('A`)と親父のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:11:12.99 ID:QKPtqF730
俺は親父が嫌いだ。

遊び盛りな子供だった時も、お袋が死んで父子家庭なったあとも、俺は親父に遊んでもらったことが一度も無かった。
平日は仕事、休日は外で大人の付き合い、家にいることなんてほとんどなかった。

たまに顔を合わせれば厳めしい表情で俺を睨み、それが怖くて面白くなくて、俺は親父を避けていた。
親父も俺を避けていた。

食事は各自で自分の分だけ作り、一人黙々と食べる。
早朝も深夜も親父は家にいなかった。
同じテーブルで食事をしたことなど、皆無だった。

授業参観にも、運動会にも、入学式にも、卒業式にも。
親父は一度も現れたことがない。

金を稼いで俺を養ってくれたことに感謝はするが、尊敬はできない。
それが息子としての、正直な感想だ。

休日に父親とキャッチボールをする。
そんな話は都市伝説だと信じていた。
だから俺は高校を卒業すると故郷を出て就職し、気がねない一人暮らしを始めた。
それから一度も、実家に帰ったことはない。
必要がないと思っていたからだ。


そんな俺のもとに、つい先日、地元の病院から電話があった。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:13:05.35 ID:QKPtqF730




親父が、倒れたそうだ。











('A`)と親父のようです


6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:15:57.33 ID:QKPtqF730
数年ぶりに訪れた故郷は、やはり懐かしかった。
見慣れた風景の中に点在する、見覚えのない建物が、ひどく不自然に感じられた。


('A`)「変わったなぁ・・・ま、当然か・・・」


俺が今回職場からいただいた有給は三日間。

病院からの連絡を受けた時は、親父の見舞いになどいくつもりはなかったのだ。
話によると、親父は命に別条はなく、倒れたのは老いと過労のせいだろうとの事だったからだ。

俺が見舞ったところでどうなるわけでもない。
親父と話すことなんかないし、第一どうやって話せばいいのかすら分からない。

運が悪かったのは、その電話が、俺の職場にかかってきたことだった。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:16:43.67 ID:QKPtqF730
(,,゚Д゚)『鬱田、今の電話、なんだ?』

('A`)『はぁ・・・病院からです』

(,,゚Д゚)『なんだ、お前、どこか悪いのか?』

('A`)『いえ、地元の病院からで・・・』

(,,゚Д゚)『身内か』

('A`)『はい、親父です。でも大丈夫ですよ。明後日にも退院できるそうなので』

(,,゚Д゚)『何言ってる。すぐ見舞いに行け』

('A`)『はい?』

(,,゚Д゚)『行けよ。有給があるだろ。たまには親に顔見せてこい』

('A`)『でも・・・』

(,,゚Д゚)『上司命令だ。明日、朝一番の電車に乗れ』

(,,゚Д゚)『いいな』

('A`)『・・・』

(,,゚Д゚)『さぁて、仕事仕事』

('A`)『・・・はぁ』

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:18:48.18 ID:QKPtqF730


('A`)「有難迷惑ってのは、こういうことを言うんだろうな」

一応見舞いということなので、俺は駅前の花屋で適当な花を買った。
ややくすんだ外壁の病院を前に、俺はため息をまんべんなく吐きだした。

ここまで来てしまったのだから、仕方がない。
気が乗らないが、行くしかないだろう。



受付で親父が入院している部屋の場所を聞き、看護師さんの笑顔に見送られて、俺は目的地へ向かう。
すぐに退院できるということなので、相部屋だ。
どっちにしろ、あの親父に一人部屋は贅沢という物だろう。

('A`)「失礼します・・・」

横開きのドアをゆっくりと動かし、病室を覗き込む。
いくつかのカーテンで細かく仕切られた部屋の、一番奥。

窓際のベッドの上に、親父はいた。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:22:29.23 ID:QKPtqF730
(`・ω・´)「・・・」

親父は上体を起こして窓の外に目を向けていた。
血管の浮き出た腕の腹に点滴を吊るし、白髪の混じった後頭部をこちらに向けている。

('A`)「親父」

他の患者の迷惑にならない程度の声で、親父を呼んだ。
親父は一瞬間をおいて、俺に顔を向けた。

(`・ω・´)「・・・あぁ」

('A`)「見舞いに来た」

(`・ω・´)「・・・」

('A`)「これ、東京バナナ。わりとうまいよ」

(`・ω・´)「あ、ああ・・・」

('A`)「花も持ってきた。看護師さんに活けてもらって」

(`・ω・´)「ああ」

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:25:07.11 ID:QKPtqF730
('A`)「調子はどう?」

(`・ω・´)「・・・悪くない。すぐに退院できる」

('A`)「そう」

平静を装っているけど、口の中はカラカラに乾いていた。
長い時間をかけて深い溝を掘ってきた俺たちにとって、会話というものが、不自然に感じてならなかった。

まるで馬鹿げた芝居をしているような気分だ。

('A`)「それじゃあ・・・」

(`・ω・´)「あ、ああ」

('A`)「俺は行くよ」

(`・ω・´)「毒男、どれくらい、こっちにいるんだ」

('A`)「明後日の昼には帰るよ」

(`・ω・´)「そうか、うむ」

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:27:42.25 ID:QKPtqF730
(`・ω・´)「家の鍵は、持ってるか」

('A`)「持ってるよ」

('A`)「じゃあ」

(`・ω・´)「そうだ、毒男」

('A`)「なに?」

(`・ω・´)「風呂、掃除してないんだ」

('A`)「俺がしておくよ。他にすることもないし」

(`・ω・´)「毒男」

('A`)「うん?」

(`・ω・´)「お前の部屋、そういえば、カーテン、代えたんだ」

('A`)「そう」

(`・ω・´)「土産と花」

('A`)「あ、うん」


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:31:50.23 ID:QKPtqF730
(`・ω・´)「ぁ・・・ありがとうな」

('A`)「・・・う、うん」

('A`)「じゃあ」



逃げるように、病室を後にした。
病院を出て実家へ向かう道中、俺の頭の中は言いようのない感情で溢れていた。

父親と息子の会話。
何もおかしいところはない。
世界中のどこにでも転がっている、ありふれた風景だ。

('A`)「・・・」

少年時代、うんざりするほど駆け抜けてきた道を歩く。
陽は傾き始め、懐かしい故郷の夕日があたりを赤く照らしていた。

気づけば、俺はすでに実家の玄関の前に到着していた。
無意識に鍵を取り出して、久しぶりに見るカギ穴に差し込む。
横にひねれば、数えきれないほどに聞いたパチンという解錠音がこだまする。

扉を開けて家に入り、靴を脱ぐ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:35:43.86 ID:QKPtqF730
('A`)「ただいま」

懐かしい匂い。懐かしい空気。懐かしい光。
台所へ行き手を洗い、迷わず自室へ向かう。

部屋のドアに吊るされた木の板には、『俺の部屋』と書かれている。
ドアを開けるたびにそれが跳ねて、コツコツという音を立てる。

あの頃の記憶が蘇る。


('A`)「へぇ・・・案外きれいだな」

数年ぶりの自室は、俺が最後に出ていった時と、あまり変わっていなかった。
猫足テーブル、勉強机、パイプベッド、クローゼット。

('A`)「ああ、あったなあ、こんなの」

壁に立てかけられたアコースティック・ギターには、錆だらけの弦がしっかりと張ってあった。
高校生になってすぐにバイトを始め、その初給料で買ったものだ。
ずいぶん熱を入れていた気もするが、今では一曲も弾けないだろう。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:38:04.22 ID:QKPtqF730
ブラウン管テレビの前に置かれた二人掛けのソファーが、居心地悪そうに佇んでいた。
彼女が出来たときに役に立つと言われ、近くの家具屋で購入。
シングルソファーで良かったと気づいたのは、高校三年の冬だったと思う。

('A`)「本当に・・・」

ベッドの下に隠していた灰皿は、今でも変わらずにそこに置いてあった。
今思えば匂いや壁に染みついたニコチンの色でバレバレなのだが、親父が俺の部屋に近付く事はなかったから、まあいいのだろう。

('A`)「・・・懐かしいな」

親父が言っていた通り、カーテンが新しくなっていた。
その生地を透して、夕陽が部屋をオレンジ色に染めている。

なぜ親父はカーテンを替えたのだろうか。
俺が帰ってこなければ、何の意味もなかったのに。

('A`)「・・・」

('A`)「・・・風呂掃除・・・するか」

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:41:42.80 ID:QKPtqF730
洗剤まみれのスポンジで風呂桶を擦りながら、俺は考えていた。

ひょっとして――――


俺は、親父に会いたかったのだろうか?


('A`)「・・・まさか」

頭を振って、奇妙な感情を追い払う。
まさか、そんなはずない。

古い記憶を掘り起こしても、親父との良い思い出など、一つもないのだから。

('A`)「・・・」

いつだったか、俺は一度だけ、親父にねだったことがあった。




(・A・)『お父さん、キャッチボールがしたい』

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:43:59.74 ID:QKPtqF730
('A`)「はは・・・あの時はまだ『お父さん』だったっけ・・・」

その時の親父の態度は、息子にとって残酷に過ぎるものだった。
親父はいつもの顔つきで、俺から顔をそらし、玄関の扉を開けて言った。


(`・ω・´)『そんな時間、ない』

(・A・)『でも、でも、友達はみんな、お父さんとキャッチボールしてるよ』

(`・ω・´)『ウチには』




(`・ω・´)『グローブも、ボールも、ない』




('A`)「ひーまー・・・だー・・・」

風呂掃除を終えて、何をするでもなく廊下をぶらついた。
実に暇だ。

地元の友人に連絡を取ろうとも思ったが、考えてみれば皆進学やら就職やらで、この土地を出て行ってしまっていた。
正月でもないのに地元で暇そうにしている人間は、俺ぐらいしかいないだろう。

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:46:27.26 ID:QKPtqF730
('A`)「ん・・・」

とある光景が目に留まる。
廊下の突き当たりに、親父の部屋があった。

親父の寝室兼書斎であるその部屋は、その昔、毒男少年にとって悪魔の根城のように映ったものだ。
今ではなんの脅威も感じない。
当然だ。
俺だって大人になったのだから。

考えてみれば、俺は親父の事をあまり知らない。
仕事の内容や、休日に何をしていたのかなど、知る術もなかった。
普段何を考え、何を思っていたのか。

俺の事を、どう思っていたのか。

それを知りたいと願うのは、息子の俺にとって、罪にはならないだろう。
俺は意味もなく忍び足になって、ドアノブに手をかけた。

('A`)「失礼しまー・・・す」


部屋の中は、実に雑然としていた。
壁を覆う本棚と、それを埋める本の数々。
隅に置いてあるベッドが、やけに小さく見えた。
木製の大きな机には、図面の引かれた紙や資料が束になって重ねられている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:53:32.95 ID:QKPtqF730
('A`)「・・・」

その中に埋もれるように、数冊の分厚い本が並べて置かれていた。
表紙に書かれた、『DIARY』の文字。

親父の日記だった。

('A`)「こんなの書いてたのかよ・・・まじめだねえ」

俺の独り言が、親父の部屋の中に響く。
日記を持つ手は、少し、震えていた。

('A`)「・・・」

最初のページをめくってみた。
少しだけ、少しだけだ。
チラッと眺めて、それで終わりにする。

('A`)「えーと・・・・」

最初の日記の日付は、十年以上前のものだった。
お袋が死んで数か月後から、この日記は始まっていた。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:55:30.12 ID:QKPtqF730
『3月25日』

『今日から日記をつけようと思う。理由は特にない。
 ただ、このままではいけない。
 あいつはいなくなってしまったが、まだ毒男がいる。
 来年には、毒男も小学生だ。』



('A`)「・・・ふうん」


一日分の文章は、それほど長いものではなかった。
内容は、大抵が仕事の話だった。
日記が面白くなければいけない理由はないが、実に読みごたえのないものだと言わざるを得ない。

何気なくページをめくっていくと、ひとつ、目を引く記述があった。



『9月25日』

『今日は毒男の運動会があった。
 今年は初めて間に合うと思ったのだが、仕事のトラブルで遅れてしまった。
 運動場に着いた時には、もう閉会式も終わり、生徒たちも帰っていた。』

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 20:58:47.81 ID:QKPtqF730
('A`)「・・・本当かよ」

呟きが漏れる。
文字は続いていた。


『息を切らしてグラウンドに駆け込んできた俺を、残っていた先生方は胡散臭そうな目で眺めていた。
 仕方ない。俺が悪いのだ。

 毒男は果たして、頑張ったのだろうか。』


('A`)「・・・ふん」


『話を聞きたいが、最近では目も合わせてくれない。
 汚れた運動服も、毒男は自分で洗濯をしていた。
 申し訳なくて、声もかけられない。

 来年こそは、絶対に間に合おうと誓った。』



('A`)「・・・」

ページをめくる。
俺の指の動きは止まらなかった。

『毒男』という文字を探して、俺は紙の上に指を滑らせた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:00:56.31 ID:QKPtqF730
『3月14日』

『今日は毒男の誕生日だ。
 10歳になった。
 毒男が生まれたあの日から、もう10年が経った。
 
 しかし祝ってやる時間がない。
 祝ってやる言葉が出ない。
 会社の人間にはどんなことでも言えるのに、実の息子に「おめでとう」の一言さえかけてやる事ができない。』


『今日、会社へ行く前、毒男に話しかけられた。
 キャッチボールがしたいと言われた。
 でもやはり、そんな余裕はなかった。
 そもそもこの家には野球道具がない。
 断った時の毒男の顔を、まともに見ることができなかった。』


日記を持つ手が震える。


『出張先で、小さなスポーツ店を見つけた。
 ふと毒男の言葉を思い出して、立ち寄ってみた。
 子供用のグローブと大人用のグローブ、それと軟式の野球ボールを買った。
 同僚に茶化されたが、構わなかった。』

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:03:04.38 ID:QKPtqF730
 

親父。
あんたはどうして―――――


『家に帰ったら、毒男にグローブを渡そう。
 キャッチボールをしようと、提案してみよう。』




('A`)「どうして・・・渡してくれなかったんだよ」


机の引き出しの、一番下。
その奥に、二つのグローブと野球ボールがひとつ、埃をかぶっていた。
古いけど、傷一つない。

俺はそれを手にとって、また日記の続きを読んだ。

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:08:26.59 ID:QKPtqF730
『今日、毒男に「親父」と言われた。
 「お父さん」じゃなく、「親父」と言われた。
 そのことが嬉しくて、涙が出そうになった。
 高校生の男子は父親の事を親父と呼ぶものだそうだ。』 

 
『距離が、近づいた気がした。』




『今日は毒男の15歳の誕生日だ。
 勇気を出して、毒男にプレゼントは何が欲しいか、聞いた。』


何もいらねえ、自分で買う。
バイトしてるんだ。

俺はその時、そう言った。



『ギターを買ったらしい。
 毒男の部屋から、今も音が聞こえてくる。』

『頑張れ。お前には絶対に音楽の才能がある。』



『いつか俺に聴かせてくれたら、いいな』

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:12:54.46 ID:QKPtqF730
『毒男の就職が決まった。
 東京に行くらしい。
 俺には何の相談もなかった。
 
 仕方ない。
 こんな父親だから。』

『この歳になって、夢ができた。
 里帰りした息子と、酒を飲むこと。』

『どうか健康に気をつけて。』


( A )「・・・」


『毒男がいなくなった。
 この家は、俺一人で使うには広すぎる。
 息子が出て行ってから、ようやくその事に気づいた。
 
 夜中に家に響いていたギターの音は、もう聞こえない。
 たまに俺に向けられる無愛想な顔は、もう見ることができない。

 あいつの履き潰されたスニーカーも、着古した学生服も、錆だらけの自転車も。』

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:16:22.90 ID:QKPtqF730
日記の上に、ぽたぽたと、水滴が落ちた。
それが自分の涙だと気づくのに、少し時間がかかった。




(;A;)「・・・」



 
『妻と息子を失ったこの家は、まるで俺のための棺桶のようだ。
 寂しくて冷たい、大きな箱。』


『この日記も、今日で終わりにしようと思う。』





『毒男、すまなかった。いつか、また会う日まで』



37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:22:49.50 ID:QKPtqF730



退院した親父を、病院へ迎えに行った。
すこし足取りが不安定な親父を車に乗せ、病院の駐車場をあとにした。

助手席に座る親父は、いつもの親父だった。

('A`)「親父」

(`・ω・´)「・・・ん」

('A`)「体はどう?」

(`・ω・´)「ん、問題ない」

('A`)「風呂、掃除したから」

(`・ω・´)「そうか」

('A`)「カーテン替えてくれて、ありがとう」

(`・ω・´)「ん」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:27:19.37 ID:QKPtqF730
('A`)「・・・」

('A`)「親父」

(`・ω・´)「なんだ」

('A`)「少し寄り道してもいいかな?」

親父はゆっくりと俺に顔を向けた。
どこへ行くのか、聞きたいんだろう。

でも俺は何も言わなかった。
いけばわかるさ。


車を止めたのは、自宅の近くにある公園の脇だった。
太陽は青空にのんびりと浮かんでいて、時折雲に隠れて地上に影を作った。

ベンチには老人と猫が並んで座って、眠そうに欠伸をしている。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:29:46.13 ID:QKPtqF730

('A`)「キャッチボールしよう」


車に積んでいたグローブの片方を、親父に向かって投げる。
戸惑いを押し殺したような表情で、親父はそれを受け取った。

俺は子供用のグローブを左手にはめ、何度か右拳で叩いた。

('A`)「行くよ」

(`・ω・´)「・・・む」

('A`)「ぃよっと」

放物線を描いて飛んだボールは、親父のグローブに当たって、地面に落ちた。
親父はしばらく伸ばした腕を見つめて、それから屈んでボールを拾った。

(;`・ω・´)「・・・」

('A`)「おい親父、しっかりしろよ」

(;`・ω・´)「あ、ああ・・・すまん」

('A`)「このグローブ、小さくてさ。手が痛いよ」

(;`・ω・´)「そ、そうか・・・」

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:34:46.83 ID:QKPtqF730
(;`・ω・´)「いくぞ、毒男」

ぎこちなく振りかぶる親父。
もうすでに顔は汗だくだった。

('A`)「親父、スポーツ苦手だろ?無理すんなよ」

(;`・ω・´)「うりゃっ」

親父が放ったボールはなぜか俺の方ではなく、白い雲を浮かべた青空に向かって舞い上がった。
やがてそれは重力に引かれて地上に落ち、肩で息をする親父の足元を転がった。


('A`)「おうい、ぜんぜん届いてないぜ」

(;`・ω・´)「わ・・・悪いな」

('A`)「やっぱり、病み上がりには辛いかな」

('A`)「また明日やろう。帰ろうか、親父」

(;` ω ´)「・・・」

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:36:46.45 ID:QKPtqF730
(` ω ´)「悪かった・・・毒男・・・」



(`;ω;´)「こんな父親で・・・悪かった・・・」


親父は泣いていた。
地面に膝をついて座りこみ、大粒の涙を流していた。
無精髭の浮いた頬を伝ってこぼれおちた涙が、乾いた地面に染み込んでいく。
子供のようにしゃくりあげ、長い時間をかけて溜まっていった言葉にできない感情が、嗚咽と共に溢れ出ていった。

(`;ω;´)「・・・すまないな・・・毒男・・・」


――――――そうだ。

家に帰ったら、一緒に風呂に入ろう。
背中を流し合って、語ろう。

酒を飲んで、酔っぱらって、笑い合おう。
伝えられなかったことを伝えよう。

喧嘩だってするかもしれない。
構わない。すぐに分かり合えるさ。

俺たちは親子なんだから。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/11/22(日) 21:38:10.24 ID:QKPtqF730


('A`)「親父」


あんたは俺の、かけがえのない、親父なんだから。


('A`)「家に帰ろう」












('A`)と親父のようです


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