(´・ω・`)片道2時間のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:34:09.39 ID:H2g+/aZx0
自分の口からもくもくと煙が吐き出されていく。
梅の花が咲き乱れているというのに、朝にはまだ春が訪れていないようだ。
歩く度にふわりと舞い上がるマフラーを巻きなおしつつ、時計を見れば、
電車が出発する時刻の5分前の所に長針があった。

ああ、こんな事ならもっと早く起きておくべきだった。
先に立たない悔いをいくらした所で、何の足しにもならないのだが、
それでも後悔はしてしまう。

今回の敗因は春眠暁を覚えずと言うように、布団の心地よさに抗いきれなかった事だ。
ついつい5分10分と長く眠ってしまう。
尤も、お世辞にも春と呼べるような気温ではないが。

この電車に乗り遅れる訳にはいかないので、小走りで駅へと向かう。
息が次第に上がり、口から不規則に白色が浮かぶ。
少々駆けた程度でこの様。

日頃いかに引きこもりのような生活を送っているかが嫌でも分かる。
しかしながら運動するつもりは毛頭ないので、体力が増える事は半永久的にないだろう。
頭の中でそんな事をこねくりまわしていれば、いつの間にか駅へと辿り着いていた。

駅前に聳え立つクエスチョンマークのように見えるオブジェクト。
この街に唯一ある、時計台らしくない時計台を見ると、時間は先ほどより目盛2つ分進んでいる。
乗り遅れるかと思ったが、この分だと大丈夫だ。

人間やれば案外何でも出来るものなのかもしれない。
例えば50歳で世界陸上100m走金メダル、70歳で妊娠、10歳で大学院卒業。
……いや、無理なものはあるだろ。常識的に考えて。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:37:31.38 ID:H2g+/aZx0
この駅にはもう改札などなく、片田舎の駅故に舎内はがらんどうとしている。
住民の半分が年配、更にその半分が所謂アラフォーのこの町には、お似合いな光景だろうが。

元改札であった場所を通り抜け、停車中の電車へするりと乗り込む。
時間帯が時間帯だからか、ぽつりぽつりと学生の姿が見受けられる。
セーラー服姿もあれば、ブレザー姿もある。詰襟も見えるが視界には入れない。

やはり学生服といえばセーラーに限る。
1年着ても3年着ても変わらずにある初々しさが堪らない。
そして何より折り目正しいプリーツスカートから伸びる、美しい白色や小麦色の足がそそる。
オプションに紺色ハイソックスも欲しいところだ。

いかんいかん、こんな公衆の面前でこのような下賤な事を考えるのは止めよう。
もし仮に考えている事が周りに伝わってしまう人種だったらどうするのだ。
蔑まれ野次られ踏みつけられ燃やされ殺されてしまう。
ここは敢えて同類が来るに3ペソ賭けよう。なんて不毛な賭けなんだろうか。

ゴトリという音と同時に電車が揺れる。
時計を見ると発車予定時刻1分後。電車が遅刻してどうするんだ。
まったく。これだから田舎時刻は困る。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:40:45.68 ID:H2g+/aZx0
確かな速度を持って景色がぐんぐんと流れていく。
配色の半分以上が緑色なのは、木々の間を縫うように進んでいるからだ。
もう半分が茶色なのも木々のあいd(ry

しかしよくもまあこんなに変わり映えしないものだ。
そっちを見てもあっちを見ても緑緑緑茶。
目に優しいが、優しくない。そう思うのは見なれているからか。

例えばこの景色が、ビルががんがん車もばんばんなものだったとしよう。
きっと楽しい。新しい刺激として脳が認識するからだ。
しかし、それを毎日見ていればいつか飽きる日が来る。

逆に都会の人間がこの風景を見れば、きっと楽しいと思うのだろう。
尤も、そんな所に住んだ事がないから分からないが。

小さい頃は都会に憧れていた。
小学生の時、誰でも将来の夢というタイトルの作文を書かされたと思うが、
そこに都会に住む事と書いた。夢がないと先生に怒られた。親にも怒られた。

眠る事を忘れたあの街々には何でもあると思っていた。いや、今でも思っている。
ただ長くここに住み過ぎた自分に、そんな有象無象の中心で生活できるとは思わない。
もしかすればそれは只の言い訳で、実際は案外住めたりするのかもしれない。

単に寂れた町から離れられなかった。離れる勇気がなかっただけ。
こんな町に生まれてきた事を心底呪った時すらあるというのに。
実に滑稽で、喜劇的で、痛快なのだろうか。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:43:46.58 ID:H2g+/aZx0
長い鬱蒼としたトンネルを抜けると、一気に視界が開けた。
それと同時に、車体が傾ぐ。耳障りな音を立てながらゆっくりと坂を下りていく。
段々近づく蒼。太陽の光を受け、斜めになった水面が煌めいている。
やがてその面も並行になり、ブレーキの音もなくなった。

海の上をすーっと電車が走る。別に珍しい事ではない。
この間読んだ小説の世界では、それがさも珍しい事のように描かれていた。
想像力豊かな人間もいるもんだ。俺にはそんな大層なものなど思いつきそうにない。

空想の世界を脳内で構築できる人間の脳の構造とはどうなっているのだろうか。
きっとおもちゃ箱みたいなんだろう、と勝手に思う。
色々な要素が山積みになっていて、そこから奇抜な組み合わせを選ぶのだろう。
多分。いや、物書きじゃないから分からないけど。

やはり生産者側より消費者側にいる方が性にあう。
小難しい事をこねくり回して提供するより、完成したものに難癖付ける方が楽だから。
何とも現代人らしい思考回路か。もしくはゆとりらしい思考回路か。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:46:34.91 ID:H2g+/aZx0
前に広がる海と同じ色をした空の中を、色とりどりの魚が泳いでいる。
赤黄橙紫桃白緑青……。言葉にして見たが、単純に”赤”と一括りにしてはいけないほど、
沢山の”赤”い魚がいる。他の色も同じような感じだ。

魚の虹をぼんやり眺める。一匹よりもやはり沢山いた方が綺麗だ。
世間一般的にあまり好まれない色の物もいるが、それを入れても。
いや、その色すらも綺麗に見える。それは沢山いるからなのか、或いは別の理由なのか。

そういえばいつぞや魚釣りに行ったが、その時釣った魚の顔が面白かった。
妙に眉が吊り下がっていて、目がくりくりとしていた。
そこからショボンという名前を付けて飼ったが、一週間ぐらいで死んでしまった。

どうも昔から魚を飼うのは苦手だ。
小さい頃、縁日にあるクリオネすくいをよく親にせがんでやってもらったのだが、
すくってもらったクリオネをすぐに死なせてしまった。
ん? そもそもあれは魚なのか? よく分からん。まあいいか。

溜息を吐いていつの間にか下に向いていた視線を窓の外へと戻すと、
海の向こうに小さく整然と並んだビル群が見えた。
あそこが目的地なのだが、まだまだ着かないだろう。

時計を見れば、出発してから20分しか経っていない。
俺の住んでいる町からあの街までは、電車で120分掛かる。
それでももう6分の1か。早いのだか遅いのだかよく分からない。

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:49:36.96 ID:H2g+/aZx0
段々と魚たちが遠くなる。それに反比例するようにして家々が増えていく。
その中にちょこちょことアパートがあったり、店があったりする。
まさに普通の町並み、と言っても遜色ないだろう。

不意にどこからか聞き覚えのある音楽が聞こえてきた。
これはなんだったろうか。と首を傾げる事数秒。
思いの外するりと答えは出てきた。そうだ、アクエリオンだ。

一万年と二千年前から愛してる奴は誰だと、きょろきょろあたりを見渡す。
多分、目の前にいる詰襟の奴だ。イヤホンをつけている。

まったく、アニソンとはけしからん。いやアニソンはけしからなくないが。
なんというか、知っているだけに気恥かしかっただけだ。

アニオタ=悪みたいな風潮に毒されてしまっているのだろう。
どうもおおっぴらにオタクだと公言してはばからない人間は苦手だ。
まあ、自分の場合、外見から既にオタクだと言っているらしいのだが。
ああ死にたい。池面に生まれたかった。切実に。

詰襟は相変わらずアニソン或いは電波曲を垂れ流している。
今、かすかに”ご”が沢山聞こえた気がした。もう嫌だこの人。

しかし何故さっきまで聞こえなかったのだろう。
単純に詰襟が音量を上げただけなのかもしれないし、
単純に意識を景色或いは内に向けていたからかもしれない。
まあ、どっちでもいいのだが。どちらにしても、今、聞こえているのだから。

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/20(日) 23:52:55.68 ID:H2g+/aZx0
詰襟を意識するのが恥ずかしくなってきたので、観察対象を変える事にした。
出来る事なら可愛いおにゃのこのがいい。野郎なんて御免だ。
そう思って周りを見ると、扉の近くに一組の男女が楽しそうに会話しているのに気づいた。

从 ゚∀从「昨日ニヨニヨ動画見たんだけどさ」

川 ゚ -゚)「それはいい。お前、勉強はどうした。勉強は」

从 ゚∀从「はは、役に立たない事はしない主義でな」

川 ゚ -゚)「お前の大好きなニヨニヨ動画を漁るという行為も、将来的に考えてみれば、
     一切役に立たないと思うが?」

从;゚∀从「あー、ほら、それはだな、息抜きだ、息抜き」

川 ゚ー゚)「ほほう……何の息抜きか気になるところだな」

以上、男女の会話より抜粋。
なんだあのカップル。アベック。彼氏彼女。りあみつる。
嫌み?嫌みなの?馬鹿なの?死ぬの?むしろ死ねって事?死にたい。

発狂したい気持ちを抑え、先ほどの会話を思い出す。ニヨニヨ動画、だと……?
お前もか、ブルータス。ほほう、お前もそういう話をするか。
この電車内の詰襟はみんなオタクという定義式でも構築されてるのか。

これは拷問電車なんですか、どうなんですか。
しかし心の中で問いたのでどこからも返事は返ってこなかった。

13 名前: ◆mtHlqFODh2 投稿日:2009/09/20(日) 23:55:57.54 ID:H2g+/aZx0
二重の意味で死にたくなってくる二人組から意識を逸らす。
もう嫌だ、この電車。と思いつつも、観察対象を探していしまう。これが人の性か……。

ふと自分の座る長椅子の少し向こう側に、目の前のキャリーに寄りかかり、
うとうとしているブレザー姿の少女がいる事に気づいた。

なんというか、不思議な組み合わせだ。というか生まれて初めて見た気がする。
合宿か何かがあるのだろうか。或いは、家出なのか。

前者ならば何の部活なのか気になるところだ。
後者ならば是非とも保護したい。まあ、顔が可愛ければの話だがな。

少女をちらりちらりと眺めていると、やがて目が覚めたらしく、体を上げた。
顔偏差値50と言ったところか。なんともコメントしづらい。

そのブレザーっ子は一度小さく伸びをすると、ポケットから携帯を取り出し、
何をそんなに急ぐ必要性があるのかと問いたいぐらいの速さで打ち始めた。

なんというか現代の高校生らしいというか、なんというか。
しかし何をどうしたらあんなに速く打てるのか。これはパソコンでも同じ事が言える。
そもそもタッチタイプってやつはどうやって会得するんだ。

機械オンチの気がある自分には到底手に入れられないであろうスキルだ。
そんな自分でもパソコンを触れるあたり、今のパソコンはすごいんだと思う。
技術者ってすごい。あと科学者も。マジすげぇ、マジパネェ。

15 名前: ◆mtHlqFODh2 投稿日:2009/09/20(日) 23:59:04.90 ID:H2g+/aZx0
人間観察にも飽きてきたので、窓の外を見る。
いつの間にか町並みは消え、大密林と呼んでも遜色ない景色へと変わっていた。
自分よりも背丈の高い草がたくさん生え、小人になったような気分になる。

それにしても暇である。何をしていればいいのだろうか。
そもそも暇とはなんだ。手持無沙汰な時間を指すのか。
今は移動時間な訳で、となれば手持無沙汰でもない気がする。

つまり俺は暇じゃないのか?あれ?
おかしい。暇だと思っているのに、今現在している事はある。
いやでも、していると言っても受動的な物に過ぎない訳で。
という事はやはり、暇だという表現は合っているのだろう。多分。

こういう哲学的な事はどうも苦手だ。文系の方々に是非ともお譲りしたい。
どちらかというと数字をこねくり回す方が好きだ。
正解が一つというのは、すっきりしていて、何より安心できる。

ただまあ、苦手なのだが。微積分以上になるとラプラス変換位しか出来ない。
尤もどこで役に立つという話なのだが。

そもそも学校で習う事なんて、ほとんど日常生活では役に立たない事ばかりだ。
と、言う奴がいるが、そうでもない。そういう人も世の中には確かに存在する。

だが、大多数の人間は微積分なんて使わずに暮らしているし、自分だってそうだ。
そんな人間が何故無根拠にも聞こえる事を言っているか。
理由は単純明快。身近にそういう少数に入る人間がいるからだ。

16 名前: ◆mtHlqFODh2 投稿日:2009/09/21(月) 00:02:09.10 ID:b9/ty6wD0
窓の外を先ほどから拳大ぐらいの虫がぶんぶんと飛び回っている。
それにしても耳障りだ。どこかに行ってもらいたいものだ。
そう思っていると、どこからか葉擦れの音が聞こえてきた。何が出てくるのかわくわくする。

クレッシェンドしていた音が一瞬消えた。

と知覚したのとほぼ同時、草の間から背景と同化しかねない色の鋭い鎌が出てきた。
その鎌がばさりと羽虫を切り捨てた。水気の多い音を立てながら、元羽虫が落下する。
素晴らしいお手前であります。惚れぼれしちゃいます。

雑魚を目にも止まらぬ速さで切り捨てた緑のお侍様が、角の形した顔をひょこりと出してきた。
複眼の一個一個に窓と自分と他の乗客たちが映り込んでいる。
それだけの数見えていてよく混乱しないもんだよな。感心する。

しっかし、カマキリと見つめ合うってなんだかドキドキしちゃう……。
心臓がバクバクと音を立てて脈打っている。もちろん、惚れたからではない。
よく考えろ、自分よりサイズのでかいカマキリと見つめ合って楽しいと思うか?










答えは―――NOだ。怖いに決まってんだろ、常識的に考えて。
ときめく奴がいたら是非ともお顔を拝見したい。そして崇め奉りたい。嘘だけど。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:04:51.79 ID:b9/ty6wD0
( ゚ ゚)「おっぱい! おっぱい!」

カマキリが歩きながら何か言ったぞ。おい、今卑猥な言葉が聞こえたぞ。
いやちょっと待てよ、空耳に決まってるだろ、ハハハ、天下のカマキリ様がそんな事言う訳n

( ゚∀゚)ノ彡'「おっぱい! おっぱい!」

うっわ、鎌振りながら笑顔で卑猥な事叫んでるぞ。何この変態。
あれ、なんか楽しくなってきた。おら、わくわくしてきた!
うwwwはwwwおwwwkwwwまwwwかwwwせwwwろwww

ハッ、いやいや、自分はそんなキャラクターじゃない。
少なくとも密林の中で草を更に生やすような物好きではないはずだ。
落ちつけ、素数を数えるんだ。1、2、3、4、5、あれこれ普通に数えてるだけじゃん。

洗脳するのを諦めたのか、カマキリは歩みを止めた。
だがまるで遠吠えかのように卑猥な単語が聞こえる。なんだったんだ、あのカマキリ。

確かに女性の胸は好きだが、しかしだな、公共の場所で口に出したらいけないのですよ。
世の中の皆さまにフルボッコにされちゃう。消されちゃう。怖い怖い。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:07:46.76 ID:b9/ty6wD0
「次はー新足、新足です」

電車に乗り始めてだいたい1時間程度。
ここで一度乗り換えなければならない。面倒ではあるが。
ぐっと大きく伸びをし、強張り始めた筋肉を解してから、立ちあがる。

進行方向には灰色の小さなプラットホームがぽつりと森の中に佇んでいる。
金切り声を上げながら、電車はそこへ目がけて速度を緩めていく。
緑の海の中の鉛色の孤島へ辿り着いた。溜息にも似た音を立てて扉が開く。

降り立つと、もう一人別の扉から降りてきたのが目に入った。
その人物は青色のツナギを着ており、醸し出す雰囲気はまさに漢。

しかしいくらイイ男とはいえ、じろじろ見るのはマナー違反だろう。
男から目を離し、空を仰ぎ見た。

どこまでも青い。いや、水色というか。
透明感があり、この青がもう少し薄くなったら、空の底が見通せるような気にすらなる。
そういえばこの感じ、どこかで味わったような気がする。

既視感から記憶を手繰り寄せてみたものの、どこかに辿り着くことはなく。
そして自分は考えることをやめた。そういえば、これの元ネタってなんなんだろ。
某巨大掲示板でよく使われているから使ったものの、出典が分からない。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:10:58.75 ID:b9/ty6wD0
視線を感じて、男の方を見ると、ぱちりと目が合った。
何コレ、恋が始まる3秒前?
童貞すら捨ててないのに、処女を捨てるのはちょっと……。

あくまで冗談だ。そう、ただのジョークだったんだ。
男が口を開くまでは。その言葉を言うまでは。

N| "゚'` {"゚`lリ「や ら な い か」

………やああらねえええええよおおおおおおおお!
童貞はともかく、処女を守れない男はヤバいだろおおおおよおおおおお!
まあああじでええええええやられてたまるかあああああああ!

N| "゚'` {"゚`lリ「俺はノンケでも食っちまう男なんだぜ?」

知らんがな!知るかああああバーーーーカ!
勝手にどっかの男でもひっかけてろってんだ。
生憎と俺には嫁がいるんでな。画面の中から出て来てくれないけれど。

N| "゚'` {"゚`lリ「それならしょうがない」

ふう。諦めてくれたらしい。
そう安心した自分が間違っていた。
おもむろに男がツナギを脱ぎ始めた。まさか。そんな、な?

N| "゚'` {"゚`lリ「やらないか。ただしお前に拒否権はない」

ハハハ、言うと思った。

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:14:11.63 ID:b9/ty6wD0
俺が抗い、俺が護るようです(処女或いは童貞的な意味で)。
さてここで武器は何があるか確認しようじゃないか。

・ノートPCの入った鞄

以上

……あれ、これ、死亡フラグか?そうなのか?
処女を奪われてしまうのか。それだけは嫌だ死んでもいやだ。
考えろ、考えるんだ。考えなくても分かるだろうが。

嫁たちが詰まったこのハイスペックな箱を使う他ない。
ごめんな、PC。家に帰ったら撫でまわしてやんよ。

変態野郎に向かって鞄をカウンター出来るよう構える。
奴の攻撃を受け流し、あわよくば反撃できれば本望という状態である。
非力な自分が出来るのは防御とカウンターだけ。

ならば、それを実行する以外、このフラグをへし折る術はない。
死亡フラグ、ベッキベキにしやんよおおおおおおおお!

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:17:38.79 ID:b9/ty6wD0
N| "゚'` {"゚`lリ「俺とやり合う気かい? 面白い、ねじ伏せてヤる」

男が地を蹴り、こちらへ突撃してくる。
それをどうにかかわして再度カウンターのための構えに入る。
勝負は一瞬。殺るかヤられるか。二つに一つだ。

仕掛けてくる。避ける。立場の変わらぬ攻防が延々と繰り返される。
正直な話、そろそろ逃げるだけの体力がなくなってきた。
対して相手はまだまだ余裕そうである。

次のやりとりで決めるしか、俺に勝ち目はない。
それで仕留める事が出来なければ俺は晴れて処女卒業してしまう。
勘弁してくれ。本気で。

男がこちらへ向かって駆けてくる。
速度を利用して腹部へと殴ってきた所をあえて避けずに受ける。
重たい痛みが体を駆け抜け、意識が一瞬消えかけた所をどうにか持たせ、
俺は力を込めて鞄を男の頭に叩き付けた。

やった。これは勝った。そう思った。
だが男はニヤリとこちらに笑いかけ、俺は腕を拘束された。
スーツを脱がされ、そして……。

・・・
・・


25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:20:33.97 ID:b9/ty6wD0
意識がふっと浮上する感覚の後、目を開けると、電車の中だった。
ということは、先ほどのやりとりは夢であったのだろう。
どこからが現実でどこからが夢だったのだろうか。

腕時計を見ると、電車が発車してから50分。
もうそろそろ乗り換える駅に着く。つまりそこからは夢だったという事なのか。

それにしてもどこか現実味のある、現実との境目が分からない夢だった。
まあ、いつ寝たのか分からないのだから、それはあたりまえか。

「次はー新足、新足です」

乗り換える駅の名が放送される。ぐっと背伸びをし、席を立った。
出口へ向かうと、まるで空気を読んだかのように電車が駅へと滑り込んだ。
プシューという音とともに扉が開く。そこで降りた。

新足という駅は乗った駅よりも少々大きな駅だ。
そうは言っても小さいという点はそんなに変わらないのだが。

数分程度待っていると、電車がやってきた。それに乗り込み、目的地を目指す。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:24:03.91 ID:b9/ty6wD0
先ほどの電車とは打って変わって、大分人が多い。
特に制服姿がよく目につく。やはりセーラー服は正義だ。
紺色のプリーツというのは、白い足にとても映える。へ、変態ちゃうわ!

このまま車内を見ていたら延々と女子学生を視姦もとい見つめ続けてしまいそうなので、
窓の外へと目を向ける事にした。痴漢扱いされたら人生が終わるしな。

特筆すべき物は何もない。ただ至って普通な田園風景が流れていく。
今の時期は休耕。茶色の田の上に、枯れ草が立っているだけである。
物悲しい気分になってきたが、都会の人間はこれをノスタルジックというのかもしれない。

眠る田んぼたちもやがていなくなり、また木々が生い茂る中へと電車は進む。
それにしても森多くね?いい加減描写してて飽きてきたぞ。
しかしながら、山の間をすり抜けるようにしてレールがあるため、必然的に木が多くなる。

つまり森の描写が多いのは当たり前であって、決して意図したものではない。
だが、ここは作品世界。作者の頭の中で蠢く妄想で形成されている場所なのである。
結論から言うに、作者の頭の中イコール森という事か。え、俺は何を言っているんだ。

大体俺という個性が悩み苦しんでここに在る限り、俺は存在すると言えるはずだ。
我思う故に我在り、とエロイ人が言っていた通り。
想像上の生物ではなく、妄想の産物ではなく、俺は俺だ。多分。

ただし、小説の登場人物もまた同じような事を考えるはずだろう。
つまるところ、我思う云々という我が他によって人工的につくられている可能性があるという訳だ。
そんな事考えてたら、なんだか俺、夢の世界の住人な気がしてきた……。
そ、そんな事はないだろハハ。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:27:00.81 ID:b9/ty6wD0
生産性皆無な事を考えているうちに、いつしか窓の外には大きな塔があった。
木々に囲まれるように建つ、天をも突き抜けるようにある建造物。
じっと塔の上を見ていると、何かがゆっくりと落ちてきた。

それは沢山の風船をつけた人間だった。風船の数は多すぎて数えられない。
彼は何をしているのだろうか。想像すらつかない行動だ。
何故に緩やかな落下をしている。それも風船をつけ……。

そういえばこんな話がある。どこかに大きな塔から、時間を告げる変な男がいるという事を。
ちなみにこの男、いつも陰気な雰囲気を漂わせており、猫背すぎるあまり背がとても低いらしい。
近くに住む村の人間は、その男の持つ雰囲気とやっている事があまりにも異質すぎて近寄らないのだと。

時間を告げる、と言ってもその方法は多種多彩で、
その時間の数字を書いた大きな風呂敷で落下してみたり、
時間毎に楽器を変えてファンファーレのような音楽を奏でたりするらしい。

彼がどうしてそのような事をやり始めたのか。またいつからやり始めたのか。
それは謎に包まれているらしい。

その話を聞いた時、正直、御伽話か何かと間違えているのかと思っていた。
設定がまさにソレすぎる。絶対そんな童話ある、と思えて仕方がない。
だが事実、目の前には例の彼が落下を続けている。
彼の思いつく方法で誰かに或いは何かに時を告げている。

事実は小説より奇なり。世の中とは恐ろしいところだ。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:30:12.25 ID:b9/ty6wD0
近くにいれば大きすぎて恐ろしさすら感じる塔も、遠くに行くにつれその魔力はなくなる。
代わりに見る者に与える印象は荘厳。そしてその付近を未だ浮遊する風船で出来た風船。
風船製風船を見ていると、スイミーという絵本にある小さな魚たちが集まって大きな魚になるというのを思い出す。

ただしそのシーンしか覚えていない。
あれはどんな話だったか……。赤い魚たちの中に黒い魚がいたことだけは思い出せる。
そこだけだとなんだかみにくいアヒルの子を連想しない事もない。

童話にはよくそういうお話が多い。つまり誰かがハブられてるけど、ハブられた奴勝ち組な話。
シンデレラもそうだ。でもあれ、初版怖いぞ。ついでに言うとグロ注意。
なんでグリム童話の初版はあんなにエグいんだ。

中でも恐ろしいのは”子供たちが屠殺ごっこをした話”だと俺は思う。
無邪気さは時として残酷である。そういう事を言いたいのだろう。たぶん。
だがあれは救われないにも程がある。そしてあの結末だ。酷いなんてもんじゃない。

まあそんなことはどうでもいい。
自分が実は童話好きとかどうでもいい。
こ、これはロリっ子を釣る為であって、風刺的な作風に魅せられた訳じゃないんだからな……!

あれ俺何に対してツンデレってんだろ。
男のツンデレってきめぇ。マジきめぇ。気持ち悪すぎてパネェ。
大体にして、そういう属性は女の子にあるからこそ萌えるのであって野郎には無用のものだ。
こんな事言っていたら腐っているお姉さん方に怒られそうだが。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:33:43.80 ID:b9/ty6wD0
そうしている内に、塔が木々に隠れて見えなくなっていた。勿論風船も。
何故だか世界は大きいと思った。意味は分からない。
自分に分からないのだから、誰も分からないだろう。いえーい!
単に難しい事を思いたい年頃だからなのだろう。そんな可愛らしい年齢など、とっくの昔に過ぎたけれども。

木々が段々と薄くなり、その代わりに緑色の草原が広がった。
ようやく森じゃなくなった。というか、先も言ったが森好きだよな。いやそれはいい。

サバンナのような、少し背丈の高い細めの草が地平線まで広がっている。
これこそまさに緑の海。風が吹くと水が波立つように草がそよいでいく。
さらさらという心地のいい音が、ガラスを越え、こちらにまで聞こえてきそうだ。

眺めていると、遠くの方から白い生き物が大きな群れを成してこちらに近づいてきた。
見た感じ羊のようだ。ふわふわとした毛がとても気持ちよさそうである。
ぴょんぴょんと飛び跳ねるかのように草原を走っている。

動物を遠くから眺めるのはとても好きだ。
ただ、近くに行って触ったりするのはどうも苦手なのだ。
本能的に怖いとでも思っているのだろうか。良く分からない。

羊っぽい生き物がこっちへやってきた。
先ほどまで遠くて細部が見えなかったのだが、やっぱり毛がほわほわとしている。
頭についた角はくるりと丸まっており、これがまた可愛い。ただ、顔が。

  ,,,,,,∠Y"´゙ァッ  
 ヾ,;'    ゝ 'A`)  
  ;' 、,,,,,,,  ;; ,,:' 
  |_j l_j |_j゙l_j 

何この残念な生き物。仕様にしては可哀想にもほどがあるだろ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:36:37.08 ID:b9/ty6wD0
耳を澄ませてみると、本当に小さいのだが、そいつの鳴き声が聞こえた。


  ,,,,,,∠Y"´゙ァッ  
 ヾ,;'    ゝ 'A`) <マンドクセェマンドクセェ
  ;' 、,,,,,,,  ;; ,,:' 
  |_j l_j |_j゙l_j 


俺が悪かった。本当に悪かった。だからもうやめてくれ。
神は何故二物を与えない。俺に関してもこの残念な生物に関しても。
むしろ何でこんな全てにやる気のないような顔にしたんだ。

いや、顔以上に残念なのはどう考えても鳴き声だ。
なんだよまんどくせぇって。なんでそんな鳴き声にしたんだよ。
意味が分からない。神の戯れにしては酷すぎるだろ。

あからさまに面倒くさそうな顔や鳴き声をしているのだが、
この生物たち、よくよく見てみるととても楽しそうに跳ね回っている。
草の海に泡立つ白い波のように、まるでたゆたうかのように、白い塊が動いている。

その大きな群れもやがて遠くへ離れていく。
空に浮かぶまっさらな雲のようにふわりふわりと遠ざかり、見えなくなった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:40:40.10 ID:b9/ty6wD0
ガタリゴトリと電車は揺れる。どこまでもどこまでも進んでいく。
いやそんな事はないけれども。日本の端から端までしかいけないし。
でも矮小な俺からすればとても広いように思える。

草原を抜けると、そこは一面向日葵タ畑が広がっていた。
何か間違っているような気がする。何か忘れているような気がする。
だがそれは気のせいだ。きっと気のせいだ。

太陽のように黄色くて元気になれそうな花たちが、
深い青した空に浮かぶ太陽に向かって思い思いに咲き誇っている。
まるで沢山おひさまがあるようだ。……俺、今、詩人だったな。自画自賛乙!

その中を、もぞもぞと動く何かがいる。
目を凝らして見てみると、どうやら少年二人と少女一人らしい。
何故こんなに曖昧なのかというと、一瞬すぎてちらっとしか見えなかったからである。ちらっ。

しかしショタもロリもいいものだ。どちらも可愛い。愛おしい。
神は親が可愛がれるように子供を可愛く作ったそうだ。
だからどんな動物の赤ん坊も可愛いという訳だ。

つまり俺のロリコン並びにショタコンは神に与えられし萌えなのである。
だから誰かに媚びたり、世間の目を怖がる必要など一切ない。
あああああ、子供かわいいなあああああ子供かわいいなああああああ。

……なんだか急に恥ずかしくなってきたぞ。
ハハハ、おかしいなあ。これはあくまで俺の心のつぶやきだ。
聴いている人間などいないのだ。だから恥ずかしがる必要は皆無。

い、ない、よ、な……? ハハハ……。

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:43:47.00 ID:b9/ty6wD0
黄色の花畑を過ぎると、またしても黄色が広がっていた。
同じ色の名前ではあるけれども、今広がるそれでは和めそうにない。
何故ならば大地がその色であるからだ。

砂漠。過酷な世界。そして侵略するもの。
風に乗り、少しずつ砂は緑を食らいつくしていくのだという。
そう認識すると眼前に広がる鉱物の粒が恐ろしく見えてくるから困りものだ。

ただ砂漠が出来る理由というのは様々ある。
昔の人々が焼煉瓦しすぎて土壌の有機物がなくなったとか、焼畑が原因だとか。
責めるつもりは毛頭ない。ただ尻拭いをせねばならないというのは面倒だと思う。

とはいえ、今、自分たちがこの文化レベルで生活できるのも彼らの知恵の賜物である。
先人たちが積み重ねたものの上に、俺達はまた新しいものを積み上げている訳で。
尊敬の念を忘れていはいけない。少なくとも俺はそう思う。

それに今の文化レベルまで到達していなければ、PCなんて生まれていなかったのだ。
テクノストレスを患い、PCがなければ1日も経たずに死ぬであろう俺に、
PCのない生活を想像しろという方が無理という話だ。PCたん可愛いよPCたん。

脳内で擬人化PCタソと戯れていたのだが、目の端に不思議な光景が映ったので止めた。
ハーメルの笛吹きに出てくる笛吹きのような風貌をした男が、砂漠を歩いているのだ。
しかし男の後ろにいるのはネズミでも、ましてや子供でもない。

彼の後をついて歩くかの如く、青々とした丈の短い草が生えていた。
どういう仕掛けなのだろうか。あの笛に何か仕込んであるのだろうか。
……彼さえいれば先ほど考えていた、砂漠化の問題は解決するんじゃないのだろうか。

人がせっせと吸収性ポリマーを研究して砂漠化を食い止めようとしているというのに。
世の中とは末恐ろしい事ばかりだ。まったくまったく。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:46:31.79 ID:b9/ty6wD0
砂漠の海を越えると、そこにはまたしても青い海が広がっていた。
海の上には緩やかに空へと向かっている線路が走っている。
がこり、と電車が傾く。先ほどの速度を保ったまま、空へと向かっていく。

深い青が離れ、淡い青がどんどんと近づいてくる。
そしてふわふわとした白い雲が窓を覆い隠したころ、電車は上昇を止めた。
                              て
                              が
                             や
                             ど
                            け
                            だ
                           。
                          く
                         い
                        て
                       っ
                      走
                     て
                    っ
                   か
                  向
                 へ
                空
               く
              な         
電車は速度を緩める事

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:49:19.96 ID:b9/ty6wD0
白色に包まれた窓の外には当然白色しかなく。
特にこれといって描写することはない。代わり映えのしない景色が続く。
どうでもいいが、雲とわたがしってすげー似てるよね。

ふと視界の端に雲とは違う白が映る。
白が消えた方向をじーっと見つめていると、何かがふよふよと飛んできた。

( ^ω^)「おっ?」

それは手乗りサイズの雪だるまであった。
ニコニコと笑みを浮かべている。その口が妙にキンタマに見えるのは秘密。
小さな手を広げながら、ふわふわと宙を漂っている。

( ^ω^)「ぶーんぶーん!」

妙な鳴き声を上げながら電車についてくる。
窓を開けてこちらに入れてやろうかとも思ったが、よくよく考えてみるとそんなことをしたら、
こいつはきっと溶けてなくなってしまうのだろう。

可愛いとは微妙に言えないが、愛嬌はとてもあるこの生物、生物か? が目の前で
どろどろに溶けて水になる姿は流石に見たくない。
なので窓を開けずに置いておくことにした。しかし妙に可愛げがあるな。

( ^ω^)「おっおっおっ」

またしても不思議な鳴き声を上げながら、そいつは何処かへと飛んで行った。
行く方向を見てみると金色の髪をした妖精のような生物がいた。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:52:10.96 ID:b9/ty6wD0
二匹の生物(?)はくるくると踊るようにして回ると、雲の中へと消え去っていった。
しかしあいつらなんだったんだろう。特に雪だるまっぽいの。
どこから声出してたんだ。発声器官をどこに内蔵していんだろか。

順当に考えてみると腹の部分に格納されていると考えていいだろう。
だがあえてここで頭部に埋め込まれていると考えてみるのも面白いかもしれない。
しかしどこから出力しているんだ。口か、あのキンタマみたいな口からか。

雪だるまの内部構造についてぶつぶつと呟きながら考えていると、
外はいつの間にか景色ががらりと変わっていた。
まず視界が開けていた。そして空は黒とも紺とも言えない色をしていた。

その闇色の空にはきらきらと輝く金平糖が浮いている。
時々風が吹けば、それらはふわりふわりと風に乗って移動していく。
たまにぶつかり合ってはかちんかちんと硬質な音を奏でたりもしている。

先ほどまで視界を覆っていた雲の海は眼下に広がっていた。
その上には沢山の花が咲き乱れている。
風が花たちを揺らせば、虹色の海がさざめいているようにも見える。

金平糖たちよりも上にはガラスの球体が浮いていた。
球体の中味を満たすのはレモン色の液体。これが“月”の正体だ。
それがどこからか射し込む光によって照らされ、淡く光っている。

月はたゆたい花びらと金平糖は空を舞う、その中を電車は進んでいく。
どこからか硝子の気球が2つ3つどこかへと飛んで行ったりもする。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:55:48.76 ID:b9/ty6wD0
なんと幻想的な世界なのだろうか。
いつもなら皮肉の一つや二つでも飛ばす俺の脳みそも、この光景には魅せられていた。
同時にこの不思議な世界を形容する言葉も思いつかなくなっていた。

綺麗やら不思議といった言葉一つで表現してはいけない。そんな気がする。
だが俺には今の心境や目で見ているものを、等身大に、一切の狂いなく説明できそうにない。
こういう時、言葉がいかに使いづらい媒体であるかを痛感する。

でもこうも思う。言葉で十割想いを表現してしまうと、つまらないのではないかと。
活字による情報伝達だといくらかの損失が確かにあるのだけれども、
その損失は受け手に想像の余地を与えるものである、大切な空白なのではないかと。

想像する、という事はとても大事なものだと俺は思っている。
脳は物を考える器官であるが、その能力をフルに使う機会というのは絶対にない。
それにも関わらず、日常生活においてみな思考を停止している場面がある。それはよくない。

だからこそ言葉のこの不自由さはなくてはならないものではないか。
他の媒体と違って誰でも使えるからこそ、その不自由さはなくてはならないのではないか。
想像を介入させることにより、僕らは僕らの人生を豊かにすることができるのではないだろうか。

……俺は何を熱心に語っているのだろう。
しかも所々支離滅裂になっているような気がするぞ。ああ怖い。それが一番怖い。
珍しい事もあるものだ、何もかもに冷めている自分が熱くなるなど。

きっとこの麻薬にも似た、高揚感と浮遊感を与える景色の所為に違いない。多分。
そんな事を思っていたら急に電車がずるりと下方へ向けて傾いた。
あらゆるものが停止した、と思った瞬間、落ちた。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 00:58:42.48 ID:b9/ty6wD0
それはそう例えるならばまるでジ
                    ェ
                     ッ
                    ト 
                    コ
                    1
                    ス
                    タ
                    1
                    の
                    よ
                    う
                    に
                    落
                    ち
                    る
                    落
                    ち
                    る
                    落
                    ち
                    て
                    い
                    く
                    落
                    ち
                    ただし俺は6行目の段階で気を失ったので何も知らないが

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 01:01:15.05 ID:b9/ty6wD0





























                                           ガタンッ

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 01:04:34.65 ID:b9/ty6wD0
自分の体が跳ねたのに驚いて目が覚めた。居眠りしている時にはよくあるよね。
いつの間にか隣に座っていたサラリーマン風のおじさんがこちらを見ていたが、
俺は気にしない事にした。というか気にしたら負けだ。

変な姿勢で寝た所為か、体の節々がずきりずきりと痛む。
ついでに頭も妙に重たい。そういえば、何か夢を見ていた気がするが覚えていない。
まあ夢なんてそんなもんだ。むしろ覚えている方がすごい。

ぐっと肩を回し解してやる。足も人の邪魔にならない程度に伸ばして解す。
若干体が軽くなったような気分。だが倦怠感はまだ残っている。
降りたらストレッチすることにしよう。うむ。

そういえば今は何時でここはどの辺なのだろうか。
時計を見れば、電車に乗ってから早1時間50分経過していた。
そろそろ目的の駅に着く頃合いだ。よかった、寝過ごさなくて。

窓の外を家と田園が混ざった町並みが流れていく。
いつも通りの光景だ。何も変わらない。普通だ、普通。

それにしても不思議な夢を見たような気がする。
常識はそこにあるのだが、今の自分が持つ常識とは少しずれた常識が根づいているそんな夢。
しかし夢とは本来荒唐無稽なものだ。整然としていた先の夢はなんだか異質な気もする。

なんにせよ、全然覚えていない夢に対してあれこれ考えるのは無意味だ。
時間の浪費だ。人生の無駄遣いだ。でも今は手持無沙汰だ。
つまりそういう思考の寄り道をしてもいい時間という訳だ。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 01:06:50.12 ID:b9/ty6wD0
あれやこれや考えているうちに、10分が経過し、目的の駅にたどり着いた。
流石この県の県庁所在地にある一番大きい駅なだけあって、人が沢山流れていく。
俺もその中に混ざってプラットホームへと降り立った。

人間の川とでも名付けたい程ごった返す駅の中を、流れに身をまかせながら歩いていく。
スーツ姿もあれば、制服姿もあれば、不思議な格好をしたお姉ちゃんもいる。
最終目的地は違う人々とこの時間この場所で合流するというのは、よく考えたら不思議だ。

今からいく目的地も、人生の目的地も、違うというのに。
一瞬の時間を、一定の場所で、同じように過ごす。
うん、やはり奇怪だ。人の生き死にってなかなか面白いよね。

ふらりふらりと階段を上り、ふらりふらりと下り、改札口へとたどり着く。
途中女子高生らしき少女のパンツが見えた事は内緒だ。
縞パンは正義。これはガチ。

改札を越え、駅の入口へと向かえば、そこにはまるで俺を鏡で映したような男が立っていた。
違うところといえば、俺がスーツ姿、そいつが白衣姿だというところだけだろう。
ソイツが俺に向かって笑いかけたので、とりあえず一発殴っておいた。

後で白衣の男こと双子の弟にフルボッコにされたのはまた別のお話。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/21(月) 01:07:47.09 ID:b9/ty6wD0
「(´・ω・`)片道2時間のようです」
おわり


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