- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:01:30.56 ID:OlNNEibI0
- 遠い昔、ある宇宙飛行士は宇宙に飛び立ってある名言を残したらしい。
曰く、「地球は青かった」と。
僕らにとってはそんな事衆知の事実で別段驚くほどの事でもない。
空を見上げれば地球は青く、太陽は煌々と輝いている。
子供でも知ってることだ。
それでもこの言葉が名言になり得たのは、
彼らがかつて地球に住んでいたから。
地球を外側から見る事が出来なかったから。
僕らのように、月に住んでいなかったからだ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:02:41.12 ID:tfAG87r+0
( ^ω^)蒼すぎる海と高すぎる空のようです
.
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:06:55.47 ID:tfAG87r+0
テラフォーミングの為された、月の地下で生活する人類にとって一番のネックであった太陽光は人工的に作り出された。
昼間には地球同様の空が天井に映し出されムーンチャイルド、月で生まれた人間達、はそれが本物の空だと信じて疑わない。
そう、ソラは蒼い。
誰でも知っている。
でもなぜ空が蒼いのかは、誰も知らない。
なんで誰も疑問を抱かないんだ?
このソラは、酷く、チープだ。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:10:57.37 ID:tfAG87r+0
(゚、゚トソン「どうぞ」
( ^ω^)「どうも」
さっき断った珈琲が無造作に出された。
いらないから断ったのだけど。
(゚、゚トソン「貴方がやると、片付けませんから」
だそうだ。
確かにしていなかった気がする。
(゚、゚トソン「いいですから仕事に戻ってください」
僕も無駄話はあまり好きじゃないから、無言でモニターに向き直る。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:12:32.79 ID:tfAG87r+0
- ´・ω・`)「お!不審浮遊物発見!」
僕たちの仕事は監視及び機器の修繕。
何故か禁じられている月への侵入、または出奔を取り締まることだ。
つまり僕らだけが唯一月の地表に出る事を許されている事になる。
でもどうせ何も無いから退屈でしょうがない。
( ^ω^)「デブリですお」
今みたいに、大抵は旧時代の飛行船や衛星の残骸だから、通信機器を使う事はほとんどない。
僕だって長い事ここにいるけれど一度も押した事は無い。
( ^ω^)「それじゃ、行ってきますお」
(゚、゚トソン「私も行きます」
(´・ω・`)「うん、気を付けて」
簡易宇宙服を着て、宇宙へと飛び出す。
真っ暗な世界が僕を包み込んだ。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:14:26.77 ID:tfAG87r+0
- 計器と、太陽。
二つを頼りに地表を歩く。
(゚、゚トソン「ありましたよ。回収します」
( ^ω^)「僕がやるお」
見つかったのは、何やら機械の部品らしきもの。
おそらく旧時代のものだ。
地表にある監視カメラが破損しないように、こうして僕らはデブリを自ら回収しにいく。
多分、あんまり意味はない。
だって誰も月の外なんか出たがらないし、まして地球にそんなテクノロジーが残っているとは思えないから、警戒の必要もない。
形式上見張っているだけなんだと思う。
そのおかげで僕らはご飯を食べていけるのだけど。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:16:21.46 ID:tfAG87r+0
(゚、゚トソン「帰りましょうか」
( ^ω^)「先に行ってていいお」
地球を、眺めよう。
これは半ば僕の日課だ。
(゚、゚トソン「またですか」
( ^ω^)「また、だお」
(゚、゚トソン「あまり遅くならないでください」
せっかく外に出たのにソラを見ていかないなんて変わってる、と僕は思う。
こんなに綺麗なものは他にないのに。
でもあの職場自体が変わり者の集まりだから、それを考えると僕だって人の事を言えないかもしれない。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:18:38.06 ID:tfAG87r+0
- ( ^ω^)「……」
僕は見つめ続ける。
僕らの中心で回る地球。
唯一無二のその蒼を。
僕の心は蒼色に犯されている。
.
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:20:28.34 ID:tfAG87r+0
- 3――
地上のしがらみから逃れたくて僕はこの仕事についた。
ここなら誰にも咎められる事なく宇宙船を作れると思ったからだ。
実際、職場の格納庫はほとんど使われてなくて、今現在は僕が貸し切ったような状態だ。
もちろん黙って使っているわけではない。
しっかり上司の許可は得ている。
作っているのが宇宙船だということも含めてだ。
(´・ω・`)「おっ?もう随分と出来てるじゃないか」
事実彼にばれた時も注意こそすれど、咎めたり、まして通報などしようともしなかった。
むしろ最近ではアドバイスや励ましを貰っているほどだ。
彼の優しさに漬け込み利用している僕は残酷だろうか。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:22:08.08 ID:tfAG87r+0
( ^ω^)「あと少しってとこですお」
(´・ω・`)「完成したら…本当に行くのかい?」
( ^ω^)「そのための船ですお」
(´・ω・`)「そうか…」
僕はしがらみから逃れるために自らしがらみを受け入れている。
矛盾してるって、自分でも思う。
多分僕は残酷なんかじゃない。
甘ったるい、都合のいい、子供だ。
きっとそう言った意味では
ショボンの優しさは心地いい。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:24:04.72 ID:tfAG87r+0
- 昨日回収したデブリの中に、有用な部品があった。
最も重要な、エンジン稼働部の部品だ。
(´・ω・`)「それ、本当に飛べるのかい?僕には車にしか見えないけど」
( ^ω^)「少なくとも地球までは行けますお」
(´・ω・`)「ふぅん。帰る事は考えてないわけだ」
( ^ω^)「……ショボンさんには感謝してますお」
(´・ω・`)「否定はしないんだね」
僕は無言で作業を続けた。
後ろでショボンの溜息が聞こえる。
(´・ω・`)「まぁ、好きにやんなさいよ」
( ^ω^)「ありがとうございますお」
このお礼に意味があるかは分からないけど、言ったほうがいい、そんな気がした。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:26:18.75 ID:tfAG87r+0
- 4――
その後、都村トソンと二度ほど会話した。
どちらも宇宙に関しての話だったように思う。
(゚、゚トソン「ソラは…何というか違いますよ」
(゚、゚トソン「うまく言えませんけど」
( ^ω^)「だからこの職場に?」
(゚、゚トソン「えぇ」
たいしたことのない会話だけど僕には有意義な時間だ。
似たような感性を持つ人なんてそう巡り会えないから。
(゚、゚トソン「このあとお暇ですか?」
思わず聞き返した。
口調に棘があるのが自分でもわかった。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:28:06.90 ID:tfAG87r+0
(゚、゚トソン「つまり…お食事なんか」
( ^ω^)「忙しいからお断りしますお」
この一言で、先ほどまでの有意義な時間が一気に陳腐な物に思えてしまった。
彼女の言葉に、深い意味や下心とかがないのは分かるのだけれど。
どうしてだろう。
プライベートな時間まで束縛されたくはない、そう考えてしまう。
やっぱり僕は都合のいい奴だ。
(゚、゚トソン「そうですか、ではまた今度」
( ^ω^)「じゃあ、失礼するお」
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:30:09.47 ID:tfAG87r+0
宇宙船の開発に関しては、もうほとんど完成している。念のため造形は当たり障りのない、車と同様のデザインになっていて、あとはエンジンを積み込むだけだ。
( ^ω^)「あと少しかお…」
僕は格納庫に移動し、組み立てを始めた。
重量のある荷物は機械で運ぶのが普通だけど、あいにく僕にはそんなお金が無い。
給料の殆どを開発費に充てているからだ。
おかげでここ最近少し筋肉がついた気がする。
もともと太り気味だった僕にはちょうどいいかもしれない。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:32:38.16 ID:tfAG87r+0
- 少し、疲れたから、タバコを吸う事にした。
ポケットの中のライターを探るけど、見つからない。
( ^ω^)「あれ…?」
(゚、゚トソン「これですか?」
何時の間にか現れた都村がライターを片手に歩み寄る。
(゚、゚トソン「どうぞ」
( ^ω^)「どうして僕のを?」
(゚、゚トソン「デスクに置いてました。」
(゚、゚トソン「どうせ探すだろうと思って」
( ^ω^)「ありがとうお」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:35:08.38 ID:tfAG87r+0
渡されたライターを使って火を着けた。
僕の顔の目の前で煙が燻っている。
(゚、゚トソン「何をなさってたんですか?」
( ^ω^)「車の修理だお」
(゚、゚トソン「嘘、ですね」
沈黙。
ただ僕は都村を見つめていた。
(゚、゚トソン「…本当に行くんですか?」
( ^ω^)「そうだお」
またしても、沈黙。
それ以外に言うべき言葉が浮かばなかったから。
数秒か数分か分からないけれど、僕は都村から目を逸らせずにいた。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:36:16.68 ID:tfAG87r+0
- 再び、都村が口を開く。
(゚、゚トソン「何故です?」
( ^ω^)「…ずっと夢だったんだお」
( ^ω^)「僕は…作りものじゃない本物の空が見たい」
(゚、゚トソン「そうですか」
それだけ言って都村は踵を返した。
(゚、゚トソン「安心してください。誰にも言いませんから」
最後にそう言った都村の背中に、寂慘の念を感じたのは、僕の思い過ごしだろうか。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:37:21.67 ID:tfAG87r+0
- 5――
僕は、完成した船に乗り込んだ。
(´・ω・`)「本当に行っちゃうのかい?」
( ^ω^)「ずっと、ずっと夢だったんですお」
今まで何度聞いたかわからないこの質問も、今となっては名残惜しい気がする。
(´・ω・`)「そうか…。君はいい奴だったよ」
(´・ω・`)「またいつか会おう」
( ^ω^)「お世話になりましたお」
宇宙船は緩やかに速度を上げていった。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:38:35.97 ID:tfAG87r+0
- 漆黒の宇宙が広がる。
今からこの中へ飛び込んで行くのだと思うと、少し寒気がした。
( ^ω^)「じゃ、行くかお」
あらかじめ設定しておいた通りにボタンを押した。
すると自動操縦に切り替わり、一直線に宇宙へと駆け抜けた。
ふと、後ろを見た。
そこには都村がいて、こちらを見ていた。
僕と目が合い、控えめに手を振っている。
僕は、これがなんだか過去との決別のような気がして大きく手を振った。
僕の過去も、しがらみも、名前も、僕を成すもの全て置き去りにして飛び出した。
本物の蒼が知りたくて、本物の空が知りたくて。
きっとそこには人類が探し求めていた自由があって、それこそ楽園のような場所なんだろう。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:40:10.97 ID:tfAG87r+0
- 6――
何も無い。
それが最初の感想だった。
ただただ無限に宇宙が広がり、前に進んでいるのかさえも分からない。
そして
( ^ω^)「小さいお」
宇宙が過ごした悠久の時に比べれば、僕のことなんて本当にちっぽけだ。
あまりに壮大で時々息をするのを忘れてしまうほどに。
だから僕は笑ってやった。
大声で。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:41:40.78 ID:tfAG87r+0
( ^ω^)「あぁ、可笑しいお」
こんなに笑ったのは何年ぶりだろう。
笑い声も、吐いた息も、全てが漆黒の中に霧散していく。
太陽が放つ那由他の光が螺旋を描いて。
その螺旋の中に僕らはいる。
その中で僕が住んでいた星は、より一際美しく輝いている。
その時僕は、初めて月を美しいと感じた。
.
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:42:46.00 ID:tfAG87r+0
- 7――
アラームが鳴って、地球への到着を告げた。
何時の間にか寝ていたらしく宇宙観光を楽しむこともできなかった。
少しだけ、残念。
( ^ω^)「短い旅行だったおね」
誰に向けたのかも分からないジョークを一つ言った。
緊張してたんだ。
実際僕はまだ地球を見れずにいたから。
一呼吸おいて、左を見た。
そこに迫っていたのは、蒼い地球。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:43:22.46 ID:tfAG87r+0
- ( ;ω;) 「これが…」
初めて真近で見る人類の母に僕は泣いてしまった。
何度も見たことがあるはずなのになんでだろう。
涙が止まらない。
( ;ω;) 「僕は…とうとう…」
ふと、この光景をショボンや都村に見せたいと思った。
なんだ、僕は結局何も捨てきれてないじゃないか。
それがなんだか可笑しくてまた笑った。
きっと涙と笑顔のないまぜになったグチャグチャな顔をしてただろう。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:44:45.81 ID:tfAG87r+0
涙を拭いて、着陸を始めた。
一刻も早く大地を踏んで空気を吸いたかった。
堕ちる。
蒼へ吸い込まれるように。
緩やかに速度を上げる宇宙船が、だんだんと地球に引き寄せられていく。
それに伴って僕の体は強烈なGを受けた。
( `ω´)「ううっ…」
肺が軋んで嫌な音がする。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:45:46.85 ID:tfAG87r+0
- 大気圏に入った。
スパイラルして、堕ちる。
パラシュートが開き、僕を乗せた船は海に投げ出される。
(( ; ゚ω゚))「うぉぇえ」
全身が震える。
頭が揺れて、空が落ちてくるみたいだ。
立ち上がろうと思ったけど、身体が酷く重い。
五体が鉛か何かでできてるみたいだ。
諦めて、仰向けになった
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:46:33.34 ID:tfAG87r+0
- ( ;ω;) 「蒼い」
それ以上に言葉が出なかった。
頭上には作り物なんかじゃない本物の空が広がっていて、時折見たこともないような動物が空を翔けている。
そう、ソラじゃない、空。
そして、僕を抱く蒼い海。
境なんて存在しない。
永遠に続く、ホライゾン。
追い求めていたものはこんなに蒼くて壮大だった。
僕の想像なんか遥かに凌駕していた。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:47:41.95 ID:tfAG87r+0
( ;ω;) 「ハハっ…」
自然と笑みが零れた。
涙の訳も笑みの理由も分からない。
ただ、目が血走って押し潰されそうだったから、目を閉じた。
( ;ω;) 「おやすみなさいお…」
一人呟く。
多分、僕はもう目を開けない。
開けられない。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 00:48:21.68 ID:tfAG87r+0
- たとえ生まれた場所が違ったって
海に抱かれ
空に見守られ
永遠に眠るだろう。
最後の地球人として。
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