- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:22:51.00 ID:OY0bOpxW0
- 最初は何てことなかった。
寝相が悪かったせいで、腕が痺れただけだと思っていた。
静かなモーター音が空気に乗って耳へと運ばれる。
夜中の静かな道路を、少しの車が走っているようで落ち着く音だった。
時折、パタパタと大粒の雨が降ってくるような気がした。
ぼんやりとした意識が、薄く目を開けるまで。
違和感は微塵も感じなかった。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:23:27.58 ID:OY0bOpxW0
-
・━─ ナイトメアと踊るようです ─━・
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:24:28.17 ID:OY0bOpxW0
- はじめに見たのは青白い光だった。
真っ暗闇の中、ただ一つの光源である青白い光が、部屋を薄暗く照らしていて、
その前にいる人物を青白く浮き上がらせている。
その背中に
(しぃ!)
と、呼びかけようとして、
オレは悪夢の中にでもいるのかと錯覚した。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:25:34.80 ID:OY0bOpxW0
- ( )
そこに居たのはどこからどう見ても男の骨格だった。
思わず骨格、と浮かんだのは、
その男の体格が、あまりにも申し訳ない程度だったからだ。
夢であれ。
オレはまばたきし、再び目をぎゅっとつぶった。
そして気合十分に目を開ける。
やはり男は男のままだった。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:27:48.93 ID:OY0bOpxW0
- 腕を上げて、後ろを向いてばかりの男の背を叩こうとした。
その腕が上がらなかった。
(オマエは誰だ?)
言おうとした言葉は、再度器用に飲み込んだ。
何が起きたのか考える。
この非常事態において、自分でもびっくりするほど冷静だった。
オレはまだ夢の中にいるのだろうか。
オレの腕は、丁度尻の後ろ、尻尾あたりまでまっすぐ伸びていた。
そこで両腕がまとまっている。
硬い輪が手首を包んで、意外と軽い金属のようなものが、輪同士を繋ぎとめていた。
これをつけたのは、この男なんだな、と直感した。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:28:56.75 ID:OY0bOpxW0
- 目覚めたと気付かれる前に、なんとか自由を取り戻さなければ。
オレはその一心で、腕を輪からひっぱった。
けれど、中々にその輪は手首にフィットしていて外れない。
時間ばかりが過ぎていくと、少しずつ焦りに加算される。
無理に外そうとして、金属同士が激しく音を立てた。
そのせいで男が気付いた。
男は一度ピクリと耳を動かした。
自分のしていた動きを止めて、それから左右を確認する。
( _ゝ)
暫くして、振り向く。
ぼんやりと宙を見つめてから、オレに目線を動かす。
愚鈍だ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:30:35.47 ID:OY0bOpxW0
- ( _ゝ )「 …… 」
男はオレを見て、少し顔を近づける。
睨むように眉をしかめてから、立ち上がった。
( _ゝ
久しぶりに立ったかのように、男はおぼつかない足取りだった。
ようやく扉まで歩き、明かりをつけた時には、
オレが心配してしまうほど、足が震えていた。
そしてゆっくりと口を開く。
( _ゝ )「 お き た の か ? 」
どこかたどたどしい印象を受ける口調。
ようやく喋れるようになった子供ほど稚拙だったが、可愛らしさは皆無。
その一音一音がねっとりと耳にこびり付く。
( _ゝ )「 お き た? 」
男は繰り返した。
オレに意識があろうが、なかろうが、何の問題もないように思える。
それでも、オレは返事をすることができなかった。
男は首を傾げると、「おきた」と繰り返し呟きながら部屋を出て行った。
すぐに足音が遠くなる。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:32:10.26 ID:OY0bOpxW0
- 部屋に誰も居なくなっただけで、安堵がオレを包む。
勿論、一刻も早くここから出なければいけない。
何故オレがこんなところに居たのかは、後から考えれば良いことだ。
男が電気をつけたおかげで、現状がさっきよりも正しく理解できるようになった。
手は、背中で何かに纏められているようだったが、その他の部分は何ともない。
コートはご丁寧にハンガーにかけられているが、
その他の服装は、帰宅時に来ていた時のまま。
つまり、まだ何もされていない、ということ。
あんな気持ち悪い人間と、これ以上一緒になんて居たくない。
何かされる前に、逃げないと。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:33:36.69 ID:OY0bOpxW0
- オレはなんとか足だけで立ち上がった。
もし足も縛られていたら、駄目だったかもしれない。
あの男の、頭の悪さに感謝するしかない。
背中でドアを押して、廊下へ出た。
部屋の明かりが外へ漏れ、闇が光を吸収する。
部屋を出るときは、底なし沼に足を取られそうだった。
足元を探りながら、長い廊下を進む。
やがて階段らしきところに、爪先が引っかかった。
ぼっかりとあいた口がオレを見つめている。
一歩、また一歩と、牛歩で階段を降りていく。
ようやく、一番下までついた時、靴下にぬるりとした感触が染み込んだ。
きみがわるい。
それでも壁沿いに歩いていく。
こうやっていれば、そのうち玄関にたどり着くはず。
それだけが唯一の希望で、しかしシャボン玉よりも脆弱だった。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:34:18.86 ID:OY0bOpxW0
- 闇の中に、一筋の光が差し込んだ。
あまりにも眩しくて、オレは目を細める。
男が戻ってきたんだ。
( <_ )「 !」
男はオレを見つけるや否や、小走りに近づいてきた。
オレは慌てて逃げようとするが、元より逃げ道などない。
あっさりと襟元を掴まれ、物のように引きずられた。
その力は有無を言わせぬもので、
先ほどのたどたどしい振る舞いとは似ても似つかなかった。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:36:11.18 ID:OY0bOpxW0
- 乱暴に投げ飛ばされた場所はリビングらしい。
何度も何度も目をしばたかせてようやく明るさに慣れた頃、
聞こえたのは、か細い悲鳴だった。
つい数分前、部屋で見たやつが床に転がっている。
(; _ゝ )「はっ はひ ごぁ ご ご め な さ ひっ」
( <_ )「逃げてるじゃないか、どうしてちゃんと縛っておかない」
(; _ゝ )「にげっる と おも わ なくて いぎっ」
( <_ )「思慮が足りないんだ」
そう言って思い切り蹴り上げた。
布切れのように簡単に、オレの横まで飛ばされ、壁にぶつかる。
焦点の合わない目で、オレを見た。 助けて、と。
(;*゚∀゚)「うわ!ちょっ……くんじゃねえ!」
ボロキレのような男は、
もう1人の男が近づいてくると、性急に、オレに抱きついてきた。
骨ばった腕が、震えながらオレの服を握り締める。
何だ、こいつは。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:40:13.76 ID:OY0bOpxW0
- ( <_ )
もう一人の男はその様子を、冷めた目で見つめていた。
睨んでいる、と表現した方が正しいかもしれない。
ふん、と小馬鹿にしたように鼻で笑った。
( <_ )「次はちゃんと見張ってろ」
そう言って背を向けると、男の腕から緊張が解けた。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:42:24.93 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「オマエは誰だ?ここはどこだ?」
( ´_ゝ`)「兄者 弟者 俺の 家」
リビングの隅で、オレは男を問いただした。
思ったよりも男……兄者は素直に答えた。
元々、あまり思慮深い性格ではなさそうだったが、
オレの緊張を和らげるのにはちょうどよかった。
(*゚∀゚)「どうしてオレはここにいるんだ?」
( ´_ゝ`)「弟者が つれて きた」
(*゚∀゚)「なんで」
( ´_ゝ`)「ひとけの ない 場所に いた から かと」
しかし兄者の答えは的を得ないものだった。
一から十まで説明しないと、オレが聞きたいことが返ってこない。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:44:15.23 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「何をするために、連れてこられたんだ?」
( ´_ゝ)
あからさまに目を逸らした。
下唇を噛み、視線が床や天井を跳ね回る。
嘘をつくのも苦手らしい。
(*゚∀゚)「何をするために、連れてきた」
( ´_ゝ)「 …… 」
( ´_ゝ)「ころす ため 」
一瞬、兄者が何を言ったのか理解できなかった。
オレも彼と同じように、床や天井をうろうろと見つめた。
(;*゚∀゚)「何で、殺すんだよ」
兄者は、驚愕した様子でオレの目を見た。
今にも泣き出しそうな表情になる。
あとは何を聞いても首を振るばかりだった。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:46:15.78 ID:OY0bOpxW0
-
(*゚∀゚)「オイ、コレ、外せよ」
兄者が落ち着いてから、
オレはわざと音がなるように後ろ手を揺らした。
( ´_ゝ`)「だめだ それは できない」
(*゚∀゚)「なんで?」
( ´_ゝ`)「 逃げる」
(*゚∀゚)「逃げねーよ」
( ´_ゝ`)「弟者に おこられる」
(*゚∀゚)「大丈夫だって、オレがおめーの弟を説得してやるよ」
( ´_ゝ`)「むりだよ」
(*゚∀゚)「やってみねーと、わかんねえだろ?」
( ´_ゝ`)「鍵 ないし」
(*゚∀゚)「取ってくれば良いだろ、協力するぜ」
彼はオレをちらりと見ると、膝をかかえて黙り込んだ。
オレの言葉に、心が揺らいでいれば良い。
そう思って待った次の言葉は、想定外のものだった。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:48:36.43 ID:OY0bOpxW0
- ( ´_ゝ`)「このあいだ 人がきた」
(*゚∀゚)「人? それがどうした」
( ´_ゝ`)「髪が長い女 だった ずっと 首をかしげていて」
(*゚∀゚)「かしげていて?」
( ´_ゝ`)「その人に弟者は 会って なにか 貰った それから 様子がおかしい」
兄者は、ぎゅっと自分の体を抱きしめる。
その意味するところは、オレも知っている。
さきほど見た"アレ"は、それからの日常的な行為だったのだろう。
( ´_ゝ`)「前は おとなし かったのに 」
体のあちこちについている傷は、見なかったことにした。
申し訳ないが、彼の心配をするよりも自分の心配をしていたい。
( ´_ゝ`)「あれから 人を 家に 連れて くるよう に なって」
( ´_ゝ`)「でも それが 何故か は わからない」
( ´_ゝ`)「すまん」
これはさっき、オレが聞いた質問の答えなのだろうか。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:52:09.18 ID:OY0bOpxW0
- それからずっと、オレらは無言だった。
兄者はオレを見張っているだけなのだから、喋る必要はないのだろう。
もとより、人と話をするのが苦手そうであった。
しかし、この沈黙は一分一秒を非常に長く感じさせた。
兄者がいるから、オレは逃亡することができない。
いや、彼だけなら、逃げ出すことは可能だろう。
喧嘩には自信がある。 そして兄者は貧弱だ。
足だけでも倒せるだろう。
だが彼の弟を呼ばれては、寿命を縮めるだけのような気がした。
何度も色んなシミレーションをしてみる。
ここは見知らぬ家。
どこに何があるのかもわからない。
脳内ですら、どうにも良いルートが見つからなかった。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:54:03.12 ID:OY0bOpxW0
- 30分ほど経て、弟者が戻ってきた。
何も変化の無いように見えて、どことなく彼から異臭がする。
その臭いの元を探ろうとしていたら、彼の右手が目に入った。包丁だ。
オレも毎日お世話になっている、これと言った特徴のない包丁。
もしもこれが食事時であったら、違和感は無いのかもしれない。
しかし、その刃が、赤く、ねとりと鈍く光っている。
血だった。
彼からした異臭は、誰かの血だ。
スーパーで売っている肉なんかとは全く違う、生臭さ。
怪我をした傷を、湿気の多いところに放置し、腐らせたかのような。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 15:58:48.08 ID:OY0bOpxW0
- 胃の腑が冷える。
今までは、焦りの中にもどこか余裕があったようだった。
リアルが一気に押し寄せる。
彼が包丁を持ったまま近づく。
オレは殺されるのか?
彼が、口を開いて、
(´<_` )「兄者、少し疲れたから、風呂入って寝るわ」
( ´_ゝ`)「把握 した 俺は どうすればいい ?」
(´<_` )「それを連れて、先に2階に戻っててくれ。
それは……明日で良い」
( ´_ゝ`)「わかっ た」
(´<_` )「逃がすなよ」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:01:23.92 ID:OY0bOpxW0
- オレはこの狂った2人と同じ部屋で一晩を過ごした。
生きた心地も、気の休まる時もない。
ベッドのスプリングが時折軋むたび、オレは飛び跳ねそうになった。
寝ている間に逃げ出してしまおう。
何度もそう思った。
その度に、ベッドの上で寝ている男が、
オレをじっと見張っているような気がして、体が強張る。
あの包丁は今ここにないのに、
この男がいるだけで、部屋全体が血に染まったかのように、臭った。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:03:37.76 ID:OY0bOpxW0
- 絶対に寝てやるものか。
ずっと起きていて、逃げるタイミングを掴むんだ。
朝早くなら、朝日もあるし、電気がついていなくても見えるはずだ。
そう決心したのに、気付いた時には太陽がカーテン越しに部屋を照らす。
時計を見ると、11時過ぎ。
ベッドの上は一人しかいなかった。
(;*゚∀゚)「お、おい!」
( _ゝ )
(;*゚∀゚)「おい! 起きろって! 寝てんじゃねーよ!」
( _ゝ )「 なんだ」
もとより細い彼の目の開閉はわからなかったが、
兄者は目を瞑ったままで返事をした。
声がまだ寝ている。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:04:25.06 ID:OY0bOpxW0
- (;*゚∀゚)「あ、あいつはどうした?」
( ´_ゝ`)「弟者? 仕事だ よ」
(*゚∀゚)「仕事……ってことは今いねーのか?」
( ´_ゝ`)「いない な」
(*゚∀゚)「何の仕事だ? いつ帰ってくるんだ?」
( ´_ゝ`)「さぁ 」
(*゚∀゚)「オレを、いつ殺す予定だ?」
( ´_ゝ`)「今日 帰ってきて からだと おもう けど」
(*゚∀゚)「じゃあ、その間に逃がせよ。
お前は別に、オレを殺したいわけじゃねーんだろ?」
( ´_ゝ`)「むり だよ
なんだ よ まだ お昼じゃ ない か」
兄者は体を少し起こして時計を見る。
すぐに眉を潜めると、オレに背を向けて布団をかぶりなおした。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:06:20.59 ID:OY0bOpxW0
- ( ´_ゝ`)「あと 2時間は 寝る 用ない おこさ 」
一応返事はしたものの、未だ眠りの中だったのだろう。
すぐに寝息が聞こえてきた。
チャンスだ。
逃げるなら今しかない。
敵の居ない、今しかない。
昨日と同じ要領で立って、玄関へ行けばなんの問題もない。
警察へ行って、THE ENDだ。
そう思ったのに、立ち上がれなかった。
どうやら、装備を寝ている間に強化されていたらしい。
腕どころが、足にまで錠が付いていた。
その上、腕と足の錠を、何かでつながれている。
えびぞりなんて、体育の時間以外で初めてだ。
こんなアイテム、一体どんな顔をして買うんだろう。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:07:59.15 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「オイ! オイ!!」
(*゚∀゚)「おい、起きろってば、兄者!」
( ´_ゝ`)「 こんどは なに」
大層面倒臭そうな声色だった。
ピクリとも動かないで、仕方なく答えている。
(*゚∀゚)「トイレに行きてえんだけど!」
( ´_ゝ`)「いってくれば てか うるさい」
(*゚∀゚)「繋がれてて、立てやしねーよ、行けねえだろ」
( ´_ゝ`)「そこですれば」
(;*゚∀゚)「なっ」
そう言われるとは思わなかった。
何てデリカシーのない男だ。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:13:02.94 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「別にオレは良いケドなー!臭うぞーくさいぞー。
てめーが後で、あの弟に怒られても、オレは知らないぜ?」
(;´_ゝ`)「 …… 」
兄弟がそんなに怖いのか、渋々だが起きた。
目を擦りながら、オレに近づく。
机の引き出しから、何本かの鍵を取り出した。
(*゚∀゚)「なんだ、鍵、あるんじゃねーか」
オレの言葉には答えず、もたもたした動作で、鍵を開けていく。
流石に手は解いてくれないだろう。
仕方ないが、足さえ自由ならどうにでもなる。
( ´_ゝ`)「トイレは 1階の 降りたすぐ 左手の ドアだから」
(*゚∀゚)「……あ?」
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:14:43.44 ID:OY0bOpxW0
- 気付いたら両手両足全てが自由になっていた。
何故?
何かの罠か?
自問自答する。 答えはでない。
当の本人は、既に布団の中。
( ´_ゝ`)「終わったら 戻って き 俺 寝 て ぉ」
言い終わる前に言葉は途切れた。
揺さぶってみるが、眉をひそめるばかり。
(*゚∀゚)「………」
正真正銘の、大馬鹿者だ!
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:14:59.28 ID:OY0bOpxW0
- オレだって頭は良くないと自分でもわかっている。
そんなオレよりも、もっと悲惨な奴がいた。
だが、可哀想に思って、戻ってくるわけもない。
弟が帰宅したら、存分に怒られれば良い。
殴打されようが、蹴られようが、どうせ殺されないだろうから問題ない。
オレの知ったことじゃない。
(*゚∀゚)「うひゃっ」
歓喜に震えながら階段を駆け下りた。
最後の3段は飛び越えてどすんと大きな音がする。だが問題ない。
なんせこの家に居るの唯一の住人は、2階でのん気に寝ているのだ。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:18:38.26 ID:OY0bOpxW0
- 1階へ降りて、すぐ左手にあるトイレの扉をスルーする。
目指すはその奥の、玄関の扉だ。
冷たいドアノブをまわして
押す。 開かない。
引く。 でも開かない。
(*゚∀゚)「あ、ああ……なんだ、鍵かかってんのか」
そう思って鍵を回そうとした。
が、肝心のサムターンが無い。
(*゚∀゚)「あれ?なんだこれ?」
扉にはほぼ必ず付いているサムターンがどこにもみつからなかった。
それどころか鍵穴すらついていない。
ドアノブがついただけの壁にようだった。
(;*゚∀゚)「なんだこれ……」
オレはきびすを返した。
玄関から出なければいけないというルールなんてどこにもない。
ここが駄目なら、窓を探せば良い。
窓なんていくらでもあるはずだ。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:21:37.62 ID:OY0bOpxW0
- リビングの扉を開けた。
とたんに広がる匂いは、甘美にオレの鼻をくすぐった。
テーブルの上に、ラップされた料理がいくつも並んでいる。
未だに睡眠中の兄者のためのものだろう。
(*゚∀゚)グギュルルル
(*゚∀゚)「………」
オレの気分を無視して腹が鳴った。
そういえば、昨日からずっと何も食べていない。
そうだ、ちょっとくらい食べたって、問題ないだろう。
(*゚〜゚)
(*゚∀゚)「うまい」
変わった味だった。
似たようなものでも家庭によって味が違うというのは、本当なのだな。
少しだけ、少しだけ、と食べていく間に、害していた気分が満たされていく。
彼の食事はなくなったが、それ以上の力を得られた気がした。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:21:53.08 ID:OY0bOpxW0
- このリビングの奥には扉があった。
昨日の夜、弟者が生々しい刃を手に戻ってきた所。
小奇麗にされているリビングの中で、その扉だけ薄汚れている。
なぜか目が放せない。
建付けが悪いのか、閉め忘れたのか。
数センチほど隙間が開いている。
その奥で何かが蠢いている気がする。
何かがオレを呼んでいる。
扉を開けずして、ここから離れられることなど出来なかった。
隙間を、軽く押す。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:22:02.75 ID:OY0bOpxW0
- 扉は、ギィ、と耳障りな音を立てて開いた。
白昼の静けさに妙に響く。
鼓動が早くなった。
オレは、そこに弟者がいるような錯覚を受けた。
あの男の臭いが、異臭が、一気にオレの周囲を包んだのだ。
実際、それは酷い臭いだった。
あまりにも臭いがきつく、視界が歪む。
目の前が瞬く間に白くなって、黒くなる。
ひっくり返りそうになったところを、なんとか踏ん張った。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:22:11.70 ID:OY0bOpxW0
- 既に、これは血じゃなかった。
乾ききって焦げ茶色に変色して、奇妙な皮になっていた。
ざらざらとした表面が、水平に、滑らかに、脱衣室にこびり付いている。
今更掃除をしたところで、綺麗になりそうになど無い。
(;*゚∀゚)「誰かいるのか?」
我ながら間の抜けた質問だ。 人のいる気配はない。
それなのに、人がいる気がする。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:24:35.30 ID:OY0bOpxW0
- キッチンの奥の扉の向こうの――脱衣室。
勝手口にもなっているらしく、入って右手に扉が見えた。
その扉も、錆付いていて開きそうに無い。
入って左手には鏡があり、正面にはバスルームがある。
どこもかしこも黒ずんでばかりだ。
もう少し奥へ行こうとして、止めた。
向こう側はまだ血が乾いておらず、
靴下にねとりとした感触が染み付いたからだ。
(;*゚∀゚)「ひでぇな……」
オレはその場を後にしようとした。
振り向いて、リビングに戻ろうとした、その時、
今まで居なかったはずの女が宙ぶらりんに浮いていた。
川 川
(;*゚∀゚)「ひゃっ!?」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:27:00.05 ID:OY0bOpxW0
- 脱衣室の内側の壁に、縄で縛られ、干されている。
長い黒髪は油っぽく血で固まり、
包帯で乱雑に巻かれた体は、殆ど肉を削がれていた。
(;*゚∀゚)「くっ……こりゃ、ひでぇ……」
男の気分によっては、未来の自分かもしれなかった。
そう考えると、背筋に冷たいものが走る。
川゚ 川
その女が、風もないのに揺れる。
揺れて、その髪の隙間から、暗い眼球が覗く。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:29:11.49 ID:OY0bOpxW0
- 川゚ 川「あ……あ゛あ………」
まだ、死んでなかったんだ。
(;゚∀゚)「あ……あ、あ……」
川゚ 川「だ、あ……あ゛す…………げ………」
(;゚∀゚)「あああ……あひゃあっ…あああああああ!!」
頭の中が空白になった。
一通り叫んでから、今までに無い速さで脱衣室を飛び出す。
眩暈がするのも振り払って、扉を思い切り閉めた。
「ま……で……だ、ずげ………お、ね……」
(;゚д゚)「ああああああああああ!!あ゛ああああああ!?」
扉の向こうでうめき声がする。聞きたくない。
あんな状態でまだ生きているなんて、考えるまでもなく地獄だ。
でも、ダメだ、オレにはどうすることも出来ない。
あんたの存在を受け入れられない。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:32:08.21 ID:OY0bOpxW0
- オレは扉を小刻みに開閉しながら、叫び続けた。
ぎぃ、ぎぃ、と何度も扉が軋む。
扉に合わせて、女の声も呻く。
次第に、消えていく。
(;* ∀ )「あああああ!あああああああああああ!!」
それでも、腕は止まらない。
あの女の顔が脳裏に焼きついている。
絶望に身を寄せて、苦痛の沼に浸かっている。
これは悪夢に違いない。 と、血の涙を流して。
その声が消えてなくなっても、オレは腕を動かし続ける。
ぎぃ、こ、ぎぃ、こ、ぎぃ、こ、と―――
(;´_ゝ`)「なに やってるんだ !」
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:33:37.58 ID:OY0bOpxW0
- オレを止めたのは、オレの奇声に駆けつけた兄者だった。
抱きしめるように囲われて、扉から引き剥がされる。
(; д )「あああああぁぁああ゛あ!?」
こいつ自身は無害だとわかっていたはずなのに、さっきの"死体"が思い出される。
殺される、と思った。
殺されて、それでもまた死ぬことができず、生死の境を宙ぶらりんのまま漂う。
そんなこと絶対に嫌だ。死ぬよりも嫌だ。
(;´_ゝ`)「ぐっ う ああっ 」
兄者をキッチンに突き飛ばして、ようやくオレは落ち着いた。
調理台に乗っていた色んなものが床にばらまかれる。
フライパン、ボール、皿、箸、茶碗――包丁。
(;´_ゝ`)「!」
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:35:01.75 ID:OY0bOpxW0
- その包丁を見た時、兄者の目の色が変わった。
武器になるから、というよりも、ひどくおびえた目だった。
慌てて拾おうとするが、それより先にオレが飛びかかる。
これと言った特徴のない、普通の鉄包丁だった。
(*゚∀゚)「………」
(;´_ゝ`)「………」
その包丁は、手入れがされていてよく切れそうな刃だった。
使い込まれた柄はとても手になじむ。
迷わずに、その切っ先を兄者の首筋に押し当てた。
仰け反った首からは薄く血が滲む。
ちょっと力を入れただけで、真っ二つになることは明白だ。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:38:49.38 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「……どこから外に出れる?」
(;´_ゝ`)「だ めだ 教えら れ ない 」
(*゚∀゚)「玄関も勝手口も開かない」
(;´_ゝ`)「逃がし たら 俺が 怒られ る 」
(*゚∀゚)「窓には鉄格子がついている……どこから出られる?」
(;´_ゝ`)「 たのむ 逃げない で くれ たの む」
(*゚∀゚)「兄者」
オレは包丁の刃を下に持ち替えた。
兄者の手の甲に思いっきり突き刺す。骨を避けて貫通する。
兄者は叫ぼうとして口を開けたが、
上手く声が出せずにひゅうひゅうと喉が音を立てるだけだった。
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:41:03.80 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「兄者、どこから出れるんだ?」
答えが返ってこないことを承知で再び聞く。
手の甲に刺さったままの包丁を、ぐりぐりと抉るようにまわしていく。
フローリングに血溜まりができて、兄者の服に染み込む。
さっきあれだけうろたえたのが嘘のように、オレはその血溜まりを眺めていた。
あまりの痛みに耐え切れず、兄者が暴れる。
すると簡単に、包丁から兄者の手は抜けた。左手の、人差し指と中指の間から。
(; _ゝ )「あ゛あっ! あ゛っ あ゛ っ! あ゛っ!」
のたうちまわる兄者をオレは思い切り蹴り上げた。
布切れのように簡単に飛んで、壁にぶつかる。
そして左手を抱えて、焦点の合わない目でオレを見た。 助けて、と。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:42:52.93 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「どこから外に出れる?」
すがりつく視線を無視して、血だらけの包丁を兄者の目の前でちらつかせながら、オレは聞いた。
今度はちゃんと返事が返ってくる。
今までずっと細く閉じられた目が、脅えて少し開いているのを見れば確信するまでもない。
(; _ゝ )「あ゛あ゛っ あ゛っ うう うああ゛ あっ」
喘ぎながら、兄者は視線を一点に移動させた。
視線の先には巨大な鏡が掛けられている。丁度ドア位の大きさだ。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:44:24.80 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)(これでやっと逃げられる)
時計を見ればまだ昼だ。おやつの時間にすらなっていない。
弟がいつ帰ってくるかはわからないが、兄者の話を考えると暫くは帰ってこなそうだ。
これでやっと帰れる。
いつ殺されるのかに脅えてビクビクしなくても良いんだ。
一刻も早く帰って、心配して待っているであろう姉――しぃに会って、
無差別連続誘拐犯――本当は殺人犯だったけど――を通報して、
それで悪夢は終わり。
それで終わりなのに。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:46:05.24 ID:OY0bOpxW0
- 何故か手に持った包丁が放れない。
別にくっ付いているわけじゃない。
それなのに、指が包丁を放してくれない。
気味が悪くて、自分の右手をじっと見た。
腕から生えているように自然にある包丁がきらりと光る。
さっき切った兄者の血が付着している。
とても興奮した。
包丁に付いた血をぺろりと舐めてみた。
そんなもの美味しいわけがないのに、夢中でそれを舐めとる。
おかしくなったんじゃないかと自分で思うのに、頭ははっきりとしている。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:47:59.91 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「……早く帰ろう」
包丁に血が一滴も無くなって、オレははぁと息をついた。
言葉に兄者が反応する。
脂汗を流しながら痛みを必死に耐えているのに、それでもまだ足掻く。
(;´_ゝ`)「 そ そ れは 置いていって くれ え 」
(*゚∀゚)「それ?」
(;´_ゝ`)「 包丁 を お それだけは あ だめだ 弟者が お おこる 」
(*゚∀゚)「そう……怒る。怒るかもしれない」
(;´_ゝ`)「 そう だ だから 」
(*゚∀゚)「でも、怒るだけじゃねーか。殺されはしない。そうだろ?」
殺されないのは兄弟だからだろう。
他に理由は見当たらないし、
他人だったらあんな殺人鬼とずっと一緒に居て生きているはずがない。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:49:58.03 ID:OY0bOpxW0
- (;´_ゝ`)「 だけど た のむ それだ は だ めだ それは 」
ふらふらとおぼつかない足取りで、兄者はオレに近づいてきた。
兄者が見ているのはたった一つ。オレの持っている包丁。
何故兄者は――悪夢の元凶である弟は、この包丁にこだわるのだろう。
それはわからない。
ただ一つ明瞭なのは、
オレはそれを渡す気など全くないということくらいだ。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:51:51.53 ID:OY0bOpxW0
- 近づいてきた兄者を包丁で切りつけた。
伸ばしてきた手の指がころんと抜け落ちた。本当によく切れる包丁だ。
兄者は再び大きく叫んだ。耳を劈くような悲鳴が壁を震わす。
指の先から波打つように血が滴り落ちる。
オレはそれを見て、どうしても息が荒くなる。包丁を持った手が興奮に脈打つ。
立ちすくんでいる兄者を蹴り飛ばすと簡単に転がった。
今度はオレを見上げる余裕も無いらしく、指の無くなった手を震わせている。
そんな兄者をひっくり返して、その足首に包丁を思いっきり付きたてた。
ひゅう、と一瞬血が舞う。オレの服に散らばる。そして床に染み込む。
切断まではいかないが、もう歩くことはできないだろう。
ずっと続いていた叫び声だったが、両足が真っ赤になる頃には息をするのもだるそうだった。
こいつは今まで誰も殺したことはないかもしれない。
それでもオレは、ざまぁみろ、と吐き捨てた。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:53:15.57 ID:OY0bOpxW0
- 鏡をどけるとそこにもう一つの扉があった。
玄関のはカモフラージュなのか、逃げられるのを防止するためなのか。
どちらにしろ、そんなことよくもまぁわざわざするものだ。
――それだけ人を殺すつもりだったのだとも言えるけれど。
ドアを開ける前に、もう一度振り返った。
兄者は相変わらず床に這い蹲っている。
うっすら開いた瞳は死んだ魚のようで、どこを見ているのか定かではない。
時折、車がサァァ、と走る音に混じって兄者が呻いた。
木々の囁きよりも小さな声で
――いたい――たすけて――――だれか―― と。
オレは少しの間耳を傾けていたけれど、結局兄者が弟の名を呼ぶことはなかった。
血だらけの包丁を持ったまま、服を真っ赤に染めたまま、
オレは外への扉を開いた。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:55:27.24 ID:OY0bOpxW0
- ――それから1週間が経った。
オレは警察に連絡はしなかった。
せずとも、ちゃんと彼らは捕まった。
弟が救急車を呼んだのがキッカケのようだった。
『――ということで、無差別連続殺人事件はまだ続いているようです。
VIP町周辺の皆様、引き続き外出はなるべく控え、一人で出かけることのないように気をつけてください』
リビングに戻ると、しぃがテレビを見ていた。
あろうことか例の事件だ。あれから1週間も経つのに、まだ警察も報道も収まらない。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 16:58:00.28 ID:OY0bOpxW0
- 『流石弟者被告は犯人ではないということですか?』
『共犯者がいたようです、流石弟者被告の証言もあやふやなものが多く、
更に凶器も見つかっていないようで』
『ということは流石兄者被告が襲われたのも、その共犯者が?』
『検察側がはっきりとしたことを言ってないのでわかりませんが、犯人側で何かがあったんでしょうね。
今のところ、流石兄者被告の回復を待って尋問を進めるようです』
『それにしても皮肉なものですね、今まで散々人の命を奪っておいて、
自分の兄の命は見捨てられず、捕まるな―― ピッ
(*゚;;-゚)「……あ……見てたのに」
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:00:38.24 ID:OY0bOpxW0
- (*゚∀゚)「こんなの見なくたって良いだろ」
(*゚;;-゚)「今はどこ見たってこればっかりやってるんだもの。
連続殺人事件、終わったと思ったのに共犯者が居たんだって。
失踪者は増え続ける一方……警察は血眼で犯人を捜している」
(*゚∀゚)「へぇ、怖いな」
(*゚;;-゚)「それはどういう意味で?」
うふふと笑って、オレの手元を見た。
その目は口元と違って笑っていない。
視線の先の手元は、さっきキッチンに行って来たばかりだから、まだ血が付いている。
(*゚∀゚)「それよりご飯食べようぜ、オレ腹ペコ」
(*゚;;-゚)「うん……そうだね」
服で手を拭いて、それから飯を頬張った。
家庭によって味が違うというのは、嘘だと思う。
結局は素材とか、調味料とかの問題なのだ。
犯人宅で食べた味を、何故変わった味だと思ったのか、今ならわかる。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:02:50.72 ID:OY0bOpxW0
- しぃが戸惑いながら飯を口に運んだ。
肉の味にまだ慣れないらしい。
(*゚;;-゚)「そういえば、この間女の人が来たわよ」
しぃがそう言った。
へぇ、と相槌をして続きを促したが、話はそれだけだったらしい。
(*゚∀゚)「女の人、か」
最近誰かの視線を感じるようになった。
はじめは警察に見つかったのではと思っていたけど、そうではなかった。
ふとした瞬間に、首をちょっとかしげている髪の長い女がオレを見ている。
それはきっと彼らの共犯者なのだろう。
共犯者であり主犯の彼女が、包丁を持ったオレをじっと見つめている。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:03:48.43 ID:OY0bOpxW0
- 彼女が居なくならない限り、オレは悪夢から目が覚めない。
それでも良いんじゃないかと思っているオレもいる。
彼女はずっと人を殺し続ける。
理由はオレにはわからない。
ただ一つわかっていることは、
(* ∀ )「クク……アヒャヒャ……」
この夢から目が覚めるまで、オレはナイトメアと踊り続けるのだ。
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