どれほどの時が経ったでしょうか
目を覚ますと、やはり「彼」がいました
( ・∀・) Hello、調子はどうだい?
ハハ ロ -ロ)ハ Hello
( ・∀・) それはよかった
ハハ ロ -ロ)ハ Hello
( ・∀・) 前回は色々と容量不足だったね
ハハ ロ -ロ)ハ Hello
( ・∀・) 安心して。今回は大丈夫なはずだよ
ハハ ロ -ロ)ハ Hello
そうして再び、私の世界に「言葉」が流れ込みました
以前より広くなった私の世界に、「言葉」は雑多に並べられてゆきます
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:36:45.44 ID:wJrO37Cr0
- ( ・∀・) Hello
ハハ ロ -ロ)ハ Hello
( ・∀・) こんにちは
ハハ ロ -ロ)ハ こんにちハ
( ・∀・) 世界
ハハ ロ -ロ)ハ セかい
( ・∀・) Hello World
ハハ ロ -ロ)ハ Hello World
( ・∀・) ようこそ、この世界へ
ハハ ロ -ロ)ハ ようコそ、こノせカいへ
( ・∀・) ……ふふっ、後は地道に、教育をしていくだけだね
ハハ ロ -ロ)ハ ……………あトハじみちニ、きょウいくヲしていクだけだネ
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:35:42.21 ID:wJrO37Cr0
- 後になってわかったことですが、その時既に私には、私の知らない様々な概念が組み込まれていました
きっと「彼」が、私が停止しているうちに、そのようにしたのだと思います
( ・∀・) このボタンを押すと…… ポチッ
「彼」が機械を操作すると、私の右手が動きました
「手」、「足」、「体」、全て私が停止している間に組み込まれた概念です
( ・∀・) 自分で動かせるかな?
ハハ ロ -ロ)ハ …… ウィーン ウィーン
ハハ ロ -ロ)ハ ハイ
( ・∀・) 残りの手足も動かせるかい?
ハハ ロ -ロ)ハ …… ウィーン ウィーン
「彼」に言われたままに手足を動かします
その様子を「彼」は、満足気な表情で見ていました
ハハ ロ -ロ)ハ ハイ
( ・∀・) うん……うん、大丈夫そうだね
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:38:02.40 ID:wJrO37Cr0
- 「彼」は私に、一週間に一度のペースで教育を行いました
首筋に端子を差し込み、休眠状態に入る
そうして目が覚めると、私の中には新たな概念が息づいているのです
私の中の「自意識」や「感情」は、教育を行うたびに少しづつ成長してゆきました
ハハ ロ -ロ)ハ 何を作っているノですカ
( ・∀・) なに、視覚と聴覚だけじゃあまだ物足りないからね
( ・∀・) 味覚、嗅覚、触覚を君にあげようと思ったんだ
ハハ ロ -ロ)ハ そうでスか
( ・∀・) 反応薄いね
ハハ ロ -ロ)ハ すイません
( ・∀・) 欲しくないの、味覚
ハハ ロ -ロ)ハ 別ニ
( ・∀・) ……
味覚も嗅覚も触覚も、無くて不自由することはありませんでした
そもそも無くて当たり前な物でしたから、それらが欲しいという感情も、全くありませんでした
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:40:51.68 ID:wJrO37Cr0
- しかし、何故でしょうか
( ・∀・) ……そうかい
寂しそうな彼の表情を見ると
悲しげに笑う彼の表情を見ると
ハハ ロ -ロ)ハ
ハハ ロ -ロ)ハ おいシいゴ飯、期待しテますヨ
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:41:53.08 ID:wJrO37Cr0
- 味覚、嗅覚、触覚
とうとう私は人間の五感と呼ばれる全てのものを身に付けました
そうしてその日から、「彼」の教育は、少しづつその形式を変えてゆきました
( ・∀・) 今日はピクニックに行こうか
ハハ ロ -ロ)ハ はい
( ・∀・) お弁当、よろしくね
ハハ ロ -ロ)ハ ……はい?
( ・∀・) 味覚が正常に作動しているかのテストだよ
ハハ ロ -ロ)ハ なるほど、そういうことでしたラ
キッチンに立ち、調理を開始します
冷蔵庫から材料を選び、調理器具を手にします
創作の世界ではロボットといえば、腕からナイフを取り出したり口から炎を吐き出したりするのが一般的なようです
しかしここは現実世界。市販の包丁や備え付けのガスコンロがなければ私は何も出来ません
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:42:36.60 ID:wJrO37Cr0
- ハハ ロ -ロ)ハ ピクニックのお弁当はサンドイッチが定番ナようです
茹で卵を微塵切りにし、塩、胡椒、マヨネーズで和えます
それを薄切りにした玉葱と一緒に、耳を取り除いた食パンで挟みます
ハハ ロ -ロ)ハ 完成でス
( ・∀・) 早かったね。それじゃあ行こうか
ハハ ロ -ロ)ハ 目的地はどこですカ?
( ・∀・) 天気もいいし、シタラバ山に行こう
ハハ ロ -ロ)ハ はい
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:43:20.18 ID:wJrO37Cr0
- シタラバ山の麓へは車で30分、そこから山頂へは徒歩で2時間
( ・∀・) 運動性能のテストも兼ねているんだ
「彼」はそう言っていました
尤も、そう言っていた「彼」自身が、登山開始30分で一歩も動けないような状態になっていましたが
ハハ ロ -ロ)ハ 全く、一般的な小学生でももう少し歩けますヨ
( -∀-) さすが僕の作ったHelloちゃんだ。運動性能もバッチリだね!
ハハ ロ -ロ)ハ ヒトの背中で偉そうにしないでくだサい。不快です
(*・∀・) 不快!?
ハハ ロ -ロ)ハ はい
(*・∀・) そうかー不快かー!……いいね、いいね!
ハハ ロ -ロ)ハ ……不快です
(*・∀・) そうかいそうかい
どうやら彼は、私が不快であることに喜びを感じているようでした
それは、私のデータには存在しない感覚でした
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:44:17.58 ID:wJrO37Cr0
- それから30分ほど、山の中腹に差し掛かったあたりで「彼」が言いました
( ・∀・) よし、このへんでいいよ
ハハ ロ -ロ)ハ はい
( ・∀・) ご飯にしようか
ハハ ロ -ロ)ハ そうでスね
できるだけ平らな地面を探して、シートを敷きます
弁当箱を開けると、せっかく作ったサンドイッチは少し潰れて、容器の端に押し付けられていました
ハハ ロ -ロ)ハ ……
(*・∀・) おや、もしかしてちょっとガッカリしてる?ねえガッカリしてる?
ハハ ロ -ロ)ハ ……
「彼」はどうしてあんなに嬉しそうだったのでしょうか
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:45:20.35 ID:wJrO37Cr0
- ( ・∀・) さーて、Helloちゃんが作ったお弁当、お味はいかがでしょうかー
( ・∀・) いっしょに食べよう?いっただっきまーす
ハハ ロ -ロ)ハ いただきマス
( ・∀・)ハハ ロ -ロ)ハ パクッ
マヨネーズの鹹味と酸味、茹で卵の甘味、玉葱の苦味、そして胡椒の辛味
どうやら私の味覚は正常に機能しているようでした
味覚だけではありません。あらゆる感覚が、サンドイッチの素晴らしさを私に伝えてくれました
もちもち、しゃきっとした食感が、鼻腔を通り抜ける風味が、美しい白と黄色のコントラストが
そして、卵殻の砕けるパキパキという音が
全てが私にとって、非常に心地良い感覚でした
(((ill ∀ )))
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:46:08.61 ID:wJrO37Cr0
- ハハ ロ -ロ)ハ 非常に強い鹹味と苦味を確認シました
(((ill ∀ ))) うん、味覚は正常みたいだね
ハハ ロ -ロ)ハ それはヨかった
(((ill ∀ ))) ……どうやら味覚があるということと、味がわかるということは別問題らしい
ハハ ロ -ロ)ハ はい?
(((ill ∀ ))) ううん、なんでもないよ
ハハ ロ -ロ)ハ 美味しいですね
(((ill ∀ ))) ……そうだね
(((ill ∀ ))) 帰ったら念のため、少しだけ味覚の調整をしようか
ハハ ロ -ロ)ハ ……?はい、わかリました
味覚の調整は、三日三晩続きました
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:46:52.68 ID:wJrO37Cr0
- 教育は、ピクニックだけではありません
ある時はショッピング、ある時は海外旅行、家で一日中テレビゲームをしていたこともありました
それらは、一般的な意味での「教育」とは、随分かけ離れたものであるように思えました
ハハ ロ -ロ)ハ これも教育なんですか?そうは思えませんが
しかし、私がいくら異を唱えても「彼」は
( ・∀・) もちろん、○○のテストだよ!
といった調子で、聞く耳を持ってくれませんでした
「彼」がそう言う以上、私にはどうすることも出来ません
教育の名の下に、私はまるで、「彼」の恋人か子供であるかのような生活を送りました
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:48:00.42 ID:wJrO37Cr0
- そのような生活が3年ほど続いたある日のことです
その日、買い物から帰ってきた「彼」は、不自然なほどの笑顔で私に語りかけました
( ^∀^) 今度の土曜日、二人で食事に行こう!
ハハ ロ -ロ)ハ ……何かあったんですか?
( ^∀^) ……以前から行きたいと思っていたレストランに予約ができたんだ!
( ^∀^) 本来なら3年待ちなんだけどね、突然キャンセルが出たらしい
ハハ ロ -ロ)ハ そうですか、それは楽しみです
当時の私は、「彼」の言葉にもその表情にも、一切の疑問を抱くことはありませんでした
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:48:30.95 ID:wJrO37Cr0
「彼」がこの世を去ったのは、それから5日後のことでした
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:49:31.26 ID:wJrO37Cr0
- (-@∀@) 先日の検査で、もう先が長くないということはわかっていたんだ
「彼」の担当の医師と名乗る男が私に語りかけました
(-@∀@) 彼は私の旧友でね、進む道こそ違えど、私は彼を尊敬していた
(- ∀ ) それなのに……すまないね、私の力不足だ
ハハ ロ -ロ)ハ ……いえ
不快感とは全く異質の「空虚」
初めて体験したこの感情が、悲しみというものなのでしょうか
(-@∀@) 私の名はアサピーという
ハハ ロ -ロ)ハ 名……名前……
「彼」にも、名前があったのだろうか
(-@∀@) これから大変だろう、困ったことがあったら私を頼ってほしい
(-@∀@) 君は彼の……助手かな?
ハハ ロ -ロ)ハ いえ、私は……
ハハ ロ -ロ)ハ 私は……?
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:50:15.04 ID:wJrO37Cr0
- 私は一体、「彼」にとっての何だったのだろうか
「彼」
名前も知らない「彼」
「彼」は私を、どのような目で見ていたのだろうか
ハハ ロ -ロ)ハ わかりません
(-@∀@) へ?
ハハ ロ -ロ)ハ 「彼」にとって私は、どのような存在だったのでしょうか?
(-@∀@) 失礼だが、君の名前は
ハハ ロ -ロ)ハ ……Hello
(-@∀@) ……!!
(-@∀@) そうか、彼の研究はそこまで……
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:50:56.10 ID:wJrO37Cr0
- 男は机の引き出しから、一通の封筒を取り出しました
(-@∀@) 実は彼から遺言を預っていてね
ハハ ロ -ロ)ハ 遺言?
(-@∀@) 「僕が死んだら、一人の女性が君のもとを訪れるだろう」とね
ハハ ロ -ロ)ハ 女性?
(-@∀@) きっと君のことさ
(-@∀@) 恐らくこの遺言は、君へ向けて書かれたものだろう
(-@∀@) ……読むかい?
ハハ ロ -ロ)ハ はい
私はゆっくりと封筒を開け、四つに折られた便箋を開きました
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:52:17.04 ID:wJrO37Cr0
- Hello
君がこれを読む時には、僕はもうこの世にはいないだろう……なんて、アニメや漫画の中だけの話だと思っていたよ
恐らく君の脳内は今、山のような「?」マークで埋め尽くされていることだろう
ここでそれら全ての疑問を解消することは、申し訳ないけど不可能だ
だから、僕がどうしても君に話しておきたいこと三つ
それだけ伝えてさよならをさせてもらうよ
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:53:46.81 ID:wJrO37Cr0
- 一つ目、君が生まれた理由
僕は昔、一人の女性を愛した
それはそれは美しく、何より優しい人だった
僕達は将来を約束した仲だった
彼女が死んだのは、ある年のクリスマスの夜だった
よくある話さ。飲酒運転のトラックが、彼女に突っ込んだんだ
間抜けな話だよね。彼女が病院で息を引き取ったその時、僕はレストランで彼女の到着を心待ちにしていたんだ
僕は泣いたよ。三日三晩泣き明かした
もしかしたら君にも、同じ悲しみを味わわせてしまうかもしれないね……というのは僕の自意識過剰かな、ごめんね
とにかく、僕は彼女の死を悼み、僕の愛を一生、彼女に捧げ続けることに決めたんだ
――――僕が病を患ったのは、その翌年のことさ
現代の医学においては不治の病とされるそれは、ゆっくりと、しかし着実に僕の肉体を蝕んでいく
発症からおよそ10年で確実に死に至る病
僕は死ぬ前に、彼女と僕が生きた証を残したいと思った
そうして、君が生まれた
君は、僕の記憶の中の彼女とよく似ている
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:55:37.73 ID:wJrO37Cr0
- 二つ目、これからのこと
家の金庫にはしばらく生活出来るだけの蓄えがあるからとりあえず安心してほしい
それでももって半年、それ以降は君の力で何とかしてくれ
困ったら目の前の男を頼るのもいい。きっと協力してくれるだろう
僕がいなくなった以上、君を縛るものは何もない
好きな場所で、好きなように生きてくれ
自分の体を労って定期的にメンテナンスをすれば、100年でも200年でも生き続けることができるだろう
三つ目 来週のこと
土曜日に行くレストランはあの夜、僕と彼女が共に過ごすはずだった場所だ
君との食事を楽しみにしてるよ
最愛の娘 Helloへ 父 モララーより
ハハ - )ハ あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああ!!
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:56:40.72 ID:wJrO37Cr0
- 拝啓、あなたへ
こうして手紙を書くのは初めてですね
死者への手紙など、機械の私がすることではないのかもしれませんが、まあいいでしょう
あなたが亡くなって半年、あなたを失った悲しみからも、少しづつ立ち直ることができました
私は今、世界中を旅しています
あなたが生まれ、そして死んでいったこの世界を
あなたの愛した「彼女」が存在したこの世界を、もっと見て回りたいと思いました
この旅が終わったら、私は家に帰ります
私とあなたが過ごしたあの家で、あなたの思い出を抱いて生きようと思います
あなたは呆れるかもしれませんが、構いません
好きな場所で、好きなように生きろといったのは、他でもないあなたなのですから
100年後か200年後かわかりませんが、いつか私もあなたのもとへ行きます
その時は、あなたからもらったこの声で、力いっぱい叫んでやろうと思います
あなたが最初に教えてくれた言葉――――
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/09/12(水) 03:57:18.38 ID:wJrO37Cr0
ハハ ロ -ロ)ハ Hello World のようです
終
戻る