- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:04:50.39 ID:GV1h5cye0
- かち、かち。
どこからか響く時計の音。
この世界は冷たくて、ただ、冷たくて。
ここは、どこですか。
問いかけた声はじわり、闇の中に広がって消える。
わたしは、どこにいるんですか。
誰も、誰も答えない。
冷たい指先を重ねて。
膝小僧を抱えて。
うずくまる。
わたしは、わたしは、わたしは。
響くのは私の泣き声と、時計の音。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:09:48.60 ID:GV1h5cye0
- かち、かち。
うるさいくらいに、時計の音が聞える。
それは私をひどく、追い詰める。
かち、かち。
やめて、やめて。
はやく、はやく行かなくてはならないのに。
音を振り切るように立ちあがろうとする。
でも、私には。
ξ゚听)ξ「……っ」
地面がどこにあるのか、わからなかった。
あれ、地面。
地面は、どこ?
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:12:35.45 ID:GV1h5cye0
ξ゚听)ξ「……ここ、ここは」
地面がわからない。
先程まで立っていたと思われる場所に指を伸ばしても、何にも触れない。
ξ゚听)ξ「あ、あぁ」
今、私は。
浮いて、いるのか。
そう、悟った瞬間、私の全身を、ぞわり、ぞわり、寒気が覆う。
ξ゚听)ξ「あぁあ、あぁ」
怖い。
怖い、怖い、怖い。
どうしよう、どうしよう。
どうしよう。
焦るばかりではどうにもならないと。
わかっているのに、わかっているのに。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:16:33.28 ID:GV1h5cye0
- 進まなくちゃ、進まなくちゃいけないのに。
歩かなくちゃ、歩かなくちゃいけないのに。
地面がみつからない、なにもわからない。
時計の音は私を嘲笑う。
かち、かち、かち。
一定のリズムで私をわらう。
かち、かち。
やめて、おねがい、やめて。
抱え込んでいた膝を強く、強く抱きしめる。
涙がこぼれて、こぼれて。
ξ )ξ「……っ」
泣かないように、って、思っていたんだけど、なぁ。
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:21:04.73 ID:GV1h5cye0
- かち、かち。
静かな世界に私の泣き声。
かち、かち。
うるさい、うるさい、うるさい。
そんなに私を追い詰めたいの。
もう、やめてくれたっていいじゃない。
もう、私に構わないでよ。
涙があふれて止まらない。
もう、だって、ダメなんでしょう、私。
暗い世界に一人きり。
ここは、冷たくて、ただ、冷たい。
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:28:34.70 ID:GV1h5cye0
- しゃくり。
と。
遠くから、近くから。
音が聞こえた。
優しい、優しい、音だった。
私は泣き声をあげるのをやめて、顔を上げる。
音のした方向を、探す。
しゃくり。
もう一度響く、優しい音。
今度は少し、近くから。
ξ゚听)ξ「……だれ」
私は音の主に尋ねる。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:36:40.24 ID:GV1h5cye0
- 音の主がどんな姿をしているのか、私にはわからない。
もしかしたら私を助けようとしているのかもしれない。
もしかしたら私を殺そうとしているのかもしれない。
この音の主が笑顔なのか、困惑した顔なのか。
一体どういった顔をしているのか。
私にはわからない。
こんな暗い世界じゃ、私にはわからない。
ξ゚听)ξ「だれなの」
わからないから、私は尋ねるしか、なかった。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:42:16.33 ID:GV1h5cye0
かち、かち。
時計の音だけが響く。
泣き声はもう、聞こえない。
かち、かち。
返事は、ない。
あの優しい音ももう、聞こえない。
かち、かち。
やっぱり、この世界に、私は、一人だけだったのかしら?
かち、かち。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:49:34.18 ID:GV1h5cye0
- 涙はもう、流れなかった。
心に、暗い、暗いなにかが、ぽっかりとあいてしまったみたいで。
冷たい、と思ってた空気が、かえって心地良かった。
きっと、私はここで終わるんだろうな。
なんて思い始めていた。
かち、かち。
時計の音が、まだ、聞こえる。
私を急かそうとするみたいな音を、立てる。
どうしてまだ鳴っているの、貴方。
ξ゚听)ξ「もう、私はあきらめたのよ?」
膝を抱え直して、自嘲気味に小さくつぶやく。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 17:56:11.10 ID:GV1h5cye0
( )「……お、あきらめて、しまったのかお?」
ぎこちない声が、聞こえた。
やっと、話しかけるタイミングをみつけた、と言わんばかりの声だった。
声のする方に顔を向ける。
何も見えないのは相変わらずだけれど。
彼の持つ空気というのが、なんとなく、わかった。
ξ゚听)ξ「だれ、なの」
( )「ご、ごめんお、えっと、僕は、えっと」
ξ゚听)ξ「さっきの音は、あなたの足音なの」
慌てて何かを言おうとしている彼を制するようにしながら、尋ねる。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:02:46.84 ID:GV1h5cye0
( )「…ここは、歩くと不思議な音がするお」
しゃく、しゃく、と。
彼はわざと、音を立ててみせる。
( )「綺麗な音だお」
嬉しそうに、言う。
ξ゚听)ξ「地面が、あるの?」
( )「……地面とは、呼べないかもしれないおね」
( )「こんなに星屑が敷き詰められていちゃぁ」
( )「でも、綺麗だお」
嬉しそうに彼は言う。
けれど私にはわからない。
だって、いつだって、私の世界は真っ暗だったから。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:07:15.25 ID:GV1h5cye0
ξ゚听)ξ「あなたには、この世界が、見えるの?」
( )「……?見える、けれど」
星屑のいっぱいちりばめられた世界。
きらきらひかった、綺麗な世界。
( )「ほら、あっちに、アンタレスが赤く光っているお、見えるかお?」
彼はきっとその方向を指差したのだろう。
けれど相変わらず私の世界には何も、色はない。
ξ゚听)ξ「あ、あのっ」
( )「……?見えないかお?」
ξ゚听)ξ「ポラリスはっ」
不思議そうにしている彼の言葉を遮る。
思ったよりも大きな声が出て、自分でも焦ってしまった。
彼も驚いたのだろう。
言葉に詰まって、息をのみ込んだ音が聞こえた。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:13:11.62 ID:GV1h5cye0
一呼吸、二呼吸。
間をおいて、間をおいて。
どきどきと、心臓の音が耳元でする。
焦り、希望、いろんなものが、私の心臓を強く強く動かす。
一つ、息を吸って。
ξ゚听)ξ「ポラリスは、ありますか」
世界が見える彼に、尋ねる。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:22:43.28 ID:GV1h5cye0
( )「……ポラリス?」
ξ゚听)ξ「そう、ポラリス、北の空にひかる、星」
( )「…ポラリスなら、そこに、ずっといるお?」
ほら、あそこに、と。
彼はきっと、先程の星とは違う星を指してくれたのだろう。
けれど私には見えないから。
ξ゚听)ξ「……あるんですね?この先に、あるんですね?」
彼にすがるように、尋ねることしかできなかった。
( )「落ち着くお、大丈夫、ポラリスはあるお」
でも
( )「どうして」
ポラリスは、あんなに、明るく光っているのに。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:30:06.46 ID:GV1h5cye0
ξ゚听)ξ「私は、ポラリスまで、行かなくてはならないんです」
スカートの裾を握りしめながら、ゆっくり、ゆっくり、言葉を紡ぐ。
ξ゚听)ξ「でも私には前も後ろも見えないんです。世界は、真っ暗で、真っ暗で」
( )「真っ暗?」
( )「あんなに、あんなにポラリスは、明るいのに?」
ξ゚听)ξ「……私は」
そっと、目を、閉じる。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:37:16.08 ID:GV1h5cye0
ξ )ξ「私には、目が見えないんです」
ξ )ξ「ポラリスも、アンタレスも、わかりません」
ξ )ξ「ポラリスまでの道も、わかりません」
言葉にする度に。
言葉にして彼に説明する度に。
どうしようもなく、心細くなっていく。
いかに非力か、無力かを。
自分に言い聞かせているみたいで。
ξ;凵G)ξ「でも、私は、ポラリスまで、いかなくちゃいけないんです」
いかなくちゃ、いけないんです。
繰り返した言葉は、私の涙で溺れて消えた。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:43:07.69 ID:GV1h5cye0
目が見えるという感覚がよくわからなかった。
昔は見えていたんだそうだけれど。
ずっとずっと幼い頃、目に受けた傷のせいでそれは失われてしまった。
もう、今では、目の見える感覚というものを、忘れてしまっていて。
ほら、綺麗だよ、とか、可愛いね、とか。
回りの皆が言うのだけれど、私にはわからなかった。
だから、頑張って、音や雰囲気からそれを読み取ろうとした。
皆と同じように、綺麗だね、と、言いたかった。
でも、やっぱり、限界はあった。
彼らとの間に生じたズレは、どうしても埋めることができなかった。
そうして、大きな溝を彼らとの間に作ったまま、私は一人、生きていた。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 18:49:24.79 ID:GV1h5cye0
かちり。
一際大きく響いた時計の音が、私をこの世界へ引き戻してくれた。
ξ;−;)ξ「……っ」
涙をむちゃくちゃに拭って、顔を上げる。
ξ;凵G)ξ「まだ、まだいますか、そこに、いますか」
暗い世界に向かって、話しかける。
ξ;凵G)ξ「お願いです、ひとりに、一人にしないでください」
泣かないから、一人にしないでください。
必死に、必死に。
声を張り上げて、私は暗闇に向かって。
ξ;凵G)ξ「お願いです」
そう叫ぶように言った私の頭に、大きな暖かいものが、ぽん、と、乗せられる。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 19:37:58.47 ID:GV1h5cye0
( )「……泣かなくてもいいお、僕はここにいるお」
暖かい、てのひら。
ぽん、ぽん、と。
時計のリズムとはまた違うリズム。
やさしく、やさしく、頭を撫でてくれる、あたたかさ。
しゃくりあげながら、その温もりを受け止める。
ξ;−;)ξ「……」
泣きやんだ私を見ると、彼の回りの空気が、ふ、と、安心したように、緩んだ気がした。
( )「僕には、目が見える。だから、君と同じ気持ちとは言えないかもしれないけど」
そう言って、彼は私の掌をとる。
- 37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 19:44:37.52 ID:GV1h5cye0
( )「……僕の顔の下半分は、普通の人と違って、醜く歪んでいるお」
そっと、自らの口元へ、導いてくれた。
( ω )「わかるかお?」
あ、と。
私は小さく声を上げる。
ぐにゃりと歪に曲がった唇。
自分や、自分の親の顔には何度も触れてきたから。
人間がどういった顔の造形をしているか、なんとなくはわかっていたけれど。
それとはかけ離れた、歪んだかたち。
( ω )「…僕はこんな顔をしているから、他人と、面と向かって話すことが、とても怖いんだお」
( ω )「…普段はマスクをして隠している、けど、ここに来たとき、マスクがなくなっていて」
だから君に話しかけるのを躊躇ってしまった。
少し離れて、君の反応を窺っていた。
僕の姿を見て、怯えないか、驚かないか。
反応を、待っていた。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 19:49:09.10 ID:GV1h5cye0
( ω )「何も驚かなかったから、不思議に思ってはいたんだけど」
そうか。
そうか。
彼は小さく、繰り返す。
( ω )「……驚いたかお?」
( ω )「そんな僕を、小心者な僕を、見損なったかお?」
ξ;゚听)ξ「……そんな」
( ω )「もし」
私の言葉を遮って、彼は言う。
( ω )「もし、僕を見損なっていないというなら」
僕に、ポラリスまでの道を、案内させてほしいお。
- 41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 19:55:41.37 ID:GV1h5cye0
足元は星屑でできた道。
一歩、一歩、歩けばしゃくり、しゃくり。
子供が甘いかき氷を崩すみたいな音がする。
彼はナイトウと名乗った。
下の名前は少し変わっていた。
空と地面の境界と同じ名前だと、説明してくれた。
ナイトウの身長はずっと高いものだから。
手を繋ぐために、少し、腕を上げていなくてはならなくて。
それが少しだけ、疲れた。
時計の音は相も変わらず響いていて、私を焦らせる。
だけれど、ナイトウの歩くペースはとてもゆっくりで。
ξ゚听)ξ「ねぇ、ねぇ、まだなの?」
( ω )「まだ、まだだお、焦らなくてもポラリスはどこにも行かないお」
私は何度も何度も、彼を急かした。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:07:16.78 ID:GV1h5cye0
ξ゚听)ξ「どこへも、行かないの?ほんとうに?」
( ω )「行かないお、北の果てで、ずっと、僕とツンを待っていてくれてるお」
ξ゚听)ξ「でも」
ξ゚听)ξ「でも星は、くるくる、回るものだと聞いたわ」
( ω )「…お、確かに星は、巡るものだお。」
アンタレスは、もう、あんなに向こうに、と。
ナイトウは指差すのだけれど。
( ω )「…ツンちゃんには見えないん、だおね」
申し訳なさそうに、呟く。
ξ゚听)ξ「気にしなくていいよ。…あと、ちゃん、ってつけないで」
( ω )「お、ごめんお、ツン」
しゃくり、しゃくり。
二人、歩く。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:18:05.55 ID:GV1h5cye0
( ω )「星は、ぐるぐる、ぐるぐる回るお」
( ω )「さっきまで、あっちにいたと思ったら、もう、違うところにいるお」
( ω )「なんだか、笑われているみたいで、憤ったこともあったお」
どれだけ星を追いかけても、そんなことはおかまいなし。
どれだけ星を掴もうとも、彼らは指の間をすり抜ける。
くるくる、くるくる。
僕らを笑うように、星は空を巡り、巡る。
( ω )「でも、そんな中で」
ポラリスは。
( ω )「ポラリスだけは、ずっと、そこにいてくれる」
( ω )「僕らの道の先でずっと、待っていてくれる」
ξ゚听)ξ「待って、いる?」
( ω )「そう」
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:25:15.31 ID:GV1h5cye0
他の星が、くるくる、巡る、踊る。
そんな中、一人。
誰かを待つように、じっと。
ξ゚听)ξ「……それは」
それは、まるで、誰かさんみたいね?
艶っぽい声で、誰かが囁く。
くすくす、くすくす。
あぁ、これはきっと、あかい、あかい、アンタレスの声だわ。
私は直観的に、そう、悟る。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:34:11.14 ID:GV1h5cye0
ξ゚听)ξ「それは、違うんじゃないかしら」
アンタレスの声が、妙な熱を持って、あたまのなかを満たす。
ξ゚听)ξ「ポラリスは、私たちを待っているんじゃない」
私のまっくらな瞼の裏で、膝を抱えて泣いている、ポラリスの姿が見える。
くすくすと、笑うアンタレスの笑顔が見える。
ξ゚听)ξ「……ポラリスは、動けないんだ」
うずくまって泣いていた、私みたいに。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:39:26.72 ID:GV1h5cye0
( ω )「……何を」
ξ゚听)ξ「きっと、ポラリスは泣くのよ」
ξ゚听)ξ「皆がくるくる踊っているまんなかで」
ξ゚听)ξ「私は踊れません、って、泣くの」
うずくまって、小さくなって。
ぽろぽろ、ぽろぽろ。
星屑の涙を流しながら。
誰かが迎えに来てくれるのを、じっと、待っているのだ。
でも、あんまりにもポラリスは美しいから。
あんまりにも眩しいものだから。
誰も、迎えに来てくれない。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:44:31.96 ID:GV1h5cye0
しゃく、り。
足を止めた私の一歩先で、ナイトウも歩みを止めた。
( ω )「……ツン?」
ξ゚听)ξ「だめよ、ナイトウ」
( ω )「…?」
急いでいるんじゃないのか、と、言いたげだった。
実際、時計の音はまだ、かちかち、かちかち、響いていて。
叫び出したくなるくらいに、私を追い詰めているのだけれど。
ξ゚听)ξ「…ポラリスまで、行きたく、ない…」
私は、喉の奥からやっと、そう絞り出した。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:50:14.15 ID:GV1h5cye0
( ω )「でもツンは、ポラリスまで行かなくちゃいけないんじゃ」
ξ゚听)ξ「でも、でも」
ξ゚听)ξ「ポラリスまで、行ったら」
私もポラリスみたいになってしまうんじゃないか、って。
一人、みんなが楽しそうにしているのを眺めながら。
じっと、ただ、膝を抱きよせて。
美しい、美しいと呼ばれながらも、誰にも触れてもらえないで。
ξ )ξ「ポラリスまで行きたくない、いくら美しくても、どこにも行けないのは、淋しい」
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 20:55:46.41 ID:GV1h5cye0
ナイトウの手を、振り払って。
私はまた、うずくまる。
くすくす、くすくす。
アンタレスの笑い声。
やめて、やめて。
わたし、そんなこと、おもってないのに!
時計の針の音は、すぐ、そこまで。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:00:15.04 ID:GV1h5cye0
( ω )「……僕が」
( ω )「僕が、いるから」
ぐ、い。
強い力が私を立たせる。
駄々を捏ねる私を歩かせる。
さっきまでの、優しい、ゆっくりとした歩調とは違う。
ずんずんと、世界を切り裂いていくように。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:04:56.02 ID:GV1h5cye0
( ω )「ツンが一人で歩けないというなら、僕はその手を引くお」
( ω )「ツンが一人で踊れないというなら、僕も一緒に踊るお」
ξ゚听)ξ「でも、いや、私は私は」
( ω )「二人で、ポラリスになろう」
( ω )「二人で、くるくる、踊ろう」
他の星が羨むくらいに。
楽しく、美しく、踊ろう。
こうふくなおどりを。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:11:05.02 ID:GV1h5cye0
足元は星屑でできた道。
一歩、一歩、歩けばしゃくり、しゃくり。
子供が甘いかき氷を崩すみたいな音がする。
「さぁ、もうすぐポラリスだお」
やさしい、やさしい声。
「見えるかお」
あぁ、また、ナイトウは忘れている。
私の目が見えないことを、また。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:16:34.32 ID:GV1h5cye0
- 「ありがとう、ナイトウ」
「礼には及びません、お」
でも、でもね、なんでだろうね。
あたたかくて、やわらかくて、綺麗な、綺麗な光が、見えるの。
なんで、だろうね。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:20:55.76 ID:GV1h5cye0
―――手術は無事、成功しましたよ。
―――おめでとう。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:25:09.83 ID:GV1h5cye0
秋の空はずっと、ずっと、どこまでも澄んでいた。
藍色のセーラー服に袖を通し、町の中を進む。
文字を覚えるのには、少し時間がかかったけれど、ひらがなや数字はすぐ覚えることができた。
漢字はまだまだ勉強中だ。
秋の空は綺麗だよ、と、いつか誰かが言ってくれた気がする。
ほんとうに、綺麗ね。
いつかの誰かにそう返す。
秋は、好きだ。
夏の星座は少し、苦手だから。
- 67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:30:29.03 ID:GV1h5cye0
- 鮮やかな色に染まった落ち葉を蹴りながら、進む。
ざくざく、ざくざく。
やっぱり、あの時、手術中に見た夢の音とは程遠い。
もっと、もっと、綺麗なものを踏みしめた音なんだろう。
ざくざく、ざくざく。
それでもこの音はこの音で、心地良い。
だってこの落葉だって、綺麗じゃないか。
ざくざく。
ざくざく。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:35:09.16 ID:GV1h5cye0
- 並木道を抜ければ信号機。
人さえいなければ赤い信号だって無視して渡ってしまうのだけれど。
今日はたくさん人がいたので、大人しく、待つ。
横断歩道の向こう側、少し大きな背中が見える。
丁度信号を渡り終わったのだろう背中の主は、ゆっくり、ゆっくり、歩いていた。
彼の、一歩、一歩のテンポ。
連鎖して思い出される、掌の、暖かさ。
ξ゚听)ξ「……ナイトウ?」
私は小さく声を上げる。。
背中の主は、こちらを、見て。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/11(日) 21:40:28.52 ID:GV1h5cye0
- 信号が青に変わる。
地面を蹴って走る。
嗚呼、やっと、やっと。
名前も知らない鳥が羽ばたく。
たくさんの人が行き来する中、私はまっすぐ走る。
やっと、一緒に、踊れるんだ。
ξ゚听)ξ「ポラリスまで」
ξ゚听)ξ「ポラリスまで行って、踊りましょう、ナイトウ」
そう言って、私は彼に手を伸ばす。
大きなマスクをした彼は、すこしだけ不器用に、笑った。
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