- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/18(土) 23:06:45.97 ID:vl04Y+j90
俺はある時、「物語」と呼ばれる世界に閉じ込められた。
自分でも、それが何なのか全てを把握できていない。
解っているのは、ここから脱出するには条件を満たさなくてはいけないこと。
そして、俺の閉じ込められた物語。
それは「善の無い物語」とのことだ。
物語、というのはいくつもあるらしい。
それら全てを束ねるものとして「神」がいる。
- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/18(土) 23:10:27.03 ID:vl04Y+j90
銀色の髪に、黒いノースリーブのドレス。
それに黒と紫のボーダーのニーハイソックスを履き、
手に人形を持った、10代半ばほどの少女。
ゴシック・アンド・ロリータとでも言えばいいのだろうか。
携えている人形は、恐らく、猫を模ったモノ。
眼はボタンで出来ており、所々継ぎ接ぎがある。
「アンタの物語は善の無い物語。善行を施してはならない。
善と呼べるものを施した場合、アンタにはこの物語の主人公を辞めてもらう」
そこから神はこの世界についての説明を始めた。
一つの物語に主人公は一人。
物語から抜け出したかったら条件を満たすこと。
そして俺の条件は――――。
- 5 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:14:38.02 ID:vl04Y+j90
爪'ー`)y‐「善い事をしないで一ヶ月すごせだぁ?最高じゃねえか」
素晴らしいとしか言いようがない。
何故こんなことになったのかは知らないが、楽しいのは確かだった。
元の世界でも良いことなんてのはしていない筈だ。
・・・筈?
ちょっと待て、これはどういうことだ?
何かがぽっかりと抜け落ちているような、そんな感覚に陥る。
しかし、悩めども思い出す気配は一向にない。
小鳥の囀りが思考を遮る。
爪'ー`)y‐「まぁ、関係ないか。・・・ただ問題があるな」
- 7 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:17:53.41 ID:vl04Y+j90
この世界。物語。
ここでの俺は「犯罪をしても裁かれない」。
主人公補正なのか何なのかは知らない。
ただ、それが何所か勿体無く思えた。
元の世界にいたとき、人の命を奪った。
理由なんかは頭から吹っ飛んだ。
ただ、「人を殺した」という事柄だけが自身の中で渦巻いていた。
大抵の人間は、きっと後悔や恐怖の念を持つだろう。
それに対して俺は、気分が高揚した。
体から毒が抜けるように、すーっと嫌なモノが抜けていった。
そして、次に浮かんだのが「これはゲームだ」という考え。
どれだけ捕まらないでいられる?
どれだけ犯罪ができる?
- 9 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:20:27.76 ID:vl04Y+j90
「どれだけ人を駄目にできる?」
- 10 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:23:06.22 ID:vl04Y+j90
爪'ー`)y‐「でもなぁ、捕まらないんじゃ楽しくないよなあ」
煙草を道に投げ捨ててため息をつく。
爪'ー`)「まぁ、今日も一日元気に元気にいきますか」
ゲームを楽しむのならやはり、元の世界が一番のようだ。
ナイフを手にして、辺りを見渡す。
視界に入ったのは一つの人影。
爪'ー`)「スタート・・・」
小さく呟いて、今日も日課に専念する。
- 11 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:26:33.24 ID:vl04Y+j90
――――。
物語に入ってから29日目。
もうこの世界ともおさらばだ。
爪'ー`)y‐「さてと・・・」
今日も悪事だ。
もちろん明日も。
元の世界に戻ってからも。
土砂降りの雨を防ぐわけでもなく、道を行く。
昼間だというのに辺りは暗い。
- 13 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:30:38.37 ID:vl04Y+j90
よく考えたら生まれてから悪いことばっかりだった。
されることも、することも。
したのが先か、されたのが先か。
今となってはもう覚えていない。
しかし、全てが悪いことだったのか、と言うとそういう訳ではない。
確かに、人の喜ぶ顔を見たことがある。
昔を思い出す自分が急に恥ずかしくなり、煙草に火をつけようとする。
しかし、雨のせいか中々つこうとしない。
思えば、あの時もこんな日だったなぁ。
- 15 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:34:41.60 ID:vl04Y+j90
爪'ー`)「・・・あの日?」
今のフレーズは何だ?
あの日ってなんだよ?
まただ、何か思い出せていない。
思い出せなくて、気持ちが悪くなってくる。
吐き気に近い何かが襲ってくる。
それが考えさせるのを邪魔しているように思えた。
眩暈が酷い。
しかたなく、考えを辞める。
そうすると、ゆっくりとではあるが、元の状態に戻っていった。
- 18 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:37:45.49 ID:vl04Y+j90
爪'ー`)「元の世界、か・・・」
なんだろうな。
不思議でしょうがない。
さっき一瞬だけ浮かんだ誰かの口元。
それは確かに笑っていた。
何故だろう。
人を殺していた時よりも気分がいい。
俺の本質は何を求めている?
- 19 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:41:01.08 ID:vl04Y+j90
爪#'ー`)「なんだってんだよクソッ」
そこら中に汚い言葉を吐き散らし、歩いて行く。
すると、道路に一人の子供が立っているのが見えた。
恐らく少年だ。
爪'ー`)「・・・?」
あんなところで何をしている?
そう思っていると、遠くからエンジン音が聞こえる。
その音は少しずつ彼に近づいていく。
それでも少年は動こうとしない。
- 21 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:45:22.36 ID:vl04Y+j90
爪'ー`)「死にたいのか?」
助ける義理なんてない。
死んだらそこまで、それは誰でも同じだ。
自分のことを自分でできない奴がいけない。
助けて欲しいならそう言えばいい。
そんな奴を見てると腹が立つ。
大っ嫌いなタイプだ。
爪'ー`)「・・・」
大っ嫌いだ。
第一、あいつを助けるのは物語の条件に反する。
助けたらどうなるかなんてわからない。
- 22 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:48:03.04 ID:vl04Y+j90
――――だったら何故、俺は走っている?
- 25 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:51:01.00 ID:vl04Y+j90
運転してる奴は、寝不足か単なる注意不足か。
それに天気が相まってスピードを落とさなかった。
クソガキはと言うと、ただじっと車を眺めていた。
その餓鬼を突き飛ばして、俺は――――。
運転手と目が合う。
目を大きく見開き、驚いた表情を見せていた。
今さら遅いんだよ糞ったれ。
ドン、と云う鈍い音。
ああ、思いだした。
丁度こんな感じだったな。
「あの時」も。
- 26 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:53:32.97 ID:vl04Y+j90
* * *
一仕事終えた後、俺は道を歩いていた。
土砂降りの雨の中、それを体で受けながら。
何か釈然としないものを感じつつも、これで良いんだと言い聞かせていた。
爪'ー`)「ん?」
道に、黄色い傘をさした者がしゃがんでいる。
恐らく小学生あたりだろう。
そいつの視線の先には段ボール。
入っているのは小さな子猫。
どうせ、助からない。
- 29 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:56:05.28 ID:vl04Y+j90
子供は、自分の差している傘を置いて走って行ってしまった。
猫はそいつが居なくなった後も、弱々しく鳴いていた。
爪'ー`)「弱いな」
子供のうちはほとんどが弱い。
そんな状態で投げ出されたのだ。
爪'ー`)「だっせえな」
段ボールの前に屈み、それをじっと見つめる。
綺麗な瞳。
捨てられたということが分かっていないのだろうか。
爪'ー`)「・・・」
- 30 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/18(土) 23:58:31.05 ID:vl04Y+j90
爪'ー`)「・・・」
何をやってるんだろうな。
気づけばスーパーの袋を抱えて、再びやって来ていた。
中に入っているのはネコ用の缶詰。
爪'ー`)「ほれ」
それを開けて、猫の前に持っていく。
さあ、食べろ。
爪;'ー`)「あれ?」
子猫は餌の前で何度か鼻を動かしたが、食べようとはしなかった。
俺の飯が食えないってのか、そうなのか。
・・・情けない。
- 32 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:00:59.99 ID:y/mztsKF0
('A`)「お兄ちゃん、そこで何やってんの?」
先程の小学生が、違う傘を差してやってきた。
別に、と小さく呟いて猫に目をやる。
('A`)「これお兄ちゃんがあげたの?」
爪'ー`)「ああ。食わないけどな」
('A`)「まだ小さいから」
少年はそう言って、鞄からネコ用の餌を取り出す。
爪'ー`)「猫にも離乳食あんのか・・・」
驚いた。
少年はそんな俺を見て笑っている。
- 34 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:03:42.46 ID:y/mztsKF0
('A`)「餌買ってきてくれて、ありがとう」
爪'ー`)「・・・きまぐれだよ」
二人で談笑していると、車が走ってきた。
ここは一方通行の細い道。
車と人がすれ違うのには十分な余裕がある。
だが、車はガリガリと塀を削りながら突っ込んできた。
運転手は俯いている。
自殺志願、鬱病、気絶か?
爪;'ー`)「おいおい」
少年を反対側の塀に引っ張る。
これで大丈夫――――。
(;'A`)「猫!!」
- 35 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:06:00.67 ID:y/mztsKF0
爪;'ー`)「ああああああ」
一気に段ボールに駆け寄り子猫を抱く。
すぐそこに車。
爪;'ー`)「少年!!」
出来るだけ優しく、ふんわりと。
衝撃を与えないように、猫を投げる。
爪'ー`)「大切――――」
大切にしろよ、そう言おうとした。
重い衝撃が体に走る。
少年が猫を抱えて倒れこむ俺に寄ってきた。
「お兄ちゃん!!?ねえ!!ねえってば」
少年、猫、濡れちゃうぞ。
世界がぼんやりと消えていく。
ああ、俺死ぬんだ。
- 37 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:08:31.94 ID:y/mztsKF0
* * *
冷たい。
熱い。
寒い。
痛い。
痛くない。
ズキズキ。
ジンジン。
ヒリヒリ。
「・・・」
突き飛ばした少年と目が合う。
車はどこかに走って行ってしまった。
「そのまま死ねばいい・・・」
そう言って彼はどこかに走り出した。
爪;'ー`)「・・・命の恩人に厳しいな」
少年の目は赤く腫れていた。
それが何故なのかなんてわかるわけがない。
- 38 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:11:00.34 ID:y/mztsKF0
爪'ー`)「・・・ここはあの世だったわけか」
元の世界に戻れるってどういうことだ。
今となっちゃそれも意味のないことだが。
爪'ー`)「死因が2回もあるってのも凄いよな」
弱々しく笑う。
仰向けになっている体に、雨が強く打ちつける。
爪'ー`)「死因が人助けなんてシャレになんねえよ」
どこからか、ヒューヒューと空気の抜けるような音が聞こえる。
爪'ー`)「ああ」
俺から聞こえてたのか。
もう何が何だか分からねえや。
- 39 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:13:30.64 ID:y/mztsKF0
(*゚∀゚)「よお、主人公。調子はどう?」
爪'ー`)「最悪・・・」
少女は屈みながらこちらの顔を覗く。
甘い息が鼻にかかる。
(*゚∀゚)「善行が死につながるとは誰が想っただろうね」
爪'ー`)「さあ・・・」
(*゚∀゚)「これでこの物語はおしまい」
少女は本を閉じるような動作をしてみせる。
ああ、本当に終わったんだな。
でもわかったことが一つある。
- 41 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:16:00.65 ID:y/mztsKF0
俺は、悪いことを楽しんでいた。
それは事実だ。
でも、本当に見たかったのは死ぬ様じゃない。
泣き叫ぶ姿でも、命乞いをする姿でもない。
本当の俺は。
深層意識では。
たった一つ、ありがとうと言われたかった。
笑顔を見てみたかった。
爪 ー )「今さら分かっても遅いんだっての」
目を閉じる。
あの時とよく似ている。
もう、どこも痛くない。
「もう寝るの?」
爪 ー )「ああ」
- 42 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:18:30.65 ID:y/mztsKF0
「じゃあ、次の物語で会いましょう」
笑い声とともにそんな言葉が聞こえてくる。
爪 ー )「・・・ああ」
爪 ー )「・・・ん?」
今なんて言った?
爪;'ー`)「次ぃ?」
言葉とともに体を起こす。
体はどこもおかしくない。
至って正常。
「次の物語は、感謝の物語」
どこからともなく声が聞こえる。
あの、神様とか言う奴の声だ。
- 45 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:21:00.53 ID:y/mztsKF0
「アンタは、心の底から感謝されなくちゃならない。
10回感謝され次第、元の世界に戻してやるよ」
爪'ー`)「戻るってどういうことだ?」
「生まれ変わるってことさ」
爪'ー`)「なるほど。失敗条件は?」
「それはアンタが自分で考えな」
爪'ー`)「厳しいね」
「そんなもんさ」
爪'ー`)「・・・そうか」
「じゃあね」
爪'ー`)「ああ」
- 46 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:23:30.37 ID:y/mztsKF0
空はすっかり晴れていた。
まるで、さっきとは別の世界のように。
爪'ー`)「さて、難しい物語だね」
さっきまでとは全然違う物語だ。
だけど、少し楽しみにしている自分がいる。
爪'ー`)「行きますか」
道を歩いていると、一匹の猫がいた。
段ボールの中のタオルにくるまった、小さな猫。
弱々しい声を出してこちらを見つめる猫。
その眼は、今見ている雨あがりの世界のように輝いている。
- 48 名前:善の無い物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:26:28.16 ID:y/mztsKF0
爪'ー`)「ほれ」
財布が入っていたのは都合がよかった。
それで買ってきたのは猫の離乳食。
「にゃぁ」
しっかりと食べる猫を見て、いつの間にか笑っていた。
こんな俺でも誰かに感謝されることが出来るのだろうか?
爪'ー`)「うまいか?」
「にゃー」
猫の鳴き声が優しく響く。
『あと9回』
晴れ渡る空の下、どこからかそんな声が聞こえた気がした。
- 49 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:29:00.64 ID:y/mztsKF0
僕のいた世界は、居心地が悪かった。
それも、とんでもなく、だ。
背が小さいからなのか、勉強ができないからなのか。
運動だって出来るわけじゃないし、人に自慢できるようなことも無かったからか。
いつの間にか僕は「いじられること」が存在の意味になっていた。
抵抗はできない。
それをしてしまったら、本当に何も無くなってしまうから。
だから僕は、必死で耐えた。
誰もが僕に嘘をつく世界。
正直者が損をする世界。
- 50 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:31:30.16 ID:y/mztsKF0
中学2年の夏。
僕はそんな世界に嫌気がさした。
周りにあるのは何が本当で何が嘘なのか。
自分が真実だと思って口にする言葉も、周りからしたら嘘なんじゃないだろうか。
冷静に、そして客観的に見ればあれだ。
僕は見事に厨二病と言うやつを炸裂させていた。
もう、何も信じられない。
信じたくもない。
正直者でいるのはごめんだ。
損をするのはいつだって僕じゃないか。
- 53 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:34:00.24 ID:y/mztsKF0
「正直者でいなさい」
最初にこう言ったのは母親だったと思う。
「多少の嘘も必要かもしれない、けれど正直でいることにこしたことは無いわ」
こう言われたのも覚えている。
言いたい事が言えない世の中は嫌でしょう、とも言っていた。
幼い僕にはその言葉を覚えることしかできなかった。
意味を考え始めたのは少し前。
その結果がこれだ。
言いたい事を言える世の中でも何も変わらない。
言ったって聞いてや貰えない。
- 54 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:36:30.09 ID:y/mztsKF0
苦しくて。
苦しくて。
苦しくて。
長く続く中途半端な息苦しさ。
これから逃げるには、一度っきりの大きな息苦しさ。
どういうことかと言うとつまり、そう――――。
中学二年の夏、僕は首を吊った。
- 56 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:39:01.39 ID:y/mztsKF0
そして目を覚ますと、そこは雲の上。
なんてことは無かった。
( ・∀・)「どこ?」
普段目にするような住宅街。
僕はきっと死んだ。
だとしたらここがあの世のはずだ。
随分と生活感に溢れてるんだなと、意外に思う。
「ねえ」
(;・∀・)「わっ!?」
不意に後ろから声をかけられ、大きな声を出してしまった。
振り向くと、眼の前に継ぎ接ぎが施された猫の人形。
- 57 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:41:30.75 ID:y/mztsKF0
「こんにちは」
(;・∀・)「え?ああ、うん。コンニチハ」
挨拶を返すと、猫の人形で自分の顔を隠すようにしていた子が、くすりと笑う。
そして、そっとそれをずらす。
銀色の髪。
銀色の瞳。
白い肌。
服装は黒いワンピース。
麦藁帽子が首の後ろにぶら下がっている。
(*゚∀゚)「さて、ここがどこだか解る?」
目の前の少女は、いきなり問う。
- 60 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:44:00.91 ID:y/mztsKF0
( ・∀・)「あの世、かな?」
(*゚∀゚)「せいかーい」
そして少女は付け加える。
これからの在り方について。
(*゚∀゚)「アンタには物語の主人公になってもらう。タイトルは嘘をつく物語。
この物語にいるあいだ、アンタは嘘しかついてはいけない。
もし、真実を口にしたのなら――――」
この物語から消えてしまう。
そう言って彼女は意地悪そうに笑う。
(;・∀・)「えっと、ごめん。意味が分からないんだけど」
彼女は小さく舌打ちをした後、もう一度説明し始めた。
今度はより解り易く。
- 61 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:47:07.54 ID:y/mztsKF0
(*゚∀゚)「ここは死んだ奴が来るところ、つまりあの世だ。
ここでは一人一人に物語の主人公になってもらう。
その物語の内容は様々だ。そして、その物語で条件を満たすと、生まれ変われる」
( ・∀・)「あの世ってなんだか変わってるね」
なんだか子供が考えた世界のようだ。
第一、目の前の少女は何者なのだろうか。
( ・∀・)「で、僕は嘘をつく物語の主人公、と」
(*゚∀゚)「そういうこと。嘘だけで生活してもらう。
元の世界に戻る条件は、人に真実を言わないで30日過ごすこと」
正直、元の世界に戻るなんてのは嫌だ。
しかし、僕は興味を持った。
主人公と言う言葉。
そして何より、嘘だけで生きていくということに。
- 64 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:49:40.94 ID:y/mztsKF0
( ・∀・)「おっけー。大体解ったよ」
(*゚∀゚)「そうか、頑張れよ」
そう言うと彼女はすっと消える。
本当に何者なんだろうか。
( ・∀・)「まあ、とりあえずは嘘をついてればいいのか」
胸が躍る。
たまらなく楽しそうだ。
自分を苦しめた嘘。
今度は自分が嘘をつく番だ。
( *・∀・)「さっそく言ってみよう」
楽しそうでしかたなかった。
皆が僕をだまして笑っていた。
きっと楽しいに違いない。
- 65 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:52:00.26 ID:y/mztsKF0
最初の嘘は何気ない一言から始まった。
他の人たちがいくらでも吐くような本当に些細な嘘。
そんなモノでも僕にとっては、
( *・∀・)「ははは」
楽しくて、楽しくて。
もっともっと吐きたくて。
( ・∀・)「次はどうしようか」
とにかく騙すことだけを考えた。
- 68 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:54:30.50 ID:y/mztsKF0
そんな日が数日続く。
相変わらず僕は嘘をついて生活していた。
だけど、何かが引っかかる。
何所かが痛むのだ。
( ・∀・)「・・・なんだ?」
嘘をつこうとすると、気分が悪くなる。
そして・・・どこだ?
確かにどこかが痛い。
なのに、それがどこだか分からない。
- 70 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:57:00.33 ID:y/mztsKF0
( ・∀・)「・・・ん?」
悶々とした気持ちをかき消そうとすると、一つの人影が目に入る。
大きな風呂敷を担ぎ、腰を曲げた老人。
杖で必死に体を支え、おぼつかない足取りで歩いていた。
( ・∀・)「手伝わなきゃ!」
そう思ってすぐに駆け寄る。
すぐ傍まで寄ると、にっこりと微笑み話しかけてきた。
('、`*川「ああ、坊や。VIP会館はどこか教えてもらえないかい?」
( ・∀・)「VIP会館?それなら確か――――」
そこでようやく自分の行いに気づく。
- 71 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 00:59:30.85 ID:y/mztsKF0
正しい道のりを言おうとしていた。
言ってはいけないのに。
これはそう言う物語だ。
('、`*川「坊や?どうしたんだい?」
( ∀ )「・・っ」
押したらすぐに倒れてしまいそうなお婆さん。
なのに彼女は僕の心配をしてくれている。
嘘をついて、自分が幸せでいようとしている人間のことを。
( ∀ )「会館なら・・・あっちだよ」
指を差しながら、道を教える。
お婆さんはそんな僕を見て優しく微笑んだ。
- 74 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:01:59.77 ID:y/mztsKF0
('、`*川「ありがとう。どこか具合が悪いの?」
その言葉を聞くと同時に僕は走り出していた。
どんな慰めの言葉も、どんな思いやりの言葉も。
全て僕を責める言葉にしかならなかった。
だから走った。
また、嘘をついた――――。
- 77 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:04:35.43 ID:y/mztsKF0
( ∀ )「はは・・・」
力なく声が漏れた。
出すつもりなんてなかったのに。
いつの間にか漏れていた。
( ;∀;)「あはは・・・はは」
止め処なく涙が流れた。
流すつもりなんてなかったのに。
いつの間にか流れていた。
そしてその場に膝をつく。
つくつもりなんてなかったのに。
自分の意思を無視して力が抜けた。
- 78 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:07:00.61 ID:y/mztsKF0
( ∀ )「嘘って楽しいんじゃないの・・・?」
こんなの、訊いてない。
( ∀ )「言いたいことも言えないの?」
答えは返ってこない。
ただ誰も居ない空間に声が消えるだけだった。
- 80 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:09:30.51 ID:y/mztsKF0
――――。
土砂降りの雨が降る。
昨日のお婆さんはどうなったのだろうか。
ちゃんと行けただろうか?
( ∀ )「僕を信じたら、間違いなく行けないけどね」
冷たく言葉を吐き捨てる。
それは、雨のように地面にぶつかった。
( ・∀・)「・・・あ、そうだ」
辛かったらどうした?
どうやってここに来た?
( ・∀・)「死ねばいいんだ」
- 82 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:12:00.50 ID:y/mztsKF0
そう考えた結果、僕は道路に立ちつくしていた。
見晴らしの悪い道路。
天気も相まって、自殺にはもってこいと言えるだろう。
( ・∀・)「これで死んだらどうなるのかな」
もう二度と生まれ変わることはできないかもしれない。
しかし、もうそれでもいいとすら思えていた。
( ・∀・)「早く来ないかな」
降りしきる雨の中、ひたすらに車を待ち続ける。
そして遠くからエンジン音が聞こえた。
待ち続けていた、死の足音。
- 83 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:14:31.72 ID:y/mztsKF0
車は少しずつ近づいてくる。
そして、気づく。
怖い。
足が震える。
歯が小刻みに音をたてていた。
(;・∀・)(やっぱりやめよう!)
その考えも虚しく、体は云う事を聞かない。
車からも視線が離れない。
(;・∀・)
見晴らしが悪いとはいえ、いくら何でも気付くだろう。
しかし、車は一向にスピードを緩めない。
もう駄目だ。
ゆっくりと目を閉じる。
- 84 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:17:00.15 ID:y/mztsKF0
その時、体に衝撃が走る。
思っていたよりも軽い。
と言うより、向きが違うような。
(; ∀ )「――――!」
地面に倒れこむ。
そうしてからようやく、自分が車に撥ねられていないと理解した。
車は走り去っていく。
そして、地面に転がっている物体が一つ。
そう、自分をかばって、変わりに撥ねられた者。
そろそろと近づくと目があった。
まだ生きている。
- 85 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:19:30.63 ID:y/mztsKF0
( ∀ )「・・・」
( ;∀;) 「死ねばいい」
死ぬのが急に怖くなった。
この物語から居なくなるのが恐ろしかった。
だから咄嗟に嘘をついた。
死んでほしいわけが無い。
誰も不幸にしたくない。
なのに僕は不幸をばらまくことしかできなくて。
( ;∀;)「・・・」
昨日と同じように、全力で走りだしていた。
雨の滲みた服が重い。
それが肌に張り付いて、気持ち悪い。
だけどそれ以上に気持ちが悪かった。
嘘をつくことが、こんなにも気持ち悪い。
- 87 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:22:04.32 ID:y/mztsKF0
( ;∀;)「っ!」
人気のない路地で派手にすっ転ぶ。
そのまま体を起こし、空を見上げる。
この雨は自分を咎めるために降っているのだ。
きっとそうに違いない。
「どうした?」
不意に声が掛かる。
振り向くと一人の女性。
彼女は僕に傘を差し出し、目線の高さが同じになるように屈む。
- 89 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:24:30.88 ID:y/mztsKF0
( ;∀;)「僕は、嘘をついたんです」
今までためていたモノが一気に流れ出す。
( ;∀;)「自分の私利私欲のためだけに、人を騙した」
もう物語なんてどうでもいい。
誰かに責めてもらいたかった。
お前は馬鹿だ、と、一言云ってもらいたかった。
( ;∀;)「生きている間、本当に辛くて、どうしようもなくて、自殺までしたのに!」
( ;∀;)「肝心な所は何一つ変わっていなかった」
結局逃げていただけだ。
全部自分に都合のいいように。
その結果人まで巻き込んで。
- 90 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:27:00.47 ID:y/mztsKF0
「君は偉いよ」
( ∀ )「・・・?」
女性から出た突然の言葉に少し驚く。
人をだまして、不幸にした僕を偉い者扱い。
気が狂っているのではないだろうか。
「君は正直に答えてくれたじゃないか」
( ∀ )「だって・・・」
これ以上嘘をつくのが辛かったから。
だからいっそ全部吐き出してしまおうと思った。
褒められる事なんか何もしていない。
「それでも、偉いのさ」
- 91 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:29:30.71 ID:y/mztsKF0
彼女は僕が何を言って欲しいのかを見透かしているように答える。
まるで、自分が当事者のように。
( ∀ )「本当に?」
自分でも声が震えているのが分かる。
否定されるのが嫌だ。
非難されたいのに、恐怖心が足を掴む。
「私は嘘をつかないのさ」
その一言が聞こえると同時、空を覆っていた雲が割れた。
光が優しく降り注ぐ。
「大丈夫、君は強くなれるさ」
もう一度、彼女が強く言う。
不思議と、その声に嘘は無いと思えた。
- 92 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:32:00.14 ID:y/mztsKF0
( ∀ )「お姉さん」
「どうした?」
( ・∀・)「僕さ、次があるかどうかなんて分からないけど」
「うん」
( ・∀・)「もう少し、頑張ってみようと思う」
「ああ」
( ・∀・)「言いたいことも言えない世の中は嫌だしね」
「少年ならできるさ」
( ・∀・)「・・・もう時間みたいだ」
「・・・」
- 95 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:34:30.82 ID:y/mztsKF0
体が色を失っていく。
少しずつ、水を混ぜた様に透明になってゆく。
( *・∀・)「じゃあ――――」
ばいばい。
そう言いきれたかどうか、僕にはわからない。
一つ言えるのは、嫌な気分じゃないってこと。
これから先何が待っていても、どうにかなるような気がする。
いや、どうにかしなくちゃいけない。
とりあえず今はゆっくりと目を閉じよう。
- 96 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:37:00.73 ID:y/mztsKF0
* * *
綺麗に晴れた空の下、僕は一人の老人と出会う。
大きな風呂敷を担いで、腰を曲げて歩いていた。
「お婆さん、大丈夫ですか?」
('、`*川「あら・・・」
お婆さんは僕に見覚えがあるのか、少し頬を緩めた。
「すみません。この前は嘘を教えてしまって・・・」
僕は強く目を閉じ、頭を下げる。
これで許してもらおうなんて思っていない。
どう思われていても、謝らなくてはいけない。
('、`*川「いいのよ。間違いは誰にでもあるわ」
その言葉に、少し泣きそうになる。
- 98 名前:嘘をつく物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:39:30.70 ID:y/mztsKF0
('、`*川「・・・これから行くところがあるんだけど、場所が分からないのよ」
お婆さんは困ったように、そして少し微笑みながら僕の顔を見る。
「僕が・・・、僕が案内します!」
責任を持って、傍を歩いていこう。
重そうな荷物も持ってあげよう。
('ー`*川「ありがとう」
( ・∀・)「さあ、行きましょう」
生まれ変わったら、嘘をついてしまうかもしれない。
誰かを傷つけてしまうかもしれない。
でも、今だけは正直者でいよう。
そう、これは、正直な物語――――。
- 100 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:42:00.77 ID:y/mztsKF0
私は「素直クール」。
訳ありで死んだ。
そして現在あの世に居る。
ここではそれぞれが物語の主人公になる。
その物語を完結に向かわせれれば見事、「元の世界」に戻れるとのことだ。
(*゚∀゚)『アンタの物語は・・・そうだなー』
自身を神様と言う少女はあごに手を充てて「むむむ」と唸る。
その様がとても可愛らしく、ただでさえ幼い容姿ををさらに幼く見せていた。
(*゚∀゚)『笑わない物語』
内容は、「笑ってはいけない」というものだった。
それを10日間。
- 102 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:44:41.08 ID:y/mztsKF0
(*゚∀゚)『さあ、スタートだ』
少女はそう言って消える。
10日間笑うなと言われ、少し腹が立つ。
しかし、何故だか従わなければいけない気がした。
生きていた頃は「冷たい」「無表情」「恐い」と言う言葉が常に纏わりついていた。
自分でも自覚がある。
表情を変えないし、笑うなんてことはほとんどない。
だからそれらの言葉は私に似合っていたと言えば、そうなのだろう。
そんな私にこんな条件。
これには意図があるようにしか思えない。
- 106 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:47:00.86 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「そうだな・・・」
まるで得意なことで失敗させようとしているような、そんな感じだ。
もしかしたら神様は誰にでも優しいのかもしれないが、そうじゃない気がする。
神様はSっぽかった。
理由はそれだけで十分だ。
川 ゚ -゚)「何かに気づかせようとしている?」
それが気になって、気になって、体がムズムズする。
虫を全身に這いずらせているような・・・。
もちろんそんな経験は無いのだが。
川 ゚ -゚)「さて、本人に聞きたいわけだが」
- 109 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:49:30.95 ID:y/mztsKF0
肝心の本人は消えてしまった。
彼女を呼ぶ方法は教えられていない。
だとしたら、一か八かだ。
川 ゚ -゚)「笑うか」
大きく息を吸い、笑ってみせる。
しかし神様は現れない。
これは笑っているうちに入らないのだろうか。
川 ゚ -゚)「気持ちがこもって無い・・・とか?」
だとしたら本当に厄介だ。
今はもう死んでいるが、今まで生きてて心から笑ったことなど数回だ。
それをこの10日間のうちに起こせと。
なんて無茶な。
- 111 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:52:00.49 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「難題だな」
このままいけば生まれ変れる。
しかし、神の考えを知るまでは生まれても生まれきれない。
川 ゚ -゚)「ややこしい」
とりあえず歩こう。
話はそれからだ。
川 ゚ -゚)「さて、住宅街に来た訳だが」
楽しくするにはどうしたら良いのだろうか。
両の人差し指で口の両端を吊り上げる。
「あははー変な顔ー」
走り去っていく子供に笑われた。
この虚しさプライスレス。
- 113 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:54:30.39 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「あの笑顔は私にむけられたのか?」
少年の後ろ姿を見て、ふと思う。
笑顔を見せることも無かったが、みることも無かった。
もしあれが自分に向けられているのなら少し嬉しい。
川 ゚ -゚)「・・・む」
その嬉しさに、少し笑いそうになる。
しかし、生前の名残があるのか、「笑う」とまではいかなかった。
川 ゚ -゚)「うれしい・・・か」
嬉しければ笑える。
だがしかし、褒められても嬉しいとは言えない。
- 114 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:57:00.51 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「だとしたら」
何をされたら嬉しい?
美人、だとか、頭がいい、などの褒め言葉はいらない。
こう・・・なんだろうか。
川 ゚ -゚)「・・・ありがとう、か」
感謝の言葉は嬉しい筈だ。
ほとんど貰ったことが無いのだから。
- 115 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 01:59:30.98 ID:y/mztsKF0
自分の気持ちを素直に伝えては、いつも渋い顔をされた。
もっと相手の事を労われないのか、とか。
人を傷つけて面白いか、とか。
そんなのばかりだから、避けられた。
周りに誰も居なくなった。
表情を変える必要なんてなくたった。
表情を変える機会が無くなった。
川 ゚ -゚)「馬鹿みたいだな・・・」
空を見上げてうっすらと呟く。
黒い雲が少しずつ広がり空を覆ってゆく。
川 ゚ -゚)「傘でも買ってくるか」
そう思い、またしても辺りをうろつきはじめた。
- 116 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:02:00.64 ID:y/mztsKF0
しばらく歩いて見つけた店で、傘を一本購入した。
透明なビニール傘。
透明なビニール傘は大好きだった。
傘を差していても空が見えるから。
何も隠そうとしないから。
川 ゚ -゚)「降ってきたか」
空いっぱいに広がった雲は、いっせいに泣き出した。
悔し涙なのか、うれし涙なのか。
はたまた欠伸をした時に流れた涙か。
その涙に打たれぬよう、傘を差す。
- 118 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:04:40.81 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「感謝、ねえ・・・」
どうしたら良いのだろうか。
表情に出ないため、嘘をつくのは簡単だろう。
しかし、それで感謝されても納得いかない。
どうせなら今まで通りの自分を褒めてもらいたい。
川 ゚ -゚)「どうしたものかねー」
とりあえず、当てもなく歩く。
土砂降りの中を、立った1人で。
- 119 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:07:00.94 ID:y/mztsKF0
しばらく歩いても、何も変わらなかった。
雨は止む気配を見せないし、何かを見つけたわけでもない。
視界に入るのは、帰宅途中の学生。
雨ではしゃぐ子供たち。
そんな彼らを見てると、やはり私は必要されていないと思えてくる。
自分が感謝されることなんて見当たりもしない。
『嘘を吐かれた方がよっぽどましだ』
生前に言われた言葉が頭をよぎる。
本当のことを言ったのに、怒鳴られた。
川 - )「そうだな、そうだったな」
いつからか、本当の事を言うのも怖くなっていたのかもしれない。
自分の気持ちを伝えるのが、嫌だったのかもしれない。
- 122 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:10:00.54 ID:y/mztsKF0
だけど、嘘をつくのはもっと怖くて。
ばれた時にもっと嫌われてしまうんじゃないかと思って。
川 - )「感謝なんて、されるわけがないんだな」
気持ちを伝えれずに何が感謝だ。
人から貰ってばかりだなんておこがましい。
なのにそれを望んでいた。
川 - )「みっともないなぁ」
傘を差しているのに、雨に打たれている気分だ。
それなのに、心はこんなにも乾いている。
- 123 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:12:23.58 ID:y/mztsKF0
そんな時、一人の少年が目の前を駆けて行った。
俯いて、傘も差さずに。
その少年を見て、すぐに後を追いかけた。
感謝されるとか、どうとかじゃなくて。
ただ、自分を見ているような感覚に陥ったから。
川 ゚ -゚)「・・・」
初年が入っていった小路に自分も入る。
すると、彼は地面に膝をつき力なく泣いていた。
川 ゚ -゚)「どうした?」
そっと声をかける。
- 125 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:15:00.51 ID:y/mztsKF0
少年は驚いて振り返る。
目を赤くはらし、空のように涙を流し続けていた。
彼の眼を覗き込むように屈み、そっと傘を差し出す。
すると、少年が話し始めた。
( ;∀;)「僕は、嘘をついたんです」
その言葉が重く圧し掛かってきた。
吐いたこともないのに、自分が咎められているようで。
( ;∀;)「自分の私利私欲のためだけに、人を騙した」
自分の出来ないことをこの子はやっている。
泣くほどまでに辛かったのに。
( ;∀;)「生きている間、本当に辛くて、どうしようもなくて、自殺までしたのに!」
ズキズキと胸が痛む。
まるで――――。
- 127 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:17:30.85 ID:y/mztsKF0
( ;∀;)「肝心な所は何一つ変わっていなかった」
まるで、私の事を云っているようで――――。
だけど、私とは明らかに違った。
私は自分のことすら言えなくなっていた。
誰かに話を聞いてもらう勇気すらなくなっていた。
なのに目の前にいる少年は、正直に話をしてくれる。
川 ゚ -゚)「君は偉いよ」
( ∀ )「・・・?」
少年は俯いて何も答えない。
川 ゚ -゚)「君は正直に答えてくれたじゃないか」
- 129 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:20:00.35 ID:y/mztsKF0
( ∀ )「だって・・・」
途中で言うのをやめた少年。
しかし、その先に何を言いたいのかは分かっていた。
私もずっとそうだったから。
川 ゚ -゚)「それでも、偉いのさ」
自分の気持ちを素直に伝える。
嘘をつくことも大切かもしれない。
だけど、今はそんな時じゃない。
( ∀ )「本当に?」
震えた声で言葉が返ってくる。
自信がなさそうで、何かに脅えているような、そんな声だ。
- 130 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:22:30.47 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「私は嘘をつかないのさ」
言いたい事を言ってきた。
だから、こうなった。
そして、その言葉を言ったとき、光が射した。
ふと見上げれば、雲が割れて空が顔をのぞかせた。
そして、もう一度、目の前の少年に気持ちを伝える。
川 ゚ -゚)「大丈夫、君は強くなれるさ」
私が恐れていた事を成し遂げたんだ。
だから、きっと大丈夫。
( ∀ )「お姉さん」
俯いたままの少年から声が発せられた。
- 132 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:25:00.66 ID:y/mztsKF0
川 ゚ -゚)「どうした?」
( ・∀・)「僕さ、次があるかどうかなんて分からないけど」
川 ゚ -゚)「うん」
空と同じように泣きやんだ少年。
声からは震えが消えていた。
( ・∀・)「もう少し、頑張ってみようと思う」
川 ゚ -゚)「ああ」
私も、頑張ってみようと思う。
( ・∀・)「言いたいことも言えない世の中は嫌だしね」
川 ゚ -゚)「少年ならできるさ」
君は全部吐き出した
だから大丈夫。
- 133 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:27:30.77 ID:y/mztsKF0
( ・∀・)「・・・もう時間みたいだ」
そう言うと、少年の体が透けていく。
周りの空気と交わる様に少しずつ。
( *・∀・)「じゃあ――――」
ばいばい、と告げて彼は消えた。
顔をくしゃくしゃにして笑っていた。
その笑顔は確かに私に向けられていた。
こんな、私に。
気が付いたら、何かが頬を伝っていた。
空が泣きやんだというのに、今さら泣き出すとは情けない。
- 135 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:29:59.86 ID:y/mztsKF0
涙を拭いて、空を見上げる。
ぽっかりと空いた穴から、太陽の光が差し込む。
そして、そっと一言を言う。
川 ゚ー゚)「・・・ばいばい」
本当に自然に笑えた。
違和感なんて無かった。
素直に、微笑んでいた。
少年と同じように体が消える。
私は、それに身を任せるように目を閉じた。
- 136 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:32:32.53 ID:y/mztsKF0
目を開ければ白い世界。
そこにいるのは一人の少女。
(*゚∀゚)「・・・はやかったな」
川 ゚ -゚)「まあ、な」
(*゚∀゚)「この物語の意図についてわかったのか?」
川 ゚ -゚)「得意なこと、やりたいことだけをやらせる」
川 ゚ -゚)「そして、それだけじゃ駄目だと気付かせる」
川 ゚ -゚)「そんなトコか?」
(*゚∀゚)「・・・大体そんな感じだ」
川 ゚ -゚)「・・・で、私はどうなるんだ?」
- 139 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:36:41.38 ID:y/mztsKF0
(*゚∀゚)「今までの物語の主人公を辞めてもらう」
川 ゚ -゚)「地獄にでも行くのか?」
少女は声を出して笑う。
元の世界の時からしてみればそうかもしれない、と。
(*゚∀゚)「アンタは新しい物語の主人公をやってもらう」
「次の物語は、もう始まっている」
姿を消した少女が言う。
川 ゚ -゚)「また主人公をやるのか?」
「そう、次は笑顔の物語。10回の心からの笑顔。条件は無し」
川;゚ -゚)「それって誰が笑えばいいんだ?」
「さあ、自分も皆も笑えばいつかわかるさ」
何と無責任な。
- 141 名前:笑わない物語 投稿日:2009/04/19(日) 02:40:59.66 ID:y/mztsKF0
気がつけばまた街。
雲は無く、空が笑う。
川 ゚ -゚)「さてどうしたものか」
とりあえず、今一つ言えるのは。
川 ゚ー゚)「これは心からの笑顔ってことだな」
ゆっくりと歩き出す。
傘を買おう。
透明のビニール傘。
雨が降っても大丈夫。
無いた後には、きっと笑えると思うから。
- 146 名前:物語のようです 投稿日:2009/04/19(日) 02:48:54.27 ID:y/mztsKF0
「人は誰もが主人公」
「なのに、誰しもがそれを認めずに死んでいく」
「自分なんてどうせ・・・とかなんとか」
「きっと、それはそういう物語の主人公だからさ」
「物語の主人公は必ず幸せになる」
「そんなのは妄想、夢、幻」
- 148 名前:物語のようです 投稿日:2009/04/19(日) 02:52:41.45 ID:y/mztsKF0
「まあ、とりあえずアンタにも主人公をやってもらう」
「なんの主人公か?」
「――――な物語の主人公」
「条件はそうだな・・・。――――にしよう」
「さあ、物語が始まるよ」
「いいか、主人公はアンタ。それを忘れるな」
(*゚∀゚)「それでは・・・」
「ごきげんよう」
- 150 名前:物語のようです 投稿日:2009/04/19(日) 02:55:00.79 ID:y/mztsKF0
物語のようです
END
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