(-@∀@)誇り無き吸血鬼のようです

8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 09:46:35.21 ID:Br3qheyNO



 昔々の、お話。




11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 09:53:20.66 ID:Br3qheyNO

 魔物が当たり前のように存在している世界。
 まだ、彼らが人間に受け入れられていた時代。

 心優しい魔物は、町で人間と共に暮らしておりました。
 恐ろしい魔物は、町から離れた場所で暮らしておりました。

 なので、人間が町から出ることは、とても危険なことだと認識されていました。
 悪い魔物に襲われてしまうから。


 それなのに、とある日、とある町から、とある少女が飛び出していってしまいました。



13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:02:51.25 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「さよならです。二度と町には帰りませんからね」

 山の中に入った少女は、後ろの町に向かって舌を出しました。

 彼女はミセリ。14歳の女の子。
 親の言うことは聞かず、家事の手伝いもせず、毎日ぶらぶらして、
 そのくせ、親に叱られると逆に怒り返すような子でした。

 要するにカスです。

 カスのくせにプライドが高く、親を見下しておりましたので、
 「こんな奴らに叱られる謂れはない」と本気で思う、クズでもありました。

 なので、このクズカスは、まともな両親に見切りをつけ、家出したのです。
 十人が十人、クズカスの判断ミスだと思うでしょう。
 自ら、まっとうな人間になることを放棄したのですから。


17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:12:50.22 ID:Br3qheyNO

 さて一方、山の奥にあるお屋敷から、これまた逃げ出した者がおりました。

(-@∀@)「もう、あんなところにはいられません」

 こちらはアサピー。齢70になる少年です。
 彼は長寿な吸血鬼なので、70歳でも、まだまだ「子供」であります。
 見た目も、10歳になるかならないか、という小ささ。

 俗な言い方をしましたら、お恥ずかしながら、ショタです。

 彼は吸血鬼のくせに、血が大の苦手でありました。
 そのため、両親や召し使い達から散々叱られていました。
 吸血鬼なのに血が飲めないなんて、もはや、吸血鬼の誇りとは無縁。

 要するにゴミです。

 このゴミショタは、これまた、プライドだけは無駄に高いクソガキでありましたので、
 やはり、叱られ馬鹿にされるのが嫌で、家出をしたのでした。

 彼もまた、まっとうな吸血鬼になることを放棄した馬鹿なのです。


19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:21:15.84 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「でも、これからどこに行きましょう」

 山の中には危険な魔物がいると聞きます。
 人間のミセリには辛い場所。

 彼女は悩みながら、山の中を歩いておりました。



*****



(-@∀@)「でも、これからどこに行きましょう」

 町には優しい魔物しか住めないと聞きます。ゴミとはいえ、アサピーは一応「危険」と言われている吸血鬼。
 町に行ったら、すぐに追い出されるでしょう。
 吸血鬼のアサピーには辛い場所。

 彼は悩みながら、山の中を歩いておりました。


21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:27:44.22 ID:Br3qheyNO

 山の奥から来たアサピー。山の前から来たミセリ。

 単純なクズカスとゴミショタは真っ直ぐ進んでおりましたので、


ミセ*゚ー゚)リ「あら」

(-@∀@)「あら」


 山の真ん中で、ばったり遭遇してしまいます。



 ──月が明るい、夜のことでした。


22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:28:23.25 ID:Br3qheyNO



(-@∀@)誇り無き吸血鬼のようです




25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:36:59.50 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ

(-@∀@)

 2人は互いに互いを凝視しました。

 ぽかんと開いた口の端に牙があるアサピー。
 何の変哲もないミセリ。

 耳が尖っているアサピー。
 何の変哲もないミセリ。

 分厚いレンズの奥で、瞳を光らせているアサピー。
 何の変哲もないミセリ。

 誰が見ても、アサピーが魔物でミセリが人間だと分かるでしょう。

ミセ*゚ー゚)リ「きゃあ」

(-@∀@)「わあ」

 2人は同時に悲鳴をあげました。
 悲鳴です。


28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:45:49.09 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「きゃあ、きゃあ」

(-@∀@)「わあ、わあ」

 何とも緊迫感溢れる悲鳴でした。
 2人は一頻り慌てふためくと、近くにあった樹の後ろに隠れました。

 そっと樹の陰から顔を出し、向こうにいる相手の様子を窺います。

 |゚ー゚)リ「あなたは、だあれ?」

 |@∀@)「あなたこそ」

 |゚ー゚)リ「そちらから名乗ってくださいな」

 |@∀@)「いえいえ、そちらから」

 |゚ー゚)リ「ミセリと申します」

 |@∀@)「僕はアサピーです」

 なんて殺伐とした光景でしょう。
 2人のやり取りからも、緊張感が伝わってきますね。


32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 10:54:39.72 ID:Br3qheyNO

 |゚ー゚)リ「あなたって、魔物でしょうか」

 |@∀@)「ええ、吸血鬼です」

 |゚ー゚)リ「あら恐い」

 ミセリが感じた恐怖を、皆様も味わっていただけていると思います。
 こんなにも怯えているのですから。

 |@∀@)「あなたはもしや、人間」

 |゚ー゚)リ「はい。そうです」

 |@∀@)「ひゃあ、人間だ。恐いよう」

 はて、ミセリがアサピーを恐れるのは分かるけれど、どうしてアサピーがミセリに怯えているのかしら。
 ショタだからかしら。ゴミだからかしら。
 聡明な皆様なら、そんな疑問を抱くことでしょう。

 しかし、理由くらい、ちゃんとあるのですよ。


36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 11:12:55.06 ID:Br3qheyNO

 いくら吸血鬼でも、いくら70歳でも、彼はまだ子供。
 吸血鬼はとても強い種族なのだから、子供でも充分な力を持っているのでは? と皆様は思いがちですが、
 アサピーは血を飲まないので、魔物としての力があまり備わっていないのです。

 だから、彼にとって、山の中を歩くというのはとても危険な行為。
 他の魔物に食べられてしまうかもしれません。

 それを恐れた両親は、アサピーに強く言って聞かせておりました。
 「一人で外に行ってはいけません。お前は人間にだって勝てないほど弱いのですよ」と。

 人間にくらい勝てますよ、とアサピーが反論しても、両親は首を横に振ります。

 「こんな山の中に来る人間なんて、悪い魔物を退治するために鍛えられた者だけです」。
 「そんな人間に会ったら、お前はすぐに死んでしまいます」。

 アサピーは、すっかり「人間=恐いもの」という認識を刷り込まされました。

 ええ。
 つまり、突き詰めて言えば、彼がショタでゴミだから、彼はミセリに怯えていたのです。
 皆様の推測通りでしたね。不躾な真似をいたしました。


39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 11:23:21.70 ID:Br3qheyNO

 |@∀@)「ぷるぷる」

 ああ、とてもぷるぷるしていますね。
 プリンのよう。
 あるいはゼリーのよう。お好きな方を想像なさってください。

 |゚ー゚)リ「大丈夫ですか」

 ようやく、目の前の吸血鬼が自分より幼い姿をしているのに気付いたミセリが、
 アサピーに声をかけました。

 アサピーは答えられず、ぷるぷるするばかりです。

 |@∀@)「ぷるぷる」

 |゚ー゚)リ「そんなにもぷるぷるして。寒いのですか」

 |@∀@)「ぷるぷる」

 |゚ー゚)リ「どうしましょう。小さな子がぷるぷるしている。何とかしてあげなければ」

 |゚ー゚)リ「でも彼は吸血鬼。恐いです」

 |゚ー゚)リ「ぷるぷる」

 |@∀@)「ぷるぷる」

 2人はしばらくぷるぷるし合いました。

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 11:31:29.76 ID:Br3qheyNO

 |゚ー゚)リ「ええい、そろそろぷるぷるするのをやめましょう」

 覚悟を決めたのか、ミセリはそう言うと、樹の陰から出てきました。
 アサピーは、今度はびくびくとしながら後ずさろうとします。

 こんな子供に怯えるなんて馬鹿らしい。
 ミセリは自分を奮い立たせ、一歩一歩進みました。

ミセ*゚ー゚)リ「あなたは私をどうするおつもりですか」

(-@∀@)「わあ」

 アサピーの首根っこをむんずと掴み、持ち上げます。
 とても軽い。

(-@∀@)「あなたこそ、僕をどうする気なのです」

ミセ*゚ー゚)リ「どうもしません」

(-@∀@)「何、本当ですか」

ミセ*゚ー゚)リ「武器もないので、何も出来ません」

 武器があったらどうにかしていたつもりなのかと思いつつ、アサピーは安堵しました。
 何も出来ないというのなら、人間ごとき、恐るるに足りません。


44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 11:39:10.05 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)「えいっ」

 アサピーはミセリの顔を叩きました。
 驚いたミセリが手を離してしまいます。

 お尻から地面に着地したアサピーは、涙が出そうになるのを何とか堪え、立ち上がりました。

(-@∀@)「たあっ」

ミセ*゚ー゚)リ「きゃっ」

 ミセリに飛びつき、倒れた彼女の上にのし掛かります。
 自慢の牙で噛みついてしまえば、ひとたまりもない筈です。

(-@∀@)

ミセ*゚ー゚)リ

(-@∀@)

 しかしアサピーは噛みつけませんでした。
 牙が彼女に刺されば、血が出てしまうから。

 先述しました通り、彼は血が苦手なのです。


48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 11:53:04.99 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「どいてください」

(-@∀@)「はい」

 アサピーはミセリの上からどいて、その場に座り込んでしまいました。
 なんて情けないのでしょう。
 恥ずかしさに頭を抱えた彼は、お尻の痛さも相俟って、ついに泣き出しました。

 これにはミセリもびっくりです。

ミセ*゚ー゚)リ「どうしました」

(-∩∀∩)「こんなのだから、僕は馬鹿にされるんです」

ミセ*゚ー゚)リ「よく分かりませんが、泣いてはいけませんよ。
      眼鏡の上から目を押さえるのもやめた方がいいと思います」

 クズでカスだった彼女は、人の泣き止ませ方など知りません。
 こんなに小さな子供が泣いていても、鬱陶しいとしか思えませんでした。

ミセ*゚ー゚)リ「いい加減にしてください。私が困ります」

 そう言われて泣き止む子供はいません。
 随分と長いこと、アサピーは泣き続けました。


50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 12:03:39.87 ID:Br3qheyNO

 そっちがその気なら、とミセリはアサピーを放って、ぼうっとしておりましたが、
 ふと泣き声が聞こえなくなっていることに気付きました。

(-@∀@)「ぐうぐう」

 泣き疲れたらしく、横たわったアサピーが、いびきをかいています。

ミセ*゚ー゚)リ「これだから子供は」

 あなたも充分子供ですよと言ってあげる人は、ここにはいません。
 ミセリはすっかり大人になったような気分で、アサピーの耳を抓みました。

(-@∀@)「ぐうぐう」

 牙と耳と爪が尖っていること以外は、普通の子供のようです。
 全然恐くありません。

 アサピーのお腹を枕にして、ミセリも、そこに横になりました。



*****

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 12:16:26.27 ID:Br3qheyNO


ミセ*゚ー゚)リ「おはようございます」

(-@∀@)「おはようございます」

 朝になり、2人は同時に目を覚ましました。
 一夜を共にしたことで警戒心も薄れたようで、呑気に身の上話なんかを始めます。
 誤解を招きそうな言い方をしましたが、2人共、ただ一緒に眠っただけです。

ミセ*゚ー゚)リ「血が嫌いな吸血鬼なんて、変な話」

(-@∀@)「家出をしたからって、こんな危ないところに逃げてくるのも変な話ですよ」

 お互い似た境遇であるのを知って、彼らはますます打ち解けました。
 両親への文句などを言い合い、笑い合います。


57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 12:27:38.54 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「私とあなた、仲良く出来そうです」

(-@∀@)「そうですね」

 昨夜とは見違えるような仲の良さ。
 初めて、のほほんとした空気が流れました。

 家出人同士、共に逃げよう。
 右手で握手をし、頷き合います。

ミセ*゚ー゚)リ「とはいっても、どこに行きましょうか」

(-@∀@)「あてがあります」

ミセ*゚ー゚)リ「本当ですか」

 アサピーはミセリの手を握ると、右の方へ向かって歩き始めました。

 最近聞いた、両親の会話を思い出したのです。


59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 12:40:58.73 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)「ずっと向こうに、インキュバスが住んでいた小屋があったと思います」

ミセ*゚ー゚)リ「そこに行くのですね」

(-@∀@)「はい。インキュバスは先日死んでしまったと聞きましたから、今は誰もいない筈です」

ミセ*゚ー゚)リ「死んでしまったのですか」

(-@∀@)「彼は醜かったから女性と付き合ったことがなくて、
      女性を襲いに行く勇気もなかったそうで、どんどん体が弱っていったのだとか」

ミセ*゚ー゚)リ「それはまた、お気の毒ですね」

 ミセリの言葉は笑い混じりでした。それも、嘲笑めいたもの。
 この辺りがクズなところです。

(-@∀@)「ですから、その小屋を借りましょう」

ミセ*゚ー゚)リ「そうしましょう」

 魔物に会わないように気を遣いながら、彼らはでこぼこした道を進んでいきました。


62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 12:55:04.82 ID:Br3qheyNO

 ミセリが20回ほど「疲れました」と文句を垂らし、
 アサピーが30回ほど「この道で合ってる筈です」と不安になった頃、
 ようやく2人は小屋に辿り着きました。

 おんぼろです。

ミセ*゚ー゚)リ「ここですか」

(-@∀@)「ここです」

ミセ*゚ー゚)リ「汚いとこ、嫌です」

(-@∀@)「そう言わずに」

 嫌がるミセリを小屋に押し込み、アサピーも中に入りました。
 外観が酷ければ中も酷い。
 クローゼットや棚は壊され、割れた皿、破けた布などが散乱しています。

ミセ*゚ー゚)リ「ついぞ女性と触れ合えなかったインキュバスさんは、荒れてしまったのでしょうか」

 またもやクズが嘲笑しましたが、アサピーは彼女の言葉を否定しました。

(-@∀@)「家主がいなくなったから、魔物達が小屋を荒らして遊んだのだと思います」

ミセ*゚ー゚)リ「まあ、酷いこと」

(-@∀@)「この程度で済んでいるのなら、ましな方かもしれません」


64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 13:00:44.43 ID:Br3qheyNO

 見れば、ベッドやテーブルは辛うじて形を保っています。
 使えないことはありません。

(-@∀@)「ひとまず、ここで暮らしてみましょう」

ミセ*゚ー゚)リ「はい」



 こうして、クズカスとゴミショタの共同生活が始まりました。



*****

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 13:15:02.63 ID:Br3qheyNO


 水は、裏手の川で。
 食べ物は、そこらに生る草木の実などで何とかなりました。

 しかし2人共、まだ子供ですので。
 何の問題もないわけがありません。

 たとえばご飯。

ミセ*゚ー゚)リ「私は料理なんて出来ませんよ」

(-@∀@)「僕もです」

 家事の手伝いをしなかったミセリも、全て召し使いに任せていたアサピーも、
 料理など碌に出来ませんでした。

 皿代わりの大きな葉っぱに、ただ木の実を乗せるだけ。
 美味しいものは美味しいけれど、不味いものは不味いです。


67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 13:26:54.06 ID:Br3qheyNO

 他にも、お掃除やお風呂など、問題はたくさん。

 小屋の中は一向に片付かないし、火がないから冷たい川の水で体を洗うしかありませんし、
 替えの服がないので、洗ってから乾くまでの間、薄手のブランケットに包まっていなくてはいけません。

ミセ*゚ー゚)リ「あなたがもたもたするから、昼の内に服を干せなかったんですよ」

(-@∀@)「それはあなたのせいじゃありませんか」

 こうやって責任を擦りつけあうこともしばしば。


 けれども、

(-@∀@)「この実は美味しくないですね」

ミセ*゚ー゚)リ「なら食べなくて結構です」

(-@∀@)「ああ、食べます、食べますから、全部取らないで」

 何だかんだ言って、仲良く暮らしておりました。


69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 13:39:40.63 ID:Br3qheyNO

 新たな魔物との出会いもありました。


(∪^ω^)「おや、人が」

ミセ*゚ー゚)リ「まあ」

(-@∀@)「わあ」

 たとえば、この、犬と人の間のような奇妙な男。
 ノックもせずに小屋に入ってきた無礼者は、アサピー達を見て目を丸くさせました。
 緊張の一瞬です。

(∪^ω^)「何をなさっておいでで」

ミセ*゚ー゚)リ「何って、ここで暮らしているのです」

(-@∀@)「ぷるぷる」

(∪^ω^)「なんと」

 彼は狼男のブーンだと名乗りました。
 狼男にしては、垂れ下がった耳が可愛らしい。
 ただし顔はおっさんです。

 ブーンは、暇潰しに小屋から物を持っていこうとしたこと、
 人が住んでいるのなら手出しはしないことを告げ、小屋を出ていきました。


71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 13:53:54.63 ID:Br3qheyNO

 また別の日には、変わった髪の女が。

ξ゚听)ξ「あら、人が」

ミセ*゚ー゚)リ「まあ」

(-@∀@)「わあ」

 またも勝手に小屋に入ってきた無礼者。
 彼女の髪は全て蛇で出来ていて、くねくねと動き回っています。

 ツンと名乗った女は、自分の両目を手で塞ぎました。

ξ∩凵ソ)ξ「何をなさっているのですか」

ミセ*゚ー゚)リ「住んでいるだけです」

(-@∀@)「ぷるぷる」

ξ∩凵ソ)ξ「なんと」

ミセ*゚ー゚)リ「どうして目を塞いでいるのですか」

ξ∩凵ソ)ξ「私の目を見たら、あなた方が石になってしまうから」

ミセ*゚ー゚)リ「なんと」

 ツンは、ブーンと概ね同じことを話すと、さっさと小屋を後にしました。
 石にしてしまうとは、アサピーなどよりよっぽど恐ろしい。

73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 14:06:33.77 ID:Br3qheyNO

 さらに別の日には、

(´・ω・`)「あれ」

 インキュバスの友人だったという小人や、

( ФωФ)「ぶにゃん」

 寝床を探しに来たという尻尾が二つに分かれた大きな黒猫や、

川 ゚ -゚)「あ、ごめんなさい」

 迷子になった幽霊などが訪れました。

 みんな無闇に襲いかかってくるような野蛮な魔物ではなかったようで、
 ミセリ達に危害を加えることはありませんでした。

 それどころか、いかにも悪そうな顔をした妖精が刃物を持ってミセリに飛び掛かってきたときには、
 たまたま居合わせた狼男が助けてくれたりもしました。


77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 14:19:31.63 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「そうそう悪い方ばかりではないのですね」

(-@∀@)「そうみたいです」

 ブーンが美味しい木の実を分けてくれたり、ツンが小屋の掃除を手伝ってくれたり、
 小人のショボンが火を持ってきてくれたりと、知り合った魔物達は親切な者ばかりです。

 黒猫のロマネスクや幽霊のクールなどは何かを手伝うことはありませんでしたが、
 気が向いたときに遊びにきてはアサピー達を楽しませてくれます。

 たまに悪い魔物に襲われても誰かが助けてくれますし、
 アサピーとミセリは、すっかり彼らと仲良くなっていました。
 ガキなんて、単純なものです。


79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 14:32:29.65 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「これ、美味しいですね」

(-@∀@)「この葉っぱって、食べられるのですね。美味しい」

 2人の間から、喧嘩は少なくなっていきました。
 美味しいご飯、片付いた小屋、温かいお風呂。
 生活に、少しずつ余裕が出来てきたおかげでしょう。



 お腹をいっぱいにして、ツンから譲ってもらった寝間着に着替えて、ベッドに入って。
 ミセリは、我が家にいるであろう両親のことを考えました。

ミセ*゚ー゚)リ「……お母さん達は、私を心配しているでしょうか」

 家出をした娘が何日も帰らないでいるのに、心配しない親などいません。
 けれど、ご存知のように、ミセリは駄目な子供です。
 何度も何度も親を怒らせ、呆れさせてきました。

 「寧ろ、いなくなって清清したのではないかしら」。
 つい、そんなことを考えてしまいます。


80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 14:48:11.98 ID:Br3qheyNO

 ミセリの隣で、アサピーもまた、同じことを考えていました。

 吸血鬼のくせに血が飲めない。
 それがどれだけ恥ずかしいことか、散々聞かされてきました。

 人間を襲い、血を啜り、皆に恐れられる。
 それこそが吸血鬼の本分であり誇りなのだそうです。

 誇り高き血統のくせに、その誇りをなげうつなど、恥ずかしくて愚かしいこと。
 アサピー本人だけでなく、一族の者まで笑われてしまうのだと、母は泣きながら言っていました。

 母を泣かせるような恥ずかしい子供、いない方がいい筈です。

 もし今すぐ家に帰ったら、みんな、どんな反応をするかしら。
 いいや、家出をしたくせに自ら帰るなど、ますます恥ずかしい。

 寂しい気持ちを抑えながら、アサピーは毛布の下で丸まります。

 不意に、喉に痛みを覚えました。

(-@∀@)「けほっ、けほっ」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫ですか」

(-@∀@)「はい、……大丈夫です」



*****

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 15:01:42.95 ID:Br3qheyNO



 山の中で人間の死体が見付かったという話を聞いたのは、それから間もない日でした。

 2人の男女が、寄り添うように倒れていたといいます。

(∪^ω^)「吸血鬼の仕業だと思いますお」

ξ∩凵ソ)ξ「この山にいる吸血鬼といったら、奥のお屋敷の吸血鬼かしら」

 アサピーを吸血鬼と知らないブーンとツンは、「恐いですね」と呟きました。
 ツンの頭の蛇も、ぷるぷるしています。

(-@∀@)「本当に吸血鬼なのですか」

(∪^ω^)「首に小さな穴があって、血だけが抜かれていたそうだから、多分吸血鬼でしょう」

 くちゃくちゃ、何かのお肉を食べながらブーンが頷きます。
 普段は木の実ばかり食べているのに、どうしてそんなものを持っているのか気になって、
 ミセリは訊ねました。

ミセ*゚ー゚)リ「それは、何のお肉ですか」

(∪^ω^)「例の、死体のものですお」


87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 15:12:44.25 ID:Br3qheyNO

ξ∩凵ソ)ξ「腐らせては勿体ないから、魔物達がみんな、お肉を持っていったのですよ。
       私は女の上唇を頂きました」

(∪^ω^)「久しぶりに人間のお肉を食べますお。
       本当は、血が滴るようなのがいいんですが」

 最後の一口を飲み込み、ブーンは腹を擦りました。
 呆然としているミセリを見て、首を傾げます。

(∪^ω^)「もしかして、欲しかったですかお。
       今から急いで行けば、足の指くらいは残っているかもしれませんお」

ξ∩凵ソ)ξ「人間は人間を食べませんよ」

(∪^ω^)「あれ、そうなんですかお」

 まったくもう、ブーンったら。
 いやはや、無知でごめんなさいお。

 談笑するブーンとツンの声を聞きながら、ミセリは、ブーンが食べていたお肉を思い返しました。

 あれは、人間の。
 ミセリと同じ、人間の。
 それをブーンは先程、美味しそうに、ぺろりと。


89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 15:25:07.61 ID:Br3qheyNO

 彼は狼男です。
 魔物です。
 山に住む魔物。

 危険だと言われている類の。

(´・ω・`)「こんにちは」

 そこへショボンがやって来ました。
 色々な荷物を抱えています。

 何やら、口がもごもご動いていました。

(∪^ω^)「何か食べていらっしゃる」

(´・ω・`)「あの女の薬指を」

 ごみ箱に細い骨を吐き捨て、ショボンは荷物を椅子に置きました。
 そこから、銀色の輪っかを取り出します。

(´・ω・`)「ミセリさん、綺麗な指輪を手に入れたんですが、いりませんか」

ミセ*゚−゚)リ「指輪」

(´・ω・`)「ええ、ほら」


92 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 15:31:04.54 ID:Br3qheyNO

 ショボンがミセリの掌に指輪を乗せます。
 銀色の輪。てっぺんの台座には、薄いピンク色の石。

 見覚えがありました。

ミセ*゚−゚)リ

(´・ω・`)「男の方の薬指にも似たようなものがあったのですけれど、
      そちらは別の魔物が持っていってしまいまして」

 指輪の内側を覗き込みます。
 そこに彫られた名前は、ミセリの両親のものでした。


120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 17:02:13.99 ID:Br3qheyNO

ξ∩凵ソ)ξ「どちらも指輪をしていたのなら、夫婦だったのでしょうね」

(∪^ω^)「夫婦揃って吸血鬼に殺されたのだから、ある意味、幸せかもしれませんお」

(´・ω・`)「そういえば、知っていますか。吸血鬼の御子息が家出をしたとか。
      きっと、それを探している最中に人間を見付けたのでしょう」

(∪^ω^)「ほう、御子息が。僕は子供がいたことすら初めて知りましたお」

ξ∩凵ソ)ξ「血が飲めない子ですよね」

 ツンの一言に、ブーンが笑いました。
 それはおかしな吸血鬼だ、と。

(∪^ω^)「傑作ですお。ねえ」

 ブーンはアサピーとミセリに顔を向け、小首を傾げました。
 2人共、何も言えません。

 アサピーは、自分の両親がミセリの両親を殺したことに気付いていました。
 ミセリの様子を見れば分かること。

 魔物達は、しばらく歓談すると、日が暮れる前に帰っていきました。


125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 17:11:29.45 ID:Br3qheyNO


(-@∀@)

ミセ*゚−゚)リ

 2人は椅子に座ったまま、じっと黙っていました。
 何秒、何分。
 テーブルだけを見つめ、固まっていました。

(-@∀@)「ミセリさん」

 やっとアサピーはミセリの名前を呼びましたが、返事がないため、
 それ以上口を開く勇気が出てきませんでした。
 小屋の中が暗くなり始めます。

 ミセリは無言で立ち上がると、部屋の隅っこに転がって、丸まりました。

(-@∀@)「ミセリさん」

ミセ*゚−゚)リ「寝ます」

(-@∀@)「ベッドで寝ないんですか。ご飯はどうするんです」

ミセ*゚−゚)リ「ベッドはあなたが使ってください。ご飯はいりません」

 お腹がすきましたが、こんなミセリを前にして、一人だけご飯を食べるなんて出来ません。
 アサピーは真っ暗になるのを待って、ベッドに潜り込みました。


127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 17:22:38.76 ID:Br3qheyNO



 ミセリは握り締めた指輪の感触を確かめながら、暗闇を眺めていました。

 寝られる筈がありません。
 すぐ傍に、吸血鬼がいるのですから。

 血が飲めないなんて嘘かもしれないのに、どうして安心出来ましょう。
 ミセリを油断させて、その隙に、がぶりと行くつもりかもしれません。
 彼の親のように、血を吸おうとするかもしれません。

ミセ*゚−゚)リ

 ミセリはクズで、カスで、親を鬱陶しく思っていましたが、
 親の死に対して沸いた感情は、至って一般的な子供のそれでした。

 悲しい、虚しい、つらい。こんな言葉では足りないような、もっと苦しいもの。

 両親はきっと自分を探しに来たのだろうと思うと、胸がぎゅうぎゅう痛みました。

 自分が家出なんかしなければ。
 すぐに帰っていれば。


130 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 17:33:01.80 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)

 一方のアサピーは、背後から聞こえるミセリの息遣いに耳を傾けていました。
 横になってから随分経つのに、まだ眠っていないようです。
 泣き出してしまわないかとはらはらしていたのですが、その様子もありません。

 もしミセリが泣いたら、自分はどうするべきかアサピーは悩みました。
 親の仇であるアサピーが何を言ったって、ミセリには届かないでしょう。

 自分が家出なんかしなければ。
 すぐに帰っていれば。

 無性にミセリに謝りたい気持ちになりした。
 けれど、それも恐いのです。
 謝ってしまったら、ミセリからたくさん責められそうで。

(-@∀@)「……げほっ、げほっ」

 アサピーは咳き込みました。
 先日から、やたら咳をするようになった気がします。
 それも、日に日に激しくなっているような。


132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 17:39:36.27 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)「げほっ、けほ、おえっ……」

 繰り返される咳により、喉が痙攣して、僅かに吐き気を催しました。
 咳を堪えて何とかやり過ごします。

 いつも「大丈夫ですか」と声をかけてくれるミセリですが、今日は、一言もありません。

 色んなところが苦しくて、アサピーの目に涙が滲みます。



 その晩、2人の子供は眠ることなく、たまに漏れるアサピーの咳を聞きながら朝を迎えました。



*****

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 17:49:50.47 ID:Br3qheyNO


ミセ*゚−゚)リ

(-@∀@)

 ミセリは一日中、指輪を見つめ、ぼうっとしていました。
 アサピーがご飯を食べるよう言っても、生返事をするだけです。

 昼間にショボン達が訪ねてきましたが、その間もミセリは一人で部屋の隅に座り、
 ひたすら指輪を眺めていました。



(-@∀@)「ミセリさん」

ミセ*゚−゚)リ

(-@∀@)「ご飯を食べないといけませんよ」

 日が暮れて。
 アサピーはミセリの前に座ると、ミセリの口元に木の実を押しつけました。

 吸血鬼の自分でさえ毎日食事を欠かせないのだから、
 人間のミセリは毎日何かを食べなければ絶対に死んでしまうだろうとアサピーは思い込んでいました。

 ミセリはアサピーの手を振り払いましたが、アサピーはすぐに新しい木の実を差し出します。


140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 18:00:06.99 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)「食べてください」

ミセ*゚−゚)リ

 ミセリはといえば、アサピーがここまで気を遣ってくれる理由を必死に考えていました。

 すっかり馴染んでいましたが、彼は魔物、それも危険な吸血鬼です。
 普通の人間のようにミセリに優しくしてくるなど有り得ないのだから、
 きっと何か裏がある筈だと。

 ブーンやショボンが人肉を食べる姿を見てしまったせいで、
 ミセリは、魔物は非道な生き物なのだと再認識してしまったのです。

ミセ*゚−゚)リ

 アサピーを睨みながら、一粒、木の実を口にします。

 これが罠だろうと何だろうと、ミセリには逃げる術などありません。
 相手は吸血鬼。並みの魔物ではないのですから。

 それに、逃げたところで、もはや帰る場所もなくなっています。
 足掻いたところで何にもなりません。


144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 18:12:01.69 ID:Br3qheyNO

 ミセリが木の実を飲み込むのを確認して、アサピーは、ほっと息をつきました。
 別の木の実を取り、それも、ミセリの口へ。

 ミセリが全て食べ終えるまで、アサピーは彼女に木の実を与え続けました。



*****





 ぎくしゃくした生活は数日続きましたが、
 ある日、ショボンがやって来たことで、変化が起きます。


(-@∀@)「げほ、げほっ」

 この頃、アサピーの咳の頻度は上がり、体に怠さを覚えるほどになっていました。
 ショボンはアサピーに近付き、彼の背を撫でました。

(´・ω・`)「大丈夫ですか」

(-@∀@)「ええ、大丈夫です。最近よくあるんです」


146 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 18:21:03.62 ID:Br3qheyNO

 ショボンは目を丸くさせ、「それはいけない」と言いました。
 とても大きな声でした。

(´・ω・`)「僕の友達と同じではありませんか」

(-@∀@)「友達ですか」

(´・ω・`)「ここに住んでいたインキュバスです」

 隅にいたミセリが、アサピーとショボンの方へ振り返ります。

(´・ω・`)「彼はインキュバスのくせに女性に手を出さずにいました。
      そのせいでどんどん力が衰え、体調を崩し、死んでしまったのですよ」

(´・ω・`)「彼もまた、あなたのように、聞いていて嫌になるような咳をしていました。
      あなた、インキュバスにとっての女性のような、
      そういった何かを摂取せずに過ごしているのではないでしょうね」

 インキュバスにとっての女性。
 それは、吸血鬼のアサピーからすれば、血のことでありました。


150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 18:33:56.38 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)「そうかもしれません」

(´・ω・`)「ああ、それは大変です。早く何とかしないと、死んでしまいますよ」

(-@∀@)「インキュバスの彼は、いつから具合を悪くして、どれほど経ってから死んだのですか」

(´・ω・`)「咳をし始めてから、50年ぽっちです。
      けれどあなたと彼では種族が違うだろうから、時間も変わってくると思いますよ」

 50年など、ミセリには充分長いように感じられますが、
 魔物にはあまりにも短い時間です。

 アサピーは難しい顔をして、俯いてしまいました。

 手に入りにくいものならば仰ってください。お手伝いしますから。
 そう言って、ショボンは一礼すると、彼の家へ帰るために小屋を出ていったのでした。


152 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 18:47:36.55 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)

ミセ*゚−゚)リ

 何度経験しても慣れない沈黙が、小屋の中を満たしました。

 日が西に傾いた頃、アサピーが席を立ちました。
 びくりと身を竦めたミセリは、アサピーの動きを目で追います。

 アサピーは黙々と食事の準備をし、それらをテーブルに並べました。

(-@∀@)「ミセリさん、ご飯にしましょう。
      今日はショボンさんが果物を分けてくれましたよ。きっと美味しいです」

ミセ*゚−゚)リ

 不気味なほど、いつも通りでした。
 ミセリは指輪を嵌めて、恐る恐る、アサピーの向かいに腰掛けます。

 アサピーは果物を切り分けると、大きい方をミセリに渡しました。


155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 18:57:19.02 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚−゚)リ

(-@∀@)「いただきます」

 最近、アサピーの食事の量が減ってきました。
 食欲が沸かないのだそうです。
 ショボンの言葉が正しいのなら、間違いなく、血を吸わないでいるせいでしょう。

 果物を齧りながら、ミセリはアサピーを見つめました。

 彼だって、体調不良の原因など、薄々勘づいていたでしょうに。
 どうしてミセリの血を飲まないのか、不思議でなりません。

 本当に血が苦手なのでしょうか。
 だとしても、衰弱するくらいなら、嫌いなものでも口にした方がいいに決まっています。

ミセ*゚−゚)リ

ミセ*゚−゚)リ「どうして私の血を飲まないのですか」

 気付くと、ミセリはそんな質問をぶつけていました。


158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 19:07:25.77 ID:Br3qheyNO

 アサピーは木の実を咀嚼し、水で流し込みました。
 一呼吸おいて、「何がです」と訊ね返します。

ミセ*゚−゚)リ「噛みついて、血を吸うチャンスなんて、たくさんあったではありませんか」

(-@∀@)「血は苦手です」

ミセ*゚−゚)リ「それどころじゃないのですよ。ほら、飲んだらどうです」

 服の袖を捲り、ミセリはアサピーの前に腕を突きつけました。
 それでもアサピーは首を振ります。

(-@∀@)「いりません」

ミセ*゚−゚)リ「どうして」

(-@∀@)「飲みたくないからです」

 ミセリには、ちっともアサピーの考えが分かりません。
 彼女とアサピーの立場が逆だったら、
 ミセリは今すぐにでもアサピーに牙を突き立てるというのに。


163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 19:19:17.77 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)「……昔、薔薇を頂きました」

 ミセリの心情が伝わったのでしょう、アサピーは、仕方ないとばかりに口を開きました。

(-@∀@)「その薔薇のトゲが、指に刺さりまして。血が出たのです」

ミセ*゚−゚)リ「はい」

(-@∀@)「痛かったです。小っちゃなトゲなのに、とても痛かったのです」

(-@∀@)「こんなトゲで少し血が出るだけでも痛いのに、
      牙を突き刺して血を吸われるなんて、どれほど痛くて苦しいのだろうと思いました」

ミセ*゚−゚)リ「……はい」

(-@∀@)「そしたら、とてもじゃないけれど、人の血を吸うことなんて出来なくなりました。
      それならばと、両親が人間の血をグラスに注いでみせたりもしましたが、それも駄目でした。
      その血を出すのにどんな痛みを伴ったのかと考えてしまって」

(-@∀@)「だから、苦手です」


171 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 19:30:41.99 ID:Br3qheyNO

 ミセリは、面食らってしまいました。
 そんな理由だとは思ってもみなかったのですから。

(-@∀@)「家の人からは怒られました。外の人からは笑われました。
      吸血鬼の誇りを何だと思っているのだと、父に叩かれもしました」

(-@∀@)「血が飲めない吸血鬼なんて、もしかしたら、さっさと死んだ方がいいのかもしれません」

 そこで話は終わったのでしょう。アサピーは食事を再開させました。
 木の実を噛み砕き、水を飲んで、時折咳をして。
 半分近く食べると、お腹いっぱいです、と呟きました。

 また一層、食べる量が減っています。

ミセ*゚−゚)リ

ミセ*゚−゚)リ「多分」

 ミセリは木の実を一つ食べ、アサピーの目を真っ直ぐに見ました。

ミセ*゚ー゚)リ「あなたには吸血鬼の誇りはなくても、人としての誇りがあるのでしょうね」

(-@∀@)

(-@∀@)「……そうなのでしょうか」


174 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 19:38:50.95 ID:Br3qheyNO

 きっとそうですよ、と言って、ミセリはアサピーの口に木の実を押しつけます。
 アサピーは小首を傾げ、その木の実をゆっくりと食べたのでした。



*****





 2人の会話を聞いている者がいました。

川 ゚ -゚)

( ФωФ)

 幽霊のクールと、黒猫のロマネスク。

 一人と一匹は顔を見合わせると、すぐさま体を翻しました。

 行き先は、山奥のお屋敷。



*****

178 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 19:51:28.90 ID:Br3qheyNO


 久しぶりにアサピーとミセリは同じベッドで眠りに就きました。
 アサピーが咳をすれば、その音で目覚めたミセリが「大丈夫ですか」と声をかけて。
 以前のように、ゆったりとした空気の中、日が昇りました。



 すっかり元通りだと思っていました。
 また、美味しいご飯を食べて、温かいお風呂に入って、2人でベッドに寝て、たまに喧嘩をする。
 そんな生活に戻ったと思っていました。

 けれど。

(-@∀@)「ミセリさん、朝ご飯ですよ」

ミセ*゚ー゚)リ「昨日とほとんど同じじゃありませんか」

(-@∀@)「仕方ないでしょう。これしか──」


 ドアの方から何かの割れるような音がして。

 その瞬間、アサピーとミセリは、何者かに抱えられてしまいました。



*****

182 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 20:03:50.49 ID:Br3qheyNO



 2人が連れ去られた先など、皆様もお分かりでしょう。

 山の奥にある、吸血鬼のお屋敷です。



(-@∀@)「わあ」

ミセ*゚ー゚)リ「きゃあ」

 庭に放り投げられた2人は、悲鳴をあげました。
 地面に打ちつけた腕や頭を擦りながら身を起こします。

 アサピーは、目の前にいる男女を見て、肩を竦めました。

( ・∀・)「ようやく見付けましたよ」

(゚、゚トソン「ああ、すっかり窶れて。まだ人間の血を飲んでいないのですね」

 アサピーの両親です。
 母はアサピーに駆け寄ると、彼の頬を撫でて目を潤ませました。


186 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>185 マジか] 投稿日:2012/01/14(土) 20:15:50.59 ID:Br3qheyNO

(゚、゚トソン「小屋で人間と共に暮らしていると聞いたから、餌を飼っているのかと思ったら。
     まさか、人間なんかと仲良くしていたんじゃないでしょうね」

(-@∀@)「……仲良くしていましたよ」

 アサピーの答えに、母は目を見開き、「何てこと」と声を絞り出しました。
 はらはら、涙が零れます。

(;、;トソン「あなたはどうして吸血鬼として生きてくれないのです。
     吸血鬼が人間と対等に暮らすなんて、絶対に、絶対にあってはならないことなのに」

 彼女の後ろでは、父が溜め息をついていました。
 呆れ返ったような響き。

( ・∀・)「あまりにも情けない……」

(-@∀@)「……父さん、僕は」

( ・∀・)「血が苦手です、とでも言いたいのですか」

(-@∀@)「……その通りです」


191 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 20:27:36.86 ID:Br3qheyNO

 母に撫でられた頬を、今度は父に叩かれました。
 さほど力が入っていないとはいえ、大人の吸血鬼の平手。
 アサピーは後ろに仰け反り、倒れてしまいます。

 ミセリがアサピーの名を呼ぶと、気安く呼ぶなと母が怒鳴りつけました。

( ・∀・)「吸血鬼が血を飲めない筈がないでしょうが。
      痩せ我慢をしているだけです」

(-@∀@)「でも──僕は」

( ・∀・)「……今すぐ」

 父が、ミセリの髪を掴み上げました。
 ミセリが呻き、抵抗しますが、吸血鬼に敵う筈もありません。

( ・∀・)「この子供の血を吸いなさい」


197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 20:43:04.25 ID:Br3qheyNO

(-@∀@)

 予感は出来ていたことでした。
 ミセリを一緒に攫った時点で、こうするつもりだったのだろうと。

ミセ;゚ー゚)リ「い、痛いです……」

 ミセリが顔を顰めます。
 どうすればいいか、アサピーには分かりません。

 アサピーとミセリでは、父にも母にも勝てっこありません。
 逃げ出そうにも、そんな隙も見付かりませんし。

 アサピーは、ミセリから父へ視線を移しました。
 冷たい目を向けられます。

( ・∀・)「早くしなさい」

(-@∀@)「……で」

 出来ません、と言いかけて、口を噤みました。

 そんなことを言えば、確実に、父がミセリを切り裂いて
 無理矢理にでもアサピーに血を飲ませようとするからです。


200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 20:53:29.14 ID:Br3qheyNO

(;、;トソン「どうしたのです、ほら、早く飲んでおしまいなさい。
     そしたら、もう誰にも文句など言わせられないのですよ」

 何も言わず、首も動かさず。
 アサピーは、じっとしていました。

(-@∀@)


 無駄にプライドの高いクソガキな彼は、叱られたり笑われたりすることが嫌でした。
 血さえ飲んでしまえば解放されると分かっていても、絶対に、そうはしません。

 無駄にプライドが高いから。

 吸血鬼の誇りなどよりも、自分自身が掲げた誇りの方が、よっぽど大事だったのです。


209 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 21:06:23.43 ID:Br3qheyNO

 その誇りまで捨ててしまったら、それこそ、自分はゴミ同然になってしまう。

 ましてやミセリを犠牲にすれば、もう、アサピーには何一つ残らないではありませんか。

 彼女の親を自分の親に殺させ、今度は彼女を自分が殺す。
 絶対に許してはならないこと。

(-@∀@)

 かといって、何か策が浮かぶわけでもなく。

 アサピーはじりじりと焦れながら、父を睨みつけました。

( ・∀・)「……もういいです」

ミセ;゚ー゚)リ「あうっ」

 父は舌打ちをすると、ミセリの髪を掴む手に力を込めました。
 もう片方の手を、ミセリの首元に持っていきます。

( ・∀・)「直接吸わないなら、こうするしかありませんね」

 鋭い爪が、柔らかそうな肌に食い込みました。
 これには、アサピーも黙ってなどいられません。

(;-@∀@)「父さん、待って──」


214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 21:17:00.01 ID:Br3qheyNO

 アサピーの制止の声は、さらに大きな声に掻き消されました。
 ぎゃあ、という──父の、悲鳴です。

(;-@∀@)「え……」

(;・∀・)「あ、熱──」

 父はミセリを突き飛ばし、後退りました。
 先程までミセリを掴んでいた手を押さえています。
 よく見ると、その手の一部が焼けただれていました。

 母が父のもとへ走りました。
 同時に、ミセリがアサピーの傍に転がってきます。

(;-@∀@)「何をしたのです」

ミセ;゚ー゚)リ「い、痛くて、あの人の手を掴んだだけです」

(;-@∀@)「嘘おっしゃい」

ミセ;゚ー゚)リ「本当です」

 嘘、本当、と言い合いをする2人。
 父の手を見た母は、「まさか」とミセリを見遣りました。

(゚、゚;トソン「その娘、銀を……」


217 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 21:30:41.80 ID:Br3qheyNO

(;-@∀@)「銀」

 はっとして、アサピーはミセリの右手首を掴みました。
 中指に、彼女の母親の形見である指輪が嵌められています。

 お屋敷の中には銀製品が一つもなかったため、普段から意識することもありませんでしたが、
 吸血鬼が銀に弱いというのは有名な話です。

 彼女が父の手を握ったときに、指輪が触れたのでしょう。

ミセ;゚ー゚)リ「な、何事でしょうか……」

(;-@∀@)「ミセリさん、いざとなったら、この指輪を手放す覚悟をしてください。
      それを使えば、あなただけは逃げられるかもしれません」

 ミセリの前に立ち、アサピーは両親を見据えました。
 父は、予期せぬダメージに混乱しているようでした。
 母の方も狼狽するばかりで、こちらに向かってくる気配はありません。

 この隙に逃げて、と言いかけたアサピーでしたが、口を開いたまま、固まってしまいました。


221 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 21:40:59.50 ID:Br3qheyNO

 何だか後ろが騒がしい。
 そして、おおよそこの場には似つかわしくないような、
 獣の鳴き声としか思えないものが近付いてきます。

 アサピーとミセリが振り返るのと、「それ」が庭に飛び込んできたのは同時でした。

(∪^ω^)「わんわんお!」

 大きな大きな犬──いえ、狼です。
 顔から体から、完全に獣の姿なのですが、どこかブーンの面影がありました。

(´・ω・`)「やあやあ、こんにちは」

ξ∩凵ソ)ξ「迎えに来ましたよ」

 ブーンであろう狼の上には、ショボンとツン。

 ぽかんとするアサピーとミセリを、ツンの髪──蛇達が抱えあげ、ブーンの背中へと座らせました。


227 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 21:56:54.76 ID:Br3qheyNO

(;-@∀@)「ど、どうして」

(´・ω・`)「あなた達が攫われるところを僕が見ていました。
      ブーンさんに匂いを辿らせたら、ここに来たわけです」

ミセ;゚ー゚)リ「ありがとうございます……」

 混乱ここに極まれり、といった体で、両親は立ち尽くしていました。

 ツンを、否、ツンの頭を見た父は、呆然と呟きます。

(;・∀・)「メドゥーサ……」

ξ∩凵ソ)ξ「おや、私をご存知で」

(´・ω・`)「あなたの召し使い達は、この方が石にしてしまいましたよ。
      あなた方も石になりたいですか」

 ショボンの脅しに、両親は顔を青ざめさせました。
 アサピーもミセリも、メドゥーサという名は知りませんが、どうやら吸血鬼でも敵わない魔物のようです。

 そういえば、ツンと初めて会ったときにミセリは思ったものでした。
 「石にしてしまうとは、アサピーなどよりよっぽど恐ろしい」。


230 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 22:07:24.92 ID:Br3qheyNO

(゚、゚;トソン「か……鏡、鏡を使えばメドゥーサなど、」

ξ∩凵ソ)ξ「奥様、鏡を持っておいででしょうか。
       吸血鬼は鏡に映らないと、よく聞きますのに」

(゚、゚;トソン「──」

(´・ω・`)「それではさようなら。ブーンさん、行きましょう」

(∪^ω^)「わんわんお!」

 両親を蹴っ飛ばし、ブーンはUターンして庭から出ました。
 振り落とされないようにアサピーとミセリを蛇が固定してくれています。
 この蛇がいなければ、2人共、すぐに地面へと真っ逆さまだったに違いありません。



 ──斯くして、アサピーとミセリはお屋敷を脱出したのでありました。



*****

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 22:20:22.68 ID:Br3qheyNO



(´・ω・`)「恐らく、密告したのはクールさんとロマネスクさんです。
      今朝早く、山奥から来た2人が『面白いことになる』と笑っておりましたから」

 全ての事情を聞いたショボンは、あっさりとそう言ってのけました。
 ゆっくりと歩くブーンの心地よい震動を受けながら、アサピーは「そうですか」と返します。

 納得するアサピーに反し、ミセリは、腑に落ちないというような顔をしました。

ミセ*゚−゚)リ「お友達だと思ったのに」

(´・ω・`)「魔物は人間とは違いますよ。特に、山に住むような魔物は、
      他者への心配りよりも自身の感情を優先させます。
      面白そうなことはする、つまらなそうなことはしません」

ξ∩凵ソ)ξ「彼らは悪気があったわけではないのですよ。
       ほんのちょっとの悪戯心だったのだと思います」

(´・ω・`)「いいことと悪いことの区別をつけていないのです。
      僕達だって、助けた方が楽しそうだと思ったから行っただけですもの」


237 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 22:29:31.11 ID:Br3qheyNO

(∪^ω^)「疲れてきましたお」

(´・ω・`)「ああ、そろそろ降りますか。もうお屋敷からも充分離れましたし」

 ブーンが伏せの体勢をとり、4人は彼の背中から飛び降りました。
 水に濡れた犬がするようにブーンが体を揺らすと、たちまち、いつもの人間混じりの姿に変わります。

(∪^ω^)「4人は重かったですお」

(-@∀@)「ごめんなさい。でも、ありがとうございました。ショボンさんとツンさんも」

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとうございました」

ξ∩凵ソ)ξ「いえいえ」

(´・ω・`)「あの吸血鬼に一泡吹かせるのは楽しかったですよ」


242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 22:43:43.09 ID:Br3qheyNO

(´・ω・`)「ところで、お2人はこれからどうなさるのですか」

 ショボンの問いを聞いて、アサピーとミセリは視線を交わしました。

 互いに、今更別々の行動をとるつもりはありません。
 しかし、この山にはもういられませんし、山に近い町も危険です。
 両親がまた追ってこないとも限りませんから。

(-@∀@)「新しい場所を探します」

ミセ*゚ー゚)リ「私も一緒に」

 乗せていきましょうか、とブーンが提案してくれましたが、ショボンが首を振りました。
 ブーンは目立つから、山の外にまで出るのは危険なのだそうです。

 ショボンは、ぺこりと頭を下げました。

(´・ω・`)「……それでは、お達者で」

(-@∀@)「ショボンさんも」

ξ∩凵ソ)ξ「血を飲まないのなら、せめて、ご飯で栄養をたくさんとってくださいね」

(∪^ω^)「また会えるといいですおね」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ、本当に」

 順に握手をして別れを告げると、アサピーとミセリは、山の出口へと歩き始めました。
 一度後ろを見て、3人に手を振ります。

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 22:51:32.59 ID:Br3qheyNO

ミセ*゚ー゚)リ「蛇を握り締めたの、初めてです」

(-@∀@)「ツンさんは手を離せませんから、握手は、ああするしかないのでしょう」

ミセ*゚ー゚)リ「目を瞑って握手をするのじゃ駄目なのですかね」

(-@∀@)「……行く前に、それを教えてあげれば良かったですね」

 でこぼこだった道が徐々に平らになり、やがて、2人は山を出ました。
 もう、振り返っても、ショボン達は見えません。

 また会えるといいですね、というミセリの呟きに答えようとしたアサピーは、
 咳をして、その場に蹲ってしまいました。

 ぎょっとしたミセリが、アサピーの隣に屈み込みます。
 大丈夫ですかと問い掛けても、返ってくるのは咳ばかり。


248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 22:57:05.06 ID:Br3qheyNO

 ミセリがたくさん声をかけてやると、ようやく咳は落ち着きました。

ミセ*゚ー゚)リ「血、飲みますか。少しだけなら、私も大丈夫でしょうし」

(-@∀@)「いいえ。いりません。……一滴だっていりません」

ミセ*゚ー゚)リ「……分かりました」

(-@∀@)「さあ、行きましょう。立ち止まらせてごめんなさい」

 すっくと立ち上がり、アサピーは、しっかりとした足取りで進みます。
 ミセリは中指の指輪を撫で、彼の後に続きました。


253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 23:10:06.71 ID:Br3qheyNO

 アサピーが倒れる日など、彼らには分かりません。
 何十年後かもしれませんし、数ヶ月後かもしれませんし、明日かもしれません。

 咳も体の怠さも日毎に増していって、きっと苦しい思いをするし、
 いつ死ぬのかと不安に苛まれ続けることでしょう。


 それでも多分、彼は誇らしい気分でいられるのだろうと思います。

 彼が、吸血鬼の誇りよりも、人としての誇りを抱いている限りは。





ミセ*゚ー゚)リ「手を繋ぎましょうか」

(-@∀@)「指輪をしていない手でお願いしますよ」


254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/01/14(土) 23:10:43.74 ID:Br3qheyNO



(-@∀@)誇り無き吸血鬼のようです



おわり



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