( ´_ゝ`)今日という日に咲く花のようです

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:24:24.77 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「刑事さん。お水を一杯頂いてもいいですか?」

( ゚∀゚)「あ、あぁいいぞ」

取調室に連行された流石兄者は、椅子に腰掛けるとゆっくり、そう言った。
四十代手前のその刑事は、部下に目配せし、コップ一杯の水を持ってこさせた。

( ´_ゝ`)「有り難う」

兄者はそっと微笑むと、コップの水を時間をかけて飲み干した。
その心に負った深い傷を洗い流すが如く。

( ゚∀゚)「落ち着いたか?」

刑事は太い眉をピクリと動かしてから言う。兄者は小さく頷く。

( ゚∀゚)「じゃあ…聞かせてもらおうか。何故お前がこんなことをしたのか」

( ´_ゝ`)「……」

兄者は小さく息を吐くと、簡素な椅子の背に体重を預けた。ギィという古ぼけた音を聞いてから、目を閉じる。黴臭い取調室の匂いが鼻腔をそっとくすぐった。

( ´_ゝ`)「どこから話せば良いのか……長くなりそうだ」


兄者は窓の外へと目を遣る。
差し込む夕日は、赤く、美しく、朗らかで、まるで向日葵の様に兄者を見ていた。
そのまばゆさに目を細め、彼は追憶の旅路へと陥って言った。

( ´_ゝ`)「あれは、俺がまだ幼い頃だった…───」

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:25:55.53 ID:P5MNt2qTO


〜( ´_ゝ`)今日と言う日に咲く花のようです〜



6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:28:01.35 ID:P5MNt2qTO
────1940年代。
ここ、ビップの国は戦争真っ只中だった。国民は、貧困に喘ぎ、度重なる空襲に疲弊しきっていた。戦争の旗色は難色を極め、直ぐにでも戦争を終わらせてもらいたいのが国民の本意であった。
それ故に、軍人の横暴や、国の方針に、疑念を抱く者も少なくはなかった。

流石家の長男、流石兄者もそんな国民の一人だった。

( ´_ゝ`)「ビップなんか敗けてしまえば良いのに」

若干十歳のこの少年は、義務教育と言う名の洗脳教育にいち早く疑念を抱いていた。
学校など下らない。二言目には、「お国の為に」。友人も“愛国心”の強い奴らばかりだ。疲弊しきっているこの時代、ゲームもなければ、テレビもない。心許せる友もいない。家に帰れば内職。休日は、農作業。それも、いつくるか分からない空襲に怯えて、だ。
そんな兄者にも、心の支えがあった。

( ´_ゝ`)「ただいま〜」

l从・∀・ノ!リ人「おっきいあにじゃ!! おかえりなのじゃ〜」

トテトテと覚束ない足取りで、兄者に飛び付く。
彼女は、流石妹者。流石家の長女である。
兄者がこの殺伐とした毎日に見出だした、たった一つの光だ。

( ´_ゝ`)「いい子にしてたか?」

l从・∀・ノ!リ人「いーはいつもいい子なのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「ハハッそうだったな!!」

兄者の笑みは心からのものである。妹者がいるから、だから俺は生きていける。それ程までに妹者を溺愛していたのだ。
と言うのも、妹者は実のところ血のつながりが無いのだ。父親の再婚相手の連れ子なのである。
妹者が流石家にやってきたのは、二年前。まだハイハイもできない頃であった。
兄者は、まるで我が子の様に妹者を可愛がった。初めて喋った言葉は、“あにじゃ”であったし、初めて立ち上がったときも、その手を握っていたのは兄者だったのだ。

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:30:34.35 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「今日はどこへ行こうか?」

l从・∀・ノ!リ人「んー……こうえん!! いーはこうえんに行きたいのじゃ!!」

兄者が帰ってきてから、散歩に行くのが彼らの日課であった。

( ´_ゝ`)「弟者を呼んでおいで」

l从・∀・ノ!リ人「うん!!」

トテトテ…と、再び覚束ない足取りで今へと向かう。そう、流石家次男、流石弟者を呼びに。

l从・∀・ノ!リ人「ちっさいあにじゃ!! こうえんに行くのじゃー!!」

(´<_` )「うん」

彼は、兄者の実の弟であるが、歳は離れている。顔はかなりそっくりで、一見すると区別はつかないが、弟者はまだ小学校にもあがっていない。
兄者が、他の同級生に比べ早熟なのも、この二人の面倒を見なければならないからであろう。

( ´_ゝ`)「オカーチャン…散歩に行ってくるよ」

J( 'ー`)し「そうかい……気を付けてね……ゴホゴホッ…」

加えて彼の義母は、病弱であまり動けないともあれば、最早兄者の早熟は必然的なものであろう。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:33:15.63 ID:P5MNt2qTO
l从・∀・( ´_ゝ`)「よし、じゃ行こう」
          「れっつごーなのじゃー!!」

背中に妹者、左手は弟者、というのが彼らの定番スタイルだった。
(´<_` )「学校はどうだった?」

l从・∀・( ´_ゝ`)「ん? 楽しかったよ」

(´<_` )「おれも早く学校行きたいな……」

キラキラと目を輝かせて、学校の様子を聞く弟者を見ていると兄者はつい、本当の事が言えなくなる。あんなところ、最悪だと。

l从・∀・( ´_ゝ`)「いーもはやく大きくなって、がっこうに行くのじゃ!!」
「……そうだな。なら好き嫌いせずにちゃんと食べるんだぞ?」

l从´д`( ´_ゝ`)「じゃがいもはキライじゃ〜」
「芋なんてご馳走じゃないか。ちゃんと食べなさい」

(´<_` )「おれ食べてるよ!!」

l从´д`( ´_ゝ`)「ほら! 弟者は偉いな」
「う〜……たべるのじゃ…」

l从´д`( ´_ゝ`)「偉いな…妹者は……」

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:36:16.42 ID:P5MNt2qTO
背中の妹者は驚く程軽く、痩せこけていた。兄者は、妹者を背負う度に心苦しくなった。
せめて自分が働ければ……。彼にはそれが辛かった。

从・∀・ ( ´_ゝ`)「あっ!! おっきいあにじゃ!! あの花はなんというのじゃ!?」

妹者は花が好きだった。
この暗い世界で、花だけはいつでも優しい顔をしているかららしい。
妹者は花を見つけるとすぐに兄者に尋ねたものだった。

( ´_ゝ`)「あの花はね────」

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:38:29.68 ID:P5MNt2qTO
────1945年。
兄者十四歳。

この日は珍しく、父が家に居た。

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「おー兄者!! おっきくなったなぁ!!」

( ´_ゝ`)「父者は少し髪がうすくなったな!!」

流石父者は、ビップ軍の内務の職員である。戦時中の今は多忙を極め、中々家に居ることはない。
その為この日ばかりは、兄者も些かはしゃいでいた。嬉しくて仕方が無いのだ。

J( 'ー`)し「あらあら。みんなお父さんにべったりくっついちゃって……」

父者の膝の上には、妹者がちょこんと座っており、弟者は、しきりに父の腕を引っ張っている。

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「ハッハッハッ!! 甘えん坊だなぁ。お前たちは」

(´<_` )「父者!! 俺、算数で百点とったよ!!」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「…ん!? すごいなぁ弟者は!! こりゃ将来は、博士か大臣だな!!」

(´<_`*)「……!!」

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:39:58.89 ID:P5MNt2qTO
l从・Α・ノ!リ人「むー……いーもらいねんはがっこうにいけるのじゃ!!」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「ほーそりゃすごい!! 妹者ちゃんは賢いからな!! 飛び級だな!! 飛び級!! ハッハッハッ」

l从・∀・ノ!リ人「とびきゅー? いーは、とびきゅーなのじゃー!!」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「それから兄者。カーチャンから聞いてるぞ。よく皆を面倒見てるってな」

(///_ゝ)「大した事してないよ……」

J( 'ー`)し「やだこの子ったら照れちゃって……ゴホゴホッ」

l从・∀・ノ!リ人「ちちじゃはいつまでうちにいるのじゃ? いっしょにサンポに行きたいのじゃ!!」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「うーんわからんけど、当分はいるぞ!! 妹者ちゃんとお風呂に入るもんなっ!?」

∩l从*・∀・ノ!リ∩「やったのじゃー!! 嬉しいのじゃー!!」

妹者は手足をパタパタさせて喜んだ。弟者は、勉強を教えてとせがんでいる。兄者もクールな振りをしつつも、その実嬉しくて堪らなかった。
その晩は興奮して眠れなかったぐらいだ。残念ながら父の腕枕は、弟達にとられてしまったが。

l从-∀-ノ!リ人「おさんぽなのじゃ…───」

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:42:11.76 ID:P5MNt2qTO
───────

( ゚∀゚)「ほー良い家族じゃねぇか」

刑事は、兄者の話に聞き入っていた。何とも心温まる話ではないか、と。

( ´_ゝ`)「あぁ。今思い出してもあの日々に匹敵する時はない……」

兄者は空いたコップを見遣る。
一息に話してしまったので喉がカラカラだ。最早潤す唾もでない。

( ´_ゝ`)「すみません。もう一杯水を……」

( ゚∀゚)「あ、あぁ……」

刑事は部下に水差しを持ってこさせた。

( ゚∀゚)「それで、家族はその後どうなったんだ?」

( ´_ゝ`)「……。1945年。ビップ大空襲…」

コップに水をトクトクと注ぎならがら、兄者はボソッと言った。

(;゚∀゚)「あの日か……」

ビップ国民ならば誰もが知っているその悲劇。そして、終戦を告げたその爆音。刑事にも少なからず察する所があった。

( ´_ゝ`)「…フー……。その前夜俺は父に呼ばれたんです」


15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:44:15.49 ID:P5MNt2qTO
────1945年。

父が自宅で過ごす様になってから、一週間が過ぎた。
父がいる日々は、兄者にとってもこの上なく素晴らしい日々だった。
l从・∀・ノ!リ人「ちちじゃー!! ばったさんをつかまえたのじゃ!!」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「おーでかいバッタ!! 妹者ちゃんは凄いなぁ!!
     でも可哀想だろう? どんなに小さくても生きているんだ。バイバイしなさい?」

l从・∀・ノ!リ人「……うん。いーはよい子だからばったさんにばいばいするのじゃ!!」

その日、流石一家は近くの農家の手伝いに行っていた。
家族全員での外出は、これが初めてであった。

J( 'ー`)し「すみませんねぇ…シラネーヨさん。こんな時期に家族全員でお邪魔して」

( ´ー`)「いいんだーよ。こっちも騒がしい方が楽しいからーよ……おっ。カメラがあるんだけーど、一枚どうだーよ?」

この時代、カメラ等高価な物は普及しておらず、農家のシラネーヨが持っていたものも、骨董品の様な物だった。それでも一応の心得は有るらしく、写真をとってくれるとの好意に、母は甘える事にした。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:46:34.55 ID:P5MNt2qTO

彡⌒ミ
(;´_ゝ`)「きんちょーするな…」

(;´_ゝ`)「……」

(´<_` )「すげー」

J( 'ー`)し「お父さん。表情が堅いですよ」

l从・∀・ノ!リ人「かたいですよなのじゃー」

( ´ー`)「じゃとりますよー」

パシャリ────





17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:48:06.00 ID:P5MNt2qTO
その夜の事だった。
兄者は夜中、父に起こされた。夜風にあたらないか、と。

( ´_ゝ`)「父者。いきなりどうしたんだ?」

彡⌒ミ
(   )「……兄者」

父のいつになく真剣な声色に、兄者は身構えた。

彡⌒
(´_ゝ)「これから先、もし何かあったら…」

(;´_ゝ`)「ちょ…時に落ち着け父者!! 何かあるって何だ!? せっかく家族水入らずで…」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「兄者!! 聞け!! 今は戦時中。明日何があるともわからない。そして、わしだっていつも傍に居てやれるとも限らない。だから……」

(;´_ゝ`)「何を言っているんだ父者!! 何でそんな話をする!?」

突然突き付けられた現実的な話。しばし、一家団欒という夢に浸っていた兄者には、酷な話ではあった。
この戦時中、いつこの町が衝撃されるかもわからない。多忙な父は、息子にその役目を託したのだ。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:50:52.55 ID:P5MNt2qTO
彡⌒ミ
(´_ゝ`)「家の縁の下に、隠し通路を作ってある。……何かあったらそこを使って逃げろ。そして……」

父者は、ポケットからごそごそと何かを取り出した。

(;´_ゝ`)「何だこれは?」

それは、小さな乾電池の様な、プラスチック製の何かだった。

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「少し離れた所でそのボタンを押せ。……家は爆発する」

(;´_ゝ`)「っな!?」

彡⌒ミ
(´_ゝ`)「……兄者。頼んだぞ」

無理だ。叫べなかった。いや、父の背中はそれ以上喋ることを拒んでいた。
兄者には、その手に握られたボタンが酷く重たく感じた。

( ´_ゝ`)「俺が……家族を守のか…?」

何かあったら……。
父の言葉を理解したのは、翌日の晩になってからだった。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:54:49.96 ID:P5MNt2qTO
その日、父者は早朝からどこかへ出掛けていた。
今日に限って寝坊した事を、兄者は酷く後悔した。

l从・∀・ノ!リ人「いーはいってらっしゃいしたのじゃー!!」

妹は、自慢気に兄者に語る。
早起きして偉いな。と頭を撫でると、目を細めて喜んだ。

( ´_ゝ`)「フー……」

兄者はこめかみを押さえる。昨晩はよく眠れなかったのだ。
それも当然であろう。今もポケットには、この家を吹き飛ばす悪魔が潜んでいるのだから。

本を読む弟者に自慢をする妹者を横目にして、兄者は母に話し掛けた。
父者が家に居るようになってからは、すこぶる体調が良いようだ。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:57:16.97 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「父者はどこへ?」

J( 'ー`)し「仕事だって行って出てったよ。野暮用だからすぐ帰るって」

( ´_ゝ`)「そうか…」

兄者は安堵した。昨晩の話を聞いた後では良い予感がしない。
ここは、母親の雑炊作りを手伝う事にした。
だが、昼を回っても父者は帰ってこなかった。
居ても立ってもいられなくなった兄者は、妹者をおぶって散歩に行くことにした。

l从・∀・( ´_ゝ`)「れっつごーなのじゃー!!」

来年は、小学生だというのに。妹者は相変わらず甘えん坊だ。

l从・∀・( ´_ゝ`)「あっ!! おっきいあにじゃ!! あの花はなんというのじゃ?」

そして、妹者は相変わらず花が好きだ。
あれは、コスモスと言って、秋に咲く花だ、と教えると、えんりょぶかいやつじゃな、と妹者は返した。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 18:59:52.17 ID:P5MNt2qTO
l从・∀・( ´_ゝ`)「あにじゃ…?」
「…ん?」
妹者は、兄者の背に顔を埋める。

l从 ∀ ( ´_ゝ`)「いーは、おっきいあにじゃも、ちっさいあにじゃも、ちちじゃも、かーちゃんも、みなだいすきじゃ」
「……」

l从-。 ( ´_ゝ`)「でも、おっきいあにじゃは、どっかにいっちゃヤなのじゃ……」
「……?」

そこまで言うと妹者は、静かに寝息を立てはじめた。
朝早かったし、父者の事もあり、はしゃぎ疲れたのだろう。

l从- -( つ_ゝ)「あに…じゃ」

兄者は、涙の後が消えるまでぶらついてから、家に戻った。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:02:06.95 ID:P5MNt2qTO
彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「兄者!! 遅いぞ?」

家に着くと、ほろ酔い顔の父者がいた。
ただの杞憂だった様だ。兄者は、安堵のため息を着くと妹者を寝床へ連れていった。

彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「いやぁ妹者はかわいいのぅ。食べてしまおうか」

(#´_ゝ`)「その時は全力で阻止する」

そう言いつつも、父に手酌をする。父者も上機嫌だ。

( ´_ゝ`)「父者の下らない話を聞いていると疲れる」

彡⌒ミ
(*´_ゝ`)「なんだつんでれか」

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:02:48.65 ID:P5MNt2qTO
昨日の寝不足もあり、兄者もうとうとし始めた頃だった。
父者は突然息子を抱き締めた。

(;´_ゝ`)「父者!! 落ち着け!! 時に落ち着け!! 臭い!! 酒臭い!!」

彡⌒ミ
( _ゝ )「……」

父者は小刻みに震えている。

(;´_ゝ`)「…!?」

泣いているのか?
そう思った直後だった。
父者は大いびきをかいて、寝てしまった。

( ´_ゝ`)=3

兄者は小さくため息を着くと、父を寝かせ、毛布をかけた。

( ´_ゝ`)「お休み。父者」

静かに襖を閉めると、夜の静寂に辺りが包まれた。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:05:42.78 ID:P5MNt2qTO
─────

(;´_ゝ`)「……!?」

凄まじい轟音に、兄者は飛び起きた。
カンカンカンカンという、警報音が辺りに響き渡る。

空襲だ。

察するや否や、兄者は、防空頭巾やら、非常食やらを取り出した。その時だった。

何やら、外が騒がしい。

「ここだ」「突き破る」「中にいるはずだ」

何の話だ?
そう思う間もなく、戸口が突き破られた。

「流石ぁぁあ!! 出てこい!!」
「なんだ? 貴様ら」
「ここにあるのはわかってんだモナ」
「出せ」
「しらん!! それに貴様らは間違っている!! あんな事をして平和が……」

父の言葉は、最後の辺りで、遮られた。……暴行されている。

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:08:03.40 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「……父…者」

兄者は自分の歯が、カチカチと音をたてているのに気付いた。
外では空襲警報。家では、リンチ。
どうすれば……。
その時、袖が引っ張られるのを感じた兄者は、下を見た。

l从;д;ノ!リ人「こわいのじゃ」

目を潤ませた妹者が、お気に入りの人形を抱き締めながら、袖を引っ張っていた。

(;´_ゝ`)「妹者……」

ゴクリと唾を飲む。目の端に、防空頭巾を被った弟者が見えた。

(;´_ゝ`)「フー……父者……フー……」

昨晩の父の言葉を反芻する。

────何かあったら…────

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:10:34.03 ID:P5MNt2qTO
「どこだ!?」
「持ってないぞ!?」
「……!? 女房だ!! 女房を探せぇぇ!!」
「子どもはどうしますモナ!?」
「殺せ!!」

(;´_ゝ`)「……ッ!?」

どたどたと慌ただしい音が聞こえる。……マズい。そう思った矢先だった。

「兄者ぁぁぁぁぁぁあ!! 逃げろぉぉぉぉおお!!」
「まだ生きてたモナか!!」
「ぐぎゃぁぁあ!!」

それが父の断末魔だった。
その声を皮切りに兄者は、妹者を抱き上げた。左手は、弟者の右手を握っていた。そして駆け出す。
…行く先は、母の寝床。
病気がちの母は、一番奥の部屋に寝床を構えていた。
兄者は、恐怖心に駆られながらも、母の部屋に押し入った。
腕の中では、妹者がわんわんと声を上げて泣いている。弟者は、完全に気が抜けて放心状態だ。

(;´_ゝ`)「オカーチャン!! 立って!! 逃げるんだ!! 早く!!」

兄者は急き立てる。自分の手は一杯だ。病弱な母には立ってもらわねばならない。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:15:08.06 ID:P5MNt2qTO
J(;'ー`)し「一体何があったってんだい? それにアタシは動けないよ…ゴホッ」

(;´_ゝ`)「早く!! 父者がそう言った!!」

J(;'ー`)し「……全く…しょうがない子だね……」

父者の一言で、母は、無理矢理腰を上げた。
だが、謎の人物達の声はもう後ろに迫っていた。

(;´_ゝ`)「早く……早く!!」

「らぁぁあどこだぁぁあ!!」
「そっちは?」
「いないっす!!」

(;´_ゝ`)「ハァハァ……」

兄者は、母を押すようにして縁側へ出る。直ぐ様、縁の下へと母を追い遣り、自らも続く。

J(;'Α`)し「あらま……狭くて暗いねぇ…」

(;´_ゝ`)「……ハァハァ…」

(´<_`;)「……ハッハッ…」

l从;Д;ノ!リ人「ぅえぇぇええんえんえん」

マズい。妹者を黙らせなければ。
兄者は妹者の口を押さえ、頭を撫でる。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:18:13.40 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「いい子は泣かない。後でお前の大好きな花を摘んできてあげよう」

l从うд;ノ!リ人「ぅぅぅうう…やくそくじゃ……」

「いないぞ?」
「もっと探せぇ!!」

(;´_ゝ`)「うん。いい子だ。何がいい?」

l从つд;ノ!リ人「ヒック……ヒック……」

────…の花がほしいのじゃ────


35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:18:58.20 ID:P5MNt2qTO
(;゚∀゚)「……ゴクリ」

刑事は、自らの唇が酷く乾いている事に気付くと、舌でそれを潤した。
手の震えが止まらない。
十いくばくの子どもが、その様な状況にいたら。臨場感のある兄者の物語に、刑事は酷くのめり込んでいた。

( ´_ゝ`)「あ。刑事さん。タバコを吸ってもよろしいですか?」

(;゚∀゚)「あ、あぁ……」

刑事は、懐からタバコを取出し、兄者に渡す。
火を付けると、桜の甘い薫りがした。

( ´_ゝ`)y-~~~「チェリーブロッサム……だな」

(;゚∀゚)「ん?」

( ´_ゝ`)y-~~~「銘柄ですよ。タバコの。俺は好きだ。特に名前が」

兄者は、空に向かって煙を吐いた。
紫煙が、視界を染めていく。


37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:21:53.88 ID:P5MNt2qTO
────1945年。

何とか謎の集団を凌いだ一家は、地下の抜け道を這いずり回っていた。

(;;´_ゝ`メ)「ふぅ…ふぅ…」

今何時だろう。皆疲れ切っている。何と言っても暑苦しい。それにいつまで進めばいいのか。
兄者は、息を切らしながら、時計を探る。
だがポケットにあるのは……
あのボタンだけだった。

(;;´_ゝ`メ)「……」

兄者は、複雑な表情を浮かべる。
この手で、父を殺したのだから。今でもあのボタンの感触が、生々しく残っている。
兄者は、奥歯をギリギリとさせる。

(;;´_ゝ`メ)「みんな……大丈夫か?」

大丈夫なわけがない。自分ですらこんなにも、疲労を感じているのに、齢ヒトケタの子ども達と、病弱な母だ。彼らの辛さを考えるだけで胸が痛む。

l从・∀・;;ノ!リ人「いーは元気なのじゃ!!」

(;;´_ゝ`メ)「……妹者」

健気な妹の言葉に、涙が出そうになるのを堪えて、彼女の顔に付いた泥を拭ってやる。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:22:42.32 ID:P5MNt2qTO
J('ー`‖)し「大丈夫……ハァハァ大丈夫だよ」

母はと言えば、かなり体調が優れない様子だ。

(;;´_ゝ`メ)「オカーチャン……あとちょっとだから……」

そんな気休めを言うこと位しか、彼には出来なかった。

(´<_`”;)「兄者……あれ…」

酷く静かだった弟者が、突然前方を指差す。

(;;´_ゝ`メ)「…!!」

かすかだが、光が見える。
間違いない。光だ。

(;;´_ゝ`メ)「ハハッ!! 出たぞ!! 外だ!!」

l从・∀・;;ノ!リ人「おそとなのじゃ!! おそとなのじゃー!!」

(´<_`”;)「疲れた〜」

J('ー`‖)し「あらま。ほんとに外だよ。兄者すごいわねー!!」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:25:30.45 ID:P5MNt2qTO
久しぶりに吸う外の空気は、数倍美味しく感じた。

(;;´_ゝ`メ)「ここは……隣町じゃないか……」

J(‖'ー`)し「あれほんとだ。なら、高岡さんの家があるじゃない」

高岡さんとは、母の親戚に当たる人物で、隣町へ買い物に来た時は、必ず寄っていた。

J(‖'ー`)し「でもあれだねぇ……昨日の空襲もあったことだし、こんな時代に、一家全員が助けて下さい何て来たら何て言うか……」

(;;´_ゝ`メ)「オカーチャン。昨日の空襲は大したことなかったじゃないか。現にこの町も余り被害が無さそうに見える!! こんな時代だからこそ……」

昨晩の大空襲。実は、ビップの国は壊滅的ダメージを受けており、都心部がやられたのである。それは、敗戦を余儀なくされる一因になったのだが、流石一家はこの時点でそれを知らない。
更に自分たちが“お尋ね者”になっている事など、知る由もない。


40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:28:03.40 ID:P5MNt2qTO
(;;´_ゝ`メ)「ごめんください。流石です」

長い間、地下の抜け穴を通ってきた彼らには時間がわからない。
だが、太陽が昇りはじめた事から察するに、今は朝方であろう。兄者は失礼で無い時間とわかったらすぐに高岡家へと向かった。
疲れ切っている家族は、公園で一休みさせておいた。

从 ゚∀从「んあ? 何だ何だ? 流石さんの坊っちゃんじゃねぇかい!! どうしたんだい!? 泥だらけじゃねぇかい!?」

この夫人が、高岡である。言葉遣いは乱暴だが、中々に面倒見の良い夫人だ。

从 ゚∀从「まさか、昨日の大空襲かい!? ささっあがっとくれ!! まぁまぁかすり傷だらけで!!」

大げさに口を開ける高岡夫人。よかった。やはり、母の懸念は杞憂だった様だ。

(;;´_ゝ`メ)「いえ、それが……」

流石に、何ものかに襲われてとは言えるはずもなく、昨日の空襲から逃げ延びて来たとだけ、説明した。

从 ゚∀从「そうかいそうかい!! 大変だったねぇ!! ちょいと部屋方付けるから、カーチャン達呼んできな」

高岡夫人はそう言うと、早々に家の中に入ってしまった。
兄者は安堵のため息を一つついて、家族を待たせている公園へと引き返して行った。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:28:52.13 ID:P5MNt2qTO
从 ゚∀从「あらあら、妹者ちゃんは、またご飯粒つけてー!!」

l从・∀・ノ!リ人「ごはんおいしいのじゃ!! ごはん!!」

流石一家は、高岡夫人のご厚意に甘え、夕食を振る舞ってもらった。
ひえや、粟の雑炊ばかりだった為、白いご飯に妹者は一段とはしゃいでいた。

( ´_ゝ`)「……」

やはり、白飯はうまい、等と考えつつ辺りを見回す。どうやら、中々の富裕層の様だ。旦那さんは、確か、軍人だったと聞いていた。

J( 'ー`)し「すみませんねぇ…すみませんねぇ……」

(´<_` )「おばさんおいしいです」

流石一家は、やっと人心地に有り付く事が出来たのだ。

その晩。
高岡夫人の厚意で、寝床も貸して貰うことが出来た。
最初こそはしゃいでいたものの、まだ幼い下の二人は、早くも寝息を立てていた。

44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:33:20.72 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「なぁオカーチャン……」

J(- -)し「何だい?」

( ´_ゝ`)「何で家が襲われたんだろう?」

兄者は、抱いていた疑問を口にした。

J(- -)し「さぁ……カーチャンにはさっぱりだよ……」

( ´_ゝ`)「でも…あいつらは、ビップ軍だった。間違いない。靴に隊章が入ってた」

縁の下から見えた彼らの靴には、確かにビップ陸軍の隊章が印されていたのだ。

J(- -)し「お父さんの仕事は知ってるでしょ? 軍人さんから恨みを買うことでもあったんじゃないかねぇ……」

母は、どこか他人事の様に話す。

( ´_ゝ`)「でも……」

納得のいかない兄者は、それでも食い下がる。

J(- -)し「今日は疲れたし寝ましょう?」

そう言うと、母は背を向けてしまった。
夫が死んだのに?何故……。

( ´_ゝ`)「!!」

兄者はその夜、母のすすり泣きが聞こえないように耳を塞ぎ、目を閉じた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:38:38.00 ID:P5MNt2qTO
J( 'ー`)し「お早う兄者」

目を覚ますと、目の前にはエプロンを着けた母が忙しなく働いていた。

(;´_ゝ`)「オカーチャン!! そんなに動いて……寝てなくちゃ駄目だ!!」

J( 'ー`)し「お世話になってる身で、寝たきりってわけにも行かないからね!!」

空元気だ。兄者は即座にそう思った。病弱な母がここまで働けるハズが無い。

从 ゚∀从「いやぁ働きモンだねぇ!! まいっちゃうわぁ……流石さんそれ終わったら、洗濯物も頼む!!」

働かせられてるんじゃないのか?兄者は、そんな疑念すら抱いた。だが、曲がりなりにも命の恩人である。兄者はすかさず母に代わって手伝いを始めた。

l从・∀・ノ!リ人「おえかきなのじゃ〜」

足元では、妹者が小さくなって落書きをしている。
稚拙な絵だが兄者には、そこに描かれているものがわかった。

( ´_ゝ`)「何を描いてるんだ?」

l从・∀・ノ!リ人「んと…おっきいあにじゃと、ちっちゃいあにじゃと、カーチャンと、ちちじゃなのじゃ!! まんなかがいーなのじゃ!!」

白く小さな歯を剥き出してにぃと笑う妹者。
妹者にはわからないのだろう。父はもうこの世に居ないということを。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:39:56.41 ID:P5MNt2qTO
(´<_` )「……」

窓辺で本を読む弟者はどうだろう。いや、弟者は頭が良い。もうとっくに気付いているだろう。気付かない振りをしているだけだ。

从 ゚∀从「おーい!! 流石さんちょいと!!」

(;´_ゝ`)「俺が行きます!!」

慌ただしい一日だ。
日が暮れる頃、高岡家の長女、ミセリが帰ってきた。

ミセ*´д`)リ「ただいま〜…ハァ疲れた」

彼女は、近くの学校で給仕の仕事に就いていた。

ミセ*´д`)リ「ご飯なに?」

从 ゚∀从「佃煮だよ」

ミセ*゚д゚)リ「えぇっまた? 昨日もそうだったじゃん」

从#゚∀从「うっさい娘だねぇ!! 仕方ないだろうが、家族が一気に増えたんだから!!」

(;´_ゝ`)「…」

J('ー`;)し「……」

何気ない一言だったが、二人は表情を曇らせた。
夫人は、ハッキリと物を言い過ぎるきらいがある。デリカシーが無いとも言える。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:41:10.15 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「美味しかったです。ご馳走様でした」

兄者は箸をおくと、そそくさと客間に向かって行った。
こんな肩身の狭い毎日が続くのか……。ため息が出る。

そう言いつつも、高岡家での生活は早くも三週間が過ぎ去っていた。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:43:16.06 ID:P5MNt2qTO
この日、兄者は血相を変えて居間へと飛び込んだ。

(;´_ゝ`)「妹者!!」

l从;д;ノ!リ人「うぇええんえぐっえぇーーん」

妹者の鳴き声に、走ってきたのだ。

(;´_ゝ`)「よしよし……どうしたんだ? 妹者?」

从 从「あたしがひっぱ叩いた」

タバコを吹かしながら、高岡夫人が言う。

( ´_ゝ`)「妹者が何か…!?」

兄者はキッと彼女を睨む。

从 ゚∀从y-~~~「あたしのラジオを勝手にいじくってたからな」

(;´_ゝ`)「ラジオ……」

確かにこの時代、ラジオはかなり高価な物だった。しかし、その位で…。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:45:55.32 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「妹者はまだ小さいんです。何も叩かなくても!!」

l从つΑ;ノ!リ人「ヒック……ぅぇえぇ…」

从#゚∀从「何だい!? あたしのやり方にケチ付けるってのかい!? 出てってもらってもかまわないんだよ!?」

それを言われたら何も言い返せない。

( ´_ゝ`)「……スミマセンでした…」

不本意ながらも、謝辞を述べ、部屋を後にする。左手に握った妹者の小さな手を、握り潰してしまいそうな程、兄者は憤慨していた。

l从うд;ノ!リ人「おっきいあにじゃ……いたいのじゃ……」

(#´_ゝ`)「……すまん…」

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:49:36.32 ID:P5MNt2qTO
その夜、兄者は妹者を寝かしつけると、トイレにたった。
夜中に騒がしくすると、高岡から小言を言われる為、細心の注意を払って歩いていた。

「────!!」
「────!?」

( ´_ゝ`)「ん?」

居間の前を通り過ぎた時、人の声が聞こえたので兄者は、聞き耳を立てた。

「──かあさんはさぁ……──」
「バカだね───と!!」

どうやら高岡夫人と、その娘ミセリの様だ。何やら言い争っているのだろうか。彼はそっと扉に耳をあてた。

「だからお母さんは考えて無さすぎるよ……なんでいつまでも犯罪者を匿わなきゃいけないわけ? もうあたし気が気じゃないよ!!」
「何言ってんだい!! チャンスだよこれは!? お尋ね者の流石一家を捕えてるんだから」

(;´_ゝ`)「!?」

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:51:41.95 ID:P5MNt2qTO
お尋ね者、犯罪者という単語に兄者は耳を疑った。
自分たちが……?何故?

「だったら早く通報しちゃえばいいじゃん」
「わかんねぇ娘だねぇ。懸賞金がつくでしょがぁ? 待ってんだよあたしは…!!」

(;´_ゝ`)「……っ!?」

信じ難い話だ。一体自分たちが何をしたのかと。兄者は、その場に立っていることが苦痛だった。

( ´_ゝ`)「そうだ…新聞…!!」

この情報の信憑性を確かめなくてはならない。兄者は、そっと立ち去ると、入室を禁止されていた高岡家の書斎に向かった。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:53:11.11 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「ハァハァ……!! 嘘だろ……?」

一週間前の新聞だろうか。織り込みチラシにはこう書かれていた。
『情報求ム。密入国スパイ、流石一家』

あろうことか、スパイ容疑をかけられていたのだ。あまり似てはいないが、似顔絵も載って居た。

(;´_ゝ`)「バカな……」

信じたくはない。だが、彼らは間違いなく、指名手配犯とされていた。
だからか。だからこの部屋への入室を固く禁じ、ラジオを弄ったくらいで酷く怒ったのだ。

(;´_ゝ`)「そう言えば……戦争はどうなったんだ!?」

そう、彼らは終戦の報をまだ知らない。

(;´_ゝ`)「戦後…復興?」

直近二週間の新聞には、どれも戦後復興の文字が書かれていた。

(;´_ゝ`)「ビップの国は、敗けたのか……」

あれ程待ち望んだ終戦を、まさかこのような形で知ろうとは。兄者は、心底落胆した。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:55:38.80 ID:P5MNt2qTO
(  _ゝ )「逃げないと……」

そう思うや否や、彼は走りだした。荷物をまとめ、母を起こす。

J(うд`)し「何だいこんな遅くに……」

(;´_ゝ`)「黙って聞いてくれ!! 直ぐにここを出る!!」

J(;'ー`)し「えー? どうしたんだい? じゃ高岡さんに挨拶を……」

(;´_ゝ`)「良いから早く!!」

兄者は、妹者を抱き抱え、弟者を叩き起こす。

(;´_ゝ`)「逃げるんだ!! とにかく遠くへ……────」


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:58:43.11 ID:P5MNt2qTO
────

(;゚∀゚)「ひでぇ話だな……」

刑事は率直に感想を述べる。
命の恩人に、まさか裏切られようとは。

( ´_ゝ`)「精神的にも辛かった」

兄者は、首にかけられたペンダントをチャリチャリとならす。

( ´_ゝ`)「病弱な母と幼い子ども三人が、生きていくにはあの時代厳しかった」

( ゚∀゚)「……だろうな」

( ´_ゝ`)「浮浪生活二年目だ。俺達は…母を失った────」

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 19:59:31.10 ID:P5MNt2qTO
────1947年。
流石一家は、浮浪生活の二年目を迎えていた。

(ヽ´_ゝ`)「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」

流石兄者は、人通りの多い道で物乞いをしていた。

( ノ.ノノ_ノ.ノノ)「気にすんなし」

(ヽ´_ゝ`)「……」

彼は、三人を養わなくてはならなかった。だが当然働き口などない。

Σ( ノ.ノノ_ノ.ノノ)「あれっ!? 財布がねぇし!! まさかあいつ……ふざけんなし!!」

≡ ´_ゝ`)

従って彼が、この様な行動に出るのも、ある種必然と言えよう。

(ヽ´_ゝ`)「五百円か……ボチボチだな…」

兄者はとぼとぼと歩く。八百屋で、ジャガイモを買うと橋の下へと向かって行った。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:03:07.00 ID:P5MNt2qTO
(ヽ´_ゝ`)「ただいま。今日はジャガイモを貰えたぞー」

l从ヽ・∀・ノ!リ人「お帰りなのじゃー!! いージャガイモ好きなのじゃ!!」

(ヽ´_ゝ`)「今作るからなぁー待ってろよ」

流石一家は、橋の下にあったほっ建て小屋で生活を営んでいた。
簡素な家ながら、雨風を凌ぐくらいは出来た。

(ヽ´_ゝ`)「弟者は?」

l从ヽ・∀・ノ!リ人「ととかんに行ってるのじゃー」

(ヽ´_ゝ`)「図書館な。…オカーチャンは?」

l从ヽ´д`ノ!リ人「またゲホゲホしてたのじゃ〜」

この二年間の浮浪生活で、母はすっかり身体を悪くしてしまった。みるみる痩せ細っていき、今では見る影もない。

(ヽ´_ゝ`)「そうか…(医者にでも連れていければいいんだが…)」

そうは言っても浮浪の身。かかれる医者はなどない。

(ヽ´_ゝ`)「さ、できたぞ」

l从ヽ・∀・ノ!リ人「ジャガイモ! ジャガイモ!! なのじゃー」

だがこの生活も長くは続かなかった。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:14:28.04 ID:P5MNt2qTO
l从ヽ;д;ノ!リ人「こ、こわいのじゃ……」

(ヽ´_ゝ`)「大丈夫。大丈夫」

この日、大型の台風が、ビップの国を縦断していた。
古ぼけたほっ建て小屋が、この強風に耐えられるかは甚だ疑問だが、耐えてくれねば、それは死の危険すら出てくる。

J(;;゚-゚)し「雨漏りが酷いねぇ……」

(ヽ´_ゝ`)「……!!」

(´<_`/)「兄者!! 戸が!!」

ガタガタと揺れる戸。今にも吹き飛びそうだ。

(ヽ´_ゝ`)「押さえよう弟者」

(´<_`/)「把握した」

兄弟二人で扉を押さえるも、その風は留まることを知らない。

(;ヽ´_ゝ`)「まずい……」

ついに限界がかた。
バリバリと音をたて、小屋が崩壊していく。

(;´_ゝ`)「妹者ぁぁぁぁあ!!」

……────

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:17:19.77 ID:P5MNt2qTO
ザァァァァア。暴風域は抜けたのだろうか。弱い雨が顔を撫でる。

(#;´;_ゝ`)「ハァ…ハァ…」

小屋は完全に倒壊していた。また移住をせねば。
しかし、衰弱しきったこの家族。果たして大移動が可能なのか?

つ´_ゝ)「取り敢えず…街へ行こう。歩けるか?」

(´<_`,;/)「オカーチャンが!!」

(ヽ;´_ゝ`)「!?」

慌てて母を探す。

J(;;゚-;゚)し「ごめんね…カーチャンいつも足手まといで……ごめんね…」

(;ヽ´_ゝ`)「……」

母は、足を小屋の残骸に挟まれていた。

J(;;゚-;゚)し「カーチャンの事はいいから……アンタ達だけでも生きるんだ! ……兄者…妹者を……頼むよ?」

(;ヽ´_ゝ`)「待ってくれ!! オカーチャン!! 今助ける!!」

兄者は、慌てて母を引きずりだそうとする。降りしきる雨が肌に刺す様だ。

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:19:48.91 ID:P5MNt2qTO
J(;;-;)し「何してるの!? 妹者が震えてるじゃない!!」

(;ヽ´_ゝ)そ「…!!」

こわいのじゃ。こわいのじゃ。
泣き叫ぶ妹者に、兄者は手を止めた。

J(;;'ー`)し「どうか…生きて……。カーチャン何もしてやれなくてごめんね……」

(ヽ _ゝ )「……」

兄者は踵を返すと、妹者と弟者を抱き抱え、走りだした。
母の最期を見せないように。
見ないように。

(ヽ´_ゝ`)「ハァハァ……」

どれくらい走ったのだろうか。兄弟達は、比較的綺麗な状態の小屋を見つけた。
倒れこむ様にして横たわると、猛烈な眠気が兄者を襲った。

(´<_`/)「兄者? 大丈夫か!? 兄者?」

(ヽ´_ゝ`)「あぁ……ちょっと疲れた…寝かせて……くれ…」

l从。- -ノ!リ人「カー…チャン…」

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:21:31.66 ID:P5MNt2qTO
翌朝、兄弟達は母の墓を作った。その下に母はいないがそれでも供養だけはと、三人の総意であった。

( ´_ゝ`)「オカーチャン……ゆっくり眠ってくれ。いつか父者と同じ墓を建てるから……」

l从;へ;ノ!リ人「……」

その時、妹者は泣かなかった。涙目ながらも口を真一文字に結んで開かなかった。

(´<_`/)「兄者。これからどうするんだ?」

(ヽ´_ゝ`)「また放浪するしかないだろう。俺たちが指名手配されているのは変わらない。……ビップの国を出るしかない」

そう。彼らに残された道は国外逃亡しかなかった。
兄弟達は、再び放浪の旅に出る。

(ヽ´_ゝ`)「さぁ行こう。オカーチャンへの孝行は、俺たちが生きることだ」

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:24:50.69 ID:P5MNt2qTO
だが、その場凌ぎの生活がそう長くは続かなかった。

何日も歩き続けた一家は、ある日ついに力尽きた。

(ヽ;´_ゝ`゙)「ハァハァ……二人とも、しっ…かりするんだ……もう少しで街につ…く」

次々に兄弟は倒れていき、終には、兄者も道端で倒れた。

(ヽ;´_ゝ`゙)「すまな……妹……者」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:25:58.52 ID:P5MNt2qTO
────
( ゚∀゚)「それで……出会ったのか」

( ´_ゝ`)「あぁ。あれが今後の人生を左右する運命の出会いだった」

兄者はタバコを揉み消しながら言う。このまま過去も揉み消してしまえれば、どんなに楽だろうか。
ふと、取調室な活けられた一輪の花を見遣る。

( ´_ゝ`)「ミヤコワスレ……紫の花は憂いを秘めている」

( ゚∀゚)「花の名前までは知らなかった。詳しいのか?」

( ´_ゝ`)「まぁ……」

都忘れ。俺たちのあの時の状況だな。自嘲気味に鼻を鳴らすと、兄者は再び追憶を始めた。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:29:17.35 ID:P5MNt2qTO
────1947年。
……

「ん? 車を止めてくれ。誰か倒れてる」

「まだ子どもじゃないか……。おい!! 君たち!! しっかりしろ!!」


……


( ´_ゝ`)「…はっ」

次に兄者が目覚めたのは、暖かいベッドの上だった。傷も手厚く手当てしてある。

(;´_ゝ`)「……ここは…?」

見たところかなりの豪邸の様だ。真っ白な部屋には、高価な家具が置かれており、壁には、恐らく有名な画家の作品であろう絵画がかけられていたのだ。

川 ゚ -゚)

(;´_ゝ`)「……!?」

部屋を見回すと、まるで人形の様な女性が隅に立っていた。

(;´_ゝ`)「あ、あの……」

声をかけようとすると、女性は静かに立ち去ってしまった。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:31:02.58 ID:P5MNt2qTO
「旦那様。お目覚めになりました」

「何っ!? ほんとか!?」

二三声がした後、パタパタと廊下を歩く音が聞こえた。

(´・ω・`)「やぁ。お目覚めかな?」

部屋に入ってきたのは、冴えない中年男性。
しかし、衣服はかなり高価なもので、紳士といった雰囲気を醸し出していた。

これが、兄者の人生を左右する運命の出会いとなった。


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:33:42.81 ID:P5MNt2qTO
(´・ω・`)「僕はショボン。バーボンハウスの場本ショボンだ」

バーボンハウスと言えば、この時代、ビップの国を代表する一大企業であった。そして、場本ショボンとは、その社長である。

(´・ω・`)「しかし、一体なにがあったんだい? 見たところ中学生だね? 戦時中じゃあるまいし、まさか今の時代に行き倒れなんて、よっぽど何かあったんじゃないか?」

ショボンは、穏やかな口調で言う。だが、兄者はこれに答えなかった。

( ´_ゝ`)「……」

高岡の一件があったからだ。不用意に自らの事を話すことは憚られた。

( ´_ゝ`)「ショボンさん。俺たちは先日の台風で、母を失いました……」

兄者は、自分たちがこの様な浮浪生活になった経緯を伏せて、母を失った事だけをショボンに話した。

(´;ω;`)「何という事だ。こんな幼い子どもに神はなんて仕打ちを与えるのだろう」

驚く事にショボンは、大粒の涙をボロボロと流し、流石一家の不幸を嘆いた。

(;´_ゝ`)「……」

こんな人間が今まで居ただろうか?
学校の言う事を鵜呑みにする同級生達。父を死に追いやったビップ軍。自分たちを食い物にしようとした高岡。同情と憐憫の目で見つめる町ゆく人々。

(´うω;`)「すまない。僕も思うところがあってねぇ……。いやよく生きていてくれた。本当によかった」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:37:49.40 ID:P5MNt2qTO
何故だろうか。兄者は気付けば、その身に起こった出来事を包み隠さず喋っていた。

(´;ω;`)「……何という事だ。奴らはそこまで外道だったか」

終始頷き、同情の言葉を向けていたショボンだったが、最後まで聞くと落胆したように言った。

(´・ω・`)「いや、何を隠そう、僕もビップ軍の被害者でね。反骨の想いでこの会社を設立。ここまで大きくしたんだ。
…ところで。君たちが追われる理由。厳密には君の父親だが。軍部の人間だったね。
恐らく君の父親は、戦争に関わる重要な情報を持ち出した。だから狙われたんだ。
そしてそれは、君たち家族に託された。よって君たちは、スパイ容疑で指名手配されているのだろう」

(;´_ゝ`)「そんな!! 父は俺たちを巻き込むような人間じゃない!!」

この上父にまで裏切らたら堪らない。兄者は思わず声を荒げる。

(´・ω・`)「すまない。語弊があったね。君の父親はきっと平和を望んでいた。極秘の情報は内々に処理したのだろう。
だが、軍はそうはいかなかった。君たちがその情報を知ってしまったのではないか。
そう疑っているんだ。だから君たちの命を狙う。
      ……奴らは、利己的だ。自分たちの立場や利を脅かすものがあれば徹底して排除する。
そうやって命を絶たれた者、国を追われた者を僕は知っている…」

ショボンは、下がり気味の眉をもっと下げて言う。自分に重ねているのだろうか?。

96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:43:19.39 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「……じゃあ俺たちはどうすれば……」

兄者は絶望感に打ち拉がれる。

(´・ω・`)「ハッキリ言って君たちに逃げ場はない」

(;´_ゝ`)「……じゃあ……何のために……俺たちは…」

ガックリとうなだれる兄者に、ショボンは立ち上がり言った。

(´・ω・`)「……君は僕が引き取ろう。我が社で働け。名前も変えるんだ」

思いもよらぬショボンの提案に兄者は、戸惑いを見せる。

(´・ω・`)「だが、流石に兄妹の面倒まで見きれない。もっと安全な外国に行くべきだろう。
幸いチョン国に、僕の古い友人がいる。彼らに預ければ身の安全は保証する。どうだい? 悪い話では無いはずだ」

(;´_ゝ`)「……」

妹者たちを外国へ、自分はショボンの会社で働けと。
彼が悪人でないことはよくわかる。話も信頼するに値する。そして自分たちが想像以上に危険な立場にいると言うことも。

( ´_ゝ`)「考えさせて下さい」

(´・ω・`)「よく考えたまえ」

兄者はフラフラと部屋を出る。

99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:49:39.02 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「あの、妹達は?」

川 ゚ -゚)「客間で遊んでおられます」

どうやらこの女性は召使というより、秘書の様だ。妹達の所在を聞いて兄者は、客間へと向かった。

l从・∀・ノ!リ人「おっきいあにじゃー!!」

部屋へ入ると妹者が抱きついてきた。

l从・∀・ノ!リ人「よかったのじゃー!! ずっとねてるからしんぱいしたのじゃ!!」

兄者ごめんな、と言い、妹者を抱き上げると、強く抱き締めた。

l从・∀・ノ!リ人「……? どうしたのじゃ? まだイタイイタイなのじゃ?」

( ´_ゝ`)「……ごめんな」

その晩、兄者は弟者にショボンからされた話をした。

(´<_` )「俺は……大丈夫だ」

( ´_ゝ`)「本当か? 外国だぞ?」

弟者は、深く頷く。我ながらしっかりした弟だ。兄者はそう思った。

( ´_ゝ`)「いつか……絶対迎えに行く……」

兄者は決意した。
それで家族が幸せになれるならと。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:53:52.43 ID:P5MNt2qTO
(´・ω・`)「出港は一週間後」

与えられた一週間。兄者は兄妹との時間を大切に過ごした。
たくさん喋った。たくさん遊んだ。たくさん抱き締めた。
その温もりを忘れない様に。

妹者は、思いの外すんなりと受け入れてくれた。事実の重みを理解していないからかもしれない。また、暫しの別れとしか考えていないのだろう。


出港前夜。
兄妹は、夜遅くまで話した。

( ´_ゝ`)「妹者は大きくなったら何に成りたいんだ?」

l从・∀・ノ!リ人「いー? いーはねぇ〜……おはなやさん!! いーはおはなやさんになりたいのじゃ」

( ´_ゝ`)「そうかぁ……妹者花が好きだもんな?」

l从・∀・ノ!リ人「うん!」

妹者のその無垢な笑顔を見ると、胸が押しつぶされそうになる。

l从´・∀・ノ!リ人「……どうしたのじゃ? おっきいあにじゃ」

(  _ゝ )「いや…なんでもない。妹者は賢いな」

l从・д・`ノ!リ人「……」

兄者は、涙しないよう、唇を噛み締めていた。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:55:02.73 ID:P5MNt2qTO
────翌朝。
別れの日が訪れた。

(´・ω・`)「では、杉浦さん。よろしくお願いします」

( ФωФ)「任せるのである」

( ´_ゝ`)「じゃぁ。いつか必ず向かえに行く」

(´<_` )「妹者の事は…任せて」

( ´_ゝ`)「頼んだぞ」

兄弟は別れの挨拶を固く交わす。

l从・∀・ノ!リ人「おっきいあにじゃー!!」

( ´_ゝ`)「妹者……」

トテトテと兄者に歩み寄る妹者。

l从・∀・ノ!リ人「これあげるのじゃ!!」

( ´_ゝ`)「?」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 20:58:13.03 ID:P5MNt2qTO
兄者の手に渡されたのは、紙で作られた不恰好な花だった。

l从・∀・ノ!リ人「これをもってると目がいたいびょうきなおるのじゃ」

(;´_ゝ`)「……妹者」

赤い目を見開いて妹者を抱き寄せる。

( ;_ゝ;)「妹者……」

この時、初めて兄者は妹者に涙を見せた。

l从・∀・ノ!リ人「どうしたのじゃ? またおめめがいたいのじゃ?」

妹者は、兄の頭をよしよしと撫でる。

( ;_ゝ;)「妹者っ……!!」

l从・∀・ノ!リ人「いい子は、なかないのじゃ?」

とめどなく溢れる涙は、頬を伝ってポロポロと落ちる。

(´つω;`)「さぁ……時間だ」

涙目のショボンが一声かけると、船の汽笛が高く響いた。

l从・∀・ノ!リ人「おっきいあにじゃー!! バイバイなのじゃー!!」


106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:03:07.93 ID:P5MNt2qTO
甲板から手を振る妹者は、とても可愛らしい笑顔で。
それは戦場に咲く一輪の花の様で。
どんな暗い時代でも、花だけは優しい笑顔を見せてくれる。

(  _ゝ )「……」

兄者は、顔を上げる。
目の前をさっと、桃の花びらが舞っていった────


107 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:04:14.77 ID:P5MNt2qTO
────

( つ∀;)「くっ……」

刑事は思わず目頭に手を遣る。
何という悲しい別れだろうか。何よりも妹の健気な姿に心打たれる。

( ´_ゝ`)「ショボンさんには感謝している。今の俺があるのも彼のお陰だ」

( う∀゚)「やりきれねぇな……おや? もしかしてその首にかかったネックレスは?」

( ´_ゝ`)「その時妹にもらった物だ。無くさぬ様にネックレスにしてもらった。未だに何の花を模しているかわからん」

ははっ。乾いた笑いをつけたして兄者は言う。

( ´_ゝ`)「刑事さん。もう一杯水を貰いたいんんですが」

( ゚∀゚)「わかった。ちょっと待て」

独特の香が兄者の鼻腔を通り抜ける。

( ´_ゝ`)「ハーブティー……ですか」

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:06:55.23 ID:P5MNt2qTO

( ゚∀゚)「あぁ。いい香だろ?」

( ´_ゝ`)「ハーブは可愛らしい花を咲かせる。俺も好きです」

刑事は、ハーブティーを啜ると続きを促した。

( ゚∀゚)「それから始まるわけだ」

( ´_ゝ`)「……。はい。ショボンさんの死から全ては始まりました────」

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:08:29.72 ID:P5MNt2qTO
────1967年。

あれから20年の月日が流れた。

「あぁ……ハァハァ…あん…いいわ。ジロウさん。アァァ……ダメッ」

とあるホテルの一室。彼の計画はこの場所から始まる。

('、`*川「ハァハァ……気持ちよかった」

ぐったりとした女性が、虚ろな目で言う。

( ´_ゝ)「俺もだ」

('、`*川「ジロウさ……あっ兄川社長。結婚の話考えてくれましたか?」

兄川ジロウは、タバコをくわえてか言う。


119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:11:37.62 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「すまん。今会社が忙しくてな。なかなかプライベートに手がまわらん」

('、`#川「そんな!! 前も同じ事言っていたじゃないですか!? 私だってもう若くないんです!!」

ヒステリックに叫ぶ女性。見たところ高齢の様だ。結婚を焦るのも頷ける。

( ´_ゝ`)「伊藤さん。あんたは何か勘違いしている」

('、`#川「何を!!」

兄川は、驚くべき早さで、伊藤と言う女性を捕えるとベッドに押さえ付けた。
そして、冷たく言い放つ。

( ´_ゝ`)「あんたは幸せになんかなれない!!」



123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:14:27.99 ID:P5MNt2qTO
────
一年程前。バーボンハウス社長、場本ショボンはこの世を去った。会社は、当時最も実力のあった兄川ジロウが継ぐことになった。
兄川ジロウは彼の最も信頼する人物で、死の直前まで兄川と話をしていた。

(´ヽ・ω・`)「ハァハァ…僕はもうじきあの世へ行く。その前にどうしても、君に伝えなくてはならない事がある。ジロウ……いや、兄者」

( ´_ゝ`)「はい」

兄川ジロウこと、流石兄者は衰えたショボンの目を見据えて言う。

(´ヽ・ω・`)「ふぅ……会社の金庫に、一枚の紙切れがある」

( ´_ゝ`)「それが?」

(´ヽ・ω・`)「それこそが、君の求める真実に最も近い一枚……」

( ´_ゝ`)「と、言いますと?」

(´ヽ・ω・`)「売国計画参加者一覧」

( ´_ゝ`)「……」

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:15:56.68 ID:P5MNt2qTO
(´ヽ・ω・`)「あいつらはとんでもない奴らだった。国を売ることで、戦後のビップでの地位を得たのだからな。
僕を始め、異義を唱えた者は片っ端から排除された。君の父親もその一人だ。
       彼ははそれが許せなかったのだろう。恐らく君の父親はその計画書を盗んだ。告発するつもりだったのかもしれん」

( ´_ゝ`)「なるほど。ならその計画の参加者に、必ず俺たちを追い詰めた奴らがいると?」

(´ヽ・ω・`)「確実にな」

兄者はゆっくり息を吐いた。

( ´_ゝ`)「ショボン社長。今までお世話になりました。後はごゆっくりお休みください」

(´ヽ・ω・`)「うむ。ありがとう。……後は頼む。僕の…無念を……」


126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:17:54.52 ID:P5MNt2qTO
────
( ´_ゝ`)「さて、伊藤さん。これがその一覧だ」

兄川は、拘束された伊藤の目の前に一枚の紙切れを突き付ける。

(;、;川「ハッハッ……違うわ。私じゃない」

( ´_ゝ`)「今更その言葉は意味を為さない。しっかり国の重役についてるあんたにはな。
利己的で傲慢。私利私欲に凝り固まったカスが。俺に言い寄ってきたのも金目当てだろう?」

兄川は、冷たい銀のナイフを伊藤の頬にペチペチと打ち付ける。

(;、;川「いや……やめて」

伊藤は顔をしわくちゃにして喚く。

( ´_ゝ`)「俺はあんたを殺さない。あんたにはやってもらう事があるからな」

そう言うと、兄川はもう一枚の紙を伊藤に見せた。

129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:21:08.49 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「ここに書き出した連中は流石父者に関わったクズ共だ。今すぐこいつらの現住所と連絡先を書き出せ。今すぐにだ」

(;、;川「今すぐ……ですか? 一度家に戻らなくては……」

( ´_ゝ`)「ならかまわん。どこにあるかだけでいいから言え。俺の秘書を向かわせる」

伊藤は震える声で、その場所を伝える。

( ´_ゝ`)】「そうか…ご苦労」

( ´_ゝ`)「確認が取れた」

(;、;川「あなたは…何をするつもりなの? 何でこんなことを?」

( ´_ゝ`)「復讐。精々自分の胸に聞くんだな」

兄川は、バッグから拳銃を取り出す。

(;、;川「いや……ねぇ……あなたは何者なの?」

( ´_ゝ`)「……」


132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:23:44.80 ID:P5MNt2qTO



「流石兄者だ」




133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:24:40.11 ID:P5MNt2qTO
────
バーボンハウス社長となった兄者は、まず兄妹の事を、秘書の素直に調査させた。

川 ゚ -゚)「調査が終わりました。流石弟者ですが、チョン国にて、マフィアを取り仕切るボスになっております。
     あと、流石妹者ですが……。十五年前に、病死しております」

(;´_ゝ`)「なに!?」

兄者は落胆した。あれほど大切にしていた妹者。いつも笑っていてくれた妹者。花が大好きだった妹者。……。
彼女はもういない。呆気なさすぎる死。
兄者は、暫し、額に両手をあてうなだれていた。

( ´_ゝ`)「チョン国に行く」

次に立ち上がった兄者は、そう強く言った。

弟に会うべく、彼は直ぐ様チョン国へと向かった。


134 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:27:13.73 ID:P5MNt2qTO
チョン国の治安は非常に乱れていたが、大金を渡せば簡単に弟者の元へと行けた。

( ´_ゝ`)「弟者」

(´<_`メ)「おぉ兄者!!」

そこにいたのは紛れもなく弟者だった。
体は筋肉質で、顔もそれっぽく箔が付いていたが、そのものの雰囲気は20年前のそれとは変わり無かった。
しかし、20年ぶりの感動の再開とはいかなかった。

(´<_`メ)「すまない」

弟者は出会い頭に、土下座した。

(;´_ゝ`)「やめろ弟者!!」

(´<_`メ)「妹者を任せろと言っておきながら……
       妹者を死なせてしまった…。言葉もでない」

弟者は、頭を地面に打ち付ける勢いだ。
妹者を失ってから十数年。弟者はずっと自責の念に苛まれてきたのだ。それを思うと、兄者は居たたまれなくなった。

( ´_ゝ`)「やめろ弟者。俺はお前を責めに来たんじゃない。
       弟者……。よく生きていてくれた。ありがとう」

(;<_;メ)「兄者……」


136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:32:57.84 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「妹者は……どうやって死んだ?」

(う<_;メ)「妹者は……。性病で死んだ」

兄者は卒倒しそうになった。あんなに綺麗で可愛らしかった妹者が性病?想像したくない。

(´<_`メ)「杉浦さん……俺たちの面倒を見てくれるはずの杉浦さんが殺された。
       子供が二人異国の地で生活するのは厳しかった……」

(  _ゝ )「身体を…売ったのか…」

(´<_`メ)「……あぁ。俺は止めたよ…。だが……」

(   )「いや、いい……」

兄者は肩を震わせた。一体妹者はどんな気持ちで死んでいったのだろうか。それを思うと居たたまれなくなる。

( ´_ゝ)「妹者は最期何といって?」

(´<_`メ)「……おっきい兄者、と。一言」

( ´_ゝ)「そうか……」

兄者は涙が流れないよう、目頭を強く押さえた。

( ´_ゝ`)「弟者。協力してくれ」

そして兄者は語りはじめた。
その復讐の計画を。

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:37:47.98 ID:P5MNt2qTO
────

とある更地に、彼らは集められていた。
官僚、政治家、社長夫人。草々たる面子である。


/ ,' 3「いや皆さんお変わりなく」

从 ゚∀从「あら荒巻さんじゃない」

( ´∀`)「荒巻さんもお若いモナ。高岡夫人も御綺麗ですモナ」

(-@∀@)「御前崎モナー社長も羽振りが良いそうですね?」

(,,゚Д゚)「朝日さんも今や報道関係のドンだ」

( ゚д゚ )「ふん。しかしどういう訳だ? やましい過去を持つ面々が一同に会するなんてな」

( ^Д^)「小土ミルナさんも相変わらずだぜ。みんなそれにビビって来たんだろ? あの情報がバレてんじゃねぇかってな」

(*゚∀゚)「大丈夫だよ。いざとなったらお金握らせて黙らせちゃえば……」

('A`)「最悪……殺せばいい」


142 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:40:05.80 ID:P5MNt2qTO
出席者たちが口々に会話していると、どこからか、声がした。

「皆さんお集まりですね。パーティー会場ですが、目の前に平屋があるでしょう? どうぞお入り下さい」

(,,゚Д゚)「おいおい。こんなボロっちい家がパーティー会場? ふざけるな」

「いえいえ、本会場は別にあります。余興です。余興」

参加者達は顔を見合わせる。
目の前にある平屋は、一時代昔の庶民の家といった風だった。
訝しげな顔をしながらも続々と入る参加者達。

(-@∀@;)「埃っぽいですね……それに狭い……」

出席者全員が入るには少々狭い。彼らは犇めきあうようにして、その家屋に入った。

「さて、皆さん。本日はお集まり頂き誠にありがとうございます。差出人不明に関わらず、全員の参加。これも全て思うところがあるからでしょう」

空気が変わった。騒つく場内。
一人が叫ぶ。

「あんた一体誰なんだ!?」


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:47:05.95 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「初めまして」

奥の襖が開き、兄者が現れる。

('A`)「バーボンハウス社長……兄川ジロウ…?」

( ´_ゝ`)「いえ。流石兄者です」

/ 。゚ 3「!?」

参加者の顔色が変わった。
当時指名手配にしてまで、探していた、最重要機密を知っているであろう人物。流石兄者が目の前に現れたのだ。
ざわざわ…。口々に疑問や叱責、落胆の声があがる。

(;´∀`)「一体何が目的モナ? 金か? 地位か?」

( ´_ゝ`)「そんなものはいらん。父に止めを差した御前崎モナー……。
       俺の目的は…復讐」

(;´∀`)「ゴクリ」

場が凍り付く。

148 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:50:46.95 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「この家は当時の我が家を精巧に模した物だ。どこかに爆弾が隠してある。精々探すといい。
……因みに招待状は起爆装置と反応しており、この家から出ようとした瞬間……爆発する」

兄者は、口角を上げ説明する。ふふっと含み笑いをしてから、続けた。

( ´_ゝ`)「それがお前たちに与えられた罰だ。…だが抜け道がないわけではない。ヒントは自分の胸に聞くんだな。
       ……では、ご健闘を」

バタン。
兄者は裏口からすっと出る。

ややあってから、家の中は大混乱に陥った。バタバタと走り回り爆弾を探す。
時間は…?いつ爆発するのか?
何もわからない状況で、いたずらに爆発を探すだけ。絶望し、泣き崩れるものもいた。ただ命乞いをするだけの者もいた。賄罪を口にちするが手遅れに気付き手を止める物たち……。

( ´_ゝ`)「ふふっ……ハハッ……ハーハッハッハッハッ!!」

ヘリコプターから、我が家を見下ろし笑う兄者。
手元には、あのプラスチック製のボタンがある。

( ´_ゝ`)「ハーハッハッハッハッ!! ハハハ……」

(  _ゝ )「……」

カチッ。

あの時と同じ様に家が吹き飛んだ……────

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:54:43.50 ID:P5MNt2qTO
────

(;゚∀゚)「……」

( ´_ゝ`)「これで終わりです……。

       しかし、まだ俺の復讐は完遂していない……」

兄者はゆっくりと立ち上がる。刑事は一歩後退る。

( ´_ゝ`)「大空襲の日に、父者を襲う事を画策し、チョン国で杉浦を殺し、妹者を死に追い遣った……!!」

(;゚∀゚)「待て!! 違うんだ!! 俺はあの時……無理矢理……」

( ´_ゝ`)「ジョルジュ長岡!! あんたを殺す」


153 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 21:56:24.59 ID:P5MNt2qTO

(;゚∀゚)「…わざと出頭したのか!?……俺に会うために……」

( ´_ゝ`)「……」

兄者は、隠し持っていた小型のナイフを取り出した。

(;゚∀゚)「待て……はぁ…はぁ……一つ、気になる事がある……あんたの親父が隠していた物だ。俺は詳しく知らん。だが妙だと思わないか?」

( ´_ゝ`)「……」

兄者は手を止めた。一家を破滅に導いたその元凶。知りたくないと言えば嘘になる。

( ´_ゝ`)「…何が言いたい」

(;゚∀゚)「あれ以降、それは見つかっていない。つまり、それはお前たち家族の誰かが持っているハズなんだ。
     だがどうだ? 母の死体からは見つかっていない……って事は、兄妹の誰かがもっているんじゃねぇか?
     たが妹はもういない。ならそれは、兄弟のどちらかが持っているはずだ」

(;´_ゝ`)「!?」

そんな筈はない。弟者はまず持っていない。ならば自分。しかし、そんなものは預かっていない。

(;´_ゝ`)「妹者か…!?」

考えられるのは妹者だ。幼いが故に妹者に託したとは考えられないだろうか。
だとするなら……どこだ?妹者が隠しそうな場所。
妹者は、花が好きだった。
花畑か。……妹者が一番好きな花は何だった?

157 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 22:01:17.97 ID:P5MNt2qTO

「あの花はなんというのじゃ?」
「あの花はな───」

「妹者が一番好きな花を摘んできてあげよう」

「────の花がいい……」

何だ?何だった?

(;´_ゝ`)「……」

兄者は窓に目を遣った。
真っ赤な夕日はまるで…
まるで……

────向日葵のようだった────



160 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 22:07:19.93 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「ハァハァ…」

兄者は走っていた。初めて妹者が向日葵を見たあの公園に。
長岡の返り血で服が汚れていたが、気にも止めず走った。

(;´_ゝ`)「向日葵公園……」

どこかにある筈だ。どこだ?
兄者は手当たり次第に、公園を捜し回った。

(;´_ゝ`)「ないぞ? 何処なんだ妹者……」

日が暮れ始めた頃。けたたましいサイレンの音が響き、数台のパトカーが公園を囲った。

(;´_ゝ`)「向日葵…ひまわり……ヒマワリ……」

「兄川ジロウ!! 刑事殺しの容疑者として───」


162 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 22:08:55.51 ID:P5MNt2qTO
(;´_ゝ`)「向日葵の…花言葉!!」

( ´_ゝ)「……貴方だけを見つめる……!!」

兄者は、ハッとして胸にぶら下がったペンダントを見る。
不恰好な花……。よくよく見ればそれは向日葵の花に見える。
兄者は、慌てそれを開く。

( ´_ゝ`)「……これは…」

中から出てきたのは一枚の写真。そう、農家で初めてとった家族の集合写真だった。
緊張した面持ちの父、穏やかな笑みを浮かべる母、ぎこちなく笑う兄弟。そして、向日葵の様な笑顔の妹。

兄者はその場にへたりこんだ。向日葵がそよそよと風に揺らぐ。

( ;_ゝ;)「おぉ妹者……。お前はずっと見つめていてくれたんだな」

機密書類など、最初から無かった。母が燃やしてしまったのだ。
父の唯一の宝物は、母の手に、妹の手に、そして兄の手に渡ったのだ。

「兄川ジロウ。君は完全に包囲されている!! 大人しく……」

( ´_ゝ`)「妹者。遅れてしまったが、あの時約束した向日葵。お前に持っていくよ」

兄者は懐から、プラスチック製のボタンを取り出した。


165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 22:15:46.07 ID:P5MNt2qTO
( ´_ゝ`)「今日という日に一輪の花を咲かせよう────」

凄まじい爆発音と供に、赤い光が辺りを照らす。
舞い上がる黄色い花びらが、それを美しく彩っていく。


それは、夕闇に咲く一輪の花の様に────




167 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/10/27(火) 22:19:42.16 ID:P5MNt2qTO



〜( ´_ゝ`)今日という日に咲く花のようです〜






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