- 3 名前: ◆L66fmP/Ue6[sage] 投稿日:2010/04/23(金) 20:20:07.66 ID:V7ABVU9B0
- 平常なんてつまらない。
ありきたりな言葉だけれど、俺の今の心境を簡単に一言で語ってしまえばそれに尽きた。
だってそうだ。
毎日が面白くない。
同じことの繰り返し、ルーチンワーク、鬱屈とため息の混合物。
- 4 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:21:08.87 ID:V7ABVU9B0
- やる気だって出ない。
分かりきってるからだ。
平常を重ねて重ねて重ねて重ねても、その上にあって手が届くのはまた別の平常だ。
やる気なんて出るわけが無いんだ。
ほとほとウンザリしている。
- 5 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:23:05.26 ID:V7ABVU9B0
- 厨二病なんだろう、きっと。
そこら辺の自覚はしてる。
モラトリアム特有のこの厭世感と憂鬱の間でぶらぶらと揺れている。
なんだっていいから、俺のこのどうしようもなく退屈で閉塞した世界にヒビを入れてくれる何かをずっと探している。
- 7 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:27:22.67 ID:V7ABVU9B0
- 「そんなの見つかりっこない」って心の中で思っていて、「じゃあお前現実を見ろよ」っていう心の声も聞こえてきて、それでもやっぱりやる気が出ない。
どうすればいいんだろう。
何が俺には必要なんだろう。
本当にその摩訶不思議で退屈なんて吹き飛ばしてくれる出来事だけが俺にやる気を与えてくれるのだとしたら、俺はどうなるのだろう。
起こりえない出来事だけが起爆剤の人間なんて、一体全体どうやって生きていけばよかったのだろう。
いきなり文章が過去形になったのは、そのあり得ない出来事が、
しかもこの退屈な世界にヒビを入れるどころか、
ミサイルをぶち込んだくらいに木っ端微塵に吹き飛ばすような出来事が、突然にやってきたからだった。
- 8 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:28:42.25 ID:V7ABVU9B0
- ―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ドクオ」
('A`)「あん・・・?」
不意に名前を呼ばれて、俺は机に突っ伏していた頭を上げて声のした方向を向いた。
( ^ω^)「授業、終わったお」
声の主であり俺の友達でありデブであるブーンが俺を目を合わせてそう言った。
その言葉で俺は授業中に退屈の余り睡眠をすることにしたという記憶を取り戻した。
('A`)「・・・あー」
大きく背伸びとあくびをして、うっかり涙目になりながら、俺はよく言えば心優しきデブ、悪く言えばデブであるブーンに返答する。
('A`)「終わったか・・・なんか提出物とかあった?」
( ^ω^)「ないお。っていうかあっても出さないじゃんドクオ」
('A`)「まぁね」
- 9 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:31:43.08 ID:V7ABVU9B0
- 机の脇に掛かっている鞄を手にとって席を立つ。
今日の授業はもうない。とすればさっさと帰るに限る。
('A`)「お前は今日も部活だろ?」
分かりきったことを聞くと、ブーンはうん、と頷いた。
( ^ω^)「もうインターハイ近いから・・・」
インターハイ。素晴らしい響きだ。
運動部所属高校生にとってはそれに出場する奴らは階級のトップだ。
そうじゃない俺にとってはもう雲の上の奴らだ。
凄い努力と才能で青春を駆け抜けていく。
うらやましいと思う。
同時にその立ち位置に俺が並ぶことが無いことも知っている。
やらないんじゃない。無理だからだ。
俺の人生のどの部分でそれが決まってしまったかは覚えていないけれど、とにかく今の俺にはもう無理だ。
思考終了。
- 11 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:33:26.54 ID:V7ABVU9B0
('A`)「夏真っ盛りの糞暑い中、ご苦労なこったな」
( ^ω^)「まぁドクオみたいなヒョロ男とは身体の構造が違うんで」
('A`)「そうだな、パッと見て体脂肪率に確固たる差があることは認めざるを得ないな」
(#^ω^)「筋肉だっつってんだろうが。押しつぶすぞ」
('A`)「キャーコワーイ」
アホな会話。
('A`)「まぁ頑張ってくれよ」
本心なのか上辺だけなのか自分でも良く分からない言葉で別れを告げて、俺は教室を出る。
- 13 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:36:20.55 ID:V7ABVU9B0
俺の自宅は学校から徒歩15分。
俺は自転車には乗れない。
補助輪がついているなら別だが、そんなモンつけた自転車に乗るくらいなら徒歩の方が数千倍マシである。
ので、その道程をその時間をかけて歩く。
けれど、その日は予定を4分オーバーして徒歩19分になった。
もうすぐ家が見えてくるという帰路の終盤。
近所の公園の脇の道を歩いていると。
「あの」
背後から声をかけられた。
- 14 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:42:05.29 ID:V7ABVU9B0
ミセ*゚ー゚)リ 「すいません・・・」
振り向くと、そこには女の子がこちらを申し訳なさそうに伺いながら立っていた。
かなり可愛い娘だった。
(*'A`) 「・・・」
俺は一瞬気を取られて、しかし呆けていてはカッコ悪いので平然を取り繕って、
('A`) 「何?」
と出来うる限り最大出力のカッコいい声を出して言った。
ミセ*゚ー゚)リ 「今は何月何日でしたっけ?」
(;'A`) 「・・・はい?」
- 15 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:46:37.03 ID:V7ABVU9B0
ミセ;゚ー゚)リ 「あれ、通じてないのかな・・・?」
いきなりヌケた質問をしてきたその女の子は、怪訝な顔で聞き返した俺に不安そうになって、
首につけていたチョーカーをいじりながら何かぶつぶつと呟く。
ミセ;゚ー゚)リ 「これも壊れちゃったのかなぁ?どうしよう・・・」
いきなり声が尻すぼみになって、彼女の声が震えだした。
(;'A`) 「え、いや、聞こえてるよ?
今日は、えーと・・・そう、7月の15日だったかな」
俺はあわてて取り繕う。
なんだか俺が悪いことでもしたみたいな気分になる。
そして俺の言葉を聴いた女の子は今度は笑顔になった。
ミセ*゚ー゚)リ「ホント?よかったぁ・・・」
その時のほっとしたように胸を撫で下ろす女の子の可愛さといったらもう。
子猫の寝顔なんて目じゃなかった。
- 16 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:48:26.57 ID:V7ABVU9B0
('A`) 「・・・」
これはあれじゃないか。
俗に言うフラグってやつだ。
そう意識すると、俺の心はにわかにざわつきだした。
このチャンスを逃してはいけない。俺はそう思った。
(;'A`) 「あ、あのさ」
ミセ*゚ー゚)リ「はい?」
(;'A`) 「何か困ってることでもあるの?」
学校で女子と喋った記憶のない俺は、テストよりも全力で頭を回転させて話しかける。
ミセ;゚ー゚)リ「え、いや・・・」
尋ねられて焦りだす彼女に、俺はあくまでも優しい一般市民を装う。
(;'A`) 「道に迷ってるとかだったら、ここらへん知ってるし案内できるけど・・・」
素晴らしい。頑張ってるぞ俺。そのペースだ。
- 17 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:51:29.95 ID:V7ABVU9B0
(;'A`) 「あー、日にち聞くってことは、何か待ち合わせとかかな?
うっかり間違えちゃったとか?」
ミセ;゚ー゚)リ「えーと、その・・・」
女の子は口を噤んでしまった。
(;'A`) 「いや、話したくないならいいよ、うん」
一歩引いて俺は彼女の返答を待った。
ナイス判断。
ミセ;゚ー゚)リ「何というか、人に相談できるような話じゃないんです、ごめんなさい・・・」
('A`) 「・・・あ、そう・・・」
が、駄目・・・!
しかし仕方が無い。
これは俺が怪しまれたのではなく向こう側の都合なのだ。
俺は失敗していない。
そうだとも。失敗はしていない。
これは仕方の無いことなのだ。
- 18 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:53:56.47 ID:V7ABVU9B0
ミセ*゚ー゚)リ「それじゃ・・・」
女の子は俺に軽く会釈をしてそそくさと去っていってしまった。
暫く立ち尽くす俺。
('A`)「やっぱそんな都合よくいかないっすよねー」
俺は呟いて、全力なんて心の箪笥の奥に蹴っ飛ばして突っ込むと、いつものように家に帰った。
- 19 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 20:57:50.00 ID:V7ABVU9B0
俺は一人暮らしをしている。
親が両方とも死んでたり、親戚をたらいまわしにされたりしたからじゃない。
親とちょっと仲が悪いから。それだけ。
住処にしているのは家賃4万の小さなアパートの一室。
トイレと風呂がセパレートなのが取り柄だ。
鍵を開けて部屋に入る。
素っ裸の女の子がすやすやと寝息を立てて寝ていたら最高だったけど、俺を出迎えたのは年季の入った木造建築特有のきな臭さだった。
なので俺は静かな部屋の中で静かに過ごして日にちが変わるかどうかのところで静かに寝床に入った。
- 20 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:01:20.08 ID:V7ABVU9B0
日常なんて面白くない。
同じことの繰り返し。積み重ね。
将来のためと人はよく言うけれど、じゃあその将来にも何の興味も持てない俺はどうなのだろう。
何もかもが面白くない。
だから俺はよく妄想をする。
俺が非日常に巻き込まれて、何でもいいから凄い事件に巻き込まれて、日常から逸脱して、そうして生きている妄想。
もしそういう妄想が現実になれば、きっと俺の中の何かが変わって、もっと毎日が楽しくなるのだろう。
いつだって俺はその切っ掛けを探している。
このくだらない毎日を変えてしまいたい。
けれど見つからない。
俺は日常の中にいる。
- 21 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:06:10.11 ID:V7ABVU9B0
翌日。
俺が眠気とダルさが50%ずつの身体でベッドから抜け出てゆるゆると着替えて朝食を食べていると、
TVの音声が俺の住む街の名前を口にした。
('A`)「・・・」
TVに視線を向けると、何とホントに俺の住む街が映っていた。
何やら倉庫街で倉庫が何個も倒壊したらしい。
老朽化が原因にしては倒壊した戸数や倒壊の仕方が明らかに不自然だから人為的な工作が云々・・・と、
コメンテーターが自分の意見を深刻そうに見える顔で語っていた。
少し期待してみたが、顔に刺青のある19歳が12人殺して回っているとか、巨大なタワーが出現するとか、
そういう非日常的な可能性はなさそうだったので、俺はすぐに興味をなくして寝ぼけ眼をTVから逸らすとパンを齧った。
少し焦げた味がした。
- 24 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:08:21.08 ID:V7ABVU9B0
その日の学校も何一つ面白いことは無かった。
倉庫がどーのこーのといった事件は少し話題になっていて、俺もブーンと少しその話をしたけれど、
そこで誰かが光る何かを見たとか、誰かが欠席していて、実は昨日ソイツはその倉庫街近くに行っていたという話を聞いたとか、
そんなことは全然無かった。
授業が終わったあと、掃除当番だったのでそれを適当に済ませて、
ブーンが一生懸命努力しているのであろう格技場を傍目に眺めながら、校門を出た。
- 27 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:10:45.45 ID:V7ABVU9B0
帰り道、昨日女の子とであった公園にちょっと寄って見回ってみたりしたけれど、やっぱり女の子はいなかった。
夕暮れに照らされた遊具たちが誰にも遊ばれること無く佇んでいるだけだった。
そう上手く物事がいったことなんて俺の人生には一つもなかったような気がした。
だからやってられないのだ、この世の中は。
俺は黙って家に帰った。
部屋には当たり前だけどやっぱり誰もいなかった。
- 28 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:14:07.61 ID:V7ABVU9B0
- その夜、俺が晩飯(冷凍餃子)を作ろうとしたとき、なんと片栗粉が切れていることに気がついた。
('A`)「やれやれだぜ」
片栗粉で生み出すパリパリ感のない餃子なんて糞だと思っている俺は、仕方なくコンビニに出向いていくことにした。
夜道をテクテクテクテクテクテク歩いてコンビニを目指す。
たまに街灯に照らされている道路の端の電信柱の裏に何か不気味な生物がウゴウゴしてたりしないかとか、
金髪美女の妖怪に性的な誘惑を受けたりしないかとか、色々な妄想をしたけど何一つ実現しなかった。
- 29 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:19:22.28 ID:V7ABVU9B0
コンビニで片栗粉を買って、その帰り道、俺はふと変な感傷に浸ってしまった。
ついでに缶コーヒーを買ってしまったのがいけなかったのだろうか。
ようするにモラトリアム特有の厭世感が変な方向に作用して、
つまるところ俺はなんだかコーヒーをちびちび飲みながら高いところから町を見下ろしてふぅ、と一息つきたくなったのだった。
で、俺はそれを実行すべく町の北方にある高台へと向かった。
その道程で缶コーヒーを飲みつくしてしまったので、道の途中の自販機で新しく一本買った。
- 30 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:23:40.78 ID:V7ABVU9B0
- 目的と手段が入れ替わるようなことをしながら、俺は高台に到着した。
こんな高台がある町は中々無いと聞いたことがある。
本当なら(あくまでドラマや小説から仕入れた知識なので真実だという保証は無い)こういう高台は絶好のデートスポットだったりしそうなものなのだが、
生憎この高台は殺風景過ぎる(必死こいて長い階段を上った人間を迎えてくれるのは、ちょっとした広い空間と夜景をぶち壊す転落防止用の金網ネットだけだ)。
なので高台には誰もいなかった。
つまり厭世するには絶好の場所なのだ。
で、俺は二本目の缶コーヒーのプルタブを開けてコーヒーをちびちびと飲んで、ふぅ、とため息をつき、
('A`)「世の中面白くねぇなぁ」
とか
('A`)「くだらないことばっかだぜ」
とか
('A`)「暇で暇でしょうがない」
とかを呟いて、とにかくカッコいいと思われる厭世の仕方で厭世していた。
- 31 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:27:48.37 ID:V7ABVU9B0
そんな風に呟き続けて、
('A`)「ああ、何もかもぶち壊して世界を美しくしたい」
なんていう最強に厨二病感染した破壊衝動をため息とともに吐き出した時だった。
俺のその適当な呟きが現実となったかと勘違いしそうになるほどの馬鹿でかい音が、
俺の真後ろから俺に体当たりをかましてきた。
もう擬音語ですら説明しきれないような色んな音が混ざった轟音に俺はビビり、
(;'A`)「うおぅ!?」
とか言いながら振り向いて転落防止用のネットに張り付いた。
そうしたら。
(;'A`)「・・・」
ミセ;゚ー゚)リ「・・・」
いつぞやの可愛い女の子と目が合った。
- 32 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:29:53.91 ID:V7ABVU9B0
状況説明をしようか。
女の子は明らかに、高台の後ろに広がる林の奥から飛び出してきていた。
体勢とかそういうものがそういう感じだった。
で、その飛び出してきた林の中から、さっきのへんてこなドデカい音は聞こえてきたようだった。
カラスだかなんだか知らないが、その音に追い出されるようにして何かの鳥がバサバサと何羽も林から飛び立っていった。
(;'A`)「・・・あー」
お互いの姿を見つめたっきり沈黙してしまったが、
その時俺の脳裏を過ぎった「取りあえず話を切り出すのが筋だろう」とかいう自分でも訳のわからない考えに基づいて、俺は声を出した。
(;'A`)「ここでなにw」
俺は決して汗をかきながら笑ったわけでもダブリューと言った訳でもない。
「を」という発音をしかけた瞬間に、さっきの轟音がより一層その大きさを増して再び聞こえてきたのである。
そして俺はその音が何の音なのかを知った。
- 33 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:31:57.11 ID:V7ABVU9B0
- 音と一緒に、女の子が飛び出してきた林の木々が、いきなり何かに薙ぎ払われるようにして吹き飛んだ。
その衝撃で俺はもう一度ビビるだけで済んだのだが、林から飛び出してきたばかりで殆どその衝撃の発生点から距離をとっていなかった女の子の方は、そうはいかなかった。
彼女はその衝撃の物理的影響から逃げられず、女の子らしい悲鳴を上げて、木々と一緒に吹っ飛んだ。
何が起こっているのか俺にはさっぱりわからなかった。
だって林の中には何も見えないのに、林の木々は明らかに何かに踏み倒されたり薙ぎ払われたりしていくのだ。
何が起こっているのか俺にはさっぱりわからなかった。
大事なことかどうか知らないが二度言う。
状況は把握できていない。
しかし、俺がやるべきことは一つだった。
それだけははっきりしていた。
俺はそのことをすでに何百回とイメージトレーニングし続けてきた。
俺がこういうときどうすべきなのか。
俺にはそれがわかっていた。
- 34 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:33:50.44 ID:V7ABVU9B0
(#'A`)「うおおおおおお!」
俺は走り出した。
持っていた中身のすっかり冷めた缶コーヒーを放り投げて、俺は倒れている女の子に向かって全速力で走った。
俺は走って走って走って、素早く彼女の傍に駆け寄った。
そうして彼女を優しく抱きかかえ・・・・
られなかった。
- 35 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:36:51.65 ID:V7ABVU9B0
重たかった。
どっかのアニメみたいに軽々しく持ち上げてひとっ走りとは行かなかった。
一応弁解するが、俺が抱きかかえようとしているかわいらしい彼女は実にスレンダーな体型である。
断じて米俵みたいなデブではない。
彼女を持ち上げられないのは俺の筋力の問題だった。
運動部なんて小学校以来経験したことのない俺に。
体育の成績など平均にすら及ばない俺が。
スレンダーとは言っても40kgはあるんだろう人間の身体を抱きかかえて全力疾走など出来るはずも無かったのだった。
- 36 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:40:08.11 ID:V7ABVU9B0
情けなかったが、しかしそんなことでは俺の意志は挫けなかった。
何とか彼女の片腕を肩に回すと、半ば引きずるように俺は彼女を運んだ。
取りあえず高台から降りるしかない。
俺は階段のある方向に向かおうとして。
そして無理だと悟った。
- 39 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:41:57.89 ID:V7ABVU9B0
(;'A`)「・・・」
そこには「何か」がいた。
その姿は全然全く一ミリも見えなかったが、「そいつ」に纏わりついている木の葉や木の枝が宙に浮いているように見えていた。
一体全体どうやっているのか分からないけれど、「こいつはガメレオアームみたいに身体を透明にしているのだろう」とかなんとか適当な理由をつけて勝手に納得した。
それから判断して、「そいつ」の大きさは軽く見ても俺の身長の五倍はあった。
そこにいる、という存在感が、俺をジリジリと威圧して、俺は思わず一歩後ずさった。
纏わりつく木の葉と枝の織り成す姿の一部分が、高く振り上げられるのが分かった。
ギィギィと何か軋む音が聞こえた。
俺の頬を汗が伝っていった。
ほぼ直感で危険だと思った。
思わず女の子に覆いかぶさるようにして伏せる。
直後に、ブン!という風を切る音がして、そして凄いつむじ風が俺の髪の毛を巻き上げ、ギャーン!という音が聞こえた。
頭を上げて見れば転落防止用のネットがグシャグシャに捻じ曲げられてひしゃげていた。
- 40 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:43:38.41 ID:V7ABVU9B0
- (;'A`)「・・・ワーオ」
ちょっとふざけた声を出してみたけれど、俺の心臓は落ち着いてはくれなかった。
まがりなりにも鉄柵の一種であるそれを粘土みたいにグシャグシャにするには、どれくらいの力が必要なのか知らないけれど、
その暴力が俺の脇腹に叩き込まれた場合には、俺の命は速やかにあの世へ輸送されてしまうということは理解できた。
ゾクッという悪寒と、興奮と歓喜の電撃が背筋を併走した。
夢じゃないということを、今更ながらに実感していた。
これは現実なのだ。妄想ではなく。
見紛う事なき、非日常。
俺は頭をフル回転させて次の行動を思慮した。
- 41 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:46:12.58 ID:V7ABVU9B0
- コイツは彼女を庇いながら相手に出来るような奴じゃない。
となれ今この状況ではもう逃げるしかない。
しかし出口は無い。
階段の目の前には「何か」が立ち塞がっている。
けれど、そういう場合の手段を俺は知っている。
知っている。
正しいかどうかは別にして。
- 42 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:48:19.70 ID:V7ABVU9B0
- (#'A`)「やってやらぁ!」
俺はカッコよく叫びながら立ち上がり、そしてもう腕がどうにかなってもいいという覚悟の下、彼女を抱きかかえて持ち上げた。
多分火事場の馬鹿力という奴なんだろう、俺は彼女を持ち上げることに成功した。
女の子を華麗にお姫様だっこする。
しかし喜んでいる暇など無い。
俺は彼女を抱いたまま、全力で疾走した。
金網が突き破られて、転落を防止するものが無くなった、高台の急斜面に。
- 43 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:50:01.67 ID:V7ABVU9B0
またあの軋むような音がする。
猶予はない。
覚悟は決めた。
(#'A`)「おおおおおおお!」
いくぜ。いくんだ。
俺は飛ぶんだ!
全力で!
そして華麗にこの俺の腕の中にいる可愛い女の子を抱きしめながら斜面を転がり落ちて、あのよく分からないモノから守るんだ!
俺は地を蹴った。
宙に飛び出した。
- 44 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:51:31.82 ID:V7ABVU9B0
「装着者 ノ 危険 ヲ 察知 緊急転送 ヲ 開始 シマス」
(;'A`)「は?」
いきなり訳の分からないへんてこな声が彼女の胸元から聞こえた。
そしたら世界が真っ白になった。
- 45 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:53:45.37 ID:V7ABVU9B0
- なんだか不思議な感覚だった。
フワフワと漂っているようだった。
俺は混乱しながらも彼女だけは放すまいと必死だった。
いきなり、真っ白だった世界が色を取り戻した。
(;'A`)「ぐえっ!」
変にカラフルな光が視線を横切ったかと思うと、俺の身体は強かに打ち付けられた。
(;゚A゚)「おうふ!」
その上から彼女が降ってきて、俺の腹部に強烈な衝撃を加えた。
俺は悶絶して、しかし頑張って上に乗っかる彼女を退けて、上体を起こした。
(;'A`)「・・・あれ?」
そこは俺がさっき来たコンビニの前だった。
一瞬見えたカラフルな色は、コンビニの店頭のロゴを発光させた照明だった。
辺りを見回したが、そこにはもう平穏な雰囲気が漂うばかりだった。
街灯がジジジ・・・と音を立てて明滅している。
- 46 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 21:56:27.68 ID:V7ABVU9B0
('A`)「・・・何だ」
なんだか拍子抜けした気がして、さっきまでの興奮が一気に冷めてしまった。
結局俺の見せ場は余りなかったような気がする。
いや、誰かに見せたくてああいう行動を取ったわけじゃないんだけど。
もうちょっとさぁ。
こう、俺があの変なものに立ち向かうことになって、
追い詰められたところでアイツの姿が見えるようになって、
それでもって見事に何かの力とかに目覚めてシナリオとか無かったわけ?
無いですか。そうですか。
まぁ怪我しなかっただけでも良しとしましょうか。
- 48 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:00:08.30 ID:V7ABVU9B0
- ('A`)「はぁ・・・」
俺は立ち上がって、未だに意識の無い女の子の様子を見る。
ミセ*-、-)リ「・・・」
呼吸ある、脈ある。
つまり生きている。
それ以上のこと(詳しくなんて言わせんな恥ずかしい)を確かめるかどうか非常に悩んだ末、ここは家の外だという意識と、強靭な良心の働きによって俺は我慢した。
気絶顔・・・もとい表情も寝ているように安らかだ。パッ見たところ外傷もないようだし、ひとまずは安心といったところだろう。
- 50 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:01:51.82 ID:V7ABVU9B0
しかし!
さっきのあの訳の分からない化物の脅威が完全に去ったとは言いにくい!
だから!
ここで俺がすべきことは彼女の安全を確保することだ!
どこで!?
俺の家でだ!
・・・というわけで、俺は彼女を自分の家であるアパートまで運んだ。
幸い人目につくことは無かったが、何というか大変だった。体力的にとか、理性的に。
ここらへんの記述は避けよう。トイレ行きたくなっちゃう。
- 51 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:04:06.61 ID:V7ABVU9B0
- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それから。
俺は自分の家の中を出来る限り綺麗にして、シーツから何から全部洗濯したての物に変えたベッドの上で眠る彼女の目覚めを待った。
('A`)「・・・しかしまぁ」
改めて、ゆっくりと今の自分の状況を考える。
(*'∀`)「イイね」
俺は浮かれていた。
恐らく顔はだらしなく緩んでいるのだろう。
興奮も少し取り戻していた。
いや別に性的にではない。
これもまた非日常じゃないか。俺が待ち望んでいたものだ。
そう思うと胸が高鳴った。
- 52 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:05:58.44 ID:V7ABVU9B0
けれど俺は知る。
例えどれだけ待ち望んでいても、いざそれが訪れた時に、必ずしも俺にとって素晴らしいものである確証なんてないことを。
- 53 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:07:19.86 ID:V7ABVU9B0
- 翌日を待たずして、彼女は目を覚ました。
(;'A`)「・・・」
ミセ;゚ー゚)リ「・・・」
その時俺はトイレから出てきてチャックを締めていた。
最悪のパターンだった。糞が。
いやしかし1分前に目を覚まされるよりはよっぽどマシだったんだけどね。うん。
そしたらもう俺は便器に顔突っ込んで自殺するわ。
- 55 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:10:38.72 ID:V7ABVU9B0
(;'A`)「・・・おはようございます」
俺はチャックを締めてそう言った。
ミセ;゚ー゚)リ「・・・おはようございます」
彼女は上体を起こしてそう言った。
ちなみに外は真っ暗な真夜中である。
(;'A`)「あー・・・ここは俺の家だから」
だからなんだ。
ミセ;゚ー゚)リ「あ、そうですか・・・」
(;'A`)「その、大丈夫?身体とか、どこか痛いところとか・・・?」
ミセ;゚ー゚)リ「あ、大丈夫です・・・」
(;'A`)「そう、それは・・・良かった・・・」
会話続かねぇー。
- 56 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:13:00.04 ID:V7ABVU9B0
- (;'A`)「その、なんていうか・・・」
チャック締めたところを見られたのがいけなかったんだ。
一瞬頭が真っ白になって彼女がおきるまで散々考えてたカッコいい言動がふっとんでしまった。
ミセ;゚ー゚)リ「た、多分、助けてもらったんですよね!」
(;'A`)「そうだね、まぁ・・・」
ミセ*゚ー゚)リ「ありがとうございました!」
いきなり元気を取り戻した女の子は、ぺこりと頭を下げながらお礼を言った。
やっぱり可愛かった。
- 57 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:17:13.99 ID:V7ABVU9B0
- ミセ*゚ー゚)リ「ところで・・・見ちゃいました?」
と思ったら今度は神妙な顔で尋ねてきた。
俺は緩んだ顔を引き締めて、冷静な風を装って答えた。
('A`)「見たって言うか、見えてはいなかったけど・・・。
まぁ何というか、凄い体験をしたね」
ミセ* ー )リ「そうですか・・・」
なんだか残念そうに彼女は俯く。
ミセ* ー )リ「じゃあ、仕方ないですね」
- 58 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:18:50.89 ID:V7ABVU9B0
- (;'A`)「え?」
彼女は静かにそういうと、ゆっくりと布団から抜け出て、立ち上がって、そして胸元に手を突っ込んだ。
(;'A`)「え?あれ?」
これまずいパターンのフラグでしょ?あれ?
彼女がゆっくりと胸元に入れた手を引き戻す。
待った待った!拳銃とかそういう法律に反する物体は無しの方向性で頼むよマジで!
緊張が一気に張り巡らされて、俺は固唾を呑んで彼女の次の行動を待った。
そして。
ミセ*゚ー゚)リ「私は銀河広域警察機構のミセリといいます!」
彼女は胸元からなにやら手帳のようなモノを取り出しながら、高らかにそう宣言した。
バーン!って効果音が聞こえてきそうな勢いだった。
(;'A`)「・・・はい?」
- 61 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:23:20.17 ID:V7ABVU9B0
ミセ;゚ー゚)リ「・・・あれ?ご存じない?」
俺の怪訝な顔を見て、彼女の表情も曇る。
ミセ;゚ー゚)リ「あれー・・・?」
彼女は今しがた出したばかりの手帳のようなモノを開いて、何やら打鍵するような動きを見せた。
その表情が「おっかしーなー」から「やばい・・・」に変わっていった。
ミセ;゚ー゚)リ「ギャー!この星にはまだ正式な加盟をしてもらってないのかー!」
轟く女の子の絶叫。
(;'A`)「・・・」
呆然とする俺。
ミセ;゚ー゚)リ「あの、すいません、今言ったこと忘れる・・・とか・・・」
いやいやいや。
('A`)「あんだけインパクトのデカイ自己紹介かましておいて忘れてくれとはもはやギャグの領域だと思うよ、俺は・・・」
ミセ;゚ー゚)リ「ですよねー・・・」
- 62 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:25:15.91 ID:V7ABVU9B0
- 彼女はがっくりと肩を落とし、しかし数秒の後には再び元気を取り戻した。
ミセ*゚ー゚)リ「まぁ言っちゃったものは仕方ないです!
でもこのことは内緒でお願いしますね?」
('A`)「・・・」
もはや言葉も無かったが、とりあえずまぁ。
俺の望んでいたものが、どうやらやってきたらしいという事は確からしい。
それだけで十分だろう。文句なしだ。
そしてこれがこの話において俺と同格の主人公格となる、自称宇宙刑事ミセリとの、
俺の思い描いた予想を最高にブッチぎって斜め上を行った邂逅だった。
- 64 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:30:12.78 ID:V7ABVU9B0
ミセ*゚ー゚)リ「あのですね」
一旦時間を置いて。
部屋にあるテーブルに向かい合うように座り、俺が淹れたお茶を啜ったミセリは、決心したように息を吐くと、自分の身の上について語り始めた。
ミセ*゚ー゚)リ「私は現在とある任務中でして。
銀河系AB-89恒星群第3惑星から、あるモノの輸送の最中だったのですが、そこで・・・うーん、なんといいますか、宇宙のギャングみたいなものから襲撃を受けまして。
輸送船は大破、私は輸送しなければならなかったモノと一緒に脱出して、この星に流れ着いたのです」
('A`)「なるほど」
ミセ*゚ー゚)リ「幸いにも私が生身で生活できる環境の惑星でしたので、そこら辺は問題なかったのですが、
何せ事態が事態でして、私は今本隊と連絡を取れない状況に追い込まれてしまったのです。
救難信号を出す装置も故障しちゃって・・・。
あ、最初に会ったとき、あんな変な質問をしたのも、何とか持ってこれた機器の中で使えるものを判断したかったからで・・・」
('A`)「ふむふむ」
ミセ*゚ー゚)リ「それで、まぁ言葉も通じることが分かったし、 輸送しなければならなかったモノは無事なので、
恐らくこれを頼りに時間を待てば本隊のほうから私を発見してくれるだろう・・・。
と、思っていたのですが、思ったより運が悪くてですねー・・・
何か敵さんの方もこの星に来ちゃったみたいでー、今私その人達に散々追い掛け回されてるんですよねー。
この前も倉庫で寝てたらいきなりスガーン!とやられちゃったし」
(;'A`)「あれはそのせいだったのか・・・」
- 65 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:32:51.56 ID:V7ABVU9B0
- ぶっちゃけた話、この俺と同い年か、それより年下くらいにしか見えない女の子が宇宙刑事だと言われてもピンとはこない。
口調の軽さと事態の重さが反比例してる彼女の話も、聞けば聞くほど素っ頓狂なものにしか聞こえなかったが、
その彼女の言葉の真実味は自分の身をもって思い知っているのでそこは突っ込まないことにした。
俺の心境としても信じてしまいたいところでもある。
もし嘘なら俺は「顔は可愛いけど頭が可愛そうな女の子に振り回された馬鹿な男」という余りよろしくない立ち位置に叩き落されてしまう。
- 67 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:34:56.31 ID:V7ABVU9B0
- (;'A`)「大変っつーか、しんどそうだな・・・」
ミセ*゚ー゚)リ「そうですね・・・実を言うとちょっと疲れてます、アハハ」
アハハじゃねーよ。
ミセ*゚ー゚)リ「まぁ取りあえずは敵の追尾は振り切れたので、しばらくは隠れて味方の救援を待ちます」
('A`)「まぁ、それが一番だろうな・・・」
ミセ*゚ー゚)リ「それでですね・・・」
ミセリはお茶をもう一口、というか一気に煽って「うわ苦い!」と言ったあと、ずい、とテーブルに乗り出してきて言った。
ミセ*゚ー゚)リ「出来れば、こちらのほうに居候させて欲しいのですが」
- 68 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:37:25.47 ID:V7ABVU9B0
彼女の「苦い!」に対して、「そんなに濃く淹れたかな・・・」と、
味を確かめようとして飲みかけたお茶を、俺は危うく彼女の顔に散布するところだった。
ちょっとずれているとは言え可愛い女の子に「うわ汚い!」とか言われると俺のガラスのハートが傷つきかねないので耐える。
結果気道にお茶侵入。
(;'A`)「げぇっほ!うえっふ!」
ミセ*゚ー゚)リ「ひゃっ!?」
激しく咳き込む俺にビビる彼女。
いやいいけど。KITANAI!とかより全然マシだけど。
っていうかそもそもお茶っていう飲み物が初体験なんだろうな・・・。
カテキンとかが彼女の身体におかしな方向へ作用したりしないことを切に祈ろう。
はい思考終わり。
胸の苦しさから逃げちゃダメだ。
- 69 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:39:04.27 ID:V7ABVU9B0
- (;'A`)「いぎなりどうとつずぎないか・・・」
気管に入ったお茶によって言葉にムダに濁点を挿入させられながら俺は言う。
ミセ;゚ー゚)リ「なんと言いますかですね・・・。
成り行きとはいえ、一応事情を知って貰ってしまった以上は、こちらとしても保護下に置く必要があるといいますか・・・」
ひっでぇ話だなオイ。
何なの?うっかり自分でバラしたのに「知っちゃったからにはタダじゃ済ませない」ってどういう理論なの?
それに保護下って。むしろそっちがこっちの保護下じゃないのか。
- 72 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:40:38.76 ID:V7ABVU9B0
- ミセ;゚ー゚)リ「やっぱり駄目ですか・・・?」
駄目ですか、って、お前ホントに刑事なのか?
きっぱり言ってしまえば言いだろう。
ドラマの任意同行を求める刑事のように。
ただ、そんな神妙な面持ちの彼女は、大事なことだから何度も何度も言うけど、可愛かった。
可愛いは正義である。
その前には何人たりとも立ち塞がることは許されない。
だから俺の答えは決まっている。
- 73 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:42:32.45 ID:V7ABVU9B0
- ('A`)「・・・いいよ」
俺は了承した。
だってさぁ。
同年代の可愛い女の子とさぁ。ねぇ?
正直って誰もがうらやむシチュエーションだろ?
ミセ*゚ー゚)リ「本当ですか!?」
そうして彼女は満面の笑みを浮かべる。
俺は知らない。
その笑顔の本当の意味も、俺が思い知る現実も。
- 74 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:45:15.89 ID:V7ABVU9B0
かくして、宇宙刑事ミセリをアパートに匿うこととなってからの数日はあっという間に過ぎ去った。
その間、俺の生活は平和の一言に尽きた。
まぁ俺は学校に行っているし、その間ミセリは俺の家で時間を潰し、
まぁその後の時間も俺が多少理性の働きを必要とする程度の時間があるだけだった。
俺の体面に差しさわりの無い一部分を書くならこうだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミセ;゚ー゚)リ「ドクオさん、この部屋暑いですね」
('A`)「まぁ、冷暖房ついてないしね・・・」
ミセ;゚ー゚)リ「え?この星は冷暖房完備じゃないんですか?」
(;'A`)「『星』とはまた大きく囲ったもんだなオイ」
ミセ;゚ー゚)リ「え、いや、だって、暑いでしょう?冬はきっと寒いし。
冷暖房ないと不快じゃないですか?」
('A`)「一つ言っておくけど君がこれから暫く生活する空間はそういう不快空間だからな」
ミセ;゚ー゚)リ「うぅ・・・冷暖房の無い屋内なんて初経験ですよ・・・」
(;'A`)「・・・」
- 76 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:48:42.29 ID:V7ABVU9B0
- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオさんの家には、娯楽のようなものは無いのですか?」
('A`)「生憎あんまりそういうものは置いてないな・・・
実家において出てきちゃったし・・・
小説とかならあるけれど」
ミセ*゚ー゚)リ「うーん・・・会話は出来ますけど文章の翻訳は今私の持っている物じゃ出来ないんですよねぇ・・・」
('A`)「じゃあTVとかは?」
ミセ*゚ー゚)リ「TVって何ですか?」
('A`)「・・・改めて聞かれると説明の面倒臭いモンだなTVって・・・」
- 77 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:50:29.34 ID:V7ABVU9B0
- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
('A`)「ところでさぁ」
ミセ*゚ー゚)リ「はい」
('A`)「宇宙刑事って何かこう、凄い物持ってたりしないの?」
ミセ;゚ー゚)リ「凄い物・・・ですか」
('A`)「何て言うかな・・・光線銃とか、感情を固定できちゃう装置とか、そういうの」
ミセ;゚ー゚)リ「自動翻訳機とか・・・なら・・・」
('A`)「それで世界を書き換えられたりとか・・・しないよな」
ミセ;゚ー゚)リ「はい・・・」
('A`)「まぁ、そんなもんだよね・・・」
ミセ;゚ー゚)リ「なんかすいません・・・」
('A`)「いえいえ…」
- 80 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:52:18.12 ID:V7ABVU9B0
- ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
この程度は、非日常とは言い難いので書く必要も無いと思う。
俺が書くべきなのは、そこではないし、ぐだぐだと長ったらしく書くべきでもない。と思う。多分。
ので、話はすぐに展開するのだ。
- 82 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:53:42.38 ID:V7ABVU9B0
- その日、俺は学校の授業後に真っ直ぐ家に帰ろうとはしなかった。
何故なら、家の冷蔵庫の中が空になったからであり、つまるところ買出しに行く必要があったからである。
最寄の大型スーパーで色々と買い物を済ませ、人通りの少ない寂れた商店街のアーケードを歩いていた、その時だった。
不意にいくつも立ち並ぶ店の間の細い路地からヌッと延びてきた手に首根っこを引っつかまれ、俺は抵抗する間もなく路地に引きずり込まれた。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/23(金) 22:55:12.06 ID:V7ABVU9B0
(;'A`)「!?」
( ゚∋゚)「・・・」
犯人は見知らぬ男だった。
ソイツはありえないほどの膂力を持ってして、俺の身体を、俺の首根っこを掴む片手だけで宙に持ち上げ、壁際に押し付けた。
息苦しさと混乱の合間に見える男の目は赤かった。
別に充血してましたとかそういうくだらないオチではなく、瞳から全体まで均等に真っ赤だった。
- 84 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:56:06.00 ID:V7ABVU9B0
( ゚∋゚)「奴を何処へやった」
その一言で正体なんてもろバレだった。
要するにコイツは「なんといいますか、宇宙のギャングみたいなもの」のうちの「この星に来ちゃった」奴だろう。
奴、とはつまりミセリのことだ。
俺はしらねーよ、とシラを切ることも無く、ただ黙って男からの圧力に耐えた。
- 85 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:57:26.20 ID:V7ABVU9B0
('A`)(・・ああ、そうか)
そういえば、俺も向こうに思いっきり自分の面を晒していたのだった。
そりゃこんなところブラブラしてれば見つかりますよねー。
のんびり学校に通っている場合じゃなかったんだな。笑える。
しかし相手の言葉の裏を読むに、どうやら俺のアパートはバレていないらしい。
コイツもずいぶん馬鹿だ、こんな風にとッ捕まえずに尾行すれば、アホな俺はすんなり案内してやったのに。
そうやって苦しさから意識を逸らしていたら、首に掛かる圧力が大きくなって意識を逸らすどころか飛ばしそうになったので思考停止。
現実を見て対処することにする。
- 86 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 22:59:31.82 ID:V7ABVU9B0
- (゚∋゚)「何処へやった」
('A`)「・・・同じことしか言えねーのか、デカブツ」
軽く挑発してみたら、俺を宙に持ち上げているほうとは逆の手が拳となって俺の腹に突っ込んできた。
あんまりにも痛かったから、俺は
(;'A`)「ぐえっ」
と、踏まれたカエルのような呻き声を出して、それまで持っていたビニール袋も落としてしまった。
カッコつけるのを止めて「ごめんなさい」って言いたくなったけど我慢した。
( ゚∋゚)「言わなければ殺す」
あーあ、言っちゃって良いのかよそんな台詞。
ビンビンに立っちゃいますよ?貴方のフ・ラ・g もう一発飛んで来た。すごくいたい。
- 87 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:01:37.71 ID:V7ABVU9B0
- (;'A`)「うぇ・・・」
あまりの苦痛に思わず声が漏れる。
これ肋骨とか折れたりしてないだろうな。
さらにもう一発来て、俺は次に殴られたら取りあえず謝ろうと決心したが、男はそれ以上殴ってこなかった。
男の手が俺の首と放し、俺はズリズリと壁にもたれながらへたり込んだ。
男が胸元に手を突っ込む。
宇宙警察手帳を出して元気良く自己紹介してくれねーかなーと心の中で思ったが、
出てきたのはどう見ても先端から危険な何かを発射しそうなフォルムのいかつい物体だった。
- 88 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:03:42.99 ID:V7ABVU9B0
( ゚∋゚)「言え」
男はそれを俺に突きつけながら、腰を下ろして俺と目線の高さをあわせながらそういった。
最終通告のつもりだろうか。
お昼のNHKでよく聞く将棋の時間計測係の声で「あと20秒」とか聞こえた気がするが、もはやそんなことは気にする必要も無かった。
俺はコイツがこうやってくれることを祈っていたからだ。
('A`)「YEAH」
俺は素早く手に持っていた殺虫用スプレーを男の面前に突き出してレバーを引いた。
- 89 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:05:37.90 ID:V7ABVU9B0
何故そんなものを持っているかというと、さっきスーパーでミセリに万が一の時用に渡そうと思って買ったからだった。
なぜ殺虫スプレーかというと、催涙スプレーが売ってなかったからだ。
まぁそんなことはどうでもいい。
どっかで聞いた知識で、拳銃とかそういうのは、近距離においては先に銃口を向けたほうじゃなく、先に撃った方が有利らしい。
何故なら、よほどの奴じゃないと、銃声に無意識な反射でビビるそうだ。
まぁ、撃つのが殺虫剤でも大した変わりは無いということを、俺は今確かめた。
- 90 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:08:05.80 ID:V7ABVU9B0
男が悲鳴を上げて仰け反った瞬間、俺は男と壁の間からするりと抜け出て、かっこよく反撃に・・・と考え、
そして立ち上がった瞬間。
(;'A`)「あれ・・・」
腹部から競りあがるあまりの気持ち悪さに思わずもう一回座り込んで、さらにゲロゲロ吐いた。
(;'A`)「うえぇえ・・・」
予想以上に三連パンチはダメージが大きかったらしい。
やっぱり最初に我慢せずに取りあえず謝っておけば良かった。
一方、俺の最後っ屁の殺虫スプレーは、予想以上に効果が薄かった。
男はもう殆ど回復してしまったみたいだった。
まじぱねぇっすねwwwwwwwww
・・・はぁ。
- 91 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:09:10.59 ID:V7ABVU9B0
- 万事休す。
一応まだ手に殺虫スプレーは持っているだろうけど、流石に二度目は無いだろう。
立ち上がった男が蹴りを放ってきた。
俺は為すすべもなく胸部にそれを食らった。
もう痛すぎて謝る余裕もなくなった。
声も出せずに、俺は仰向けに寝転んだ。
涙で霞む視界に男が映った。
完全にブチギレちまったぜ・・・という表情で件の危ない何かをこちらに向けている。
「投了です」 やかましいわ脳内。
俺はそんなことするくらいなら将棋盤をひっくり返してやる。
あ、今のカッコいいな。
('A`)「あー・・・」
男を見据えながら、俺は呟く。
( A )「死にたくない」
- 93 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:11:13.37 ID:V7ABVU9B0
- 死にたくない。
俺がこの程度の奴だなんて思いたくない。
もっとカッコよく生きたかった。
世界が変わったら。
俺も変わると思っていたけれど。
なんてことは無い。
ただの思い込みだった。
- 94 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:12:42.50 ID:V7ABVU9B0
- ところで、人間の手は二つある。
何故二つあるのか、と聞かれると、俺は返答に困るのだけど、
どうやって使うのか、と聞かれれば、俺は何度でも答えられるだろう。
例えば。
「右手で殺虫スプレーをブチかまし、左手で携帯メールで助けを呼ぶ」とかな。
- 97 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:21:20.98 ID:V7ABVU9B0
俺の「ツイッターに書くにはちょっとメンヘラ臭が強すぎる発言」の後、男は地面に突っ伏していた。
別に俺の言葉に何か意味があったわけじゃないし、
土壇場でとうとう俺の望んだ俺に変われたわけでもなかった。
そのタイミングで、俺が助けを求めていたブーンが学校からインターハイの柔道選手権の練習を投げ出して助けに来てくれて、
男に華麗な足払いからの一本背負いを、流れるような動きで決めてくれたのだった。
- 98 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:23:33.12 ID:V7ABVU9B0
- (#^ω^)「・・・」
そのまま仁王立ちするブーンは超カッコよかった。
ランニングでもしてたのか、胴着ではなくジャージ姿だった。
でもこっちに振り向いたらただのデブになるから振り向かないほうが良いと思った。
(;゚∋゚)「・・・」
男は起き上がってから一度ブーンにタックルをかましたが、
ブーンはそれを受け止めると大外刈りで再びすっ転ばし、無理矢理起こしてもう一回一本背負いを決めていた。
なんかどっかの漫画の史上最強の弟子があんな感じの修行させられてたな・・・男の立場で。
- 99 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/23(金) 23:24:23.09 ID:V7ABVU9B0
二度目の挑戦も失敗に終わり、男は俺とブーンを睨みつけると憎憎しげに何かを言い放って逃げ去っていった。
ざまぁみろ。
俺はそれを見届けて起き上がった。
しかし、疲れたというか、もうヤダ。
本当にどうしてこうなるんだろうか。
一度くらい、いいカッコをさせて欲しいものだったぜ。
- 106 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:20:29.09 ID:W79RuGxI0
(;^ω^)「びっくりしたお・・・」
「カッコいい仁王像のような男」から振り返って「ただのデブ」になったブーンが、俺の傍らに寄ってくる。
('A`)「おせーよ馬鹿。死ぬところだったぞこのデブ」
(#^ω^)「お前こんなメール送っといてよくもそんな事言えたもんだおね」
そういってブーンがジャージのポケットから出した携帯のディプレイには送信者が俺になっているメールが写っていた。
文面は『しゃうてんがいのりじうらでおさわれてり へるぷ』だった。
画面を見ずに打ったとはいえ、これは酷い。
「へるぷ」の部分間違えてたら死んでたかも分からんね。
まぁ生きてるから問題ない。
ちなみに上手くブーン宛てに送信できたのは幸運でもなんでもなく、
電話帳を開くと一番最初がブーンなので簡単だったと言うだけである。
- 109 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:28:40.31 ID:W79RuGxI0
( ^ω^)「大丈夫・・・じゃなさそうだおね・・・どっか痛い場所とかあるかお?」
('A`)「痛くない場所が見つかりません先生」
俺は落としたビニール袋や、そこから零れ落ちたモノとかを色々拾い集めながら答える。
いやホントはお腹と胸が強烈に痛いだけなんだけど。
(;^ω^)「そんなに痛いなら取りあえず病院行かないと・・・」
('A`)「いや、それはいいわ」
(;^ω^)「え・・・」
('A`)「だってお前インターハイ目前じゃん、余計な事件に巻き込まれる必要ないだろ」
( ^ω^)「ドクオ・・・」
('A`)「というわけで俺の荷物を俺の家まで運んでください」
ちょっといいことを言い、ついでに頼みごとをする。
ブーンは断わらなかった。
俺はいい友達を持った。
ブーンは酷い友達を持ったものだ。全く。
- 110 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:31:22.02 ID:W79RuGxI0
そうして家の前で、俺はまた同じようにブーンを言い包めて追い返すと、
一息置いてから家のドアを空けた。
('A`)「たでーま」
平気な顔をして俺は家に入る。
ミセ*゚ー゚)リ「おかえりなさい」
ああ、痛みが吹っ飛ぶいい声ですよmjd。
ミセ*゚ー゚)リ「・・・どうしたんですか、それ?」
奥のワンルームに入ると、そこでTVを見ていたミセリが怪訝な顔をした。
('A`)「何が?」
ミセ*゚ー゚)リ「首・・・なんか跡ついてますよ?」
(;'A`)「!」
しまった。
そういえば蹴られたり殴られたりしたのは服で隠れる部分だったけど、首も思いっきり絞められていたんだった。
なんというケアレスミス。
- 112 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:35:24.49 ID:W79RuGxI0
('∀`)「あー、友達とふざけあっててさーw」
俺らしくもないイケメン風な口調でミセリの疑いをかわす。
('∀`)「ホントあいつら加減しらないからねーw 困るよね全く
(;゚A゚)「ふぁl!?」
全部言う前にミセリが俺のお腹を軽く触れた。
それだけでこの激痛かよ。
ホントにどっかおかしくなってたりしないだろうな。
ミセ*゚ー゚)リ「・・・見せてください」
有無を言わせぬミセリの口調。
思いっきり痛がった手前、大したことはないとも言えず、
俺は生まれて初めて家族以外の女の子に見せる為に服を脱ぎましたとさ。
- 113 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:38:23.31 ID:W79RuGxI0
('A`)「喧嘩しました」
俺は言われるがまま、床に仰向けになっている。
('A`)「いや相手が強くて大変だったわ」
体中のアザや擦り傷の理由を、そうやって押し切った。
一度嘘をついた上からもう一回嘘をつく俺。
ミセ*゚ー゚)リ「・・・」
そうやって弁解する間、ミセリは俺のお腹に黙ってシップを張っていた。
幸せなんだかどうなんだかよく分からないシチュエーションだった。
一つだけ言える事は、俺は出来る限り本当のことは隠して押し通すつもりだけど、ミセリは薄々感づいているだろうということだった。
- 114 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:43:04.15 ID:W79RuGxI0
('A`)「気にしなくて良いよ」
俺は言う。
だって気にしたら君は悲しむだろう?
この幸せが終わってしまうだろう?
そんなのは嫌だ。
君は笑っていたほうが可愛いよ。
- 116 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:45:44.50 ID:W79RuGxI0
- ('A`)「相手も同じくらいコテンパンにしたから、まぁ当分かかってこないだろうな」
俺は平常なんて嫌いだ。
平常なんてつまらない。
やる気なんて出ない。
だってそうだろう?
何が楽しいんだ。
- 117 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 00:49:10.97 ID:W79RuGxI0
- ('A`)「ま、明日になればケロッとしてるよ」
何が良いんだ。
教えてくれよ。
誰でもいいから。
非日常ですらこんな俺に。
結局のところ変われていない俺が。
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/04/24(土) 01:08:53.43 ID:W79RuGxI0
('A`)「大丈夫」
分かってるさ。
分かってる。
分からないはずがない。
分かりきったことだ、そんなこと―――。
- 121 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:12:59.90 ID:W79RuGxI0
どうやら俺はいつの間にか寝てしまったらしい。
俺は夢を見ていた。
夢の中で、俺はミセリを完璧に守る勇敢な男だった。
俺はどんなピンチでも必ず切り抜けることの出来る奴だった。
でもとても残念なことに、俺は夢の中で有能な俺を演じながら、これが夢であると分かってしまっていた。
あり得ない様な夢を見て、それに浸り続けることの出来る時間は終わってしまったのだと、知った。
- 122 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:18:43.91 ID:W79RuGxI0
起きた時、部屋の中にミセリはいなかった。
('A`)「・・・」
テーブルの上に・・・ここ数日の間、二人で囲んだ木製の家具の上に、手紙が置いてあった。
ミセリからの手紙だった。
俺は黙ってそれを読んだ。
ひたすらに読んだ。
そして窓から外を見た。
真っ暗だった。
何もかも飲み込んでしまいそうなくらい真っ暗だった。
俺は立ち上がった。
素早く準備をする。
今からすべきことに必要なものなんて多くは無かった。
ドアを勢いよく開けて、お腹の痛みなんて忘れて、俺は夜の暗闇へと飛び出した。
- 123 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:22:29.78 ID:W79RuGxI0
- 「ドクオさんへ」
何をやっても上手くいかない。
世の中がつまらな過ぎるせいだ。
そんな言い訳を、俺は一体何度塗り重ねて、俺と現実の間に壁を作ってきたのだろう。
「この数日間、貴方にはお世話になりっぱなしで本当にすいませんでした」
俺が望んだものは、非日常だった。
だって知っていたからだ。
非日常なんて、起こりえないから非日常なんだって。
「それどころか、貴方に途轍もない迷惑をかけてしまうことになって、私にはもうそれを償うための言葉すら思いつきません」
起こりえない。
存在しない。
だから逃げ道に使ったんだ。
- 125 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:27:24.62 ID:W79RuGxI0
- 「だから、私は貴方の前から去ろうと思います」
平常が悪いんじゃない。
世の中は悪くない。
つまらなくなんてない。
「せめて私に出来ることはそれくらいしかないから」
本当に世の中が悪くて、だからやる気が出せないとしたら、ブーンはどうなる?
この世の中で一生懸命努力して、結果を出している奴らは、一体何なんだ?
本当にうれしそうな顔をして、毎日を生きている奴らは、全部まやかしだって言うのか?
- 126 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:30:30.93 ID:W79RuGxI0
- 「私の問題は、私が解決しなければいけないことだって、ようやくわかったから」
俺だけが、そういう風に努力できないような、喜べないような、楽しめないようなモノとして生まれてきたのか?
そんなわけがあるはずがないだろう。
そんなことがありえるわけが無いんだ。
それこそ本当に起こり得ない、0%の可能性だ。
「大丈夫、きっと何とかなります!」
いつもくだらない言い訳をして。
世界が変われば、いつだって俺は変われるんだって?
馬鹿じゃないのか?
俺が変わらなきゃ、世界は変わらないのに。
- 127 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:34:29.79 ID:W79RuGxI0
- 「これでも私だって宇宙刑事ですから!」
この一週間でよく思い知っただろう?
言い訳だった非日常(笑)に巻き込まれて。
自分が如何に不甲斐なくて情けなくて惨めな存在か、思い知ったろう?
例え美少女が目の前に現れても、正体の分からない敵とバッタリ出会っても、
世界は俺を変えてくれないと思い知っただろう?
「最後に、一つだけ」
悪いのは。
間違っているのは。
変わらなくちゃいけなかったのは。
- 130 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:40:37.18 ID:W79RuGxI0
- 「貴方に会えて、私はとっても楽しくて、嬉しかった。ありがとう」
俺は!
それを!
知っている!
そうだろう!?ドクオ!!
「ありがとうございました、ドクオさん」
(;A;)「あぁあぁぁぁあぁあぁぁああぁぁあぁああぁああぁぁあ!!!!」
俺は叫んだ。
泣きながら、全力で叫んだ。
それは後悔と自責と悔しさと怒りと切なさと虚しさと恋しさの綯い交ぜになった滅茶苦茶な雄叫びだった。
- 131 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:43:08.39 ID:W79RuGxI0
34分。
俺が街中を駆け回り、心臓が破裂しそうになっても走り回り、そしてミセリを見つけるまでに掛かった時間だった。
はたして彼女は高台にいた。
あの見えない「何か」のどこかの部分に捕まえられて、宙に浮いて身動きが取れなくなった状態で。
ミセ;゚ー゚)リ「ドクオさん!」
俺の姿を見つけたミセリが、絶叫のような声で俺の名前を呼ぶ。
- 132 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 01:47:07.23 ID:W79RuGxI0
- どうしてきたの。
君が言いたいのはそういうことなんだろう。きっと。
そんな理由なんてもう決まってる。
俺は、俺の手で、俺の非日常を終わらせるために来たんだ。
('A`)「俺は、クソッたれな俺を変える」
最高に厨ニ病な頭で、俺はそう呟く。
('A`)「大丈夫さ、うまくやるよ」
彼女に片手を上げる。
さぁ、始めよう。
- 134 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:04:59.40 ID:W79RuGxI0
- ミセリを捕まえている何かは、今回はもう完全に見えなくなっていた。
その身に木の枝や木の葉なんて纏わせていない。
だから、引きずり出してやる。
俺はポケットから持ってきたものを幾つか取り出すと、ミセリの真横を目掛けて、思いっきり投げつけた。
それは思い通り、ミセリの横を通り過ぎた後、何も見えない空間で破裂した。
ビニール袋に突っ込んだ水溶き片栗粉は、ぶつかって破れた袋の中からぶちまけられて、
見事に「何か」の表面にべったりと張り付き、その居場所を知らせる印となり、
冷凍餃子の皮をパリッと焼く以外の用途で初めて役にたった。
断片的に明らかになった「何か」の姿は、カニのような複足の化物みたいだった。
動くたびに何かが軋む音がした。
要するにロボットなんだろう。鬱陶しい鉄の塊だ。
姿を露にされたカニロボットは、ミセリをその腕で掴んだまま、怒り狂ったように俺に向かって突進をかましてきた。
- 135 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:09:01.88 ID:W79RuGxI0
おい、中に乗ってるんだろう。
あの目の赤いド阿呆。よく聞け。
だからアンタはド阿呆なんだ。
おれとブーンが違うとでも思ったのか。
アイツには効かない突進が、俺には効くとでも思ったのか。
違わないぜ。
体型とか、才能とか、そういう話じゃない。
俺も最近気が付かされたんだけどな。
俺はアイツと、違わないんだ。
アイツも、俺も、この星に住む一人の人間だからな!
- 137 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:13:12.04 ID:W79RuGxI0
- カニロボットが腕を振り上げて振るってくる。
俺はそれを紙一重でかわす。
なんてことは無い。
俺はそのかわし方を・・・「やり方」を知ってる。
俺はお前を知っている。
お前を殺すことが出来るくらいに。
だってお前に恋焦がれていたんだから。
チャンスは一度。
それをミスったら保証は無い。
相手はカニ型ロボットだ。
狙う場所はただ一点。
その平べったいドテっ腹。
もう一撃、カニロボットの攻撃をかわして、俺はその腹の真下に潜り込む。
俺はカッコよく、腰のベルトに挿していたものを抜き出す。
どう見ても先端から危険な何かを発射しそうなフォルムのいかつい物体を。
- 139 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:17:16.05 ID:W79RuGxI0
そして俺はそれを両手で握る。
先端をロボットの腹部に向ける。
しっかりと照準を合わせる。
そして撃つ。
俺は俺に・・・俺の非日常に、決着をつける。
- 140 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:20:55.22 ID:W79RuGxI0
- ―――――――――――――――――――――――――――――
「君は宇宙刑事なんかじゃないんだろう」
俺はミセリにそう言った。
後ろでは腹にデカイ穴を開けてモクモクと煙を上げるカニロボットと、その傍らでボッコボコにされた挙句縛り上げられて気絶している目の真っ赤な男が居る。
あの高台から俺が彼女とジャンプした時・・・何かの装置が働いてワープした時。
装置は、ミセリの危険を察知した、といった。
ということは、あれはミセリの為の保護的な装置だ。
そんなものを、危険から誰かを守るための警察が身につけているわけが無い。
だから彼女は、刑事ではないと、そう思ったわけだった。
彼女は刑事ではない。
なのに彼女は追われていた。
考えられる理由は二つある。
彼女が何かの理由で、アイツが狙っていた何かを持っていたのか。
あるいは、彼女そのものが目的だったのか。
正解は後者だった。
- 142 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:25:15.69 ID:W79RuGxI0
- ―――――――――――――――――――――――――――――
「君は宇宙刑事なんかじゃないんだろう」
俺はミセリにそう言った。
後ろでは腹にデカイ穴を開けてモクモクと煙を上げるカニロボットと、その傍らでボッコボコにされた挙句縛り上げられて気絶している目の真っ赤な男が居る。
あの高台から俺が彼女とジャンプした時・・・何かの装置が働いてワープした時。
装置は、ミセリの危険を察知した、といった。
ということは、あれはミセリの為の保護的な装置だ。
そんなものを、危険から誰かを守るための警察が身につけているわけが無い。
だから彼女は、刑事ではないと、そう思ったわけだった。
彼女は刑事ではない。
なのに彼女は追われていた。
考えられる理由は二つある。
彼女が何かの理由で、アイツが狙っていた何かを持っていたのか。
あるいは、彼女そのものが目的だったのか。
正解は後者だった。
- 143 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:28:23.43 ID:W79RuGxI0
彼女がついた嘘は一つだけだった。
彼女が乗っていた船は銀河広域警察機構が警備する輸送船だったし、その輸送船を宇宙のギャングみたいな奴らが襲撃して、「輸送していたモノ」である彼女は、脱出した。
刑事ではないと考えれば、彼女の刑事らしくない理由だって分かる。
その年齢も、言動も。
全ての辻褄が合ってしまう。
まぁ、彼女の言葉を素直に信じた俺も中々に間抜けだったな、フヒヒ。
でも仕方ない。
惚れちゃった女の子を疑うなんて、男として最低だ。
俺はそれを知っているから。
- 144 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:32:06.64 ID:W79RuGxI0
ミセ*;ー;)リ「ごめんなさい」
彼女は俺が優しく手を載せている肩を震わせて泣いた。
どうして泣くんだ。
君は何一つ悪いことなんてしていない。
君は君に出来る最大限の努力をしたじゃないか。
ああ。
そんな君でさえ泣かせてしまうような俺はどうしようもない男だ。
俺はどこまでも俺のことしか考えていなかったんだ。
だから、俺は変わらなくちゃいけないんだ。
だってそうだろう?
俺は世界を変えたい。
誰も見たことのない、経験したことのない、そんな毎日を日常にしたかったんだ。
けれどそれは待つだけじゃ俺には出来ないんだって分かったんだ。
いや、知っていたけど、目を逸らしていたから、今度はまともに向き合うことにしたんだ。
だから。
- 145 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:35:42.09 ID:W79RuGxI0
俺はこのくだらない毎日を変えられる俺に変わるんだ。
世界を変えさせてくれ。
そうして。そうしたら。
俺は君とキスがしたい。
とびっきり最高にカッコよく、君をメロメロに出来るようなキスがしたい。
たとえそれが叶わぬ夢だとしても。
- 147 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:40:23.91 ID:W79RuGxI0
- ―――――――――――――――――――――――
そんなわけで三日経過。
俺は今入院している。
理由は肋骨を4本骨折しているからだ。
道理で痛いわけだった。
よく我慢したよ俺。
ナデナデシテー。
( ^ω^)「おいっすー」
病室のドアが開いて、デブもといブーンが入ってきた。
('A`) 「よぉ、インターハイ決勝敗退者」
(#^ω^)「お前肋骨もう一本折るぞ」
('A`) 「ファーブルスコ」
( ^ω^)「なにいってんだこいつ」
馬鹿な会話。
- 149 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:43:09.84 ID:W79RuGxI0
( ^ω^)「退院はいつだってお?」
('A`) 「夏休みの終わりごろだってよ」
(*^ω^)「ざまぁwwwwwwwwwww」
('A`) 「うっせぇよデブ」
楽しい日常の一コマ。
時間は過ぎていく。あの時から。
( ^ω^)「じゃあ、またくるお」
('A`) 「二度と来るな」
俺は愛すべきデブを病室から追い出して、窓の外の景色を眺めた。
- 150 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:46:59.57 ID:W79RuGxI0
- ('A`) 「・・・」
あれから暫くして、彼女は去っていった。
救援としてやってきた、彼女を様付けで呼ぶ、何だか凄そうな連中に連れられて。
結局、俺は彼女がどうして狙われていたのかも知ることは無かった。
それでいいと思う。
知る必要はないのだ。
俺は俺の非日常を完膚なきまでに破壊したのだから。
彼女と別れて、俺の非日常はようやく終わったのだ。
それくらいのことは、俺だって分かっている。
彼女は実に勇敢だった。
そして優しかった。
自分の危険よりも、俺の安全を優先して、俺の家を出て行ってしまうくらいに。
本当に、純粋なまでに可愛い女性だった。
- 151 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:51:13.07 ID:W79RuGxI0
- ('A`) 「あーあ」
これからやらねばならないことがたくさんあるのだろう。
コテンパンにされて、ケチョンケチョンにされて、それでも立ち上がらねばならなくなるのだろう。
それが日常だ。
そうして人は生きていく。
それもまぁ、いいもんだと、今の俺には思えるようになった。
それだけでも、大きな進歩じゃないかと思う。
('A`) 「彼女欲しいなー空から降ってこないかなー」
俺は呟いて背伸びする。
ブーンがお見舞い品に持ってきたリンゴを手にとって、皮を剥きもせずに齧る。
でもなぁ。
人間って贅沢すると元に戻すのに時間掛かるっていうよな。
('A`) 「あの素晴らしい日常生活を忘れられるのはいつになることやら・・・」
そんなことを言う俺は、ドアの開く音を聞いて、またあのデブが忘れ物でもしたのかと思った。
だからあえて無視した。
- 153 名前: ◆L66fmP/Ue6 投稿日:2010/04/24(土) 02:54:00.02 ID:W79RuGxI0
「彼女、立候補してもいいですか?」
でも聞こえてきたのはあのデブ柔道馬鹿とは比べ物にならない綺麗な声だった。
俺は声のするほうを向く。
さて、問題です。
異星人でめっちゃかわええ女の子の彼女が居る生活は、果してこの俺にとって日常たりうるでしょうか。
お前次第?
望むところだ。
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