(´・ω・`)「ムラサキノカガミ」のようです(`・ω・´)

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:21:26.31 ID:vmNSQq2M0

カーテンの隙間から差し込む光の筋が目に当たって頭が覚醒を始める。
外では小鳥が鳴き始め、平日より控えめな車の音。

いつも通りの土曜の朝。

あぁ、朝なのだ。
今日という日が始まるのだ。

その考えが意識をはっきりとさせる。
なにもそんなに深く考えることではない、日常の中の1コマ。


そう、なんでもない日になるはずだった。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:23:33.07 ID:vmNSQq2M0






(´・ω・`)「ムラサキノカガミ」のようです(`・ω・´)








5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:25:46.55 ID:vmNSQq2M0
ドタドタと大きな音を響かせて、廊下を走る音、
これもこの家のいつも通りの土曜の朝だ。

(`・ω・´)「おはようショボン!」

(´-ω-`)「…お早う、兄さん」

ややテンションの高めの朝の挨拶をするのは、僕の兄。シャキン。
必然的に僕は弟ということになる。

僕ら兄弟は、他の世間一般の兄弟と比べてとても仲が良いといってもいいだろう。

5年前くらいに、この家に引っ越してきたときは、父さん、母さん、僕、兄さん
4人家族で暮らしていた。
父さんは、多少田舎とはいえ、新築の一戸建てに胸を張っていたっけな…。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:27:15.88 ID:vmNSQq2M0

でも、築2年ほどでこの家の主は、僕と兄さんだけになった。
交通事故で、あっさりと両親はいなくなったからね。
酒酔い運転をしていた未成年相手のドライバーは逮捕されたけど、



やっぱり、2人だけではこの家は広すぎた。



最初は悲しみに暮れていたけど、それでもやっぱりお腹は減るし、生活はしなければならない。

そうして、2人で協力し合って生活してきた。
兄さんは、当時陸上部で将来有望なんて言われてたのに、
有名大学からの誘いを蹴って、バイトしながらの大学生活を選んだ。

やっぱり、僕が重荷になっていたんだろうね。


9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:28:44.39 ID:vmNSQq2M0

(`・ω・´)「さぁ!朝飯にしよう!」

(;´・ω・`)「分かった分かった。今日の当番は僕だったね」

僕の懐古を遮るように、兄が僕の布団を引き剥がす。
兄に追い立てられるように僕は布団を出て、1階へと階段を下りる。。
家事は当番制。怠けてなんかいられない。

とは言っても2人だけだから一日交代。
昨日やらなかったことを今日やればいい。簡単なことだろう?

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>8ごめんなさい。] 投稿日:2009/04/19(日) 22:29:45.18 ID:vmNSQq2M0

男所帯としては綺麗である(と思っている)キッチンに立ち、エプロンをつけると

あぁ、今日もまた一日始まるんだなと改めて思ってしまう。
目覚めとはまた別の爽やかさを感じるんだ。
こんなことを言えば、兄さんに笑われるんだけどね。

冷蔵庫の中身を確認して、卵2個とベーコンを取り出す。
昨日炊飯器のスイッチを入れ忘れたから今日はパンにしよう。

(`・ω・´)「手伝おうか?」

(´・ω・`)「いや、遠慮しておくよ。仕事だしね」

僕の肩に顎を乗せて、手伝いの申し出。
申し出は嬉しいけど、この体勢を男二人で、っていうのは傍からみれば正直気持ち悪い。

…僕はいいけど、ね。

パンを4枚トースターに突っこみ、フライパンを火にかける。
水をポットに入れて、スイッチを入れる。

フライパンに油をひいて、ベーコンを置く。
油がはじけ、カリカリに焼けたところで卵を割り落としてから、少し水を入れて蒸す。

とりあえずこれだけの動作をして、少し待つだけで美味しい朝食の出来上がりだ。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:31:08.01 ID:vmNSQq2M0

皿やカップを用意していると、兄さんがわざとらしく咳払いをしてしきりに僕の方を見てくる。

(;´・ω・`)「…どうかしたのかの?さっきからなんか変だけど」

(`・ω・´)「フフフ…。ショボン、明日は何の日か覚えているだろう…?」

明日?
明日は燃えるごみ出しの日ではないし、親の命日でもなければ、日曜だから仕事でもない。

やっとの事で答えをひねり出す。

(´・ω・`)「あぁ、雀荘に行くから夕飯いらないんだっけ?」

完璧。
これ以外に無いだろう。
ていうか持てる力を出し切って考えた結果がこれだよ!

(;`・ω・´)「あの……明日、俺の誕生日なんだが」

あぁ。そういえばそうだった。

(*`・ω・´)「しかも二十歳!成年!酒持って来ーい!」

しかしなんなんだろうこのテンションの高さ。
まぁ大人になるって事だからなのだろうが、異常だろう。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:32:35.52 ID:vmNSQq2M0

とりあえず火を止めて、料理を取り分けてテーブルへ。
ほかほかのおかずにカリカリモチモチのトースト。

そういえばコーヒーを淹れるのを忘れてた。
飲むのは僕だけだけど。

コーヒーを諦めることにして、居間を見ると、兄さんがまだハイテンションで踊っていた。

…流石に我が兄ながら少々ウザい。
僕の中で、ちょっとした悪戯心が湧き上がる。

(´・ω・`)「とりゃ!」

後ろから忍び寄って思い切り驚かしてやる。

(`゚ω゚´)「ふおおおおぉぉぉぉ!?」

オーバーなくらいに飛び上がって倒れる兄さん。
この反応が面白くて思わず病みつきに…。


16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:33:45.12 ID:vmNSQq2M0

おっといけない。
手を貸して立ち上がるのを手伝うくらいしないと、後で拗ねるからね。

(;`・ω・´)「お…お願いだから…ビックリさせないでくれ…」

(´・ω・`)「はは、兄さんは相変わらず怖がりだなぁ」

昔からの弱点。
怖い話や、驚くことに関してはとても弱い。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:35:17.70 ID:vmNSQq2M0

ごめんごめんと、軽く謝りながら
冷蔵庫から兄さんの飲むオレンジジュースを出してきて、二つのコップに注ぐ。
今日は僕も不本意ながらオレンジジュースだ。

(`・ω・´)「いただきます!」

すごい勢いで食べ始める兄さんを尻目に、とりあえずトーストを頬張る僕。
朝はあまり食べられない体質なんだよね。

(´・ω・`)「いただきます。ところで兄さん。『ムラサキノカガミ』って言葉知ってる?」

(`・ω・´)「うえ?…むらそきのこごみ?」

食べながら喋るので篭った声。
しかもこぼれてる。正直汚い。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:37:06.98 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「とりあえず口の中の物無くなってから喋りなって。
      昔、母さんにも同じ事言われてたでしょ」

ゴクリ、と盛大な音を立てて物を飲み込む兄さん。

(`・ω・´)「おう。スマンな。で、何の話だっけ?」

(´・ω・`)「『ムラサキノカガミ』って知ってる?」


(`・ω・´)b「………知らん!!」

少しの間考えてから、きっぱりと言い放つ。
まぁ知らないことを前提に聞いたから当然なんだけどね。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:38:59.85 ID:vmNSQq2M0

(´・ω・`)「まぁ、食べながらでもいいからちょっと話を聞いてよ」

ここで再び僕の中の悪戯心が首をもたげる。
しばらく前に見た、
都市伝説や怖い話を扱うサイトで取り上げられていた話がちょうどタイムリーだった。

それだけの理由なんだよ。
怖がりの兄さんをからかうのは面白いからね。

(´・ω・`)「昔、女の子がふざけて大切にしてた手鏡を絵の具で紫に塗りつぶしたんだって。
     それで、後悔して消そうとしても何故かその絵の具は消えなかった」

兄さんが唾を飲む音が聞こえる。
やっぱり面白いくらいに動揺してる。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:40:36.67 ID:vmNSQq2M0

(´・ω・`)「その女の子は手鏡を塗ってしまった事を後悔した。
      そして、気に病むあまりに病気になってしまったんだ」

ふっと、そこでオレンジジュースを口に含み、唇を湿らす。
独特の酸味と甘味が口の中に広がる。

(´・ω・`)「そして、二十歳の誕生日に死んでしまった。『ムラサキノカガミ』って呟きながらね…」

(;`・ω・´)「なぁショボン?」

(´・ω・`)「そして!それ以来『ムラサキノカガミ』って言葉を二十歳まで覚えていると、
      その女の子の呪いで、その人は…」

(;`゚ω゚´)「ちょっと待てえぇい!」

なんだ。いいところだったのに。
予想の範疇ではあったけどね。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:42:29.01 ID:vmNSQq2M0

(;`・ω・´)「それ怪談じゃないか!?」

(´・ω・`)「いや、都市伝説」

(;`・ω・´)「いや、変わらないだろ」

いやいや、都市伝説と怪談を一緒にしないでよ、
そう言おうと思ったが、兄さんに言っても無駄だろう。

(;`・ω・´)「しかも俺明日が二十歳の誕生日って、タイムリーすぎ…。
       もしかしなくても、狙ったの?ねぇ狙ったの?馬鹿なの?死ぬの?」

少しやりすぎたようだ。
混乱してるなんてもんじゃないくらいに取り乱してる。

(;´・ω・`)「まぁまぁ。落ち着いてよ」

僕はまだ死にたくないし。
一応兄さんよりは頭はいいつもりなんだけどなぁ…。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:43:20.45 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「いつも兄さん言ってるじゃないか『怪談なんて作り話だ!』って、ね!?
      それにあくまで伝説だからさ!ね?」

(;`・ω・´)「そ…そうだよな!?きっと嘘だよな?」

あからさまにホッとしてるところを見ると、相当の効果があったようだ。

(´・ω・`)「さ、さっさと食べて片付けちゃおう。今日もお互いバイトだからね」

とりあえず、自分の分を急いで食べると、食器を洗うために台所へ。

カチャカチャと皿を洗う音に混ざって、
どこからか甲高い笑い声が聞こえた気がした。


26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:45:26.89 ID:vmNSQq2M0

――ショボンの奴、変な話聞かせやがって。

(`・ω・´)「ふぅ。『ムラサキノカガミ』だって?」

部屋着にしているスウェットから、外に出られるくらいの格好に着替える。
朝から怪談なんか聞いたせいで、妙に部屋の鏡を気にしてしまう。

(`・ω・´)「呪い…なんてあるわけないだろう…」

もし、そんなものがあるとしたら理不尽としかいえない。
弱い人間の作り出した紛い物の恐怖だろう。

そんなのは、逃げでしかないだろう、と俺は思う。

(;`・ω・´)「むぅ…だんだん自分で訳分からなくなってきた」

とりあえず呪いなんてものは非科学的かつ非現実的だ。うん。

(`・ω・´)「…まさか、な」

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:47:34.49 ID:vmNSQq2M0

少し躊躇いながらも、鏡を覗き込む。

(`・ω・´)「よし!今日もいい男!」

と、自分の後ろを何かが動く気配を感じ、鏡をよく見る。

(`・ω・´)「…気のせいか?」

――と。
にゃあ、と後ろから猫の鳴き声。
なんだ、猫か。

そう言おうとしたその瞬間、口が動かないことに気付く。

(;`・ω・´)「……」

口どころじゃない。
手が、足が、腰が。

―全身が、動かない。

何かで押さえつけられている?
いや、人の出しうる様な力じゃなく、もっと単純に強力な『何か』。
その『何か』がこの俺の部屋に存在していて、俺の全身を束縛している。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:50:28.39 ID:vmNSQq2M0


(;`・ω・´)「……」

ショボン。
呼ぼうとしてもどうにも声が出ない。

すぐ隣の部屋にいるはずなのに。

(´・ω・`)「兄さん何やってるの?」

ドアを開けて、ショボンが入ってきた瞬間。
『何か』の力は途端に消え去った。

(´・ω・`)「何馬鹿みたいにつっ立ってるの。バイト遅れるよ?」

(;`・ω・´)「…あ、あぁ。うん。分かってる」

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:52:56.70 ID:vmNSQq2M0

気のせい、と言うには些かリアルな感覚。
背中を冷たい汗が流れ落ちていくのを感じる。

(;`・ω・´)「…金縛り…ってか?」

脳が起きていて、身体だけ寝てる。なんて科学的証明があるんだから。

そんな事言って、普段の俺なら笑っていただろう。

しかし、体験してしまった。
自分で恐怖を感じてしまった。

そう考えると、さらに自分の中の恐怖が膨れ上がる。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:55:58.80 ID:vmNSQq2M0

(´・ω・`)「兄さん、どうしたんだい?顔色悪いよ?」

よっぽど俺は蒼い顔をしていたんだろう。
もしくはさっきの怪談の罪滅ぼし、といった感じだろうか?

とりあえず、どっちにしろ今はまともに答えられる状態じゃない。
だが、心配をかけるのは嫌だ。
兄として。

(;`・ω・´)「大…丈ブだ…ナンデモナイよ…」

精一杯強がっては見るが、再び金縛りらしき身体の重みが来る。
抵抗するしかないだろう。というかそれ以外思いつかない

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:58:07.20 ID:vmNSQq2M0

…駄目だ。さっきより力が強くなってる。

(;´・ω・`)「…いやいや、どう考えてもなんかあるでしょ」

やっぱり、俺の嘘はコイツには通用しないのか。
そういえば、俺は昔から嘘をつけないんだった。

(;´・ω・`)「もしかしてさっきの都市伝説気にしてるのかい?
      ごめんよ、そこまで怖がらせるつmr…」

あぁ。分かってるよショボン。
ちょっと頭が重いだけだ…なんともない。

でもなんでそんなに段々声が小さくなっていってるんだ…?

電気も消したのか?
ずいぶん暗くなったな…

本当に驚いたときって声すら出ないんだな。
初めて知ったよ。なぁ?ショボン。

「兄さん!?」

遠くにショボンの声を聞いて、俺の意識は闇の中へと落ちていった。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:01:00.56 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「どうしよう…」

――僕は、兄さんの部屋で一人呆然と立ち尽くす。

いきなり目の前で倒れられたら、混乱するだろう?
数分経ってからふと気付いて、自分の時間が動き出す。

(;´・ω・`)「とりあえずベッドに寝かせて…か?」

兄さんを持ち上げて、ベッドに寝かせる。
不本意ながら、お姫様抱っこで。

(;´・ω・`)「兄さんと、一応僕のバイト先にも連絡しないと…」


兄さんの部屋から一旦出ると、携帯を取り出して電話する。

ワンコール。

ツーコール。

しかし、十回ほど呼び出し音が鳴っても、誰も出ない。

接客業がそんなのでいいのか?

そんなことを思っていると、ふいに相手が受話器を取る音がする。

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:03:30.71 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「もしもし!?バイトのショボンです!」

しかし、電話の向こうからは、応答がない。

こっちは急いでるんだ。
早く出てくれ。

苛立ちだけが募る。

(;´・ω・`)「もしもし?聞いてますか?」

応答はない。
しかし、微かに音が聞こえた。

「し…ぼ……n」

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:05:06.10 ID:vmNSQq2M0

戦慄が走る。
今のは。今のは間違いなく。










兄さんの声じゃないか。











40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:07:05.84 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「……」

混乱しながらも、通話はそのままで恐る恐る後ろを振り返る。
そこには兄さんの部屋のドア。

僕はさっきドアを閉めたっけ?

閉めた気はする。
しかし、確証が持てない。

しかし、さっきの声は確かに兄さんだった。
じゃあ今も聞こえるのか?

再び受話器に耳を当てる。

(;´・ω・`)「もし…もし?」

しばしの無音の後、いきなり『それ』は僕の耳に響いた

〔あははははははははっはははは!はいってきなよ!〕

甲高く、耳に障る女の声に思わず受話器を耳から放す。

〔あはははは!怖いの?ねぇこわいの?はいってきなって〕

そして、その女の声は、ステレオで僕の耳に届く。
一つは受話器から。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:09:14.42 ID:vmNSQq2M0

――そして、もう一つは後ろから。

ドアを隔てても耳障りなその声は、僕を呼んでいる。
「はいってこい」と言っている。

行くしかないじゃないか。迷う必要なんてないだろう?
大切な兄さんがいるんだから。

(;´・ω・`)「大丈夫、きっと兄さんの悪戯さ」

そんなわけはない。
自分が一番知っているんだから。
でも、自分を勇気付けるために呟き、ドアノブに手を掛ける。


42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:10:42.01 ID:vmNSQq2M0

ドアノブを下に押し下げる。
―部屋の向こうで何かが動く気配がする。


ドアが少しの軋む音を立てて内側へと開き始める。
――耳障りな嗤いが再び部屋の内から響き始める。

ベッドが視界に入る。
――あぁ良かった。兄さんはさっきと同じように寝ている。

ドアが部屋の壁に当たる位置まで開ききる。
――長い黒髪が揺れて、狂気の顔が、狂喜の紅い双眸が、こちらを捉える。



44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:13:44.65 ID:vmNSQq2M0

川 ゚ 々゚)「あはははは!はいってきた。はいってきた!
      この人はもう手遅れなのに!わざわざはいってきたあははははは!」

嗤う嗤う。
狂ったように嗤う。
いや、実際狂っているのだろう。

(;´・ω・`)「君は…何者……なんだい?」

やっとのことで紡ぎだした言葉は、裏返り、酷いものだった。

川 ゚ 々゚)「あなたがはなしたからこのヒトにツけたんだよ?
      わたしのはなし。かがみのはなし。あなたとせのたかいおニイさんのおかげ」

要領を得ない話し方ではあったのだが、
話が見えてきた。
そして、それと共に言いようのない絶望感が、僕を打ちのめした。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:16:37.64 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「…ムラサキノ……カガミ…」

川 ゚ 々゚)「そのことばを…イうな!」

少女がいきなり叫んだかと思うと、
僕の身体は後ろへと引っ張られる。

悲鳴を上げる間もなく、廊下の壁へ叩きつけられて肺の中の空気を全て搾り出される。

(;´・ω・`)「うぁ…く…」

川 ゚ 々゚)「あははははは!」

真っ白になった頭に甲高い笑い声が響き渡る。

川 ゚ 々゚)「おとなしくしてればなんにもしないよ?
       だってあしたのじゅうにじにはこのヒトはわたしといっしょにいけるもの!」

十二時だって?
その時までが兄さんに残された時間だって言うのか?

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:20:07.11 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「…兄さん…」

ベッドに目をやる。
兄さんが苦しそうに寝ている。

川 ゚ 々゚)「じゃまするなら…」

見えていたはずの兄さんの姿が、ドアに遮断される。

起き上がる。
ドアノブを下へ押し下げる
――大丈夫、これが開いたら兄さんが笑っているはずさ

ドアを押す。
――そうだろう?いつもみたいに『怪談なんて作り話』だって笑うんだろう?

しかし、さっきのようにドアが開くことは無かった。
僕を嘲笑う声だけが、広い家の中に響き渡った。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:22:37.10 ID:vmNSQq2M0

*************************************


もう、夕陽が傾き始めている。
何時間くらい経ったのだろう。


――僕はフラフラと商店街を歩いていた。

(´ ω `)「兄さん……」

昼の十二時に一旦家に帰ったが、部屋に入るのを妨害されただけだった。
夜中の十二時ってことなんだろう。


でも、だからってなんだって言うんだ?

なす術も無く、絶望を抱えながら。
特に行く当ても無い。
むしろ、兄さんがいなくなるのなら、僕も死んでしまえばいい。

待ち行く人達は皆楽しそうに、あるいは忙しそうに。僕を通りすぎていく。
ぶつかっても、誰も謝らず、気にも留めず。歩いていく。

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:25:15.77 ID:vmNSQq2M0

トン、と今日何回目かの軽い衝突をした僕は、

(;^ω^)「おっ!ごめんなさいお」

謝る声
で思考の海から目覚めた。
尻餅をついてしまっていたようだ。

(;^ω^)「大丈夫ですかお?」

高校生くらいの丸顔の少年が、僕を覗き込んでいた。

(;´・ω・`)「あぁ…大丈夫だよ…」

(;^ω^)「顔色悪いですお?」

少年の手につかまって、ゆっくりと起き上がる。

(;^ω^)「もし、あれなら!ほら!病院とか消防署とか占いとかいった方いいですお!」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:27:56.62 ID:vmNSQq2M0

大分混乱しているらしい。
流石にこのまま黙っていると本当に占いにでも連れて行かれそうなのでひとまず何か喋らなければね。

(;´・ω・`)「大丈夫、丁度家に帰るところだったし、ちょっと疲れただけなんだ」

嘘だ。
家になんて帰りたくはないし、帰ったところで兄さんは…。

(;^ω^)「ならせめて家まで送らせてくださいお!」

本当に申し訳なさそうに話されると、断りにくいんだよね。僕。

( ^ω^)「家、どっちの方向なんでお?」

仕方なく案内をしつつ、家へと向かう。

(;´・ω・`)「本当にすみません。なにか用事とかがあったんじゃないんですか?」

( ^ω^)「いえいえ!ちょっと暇で街をぶらぶらしてただけですお」

話は続いてるけど、実際家からそんなに商店街までは距離がないから
もうすぐ着くんだけどな。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:30:27.70 ID:vmNSQq2M0

( ^ω^)「最近話題の本物の水晶を持って棺桶背負った占い師が良く当たるっていうんで聞いたんですけど、
      これがもう本当に当たって当たって、少し怖いくらいでしおー。
      なんかマスクしてて男なのに口裂け女みたいでしたおー。あ、マスクといえば僕学校で…」

ちっとも止まらないマシンガントークに、へぇ。とかそうなんですか。とか
適当な相槌を打っていたら、家の前に着いてしまった。

(;´・ω・`)「では、ここが家なので…」

(;^ω^)「おっ!そうですかお!それじゃ、本当にスミマセンでしたお」

軽く別れの言葉を交わすと、少年は商店街の方向へ歩いていった。


54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:31:33.18 ID:vmNSQq2M0

(´・ω・`)「…口裂け女?」

そういえば。
都市伝説には解決方法が付き物だ。

口裂け女に会った時『ポマード』と唱えれば助かる、というように。

最後はどうなる?
特に呪いには解決方法があるはずだ。

(´・ω・`)「そうか…」

疑問が確信に変わった。
無限絶望が一縷の希望に変わった。

辺りが薄暗くなり始める中、
僕は急いで家に入ると、居間のパソコンを起動して都市伝説のサイトを呼び出す。

いつもの作業。
なのにいつもより真剣に、慎重に。

(´・ω・`)「…あった」

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:33:07.40 ID:vmNSQq2M0
_________________________________

『ムラサキノカガミ』

「紫の鏡」という言葉をあなたはご存知だろうか?
彼方がもし未成年であるのなら、二十歳までこの言葉を覚えていてはいけない。
なぜなら、もし二十歳になったときにこの言葉を覚えていると、この言葉に込めら
れた呪いによって死んでしまうからだ。
昔。ある女の子が悪戯で大切にしていた鏡を紫の絵の具で塗りつぶしたことが
あった。
しかし、何故かその紫色の絵の具はどれだけ洗っても取れることが無かった。
自分の行為を悔やんだ少女はやがて二十歳の若さで他界してしまった。
ムラサキノカガミ、ムラサキノカガミと呟きながら。

このとき以来、『ムラサキノカガミ』がのろわれた言葉になった。
二十歳になるまでこの言葉を忘れないと、あなたはこの少女の呪いで死んでしまう

だが、どうしても忘れる自信がない人にも助かる方法がある。

それは、『白い水晶』という言葉を覚えていること。
二十歳になったときにこの言葉を覚えていれば、
白水晶の力が呪いを打ち消すからである。

投稿者:A.S.

__________________________________

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:34:58.05 ID:vmNSQq2M0

(´・ω・`)「これだ…!」

流し読みしていたから気付かなかった。
ちゃんと解決法が在るんだ。

絶望は完全に希望に変わった。
心が燃え上がるのを感じる。

後はどうやって兄さんに伝えるのか。

(´・ω・`)「…電話…通じるかな?」

無駄だろう。
だが、直接言っても会えるとは思えない。
なら、少しでも可能性の高い方を信じることだ。

溜息をつきながら、携帯から兄さんの携帯へ電話をかける。

コール音が一回、二回と鳴る。
いつもなら苛々して、出るのを待つ時間。
いつもとは違う苛立ちを覚えながら待つ。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:36:26.72 ID:vmNSQq2M0

〔もしもし?〕

聞こえたのは、女の声。

(´・ω・`)「…兄さんと話させてほしい」

川 ゚ 々゚)〔だめだよ!おまえじゃまするきだろ!〕

なにをするかは分かっていないようだ。
ならこっちにとっては好都合だ。



(;´・ω・`)「分かった。じゃあこの言葉だけ君に聞いてほしい」


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:38:02.24 ID:vmNSQq2M0

これは、賭けだ。




川 ゚ 々゚)〔なに?〕



しかも相当リスクの高い。


(;´・ω・`)「じゃあ言うよ」



全身から汗が噴き出す。
身体が酷く震える。
でも、言わなくちゃいけない。

――全ては兄さんのために。

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:40:17.66 ID:vmNSQq2M0











(´・ω・`)「…『白水晶』」









電話の向こうが、静まり返った。
次に聞こえるのは、断末魔の悲鳴。

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:42:38.82 ID:vmNSQq2M0






――ではなかった。



68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:44:57.63 ID:vmNSQq2M0

川 ゚ 々゚)〔あはっははははははははははっはははははは!!〕

嗤い声が、これでもかと、俺の耳を、脳内を犯す。
絶望が、ひしひしと身体を満たしていく。

駄目だった。
全てが終わった。

切り札だと思ったカードは、何の役にもたたない、クズカードだった。

川 ゚ 々゚)〔そんなのでわたしけそうとしたの?よわいよ!よわぁい!〕

手から、携帯が滑り落ちる。

川 ゚ 々゚)〔あはは!いまわたしちからいっぱいあるからそんなのきくわけない!
      よわいんだよ!よわいよわい!あはははははははっはははは!〕

言葉が、僕の耳に引っかかった。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:46:40.10 ID:vmNSQq2M0

川 ゚ 々゚)〔じゃあね!!あはっはは〕

笑い声と共に、携帯からの音は無くなった。

しかし、今あるのは絶望ではない。希望だ。

(´ ω `)「『弱い』って事は、もっと強い力なら…」

そう、例えばお札や、魔よけのもの。
それも偽物じゃなくて、本物の効果があるもの。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:49:01.24 ID:vmNSQq2M0

**********************************

商店街は、もう夕飯時であるというのに、人があふれていた。
いや、夕飯時だからなんだろうか。

家族連れが多く歩いている。

僕は、少し羨ましいと思いながらも。
今いるたった一人の家族のため、走る。

少年の言っていた占い師を、棺桶を、水晶を探して。

(;´・ω・`)「…兄さん、絶対に」

夜の雑踏の中を必死になって、駆け巡る。


雑貨屋の明るい光を浴びて。

レストランの優雅な食事をする家族を目の端で捕らえ。

ジュエリーを見るカップルを追い越し。

美しく着飾ったマネキン達を尻目に。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:51:09.69 ID:vmNSQq2M0

しかし、どこにも占い師はいない。

(;´・ω・`)「話題になってるならすぐ見つかりそうなもんなんだけど…」

タイムリミットは着実に迫っている。
水晶があっても、兄さんに届かなければ何の意味も無い。

そんな時、ふと目に入ったのは、路地を入った横丁。

(;´・ω・`)「…」

僕は無言で、ゆっくりと、路地へ入る。
何の証拠もない。
でも確かにそこにある気がした。

そして、実際そこに占い屋の看板は、あった。
壊れそうな掘っ建て小屋に手書きで、『水晶占い』とかいてある看板が。

【+  】ゞ゚)「この水晶には、あなたの未来が映りますよ、お嬢さん」

棺桶を背負っていて。

水晶を使って占いをしている。

間違いない。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:52:38.81 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「あの…すみません」


【+  】ゞ゚)「あーお客さん、順番は守ってください」

順番なんてかまってる暇は無いんだ。
そう叫んでやりたいのを必死で抑える。

今は、無駄に騒ぎを起こせばそれだけ動きが遅くなる。

前の女性が終わるまで待つことにするが、やっぱり気は逸る。

【+  】ゞ゚)「はい、じゃー次の方ー」

三十分ほどして、呼ばれる。
小屋の中は、予想以上に綺麗に整理してあった。

小さいテーブルの上に水晶が置いてあり、客用のような椅子が一つ、置いてある。
調度占い師と向かい合う形だ。

【+  】ゞ゚)「あなたは、何を見てほしいんですか?」

口を開こうとするが、遮られる。

【+  】ゞ゚)「いいえ、やっぱり言わなくていいです。
       水晶に彼方の過去が映っています。」

占い師は少しの間水晶を覗くと、僕の方を見て溜息を吐く。そして。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:54:30.94 ID:vmNSQq2M0





【+  】ゞ゚)「事情は分かります。しかし、水晶を差し上げることはできません」









僕の言いたかったことを、一瞬にして、否定した。






77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:55:29.68 ID:vmNSQq2M0

(;´・ω・`)「なんでですか!?貸してくれるだけでもいいんです!!」

なんでなんでなんで!
いくつもの『なんで』が僕の頭を支配する。
だって、人の命が懸かっているっていうのに!


【+  】ゞ゚)「恐らく。彼方がその霊に使えば、お兄さんは救えるでしょう。
       しかし、この水晶は砕け散る。それだけ強い力をあの霊は持っている」

理由は分かりませんがね。

そう呟く占い師に対して、殺意を覚える。

(;´・ω・`)「だから!兄さんの命を救ってください!」

【+  】ゞ゚)「私の生活が懸かってますし、なにより、その霊が完全に消える保障も無い」

お前の生活がなんだって言うんだ。

兄さんを救いたい一心で、走ってきたんだ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:56:56.82 ID:vmNSQq2M0

(;´ ω `)「くっ…」

だから、


だから…!

【+  】ゞ゚)「お引取り願います」

占い師の声が、響いた。




79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:58:33.22 ID:vmNSQq2M0

**********************************


気付けば、僕は駆け出していた。
水晶玉を、持って。

恐らく窃盗罪って事にになるんだろう。

でも、そんな事は関係ない。
兄さんを救わなきゃいけないんだから。

(;´ ω `)「兄さんを…助けるんだ…」

一心不乱に、走る。
家へ。
兄さんの下へ。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:59:52.28 ID:vmNSQq2M0

玄関を開けて、家へ入る。
あぁ、靴を脱ぐのももどかしい、そのまま入ってしまおう。

階段に躓いて転んでしまう。
膝から血が出ている。関係ないさ。

兄さんの部屋の前へ。ドアを蹴破る。
なんだ、力づくでやれば開くじゃないか。

川 ゚ 々゚)「おまえ!やっぱりじゃましにきた!なんでとびらあけられる!?」

なんで?
そんなの関係あるもんか。

(´゚ω゚`)「うわあああぁぁぁ!」

僕は、部屋に入るなり手に持った水晶玉を

――思いっきり女に向かって投げつけた。


84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:01:35.13 ID:ugm0741U0

女に当たった水晶は、金属同士が当たるかのような音を響かせて砕ける。
霧のように形をなくした女は、それでもなお、兄さんを掴もうと腕をもがく。


川;゚ 々゚)「いやだ!ちかラ!なくしたくない!オトj…のちk…らぁ!」


川;゚ 々゚)「うあぁぁぁぁああははははははははははぁ!!!」

断末魔とも、笑い声とも聞こえる声をあげて、夜の闇に融けていった。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:03:41.98 ID:ugm0741U0

(;´・ω・`)「…消えた…の…か?」

ただ、呆然と立ち尽くす僕。

その耳にふと、くぐもった音が聞こえた。

(`-ω-´)「うんぐぅ…」

兄さんの、いびき。
一気に膝の力が抜けて、僕はその場に倒れこむ。

時刻は、午前十一時四十九分。

タイムリミットまで、あと十分ほどのところ。

(;´・ω・`)「はぁ…長かった」

長い一日が、終わった。
命を懸けた一日が、終わったのだ。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:04:26.84 ID:ugm0741U0

(;´;ω;`)「はは、あははは…」

涙がかってに僕の頬を流れ落ちる。
もう、なにも心配いらないんだ。

気が抜けて、力が抜けて、僕は意識を手放した。

瞼を閉じる寸前の刹那の時間。
涙で滲んだ蛍光灯の白い光が、鼻筋の通った背の高い男に見えた気がした。


90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:05:06.07 ID:ugm0741U0



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