- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:19:12.36 ID:iLJEv75C0
見てはいけない。
「見てはいけないらしい」
「見たら、どうなるんだろうな?」
あ、ああぁ……。
「絶対に見ちゃいけないんだって」
みんな正しかった。
見てはいけなかった。
「見て、しまったんですね……」
ああ!
そんな目で俺を見るな!
憐れむような目で俺を見るなああああ!!
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:20:34.49 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)見てはいけないようです
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:21:57.06 ID:iLJEv75C0
なんてことはない、春の日。
花粉症に苦しむ俺は、こういう時期は出来るだけ屋内で過ごすことにしている。
中学生なんだから元気に外で遊べなんて言う時代錯誤甚だしい教師もいるが、そんなものは無視だ。
(,,゚Д゚)「兄者ー、なんか面白い話しろよ」
だが教室に居てもやることがない。
生憎、俺の最も嫌いなことは勉強と読書なのだから仕方ない。
だから俺は目の前で怪しい雑誌を捲る兄者に言ったのだ。
( ´_ゝ`)「そういうフリはやめろ」
兄者は雑誌から視線を上げて言う。
だが俺は気にしない。
そんな俺の代わりに口を開くのは弟者だ。
(´<_` )「兄者、珍しく期待されているというのにそれに答えなくていいのか?」
(*´_ゝ`)「何!? ギコは俺に期待しているのか……?」
弟者の言葉に兄者は嬉しそうに言う。
残念ながら俺は兄者には全く、微塵も、髪の毛一本程も期待していないが、あえて黙っておく。
弟者も内心は俺と同じだろうに何も言わないのは、やっぱり暇だからなのだ。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:23:30.08 ID:iLJEv75C0
( ´_ゝ`)「面白い話……そうだなぁ……」
うんうんと唸る兄者。
あまり真剣に悩まれると変な罪悪感がわく。
俺がおかしなフリをしたことを謝ろうとした時、兄者は言った。
( ´_ゝ`)「そうだ、面白いかは分からないが」
(,,゚Д゚)「何だ?」
食い付く俺。
一気に謝ろうという気持ちは薄れ、好奇心のままに兄者に先を促す。
( ´_ゝ`)「まあまあ、そう焦るな」
(´<_` )「そう言われると余計気になるけどな」
(,,゚Д゚)「そうだそうだ!」
弟者は冷静に言い、俺は煽る。
( ´_ゝ`)「まぁ、話すぞ。……今から話すのはありがちな、禁忌とかそんな感じの話だな」
(,,゚Д゚)「ホラーか!」
(´<_` )「春なのに怪談か」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:25:33.69 ID:iLJEv75C0
絡む俺達に一言黙れと言って、兄者は再び話しだす。
遠くを見ながら、ゆっくり。
兄者という奴はこういう話をするのが得意なのだ。
( ´_ゝ`)「この学校の北西、駅とは正反対の方向に神社があるだろ」
神社、荒巻神社。
大昔からある由緒正しい神社らしいというのは聞いたことがある。
毎年盆の時期にあの神社でやる祭りは、この辺りでは一番盛り上がる行事だ。
( ´_ゝ`)「その神社の裏手に祠があるんだが」
そこで一度区切って、兄者は声のトーンを落とした。
雰囲気がよく出ている。
しかし、同時に奇妙なデジャブを感じた。
( ´_ゝ`)「見てはいけないらしい」
そして、それに俺より早く確信を持ったのは弟者だった。
(´<_` )「時に兄者、その話、何年か前にも聞いたことがある気がするんだが」
(;´_ゝ`)「ギクッ!!」
(´<_` )「口で言うな」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:27:29.91 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)「……ああ、小学生の頃、誰かが言ってた話か」
俺と兄者と弟者は同じ小学校出身で、高学年の時はクラスも一緒だった。
やっと思い出せた。
あのクラスには怪談話が趣味の女子がいて、暇さえあればクラスメイトにそういう類いの話をしていたのだ。
(,,゚Д゚)「貞子だっけ?」
(´<_` )「そうだ、貞子だ。たしかホラー映画が好きすぎてそんなあだ名になったんだよな」
( ´_ゝ`)「本人はすごく喜んでたよな」
(,,゚Д゚)「変り者だったからな」
だんだんと記憶がはっきりしてくる。
あれは五年生の頃だ。
雨で暇を持て余していたクラスメイトで集まって、怖い話大会とやらを開いたのだった。
( ´_ゝ`)「貞子が言ってた通り、何かあってもおかしくないぞ。あの神社の祠は不気味だからな。
……変な噂もあるし」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:29:31.15 ID:iLJEv75C0
(´<_` )「見てはいけないってのは聞いたが、変な噂とは何だ?」
(,,゚Д゚)「俺も初耳だ」
貞子が言ってたのはたしか、あの祠の中を覗いた人間は神隠しにあうとか、そんなことだった気がする。
だが、それ以外の話というのは聞いたことがない。
( ´_ゝ`)「この間ホラーサイト巡りしてたら、この地域のことを扱ってる掲示板を見付けたんだ」
兄者の趣味がネットサーフィンだというのは以前聞いた。
てっきりエロサイトでも見ているのかと思っていたが、そうではなかったらしい。
( ´_ゝ`)「なんでも、あの神社は特別なんだとか」
(,,゚Д゚)「特別?」
( ´_ゝ`)「そう、特別。
掲示板に書かれてた話によると、死んだ人間を生き返らせる儀式をしてたとかなんとか」
(´<_` )「作り話だろ」
兄者が言い切ると同時、弟者はまるで遮るように言った。
普段穏やかな弟者にしては少しキツい言い方なようにも感じる。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:31:24.85 ID:iLJEv75C0
( ´_ゝ`)「ありがちな話だしな。
だが神社で死者を生き返らせるっていうのは、やっぱり変わってると思うぞ」
兄者は広げっぱなしだった雑誌を閉じ、言った。
( ´_ゝ`)「今度、俺達で確かめてみないか?」
(,,゚Д゚)「確かめるって……」
荒巻神社で本当にそんな怪しげな儀式をしているか、ってことか?
( ´_ゝ`)「絶対に何かあるぞ」
(´<_` )「根拠は?」
( ´_ゝ`)「勘だ」
兄者の説得は続く。
普段なら俺達と一緒になってしょうもないことをするはずの弟者の乗り気でない態度には違和感を感じた。
しかし昼休みが終わる直前に、やっと弟者は折れたのだ。
(´<_` )「分かったよ。俺も行く」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:33:26.20 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)「やったな、兄者」
( ´_ゝ`)「おうよ! 俺にかかれば弟者の説得など朝飯前だ!」
(´<_` )「もう昼休みも終わりだけどな」
弟者がそう言い終わるのとほぼ同時にチャイムが鳴った。
そして、見下ろした校庭に居たまばらな影が校舎に飲み込まれてゆく。
( ´_ゝ`)「次の休み時間に予定を練ろう」
兄者は立ち上がり、トイレに向かった。
予鈴の後にトイレはおかしいだろと言いたくなったが、
そもそも話題を出させたのは自分なのを思い出して口をつぐむ。
弟者と一言二言交わし、俺も五時間目の授業の準備を始めた。
次が英語だと思うと憂鬱だが、とやかく言っても仕方ないのだ。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:35:25.81 ID:iLJEv75C0
部活にも入っていない俺は放課後の清掃を終えると同時に帰路につく。
帰宅早々、玄関を開けてリビングに向かった。
これは日課だ。
(*゚ー゚)「お兄ちゃん、おかえりー」
(,,゚Д゚)「ただいま、しぃ。今日の夕食はどうする?」
(*゚ー゚)「冷蔵庫にひき肉があるからハンバーグがいいな」
うちは両親共働きで、夕方から夜にかけては兄妹だけで過ごすことが多い。
そんなわけで、冷蔵庫の中身の確認と食材調達はしぃ、調理は俺、という分担がいつからか固定されたのだ。
しかし、しぃも五年生になったのだから、そろそろ料理を覚えさせてもいいかもしれない。
(,,゚Д゚)「しぃ、今日は一緒に作ろう」
(*゚ー゚)「えー……。宿題いっぱいあるのに」
しぃは頬を膨らませて抗議する。
妹とはいえ、可愛い。
しかしこれはしぃの為なのだから、引くわけにはいかない。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:37:24.62 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)「今は俺がいるからいいけど、いつか俺が家を出たらどうするんだ?」
(*゚ー゚)「お兄ちゃんについていくもん」
(;,゚Д゚)「あのなぁ……」
一人暮らしならいい、妹なら喜んで家に上げてやろう。
しかし、結婚したらどうするんだ。
(*゚ -゚)「お兄ちゃんは、しぃのこと嫌いなの?」
(,,゚Д゚)「……嫌いになんかなれねえよ」
(*^ー^)「やっぱりお兄ちゃんは優しいね」
飛び付いてくるしぃは若干欝陶しい。
それでも無下に出来ない兄心というのは実に面倒なものだと思う。
(,,゚Д゚)「……」
なんだかんだで、やっぱり俺はしぃのことが好きなのだ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:39:28.25 ID:iLJEv75C0
結局、夕食はいつも通りに俺が作った。
手作りハンバーグというのは手間がかかる分美味しいし、しぃも少しだけ手伝ってくれたのでよしとしよう。
(*^ー^)「やっぱりお兄ちゃんのハンバーグは最高だよ!」
しぃはいつもの倍の速さで夕食を平らげてゆく。
ご飯をいつもより多めによそったのが嘘のように、茶碗の中身は寂しいことになっていた。
(,,゚Д゚)「そういえば」
しぃが今日の学校での出来事を話し終えた会話の切れ目、俺は兄者達との会話を思い出していた。
(,,゚Д゚)「今度の土曜に、兄者達と神社に行くことになったんだ」
(*゚ー゚)「神社……荒巻神社?」
しぃはテレビに向けていた視線を俺に移して言った。
(,,゚Д゚)「ああ。あそこの祠の中身を暴こうってことになってな」
(*゚ー゚)「ふーん……」
さも興味ないというような返事。
普段のしぃはオカルトの類いが好きなはずで、この態度は俺が初めて目にするものだった。
(*゚ー゚)「絶対に見ちゃいけないんだって」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:41:26.26 ID:iLJEv75C0
そして、唐突に呟かれた言葉が、冷たく突き刺さった。
(*゚ー゚)「みんな言ってるよ。お兄ちゃんは、それでも破るの?」
(,,゚Д゚)「俺、は……」
(*゚ー゚)「しぃは、お兄ちゃんが死ぬのを見るのは嫌だよ」
しぃは決して俺と目を合わせない。
しかし、その言葉は俺を責めているようだった。
俺は、何かまずいことを言ってしまったのだろうか。
いや、しかし、荒巻神社の祠の中を暴くという話をしただけだ。
どういうことだ?
(*゚ー゚)「ごちそうさま」
(,,゚Д゚)「あ……」
(*゚ー゚)「食器は自分で片付けるよ。お風呂、沸かしてくるね」
しぃは立ち上がり、食器を抱えて台所へ向かった。
やはり、素っ気ない。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:43:26.41 ID:iLJEv75C0
しぃの態度の急変。
(,,゚Д゚)「まさか」
しぃがもし、あの祠の秘密を知っているとしたら。
それなら、あの態度にも筋が通るのかもしれない。
しかし、しぃをそこまで動揺させるものとは一体、何なのだろう。
例えば、呪いの道具?
例えば、誰かの死体?
例えば、未知の生物?
例えば、例えば……?
どれもしっくりこない。
しぃは意外と肝が座っているから、多少の事ではあそこまで露骨な態度はとらないだろう。
それに、万一犯罪絡みなら警察が介入しているだろうから、それもない。
なら、何なんだ?
(,,゚Д゚)「冷めてる……」
考えながら口に入れたハンバーグは既に冷め切っていた。
とにかく、今は目の前の食事を片付けよう。
考えるのは、それからでも遅くないはずだ。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:45:43.06 ID:iLJEv75C0
結局しぃは、翌日にはいつもの調子に戻った。
ならば、あれは何だったんだ。
気にはなる。しかし聞いてしまったら取り返しがつかなくなる気がするのだ。
今日は約束の土曜日、午前十時に神社の目の前の公園で待ち合わせをしたのだが、
兄者達は十分過ぎてもまだ来ない。
普段の俺も時間にまめな方ではないので強く言えないが、待たされるというのは気分の良いものではない。
(;´_ゝ`)「すまん、待ったか?」
(,,゚Д゚)「待ったぞ。帰ろうか迷うくらいにな」
兄者達が来たのはそれから二分後のことなので、帰るか迷ったというのは嘘だ。
だが待たされたのだから、このくらいの仕返しは許されるだろう。
(´<_` )「兄者が寝坊してな。俺は再三起こしたんだが、このざまだ」
(,,゚Д゚)「弟者は大変だな」
(´<_` )「本当にな。こんな兄を持ったばかりに苦労が絶えないぞ」
( ´_ゝ`)「そういうことはせめて俺のいないところで言って」
兄者と弟者のやり取りを見ていると安心する。
憎まれ口を叩くのも、何だかんだで仲が良いからこそなのだ。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:47:36.14 ID:iLJEv75C0
( ´_ゝ`)「よーし、行くか!」
兄者の声に俺達は頷いて、神社へ向かった。
鳥居をくぐり急な階段を登ってまず目に入るのは本殿だ。
古い由緒ある神社らしく、その建物は何とも言えない風格を漂わせている。
敷地に植えられた桜の木は淡いピンク色の花を散らしている。
(,,゚Д゚)「祠は裏手だっけか?」
痒い目を擦って言う。くしゃみはなんとかこらえた。
弟者はそんな俺を見てティッシュをくれた。
(´<_` )「……本当に、行くのか?」
(,,゚Д゚)「そりゃ、なぁ」
俺が鼻をかんで言うと、兄者も同調する。
( ´_ゝ`)「今更引き返すわけないだろ、ミステリーハンターの名にかけて!」
(´<_` )「初めて聞いたぞ、そんな肩書き」
弟者の態度はやっぱり煮え切らない。
それに何故か、しぃの姿が重なった。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:49:21.67 ID:iLJEv75C0
(*゚ー゚)『絶対に見ちゃいけないんだって』
(*゚ー゚)『みんな言ってるよ。お兄ちゃんは、それでも破るの?』
(*゚ー゚)『しぃは、お兄ちゃんが死ぬのを見るのは嫌だよ』
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:51:09.26 ID:iLJEv75C0
俺を咎めているようにも聞こえた。
やっぱり、しぃは何か知っているんじゃないだろうか。
なら、弟者も?
(´<_`;)「分かったよ。もう俺は止めない、行こう」
(*´_ゝ`)「流石、弟者! 話せば分かるな!」
しぃほど露骨ではない。
しかし違和感は拭えない。
( ´_ゝ`)「ほら、弟者も行くってよ」
(,,゚Д゚)「ああ……」
兄者は何も感じないのだろうか。
彼らは双子で、生まれてからずっと一緒に過ごしてきたはずなのに。
もう戻れない、そんな予感がした。
だが俺は兄者について行ってしまう。
前方には祠が見える。
すぐ後ろにはこの神社で一番大きな御神木が控えていて、あまり大きくないはずなのに威圧感を感じる。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:53:14.48 ID:iLJEv75C0
( ´_ゝ`)「ところで」
いち早く祠の扉に手をかけた兄者が言った。
( ´_ゝ`)「鍵、どうやって開けるんだ?」
(´<_` )「考えてなかったのか……?」
( ´_ゝ`)「いや、ここは弟者かギコがどうにかしてくれると……」
(´<_` )「甘いな」
俺は内心、安堵していた。
今の俺には祠の中を見る勇気はなかった。
強い好奇心はたしかにあるが、それよりも強い得体の知れない恐怖が胸を満たしていたのだ。
(,,゚Д゚)「開いてないなら、帰るか?」
( ´_ゝ`)「いや、実はまだ手はある」
兄者は元から細い目をさらに細めてニヤリと笑った。
( ´_ゝ`)「針金でこじ開けよう!」
どこから出したのか、兄者の右手には針金が握られていた。
何の変哲もない針金。
ピッキングでもするつもりか?
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:55:00.39 ID:iLJEv75C0
( ´_ゝ`)「何事も経験だ」
(,,゚Д゚)「犯罪だろ……」
(´<_` )「何を今更。そもそも今日は不法侵入するためにここに来たんだろ」
弟者の言うとおりだ。
俺達がしようとしていることは犯罪行為だ。
だから弟者は、否定的だったのか?
( ´_ゝ`)「よーし、では早速……」
「何しとるんじゃ、お前達!」
(;´_ゝ`)「!?」
兄者が針金を鍵穴に差し込もうとしたまさにその時、怒号が聞こえた。
背後からの声は聞き覚えがあった。
/ ,' 3「ここがどこか分かっておるのか?」
(;´_ゝ`)「げっ!」
(;,゚Д゚)「じ、じじい!」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:57:05.31 ID:iLJEv75C0
神主。荒巻神社の神主。
その男は昔からの顔馴染みだった。
そもそも神社の目の前には公園があり、学校からも近いそこは小学生の格好の遊び場となっていた。
小学生が集まれば当然うるさくなるわけで、この荒巻という老人は度々俺らのことを叱っていたのだ。
だから兄者があからさまに嫌そうな声を出し、俺が焦るのも無理はない。
(´<_` )「あー……すみません」
弟者は逃げられないことを悟ったのか、気持ちのこもらない謝罪を口にする。
/ ,' 3「お前ら、中学生にもなって恥ずかしくないのかの?
……こってり搾ってやるから、ついて来い」
(;´_ゝ`)「ちょっとしたお茶目じゃないですか……」
/ ,' 3「ふん! 母者を呼んでやるわい」
(;´_ゝ`)「そ、それだけはどうかご勘弁を……!」
じじいこと荒巻神社の神主が兄者の襟首を掴み上げる。
背も力も兄者の方が優れているはずなのに逆らえないのは、荒巻の持つ雰囲気のせいに違いない。
小学生の頃から恐ろしく見えた荒巻は、背を追い越した今でも恐ろしい。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:59:05.24 ID:iLJEv75C0
/ ,' 3「ギコの家は共働きだったな……。しぃちゃんを呼んでやろう」
(;,゚Д゚)「しぃ!?」
/ ,' 3「親がいないんだから仕方ないだろう。兄者達に比べたらありがたいと思っとれ」
しぃを呼ばれるのは気まずい。
普段なら申し訳ないと思って終わりだが今は、今だけは鬼のような母親を呼ばれるよりも居たたまれない。
しかし俺らの抵抗も虚しく、荒巻は母者としぃを呼び出してしまったのだ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:01:00.44 ID:iLJEv75C0
帰る頃にはすっかり昼を過ぎていた。
いつもより暖かい今日の日差しは眩しい上に、風が強いので花粉がよく飛んでいる。
気分は最悪だ。
(*゚ー゚)「お兄ちゃん、もう中学生なんだよ? 来年は受験生なんだよ?」
(,,゚Д゚)「分かってるよ……」
俺がしようとしたことを知っても、しぃは特別な反応を示さなかった。
それは嬉しいことのはずだが、賦に落ちない。
(*゚ー゚)「お兄ちゃんは」
しぃは一歩前へ出たかと思うと振り向いて言った。
(*゚ー゚)「お兄ちゃんは、ずっとしぃのお兄ちゃんでいてくれるよね?」
いつも通りの笑顔だった。
小学生らしい無邪気な笑顔だった。
しかし、口調はそうでない。
聞き分けの悪い子供に言い聞かせるようなものだった。
(*゚ー゚)「ねぇ」
どう答えるべきか悩む俺に、しぃが呼び掛ける。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:03:14.89 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)「……俺は、ずっとしぃの兄だ」
迷ったあげくに出た言葉。
しぃには、どう聞こえただろうか。
(*^ー^)「やっぱりお兄ちゃんは、しぃのお兄ちゃんだね」
俺の言葉に心がこもっていないことをしぃは知っているだろうか。
一生なんて、ずっとなんて、まだ中学生の俺には誓えないのだ。
それなのに、しぃは笑う。
その日の午後は、とても穏やかに過ぎていった。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:05:06.31 ID:iLJEv75C0
あれから二週間、平和な日常を過ごしていた俺の耳にあるニュースが入ってきた。
( ´_ゝ`)「荒巻神社の神主、死んだらしいぞ」
(´<_` )「急な発作だったらしいな。病院に着いた時には手遅れだったんだと」
( ´_ゝ`)「うるさいじじいだったけど、死んだと聞くと寂しいもんだよな」
(,,゚Д゚)「……そうだな」
あの神社のうるさい神主が死んだ。
小学生時代から馴染みのあった人だから泣くほどではないにしろ寂しいのは事実だ。
特に俺達は昔からイタズラをしてはよく荒巻に叱られていて、名前まで覚えられていた。
( ´_ゝ`)「墓参りくらい行くか?」
(,,゚Д゚)「彼岸くらいに?」
(´<_` )「おはぎくらい供えてやろう」
荒巻の葬式は家族葬だったらしい。
どちらにせよ俺達が呼ばれるわけはないが、その代わりに墓参りくらいは行ってやろう。
欝陶しいけど嫌いではなかったのだから。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:07:12.01 ID:iLJEv75C0
(´<_` )「……そういや、新しい神主が来たってな」
(,,゚Д゚)「新しい神主?」
( ´_ゝ`)「そんなこと言ってたな。荒巻の親戚の若い男だとか。
俺達はまだ会ったことはないけどな」
新しい神主は若い男、か。
荒巻は年を取っていたし頭の固い男だったが、新しい神主とやらはどんな男なんだろうか。
(,,゚Д゚)「今日の放課後、神社行かないか」
( ´_ゝ`)「あー……俺達はパスだ」
(´<_` )「春から塾に通い始めたって話したろ。なかなか自由な時間がないんだ」
(,,゚Д゚)「そっか、悪かったな」
先週くらいにそんな話をしていたのを今になって思い出す。
最近は学校の宿題が増えててんてこまいなのだと愚痴を聞かされたのだ。
(´<_` )「神主に会いに行くのか?」
(,,゚Д゚)「あのじじいの親戚だぞ。興味湧かないわけがない」
(´<_` )「それもそうだな」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:08:59.82 ID:iLJEv75C0
自分で言っていて、いつの間にか俺の中にはもうひとつの目的が出来始めていた。
( ´_ゝ`)「ギコずりいー。俺も塾さえなければ……」
(´<_` )「兄者の場合、学校の宿題も溜めがちだから無理だろ」
兄者達と最後に神社に行った日の目的。
あの祠の中身。
( ´_ゝ`)「ギコ、弟者が俺をいじめる!」
(´<_`;)「嘘を吐くな」
しぃは一体、何を知っている?
( ´_ゝ`)「ギコ? 俺の話聞いてるか?」
(´<_` )「ギコ、大丈夫か?」
(,,゚Д゚)「え?」
急に、弟者の顔が近付いてきた。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:11:14.21 ID:iLJEv75C0
(´<_` )「ぼーっとしてたみたいだが、具合でも悪いのか?」
(,,゚Д゚)「いや、そういうわけじゃ……」
ああ、俺が考え事をしていて二人の呼び掛けに気付かなかったのか。
だから弟者が心配してくれているのだ。
弟者は気の回る奴だから、俺を驚かせたこの動作も悪意はない。
(,,゚Д゚)「何でもないんだ、本当に」
(´<_` )「……そうか」
弟者の声に予鈴が重なった。
弟者の声は心配そうで、何も気にしていないふうな兄者の声とは対照的だ。
俺はそれに気付かないふりをして、一時間目の授業の準備を始めた。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:13:14.62 ID:iLJEv75C0
放課後、今週は掃除当番でもないため、帰りの会を終えた俺はすぐに教室を飛び出していた。
今日は六時間授業、しかし春になってからはこの時間もまだまだ明るい。
制服のまま一度家に帰ることもせず、神社に向かった。
(,,゚Д゚)「神主……祠……」
行き先は一つ、例の祠だ。
荒巻には見付かってしまったが、新しい神主には見付からないかもしれない。
行くべきではないだろう。
しかし巨大な好奇心が首をもたげ、俺に罪を犯させるのだ。
あの日と同じように神社の裏手に回り、祠の前に立つ。
仰々しい飾りがされた、一般的な車庫よりも小さいそこは、いかにも何かを隠していそうだ。
俺はあの日の兄者と同じように懐から針金を出して鍵穴に差し込む。
五分ほど、やみくもに針金を動かしていたら鍵が開いた。
(,,゚Д゚)「意外と簡単だったな」
荒巻があんなに怒るのだから中を見られたらまずいだろうに。
しかし俺はかまわずに扉に手を掛ける。
中に入ろうと扉を押しても開かない、と思ったら外開きの扉だった。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:15:14.51 ID:iLJEv75C0
扉の先は真っ暗だった。
入り口が閉まっていたら自分の体さえ見えないだろう。
仕方なく俺は扉は開けたままに内部を見渡した。
天井は低く、大人の男なら頭をぶつけそうな位置に梁が見えている。
ここに関しては特に変わったところは見受けられない。
三方向を囲む木製の壁にはそれぞれ一枚ずつ御札が貼られている。
何か文字が書かれているが達筆すぎて読めない。
読めない文字の上には赤で記号のようなものが描かれているが、こちらも意味は分からない。
そして、一番異様なのは足元だった。
木製の床の真ん中に、地下へ続く階段があるのだ。
(,,゚Д゚)「下りるか……」
この下に、何があるんだ?
この建物の中は埃もなく、毎日のように人が出入りしていることが分かった。
出入りしているのはたぶん神主だろうが、何の用事があってこんなところに?
入り口から差し込む光が途切れた地下で、俺はやっと階段から足を下ろした。
ここもやはり真っ暗だ。
(,,゚Д゚)「懐中電灯持ってくればよかったな」
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:17:16.76 ID:iLJEv75C0
しかし神主は毎日来るここに、わざわざ毎回懐中電灯なんか持ってくるだろうか。
壁についていた右手を慎重に動かしてみると、やっぱりあった。
それを押した瞬間、目の前が明るくなった。
天井に設置された電球が弱々しい光を放っている。
(,,゚Д゚)「……」
俺は声も出せなかった。
目の前の光景を認めたくなかった。
こんな異様な光景が現実にあるなんて、知らなかった。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:20:24.37 ID:iLJEv75C0
部屋中に置かれた大人くらいの大きさの藁人形達。
藁人形には半紙のようなものが貼られている。
(,,゚Д゚)「俺の……名前……?」
その中の一つに、俺の名前が書かれていた。
筆で、上手な字で。
その名前の上には赤でさっきの御札とは違う、だけどやっぱり意味の分からない記号が描かれていた。
(,,゚Д゚)「なん、なんだよ……」
思わず腰を抜かしてしまった。
ずるずると後ろに下がるが、そこで熱を感じた。
(;,゚Д゚)「ひっ!」
情けない声が自分のものだとは信じたくない。
恐怖を感じながらも振り返った先には袴姿の男が立っていた。
( ><)「見て、しまったんですね……」
男は悲しそうに言った。
そして、俺は自分のしたことの重大さを知った。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:21:32.75 ID:iLJEv75C0
俺は神社ではなく敷地内にある男の家に上げられていた。
男はビロードと名乗り、自分が荒巻神社の新しい神主であるということを教えてくれた。
(,,゚Д゚)「……あれは、何なんですか」
ビロードさんの出してくれたお茶を啜りながら聞いてみた。
お茶は少し苦かった。
(;><)「本当は教えてはいけない決まりなんです。
そもそもあそこに人が入るなんて戦後はなかったらしいし、どうすれば……」
ビロードさんは腕を組んで眉根を寄せる。
相当悩んでいるようだ。
(,,゚Д゚)「俺はどんな話をされても驚きません」
口から出任せの嘘だ。
さっきは恐怖に負けたが、今は一度は萎んだはずの好奇心が再び膨らみ始めていた。
(;><)「うーん……こういうのが、好奇心猫をも殺すって言うんでしょうね……」
なおもぶつぶつと何事かを呟きながら悩むビロードさん。
しかしその態度が余計に俺に興味を抱かせるのだ。
もう一度何か言おうか、そう思った時、ビロードさんが口を開いた。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:23:10.78 ID:iLJEv75C0
( ><)「この話は、ギコ君だからするんです。
そして、この話を聞いたらあなたは絶対に後悔します」
(,,゚Д゚)「それでも聞きたいんです」
膨らみ続ける好奇心には抗えない。
俺は答え、先を急がせた。
( ><)「では話します。あの藁人形は……」
一種の呪いなんです。
誰がいつ始めたのかは伝わっていませんが、大昔からこの神社であれは行われているんです。
つい最近、三日前だってやっぱりあれをする人がいました。
あれは、もしかしたら噂くらいは聞いたことがあるかもしれませんが、魂をつくるんです。
(,,゚Д゚)「魂を?」
ええ。魂を。
あの大きな藁人形が肉体を、そこに貼られた紙に書かれた文字と記号が魂を表しています。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:25:08.29 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)「それって、どういう……」
本来は、大切な人を亡くした人達の心を救うためのものでした。
死者を生き返らせることは出来なくても、死者によく似た別の存在を生み出すことは出来ました。
望む者の想いに応じて、それは形作られますから。
それから、真実を知るのは望んだ者とその場に居合わせた者だけなんです。
新たな存在は然るべき時からそこに存在したかのように人々の記憶を改竄します。
だから、普通なら本人にも分からないんですよ。
例外がないとは言いませんけどね。
そして、望んだ者が生を終えた時、望まれた者は最初から存在などしなかったかのように消えてしまうんです。
望んだ者が複数の場合は全員の寿命が終わるまでですが、最後が来るのは絶対です。
ビロードさんは神妙な面持ちで語った。
一通り話し終えて黙り込んでしまったが、もう分かっている。
俺は、俺の正体は。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:27:22.45 ID:iLJEv75C0
(,,゚Д゚)「ビロードさん、俺がこれを知ったらどうなるんですか?」
( ><)「特にどうとも。望んだ者の寿命まで普通の人間と同じように過ごすことになります」
(,,゚Д゚)「そう、か……」
しぃは知っていたのだろうか。
それともしぃが望んだのか。
( ><)「やっぱり聞かない方が良かったですよね」
ビロードさんは俺を気遣ってくれる。
人間じゃないつくりものの俺に人のように接してくれる。
それを言ったら荒巻もそうだったのかと、今になってあのじじいの優しさを知った。
(,,゚Д゚)「ビロードさんは悪くないですから」
俺は荷物を持って立ち上がった。
お茶はまだ余っているが、これ以上飲む気にはならなかった。
( ><)「帰るなら神社の外までですけど送りますよ」
ビロードさんと一緒に外へ出た。
いったい何時間話し込んでいたのか、空には既に星が浮かんでいる。
(,,゚Д゚)「しぃ、腹空かしてるかな……」
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:29:13.67 ID:iLJEv75C0
「そうだね。すごくお腹減ったよ」
境内の木の影、闇に紛れるようにしぃは立っていた。
(*゚ー゚)「やっぱりお兄ちゃんはしぃを裏切ったね」
(,,゚Д゚)「俺は……そんな、つもり……」
(;><)「しぃちゃん、そんなこと言ったら……」
ビロードさんが俺の後ろで何か言っている。
しかし今の俺の頭にはしぃの声しか入ってこない。
風が強いのに、とても静かだ。
(*゚ー゚)「お兄ちゃんはしぃを裏切った。
しぃはお兄ちゃんのこと好きだったのに。しぃはお兄ちゃんを裏切らなかったのに」
(*^ー^)「だからお兄ちゃんには、報いが必要だよね」
狂喜を湛えたしぃは神社の裏手に回る。
右手に一瞬、光るものが見えた気がする。
(;><)「ギコ君、彼女を追ってください! 彼女は……!」
右手にライターを持っていた。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:31:03.78 ID:iLJEv75C0
しぃに追い付いたのは祠の入り口だ。
俺の運動神経が良くて助かった。
(*゚ー゚)「放してよ。もうお兄ちゃんなんかいらないよ」
(,,゚Д゚)「しぃ、なんで……」
(*゚ー゚)「しぃは優しいお兄ちゃんが欲しかったの。でもお兄ちゃんは優しくないよ。
家事だって私にさせるし、将来は一人暮らししたいんでしょ」
(,,゚Д゚)「家事はお前のためを思って……! 一人暮らしだって、もしもの話だろ!」
しぃは俺に掴まれた左手を必死に振りほどこうとする。
しかし、小学生が中学生の力にかなうはずがないのだ。
(*゚ー゚)「もう言い訳はいらないよ。
どんなに取り繕ったって、お兄ちゃんがしぃを裏切った事実は変わらないんだから」
それは否定のしようがなかった。
俺はしぃの忠告を無視して祠の中を見てしまったのだから。
(*゚ー゚)「だから、ね」
しぃは抵抗を止めて俺を見上げた。
いつもの表情だった。
(*^ー^)「消えて」
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:33:28.80 ID:iLJEv75C0
着火された右手のライターが、投げられた。
(;><)「しぃちゃん! ギコ君!」
弧を描いたライターが祠の屋根に着地した瞬間、炎が広がった。
木造の建物だから火の手はあっという間に広がった。
(*^ー^)「さよならお兄ちゃん。しぃはやり直すよ」
(;><)「消防車、あ、携帯置いてきた!」
(,, Д )「しぃ……」
身体が熱い。
内側から焼かれるような感覚が身体を支配する。
声が出ない。喉が痛い。
(;><)「ギコ君、待っててください! すぐに助けますから!」
死ぬのか俺は。
いや、そもそも俺は存在しない人間なんだ。
しぃが言ったように、死ぬというより消えるという表現の方が正しいのかもしれない。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:35:02.48 ID:iLJEv75C0
兄者と弟者は、俺を忘れてしまう。
三人でばか騒ぎした毎日は楽しかった。
俺がいなくなったら、あの二人はどうなるんだ?
あいつら、俺以外に友達いたっけ?
ビロードさんは、今日会ったばっかりだけど、いい人だ。
俺のうまれた時のことは知らないらしいから、この人も俺を忘れる。
だけど、全てを話してくれたのは嬉しかった。
母さんと父さんはどうだろう。
しぃの口振りからだと両親は何も知らないのかもしれない。
だけどもし覚えていてくれるなら、やっぱり俺が存在した意味はあったのだろうか。
しぃは、忘れないよな?
(*゚ー゚)「……お兄ちゃん」
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:37:08.55 ID:iLJEv75C0
しぃに消されるのは腹立たしいというより、悲しい。
俺はダメな兄だったろうか。
しぃのことを、蔑ろにしていただろうか。
声が出ないから問うことは出来ないのが残念でならない。
(* ー )「お兄ちゃん」
どうして、そんな声を出すんだ。
これはお前の選んだ終わりだろう。
ああ、そんな目で俺を見るな。
そんな悲しそうな目で、俺を見るなよ。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:39:23.65 ID:iLJEv75C0
ギコはやっぱり失敗作だった。
両親が構ってくれず孤独な私は偶然、知ってしまった。
あの、人であって人でないものの存在を。
荒巻神社の神主の荒巻さんは優しい人で、すぐに私の孤独を理解してくれた。
そして、ギコがうまれた。
だけどギコは私より友達の方が大事らしかった。
中学生の兄をつくった私にも多少の責任はあるだろうけど、それにしても酷かった。
私の孤独は和らぎはしたが、癒えることはなかった。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:41:24.25 ID:iLJEv75C0
もう一度お兄ちゃんをつくるため、私は神社に来ていた。
隣を歩くのは兄者というギコの友人だった人だが、彼の方は私を知らない。
いや、ギコを通して知っていたが、忘れてしまった。
( ´_ゝ`)「やっぱりさ……弟が人間じゃない、つくりものだって知った時は、ショックだったさ」
彼の弟はあの日の火事で燃えたらしい。
罪悪感なんてこれっぽっちも湧かなかったけれど、同情はした。
( ´_ゝ`)「本当の弟者は生まれてすぐ死んだんだと。母者も父者も姉者も知ってた。
俺だけが、小さすぎて覚えていなかったんだ」
兄者さんはよほど弟者が好きだったのだろう。
そして弟者は、よほど周囲に愛されていたのだろう。
それはほんの少しだけ、羨ましかった。
( ´_ゝ`)「君の大切な人も、あの火事で?」
(*゚ー゚)「……そんなところです」
( ´_ゝ`)「ついてないよな。燃えたのは一部だけだったのに」
(*゚ー゚)「……そうですね」
私達はビロードさんに会いにいく。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:43:07.29 ID:iLJEv75C0
ビロードさんはすぐに私達の話を聞いてくれた。
先に兄者さんが儀式を頼んだが、私もそれに同席した。
兄者さんと弟者が帰ってから、私の番が来た。
( ><)「いいんですか?」
(*゚ー゚)「うん。二度目だもん。覚悟はいいよ」
( ><)「そうですか。なら、いきますよ」
新しい神主、ビロードさんもギコを覚えていない。
この世でギコを覚えているのは私だけなのだ。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:45:28.23 ID:iLJEv75C0
ビロードさんが長い呪文を唱え終えた。
私達は揃って祠を出る。
(*゚ー゚)「お兄ちゃん!」
( ,,^Д^)「しぃ」
(*^ー^)「早く帰ろ。今日の晩ご飯はハンバーグがいいな」
( ,,^Д^)「分かったよ。ご飯の前に買い物に行こうか」
(*^ー^)「うん!」
新しいお兄ちゃんはギコとは違う。
私を一番に考えて、私のために行動してくれる。
私の理想のお兄ちゃんなんだ!
( ><)「……荒巻さんも、酷い人ですね」
ビロードさんが何か言ったようだけれど、浮かれている私の耳には届かなかった。
- 77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:47:05.29 ID:iLJEv75C0
(*゚∀゚)「父さん」
ミ,,゚Д゚彡「なんだ、母さん」
(*゚∀゚)「最近のしぃ、どう思う?」
ミ,,゚Д゚彡「しぃなぁ……。タカラにべったりで、どうしようもないなぁ」
(*゚∀゚)「あたし達にはタカラがいるだろう。
だから、しぃには消えてもらってもいいんじゃないかと」
ミ,,゚Д゚彡「お前、まさか」
(*゚∀゚)「あたし達の老後はタカラに任せてさ。
もう子供は産めないけど、あの子がいればそれでいいだろう?」
ミ,,゚Д゚彡「……」
(*゚∀゚)「たった一人の本当の息子に、全てを注いでやりたいんだ」
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:50:12.77 ID:iLJEv75C0
『絶対に、見てはいけない』
どうして?
『まだ、幸せでいたいだろう?』
(,,゚Д゚)見てはいけないようです*おしまい
戻る