- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:46:10.06 ID:bduojFSn0
- 己を捧げ、国の為に切磋琢磨せよ。
忠誠を誓い、己の名誉に誓い、仲間へと誓え。
我が銃は、我が刃は、我等に仇なす者全てを討ち滅ぼすと。
全てを滅ぼせ。牙を剥く者全てを。
断じて情けを掛けてはならぬ。一人と残らず撃滅せよ。
しかし他者には敬意を払え。他者を尊重せよ。
共に生きていける者達であるのだから。
共に戦う者達であるのだから。共に誇りを持った戦士であるのだから。
だからこそ己を他者に捧げよ。
仲間を見捨ててはならない。1人の仲間を失えば、それ以上の者達が悲しむこととなってしまうのだから。
我等は殺し、殺されずに勝たなければならない。圧倒的勝利こそが至上なり。
戦うからには、争うからには、他者を蔑ろにしてはならない。
彼等は彼等の道理で戦い、戦場へと訪れたのだから。
我等は、我等の道理を以って此処へと訪れた。
誇りを以って、絶対的な力を以って、
我等の名誉に懸けて戦わん。
- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:47:51.46 ID:bduojFSn0
- 負けてはならない。勝ってはならない。
己に敗北と勝利とを刻みつけなければ、
何時まで経っても終戦は兵士達の心に訪れないのだから。
政治では、情報では知りえない決着がそこにはあるのだから。
負けてしまえ。勝ってやろう。
殺されるぐらいなら、負けてやろう。
仲間の為、国の為、家族の為、他者の為。
己を捧げよ。他者へと、国へと捧げよ。
名誉を持ち、誇りを捨てず、決死の覚悟を以って生還せよ。
我等の敵を一掃せよ。命ある限り己の務めを全力で果たせ。
己に打ち克ち、終戦を心に打ち立てよ。
それこそが今まで死した者達への、唯一の供物。
我等は自由を求めて彷徨う者。
我等は繁栄を求めて生きる者。
我等は名誉を以って戦う者。
我等、ニューソク国ニューソク軍兵士。
名誉を捨てず、忠義を捨てず、仲間を見捨てず、戦い生きる者達也―――
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:49:20.17 ID:bduojFSn0
- ******
数多くの機械によって占領され、鋼鉄で出来た寝心地の悪そうなベッドが一つ置かれた、
横に長い部屋の中、鉄のベッドの上で退屈そうに本を読む女性がいた。
女性は艶やかな黒の長髪に、切れ長で刃のように鋭い瞳をしており、
背が高くどこか近づき難い雰囲気を持っている。
彼女の体はゴムのような繊維に首までを覆われており、
身体の至る所に機械が埋め込まれ、
それらには部屋の大部分を占める機械へと、大小さまざまなコードが繋がっていた。
電子音が部屋の中に響き、心臓の鼓動のように一定のリズムを以って奏でられている。
その音に重なるように、液体が流れる濁音が鳴ってゆく。
物々しい光景であり、彼女を知らない者にこの光景は重病人が住まう病室に見えるであろう。
だが、彼女は病など患っておらず、丈夫すぎると言えるほどの健康体である。
日課としてコサックダンスを踊れるほどだ。
この機械に囲まれた部屋で生活する彼女に、
そんなことが出来ると思う者は、余程頭が愉快でネジが一本外れてしまった者ぐらいだ。
もっとも、彼女のコサックを拝められるのは彼女が余程機嫌の良い時か、
偶然目撃するぐらいしかあり得ないことなのだが。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:52:02.59 ID:bduojFSn0
- 退屈そうに本を眺める今の彼女に、コサックをする程の気力はなさそうだ。
開いていた本を彼女は閉じると、一息を吐く。
川 ゚ -゚) 「ふー、“あたしんち〜今日家に両親いないんだ?〜編”はつまらんな。
お父さんとお母さんのベッドシーンなど、誰が得すると言うんだ……」
呟き、誰もこの感想を聞いてはくれないのだと思うと、
余計に溜息を吐きたくなってしまう。
ベッドの傍にある機械の上に積まれた本の山に、
あたしんち〜今日家に両親いないんだ?〜を追加する。
本の山にはマンガ、小説、雑誌、エッセイ、ライトノベル、
映画のパンフレット、旅行ガイドなどと多種多様な本が積まれていた。
川 ゚ -゚) 「つまらんな。退屈すぎる……」
呟きながらも彼女は本の山へと手を伸ばし、
“ハリー・ボッチャンと炎の修造”を手にとって読み始める。
川 ゚ -゚) 「この本は最終巻の“ハリー・ボッチャンとニートの秘宝”でのラストまでの件が良いのだが、
今までの物語は主人公の妄想でしたってオチが最悪だったな。全世界が作者に殺意が湧いたことだろう。
“ウホのプリンス”で感動した私の涙を返せよ。ダンブル・高知の「やらないか」のセリフは名言だったのにな。
ホルデイモウトと尻食い人に囲まれた中でやらないかって……高知かっこいいだろ」
長々と感想を語ってみるが、彼女しかいないこの部屋では、
それはただの独白にしかすぎない。
虚しく思い、彼女は本を山へと返すと、
この部屋で生活するようになって何万回目になるか知れない溜息を吐いた。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:54:51.60 ID:bduojFSn0
すると、それに遅れて部屋の扉が開く。
鋼鉄で出来たそれは重たそうで、金属音を響かせている。
扉を開けたのは、ビジネスベストに白いYシャツを着た、
オールバックに髪を仕立て、整った顔立ちをしている鋭い瞳の男だ。
オールバックと、若者らしからぬ髪型に整えられてはいるが、
この男は彼女よりも5歳ほど若い。オールバックに整えているのは、
若くして会社で大きな権力を持つ地位についているためだ。要するに、見栄を張りたいのだろう。
( ・∀・)「クー君、退屈そうだね? 退屈という物は一番の贅沢だと、私は思う。
忙しく回るこの世界には、あまりにも時間という物は少なすぎる。
世の中はエネルギーや食糧なんかよりも、時間を欲しているのだよ。
では、その貴重な資源たる時間を持て余している君へ、良い情報を教えてあげようじゃないかね」
現れた突然に長いセリフを放ったこの男は、モララーと言う。
軍事企業ゾロが社長であり、この部屋に住まう彼女、クーを保護している男。
川 ゚ -゚) 「良い情報?」
クーが愛想の欠片も見せずに短く問うと、
( ・∀・) 「フフン、興味があるのかね? ならばモララー様は宇宙一尊いお方であらせられます、
モララー様最高っ! と社内放送で叫びたまえ。涙ぐみながらであればなお良い」
川 ゚ -゚) 「ならば、私は時間を浪費し続けることを選ぶさ」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:56:33.94 ID:bduojFSn0
- ( ・∀・) 「ハッハッハ、私のように腰の低い人間がそのようなこと、恥ずかしくて出来ないに決まっているであろう。
私は渡辺君に、モララーさんと呼ばれるだけで赤面してしまうような、恥ずかしがり屋さんなのだよ。
君に無償でこの情報を教えて差し上げてやろう、と、そう思っていたよ」
モララーが饒舌に虚言を語るが、クーは黙している。
この男のコントに付き合ってやろうと思えるほど、彼女に余裕はない。
( ・∀・) 「実はだね、どうやらニューソク軍がパーソクの首都パースレへと強襲をかけるようだ」
川 ゚ -゚) 「あの国が戦争をするのがそんなに珍しいことか?」
( ・∀・) 「珍しくは無い。珍しくは無いのだが、今回の戦いは面白くなりそうなのだよ。
君にとっては、最高に面白い話になるか、
最高に胸クソの悪い話のどちらかに、二極化されてしまうだろうがね」
モララーが一息で語ると、息を呑んで次へと続ける。
( ・∀・) 「この強襲作戦を行うのは、宣戦布告も無しに行われるこの非人道的な作戦は、
世界最強と名高いニューソク軍が切り札、≪強化兵士計画≫の実験にずぎない。
彼等は輸送機を光学迷彩を使用してパースレへと接近し、そこで数機の≪AA≫と一人の兵士の降下を行う」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 19:58:46.95 ID:bduojFSn0
- 川 ゚ -゚) 「犯罪者へと成り下がろうというのに、悠長なものだ」
もっとも、パーソクはニューソクに敵わないだろうが。
と、クーはそう付け加える。
( ・∀・) 「その兵士と言うのが、今回の実験材料だ。
実験の詳細は分からないが、兵士の名前だけは分かっている。
かつての君の同僚、と言えばもうわかることであろう。彼は、君と同じ道を進もうとしているよ」
モララーが瞳に、鋭い光を宿して言い放つ。
その後に瞼を閉ざして吐息を一つ。
どうするかね? と尋ね、
川 ゚ -゚) 「ならばその道を閉ざしてやるだけだ。私は私の情を以って、奴を止める。
本の感想を一人で呟くのは、もうコリゴリだ」
問いへとクーは力強く答えて立ち上がり、
モララーが、そんな痛々しいことをしていたのかね……とボソリと呟いた。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:01:12.62 ID:bduojFSn0
- ******
空に巨大な影が飛んでいる。その影は巨体に似合わぬ高速を以って飛行しており、
分厚い金属で出来た羽が空を切っている。
影はコンテナにそのまま羽を取り付けたような不細工な形状をしていて、
空を飛ぶその姿は、カッコイイという称賛とは程遠い物だ。
分厚い装甲に包まれ、不格好に飛ぶそれは輸送機だった。
コンテナには上下に開閉する扉があり、それが開かれる。
扉が上から下へと降り、コンテナの内部が大気にさらされ、
風が暴れ狂うように中へと押し入って行く。
そこに居た1人の男の髪が揺れ、暴風に顔をしかめることも無く、
扉が開かれたことによって覗く青空を一瞥する。
男は見たことも無いような奇妙なスーツを着ていた。
ダイビングスーツのように肌を密閉し、ゴムのような材質をした防弾衣。
人工的に作られた筋肉が浮き上がっており、力強そうな印象を与えるこれは、
あらゆる有害物質を遮断し、各種センサーを内蔵した身体能力を大幅に上昇させる特殊装備。
脇には左右へとナイフとハンドガンをそれぞれ一つずつ収めたホルスターがあり、腰には大きなバックパックが備えられ、
利き腕である右手から、抜き易いよう左腰には無骨なリボルバーを差したホルスターが下げられている。
更には両肩にまで大きな銃が二つ掛けられ、男は過剰と言えるまでに武器を装備していた。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:03:58.34 ID:bduojFSn0
- その背後、息を潜めるかのように巨大な金属の塊が鎮座している。
戦車の砲塔をそのまま取り付けたような体に、くの字に折れたカンガルーのような足を持ったそれは、
男が扉へと一歩進むと、呼応するように体へと穿たれた穴から赤い光を放つ。
金属の塊、≪二足歩行戦車≫が男へと続いて一歩を踏み込む。
重い金属音が機内に鳴り響き、機体を僅かに揺らすが、
男の歩みは揺れに影響されることなく、黙々と扉へと進んでいった。
青が広大に広がる、遮るものの無い自由な空へと足を運ぶ。
足を運び、扉の目前まで近づくがその先は無い。
地面など無い。
だが、男はそれに恐れずに進んでいく。
足を前へと突き出す。今までのようにただ黙々と。
輸送機の飛ぶ高高度から落下し、死ぬ事などまるで考えていないかのように。
死んでしまうことを恐れずに、死ぬ事が目的のように進む。
彼はそのまま輸送機から落下していき、
風に身体を弄られながら、地面へと向かっていく。
戦車は彼に付いていくように、重い金属音を機内に鳴り響かせて空へと向かう。
そうして二足歩行戦車が落下し、その後ろを他の5体の二足歩行戦車が追っていった。
≪パーソク≫上空で、鉛色をした≪ニューソク軍≫輸送機から兵器が投下された、
その瞬間のことである。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:07:26.03 ID:bduojFSn0
- ******
パーソク首都“パースレ”上空でそれが確認され、
思い思いの場所へと移動するパーソク民達の幾人かが、
空を飛ぶ見慣れぬ軍用機へ視線を浴びせていた。
どうやら軍用機のハッチが開いたようだ。
何なのだろう? そう言った疑問符を浮かべて彼等は目を細める。
見れば、黒い点が軍用機から飛び出したようだ。
黒点は非常に小さく、視力の良い者でさえ視認し辛かったが、
それに続いた黒点は前の黒点よりも大きく、ハッキリと確認できた。
大きな黒点は、落下を開始すると急速に加速し、
重い物であると察することが出来る。
地面へとどんどん近づいて行き、
黒点の形状がはっきりと見えてきた。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:10:12.49 ID:bduojFSn0
- それは技術的な革新をもたらしたことで有名となり、
軍事に疎い者にも知られ、軍事マニアであれば絶対に見間違えようのない形状をしている、
「ニューソクの二足歩行戦車≪AA≫“NA3”だ!!」
スーツを着た男が、空へ人差し指を指して興奮気味に叫んだ。
眼鏡をかけ直し、じっくりと観察し始める。
日焼けし、肌を黒く焼いた金の長髪の男が、
「マジパネェー戦車有りえねー」
と呟き、ケータイのカメラを空へとかざす。
AAは空中で、白い傘のような物を広げて落下の速度を落とす。
どうやら、落下傘のようだ。
AAがそれを開いたことによって、更に注目を集めた。
より多くの人が、歩きながらも空へと視線を移していく。
興味は惹かれるが、彼等の忙しなさには変わりはない。
皆そんな興味に己の時間を割くほど、余裕はないのだ。
必死に働き、家に帰る頃には既に深夜を回っている。
帰宅時間を一分でも早くする事に、彼等は皆必死で余念がない。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:14:52.76 ID:bduojFSn0
- 先程まで落下していたAAは、落下傘によって緩やかな速度で地面へと向かい、
落下から降下へと勢いを変化させた。
六機のAAが緩やかな速度で降下されていくのに対し、
AAの群の隙間を縫うかのように、人影が急降下していく。
AAが降下されていく空を眺めながらも移動していた人々は、
人影を見付けると息を呑んだ。
あ、という声が数人の口から洩れ、
零れ出した言葉を抑え込むかのように口を抑え込む者もいた。
人影は頭から垂直に高速で落下し、
身を切り裂くかのような鋭い風を受けつつ、地面へと突き進んでいく。
人影を見ていた者達の脳裏には一瞬で、死という単語が浮かんだことだろう。
そのまま地面へと激突して高高度から落下した衝撃により、
内臓と血肉が押し潰されて辺り一面に血の水溜りを作るであろう、と。
だが、誰も予想しなかったであろうことが起きた。
地面へと激突する寸前に人影は身を前へと捻って半回転し、
姿勢を変換させて地面へと足を突き出したのだ。
突きだされた足は地面に接触すると、
高高度から落下したことによって生まれる強烈な衝撃を、
膝を折り曲げることによって、たったそれだけの行為で受け止めたのだ。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:17:52.52 ID:bduojFSn0
- 人影は、人影だった者は。
両肩に巨大な銃を掛け、見たことも無いような奇妙なスーツを着ており、
それはゴムのような繊維が首までを覆って肌を密封していてダイビングスーツに似ていた。
黒を基調としたスーツからは筋肉が隆起していて、
左胸には鋭利な突起物が突き刺さっており、赤い線のような光が至る所に走っている。
どうやら、光は左胸にある突起物から発されているようだ。
その姿を見た周囲の人々は安堵を得るが、
同時に疑問符を浮かべる。
紺色のスーツ姿の中年男が、黒い奇妙なスーツを着た者に近づいて行く。
俯きがちに片膝をついたその者に恐る恐る近づいて行き、
「君っ、大丈夫かねっ!?」
と、驚きを隠せずに尋ねる。
中年男が顔を見ると、どうやらこの者は男のようであった。
黒髪に鋭い瞳ときつく結ばれた唇。
そして生気の無い顔色。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:20:10.33 ID:bduojFSn0
- 何も写してはいない、真黒な瞳が中年男を写す。
写すが早いか………
「アァァッァァァッァ!! 手があぁ! 手があああああああ!!」
男の手には肉厚のコンバットナイフが握られており、
何時の間にか中年男の右腕が切り落とされていた。
「キャァァーッ!!」
女性の絹を裂くような、甲高い悲鳴が上がる。
中年男が右腕を押さえて叫びを上げると、肢体全てがバラバラに崩れ落ちて行ったのだ。
中年の姿は既にそこには無く、切り落とされた肉片だけが地面へと転がる。
奇妙なスーツを着た男が、突いていた膝を伸ばして立ち上がる。
('A`) 「………」
無言で男は左脇の銃を収めてあるホルスターの下に位置する空白のホルスターへとナイフを収めると、
左肩に掛けていたアンチマテリアルライフル“XM109”を右手だけで構え、
日焼けした男へと巨大な弾丸を放つ。
強烈な衝撃が男の肩を襲うが、彼の肘は真っ直ぐと伸ばされたままだ。
衝撃など、まるで存在していないかのように。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:24:04.58 ID:bduojFSn0
- 巨大な弾丸を胴に食らった日焼け男は、
内臓と骨ごと吹き飛ばされ、上半身と下半身とが二分される。
「ちょっ……俺の足立ったままなんですけど……」
上半身だけとなった日焼け男は、地に転がって己の下半身を見つめる。
その後に思い出したかのように苦しみだし、
己を撃ち貫いた弾丸が、自分の後ろにいた者達の体をも貫いていたのを見ながら、絶命していった。
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
絶叫を上げ、この場に居た者達は奇妙なスーツを着た男を除いて、
恐怖に狂い乱れながら逃げ出していく。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:28:11.42 ID:bduojFSn0
- だが、
「ッ!?」
重たい金属音を響かせ、
くの字に折れ曲がったカンガルーのような足で地面へと着地したAAが彼等の前に立ち塞がると、
装甲を軋ませて雄たけびを上げた。
「―――――ッ!!」
地上へ降り立った六機のAAは人間達を見渡し、
己の体に取り付けられた機関砲を乱射し、榴弾砲を取り付けられた物はそれを発射した。
落雷のような凄まじい轟音が鳴り響き、
むせ返るような火薬の臭いと共に逃げ惑う人々が爆炎に包まれていく。
あらゆる音を掻き消さんが勢いで騒音が響きわたり、
眩い銃火を輝かせ、逃げ惑う人々へと弾雨を浴びせていき、凶弾の前に次々と人々が倒れて行く。
悲鳴は既に聞こえない。
聞こえるのは腹の奥に響きわたるような砲声と、
耳障りな銃声と、生々しい肉を穿つ音だけだ。
次々と人が肉片をばら撒いて倒れていき、
道が血で染まっていき、文字通り血路が作られていく。
痛みや恐怖の為に悲鳴を上げるが、
声は轟音によって掻き消されてしまっているので、口だけが裂けてしまわんばかりに開かれている。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:32:13.67 ID:bduojFSn0
- 硬い音が響く。
続き、高層ビルが雪崩のように崩れ落ちていき、
金属が軋む音を響かしながら、数多くの破片と衝撃とをばら撒いて倒れた。
それは黒の煙と赤い炎を揺らめかせており、
穿たれた場所を見れば、AAが放った榴弾を受けたのだと認識させられる。
さらに爆音が続き、巨大建造物が次々に破壊される音が波のように流れ、
強烈な衝撃が遅れて続き、地へと叩きつけられた残骸が地響きを起こす。
建造物が倒れた場所には逃げ惑う人々もいたのだが、
怪我を負い、動けなくなった者も居たのだが、AAは構いもせずに砲撃を続ける。
何人生き残り、何人死のうと彼等機械には関係が無い。
下された命令を果たす、ただそれだけのことだ。
この両足の生えた戦車は己の目的をAIによって遂行している。
AAの行動に、人の感情など込められてはいない。
躊躇いは存在しない。無人機は、有人機の為に起きてしまう、
人の不備によって生じてしまう失敗も、弱さも存在しない。
ただ有るのは、命令された任務の遂行と、
その任務を下した人間の意思だけだ。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:35:17.64 ID:bduojFSn0
- 火の粉が舞い、火薬と肉が焼ける臭いが漂い、硝煙が周辺を包む。
('A`) 「………」
奇妙なスーツを着た男がその中に佇み、
立ち昇った炎にその顔が照らされる。
彼の生気の無い双眸は炎だけを照らしており、
橙色に輝いていた。
炎を見つめ、生き残った者達を眺める彼の表情は、無い。
目の前に広がる大惨事を、何の感慨も無しに男は見つめている。
男は与えられた命令のみをこなすAAに似ているようだ。
たった数分前までは日常の1シーンを描いていた首都パースレ、
今のここは非日常の1シーンを描いており、パースレは戦場と化していた。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:43:16.51 ID:bduojFSn0
- だが、戦場と言うには些か一方的すぎる。
ここで行われたことは戦闘等では無く、虐殺なのだから。
一方的な破壊であるのだから。
戦場と言うには敵がいない。
戦場と呼ぶには物足りない。
('A`) 「………」
地が揺れる。
重苦しい機械の駆動音が幾重にも重なり、
高速を以って走り抜ける数々の装甲兵員輸送車と、戦車が走行することによって、
地面へと衝撃が加えられて軽い地震が起きていたのだ。
怒涛と言う勢いを以って迫りくる輸送車は、男から少し距離を開いた場所に急停車して包囲網を築き始め、
箱のような車体に設けられた蓋が上から下に開き、
灰色の装甲服を着た兵士達が飛び出して行き、共に駆けていた戦車は接近を続け、
AAが射程範囲に入ったと見るや砲撃を開始した。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:46:04.32 ID:bduojFSn0
- ******
「何が起きたってんだ……」
装甲兵員輸送車から飛び出した兵士達は、影も形も無くなってしまった、
自分達の国の首都の姿を見て唖然とする。
かつての、たった数分前までの“かつて”の活気のある姿は無く、
建造物の破片と人間の破片が地に打ち捨てられており、
赤と黒に支配され、爆炎と黒煙が身を躍らせていた。
この国で最も栄華を誇った街であり、
この国の繁栄の象徴であった街。
そこはこの国で最も悲惨な街へと成り下がってしまっていた。
ここは最早、死都だ。
目を丸にしていた兵士達は、気を引き締め直しつつ各々の得物を敵へと向けた。
彼等の敵とはゴムのような繊維が首までを覆った奇妙なスーツを着た男だ。
そのスーツはこの戦場を象徴づけた色をしている。
戦場を焼き尽くす業火の赤と、戦場に充満する黒の煙だ。
スーツは黒を基調とされており、
左胸にある突起物から赤い光が筋のように各所を這い、薄暗い光を輝かせている。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 20:51:56.39 ID:bduojFSn0
- 男は火の粉と二足歩行戦車AAを背景とし、こちらに一瞥をよせてくる。
目から鋭利な刃物の如き光を放ち、相手を切り裂かんがばかりの鋭い視線。
だが、何故かはわからないが武器を構えず、
遮蔽物に隠れようともせずに立ち尽くす。
ただの的のようだ。
訓練で扱われる、人を模して作られた的。
それのほうがまだ撃ち難いだろう。
それらは左右上下に動くが、
この男は動く気配すら見せていない。
「カモ撃ちだな」
兵士の一人が呟く。
呟くが早いか、乾いた音が連続で弾丸と共に放たれた。
周囲からその連続音が響きわたり、
兵士達が構える銃口からは炎が吐き出されている。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:05:18.22 ID:bduojFSn0
- 白煙が吐息のように立ち昇ってゆき。
兵士達の周りを漂っていく。
一拍遅れ、砲声が響きわたって空気を揺らす。
戦車の榴弾砲の音だ。
軍事大国ニューソクの最新兵器、二足歩行戦車AAに比べ、
それを放ったパーソクの戦車は性能からして劣ってしまうが、
砲の威力に古いも新しいも関係は無い。
最新兵器のAAでも、当たれば爆ぜる。
それは変わらない。変わらない事実だ。
しかし、当たらなければその威力を発揮することが出来ないこともまた、
事実であることに変わりはない。
「ッ!?」
兵士は見た。
自分達が弾丸を放った先、奇妙なスーツの男の姿が消えているのを。
彼の背景になっていたAAがその巨体に似合わぬ戦車らしからぬ軽快な動きで、
榴弾砲を避けていくのを。
虚しくも弾丸は男が消えた後方の地面で爆ぜ、
榴弾は瓦礫に衝突して火薬を炸裂させた。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:08:27.55 ID:bduojFSn0
- 兵士が周囲を探る。
どこだ!? と、疑問符と焦りを浮かばせて。
遮蔽物としていた輸送車の内側へと隠れ、警戒する。
重い金属音が六つ響く。
大きな動物の悲鳴が如き音が鳴り、地面へと振動が来る。
AAは宙へと跳んでいたのだ。
四機のAAが戦車の上へと、
押し潰さんがばかりの衝撃を加え、着地する。
「AAが戦車にっ!!」
遠くにいた仲間が、輸送車から身を乗り出して叫び、
それに続いて轟、といった音が響き、輸送車が横から転倒した。
どうやら、蹴り倒されたようだ。
AAの巨大な力強い足から繰り出される蹴撃によって。
輸送車に身を隠していた仲間達が、
転倒したそれによって押し潰されてしまう。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:12:16.89 ID:bduojFSn0
- 機械の獣相手に蹂躙されていく仲間達を見て、
隣にいたロケット砲を構えた仲間と顔を見合わせ、
目で意識を送ると、互いに同時という瞬間で輸送車両から飛び出す。
飛び出し、輸送車の縁から銃を覗かせ、
銃身を左右に振るが、男は見つからない。
目に付くのはAAばかりだ。
味方の戦車が砲を放つが、
軽快なフットワークで移動するAAには当たらず、
近くに居た味方の戦車へと当ててしまった。
味方戦車からは爆炎が立ち上り、
AAが砲弾を放った戦車へと向き直り、体に設置された二門の榴弾砲を放つ。
再装填の間に合わない戦車は、
咄嗟に後退を始め、間一髪で砲弾を避けることに成功するが、
もう一方から迫る一撃を避けることは出来ない。
砲塔に爆薬が炸裂し、
火炎が戦車を包みこんで行く。
やがて、己に搭載されていた燃料や火薬にそれが引火し、
大爆発を引き起こす。
その光景を忌々しげに兵士は見つめ、
仲間が砲を放ったAAへとロケット砲を放とうと、引き金を引く。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:15:43.85 ID:bduojFSn0
- が、それは果たされなかった。
対戦車ロケット弾の推進装置が加速される音に変わり、
鈍い爆発音が響き渡る。
「なっ!?」
兵士達が隠れていた輸送車の上、
('A`) 「………」
そこには今まで見つからずにいた男がおり、
アンチマテリアルライフルが構えられ、銃口からは白煙が立ち上っていた。
ロケット砲を構えていた仲間は身体を拉げさせており、
肉塊へと変貌している。
咄嗟に銃を上へと振り、奇妙なスーツを着た男へと向けて照準。
銃口が男を覗くが早いか引き金を引き絞る。
弾丸が放たれ、虚空を切り裂いていく。
男は、それよりも早く輸送車両か飛び降りていた。
高く跳んだ男は、兵士の頭上を通過して背後へと回る。
それに気付いた兵士は銃を構えながら、強引に身を倒して前進。
一歩を踏み込み、それを軸として身体を回し、
背後の男へと銃を向ける。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:18:23.51 ID:bduojFSn0
- 男は、既に着地しているようだ。
地面へと方膝を突き、身を折りたたんでいる。
仕留める。その一念を込めて引き金へと指を掛けていく。
すると、男は突いた膝に力を込め、
地面を蹴り上げて弾丸のように飛び出す。
(速いっ!?)
兵士が驚くのも無理はない。
それは通常では有り得ない反応速度であったのだが、
男がその速度を以って眼前へと迫って来たのだ。
初弾は既に放たれている。
男は軽く身を軽く振り、
それだけの動きで弾丸を避けて接近してきた。
それだけでは飽き足らず、
兵士が構えていた銃の銃口を横から掴み、
身体を銃身に沿って傾けると銃口を手前へと強引に引く。
兵士は姿勢を崩されて前のめりに倒れて行き、男の手前へと引き寄せられてゆく。
上半身が地面へと傾き、男が右腕を振るい上げて兵士の襟首へと肘打ちを繰り出す。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:21:38.95 ID:bduojFSn0
- 折り曲げられた肘は肉厚の刃を連想させ、
雷が如き鋭い一撃が、無駄のない動きで兵士の首に炸裂し、異音が鳴り響く。
肉ごと骨を砕き折る。暴力的で、しかし正確な一撃。
兵士の視線は虚空を見つめており、
顔はあらぬ方向を向いている。
糸の切れた操り人形のように兵士が倒れて行き、
膝を突いて地面へと崩れ落ちる。
そのまま銃身を掴んでいた銃を奪い取り、
姿勢を低くして背後へと男が振り返る。
振りかえったその先には三人の兵士が身構えていた。
一人の兵士が銃口を男へと向け、
もう一人がそれにたった今気付いたように銃を構えなおしており、
残る兵士はAAを警戒している。
男が銃口を向けてくる兵士へと発砲。
フルオートで放たれた弾丸の群は、
銃を構え、今まさに引き金を引かんとするその一瞬。
肉を打つ生々しい音と共に頭へと赤い点が穿たれ、
銃撃を受けた衝撃によって銃口が天へと向かい、薬莢と弾丸を吐き出し始めた。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:24:30.06 ID:bduojFSn0
- 銃を男へと向けようとしていた兵士は、
流れ弾に当たらぬように身を屈めようとするが、
左肩に弾丸を受けて肉が抉られ、遅れて来た弾丸に目を貫かれる。
目を貫いた弾丸は脳まで達し、
左目から血の涙を流し、力を失って衝撃によって倒れて行った。
AAを警戒していた兵士は仲間が倒れた事に気付くと、
AAへと向けていた警戒心を男へと向け、構えていたロケット砲を男へ向ける。
ロケット弾の推進装置が放つ射出音が聞こえ、
白煙を大蛇の尾の如く伸ばして飛んでいくロケットは、
男の背後、男の背後であった輸送車両に衝突し、破壊と火炎を生み出す。
「ちっ!」
舌打ちを一つし、弾頭の無くなったロケット砲を捨てて、
ハンドガンを腰のホルスターから抜き取る。
男は兵士がロケット砲の引き金を引く直前に駆けだしていた。
姿勢を低くした男の頭上を掠めるように弾頭が通過し、輸送車へと衝突したのだ。
兵士へと接近する男は、顔色一つ変えずに接近する。
輸送車へと隠れていた兵士はハンドガンを構えて飛び出してゆき、
銃口から弾丸が放たれる。
渇いた音が鳴り響き、単発を連続して放ち、
男へと拳銃弾が空を裂いて進んでいく。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:27:13.52 ID:bduojFSn0
- 右頬を掠めていき、左肩を穿つが、
男は気にも留めずに銃を持ち上げる。
銃弾が兵士へと放たれ、額を血を立ち昇らせて貫く。
兵士が事切れ、ゆっくりと倒れて行くと、
男は先ほど倒した兵士から奪った銃を無造作に放り捨てる。
('A`) 「………」
左肩に穴が空いている。
本来そこには赤い点があるはずなのだが、
血は流れていない。
穿たれたのは体などでは無く、
男が身に纏う奇妙なスーツだ。
ゴムのような繊維には黒い点が浮かんでおり、
そこからは白煙が立ち上っている。
戦闘の続行には全くもって支障は無い。
六機のAAも軽い損傷は負っているようだが、
戦闘行動に支障はきたさない程度のものだ。
少数精鋭。
技術レベルがかけ離れた軍事大国ニューソクの兵士を相手に、
パーソク軍は翻弄されていた。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:30:05.42 ID:bduojFSn0
- ******
重みのある金属音と、空気を振動させる爆発音が戦場に響きわたる。
AAが歩き回るたびに金属音が、AAがパーソク側の戦車を破壊する度に爆発音が鳴っていく。
パーソクの戦車や兵士が一方的に倒されてゆくのに対し、
ニューソクのAA達は一向に倒れる気配を見せない。
ある程度の損傷は負っているのだが、
大破どころか中破にすら至らず、小破という言葉が相応しい。
パーソク軍は未だに決定的な打撃を与えられていない。
「ファック! ファック! ファック!! たった六機相手に、どうしてここまで手こずる!?」
輸送車の裏に隠れ、ロケット砲を構えた兵士が怒鳴る。
彼の顔は煤に覆われており、戦闘服には味方兵士の血が飛び散っている。
「あぁ、全く。あの豚共、異様にはしこい。
余程高感度のセンサーを持っているようだな。こちらの攻撃がまるで当たらん」
別の兵士が応え、それに、と付け加え、
「あの男が厄介だ。砲兵を片っ端から片付けていっている、あの変な服を着た男がな。
奴の動きを見たか? 人間とは思えん敏捷さと、力強さだ。助走無しに6メートルは跳躍したぞ」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:33:11.72 ID:bduojFSn0
- 「あぁ、あぁ。あのイカレ野郎か。どうせまたニューソクの新兵器か何かだろうよ!
豚共もクソ重いっつーのにあれだけ跳びやがるんだ。人間がそれを出来ても可笑しくはねーだろ―――来たぞ!!」
怒鳴り上げた兵士が叫び、こちらに近づいてきたAAへと砲を向ける。
周囲に居る兵士達もそれに呼応するかのように、銃と砲を一斉に向けていく。
銃口と砲口が、眼前に立つ二足の鉄の巨体にを覗く。
緊迫した雰囲気がより一層高まり、兵士達の表情が引き締められる。
そして彼等は、引き金へと掛けた指を引き倒してゆき、
倒れて行ってしまう。
「ッ!?」
倒れたのは、砲を構えた者達だ。
銃を構えた者達がそれを見やり、息を飲み込む。
不思議と言えるほどの静けさが訪れた一瞬。
AAの上にオートマチックピストルを二丁構えた、
奇妙なスーツを着た男が居た。
構えられた銃からは銃口が白煙を立ち昇らせており、
そこから砲兵達が倒された、凶弾が放たれたことを物語っている。
残された兵士達の銃が、一斉にその男へと向けられると、
男は高く跳躍してゆく。
一瞬にして男達の視線から消える程の高度へと跳び上がった男は、
軽やかな着地音と共に兵士達の中心へと着地していた。
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:36:48.98 ID:bduojFSn0
- その男の手からは既に拳銃は握られておらず、
代わりに肩に下げられた大型の銃が握られている。
男はそれを周囲の兵士へと向けてその銃を振るう。
振るわれた銃口からは遅れて弾丸が発射されていく。
男が振るった銃とはショットガンである。
連続して弾丸を放つことのできる、フルオートショットガン。
そこから連射されるのは散弾だ。
銃口から小さな弾丸が吐き出されて行き、
大勢の兵士達がその衝撃によって吹き飛ばされて行く。
そうやって弾丸が連続して発射され360°に銃が薙ぎ払われた頃には、
兵士達の大多数が地に伏していた。
生き残った兵士達は2人。
彼等は男へと発砲するが、男は身を伏してそれを避ける。
身を伏したことによって無防備になるが、代わりに機関砲の砲撃を受けずにすむ。
そう、AAに搭載された機関砲の砲撃を。
ほんの瞬きの間のことであった。
砲口から弾丸が数多く発射されて行き、二人の兵士が弾雨を浴びて倒れる。
たったの一秒にも満たない時間のこと。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:40:47.41 ID:bduojFSn0
- その途端、男が身をバネのように跳ねあがらせて跳躍。
高く跳び上がった男はAAの背後へと落下して行く。
AAはそれに対して身を旋回させる。
男を避けているかのような動きだ。
すると、AAの巨体によって隠れていたその姿が露わとなる。
戦車だ。
パーソク軍の戦車が、AAへと方向を向けていた。
AAの動きに遅れて放たれた砲弾は、
虚空へと飛んでいき、瓦礫に衝突して爆発。
爆発音が鳴り響き、
黒煙を撒き散らしてコンクリートを四散させる。
その音に紛れ、小さな金属音がする。
トン、という二つの消え入りそうな、金属に何かが落ちる音。
跳躍した男が、戦車の砲塔の上に着地していた。
男はショットガンを肩に掛け直し、
アンチマテリアルライフルを構えている。
その銃口を、戦車の分厚い装甲へと向け、
次の砲撃を行おうとしているそれを止めるべく、
男は戦車内部に居る操縦兵へと射撃を行う。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:44:18.62 ID:bduojFSn0
- 如何に大口径であろうと、元は対戦車戦を想定して作られたライフルであろうと、
戦車の複合装甲をたかがライフルに抜けるはずがない。
通常ならば、そう常識で割り切るはずだ。
だが、このアンチマテリアルライフルの威力ならば或いは……
そして、この距離ならば―――
距離は零。
敵へと密着し、銃口を装甲に突き付けて弾丸を放つ。
一撃必殺の零距離射撃。
引き金を引く。
すると、重苦しい銃声が鳴り響き、
金属を穿つ甲高い音が聞こえた。
('A`) 「………」
貫通した。
内部がどうなったかは分からないが、
男にとってはその手応えだけで十分だ。
続けて、正面の操縦席があるはずの装甲へと銃口を突き付けて発砲。
確かな手応えを感じ取り、人が居る筈の部位へと次々に発砲を行ってゆく。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:47:20.96 ID:bduojFSn0
- 男は弾薬を撃ち尽くすと、動かなくなった戦車から飛び降り、
その影に隠れてマガジンへと巨大な弾薬を詰めていく。
5発しか入らないので直ぐに装填を終えると、
次いで、ショットガンの弾薬の補充も行う。
無駄の無い手慣れた動きだ。
数秒の後に装填を終え、
戦車の残骸へと身を隠した兵士達へ接近していく。
何時の間にか戦車の残骸が増えていた。
軽く周囲を見渡すだけで、あちらこちらに打ち捨てられている。
AA達が破壊したに違いない。
これらはAAが上げた戦果だ。
この奇妙なスーツを着た男と、AAの連携によって生まれた戦果。
それが敵を匿う羽目になるとは皮肉だが、そこから新たな戦果を生ませるだけだ。
兵士の一人が戦車から飛び出し、男へと発砲。
弾丸が空を切って進んで行くが、
その先には既に男は居ない。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:49:35.73 ID:bduojFSn0
- 兵士は銃を右へと振るう。
すると、そこに男が居た。
距離にしておよそ5m。
これほど近ければ、照準もし易い。
即座に引き金を引き絞る兵士。渇いた火薬の破裂音が響く。
ただし、それによって放たれる銃弾は明後日の方角へ飛んでいく。
兵士が倒れていく。
散弾の衝撃を食らったことによって、吹き飛ばされた兵士は、
戦車の残骸に衝突した。
すると、残骸から兵士がさらに飛び出して行き、
散弾によって吹き飛ばされていく。
穴から飛び出したモグラが、穴へと叩き伏せられていく、
モグラ叩きのようだ。男は穴倉へと、戦車の残骸へとショットガンの銃口を伸ばし、
隠れた一団へと散弾を浴びせた。
隠れていた兵士達は五人。全員が散弾に肉を穿たれて倒れ、絶命する。
だが、一人だけ当たり所が悪かったらしく、苦しげに呼吸していた。
男はそれを一瞥すると、銃口を向け、散弾を兵士へと浴びせて止めを刺す。
周囲を瞬きの間に見渡し、
他に敵が隠れていないかを確認する。
見ると、敵は撤退を始めたようであった。
少しずつ、しかし確実に敵は後退を始めている。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:52:35.48 ID:bduojFSn0
- ******
燃え盛る瓦礫や戦車の残骸が横たわる廃墟の中、
一人の女性が歩いている。
意志の強そうな切れ長の鋭い瞳に艶やかな黒の長髪を持った女性だ。
彼女は黒い軍用のロングコートを着ており、
左手には鞘に納められた日本刀を握り締めている。
長い刀身を持つ、太刀という種類の剣だ。
川 ゚ -゚) 「酷い有り様だ。たったの数十分でここまで破壊し尽くすとは、
ニューソクの奴らは何を作り出したのだ?」
彼女、独り言を言う癖のある彼女はクーだ。
クーは周囲を見渡し、数十分前には“都市”と呼ばれていた廃墟を眺め、
疑問を浮かべて呟いた。
呟いて、歩き続ける。
己のかつての同僚を見付ける為に、だ。
恐らく、奴はニューソクの新兵器の近くに居るのだろう。
だから奴を見つけて、まず最初にすることは、
この左手に持つ太刀で切り捨てるということだ。
敵は手強いのであろう。腐っていて、狂ってはいるが、
ニューソクが世界最新の技術力を誇り、
世界最大の規模を誇る軍隊を保有していることには変わりないのだから。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:54:41.90 ID:bduojFSn0
- 泣く子も黙り、世界を震え上がらせる軍事大国ニューソク。
世界最強と恐れられる程の力を持つ軍隊を持ち、
己に牙を向けるあらゆる敵を撃退し、その者達に与する全てを殲滅する強国。
それに与していた、積極的に関わって行った自分も、
腐っていて、狂っていたのであろう。
クーはそう思い、内心に苦笑する。
この肺を焼き尽くすような熱気。
吐き気を催すような血の臭いと火薬の臭い。
それら全てを自分に運んでくる風。
最近は紙とインクの臭いしか嗅いでいなかった自分には、
全てが懐かしく、そして愛おしく思える。
砲撃を受け、その身を散らした建造物が、
薪のように爆ぜて燃えてゆく。
戦車の残骸が火炎に呑まれてゆく。
川 ゚ -゚) 「本当に、酷い様だな。ここまで圧倒されてしまう物なのか」
哀れに思い、クーが目を細めて呟く。
次いで、
川 ゚ -゚) 「本当に、本当に酷い様だ。まるで……私のようだ」
遠い目でそう語る彼女は、
何かを思い出しているようであった。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:57:50.76 ID:bduojFSn0
- ******
沢山の機材が敷き詰められた部屋の中。
長机に幾つかのイスが置かれており、それらに女性と男性が向き合う様にして座っている。
女性は黒い艶やかな長髪で、意志の強そうな、
刃のように鋭い切れ長の瞳をしており、近寄り難い印象を周囲に与えている。
現に、男性は彼女が持つ威圧感に圧せられているようであった。
男性は黒の短髪で、垂れた下がった瞳をしており、
気力の無さそうな力の無い瞳をしている。
男は軍服を身に纏っており、彼女へと恐る恐る口を開く。
(;'A`) 「あ、今回≪強化兵士部隊≫に配属されることになった、
鬱田ドクオです。よろしくお願いします」
男が消え入りそうな声で自己紹介をし、
川 ゚ -゚) 「そうか。私は素直クールだ。君、≪VIPPER≫か?」
彼女、素直クールが応え、続けて疑問を投げかける。
それに男、鬱田ドクオが緊張したように口を開き、
(;'A`) 「はい、そうです。≪VIP≫で筆記の成績はあまり良くなかったんですが、
実技、あ、いや、銃火器の取扱いとか格闘戦の成績が良かったようで、何とか成れました」
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 21:59:55.13 ID:bduojFSn0
- それを聞き、素直クールはふむ、と頷き、
川 ゚ -゚) 「鬱田君、そんなに緊張する必要はない。落ち着いてくれ」
(;'A`) 「え? あぁ、すいません」
鬱田ドクオは狼狽したように応える。
素直クールは言葉を続けて、
川 ゚ -゚) 「謝る必要はない。久しぶりの新入りでな、ハインリッヒ博士の人選はとても厳しいらしいよ。
君は≪VIP≫で生き残り、尚且つVIPPERに選ばれ、そしてハインリッヒに選ばれた。
数多くの強者のいるこのニューソクで、君は選ばれたんだ。もう少し自信を持つんだな」
軍事大国ニューソク。
建国以来、他国と争い続け、
他国の領土を奪い、他国の技術を奪い、
それを更に練磨して世界一の先進国へとたったの一世紀あまりで発展していった国。
彼等は戦い続け、勝ち続けてきた。
その戦利品は、非常に高く、他国と圧倒的な力量の差を見せつける程の技術。
この国の軍隊の装備は、他国の十年は先を行くと言われており、
兵士達の質も非常に高い。
世界最大、最新、最強の軍隊――ニューソク軍。
今や彼等は世界の頂点に立ち、世界の警察と呼ばれるほどだ。
自ら火種を巻き、自ら火種を刈り取る世界の火消し役。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:02:12.36 ID:bduojFSn0
- そんな彼等の国には、
半世紀前から特殊な軍学校が設立されている。
それこそが、先程からの鬱田ドクオと素直クールの話題に出てくる、
≪VIP≫のことである。
軍学校VIP。
幼少期から兵士と成る為の英才教育を施し、
老練で卓越した技術を持つ、若い有用な兵士を育成する学校。
過酷な訓練を幼い頃から叩きこまれた、少年少女達は例外なく超人的な体力を持ち、
老兵の如き鋭い感を持った兵士と成り、
ニューソク軍を支える為の大切な戦力となっていく。
が、そこに至るまでの過程は非常に辛い物だ。
実習と称して実戦に駆り出され、
過酷な訓練によって、毎年少なくとも200人の生徒は死んでいく。
VIPは生き残って卒業する為に、生徒達は必死に勉強する。
死にたくないが為に己を鍛え上げる。
卒業すること自体がこの学校は非常に難しいことなのだ。
VIP卒業生の中で成績が非常に優秀だった者は、
VIPPERと呼ばれ、卒業した途端に尉官や佐官として軍に迎えられる者も居るという。
そう、強化兵士部隊に配属された鬱田ドクオのように。
しかし、普通ならばそんなことは家族が許さないだろう。
自分の子が死んでしまうかもしれないのだ。
両親が我が子を死地に赴かせるはずがない。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:05:27.17 ID:bduojFSn0
- だが、ニューソク国民達の考えは違う。
彼等の戦争への関心の高さは非常に高く、
子供でさえも自ら進んでVIPへと入りたがるほどだ。
ましてや、入学費や教育費が通常の学校の半分程となれば、
金の無い貧しい家庭は飛び付くことだろう。
VIPは、孤児院変わりに使われることもあり、
多くの孤児はこの学校へと押しこまれ、将来は国の為に死ぬ兵士となっていくのだ。
全てが軍事の為に動いていく、戦士の国。
それが、軍事大国ニューソクだ。
('A`) 「はい、ありがとうございます」
鬱田ドクオは若干緊張を解したようで、
落ち着いた声で礼を述べた。
川 ゚ -゚) 「まぁいい。話は変わるが、得意の得物は何だ?」
('A`) 「狙撃銃、自動小銃、散弾銃、銃器なら大抵は扱えます。
ナイフファイトならVIPで負けたことはありません」
川 ゚ -゚) 「流石、ハインの目に適っただけはあるな」
('A`) 「素直さんは?」
川 ゚ -゚) 「私か。私は刀だな」
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:08:40.96 ID:bduojFSn0
- (;'A`) 「刀……?」
鬱田ドクオは狼狽して、疑問を浮かべる。
川 ゚ ー゚) 「あぁ、刀だ。次の任務でお披露目することになるだろうさ。
君にとっては少し面白い見世物になるだろうな」
素直クールが僅かに頬を釣り上げて笑みを作ると、
室内に放送が流れた。
それは男性の声で、鬱田ドクオと素直クールを、
ブリーフィングルームに呼び出しを掛ける物だ。
川 ゚ -゚) 「さて、任務だそうだ。よろしく頼むぞ」
イスから立ち上がり、部屋の隅にある扉へと向かいつつ、
素直クールが言い、
('A`) 「えぇ、こちらこそ」
鬱田ドクオが、イスから立ち上がりつつ応えた。
彼等はブリーフィングルームへと進んでいき、己の任務の説明を受けに行く
この時の任務が、クーとドクオの最初に共同して当たる物であり、
仲間としての馴れ初めであった。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:11:04.28 ID:bduojFSn0
- ******
男が立っている。
炎が舞い上がり、有機物の残骸と無機物の残骸が燃え上がり、火の粉が散る。
灼熱地獄の中、男がこの地獄を我が者のように威風堂々と構えている。
血と炎の赤の中、黒煙の黒が背景を染め、
それに同化したかのような色をした奇妙なスーツを男は体に纏っている。
黒色をしたゴムのような繊維が首までを覆い、
左胸に突き刺さった突起物から、身体の隅々へと赤い光が線のように走っている。
男はオオカミのたてがみのような黒い髪をしており、
同じく黒い瞳で正面を見据えている。
その視線の先、黒いコートを着た女が立っていた。
女は左手に鞘に納められた長い刀を持っており、
男に射抜くような視線を浴びせている。
川 ゚ -゚) 「ドクオ、久しぶりだな。随分と暴れた物だ」
女、クーが奇妙なスーツを着た男、
ドクオへと話しかける。が、
('A`) 「………」
彼がそれに応えることはない。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:15:05.49 ID:bduojFSn0
- 川 ゚ -゚) 「まさか、君が≪強化骨格≫の被験者になるとはな。
いや、これは≪強化外骨格≫か?」
次いで、クーが尋ねるが、彼からの返答はない。
ただ、こちらへと視線を浴びせてくるのみだ。
川 ゚ -゚) 「……武器を捨てろ。モララー達の元に行こう。
そうすれば、ニューソク軍に命を捧げる必要など無くなる。
あいつは変人だがな、君のことを気に掛けていたぞ」
再び語りかけるが、またしても答えは返ってこない。
川 ゚ -゚) 「ドクオ、君は……」
まさか、そうクーの頭に疑問が浮かぶ。
そうであって欲しくない。否定の言葉を内心に呟き、
ドクオへともう一度言葉を掛けようとする。
川 ゚ -゚) 「私を――」
が、飛来する砲弾により、その言葉は途切れてしまう。
クーは後ろに大きく跳躍し、砲撃が行われた方角を見やる。
- 70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:17:22.38 ID:bduojFSn0
- 二足歩行戦車、AAだ。
四つの重たい金属音が鳴り響き、
巨大な衝撃が地面を揺らしていく。
AAがクーの正面、ドクオを囲むように飛んで来たのだ。
着地したAAの体へと跳び上がってゆき、
高く高く跳んでいったドクオはそこに着地する。
着地し、片膝を突いたドクオは、
AAの上からクーを睨みつける。鋭い視線。
それを浴びせると、ドクオは後方へと大きく跳躍。
高く積まれた瓦礫へと彼は跳んでいき、
彼はクーの視界から消えていった。
その変わり、四機のAAが彼女を扇型に囲んでいき、
背後には二機のAAが更に囲んで来ているようだ。
完全に囲まれてしまった、絶体絶命の状況。
強化骨格、任意固定モードへ変更。稼働率80%で稼働開始。
≪カコログ≫稼働率に変更は無し。
じりじりとにじり寄るAA達は砲口にクーの姿を覗かせており、
何時でも砲撃を行うことができるようだ。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:21:13.16 ID:bduojFSn0
- 機関砲を、榴弾砲を、
一斉に六機のAAが同時に放ち、
クーの元へと榴弾と砲弾が殺到する。
爆発と弾雨が浴びせられる。
しかし、大きな火花が地面に散り、
榴弾はコンクリートの上を爆ぜるだけで、
彼女に当たることは無かった。
彼女は空中に居た。
正面に構える、AAの目前へと飛びかかっている。
クーは、コートの裾を翻してAAの体へと向かっており、
左手に掴んでいる太刀へと右手を掛ける。
ニューソク軍で行われている、
ハインリッヒ高岡が立案した、≪強化兵士計画≫。
それによって作られた、≪機械剣≫の一種、≪高周波ブレード≫の一振り。
機械剣No.08“夜刀”を抜刀する。
鞘から刃が引き抜かれ、鞘走りによって斬撃が加速され、
より素早い一撃を叩き込むことを可能とする。
その攻撃を、抜刀術と呼ぶ。
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:24:25.34 ID:bduojFSn0
- 鋭い金属音が響き、抜いた刀身を再び鞘に納め、
納刀音の小気味の良い音響くと、その後に続いて、
AAの胴が上下にずれてゆく。
力が全身から抜けていくかのように、AAが崩れ落ちてゆき、
轟音と衝撃を響かせてAAが地面へと衝突した。
すると、両隣にいたAAが二機、倒れたAAの残骸の元に着地したクーへと、
突然駆けて行き、二機同時に片足を上げて、鉄槌を振るうかのように足を振り落とす。
太い足が空気を震わせてクーへと迫るが、彼女はバック宙を行ってその場から離れると、
何も無い空間を足が通過していき、地面へと激突する。
コンクリートの破砕音が轟き、破片が天高く舞い上がって行き、それはAAの頭上にまで上って行った。
クーが着地し、地面へと片膝を突くと、
周囲を見渡してAAの配置を確認する。
その途端、何かが爆ぜる音が聞こえてきた。
背後からコンクリートに火花を散らし、こちらへと迫ってくる砲雨が放たれている。
砲声が二つ重なっており、背後の二機のAAから放たれている物だと判断。
クーは地面に突いた膝へと、力を込め、
足裏からそれを解放し、一気に駆けだす。
目指すは先ほど自分が居た空間に足を突き出した、二機のAAの間だ。
- 75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:27:20.56 ID:bduojFSn0
- そこへと真っ直ぐに駆け抜け、この包囲を突破する。
少しでもこの劣勢の状況を覆さねばならない。
すると、AAが反応した。
破砕音を響かせ、突き立った片足を地面から引き抜き、
AAは足を背後へ引き、クーへと向けて蹴りを放つ。
榴弾砲や機関砲の方が効果的に思えるが、
AAに搭載されたAIは味方機への誤射を避けるため、近接戦闘を選択したのだ。
鋏の刃のように迫る双刃が、
力強く、素早い動きでクーへと襲いかかる。
が、クーは自分の体を横向きに投げだし、
曲芸のじみたローリングをしてみせ、
迫り来る二つの足の隙間を縫う様にして避けた。
風を切る音が彼女の耳元を掠め、恐怖心を煽るが、
彼女の表情に変化は無く、感情の欠片すら無い。
AAの背後へと、クーが着地した途端。
彼女は夜刀の柄を握り、身体を右へと捻り、
その勢いを活かして抜刀し、右足で蹴りを放ったAAの軸足となっている、
左足へと斬撃を行う。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:30:39.05 ID:bduojFSn0
- シャン、という鋭い音が響き、
次いでけたたましい金切り音が聞こえる。
クーは身を回し、もう片方のAAへと接近。
回転の勢いを活かして刃を振るい、
しゃがみ込んで、左足で蹴りを放ったAAの軸足、右足へと斬りかかる。
高速で振るわれた刃が足を切り裂き、火花を散らす。
それに僅かに遅れて金切り音が響き渡り、
次いで、鈍い衝突音と重い衝撃が轟き、
更に遅れて轟音が響き渡った。
片足を失った二機のAAが、バランスを崩して倒れたのだ。
奥に居る、まだ無事なAAに妨害されぬ内、
クーが倒れたAAに止めを刺しに行く。
が、突如として、またしても轟音が響いた。
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:51:05.91 ID:bduojFSn0
- クーの背後からだ。
衝撃が地面を震動させて着地し、最後の一体のAAが現れた。
AAは装甲を軋ませ、己の眼前に立つ敵へと咆哮を上げる。
「――――ッ!!」
クーは咄嗟に背後を振り返る。
見れば、AAの体の上には、巨大な二門の榴弾砲が設置されていた。
二つの砲口はクーを覗いており、砲火を発する。
高速で発射される砲弾が空を裂き、砲声を響かせる。
砲弾がクーへと迫り、彼女は身を前へと投げ出して前転。
すると、彼女の頭上スレスレに砲弾が通過し、
彼女の背後でそれは爆発した。
波紋が広がっていくように爆発が風を生み、
クーの体は爆風を浴びて吹き飛んでいく。
彼女は砲撃を行ったAAの足元まで吹き飛ばされ、
地面へと体を激突させる。
その拍子にコートの裾が、
皮が向けるかのようにベロり、と剥がれ落ちてしまう。
彼女は地面へと延びた身体を置きあがらせようとするが、
頭を上げると、AAの巨大な足が降り懸かっていた。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:54:13.68 ID:bduojFSn0
- その影に覆われたクーは、起き上がることを中断し、
横たわった体をそのまま横転させ、AAの足から離れる。
それが速いか、すぐ近くから轟音と衝撃が響く。
AAの足が振るわれていた。
後少しでも判断が遅ければ、すぐ隣に突き立っている足に、
押し潰されていたことだろう。
川 ゚ -゚) 「危ないな」
クーはそう呟くが、彼女に表情は無く、
汗の一粒ですら浮かばせてはいない。
冷静沈着。この言葉がとてもよく似合う。
が、彼女のそれは、度が過ぎており、
どこか無機物のような雰囲気を漂わせていた。
彼女は跳ね上がるように起き上がると、AAの足へと夜刀を一閃しようとするが、
背後に居る二機のAAの機関砲の砲撃が襲いかかり、クーは慌てて避ける。
見れば、二機のAAが接近してきていた。
距離は、先ほど足を切り捨て、
転倒させた二機のAAの所に居る。
クーが、味方機へと誤射しかねないほどの近距離に居るにもかかわらず、
AA達は砲撃を行っているのだ。
最早形振り構わぬ。と、AAのAIは判断したのだろう。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 22:57:14.50 ID:bduojFSn0
- AA達は確かに飛んだAAの背後にクーが居た事を、認識していたはずなのだが、
彼女は影も形も無く、消え去っている。
何処に行ったのか?
その疑問を、砲撃を行っていたAA達が浮かべて周囲を捜索している間。
跳躍を行ったAAが、彼女を見付けた。
すぐさまそのAAは、他の機体へと情報を送る。
自分の頭上にいる、と。
AA達は一斉に砲口を宙にいるAAへと向けるが、
川 ゚ -゚) 「遅い」
彼女はAAの頭上へと登っており、そこに片膝を突いてバランスを取り、
夜刀の切っ先をAAの目となるカメラへと向け、突きを放つ。
切っ先が空を切り裂き、軽々と装甲を切り裂いていき、鋭い金切り音が響く。
火花が散り、カメラから電流が流れ出、
視界を失ったAAは力を失ったように落ちて行く。
クーは素早く太刀を引き抜き、AAの装甲を踏み台にして跳んで行った。
彼女はコンクリートの地面へと着地し、硬い音が響く。
それに数秒遅れ、金属が拉げる音と、巨大な何かが墜落する轟音が轟く。
AAが宙から地面へと激突し、装甲は拉げ、
機体から様々な部品をばら撒いて、地面へと横たわった。
- 85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:00:56.20 ID:bduojFSn0
- 「―――ッ!!」
正面に居た二機のAAが、倒れた仲間に弔うように装甲を軋ませて、
雄叫びを上げ、機関砲を連射しながらクーへと突進していく。
大きな足で全力で地を蹴って迫る巨体に、空を裂いて飛来する砲弾の嵐。
それに対するクーの行動は一つ。
跳躍だ。
空高く跳び上がった彼女は、高く積まれた、
恐らくは高層ビルであったのであろう残骸へと飛び移り、
砲撃の射線から外れていく。
そして再び跳躍。
二機のAAの背後へと、片足を切られて立てなくなったAAへと飛んでいき、
その頭上に着地するが早いか、カメラへと向けて太刀の切っ先を突き立てる。
火花が散り、金切り音が鳴り響く。
すると、隣で倒れていたAAが、
こちらへと砲塔だけを向けて砲撃を行う。
クーはAAの上から滑り落ちるように降りて行き、
カメラを破壊され行動不能となったAAを盾にするように隠れる。
が、息を吐く間も無しに無事な二機のAAがこちらを振り向き、跳躍する。
その巨体からは想像できない程の跳躍力を誇り、
空高く跳び上がったAAは、重量に見合った速度で落下していく。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:05:15.26 ID:bduojFSn0
- 轟音が二つ鳴り、二機のAAがクーの両隣へと着地し、
彼女から見て左側のAAが、彼女を踏みつぶさんと足を振り下ろしてきた。
クーは前転してその場を離れていく。
そのAAの足を避けることに成功するが、
次はもう片方のAAの回し蹴りが迫る。機械とは思えぬ、柔軟な動きだ。
クーは、AAと反対の方向へと身を捻り、
猫のような敏捷な動きで身体を回して、蹴りを避ける。
だが、もう一機のAAが彼女へと突進して来た。
こちらへと突っ込んでくるAAは、片足を前に突き出して蹴りを放つのだが、
クーは身を伏してそれを避け、続けざまに放たれた別のAAの踵落としを、
バネのように身体を跳ねあがらせ、バックステップで避けて見せる。
彼女は地面へと足を着けると、そのまま蹴り上げ、跳躍を行う。
突進してきたAAの横腹を通過し、
擦れ違いざまに夜刀の刀身を叩き込む。
AAの胴と足とを繋ぐ部位から火花が散り、
砲塔のような胴が、耳障りな金属音と共に滑り落ちていく。
そして、そのまま足を切られたもう一機のAAへと向かい、
頭上への着地ざまに、夜刀の切っ先をカメラへと叩き込み、
機能不全へと陥らせる。
- 87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:08:24.02 ID:bduojFSn0
- 残るは一機。
その一機はクーへと突進してきた。
砲撃も行わず、ただただ己の体をぶつけることだけを考えた、
速度重視の体当たりである。
クーは後ろを振り返り、そのAAを一瞥する。
川 ゚ -゚) 「………」
彼女の切れ長の瞳が、より一層鋭い物へとなって行き、
名刀が如き鋭さを持った視線をAAへと浴びせ、
川 ゚ -゚) 「ハッ!」
己へと発破をかける。
そして、接近してくるAAへと向け、更に接近。
ボロボロになったコートのベルトへと鞘を差し、
両手で夜刀を構えて駆け出して行く。
全力で駆け抜け、勢いを活かし、最速の斬撃を繰り出す為の布石。
次の瞬間、彼女は迫りくるAAへと跳躍を行った。
体当たりを行おうとするAAへと向け、
こちらも体当たりを浴びせかけるように、飛んでいく。
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:15:52.96 ID:bduojFSn0
- クーは、空中で夜刀を上段に構え、縦へと一閃。
「――――ッ!!」
鋭く、大きな金属音が鳴り響き、装甲が軋み、
AAが悲鳴のような叫びを上げる。
縦に真っ二つに切り裂かれたAAは、身体を二つに分けて落下していく。
轟音を響かせて地面へと激突し、最後のAAは倒れた。
空中で刃を鞘へと納め、クーが着地する。
川 ゚ -゚) 「ふぅ……」
彼女は短く溜息を吐き、僅かに熱くなった気持ちを落ち着かせる。
その途端に一つ、異変を感じた。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:19:06.84 ID:bduojFSn0
- 川;゚ -゚) 「くっ……」
まず、感じたのは衝撃だ。
左肩へと重い衝撃を感じ、クーは右へと大きく身体を揺らす。
そして次に感じたのは痛みだ。焼けるような痛みが左肩に残っている。
銃声は……AAの落下音に紛れて聞こえなかったか……
彼女は内心に悪態を吐き、何処から撃たれたのかを推測する。
川;゚ -゚) 「フフッ……やっとお出ましか?」
クーは強がりのようにそう呟き、狙撃に対する手を打つ。
≪強化骨格≫稼働率90%での稼働を開始。
≪カコログ≫稼働開始。強化骨格補助形態から、戦闘形態へと移行。
これより―――
川 ゚ -゚) 「リミッター弐号解除。≪カコログ≫稼働率50%での稼働を開始する」
- 91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:24:04.17 ID:bduojFSn0
- ******
素直クールが戦闘を繰り広げ、AAの残骸が横たわり、
黒煙と炎とが立ち上がるパースレの遥か上空。
巨大な翼を持ち、子を孕んだかのようにでっぷりとした体を持つ輸送機が飛んでいた。
翼にはニューソクの国章である、雄々しい翼を広げた、鋭い瞳の気高そうな鷲が描かれていることから、
この輸送機はニューソク軍の物であるとすぐに理解できる。
先刻、ドクオとAAをパースレに投下したのもこの機体だ。
機内では機械と向き合っている男達が大勢おり、
その中で軍服を見に纏い、眉が逆立った意志の強そうな男が口を開く。
(`・ω・´) 「博士、素直クールが出現しました。クールはAAと交戦し、4分後にこれを撃退。
その後、身を隠していた被検体が狙撃し、遠距離戦を展開。≪ZIP≫の稼働は良好です」
軍服を着た男が機械の画面に表示される映像などの情報から報告を行い、
腕を組んでいる白衣の女性へと視線を送る。
从 ゚∀从 「おう、そうか。やっぱり来たか、やはり放ってはおけないのか。
が、しかし。あたしの実験は至って良好。お前が来ることで尚更良くなったよ、素直クール」
左右非対称の髪型をした女性、ハインリッヒが己の足もと。
パースレで戦うクーの名を口にする。続けて、
从 ゚∀从 「お前にはそれだけの理由がある。お前には理由に匹敵する力がある。
だが、お前では勝てんよ。理由も力も、奴には――あたしの研究には及ばない。
身を捧げた力と、命を捧げた力。その重みの違いをお前はどうやって埋めるつもりだ?」
- 92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:28:33.00 ID:bduojFSn0
- 从 ゚∀从 「私に見せてみろ。身体の全てを人工物に換装し、サイボーグとなった貴様の存在を証明してみせろ。
力を追い求めたその先に何があるのか。全てを捨てた先に何が無いのか。お前はそれを知っている」
从 ゚∀从 「だが、お前じゃ勝てない。クー。お前に強化骨格とカコログを与えたように、
私はあのガキに強化外骨格とZIPを与えた。これで、奴がお前と並ぶのに必要な物は全て揃ったんだ。
純粋に力を求める兵士と、純粋に力を求めた兵士の。決着を、お前達の答えを見せてみろ。
あたしをもっと昂らせろ、楽しませろ、笑わせろ、感動させろ」
ハインリッヒが独白し、笑みを浮かべる。
(`・ω・´) 「博士。本当によろしいのでしょうか?」
从 ゚∀从 「あぁ? なにがよろしくないと言うんだ?」
(`・ω・´) 「素直クールは我が軍に多大な戦果をもたらしました。
その性能は非常に高く、博士の作り出した兵器の中でも傑作と呼べる出来かと思われます。
そんな者を相手に実戦演習を行い、鬱田ドクオは無事で済むのでしょうか?」
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:31:35.49 ID:bduojFSn0
- 从 ゚∀从 「無事か有事か。どちらか言っちまえば、無事では済まないだろう」
軍服の男の疑問に対し、ハインリッヒは迷いもなしに言い放つ。
(;`・ω・´) 「では、被検体を撤退させるべきでは? ナノマシンで制御できる間は良いですが、
何かの拍子に制御不能となれば、我々に……」
从 ゚∀从 「良いんだよ、このままで。この場は、この戦場は、そんな意思など関係ない。
奴らにはぶつかるしか道は無い。あたしらが、どう思おうと、願おうとな」
从 ゚∀从 「非情な場所で、激情を散らす場所だ。ここはな。
命を救うのにも、命を殺すのにも戦うしかない」
そうだ。とハインリッヒが続け、
从 ゚∀从 「この場では力こそが全てだ」
彼女はそう言い切ると共に頬を緩め、よりいっそうと笑顔となった。
快活であり、どこか狂気を孕んだ笑みである。
- 95 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/11(土) 23:34:22.86 ID:bduojFSn0
- ******
('A`) 「………」
火薬が爆発し、砲声の如き巨大な銃声を響く。
それよりも僅かに早く、空を割るような甲高い音が響いた。
稲妻が走る音にも、ガラスが割れる音にも似ている音だ。
ドクオが構えた銃口からは、弾丸が放たれたことを示す白煙が立ち上っており、
その銃口の延長線上に居る女性、素直クールを捉えている。
弾丸は彼女へと向けて放たれたのだ。
狙いは的確で、外れるはずはない。
ドクオが放った弾丸は外れなかった。
しかし、彼女に当たりもしなかった。
素直クールに迫った弾丸は、雷にも似た青い光が発されたかと思うと、
彼女の目前で爆ぜてしまったのだ。
まるで壁に衝突してしまったかのように。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:00:21.64 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「……」
通常の小火器ではありえない、轟音にも似た発砲音。
強力な弾薬で巨大な弾頭を放つことによって発される銃声だ。
それよりも速く甲高い音が鳴り響くのは、
音速を超えて放たれる弾丸が、“壁”に衝突した証であろう。
素直クールの目前に青い光が発される。
彼我の距離はおよそ3000m。
遠距離からでも、光学照準器からははっきりと、
その青い光を確認することができた。
恐らく、彼が身に纏う強化外骨格に内蔵されているセンサーや、
ナノマシンを通して、パースレの上空を飛ぶ輸送機に乗っている者達も確認したことだろう。
ドクオはこれを知っている。
素直クールが発するこの光を。
彼女の体から発されるこの光は、どのような力を持っているのかも。
- 101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:03:18.94 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「………」
全て承知の上だ。
奴の強化骨格の性能とカコログの性能は知っている。
この青い光は、強化骨格から発される物だ。
尤も、正確に言えば彼女の心臓であるカコログから供給される力を元に起動する、
強化骨格の迎撃装置から放たれる物である。
言ってしまえば、バリアだ。
彼女の周囲360度を防護する外壁。
この壁を突破する方法を彼は知っていた。
ドクオはアンチマテリアルライフルのマガジンを抜き取り、
銃帯を肩にかけてその場を離れる。
瓦礫の山から、別の瓦礫へと飛び移りつつも銃弾の再装填を行う。
ほんの数秒で事は済んだ。
瓦礫の山に潜み、アンチマテリアルライフルのバイポッドを地面に突き立て、
地に伏して素直クールへと照準を合わせる。
- 103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:06:59.86 ID:53tV4jeA0
- 光学照準器が、はっきりと彼女を映し出した。
目付きを獲物を狙う肉食獣の如く鋭くし、
('A`) 「……」
引き金へと指を掛けてゆき、人差し指に力を込めて引く。
先程装填したので、弾薬は十分だ。
銃声。
それも、連続して響く連射音。
轟音が僅かな間断を以って連続して響いてゆき、
五つと、マガジンに詰まった少ない弾丸が全て吐き出されていった。
- 105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:10:43.06 ID:53tV4jeA0
- ******
カコログ稼働率、50%での稼働開始。
素直クールがそう宣言すると、強化骨格の迎撃装置が作動した。
青い光、≪カコログ光≫による攻撃が飛来する弾丸へと向けて行われ、
弾丸は彼女の眼前で爆ぜた。
川 ゚ -゚) 「目がチカチカするな……」
彼女が呟くと、次は側頭部辺りに光が放たれる。
空が割れるような甲高い音と、砲声にも似た銃声が重なって鳴り響き、
耳朶を振るわせる。
狙撃地点を変えたか。クールがそう呟くと、
彼女は光が放たれた方向へと向き直る。
川 ゚ -゚) 「分かっているのだろう? こいつの破り方を。
君は知っている。私は君が知っていることを知っている。勝手知ったる仲だ。
かつての仲間の戦い方を、性能を、知り尽くしている。私達はそのはずだ」
川 ゚ -゚) 「来いよクソガキ、相手してやる」
日本刀。機械剣No.08“夜刀”を構えなおし、
ドクオが居るはずであろう瓦礫へと刃を向けると、来た。
轟音が連続して鳴り響き、
迎撃装置が忙しく作動して銃弾を叩き落としていく。
- 107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:14:28.72 ID:53tV4jeA0
- そして、黒い銃身がこちらを覗きこんでくる。
クールの頭上を、ゴムにも似た黒と赤の材質が首までを覆った防弾衣――強化外骨格を着た男、
ドクオが浮かび上がっていた。
('A`) 「……」
片腕を伸ばして、巨大な銃をこちらへと向けて引き金を引く。
鈍く、重たい銃声が成り響き、
弾丸が発射され、炸裂した。
弾丸から小さな弾丸の群がばら撒かれてゆく。
それらはクールに向かってゆくが、
迎撃装置は甲高い音を響かせて、全ての弾丸を撃ち落とした。
川 ゚ -゚) 「ッ!」
クールは、ほぼ直感的に後ろへと跳んだ。
何か、悪寒のようなものが背中を走ったのだ。
すると、弾丸が、小さな弾丸の嵐が、
彼女へと向かって吹き荒れる。
- 109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:17:59.38 ID:53tV4jeA0
- 銃声が連続して響き、弾丸が連射されていく。
アサルトライフルの如き連射性能を持ち、
連射はほぼ間断なく行われていた。
フルオート射撃が可能なショットガン。
AA12が、鈍い銃声を鳴き声のように鳴り響かせ、
銃口から弾丸を吐き出し続けてゆく。
至近距離からの散弾の連射。
いくら強化骨格の迎撃装置と言おうとも、
完全にこの連射を防ぎ切る事は難しいことだろう。
クールが後ろへ飛んだのは正解であった。
強化骨格の迎撃装置が、迫りくる猛攻を処理しきれず、
小さな弾丸が彼女の強化骨格とボロボロとなったコートを掠めたのだから。
後退していなければ、この程度は済まなかったはずだ。
ドクオは、どうやら遠距離からの狙撃を行った後に、
強化外骨格の人工筋肉によって増幅された脚力を用いて、ここまでの跳躍を行ってきたようであった。
- 111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:20:52.36 ID:53tV4jeA0
- だが、再び距離は開き、そこから選択するドクオの行動は――銃撃だ。
('A`) 「………」
AA12の銃帯を、アンチマテリアルライフルが掛けられていないほうの肩に掛け、
胸に備えられている四つのホルスターの内、
ハンドガンが二つ収められている場所へと手を伸ばしていき。
グリップを掴み取って引き抜く。
双銃の二つの口がクールを覗き込み、炎を噴き出した。
渇いた音が鳴り響き、連鎖して響いて行く。
クールがそれに対して取る行動は、
逃げることでもなく、隠れることでもなく、迎撃だ。
彼女は腰を深く落とし、剣を左右に小刻みに振るうと、
金属が爆ぜる音が雨音のように連続して鳴り、
彼女が剣を振るった後には火花が残った。
剣で弾丸を往なし、弾く。
現実離れした光景ではあるが、
強化骨格によって身体の全てを機械に換装して身体能力を増長し、
心臓の代わりに彼女に生を与える、莫大なエネルギーを持つ半永久機関。
ブラックボックスであるカコログを動力とした彼女には、造作もないことであった。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:23:45.02 ID:53tV4jeA0
- 川 ゚ -゚) 「どうした、それで終いか? この程度は子供の遊びのようなものだろう? 互いにな」
その言葉に反応したのかは分からないが、
ドクオは二丁の拳銃で銃撃を行いながらも地面を片足で蹴ると、
クールへと飛びかかって行った。
その間にも弾雨を浴びせ続け、空中で最後の一発を撃ち切るが早いか、
彼は両のハンドガンをそれぞれ空白のホルスターへと納め。
そこの真下にある、コンバットナイフを収めたホルスターに流れるような動きで手を伸ばしていく。
両の手にコンバットナイフのグリップをそれぞれ掴み、抜刀。
ナイフの無骨な刃が日の光を浴びて銀色に輝き、
素直クールへと右手に翳されたナイフが袈裟掛けに振り下ろされて行く。
クールは腰を深く落とした体勢から、そのまま身構える。
相手をよく観察し、どこから攻めて来ようとも、
太刀で斬撃を受け止められるよう、抜かりなく。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:27:46.30 ID:53tV4jeA0
- コンバットナイフが彼女の首を狩りに降りかかってくるが、
クールはこの一撃の意図を読んでいた。
川 ゚ -゚) (迎撃装置の作動後を狙った……フェイントだ)
相手を殺す為の動きにしては鈍く、
単調すぎる。とも彼女は思う。
稲妻が走る音が空を割り、耳朶を打つ。
強化骨格の迎撃装置が作動したのだ。
光の筋がドクオが振るうナイフへと向かって放たれ、撃ち落とした。その筈であった。
だが、稲妻の音はもう一つ聞こえていたのだ。
('A`) 「……」
ドクオの胸部。
左胸に突き刺さった突起物が、赤い雷を帯びて輝きだす。
身体中の赤いラインが燃え上がるかのように光り、
振り降ろしたナイフの刃が、パチパチと言った音を響かせて赤い筋を纏ってゆく。
それは、強化骨格の迎撃装置から放たれた光と激突すると、
腹の奥底に響くような轟音を響かせ、
ナイフに帯びた光は向かってきた光を打ち消した。
川 ゚ -゚) 「カコログか?」
予想を裏切られたクールは、
一切の動揺を見せずに疑問を浮かべる。
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:29:52.61 ID:53tV4jeA0
- 赤い電流を纏ったナイフは、
一切の抵抗も感じずに、彼女の首を狩りに行き、
夜刀の刃と衝突する。
刃と刃が激突すると、耳を塞ぎたくなるような金属音が鼓膜を叩き、
眩しいまでの苛烈な火花が飛び散っていく。
川 ゚ ー゚) 「強化骨格と力比べでもする気か? 力と力をぶつけ合った先に決着があるとでも?」
眼光を鋭くしてドクオを睨みつけ、
口の端を釣り上げてクールは挑発するように言い放つ。
それに対してドクオは、
('A`) 「………」
無言だ。
左の突起物から赤い光が輝き、生気の無い瞳と、
これもまた、死んでいるかのように生気のない蒼白の顔が浮かび上がっている。
彼の口はきつく、
固定されてしまっているかのように閉じられている。
口を開く気配は微塵も感じられない。
もしかしたら、喋ることを禁じられているのかもしれない。
口を開くことが出来ないのかもしれない。
そう感じられる程にまで、彼は無言を貫いている。
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:32:05.51 ID:53tV4jeA0
- 言葉は返さない。
だから、彼は挑発に対して、
言葉では無く行動で返した――のかもしれない。
右手で構えているナイフは、クールの夜刀と鍔迫り合いを演じている。
空いた左手で、左手のナイフの切っ先を彼女へと向け、
右足を踏み込むと同時にナイフを刺突の動作へと持っていく。
強化外骨格の人工筋肉によって助長された身体能力により、
それは目にも留まらぬ高速を生み出す。
迎撃装置が作動し、光の筋が左のナイフへと伸びていくが。
やはり、刃に纏った赤い電流によって打ち消されてしまう。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:34:36.58 ID:53tV4jeA0
- 切っ先がクールの右脇腹に迫るが、
彼女が左へと身を捻ることによって、虚空を裂くに終わる。
しかし、ドクオの攻撃はそれだけに留まらない。
左のナイフを避けられたことに、全く動じず、
彼は一歩踏み込んだ右足を軸足とし、右へと身を捻ったクールへの追撃として、
ナイフが突く筈であった右脇腹に、左の膝蹴りを叩き込んだ。
川;゚ -゚) 「ぐぅっ」
衝撃が脇腹から肺へと突き抜け、
苦しみが下から上へと立ち昇って行き。
それは嗚咽となって口から吐き出された。
- 125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:36:10.74 ID:53tV4jeA0
- 身体が怯み、衝撃によって左へと体勢を崩してしまう。
が、クールはその勢いを利用して夜刀の刃を振るう。
長く、肉厚の刀身がドクオの右肩へと喰らいついて行く。
彼女の力では無く、慣性によってのみ振るわれる刃は、遅い。
ドクオは地に着いた右足で一足飛びを行い、彼女の背後へ。
着地し、片膝を附く間も無く、
彼は身を捻って反転して、片足で地面を蹴って、
両腕のナイフを交差してクールへと再び斬りかかる。
挟み込むように迫る刃に、火花が散り、金属同士が触れ合う音が鳴る。
彼女は振り返ることもせずに、双刃を太刀によって防いだ。
そうして、クールは前へ一歩を踏み込み。
振りかえると同時にもう一度一歩を踏み込んで斬りかかり、
ナイフと太刀が再び重なり合い、ドクオと対峙する。
彼女の右肩には黒く太い筋が浮かんでおり、
黒い液体が滴っていた。
どうやら、ドクオは先ほど跳び上った際に、
擦れ違いざまに彼女の右肩を切り裂いていたようだ。
- 127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:37:57.19 ID:53tV4jeA0
- クールは口の端を吊り上げ、表情を作る。笑みの表情を。
川 ゚ ー゚) 「フフ、なかなかやるようになったじゃあないか。
だが、そんなものか? まだまだやれるだろう? 強化外骨格はそんなものじゃあない。
人の枠に囚われるな。限界は、君が想定しているさらに上にある。強化外骨格を扱いこなしてみせろ」
彼女の笑みには、どこか獣のような凶暴性を秘めていた。
暴力の中に身を置き、戦うことに喜びを感じる、狂気が見え隠れしていた。
さもなくば、と付け加え。
川 ゚ -゚) 「ふんじばって力づくにでも連れて行くぞ。
まだだ、まだ踊ってみせろ。猛々しくな」
いつも通りの無表情が彼女に戻り、
クールはドクオのナイフを、鋏の刃のように交差された刃を、弾き飛ばす。
- 130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:41:37.77 ID:53tV4jeA0
- ******
('A`) 「……」
生気のない瞳に、微かな闘志が生まれた――かのように思える。
先程のクールにも似た、戦闘に喜びを感じる凶暴性が、
彼の瞳の奥底に、そっと灯ったかのようだ。
だが、彼の眼には何も映ってはいない。
黒い瞳孔と同じ、暗闇しか映ってはいない。
焦点が合っていないような、何かがずれているような、不気味な雰囲気。
川 ゚ -゚) 「………」
その瞳を見たクールは、こう結論付けた。
ドクオは人間と兵器の境界線、その狭間にいる。と。
彼女がVIPに在籍していたころ、
このような眼をした者を大勢見かけた。
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:43:02.58 ID:53tV4jeA0
- 生と死の境で極限状態まで追いつめられ、
更には隣人たちが死んでいく恐怖の中で訓練し、
人間を殺す罪悪感によって、狂っていってしまうのだ。
恐慌状態。というやつだったのかもしれない。
そんな異常な精神状態の中で訓練していくうちに、
こういった者達は皆、兵器のようであった。
命令されるがままに動き、
平時は魂が抜けたかのように無気力。まるで抜け殻だ。
人の殻に戦う術を詰め込まれ、人の理性が抜き取られた、抜け殻。
今のドクオはそいつらと同じだ。
クールが内心に呟く。
いや、それ以上かも知れない。それ以上に異常なのかもしれない。
と、自分の内心の独白を打ち消す。
川 ー ) 「フッ、私も君と大差無かったがな」
自嘲的な笑みを、クールは浮かべた。
- 133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:45:51.01 ID:53tV4jeA0
- ******
およそ十年前―――
部屋の中心に机を置いた、狭苦しい部屋の中。
前髪で左目を隠した白髪の、赤く鋭い瞳が特徴的な、
白衣を着たどこかがさつそうな印象を与える女性がイスに座っていた。
彼女に向き合う様にして、もう一人の女性が姿勢を正して立っている。
彼女は刃のように鋭い切れ長の瞳をしており、口はきつく結ばれ、
肩口で切り揃えられた、艶やかな黒の短髪が美しい。
白衣の女性は彼女を観察するように視線を浴びせ、
手元にある資料を見て呟く。
从 ゚∀从 「素直クール……ね。VIPでの成績はトップクラスで、
頭脳明晰で決断力に長け、身体能力と火器の扱いも群を抜いている。
いいねぇ……そそるねぇ……優秀だ、それも抜群にな」
目の前に居る軍服を着た黒髪の彼女、素直クールの、
資料を見た上での感想は、最高であったようだ。
从 ゚∀从 「だが、そんな優秀な生徒だ。軍学校VIPの、
生死の境を彷徨う様な教育を行う所で育った貴重な才能だ。
陸軍、空軍、海軍、警察、情報部。と言ったように、
様々なところからオファーがあったはずだ。輝かしい、凡人どもの頭上に位置する。
そんな場所からいくつもだ。お前の才能にはそれこそが相応しい。その場こそがな」
- 134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 00:49:06.84 ID:53tV4jeA0
- 从 ゚∀从 「何故お前がこの場に来た? 何故ここを選んだ。“こんなところ”をな。
ここは兵器を生み出す場所だ。血の上に、屍の山の上に成り立つ非情な実験を、
幾つも重ねてやっと兵器が生まれる場所だ。それらが実験的に供給される強化兵士部隊に、何故?」
从 ゚∀从 「何故あたしの誘いを受け入れた?」
白衣の女性が疑問符を浮かべると、
淀みなく、一切の迷いも無しにクールは即答する。
川 ゚ -゚) 「私は軍人でありたいと思いません。私は兵士でありたいとは思いません。
ましてや、人間でいようなどと思ってもいません。
私は戦士でありたい。ただ、強くありたい。ただの強者でありたい。力の象徴でありたいのです」
見事なまでの即答であった。
彼女がまるで、始めから答えを用意していたかのように、
何年も昔からこのセリフを言う為に今日を生きてきたかのように、
常に胸に刻みつけているかのような、そんな回答だ。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:00:58.97 ID:53tV4jeA0
- 川 ゚ -゚) 「強さを極めたい。己の人生の全てを捧げてでも。
ここは、そんな私には最適な場所だと思ったのです」
へー。そう軽く唸って、白衣の女性が再び口を開いた。
从 ゚∀从 「そうかい、そうかい。ここは、ただの実験場だ。
ここにいるのは科学者と実験用動物だけだ。
お前がここに入ると言うことは、お前の人権を、命を、あたしに捧げると言うことだ。
いいのか? 力の為に、人間を失うことになっても、お前は良いのか? 犬畜生に成り下がるか?」
しつこいまでに、連続して白衣の女性は問いを投げかける。
それもその筈だ。
この問答に、クールのこれからの人生が大きく左右されるのだから。
この若い、まだ人生のなんたるかを理解していない女性には、この問いは重くのしかかる筈だ。
彼女の人生の岐路であり、重大な選択肢。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:05:16.48 ID:53tV4jeA0
- クールは、まだ18歳でしかない少女は、優秀な能力を持つ才女は、
恐らく、この回答を誤ってしまった。
川 ゚ -゚) 「力の限界を、極みを、見られるというのならば本望です」
またしても、思考していないのではないかと思われるような、
短時間を以って彼女は即答を返した。
从 ゚∀从 「そうか……なら、あたしに敬語を使う必要はない。
あたしはあたしの実験で、人間をボロ切れみたいにしちまうかわりに、
被験者とは対等に接するつもりだ。これからはハインと呼びな」
白衣の女性、ハインはその回答に、微笑みで返す。
口調も、今までのものよりも、若干柔らかく感じられる
从 ゚∀从 「じゃあ、早速だが。クール……クーには強化骨格の被検体になって貰う。
お前の体の全てを貰う。お前の全てを人工物に取り換えさせて貰う。お前に人としての生をやめて貰う。
お前に人間じゃ無くなって貰う。今この瞬間からお前は≪強化兵士≫だ。素直クール」
突然のハインの宣告に、
クールも少しは動揺するのものかと思われたが、
川 ゚ -゚) 「そうか。望むところだよ、ハイン」
相変わらずの無表情で、
感情の起伏が感じられぬ声で彼女は言った。
- 142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:08:47.29 ID:53tV4jeA0
- ******
巨大な建造物が瓦礫と化し、灰色に染まった死都の中で、
ドクオとクールが対峙している。
ドクオの瞳に不気味な闘志が灯り、背後へと大きく飛ぶと同時、
右腕のナイフを、赤い電流によって強化された刃をクールへと放った。
ナイフは赤い尾を引いて高速を以って彼女へと向かってゆき、
腹部を貫かんと空を裂いて行く。
クールが太刀、機械剣No.08夜刀でそれを往なすと、
甲高い鳥の鳴き声のような金属音と火花が生じる。
彼女は背後へと跳んだドクオを見ると、彼が左腰から、
大きく、無骨な造形をしたリボルバーを引き抜くのを見た。
その動きを視認するよりも僅かに早く、轟音。
耳朶どころか、全身を打つように重く、鈍く響きわたる発砲音だ。
川 ゚ -゚) 「ッ!」
銃を引き抜く動作が、遅れて見える程の早撃ちに、
クールは虚を突かれてしまい、対応が遅れてしまう。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:10:11.08 ID:53tV4jeA0
- 咄嗟に身を捻り、後ろへと一歩下がる。
すると、彼女の左肩が、
強化骨格で防護された左肩が、巨大な血の花を咲かせた。
人間の体内に流れるそれよりも、黒い血液。
≪人工血液≫が、大口径のマグナム弾が左肩を掠め取ることによって噴出される。
撃たれたことによって負傷し、クールが取る行動は――接近。
川 ゚ -゚) 「ハハ、ツェリザカか! それは良い、そいつは強力だ。
象撃ちに用いる銃を私に向けるか。それでこそ強化兵士同士の争いだ!
ゲテモノ同士の潰し合いだ、全力の殺し合いだ。弾薬を惜しんだケチな戦い方で勝てると思うなよ!」
クールの眼に、再び狂気的な闘志が灯る。
眼光は鋭く、ドクオを射殺さんばかりの鋭利さだ。
('A`) 「………」
ドクオは左手に残ったナイフを、空となっているホルスターへと収め、
腰のバックパックへと手を伸ばして、ハンドガンのマガジンを取りだす。
先程のホルスターの上に位置するホルスターへと手を伸ばし、ハンドガンを抜き取り、
マガジンを片腕で排出し、器用に掴んでいる先程のマガジンを込めて、銃口をクールへと向ける。
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:12:57.77 ID:53tV4jeA0
- 引き金へと指を掛け、発砲。
先程のツェリザカの銃声に比べ、陳腐なものではあるが、
充分に人を殺傷しうる力は持っている。
尤も、強化骨格を埋め込んだ強化兵士を前にしては、
火薬不足の感は否めないが、大口径の破壊力、衝撃ゆえに連射の効かないツェリザカの射撃まで、
弾幕としての役割は果たせる。
尚且つ。
ZIPから供給されるカコログ光を銃の内部へと充填し、
それを以って放てば、強化骨格の防護繊維ですら撃ち抜くことが可能となる。
ドクオが引き金を引く。
弾丸は銃口から飛び出すと、軌道上に赤い残滓を残してクールへと向かっていき、
彼女の夜刀によって弾かれてしまう。
クールは怯むことなくドクオへと突進してゆき、
彼は竦むことなく彼女へと双銃を連射する。
小気味の良い銃声と、巨砲の如き銃声が間断を以って大気を震わし、
クールの夜刀によってそれらの弾丸は火花と共に散って行く。
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:15:16.91 ID:53tV4jeA0
- 川 ゚ -゚) 「フンッ!」
彼女は弾雨を捌きつつドクオへと突進してゆき、
夜刀の切っ先を彼へと向けて、突きの体勢を取り、
次に踏み出す右足に大きな力を込め。
大地を思いきり蹴って、体ごとドクオへと飛んでいった。
リーチの長い太刀が彼の腹部を狙う。
だが、この瞬間。
クールは無防備となってしまい、ドクオにとっては攻撃のチャンスとなりえる。
そんなことは彼女も分かっている。
クールは戦闘に熱くなってはいるものの、下す判断は常に冷静だ。
これは、賭けなのだ。
ドクオが引き金を引くが速いか。
クールの踏み込みがそれを上回るか。
それはチャンスだ。しかし、危険なチャンスだ。
もし、ツェリザカの銃撃が直撃すれば、強化骨格と言えども無事では済まない。
博打だ。命を掛け金とした、大博打。
- 151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:17:12.85 ID:53tV4jeA0
- その結果が訪れる。
長い刀身の先端がドクオの腹へと、強化外骨格へと突き刺さってゆき、
クールとは違う、赤い通常の血液が流れて出していく。
が、彼は気にも留めずに、ツェリザカの引き金を引いた。
これは賭けだったのだ。
剣が速いか、銃が速いかの、クールにとって分の“良い”賭けだ。
('A`) 「―――ッ!」
クールの、強化骨格の迎撃装置が作動し、
銃弾では無く、ドクオがツェリザカを構える手、
右腕に向かって空を割るような轟音が鳴り響いて行き、
青い光が彼の右腕を弾き飛ばした。
川 ゚ -゚) 「悪いがなドクオ、君の負けだよ。少々痛い目を見て貰うぞ」
クールが言い放つが早いか、深々と夜刀の刃が突き刺さって行き、
彼女の体に二つの衝撃が走った。
遅れて聞こえる、渇いた銃声。
ZIPから供給されるカコログ光によって、強化されたハンドガンの弾丸が二つ、
迎撃装置によって無力化されたツェリザカの銃撃に代わって、飛んできた。
- 153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:19:25.39 ID:53tV4jeA0
- クールの腹部と左肩に銃創が作られ、
血が滴って行き、彼女はバックステップをして次なる銃撃に備え、
ドクオもそれに合わせて後方に跳んだ。
ただし、射撃を行いやすいように、
彼女よりも遥かに遠い距離へと飛んでいく。
ツェリザカは何処かへ吹き飛んでしまったようで、
回収は行わずに、得物を持ちかえる。ツェリザカにも劣らない、高火力の銃器。
肩に掛けてあるフルオートショットガンAA12を右手で抜き、左に構えているハンドガンを納めて、
バックパックへ手を伸ばし、AA12の弾薬を取り出すと瞬時にリロードを行った。
その隙を、彼女が見逃すはずがない。
川 ゚ -゚) 「カコログ光集束。≪光刃≫展開開始」
左手に夜刀を持ちかえると、右手へとカコログ光が集まりだしてゆく。
眩しく輝く光は、一瞬を以って剣を形作くった。
光で出来た剣、光刃が左腕に展開し、クールは光と鉄の双刃を構える。
そのまま、光刃を突きの姿勢を取って、そのままドクオに向けて投擲。
光が空を切り裂いて飛んでゆき、鋭い音が刃となって耳へと襲いかかってくる。
彼がAA12を持つ腕を貫かんと、光刃は彼の目前へと迫るが、
しかし、軽く身を捻って避けられてしまい、
淡々と素早くリロードを行っていた彼は、たった今弾薬を詰め終えた。
- 155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:22:32.19 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「………」
彼は何の言葉も発さない。
だが、クールには彼が、こちらの番だ。と言っているように思えた。
ドクオは駆けだしてゆき、超人的なスピードで彼女へと迫ると、
太刀の攻撃か届くか届かぬかのギリギリな距離までやってくると駆け抜けていく足を止め、
AA12による連射撃を行っていった。
銃に込められたショットシェルが爆発し、ジョットガンの大口からは、
何百といった小さな弾丸が、群をなして吐き出され、クールへと飛来していく。
間合いは狭い。
至近距離からの、ショットガンが優位性を持つ距離からの射撃。
それが、繰り返し行われる。
轟音と轟音が連続して大気を震わせ、何百と言った数が放たれる小型弾丸は、
何千というほどにまで膨れ上がり、弾雨は嵐となってクールに襲いかかってきた。
彼女は、先ほど投擲した光刃を、
右腕にもう一度展開していき、顔の前で腕を交差させて庇う様にして、弾丸の嵐へと斬り込んでいく。
無論、強化骨格の防弾繊維ですらただではすまない。
光刃を発生させた今、迎撃装置を作動させることは出来ず、
自殺じみた、無謀な挑戦のように思える。
腕の防弾繊維が爆ぜ、彼女の黒い血液が噴き出してしまう。
- 156 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:24:33.84 ID:53tV4jeA0
- 広範囲に拡散した弾丸が腕をすり抜けていき、肩を抉る。
脇を掠め、足を打ち、体中に衝撃が襲いかかる。
だが、その程度で済むのは、一重に強化骨格の防弾性能の高さのおかげであると言えよう。
しかし、如何に防弾性能が高かろうと、ショットガンの猛攻を受けては、
そうそう無事で済むはずもない。現に、クールの体はボロボロとなっていっている。
それでも彼女は前進する。
人工筋肉と機械の運動器によって得た、超人的な脚力を用いて突貫してゆく。
狙うは、眼前の敵ただ一人。
川 ゚ -゚) 「おぉぉぉっ!」
クールが咆哮する。
ショットガンが轟かせる銃声に負けじと。
ショットシェルによって拡散される小型の弾丸に負けぬ、と。
彼女は、一歩を踏み込む。
間合いはほぼ零。
ドクオはクールの額へとショットガンを押し付け、
引き金へと指を掛けてゆき、引き倒す。
- 157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:26:45.70 ID:53tV4jeA0
- 広範囲に拡散した弾丸が腕をすり抜けていき、肩を抉る。
脇を掠め、足を打ち、体中に衝撃が襲いかかる。
だが、その程度で済むのは、一重に強化骨格の防弾性能の高さのおかげであると言えよう。
しかし、如何に防弾性能が高かろうと、ショットガンの猛攻を受けては、
そうそう無事で済むはずもない。現に、クールの体はボロボロとなっていっている。
それでも彼女は前進する。
人工筋肉と機械の運動器によって得た、超人的な脚力を用いて突貫してゆく。
狙うは、眼前の敵ただ一人。
川 ゚ -゚) 「おぉぉぉっ!」
クールが咆哮する。
ショットガンが轟かせる銃声に負けじと。
ショットシェルによって拡散される小型の弾丸に負けぬ、と。
彼女は、一歩を踏み込む。
間合いはほぼ零。
ドクオはクールの額へとショットガンを押し付け、
引き金へと指を掛けてゆき、引き倒す。
- 160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:30:22.10 ID:53tV4jeA0
- 直後、身震いさせられるような金切り音が鳴ったかと思うと、火花が飛び散って行く。
ドクオの頭上にはフルオートショットガン、AA12が舞い上がっており、
真っ二つに切り裂かれてしまっていた。
('A`) 「―――ッ!」
クールは左腕の太刀、夜刀を振るい上げており、
右腕の光刃がドクオに向けて一閃された。
が、彼に重傷を負わせるには至らず、驚異的な反応速度によって避けられてしまい、
強化外骨格の防護繊維のみを切り裂いただけだ。
ドクオ自身に負傷は無い。しかし、次に同じところを狙えば、
確実に重傷を負わせることが出来ることだろう。
捨て身の特攻を行っただけの、見返りはあった。
川 ゚ -゚) 「惜しいな。惜しい。後一息であったというのに。
後一息でこの私の顔を吹き飛ばせたと言うのにな。
だが、もう遅い。機会は失われてしまった。決着の機会を逃してしまった」
さて、クールはそう前置きをして、
川 ゚ -゚) 「掛かって来い。終わらせる気などは毛頭無い。呆れかえる程の争いの果てに、
むせ返るほどの血沼の奥に、凄惨たる屍の山の頂に、終わりはやってくるものだ。
掛かって来いよ。世界の広さを教えてやろう。さぁ、終わらせて見せろ」
涼しげに、余裕の表情で彼女は言うが、
その言葉とは裏腹に、身体は満身創痍である。
- 162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:45:18.67 ID:53tV4jeA0
- だが、その言葉通り、ドクオが掛かってきた。
左脇のホルスターから右手でコンバットナイフを抜き取り、
左手でバックパックから投げナイフを取り出して構え、
人工筋肉と彼の下半身の筋肉によって弾きだすことが出来る、
最大の跳躍速度を以って切り掛かってきた。
二つの刃はZIPによって赤い電流を帯び、強化される。
クールの強化骨格から発される、カコログ光に対抗する為に。
右のコンバットナイフが、クールの光刃と衝突し、
金属音が波紋を起こし、火花が散る。
クールは左手に構えている夜刀でドクオの左腕を切り落そうとするが、
彼はしゃがみこんで一閃をさけ、
立ち上がることによって生まれる慣性の力を利用して、
右腕のコンバットナイフで刺突を放つ。
光刃によってそれは防がれてしまうが、
ドクオは更に追撃。
後方へと大きく跳び上がったかと思うと、彼は投げナイフをクールへと向かって放つ。
放たれた刃は彼女の額を綺麗にとらえてはいるが、
次は夜刀の太く肉厚の刀身によって防がれてしまう。
やがて、空中からドクオは重力に従って落下してゆき、
クールはその隙を狙い、落下に合わせて防御の動きを取った夜刀を跳ね上げて、ドクオへと一閃する。
彼は、空中で身を捻るとその一閃を難なく避けてみせ、それどころか、
彼女の頭部へと踵落としを食らわせる。
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:55:48.18 ID:53tV4jeA0
- 衝撃を受けた彼女は、地面に叩きつけられてしまいそうになるが、
地面に夜刀を突き刺して杖のようにして堪えてみせた。
強力な衝撃ではあるが、人工皮膚が顔を覆っている為に傷はついていない。
続けて、ドクオは右手に残るコンバットナイフを、
彼女へと向けて袈裟掛けに振るう。
首を刈らんと刃が噛みついて行くが、再び光刃によって妨げられる。
クールが反撃を行う。
光刃はそのままに、左手の夜刀を下段から振り上げてドクオの胴体を狙う。
それを防ぐ術は彼にはなく、バックステップで避けるしかない。
後方へと軽く跳んだドクオは、クールの苛烈な追撃を受けることとなる。
彼女は光刃の切っ先をドクオの胴へと、先ほど強化外骨格の防護繊維を切り裂いた場所へと向け、
一歩を前に踏み込んで突きを放った。
咄嗟にドクオはコンバットナイフの腹で切っ先を受け止める。
が、次なる一撃が放たれる。先程下段から振り上げた夜刀を、彼女は翻し。
ドクオの右腕を切り裂かんと刃が迫り、彼は光刃からナイフを逸らすわけにもいかず、
しゃがみ込んでやり過ごそうとする。
- 170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 01:59:01.00 ID:53tV4jeA0
- しかし、姿勢を低くした彼の視界に映り、
目一杯に広がるものは、ゴムのような防護繊維に包まれたクールの膝であった。
('A`) 「―――ッ!」
ドクオの顔面へと、綺麗に膝蹴りが極まり、
彼は頭から後方へと吹き飛んでいく。
それもそのはずだ。ただの膝蹴りならまだしも、
強化骨格によって強化された身体を持つ、超人の膝蹴りが直撃したのだから。
ドクオは数メートルほど吹き飛んでいくと、
アスファルトの地面に受け身すらとれずに激突して、
数回バウンドし、やっとのことで地面の上に落下した。
クールは前進し、さらに追い打ちをかけていく。
ドクオへと接近し、光刃を放とうと右腕を振るう。
すると、彼女は体中を切り裂かれてしまう。
川 ゚ -゚) 「なに?」
訳も分からず、危険だと判断した自分の直感を頼りに、
彼女は背後へと跳ぼうとした。
だが、彼女の体が動くことはなく、
力づくに体を動かすと、強化骨格のあちこちに細く黒い切れ目が入った。
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:03:08.42 ID:53tV4jeA0
- 彼女には一目で理解出来た。この黒い物は自分の血液である、と。
しかし、それに気付くのは遅かったようだ。
彼女の身体が赤く輝きだし、身体中に熱が走り、息苦しさと痛みがこみ上げてくる。
電撃。
おそらく、ドクオの左胸にある突起物から流れ出ている、
赤いカコログ光のようなものから放出されているものであろう。
ドクオへと視線をやると、彼は片膝を突いて立ち上がっているところであった。
そして、手元を目をよく凝らしてみると、
強化外骨格の防護繊維から細い線が赤い電流を纏って伸びており、
それには黒い液体が滴っていた。
あれは、クールの身体の中を巡る人工血液だ。
クールはそれを見ると口を開く。
川;゚ -゚) 「ふっ、細く、視認が困難な鋼線か……
たしか、ハインが扱っていたな。これは面白い。楽しいぞドクオ。
良いセンスだ。良い隠し玉だ。その器用さこそが、君の“武器”だったな」
彼女は強がりのようにそう呟き、
電撃の苦しみに顔を顰める。
無理やりにでも身体を動かそうとするが、
身体中を縛り付けた鋼線によって、ぴくりとも動きはしなかった。
絶対絶命の状況。
だが、彼女の表情から読み取れる物は、余裕――であった。
- 174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:07:03.61 ID:53tV4jeA0
******
パースレ上空を飛ぶ輸送機の機内で、
白髪のアシンメトリーで左目を隠した、どこかガサツそうな雰囲気を持つ白衣の女性。
ハインリッヒが機械の画面を見ると、強化骨格の女性、
素直クールが何かに縛られたかのように動かなくなっており、体中を赤い電流が這いまわっていた。
从 ゚∀从 「そうだ。そこで負けておけ。そうすれば、誰も何かを失わずにすむ。
失った物を失ったままにしておける。捧げた物は返ってこない、戻らない。
奴は魂すらも捧げたんだ。この勝負、勝とうが負けようが、決着に意味はなくなる」
(`・ω・´) 「ハインリッヒ博士。被検体のナノマシンに、僅かな異常が見られます。
稼働限界が近づいています。やはり、急ぎ撤退させるべきかと――」
軍服を着た男が、ハインリッヒに忠告をしようとするが、
先の言葉を言い切る前に、ハインリッヒが言った。
从 ゚∀从 「いや、目前敵は全て排除だ。徹底的に、目につく奴は全て排除させろ。
それでこそのこの実験なのだから。それこそが奴の望みなのだからな」
- 175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:10:21.35 ID:53tV4jeA0
- (;`・ω・´) 「しかしっ! ナノマシンが故障でもしたら、せ――」
シャキン。と、軍服の男は名を呼ばれる。
从 −∀从 「いいか。戦いの本質ってのはな、何かを守るだの、何かを成し遂げるだの、
そんなたいそうな、ご立派な物なんかじゃあないんだよ」
彼女は呆れたかのように目を伏せて語る。
从 −∀从 「傷つける為、違う。生きる為、違う。金の為、違う。女を犯す為、違う。
そんな欲望に塗れた、下卑た物なんかでもないんだよ」
从 ゚∀从 「戦いの、争いの、戦争の本質。それは、己に成る為に――だ。
己を求め、己を証明し、己で有る為に人は戦うんだ。そうでなくては、人間は進めなくなる。
争うからこそ、他人を傷つけるからこそ、人は己を確立出来る」
目を見開くと、その眼には明るい光が宿っていた。
純粋な、ただ何かを究めていこうとする者の前進する為の糧となる光。
しかしその輝きは、非常に毒性の強い輝きだ。どこかで道を誤ったような、方向性を違えた純粋さ。
从#゚∀从 「貴様等のような俗物共と同じにするな。次はどこにあたしの技術の劣化版を流して金を作るつもりだ?
あたしらはただ、ただ純粋に戦うだけだ。力の頂を目指すだけ。究極の力を目指していくだけだ。
兵士として、戦士として、1人の人間として強くなっていく。貴様等職業軍人どもと、同類等と思うんじゃねーぞ!
分かったら二度と口を挟むんじゃねーよウォードッグ。犬は犬らしく飼われて居やがれ。勲章の星の数が多い奴らにな」
(;`・ω・´) 「はっ、了解しました……」
ハインリッヒの剣幕に思わずたじろいでしまい、
シャキンは命令で通りに口を閉じる。
- 177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:13:19.95 ID:53tV4jeA0
- 从 ゚∀从 「ドクオはなぁ。あいつは、哀れな奴だったよ。
VIPに入学した理由は『立派な兵士になる為』だったそうだ。いかにもガキらしい発想だ。
あいつは着々と力を付けていった。厳しい訓練にへこたれそうになりながらも、それなりに頑張ってきた」
从 ゚∀从 「成績は、はっきり言っちまえば落ちこぼれだ。だが、奴は銃火器の扱いには才能を持っていた。
その才能を頼りに、実戦訓練にもなんとか生き残ってきた。仲間達といっしょにな」
(`・ω・´) 「………」
从 ゚∀从 「でも、仲間は生き残らなかった。生き残って卒業できたのは、奴と2、3人の生徒だけだった。
仲間は殺された。敵国の兵士では無くて、同じ国の、VIPの仲間にな。
ある晩、VIPの寮で眠っていた生徒達が、同じ寮のある生徒に殺された。そいつの名はミルナ」
- 179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:17:21.70 ID:53tV4jeA0
- 从 ゚∀从 「ドクオはそいつと同じ寮の生徒だった。あいつはたまたま外出していて、その殺人現場に居合わせなかった。
だが、外出から戻ると、量の中はブラッドバスになっていた。ベッドの上で殺された多くの仲間を奴は見た。
それまで共に生き延びて、生活してきた仲間だ。だが、そいつらは同じ仲間に殺された。あいつも殺されかけた。
ドクオはミルナと戦い、生き延びた。ミルナの逃走によってあいつは生き延びたんだ」
その後、とハインリッヒは前置きし、
从 ゚∀从 「ドクオは必死に勉強した。必死に技を磨いた。ただ強く、ひたすらに強くあろうとした。
その先に自分が存在するような気がした。あいつはその先に悟った。
もっと力を付け、ミルナを殺さねばならないってな。仇を討ち、力の頂に立つ為に自分は存在するとな」
从 ゚∀从 「かくして奴は無事にVIPを卒業し、VIPPERの称号を得て、あたしの元にやって来たってわけだ。
あたしはドクオにクーとは別の力を与えた。とても不安定な物だが、
あいつ次第では強化外骨格無しにでも、強化骨格やAAを相手取ることが可能になるもの」
(`・ω・´) 「薬……ですね」
从 ゚∀从 「そうだ。薬を打ち続けてやった。するとドクオは、驚異的な反射神経と動体視力。
そして行動の先読みが可能となって行った。その反面、精神面に不安が残ったがな―――」
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:19:43.07 ID:53tV4jeA0
- ******
ニューソク国ニューソク軍南方基地。
夜の闇に紛れ、黒の≪装甲服≫に身を包んだ兵士達が、
そこを包囲し始めていた。
基地の兵士に気付かれぬよう、姿勢を低くして移動し、
各々の配置へと着いていく。
彼等が着ている装甲服の肩には、雄々しく翼を広げた、
鋭い瞳をした気高そうな鷹の紋章が描かれており、これはニューソクの国章だ。
基地を包囲している者達も、ニューソク軍の兵士であり、特殊部隊“強化兵士部隊”の兵士達だ。
その中に、一人だけ軍服を着た男が居た。
男はオリーブドラブの軍服の上に、防弾ベストを装着し、
ベストの上には両脇に二つずつ、上下にナイフとハンドガンがそれぞれ納められている。
髪は短く、耳元がすっきりとしているが、
前髪は眉にかかる程の長さに整えられている。
垂れ目がちの、眠たそうな瞳が、基地を見据えていた。
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:22:16.31 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「自国の軍に対しての攻撃……ね。粛清のためとはいえ、
こいつは明日のニュースが面倒そうだ。自軍の将官がクーデターを企てていた、か」
軍服の男が呟くと、
彼は、ドクオ、と背後から声を掛けられる。
川 ゚ -゚) 「こちらの戦力は、向こうに比べて三分の一ほどしかない。
だが、兵士達の質、装備の質、全てが私達のほうが上だ。
数の不利は、私達がなんとかするしかあるまい。前線を切り開いていくぞ」
防護繊維と、人工的に作られた筋肉が浮き上がっている、
ゴムにも似た繊維で作られたスーツで、首までを覆っているのは強化骨格スーツだ。
強化骨格を体に埋めた女、素直クールが、ドクオの背後から近づいてきた。
彼女の右手には、抜き身の太刀、機械剣No.08“夜刀”が握られている。
既に、クールは臨戦態勢へと入っているようであった。
('A`) 「何時でもいけます」
銃帯で肩から提げたアサルトライフルのグリップを握り、
軍服の男、ドクオは応えた。
- 186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:25:08.50 ID:53tV4jeA0
- よし、と彼女は言い、
川 ゚ -゚) 「では、各位に告ぐ。これより、我々はフォックス少将を討つ。
欲に塗れたキツネの額に弾丸を撃ち込んでやれ、残党など組ませるな。
我々の眼前に立つ者は全てが敵で、全てが反乱者だ」
川 ゚ -゚) 「さぁ、戦いに行こうじゃないか。戦いに行こう。
オペレーション、“キツネ狩り”を開始する。進撃せよ」
クールは体内のナノマシンによる無線通信、≪体内通信≫を行い、
彼女の声は一言一句漏らさず兵士達へと届いて行った。
基地を包囲した、装甲服を着た兵士達が同時に進んでいく。
彼等の先を、ドクオとクールは駆け抜けて行った――
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:28:16.80 ID:53tV4jeA0
- ******
基地内に、銃声が木霊していく。
強化兵士部隊の兵士達の手際は、実に鮮やかなものであった
グレネードやロケットランチャーなどの重火力兵器を効果的に用いて、
討って出てきた兵士達を排していき、素早く基地内へ進撃していったのだ。
狭い室内戦へと追いやられた、彼らよりも数で勝るフォックスの兵士達は、
その数を活かせず、戦況は強化兵士部隊の優位であった。
装甲服を着た兵士達は、フォックスが居る筈の司令室へと向かって突き進む。
その先頭を、ドクオとクールは切っていた。
クールが強化骨格の俊敏さと頑強さを活かして切り込んでいき、
ドクオがその後に続いて支援射撃をする、といった具合だ。
彼等はL字の通路を進んでいると、前方の曲がり角から、
敵兵士達が飛び出してきた。数は4人。
兵士達がアサルトライフルの引き金を引き絞ると、
鋼鉄の弾丸が、ドクオとクールへと殺到していった。
すると、クールは鞭の如く夜刀の刃を左右へとしならせ、
剣が描いた軌跡の上に、火花が咲いた。
連続して放たれる弾丸は、連続して太刀の刃によって往なされていく。
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 02:33:10.22 ID:53tV4jeA0
- そして彼女は、前方の4人の兵士へと向けて駆けだして行った。
兵士達は彼女が目前まで近づいてくると、曲がり角へと逃げていこうとするが、
壁へと逃れようと、先頭を切っていた兵士の頭が、
ドクオの射撃によって砕かれ、倒れていく。
クールは、目の前の兵士を切り捨てた。
次いで、その隣にいた兵士に向けて袈裟掛けに夜刀を振り抜く。
繊維質を断ち切る音と共に、肩から斜めに切り裂かれ、肉塊となった兵士が倒れる。
奥に居た兵士が、クールへと向けて発砲。
引き金を引き絞り、弾丸が連続して放たれる。
が、彼女は身を捻る動きと、太刀によってそれをいなすことで避けた。
ク−ルが夜刀の切っ先を兵士へと向け、突きを放つ。
兵士は刃の軌道を予測し、体を右へと軽く揺らし、
ひょい、と避けてみせ、そのまま曲がり角の奥へと進んでいき、
扉を開いて逃げた。
クールは兵士を追撃し、ドクオは急いで彼女へと付いていく。
開かれた扉へと進んでいくと、広い空間に出た。
すると、先ほどの兵士がその中央に突き立っており、
クールとドクオを見やると、ヘルメットを放り捨てた。
- 193 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:01:25.68 ID:53tV4jeA0
- (゚A`) 「お前はっ……!」
ドクオが息を飲み込む。彼の瞳には、驚きの色が浮かんでいた。
( ゚д゚ ) 「久しぶりだな……楽しみにしていたぞ。
お前はどうかな? お前はどうだろう。楽しみにしていてくれたかな?」
挑発するように兵士が言う。
ヘルメットを脱いだことによって、彼の顔が露わとなる。
髪を短く刈った、眼光の鋭い、三白眼の男。
(#゚A゚) 「ミルナァァァァァァっ!!」
ドクオが、その男の名を叫ぶ。
アサルトライフルの銃口をミルナへと向け、引き金を引き絞る。
フルオートで射撃が行われ、弾丸が連射される。
( ゚д゚ ) 「楽しみにしてくれていたようだねぇ」
ミルナは高く後方へと跳んでいき、
クール達が目指す、司令室とは正反対の方向へと駆け出し、
倉庫へと逃げ込んでいく。
- 195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:05:23.25 ID:53tV4jeA0
- (#゚A゚) 「逃すかぁぁぁっ! 逃がさねぇっ! 殺す! 殺してやるよ!
ぶっ殺す! ぶち殺す! 殺す! 殺す! 殺すっ! 殺すぅっ!!」
ドクオが怒声をあげる。気が狂ったかのように咆哮し、
瞳は鋭く切れ上がり、狂気が浮き彫りとなる。
川 ゚ -゚) 「落ち着け、ドクオ」
クールがドクオに静止の言葉を掛けるが、彼はミルナを追いかけていき、
目標である、フォックスがいるはずの司令室とは関係のない、
倉庫へと向かうことに、何のためらいも見せ無かった。
ドクオは任務を捨て、私情に走ってしまったのだ。
それほどまでの激情に飲み込まれた彼は、危険だ。
川 ゚ -゚) 「ドクオ、構うな! 司令室へと向かうぞ、戻って来い!」
クールがドクオを呼びとめようとするが、彼が止まる気配はない。
川 ゚ -゚) 「まあいい。私は私で任務を果たす。何故君が、任務に忠実な君が、
そこまでの怒りに駆られるのかは分からないが。私は任務を果たす」
川 ゚ -゚) 「死ぬなよ。それだけは許さんぞ。絶対に許さん。絶対に死ぬんじゃないぞ」
彼女は、倉庫へと向かっていくドクオを尻目に、
フォックスがいるはずの司令室へと向かった。
- 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:09:40.43 ID:53tV4jeA0
- ******
戦車や装甲車、そして、二足歩行戦車AAが数多く並ぶ倉庫の中。
ミルナはドクオを待ち構えていた。
彼は銃も持たずに、ナイフを右手に持ち、
仁王立ちをしている。
( ゚д゚ ) 「よお、来たか。殺し殺される為に来たか。
殺す為に殺して来たか。殺される為に殺しに来たか」
('A`) 「黙ってろ、殺されるのはお前だ。殺すのが俺だ」
('A`) 「技を磨いてきた。身体を鍛えてきた。返り血を浴びてきた。
数多くの戦場を抜けてきた。力を付け、強くなろうと、そうあろうとしてきた」
('A`) 「この時の為に。お前を殺すその一瞬の為に。それこそが俺の理由だ。俺の今までの全てだ。
その価値を見出してやる。お前を殺して、仇を討った―――その先にっ!!」
ドクオがアサルトライフルを放ち、ミルナが身を低くしてドクオへと接近。
ミルナの肩を弾丸が数発掠め、血が撥ね散るが気にも留めない。
彼はドクオの目前まで近づくことに成功し、右足を振り上げてアサルトライフルを蹴り上げた。
そのまま左足をくるりと独楽のように回転させ、右腕のナイフがドクオの頬を掠め取る。
赤い線が彼の頬に走るが、ドクオは気にも留めずにバックステップを行い、
左胸のホルスターへと右手を伸ばし、ナイフを抜く。
- 199 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:13:36.27 ID:53tV4jeA0
- ( ゚д゚ ) 「戯言なんていらねぇ。楽しもうぜ。所詮俺達は、
大義名分の免罪符を持った殺し屋にすぎない。
何を言おうとこれだけは変えられやしない。何より――殺し合いは楽しい」
ナイフの抜刀と同時に、ナイフをミルナへと一閃。
ミルナは刃を返して、それを盾のように構えて一閃を受ける。
刀身に火花が舞い散り、金属音が倉庫内へ木霊していく。
構えた刃を、ミルナは刺突の構えへと変え、
突きをドクオの胸へと放つ。ナイフの切っ先が狙うのは左胸。
心臓を狙った、必殺の一撃だ。
しかし、彼は冷静だ。
肉を打つ打撃音が響く。空いた左腕で、
左胸へとナイフを伸ばしてくるミルナの右腕を弾いたのだ。
ミルナのナイフは、ドクオの左脇へと突き進むが、
虚空を裂くだけに止まり、反撃を受けてしまう。
再び、打撃音。
ドクオの右の膝が、ミルナの腹に炸裂した。
(;゚д゚ ) 「ガハッ!」
腹に強烈な衝撃を浴び、唾液が口へと込み上げて吐き出される。
痛みに眉を顰め、体がくの字に折れ曲がっていく。
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:17:50.25 ID:53tV4jeA0
- 一閃が外れたことにより、
あらぬ方向を向いているナイフの刃を返して、再び一閃。
だが、それは空へと向けて振るわれて終わる。
ミルナがしゃがみ込み、ドクオの足を回し蹴りのようにして払ったのだ。
彼は地面へと仰向けに倒れ、ミルナはドクオの腹部を勢いよく踏みつける。
軍靴が彼の腹に喰らいつき、胃液が逆流してゆき、吐き出される
ミルナは踏みつけた足で、ドクオの腹を踏み台として跳躍。
後方へ跳んだミルナは、ナイフを構え直し、
ドクオの次の動きに備え、迎撃の姿勢をとる。
腹を踏みつけられたダメージなど微塵も見せずに、ドクオは立ち上がる。
そのまま一歩を踏み出し、斬りかかって行く。
( ゚д゚ ) 「そうだ。それでいい!」
ミルナの叫びが、ナイフ同士の金属音と共に倉庫へと響いていく。
そして、ドクオは防がれた刃をそのまま垂直に構え、
切っ先をミルナの喉元へと向ける。
突きの構え。
ドクオは刺突を放ち、さらに空いた左腕で、
ホルスターのもう一つのナイフを抜刀し、斬撃をミルナに喰らわせた。
- 203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:20:11.68 ID:53tV4jeA0
- 刺突をナイフで防いだミルナだが、もう一方の攻撃は避けられない。
防御の姿勢を取っていた彼の右腕は、左のナイフによって、
赤く巨大な線が刻まれていく。
続けて、ドクオは両の手のナイフで刺突の構えを取り、
切っ先をミルナへと向けて突きだす。
最速で、連続して刺突を放っていく。
その連撃に、ミルナは辛うじて対処する。
肩へと向けて放たれる刺突をナイフで防ぎ、脇へと放たれる刺突を身を捻って避け、
腹へと放たれる刺突はナイフの腹で受け、顔へと放たれる刺突は首を曲げて、辛うじて避ける。
ナイフとナイフとナイフの攻防は、金属音と火花の連続して散って行き、
ドクオとミルナの額からは、汗が噴き出していた。
だが、彼等の顔は苦しみも疲れも見せずに、笑みを浮かべている。
両者とも、非常に楽しそうな顔をしていた。
まるで、子供同士のちゃんばらのようだ。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:23:32.01 ID:53tV4jeA0
- 二人の子供は笑みを浮かべている。
戦いに没頭する、戦闘狂の笑みを浮かべている。
狂気に染まった戦争中毒者の笑みを。
金属音が、美しい音楽のように奏でられる。
連続して続く攻撃と防御。飽くなく続く攻撃。
決して崩れぬ、鉄壁の防御。
終わらない戦い。
二人の男の長い長い戦争。
終わらせられない戦いだ。
どちらも退けぬ戦いだ。
- 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:26:07.48 ID:53tV4jeA0
- ドクオが左のナイフを一閃し、ミルナがナイフの腹でそれを受ける。
金属音が鳴り響き、終わりの前触れが訪れる。
ミルナのナイフが幾多もの打ち合いを続けたことによって熱を帯び、
脆くなって罅が入ってしまっていたのだ。
そして、先ほどの一閃を受けた事によって、呆気なく崩れ去ってゆく。
( ゚д゚ ) 「ッ!」
(#'A`) 「おおぉぉぉっ!!」
その隙を逃すほど、ドクオは未熟では無い。
VIPにいたころのドクオほど、甘くはない。
右手のナイフの切っ先が、ミルナの左胸へと吸い込まれるように空を切り裂いていった。
(;゚д゚ ) 「フフ、これが俺の終わりか。これが俺達の決着か。
呆気の無い物だ。やはり殺しは殺しにすぎない。たとえお前が英雄で、
たとえ俺がどこかの国の独裁者であろうとも、決着とはこんなものでしかない」
(;'A`) 「あぁ、俺達はただの人殺しだ。
その中でも、それを楽しむ部類の奴らだってんだから、なおさらタチが悪い」
ドクオが、ミルナの心臓を突き刺したナイフから手を放し、
その場へとへたり込む。身体を縛り付けていた緊張が解けてゆき、力が抜けていく。
( ゚д゚ ) 「お前はどこまで殺すつもりだ……どこまで楽しむつもりだ…?
力の頂はどこにあるというんだ……お前はどこまで戦わねば……ならぬ?」
ミルナが苦しそうに問う。
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:30:13.86 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「地獄まで、だ」
ドクオは、一切の躊躇すら見せずに即答した。
その瞳には、己の宿敵であり、仇であった男が映っている。
男の、最後の様が。
ドクオの答えを聞き、ミルナは笑った。
( ー ) 「ハハハ、地獄……か。数々の地獄を切り抜けてきたお前が、地獄で終わるのか。
そいつは面白い。愉快な答えだ。なら……俺は先に…待っている。なるべく遅く……やってくると…いぃ」
ミルナは口の端を吊り上げ、笑みを作って事切れる。
( A ) 「ブーン……ギコ…つー…ジョルジュ……エクスト…
ショボン…ツン…しぃ……フサ…仇……討ったぞ……俺」
( A ) 「俺は強くなった……あの、VIPPER候補と言われたミルナを倒すまでに…
VIPPERとなり、毎日筋トレや射撃訓練をして……人体実験の投薬まで受けて…」
( A ) 「俺はまだ……強くなるよ。まだまだ強くなる。全てを捧げてでも、強くなる。
いつかそこへ行くよ。お前達と同じ場所へ行く。死んでこそ……人は英雄と成れる。
伝説と成れる。それで、俺の求める力は手に入る。死人と生者は比べられないからね」
ドクオは何処かにいる彼等へと、呪詛のように呟くと、
仰向けになって倒れ、目を瞑る。
- 209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:34:37.84 ID:53tV4jeA0
- 直後、起動音が聞こえ、巨大な足音が地に響いた。
(゚A゚) 「ッ!」
ドクオは目を見開くと、彼の目の前に巨大な機械的な4つ足蜘蛛がいた。
彼は、こんな機体を見たことは無い。恐らくは、新型の歩行戦車“AA”だ。
二脚から四脚へと足の数を増やして安定感を増したことにより、
巨大な大型ミサイルなどを装備することを可能とさせるつもりなのだろう。
その機体は、外部スピーカーから老成された男の声を響かせる。
爪'ー`) 「どうだVIPPER! 貴様の臨む決着は訪れたか!? 哀れな戦争の申し子よ!
貴様のような、貴様らのような規格外の存在は、ニューソクには不要なのだ。
ましてや、軍隊には貴様等のような力に溺れた者達はいらん。戦争狂どもはいらん」
- 212 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:44:31.28 ID:53tV4jeA0
- 爪'ー`) 「地獄へ落ちろウォードッグっ!!」
フォックスはそう吐き捨て、新型AAが右前足を上げ、
ドクオを踏みつぶさんとする。
ドクオは必死にその場から離れようとするが、
先程の戦いで疲弊しきった体は、言うことを聞いてはくれない。
(;゚A`) 「ッ!」
腹筋を用いて、起き上がろうとするが、
身体中の筋肉がふるふると振るえ、動きが遅い。
そのまま寝返りを打つようにして転がろうとするが、駄目だ。
既にドクオまで2メートルほどの距離に足は迫っており、
彼は踏みつぶされてしまった。
- 214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:48:08.29 ID:53tV4jeA0
- そう思われたが、AAの足はドクオとの距離を、
約2メートル以上縮められていない。
爪;゚ー`) 「貴様は! 『強化骨格』! 『機人』 素直クールっ!! 」
川 ゚ -゚) 「フォックスめ。ここに居たか貴様」
クールがAAの足を受け止めている、という、
信じられない光景がドクオの目の前には広がっていた。
(゚A`) 「クーさんっ!」
川 ゚ -゚) 「肝心なところで役に立たんな君は。
まぁいい、互いにカバーし合うと言うのが相棒という物だ。そこで見ていろ、ドクオ!」
クールはそう叫ぶと、AAの足が数メートルほどまで浮き上がっていき、
彼女は腰に回した皮ベルトに差している鞘から、太刀を抜いた。
機械剣No.08“夜刀”による、抜刀術。
居合による一閃。
金切り音が倉庫の中にけたたましく響きわたり、
真っ二つとなったAAの足が地面へと激突し、鉄の粉塵を撒き散らす。
4つ足のAAはバランスを辛うじて保ってはいるが、
機動力を大きく削がれてしまい、歩くこともままならない。
が、このままクールに倒されるのを待つわけにもいかず、各所に装備された機関銃で応戦した。
- 217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:51:54.10 ID:53tV4jeA0
- 彼女は迫りくる弾丸を肩を逸らして避け、
3つ足となったAAの頭上へと跳びあがっていく。
対空砲が放たれるが、クールは空中で身を捻って避ける。
次いで機関砲が放たれ、彼女は夜刀によってそれを弾く。
金属音が響き、火花が散って雨となって降り注ぐ。
爪#゚ー`) 「くそっ! くそっ! くそぉぉぉっ!」
攻撃が無力化されていくことによって、フォックスは憤る。
熱くなれば熱くなるほどに照準はずれていくのだが、彼は冷静になれず、そんなことにも気づけない。
やがて、クールはAAのコックピットへと向かって落下していき、
爪#'ー`)y‐ 「私が! 私がこれしきのことで! 私は少将だ! ここまで上り詰めて来たのだ!!
数多くの敵兵を葬って来たのだ! 有象無象を蹴散らしてきた! 貴様もその一人となるのだっ!」
彼女はコックピットへと向けて、夜刀を投げつけた。
切っ先は空気抵抗を物ともせずにコックピットへと飛来し、
銃声の鳴り響く倉庫内に、大きな金属音を鳴り響かせた。
- 219 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:55:21.47 ID:53tV4jeA0
- 「ごぉっ」
AAの外部スピーカーが、己の務めを果たし、
フォックスの断末魔の悲鳴をドクオとクールに伝える。
クールはコックピットへと着地し、突き刺さった太刀を抜くと、
宙へと向けて刃を振るい、赤く染まった刀身の血を振るい落とす。
赤い飛沫が宙へと舞ってゆく。
川 ゚ -゚) 「任務完了だな」
彼女はAAの上でそう呟き、体内通信で全ての味方兵士へと撤退命令を告げた。
AAから飛び降り、ドクオへと近づいていく。
川 ゚ -゚) 「帰ろう」
短く言葉を発し、横たわる彼の肩を自分の肩に乗せた。
(;'A`) 「ホント、決着ってのは呆気ねぇな」
- 222 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:00:10.07 ID:53tV4jeA0
- ******
翌日、ハインリッヒの研究所の一室。
上半身が裸となっているドクオと、白衣を着たハインリッヒが居た。
ドクオはパイプイスに座り、目を瞑っている。
从 ゚∀从 「どうした? 注射が怖いとか、今更そういうのは無しだぜ」
ハインリッヒはそう言うと、右手に持った注射器を弄ぶ。
目を瞑ったドクオは、違う、と否定の言葉で返す。
(−A−) 「ついにミルナを殺した。念願だったことがやっと叶った。
ここに来た理由をやっと果たせた。そう思うと、何だか全部がどうでもよく思えてきてね」
達成感の後に来る倦怠感。
それは、目標が大きければ大きい程に、
後から来るそれも大きな物だ。
从 ゚∀从 「ダラしないねぇー。今のお前にこいつを打っても大丈夫か、不安になってくるぜ」
ハインリッヒが今、ドクオに打とうとしているものは、
身体能力や反応速度などを引き上げる物だ。
副作用として、精神が不安定なものになってしまうことがある。
- 221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 03:58:10.90 ID:53tV4jeA0
(−A−) 「さぁ、ね。アンタに任せるよ、ドクター」
ドクオは、からかう様にそう言うと、身体に痛みを感じた。
何かに貫かれ、自分の中に異物が入り込む痛み。
目を閉じていた彼には分らないが、どうやら、例の注射を刺されたようだ。
从 ゚∀从 「まっ、大丈夫だろう。不安定になっても、テメーの左腕に傷が増えるだけだろうしな。
暴れた時は……アタシかクーが止めるだろうよ。それに、ここに居る兵士どもも弱くは、無い」
ドクオの左腕、淡く桃色に染まっている線がいくつもあるそこを一瞥する。
彼がナイフで自らの左腕を刻みつけ、自分の狂気を痛みによって鎮めた証しだ。
('A`) 「何も起こらない事を祈るよ。まっ、今日は出撃もなさそうだし、昼飯でも食ってくるよ」
ドクオは目を開き、パイプイスからひょい、と離れ、部屋を出て行った。
从 ゚∀从 「祈る……ねぇ。神も悪魔もいない戦場で育った男が、よく言う」
- 225 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:04:50.52 ID:53tV4jeA0
- ******
ドクオは食堂で新メニューである『そば カルボナーラ風』を購入すると、
強化骨格の整備室、クールの部屋へとやって来た。
川 ゚ -゚) 「よう、体の具合はどうだ? へたれ君」
('A`) 「いや、昨日のは俺の体力が無いとかそういうんじゃなくて、
俺だけ装甲服が配給されていないのが問題だったと思うんですよ」
そば、カルボナーラ風と言った奇妙な物体を、
ドクオは箸で摘まみ、啜っていく。
川 ゚ -゚) 「若い者が道具に頼るんじゃない。若いうちに運動はしておくものだぞ」
('A`) 「充分やってますって。外で遊ばない子供に注意するみたいに言わないで下さいよ」
川 ゚ -゚) 「それもそうだな。あぁ、いい事を思いついた」
('A`) 「何ですか?」
川 ゚ -゚) 「君も強化骨格にすれば良い。疲れないし、ハイパワーだし、良いこと尽くめだぞ。
強化骨格にすれば、邪魔する奴は指先一つでダウンさ」
('A`) 「嫌ですって、俺は世紀末救世主になるつもりなんてないっすよ。
生身の限界に挑戦する――ってのが、俺が携わってる計画のコンセプトらしいですし」
- 227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:07:31.38 ID:53tV4jeA0
- 川 ゚ -゚) 「むぅ、そうか。便利なのに。冬とか、カコログの稼働率を上げたら暖かいんだぞ」
('∀`) 「熱いハートの体内ヒーターってか」
ドクオは笑みを浮かべて、そばを啜る。
川 ゚ -゚) 「なぁ、それ美味いのか?」
('A`) 「ん?」
川 ゚ -゚) 「それだよ、その……それだ。何なんだそれは?」
ドクオが食べている、この変わったそばの事を知らないクールには、
当てずっぽうにそばとも言えずにただ、それ、とだけ呼んで疑問を投げかける。
('A`) 「あぁ、これですか」
ドクオは丼の中に入っている、白く濁っためんつゆと、
灰色の細麺に視線を移した。
傍から見れば、牛乳にそばの面を突っ込んでいるようにも見える。
見れば見るほど、奇妙な一品だ。
('A`) 「正直に言うと不味い」
彼は、容赦なくこのそばに酷評を下した。
- 229 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:11:32.60 ID:53tV4jeA0
- 川 ゚ -゚) 「なら、どうして頼んだんだ? 私は、見ただけで買う気が失せるぞ」
('A`) 「いや、不味そうですけど、不味かったけど。
新商品って、何かつい買っちゃうモンじゃないですか?」
川 ゚ -゚) 「あぁ……そういう奴もいるな」
('A`) 「俺、どうしても買っちゃうんですよね〜。
『エビ天ぷら“フライ風”』とか、まんまエビフライでしたけど……」
川 ゚ -゚) 「変なものを出すな……買う君も君だが…」
クールがそう言うと、一拍の間が開き、
そういえば、と彼女が続けた。
川 ゚ -゚) 「私がVIPに在籍していたころの同輩に、でぃという奴が居てな。
あの娘の作る料理は、何でも美味かったよ。『豆腐ハンバーガー“湯豆腐風”』とか、
変わった物を作ってたまに失敗していたが……同じ女として、羨ましいものだった」
ドクオが、へぇと言って、そばを啜る。
川 ゚ -゚) 「憧れ、私も料理を学んだものだ。VIPで、必死に生き残ってゆき、必死に学ぶ。
その中で、私にとっての大きな娯楽となったよ。料理の雑誌とか読んでな」
- 231 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:14:06.46 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「そんじゃ、かなり上手くなったんじゃないですか?」
川 ゚ -゚) 「いや、私には難しかったよ。でぃは本の通りにやれば、誰でも上手く出来ると言っていたが、
私は少々ガサツなとこがあってね。焼き上がっているかどうか、その見極めも私には難しかったな」
川 ゚ -゚) 「旨くも無いが、不味くもない。そんなとこだ。
結局、食べられればそれでいい、と思って諦めたがね」
('A`) 「止めたんですか……今も料理はするんですか?」
川 ゚ -゚) 「いや、強化骨格を埋め込んだ時、舌なども換装したので、
あいにく味覚を失ってしまってね。それ以外の感覚器は鋭くなったがな」
川 ゚ -゚) 「味覚が無ければ、美味いも不味いも分からない。
失った物は、捧げた代償は大きかったな。私の今の趣味と言ったら、読書だけだな」
('A`) 「そうですか。俺はちょっと興味ありましたね、クーさんの料理。
俺はVIPに居た時、レーション以外食ってませんでしたから」
ドクオはそばを平らげた後にそう言い、
('A`) 「そんじゃ、また後で」
空となった丼を持って、食堂へと片付けに向かった。
川 ゚ ー゚) 「フフ、そう言う奴もいたな。君みたいな奴も。
その反動で、どんなゲテモノでも食らうのか、君は」
クールはとても愉快そうに微笑んだ。
- 233 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:18:42.41 ID:53tV4jeA0
- ******
食堂へ向かう途中の通路で、ドクオは倒れてしまう。
(# A ) 「フー、フー、フー……クソ。クソ! クソ!!」
彼の息は荒く、肩を上下させて悪態を吐く。
怒りが、込み上げてくる。
胸の奥に秘めた感情が、漏れ出してくる。
抱えていた不安が揺り動かされる。
ハインリッヒがドクオに与えた薬が効いているのだ。
その反面、副作用も現れてきてしまっている。
ドクオという男は、元から心の弱い人物であった。
VIPで訓練を受けることも、実戦へと出ていくことも、
彼には、他の生徒達よりも大きな苦痛に感じられた。
胸の内に溜まって行く不安と恐怖。そして、憤り。
それらは、彼のかつての仲間によって、
辛うじて緩和されていたのだ。
- 235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:22:14.13 ID:53tV4jeA0
- だが、ミルナの暴走によって、彼を正気にさせていた物が全て崩れ去った。
彼が築いた物は非常に脆く、砂上に成り立っていたのだ。
彼は、力を求めた。
心を安らげてくれるよりも、自分を高めてくれる物を。
それは結果的には、上手くいった。
VIPで生き残り、VIPPERとして優秀な成績を収めて卒業する。
といった、結果だけを見れば。
だが、彼の心の問題を解決するには至らない。
自分の弱い部分に目をそむけ、
強がって生きてきた結果が、これだ。
(# A ) 「ちくしょう、ちくしょう! クソがクソがクソがぁっ!」
ドクオは頭をかき乱し、感情の渦を止めようとする。
頬肉に爪が食い込んでいくほどに力を込めて手で引っ掻く。
兵士が2人、そんなドクオを見付けた。
「おい! ドクオ、大丈夫か!? 薬の副作用だ。ハインリッヒ博士を呼べ」
一人の兵士が言い、もう一人がハインリッヒに体内通信を使って連絡を取る。
ドクオに話しかけた兵士が、彼を落ちつけようと、
背中に手を置いて摩ろうとするが。
今の彼の背に、手を回すというのは自殺行為である。
- 238 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:27:07.10 ID:53tV4jeA0
- (# A ) 「ッ!」
「あぁぁっ! いてててててっ!」
背へと伸ばされた手は、瞬く間に捻り上げられ、
抵抗する間もなく、兵士は地面とキスを交わすこととなった。
「おいっ! 落ち着けドクオ!!」
もう一人の兵士が通信を終えて叫ぶと、
両手を手の後ろに組んでドクオを諌めようとする。
今の彼に、攻撃につながる動きを取ってはいけない。
銃でも向けようものなら、素手で殺されてしまいかねないのだ。
だから、ここは徹底的に相手に降伏するような動きを取るべきだ、と兵士はそう判断する。
しかし、その判断も無駄だったようだ。
素早い動きでドクオは彼へと近づいていき、
目にも留まらぬ速さでナイフを奪い取り、兵士の首を刈り取った。
「テメーっ!!」
地面に這いつくばっていた兵士が起き上がり、
ドクオにサブマシンガンを向けて、引き金へと指を掛けるが、
指は何も無い空間を掻いてしまう。
- 240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:30:19.89 ID:53tV4jeA0
- 兵士の額には、ドクオが先程奪ったナイフが突き刺さっていた。
ドクオがナイフを抜き取ると、塞がってたものが取り除かれたことにより、
夥しいまでの血液が溢れ出してくる。
(#゚A゚) 「殺す! 殺すっ! 殺すぅっ!!」
ドクオが鋭い目つきに変わり、叫び声を上げる。
すると、彼の背後からゴムのような防護繊維に、
首までを覆われた、強化骨格を着た女性が現れた。
川 ゚ -゚) 「ドクオ……」
素直クールだ。
彼女は猛り狂うドクオを見て、唖然とする。
先程まで、何も異常はなかったというのに――
(#゚A゚) 「――ッ!」
彼女の呟きに気付いたのか、ドクオが彼女へと振り向く。
昼食を取っていた時とは打って変わって、
鋭利な視線を浴びせかけてくる。
殺意を含んだ視線だ――
- 242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:32:51.68 ID:53tV4jeA0
- ドクオはクールへと斬りかかり、ナイフの刃は彼女の首を捉える。
だが、彼女の首を覆う防護繊維が、刃を止める。
(#゚A゚) 「あぁぁぁぁっ!」
ドクオが獣の如き咆哮を上げて、足を跳ね上げてクールの腹へと蹴りを入れる。
防護繊維が衝撃を吸収するが、収まり切らない衝撃が彼女を襲い、怯んでしまう。
次いで、ドクオは一瞬にして何十といった斬撃を彼女に浴びせた。
彼女の体中に多くの火花が散って行き、
強化骨格に黒く焼け焦げた斬撃の跡が残る。
川 ゚ -゚) 「……もうやめろ。正気に戻れ! こんなことをしても無駄だっ!」
だが、彼女は痛みを感じている素振りは無く、
ドクオを制止させる言葉を投げかける。
(#゚A゚) 「でぇぇぇぇぇっ!!」
身体を大きく逸らして力を込めて、突きの構えを取る。
一瞬の静寂が訪れ、力が最高潮にまで溜められると、最速の一撃を放つ。
今までの一撃も充分に速かったが、この一撃には、
ドクオが19年もの歳月を掛けて磨き上げてきた、
ナイフ戦闘の技術の全てが詰まっていた。
金属音が鳴り響き、一際大きな火花が散る。
- 244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:37:47.01 ID:53tV4jeA0
- (#゚A゚) 「―――ッ!」
最速の、最高の一撃。
しかし、ナイフは、ドクオの全力を以って放たれる一撃に耐えきれず、
砕け散ってしまった。刃の無いナイフがクールへと向けられる。
川 - ) 「……すまんっ!」
川 ゚ -゚) 「強化骨格稼働率100%での稼働開始。
リミッター弐号解除。カコログ稼働率50%での稼働開始」
クールが呪文のように呟くと、彼女の周囲に光が漂う。
強化骨格の迎撃装置が作動したのだ。
迎撃装置が光を放ち、ドクオが構える刃の無いナイフを弾き飛ばした。
だが、彼が怯むことはない。
それしきのことで、彼の闘志は治まっていない。
彼の狂気は止まらない。
(#゚A゚) 「おぉぉぉぉっ!」
ドクオは、クールへと殴り掛かる。
だが、今までとは違い、力任せのがむしゃらな動きだ。
- 246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:41:03.79 ID:53tV4jeA0
- クールはそれを簡単に見切ってみせた。
川 ゚ -゚) 「ッ!」
彼女は身を屈め、ドクオの伸ばされた腕に自分の腕を絡め、
彼の拳の勢いを利用し、彼女が彼を背負う様にして投げ飛ばした。
ドクオは宙に浮き上がり、壁へと背から激突する。
( A ) 「ッ!」
背中から腹へと衝撃が突きぬけて、胃が揺さぶられる。
地面へと壁からずり落ちて行き、アスファルトに衝突する。
寸でのところで、ドクオは右手を突いて受け身を取り、体勢を立て直す。
片膝をついて立ち上がり、
眼前にはクールが迫っていた。
ドクオはクールに羽交い絞めにされ、首を締め付けられる。
(#゚A`) 「ぐぅぅ……」
嗚咽を漏らしながら、ドクオは逃れようと必死に足掻く。
しかし、クールの体に埋め込まれた強化骨格の運動器には、
生身のドクオでは敵いそうにない。
川 ゚ -゚) 「このまま締め落とすのは容易いが、このまま殺すのは忍びない!
ドクオ、落ち着け。心を律するほど容易いことが、君に出来ないはずがない」
- 248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:44:11.89 ID:53tV4jeA0
- 「これを使え」
クールの背後から声が聞こえたかと思うと、
彼女の眼前に注射器が飛び込んできた。
クールは咄嗟に手を伸ばしてそれを掴み取り、
ドクオの首筋――頸動脈へと突き刺して薬を注入する。
数秒後、彼の体から力が抜けて行った。その場でドクオは膝を附く。
個体から液体に変わってしまったかのように力が抜けてしまっており、
拘束を解くと倒れてしまいそうだ。
彼が気を失うが早いか、背後から注射器を渡した者の声が聞こえてきた。
从 ゚∀从 「お疲れさん――殺す気だったのか?」
- 251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 04:59:21.19 ID:53tV4jeA0
- 労いの言葉と、鋭い疑問を投げかけたのはハインリッヒだ。
何時も通りの白衣を身につけ、何時も通り、
何事も無かったかのような佇まいだ。
川 ゚ -゚) 「いや、気を失わせるつもりだった」
从 ゚∀从 「首を締めておいてよく言うね。あたしなら、ぶん殴ってたよ。
もっとも、あんたに殴られて生きていられる、生身の奴なんていないだろうけどよ」
川 ゚ -゚) 「………」
从 ゚∀从 「こいつは医療室に連れてくよ。しばらく安静にさせないとな。
じっとしていられるほど、可愛い奴じゃあないだろうがね。一応、体面上は」
ハインリッヒがドクオを肩に、ひょい、と軽々と持ち上げる。
クールは何も言わずに、ハインリッヒ医療室へ向かうハインリッヒを見届けた。
- 253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:02:34.83 ID:53tV4jeA0
- ******
2年後の、ドクオとクールが戦うパースレの上空を飛ぶ、
輸送機の機内で、ハインリッヒがシャキンへと言った。
从 ゚∀从 「あの時はクールに敵わなかった。
だが、今の奴には武器があり、身体能力を増長する強化外骨格がある。
活力を与えるZIPがある。精神を制御するナノマシンがあいつにはある」
(`・ω・´) 「ですが、それを以ってしても敵わない場合は?」
从 ゚∀从 「奴は、今の奴にはあの時になかった物がある。
欠けている物はたくさんあるが、無い物は無い。ドクオは負けないさ」
(`・ω・´) 「被検体の精神状態は極めて危険です。
ナノマシンは、絶対に欠かせない。そのナノマシンが、もし故障したら? その時は?」
从 ゚∀从 「その時は死ぬだけだ」
(;`・ω・´) 「―――ッ!」
ハインリッヒの回答は、非常に呆気ない物であり。
シャキンを身震いさせることとなる。
- 256 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:06:28.86 ID:53tV4jeA0
- (;`・ω・´) 「あなたはそれでいいのですか? 研究は、プロジェクトが途絶することとなりますよ?」
从 ゚∀从 「あぁ、そうだろうさ。残る被検体は奴だけだ。他の奴らは残念ながら死んでいった。
見込みのある奴もいない上に、非常に危険で人道に外れる実験だ。
望んで被検体になるような、力に囚われた酔狂な野郎はなかなかいないだろうさ」
从 ゚∀从 「だが、これで良い。奴がそこで、研究がここで終わるのはそれで良い。
これは、この研究は、ドクオとあたしの秘め事のようなものなのだから」
从 ゚∀从 「あいつはミルナを殺せればそれで良かったんだ。
どんなに素晴らしい未来が待ち構えていようとも、
仲間達の仇を討てれば自分の全てはそれでいい。そういう奴だったんだ。
仇討ちに全てを賭ける奴。だからこそ、あたしは奴に力を与えた。そして奴は果たした」
从 ゚∀从 「ミルナを殺したことで、奴の人生は終わった。残るは力の限界を目指す哀れな被検体だけ。
あたしはクーに敗れたドクオに、更なる投薬を試みた。その果てにZIPと強化外骨格を与えた」
(;`・ω・´) 「………」
从 ゚∀从 「あたしが与えられる物は全て与えた。
ドクオが今出している全力は奴とあたしの全力なんだ。
そしてクーはあたしの過去の全力を出して作り上げた、過去の作品」
- 258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:08:27.79 ID:53tV4jeA0
- 从 ゚∀从 「あいつら二人はあたしにとっての特別だ。強化兵士計画に自ら臨んで来たご褒美だ。
あたしはあいつらに、あいつらの望む物を全てくれてやった。力を与えた、全力でな」
(;`・ω・´) 「2人ともこちらにいれば、こんなことには……」
从 ゚∀从 「まぁ、そう嘆くなよシャキン。奴らは奴らで、人間なんだ。
人間の心は掴めない。奴らは、いや、クーは憧れたのさ。人間にな」
从 ゚∀从 「さて、どうする。クー。お前のカードは、ワイルドカードは残っているだろう?
最後の頼みの綱にそいつを切るか? 地獄を望む男に、≪818の地獄≫でも見せてみるか?」
ハインリッヒが狂ったような笑みを浮かべ、
機械の画面に映る、クールへと問いかけた。
- 260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:12:19.79 ID:53tV4jeA0
- ******
細く、頑丈な鋼線にクールは縛り付けられ、身動きすら出来ずにいた。
彼女は鋼線を通じて電撃を浴びせられ、苦痛に打ち震える。
('A`) 「………」
川 ゚ -゚) 「フフフ、いい加減に死ね。とでも思っているのかな?」
しかし、クールは笑みを浮かべて軽口を叩く。
その言葉に反応したのか、心なしか電撃が強まったように思えた。
川 ゚ -゚) 「まだだ、まだ死なんよ。私を殺すには足りない。
私を殺すのは、君であってはならない。私を殺すのは私なのだから」
川 ゚ -゚) 「リミッター壱号解除。
強化骨格稼働率100%での稼働開始。
カコログ稼働率90%での稼働開始」
川 ゚ -゚) 「限定時間内での全能力の解放を承認――戦闘再開」
クールが呪文のように独白すると、彼女は体中に青い光を纏い、
青い稲妻が体中を這いずりまわって行く。
川 ゚ -゚) 「コード認識。“818の地獄”を起動する」
彼女が言い切るが早いか、体中に纏った青い光が膨らんで行き、
それは一斉に818の刃となって発射されていった。
数え切れないほどの、夥しいまでの刃。
- 262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:15:17.06 ID:53tV4jeA0
- (゚A`) 「―――ッ!」
剣山の刃が、そのまま発射されたかのような、
見る者に恐怖を与える攻撃だ。
ドクオの強化外骨格から延びていた鋼線が全て断ち切られ、
拘束されていたクールの体は自由となる。
しかし、彼自身は迫りくる刃の群れから驚異的な反射速度で避けて行った。
回避不可能にも思われる刃が次々に迫るが、
忙しく身体を動かしまわり、辛うじて避ける。
生身の人間の反応速度で、それを可能とするのは、
ハインリッヒが今まで彼に行ってきた、投薬のおかげであろう。
だが、クールが直々に接近して行った斬撃は、かわせない。
川 ゚ -゚) 「戦士が求めるは地獄。阿鼻叫喚の地獄!
自らを終わらし、昂らせ、高めさせ得る地獄だ!!」
クールが叫び、ドクオは辛うじてナイフで夜刀の一撃を防ぐ。
彼女は追撃として膝蹴りを彼に喰らわせ、
ドクオは衝撃によって上空へと吹き飛ばされてしまう。
彼女はその更に上を行き―――
夜刀でドクオを打ち降ろし、818の地獄によって生み出される光の刃を、
刃の雨を彼へと向けて浴びせかける。
- 264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:18:19.86 ID:53tV4jeA0
- 身体がズタズタに切り裂かれていき、強化外骨格の防護繊維ですらも、
この刃の前では耐えきれやしない。
ドクオが地面へと激突し、クールはさらに追い打ちを掛けていく。
彼女の思いは一つ。ここで彼に、致命的なダメージを与えることだ。
ちょっとやそっとでは、死なないことは分かり切っている。
生半可な攻撃では、効かないことも分かっている。
刃が、夥しいまでの刃の群がドクオへと向かっていき、
彼に当たらなかった刃が粉塵を巻き上げていく。
粉塵が彼を覆い隠していくが、むしろ、彼女は更に攻撃を激しくしていった。
己が生成できる光刃を、可能な限り叩きつけていく。
やがて、クールが地へと着地すると、風に流れて煙が晴れていった。
数え切れぬほどの青い刃が墓標のように地面に突き刺さっており、
見る者を圧巻させる光景であった。
- 265 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:21:18.85 ID:53tV4jeA0
- その中で、立ち上がっている者がいる。
上半身を覆っていた強化外骨格の防護繊維が、
ボロボロとなって吹き飛んでおり、生傷の絶えない身体が晒されて、
左腕は失われ、装備していた武器はナイフを残して、全て破壊されてしまってはいるが、
(メ'A`) 「………」
鬱田ドクオは生きていた。
ぐっ、と嗚咽を出すと、彼は咳きこんで血液の塊を吐き出す。
生々しい水音を響かせて、地面へと血が撥ね散る。
既に満身創痍だ。こんな状態で戦えるはずもない。
だが、ドクオはそれを可能とする。
まだ身体は動く。身体はまだ戦うことを求めている。
その意志は、ZIPの力によって叶えられた。
強化外骨格の左胸にあった、突起物がZIPであった。
彼が持っていた、そして破壊された他の武器とは違い、
ZIPは破壊されてはいない。
ZIPは未だに、ドクオの左胸に突き刺さっている。
彼の左胸に突き刺さっている“釘”がそれだ。
赤い雷が左胸の釘に帯びてゆき、ドクオの体を這って行く。
- 269 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:24:09.41 ID:53tV4jeA0
- 川;゚ -゚) 「ッ!?」
そして、彼の失われた左腕が再構築されていった。
肉が、骨が、神経が生えてゆき、ドクオの左腕が生え切った。
身体中の生傷もすべて消えてゆき、
まっさらな傷の無い身体を外気に晒す。
そしてドクオは、鋭利な視線をクールへと浴びせ、
彼に残った最後の武器である、今まで共に戦場を生き残ってきたナイフを構える。
('A`) 「………」
ドクオは相変わらず言葉を発しないが、
彼女にはその様が掛かって来い、と言っているように見えた。
川;゚ -゚) 「ちっ……」
ここで初めて、彼女は苛立った。
リミッター壱号には、制限時間がある。
その限られた時間はもう数秒で訪れてしまう。
川;゚ ー゚) 「ふっ、そいつを破壊すればいいのだろう?
そいつが供給する、カコログ光を断たせてやれば、君は再生できない」
ならば、と半ば自暴自棄になったように続け、
川 ゚ -゚) 「大丈夫だ、まだ大丈夫。君は大丈夫だ。私は一度全てを捧げた身だ。
もう一度、君の為になら、もう一度全てを捧げるのも……悪くはない」
- 271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:27:11.42 ID:53tV4jeA0
川 ー ) 「リミッター零号解除。
カコログ稼働率100%での稼働開始」
彼女は眼を伏せて笑みを浮かばせて、全ての制限を排する。
すると、再び818の地獄が起動して、
ドクオとクールの周辺に青い剣の林が出来た。
まるで彼等を取り囲むように発生した剣の林は、
木々を全て浮かび上がらせ、ドクオへと殺到していく。
彼へと殺到する光で出来た青い剣は、
ドクオが構えるナイフによって叩き落とされていく。
打ち落とし損ねた光刃に身を切り裂かれながらも、
淡々とそれを行い、身体は裂かれた途端に再構成されていく。
彼の周囲には途轍もない程の火花と金属音が連続して、発生する。
光刃に紛れ、ドクオの正面から太刀が飛んできた。
青い剣の輝きによって太刀が滑らかに輝き、彼はそれを見逃さない。
(゚A`) 「―――ッ!」
弾いてみると、見覚えのある物であった。
クールが愛用しており、ドクオにも馴染みの深い太刀。
機械剣No.08“夜刀”だ。
- 272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:30:19.93 ID:53tV4jeA0
- それを確認すると、ドクオの頭上から大量の光刃が迫り、
彼は間一発で後方へと跳んで避けた。
が、気付くと。
彼は隙間もなく光刃に取り囲まれてしまった。
視界が青に埋め尽くされ、クールの位置を確認できない。
この状況は危険であるとドクオは判断し、
360度の範囲に渡ってナイフを振るって、光刃の囲みを破壊する。
眼前には、既にクールが接近していた。
彼女の両の腕には光刃が握られており、
交差させて構えて、ドクオのZIPへと双刃を振るう。
ZIPは、雷を帯びた釘には亀裂が入っており、
そこに青の双刃が激突した。
(゚A`) 「おおおぉぉぉぉぉっ!!」
ドクオが苦しみの声を上げる。
ZIPは消し炭となって、粉塵になって吹き飛んでいく。
突き刺さっていた、彼の左胸には風穴が空いているかに思われたが、そこに穴は無い。
ZIPは消える寸前にドクオへと赤い雷を与えていたようで、傷口は塞がって行ったのだ。
ドクオは力が抜けたように両の膝をついて、倒れていく。
- 275 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:35:34.03 ID:53tV4jeA0
- だが、倒れなかった。
倒れる前に、彼はクールに支えられていた。
(;'A`) 「色々と言いたいことはあるけど、とりあえず。ありがとう」
川 ゚ -゚) 「あぁ、礼を言え。感謝してくれ。私にはそれで充分だ。
だから早く逃げてくれ。リミッター零号を解除した。これから、カコログが爆発する」
へっ、とドクオが吐き捨て、
('A`) 「もう、俺の力は残って無い。身体に力が入らないんだ。
あのZIPって釘のせいで俺の体はただの搾りかすになっちまった。
俺はもう死体も同じ。俺はとっくに命を捧げた。悪いけど、ここで死んでいくしかできないようだ」
('A`) 「俺はあんたに逃げて欲しかったよ……あんたが望んだように、
当然のように人として、人らしく生きて欲しかった。
俺は身も心も、魂すらも捧げた死体だ。俺はクーとは違う。
前のように人らしく生きたいと願えるまでに、俺は人間じゃなかった」
川 ゚ -゚) 「私は君と一緒に逃げたかったよ。
君に、全てを捧げた君に地獄以外の場所を見て貰いたかった。
力を突きつめたところで、胸の内に残る物は何も無いのだと私は教えきれなかった。
生身の体を持っているからこそ、今からでも戻れる君に、人らしい生を生きて欲しかった」
クールは片膝をついて座り、
抱えたドクオの背をもたれ掛けさせた。
- 279 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:43:52.15 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「俺は仇を討つ為に全てを捧げた。全てを捧げて残骸となった。
それを成し遂げて、俺は本物の残骸となった。
最後に残った物を使いきり、クーの人生の為に俺は命を捧げようとした」
川 ゚ -゚) 「人の命など、受け取れない物だよ。
自己犠牲などと言った物は、犠牲を自分に捧げているに過ぎない。
私は君の犠牲の上に成り立った生を生きても、ただ辛かっただけだった」
('A`) 「そうか……ごめん」
川 ゚ -゚) 「謝らなくて良い。私も、君を救う為と思って、零号を解除した。
結局私も死ぬことになり、君を死なせることとなった。自己犠牲はお互い様だ」
川 ー ) 「普通に食事をし、普通に仕事をし、普通に恋をし、
普通に家庭を作って子供を生み、普通に死んでいく。こうも難しいものだとはな……」
ドクオを抱える腕に力がこもり、
クールの顔が暗く翳る。
('A`) 「俺は……諦めたなぁ。普通に仕事することを、普通に人と関わることを、
普通に恋して、普通に家庭を作って、普通に死ぬ事を。俺には出来ないって諦めたよ。
だから躊躇しないで捧げられた。俺の全部を。俺には普通ってのは難しすぎた。それ以下がお似合いだった」
('A`) 「あー、畜生……下らねーな」
- 280 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:47:16.83 ID:53tV4jeA0
- 川 - ) 「ドクオ。そろそろだ……」
彼女の動力部である、カコログが爆発するまでの制限時間が迫る。
この場から逃げられないドクオにとって、
自分の体内から起こる爆発から逃げられないクールにとって、
その制限時間は死ぬまでに掛かる時間でもあった。
('A`) 「そうか……あの、情け無い話なんですけど、頼んでもいいですかね?」
川 - ) 「何だ? 急に敬語になって」
('A`) 「最後ですし、抱きしめちゃっていいかな?
こう……展開的にアレだしさ」
川 ゚ -゚) 「ドクオ。君、今気持ち悪いぞ」
- 282 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:50:31.23 ID:53tV4jeA0
- ('A`) 「あー、やっぱそうくるよな」
川 ゚ ー゚) 「口に出すのはダメだろうよ」
悪戯的な笑みをクールが浮かべて、彼女が言う。
すると、彼女は自分の膝を背もたれにしているドクオを抱え上げ、
腕を回して抱きしめた。
川 ゚ -゚) 「どうだ? こうしたかったんだろ?」
('A`) 「こういう最後なら、俺には充分すぎるよ。
すんごく幸せだ。物凄く分不相応な贅沢してる気分」
ドクオの言葉に、彼女は微笑んだ。
- 283 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:53:32.93 ID:53tV4jeA0
- 川 ゚ ー゚) 「強化骨格の、人工皮膚に包まれているだけだぞ?
それで贅沢とは卑屈な奴だ。最後の時間をお互いに捧げ合うのも悪くないな。
身も心も力に捧げたが、その搾りかすだけでも好意を持った者に捧げてやれたか。私も幸せ――」
その言葉を掻き消すかのように、爆発が起こる。
彼女の体から巨大なドーム状の光が広がって行き、
大気を震わせて音を轟かせた。
瓦礫を、街の残骸や車の残骸を全て消し飛ばしてゆき、
破壊に次ぐ破壊が周囲を襲う。
強烈な暴風が吹き荒れ、黒煙が広がっていく。
その破壊に、ドクオとクールだけが耐えきれる道理はなく、
彼等は共に吹き飛んでいき、強力な、規格外のカコログ光によって焼き尽くされてしまった。
己の全てを捨てた修羅と機械仕掛けの人間は、
地獄へと落ちて行ったのだ。
- 285 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 05:57:21.98 ID:53tV4jeA0
- エピローグ
******
パーソクがニューソクの宣戦布告無しの攻撃を受け、
首都パースレを正体不明の爆撃によって壊滅させられたことによって
ニューソクは世界中の批難を浴び、世界中の敵となった。
だが、この国ならば世界中を敵に回してでも、
勝利を手にすることが出来るかもしれない。
戦死者が増え、墓地に大勢の物が送られることになるだろうが、
この国の住人ならば、それすらも名誉として受け入れるかもしれない。
果たして、無限に戦争を繰り広げる国に、
そんな狂人たちが住まうこの国の名誉とは、
どのようなものであるかは、想像し難いものである。
これから忙しくなる筈である、墓地へと訪れた者がいた。
- 286 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 06:00:29.12 ID:53tV4jeA0
- 白衣を着た、白髪の。前髪で左目を隠した、どこかガサツそうな女性、
ハインリッヒが何かを包んだ白い布を抱えて墓地の中を歩いている。
彼女は、墓地の奥に位置する墓へと向かって行く。
歩いて5分も掛からずに着く場所だ。
墓前へと辿り着くと、ハインリッヒは白い包みを取り外し、
それを墓前に突き立てた。
从 ゚∀从 「お前達は出来損ないだ」
ハインリッヒは墓へと吐き捨てる。
从 ゚∀从 「何かに己を捧げる。そんな物は独りよがりにしかすぎねーよ。
だが、お前達は全てを捧げるためにあたしと出会い、
最後には互いを助ける為に命を捧げ合った」
从 ゚∀从 「自己犠牲。下らないね。
だが、その覚悟だけは本物だった」
从 ゚∀从 「力の為に己を捧げる。お前等のその覚悟を、悪いがあたしは利用させて貰った。
お前等のような出来損ない共はこれからもやってくるだろう。
あたしは、そいつらを利用し続けて生きていく」
- 287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/12(日) 06:03:17.78 ID:53tV4jeA0
- 从 ゚∀从 「お前達とは良かったぜ、楽しかった。お前達は良い奴だった。
ここで仲良く眠っていてくれ。あたしがお前等に捧げられるのは、花束ぐらいのもんだ」
ハインリッヒは墓に別れを告げて踵を返し、
元来た道を辿っていく。
彼女が言葉を投げかけていた墓前には、花束が置かれており、
見覚えのある太刀と、肉厚のコンバットナイフが寄り添う様に置かれていた。
墓には、強化兵士計画に携わって亡くなっていった兵士達の名が刻まれていて、
そこには鬱田ドクオと素直クールの名が、新しく刻み込まれている。力の為に全てを捧げ、
最後には愛した者へと己を捧げた、彼らに捧げられた物は花束であった。
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