- 1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 13:59:12.93 ID:Wp7UINUU0
- こんこんと雪が降る、昼間の山間部。
橙色の電車が雪煙を上げながら走っていた。
がたん、ごとんと揺れる電車。
年末のこの時期は里帰りが多く、
暖房のきいた車内にはあちこちに家族連れ。
(´・ω・`)「…」
その中、席が開いているにも関わらず、
一人で入口付近に立っているショボンという青年。
どこかのファッションセンターで売っているような防寒着で身を包み、
そわそわした様子で車外を見つめていた。
外には変わり映えのしない景色が延々と続く。
ショボンは、雪の白に覆われた山々を、どこか懐かしむような目で眺め続ける。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:01:09.97 ID:Wp7UINUU0
前の駅から十数分走り続けた頃、ようやく次の駅が見えてきた。
近付くにつれ、電車がスピードを緩めていく。
雪煙はまだ立ち上がる。
(´・ω・`) 雪煙に消えるようです
駅は閑散としていて、立っている人は見受けられない。
雪は絶え間なく降り続いているが、風は吹いておらず、
ホームの椅子にも積もっていない。
(´・ω・`)(…やっとだ)
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:03:07.86 ID:Wp7UINUU0
音を立てて止まった電車のドアが開き、ショボン一人だけが外へ出る。
冷たい外気に体を包まれ、温度差に身震いした。
吐く息も白い。
肩に掛けたカバンの外ポケットから切符を取り出し、改札箱に入れる。
そのまま小さい構内を抜けると、町が見えた。
(´・ω・`)(懐かしいな)
ショボンは年に一度、この日に必ず、この生まれ故郷へ足を踏み入れる。
町の人々や、家族、友人に会う為に。
山に囲まれたこの町からは、車での移動は時間がかかり、道も狭くなる為、
電車が主な交通手段。
雪の積もる冬ならば、尚更。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:05:08.71 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「さてと」
大きく深呼吸をし、傘を広げ、最初の目的地である実家に向かって歩き出した。
ざくざくと足跡を残しながら、ゆっくり進む。
寒々しい町の様子は、去年と全く変わりない。
「日本の田舎」をそのまま冬に染めたような町。
この大雪だからか、普段なら屋外に出て遊ぶ子供や、
雪かきをする大人達は、家の中にいるようだ。
田んぼも雪に覆われている。
駅から約50m離れた所に、ショボンの実家はあった。
屋根の黒い、木造二階建ての家。
ショボンは扉へ近付き、意を決して開ける。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:07:15.99 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「こんにちわー」
挨拶をして少し待つと、玄関の前にある部屋から男が現れる。
(`・ω・´)ノ「おう、来たな!上がれ上がれ!」
ショボンの父親、シャキンが、嬉々とした顔で手招きした。
(´・ω・`)「じゃ、上がるよ」
コートの雪を払い、玄関に傘を立てて家に上がる。
木製の廊下が小さく軋み、音を立てた。
◆
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:09:23.63 ID:Wp7UINUU0
(`・ω・´)「今年も大雪だな…雪崩が起きなければいいが」
(´・ω・`)「予報が合っていれば大丈夫だと思うよ」
十畳程ある部屋の中央、彼らはこたつに入って温まりながら話している。
以前、この町では年末に雪崩が起きた事があり、シャキンはそれを心配していた。
(`・ω・´)「そうか。ならお前も安心だな」
(´・ω・`)「そうだね」
顔を綻ばせる二人。
(`・ω・´)「それにしても、子供の頃に比べると随分大きくなったもんだ」
(´・ω・`)「まあね」
ショボンは寂しそうな顔をして、外に目を移す。
町に到着した時より、多少、降雪量は少なくなっているようだ。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:11:26.13 ID:Wp7UINUU0
(`・ω・´)「もう追い越されてしまうな」
(´・ω・`)「まだ先の話さ」
ショボンは言い、カバンの中から袋を取り出してこたつの上に置く。
中には、蜜柑が二つ入っていた。
(´・ω・`)「これ、食べたかったでしょ?買って来たんだ」
(`・ω・´)「おお蜜柑か、あん時は食べられなかったからな。毎年すまんな」
(´・ω・`)「どうってことないよ」
(`・ω・´)「何も土産をやれなくてすまんな」
(´・ω・`)「いいよ、仕方ない事だしさ」
(`・ω・´)「それもそうか」
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:13:28.54 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「じゃ、そろそろ出るよ。今日はあんまり時間ないから」
(`・ω・´)「おう」
二人で玄関から出る。
もう雪は殆ど降っておらず、粉雪がちらほらと舞い落ちてくるのみ。
(`・ω・´)「じゃあな」
(´・ω・`)ノ「うん、また来年」
挨拶を交わし、ショボンは背を向けて歩き出す。
扉の閉まる音をしっかりと聞きながら。
心に、鈍い痛みを抱えながら。
◆
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:16:29.08 ID:Wp7UINUU0
ショボンの実家から少し離れた町の中央に、公園があった。
ベンチやブランコ、鉄棒があるだけの小さな公園だ。
既に雪は止み、子供も遊んでいる。
(´・ω・`)(こんな寒いのに元気だな)
自分もあの頃は、良く外に出て遊んでいたものだと、ショボンは昔を思い出す。
それが今では、家にいる時は大抵の時間をこたつに噛り付いて過ごしている。
元気に遊んでいる子供に、一歩一歩近づく。
雪はそれなりに積もっており、普通の靴ならば中に雪が入ってくるだろう。
ブーツで良かった、と安堵しながら子供に声を掛けた。
(´・ω・`)ノ「おーい。久し振りー」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:18:14.29 ID:Wp7UINUU0
( ><)ノ「あ、ショボンさんなんです!久し振りなんです!」
(*‘ω‘ *)ノ「こんにちわだっぽ!」
男の子のビロードと、女の子のちんぽっぽ。
こんな「今」でも相変わらず仲の良い二人だ、としみじみ感じる。
(´・ω・`)「今日もお土産を持ってきたよ。ほら」
父親に渡す時と同じように、鞄から蜜柑の入った袋を取り出す。
( ><)「おー!」
(*‘ω‘ *)「やったっぽ」
(´・ω・`)「奮発して三個ずつ持ってきたよ。
サービスだからしっかりと味わって食べて欲しい」
( ><)「ありがとーなんです!」
(*‘ω‘ *)「ありがとうだっぽ!」
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:19:57.88 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「喜んでくれてありがとう」
礼に礼で返すショボンだが、内心はあまり穏やかではなかった。
(´・ω・`)(あの言葉を言うべきなのか…?)
ショボンの心の中で二つの思いがせめぎ合う。
言うべきか言うまいか。
言ってしまえば、どうなるだろう。
今のままではいられない事は確かだろう。
少しの間悩んだショボンだったが結局は、
言わずに流れに任せる事にしよう、という事で落ち着く。
(´・ω・`)(そうだ、それでいい…)
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:21:37.97 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「じゃあね。今日はあんまり時間がないから、ここでおいとまするよ」
( ><)「えーちょっと遊んでいかないんです?」
(*‘ω‘ *)ノ「だめだっぽ。ショボンさんまた来年だっぽ!」
(´・ω・`)ノ「じゃ、さようなら。また来年」
顔いっぱいに笑みをたたえた子供たちに見送られ、
公園を後にしたショボンは最後の目的地へ向かう。
駅のすぐ近くにある神社へ。
◆
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:23:21.65 ID:Wp7UINUU0
ショボンはこの町で生まれたのだが、町の中で過ごしたのは幼少時だけだった。
ある出来事によって、離れなければいけなくなったからだ。
あれから、母親は女手一つで育ててくれた。
今は離れて生活しているけれど、今の自分があるのは母親のおかげだ。
母親には、感謝してもし切れない。
せめて大晦日には母親に会いに行こう。
何かプレゼントをあげようかな。
何が良いだろう。マフラーでもあげようか。
(´・ω・`)(うーん…)
考え事をしながら歩いていると、ショボンはいつのまにか神社に辿り着いていた。
幼少時は、良く連れ行ってもらっていた神社。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:25:07.47 ID:Wp7UINUU0
これまた小さな神社で、公園と見間違えてもおかしくない程。
短い階段を上がり鳥居を抜けると、雪の積もった広場。
その広場の奥に拝殿が、離れて右にある赤い鳥居の列の向こうに、本殿が鎮座している。
その他には一つのベンチと、綿帽子を被った木がぽつぽつとあるだけ。
(´・ω・`)
懐かしさを感じながら拝殿へ近付こうとすると、後ろから声が掛けられた。
「ショボン君、今年もか」
川 ゚ -゚)
女性だった。年齢は、ショボンと同程度だろう。
端整な顔立ちに、肩の下あたりまで伸ばされた黒髪が良く似合っている。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:26:59.15 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「あれクーさん、去年も来た事知ってたんですか?」
ショボンは去年の記憶を呼び起こす。
雪の降る中見に来ていたが、確か神社には誰もいなかった。
川 ゚ -゚)「こっそり見ていただけだ。
出てきたら雪女と間違われそうでな、中々出て来れなかった」
(´・ω・`)「ジーパンを履いた雪女なんて聞いた事がありませんよ」
川 ゚ー゚)「ふふ、そうかもな」
二人で小さく笑う。
(´・ω・`)「今年もどうしようか悩みましたよ」
溜息をつきながら呟くショボン、その目にはかすかに哀愁が漂っている。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:28:41.30 ID:Wp7UINUU0
川 ゚ -゚)「ふむ…過去に囚われたままなのが嫌だと?」
(´・ω・`)「そういう訳ではないです。囚われているつもりはありません。
こっちが勝手にしがみついてるだけです」
川 ゚ -゚)9m「それを『囚われている』というんじゃないのか?」
(´・ω・`)「あー…そうかも知れないですね。
あと指差すのやめてください、先端恐怖症なので」
川 ゚ -゚)「昔はそんな事無かった筈だが」
(´・ω・`)「十年以上あれば人も変わりますよ」
川 ゚ -゚)「変わらないものもあるがな」
(´・ω・`)「…例えば?」
川 ゚ -゚)「言わなくてもわかるだろう?」
(´・ω・`)「確かにそうですね」
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:30:22.73 ID:Wp7UINUU0
川 ゚ -゚)σ「立ち話をしているのも疲れるだろうし、そこのベンチに座らないか」
(´・ω・`)「そうですね」
クーが指さした先に、屋根の付いたベンチがあった。
屋根のおかげでベンチに雪は積もらず、濡れてもいないようだ。
ショボンが腰かけた後に、クーも座る。
川 ゚ -゚)「今日は誰に会って来たんだ?」
(´・ω・`)「父と、ビロード君達に。去年と同じですよ、道も」
川 ゚ -゚)「…彼らには何か言ったのか?」
「何か」を強調して、クーが言う。
(´・ω・`)「いえ。流れに任せようと思います」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:32:07.26 ID:Wp7UINUU0
川 ゚ -゚)「そうか…その方がいいのかもな」
(´・ω・`)「少なくとも、僕はそう思いました」
川 ゚ -゚)「…」
(´・ω・`)「…」
沈黙する。と、一陣の風が境内を吹きぬけた。
冬の冷たい風が二人の頬を撫で、肌が粟立つ。
川 ゚ -゚)「今日は大丈夫か?」
(´・ω・`)「何がですか?」
川 ゚ -゚)「雪崩だよ」
(´・ω・`)「天気予報が仕事をしていれば、大丈夫かと」
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:33:52.40 ID:Wp7UINUU0
川 ゚ -゚)「時間は…あと何分だ?」
(´・ω・`)「15分くらいですね」
腕時計を見ながら、言う。
(´・ω・`)「電車は、その少し前に来ますけど」
川 ゚ -゚)「そうか」
(´・ω・`)「そうです」
川 ゚ -゚)「来年も来るつもりか?」
(´・ω・`)「…来ようと思います」
川 ゚ -゚)「ここに来るのも、あまり良くない事だと思うがな」
(´・ω・`)「そうでもないですよ。今のところ、僕に影響はありませんし」
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:35:47.43 ID:Wp7UINUU0
川 ゚ -゚)「それならいいが」
(´・ω・`)「いずれ、決別するつもりです」
川 ゚ -゚)「私たちもそれでお別れか」
(´・ω・`)「そうなりますね。母には会いたいですか?」
川 ゚ -゚)「姉さんか…いや、いい。もうこちらの整理もついているしな」
(´・ω・`)「そうですか…あ、晴れてきましたね」
見上げると、彼方にある雲の切れ間から光の筋が差し込んでいた。
真上の空からも太陽光が降り注ぎ、それを反射して白雪が輝く。
彼らはしばし、その光景を眺める。
川 ゚ -゚)「さて、そろそろ行こうか」
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:37:42.20 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)「もうそんな時間ですか」
川 ゚ -゚)「そうだ」
クーがゆっくりと立ち上がる。
川 ゚ -゚)「またさよならだな」
(´・ω・`)「ええ。あ、蜜柑いります?」
川 ゚ -゚)「頂こうか。もうあまり意味は無いが」
(´・ω・`)「そうなんですかね、やっぱり」
川 ゚ -゚)「あの時に食べておけば良かったよ…まあ、後悔しても仕方ないがね」
ショボンは歩きながら蜜柑を手渡し、空になったカバンを閉じた。
(´・ω・`)ノ「ではさようなら。母には宜しく言っておきます」
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:39:29.25 ID:Wp7UINUU0
川 ゚ー゚)「ありがとう」
鳥居の前。
また二人で、軽く微笑んだ。
◆
(´-ω-`)(また来年…)
駅は相変わらず無人で、その様子に、ショボンは少しだけもの寂しさを感じていた。
仕方のない事だと分かっていても。
もう幼少時の様には活気付かないのだろうか、と思っていた。
あの出来事があって以来、町は場所を変え、なんとか存続している。
存続していると言っても、家がぽつぽつと点在するだけで、
全く賑わっているとは言えなかった。あまり活気もない。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:41:36.91 ID:Wp7UINUU0
(´・ω・`)(でも仕方のない事なんだ…)
もう一度、自分に言い聞かせるように、心の中で反復する。
もう戻れないんだ。そう思って、故郷の町を眺めると。
時が、訪れた。
(´・ω・`)(…)
白い煙が町を覆っていく。
ゆっくりと、ゆっくりと。
町の輪郭がぼやけていく。
町が、家が、人が、煙の中に消え去っていく。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:44:17.59 ID:Wp7UINUU0
全ては、雪煙に消えていく。
現実を改めて思い知らせるように。
本来ならばもう会う事の出来ない存在を、
伝える事の出来ない思いを、
笑い合う事の出来ない時を、
最初から無かったかのように飲み込んでいく。
ショボンにとっては、永遠とも思える時間。
現実では、瞬きをする間に終わる時間。
雪原が広がった後も、電車が来た事にも気付かずに眺め続けていた。
(´・ω・`)(…)
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2011/12/25(日) 14:46:55.82 ID:Wp7UINUU0
(;´・ω・`)「おっと」
ショボンは我に返り、電車に駆け込む。
暖房のきいた車内の中、温かみを感じながら席に腰を下ろした。
また、外を眺める。
(´・ω・`)(いつかは決別しなければならないと分かってる…けど…)
電車が、動き出す。
(´・ω・`)(今はもう少しだけ、夢を見させてくれないかな)
もう少しだけ。
あと、少しだけでいいから。
一つの儚い願いと、翌年への思いを乗せて、ようやく電車が走り出した。
(´・ω・`) 雪煙に消えるようです おわり
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