( ^ω^)は記憶喪失のようです

1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/08(日) 23:35:07 ID:zg9UJLes0

冷たい。

身体が冷たい。

風が体に吹きつけている。

冷たいのは風のせいかと思ったがそれだけではないようだ。
身体が、服が、濡れている。

「なんで……?」

僕は理由を考えるが、分からない。
明確な答えを探すような気力もない。

2 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:35:48 ID:zg9UJLes0

「……ン……ブ……!」

何かが、聞こえる。

「ブーン……ブーン……!」

誰かが、叫んでいる。

「ブーン、大丈夫か!」

ブーン……?
ブーン、っていうのは誰かの名前だろうか。

名前……名前?

あれっ?

3 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:36:36 ID:zg9UJLes0

(;´・ω・`)「ブーン! 目を覚ましたか!」

川;゚ -゚)「よ、よかった……!」

目を開けるとそこには二人の男女がいた。

ちょうどいい。
浮かんだ疑問を彼らに尋ねよう。

( ^ω^)「あの……」

(;´・ω・`)「どうした? 何処か苦しいところがあるか?」

心配そうに見つめる彼を正面にして、僕は言った。

4 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:37:21 ID:zg9UJLes0




( ^ω^)「僕は――誰だお?」

5 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:38:18 ID:zg9UJLes0
 
 
 
 
    ―― ( ^ω^)は記憶喪失のようです ――

6 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:38:59 ID:zg9UJLes0

記憶とは何だろうか?

脳の引き出しを開いて取り出すものが記憶だとしたら、それを開くための鍵は何処にあるのか?
僕は鍵を失くしてしまったのだろうか?

( ^ω^)(……)

僕、内藤ホライゾンは窓の外を見ながらそんなことを考えていた。

今は授業中だ。
本当は授業を聞かなければいけないのだが――。

( ^ω^)(授業を受ける意味はあるのかお?)

授業中に先生が僕に当てることはない。
今は3月でもうすぐ期末テストだが、僕は免除されている。

それらは僕が「記憶喪失」であるということが理由だ。

7 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:40:25 ID:zg9UJLes0

現在、記憶を失くしてから約3か月が経っている。
しかし、僕は何も思い出せてはいないのが現状だ。
記憶を失くす前の情報は他人から得るものが全てとなっている。

例えば、内藤ホライゾンというこの名前だって自分で思い出した情報ではない。
これが本当に自分の名前なのか実感はない。

( ^ω^)(まあ、名前が嘘ってことはないだろうけどね)

僕には両親がいて、戸籍もちゃんとある。
周りの人も僕の名前は内藤ホライゾンだって言っている。
これで名前が嘘だったら、周りの人全員が嘘をついていることになるし、流石にそれはないだろう。

そんな意味のないことを考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。

8 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:41:17 ID:zg9UJLes0

( ゚∀゚)「おい、ブーン!」

授業終了とともに呼びかけられる。
こいつは長岡ジョルジュ。
曰く、僕の大親友らしい。

ちなみにブーンとは僕のあだ名だ。

( ゚∀゚)「今日、釣り行かねえ?」

( ^ω^)「釣りかお。うーん……」

記憶を失くした僕だが、釣りは何故か上手い。
ジョルジュが言うには、「お前は昔から釣りが上手かったんだぜ」とのことだが、
記憶を失くしても技術的なことは体が覚えているということだろうか。

どうしようか悩んでいると違う方向から声がかかる。

9 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:42:22 ID:zg9UJLes0

(´・ω・`)「おいジョルジュ。もうすぐ期末テストだぞ。勉強しなくていいのか?」

( ゚∀゚)「なんだショボンか。お前も釣り行かねえ?」

(;´・ω・`)「あのなあ……お前、中間テスト成績悪かったんだから勉強しろよ……」

ジョルジュに対して小言を言っているのは諸本ショボンだ。
彼も僕の親友の一人らしい。
親友に対して、「らしい」と付けてばかりなのは非常に失礼であるが。

( ゚∀゚)「ちぇ。ったくブーンはいいよな。期末テスト受けなくていいし」

(;´・ω・`)「おいおい。そういうことを気軽に言うなよ」

( ^ω^)「いや別に気にしてないからいいお。まあ、僕も釣りに行くかお」

( ゚∀゚)「さっすがブーン! 話が分かるぜ!」

正直、記憶喪失のことはあまり深刻に思わないでほしいというのが本音だ。
その点、ジョルジュは軽い感じで触れてくれるから助かっていたりする。
当の本人は、そこまで深く考えて発言してないとは思うが。

10 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:43:37 ID:zg9UJLes0

(´・ω・`)「やれやれ。しかし、ブーンが記憶喪失になってからもう3か月か」

ジョルジュが少し記憶喪失のことに触れたからか、ショボンが不意に呟いた。

( ゚∀゚)「ブーンが浜辺で倒れてると聞いたときはびっくりしたぜ」

僕は3か月前、浜辺でびしょ濡れになって倒れてるところを発見された。
どうやら学校近くの崖から落ちて浜辺に流れ着いたらしい。
なんで崖からなんかにいたのかというと……その辺はみんなよく分からないようだ。
ブーンは海が好きだったから海を見るために行ったんじゃないか、というのがみんなの見解のようだ。

( ゚∀゚)「しかし、ショボンとクーがすぐに発見してくれてよか……」

川 ゚ -゚)「なんの話をしてるんだ」

会話を遮るように聞こえた声。
僕たち三人は一斉にそちらへ目を向けた。

11 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:45:00 ID:zg9UJLes0
(´・ω・`)「いや、ちょっとした昔話をね」

川 ゚ -゚)「昔話? もしかしてブーンの記憶喪失関連の話か?
     あまり本人の前で言ってやらない方がいいといっただろう」

声の主は素直クール。
通称、クーだ。
彼女は件の浜辺で僕を発見した人間のうちの一人である。

クーはクラスで委員長をやってるだけあって真面目な性格だ。
ショボンも真面目だと思うが、彼女の真面目さはさらに上を行くと思う。

12 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:45:59 ID:zg9UJLes0

川 ゚ -゚)「確かに記憶を取り戻すにはいろいろ話す方がいいかもしれんが、そう急ぐこともない」

( ゚∀゚)「別に記憶を取り戻してやろうと、焦っているわけじゃねえよ。
     そうだ。クーも釣り行くか?」

川 ゚ -゚)「アホか。試験前だぞ。勉強しろ」

( ゚∀゚)「お前もショボンと同じこと言いやがって……」

川 ゚ -゚)「当然だろ。勉強は学生の本分だ」

( ゚∀゚)「って言われてもなあ……。こんな全校生徒30人にも満たない学校じゃ張り合いがないんだよな
     どうせ、学年ではお前かショボンが毎回1位になるしよ」

(;´・ω・`)「勉強することと学校の規模は関係ないだろ……」

13 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:47:23 ID:zg9UJLes0

さっき、ジョルジュが触れたように僕たちの通っている高校は全校生徒26人という非常に小さな学校だ。
ちなみに、僕たちが住んでいるのは東京の外れにある小さな島。
島民の人数は300人程度しかいない。
ちょっとでも事件があれば一日で島民全員に情報が行き渡るぐらいの規模である。

( ゚∀゚)「しっかし、勉強勉強って……お前ら二人はいちいち気が合うよな。
     もう付き合っちゃえば?」

川;゚ -゚)「な、なにを言ってるんだ! わ、私は――」

( ^ω^)「ちょっともうその辺ぐらいでやめとけお。ジョルジュ、早く釣り行こうお」

( ゚∀゚)「ま、そうするか。じゃあな、ショボン、クー」

( ^ω^)「さようならだお」

(´・ω・`)「ああ、おつかれ」

川 ゚ -゚)「バイバイ、ブーンとその他」

(;゚∀゚)「俺、その他扱いかよ……」

そうして僕とジョルジュは海へ向かった。

14 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:48:27 ID:zg9UJLes0

 ※ ※ ※ ※

僕とジョルジュは海岸沿いにある岩場に来ていた。
ここはこの島でも有数の釣りスポットだ。
僕たち以外にもすでに何人かが釣りに興じていた。

( ゚∀゚)「よし、この辺にするか」

ジョルジュはそう言って岩場に座り、釣り針に餌を付け始めた。
僕も横に並んで座り、釣りの準備をする。
準備がほぼ同時に終わり、二人して海へと向かって釣り針を投げ入れる。

しばらくすると、ジョルジュが突然質問を投げかけてきた。

( ゚∀゚)「なあなあ、お前って本当に何も思い出せてないの?」

( ^ω^)「うん。何も思い出せてないお。
     過去のことは綺麗に忘れちゃってるお」

15 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:49:17 ID:zg9UJLes0

( ゚∀゚)「そうか……」

ジョルジュは何か考えるように俯いている。

( ゚∀゚)「クーはああ言ってたけどさ、俺は早く記憶を取り戻したほうがいいと思うんだよ。
     だってさ、自分のことが何も分からないってもやもやするだろ?」

( ^ω^)「確かにそれはそうだお。自分のことが分からないのはすっきりしないお。
     でも、みんなには僕の記憶について深刻には考えてほしくないお。
     別に今の生活にそれほど支障があるわけでもないし」

ふーん、と彼が呟き、会話が途切れる。
何か気まずい雰囲気になってしまった。

16 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:50:25 ID:zg9UJLes0

( ゚∀゚)「そういえばさ」

僕が新たな会話の糸口を探していると、ジョルジュが再び話し出した。

( ゚∀゚)「今更だけどお前って口癖は変わってないのな」

( ^ω^)「おっ? 口癖?」

( ゚∀゚)「いや、その『お』ってやつだよ。語尾につけてるだろ?」

( ^ω^)「ああ……。あんまり気にしてなかったんだけど、これって以前もそうだったのかお?」

( ゚∀゚)「そうだぜ。いつも『おっお、おっお』言ってた」

(;^ω^)「いや、そこまで連呼はしてないと思うお」

17 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:51:58 ID:zg9UJLes0

( ゚∀゚)「ははっ。でも、『お』って付いてるとブーンはやっぱりブーンなんだと認識できるからいいと思うぜ、その口癖」

僕が僕として認識できる?
なるほど。
そう考えるとこの口癖も捨てたもんじゃないか。

( ^ω^)「……なんか少し自分を取り戻せた気がするお。ありがとう、ジョルジュ」

僕は素直に感謝の弁を述べる。

(;゚∀゚)「えっ、ああ。どういたしまして……」

そう言って笑うジョルジュはどことなく照れているようだった。
そんな彼を見て僕も笑った。

18 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:52:45 ID:zg9UJLes0

 ※ ※ ※ ※

しばらくお互い無言になって釣りに集中していたが、ジョルジュは全然釣れる気配がないようで飽きてきたらしい。
「つまんねー。もう帰るわ」と言い出したので、僕も帰ることにした。
ちなみに僕の釣果は3匹だった。

( ^ω^)「ただいまー」

家に辿り着いた僕は、玄関のドアを開けて声をかける。

J( 'ー`)し「おかえり」

そう言って出迎えたのは、僕の母親、内藤カーチャンだ。
専業主婦であり、普段はだいたい家にいる。

( ^ω^)「はい、今日釣れた魚だお」

J( 'ー')し「あらあら、夕飯のお買い物してなかったからちょうどよかったわ」

( ^ω^)「それはよかったお。存分に腕を振るってくれお」

母親に魚を渡し、部屋に戻った。

19 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:53:32 ID:zg9UJLes0

部屋に戻ったのはいいが、特にやることがなく暇だ。
漫画でも読もうかと思ったが、何故かそんな気にはならない。

( ^ω^)「そうだ、忘れてた。いつものやつをやっとくお」

僕は携帯電話を開く。
この島でも意外と携帯電話を持ってる人は多く、僕も例に倣って使っている。
母親が言うには高校に入った時に入学祝に買ってもらったものらしい。

僕はデータフォルダを開き、その中にあるユーザーフォルダの項目を押す。
4桁の暗証番号を入れてくださいという画面が出てくる。

20 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:56:15 ID:zg9UJLes0

( ^ω^)「今日は3月4日だから、0304っと」

「暗証番号が間違っています」というメッセージが出てきた。
僕は次に適当な4桁の数字を入力していく。
しかし、何回やっても出てくるメッセージは一緒だ。

( ^ω^)「うーん、やっぱり開かないお」

これが僕の日課であり、暇つぶしにもなっていることだ。
このフォルダにはロックがかかっていて、開けるには暗証番号が必要なわけだが、
その暗証番号は当然ながら忘れてしまっている。

だから、僕は暇なときには暗証番号の解読を試みている。
本当は0000から9999まで試せたらいいのだが、
それはさすがに面倒くさいし、そこまでして開けようとも思っていない。

なんかちょっと気になるなという程度で、適当に暗証番号を打ち込んでいる。

21 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:58:55 ID:zg9UJLes0

( ^ω^)「今日はこの辺でいいか……」

さらに数回打ち込んだところで飽きてきた。
僕は今日打ち込んだ暗証番号をノートにメモしていく。

( ^ω^)「しかし、まだまだ先は長いお」

適当に打ち込んだ数字が偶然当たってくれれば助かるのだが、そううまくはいかない。
なんだかんだで500パターンぐらいは試しているのだが、未だに正解を当ててはいなかった。

携帯電話を布団に放り投げて、少しの間考えていた。
自分のこと。家族のこと。みんなのこと。
やはり、思い出せない。

J( 'ー')し「ご飯できたわよー」

母親に呼ばれ、僕は考えるのをやめて居間に向かった。

22 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/08(日) 23:59:35 ID:zg9UJLes0

 ※ ※ ※ ※

今日も退屈な授業が終わった。

昨日は夕飯を食べすぎたせいか、お風呂に入るとすぐに寝てしまった。
そのおかげで結構な睡眠をとることができたのだが、やはり授業中は眠かった。

授業が終わっても自分の席に座ってる僕を見て、ジョルジュが声をかけてきた。

( ゚∀゚)「おーい。ブーン今日って暇?」

( ^ω^)「暇だけど……今日も釣りかお?」

( ゚∀゚)「いやいや、今日はバドミントンだ」

( ^ω^)「バドミントン? なんで急に……」

川 ゚ -゚)「お前は今日もブーンと遊ぶつもりか」

23 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/09(月) 00:01:23 ID:sm1jttew0

声の方へ振り向く。
そこにはクー、そしてショボンがいた。

川 ゚ -゚)「またお前はブーンを連れまわすのか」

( ゚∀゚)「いいじゃんよー。どうせ明日は学校休みなんだしさ。
     勉強のことだったら明日するって」

あっけらかんと言うジョルジュ。
しかし、クーの方は疑いの目で見ていた。

(´・ω・`)「今日から勉強しろよ、っていうのは置いておいて、なんでバドミントンなんだい?」

( ゚∀゚)「昔よくやってたじゃんか、バドミントン。久しぶりにやりたくなったんだよ」

( ^ω^)「そうなのかお?」

24 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/09(月) 00:02:10 ID:sm1jttew0

( ゚∀゚)「ああ。ダブルスでバドミントンやったりしてたんだぜ。
     ちなみにお前はめちゃめちゃ上手かった」

(´・ω・`)「ブーンは運動はそつなくこなせるタイプだったからね。
     そういえば、ちゃんと審判を立ててやったりしてたなあ」

ショボンは懐かしむように天井を見上げる。
僕はそんなに運動が得意だったのだろうか?
それは正直疑問だが、また別の疑問も浮かんできた。

( ^ω^)「4人で遊んでたんだったら審判はどうしてたんだお?」

25 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/09(月) 00:02:54 ID:sm1jttew0

その瞬間、空気が凍りついたような気がした。
あくまで主観なのだが、みんなが狼狽えているようだった。

川;゚ -゚)「……」

(;´・ω・`)「えーっと、それは暇な友達に頼んでたんだよ。あとは後輩とか……」

(;゚∀゚)「そうそう、後輩にヒートとかデレとかいるじゃん? あの辺かな、基本的には」

明らかに嘘をついているように見える。
しかし、ここでそれは嘘だろうと追及する気にはなれなかった。
嘘をついている証拠なんてないし、なによりも彼らを信じたかった。

26 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/09(月) 00:03:41 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「そうか、分かったお」

思わずそう呟いていた。
何も分かってはいないのに呟いていた。

みんな押し黙っている。
僕は何か地雷を踏んでしまったのだろうか。

( ^ω^)「とりあえず今日はバドミントンはやめておくお。また誘ってくれお」

僕はそう言って、教室を出た。

28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:07:44 ID:sm1jttew0

 ※ ※ ※ ※

( ゚∀゚)「これはそろそろやばいんじゃねーか?」

(´・ω・`)「……かもね」

( ゚∀゚)「あいつは俺らを信じてる。だから、さっき何も追及してこなかったんだ。
     そんなあいつの信頼を俺らは裏切っている。」

川 ゚ -゚)「……」

( ゚∀゚)「あいつにはもうそろそろ『真実』を告げるべきだと思うんだ」

29 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2012/04/09(月) 00:08:25 ID:sm1jttew0

川 ゚ -゚)「でも、ブーンはまた壊れてしまうかもしれないぞ?」

( ゚∀゚)「……」

(´・ω・`)「ジョルジュ、君はブーンの心の強さを信じたいのかもしれないけど、人の心は思う以上に脆い。
      これは慎重に進めなければいけない問題なんだ」

( ゚∀゚)「分かってる、分かってるんだが……くそっ」

(´・ω・`)「この話は一旦終わりにしよう。
      僕とクーは先生に用事を頼まれてて職員室に行かなければいけないんだ」

( ゚∀゚)「分かった……。俺は帰るぜ。じゃあな」

(´・ω・`)「ああ」
川 ゚ -゚)「さようなら」

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:09:07 ID:sm1jttew0

 ※ ※ ※ ※

何か今日は酷く疲れた。
足取りが重い。
それでもなんとか家まで辿り着いた。

( ^ω^)「ただいまー」

と玄関のドアを開けて家に入るが、挨拶は返ってこない。

( ^ω^)「留守なのかお? ドアにちゃんと鍵をかけとけお……」

不用心な両親に愚痴をこぼしつつ居間に向かう。
中に入ると、テーブルの上にメモが置いてあった。

『今日はお父さんとお母さんは町内会があるので夜遅くまで帰ってきません。
 ご飯は冷蔵庫に入れてあるので、温めて食べててね』

( ^ω^)「ったく。朝のうちに言っとけお」

独りごちて、椅子に座る。

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:10:33 ID:sm1jttew0

天井を見上げる。
今日のみんなの反応を思い返す

信じていてもやはり疑ってしまう。
みんなは僕に嘘をついているのだろうか?
考えるほど嫌になる。

( ^ω^)「はあ……。気分転換に暗証番号解読といくかお……」

僕はいつもと同じように携帯電話を開き、暗証番号の入力画面まで辿り着く。

32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:12:21 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「今日は3月5日か。0305っと」

とりあえず今日の日付を入れてみる。
入力しながら次の番号はどうしようかと考えていた。
4桁の番号を入力し終えてボタンを押すとフォルダが開いた。

( ^ω^)「えっ?」

そう。次の画面が開いたのだ。
開くとは全く思ってなかった僕は、喜ぶというよりは驚いていた。

(;^ω^)「ど、どうするお。とりあえず中身を見てみるかお」

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:13:15 ID:sm1jttew0

僕は画面を覗き込む。
そこに映っていたのは――。

( ^ω^)「写真?」

フォルダの中にあったのは写真だった。
おそらくこの携帯で撮ったであろう写真が大量にあった。
そして、そこに映っている被写体は全て二人の人間で構成されていた。

一人は――僕だ。
この携帯の持ち主は僕なので、特におかしなことではないだろう。

もう一人は――。

34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:13:59 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「……誰だお?」

僕は画面に顔を近づけてみる。


   ξ゚听)ξ


そこに映っていたのは女の子だった。
背が低くて童顔な女の子。
正直、かなり可愛い。

しかし、彼女が誰なのかが全く思い出せない。
記憶喪失なのが恨めしい。

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:16:10 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「みんなに聞いたら誰か分かるかお?」

そう思って、まずジョルジュに電話をかけてみる。
さっきあんなことがあったところだが、そうも言ってられない。
この女の子の正体が気になってしょうがないのだ

しかし――。

(;^ω^)「出ないお……」

諦めた僕は、次にショボンへと電話をかける。

(´・ω・`)『はい、もしもし』

( ^ω^)「ショボン、聞きたいことがあるんだけどいいかお?」

(´・ω・`)『えっ? まあいいけど……』

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:16:59 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「ちょっと見てほしい写真があるんだお。女の子が写ってるんだけど誰か分からないんだお」

(;´・ω・`)『女の子?』

( ^ω^)「そうだお。背が低くて巻き髪でツインテールの女の子なんだけど……」

(;´・ω・`)『……』

( ^ω^)「……どうしたんだお?」

(´・ω・`)『……その女の子のことだったら多分知ってるよ。
      話すと長くなりそうだから、ちょっと学校まで――僕たちの教室まで来てくれないか?』

(;^ω^)「ああ、分かったお」

(´・ω・')『じゃあね、待ってるよ』

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:17:43 ID:sm1jttew0

ショボンはそう告げて電話を切った。
わざわざ学校で話さなければいけないことなのかと疑問に思ったが――。

( ^ω^)(行ってみるしかないお……!)

僕は急いで学校へ向かった。


 ※ ※ ※ ※

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「今のブーンからの電話か?」

(´・ω・`)「ああ」

川 ゚ -゚)「何か用事だったのか?」

(´・ω・`)「写真に映っている女の子が誰か教えてほしいらしい。
      女の子の特徴は『背が低くて巻き髪でツインテール』だそうだ」

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:18:44 ID:sm1jttew0

川;゚ -゚)「それって……」

(´・ω・`)「十中八九、ツンのことだろう」

川;゚ -゚)「ブーンに教えたのか!?」

(´・ω・`)「いやまだだ。ブーンにはこっちに来るように言っただけだ」

川;゚ -゚)「……そうか」

(´・ω・`)「ジョルジュが言ってたようにもう限界だったんだ。
      嘘は、隠し通せないからこそ嘘なんだ」

川;゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「ジョルジュにも教室に来るように電話しておこう」

川 ゚ -゚)「……」

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「どうした?」

(;´・ω・`)「いや、あいつ電話に出ないんだ。この肝心な時に――。とりあえずメールしとくか」

川 ゚ -゚)「……」

40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:21:09 ID:sm1jttew0

 ※ ※ ※ ※

(;^ω^)「はあはあ……」

僕は全速力で走って、学校に到着した。
何かが僕を全力で突き動かしていた。
息が上がって、苦しい。

(;^ω^)「とにかく教室へ行くお」

確かめなければいけない。
あの女の子は誰なのか。
そして、僕の予想が正しければ、彼女は僕の記憶喪失に関係する、ような気がする。

階段を一段飛ばしで駆け上がる。
前傾姿勢を保って全力で駆け上がる。
そうして上がりきったその先、教室の前にはショボンとクーがいた。

41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:21:55 ID:sm1jttew0

(´・ω・`)「早かったね」

川 ゚ -゚)「……」

二人は静かにそこに立っていた。
その表情は何かを覚悟しているように感じる。

僕は二人の正面に立って尋ねる。

( ^ω^)「さっそくだけど教えてもらうお。写真の女の子が誰なのか」

42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:24:02 ID:sm1jttew0

(´・ω・`)「まあ落ち着いて、ブーン。僕たちはまだその写真を見てないんだ。
      ちゃんと見ないと本当に僕の思ってる人かどうか判断できない」

( ^ω^)「分かったお。これがその写真だお」

僕は携帯の画面を彼らに向ける。
画面を見た瞬間に、彼らの顔が曇ったのが見て取れた。

(´・ω・`)「なるほど。この女の子、確かに僕らは知っている。
      ちなみにこの写真はこの携帯に入っていたんだよね?」

( ^ω^)「そうだお。暗証番号でロックのかかってるフォルダに入ってたんだお。
      たまたま今日の日付の『0305』を入れたら開いたんだお」

(´・ω・`)「……そうか。誕生日か」

ショボンが何か呟いたようだが、声が小さく聞き取れなかった。

43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:25:25 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「で……一体誰なんだお?」

ショボンはふうっと一つ息を吐く。

(´・ω・`)「彼女の名前はツン。この学校の生徒で、僕たちの後輩だ。
      そして、僕たちとよく遊んでいた友達でもあった」

( ^ω^)「ツン……?」

ツン。

ツン。

分からない。
名前を聞いても何も思い出せない。
僕の記憶はもう腐り落ちてしまったのだろうか。

(´・ω・`)「ツンっていうのは正確には彼女のあだ名だ。本名は――」

川 ゚ -゚)「そんなことはどうでもいいだろう」

44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:27:06 ID:sm1jttew0

今まで黙ったままだったクーがいきなり話に割り込んでくる。
そして、彼女は話を続ける。

川 ゚ -゚)「端的に言おう。彼女はもう死んでいる。この世にはいない」

(;^ω^)「死んでいる……?」

川 ゚ -゚)「そう、彼女は事故で崖から落ちて死んだ。
     ブーンが記憶喪失になった原因でもある、あの崖からな」

僕と彼女――ツンが同じ崖から落ちた。
それが意味するところはどういう……?

45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:29:16 ID:sm1jttew0

川 ゚ -゚)「以前に『ブーンは海を見に行って崖から落ちた』と私たちは言ったな?
     しかし、それは違う」

(;^ω^)「えっ?」

川 ゚ -゚)「ブーン、君は自殺したんだよ。彼女の後を追いかけてな」

自殺。

僕は自分で崖から飛び降りたというのか。
いや、でもそれは――。

(;^ω^)「ちょ、ちょっと待つお。僕が彼女の後を追いかけて自殺した?
     自殺に至った理由は何なんだお?」

川 ゚ -゚)「それはな――」

47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:30:05 ID:sm1jttew0

川 ゚ -゚)「彼女が君の『妹』だったからだよ」

(;^ω^)「なっ――!!」

(;´・ω・`)「お、おいっ!」

妹? 僕に妹がいた?
隣でショボンが何故か狼狽えている。
でも、そんなことが気にならないくらい彼女の言葉は衝撃的だった。

川 ゚ -゚)「ツンが死んだとき、君は酷く悲しんだ。
     何日も家に閉じこもり、そして最終的には自殺してしまった」

川 ゚ -゚)「結果的に君は助かったが、記憶喪失になってしまった。
     そこで私たちは――。いや違うな。正確にはこの町の住人全員だ。
     私たちは町ぐるみで嘘をつくことにしたんだ」

(;^ω^)「嘘って、まさか――」

48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:32:06 ID:sm1jttew0

川 ゚ -゚)「そうだ。ツンという存在をこの町から消し去った。
     彼女に繋がりそうな写真から何から全部捨ててな」

(;^ω^)「……なんでそこまで?」

川 ゚ -゚)「なんで? それは君の為に決まってるだろう!
     ツンのことを思い出してしまえば君はまた自殺しようとする。
     私たちはそれを恐れたんだ。」

(  ω )「……」

僕には妹がいて、妹が死んで、僕は自殺した。
そして、この町の住民はそのことに関して嘘をついていた。

分かっている。
これは僕の為についた嘘だ。
僕が死ぬことがないようについた嘘。

分かっているんだ、それは。

だけど――。

49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:33:13 ID:sm1jttew0

川 ゚ -゚)「これは仕方なかったんだ。誰もが君を想って……」

(  ω )「……から……お……」

川 ゚ -゚)「えっ?」

(# ^ω^)「……分からないお!」

川;゚ -゚)「!?」
(;´・ω・`)「おい待て、ブーン!」

僕は駆け出した。
色々な情報が一気に脳に入り込んできてパンクしそうだった。
今までに出したことのないようなスピードで階段を駆け下りる。

50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:34:29 ID:sm1jttew0

(  ω )「はあっ……はあっ……!」

確かにみんながついた嘘は僕の為だったのかもしれない。

でも、妹はどうなるんだ?
この世に生きた証を全て消され、存在を失った妹は?
彼らは妹の存在を消して何も思わなかったのか。

そして何より――妹の存在を忘れてのうのうと生きていた自分にも腹が立った。

(;゚∀゚)「お、おい! どうしたブーン!?」

校庭まで出てきたとき誰かに声をかけられたが、無視して走り続ける。

( ;ω;)「ひっ……うぐっ……」

何故か涙が出てきた。
もう何も分からない――真実も、嘘も、記憶も。

( ;ω;)「はあっ……ぐっ……!」

このまま僕は何処まで走り続けるのだろうか……。

51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:35:11 ID:sm1jttew0

 ※ ※ ※ ※

川 ゚ -゚)「……」

(#´・ω・')「おい! クー!」

川 ゚ -゚)「どうした、ショボン?」

(#´・ω・')「どうしたじゃないだろう! なんであんなことを言ったんだ!」

川 ゚ -゚)「……」

(#´・ω・')「おい! 答えろ!」

(;゚∀゚)「ショボン、クー! ブーンが凄いスピードで走っていったんだがどうしたんだ!?」

(#´・ω・')「……」

川 ゚ -゚)「……」

(;゚∀゚)「いったい……どうしたんだ?」

52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:36:24 ID:sm1jttew0

(#´・ω・')「ブーンにツンのことを話した。僕たちがしてきたことも全部」

(;゚∀゚)「……! それであいつは走り出していったのか?!」

(#´・ω・')「それは、まあその通りだ。今まで僕たちは嘘をつき続けていたんだからな。
       あいつの為とはいえ、嘘をついていたんだから非難されても仕方がない」

(;゚∀゚)「それじゃあなんでお前はそんなに怒ってるんだ?」

(#´・ω・')「こいつが! クーが! とんでもない嘘をつきやがったからだ!!」

(;゚∀゚)「クー、お前何言いやがったんだ?」

川 ゚ -゚)「私はブーンにこう言っただけだ。ツンは君の『妹』だ、とな」

(;゚∀゚)「!!」

川 ゚ -゚)「だって仕方ないだろう? 本当のことを言えばブーンは記憶を取り戻してしまうかもしれない。
     そうしたらまた壊れてしまうじゃないか」

(;゚∀゚)「お前……!」

53 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:38:15 ID:sm1jttew0

川 ゚ -゚)「あの場面で上手く取り繕うにはこうするしかなかったんだ。
     大丈夫だ。ブーンの両親やその他の町の人にはすぐに伝えておくよ。
     幸い今日は町内会だからすぐに伝わ――」

(#´・ω・')「違うだろ……。お前はブーンの為に嘘をついたんじゃない。
      自分の為に嘘をついたんだ!」

川 ゚ -゚)「……」

(#´・ω・')「お前はブーンのことが好きだった。
      このままツンのことを思い出したら、ブーンの心は一生ツンで囚われてしまう。
      だから――。」

(#´・ω・')「だから、ツンがブーンの『恋人』だったという事実を隠したんだ!」

川 ゚ -゚)「……」

(;゚∀゚)「おい、マジなのか……?」

川  - )「……」

(;゚∀゚)「クー?」

54 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:39:55 ID:sm1jttew0

川  - )「…くくっ…」

川 ゚∀゚)「あはははっはははっはははははは!!!!!」

(;゚∀゚)「!」
(;´・ω・`)「!」

川 ゚∀゚)「そうだ、そうだよ! 私はブーンのことが好きだった!
      だから自分の為に嘘をついたんだ!!」
      
(;゚∀゚)「……」

川 ゚∀゚)「だって仕方ないだろう? そうしなければブーンがツン以外の人を好きになることは一生ない。
      私の入る余地なんてどこにもないんだ!
      私はこんなにもブーンのことが好きだっていうのに!!」

(;゚∀゚)「で、でも、こんな嘘をつくのは絶対に間違ってるって」

川 ゚∀゚)「今更、何を言ってるんだ。今までだって散々嘘をついてきただろう。
      嘘をつくのに正しいも間違ってるもないんだよ!」

55 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:42:56 ID:sm1jttew0

川 ゚∀゚)「ショボン、君は嘘は隠し通せないからこそ嘘なんだと言ったな。
      違うな。嘘は隠し通せることもあるんだよ。嘘の上に嘘を塗り重ねることでな。
      いいじゃないかこれで! ブーンはこれで死のうと思うこともない!
      ハッピーエンドじゃないか!」

(;´・ω・')「おかしい……君はおかしいよ……」

川 ;∀;)「おかしくなんてない!
       この感情が、ブーンのことを好きだっていう気持ちがおかしいわけないんだ!」

(;´・ω・')「クー……」

川 ;∀;)「あはは! あはは……ひぐっ……うえっ……」

(;゚∀゚)「……」

(;゚∀゚)(ブーンは本当にこれで死ぬことはないんだろうか……?)

56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:43:44 ID:sm1jttew0

 ※ ※ ※ ※

冷たい。

身体が冷たい。

風が体に吹きつけている。

陽はそのほとんどが海に沈み、辺りは暗くなってきている。
3月だというのにこの時間になるとまだまだ寒い。

( ^ω^)「……」

海を見つめていた。
僕が、そして彼女が落ちた崖の上から。

57 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:45:09 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「僕は……」

僕は立ち上がって崖の下を見る。

( ^ω^)「僕は……死ぬ気にはなれないお」

これが僕の偽らざる本音だった。

妹のことを思い出せないまま死ぬわけにはいかないし、
何より思い出せないから死のうという感情も湧いてこない。

( ^ω^)「妹を忘れるなんて、なんて薄情な兄なんだおね」

僕は自嘲気味に笑う。

58 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:46:08 ID:sm1jttew0

( ^ω^)「……」

携帯を開いてツンの写真を画面に映す。
そこには僕と一緒に笑顔を浮かべている彼女の姿があった。

( ^ω^)「可愛いおね……」

ふと僕は妹のことを好きだったんじゃないか、と思った。
家族としてじゃない、きっと一人の女の子として愛していたんじゃないだろうか、と。
だって、写真を見るたびに愛おしい気持ちになるから。

59 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/04/09(月) 00:47:19 ID:sm1jttew0

身体に吹き付ける風はまだ冷たい。
まだまだ冬の気候が続き、当分は暖かくならないだろう。
でも――。

( ^ω^)「ツン……」

もう出会うことのない彼女。
記憶の奥底に沈んだままの彼女。

写真の中の彼女を見ていると、何故か――温かかった。




 ― fin ―


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