- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:20:07.87 ID:QEFjvBR20
( <●><●>)『音』のようです
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:21:14.64 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の音が静かな部屋に響きます。
( <●><●>)「暇…ですね」
この部屋にいるのは私だけ。
窓も、何もないただ閉鎖された空間。
時計が一つ、壁にかかっているだけ。
私はどうしてここにいるのでしょうか。
自分にも分かりません。
原因を考えるにしても少し時間を遡らなくてはいけないようです。
いつも通り、二人の親友と一緒に家路についていました。
他愛も無いお喋りをして、明日の天気なんかを気にしながら。
そういえば、親友の二人は…
そうです。
『ちんぽっぽ』と『ビロード』という名前です。
親友の名前を忘れかけるなんて、私もどうかしていますね。
( <●><●>)「彼らは今どうしてるんでしょうかね…」
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:25:16.31 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の音を聞きながら、私は数日前に想いを巡らせます
( <●><●>)「あの日は、晴れてましたね。夕陽が綺麗に見えて…」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:27:04.42 ID:QEFjvBR20
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
( ><)「明日は晴れてほしいんです!球技大会楽しみなんです!」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽぽぽー」
( <●><●>)「明日は雨の予報だったはずなのは分かってます」
そう。
次の日が球技大会で、ビロードだけがやけに張り切っていましたね。
運動が苦手な私とちんぽっぽさんは、少々憂鬱さを感じていましたが。
(*><)「ワカッテマスくんも、ちんぽっぽちゃんも内心では楽しみにしているんでしょう?」
( <●><●>)「それが運動音痴の私へのあてつけなのは分かってます」
(*‘ω‘ *)「ぶち殺すぞ細目」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:28:50.30 ID:QEFjvBR20
明らかに空気の読めないビロードの発言に、二人で憤慨していたんでしたね。
(;><)「でも!ソフトボール楽しみなんです!」
( <●><●>)「あんな棒と玉で愉しむスポーツの何が面白いんですか」
(;><)「なんかその言い方は変態臭がするんです!」
(*‘ω‘ *)「黙れよ包茎(ぽっぽぽっぽ!)」
(;><)「本音と建前が逆なんです!っていうかいつも僕に対してそんな事思ってたんですか!?」
そうそう、そんな会話をしてましたね。
いつもの通りの他愛のない会話。
( <●><●>)「そういえば、ニュース――で――が―」
(;><)「――です。――」
(*‘ω‘ *)「―っぽ―――」
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:31:28.21 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の音で私は記憶の世界から引き戻されます。
( <●><●>)「…あの後、何の会話をしたんでしたっけ…」
おかしいですね。
いつもなら一週間前の朝食くらいまでの記憶は全て思い出せるっていうのに。
( <●><●>)「私らしくもありませんね」
霞がかかったかのように、記憶はぼやけてしまっています。
スプーンで掬ってしまえそうなほど濃い霞なのに、捕まえようとするとするりと隙間から抜けてしまう。
なぜだ?
なんでこんなにも思い出すことができない?
気になりだすと止まらない性分の私です、このままではスッキリとしません。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:38:30.90 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の耳障りな音が、響き続けています。
考えもまとまらず、思考を疲れてやめてしまいました。
手持ち無沙汰になった私は、さっきの鉄の扉を少し触って調べてみます。
( <●><●>)「……?」
温度も、感触も伝わってきません。
少し遅れて冷えた硬い金属の手触りが伝わってきました。
きっと、長いこと物に触らなかったので感覚がおかしくなっていたのでしょう。
( <●><●>)「何の変哲も無い、鉄ですね」
こんな状況などあったことがないのに、『何の変哲も無い』なんていうのはおかしいでしょうが、そう言うしかないでしょう。
鍵穴に指を這わせると、かちかちと動きそうで動きません。
残念なことに私はピッキングなどということはできませんから、触ったところでどうしようもありませんが。
( <●><●>)「もし、そんな技術あったとしても、道具ありませんがね」
現実を見つめるというのは大事なことです。
ビロードには『冷たいんです!』なんて冗談半分に言われましたが。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:44:58.61 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の音がこんなに耳につくっていうのは普段の生活では考えられないですね。
静かなのは好きではありますが、ここまで静寂が続くのは苦痛ですね。
( <●><●>)「そういえば、記憶をまた辿ってみましょうかね」
少し間をおいたらなにか思い出すかもしれない。
そんな文句を何かの小説で読んだ気がしますし。
今度はもっと記憶を遡ってみましょう。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:50:37.04 ID:QEFjvBR20
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
( ´∀`)〔次のニュースをお伝えしますモナ。
先日から続く日本と某国との冷戦状態は、以前進展を見せないまま―〕
( <●><●>)「…恐いものですね。自衛隊も各地に配備されてるらしいですし…」
ノパ听)「私には兄さんと違って難しいことは分からんが、大変だああぁぁ!」
騒がしい妹です。
家では、両親が海外へと出張中ですので、妹と二人で暮らしてました。
仲の良い兄妹と、自信を持って言える関係でしたので、そんなに不便はありませんでしたね。
( <●><●>)「それにしても、これでは戦争でも起こってしまうんじゃないでしょうか」
ノハ;゚听)「そ、そうなのか!?戦争が起こったら危ないんじゃないか!?」
( <●><●>)「きっと、大丈夫ですよ。どうせまた話し合いで解決するんです」
ノパ听)「大統領同士が拳で!熱く!語り合えば!」
( <●><●>)「…日本は大統領ではなく総理大臣ですよ」
ノハ*゚听)「関係ないさ!熱い心が世界を救うんだよ兄さん!!」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:55:23.58 ID:QEFjvBR20
( <●><●>)「そうだと…いいんですけどね…」
再びテレビの画面に目を移すと、某国の式典の映像が流れています。
ノパ听)「…兄さん、戦争になんか、ならないよな?」
妹がいつになく真剣な顔で聞いてきます。
しかし、まさか戦争なんて起こらないでしょうし、それなりの理性をもった大人同士。
政治家だって馬鹿ではありません。
( <●><●>)「…まさか、そんなことになんかなるわけありませんよ」
ノパ听)「…だよな!」
もしも、その時が訪れたとしても、妹だけは、守ってあげなければ。
とても口に出せたセリフではありませんが、そう考えたんでした。
ノハ;゚听)「ほら!兄さん!遅刻する!急ぐぞおおぉぉ!」
( <●><●>)「…やれやれ」
未だに某国の映像を流すテレビのスイッチを乱暴に消すと
消える直前のキャスターの言葉が、聞こえます。
( ´∀`)〔尚、某国――〕
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:57:00.43 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の音は、相変わらず一定のリズムで時を刻みます。
( <●><●>)「…そう。あの日は朝食の時に妹…ヒートと一緒にニュースを見ましたね」
記憶が前後しているようで、断片的に思い出すことしかできません。
( <●><●>)「…結局、日本はいつも通り平和なままなんでしょうね」
ニュースの内容は鮮明に思い出せるのに、あの日の全てを思い出そうとすると断片的になる。
やっぱり、ここに来る間に何かしらの混乱でもあったんでしょうか。
まず、なぜここにいるのかを思い出さない事にはどうしようもありません。
( <●><●>)「…あの日、『何か』が起こったのは確実なんですけどね」
ただもどかしさだけが募っていくのを感じながら、思考の世界へと沈んでいくとしましょう。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 22:58:39.77 ID:QEFjvBR20
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
(*><)「ワカッテマス君!一緒にお弁当食べるんです!」
(*‘ω‘ *)「ぽぽっぽー」
昼の教室。
あの日も周りは仲良し同士で机をくっつけたり、どこかの教室へと出て行ったりと賑やかでしたね。
( <●><●>)「では、いい天気ですし、屋上でも行きましょうか?」
( ><)「そうするんです!」
(*‘ω‘ *)「ぽっぽぽぽぽぽっぽー」
そう。三人で屋上で昼食を食べるのも『いつもの事』。
(*^ω^)「おっおっ!ドクオの卵焼きいただきだお!」
(;'A`)「TEMEEEEEE!俺の学校生活の唯一の楽しみを渡すかあああぁぁ!」
ξ;゚听)ξ「もっと他の楽しみを持ちなさいよ…」
階段を上ると、先客が騒がしいのも、『いつもの事』。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:00:27.82 ID:QEFjvBR20
( <●><●>)「…相変わらず楽しそうですね」
(*^ω^)「おっ!ワカッテマス達も一緒に食べようお!」
このお誘いも『いつもの事』。
( ><)「一緒に食べたほうがきっと楽しいです!」
(;A;)「俺の卵焼き…」
(*‘ω‘ *)「そんくらいでグズグズ言ってんじゃねぇよ(ぽっぽぽぽ!)」
ξ;゚听)ξ「もう何が何だか…」
大人数で食事をするのはとても楽しいものです。
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:03:30.14 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
飽きることも、止まることも無く、時計の音が続きます。
( <●><●>)「特に、変わったことも無かった…ですね」
昼時はいつも通り。
楽しい時間を過ごしたことしか記憶にありません。
( <●><●>)「…もっと、他の時…ですかね」
更に記憶を辿ろうとすると、鉄の扉の向こうから足音が聞こえてきます。
( <●><●>)「
…誰か、いるんでしょうか…?」
しかし、ドアには窓はおろか隙間もありませんから、向こうを見ることはできません。
足音が少しずつ少しずつ近づいてきます。
よく聞けば、足音は一つではありません。
ざ、ざ、ざ、と規則正しく、大勢の足音が近づいてきます。
(;<●><●>)「一体、なにが起こってるんですか…」
不気味なまでにそろった足音。
しばしの静寂の後、ごとごとと重い何かを退かす音。
よくよく聞いてみれば、扉の向こうのようでありながら、上から聞こえてくるようでもあります。
(;<●><●>)「私は…」
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:06:54.79 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
心なしか時計の音が早く聞こえる気がします。
心の持ちようなのでしょうか。
( <●><●>)「……」
気づけば先ほどの足音は聞こえなくなっていました。
私は再び記憶の中へと深く入っていきます。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:09:03.46 ID:QEFjvBR20
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
( <●><●>)「ただいま帰りました」
鍵を開けて、玄関のドアを引くと、夕日が家に差し込みます。
風呂場の電気がついているところを見ると、妹がシャワーでも浴びているのでしょう。
( <●><●>)「…テレビでも見ますか」
独り呟き、リモコンを操作すると、一瞬の後に画面に映像が映ります。
ニュースキャスターが深刻そうな顔をしてニュースを読み上げていました。
(゚、゚トソン〔昼ごろに行われていた某国との会談は意見を違える結果となり、現在緊張状態が続いています。
事態によっては、某国は核兵器の使用も示唆しており、非常に危険な状態です〕
(;<●><●>)「…なっ」
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:10:33.76 ID:QEFjvBR20
一瞬言葉を失いました。
茫然とテレビの前に立ち尽くし、頭の中は真っ白。
(;<●><●>)「まさか、こんなことになってるとは…」
信じられない。
しかし、どうせ自分は無事だろう。
まさか自分の地域には、来ないだろう。と。
画面の中、ニュースキャスターに新たな資料が渡される。
(゚、゚;トソン〔っ!只今速報が入りました!某国議会はミサイルの発射を決定!
着弾地点は今だ不明ですが、政府は待機している各地の自衛隊に迎撃を指示しました!〕
―――――――……・・・・・・ ・ ・ ・ ・
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:12:16.02 ID:QEFjvBR20
かち、こち。
時計の音が、だんだんと早く動いているように思えてきました。
気のせいではなく、感覚が狭まっています。
(;<●><●>)「そうだ。あの日、某国からのミサイルが来るとニュースがあって…
私は、信じられないまま、居間に立ち尽くしていた…」
――あの帰り道、私は親友と何の話をした?
( <●><●>)『そういえば、ニュースの中で某国が戦闘態勢だと』
(;><)『ありえないんです。きっとデマですよ』
(*‘ω‘ *)『ぽっぽっぽ』
――あの日の朝、ニュースは何と言っていた?
( ´∀`)〔尚、某国は規律正しい軍隊で知られており…〕
――さっき聞いた音は?
―よく聞けば、足音は一つではありません。
ざ、ざ、ざ、と規則正しく、大勢の足音が近づいてきます。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:13:07.43 ID:QEFjvBR20
――なんで、
( < >< >)「なんで、鉄の冷たさをすぐに感じなかった?」
鉄は冷たいもの、それが『普通』と思っていたから。
触れたら、金属だとわかると思っていた。
( < >< >)「部屋には、扉があるのが『普通』」
そう、出入り口がなければ入ってこれない。
( < >< >)「じゃあなんで、『何もない空間』で、物が分かるんですか」
蛍光灯も、裸電球すらない場所で。
( < >< >)「上から、聞こえたのは、軍靴の響き…」
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:14:28.27 ID:QEFjvBR20
――私は――
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:15:30.97 ID:QEFjvBR20
(゚、゚;トソン〔っ!只今速報が入りました!某国議会はミサイルの発射を決定!
着弾地点は今だ不明ですが、政府は待機している各地の自衛隊に迎撃を指示しました!〕
(;<●><●>)「なっ!?」
ノハ*゚听)「兄さんどうかしたのかー?」
妹が風呂から出てきます。
私は、黙ってテレビを指差します。
いつの間にか、テレビの画面は某国の発射台を映し出していました。
そして、発射されるミサイル。
一分?一時間?
永遠とも、刹那とも思える間の後に、彼方から向かってくる破壊の象徴。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:16:22.37 ID:QEFjvBR20
そして、消滅する。
親友が、肉親が。
――私が。
―――そして、思考だけが残り、彷徨う。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:17:32.11 ID:QEFjvBR20
あぁ。
なんでこんな簡単な事に気付かなかったんでしょう。
たとえ小学生でも気づくことの出来る事、
はじめから、答えはあったはずなのに、ヒントもあったはずなのに。
本当は気づきたくなかっただけ?そうなのかもしれない。
当たり前に日常を過ごしていて、誘拐された。そう”思い込んでいた”方がどんなに幸せだったろうか?
逃げ続けていたほうがどんなに楽だっただろうか?
生きていることを、信ジていたカッただけなんです。
きっと親友も、家族も、生きていると信じたかった。
手の骨が思いと裏ハラに腐り落ちていく。かち、こちと。
まだ、私は死ンでなんカいない。
すべてのものをナくして、わたしはコのへヤにいる。死ヲウケイレラレナイママ。
からだから、ほねが、にくが、かち、こち。おちてちにとけていく。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/07(日) 23:18:29.81 ID:QEFjvBR20
?( <●><●>)『音』のようです 終
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