/ ^、。 / 旅人は『ざ・れいんめ〜か〜』のようです

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:05:24.54 ID:gG0qHVHM0
――彼のことを語る時、人はまず、その大きな傘のことを口にする。
真夜中の空の色をそのまま付けたような、綺麗な群青色の傘。
晴れでも、曇りでも、雪でも嵐でも。勿論雨でも。つまり四六時中差しているらしい。
そのことを問われると、「急に雨が降ってきたら困るでしょ?」と無邪気に返す。

そんな大きな傘を差し、彼はこの街にやってきた。
私は確か、「旅人さん?」と聞いたと思う。ちょうど、そんな本を読み終えたところだったから。

/ 、 /「勉強中でね」

彼は言った。

/ ^、。 /「旅人の、真似事をしてるんだ」

影の中、整った優しそうな顔立ちが見えた。
その表情に、少しだけドキリとしたのをよく覚えている。

/ ^、。 /「お嬢ちゃんは?」

ξ#゚听)ξ「お嬢ちゃん、じゃないもん!」

子ども扱いされ、むきになって反論した。
何故あんなにも怒っていたんだろう。今ではもう、思い出せない。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:07:22.61 ID:gG0qHVHM0
…彼とは長い間会っていない。
連絡先も聞かなかったので、生きているかどうかさえ分からない。
そもそも名前や住所すらよく知らないのだ。そんな当たり前のことさえ聞かなかった当時の自分を時たま呪う。

ξ--)ξ「………」

考えたくないが、私のことなどとっくの昔に忘れているのかもしれない。
…でも、それならそれでいいのだ。
なぜなら――


――私の中で、彼は今でもヒーローだから。


/ ^、。 / 旅人は『ざ・れいんめ〜か〜』のようです





8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:10:14.74 ID:gG0qHVHM0
【Scene1】

――確か、それは夏の日だった。
私の街は大干ばつの真っ最中。照り付けてくる太陽を街中の人が疎ましく思っていた。
科学が発達した現代では、日照りですぐ死ぬなんてことはない。
けれど、他の街から少し離れたところにあるせいで深刻な被害が出た。

ξ#--)ξ「まったくブーンは……なんですぐ別の女の子と…ブツブツ……」

街から少し出たところ。苛々しながらカラカラの地面に落書きをしていた少女が私だった。
日照りのせいもあったし、友達と喧嘩――と言っても私が一方的に怒っただけなのだが――のせいでもあった。
…多分、それが一番の理由だったのだろう。

言ってるうちに更にイラついた私は手を止め、手近にあった石ころを蹴り飛ばした。
それは流線型を描いて飛んで行く。
速度を落としながらも森へ入り、そして、

「……いたッ」

ξ;゚听)ξ「!?」

…誰かに、ぶつかった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:13:06.38 ID:gG0qHVHM0
ξ;゚听)ξ「(どうしよう……)」

「悪いことをした時は謝らないといけない」
…お母さんからよく言われた、当たり前のこと。
正直私は逃げたかった。

私は勇気を振り絞って、

ξ;゚听)ξ ダッ!!

…勇気を振り絞って、逃げた。
自分でもかなり勇気のある判断だったと思う。常識的に考えて素直に謝った方がリスクは少ないのだから。
…だからと言って、褒めてやる気にはならないが。

――そんな私に彼は声をかけた。

/ ^、。 /「いたたた……。…こんにちわ」

ξ;゚ー゚)ξ「こ、こんにちは……」

引きつった表情で挨拶を返す。
怒られると思い、すぐにでも踵を返して逃げたかったが、そうすると更に怒られるんじゃないかと怯え、できなかった。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:16:06.87 ID:gG0qHVHM0
その人は十代後半ぐらいの若い男の人だった。
長身でカジュアルな格好をしていて、小さめの鞄を背負い、眼鏡をかけている。
そしてなにより傘が目立った。大きな、大きな傘だ。

『日傘』というものを知らなかったので、その奇妙な出立ちと少し変なイントネーションから旅人だと推測した。
それで聞いてみたのだが、違った。
「お嬢ちゃん」と呼ばれ憤慨する私に、彼は朗らかに笑いかける。

/ ^、。 /「…ハハッ。失礼しました。では、あなたのお名前は?」

ξ゚听)ξ「人に名前を聞く時は自分から名乗りなさい」

我ながら、生意気なことを言ったものだと思う。
…でも彼は怒りもせず、困ったような顔で、

/ ゚、。 /「おやおや。それは確かにそうだ」

と、賛同したのだ。
私が調子に乗り顎を人を使う時のように動かすと、古びた言葉遣いでこう告げた。

/ -、- /「…イオ・ハットフィールドと申します。『イオ』と呼んで頂いて結構です」

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:19:06.63 ID:gG0qHVHM0
【Scene2】

イオは泊まれる所を探していた。
私が「うちに泊まったら?」と提案すると、申し訳なさそうな顔で喜んだ。

ξ゚听)ξ「ブーンって言うね、四年ぐらい前にできた友達なんだけどね、すぐ女の子に色目使うの」

/ ^、。 /「ふーん。…それで、どうしたの?」

ξ#--)ξ「怒鳴ってやったわよ」

家に向かう間、ずっと自分や友達のことだけを話していた。
「自分のことしか言わない女は嫌われる」らしいが、微笑みながら話を聞いてくれた彼は寛大だったのだろうか。
イオは一呼吸置いて、言った。

/ ^、。 /「…ツンちゃんは本当にブーンって子が好きなんだね」

ξ///)ξ「ちちちち、違うわよ!そんなわけないじゃない!!」

二人で入っていた陰の中から思わず飛び出、真っ赤な顔で否定。
…そんなことをする時点でそうだと告白しているようなものだ。が、幼い私には分からなかった。
日差し以上に顔が熱くて仕方なかった。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:22:10.95 ID:gG0qHVHM0
ξ゚听)ξ「…あ、そこ気をつけてね。何年か前の大洪水の時から崩れやすくなってるから」

後ろに続くイオに注意を促す。
この街の人間には常識だが、よそ様の彼には説明する必要がある。
…彼は、驚いたような顔をし、

/ ゚、。 /「今は大干ばつなのに洪水の時もあったんだねぇ」

ξ--)ξ「そーなの。元々不安定な天気の街なの。…でもここ数年は、真ん中ぐらいでちょうど良かったんだけど」

「真ん中ぐらい」というのは説明不足だっただろうか。
つまり、「降り過ぎず、降らなさ過ぎず」ということ。
彼は顎に軽く手を当て、興味深そうに頭を振った。なるほど、と言った感じで。

ξ゚听)ξ「あそこが私の家!」

指を指す。
…その先にあるのは私の家。
清潔感漂う白い家。

/ ^、。 /「…へぇ。お父さん、お医者さんなんだね」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:25:07.20 ID:gG0qHVHM0
無邪気に尋ねた彼に、私は少しだけ俯いて答えた。

ξ )ξ「…お父さんは死んじゃったから、お母さんがやってるの……」

病気だったらしい。
幼い私には分からなかったが、結構深刻な。
研究ばかりでよく遊んでくれたわけではなかったが、それでも私は大好きだった。

/ -、- /「…そっか。悪いことを言ったね。ごめんね」

イオはバツの悪そうな顔で微笑んだ。
私はその表情を知っていた。…大切なモノを失くしたことのある人だけにできる表情だ。
こちらが申し訳なくなり、無理に気丈に返す。

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫!気にしないで、私はもう大人だから!」

/ ^、。 /「…そっか」

子供にありがちな答えに彼は再び微笑んだ。
――その笑みは私が初めて見る、「曖昧な笑み」だった。
何か大事なことを隠す、大人だけの笑い方。当時の私には気づけなかったのだが。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:28:06.94 ID:gG0qHVHM0
川 ゚ー゚)「そうか。旅人さんか。…こんな家でよければいくらでも泊まっていってくれ」

心が広いお母さんはイオの宿泊を快く承諾。
彼は恭しく頭を下げ、感謝の言葉を述べた。

/ -、- /「…三日ほどで十分です。自分にできることがあれば、なんでもやらせてもらいます」

あんまりにも堅い返答だったので、私もお母さんも声を上げて笑った。
…その中、彼だけが不思議そうな表情だった。

川 ゚ -゚)「…寝室は夫の研究室でいいかな?診察台という選択肢もあるが」

/ ^、。 /「研究室で」

真顔でのジョークに笑顔で応じる。
…彼が冗談だと理解していたかどうかも、今ではもう分からない。

ξ゚ー゚)ξ「部屋はこっち。ついてきなさい」

尊大な口調の私に素直に従う。
まさしく「心優しい好青年」という感じだったし、お母さんもそんな印象を受けたと言っていた。
…それだけでは、なかったのだけれど。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:31:07.27 ID:gG0qHVHM0
父の研究室は相変わらずごった返していた。
当時は積み重なった資料や、フラスコや試験管などの実験器具の処理の仕方が分からなかったので、とりあえずそのままにしていたのだ。
…もしかしたら、死を受け入れたくなかったという思いもあるかもしれない。

/ ^、。 /「凄いねー」

多分、そんな側面を感じていたのだろう。
思い出の山を見て彼は言う。

/ ゚、。 /「これはうっかり壊さないようにしなくちゃ、だね」

ξ゚ー゚)ξ「うん!お父さんはね、よく銀色の塊とか、黄色い粉とかを見せてくれたの。すごーく、頭のいい人だった!」

棚を見れば変わらず赤黒い液体やら怪しげな物品が置いてある。
持ち主を失くし、誰も用途が分からないそれは、どこか寂しそうにも見えた。

/ ^、。 /「…きっと、沢山の人を救えるような研究だったんだろうね」

簡素なベッドに腰掛け笑いながらそう言う。
忘れ去られたもの達の中、彼が一際輝いて見えた。
…それの意味を今なら確かに分かる。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:34:08.20 ID:gG0qHVHM0
【Scene3】

翌日の、昼過ぎだったと思う。

ξ;゚听)ξ「えーっ!明日でどっか行っちゃうわけ!?」

街の中を案内しながら大声を上げる。
対して、傘を少しもたげながら困ったように笑う彼。

/ ^、。 /「…あんまり長く一つの街にいると目的が果たせなくなっちゃうからね。どこかの旅人さんもそんな風なこと言ってたし」

彼の目的は「勉強」である。社会勉強でもあり、語学や文化の勉強。
…当時は疑問に思わなかったが、あの年で一人旅も不思議と言えば不思議だった。
聞いた限りでは普通の家族のようだったのだが、子供だった私には話せない、何か複雑な事情があったのかもしれない。

/ ^、。 /「…だから、ブーンって子との仲直りも早くしなくちゃ」

ξ;゚听)ξ「そっ、そんなこと頼んでないもん!」

強がりながらも足はブーンの家に向かっている。
馬鹿馬鹿しい、実に子供らしい言動だった。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:37:08.04 ID:gG0qHVHM0
…やがてブーンの家が近づいてくると、私はイオの後ろに隠れた。
怒っているんじゃないかと怖かったのだ。
今も昔も変わらない、私の幼く小さな心。

( ´ω`)「おー……」

落ち込んだような顔で遊んでいる少年がブーン。何年か前に美人のお姉さんとやってきた大事な友達。
…その日は休日だったのに、珍しく私の幼馴染は一人。
なんでもお姉さんは日中は仕事で夜は町長の所に行くので、今日は一日一人らしく、私もそれを狙ってやってきたのだ。

/ ^、。 /「こんにちは」

( ´ω`)「こんにちはだお……」

事前にブーンの特徴、肌の色が違うことや小太りなことを聞いていたイオは、すぐに彼がその人だと分かったらしい。
それとなく傘で私を隠しながら、しゃがんで視線を合わせる。

/ ゚、。 /「…とある可愛い女の子から、伝言があるんだけど……。今いいかな?」

( ´ω`)「…お」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:40:08.16 ID:gG0qHVHM0
力ない返答にやっぱり彼は微笑む。
年不相応な優しげな声音で言う。

/ ^、。 /「『この間は急に怒ってごめんなさい』…だってさ」

その言葉と同時、私とブーンを遮っていた大きな傘を持ち上げる。
…これで隠れると思っていた自分も、気がつかなかったブーンも、今となってはおかしな話。
でも、当時の私はいきなり視線があって吃驚したのだ。本当に。

ξ;゚听)ξ「………」

(;゚ω゚)「………」

双方、無言。
彼だけがニコニコと笑っている。
――そして。

『…ごめんなさい』

どちらでもなく、どちらでもある……
――つまり、ほとんど同時に私達は謝り合った。
声が揃ってしまい、お互い笑ったのを覚えている。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:43:08.60 ID:gG0qHVHM0
…ブーンと別れた、夕方の帰り道。
幼い私は幼いなりに「何かお礼がしたい」と考えた。

ξ゚听)ξ「…ちょっと付き合いなさい」

仲直りのおかげか調子に乗っていた私。一ミリたりとも礼儀をわきまえない言葉遣い。
にも関わらず、彼は傘を差したまま追従した。

…街の外れにある小さな山。
よく父に連れて来てもらったそこが目的地だった。
街を一望できるので、私は大好きだったのだ。

/ ^、。 /「綺麗だねー」

夕焼けを見ながら、素直に感想を述べる。
私もそれに同意する。

ξ--)ξ「…ついでに、お参りもしなくちゃ」

短い足を動かして、少し山の奥に。
小さな祠のような場所。そこに持ってきた花を置く。
よく父がやっていたことの真似事で意味は分からなかったが。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:46:08.20 ID:gG0qHVHM0
/ ^、。 /「何が祀ってあるの?」

ξ゚ー゚)ξ「知らないけど、雨の神様ってお父さんは言ってたよ。四年前にできたんだ」

その時の彼の驚きようといったら、私の知る言葉では表し切れない。
急いで祠に近づき、しばらく物色し、そしていきなり振り返り私の肩を掴んだ。
見たことのないような真剣な表情。

/ 、 /「…前の大洪水、いつだ?」

ξ;゚听)ξ「…えっと…ブーンが来る少し前だから……、四年前?」

/ 、 /「…その前、もしかして日照りが続いてたんじゃないのか?」

ξ;゚听)ξ「…覚えてない……。…けど、多分そうだと思う……」

怖かった。
お母さんに怒られるより遥かに。
怒鳴るわけではないのに、すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られた。
鷹のような鋭い瞳が堪らなく怖かった。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:49:09.09 ID:gG0qHVHM0
/ 、 /「………」

夕日が、沈んでいく。
もうすぐ夜が来る。

…彼は私の前にしゃがみ、小さな声で言った。

/ ゚、。 /「…乗って」

ξ;゚听)ξ「…え?」

/#゚、。 /「早く!!」

急かされ、彼の大きな背中に乗る。
何故かお父さんを思い出した。

/ -、- /「…しっかり捕まっててね」

ξ;゚听)ξ「うん……」

「飛ばすから」
――その言葉と共に、彼が一気に加速した。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:52:09.34 ID:gG0qHVHM0
【Scene4】

――疾風のごとく山を駆け下りる。
それはまるでジェットコースターだった。
こういうのは慣れている、と言っていたので、彼も山岳地帯の出身だったのかもしれない。

辿り着いたのは町長の家。玄関の扉を蹴り飛ばす。
何かを探すように、奥へ、奥へ、奥へ。

家の奥。厳重に施錠されたその場所。
そこには――

(;´ー`)「ひっ……」

突然の訪問客にうろたえる町長以下数名と、

(、 川「………」

ξ;゚听)ξ「お姉ちゃん!!」

――背中から血を流し、倒れるブーンの姉がいた。

43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:55:09.57 ID:gG0qHVHM0
一応、医者の娘だ。
どの程度血を流せば人が死ぬのかは知っているつもり。
そして彼女。…ペニサスは、間違いなく命に関わる量の血を流していた。

華奢な身体に突きたてられたナイフは誰のものだろう?
…そんな素朴な疑問を抱いた。

/ ゚、。 /「…僕の携帯でお母さんに電話かけて」

指示を出しながら、羽織っていたジャケットを脱ぎ、背中を押さえる。
…私の指先は、凍えた時のように震えていた。

ξ;゚听)ξ「…どうして?」

電話が終わり、残ったのは単純な問い。
「どうして?」
混乱する頭で必死に言葉を搾り出す。

ξ;゚听)ξ「…どうして……?」

――誰も、答えない。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 19:58:08.88 ID:gG0qHVHM0
/ -、- /「…多分、この人は人間じゃない」

――イオだった。
動けない大人達に代わり、説明を始めた。

/ ゚、。 /「ずっと前、この町では大旱魃が起こった。多分、その時に雨の神様を呼び出したんだろう」

(;´ー`)「…ぁ………」

/ ゚、。 /「…そこまでは良かった。でも、問題が発生した」

ああ、そうか。
…私は分かり始めていた。

/ -、- /「…雨が、止まなくなったんだ。無理な能力の行使でね」

…そうか。
もう、後のことは説明する必要もない。

四年前。
町長は、今度は「雨を止ませるモノ」を連れてきた。
それがブーン達……

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 20:01:11.87 ID:gG0qHVHM0
/ -、- /「彼女は『魃』なんじゃないかな。日照りにする妖怪の。…肌の色も違うはずさ」

ずっと不思議だった。
彼女の職業が何なのか。
…それは、「天気を操ること」だったんだ。

/ ゚、。 /「…で、彼女もまた、天気を操れなくなり、殺されかかっていると……。合ってますよね?」

いつかの時と同じように。
使えなくなったら、お払い箱。あの祠と同じように、彼女も埋められることになるのだ。
…核心をついた彼の問いに町長は、

(;´ー`)「し、シラネー――」

/ ゚、。 /「ふざけんなよ、人間」

言葉が遮断され、無責任な人間の喉元に傘の先が突きつけられる。
ただの雨をしのぐ道具。
…そのはずなのに、真剣な表情の彼が持つとナイフ以上の脅威に感じた。

/ ゚、。 /「…自然のルールもわきまえず、自分勝手なことをしようとするからこんなことになるんだ」

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 20:04:09.99 ID:gG0qHVHM0
群青色の先、銀の色。
蛍光灯の光に照らされ、それが鋭く光っていた。
彼の眼光と同じ輝き。

しかし町長とて言い分はある。
気圧されながらも反論する。

(;´ー`)「こ、こっちだって、生活があるんだーよ。第一、今だって雨が降らないせいで多くの人間が苦しんで――」

/ 、 /「雨が降ればいいんだな?」

再び、言葉が遮られた。
眼鏡を外す。

/ 、 /「…雨が、降ればいいんだな?」

繰り返す。
言い知れぬ威圧感に、周りの者達は無言で首を縦に振ることしかできなかった。
そうでもしなければ食い殺されてしまう……

…そんな印象をはっきりと受けたから。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 20:07:10.84 ID:gG0qHVHM0
/ 、 /「…わかった」

駆けつけてきたお母さんに治療を任せ、立ち上がる。
そして、ヒュンと音を立て傘を手元に引き戻した。
少しだけ安堵したような表情になる町長。

(;´ー`)「どこへ……」

恐る恐る聞いてみる。
出口に向かう彼は振り返り、表情をいつもの曖昧な笑みに戻して言った。

/ 、 /「…決まってるじゃないですか」

左胸、何かを思い出すように拳を握り締めた。
…多分彼にも譲れないものがあるのだ。
それを私が知ることはないのだろうけど。

/ ^、。 /「雨を降らせに、ですよ」

――それを護る為、彼は雨を降らせにいく。

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 20:10:09.42 ID:gG0qHVHM0
【Scene5】

――それからのことは別に語るまでもない話。
彼は雨を降らせた。
一度家へ戻り、研究室から薬品を数種持ち出し、あの祠の前で。
よく分からない機材から煙が立ち上り、やがてそれは雨雲となった。

ぽつり、ぽつりと雨が降り出した中。
彼はあの笑みで語り出す。

/ ^、。 /「多分ね、君のお父さんも、こういうことがしたかったんだと思うよ。あの工房を見る限りは」

銀のヨウ化物であるヨウ化銀。
結晶構造が氷に似ているそれは、水の結晶化を助けるそうだ。
その粒子を大気中に散布することで雲を作り出した。

もっとも、当時の私には全く分からなかったのだけれど。
だから聞いたのだ。

ξ゚听)ξ「…結局、あなたはなんなの?」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/09/19(土) 20:13:10.21 ID:gG0qHVHM0
――そのうちに朝が来る。
そうすれば、彼は帰ってしまう。だからその前に。
自分を救ってくれた存在が何なのか、私は知りたかったのだ。

/ ^、。 /「いやぁ、実は名前も偽名で……」

ξ--)ξ「いいから話しなさい」

夜明け前の、曖昧な空の下。
相変わらずの笑顔。確信はないけどこの笑顔だけは本物のような気がした。
彼は仰々しく礼をし、馬鹿みたいに丁寧な言葉遣いで告げた。

/ -、- /「…しがない錬金術使いのレインメイカーです。『イオ』と呼んで頂いて結構です」

――彼のことを語る時、人はまず、その大きな傘のことを口にする。
真夜中の空の色をそのまま付けたような、綺麗な群青色の傘。

でも私は彼のことを語る時、まずこう言うのだ。
『私を救ってくれたレインメイカー』と。
そして、その日から私はいつも傘を持ち歩いている。

――だって急に雨が降ってきたら、困るでしょ?


戻る

inserted by FC2 system