- 3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:30:59.09 ID:/rIZkdAZ0
あるところに一人、物真似好きの少女がおりました。
少女は他人の真似をして周りの人をからかうのが大好きで
いつも誰かの癖や特徴を真似てはその人になりきり、周囲の人を笑わせておりました。
もちろん真似をされた当人はいい気分ではありません。
みんな怒って、少女を避けます。
そして笑っていた周りの人達も、自分の真似をされてはたまらないと
次第に皆、少女から離れていきました。
他人の物真似ばかりしていた少女は、誰からも名前すら呼んでもらえなくなり
孤独に耐えかねた彼女は、ある日とうとう自ら命を絶ってしまいます。
そしてここは現代のVIP町。
多くの人が暮らし生活するこの町に
どこからともなく一羽の小さなインコが飛んできました。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:32:16.51 ID:/rIZkdAZ0
誰か呼んでるようですよ。
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:32:41.10 ID:/rIZkdAZ0
- VIP駅前に建てられている、平和を象徴して作られた通称平和の女神像。
その像は多くの人々が利用するこの駅にて、主に若者達の待ち合わせの目印となっている。
ブロンズで出来た優しく慈悲深い女神の微笑みとは対照的に
その前では若い金髪の女性が、のどかな日曜日の午前に似つかわしくない、鬼神の如き形相で
前を通る通行人や小さな子供を怯えさせていた。
ξ#゚听)ξ「遅い!!」
腕の時計を見ると針は既に約束の時間から30分を過ぎた時刻を指していた。
恋人から遅れる旨を告げたメールが届いたのは約40分前。
ξ#゚听)ξ「ブーンったら、いっつもこうなんだから……!」
どうせいつもの寝坊だろうが、こう毎回毎回約束の時間を破られると
いい加減堪忍袋の緒も切れるというものだ。
もともと短気な性格な為、そんなものはとっくの昔に数十本はぶち切れてしまっているのだが。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:33:33.12 ID:/rIZkdAZ0
- ξ#゚听)ξ「ふん!」
壊しかねない勢いで折りたたみ式の携帯を開くと
待ち受け画面の中で自分と共に微笑む恋人の顔を
有らん限りの怒りを込めて睨みつける。
いかにもお人好しといった感じの、どこか間の抜けた明るい笑顔が
そんな自分の怒りなど露知らず、画像の中の自分の隣で楽しそうに笑っていた。
( ^ω^)
ξ#゚−゚)ξ「……人の気も知らないで何へらへら笑ってんのよ!ばっかみたい!」
携帯画面に向けて収まらない怒りをぶつける。
もちろん画像の中の彼に届く筈は無いが。
ξ#゚−゚)ξ「レディをこんなに待たせておいて……今日絶対クレープ奢ってもらうんだからね!」
ξ#゚−゚)ξ「……」
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:34:56.66 ID:/rIZkdAZ0
- 1人待たされ、ピークに達していたイライラが
その笑顔を見ていると、自然と緩和されてしまう。
周囲を和ませ、明るくさせ、怒りさえ笑いに変えてしまう魔法みたいな笑顔。
彼女―――ツンは、そんな彼の笑顔が大好きだった。
ξ゚−゚)ξ「……」
ξ--)ξ =3 ハァ
ξ゚听)ξ「まったく……」
ξ゚听)ξ「……」
ξ゚ー゚)ξ「…早く来なさいよね」
この日のために新しく買った服のコーディネイトを、アクセサリーから靴まで再確認。
爽快な風の吹きぬける青空を見上げ、楽しいものとなるであろう今日の一日に思いを馳せた。
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:36:47.65 ID:/rIZkdAZ0
- (;^ω^)「うおぉああああぁあああああ!!!
やばい!やばすぎるお!!!」
空気の漏れるような音と共に開いた電車のドアから転がるように飛び出し、
豚の断末魔のような悲鳴をあげながら駅の構内を全力疾走するふくよかな青年が1人。
訝しげにこちらを見る周囲の視線も、彼には気にしている余裕など無い。
彼こそ今現在女神像の前でツンを待たせている命知らずの恋人、ブーンである。
既に彼女と約束していた時間から30分以上経っている事実に、更なる絶望が彼を追い詰める。
彼女になんと言い訳すればいいのか。
子供が生まれそうだった妊婦を助けてたとでも言えばいいのか?
そんな事を口走った瞬間、間違いなく自分は脂肪で出来たサウンドバックと化す事だろう。
彼女の待つ女神像前までこのまま走れば2,3分で着く。
しかし自分を待ち構える、盛大な遅刻の清算が恐ろしかった。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:37:29.28 ID:/rIZkdAZ0
- だがいつもの悪い癖で時計のアラームを無意識に止め、寝坊したのは自分である。
下手な言い訳で彼女の機嫌を余計拗らせるよりは、男らしく正直に謝った方が良いかもしれない。
物で釣ると言うのもなんだが、その後彼女の大好きなフルーツクレープでも奢ってあげれば
根は優しい彼女のこと、きっと許してくれる筈……
(;^ω^)「……お?」
彼女と会った後の事に考えをめぐらしながら、汗だくで走るブーンの視界に
灰色の駅内にそぐわない、垢抜けた蛍光色が思いがけず飛び込んできた。
(;^ω^)「……小鳥?……インコかお?」
- 12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:39:01.55 ID:/rIZkdAZ0
- 隅の方に備え付けられた、休憩用のベンチにちょこんと留まり
首を傾げてブーンを見上げる小鳥。
あまりに場違いなその存在に、最初は玩具かと思ったが、どうやら本物らしかった。
手の平で包みこめばすっぽり収まってしまうほど小さい体。
蛍光色寄りの、青みがかった緑の羽毛。
それは小学生時代、飼育小屋でよく目にしたインコに似ていた。
( ^ω^)「なんでこんな駅の中に?……誰かのペットが逃げたのかお」
周りの人達は気づいていないのだろうか。
そんな異色の存在など全く目に入らない様子で、せかせかと通り過ぎていく。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:39:31.44 ID:/rIZkdAZ0
- ( ^ω^)「おっおっ、かわいお!おいでおいでー」
( ^ω^)「そうだ、確かツンは小動物が大好きだったお!写メ撮って送信……」
( ^ω^)
(;^ω^)「ってんなことしてる場合じゃないお!ツン!ツーーーン!!」
『チュ、ピチュッ……ツン?……ツン……』
その場に取り残された小鳥は、再び慌しく駆け出したブーンの背中を見送りながら
小さく囀り、可愛らしい仕草で首を傾げた。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:40:57.74 ID:/rIZkdAZ0
- ξ゚听)ξ「……」
ξ゚听)ξ「……ヒマ」
ξ゚听)ξ「電車に乗ったメール来てから結構経つし、そろそろ駅に着く頃かなぁ」
ξ゚听)ξ「……」
ξ゚听)ξ「……あら?」
携帯をいじるのにもとっくに飽きてしまい、何の気無しに背後の女神像を見上げた先。
優雅に微笑む彼女と戯れる無機質な鳩達の中に、一羽だけブロンズ製では無い鳥がいた。
手の平で包みこめばすっぽり収まってしまうほど小さい体。
蛍光色寄りの、青みがかった緑の羽毛。
ξ゚听)ξ「へ?インコ?……なんでこんなところに?」
自分が気づくと同時、地面へと降下する小鳥。
思わず腰をかがめ、しげしげと眺めてみても
それはやはりペットショップ等で売っているような色鮮やかなインコだ。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:42:24.28 ID:/rIZkdAZ0
- これだけ近くに人が来ても逃げる事も無く、愛らしいくりくりした目でじっと自分を見つめている。
大分人慣れしている様子から考えるに、恐らく誰かのペットが逃げ出したのだろう。
指でその小さな頭をそっと撫でるツン。
依然その小鳥は大人しくその場に留まり、気持ち良さそうに目を細めた。
ξ*゚听)ξ「どこから来たの?ごめんね、今何も持ってないのよ」
ツンは小動物が大好きだ。家でもハムスターを飼っている。
何か餌代わりになる物が無いかと思ったが、生憎とキャンディーの袋しか持ち合わせていなかった。
ξ*゚听)ξ「可愛い〜」
しばらくそうして、ふかふかの羽毛の感触を楽しんだ。
それにしても大人しい小鳥だ。とても長い間人に飼われていたのかもしれない。
- 18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:43:30.14 ID:/rIZkdAZ0
- ξ゚听)ξ「……あ、行っちゃうの?」
それまで大人しく撫でられていた小鳥が、よたよたと歩き出す。
小さな背中を見送るツンの元から
人々が大量に行きかう通路の方へと。
ξ゚听)ξ「……」
通路を行き交う人々は、地面を頼りなげに歩く小鳥の姿などまるで見えていないようで
誰一人立ち止まる事も、その小さな存在に気づく事も無く歩き続ける。
そして小鳥の方も、何故か一向に立ち止まる気配も、飛びたとうとする様子も無い。
まるで、何かに憑り付かれでもしたかのようにそのまま直進していく。
いくら人慣れしている小鳥とはいえ、自分の体と比較すれば山のように巨大な
幾人もの人混みの中に自ら突き進んで行くなんて異常だ。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:44:36.66 ID:/rIZkdAZ0
- ξ;゚听)ξ「ちょ……、ちょっと!危ないっ」
あんな小さな小鳥だ。もし人に踏まれでもしたらひとたまりも無いだろう。
慌てて、小鳥を保護しようと女神像の前から離れるツン。
人混みに指しかかろうとした所で、前方が何やら騒がしい事に気づく。
女の人の悲鳴のようなものまで聞こえる。一体―――
「危ない!避けろ!!」
「暴走トラックだああ!!」
次の瞬間、彼女の目の前で人が宙を舞った。
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:45:09.67 ID:/rIZkdAZ0
そして、目前一杯に迫る、白い車体。
ξ゚听)ξ「え」
猛スピードで自分めがけ突っ込んでくる巨大な鉄の塊を前に、彼女に為す術は無かった。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:46:26.77 ID:/rIZkdAZ0
- ++++++++++++++
( ;ω;)「ツン……」
前を向いて歩くのが困難なほどに激しい雨が、天から地へと降り注がれ
いつもは穏やかな川は普段の倍もの水量を増し、土色に濁った飛沫をあげて勢いよく流れていく。
太陽は雨雲に覆い隠され、昼にも関わらず窓の外はまるで嵐の夜のようだ。
カーテンを閉めきった窓の向こうから聞こえてくる
雨が地面に叩きつけられる音を意識の端に受け止めながら
暗い部屋で一人涙を流すブーンの頭の中は、今はもういないツンの事でいっぱいだった。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:48:52.72 ID:/rIZkdAZ0
- ( ;ω;)「……ツン、ツン……!どうして死んじゃったんだお……」
その震える右手には、ツンと自分が仲良く肩を並べて写っている写真。
ツンは大学に入った当時知り合い、付き合って1年になる恋人だった。
しかし一週間前、自分と待ち合わせた場所で、彼女は飲酒運転の車に撥ねられ命を落としまう。
ブーンは搬送された病院先で、ベットの上に横たわる彼女の身体に縋りつき泣き叫んだが、
いくら名前を呼んでも、既に冷たくなっていたツンが、再びいつもの笑顔で彼の呼びかけに答えてくれることは無かった。
永遠に。
( ;ω;)「ごめんおごめんおツン……僕が、僕があの日遅れなかったら……!!」
葬儀は終わったものの、愛するツンがもうこの世にいない。
その上、彼女が事故に遭った要因の一つには自分の遅刻も含まれるのだ。
一週間経っても、ブーンは辛い現実をなかなか受け止められずにいた。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:49:07.34 ID:/rIZkdAZ0
- ( ;ω;)「嘘だ、嘘だお……ツンが死んだなんて嘘だお……!帰ってきてくれお……」
会いたい。彼女に会いたい。
ツン。大好きなツン。ツン。ツン。
頭の中で何度も彼女の名前を呼ぶ。
病院で冷たい体を抱きしめたあの日のように。
しかし、返事をしてくれる彼女はもういない。いないのだ。
( ;ω;)「ううう……ツン……ツン……」
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:49:25.45 ID:/rIZkdAZ0
―――――……ン
( ;ω;)「!?」
呻き、俯いていたブーンが、はっと顔を上げる。
今、確かに、聞こえた。
止む事の無い激しい雨音の中で、ただ1つの声だけが
失意の沼底へと沈むブーンの耳へと届いたのだ。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:50:06.33 ID:/rIZkdAZ0
―――――……ブーン
ξ゚听)ξ
そしてその声は、彼が今最も聞きたかったもの。
極々微かで小さく、それに加えて絶え間なく続くノイズで聞き取り辛いが、
他の誰のものでもなく、間違える筈も無い。
愛しいツンが自分の名を呼ぶ声だった。
(;゚ω゚)「ツ……ツン?ツンなのかお!?」
『ブーン』
今度こそはっきりと聞こえた。
ブーンはあわてて室内を見渡す。
しかし、暗い部屋の中に自分以外の人影は見当たらない。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:51:05.01 ID:/rIZkdAZ0
- (;゚ω゚)「どこにいるんだお!ツン!!」
『外よ。早く来てブーン。早く来て。お願いブーン』
(;゚ω゚)「わ、分かったお!今行く!今行くから!!」
ブーンはそう叫ぶと、傘も持たず、ドアの鍵も閉めずに、大雨の中外へと飛び出した。
外に出た途端体中に容赦無く降り注がれる雨も一向に気にならない。
既に道という道が水浸しである中、勢いよく水飛沫をあげながら、ひたすら走る。
ただただ、愛しい人の姿を探して。
『私はこっちよ』
耳を塞ぎたくなるほどの激しい雨音だというのに、彼女の声だけは明確に耳に届く。
そしてその声は鼓膜を通して脳を侵し、彼の正常な思考を狂わせる。
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:51:34.60 ID:/rIZkdAZ0
- 道行く人々とぶつかり、物を蹴飛ばし、罵声を浴びせられても
ブーンの頭はそれらに意識を向ける余裕等とっくに失われていた。
求めるのはただ―――
( ゚ω゚)「ツン!どこだお!ツン!!」
『こっちよブーン』
ξ^ー^)ξ
いつのまにか雨音の中に別の轟音が混じっていることにも気付かずに、
ブーンは血走った目でひたすら彼女を探す。
豪雨と空の暗さで既に視覚がほとんど機能を成さなくなっているにも関わらず
彼は止まらない。
そして―――
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:52:12.05 ID:/rIZkdAZ0
ズルッ!
(;゚ω゚)「ぅあ!?」
足をすべらせて落ちた先は、普段より水量と激しさを増した荒れ狂う濁流の中だった。
ツンの声が聞こえるまま一心不乱に走っていたブーンは、いつの間にか自分が
濡れた石で滑りやすくなっていた河原まで来ていた事に気付かなかったのだ。
(;゚ω゚)「――――ッ!!」
水の暴力に成す術もなく翻弄される体。
泥土に濁った水は一瞬にしてブーンの体を飲み込み、
必死にもがくも、牙を向いた自然の驚異を前にしてちっぽけな抗いは意味を成さず。
肺からは酸素が大量に吐き出され、視界が暗闇に染まっていく。
それでも彼は、手を伸ばして最愛の人の名前を叫んだ。
( ;ω;)「ツ―――――!」
曇天へ向かって伸ばした手は、愛する人の元へは届かず
一瞬にして濁流の渦の中へと掻き消えていった。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:54:59.88 ID:/rIZkdAZ0
ξ^ー^)ξ
ξ゚ー゚)ξ
ξ゚∀゚)ξ
『ブーン ブゥウン ギィギィッ ブゥンンんン ギャハッ ギャハハッ』
再び、辺りを支配する音が川の轟音と吹き荒ぶ雨風のものだけになった中
羽を濡らした一羽のインコが、不気味な鳴き声を響かせながら
暗雲の彼方へと飛び去っていった。
――――――
――……
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 17:56:55.93 ID:/rIZkdAZ0
- ++++++++++++++
l从・∀・ノ!リ人「……雨、止まないのじゃー」
朝からずっと変わらない窓の外の景色を眺めながら、妹者は不満げに呟いた。
今日で四日目になる大雨はその勢いを衰えさせることなく轟々と天から降り注ぎ、
彼女の小さな体に元気は有り余っているというのに
外で遊ぶことも大好きな公園に行くことも出来ない。
家の中で出来る遊びにもそろそろ飽きはじめ、つまらなそうに溜息をつく。
母者は洗濯物が干せないと言って苛立っているし、家の中も湿気でじめじめし始めて
つくづく、カラリと晴れた青い空と太陽が恋しくなる。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:05:12.60 ID:/rIZkdAZ0
- l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者ー、明日も雨なのじゃ?」
( ´_ゝ`)「ん?そうだなぁ、天気予報ではそう言ってるな」
l从・∀・ノ!リ人「つまんないのじゃ。お外で遊びたいのじゃー」
(´<_` )「危ないから外に出たりしちゃ駄目だぞ。暴風注意警報も出てるし」
( ´_ゝ`)「妹者は小っちゃいからな。あっというまに風で飛ばされちゃうぞー」
l从・∀・ノ!リ人「むうぅ」
双子の兄達にそう言われ、ぶぅと頬をふくらます。
何かおもしろい事は無いかと考えをめぐらすが、
人形遊びも、ノートにらくがきするのも飽きてしまった。
雨なんてもうたくさんだ。早く晴れればいいのに。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:06:15.80 ID:/rIZkdAZ0
- l从・∀・ノ!リ人「そうだ!
てるてる坊主を作って雨がやむようにお願いするのじゃ」
名案を思いついて、さっそくティッシュの箱を部屋に運ぶ。
これならば暇も潰せて、明日の天気を晴れさせることもできる。
いっせきにちょーというやつだ。
l从・∀・ノ!リ人「てーるてーるぼうず てーるぼうずー♪」
ご機嫌で歌を口ずさみながら、
丸めたティッシュにもう一枚のティッシュをかぶせ
部屋の中にあった輪ゴムで首の部分をくくる。
クレヨンでかわいい顔を描けば出来上がり。
l从・∀・ノ!リ人「1つじゃさびしいのじゃ。もっと作るのじゃ!」
そう言って妹者は、2つ目のてるてる坊主を楽しそうに拵える。
- 40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:06:52.13 ID:/rIZkdAZ0
- l从・∀・ノ!リ人「……でーきた!どこにかざろうかなー」
完成した2つのてるてる坊主を掲げて、満足げな笑みを浮かべる妹者。
どこに吊るそうか。
あまり高い所には手が届かないし、みんなが見つけやすい場所がいい。
しばらく腕組み考えて、ふと玄関のドアノブに吊るされている小さな飾りを思い出す。
ドアノブなら身長の低い妹者にも手がとどく。
それに外に近い方が、なんとなく効果が期待できそうだ。
2つのてるてる坊主を手に取って、妹者は玄関へと向かった。
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:09:46.38 ID:/rIZkdAZ0
- l从・∀・ノ!リ人「〜♪」
鼻歌まじりにノブに紐をくくりつけ、2つめのてるてる坊主に手をかけた時。
――――……ニャー
l从・∀・ノ!リ人「え?」
ドアの向こうから小さな声が聞こえた。
――――ニャ- ニャ-
l从・∀・ノ!リ人「ねこ?」
- 43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:10:36.99 ID:/rIZkdAZ0
- かすかに聞こえる猫の声。
だが、このマンションはペット禁止の筈だ。
とすると、近所の野良猫が雨宿りに来たのだろうか?
雨で濡れそぼり弱った猫の姿が浮かんで、慌てて妹者はドアノブを回した。
ガチャ
l从・∀・ノ!リ人「……あれ?」
だが、そこに猫の姿は無かった。
相変わらず外は轟々と雨が降り続け、廊下を水浸しにしている。
l从・∀・ノ!リ人「……?」
ニャァ
l从・∀・ノ!リ人「!」
- 47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:16:50.86 ID:/rIZkdAZ0
- 気のせいだったかと思いドアを閉めようとした時、
再び猫の鳴き声が聞こえてきた。どうやら下の階から聞こえるようだ。
l从・∀・ノ!リ人「下なのじゃ?」
妹者は少し考える。
雨に濡れて彷徨う野良猫を放っておくのは可哀想だ。
だが、兄達にも母親にも、危ないから外に出るなと言われている。
l从・∀・ノ!リ人「んー……」
……それなら外に出なければいい。マンション内ならまだセーフではないだろうか?
そう判断して、妹者は玄関の傘立てからお気にいりの赤い傘を掴むと
猫の鳴き声が聞こえる方へと駆け出した。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:17:25.09 ID:/rIZkdAZ0
- l从・∀・ノ!リ人「あれー?いないのじゃ……」
1階、2階と階段を降りていくが、猫の姿は見つからない。
このマンションは15階まであって、妹者はその8階に住んでいる。
いつもは降りるのも上がるのもエレベーターを使っているので
雨で滑りやすい階段を、足元に気をつけながら降りるのはなかなか大変だ。
『ニャー』
『ニャー』
すぐ下の階から聞こえるようなのに、降りても姿は見えず
さらに次の階、次の階へと、まるで妹者を誘うかのように
猫の声は途切れることなく聞こえてくる。
白兎を追うアリスのように、幼い妹者は姿の見えない猫を追うのに夢中で
何度も忠告されたというのに、とうとうマンションの敷地外へと出てしまった。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:18:39.06 ID:/rIZkdAZ0
- l从;・∀・ノ!リ人「どこにいるのじゃ?」
風は乱暴に荒れ狂い
兄の言った冗談どおり、妹者の小さい体では飛ばされてしまいそうだ。
ざぁざぁと降り注ぐ雨で視界も悪い。不安と心細さが心の中に充満していく。
妹者は傘の柄をぎゅっと握り締めた。
もう帰らないといけない、と頭の隅で小さく警報が鳴り始めていた。
それでもやはり子供特有の純粋な良心が猫の姿を探す。
『にゃあ』
l从・∀・ノ!リ人「!」
困った表情で辺りを見回す妹者の耳に、はっきりと猫の鳴き声が聞こえた。
一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、すぐに地面から水飛沫を跳ねさせて
彼女は駆け出した。
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:20:46.88 ID:/rIZkdAZ0
- (;´_ゝ`)「妹者ぁー!!」
(´<_`;)「どこだー!?」
水浸しの廊下を走りながら、必死に妹の名を叫ぶ兄者と弟者。
降り注ぐ雨が体を濡らすのも構わず、転げ落ちそうになりながら階段を駆け降りる。
ほんの少し目を離している間に、
部屋でおとなしく一人遊びをしていると思っていた幼い妹がいなくなってしまった。
運悪く母者は遠方へ出かけていて、2人で家の中を捜すもどこにもいない。
玄関にて子供用の赤い傘と長靴が無くなっているのを見つけた2人は
大慌てでドアの外へと飛び出した。
- 53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:22:07.67 ID:/rIZkdAZ0
- (;´_ゝ`)「まさかマンションの外に出たんじゃ」
(´<_`;)「んな馬鹿な。この大雨だぞ?」
兄者の言葉を否定したところで
つい数十分ほど前にかわしたばかりの、妹との会話を思い出す。
連日続く雨で外に遊びにいけず、すっかりヘソを曲げていた妹者。
なにせ小さい子のことだ。こんな最悪の天気の中でも
軽い気持ちで外に出てしまうことも有り得なくは無い。
(;´_ゝ`)「お、俺ちょっと外探してくる!弟者はマンションな!」
(´<_`;)「分かった。気をつけろよ!」
嫌な予感が2人の心に充満し
居ても立ってもいられなくなった兄者は、傘を片手に駆け出した。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:25:42.37 ID:/rIZkdAZ0
モノクロの世界の中、ポツンと
ふらふら ふらふら 揺れる赤い傘。
俯きながら歩く少女の頬には
天から降り注ぐ雨とは、また違った雨が降っていて。
l从;д;ノ!リ人「えぐ……道、分かんなくなっちゃったのじゃ……
帰りたいのじゃぁ……」
ざぁざぁ ざぁざぁと
断続的に聞こえる雨の音が、一人ぼっちの心細さを掻き立てる。
胸を占めるのはただただ恐怖と後悔。
みんなの言うことを聞いて、いい子にしていればこんなことにはならなかった。
幼いその胸に、後悔と涙は止まらない。
ぎゅっと傘の柄を握りしめ、しゃくりあげながら歩道を歩く。
- 55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:26:21.77 ID:/rIZkdAZ0
――――……ゃ
l从;д;ノ!リ人「……え?」
俯いていた顔を上げ、キョロキョロと辺りを見回す。
絶え間なく続く雨音の中に、聞き覚えのある声が聞こえた気がしたからだ。
――――……ぁー
l从;д;ノ!リ人「……おっきい兄者?」
――――妹者ぁー!
l从;д;ノ!リ人「!!」
今度こそはっきりと聞こえた。
自分の名を呼ぶ兄の声。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:26:49.46 ID:/rIZkdAZ0
- 今一番聞きたかった、心を安心させてくれる慣れ親しんだ声が。
l从;д;ノ!リ人「お、おっきい兄者ぁー!!」
涙で濡れた瞳をぬぐい、兄の姿を探す。が、
ぼんやりと滲んだ雨景色の中に声の主は見つからない。
姿は見えねど、声はどんどん明瞭さを増していき
道路の向こう側から聞こえる声は、優しい声で呼びかけた。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:30:35.15 ID:/rIZkdAZ0
( ´_ゝ`)
『こっちだ妹者。早くおいで』
頼れる存在を前にして、心細さは限界で。
妹者はついに、声のする方へと走り出す。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:31:52.03 ID:/rIZkdAZ0
ド
ン ッ !!
しっかりと握っていた赤い傘が
小さなその手を離れて
くるくると宙を舞った。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:32:42.43 ID:/rIZkdAZ0
ザァ−…… ザァ−……
水浸しの道路に お気にいりの傘と同じ 赤のインクが流れていく。
雨に淀んだモノクロの景色の中を じわじわと浸食していく。
おかしな方向へ曲がった長靴 地面へとふり乱された髪
そのすべてから溢れ出し 流れ出て 道路傍の排水溝へと。
流れていく。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:35:13.59 ID:/rIZkdAZ0
- 「きゃあああああーーーーッ!!!」
「子供が、子供が撥ねられたぞ!!」
……パシャッ
雨が作り出す波紋のように わっと広がる喧噪の中
子供用の赤い傘が くるくる回って地面へ落ちるのと
今しがたここへ駆けつけたばかりの
兄者の手から傘がすべり落ちたのはほぼ同時だった。
(;゚_ゝ゚)「あ……あ……ああ あ あ」
―――――ああああああぁああぁあぁアアアアアッ!!!!
- 64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:37:34.96 ID:/rIZkdAZ0
救急車のサイレンと、止まない雨
人々が慌しく動き、沢山の野次馬が集まる騒ぎの中で
雨に濡れた小さなインコが 誰にも知られずやって来て
道路を流れる赤色に羽を染めながら
ピチュピチュ くっくっと 笑っているかのように囀った。
- 65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:40:09.67 ID:/rIZkdAZ0
- ++++++++++++++
从'ー'从「ねぇ、今週も兄者くん来なかったねー」
('、`*川「妹さんの事故があってから、ずっと部屋で引き篭ってるらしいわよ」
从'ー'从「そうなんだ……。交通事故でしょ?かわいそうだったね」
( <●><●>)「……」
隣で女子達が話している会話の内容が耳に入り
一時間目の授業の準備をしていたワカッテマスは、一瞬そちらの方に意識を向けた。
だが2人の会話は、次にはもう別の話題に移っている。
彼女らにとって、話題になっている当人があまり面識の無い人物である以上
どんなに深刻な話であろうと、日常に溢れる他愛無い話題の一つでしかないのだ。
- 66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:42:10.74 ID:/rIZkdAZ0
- ( <●><●>)「……」
ワカッテマスは英語の教科書をめくっていた手を止め、思考の深くから記憶を探る。
あの激しい大雨の中、買い物帰りに自宅への道を急いでいた3週間前の日の記憶を。
傘を差している行為が無意味に感じられるほど
その日は突風と豪雨が荒れ狂い、道行く人々の歩行を妨げていた。
(;<●><●>)「バケツをひっくり返したような、とはまさにこのことですね」
目的の買い物を済ませたワカッテマスは、飛ばされないように傘の柄をしっかりと握り
道路を占領する水溜りに足を取られながらも、あと数キロの自宅を目指し急いでいた。
- 68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:45:04.31 ID:/rIZkdAZ0
- (;<●><●>)「まったく、最近のこの大雨はなんなんですかね。
数日前には近くの川で男性が流されたっていうし……。
……おや?」
その時、反対側の道路を歩く赤い傘が、ワカッテマスの視界にちらと入ってきた。
赤い傘の下、俯いて歩く女の子に見覚えがあり足を止める。
( <●><●>)「あれは……流石君家の妹者ちゃん?」
その少女は、同じ高校に通う友人である、流石兄弟の年の離れた妹のようだった。
いつも家に遊びに行くと元気に挨拶してくれる、太陽のような笑顔は今は消えてしまっていて
髪から服からぐっしょり濡らし、肩を震わせしゃくりあげているようだった。
- 69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:46:20.82 ID:/rIZkdAZ0
- ( <●><●>)「どうしたのでしょう。迷子になっちゃったのでしょうか」
ここは流石兄弟の済んでいるマンションからはそんなに離れてはいないが、
マンションまでの道は脇道が多く、少し道を間違えるとなかなか辿り着く事が出来ない。
ワカッテマスは横断歩道を渡り、妹者に声をかけようとする。
しかし
( <●><●>)「あ」
丁度、目の前で点滅していた青のランプが赤に変わり
横断歩道の前で立ち尽くすこととなってしまった。
信号無視して横断するには距離も長く、車の量も多いため待つしかない。
妹者が行ってしまう。
だがその歩みは勢い無く、のろのろとしたもので
この信号が変わってからでも走れば十分追いつけそうだ。
ズブ濡れで、肩を震わせながら歩く小さな妹者の後姿に胸が痛み
早く行ってやりたい気持ちをこらえながら信号が変わるのを待つ。
その時だ。
- 71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:49:25.59 ID:/rIZkdAZ0
- 「妹者ぁー!」
( <●><●>)「!」
遠くの方から、少女の名前を呼ぶ声が、雨音に紛れてかすかに聴こえた。
妹者はまだ気づいていないようだ。だが声は近づいてきている。
その声は、ワカッテマスもよく知っている声だった。
( <●><●>)「兄者君の声なんです。
よかった、これで安心ですね」
何度も自分の名を呼ぶ声に、妹者もようやく気づいたようだ。
ハッと顔をあげて、辺りを見回す。だが兄者の姿はまだ見えない。
ザァザァと降りしきる雨の音が、兄の名を呼ぶ妹の声をかき消した。
- 72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:50:28.11 ID:/rIZkdAZ0
- ワカッテマスの方からは、もう兄者の姿が見えていた。
傘を振り回し、必死になって妹者を探している。
でも兄者の方からも、妹者の姿は見えないようだ。
声をかけたくてもここからでは遠すぎる。
まだ信号は青にならないのかと、焦る気持ちで顔を上げた
―――その時。
- 73 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:51:00.91 ID:/rIZkdAZ0
『妹者』
(;<●><●>)「えっ」
瞬間、ワカッテマスの背筋が凍りついた。
自分の真後ろ。
耳のすぐ近くで、突然声がしたからだ。
それも、今現在反対側の道路で
必死に自分の妹の名前を呼んでいるはずの、友人の声が。
反射的に振り向く。しかし、そこに兄者はいない。
いるはずが無い。なのに。
『妹者』
- 74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:51:27.21 ID:/rIZkdAZ0
- 声は依然、少女の名前を呼んでいた。
それは静かな口調なのに、何故かこの雑音の中でかき消される事も無く
まるで脳に直接送られているかのように、はっきりと聴こえてきて。
l从;д;ノ!リ人「……おっきい兄者?」
そして、ワカッテマスは妹者がこちらを見つめていることに気づく。
今この状態が危険なものであることを察知し、ワカッテマスの鼓動が早まった。
『妹者』
『こっちだよ、妹者』
視界をめぐらせ、必死に声の主を探すワカッテマス。
そして、その声は自分の頭上から聞こえる物だと気づき
大粒の雨が絶え間なく注がれる、曇天の空を見上げた。
- 76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:52:49.24 ID:/rIZkdAZ0
- (;<●><●>)「!?」
そこにいたのは、店の看板にとまっている一羽の小鳥。
これだけの雨であるというのに、じっと前を見据えてそこに佇んでいる。
そしてワカッテマスは見た。
『こっちだ妹者。早くおいで』
その小鳥が、小さな嘴を開けて友の声で囀るのを。
その光景は正に異様だった。
l从;д;ノ!リ人「おっきい兄者ぁー!!」
(;<●><●>)「!!」
咄嗟に振り向くと、妹者が叫びながら歩道から飛び出すところだった。
信号の色は―――赤だ。
大量の車が行き交う道路を、妹者はそれが目に入っていないのか
ただ、兄の名を叫び駆け出した。
- 78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:53:21.64 ID:/rIZkdAZ0
車が来る。間に合わない。
(;<●><●>)「駄目です妹者ちゃん!!妹者ちゃ」
(;<●><●>)
(;<〇><〇>)
- 79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:54:19.65 ID:/rIZkdAZ0
- 「うわああああぁああぁぁ!!妹者!妹者あああぁああぁ!!!」
「危ない、君!下がりなさい!!」
ワカッテマスはその場から動けないまま、呆然と立ち尽くしていた。
一気に騒がしくなった事故現場で、人々のざわめきとサイレンが鳴る喧噪の中
兄者が半狂乱になりながら、救急車に運ばれていく妹の名前を叫ぶ様子を
夢の中の出来事のように、どこかしっかりとしない意識のまま見つめていた。
頭の中が真っ白になっていて、さっき起こった出来事を整理できない。
妹者の体が宙に浮いた。はっきりと、スローモーションでその様子が目に焼きついた。
友人が絶叫した。道路には赤い水溜りが出来ていた。妹者の足が曲がっていた。
兄者の声が背後からした。でもそれは本物の兄者の声じゃなくて。鳥が笑っていた。
……鳥?
- 80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:55:22.85 ID:/rIZkdAZ0
- 『ピッ』
(;<〇><〇>)「!!」
足元に、チョンチョンと小鳥が跳ねてきた。
首を傾げて、こちらを見上げる。
『ピッ、ピチュン、ピッピッ・・…』
(;<〇><〇>)「う、うあっ……」
『……イモじャ?イもジャ?……ギ、ギャハハ、コッチ、コッチダヨ、ギャハハハハハ』
(;<〇><〇>)「ヒイィッ!!」
- 81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 18:56:01.41 ID:/rIZkdAZ0
『ギギィッ!ギャハハハッ!!ギャハハハッハハハハハッ!!!』
(;<〇><〇>)「わ……ッうわああああああアア!!!」
恐怖に絶叫し、何も考えられなくなって、買った物も全て放り投げ家へと全速力で走った。
その日は1日、混乱したまま部屋に閉じこもり震えていた。
あの甲高い笑い声と、事故の光景が頭から離れず、悪夢になって一晩中眠れなかったほどだ。
翌日学校に行き、そこで妹者が死亡したことを知ったのだった。
- 82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:00:46.62 ID:/rIZkdAZ0
- ( <●><●>)「……」
あれから兄者は学校に来ていない。
年の離れた妹のことを心から可愛がっていた兄者。
きっと、その心に受けたショックも計り知れないものなのだろう。
一度家まで行って、部屋に閉じ篭る兄者に話しかけてみたこともある。
友人として、真に彼のことを心配してのことだ。
だがドアの向こうからの返事はなかった。
本当にここに人がいるのかと、疑問に思うくらい物音一つしなくて。
帰る時に弟者が、申し訳なさそうにすまないなと謝ったのを覚えている。
- 83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:01:12.96 ID:/rIZkdAZ0
- ( ><)「ワカッテマス君!英語の予習やってきたんですか?」
急に思考を現実に呼び戻され、ワカッテマスはハッと顔を上げた。
( <●><●>)「あ……ビロード」
(*‘ω‘ *)「本文の英訳までやってきたっぽ?よくやるっぽ」
( ><)「うう、僕なんか単語の意味すら調べてないんです……」
そこにいたのは、幼馴染のビロードとちんぽっぽ。
家が近いこともあり、小学生の時から今までずっと同じ学校に通い
朝は一緒に登校している、大の親友2人だった。
今年は運良く3人とも同じクラスになれたので
休み時間はもっぱらこの2人との他愛無いお喋りに費やされることとなった。
- 84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:02:11.67 ID:/rIZkdAZ0
- (*‘ω‘ *)「反省するってことを知らないのかっぽ?
この前急に当てられて、単語の意味が分かんなくて
しどろもどろになってたのはどこの誰っぽ!」
(;><)「こ、この前はたまたま英和辞典を家に忘れちゃってたんです!
僕だって、休み時間の間にちょっと調べるくらいするんです!」
( <●><●>)「予習は家でやってくるものですよ、ビロード」
(;><)「うぐうう」
頭を抱え、悲痛な呻き声を漏らすビロード。
そしてそんな彼を楽しそうにからかうちんぽっぽ。
目の前でやりとりされる、いつもの光景に半ば呆れ
予習してきた分を写させてあげようかと思った、その時。
- 86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:05:59.05 ID:/rIZkdAZ0
ガラッ
(´<_` )
教室のドアを開け、登校してきたのは弟者だった。
顔がほぼ同じなため、一瞬兄者かとも思ったが
2人と付き合いの長いワカッテマスには、なんとなく雰囲気で彼だと分かる。
一緒に登校してこないところを見るに
やはり今日も兄者は、あの部屋から出ることを拒絶しているらしかった。
(,,゚Д゚)「おう。おはよう弟者」
(=゚ω゚)ノ「おはようだょぅ!」
(´<_` )「おはよう」
クラス全員がその事を理解しているらしく
あえて弟者に、兄者のことを訪ねる者はいない。
- 88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:06:35.92 ID:/rIZkdAZ0
- ( <●><●>)「……」
( ><)、「……兄者君、まだ来れないみたいですね」
無意識に弟者の方へ視線を向けていたのに気づいたのか、
ビロードが兄者の話題を振ってくる。
(*‘ω‘ *)「まあ、しょうがないぽ。こういうのは時間が解決するのを待つしかないっぽ」
( <●><●>)「そうですね……」
( ><)「もう兄者君の妹自慢を聞けなくなるなんて、さびしいんです」
(*‘ω‘ *)「ほんとだっぽね。うるさいくらいだったのに」
( <●><●>)「……」
- 89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:07:06.89 ID:/rIZkdAZ0
- 自分があの場所にいたこと。
そして、あの小鳥のことは、兄者にも弟者にも、誰にも言ってはいない。
言えるはずがない。
インコが兄者の声で囀り、それで妹者を殺したなんて。
冷静になってから思い返してみると、あの小鳥は羽の色や、言葉を話した所から見て
そのへんの野鳥ではなく、ペットショップで愛玩動物として売られている
小型のインコのようだった。
九官鳥やインコが人の言葉を話すのは誰もが知っている事だが、
それも所詮は、人間が話したり教えたりした事を覚え真似をしているだけにすぎない。
- 90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:07:38.02 ID:/rIZkdAZ0
- だからあんな、悪意に満ちた事故を起こす事などありえないのだ。
きっとあれは、凄まじい豪雨が見せたただの幻で
そうでなければ単なる自分の勘違いと思い込みだ。
妹者が車に跳ねられる場面を直視してしまったのがあまりにも衝撃的だったので
頭の中が混乱して、色んな映像がごっちゃになり、あんな悪夢を生み出したに違いない。
ワカッテマスは、時間が経つにつれそう思うようになっていった。
(`・ω・´)「ほらほら、早く席着けお前ら!HRはじめるぞ!」
担任の教師が大きく声を張り上げて、いつもどおり朝のHRが始まる。
ワカッテマスはそこで自分の記憶を結論づけ、これ以上考えないようにした。
- 93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:09:15.30 ID:/rIZkdAZ0
- (*‘ω‘ *)「もー、いい加減ビロは忘れ物する癖治せっぽ。
あそこでぽぽが4組のハインから縄跳び借りてこなかったら、
また体育館3週させられてたっぽよ」
( ><)「ほんとに焦ったんです!
忘れ物した時は、いつもワカッテマス君やちんぽっぽちゃんに借りてたから……」
( <●><●>)「みんな同じクラスというのも、こういう時困りますね」
(*‘ω‘ *)「ビロがもっと気をつけたらいい話だっぽ!」
日の傾きかけた淡いオレンジの道を、並んで歩く三人分の影。
賑やかな幼馴染との会話は、
昨日見たTV番組の話や、明日のテストの話等といった
毎日繰り返されるような他愛の無い話ばかり。
今は、3時間目の体育の時間に、ビロードがやらかした失敗についての話題で、
これも、根っからの忘れ物癖を持った友人を持つワカッテマスにとっては
もう何度も似たような話を聞いたり見たり話したりした、お馴染みのやりとりだ。
だがワカッテマスは、そんな2人との何気ないお喋りが
毎日楽しみにしているモノの数少ない一つであり、笑いの絶えないこの時間が好きだった。
- 94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:11:56.79 ID:/rIZkdAZ0
- ( ><)「でも、やっぱり同じクラスは楽しいんです!
3年生になっても、また同じクラスだったらいいんです!」
(*‘ω‘ *)「そんなこと言ったって……どうせ、高校卒業したらみんなバラバラになるんだっぽ。
いつまでも一緒になんかいられないっぽよ」
( ><)「あう……そうですよね……」
(*‘ω‘ *)「……」
( <●><●>)「大丈夫ですよビロード。
違う大学に行ったって、またみんなで集まって、
遊んだり話したりすればいいじゃないですか」
(*‘ω‘ *)「……ま、今までずっと一緒の学校だったし、腐れ縁ってやつだっぽね。
家も近いし、会おうと思えばすぐに会えるっぽ」
( ><)「そうですよね!
そう思ったら、なんだか大学行くのが楽しみになってきたんです。
高校卒業しても、いっぱい遊ぶんです!」
(*‘ω‘ *)「ビロは遊びすぎて留年しないか心配だっぽwww」
- 96 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:14:05.70 ID:/rIZkdAZ0
- いずれ来る未来に思いを馳せ、笑いながら
ワカッテマスは、心の底から十年、二十年経っても
この2人とこんな関係でいたいと思った。
(*‘ω‘ *)「大学といえば、もうみんな受験準備とか始めてるのかっぽね?」
( ><)「僕なんかまだどこ行くかも全然決まってないんです……」
( <●><●>)「今のうちにしっかり調べとかないと
3年生になってからじゃ遅いんですよ、ビロード」
( ><)「そういえば、ワカッテマス君はこの前
バーボン大学のオープンキャンパスに行って来たんでしたよね!」
(*‘ω‘ *)「あそこすごく頭が良いと入れないって有名じゃないかっぽ。
年々受験者の数も増えて、大変な競争率になってるって聞いたぽよ」
( ><)「ワカッテマス君は頭が良いからきっと行けるんです!」
( <●><●>)「ビロードったら。
そんなに簡単に行けたら誰も苦労しな……」
その時、遠くの空を横切る小さな影がフと視界に入り
無意識に視線でそれを追ったワカッテマスは
それが何かを認識すると同時、言葉を詰まらせ目を見開いた。
- 97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:14:43.67 ID:/rIZkdAZ0
- (;<●><●>)「……あっ!」
――――インコだ。
雀かとも思ったが、その毛色は野鳥のそれでは無い。
2週間前、悲劇の日に見た、悪夢のような小鳥。
一瞬で視界から消えてしまったため、あの時のインコかどうかは確認できなかった。
どこかの家のペットが逃げ出したのかもしれない。
あの悲劇の日の小鳥とは、何の関係も無いのかもしれない。
だが、インコが飛び去ったあの方向は……。
ワカッテマスは、全身に嫌な予感が駆け抜けるのを感じた。
- 99 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:15:58.99 ID:/rIZkdAZ0
- ( ><)「ワカッテマス君?」
(;<●><●>)「!」
(*‘ω‘ *)「どうしたっぽ?」
きょとんとした顔の幼馴染に声をかけられ、ハッと我に返る。
( ><)「どうかしたんですか?」
(;<●><●>)「……」
思わず流れる冷汗。早まる動機。
嫌な予感なまだ、拭い去れていない。
だが……
- 100 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:16:18.91 ID:/rIZkdAZ0
- (;<●><●>)「……っな、なんでもありません」
見なかったことにして、忘れよう。
膨らんでいく心の中の暗雲を無理矢理押し込め
動揺を隠す為、無理に明るい声を絞り出した。
(*‘ω‘ *)「?……そうかっぽ」
( ><)「大丈夫ですか?」
(;<●><●>)「大丈夫です。早く帰りましょう、2人とも」
早く、早く。
あの禍々しい悪夢から早く離れなければ。
あんな恐ろしい思いはもう二度としたくない。
それに、目の前の2人を巻き込んでしまうことは、絶対に避けなければならなかった。
- 114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:50:32.84 ID:/rIZkdAZ0
そう
例え違う誰かが悪夢に飲み込まれようとも、この2人だけは絶対に。
インコが飛び去っていった方向を、なるべく見ないようにして
ワカッテマスは他の2人を急かしながら、暗くなりつつある家までの道を帰った。
後に、自分のとったこの選択が深い後悔と絶望を生むことも知らず。
- 116 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:51:35.80 ID:/rIZkdAZ0
- ++++++++++++++
もうすぐ日が暮れる。
( ´_ゝ`)「……」
カチ コチ カチ コチ
秒針の針が規則的な動きで時を刻み
静寂に包まれた空間の中で唯一自らの存在を主張している。
やけに大きく聞こえる音と共に、機械的な時間の経過が紡がれる中。
どこか虚ろな瞳で暗闇を見つめる、この部屋の主は
まるで自分自身も家具の一部になってしまったかのように
もう長い間一切の動きを止めてしまっていた。
- 118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:53:14.93 ID:/rIZkdAZ0
カチ コチ カチ コチ
毎日誰かがドアの前へとやってきて、部屋から出てくるよう呼びかけるものの
彼の中で凍り付いてしまった秒針が、再び時を刻もうと動き出すことは無い。
( ´_ゝ`)「……」
今日も学校に行けなかった。
母も父も弟も姉も。
実際に起こってしまった現実を受け止め、ちゃんと前へと進んでいる。闘っている。
それなのに自分ときたら、あの日からずっと、目を、耳を塞いだままだ。
- 119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:54:27.83 ID:/rIZkdAZ0
- いつまでも此処でこうして、現実から目を反らす訳にはいかない事は分かっていた。
ただ、今まで当然のように自分達を照らしてくれていた
あの太陽のような存在が、夏の向日葵のような輝かしい笑顔が
永遠に失われてしまったなんて、信じられなくて、受け止められなくて。
何よりあの雨の日の光景が未だに頭から離れてくれず
フとした瞬間に目の前に現れては、いつまでも兄者を苦しめていた。
今まで見た事が無いくらいおかしな方向を向いた足が。
血が雨に流されて排水溝に吸い込まれていく様が。
血と涙でグシャグシャになった、妹の顔が。
( _ゝ)「――ッ」
- 120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:55:53.49 ID:/rIZkdAZ0
- きっと心細くて、肩を震わせながら一人ぼっちで泣いていたのだろう。
自分がもっと早くに妹を見つけて、泣いてる妹を抱きしめてあげていたら。
そもそもあの日、妹から目を離さなければ。
( ;_ゝ;)「ぐ……うっ、ぅ……!!」
もうずっと長い間、何度も何度も繰り返した後悔と自責の檻の中に
兄者は自分自身を閉じ込めたままでいた。
- 123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 19:58:42.13 ID:/rIZkdAZ0
もうすぐ日が暮れる。
そろそろ弟が学校から帰ってくる頃だ。
そして、今まで何度もそうしたように
返事もしない不肖の兄に向かって、外に出るよう根気強く呼びかけるのだろう。
ドア越しにも分かるくらい、疲れきっている様子を気遣いの裏に押し隠して。
弟者だけじゃない。
みんながみんな、声だけでも分かるほど、悲しみと疲労に打ちのめされているというのに
それでも毎日現実と向き合って、押し寄せる絶望と、逃げることなく戦っている。
それなのに自分一人だけが、いつまでも駄々をこねて、みんなに迷惑をかけているなんて。
こんな有様じゃあ、妹者にも悲しい思いをさせてしまうな―――
- 126 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:03:00.74 ID:/rIZkdAZ0
- ( ´_ゝ`)「……」
このままではいけない事は痛いほど分かっていた。
そろそろ自分自身に巻きつけた重たい鎖を解いて、この檻から出なければ。
自分はこの家を守っていかないといけない、流石家の長男なのだから。
妹者の―――弟者の、兄なのだから。
……明日から学校に行こう。
母者や父者、みんなに謝らないといけない。
そして今日はみんなでご飯を食べるんだ。
ほんの小さな事だったけれど、兄者は今の現状から一歩踏み出す決意をした。
―――その時だった。
- 129 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:06:11.26 ID:/rIZkdAZ0
- ( ´_ゝ`)「……え?」
微かに、小さな子供の声が聞こえた気がして、ハッと顔をあげる。
外でどこかの子がはしゃいでいるのが聞こえたのではない。
もっと近くから、静かに、脳に直接染み入るように、その声は響いたのだ。
そして兄者は見た。
閉めきられたカーテンの向こう。
小さな子供の影が、沈みゆく太陽の微かな光に照らされて、薄っすらと映るのを。
( ´_ゝ`)「……妹、者?」
何日もまともに話していないので、すっかり掠れてしまった声。
頼りない動作で立ち上がり、カーテンをゆっくりと開ける。
そこには
- 132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:07:28.73 ID:/rIZkdAZ0
l从^∀^ノ!リ人
ガラス戸の向こう 7、8歳くらいの女の子が
後ろに手を組んで、こちらを見上げながらにこにこと笑っていた。
- 135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:08:34.86 ID:/rIZkdAZ0
从^∀^ノ!リ人
『妹者に決まってるのじゃ。
おかしなおっきい兄者なのじゃー』
- 137 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:10:22.58 ID:/rIZkdAZ0
- (´<_` )「……ただいま」
弟者は兄者の事が心配だった。
あの大雨の日、妹者が事故で死んだ最悪の悲劇からもう3週間。
運悪く妹者が車に撥ねられる光景を直視してしまったらしい兄者は
食事もろくに摂らないようになり部屋に引篭っている。
家族からも笑顔が消えた。
前はあんなに明るかった我が家の光景なのに
あきらかに、以前はあった大切な何かがポッカリと消失していて
後に残ったのは、まるで巨大な鉤爪でえぐり取ったかのような深い深い傷痕と
少しつつけば崩れてしまうような、歪で不安定な日常の姿だけだった。
- 138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:11:33.86 ID:/rIZkdAZ0
- (´<_` )「はぁ……」
みんな疲れた顔をしている。
きっと自分も。
兄者の顔はもう何日も見ていないが
きっとやつれて目の下に隈でも作っているに違いない。
部屋にカバンを置いて服を着替え終わった後、
重い足取りで兄者の部屋へと向かうのが最近の弟者の日課となっていた。
今日こそ返事くらいしてくれればいいのだが、と扉の向こうの相手に淡い期待を抱きながら。
- 139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:13:50.29 ID:/rIZkdAZ0
「―〜―、あ゙▲×※ガ“※アァ゙※□〜〜――ッッ!!!!」
(´<_`;)「っ!?」
弟者が自分の部屋のドアノブを、重い溜息と共に回したその時。
兄者の部屋の方から悲鳴とも奇声ともつかぬ叫び声が聞こえてきた。
何を言っているのかは聞き取れないが、それが尋常なもので無いことはすぐに分かる。
嫌な予感がして、弟者は兄者の部屋へと走った。
(´<_`;)「兄者!どうした!?」
ドアを強く叩く。中からは依然、ただならぬ叫び声が続いている。
生まれてから今までずっと一緒に育った兄だが、こんなに鬼気迫る声は聞いたことがなかった。
完全に異常事態だ。兄者の身に何かが起こっている。
ドアノブをガチャガチャと乱暴に捻っても、内側から鍵がかかっているため開かない。
仕方なく、弟者は強行突破に出ることにした。
何度目かの体当たりで開いたドアから、そのままの勢いで部屋へと飛び込む。
- 144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:18:04.18 ID:/rIZkdAZ0
- (´<_`;)「兄者!!」
廊下から差し込んだ光でぼんやりと浮かび上がる部屋の中
兄者はひっそりと、こちらに背を向けて座っていた。
(´<_`;)「!?あに……」
ゆっくりと、兄者が振り返る。もう奇声はあげていない。
こちらに振り返った彼は、予想外な事に満面の笑みを湛えていた。
もう何日も見ていない兄者の笑顔。
やつれてはいるが、心の底から嬉しそうな、子供のような笑みが顔面に溢れている。
しかし弟者は、どこか現実離れした兄者のその様子に薄ら寒い恐怖を感じた。
そしてそんな兄者の口から発せられる、普段よりも興奮気味の高い歓声。
- 145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:19:20.73 ID:/rIZkdAZ0
- (*´_ゝ`)「弟者、弟者!妹者が帰ってきた!帰ってきたんだよ!!」
それは、声の調子とは対照的に、脳の奥がずしんと重くなる衝撃を弟者に与えた。
( <_ ;)「……」
ああ、やはり無理矢理にでも部屋から連れ出し
もっと早く現実を受け止めさせるべきだったのだ。
灯りもつけない暗い部屋で長いこと一人篭らせて
精神に支障が生じる可能性は充分考えられたではないか……。
- 147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:21:23.17 ID:/rIZkdAZ0
- (*´_ゝ`)「ほら!」
弟者を襲う後悔の念をよそに、兄者が部屋の奥を指差す。
薄緑色のカーテンの向こう。ベランダへ続くガラス戸が僅かに開けられているようだった。
隙間から風が吹いて、カーテンが揺れている。
しかし当然、妹者はそこにはいない。
いる筈が無いのだ。
( <_ ;)「……あ……兄者……」
弟者が、残酷で重い現実を喉の奥から搾り出す。
(´<_`;)「……兄者……、妹者は……」
『ち っ ち ゃ い 兄 者 』
(゚<_゚;)「ッ!?」
- 149 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:24:33.08 ID:/rIZkdAZ0
- 幼く可愛らしい声が、静かに、だが明瞭な響きをもって弟者の鼓膜を震わせた。
夜風にカーテンがはためき、その向こうの夜空が見える。
そして視界に入ってきたのは、ぼんやりと浮かび上がる小さな小さな影。
(´<_`;)「な、なんだ!?」
小さな-――そう、手の平に収まるほどの大きさの。
(´<_`;)「……鳥?」
そこに留まっていたのは、こちらをじっと見つめて佇む、一羽のインコだった。
- 150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 20:25:25.03 ID:/rIZkdAZ0
- 狼狽する弟者の前で、インコが大きく嘴を開く。
『ちっちゃい兄者』
l从^∀^ノ!リ人
『ちっちゃい兄者』
l从゚∀゚ノ!リ人
『ちっちゃい兄者ちっちゃい兄者ちっちゃい兄者ちっちゃい兄者きゃははははははははははははははははははははははははははははははははは』
(゚<_゚;)「ひっ」
インコが、開いたガラス戸の間から部屋へと入ってきた。
空中で翼を羽ばたかせ、不気味に喚き散らしている。
- 167 名前:戻りました。ありがとうございます 投稿日:2012/04/18(水) 21:01:37.11 ID:/rIZkdAZ0
- (´<_`;)「なっ、なんだ、こいつ!?」
それも妹者の声でだ。
妹者の声で鳴くインコが妹者の声で喚き散らし妹者がしたように呼称で自分の名を呼んでいる。
だがそれは、愛する妹の声でありながら
本来のものとは似ても似つかぬ不快感とおぞましさを伴わせ部屋中に響いていた。
何が起こっているのかまったく分からず、ただ異様な光景に恐怖を覚え混乱する弟者。
だが、それでも弟者がまだ冷静でいられたのは
依然笑みを湛え虚を見つめている兄者が視界に入っていたからだった。
- 168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:04:36.75 ID:/rIZkdAZ0
『ギィギィッ ギャハハハッ ちッチャぃあニ ア あああアぁアアぁぁぁぁぁァアア
ギャハはははハハハッ!!ギャああァハハハハ!!!』
(*´_ゝ`)「ふ、ふふ……あはは……」
(´<_`;)「くっ……!」
間違い無く兄者の様子がおかしいのはこのインコのせいだ。
ならば、早くこの異常の原因を取り除かなければ。
混乱する頭の中、それだけを意に決めると
弟者は無我夢中でインコに向けて腕を振った。
(´<_`;)「く、くそッ!あっち行け!」
『ギィギィッ』
弟者の腕が当たらないよう距離を空け、それでも尚まとわりついてくるインコ。
弟者はそのからかうような動作に恐怖と怒りを覚え、より激しく腕を振り回す。
- 169 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:07:12.95 ID:/rIZkdAZ0
しばらくして天井へと避難した小鳥は、妹者の声で一声二声鳴くと
開いたガラス戸の隙間から、日の落ちた空へと飛び去っていった。
(´<_`;)「やった!」
荒く息をつきながら、急いで戸を閉めるためベランダに駆け寄る。
暗くなった空には、既に小さな悪魔の姿は無かった。
―――だが。
(´<_`;)「え」
慌てて戸にかけた腕を、強い力で掴む者がいた。
( ゚_ゝ゚)
(´<_`;)「兄者……?」
先ほどまでの表情とは一変して、見開いた目でインコの飛び去った方向を見つめる兄者だ。
弟者が止める間も無く、兄者は弟者を押しのけて戸を開け放つと
ベランダへ走り、日の沈んだ空に向けて力の限り手を伸ばした。
- 172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:11:36.40 ID:/rIZkdAZ0
( ;_ゝ;)「妹者!妹者っ!行っちゃ駄目だ!!
帰ってきてくれよおぉ!妹者あああ!!!」
(´<_` )「……あ」
全ては一瞬の出来事だった。
突き飛ばされた弟者が我に返った時、既に兄の姿はベランダから消えていた。
何が起こったのか分からず呆然と夜の空を見つめる弟者の耳に
- 176 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:15:02.08 ID:/rIZkdAZ0
ぐ
し
ゃ
ッ
重く、鈍く、そして一生忘れられないような音が
はるか遠くから やけにはっきりと響いた。
- 180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:18:50.70 ID:/rIZkdAZ0
- ++++++++++++++
(`・ω・´)「……というわけで……昨晩、流石兄者が亡くなった。
マンションの8階にある、自分の部屋から飛び降りたらしいが……」
(*‘ω‘ *;)「……」
(;><)「そんな……」
从'ー';从「うっそー……」
('、`;川「やっぱり……妹さんの事が……」
(`・ω・´)「……詳しい事は警察が捜査中だ。
みんなもショックだと思うが、あまり気落ちしすぎないように……」
ざわざわと、重い空気と動揺が教室内を支配する。
つい何日か前まで一緒に笑い、喋り、騒いでいたクラスメイトが死んだのだ。
それも、クラスの大半は何も言わずとも確信していることだが
恐らくは愛する妹の後を追っての飛び降り自殺。
- 181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:21:16.48 ID:/rIZkdAZ0
- 教師が出て行った後も不安なざわめきの絶えない教室には
当然のように弟者の姿も無かった。
(*‘ω‘ *;)「……なんでこんなことに……」
(;><)「兄者君……」
いつも強気なちんぽっぽまでもが、動揺し青冷めた顔をしている。
ふと、今だ自分の席についたままのワカッテマスの様子がおかしい事にビロードは気づいた。
(;><)「……?ワカッテマス君?」
(;<〇><〇>)
(;><)「ワカッテマス君?……どうしたんですか?」
ワカッテマスは、傍らで狼狽するビロードの声も耳に入らないようで
血の気の失せた顔に目を見開かせ、明らかに尋常では無い様子で何か呟いていた。
(;<〇><〇>)「……私の…い……私のせいだ……!」
- 183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:23:34.82 ID:/rIZkdAZ0
- (*‘ω‘ *;)「?ワカ?……大丈夫かっぽ?」
(;<〇><〇>)「私が、私があの時……!!」
そう。昨日、放課後の帰り道。
偶然見つけてしまったインコが飛んでいった方向は
兄者達の住むマンションの方角だった。
いくら見て見ぬフリをしようとしても、嫌な考えは拭えなかった。
妹者があのインコに殺された。
だが悪夢はあれで終わりでは無いのではないかと。
ワカッテマスはあのインコに、死を感染させるような不吉な何かを感じていた。
あの時。インコを見つけた時。
見て見ぬフリなどせず、兄者達の住むマンションへと走り、何か対策を講じていれば
こんな結果にはならなかったのではないか。
- 184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:27:08.59 ID:/rIZkdAZ0
(*‘ω‘ *;)「ワカ?どうしたっぽ?」
(;><)「大丈夫ですかワカッテマス君、顔色が……」
だが自分は逃げてしまった。
何より大事な親友2人にその災いが降りかかる事を恐れて。
-――いや、違う。
本当は、自分がもう二度とあんな恐ろしい思いをしたくなかったからだ。
だから見捨てた。幼馴染の親友2人と、同じくらい大事な友人を。
そして我が身可愛さに保身に走った結果がこれだ。
自分が放棄した責任の重さ。
そして仲の良い友人の死に混乱するワカッテマス。
その頭は、これから起こり得る最悪の結論へと辿り着く。
- 188 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:41:40.55 ID:/rIZkdAZ0
- あの大雨の日に妹者が死に、そして昨夜兄者が死んだ。
どちらも自分はインコの姿を目撃している。
ならば、次にあのインコに殺されるのは……?
(;<〇><〇>)「――弟者君!」
(*‘ω‘ *;)「え?」
(;><)「お、弟者君は、休みですけど……」
いきなり立ち上がり、大声をあげたワカッテマスに教室中の視線が集まる。
(;<〇><〇>)「早くしないと……!」
(*‘ω‘ *;)「わ……ワカ!?どこ行くっぽ!?」
だが彼の目にはそんなクラスメイト達の視線も、困惑する幼馴染の声も耳には入らない。
ざわめく人波を、机を押しのけ、我武者羅に教室から飛び出して行った。
(;><)「ワカッテマス君!!」
(*‘ω‘ *;)「……!?」
- 189 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:44:24.87 ID:/rIZkdAZ0
- (;<〇><〇>)「はぁっ!はぁっ!」
走る。走る。
校門を飛び出し、道行く人々にぶつかりながらも、ただひたすら弟者の住むマンションを目指して。
何度も転びそうになりながら、曲がり角を曲がり、歩道橋を超え
ついにマンションが見えてきた。
その周りに停まるパトカーが数台、そして警察官が何人か立っているのも見える。
目を血走らせ、もつれる足でマンション内に駆け込もうとするワカッテマスの尋常では無い様子に若い警察官が慌てて彼を止めに入った。
(-@∀@)「おい君、待ちなさい!今このマンションに勝手に入ってはいけない!」
(;<〇><〇>)「離して下さい!弟者君が危ないんです!!」
(-@∀@)「!弟者?……君は流石弟者君の友達か?」
(;<〇><〇>)「弟者君が危ないんです!弟者君も殺される!!」
(;-@∀@)「な、なんだって?一体なんの事だ?」
(;<〇><〇>)「兄者君は自殺したんじゃない、殺されたんです!次は弟者君が……!!」
(‘_L’)「おい、どうした?」
近くで待機していた初老の警官が、騒ぎを聞きつけ2人に近づく。
- 190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 21:46:57.45 ID:/rIZkdAZ0
(;-@∀@)「あ、先輩。いえ、彼がいきなり……。
流石弟者の知り合いらしいんですが、言ってる事が滅茶苦茶で」
(;<〇><〇>)「お願いします、弟者君に会わせて下さい!」
(‘_L’)「落ち着きなさい。今君を流石弟者に会わせる事は出来ない。
彼には今、他の家族と共に、警察署にて事情聴取を受けてもらっている」
(;<〇><〇>)「時間が無いんです!早くしないと弟者君も殺される!兄者君みたいに!!」
(‘_L’)「……君は流石兄者の死について何か知っているのか?」
(;<〇><〇>)「兄者君は殺されたんです!!」
(‘_L’)「なに?……誰か、思い当たる人物がいるのか?」
(;<〇><〇>)「それは……」
- 194 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:01:19.30 ID:/rIZkdAZ0
……言えない。
言ったところで毛頭信じてもらえない。
いくら普段の冷静な判断力を失い、錯乱状態のワカッテマスでも
目の前の警官にそんな事を口走ったところで、頭を疑われ事態を悪くするだけだという分別はあった。
(;<〇><〇>)「……弟者君に会わせて下さい。弟者君に伝えなければ……」
(‘_L’)「……駄目だ。事情聴取を終えるまで、第三者との接触は警察によって制限されている。
それに、どの道今の状態の君と彼を会わせる事は出来ない。
最悪、捜査に混乱が生じる可能性があるからな」
(;<〇><〇>)「弟者君が危ないんですよ!!殺されるって言ってるでしょう!?」
焦りが極限に達し、思わず警察官の襟元に掴みかかった。
(;-@∀@)「こ、こら!やめるんだ!!」
慌てて、眼鏡をかけた若い方の警察官がワカッテマスを引き離した。
ただならぬ様子に、周囲で待機している警官達にも緊張が走る。
- 196 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:03:58.67 ID:/rIZkdAZ0
(;<〇><〇>)「離して下さい!僕は、僕は……!!」
若い警官の腕から逃れようと、尚も喚き、暴れるワカッテマス。
そんな彼を宥めるように、初老の警官は静かに言葉を紡ぐ。
(‘_L’)「……。君は今、友達の死で動揺しているんだ。
流石兄者の死亡原因については、現在我々警察が詳しい捜査を行っている。
万が一流石弟者、及び家族に危険がせまるような事実が発覚したとすれば、
警察全体で彼らを警護し、万一の事態が起きないよう万全を尽くすから安心するんだ」
(‘_L’)「だから、君はもう帰りなさい。これ以上ここにいても、周囲に混乱を招くだけだ」
- 197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:08:03.00 ID:/rIZkdAZ0
(;-@∀@)「……なんだったんでしょうね。彼、様子が尋常じゃなかったですよ。
それに、流石兄者は殺されたって……。
参考人としてでも、話を聞き出しておかなくて良かったんでしょうか」
(‘_L’)「大分錯乱している様子だったからな……。どっち道、まともな話は聞けなかっただろう。
それに、流石兄者の自殺は現時点でほぼ確定だ。
遺書等は無かったが、動機も見つかっているからな」
- 200 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:12:50.52 ID:/rIZkdAZ0
(;<〇><〇>)「……ああ……」
何を言っても信じてもらえない。冷静に宥められ、追い返されてしまった。
弟者の身に危険が迫っているというのに、自分にはどうする事も出来ない。
またも自分は同じ過ちを繰り返してしまうのか。
あのインコの正体を知っているのは自分だけなのだ。
これ以上犠牲者が出ないうちに、なんとかしなければ。
手遅れにならないうちに、早く……
既に心神喪失しているワカッテマスの足取りは、どこへ向かうでも無く元来た道をふらふらと辿る。
- 201 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:16:55.90 ID:/rIZkdAZ0
ぐるぐると廻る思考。止めなければ。早く。どうしたら。どうしたらいい。早く、早く、早く!
ショート寸前の機械のように、バチバチと爆ぜる意識の端
フと―――鳥の囀りが聞こえた気がした。
―――鳥?
(;<〇><〇>)「!!」
頭上を見上げる。
電線の上に何十羽と停まり、自分を見下ろしているドス黒い鴉の群れ。
その中で一羽だけ、異彩を放つ青緑色の蛍光色が視界に飛び込む。
あのインコだ。
- 202 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:17:45.43 ID:/rIZkdAZ0
『ピ、ピ……ギ、ギィッ、ギャハハ、ギャハハハ!』
人の笑い声のような、しゃがれた鳴き声を発しながら
電線から飛び立ち、真っ直ぐに飛んでいく。
その方向は……
(;<〇><〇>)「……学校……?」
(;<〇><〇>)「――――!!ビロード!ぽっぽ!!」
瞬時に、2人の幼馴染の顔が浮かぶ。
思考が脳を巡る間も無く、ワカッテマスは走り出していた。
- 205 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:20:47.20 ID:/rIZkdAZ0
- VIP高校北校舎内。木造の廊下を軋ませて
自分達のクラスがある3階へと、ただひたすら走る。
思えば先程から走りっぱなしだ。ひ弱なワカッテマスは既に体力も限界だった。
だが体を休ませている余裕など無い。ぜぇぜぇと息を切らし、一気に階段を駆け上がった。
「2-3」と無機質な字で示された、教室の前で立ち止まる。
今は丁度休み時間のようだ。教室からは人々の話し声や物音等の雑音が聞こえてくる。
一刻も早く友の無事をこの目で確認したい。
『……一体……に、ワカッテマス……』
『……です。何を……』
(;<●><●>)「……?」
しかし次の瞬間、引き戸に伸ばしたその手が停止する。
- 207 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:23:48.08 ID:/rIZkdAZ0
- 中から聞こえてきた、男女2人の話し声。
聞き間違える筈が無い。小さい頃から聞き馴染んだ、親友2人の声だ。
他の生徒達の談笑や物音に掻き消される事無く、何故かその声だけは、周囲の雑音を除外して
脳に直接浸透するかのようにはっきりと鼓膜に響いた。
『いきなり血相変えて走り出して……。
普段からそうだけど、本当に、あいつは何考えてるか分からんっぽ』
『尋常じゃなかったですよ、あの様子。気でも違ったんじゃないですか?』
『普段からああやって良い子ちゃんぶってる奴に限って、実は危ない奴だったりするんだっぽよ』
- 208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:25:08.66 ID:/rIZkdAZ0
(;<〇><〇>)
なんだ?何を話している??
毎日耳にする、馴染み深い親友達の声。
なのにその声の調子からは、今まで一度も聞いた事が無いような
嫌悪と侮蔑の色がはっきりと滲み出ていた。
『昨日だって、バーボン大学の話した時のワカッテマスの顔。
もう合格したも同然って感じだったぽよ。嫌味ったらしいったら無いっぽ』
『ああやって僕達の事を見下して、一人愉悦に浸ってるんですよ。
いい加減気づかないんですかねぇ、僕らがウザがってる事』
- 213 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:28:48.37 ID:/rIZkdAZ0
(;<〇><〇>)「……!!」
教室の扉にかけたまま硬直していた手を、反射的に離した。
頭の中が麻痺してしまったかのように、まともな思考を繋げる事が出来ない。
不気味に脈打つ心臓の音と、脳内を埋め尽くす言葉の反響。
漠然と感じるのは、自らを飲み込もうとする得体の知れない恐怖。
『本当に、おめでたい奴だっぽ。あんなに―――』
駄目だ
これ以上此処にいては 言葉を聞いては それを理解してはいけない。
逃げなければ。早く此処から逃げなければ。
ドス黒い恐怖に押し潰されてしまう―――
(;<〇><〇>)「あ……ああああああっ」
訳が分からないまま、滅茶苦茶に廊下を走り、叫ぶ。
耳の奥で、言葉が暴れる。理性が食い千切られてしまう。
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:50:17.59 ID:/rIZkdAZ0
(;<〇><〇>)「……!!」
教室の扉にかけたまま硬直していた手を、反射的に離した。
頭の中が麻痺してしまったかのように、まともな思考を繋げる事が出来ない。
不気味に脈打つ心臓の音と、脳内を埋め尽くす言葉の反響。
漠然と感じるのは、自らを飲み込もうとする得体の知れない恐怖。
『本当に、おめでたい奴だっぽ。あんなに―――』
駄目だ
これ以上此処にいては 言葉を聞いては それを理解してはいけない。
逃げなければ。早く此処から逃げなければ。
ドス黒い恐怖に押し潰されてしまう―――
(;<〇><〇>)「あ……ああああああっ」
訳が分からないまま、滅茶苦茶に廊下を走り、叫ぶ。
耳の奥で、言葉が暴れる。理性が食い千切られてしまう。
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:53:15.39 ID:/rIZkdAZ0
理解したく無い。理解してはいけない。
消えろ。消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ―――
『自分だけ頭が良いからって、調子に乗って』
『”親友”なんて言葉、本当に信じてるんですかねぇ』
(;<〇><〇>)「うああああアああぁアあアァアアア!!!!」
どれだけ走っても、絶叫し、暴れる雑音を掻き消しても
逃げても逃げても2人の声が離れない。まるで、すぐ傍で脳に直接囁かれているかのようだ。
血走る目で腕を振り回し、転げ落ちそうになりながら階段を駆け上げる。
ただならぬワカッテマスの様子に、悲鳴をあげる女子生徒、目を丸くして立ち止まる人々。
制止を呼びかける怒鳴り声もする。だがそのいずれも、今の彼の意識には届かない。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:54:10.29 ID:/rIZkdAZ0
『マジうざいあいつ』
『馬鹿じゃないの』
(;<〇><〇>)「ひいいいいぃあああアアっ、あああああぁああアア!!!」
『死ねばいいのに』
―――――バンッ!!
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 22:56:35.61 ID:/rIZkdAZ0
逃げて。逃げて。醜悪な恐怖に追い詰められる前に、ひたすら上へ。
階段を駆け上がり、そこで自らの行く手を阻む重たい鉄の扉を力任せに押し開けた。
(;<〇><〇>)「嫌だ……嫌だ……!あ、ああ……あ」
ぶつぶつと呟き、倒れそうになりながらもそれでも前進を続ける。
立ち止まっては駄目だ。追いつかれてしまう。鉄格子を超え、コンクリートの地面に崩れ落ちた。
逃げなければ……。早く逃げなければ。
逃げる?誰から?
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:00:45.22 ID:/rIZkdAZ0
( ><)(*‘ω‘ *)
目の前で笑う、2人の友の顔。
侮蔑に満ちた冷たい眼を光らせ、ワカッテマスを嘲笑っていた。
そんな2人に手を伸ばし、震える声を絞り出して縋る。
(;<〇><〇>)「あ、あ、あ……、ビロード……ぽっぽ……!お願い、お願いだから」
(;<〇><〇>)「き」
嫌わないで。
虚空に向かって手を伸ばしたワカッテマスの体が、突風を受け前方向にぐらりと傾く。
そのまま空へと託される彼の体。
最後の言葉は風によって掻き消えた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:04:22.55 ID:/rIZkdAZ0
- (;><)「あわわ、警察がいっぱいいるんです!これじゃ入れないんじゃないかなぁ」
(*‘ω‘ *)「でも、ワカは弟者の名前を叫んで教室を飛び出して行ったんだっぽ。
来るとしたらここに間違い無いっぽ!」
(;><)「ワカッテマス君、急にあんな取り乱して……大丈夫でしょうか……。心配なんです」
(*‘ω‘ *)「だからこうして追いかけてきたんじゃないかっぽ。
先生を振り切るのにちょっと時間がかかったけど……」
(;><)「もう中にいるんでしょうか……」
(*‘ω‘ *)「あそこの警官に聞いてみるっぽ。すいませーん!」
(‘_L’)「……ん?なんだ君達。VIP校の生徒か?学校はどうした?」
(;><)「こ、ここに、僕らと同じ制服の、男の子が来た筈なんです!見ませんでしたか!?」
(‘_L’)「む……。もしかして、さっきの子の友達か?短い黒髪に、目の大きい……」
(*‘ω‘ *)「ワカだっぽ!」
(;><)「やっぱり!マンションに入ったんですか!?」
(‘_L’)「いいや。大分取り乱していた様子だったので、追い返したよ。
なぁ君達、彼は一体何をあんなに……」
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:06:10.51 ID:/rIZkdAZ0
- (;-@∀@)「せ、先輩!大変です!!」
(‘_L’)「どうした?アサピー」
(;-@∀@)「今無線に連絡があって……!
VIP高校の屋上から、男子生徒が飛び降りたそうです!!」
(;*‘ω‘ *)(;><)「「!!?」」
(;‘_L’)「なんだと!?……近場でこうも立て続けにか!?
とにかく、急いで現場へ行くぞ!!」
(;-@∀@)「はい!」
(;><)「……学校で……また、誰か……死んだ……?」
(;*‘ω‘ *)「……そんな……」
マンション付近に待機していたパトカーが数台、けたたましいサイレンを鳴らし自分達の学校へと走り去って行く。
残された2人は、じわじわと自分達の日常を侵していく恐怖の気配に
ただその場に立ち尽くすしかなかった。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:10:31.14 ID:/rIZkdAZ0
- ++++++++++++++
夜の帳が静かに町全体を包み込んでいく。
既に警察も引き払い、まるで何事も無かったかのように
普段通りの静けさを取り戻した、自分達の暮らすマンション。
「ご協力有難うございました」
警察署から送り届けてくれた若い警察官が一礼し、再び車のドアを閉めて走り去って行った。
( <_ )「……」
自宅に帰されるや否や、おぼつかない足取りで、自分の部屋へと向かう弟者。
焦点の定まらない目。精神的ショックにより憔悴しきった顔。
その青白い顔色は、まるで死人のようだ。
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:11:33.21 ID:/rIZkdAZ0
- 事情聴取中もほぼ放心状態で、精気の無い目で虚空を見つめるだけの彼からは
具体的な証言を得る事はおろか、まともに話をする事さえ不可能だった。
最愛の妹を数週間前に亡くし、続いて目の前で双子の兄まで失ったのだ。無理も無い。
その精神的な傷の深さと、未だ高校生であるという点を配慮して
警察も無理に取り調べを続ける事はしなかった。
残りの家族から大体の調書を取り終え、そこで事情聴取は打ち切り。
特に事件性も感じられないという事で、自宅へ帰されることとなったのだ。
家宅捜査も終わって、警官達も皆引き上げた家の中。
度重なる不幸に打ちのめされ、疲労の限界に達した家族達からは
既にすすり泣く声すら聞こえない。皆、ただ押し黙り、じっと身を寄せ合っている。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:15:04.03 ID:/rIZkdAZ0
弟者は自室の扉を開けると、勉強机の一番下の引き出しから一つの箱を取り出した。
そっと蓋を開けると、中には薄い紙で出来た質素な紙人形が2つ。
( <_ )「……妹者の作ったてるてるぼうず……」
妹者が事故にあった大雨の日。外へと出る前に、ドアノブにかけていったのだろう。
それを後日見つけて回収し、遺品として大事に取っておいた物だ。
クレヨンで可愛らしく描かれた顔が2つ。無邪気に笑って弟者を見ている。
( <_ )「ふふ、すごい大雨だったもんなぁ……。
なのに妹者ったら、外に遊びに行っちゃって……」
( <_ )「……それに兄者まで……探しに行ったきり、帰ってこないんだから……」
( <_ )「……」
( <_ )「そうだ……ちゃんと、吊るしてあげなきゃ。
雨が晴れるように、お祈りして」
1人そう呟くと、2つのてるてる坊主を大事に抱え
吊るすための紐を探しに、頼りない足取りで部屋を出ていった。
- 25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:16:46.61 ID:/rIZkdAZ0
「「てーるてーるぼうず てーるぼーうずー あーした天気に……」」
幼い女の子の愛らしい声。自分とよく似た男の声。
楽しそうに口ずさむ、重なった歌声が、どこからともなく聞こえた気がした。
- 27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:19:24.19 ID:/rIZkdAZ0
ギィ…
ギィ…
その夜、重苦しい沈黙に静まり返った とあるマンションの一室では
3つ目のてるてる坊主が、縄の軋む音と共にゆっくりと揺れていた。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:20:21.74 ID:/rIZkdAZ0
- 30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:23:13.29 ID:/rIZkdAZ0
『ブーン……どこにいるの?ブーン……早く来て。お願い、早く来て……暗い……寒いよぉ……』『ツン!どこにいるんだお、ツン!今行くお!今行くから……』
『おっきい兄者……ちっちゃい兄者ぁ……どこなのじゃ?お家、帰りたいのじゃ……』『妹者、どこにいるんだ?迎えに来たよ!さぁ、家へ帰ろう。な、だから、早く出ておいで。……妹者……』
『兄者、妹者……どこに行っちゃったんだよ……俺1人置いてくなんて、酷いじゃないか……』
『嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼ああああああああああああああ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌わないで嫌わないで嫌わないで嫌わないで1人は、1人は嫌だ、1人は嫌だああああ嗚呼ああああああアアアアあアアアア』
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:24:34.74 ID:/rIZkdAZ0
高い声低い声
男の声女の声
壊れたスピーカーのように、その小さな嘴からしゃがれた声を喚き散らしながら
家々の上を狂ったように飛翔する、小さなインコ。
千変万化の力を持ちながら
最後まで何者にも成れぬ 醜く哀れな魂は彷徨い続ける。
他の誰かの情愛をいくら掻き集め貪り喰らった所で
その空っぽの魂が満たされる事は、未来永劫決して無い。
久遠の歳月と醜い業を幾重にも重ね
既に歪みきった怨念の塊と化した 物の怪の思考ではそんな事さえ気づけぬまま
惨めにぎゃあぎゃあと鳴き散らし 次の道連れを求め続ける。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:26:52.29 ID:/rIZkdAZ0
『会いたいよぉ、ブーン…』『ツン!どこだお!ツン!』『おっきい兄者ぁ……』『妹者?どこにいるんだ?ほら、もう夕飯の時間だぞ!妹者……』
『どこ行ったんだよ兄者。なぁ……妹者?』『ビロード、ぽっぽ、私達、ずっと友達、ですよね。ね?……2人とも、どこに行っちゃったんですか?』
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:27:43.24 ID:/rIZkdAZ0
違う 違う
欲しいモノはそのどれでも無い
欲しいモノは他の誰でもない
望む言葉はたった一言
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:29:59.40 ID:/rIZkdAZ0
『 わ゙ ダ じ ノ゙ ナ゙ ま゙ え゙ ヺ 』
誰か。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2012/04/18(水) 23:30:41.09 ID:/rIZkdAZ0
誰か呼んでるようですよ。
〈終〉
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