川 ゚ -゚)雪の花のようです

1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:13:01 ID:aoQMOqssO

この話は昨年末に投下した『( ^ω^)雪の花のようです』の続きになります。
先にこちらを読んでいないと意味が分かりません。


まとめ:http://boonbunmaru.web.fc2.com/collaboration/kouhaku/17.htm

2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:14:12 ID:aoQMOqssO


――プロローグ――


( ^Д^)「好きだ」

川 ゚ -゚)「え……」

満天の星々が空を彩るある夏の夜のこと、ある小さな公園にて。
遊具といえば砂場と滑り台しかない程に小さな公園は当然、夜になれば人っ子一人いない。

では、そんな場所でその男女は一体何をしているのか。
それは男女の片割れ――クーにもよく分からなかった。

( ^Д^)「好き」

川 ゚ -゚)「いや、だから、それがどうした?」

男の方――プギャーが再び紡ごうとした言葉はクーによって遮られる。

川 ゚ -゚)「私はプギャーのこと、好きだ。
     だが、今更そんな真剣な顔をして……わざわざこんな所に呼び出して、一体何なんだ?」

3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:14:57 ID:aoQMOqssO

クーは腕を組んで、プギャーを見やる。
彼女が腕を組むと、その豊かな胸が押し上げられて思わず目が行ってしまうのだが、
それを我慢してプギャーは言った。

クーがここまで鈍い女だとは、長い時間を共有してきた彼も気付けなかった。
思わず溜め息さえ洩れてしまう。

(;^Д^)「だから、たぶん俺の好きとクーの好きは違うんだ」

川 ゚ -゚)「ん? そう言われても、よく分からないな……」

( ^Д^)「だから俺はクーのこと」

異性として、好きなんだ。

その一言で、彼らは恋人同士となったのだ。

クーは恋愛というものに疎く、一番好きな異性と言われれば父親か、
もしくは一番仲の良い幼馴染を思い浮べるような人間であった。
しかし彼女も年頃、クラスの友人達の恋の話題に全く興味がないわけではなかった。

さらにこの時の彼女は、ある事件から完全に立ち直ったと言える状態でもなかった。
そんなわけで、自分の感情もよく把握しないうちに、
彼女は初めて異性との交際というものを経験することとなったのである。

4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:15:45 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「私は、自分がプギャーのことをそういうふうに好きかは分からない」

( ^Д^)「それでもいいさ。なんせ、村一の美人と付き合えるんだからな!」

川 ゚ -゚)「冗談はよしてくれ」

川*゚ -゚)「なんだか恥ずかしいじゃないか」

それから二人は笑い合う。

傍から見れば釣り合わない二人。
クーにとっては好奇心を満たすために、言い知れぬ寂しさを埋めるために始めたこと。

しかしいつの間にか、二人きりの時を過ごすうちに、クーはプギャーに惹かれていたのだ。
男友達といる時には見せない優しさや気遣い、それが彼の本質だと知るのに時間はかからなかった。

一つの夏を越えて、秋が過ぎて、冬が過ぎて、春が過ぎて、再び巡ってくる季節。
初な二人は手を繋ぐのがやっとで、周囲から見れば幼く、稚拙な恋だったかもしれない。
それでも、幸せだったのは本当だ。


だからクーは、許せなかったのだ。

5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:17:03 ID:aoQMOqssO




――川 ゚ -゚)雪の花のようです――



.

6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:18:21 ID:aoQMOqssO


――1――


白を基調とした、ある病院の個室。
すでに日は傾き始め、強い西日がカーテン越しに病室に射し込む。
眩しい、誰とも知れぬ呟きに彼女はカーテンを閉めた。

川 ゚ -゚)「もうこんな時間か」

病室のベッドから見やすい位置にある時計の針は、クーがとある約束をした時間に迫っていた。

(,,゚Д゚)「クーは用事あるのか?」

川 ゚ -゚)「ああ。……すまないな。ドクオ、ギコ、私はそろそろ、おいとまさせてもらうよ」

('A`)「そうか……気を付けてな」

ベッドの上のドクオはクーに真剣な眼差しを向ける。
しかしクーは柔らかな声で言った。

川 ゚ -゚)「ありがとう。二人の方こそ、気を付けて」

別れの挨拶を済ませ、クーは病室を出る。
スライドドアを締める直前に見たドクオの顔は、少し不安げに見えた。

7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:19:16 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「私は大丈夫だよ」

そう一人呟いて、彼女は廊下を歩きだすのだった。


病院の建物を出たクーは、駐輪場に停めてあった自転車にまたがる。
一般的なデザインに銀を基調とした色合いの、いわゆるママチャリに鞄を乗せ、漕ぎだす。

身を切るように冷たい向かい風に、雪かきはしてあるものの凍結した路面。
轍とはいえそこを自転車で走り抜ける彼女は、無謀だった。
しかし、どうせ歩くのも大変なのだから自転車でも同じだろう、というのが彼女の考えであったのだから仕方ない。

川 ゚ -゚)「寒いな……」

雪こそ降っていない、しかし吐く息は白い。
手袋をしていても手はかじかむし、耳当てをしていても耳は冷たい。
思わず呟くのも当然のことと言える。

彼女の目的地は自宅でもなければバイト先、ましてや大学でもない。
では彼女はこんな寒い日の夕方にどこを目指すのか。

その答えは細い路地に面した、ある一軒家であった。

8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:20:16 ID:aoQMOqssO

壁の白く塗られた二階建の一軒家で、塀はごく普通のブロック塀。
塀のすぐ側に、寄せて自転車を停める。
抜いた鍵をコートのポケットにしまいながら、クーは塀に取り付けられたインターホンを押す。

ブザーの音が鳴って一分も経たぬうちに、目当ての人物の声が聞こえた。

「……今、玄関を開けますから、入ってください」

おとなしそうな少年の声に従って、クーは家の敷地に入る。
簡単な造りの門は鍵も掛かっていない。

クーが玄関扉の前に立つのを待っていたかのように、中から一人の少年が顔を覗かせた。

(-_-)「……こんにちは」

川 ゚ -゚)「こんにちは、ヒッキー君。今日は本当にいいんだね?」

(-_-)「はい。……クーさんの話を聞いたら、僕も黙っているわけにはいかないと思いましたから」

川 ゚ -゚)「そうか。ありがとう、心から感謝するよ」

互いに軽い会釈をし、クーはヒッキーの言うままに家へ上がった。

リビングに通されたクーは促された通りに席に着く。
ごく一般的な造りの、狭くもなく広くもないリビング。
そこに鎮座する黒い落ち着いたデザインのソファーは座り心地も良い。

9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:21:16 ID:aoQMOqssO

(-_-)「これ、良かったら……」

ヒッキーはクーの前のガラス製のテーブルに麦茶の入ったグラスを置く。

川 ゚ -゚)「ありがとう、いただくよ」

クーはそれに口をつける。
市販の、クーが好んでよく飲む麦茶だった。

(-_-)「クーさん、話……」

川 ゚ -゚)「ああ。よろしく頼む」

クーの声を聞いたヒッキーは緊張した面持ちで、ごくりと喉を鳴らす。
おずおずとクーと視線を合わせて、彼は話し始めた。

(-_-)「あの日僕は、自分の部屋にいました」

このヒッキーという少年、彼は引きこもりであった。
あの事件の起きた日もやはり、彼は自分の家の自分の部屋にこもっていたのだ。

10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:22:08 ID:aoQMOqssO

時刻は昼前。
彼の両親は共働きであるから、引きこもりといえども昼食の用意は自分でしなければならなかった。

普段なら頃合いを見計らって部屋の散らかりも気にせずリビングへ向かう。
しかし、この日のヒッキーは少し違った。

最近、部屋の換気をしていない。
ふと、そんなことを思った。
一度気になりだしたら止まらない、だから普段は締め切っているカーテンと窓を開け放ったのだ。

開けた瞬間、びゅうと冷たい風が吹き抜けたと同時、彼が何ともなしに向けた視線の先に見えたのは。

(-_-)「黒い服の女の人が、男の人を刺してました」

ヒッキーは顔を伏せる。
もともと小さかった声はさらに小さくなっている。

人が人を刺した、非現実的な光景は彼のトラウマになるのも当然と言うべき衝撃的なものであった。
刃物を抜いた傷口から流れ出す血さえ、よく見えた。
立ちすくみ何も出来ぬまま、ただ見ているだけしか出来なかったのだ。

(-_-)「女の人が走って逃げる時に、フードが脱げたから……だから女の人だって分かりました」

川 ゚ -゚)「……話してくれて、本当にありがとう」

11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:23:12 ID:aoQMOqssO

精一杯の勇気を振り絞ったヒッキーの肩を、クーは優しく抱いてやる。
そして彼女は持っていた鞄をあさると、一枚の写真を封筒から取り出した。

川 ゚ -゚)「すまない、もう少しだけ協力してほしいんだ。
     その、黒い服の女の人というのは、この中にいるかな」

(-_-)「えーと……」

クーがヒッキーに差し出したのは、集合写真だった。
彼女らが中学校を卒業した時に、生徒と教師と保護者が一緒に集まって撮ったものである。
写真の中のセーラー服のクーは一見無表情で、しかしよく見ると微笑を浮かべている。

(-_-)「……あ、この人です」

川 ゚ -゚)「……そう、か」

ヒッキーが指し示した人物を見て、クーは息を呑む。

写真の中の優しそうな笑顔のその人と、現実にその人の取った行動のあまりの差異。
人は大切なもののためなら、どこまでも鬼になれる。

川 ゚ -゚)「これで、友達も浮かばれるよ」

(-_-)「まだ入院してるんですよね?」

川 ゚ -゚)「結構な傷でな。なかなか退院出来ないんだ」

12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:24:16 ID:aoQMOqssO

クーは返された写真を丁寧に封筒に納める。
それから、残っていた麦茶を一気に飲み干した。

川 ゚ -゚)「今日はありがとう。今度何かお礼をしたいんだが、何か欲しいものはあるか?」

(-_-)「……」

答えに窮し黙り込んでしまう少年に、クーは優しい声で言った。

川 ゚ -゚)「……ケーキは、好きかな?」

考え込んでいたヒッキーは顔を上げる。
その表情には期待が見て取れた。

(-_-)「……甘いものは好き、です」

川 ゚ -゚)「そうか。実は駅前のケーキ屋でバイトしていてな。
     店長に頼めば人気商品の取り置きも出来るんだ」

(*-_-)「本当ですか?」

川 ゚ -゚)「本当だ」

ヒッキーの顔が綻ぶ。
年頃の少年らしい、幼さの残る表情だった。

13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:25:10 ID:aoQMOqssO

(-_-)「あの、ショートケーキも頼めますか?」

川 ゚ -゚)「……ああ、もちろんだ」

クーは言った。
ケーキを好きだと言う時のあどけないヒッキーの表情は、姿形は似ていないはずの少女の笑顔と重なった。


クーは手荷物をまとめ、コートとマフラーを身に付ける。
短い廊下を進み、玄関先で二人は会話する。

(-_-)「絶対、犯人逮捕に役立ててくださいね」

川 ゚ -゚)「……きっと役立てると約束するよ」

靴を履きながらクーが答える。
ヒッキーから彼女の顔は見えなかったが、それでもその言葉に嘘はないのだと感じられた。

(-_-)「クーさんにちゃんと話せて、すっきりしました」

川 ゚ -゚)「それは良かった。君は勇敢な男だ」

(-_-)「……」

14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:26:05 ID:aoQMOqssO

クーは玄関を出る。
外はすっかり暗くなっていた。
月も星も全く見えない夜空からは、今にも雪が舞い降りてきそうだった。

川 ゚ -゚)「……」

(-_-)「さようなら」

川 ゚ -゚)「ああ、またな。
     ……ケーキは近いうちに持って来る。都合がいい日に連絡をくれ」

会った時と同じような会釈をして、クーは自転車に乗る。
ヒッキーは、クーの姿が見えなくなるまで手を振っていた。

15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:27:06 ID:aoQMOqssO


そもそもこの二人の出会いは、ドクオが通り魔に襲撃された一週間後のことであった。

ドクオが被害にあったのは、あまり人通りの多くない道だった。
さらに彼は背後から刺されたために目撃者は一人もいないし、
さらには凶器も犯人によって回収されており、手掛かりは一切なかった。
警察の捜査が難航しようと、それを責められるような状況ではなかったのだ。

そこでクーは、自分で犯人を見付けだそうとした。
まずは聞き込み、そう思い至った彼女は事件現場に程近い民家を一軒ずつ訪ねて回った。

川 ゚ -゚)「すみません、私、先日起きた通り魔事件の被害者の友人でして……」

そうして訪ねているうちに、クーはついにヒッキーと出会ったのだ。

(-_-)「……何ですか?」

大学の講義のない平日の昼間、その一軒家から現れたのは中学生くらいの少年だった。

川 ゚ -゚)「先日この辺りで起きた通り魔事件について調べているんだが……君、一人か?」

(;-_-)「……!」

分かりやすく表情を変える少年に、クーは彼が何か知っていることを確信した。

16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:27:56 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「話を聞かせてもらえないだろうか」

クーは意識して普段より優しげな声を出す。
しかし少年は下を向き、押し黙ったままだ。

川 ゚ -゚)「……私の携帯の電話番号とメールアドレスを教えるから。
     その気になったらでいい、連絡をくれないか?」

少年が今すぐに口を割ることはないと判断した彼女はメモ用紙を鞄から取り出す。
そこに几帳面で丁寧な字で自分の電話番号とメールアドレスを書き込むと、目の前の少年に差し出した。

川 ゚ー゚)「私は、素直クー。先日通り魔にあった友人を傷付けた犯人を探しているんだ」

精一杯の優しい笑顔。
それが功を奏したのかは定かでないが、少年は確かにメモ用紙を受け取った。

そして二日後、クーの元にヒッキーからの連絡が入り、今日に至るのである。

17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:28:59 ID:aoQMOqssO


快調に自転車を飛ばすクー。
その行き先は自宅アパートだった。
大家も住人も気さくな人ばかりで、クーは一人暮らしを寂しいと思ったことはない。

川 ゚ -゚)「さて、一つ、真実が見えたわけだが」

部屋に入り明かりをつけ、鞄を下ろしたクーは呟く。

まだ足りない。
しかし今動かねば、平穏に暮らしている友人らに再び脅威が襲い掛かるかもしれない。

川 ゚ -゚)「慎重さを重視するばかりに機を見失うわけにはいかない、か……」

18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:30:04 ID:aoQMOqssO

いつも冷静なクー。
そんな彼女はしばしば、状況の分析を優先するばかりに好機を逃してしまうことがあった。

対するクーの幼馴染は正反対の性格で、少々先走る癖があった。
彼はいつかクーに言ったのだ。
「慎重なのもいいが、たまには思い切ってみることも大事だ」と。

クーの口元に笑みが浮かぶ。
それはヒッキーに対して見せた優しいものではない。
覚悟の笑みだった。

川 ゚ー゚)「そうだな。そうするよ。私が全てを、暴いてやる」

取り出した写真を眺めてクーは言った。
写真の中の愛しい人達は、今日も笑顔だ。

19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:33:19 ID:aoQMOqssO


――2――


クーの住む部屋では三人の男女が机を囲んでいる。
几帳面に整頓された部屋の中心、机の上に三つ並べられたカップには良い香りを漂わせる紅茶が注がれている。
まだ白い湯気が立っているため、それらが煎れられてから然程時間が経っていないのだと窺い知ることができた。

川 ゚ -゚)「今日は来てくれてありがとう。二人を呼んだのは他でもない」

そこで一度区切って、クーは息を吸った。
あまりにもな現実に胸が痛む。

川 ゚ -゚)「大切な話があるからなんだ」

('A`)「……」

(,,゚Д゚)「……」

クー、ドクオ、ギコ、三人の視線が交わる。
昨日退院したばかりのドクオは、しきりに傷を気にしている。
あまり広くないアパートの一室は、長年連れ添った友人達の集まりとは思えない程の異常な緊張感に包まれていた。

川 ゚ -゚)「二人とも、モララーとブーン、そしてジョルジュが見付かったのは知っているな?」

20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:34:20 ID:aoQMOqssO

(,,゚Д゚)「ああ。村中その話で持ちきりだ」

('A`)「たしか神社の方で見付かったんだよな……」

川 ゚ -゚)「そうだ。なぜ三人が揃って他に何もないはずの神社方面へ行ったのかは分からない。
     しかし、見付かったのは紛れもない事実なんだ」

一体クーが何のために二人を呼んだのか、彼らが知るよしもない。
しかし、一昨日に行方不明だった友人らが見付かったことと無関係であるとは思えなかった。
そしてクーは最初の話題に選ぶことで、それを認めたのだ。

川 ゚ -゚)「プギャーも入れれば四人も……死んでしまったんだ」

川  - )「私はもう、誰かが死ぬのは見たくない」

('A`)「クー……」

あまり感情を表に出さないクー。
そんな彼女の声は今にも泣き出しそうな程に、
あまり人の感情の機微を理解できないドクオ達でさえ分かるくらいに、震えていた。

川 ゚ -゚)「だから」

21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:35:12 ID:aoQMOqssO

一口紅茶を口に含んで喉を濡らす。
上げた視線は、しっかりと二人の青年を捉えていた。

川 ゚ -゚)「決着をつける」

静寂。
ドクオもギコも、とっさにはクーの言葉の意味を理解出来なかった。
明白にして大胆、しかし彼女はいったい何をしようと言うのか。

先に口を開いたのはギコの方であった。

(,,゚Д゚)「決着って、どういうことだ」

川 ゚ -゚)「私は三日前、ある証言を得たんだ」

クーはヒッキーとのやり取りを二人に語った。

終始、ギコとドクオは驚いていた。
直接の関係のないクーがまさか、ここまでするとは。
一体、何が彼女を動かすのか。二人の理解は及ばない。
友人の為、正義感の強い彼女ならそれで十分なはずだ。
しかしそれだけではないように感じた。

川 ゚ -゚)「ドクオ、君を刺したのは……ジョルジュのお母さん、デレさんなんだ」

(;'A`)「……」

22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:36:10 ID:aoQMOqssO

クーの寂しげな表情と発言の内容に、ドクオは言葉を失った。

(;,,゚Д゚)「マジ、かよ……?」

ギコの方も声は擦れている。
そして、いつものようなはっきりとした物言いではない。

川 ゚ -゚)「残念ながら、本当だ。ヒッキー君は間違いなく、この写真の彼女を指差してみせたのだから」

クーが机に置いてみせたのは例の、中学校の卒業式の時に撮った写真だ。
通常のスナップ写真より大きいもので、大事そうに透明のフィルムに収められている。

川 ゚ -゚)「私はこの中に犯人がいるかと聞いた。
     そうしたらヒッキー君は、確かにデレさんを指してみせたんだ」

('A`)「……誘導はしていない、ってことか」

川 ゚ -゚)「その通り」

ドクオは写真を持ち上げると、それを見つめる。


青空の下集まった彼らの背後には、蕾の膨らみ始めた桜の木。
担任教師を中心として、身長ごとに生徒と保護者達が並んでいる。

23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:37:03 ID:aoQMOqssO

いつも通りの表情のクー。
嬉しそうに卒業証書を振り上げるギコ。
緊張で顔の強ばっているドクオ。

朗らかに笑うブーン。
どこかそっぽを向いてしまっているプギャー。
しっかり前を見据えるモララー。
照れ笑いを浮かべるジョルジュ。

そしてジョルジュの隣には。
全てを優しく包み込むかのように、穏やかに微笑むデレの姿があった。


('A`)「……」

信じられるはずもなかった。
こんな笑顔を見せる人が自分を殺そうとするだなんて、ドクオに信じられるはずがなかった。

川 ゚ -゚)「信じられないだろう?
     私だって、状況が状況でなければ疑うことすらなかった。
     デレさんはそれくらい優しい、素敵な人なんだ」

(,,゚Д゚)「でも目撃者がいるんだよな……」

24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:38:12 ID:aoQMOqssO

ギコは言う。
目撃者、それは事件とは何の関係もない部外者の少年だった。
彼に嘘を吐く理由なんてないはずだ。
ならばデレが、ドクオを刺した犯人なのだ。

沈黙が場を支配するのも仕方なかった。
ヒッキーの証言は三人の胸を抉る凶器とすら言えた。

('A`)「……なぁ。クーは、どうするつもりなんだ?」

川 ゚ -゚)「どうする、とは?」

ドクオの呈した疑問にクーも疑問を返す。

('A`)「だから、犯人を知って……クーは何がしたいんだ?」

川 ゚ -゚)「……私は」

ドクオもギコもクーをしっかり見据えている。

幼い頃から共に過ごしたのだから、二人だって、クーのしたいことの想像がつかないわけではなかった。
それでも彼女の口から聞きたかった。
クー自身の選択を聞きたかったのだ。

川 ゚ -゚)「私は、デレさんに自首をしてもらうよ」

25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:39:04 ID:aoQMOqssO

クーの言葉に、ドクオ達は全身の力が抜けるのを感じた。

('A`)「……だよなぁ」

(,,゚Д゚)「やっぱりクーはクーだ」

そんな二人に、クーは僅かな笑みを添えて返答する。

川 ゚ー゚)「復讐なんてする気なら、そもそも君達を呼ばないよ」

そして、その笑みが嘘かのように表情が硬くなる。

川 ゚ -゚)「……手伝ってほしいことがあるから呼んだんだ」

手伝ってほしいこと。
一人の人間に自首させるために手伝ってほしいこと。

川 ゚ -゚)「そう心配するな」

緊張した面持ちの青年らに、クーは宥めるように穏やかに言った。
ドクオとギコは肩から力を抜き、クーの話を聞く態勢を調える。

26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:40:21 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「二人はあくまで手伝うだけ。危険が及ぶ可能性があるのも私だけだ」

('A`)「クーにそこまでやらせるわけには……」

川 ゚ -゚)「いいんだ。……何も出来なかった私に、するべきことを遣り遂げるチャンスが与えられたんだ。
     だから私は、それを全うする」

クーは大切なものを失った。
大切な少女、愛しい恋人、無二の幼馴染。

川 ゚ -゚)「あの日、本当はデレさんとすれ違った」

(,,゚Д゚)「あの日って」

川 ゚ -゚)「プギャーが死んだ日だ。駅のホームですれ違った。
     ほんの少し私が早く駅に着いていたなら、彼は助かったに違いないんだ」

すれ違った女。
長い髪をなびかせて通り過ぎる彼女は間違うはずもない、よく見知った女性だった。
一瞬見えた表情は、今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

ζ( ∀ *ζ

凍り付くような笑みだった。
忘れられない。夢にさえ出る。

27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:41:37 ID:aoQMOqssO

しかし、クーは確信を持てなかった。
デレの心の傷に気付いていないわけではなかったが、少なくとも表面上はそれも癒えているように思えたのだ。

だから、ヒッキーの証言を聞くまでは彼女を犯人と断定することは避けていた。
以前ドクオやギコと事件について会話した時にも、
あくまで自分の考えだということを伝えた上で、デレが犯人かもしれないと言ったのだ。

川 ゚ -゚)「お願いだ。この事件の決着は私につけさせてくれ」

クーの瞳には強い意志の光が灯っている。
決意は揺るがない。
彼女はいつだって冷静で、正義感が強くて、そして融通の聞かない女なのだ。

(,,゚Д゚)「俺達は、何をすればいいんだ?」

(;'A`)「……ギコ」

(,,゚Д゚)「ドクオ、クーがやると言ってるんだ。俺達は出来る事をやるまで、だろう?」

ギコとクーの目が合う。
クーはひとつ頷いた。

川 ゚ -゚)「ああ。ギコ、それにドクオも、私に協力だけしてほしいんだ」

('A`)「クーの気持ちは分かった。だけど、やっぱりここは当事者の俺が行くべきじゃないか?」

28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:42:31 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「その気持ちだけで嬉しいよ。だが、私が行きたいんだ」

('A`)「……」

(,,゚Д゚)「クー、ドクオは」

('A`)「黙ってろ」

何事かを言いかけたギコ。ドクオはそれを制止する。
語気はやや強く、ギコに言葉を続けさせるのが嫌なのだということがクーにも伝わった。

そして、彼は諦めたように表情を緩めてクーの目を見据える。
クーのことなら、よく知っている。

('A`)「クーが覚悟を決めたなら行けばいい。俺はクーを手伝うことにするから」

川 ゚ -゚)「本当に、いいのか?」

クーが口にしたのは最終確認。
ドクオとギコは揃って首を縦に振った。

29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:43:39 ID:aoQMOqssO

(,,゚Д゚)「俺だって出来ることをしなかった。これ以上の後悔はしたくないんだ」

('A`)「そうだな。覚悟だって出来てる」

川 ゚ー゚)「ありがとう」

柔らかな笑み。
クールなクーにそれは、不思議な程に似合っていた。
ドクオもギコも思わず見惚れてしまうが、クーが改めて口を開くと彼らも気を引き締めた。

川 ゚ -゚)「まず、私の考えたことを話したい」

机に放置された紅茶からは、もう湯気は出ていない。
それを一口飲んで、クーはまだ温かいティーポットの紅茶を継ぎ足した。

30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:45:23 ID:aoQMOqssO


――3――


決行の日。
全ての決着を付ける日。
彼らの不安を体現したような灰色の空が広がる。

川 ゚ -゚)「二人とも、遅れてすまなかった」

息を切らしたクーが二人の青年に頭を下げる。
しかし彼らはそれを制止し、クーに頭を上げさせた。

('A`)「クー、頭を上げろよ」

(,,゚Д゚)「俺達だって今来たばっかだしな」

('A`)「そうそう。ギコだって三分遅刻だから」

(,,゚Д゚)「そういうドクオだって一分遅刻だって自分で言ってたろ」

いつもの軽口を叩き合うギコとドクオを見て、クーは頬を緩める。
緊張で夜も寝付けなかったのが嘘のように、今の彼女の心は波のない海のように穏やかであった。

31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:46:35 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「ふふ……君達を見ていると、不安なんかどこかへ吹き飛んでしまうよ」

クーのその穏やかな声に、ドクオ達は動きを止めた。

('A`)「クー……」

ドクオは心配だということを隠す素振りも見せず、彼女の名を呼んだ。
ギコはそんなドクオを、やはり心配そうに見る。

川 ゚ -゚)「私は大丈夫。デレさんより背だって高いし、揉み合いになっても遅れはとらないよ」

('A`)「でも、もし……凶器でも出してきたら……」

川 ゚ -゚)「そのために、君達に助けてもらうんじゃないか」

クーはそう言って、ドクオの手をとった。
そしてあまり変わらない身長の彼の目を見つめて、はっきりとした口調で続ける。

川 ゚ -゚)「大丈夫だ。必ず納得のいく結末を迎えてみせるから」

自分自身にも言い聞かせるように、しっかり、ゆっくり。
しかしそんな彼女を見て声を聞いていると、ドクオもギコも不思議と後ろ向きな感情が薄らいでゆくのを感じた。

三人が向かうのはデレの住む家だった。
大昔からこの辺り一帯の地主で、その家の佇まいはまさに威風堂々、そして旧家の気品に溢れていた。

32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:47:29 ID:aoQMOqssO

一度は解れた緊張の糸が再び張り詰める。
今にも雪の降り出しそうな曇天が、嫌でもあの日の情景を脳裏に蘇らせるのだ。

クーにとっては大切な少女を失った日。
ギコとドクオにとっては平穏を失った日。

あの日の後悔が首をもたげ、彼らの胸を締め付ける。

川 ゚ -゚)「ドクオ、ギコ。ここまで来てくれてありがとう」

壮大な日本家屋の建つ敷地の門の前、クーは振り返ることもせずに言った。

川 ゚ -゚)「後は手筈通りに頼むよ」

二人はこくりと頷く。
緊張のあまり鳴らした喉の音が響く。

クーは一歩踏み出す。

('A`)「クー」

川 ゚ -゚)「ん?」

(;'A`)「あ……」

33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:48:27 ID:aoQMOqssO

思わず声を掛けてしまったドクオ、しかしその先が続かない。
振り向いたクーは決して急かさない。
ドクオの隣に立つギコも何も言わない。

('A`)「……絶対、死ぬなよ」

川 ゚ -゚)「……もちろんさ」

クーはインターホンを押す。
その後ろ姿を近くの藪に隠れて見守るドクオは内心、あまりに直球な自分の言葉を後悔していた。

('A`)「まるで、クーが戦地にでも行くみたいじゃないか」

その表現も全くの間違いというわけではない。
しかし、この状況ては不謹慎と言わざるをえなかった。

(,,゚Д゚)「ドクオ、クーが行ったぞ」

携帯電話を握り締めたギコが、顎で指し示して言った。
ドクオはゆっくりと門が閉められる様子を確認する。

('A`)「いよいよ、か」

見上げた空からはらり、雪が舞い降りてきた。

34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:49:26 ID:aoQMOqssO


クーが通されたリビングの椅子からは、よく手入れされた花瓶に生けられた花が見えた。

川 ゚ -゚)「あれは?」

白い花を指差し、クーは尋ねる。

ζ(゚ー゚*ζ「あれはね、胡蝶蘭。綺麗な花でしょう?」

川 ゚ -゚)「ええ。華やかなのに上品で……あなたによく似合う花だと思います」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ……。クーちゃん、上手いわね。女の子なのが残念」

デレは軽口を叩くと席に着いた。
穏やかな笑みを湛えた彼女はやはり、人に危害を加えるような人物には見えない。

ζ(゚ー゚*ζ「……それで、お話って何かな?」

デレの言葉に気を引き締め、クーは言った。

川 ゚ -゚)「先日の、ドクオが通り魔に刺された事件の話です」

迷うことなどない。
伝えるべき用件を簡潔に吐き出した。

35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:50:26 ID:aoQMOqssO

ζ(゚ー゚*ζ「ドクオ君、大変だったわね。入院したまま年を越したんでしょう?」

川 ゚ -゚)「そんなの、どうでもいい。ドクオは無事だったから、どうでもいいんです。
     そんなことより、私は……貴女に事実を話してほしいんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「事実って、何かしら?」

涼しい表情のデレは語調も変えずに問う。
自分が男だったならその美しい容貌に誤魔化されていたかもしれない、そんな顔だった。

しかしクーは臆することなく、自らの手で掴んだ事実を突き付けた。

川 ゚ -゚)「私は知っています。貴女が、ドクオを刺したことを」

ζ(゚ー゚*ζ「私が、ドクオ君を? どうして私がそんなことをしなきゃいけないのかな?」

川 ゚ -゚)「ドクオの前にプギャーが死に、ギコの家が火事にあった。
     そして先日、行方不明だったジョルジュとモララーとブーンが見つかった」

クーの声が震える。
彼女の頭に、二度と戻らない日々の記憶がちらつく。
目の前の女をこの手で殺すことが出来たなら、どんなに心が晴れるだろう。

36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:51:32 ID:aoQMOqssO

まだ真実は分からない。
ヒッキーが万に一の確実でデレと真犯人を同一人物と勘違いしているのかもしれない。
しかしクーの中ではすでにデレが真犯人となっていた。
若いクーは、それを心の拠り所にするしかなかったのだ。

暗い気持ちがクーの心を支配しようとしたその時、デレの顔から表情が消えた。

ζ(゚- ゚*ζ「何でよ……どうして……」

川 ゚ -゚)「デレさん?」

ζ(゚д゚;ζ「私は、私は誰よりあの子を、ジョルジュを愛していた! 私があの子を殺すはずないでしょッ!?」

鬼気迫るデレの表情に嘘の色は見えない。
第一、こんな完璧な演技は大女優だって難しいだろう。

ζ(゚д゚#ζ「誰? あの子は、誰に殺されたの!?」

ζ(゚- ゚*ζ「……ねぇ、クーちゃん、貴女、知ってるんじゃないの?」

ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ、答えてよ」

川;゚ -゚)「私、は……」

37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:52:46 ID:aoQMOqssO

何も知らない。
本当に何も知らない。
それでもデレの眼光に射ぬかれてしまえば即座の否定は出来なかった。
クーは蛇に睨まれた蛙以外の何物でもなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ、ツンもだもの。貴女に好かれたから死んだのよ。モララー君だってブーン君だって、そうじゃない」

川;゚ -゚)「違う……私は!」

川 ゚ -゚)「……私は本当に、何も知らないんです」

クーは言う。
それと同時に、彼女はデレの言葉の違和感に気付いていた。
そしてそれこそが、デレの綻びだと確信した。

川 ゚ -゚)「仮に、私の好きな人ばかりが死ぬのだとして、なぜ貴女は彼の名を言わないんです?」

ζ(゚ー゚*ζ「……何のこと?」

川 ゚ -゚)「どうして、プギャーの名を言わないんだ?」

ζ(゚ー゚*ζ「……ふ」

ζ(^ー^*ζ「ふふ……そうね……何でかなぁ……」

38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:53:42 ID:aoQMOqssO

デレの声色は目まぐるしく変化する。
怒り、悲しみ、憎しみ。
そして現在の彼女に滲むのは、とても愉快そうな感情であった。

川 ゚ -゚)「私は知っている。あの日貴女が……プギャーを……」

ζ(゚ー゚*ζ「突き落としたこと?」

川;゚ -゚)「……!」

クーは息を飲む。
デレは認めた。
穏やかな声でクーを切り裂いたのだ。

クーが見たのは、あくまでデレの後ろ姿だった。
かまをかけただけのつもりだった。

本当は、心の隅ではデレが否定してくれて真犯人が見つかる可能性も信じていたはずだった。
デレの放った一言は、クーに残されたほんの少しの光明すら消し去ってしまったのだ。

川;゚ -゚)「なんで……」

ζ(゚ー゚*ζ「偶然ね、見たの。ジョルジュとプギャー君が楽しそうに話をしているのを」

39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:54:40 ID:aoQMOqssO

震えるクーと微笑むデレ。
事情を知らぬ人間が見たのなら、デレの方が狂っていると思う者はいないに違いない。
それほどにクーはいつもの涼しげな表情を崩しているし、デレは優しげに笑うのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュが電車に乗った後も、あの子は楽しげだった。だから私は、思わず話し掛けた」


ζ(゚ー゚*ζ「プギャー君?」

(;^Д^)「で、デレさん!?」

ζ(゚ー゚*ζ「なんだか楽しそうだけど、どうしたの?」

(;^Д^)「いやー……それは、あの……」

ζ(゚ー゚*ζ「私とプギャー君だけの秘密にするから、教えて?」

( ^Д^)「……」

(*^Д^)「実は……」


ζ(゚ー゚*ζ「許せなかった。私が苦しんでいる間に、あの子は!」

川 ゚ -゚)「……」

40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:56:03 ID:aoQMOqssO

ζ(゚ー゚*ζ「私は思わずあの子を突き落としていた。そこに丁度電車が来たから反射的に逃げたの。
      ……誰もいないと思っていたんだけど、クーちゃんは見ていたのね」

クーは否定しない。
見てはいないが、デレが最愛の人を死に追いやる光景は鮮明に想像出来た。

彼は、何を想いながら死んだだろうか。

ζ(゚ー゚*ζ「貴女、プギャー君と付き合っていたのね。楽しかった?」

川 ゚ -゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「所詮、ただの恋愛ごっこでしょう。私も学生時代はそうだったから、よく分かる」

デレはクーに憐れむような目を向ける。
しかし、それは同情ではない。
自分に真実を話させたクーを傷付けることで僅かな優越感に浸っているのだ。

川;゚ -゚)「私、は。私は本当に、あいつのことが好きだ。最初は違ったけど、あいつはいい奴で、それで……」

ζ(゚ー゚*ζ「下らない。貴女の愛なんてその程度なのよ」

川;゚ -゚)「たしかに、そうかもしれない。でも、私はやっぱり好きだった。
     あいつも、他の皆も、ツンちゃんも。
     だから……だから私は、決めたんだ」

川 ゚ -゚)「私は、貴女に罪を認めてもらうと決めたんだ」

41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:57:21 ID:aoQMOqssO

クーの瞳に迷いはない。
しっかりと、その眼光をもってデレを射抜く。

しかしデレはやはり優雅に構え、嗤う。
今まで綺麗に揃えていた足を組んだデレはクーを見る。

川 ゚ -゚)「デレさん、やっぱりドクオも?」

ζ(゚ー゚*ζ「そうよ、その通り。あの子だったのに深い意味はないけれど、ね。
      ……人目の確認はよーくしたつもりだったんだけど、よく分かったわね」

川 ゚ -゚)「事件現場近くの民家の窓から見ていた子がいましたから」

クーは心の中でヒッキーに感謝する。
彼がいなければ自分はきっとデレと会話することもなかったのだ。
礼はケーキだけでは足りない。警察官である自分の父に彼のことを話してやろう。

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ……目撃者なんてよく見付けたわね。やっぱりクーちゃんは賢いのね」

デレは楽しげに言う。
追い詰められたような顔は見せる気配もない。
空になったティーカップに新たな紅茶を注いで口に運ぶ余裕すら見せている。

ζ(^ー^*ζ「じゃあ、ドクオ君にクロユリを届けたのが誰かも分かったかな。
      あんなただの嫌がらせごときで私に辿り着かれなくて良かった」

ζ(゚ー゚*ζ「でもね、私がやったのはそれだけ。後は知らない」

42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:58:32 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「……」

ζ(゚ー゚*ζ「そう怖い顔をしないで。……だって、そうじゃない、あの日も私は車で街まで出ていた。不可能なの」

照明のせいか、デレの顔には影が落ちる。

今更、デレが嘘を吐くだろうか。
吐かないと信じたい、しかしデレの心情を知るのなら彼女が何もしない方が不自然にも思えた。

ζ(゚ー゚*ζ「……ふふ……ふふふ……。みんな、罰が当たったの」

ζ(^ー^*ζ「モララー君なんて、真っ先にツンを見捨てたんでしょう?
      私が何もしなくても、きっと神様が罰を与えてくれたの」

クーとデレ、二人しかいない空間にデレの声が響く。

ζ(゚ー゚*ζ「ジョルジュだって、本当はブーン君が殺したんじゃないの?
      次は自分が殺されるって勝手に勘違いして、それで私から大切なものを奪っていったんじゃないの?」

デレはクーに早口で語り掛ける。
語り掛けるというよりもそれは、洗脳でもしようとしているようであった。

そしてそれは、クーの怒りに触れた。

川#゚ -゚)「違う!」

ばん、と大きな音が立つ程にテーブルを強く叩き、その勢いのままにクーは立ち上がった。

43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 13:59:33 ID:aoQMOqssO

川#゚ -゚)「モララーは、誰よりもあのことを後悔していた!
     あいつは、面倒見のいい奴で……他の皆のことを思ったら切り捨てるしかなかったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「やっぱり見殺しにしたんじゃない」

川 ゚ -゚)「でもあの時の、気の動転したあいつにはそれしか選べなかったんだ。
     だからあの日から何度も私に電話があったし、実際に会って話もした」


( ・∀・)「なぁ、僕、人を殺してしまったんだ」

川 ゚ -゚)「違う、あれは不可抗力だろう。あのまま捜索していたらモララー達の方こそ危なかったんだから」

( ・∀・)「違わないよ。……夢に出てくるんだ、ツンちゃんが。泣きながら僕に助けを求めるんだ」

川 ゚ -゚)「ツンちゃんは、君を責めたりしない」

( ・∀・)「そんなの、クーにだって分からないじゃないか。彼女は僕を恨んでいる。
      僕があの子を殺したから、だから毎晩のように僕を苦しめるんだ」

川 ゚ -゚)「モララー……」

( ・∀・)「でも僕は死にたくない。夢だってあるから、まだ生きたいんだ」

川 ゚ -゚)「……」

( ・∀・)「クー、僕はいったいどうしたら、この罪を償えるのだろう」

44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:00:30 ID:aoQMOqssO


川 ゚ -゚)「結局、何も切り捨てられない奴だった。
     モララーはモララーなりに最善を選んだはずなのに割り切れなかったんだ。
     ……貴女はそれでも、彼を責めるんですか?」

クーの静かな問いに返答はない。
しかし沈黙こそ、クーに反論出来ないことの表れのようでもあった。

川 ゚ -゚)「……ブーンだって、あいつは誰よりも優しかった。
     たとえ誰かに殺されそうでも、その相手を殺すことなんて出来ない」

静かに着席するクーを見据えてデレは溜め息を吐く。

ζ(゚ー゚*ζ「どうしてクーちゃんは、そこまであの子達を擁護出来るの?」

川 ゚ -゚)「さっきも言った通り、皆好きだから。ツンちゃんだって、ただの不幸な事故だったんです」

ζ(゚ー゚*ζ「そう……」

口元に手を当て、それきりデレは黙り込んだ。
感情のこもらない瞳は中空に向き、クーと視線が合うことはない。

川 ゚ -゚)「……デレさん、自首、しませんか」

クーの言葉に、デレははっと顔を上げた。

45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:01:40 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「プギャーとドクオのことは、貴女がやったんですよね?」

ζ(゚- ゚*ζ「そう、ね……」

川 ゚ -゚)「私はジョルジュやツンちゃんを本当の兄弟みたいに好きだったように、デレさんのことも好きなんです」

ζ(゚- ゚*ζ「……」

デレは無言で立ち上がるとクーに背を向け、台所へ向かった。
どうしたのだろうか、クーは疑問に思うが、取り敢えずはデレの様子を観察する。
後ろ姿のデレは、なにやら洗い物をしているようであった。
しかし、なぜこのタイミングでそんなことをするのか、クーに分かるはずはない。

ζ( - *ζ「私は、やっぱり許せない」

水音が止まる。

ζ(゚- ゚*ζ「私はやっぱり、母親だもの。だからあの子達がいないとダメなの」

振り向いたデレの右手を見咎めたクーの顔が引きつる。
ぽたぽたと水滴を垂らしながら、ゆっくりとデレが向かってくる。
クーは思わず荷物を抱えて立ち上がっていた。

ζ(゚- ゚*ζ「ミステリーの犯人だって、目撃者や真相に辿り着いた者を殺すでしょう?」

鈍く輝く刃を構えた女が笑顔で近づいてくる。

46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:02:42 ID:aoQMOqssO

ζ(゚ー゚*ζ「さよなら、クーちゃん……」

川 ゚ -゚)「デレさん、貴女は無意味な罪を重ねるんですか?」

その言葉と同時、クーが鞄から取り出したものにデレの視線は釘付けとなる。

ζ(゚- ゚*ζ「携帯、電話……」

川 ゚ -゚)「これ、ずっとスピーカーホンになっていたんですよ」

ζ(゚- ゚;ζ「……!」

さあっとデレから一瞬で血の気が引いたのをクーは見た。
この日初めて、クーはデレの劣勢が分かる表情を見たのだ。

川 ゚ -゚)「この向こうで、ずっとドクオとギコが聞いています。録音だってしてますから、もう逃げられません」

クーがさらに取り出したCDレコーダーを見たデレの右手から、包丁が落ちた。

47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:03:55 ID:aoQMOqssO


(´・_ゝ・`)「クー、こんな危ないことは二度とするんじゃないぞ」

川 ゚ -゚)「ああ、これきりにするよ」

デレの自首に付き合ったクーは、その日のうちに実家のリビングで父親に怒られていた。

(´・_ゝ・`)「本当に、それが口だけじゃないといいけど」

川 ゚ -゚)「少なくとも今は、口だけじゃないつもりだよ。
     今日のことだっていざというときにはドクオとギコに助けてもらう約束だったんだ。私なりに考えたんだよ」

(´・_ゝ・`)「……クーは、言っても聞いてくれないんだな」

川 ゚ -゚)「私はいつだって自分に素直に生きたいんだ。
     だから正しいと思ったなら、たとえそれが危険な道でも、私はそれを選ぶよ」

父の目をしっかり見つめて話すクーに、やがて彼は溜め息を洩らしたのだった。

48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:05:07 ID:aoQMOqssO

(´・_ゝ・`)「まったく……誰に似たんだか……」

川 ゚ー゚)「さあね。警察官の父さんの影響じゃないか?」

くすりと笑う娘の言葉に父も苦笑いを返す。

クーが生まれてからの時を共有した実の親子だ、互いの性質は分かっていた。
父もまた若い頃の無茶を娘に語っていたから、彼女を強くは叱れなかったのだ。

(´・_ゝ・`)「今日はここまでにしておく。……クーなら、俺より立派になれるよ」

川 ゚ -゚)「ありがとう」

クーはソファーから立ち上がり、自分の部屋へ向かった。
自室から見た外の世界は闇夜と雪に掻き消されていて、民家の明かりすら発見することは出来なかった。

49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:06:16 ID:aoQMOqssO


――4――


あれから半年経った夏休み。
父から直接話をしたいと言われたクーは実家に戻っていた。

川 ゚ -゚)「話というのは?」

冷凍庫から取り出したソーダバーをかじりながら父に訊ねた。
開けっ放しの窓から入る蝉の声がクーから落ち着きを奪ってゆく。
汗で額に張り付いた前髪を掻き上げ、もう一度父を見やる。

(´・_ゝ・`)「長岡さんの……デレさんのことだ」

デレの名を耳に入れた瞬間、クーは残ったアイスを一気に頬張って当たりと書かれた棒をティッシュにくるみ、
真剣な眼差しを父に向けた。
あれ以来、クーはわざと事件から目を背けていたが、デレのその後が気にならないはずがなかったのだ。

川 ゚ -゚)「デレさんはあの後、どうなったんだ?」

知っているのは逮捕されたデレが精神鑑定を受けているということまで。
それすらもドクオを通して聞いた話だから、実際のところは分からなかった。

50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:07:26 ID:aoQMOqssO

(´・_ゝ・`)「彼女は、不起訴になったよ」

川 ゚ -゚)「不起訴? ……やっぱり精神状態が芳しくなかったのか」

(´・_ゝ・`)「ああ、芳しくないどころじゃない。今の彼女はまともな会話すら成立しないような状態らしい」

川 ゚ -゚)「そうか……」

最後に見たデレの姿を思い出す。
彼女がクーに見せたのは柔らかな笑顔であった。

デレの精神を保っていた最後の砦は、おそらく復讐心。
それを果たせなくなったのだ、心が壊れてしまうのも無理はない。
しかしそれでもクーは、在りし日の、母のように慕った女の笑顔を忘れることが出来ないのだ。

(´・_ゝ・`)「クー、話は変わるが」

物思いに耽るクーに父が声を掛ける。

(´・_ゝ・`)「そのうち持ってくって言ってたパソコン、いつまで放置する気だ?」

川;゚ -゚)「……忘れてた。それにしても本当に話が変わったな」

一人暮らしを始める際、面倒だという理由で自室に放置していたノートパソコンの存在を、
クーは父に言われるまですっかり忘れていた。
彼女はティッシュに包まれた当たり棒を持って立ち上がった。

51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:08:26 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「今日にでも持ってくよ」

最後に父にちらりと視線を向け、まずは台所へ向かった。


久方ぶりのノートパソコンの起動音が鳴り響く。
それに未だおさまらない蝉の合唱が加われば、頭痛さえしてくる。

川 ゚ -゚)「父さんには悪いことをしたな……」

ネット環境も完備、すなわち無駄な金を父に払わせていたことに気付いたクーは心の中で父に謝った。

起動してまずはメール確認。
これは以前のクーの日課であった。
メールする相手はいなかったが、なんとなく気になってしまっていたのである。

川;゚ -゚)「……!」

一件、新着メールがあった。
何気なく確認したメールの送信者の名。
クーは大きく目を見開き、本文に目をやる。

川;゚ -゚)「……」

52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:09:46 ID:aoQMOqssO

長い文章だった。
彼の抱えていたものが吐き出されていた。

そして、結び。

川;゚ -゚)「『俺の罪を幼馴染みのクーには知っていてもらいたいので、このメールを送りました。』……」

川 ゚ -゚)「ジョルジュ……」

日付は昨年の大晦日の早朝。
たった一通のメールにより、クーの考えは全て否定された。

クーはジョルジュを僅かにでも疑ったことはなかった。
しかし、半年前に届いたメールにはジョルジュの懺悔が記されていた。
ツンへの想い、付き纏う罪悪感、甘美な夢、これからの予定。

クーは、久しぶりに頬を濡らす感覚を味わった。

53 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:11:35 ID:aoQMOqssO


――エピローグ――


青い空に白い雲。
頭上に広がるのは、夏といったら誰もが思い浮べるような景色だ。

(,,゚Д゚)「クー! こっちこっち!」

駅前で大きく手を振る男を見付けたクーは、買ったばかりの花束を大事に抱えて走った。

川 ゚ -゚)「ギコ、遅れてすまなかったな。……ドクオは?」

(,,゚Д゚)「そろそろ来るはずなんだが……あ!」

間抜けな声を出したギコは、息を切らしながら走るドクオを見付けた。

(;'A`)「すまん。寝坊した」

(,,゚Д゚)「未来の村議会議員がこれだからなぁ」

('A`)「だから俺は議員なんかなる気ねえよ」

近くの駐車場に停めていたギコの運転する車の助手席にドクオ、後部座席にクーが乗り込む。
キーを差し込み回せば、軽快なエンジン音。

54 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:13:48 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「場所変わったんだっけ?」

クーは訊ねる。
彼女の父親の話では、デレの出来事で村にいずらくなったデレの夫は事件のすぐ後には引っ越しをしたという。
墓はそのままだったのだが、今更になってそれさえ移したのだと聞いた。

('A`)「ああ、町外れの寺の墓地だ。場所は聞いてるから案内は任せろ」

そうして、三人の乗った車は静かに動きだすのだった。


(,,゚Д゚)「クー、仕事はどうだ?」

川 ゚ -゚)「順調、かな。今日は有給取れるくらいには暇だ」

('A`)「クーの場合、暇な方が世の為人の為だよな」

川 ゚ -゚)「そうだな。刑事なんて暇が一番さ」

落ち着いた色合いの私服を着こなすクーは、一見すれば刑事なんて物騒な仕事をしているようには見えない。

川 ゚ -゚)「君達の方はどうなんだ?」

ぼんやりと見ていた窓から視線を前方に向け、訊ねる。
地図を持ったドクオがそれに答えた。

('A`)「俺の方は普通。村役場で順調に昇進してる。……そんなことより、ギコがすげえんだよ」

55 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:15:05 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「ほぅ……どう凄いんだ?」

('A`)「あ、次の交差点を右な。
    ……そうそう、新しい品種の米が大当たりなんだよ。今度テレビの取材も来るぞ」

(,,゚Д゚)「まあ、本当にすごいのはしぃだけどな。あいつがメインで開発したのを俺が育てただけだし」

ギコは赤信号で停車し、ちらりとクーを見ながら言った。
謙遜はしているが、妹が開発して自分が作ったという自慢の米の売れ行きが良いというのは嬉しいらしく、
声は年甲斐もなく弾んでいる。

川 ゚ -゚)「二人とも上手くいってるようだな、良かった」

クーは再び窓の外に目を向ける。
真夏の日差しの下、小さな子供連れが楽しそうに歩道を歩いている。
ベビーカーを押す母親の腹は膨らんでいた。

川 ゚ -゚)「……そういえば、ギコの所は去年四人目が生まれたんだったな」

(,,゚Д゚)「子供はいいぞー。お前らも早く結婚しろよ。
     ドクオはともかく、クーは相手なんていくらでもいるだろ?」

川 ゚ -゚)「……結婚、か」

結婚適齢期といえば二十代後半くらいであろうか、その頃のクーは日々の仕事に明け暮れていた。
三十路に差し掛かった現在も、クーに特定の相手はいない。

56 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:16:02 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「人を好きになるというのは重いな。私はたぶん、結婚しないよ」

学生時代の、ほんの僅かな日々が、クーの脳裏に焼き付いて離れないのだ。
愛しい人との、ささやかな逢瀬。
忘れられない、いとおしい日々。

(,,゚Д゚)「もうさ、お前ら結婚しちまえよ」

しかし過去に想いを馳せるクーの耳に、予想もしなかったギコの言葉が突き刺さった。
どうやらギコに、クーの呟きは届かなかったらしい。

(;'A`)「はぁ!?」

先に反応したのはドクオである。
地図を取り落としそうな程に驚き、素っ頓狂な声を上げるのだ。

(;'A`)「お、おま……何言って……!」

(,,゚Д゚)「だって同級生の中で結婚してないの、もう二人だけだろ。今度の同窓会でも絶対にネタにされるぞ」

(;'A`)「だからって! ……クーだって、嫌だよな!?」

ギコの表情をミラー越しに窺う。
彼はにやりと、意地の悪い笑みを浮かべていた。

57 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:16:57 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「私は、ドクオならいいかもしれないと思うぞ」

(;'A`)「じょ、冗談やめろよ……」

川 ゚ -゚)「まぁ、私はこっちに戻るつもりがないから結婚は不可能なわけだが」

目を向けた先の寂しそうな表情のクーに気付いたドクオは黙り込む。
僅かな静寂の後、ドクオが再び口を開いた。

('A`)「そういやクー、それは何の花だ?」

後ろを向いたドクオが、クーの膝の上の花束を指し示す。
彼女が大事そうに持つのはピンク色の花であった。

川 ゚ -゚)「ゼラニウムの花だよ。花屋に行ったら、ペニサスさんが見繕ってくれたんだ」

('A`)「へぇ……あの人も相変わらずだな。センスいい」

(,,゚Д゚)「未だに婚活三昧らしいしな」

川 ゚ -゚)「本人の前では絶対に言うなよ。気にしているようだったから」

談笑、穏やかな空気が冷房の効いた涼しい車内を満たす。
そのまま車はドクオの指示で徐々にスピードを落とし、駐車場に入った。

58 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/10/28(日) 14:18:19 ID:aoQMOqssO

川 ゚ -゚)「さあ、まずはジョルジュとツンちゃんに会いに行こうか」

一歩車外へ出れば、じりじりと肌を焼くような熱に晒される。
広がる青空に目を細めて、クー達は歩きだした。




――川 ゚ -゚)雪の花のようです・終――


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