- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:19:15.72 ID:6jhna8v9P
生きている意味が分からない。
存在意義が分からない。
( ^ω^)「そうだ、死のう」
僕は、あまりにも感情が希薄だった。
何をやっても喜べない、怒れない、哀しめない、楽しめない。
心が揺れることなど一度もなかった。
僕は異常だった。
それでも普通であろうとして、周囲の人間とは上辺だけの付き合いをしてきた。
そんな見せ掛けの関わりに意味なんかない。
何も感じないから、生きていない。
だから、死のう。
その日、僕は道を踏み外した。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:23:19.31 ID:6jhna8v9P
◇
(`・ω・´)「ブーン、こんな時間にどこへ行くんだ」
( ^ω^)「ちょっとコンビニまで」
('、`*川「すぐ帰ってきなさいよ」
分かった、と返事をして家を後にしたブーン。
夜の空には黒い雲が垂れ込め、月明かりの届かない住宅街は薄暗かった。
街はしんと静まりかえっており、人の気配は全くない。
ブーンは死に場所を求めてアスファルトの道を進む。
歩きながら、死に方を考えていた。
些か思案した後、走っている車に身を投げれば死ねるだろうと結論を出した。
そうして、十分ばかり歩いて直線の続く道路へと辿り着く。
ちょうど時速六十キロメートルで走るトラックがブーンのいる方向へと走行していた。
好都合だと機会を窺うブーン。
やがてトラックはその巨体を拡大するかのように迫り来る。
ここだ、と思うタイミングでブーンは歩道から飛び出した。
トラック前部、二つのライトから放たれる眩い光に目を細めるブーン。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:26:35.61 ID:6jhna8v9P
タイヤとアスファルトが生む激しい摩擦音。
目前に迫った死の存在感。
寸刻の後には撥ね飛ばされているだろう、とブーンは確信した。
だが、衝突しない。
( ^ω^)「……?」
目を開き、前方を確認すると其処には何もなかった。
まるで突然、ブーンに当たる瞬間消えたかのように。
( ^ω^)「なんで……」
疑問の声を口にした時、爆音が響いた。
後方から発生した音に振り向けば、約二十メートル先にトラックが横たわっていた。
上空から落下してきたかのように、そのボディは陥没していた。
ブーンは鉄の塊と成りはてたトラックに歩み寄る。
視界に映る蜘蛛の巣状にひび割れた運転席の窓には、赤い何かが付着していた。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:29:30.15 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「ハハ……」
運転手は、間違いなく絶命している。
( ^ω^)「ハハハ……」
自分が死のうと思ったら、他人が死んでいた。
( ^ω^)「アハハハハハハハハハハハ!」
しかも原因は不明、何か神秘的な力が働いたのかと、
ブーンは笑わずにはいられなかった。
( ^ω^)「何だおこれwwwどうなってるんだおwww」
何に対して笑っているのか。
それは、恐らく自分の所為で他人が死んだことに対してだろう。
初めて目の当たりにした死が可笑しくて、ブーンは笑い続ける。
この時、ブーンは道を踏み外した。
普通の人間ではなくなったのだ。
本人は未だ自覚していないが、彼は特殊な能力を身に付けてしまった。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:31:56.14 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「おかしいおwww」
不可思議な現象を前に笑い続けるブーンだが、その時思った。
自分が笑っている、感情が正しく働いていると。
今まで愛想笑いしか浮かべたことがなく、心底から笑ったことなどなかったのだ。
( ^ω^)「生きてる、僕は生きてるんだおwww」
この世に生を授かり十七年、初めてブーンは生きた心地を感じた。
普通に過ごしているだけでは感じることは出来なかった。
ではどうすればいいのか、何の起因があればいいのか。
( ^ω^)「ああ──そうか」
──人を殺せばいい。
死を目撃して愉快だったのだから、殺人で問題は解決する。
こうして、ブーンは殺人鬼の道を進むことになった。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:35:25.64 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「警察にでも見つかったら面倒だから、今日は帰るお」
先の轟音で駆けつける者がいるかもしれない。
いつまでも此処にはいられないと、夜半の静かな道路から踵を返す。
一度だけ、潰れたトラックを振り返る。
割れた窓から覗く死体に鮮血。
惨憺たる光景はしかし、ブーンにとっては心が躍るものだった。
ぞくりと背筋を伝う何かは、言いしれぬ高揚感。
──もっと見たい。
そう思い、ブーンは帰路に就いた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:38:59.46 ID:6jhna8v9P
三月下旬にして寒さが残る街を歩き、ブーンは自宅のドアを開いた。
時刻は既に午前零時、高校生の帰りにしては遅すぎるものだった。
尤も、ブーンは親にコンビニへ行くと嘘を吐いたので心配することはないのだが。
家の中は明かりが点っておらず、仄暗い。
ブーンの両親は、既に就寝しているようだ。
コンビニへは行っていないので購入物は当然ない。
手ぶらで帰ってきたら怪しまれるかもしれないから、丁度良かった。
そう考えてブーンは自室へと進んだ。
( ^ω^)「ふぅ……」
ベッドの上へとダイブし、仰向けに寝転がる。
部屋の中は殺風景で、必要最低限の物しかない。
目に付く物と言えば学習デスクに本棚、ベッド、そしてテレビだけだった。
自室というものは住人の心象を表す物だと言われることがあるが、
ならばブーンの心は間違いなく伽藍洞だった。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:42:07.50 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「……」
ブーンは思い出す、先刻の不可思議な出来事を。
何故あの時トラックは突如として消えたのか。
そして空から落ちてきたのか。
どれほど考えてみても、超常的な力が働いたとしか思えなかった。
まるで自分がハードルで、トラックが障害物を飛び越したような。
いやハードルではなく棒高跳びか、それほどまでに飛翔していたように思われる。
轟音と共に鉄屑と化したトラックは、見るも無惨に滅茶苦茶な姿となっていたのだから。
よもや自分がやったのでは、とブーンは嘲笑しつつ考える。
トラックが飛んだのだから、何かを飛ばしてみようと試みるブーン。
整理された机の上に転がっているシャーペンを見て、"浮かべ"と念じた。
すると──
( ^ω^)「……え?」
中空で静止するシャーペンがそこにあった。
タネも仕掛けもない、机から約五十センチ上で確かに浮かんでいる。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:46:42.18 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「こりゃあ一体どういうことだお」
疑問の言葉は当然出てくる。
本当に自分がやっているのか、俄然信じられるわけがない。
浮いているシャーペンに向かって、今度は自分の所まで来いと念じる。
するとやはり、それはブーンの許までゆっくりと飛行した。
回転しろとブーンが念じれば回転したし、上下左右素早く往復しろと念じればそうした。
( ^ω^)「どうやら変な能力を手に入れたみたいだお」
それは、"操作"の能力だった。
( ^ω^)「そうだ、この能力は使えるお」
──殺人に。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:52:06.18 ID:6jhna8v9P
◇
フラフラと夢遊病患者のように、しかし確かな足取りで夜の街を歩く者がいた。
その者の眼光は鋭く、身に纏う外套の黒は宵闇に同化しているようだった。
彼が探しているのは人間。
目的は殺すことであり、生きることと同義であった。
繁華街から少し離れた場所に位置する路地裏を歩いている時。
彼は声をかけられた。
( ・`ー・´)「おいクソガキ」
( ・´ー・`)「ちょーっと金貸してくんねーかな」
片方は素肌にアロハシャツを着ており、胸元が露出している。
もう片方は素肌に竜のロゴが入ったスカジャンを着ており、やはり胸元が露出している。
如何にもチンピラといった雰囲気の二人組。
( ω )「……」
返答せず、沈黙を続けるブーン。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:54:56.81 ID:6jhna8v9P
( ・`ー・´)「おい耳ねーのかテメェ」
( ・´ー・`)「何だビビってんのかコラ」
( ω )「……」
その時、ブーンはニヤリと口元を三日月状に釣り上げ、笑った。
次の瞬間には外套の懐から、銀色の何かが飛び出し、
( ;`ー;´)「ぎゃあああああああいてえええええ」
男の腹に突き刺さっていた。
初めて体験するその痛みは、耐えられる物ではない。
ぞぶり、と腹の中を裂き進むのは刃渡り三十センチはあるサバイバルナイフ。
体内へと進入する異物の激痛に悲鳴をあげ続ける男。
叫声は雑居ビルに反響し、空へと吸い込まれる。
(;・´ー・`)「大丈夫か!? テメェ何しやがっt」
垂れた眉の男が驚嘆の声を上げようとした時、またも銀色の一閃があった。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 20:57:52.67 ID:6jhna8v9P
( ;´ー;`)「あああああああああああああ!?」
ブーンのマントから奔ったのは包丁であり、垂れ眉の首に突き刺さっていた。
裂けた頸動脈からは血飛沫が噴水のように流れている。
( ω )「……フフフ」
この地獄のような光景を見て、ブーンは笑っていた。
たった今、自分の手で人を殺しているのだと。
苦しみもがいている様子が可笑しくて堪らないと。
やがて、チンピラの二人は絶命した。
臓器を刃物に蹂躙され、血を失い、涙を流しながら死んだ。
( ^ω^)「もう、終わりかお」
つまらない、とブーンは物足りなそうな表情をする。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:01:50.79 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「しかしこの能力は便利だお」
家で調達したナイフと包丁を武器に、ブーンは殺人を行った。
飛び道具に使えると思ったからだ。
事実使えたので懐に忍ばせていた。
刃物とブーンの能力は確かに、優秀な組み合わせだった。
対象となる物体を自在に操ることができ、その速度は銃弾の其れにもできる。
加えて、肉を裂かれ苦しんでいる様を見ることができる。
ブーンにとっては至高の能力だった。
今日はもういい、とブーンは血の川から去った。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:04:50.07 ID:6jhna8v9P
翌日、ブーンはインターネットを利用してナイフを十五本ほど購入した。
武器を増やすためであり、目的の物は意外と簡単に手に入ったのだ。
日中には専門店へと赴き、包丁を五丁ばかり購入。
ナイフが届くまで、夜道を歩き包丁を用いて人を殺していた。
三日後にはナイフが届き、武器の総数は二十を超えた。
テレビのニュースでは殺人事件の報道が頻繁にされており、注意を促している。
夜間には警備のため、警官が点々と配置されていた。
そのため、必然的にブーンは警官を避けるように道を移動する。
午前一時、静まりかえった公園に着いた時、ブーンの見知った人間がいた。
('∀`)「あはは、ブーン! ブーンじゃないか!」
( ^ω^)「……ドクオ」
高校でブーンと同じクラスだったドクオ。
特別仲が良いわけではなかった。
ドクオは常に一人でいたのでブーンが話しかけることはなかったし、
ドクオがブーンに話しかけることもなかった。
あるのは形式的な挨拶ぐらいで、互いの存在を認識しているだけだった。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:08:37.04 ID:6jhna8v9P
('∀`)「こんなところで会うなんて奇遇だなぁ! 一体どうしたんだよ!
そんな友人でもない、普段無口なドクオが親しげに話している。
そもそも彼は、こんな時間こんな場所に何故いるのか。
( ^ω^)「そりゃこっちの台詞だお、お前は何をしているんだお。
最近は例の事件で夜は危ないってことを知らないのかお」
('∀`)「質問に質問で返すのは良くないなぁ、訊いてるのは俺なんだよ?
例の事件ってのはアレかい、人が行方不明になってるってやつかな?」
何かがおかしい、いつもは無口で無表情なドクオだが、
今は常に薄ら笑いを浮かべているし、いやに饒舌だった。
そして何よりブーンが疑問を抱いたのは──
( ^ω^)「行方不明? 何を言っているんだお?」
そんなニュースを見たことはなかった、ならばドクオの言っていることは何なのか。
何故ドクオはその事件を知っているのか。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:12:44.01 ID:6jhna8v9P
('∀`)「ああそうか、まだ気付いてないんだな。行方不明者がね、多発してるんだよ。
跡形もなくなるから、行方不明」
( ^ω^)「ふぅん、知らなかったお」
後半の部分はよく理解できなかったが、
別段興味はないといった風にブーンは立ち去ろうとする。
元クラスメートを殺すこともないだろう、と思ったからだ。
('∀`)「あれ? 何処行くんだよ、待ってよ。
せっかく会ったんだしさぁ──」
──喰われてくれよ。
声を聞いて振り返ったブーンの背後には、巨大なナニカがいた。
全身は赤黒く、光沢のある硬そうな殻に何百本もあるグロテスクな足。
顔には長い、二メートルはありそうな触覚が二本。口には鋭い乱杭歯が見える。
一見すればムカデのように見える其れだが、全長は約十メートル。
凡そムカデとはかけ離れた、未知の生物だった。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:16:44.38 ID:6jhna8v9P
(;^ω^)「な……」
何だコレは──という言葉を続けられないほどの出来事だった。
現実ではあり得ない生物が其処にいる。
('∀`)「うひゃひゃ、悪いけど死んでくれ。餌がいるんだ」
(;^ω^)「どういうことだお……」
目を疑うような現実を前に、ブーンは質問せずにはいられなかった。
('∀`)「さぁ? どういうことなんだろうなぁ……。
少し前、昔のクソったれた知り合いに会いたくもないのに偶然会っちまってさ、殴られたんだよ。
俺は腹が立ってね、其奴を殺したいと思った。そしたらこの化け物が出てきたんだ」
( ^ω^)「!」
ドクオの言葉を聞き、ブーンは悟った。
此奴も能力者なのだと。
( ^ω^)「フフ……」
殺し合いが出来る、とブーンは喜ぶ。
ここ数日は一方的に殺すだけで、飽きてきたからだ。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:20:00.64 ID:6jhna8v9P
('∀`)「可笑しいよなぁ! 笑っちまうよなぁ!」
( ^ω^)「ああ──最高におかしいお」
おかしい、この世は不可思議な現象で一杯だ。
だから可笑しい、ブーンはそう思った。
('∀`)「──やれ」
ドクオの一声に反応し、ムカデのような化け物が動いた。
ちっぽけな人間と、巨大な怪物の戦いが始まる。
先に攻撃を仕掛けたのはブーン。
黒く長い、足首にまで届こうかというコートの中に詰まったナイフを繰り出す。
音速で滑空するナイフは、凡そコンマ一秒も掛からず化け物の外殻に到達し──
(;^ω^)「……!」
弾かれた。
硬すぎる外骨格は、何物も傷つけることなど出来ない。
ナイフの刀身は真っ二つに折れ、物を切るという本質を失った。
規格外にも程がある。
時速千キロメートルを超える速度の物体を直撃してなお無傷。
今まさにブーンへと襲いかかろうとする異形のそれは、化け物だった。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:23:09.00 ID:6jhna8v9P
('∀`)「やっちまいな!」
(;^ω^)「チッ……!」
化け物は巨大な顔面に大口開けて、ブーンへと喰らいつく。
数百本の足がうねり、迫る速度は高速。
それ故に破壊力は極致、回避は困難だった。
渾身の力を込めたサイドステップで、ブーンは敵の攻撃範囲から脱出を試みる。
だが自身の右斜め上から袈裟懸けに襲ってきた鋭い歯は、頬を掠り切った。
(メ^ω^)「グ……」
やがて化け物の頭身は硬いアスファルトに激突し、地面が爆ぜた。
空中高く舞い上がった砂塵に、ぱらぱらと降り注ぐ砂利。
大きく抉れた地表に屹立する異界の魔物。
圧倒的な威圧感を持つソレを、どうすれば倒すことが出来るのか。
('∀`)「うひゃひゃ! よく避けたなぁ!」
(メ^ω^)「……ドクオ、お前の能力は何だお」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:26:04.22 ID:6jhna8v9P
('∀`)「さあねぇ? "使役"か何かじゃねーの?
それともアレか、"蠱毒"なんてどうだ!
俺にピッタリじゃねーか! あひゃひゃ!」
(メ^ω^)「ふむ……」
なるほど"使役"に"蠱毒"か、確かに頷ける。
殺し合いの末、生き残った最強の虫を使役。
それがドクオの能力かもしれない。
しかしそれが分かっても、ブーンには打開策が思いつかない。
とにかく出来うる限り攻撃を仕掛けるしかない。
怪物がブーンへと走り、鞭のように体をしなり、跳躍した。
地上十メートルから蹂躙せんと、丸い月を背景に中空から降下する。
オーバーコートの内側から取り出したのは、刃渡り十二センチ程度の出刃包丁。
それを右手に大きく上半身を捻り──投げた。
包丁はブーンの手から離れた瞬間、爆発的な推進力が加えられ、
ブーンと化け物の対峙する空間を、超越した。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:29:19.78 ID:6jhna8v9P
時速五千キロメートルで迸る包丁は、一刹那の間にムカデの化け物へと飛来した。
空から落ちてくる化け物に、地上からの対空射撃。
空気が弾けたような破裂音、地を揺るがす衝撃波。
(;'∀`)「……っ!」
あまりの破壊力に、空高く押し上げられた化け物のシルエットは──
二つの体躯。
それは胴体が分断されたことを意味し、だが勝利を意味してはいなかった。
地面へと墜落し、轟音と共に現れたのは、紫色の体液を零す一対の巨大な虫。
肉を断たれようと、胴体が二つになろうと、それはそれぞれ独立して動いていた。
(メ^ω^)「なんて──」
規格外、とブーンは言った。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:32:54.88 ID:6jhna8v9P
('∀`)「すげえなぁ! ブーンも変な力を持ってるんだ!
おかしいなぁ! 狂ってるなぁ!」
狂気を醸し出すドクオは、自身に内包する化け物を開放した。
ドクオは蠱毒の器であり、その身に何十という魔物を持っていた。
象の大きさ程もある蜘蛛、鰐と瓜二つの蜥蜴、文字通り牛のような蛙、
胴の半径が二メートルはある蜷局を巻いた蛇、虎と見紛う黒く巨大な犬。
他、十を超える魑魅魍魎がドクオの身体から飛び出す。
(メ^ω^)「こいつはヤバイお」
先のムカデ一匹相手で手一杯だったのだ。
核ミサイルを撃ち込んだって殺し切れそうもない。
そんな怪物が、数十とブーンの眼前で蠢いている。
ブーンに勝ち目はない。
勝ち目はないが、それは──
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:35:16.43 ID:6jhna8v9P
化け物共を相手にした場合だ。
使役されたモノを殺すのではなく、使役した者を殺せばいい。
ブーンは危機を目前に、ようやっと気付いた。
(メ^ω^)「ドクオ、君を殺す」
黒のコートに仕込まれた二十全ての凶器を操る。
中空で静止する二十の刃物、それらの切っ先はドクオに向いていた。
ブーンは右腕を空へとかざし、力強く前面に突き出した。
超音速で、化け物共の中心にいるドクオへ殺到する凶刃。
(;'∀`)「──ガハッ!」
肩に、腕に、胸に、腹に、脚に、串刺しとなった。
ドクオは血反吐を吐き、身体から血を流し、全身を赤に染めていた。
けれども、決して倒れはしなかった。
('A`)「……」
ドクオは仁王立ちのまま、輝きを失った目でブーンを見据える。
無感動な表情で、何かを訴えかけるように。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:39:52.11 ID:6jhna8v9P
(メ^ω^)「……」
一方で、ドクオを死に追いやった事に感情を昂ぶらせるブーン。
殺すことに因ってしか得られない物を感じていた。
('A`)「この世の何処にも平等なんて在りはしない。
いつだって辛い事ばかりなんだ。弱者は存在しちゃいけない。
こんな世界が──」
俺は大嫌いだ、と言ってドクオは地に伏せた。
(メ^ω^)「人の上に人がいた、と誰かは言ったお。
君の言うことは正しい、この世界は狂っているお」
──僕は大好きだけど。
ドクオが死んだことによって、化け物は消滅した。
後に残ったのはブーンと、俯せに横たわる血塗れのドクオ。
日中穏やかな雰囲気の公園は、一夜にして嵐の後のように変貌していた。
その場を去ろうとするブーンの心には、自分でも分からない感情があった。
それは憐憫の情か、或いは侮蔑の念か、やはり欣快の思いだったのか。
朦朧とした気持ちを抱えたまま、ブーンは公園を後にした。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:44:06.13 ID:6jhna8v9P
◇
深夜の一人歩きは続いていた。
チンピラを殺した日から、毎日一人は殺している。
何もなかった自分にあった、本物の感情。
ブーンは殺人を楽しいと、最高の快楽だと感じていた。
罪の意識などない、あるのは愉悦のみ。
箍が外れた思考では善悪の判断など有りはしない。
( ^ω^)「……」
ブーンにとっては能力者だろうが一般人だろうが関係はなかった。
殺すことが出来ればれば誰でもいいのだ。
獲物を探し歩き、人気のない河川敷に辿り着いた時。
低い、地の底から聞こえてくるような何者かの声が響いた。
( )「少年、己が快楽の為に暴れているようだな」
背後を振り向けば、宵闇の中に溶け込むようにその男はいた。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:48:15.53 ID:6jhna8v9P
質の良さそうなスーツにスラックスを着ており、全身黒一色のため視認は難しい。
月光の薄明かりでは、その者の輪郭しか見えない。
( ^ω^)「お前は」
強い、そう直感した。
黒い男の纏う雰囲気はどこか異常だった。
周辺だけが光を失ったような、或いは男が光を消滅させているかのようだった。
( )「殺人鬼に堕ちたか、些か行き過ぎではないか?」
( ^ω^)「はっ、お前に言われたくないお」
自分とは比べものにならない程の血が、奴には染みついている。
同じ外れた者同士だと、ブーンは直感した。
( )「君では、私に勝てない」
絶対の自信を持ち、断言する男。
( )「私は戦いに来たわけでない、忠告しに来ただけだ」
( ^ω^)「お前の都合なんか知らないお、僕は殺すだけだお」
聞く耳持たずといった調子で、ブーンは戦闘態勢を取る。
懐に忍ばせているナイフと包丁を中空に放り投げ、静止させた。
( )「だから戦いに来たわけではないと……」
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:53:11.50 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「……行け」
もはや会話など不要だと、ブーンは攻撃を開始した。
囁くような声に反応し、自身の周囲に浮遊していた十を超える凶器が敵へと殺到する。
その速度は、尋常ではなかった。
生身の人間が銃弾を回避することなど不可能なように、その凶刃も避けられるものではなかった。
両者が対峙する約五間の距離を、一瞬にして無にする速度。
しかし、先行していたナイフが刺さると確信に至った瞬間。
黒い、闇を具現したようなスーツ姿の男が揺れた。
(;^ω^)「!?」
ブーンの凶器が弾丸ならば、黒い男の動作は光速のそれだった。
当たらない、一本たりとも当たらない。
男は、目視すら出来ぬ迫り来る刃物を全て避けたのだ。
そして傷一つ無く、表情を変えることなく佇んだままだった。
( ^ω^)「お前、何者だお」
必中必殺の技を躱されたのだ、ブーンはそう問わざるを得なかった。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:56:54.84 ID:6jhna8v9P
,,,,,,,..........,
./"´:;;::;;;: ::::;::"ソヽ
/ ,ヘ〜-ー'´⌒``ヽ:ヽ
/ ノ 彡:三:三:三:ミ |: \
| |. __,,;;ィ t;;;;,,,_ :ヽ |
| |シ ,ィェィ') (.ィェィ、 ミ| |
!r、| ''''''. | | '''''' Y ) ________
ヽ{ ヽ. (r、 ,n) /:: };ノ /
し} : 、___二__., ;:::::jJ < ジョルジオ・ブッシュ、"回避"の能力者だ。
!、.:. ´ ..::::... `ノ::::ノ \
_,〉、ゝ '""'ノ/:|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
__,,ィ';;;;ト `ニニ: ::..ノ|ヽ、_
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- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 21:59:21.87 ID:6jhna8v9P
(;^ω^)「な……」
──何故……何故こんなところに奴がいる?
史上最悪、空前絶後の人非人と名高い光国の悪魔。
ジョルジオ・ブッシュ大統領。
その男が日本に、ブーンの前に存在している。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{ ,´´゚ | | ゚``、 } 「なに、大泉とキャッチボールをしに来ただけだ」
流暢な日本語で、そんなことを言った。
(;^ω^)「何を、馬鹿な──」
俄には信じがたい事実だった。
ブッシュとは、暴虐性に任せて他国を執拗に攻め続けた男だ。
当然のことながら、攻撃を受けた国の民には怨恨を抱かれている。
数年前、ブッシュは武力介入した国へと赴いた。
何を思ったのか、唐突に記者会見を開いたのだ。
そこで、事件は起きた。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:02:13.95 ID:6jhna8v9P
ブッシュに恨みを持つ記者が靴を投げたのだ。
投げられた靴の速度は高速だった。
その時、ブッシュは能力を発現した。
"回避"という能力。
本来ならば間違いなく直撃の軌道だったのだが、残像を残しながらブッシュは避けた。
周りの人間には動いたことすら分からなかっただろう。
一度目の靴の回避で能力を自覚し、二度目で体得したブッシュ。
それ以降、彼は物理的攻撃からの圧倒的回避力を得た。
暗殺者から放たれた銃弾、背後からの狂人の攻撃、空から落ちてくる鳥の糞。
自身に降りかかる危険があれば、本能が反応する。
もはやブッシュは無敵だった。
( ^ω^)「何をしに来た」
何の目的もなく来日する筈がない、真意を確かめるためブーンは訊いた。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{ ,´´゚ | | ゚``、 } 「先ほども言っただろう、忠告しに来ただけだと」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:07:24.32 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「忠告? いったい何を伝えようっていうんだお」
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{ ,´´゚ | | ゚``、 } 「君は何も知らない。世界は能力者で溢れている。
君のように倫理観を失う者も少なくない、そんな人間がそこら中にいるとしたら、
この世の人間は悉く殺され尽くすだろう。だが多くの国民は日々、安寧を謳歌している」
何故だか分かるか? とブッシュは問うた。
( ^ω^)「……」
確かに、能力を体現した人間が人殺しになることは少なくないだろう。
ドクオのように復讐を目的とし暴走した者、ブーンのように悦楽を求める者。
では、何故今まで能力者という存在が公にならなかったのか。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{ ,´´゚ | | ゚``、 } 「パラドックスだよ。世界の均衡を保つために動く連中がいる。
能力者抑止協会、能力者の存在を隠匿する組織だ。
そして、騒ぎを起こす者を排除する狩人共だ」
悪者がいるから、英雄がいる。
実にシンプルな真理だった。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:10:34.30 ID:6jhna8v9P
( ^ω^)「それがどうしたって言うんだお」
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{ ,´´゚ | | ゚``、 } 「わからないのか、君は暴れすぎだ。
奴らはプロだぞ、死にたくなければ大人しくしていた方がいい。
……まあ尤も、今となっては瑣末事だがね」
長ったらしい警告を聞き終えたブーンはうんざりしていた。
( ^ω^)「殺しに来るなら、殺し返してやるお。
何より僕が望んでいることだから」
話はそれだけか、と殺気を放つ。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{ ,´´゚ | | ゚``、 } 「やれやれ、死にたければ死ぬがいい」
両手を持ち上げ首を横に振る、如何にも光国人といった仕草だ。
( ^ω^)「──お前を殺す」
用意した得物の数は二十。
回避を圧倒する物量で殺陣を組む。
空に立ち込める黒い雲の隙間から、月の光が差し込まれた時。
今度こそ命を刈り取らんとブーンは挑む。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:13:49.95 ID:6jhna8v9P
片手に四本のナイフ、包丁を指に挟み、一度に八本の投擲を繰り返す。
やがて、ブッシュの周囲を百八十度取り囲むように展開される。
半円状に取り巻く凶器から逃げる手段はない。
( ^ω^)「行け」
それは──不可避の攻撃だった。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
.{; ,´´゚ | | ゚``、 } 「!」
逃げ場など無い。
故に必中必至だった。
張り詰めた空気が緩むと同時。
ブッシュの周りで静止していた二十の得物が奔った。
どれほど常軌を逸した回避力を持っていたとしても、それは避けられない。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:17:41.21 ID:6jhna8v9P
だが、次の瞬間にはブッシュは消えていた。
先ほどまで立っていた位置から二メートル横。
切り刻まれたスーツに、割けた肉。
左腕と頬から血を流しながら、ブッシュは悪鬼のような形相でブーンを睨んでいた。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「──貴様、この私に傷を付けたな」
( ^ω^)「ハハ、何が勝てないだお。ちゃんと切れたじゃないかお」
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「このジャップのクソがああああああ!
貴様ら日本人など皆殺しにしてやる!
金にならん害虫共は皆殺しだ! 殺し尽くしてやる!」
気が触れたように喚きだしたブッシュ。
かつて一度も傷つけられることのなかった身体を切られたのだ。
彼にとってそれは、あってはならない屈辱だった。
( ^ω^)「皆殺しって……戦争でも始める気かお」
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「そうだ、元々私は戦争を起こす気でいた。
日本に来たのは友人に避難を促すためだ。
穏便に済ませる気だったが関係無い、貴様ら日本人は皆殺しだ」
( ^ω^)「やれやれ……お子様な奴だお」
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:21:41.51 ID:6jhna8v9P
戦争が起こるのならそれも楽しそうだ、と思ったが今は目前の敵だ。
怒り狂ったブッシュを殺す事が、ブーンの現在の目的だった。
──愉快な殺し合いをしよう。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「殺す、殺す、殺す」
呪詛のように呟きながら、スーツの懐に手を入れる。
取り出したのはベレッタM9、ハンドガンだ。
セーフティを外し、流れるような動作で引き金を引いた。
乾いた銃声が三発響く。
(;^ω^)「ガッ──」
反応が遅れつつも、ブーンはブッシュの握っている物が銃だと判断した瞬間真横に飛んだ。
しかし、全力を込めた跳躍でさえ逃げ切れず被弾した。
それほどまでにブッシュの動きはスムーズだった。
ブーンは都合二発の銃弾を受け、右肩と脇腹を損傷した。
( ^ω^)「クク……ハハハ! アーハッハッハ!」
唐突に、ブーンは笑い出した。
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:26:38.69 ID:6jhna8v9P
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「どうした、怪我をして気が狂ったか」
( ^ω^)「フフフ。ああ──」
──楽しい。最高だ、僕は今まさに生きている。
だってこんなにも、楽しんでいるんだから──。
唯一つ自分にもあった感情、殺人による喜悦。
殺し合いの果てでしか生を実感できないブーンは、明らかに壊れている。
鋭い痛みを覚えつつも耐え、あまつさえ喜んでいる。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「ふん、今殺してやる」
銃口がブーンに向けられる。
放たれる銃弾はしかし、何かに弾かれた。
( ω )「……」
その何かは、ブーンの前面に連なる刃の列。
凶器は盾となり身を守っている。
円形に展開される盾から一本のナイフが飛び出す。
目に見えぬ速度のそれを、やはりブッシュは回避する。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:31:36.02 ID:6jhna8v9P
ブッシュから銃弾が放たれる。
凶器の盾に妨げられる。
これではイタチごっこで両者とも決定打に欠ける。
だがしかし、軍配はブッシュに上がっていた。
銃弾を受ける度、ブーンの凶器は折れていた。
武器の数が十四に減らされた時、ブーンは賭に出た。
全ての包丁、ナイフを用いブッシュを囲うよう半円状に展開させる。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「甘いな」
そう言って、ブッシュは瞬きの間に動いた。
包囲される前に脱出したのだ。
( ^ω^)「!」
ブーンは防御を捨て、攻撃に転じた。
故に、隙だらけの身体に打ち込まれる銃弾を避ける術はなかった。
勝敗は決したも同然。
空になるまで打ち続けられた六発の弾丸を、ブーンは四発も被弾した。
彼は、賭に負けたのだ。
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:37:53.55 ID:6jhna8v9P
耳は削げ落ち、両腕は動かせず、内蔵は破れ、流血が激しい。
しかし絶体絶命の状況においてブーンが感じているのは絶望ではなく、
何よりも楽しいという感情だった。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「私の勝ちだ、お前に死を与えてやろう」
仰向けに倒れ込んだブーンに近寄り、ブッシュが言った。
(メ ω )「死ぬのはお前だお──」
ブーンの能力は"操作"。
ならば──
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
.{ ;,´´゚ | | ゚``、 メ} 「ぐっ……!?」
突如苦しみだし、胸を押さえるブッシュ。
まるで心臓を鷲掴みにされているかのような胸の痛みに狼狽する。
それは比喩などではなく、事実だった。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
.{ ;,´´゚ | | ゚``、 メ} 「き……さま……、まさか……」
──ブーンに操れぬ物などありはしない。
(メ^ω^)「生物だろうが無生物だろうが、僕は何だって操ってみせる」
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:42:06.68 ID:6jhna8v9P
心臓の鼓動を停止させる。
初めからそうしていれば傷を負うことなどなかった。
だがそう考えても、もう遅い。
ブーンは生命活動を維持するのに必要な血を流しすぎている。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「おのれ……」
急速に死へと走る肉体で、それでもブッシュはブーンを殺そうとした。
激しい痛みに、血液の回らない身体で銃口の照準をブーンに合わせる。
力の入らない震える手で、引き金を引いた。
〃 __,,,.ハ、,ー ヾ,
{#,´´゚ | | ゚``、 メ} 「……!」
だが、ブッシュは失念していた。
銃のマガジンには、もう弾が入っていない事に。
弾を失った銃に意味はない。
ブッシュは自信の身体を動かせない。
力を込められぬ脚では立っておられず、俯せに倒れる。
最早、脳死を待つ他には何も出来なかった。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:46:39.28 ID:6jhna8v9P
一方でやはり、致命傷を負っているブーンも死に瀕していた。
(メ^ω^)「月が綺麗だお……」
大の字になって倒れているブーンが目にしたのは、空に浮かぶ大きな月。
黒い雲は遠くへ流れ、月光が地を照らしていた。
今際の際にブーンが思い出すのは、何の面白みもなかった十七年の時。
そして、人間らしさを実感できた僅か一週間。
他人を欺き、自分を偽り、何も感じなかった。
人が死に、人を殺し、喜んで自分が死ぬ。
唯それだけの人生だったと、ブーンは思った。
(メ^ω^)「ああ──楽しかったお」
それでも、最後に生きていると、感情が揺れたと喜んだ。
(メ-ω-)「それにしても……何の意味もない人生だったお……」
最後にそう言って、彼は瞼を閉じた。
何の意味もないと言ったブーンだが、彼は英雄だった。
誰も知らない殺人鬼は、日本人と光国人、後に死に絶える事となる国を救った。
誰も知らない殺人鬼は、最後まで独りぼっちだった。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:52:35.34 ID:6jhna8v9P
◇
( ´_ゝ`)「やれやれ、どうして俺たちがこんな極東の地に来なくてはならんのだ」
(´<_` )「日本の協会は小規模だからな、今回は異例の事態だし仕様がないだろ」
真っ黒な、膝元まで垂れるトレンチコートを着た瓜二つの男が二人。
静謐な夜の土手を歩き、愚痴を漏らしていた。
( ´_ゝ`)「それにしたって情報が遅すぎるだろ、何をしてるんだ日本の連中は」
(´<_` )「だから小規模なんだよ、何も出来ないんだろ」
( ´_ゝ`)「なっさけない連中だな、まったく」
(´<_` )「その通りだな」
二人は河川敷の遊歩道を泰然と歩き進む。
( ´_ゝ`)「光国も不穏な動きを見せてるし、何が起こって……」
(´<_` )「これは、どういう事だ」
ある物を目にし、二人の歩は止まった。
高架下、アスファルトに伏した二つの死体。
一つはブーンの、そしてもう一つは──
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:57:52.16 ID:6jhna8v9P
( ´_ゝ`)「ブッシュだと? どうしてコイツが此処に?」
(´<_` )「それよりも、ブッシュを殺せる者がいたとはな」
( ´_ゝ`)「信じられんな」
(´<_` )「まったくだ」
二人はブッシュの死体の二メートル横に倒れているブーンを見た。
( ´_ゝ`)「この坊主がやったのか」
(´<_` )「今回のターゲットじゃないのか」
( ´_ゝ`)「死んでやがる」
(´<_` )「無駄足だったな、ただの後処理しか出来ん」
やれやれ、と二人は同時に溜め息をついた。
- 108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:59:41.53 ID:6jhna8v9P
( ´_ゝ`)「ブッシュを殺せる程の能力者なら、戦ってみたかったな」
(´<_` )「死んでしまったのだから、そんなことを言っても無理だ」
( ´_ゝ`)「そうだな……。この二人はサンプルとして持ち帰るか」
(´<_` )「そうするか」
( ´_ゝ`)「では"転移"は頼んだ、弟者」
(´<_` )「任せろ、兄者」
弟者と呼ばれた男は死体に近づき、ブーンを見てこう言った。
(´<_` )「なんて──良い顔で死んでるんだ」
満面の笑みは、ブーンが初めて見せた、心からの表情だった。
( ^ω^)ブーンは人を殺し心を動かすようです 完
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