むしのようです

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 20:50:13.85 ID:qMFTygQhO


ζ(^ー^*ζ「ねぇ、あなたは虫は好き?」


 とある少女が、俺にそう問い掛けた。

 薄茶の綺麗な髪を、癖の強いふわふわとした髪を揺らして、首を傾げる。

 愛らしい笑顔だった。
 屈託のないというのだろうか。

 とても、すんなりとした、邪なものを感じない笑顔。


 俺は彼女を知っている。
 けれどどこで知ったのかはわからない。

 ただ、知っている。
 愛らしい少女。



        【むしのようです】



 君は、誰だろう。


8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 20:53:09.42 ID:qMFTygQhO

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、虫は好き?」

( ´_ゝ`)「君は、好きなのかい?」

ζ(^ー^*ζ「うん、蝶々とか、きれいだもの」

( ´_ゝ`)「ああ……確かに、蝶は綺麗だね」

ζ(゚ー゚*ζ「あなたも好き?」

( ´_ゝ`)「好き嫌いで分けるなら、蝶は好きだよ」

ζ(^ー^*ζ「よかった」


 俺の言葉に、少女は笑う。
 それはもう嬉しそうに、笑う。


 ここは昼下がりの公園で、俺は暇な学生。
 まだ肌寒い春の日の中、俺はしっかりとしたコートを手放せずにいた。

 それなのに少女は、薄手の白いワンピースを着ているだけ。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 20:57:24.54 ID:qMFTygQhO

 袖はなく、襟もない。
 長い裾に、引っ掻けるだけの白いサンダル。

 大きな目がくりくりと、俺を見上げている。
 二つに結い上げた髪は、冷たい風にそわそわと揺れている。


 寒くはないのかなと思ったが、少女はそんな素振りも見せない。

 幼い肢体を冷たい空気にさらして、笑っている。


( ´_ゝ`)「君は、誰だい?」

ζ(゚ー゚*ζ「私はデレだよ、兄者さん」

( ´_ゝ`)「ああ、そうか、そうだったね」

ζ(^ー^*ζ「うふふっ」


 彼女は、デレは笑う。


11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 20:59:07.05 ID:qMFTygQhO

 どうして名前を知っているのだろうか。

 俺の名前をじゃない。
 彼女の名前をだ。

 彼女の名前は初めて聞いた気がするのに、何故か本当は知っている様な気がした。

 何故だろう。
 俺は彼女を知っている。
 彼女も俺を知っている。

 ただ少し忘れていただけの様な、そんな気がして。


 デレはまだ、一桁の歳の様で。
 俺の胸までも身長はない、幼いからだ。


 この顔、からだ、髪、声、ワンピース。
 一度見たら、忘れない。

 愛らしい少女は愛らしく首をかしげて愛らしさを振り撒く様に笑う。


 この子は、誰だろう。


12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:02:06.53 ID:qMFTygQhO

ζ(゚ー゚*ζ「蝶々、好きなの?」

( ´_ゝ`)「う、ん?」

ζ(゚ー゚*ζ「虫は好き?」

( ´_ゝ`)「ああ、好き嫌いで分けるなら、蝶は好きだよ」

ζ(^ー^*ζ「そう、よかった」


 このやり取りは、二回目か?
 初めて? 三回目? それとももっと多い?

 わからない。
 けれど、少女が嬉しそうに笑う。


 蝶は綺麗だね。
 透ける羽が美しいね。

 君の肌の様に、美しいね。


 少女は笑う。
 愛らしく。


14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:05:09.34 ID:qMFTygQhO

 少女は白いワンピースを着ている。
 袖も襟もない、裾の長いワンピース。

 裸足に、白いサンダル。

 寒くはないのだろうか。
 俺は、しっかりとコートを着込んでいるのに。


 今は春だ。
 けれど、まだ肌寒い。

 俺は厚手のコートを着ている。
 彼女は白いワンピースを着ている。


 寒くはないのだろうか。
 俺は冬物のコートを着ているのに。

 彼女は白いワンピース姿だ。


 ここは公園で。
 今は、春で。
 俺は暇をもて余した学生で。
 彼女は誰だ?


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:08:14.35 ID:qMFTygQhO

ζ(゚ー゚*ζ「虫は、好き?」

( ´_ゝ`)「あ、あ……蝶は、綺麗だね」

ζ(^ー^*ζ「うふふ」

( ´_ゝ`)「君も、好きなのかい?」

ζ(^ー^*ζ「うん、好きだよ」


 少女は俺に問いかける。

 何が嬉しいのか、少女は笑う。
 愛らしく笑う。

 彼女は誰だろう。
 俺は学生で、暇をもて余している。

 彼女は白いワンピース姿。
 俺はコートを着ている。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:11:20.85 ID:qMFTygQhO

ζ(^ー^*ζ「うふふ、ねぇ、虫は好き? うふふっ」


 彼女は問う。

 彼女は笑う。

 彼女の名前は何だろう。

 デレは笑う。

 デレとは誰だろう。

 ここは春の公園。

 俺は学生。

 彼女はデレ。

 デレとは誰だろう。

 僕は。

 デレは。

 俺は。誰だ。ろう。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:14:12.65 ID:qMFTygQhO

ζ(^ー^*ζ「虫は、好き、?」


 デレが問う。


ζ(^ー^*ζ「ねぇ、虫は好き?」


 少女が問う。


ζ(^ー^*ζ「蝶は好き?」


 彼女が問う。


ζ(^ー^*ζ「虫は、好き?」


 見知らぬ少女が笑いかける。


23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:17:18.63 ID:qMFTygQhO


 俺は、春の公園に居た。

 けれど周囲は鉄の色に染まっている。

 俺は椅子に座っている。

 手足が椅子に固定されて動かない。

 目の前には見知らぬ少女が居る。

 彼女は誰だろう。

 デレは彼女なのだろうか。

 デレとは誰だろう。

 俺は、誰だろう。

 ここはどこだろう。

 少女が笑っている。

 幸せそうに俺の頬を撫でている。

 冷たい指先が僕の頬に触れる。

 ここはどこだろう。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:20:05.90 ID:qMFTygQhO

 少女が何かを言っている。
 けれど俺には聞こえない。

 優しく頬を撫でている。
 幸せそうに笑っている。

 僕の膝に少女が座る。
 近付いた顔も愛らしくて。

 彼女の舌が俺の目に近付く。
 あたたかい舌が僕の目玉をねぶる。

 ぬらりとあたたかく。
 やさしくて、あたたかく。て。


 デレは幸せそうに笑う。
 俺を見て笑っている。

 とても幸せそうに。


 あたたかい。


27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:23:08.86 ID:qMFTygQhO

 目玉をぬらぬらと何かがなでる。

 いたみはない。

 むしろ、ここちよい。

 奇妙なあたたかさが右目をなでる。


 きもちがいい。

 これはなんだろう。

 かのじょはだれだろう。

 ぼくはだれだろう。


 ぐちりと音をさせて目玉から舌が離れた。

 彼女は笑っている。

 目をなめていたのはデレだった。


 デレとは誰だろう。


29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:26:25.77 ID:qMFTygQhO

 彼女は何かを言っている。
 口を開けと言っているらしい。

 俺は口をひらく。
 彼女の顔が近付く。

 口の中に何かが入り込む。
 デレの舌だった。


 ぬちりとおとがする。

 あたたかい。


 口の中をなでる。
 あたたかい舌が僕の口をなでる。

 ずるりと何かが入り込んだ。

 舌ではなかった。

 ざらざらとした、何か。


31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:29:12.78 ID:qMFTygQhO

 ざらざら。
 やわらかい。
 けれどすこしかたい。

 なんだろうこれは。

 小さな突起がたくさんある。

 細かい毛の様なものも感じる。

 なんだろうこれは。

 動いている。

 ざわざわと、ぬらぬらと。


 デレの舌が口から抜け出した。

 にっこり、笑っている。

 彼女は、誰、だろう。


33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:32:12.03 ID:qMFTygQhO

 かんで、とデレは笑う。

 僕は、口の中のそれをかんだ。

 ぶちり、と何かがちぎれる。

 甘いような、えぐいような味。

 奇妙な臭みもある。

 吐き出したくなったが、こらえて噛み砕いた。

 動きもとまった。

 小さく痙攣していた。

 喉の奥に味が流れ込む。

 口の端からもそれが垂れる。


 デレは笑う。
 のみこんで、と。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:35:17.84 ID:qMFTygQhO

 ごくり、と嚥下する。

 ひどい味と、ひどい食感。

 けれど少女は笑っている。

 だから僕も笑った。


 ねぇ、おいしい?


 僕は、うなずく。

 嬉しそうな彼女は、また僕に近付く。

 口の中に、少女の舌がぬらりと。

 奇妙な汁と、デレの唾液がまざる。

 彼女は笑う。

 おれも、わらう。


38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:38:24.96 ID:qMFTygQhO

 彼女の口の隙間から、何かが見えた。

 それは、昔みたことがあるもの。

 幼いころ。
 夏休みなんかに、みたことがある。


 ああ、あれは。

 そうだ、あれは。


 かぶとむし、の、ようちゅう、?

 白い、茶色い、ざらざら、やわらかい、それが。

 ぼくの、くち、の、なか、に。



 ぷちゅり。

 噛み砕く。


41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:41:11.52 ID:qMFTygQhO

 あまくてくさくてえぐくてけれどどこかなつかしい。


 デレが笑う。

 ねぇ、おいしい?


 俺はうなずく。

 もちろんだよ。


 彼女の口から流れ込む味。

 少女の口移しで与えられるそれ。


 僕は、与えられるがままに何かの幼虫を噛み砕く。

 おいしいよと笑えば笑うほど、それは本当に思えてくる。

 そうすれば、彼女は嬉しそうに笑う。

 俺はそれが嬉しかった。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:44:26.53 ID:qMFTygQhO

 デレのワンピースがうごめく。

 僕は不思議そうな顔をしていたのだろうか。

 デレが笑って、俺の頭をなでる。

 その腕の隙間から、見えていた。


 少女のワンピースの裾から。
 何かが、這い出た。


 それは、彼女の腕ほどの太さの、おおきな、幼虫。

 赤い体液で体を濡らしたそれが、ずるずると、俺の膝の上に乗る。


 かわいいでしょう。


 デレが笑うから、俺も笑った。


45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:47:31.37 ID:qMFTygQhO

 ずるずると虫が這い寄る。
 デレは笑う。

 俺も笑う。

 それが膝から、腰に、腹に、胸に、移動して。

 俺の肩に乗り、頭を擦り付ける。
 俺の頬に、粘液が擦り付けるられる。


 俺は、笑う。

 それが口の中に無理矢理入り込んで喉を抉る様に奥へ奥へと流れ込んで息苦しさに目を見開いても。
 そんなものが飲み込めるものかと思う余裕もなく噎せる事も吐き出す事も出来ず吐き気に襲われても。


 かわいい、でしょ?


 彼女が笑うなら俺も笑うんだ。


46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:50:15.51 ID:qMFTygQhO

 少女の腕ほどもある虫を飲み込んだ。

 げほげほと何度も咳き込む。
 喉に残る痛みと不快感。

 腹でうごめくそれ。
 いやになるほどの吐き気にさいなまれて、咳き込む。


 見知らぬ少女は笑う。

 その背後に、彼女よりも大きな幼虫をしたがえて。



 僕はデレを見た。

 口許から、幼虫が姿を見せている。

 目の、目玉と眼窩の隙間から、幼虫が顔を覗かせる。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:53:20.48 ID:qMFTygQhO

 服の隙間から。

 皮膚を裂いたその隙間から。

 うぞうぞと。

 ぬらぬらと。

 赤い体液で濡れたそれが。

 デレの体が赤く染まる。

 奇妙な味のするそれが、這い回る。

 皮膚が、内側から押される様に動いている。

 ぽこぽこと波打つ、頬や腕の皮膚。

 そこを食い破って、何かが、姿をあらわす。


 それでも彼女は笑うから。
 僕も笑う事しかできなかった。


53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:56:13.16 ID:qMFTygQhO

 俺は公園にいた。

 僕は鉄の色の部屋にいた。

 公園のベンチにぼんやりと座っていた。

 椅子に手足を固定されていた。

 見知らぬ少女が俺に問い掛けた。

 可愛いデレが僕に微笑みかけた。

 俺は厚手のコートを着込んでいた。

 僕は粗末な汚れたパジャマ姿。


 虫は好きかと問う少女。
 蝶は綺麗だと俺は答えた。

 おいしいでしょうと笑うデレ。
 おいしいよと僕は答えた。


 俺は誰で僕はどこで君は何でどうして笑って虫を吐く。


56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 21:59:15.17 ID:qMFTygQhO


 兄者さんは、虫は好き?

 そう、好きなんだね。

 私?

 蝶々とか、きれいでしょ?

 うん、好きだよ。

 大好きだよ。

 食べちゃいたいくらい。

 ねぇ、私のおうちに来て?

 見せてあげる、蝶々とか、いっぱいいるの。

 うふふっ。

 きれいだよ、すごく、かわいいよ。

 あなたにも、食べてほしいくらい。


58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:02:08.51 ID:qMFTygQhO

 ほら、きれいでしょ?

 蝶々、いっぱいいるでしょ?

 うふ、うふふっ。

 ねぇこっちに来て?

 ここに座って?

 動かないで?

 そう、いいこだね。

 ほら、動いちゃダメだよ。

 きもちいいが、いっぱいだよ。

 蝶々、すきなんだよね?

 ね?

 ねえ?


61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:05:14.82 ID:qMFTygQhO

 すきなんだよね?

 すきなんだよね?

 すきなんでしょ?

 うん、うん。

 いいこだね、いいこだね。

 昔から、兄者さんはいいこだね。

 うふ、ふふっ。

 ほら、あーんして。

 ねぇ、あーん。

 あーん。

 はい、おあがりなさい。

 あは、は、あははっ。

 おいしい?


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:08:51.53 ID:qMFTygQhO

 あはっ。

 おいしいよね?

 ね?

 ね?

 あははっ、あはっ。

 じゃあ、あーん。

 あははははっ。

 あはははっ。

 おいしいよね?

 おいしいんだよね?

 おいしいよね?

 ね?

 あははははははははっ。


68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:12:58.26 ID:qMFTygQhO

 かわらないね、兄者さん。

 昔から、かわらないね。

 そうやって、笑って。

 ほら、いっぱい食べて。

 あはははっ。

 どうしたの?

 私だよ?

 デレだよ。

 そう、デレ。

 忘れちゃダメだよ兄者さん。

 あははははっ。


70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:14:22.87 ID:qMFTygQhO

 だぁめ。

 だぁめだよ。

 うふ、ふ、あは。

 ほら、あーん。

 あーん。

 もぐもぐして。

 ほら、ごっくんしなきゃ。

 あは。

 おいしい、でしょ?

 おいしいよね?

 あはっ、は、ははっ。

 ねぇ、どう?

 思い出せそう?

 私のこと、デレのこと。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:15:37.36 ID:qMFTygQhO

 うん、うん。

 デレだよ。

 忘れちゃダメだよ。

 ほら思い出して。

 思い出すまで、たくさん食べて。

 うん。

 ほら、あーん。

 うふふっ。

 思い出した?

 ねぇ、デレのこと。

 はねをもいだことはある?

 虫のはね。

 そう。

 紋白蝶のはね。


72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:17:26.01 ID:qMFTygQhO



 ふと、目が覚めた。

 冷たい空気と風、けれど日差しだけはあたたかい。


 俺は公園のベンチでうたた寝をしていたのか、肩に桜の花びらが積もっていた。
 ああ、冷えてしまったな。

 今日は暇だが、明日は学校もある。
 暇な学生の暇潰しが、公園で昼寝なんてわびしいな。

 のそりと立ち上がり、目元を擦る。


 何だか、夢を見ていた気がする。
 口の中が、寝起き独特の感触だ。

 甘いような苦いようなえぐいような、臭みのある口の中。

 うがいをしたいな、気持ちが悪い。


73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:19:48.34 ID:qMFTygQhO

 ああ、そう言えば夢に、女の子が出てきた気がする。

 真っ白なワンピースで、二つに結った髪。
 白いサンダル、小さな体でにっこりと笑う。


 彼女は何かを言っていた気がするが、声が耳に届いていなかった。

 でも口の動きは覚えている。

 ええと、なんだったかな。


 確か、



      「ねぇ、あなたは虫は好き?」



 どこかから、少女の声が響いた。


76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 22:21:23.39 ID:qMFTygQhO

 声の方へ顔を向けると、見知らぬ少女が微笑んでいた。
 虫は好きかと、少女が俺にそう問い掛ける。

 薄茶の綺麗な髪を、癖の強いふわふわとした髪を揺らして、首を傾げる。

 愛らしい笑顔だった。
 屈託のないというのだろうか。

 とても、すんなりとした、邪なものを感じない笑顔。


 俺は彼女を知っている。
 けれどどこで知ったのかはわからない。

 ただ、知っている。
 愛らしい少女。




 君は、誰だろう。

 口の中の寝起きの味と、夢の中の味は、同じものだった。



  【おわり。】



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