- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 13:55:21.00 ID:aCFiFEkz0
月も出て居ない真夜中、路地裏を照らすのはその役目を終えようとしている街灯だけだ。
点滅する光の中で、二人の男が向き合っていた。
( ´ ゝ`)「そこをどいてもらえないだろうか」
( ^ω^)「それはできないお」
片方の男は夜とはいえ、まだ暑いというのに長袖のジャンバーを着ており、口元はマスクで覆われていた。
そんな男の歩みを阻むのは、黒い服に身を包んだ男だ。
( ^ω^)「ボクの職業がわかるかお?」
( ´ ゝ`)「さあ。こんな暗い夜道を、そんな黒い服で歩くような男の職業なんてわからないな」
( ^ω^)「キミ達ならよーく知ってるはずだお」
( ´ ゝ`)「ああ、首から十字架がかかってるな。綺麗な銀色だ。
もしかすると、神父か何か? でも残念ながらオレには祈りを捧げる神はいないよ」
マスクをした男はゆっくりと後ろへ下がっていく。
黒い服の男はそれにあわせて前へ進んでいく。
このまま進んでいけば、大通りに出るだろう。
( ^ω^)「キミ、吸血鬼だお?」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:02:42.15 ID:aCFiFEkz0
( ´ ゝ`)「吸血鬼とかwww」
男は腹を抱えて笑う。
( ´ ゝ`)「そんな子供だましのファンタジーだろ? おっさん、頭大丈夫か?」
( ^ω^)「無駄なあがきはやめるお」
黒い服の男が首からぶら下がっていた十字架を握る。
手の中に収まった十字架は淡い光を発する。幻想的ともいえる銀の光は男の手の中で一本の剣になった。
銀色の刀身が美しい剣だった。男はその切先をマスクの男へと向ける。
( ^ω^)「吸血鬼の体は冷たいお。吸血鬼になりたてだと、その冷たさに自分までもが凍えるお。
鋭い牙はマスクで隠し、鋭い爪は皮の手袋で隠す。
お前の姿そのものだお」
( ´ ゝ`)「冗談だろ? 長袖を着てるのは肌が弱いからだし、マスクをしてるのは風邪気味だからだ。
手袋はちょっとしたオシャレ。な? おかしくないだろ?」
だからそんな恐ろしいものは捨ててくれと言う。
( ^ω^)「何でキミはこれを見ても驚かないのかお?」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:06:57.54 ID:aCFiFEkz0
( ^ω^)「十字架が光ったり、剣が出てきたり。普通の人間なら驚くお」
( ´ ゝ`)「あー。そりゃアレだ。びっくりしすぎたんだ。
確かに変だな。おい、その剣はいったいなんだよ」
( ^ω^)「……茶番はもういいお」
銀色の刀身が男の体を裂こうと振り降ろされる。
間一髪のところでそれを避けることができたものの、マスクに切先がかすり、それは意味をなさなくなってしまった。
( ^ω^)「ほら、牙があるお」
( ´_ゝ`)「……血を吸うためのな」
マスクを失った男は手袋をとり、道端へ捨てる。
そこには指摘通りの鋭い爪があった。
肉食動物を思わせるそれは男へと向けられている。
( ´_ゝ`)「あんた、ハンターか」
( ^ω^)「ようやく正解がでたお」
( ´_ゝ`)「見逃してくれよ」
( ^ω^)「だが断る」
( ´_ゝ`)「ですよねー」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:13:41.18 ID:aCFiFEkz0
ケラケラと笑う吸血鬼の胸へ向かって剣が突き出される。
( ´_ゝ`)「危ないな」
剣は胸をすりぬけていた。
( ^ω^)「霧化かお」
胸の場所だけぽっかりと穴の空いた吸血鬼の体を見る。
自身の冷たさに凍えているようでは、まだ霧化などできないだろうと甘く見ていた。
( ^ω^)「じゃあ本気を出させてもらうお」
( ´_ゝ`)「やめようぜ。戦ったって疲れるだけだし」
男が剣を引くと同時に霧化を解く。
普通の体に戻った吸血鬼は少し困ったような顔をしていた。
( ^ω^)「神よ、悪しきを払う銀に加護を」
銀色の刀身がその精錬さを増す。
光源がないのに、何故かその刀身は輝いて見えた。
吸血鬼は眉をひそめ、舌打ちをする。
( ^ω^)「どうやら、これがどういうことかわかっているようだおね」
( ´_ゝ`)「……吸血鬼の霧化を強制的に解く魔法」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:19:50.96 ID:aCFiFEkz0
( ^ω^)「正解だお」
淡い光を放っている刀身が再び吸血鬼の胸を狙う。
吸血鬼は足に力をこめ、上へと飛び上がる。常人以上の力を持った吸血鬼は高く飛び、上にかけられていた看板を掴む。
手に力をこめ、上から逃げようとする。
( ^ω^)「させないお」
男は薄く笑い、足に力をこめる。
( ´_ゝ`)「なっ……!」
飛びあがった男はあっけなく吸血鬼に追いつく。
二人はビルの屋上で再び対峙することとなった。
( ´_ゝ`)「どういう体をしてるんだよ」
吸血鬼ハンターは特殊な術を使うことができる。
しかし、その体はあくまでも普通の人間なのだ。多少鍛えることはできるだろうが、身体能力で吸血鬼に勝ることはできない。
そんな常識を男は覆してみせたのだ。
( ^ω^)「内緒だお」
( ´_ゝ`)「じゃあ、その秘密は諦めるから、オレのことも諦めてくれよ」
男は剣を振り降ろす。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:26:19.71 ID:aCFiFEkz0
- ( ^ω^)「いいかげんにするお」
( ´_ゝ`)「おk。これからはオレも本気を出そう」
寸前のところで剣筋を避けた吸血鬼は目を光らせる。
青い瞳が男を映している。
( ^ω^)「本気を出してどうするお」
逃げるのか、戦うのか。
吸血鬼は笑う。
( ´_ゝ`)「そりゃ、当然……」
足を踏み込み、男との距離を急速に詰める。
腕を大きく振り、たっぷりと蓄えられた肉を奪おうと動く。
( ^ω^)「身体能力で劣ることはないお」
向かってくる腕を払い、剣を突き出す。
吸血鬼は体を捻りそれを避ける。わずかにかすったのか、服が少し破けてしまった。
( ´_ゝ`)「ひっでーことするなぁ」
買ったばかりなのにと呟く。
( ^ω^)「それは申し訳なかったお」
感情の伴わない声と共に、再び剣が振るわれる。
身体能力を制御するための術を使う気はないようだ。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:31:54.17 ID:aCFiFEkz0
同じ夜の中、二人の男がいる場所とは少し離れた場所で、一組の男女がいた。
その様子は甘い恋の様子などは微塵も感じさせない。
感じるのは冷たい殺気だけだ。
(´<_` )「お前、吸血鬼だろ」
ξ゚听)ξ「そう言うあんたはハンターね?」
男は黒い服に身を包み、銀の十字架を首からさげている。
対する女もまた黒い服を着ていた。
(´<_` )「ああ。だからお前を殺す」
ξ゚听)ξ「仕事だから? そんなつまらない理由で殺されるのは嫌よ」
十字架から銀の銃を出現させ、女へと向ける。
(´<_` )「まだ瞳が赤くないところを見ると、吸血鬼になって間もないみたいだな」
術をかける必要もないと、女の頭を狙い引き金を引く。
銃声は聞こえず、引き金が引かれた音だけが静かな夜の世界に響いた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:35:26.84 ID:aCFiFEkz0
(´<_` )「なんだと……?」
女の顔はそこにはなかった。
首から下だけが先ほどと変わらずにそこにある。
ξ゚听)ξ「残念でしたー」
再び顔が現れる、霧化をしていたようだ。
(´<_` )「甘く見ていたか」
舌打ちをし、霧化を溶かせる術をかけようと口を開く。
ξ゚听)ξ「させない」
鋭い爪が男の手を引っかく。
とっさに後ろに下がったものの、手の甲の肉をわずかに取られた。
ξ゚听)ξ「ね、落ち着きましょうよ。
私は人を襲ったりしないわ。だから無駄な争いはやめましょ」
(´<_` )「そんな戯言を聞き入れるとでも?」
ヒリヒリと痛む手に力を入れ、素早く術をかける。
銀の銃身が淡い光を放つ。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:42:06.39 ID:aCFiFEkz0
ξ゚听)ξ「融通の利かなさが許されるのは、ごく一部の男だけよ」
女は素早く男の間合いに入り込む。
狙うのは柔い喉だ。
そろえられた指が喉へ向かう。
(´<_` )「危ねぇな!」
男の銃が喉と指の間に割り込み、致命傷を避ける。
後ろに飛びのき、再び口を開く。
そもそも、吸血鬼と真っ向から戦う気などまったくないのだ。
動きを封じるための呪文を素早く紡いでいく。
女の方はそれを阻止しようと足に力を入れる。
男は武器が遠距離であることを利用し、呪文を唱えながら引き金を何度も引く。
ξ゚听)ξ「そろそろ弾切れなんじゃない?」
銃弾を避け続けていた女が言う。
確かに銃弾は全て撃ちつくしていた。
(´<_` )「動きを封じたまえ」
だが、呪文も終わっていた。
ξ゚听)ξ「くっ……」
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:48:32.90 ID:aCFiFEkz0
女は膝をつく。
体が重く、思ったように動くことができない。
(´<_` )「ちょっと強めのものにしたから、動くこともできないだろ?」
男が笑い、女は屈辱に目を細める。
ξ゚听)ξ「女のプライド、見せてあげるわ」
歯を食いしばり、女は立ち上がる。
膝は振るえ、腕を上げることすらつらそうだ。
(´<_` )「か弱いくらいが女はいいぞ」
立ち上がったことに多少驚きはしたが、目の前にいる吸血鬼はもはや脅威でもなんでもない。
その辺りを歩いている幼児のようなものだ。
たった一度、軽く引き金を引くだけで命を奪うことができる。
男は冷静に女の頭を狙い、引き金を引く。
ξ゚听)ξ「強い女が好きな人もいるのよ!」
女は力強く地面を蹴り、男の腰に飛びつく。
バランスを崩した男は押し倒されるように地面に倒れた。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 14:57:14.48 ID:aCFiFEkz0
ξ゚听)ξ「さあ、これで終わりよ」
(´<_` )「それはどうだろう」
女は男の首に爪を突きつけ、男は女のこめかみに銃を突きつけていた。
どちらも動くことができない。
爪で喉を裂くのが先か、銃の引き金を引くのが先か。
静かな闇の中で嫌な緊張感がうずまく。
お互いがこのまま闇に溶けてしまうのではないかと思うほどの沈黙があった。
無にも似た静けさを消し去ったのは遠くから聞こえてきた音だった。
金属がぶつかる音と、力強い何かが地を蹴る音が聞こえた。
それらは大きい音ではなく、寝静まっている人間を起こすことはない。
けれど、神経を尖らせている二人にその音は大きく聞こえる。
ξ゚听)ξ (´<_` )
音の主らのことが気にならないわけではなかったが、目の前にいる敵を放っておくことはできない。
二人の中に共通して浮かんだ回答はただ一つだった。
ξ゚听)ξ「さっさと終わらせる」(´<_` )
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:02:37.43 ID:aCFiFEkz0
女は爪を深く食い込ませた。
男は引き金にかけている指に力を入れた。
( ´_ゝ`)「しつこいね」
( ^ω^)「そっちこそ」
相手の命を奪う前に、音の主達が割り込んできた。
二人の男は男女に気づいていない様子で、剣や爪を振っていた。
ξ゚听)ξ「ブーン!」
女が叫ぶ。
( ´_ゝ`)「ブーン?」
吸血鬼が女の方を見た。
女の視線は目の前の男を捕らえている。
( ´_ゝ`)「ああ、あんたがブーンか」
( ^ω^)「ボクの名前を知ってるお?」
( ´_ゝ`)「もちろんさ。有名だからな」
男と距離をとるように後ろへ下がる。
彼にとって『ブーン』という名はそれほど恐ろしいものなのだろう。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:07:49.37 ID:aCFiFEkz0
(´<_` )「化け物のくせに吸血鬼を狩るハンター」
( ´_ゝ`)「……弟者?」
(´<_` )「そうだろ? 馬鹿兄者」
弟者と呼ばれた男は呆然としている女を突き飛ばし、兄者の方へ足を進める。
それから逃げるように兄者は先ほどよりもさらに下がる。
(´<_` )「あんたどこに行ってたんだ」
伸ばした腕が兄者を掴む。
ξ゚听)ξ「どういうことなの?」
服についた汚れを払いながら、女はブーンに近づく。
問いかけられたブーンは肩をすくめ、二人の様子を見守る。
この隙を狙って殺してしまうには惜しいような気がしたのだ。
( ´_ゝ`)「いや、まあ、な」
(´<_` )「それで理解できる奴がいるとでも?」
( ´_ゝ`)「そこは双子パワーで」
(´<_` )「ふざけてるの?」
( ´_ゝ`)「すいませんでした」
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:10:36.67 ID:aCFiFEkz0
眉間に銃を突きつけられ、兄者は手を上げて謝る。
(´<_` )「とりあえず、その姿は何だよ」
( ´_ゝ`)「……見ての通りです」
弟者は兄者の体を見る。
どこから見ても吸血鬼のそれだ。
(´<_` )「銀の十字架は」
( ´_ゝ`)「捨てた」
(´<_` )「ま、そうだよな」
吸血鬼にとって、銀の十字架など百害あって一利なしだ。
(´<_` )「失敗したのか」
( ´_ゝ`)「……結果的に言えば」
兄者は唇を噛む。
仕事に失敗したときのことを思い出しているのだろう。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:17:40.78 ID:aCFiFEkz0
傍観していたブーンが声を出す。
( ^ω^)「ああ、その名前と顔。思い出したお」
ξ゚听)ξ「何を?」
( ^ω^)「彼らはたぶん、サスガ家の人間だお」
ξ゚听)ξ「え、有名なハンターの血統じゃない」
サスガ家代々ハンターを営んでいる。
近年では、吸血鬼と唯一身体能力で渡りあったと言われる母者が最も有名だ。
ξ゚听)ξ「でも、片方は吸血鬼よね?」
ハンターに所属している家系の人間が、吸血鬼と子を成したとは考えられない。
( ^ω^)「だから、仕事に失敗したんだお」
ξ゚听)ξ「……なるほどね」
ツンは小さく呟く。
殺されるならばともかく、ハンターが吸血鬼にされるなどあってはならない失態だ。
血を吸うというのは、吸血鬼の食事にすぎない。仲間にするにはもっと別の行為をする必要がある。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:22:42.50 ID:aCFiFEkz0
( ´_ゝ`)「ごめん」
(´<_` )「何で謝るんだよ」
( ´_ゝ`)「ほら、折角の名前に泥塗っちゃったし」
(´<_` )「そうだな」
( ´_ゝ`)「あと、死ねなくてごめん」
(´<_` )「馬鹿だな」
( ´_ゝ`)「うん」
人が吸血鬼になる方法はたった一つだ。
ξ゚听)ξ「心臓、食べられちゃったのね」
生きたまま心臓を抜き取られ、食べられること。
( ^ω^)「ハンターは吸血鬼にされるくらいなら、その場で死ねって教育を受けてるお」
ξ゚听)ξ「だから死ねなくてごめん、ね」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:27:08.30 ID:aCFiFEkz0
女は馬鹿馬鹿しいと笑う。
ブーンはそれに同意するように頷いた。
( ´_ゝ`)「あ、そういえばブーンは」
思わぬ再会に敵のことを忘れてしまっていたと兄者は慌てる。
同様に、弟者も女の存在を思い出しその姿を捜した。
ξ゚听)ξ「お話は終わった?」
( ^ω^)「終わってたらおじさんがいいことを教えてあげてもいいお」
裏を読みきれない笑みがそこにある。
二人は顔を見合わせ、一歩後ろに後ずさる。
何せ、目の前にいるのはハンターの中でも異端とされ、恐れられている男だ。
( ´_ゝ`)「……一つ、いいか」
( ^ω^)「言ってみろお」
( ´_ゝ`)「あんた、百年前からハンターをやってるってのは……本当なのか?」
答えを聞くのが怖いような気がした。
たかが噂だと聞き流していたことが、真実として目の前に形をなしていく。
( ^ω^)「本当だお」
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:30:42.30 ID:aCFiFEkz0
(´<_` )「冗談、だろ?」
ξ゚听)ξ「本当よ」
引きつった笑みを浮かべる弟者に女が告げる。
ξ゚听)ξ「だって、あたしとブーンは命を分け合ってるもの」
吸血鬼の命は永遠のものだ。
年をとらず、頭か心臓があった場所を貫かなければ死にはしない。
( ^ω^)「ボクは彼女、ツンを人間にしたいんだお」
笑みを崩さずにブーンは告げた。
( ´_ゝ`)「吸血鬼を」
(´<_` )「人間に?」
二人はブーンから目を離すことができなかった。
それほどまでに突拍子もないことだったのだ。
犬は人になれない。
同じく、吸血鬼は人になれない。
世界の常識だ。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:35:03.30 ID:aCFiFEkz0
( ^ω^)「そうだお。それを探すためにツンと命を分け合い、ハンターとして生きてるんだお」
ハンター達の本部である教会の情報網はすさまじい。
それを利用するためだけに、ブーンはハンターをやっているのだという。
( ´_ゝ`)「無理だ! そんなこと、できるわけがない」
( ^ω^)「どうしてだお」
冷静な声が返ってくる。
( ^ω^)「人は吸血鬼になれるのに、吸血鬼が人になれないなんておかしいお」
ξ゚听)ξ「ブーン……」
ブーンはツンの肩を抱き、自分の方へと引き寄せる。
( ^ω^)「ボクは絶対に彼女を人間にしてみせるお」
悲痛な叫びにも似た言葉だった。
二人はブーンがツンのことを愛しているのだろうと感じ取る。
ξ゚听)ξ「ごめんね」
それは吸血鬼として生まれてしまったことに対する謝罪なのだろうか。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:41:48.31 ID:aCFiFEkz0
(´<_` )「お前が吸血鬼になればすむ話だろうが」
弟者は言う。
種族の違いが二人を引き剥がすというのならば、ブーンが吸血鬼になればいい。
それはもっとも簡単で、効率のいいやりかたではないだろうか。
( ^ω^)「キミは、ずっと生きる苦しみなんてわからないお」
ξ゚听)ξ「……あたしのお母さんはね、人間だったのよ」
だからこの目は青いと、ツンは自らの目を指差す。
吸血鬼特有の赤い目でなかったのは、吸血鬼として幼いからではなく、人間の血が混ざっていたからなのだ。
ξ゚听)ξ「お母さんが死んで、お父さんはその後を追ったわ。
私も死のうと思ったけど、怖くてできなかった」
そんな時に出会ったのが、まだ普通の人間としてハンターをやっていたブーンだったという。
ツンは人として生きたかった。限りある命を持ち、限りある時間をブーンと歩きたかった。
できることならば、子供を産んでみたいとも思った。
繁殖活動を必要としない吸血鬼の女には、そのための機能がなかった。
からっぽなのだ。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:45:50.13 ID:aCFiFEkz0
( ^ω^)「ボクは絶対に見つけてみせるお」
( ´_ゝ`)「……そんな話をオレ達にしてどうする」
ブーンが望むような情報は持っていない。
だいたい、百年もかけて探して見つかっていないのだ。この世に生まれてから二十数年しか経っていない兄弟に情報を求めるのはおかしい。
( ^ω^)「弟者」
(´<_` )「何だよ」
( ^ω^)「キミは兄者をどうするお」
唐突に突きつけられた現実に弟者は惑う。
ハンターとして、吸血鬼は殺さなくてはならない。
けれど、彼は実の兄なのだ。殺すなどという選択はできない。
( ^ω^)「見逃すのかお? どうせそのうち殺されるお。
ずっと逃げ続けれたとして、永遠の苦しみに耐えられず自ら死を選ぶお」
淡々と告げられていく言葉。
感情がこもっていないのがやけにリアルに感じた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:48:50.06 ID:aCFiFEkz0
( ´_ゝ`)「殺せよ」
(´<_` )「兄者?」
( ´_ゝ`)「オレ寂しいの嫌いだし」
小さく笑うその表情は悲しげだった。
(´<_` )「……んなこと言うなよ」
弟者の頭はぐるぐるとした思考でいっぱいになる。
何を選べばいいのかわからない。どれを選んだところで、兄弟とは永遠の別れになるだろう。
生まれてからずっと一緒だった存在が消える。
不安ばかりが心を侵食していく。
( ´_ゝ`)「弟者に殺された方が、けじめになるし」
(´<_` )「でも、オレが殺すなんて」
同じ場所から生まれ、同じように生きてきた。
そんな同じ顔をした人間をそう簡単には殺せない。
( ^ω^)「だから、兄者達もボクらと同じになればいいお」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:53:27.12 ID:aCFiFEkz0
ξ゚听)ξ「あんた、そんな無責任な」
( ^ω^)「でも、それが一番いい方法だと思うお」
呆れた視線を向けるツンに返し、ブーンは二人に言う。
吸血鬼と人間が命をわけあえばいいと。
(´<_` )「あんたと同じになれってか」
( ^ω^)「身体能力もあがるし、命だって長くなる。
いつか吸血鬼を人間にする方法が見つかったら、兄者と一緒に戻ればいいお」
ブーンの言っていることはもっともなように聞こえる。
だが、弟者に化け物になれと言っているのだ。
( ´_ゝ`)「却下だ! それはダメだ!」
( ^ω^)「何でだお」
( ´_ゝ`)「……これ以上、サスガ家に泥を塗るなんて真似したくない。
第一、これはオレの失態が招いたことだ、弟者まで道づれになんてできるか」
兄者はブーンを睨みつけている。
その隣で弟者は何かを決意した。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 15:57:21.09 ID:aCFiFEkz0
兄者を押しのけ、ブーンと向かい合う。
真っ直ぐな視線が交差する。
(´<_` )「教えてくれ」
( ´_ゝ`)「弟者!」
(´<_` )「兄者は黙っててくれ!」
制する声よりも大きく、弟者は叫んだ。
(´<_` )「……オレが決めたんだ」
真剣な顔をした後、すぐに弟者は笑ってみせる。
穏やかな笑みだった。
(´<_` )「サスガ家には姉者も妹者もいる。
兄者を置いてきたとか、殺したとかバレたらそれこそ殺される」
彼らの家族はとても優しかった。
どんなことがあっても、家族だけは味方でいてくれる。
それがわかっているから真っ直ぐ歩いてこれたのだ。兄弟を見捨てるということは、けっして真っ直ぐ歩くことでない。
( ^ω^)「いい家族だおね」
( ´_ゝ`)「……当たり前だろ」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:00:48.77 ID:aCFiFEkz0
( ^ω^)「じゃあ、ちゃちゃっと説明するお」
ブーンは自分が人間であったころ数々の文献を読み、得た知識を弟者へと話す。
( ^ω^)「まずこれを持って欲しいお」
渡されたのはブーンが持っていた銀の剣だった。
霧化を解く魔法がかけられたままなので、淡い光を放っている。
ずっしりとした重さのあるそれを受け取り、再びブーンを見る。
( ^ω^)「じゃあ、それで兄者を刺して欲しいお」
(´<_` )「は?」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:07:56.12 ID:aCFiFEkz0
聞き間違いでなければ、霧化もできない兄者に剣を刺せと言っていた。
( ^ω^)「あ、左胸だと死んじゃうから、右胸を刺して欲しいお」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。
弟者は剣を握っている手に力をこめ、どういうことなのかを問いただす。
急所ではないところとはいえ、刺せばそれだけの痛みを伴うことに変わりはない。
( ^ω^)「ちゃんと最後まで話を聞くお」
怒りに声を荒げる弟者を落ち着かせる。
( ^ω^)「そしたら剣を抜いて、自分の手首を切るお」
( ´_ゝ`)「おい待て。ふざけてるのか」
( ^ω^)「ボクは真面目に話をしてるお」
先ほどから、ブーンの口からは恐ろしい言葉しか紡がれていない。
吸血鬼である兄者は右胸を刺されたところで死にはしないが、人間である弟者は手首を切れば死ぬ可能性が十分にある。
( ^ω^)「その血を兄者の胸に垂らして、血を混ぜ合えば完成だお」
まるで簡単な工作をするような口調だった。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:13:09.96 ID:aCFiFEkz0
( ´_ゝ`)「まあ簡単。
……なんて言うわけないだろ!」
青くなっている弟者に代わり、兄者が叫ぶ。
ξ゚听)ξ「怒るのも無理ないわ。
でも、本当のことなのよ」
ツンは笑って自分の右胸に手を当てる。
ξ゚听)ξ「あたしも昔、ブーンにここを貫かれたわ。
ブーンは手首を切って、あたしの中にソレを混ぜた」
( ^ω^)「詳しい原理を説明してもいいけど、長くなるお。それこそ日が明けてしまうくらい」
兄者もツンも完璧な吸血鬼ではない。
そのおかげで、薄くではあるが鏡や水に姿を映すことができるし、太陽の光を浴びることもできる。
問題があるとすれば、そのような行為を行うのに日中は適さないということだ。
( ^ω^)「命が分け合えれば、その時点での傷はすぐにふさがるから安心するお」
何とも安心できない言葉だった。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:16:50.34 ID:aCFiFEkz0
(´<_` )「……やろう」
青い顔のまま、弟者が剣を構える。
( ´_ゝ`)「無理するな。やめとけ。今なら間に合う」
(´<_` )「兄者、オレは決めたんだ」
( ´_ゝ`)「……頑固だなぁ」
(´<_` )「オレは融通が聞かなくても許される、ごく一部の男だからいいんだよ」
( ´_ゝ`)「何だそれww」
兄者の右胸に銀色の刀身が突き刺さる。
笑ったままの兄者を見て、弟者はすぐにでもこの行為を終わらせようと剣を抜いた。
( ´_ゝ`)「……やっぱ痛いわ」
膝をつき、それでも兄者は笑っている。
弟者に余計な不安を植えつけまいとしているのだろう。
(´<_` )「オレも痛い思いをするんだから我慢してくれ」
( ´_ゝ`)「おk」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:21:44.58 ID:aCFiFEkz0
弟者は剣で手首を切る。
思いのほか切れ味がよく、手首から先を全て落としてしまうのではないかと冷汗を流した。
( ´_ゝ`)「弟者、早くしろ」
傷口を弟者に見えるようにし、行為を急がせる。
時間が経てば経つほど、弟者の死に近づいていく。
(´<_` )「……わかって、る」
蛇口を捻ったように血が流れている手首を、兄者の傷口の上へ浮かべる。
赤い血と血が交じり合う光景は、奇妙で、気味が悪かった。
兄者の傷口から流れて行く血が、弟者の血を追い出していないかと二人は不安になる。
( ^ω^)「大丈夫だお」
ξ゚听)ξ「そろそろ傷がふさがるわよ」
二人の声に反応したかのように、弟者と兄者の傷口が塞がり始める。
できたばかりの傷が消えて行く様子を二人は呆然と眺めていた。
一分もすれば傷口は完璧に塞がり、地面や服に残っている血だけが、先ほどの行為を肯定していた。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:25:21.27 ID:aCFiFEkz0
( ^ω^)「どうだお?」
(´<_` )「体が軽い」
試しにと、足に力を入れて飛び上がる。
(´<_` )「おお!」
人間でなくなった証がそこにあった。
高く上がった体の中心から力が溢れているような感覚だった。
( ´_ゝ`)「おかえり」
(´<_` )「ただいま」
( ^ω^)「で、これからどうするお」
弟者が地面に帰ってきたので、ブーンが尋ねる。
ブーンと一緒に吸血鬼を人にする方法を探すも良し。
兄弟二人でその方法を探すも良し。
いっそのこと、二人で吸血鬼として生きてみるのも面白いかもしれない。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/09/29(水) 16:29:18.25 ID:aCFiFEkz0
( ´_ゝ`)「そうだな」
(´<_` )「お二人さんの邪魔をするのは悪いよな」
ξ*゚听)ξ「ちょっと! 何言ってるのよ!」
( ^ω^)「ツン、顔が赤いお」
ξ* )ξ「あんたまで!」
( ´_ゝ`)「だから、二人でちょっと旅をしてみる」
(´<_` )「そのうちまた会うだろ」
( ^ω^)「そうだおね。ボクらの人生はまだまだ長いお」
これから、途方もない探し物をしなければならない。
兄弟はお互いに目を合わせて笑った。
( ´_ゝ`)「とりあえず、母者に報告でもしとくか?」
(´<_` )「殺されなきゃいいけど」
( ^ω^)「ボクらも行くお」
ξ゚听)ξ「ええ、絶対に見つけましょうね。
( ^ω^)人になる方法を探すようです 完
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