lw´‐ _‐ノvいつだって君の幸せを願うんだ。のようです

4 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:18:28.05 ID:L7ioRJ8+O

 【ぷろろーぐ】



 ――雀の鳴き声が空から降りてきた、ある日の朝。
 真っ青な空の下、風が静かに草木を揺らす、穏やかな朝。

 街の全てが見渡せる大きな家の赤い屋根の上に――

lw´‐ _‐ノv「……ねむい」

 一匹の、白い猫が座っていた。

 ぴんと立てた二つの耳、右が青、左が黄色の大きな瞳。
 小さな顔にちょこんと座った鼻に、長い髭。
 幸せの扉を開く鍵尻尾をゆらゆらとさせながら、白い猫は街を見渡していた。

lw´‐ _‐ノv「……あ」

 猫は何かに気付き、首を傾げる。
 目線の先には、黄色い帽子と赤いランドセルがよく似合う、少女の姿。


5 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:20:17.59 ID:L7ioRJ8+O

「……あっ!」

 叫ぶと同時、悪戯な風が少女の帽子を宙へ舞い上がらせる。

lw´‐ _‐ノv「えいっ」

 それを見る白い猫が、大きな瞳を少し細めてそう呟くと――

「あれぇ?」

 帽子は、音も無く少女の頭へ舞い戻った。

「んー?」

 不思議そうな顔で歩く少女を見つめ、白い猫は――

lw´‐ _‐ノv「……今日は、どこへ行こうかな」

 一つ呟き背伸びをして、フッと、姿を消した。

 不思議な不思議な、白い猫。
 この白い猫は幸せをほんの少し、人々に与えることができて――


7 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:24:51.44 ID:L7ioRJ8+O




lw´‐ _‐ノvいつだって君の幸せを願うんだ。のようです





9 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:26:34.15 ID:L7ioRJ8+O

【帰り道のはなし】



 夏の日、夕焼けが辺りを照らす、坂道。

( ;^ω^)「フゥ……フゥ……」

 高校からの帰り道、必死に自転車のペダルを漕ぐ、少し太った少年がいる。
 半袖の白いシャツに黒いズボン。
 青いネクタイが、風に揺れる。

ξ゚听)ξ「ほらブーン! 頑張って!」

 その後ろには、涼しい顔で少年に声をかける少女の姿もある。
 流行りなのか、少しだけ短めの黒いスカート。
 少年と同じく半袖の白いシャツに、首には可愛らしい赤いリボン。

 青春真っ盛りな、高校二年生の二人。
 いつも一緒に帰る二人は、どこから見ても普通のカップル。


11 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:28:11.82 ID:L7ioRJ8+O

( ;^ω^)「……あぁ、重いおツン!」

 ブーンと呼ばれた少年は、後ろの重さに文句を言い、少女の名を呼ぶ。

ξ#゚听)ξ「あ?」

( ;^ω^)「……ご、ごめんお」

 いつもブーンは、ツンに逆らえない。

 だけど――

ξ゚听)ξ「頑張ったらジュース奢ってあげるよ?」

 ブーンは、ツンの優しさも知っている。

( *^ω^)「ほんとかお!? 頑張るお!」

 その優しさに触れて、急に元気を出すブーン。

ξ*゚听)ξ「……扱いやすい男」


12 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:30:26.72 ID:L7ioRJ8+O

 ぼそっと呟くその声は、ブーンの耳には届かない。
 ジュースぐらいで嬉しそうにペダルを漕ぐブーン。
 その背中に酷い言葉を投げつけるが、ツンの頬には朱が座っていて――

ξ*゚听)ξ「ばぁか」

( ;^ω^)「な、なんだおいきなり! 僕頑張ってるお!?」

ξ*゚听)ξ「うるさいっ」

 吐き捨て、ブーンの背中から目を逸らすツン。

( ^ω^)「ツンは難しいお」

 ブーンは、素直になれないツンが大好きで。


13 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:32:53.56 ID:L7ioRJ8+O

ξ゚听)ξ「今日は、いつもより疲れた」

( ^ω^)「体育でバレーボールがあったおね。ツンは運動オンチ、略してウンチだお。よく見ればその巻き髪もウンチみたいだから、ピッタリだお」

ξ#゚听)ξ「アンタねぇ……」

( ^ω^)「ごめんお。まぁ、ツンはウンチだけど頑張り屋さんだから、人一倍疲れたんだお。今日はゆっくり休むといいお」

ξ*゚听)ξ「……ばか」

 ツンも、素直すぎるが優しいブーンが大好きだった。

( ^ω^)「坂道、終わったお」

ξ゚听)ξ「よくできました」

 よいしょっと声を出し、自転車から降りるツン。
 それに続いてブーンも降り、自転車を押して歩き出す。


16 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:35:45.00 ID:L7ioRJ8+O

( *^ω^)「さ、ジュース買ってくれお!」

ξ゚听)ξ「あ! 流れ星!」

 返事はせずに、ツンは紅く染まった遠くの空に、指を差す。

( *^ω^)「お! どこだお!」

 釣られて、ブーンもツンが指差す空を見る。

( *^ω^)「んー?」

 探しても探しても流れ星は見付からなくて、空を翔けるカラスを四羽ほど数えてから、ブーンは声を出す。

( ^ω^)「ツン! 流れ星なんてどこにも――」

ξ゚听)ξ「嘘だよーー!! ばーーか!!」

 大きな声は、遠くから聞こえて――


17 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:37:39.39 ID:L7ioRJ8+O

( ^ω^)「お?」

ξ*><)ξ「また明日ね! ブーン!」

 隣に居たはずのツンは既に小さくなっていて、そのまま走って帰っていった。

( ^ω^)「……」

 一人残されたブーンは、からからと鳴る車輪の音を聞きながら、考える。

( ^ω^)(いつもこうだお。ツンは、家まで送らせてくれないお)

 それが、ブーンの悩み。

 付き合ってもうすぐ三ヶ月になる二人だが、休日にデートなんてした事も無く、二人きりで居られるのは、帰り道の僅かな時間だけ。

( ^ω^)「恋人同士なのに、距離が、遠く感じるお」


18 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:40:43.60 ID:L7ioRJ8+O

 ブーンは本当は、ジュースなんてどうでもよかった。
 ただ、ジュースを買えば、その分だけツンと一緒に居られる時間が増えるから、それが嬉しいから、喜んでいただけだった。

( ^ω^)「……はぁ」

 溜め息を吐き、からからと寂しく音を鳴らす自転車の車輪を見つめながら、ブーンはゆっくりと帰り道を歩いていた。


19 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:43:12.32 ID:L7ioRJ8+O





 次の日の昼休み。

( ^ω^)「ねぇツン」

 ブーンは、隣のクラスにいるツンを屋上に呼び出した。

ξ゚听)ξ「なによ。お弁当食べたいから、早くして」

 いつもなら数人の友達と一緒に、教室でお弁当を食べている筈のツンは、少し不機嫌。

( ^ω^)「僕達、付き合ってもうすぐ三ヶ月だお」

ξ゚听)ξ「そうね」

( ^ω^)「だけど、手すら繋いだ事が無いお」

ξ゚听)ξ「……うん」

 ツンは、ブーンの言いたいことがなんとなくわかった。

( ^ω^)「どうして、帰りはいつも逃げるんだお? どうして、休みの日に会ってくれないんだお?」


20 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:47:05.54 ID:L7ioRJ8+O

ξ゚听)ξ「それは……」

 言いたいことはわかっても、返事の仕方がわからないツン。

 ツンはただ、恥ずかしいだけだった。
 初めての恋人。
 何もわからない、何も知らない。
 家まで送ってもらうとか、手を繋ぐとか、ツンはそれがとても恥ずかしく感じてしまって。
 素直になれない性格も相まって、どうしてもブーンと距離を置いてしまう。

( ^ω^)「僕のこと、嫌いかお?」

 そんなツンに対し、このブーン。
 優しいが故に、不満や望みをなかなか口に出せない。
 反面、素直であるが故に、溜まったそれが爆発すると、女々しく、めんどくさく、鬱陶しい一面が表に出る。

ξ゚听)ξ「そんなことは……」

 元々はとても相性の良い二人だが、お互いに欠点はある。


21 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:50:32.87 ID:L7ioRJ8+O

 そしてその欠点が――

( ^ω^)「浮気、してるのかお?」

ξ )ξ「――ッ!」

 大きな大きな壁となって、二人の間に立ちはだかる。

ξ# )ξ「ふざけないでッ!!」

( ;^ω^)「おっ!」

 突然の大声に驚くブーン。

ξ# )ξ「ずっと私を疑ってたの? 浮気してるんじゃないかって? なにそれ、バカじゃないの」

( ;^ω^)「いや、してないならそれで――」

ξ# )ξ「なに? ただヤりたいだけ? それが目的で告白してきたの?」

 ツンの脳裏に、数ヶ月前の出来事が過ぎる。


22 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:53:39.51 ID:L7ioRJ8+O

――付き合ってくださいお!

――え?

――僕はずっと前から、ツンが好きだお!

――ほんとに?

ξ# )ξ

 同じクラスだった一年生の時、ブーンはいつもツンの近くにいた。
 性格上、何かと人と衝突する事の多いツン。
 男子と喧嘩して、殴られそうになったツンを庇ったのが、ブーンだった。
 それをきっかけにして、二人は仲良くなって。
 ブーンはいつもニコニコ笑顔で優しくて、ツンはそれに安心感を覚えて、ブーンには素をさらけ出せていた。

 二年になってクラスが離れてから、ツンの心にはどうしてか冷たい風が吹き荒れていて。
 ブーンが好きだと、気付いていた。
 だけど、それを伝える勇気が無かった。
 そんな時に、ブーンからの告白。


25 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/16(火) 23:56:59.20 ID:L7ioRJ8+O

――私なんかの、どこが好きなの?

――顔だお!

――えっ。

――笑い顔も、怒り顔も、悲しんでる顔も、全部好きだお!

――ああ、そういうことね。

――素直じゃなくて難しい、その性格も好きだお!

――なんかイラッとするけど、ありがとうブーン。

――僕はどちらかと言えば巨乳が好きだお! ツンは貧乳だけど、ツンのおっぱいなら好きだお!

――アンタねぇ。


26 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:00:06.24 ID:SVwUQY3EO

 ブーンらしいと言える、少しおかしな告白だった。

 それでも――

――僕がツンを幸せにできるかわからないけど、僕はツンが傍にいれば幸せだお!

――そんなプロポーズみたいなこと言わないでよ。ほんとバカなんだから。

――お?

――仕方がないから、そのバカに付き合ってあげるわよ。

 ツンは、嬉しさで心が舞い上がりそうだった。

ξ# )ξ(それなのに……)

 言わなくてもブーンならわかってくれる。
 そう思っていたのに、自分の気持ちをわかってくれない。
 どうして? 
 なんでわかってくれないの?

 と、安心してブーンに心を委ねてしまっていたツンの心は、子供の様なそれでいて。


27 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:03:36.37 ID:SVwUQY3EO

ξ# )ξ「そんなにヤりたいなら、私なんかとは別れて、他の女に手を出せばいいじゃない。最近の女子高生なんてみんな――」

( #^ω^)「違うおっ!」

 どうしても素直になれない。
 恥ずかしいだけだと、言えない。

 それに気付けないブーンは――

( #^ω^)「好きなのに、付き合ってるのに、僕達二人の距離が遠く感じるお! だから浮気を疑ってしまうんだお! 僕は、僕は本当に――」

ξ )ξ「……」

( ;ω;)「本当に、ツンが大好きなだけだお。大好きだから、ツンを誰にもとられたくないんだお」


31 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:06:28.37 ID:SVwUQY3EO

 もういいお、と涙声を残して、ブーンは屋上から立ち去った。

ξ )ξ「……ブーン」

 ツンは一人、屋上に佇んで。

ξ )ξ「ごめんね、ブーン。こんな女で、ごめん……ね?」

 しゃがみ込み――

ξ;;)ξ「……もう……終わりなのかな?」

 涙を流すだけだった。
 自分以外には誰もいないのに、大声で泣いても構わないのに、どうしてか声を殺して涙を流すツン。
 その姿は、どうしても素直になれない性格が、そのまま形になっている様で――


35 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:09:01.51 ID:SVwUQY3EO





( ^ω^)「ツン、この間はごめんお」

ξ゚听)ξ「……」

 それから一週間が過ぎて、ブーンは毎日の様に、ツンに声をかける。

( ;^ω^)「あぅ」

 廊下ですれ違う時ぐらいしかチャンスはないのに、それすらも、ツンには無視されていた。

( ^ω^)(僕のこと、嫌いになっちゃったお?)

 ブーンは卑屈になって――

ξ゚听)ξ(私なんかより、もっと良い女が沢山いるわよ)

 ツンは捻くれてしまって。

 そうやって二人の距離はどんどん遠ざかる。

 そして一ヶ月が過ぎた頃、ついにブーンから声をかける事すらも無くなってしまった。

 そんな、ある日。


36 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:11:11.65 ID:SVwUQY3EO

ξ゚听)ξ「あーあ」
 夕暮れ時の帰り道を、ツンは一人で歩く。

ξ゚听)ξ「あぁ、めんどくさい」

 一度立ち止まって、ツンは声を出す。
 目の前には、坂道。
 自転車の後ろに乗って、ペダルを漕ぐブーンの背中を見つめていた、あの坂道。

 あの日から、一人でここを歩くしかなくなった。

ξ゚听)ξ「……はぁ」

 数分程、坂道を見ながらブーンの事を考えていたツンは、めんどくさそうに足を動かしかけた。

 しかし――

lw´‐ _‐ノv「えいっ」

 遠く離れた場所で、白い猫がそれを見ていて――


39 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:14:03.63 ID:SVwUQY3EO

ξ;゚听)ξ「きゃっ!」

 突然、ツンの周りだけに空から大量の米が降ってきた。
 地面に散らばった大量の米。
 物凄い量の、米。
 ツヤッツヤのテッカテカ、冴えてピッカピカなその輝きは、見た物全てを魅了する様なそれで。
 老若男女問わず、誰もがその米を愛すはず。
 それを愛さない奴は人間じゃないと、どこかの黒人大統領も言っていた。
 イエスッ! ウィーもういい、めんどくさい。

 農家の皆様からの愛情をたっぷり受け継いで、キラキラ輝くまだ炊かれてはいない、その米。
 それはきっと、コシヒカリ。

 ツンはそれを踏んで滑っ――

lw´‐ _‐ノv「えっ」

ξ;゚听)ξ「――ッ!」


42 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:16:23.84 ID:SVwUQY3EO

 滑りはせず、降ってきた米に驚いて、ツンは動かそうとした右足を、自分の左足に引っかける。

ξ;゚听)ξ「わわわわッ!」

 今にも転びそうになるツン。

 しかし――



ξ゚听)ξ「え?」



 手を、掴まれた。



( ^ω^)「……何を、やってるんだお?」



 いつもの様なニコニコ笑顔の、ブーンに。


43 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:18:44.85 ID:SVwUQY3EO

ξ;゚听)ξ「ぶぶぶんぶんぶんぶぶぶぶん!」

( ^ω^)「落ち着くお、深呼吸するお」

 ツンの手を握って、それをいやらしく撫で回しながら、ブーンは言う。

ξ;゚听)ξ「ぶぶぶぶん!」

( ^ω^)「はい、吸って」

ξ゚听)ξスゥー



( ^ω^)「吸って」



ξ゚听)ξハ……スゥー


46 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:21:00.98 ID:SVwUQY3EO

( ^ω^)「吸って」

ξ゚听)ξスゥー

( ^ω^)「吸って」

ξ )ξスゥ……

( ^ω^)「……」

ξ; )ξ「……」



( ^ω^)「ツンの手、柔らかいお」

 ズコーッと、派手にツンはお尻からずっこけた。

( ^ω^)「あ、パンツ見えたお。ヒラヒラのついた黒だお。エロいお」

 まぁ、殴られたよね、ブーン。
 ツンにしこたま、殴られたよね。


48 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:23:18.69 ID:SVwUQY3EO

( ^ω^)「帰るお、ツン」

ξ;゚听)ξ「無傷!?」

 ブーンはやはり、ニコニコ笑顔のまま。

ξ;゚听)ξ「ぶ、ぶーん?」

( ^ω^)「お?」

 その笑顔を、ツンは手放したくなくて――

ξ )ξ「あの、あの、ね?」

 やっぱりブーンが大好きだと、どうしようもないくらいに大好きだと、気付いて――

ξ )ξ「ごめん。ごめん、ね。ブーン」

 ゆっくりと、そう言った。

( ^ω^)「僕も、ごめんだお」

ξ*゚听)ξ「い、いいのよ」

 そして、ツンは話す。
 ただ恥ずかしいだけだと。
 恥ずかしいから、ブーンと距離を置いてしまうと。


50 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:25:13.87 ID:SVwUQY3EO

 それを聞いたブーンは――

( ^ω^)「後ろ、乗るお」

 そう言うだけだった。

ξ゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「いいから、乗るお」

 照れ臭そうに、ゆっくりと自転車の後ろに乗ったツン。

( ^ω^)「それならそうと、早く言えばいいんだお」

ξ*゚听)ξ「ご、ごめんね」

( ^ω^)「ツンのペースで、いいお。気持ちがわかれば僕はそれでいいんだお。さっき、手も繋げたし」

ξ* )ξ「……ばか」

 ツンは顔を真っ赤にして、俯く。

( ^ω^)「パンツも見れ――」

ξ#゚听)ξ「あ?」

( ;^ω^)「さぁ、行くお」


51 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:29:27.57 ID:SVwUQY3EO

 力を入れてペダルを漕ぎ出すブーン。

( ^ω^)「しかし、なんで何も無い場所で転びかけたお?」

ξ;゚听)ξ「なんか、米が降ってきて」

( ^ω^)「米? なん――」

 坂道の前、走り出した自転車の車輪。
 それが、地面に散らばる米を踏む。

 そして――

( ;^ω^)「おぉぉぉぉぉぉ! なんで米が散らばってるんだおぉぉぉぉぉぉ! 食べ物粗末にしちゃダメだおぉぉぉぉぉぉ!!」

ξ;゚听)ξ「なんで今まで気付かないのよばかぁぁぁぁぁぁぁ! これやったの私じゃないってぇぇぇぇぇぇ!!」

 自転車は傾いて、地面へと倒れる。
 眩しいくらいツヤッツヤに輝くコシヒカリだからこそ、車輪を滑らせてしまう。


52 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:31:18.86 ID:SVwUQY3EO

 そして、そのせいで、いや、そのおかげで重なった――


( *^ω^)


ξ* )ξ


 二つの唇があった。

( *^ω^)「怪我、無いかお?」

ξ* )ξ「う、うん」

( *^ω^)「なら、いいお。行くお」

ξ* )ξ「うん。うん」

 改めて自転車に乗る、ブーンとツン。
 ペダルを漕いで、ブーンは坂道を登る。

( *^ω^)「……」

ξ* )ξ「……」

 普段よりもニコニコ笑顔のブーンと、耳まで真っ赤にして、ブーンの背中に顔を埋めるツン。


55 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:34:55.04 ID:SVwUQY3EO

 それではまた足りないのか、背中からギュッと、ツンはブーンに抱き着いていた。

 背中におっぱいの感触とかは、無い。
 抱き着かれて嬉しいけど、坂道だから足が悲鳴をあげている。

 だけど、だけど――

(*^ω^*)「女の子の唇は柔らかい。キッスは良いものだ! それを知らないそこの君! 頑張れ、な? ようやくキッスができたけど、僕とツンならいずれ、キッス以上も……フヒヒ。 君も頑張れ、な?」

 そうなんだってさ。

 ゆっくりと沈んで行く夕日が――

「アンタは誰に何を言ってんのよバカぁぁぁぁぁ!」

「わぁ! ツン今はダメだお! 転ぶ、転ぶって! うわぁぁぁぁぁ!」

 そんな二人を静かに、見守っていた。


57 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:36:42.44 ID:SVwUQY3EO





lw´‐ _‐ノv「……うっざ」

 どこかの家の屋根の上に、白い猫の姿。

lw´‐ _‐ノv「結果オーライなんてもんじゃない。米で滑って転んで」

lw´゚听ノv「きゃあっ!」

lw´^ω^ノv「ツン! 大丈夫かお!?」

lw´‐ _‐ノv「ぐらいにするつもりだったのに。うっざ、ほんとにうっざ」

 ぶぅぶぅと文句を垂らし、不機嫌そうにする猫。

lw´‐ _‐ノv「まぁ、幸せならいいけどさ」

 でも、と一言。


60 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:39:29.01 ID:SVwUQY3EO

lw´‐ _‐ノv「リア充爆発しろ。なんかもうえげつないくらい爆発しろ」

 その言葉を残して、白い猫はフッと、姿を消した。

 それを遠くから見つめる――

( ・∀・)「……」

 一つの影に気付かないまま。


61 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:41:23.94 ID:SVwUQY3EO




【帰り道のはなし:ブーン爆発しろ。エロ画像のフォルダ開きっぱなしで、ばぁちゃんのパンツ被って全裸で爆発しろ。色んな人に見られて、写メとか撮られてしまえ】





63 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:42:54.07 ID:SVwUQY3EO

 【母親のはなし】


 朝、一般的と呼ぶには少し小さい、一軒家。

J( 'ー`)し「よいしょっと」

 ご飯――コシヒカリではない――に、お味噌汁。
 卵焼きに、焼いた鮭。
 それをお盆に乗せてを、二階へと運ぶ。

 茶色いドアの前に立ち、声をかける。

J( 'ー`)し「ヒッキー、朝ご飯だよ」

 返事は、無い。

J( 'ー`)し「ここに置いとくからね。カーチャンは仕事に行ってくるね」

 少し待ってみたが、やはり返事は無く。

J( 'ー`)し(……ダメか)

 朝ご飯を床に置き、カーチャンはそのまま仕事場へと向かった。

 しばらく経って、開いた扉。
 それはすぐに閉まって、置かれた朝ご飯だけが、消えていた。


65 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:46:04.29 ID:SVwUQY3EO





J( 'ー`)し「ふぅ、しんどい」

 昼休み、カーチャンは仕事場で、ご飯を食べる。

 月曜から金曜まで、刺身の上にタンポポを乗せる仕事をしている。
 息子の為に必死に働くカーチャンだが、収入は少ない。

 なぜなら――

「おいカーチャンさん! さっきこんなのが流れてきたぞ」

J( 'ー`)し「あらやだ私ったら、タンポポとタンポン間違えちゃった」

 カーチャン、ドジっ子だから。

「この前もカーチャンさん、変な物乗せてただろ?」

J( 'ー`)し「湯たんぽかしら?」

 かなりのレベルの、ドジっ子だから。


66 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:47:53.95 ID:SVwUQY3EO

「そうそう。ほんと、気をつけてね。刺身代、給料から引いとくからね」

J( 'ー`)し「あら、まぁ……」

 だから、収入が少ない。
 コシヒカリも買えない。

 だけど、大丈夫。

J( 'ー`)し「あら、メールだわ」

 女子高生並みにデッコデコのキッラキラに装飾された、携帯を開くカーチャン。

J( 'ー`)し「あら、ダーリンからだわ。愛してる、ですって。うふふ」

 愛人が金くれるから、生活は大丈夫。

J( 'ー`)し「私も愛してるわ、今日も頑張って悪い奴を捕まえてね。と、送信。うふふ」

 愛人は、警察官だっ!
 めっちゃ金持ち。
 何の心配も無い。


69 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:50:11.56 ID:SVwUQY3EO

 それなのに、カーチャンが働くのは理由がある。

「ねぇ、カーチャンさん。収入少なくて生活は大丈夫?」

 話しかけてきたのは、同僚の女。
 わりと皺くちゃなカーチャンより、ずっと若い。

J( 'ー`)し「ダメねぇ。コシヒカリも買えないのよ」

「あらあら可哀相に。このオメガの時計あげるから、売って家計の足しにでもして」

J( 'ー`)し「いつも悪いねぇ」

 貧乏な振りをすると、馬鹿な同僚がオメガの時計を恵んでくれるから。
 カーチャンはこの手口で、二億は稼いでいる。

J( 'ー`)し(ちょろいわぁ)


71 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:52:39.35 ID:SVwUQY3EO

 なぜ、こんなにもカーチャンは恵まれているのか?
 なぜ、こんなにもこの話の設定は無茶苦茶なのか?

 その理由は、簡単なものだった。



J(*'ー`*)し「君達は皆、カーチャンが出てくると悲しい話になると思い込んじゃうからねぇ」



 だ、そうです。

 たまには、アホなカーチャンもいいよね。


72 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:54:22.66 ID:SVwUQY3EO





 狭くて、暗い部屋。
 パソコンに向かい、カタカタと音を鳴らす青年がいる。

(-_-)「……どうしよう」

 名は、ヒッキー。
 カーチャンの息子である。
 成人してから六年は過ぎたが、もう四年程、外には出ていない。

 彼は毎日毎日、ネットの海をさ迷っている。


74 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:57:52.54 ID:SVwUQY3EO

(-_-)「コンビニの店員か……」

 ネットの海で、仕事を探している。

 働きたくて仕方がない。
 地味な企業に就職して、地味な女と結婚して、地味な遺伝子を残して、地味に老いて、地味に死にたい。
 それが、幼少からずっと変わらない、ヒッキーの夢だった。

(-_-)「ここにするか」

 コンビニの店員。
 アルバイトだが、長い間外に出ていないヒッキーは、そこから始めるのが丁度いいと思っていた。
 働けるなら、自分より年下の学生にレジ打ちを教えられたって、苦痛ではない。

(-_-)「電話電話、っと」

 部屋の隅に置かれた子機を手にとって、番号を押す。
 四度、コール音が鳴ってから、女性の声がヒッキーの耳に届いた。


76 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 00:59:27.11 ID:SVwUQY3EO

「はい」

(-_-)「もしもし、ネットのアルバイト募集を見――」

「アルバイトだって?」

(-_-)「え?」

「今から帰るから、部屋で大人しく待っててね、ヒッキー」

(-_-)「」

 電話の相手は、カーチャンだった。

(-_-)「……またか」

 ずっと同じ事の繰り返し。
 どこに電話をかけても聞こえるのはカーチャンの声。
 きっと電話に何か細工がしてある。

(-_-)「こわい」

 この生活が始まってすぐ、携帯電話を買おうと外に出ようとした。
 部屋の扉を開いたら矢が飛んできた。
 肩に刺さりかけた。


79 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:03:08.09 ID:SVwUQY3EO

 窓から逃げようとした。
 首を出したら上からギロチンが降ってきた。
 一回避けてまた逃げようとしたら、また降ってきた。
 こわかった。

 トーチャンが浮気をした。
 次の日、カーチャンに「トーチャンは?」と聞くと、「ゲームのキャラクターかい?」と言われた。
 背筋が寒くなった。

 仮に外に出られたとしても、カーチャンはどこまでも追い掛けてくるはず。

(-_-)「……どうしよう」

 ヒッキーが最後に見たカーチャン以外の人間は、就職して勤務初日に会った、上司。
 ヒッキーが小さなミスを犯し、それを笑いながら軽く叱っただけの、上司。
 ビルの四階なのに、窓を割って入ってきたカーチャンに首を絞められ服をひんむかれ、泣きながら全裸で逃げていった、あの上司。
 かわいそうだった。

(-_-)「もうヤダこんな生活」


80 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:06:10.59 ID:SVwUQY3EO

 それからずっと部屋に閉じ込められてきたヒッキー。
 カーチャンが怖くて、顔を見るだけで心臓が止まりそうになる。

(-_-)「もう限界だ」

 ヒッキーは、窓を開いて首を出す。
 やはりギロチンが降ってきた。
 慣れたのか、軽く避けるヒッキー。

(-_-)「……そうだ!」

 窓を開くヒッキー。
 首は、出さない。
 ギロチンは避けれる。
 つまり、首を出してから降ってくるまでに、ほんの少しだけ時間がある。

(-_-)「ていうかどこから降ってきてんの?」


81 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:08:27.66 ID:SVwUQY3EO

 まぁいいか、と声に出して、ヒッキーは考える。

(-_-)(体ごと、窓に突っ込めばいいんだ)

 二階だから落ちたら痛いけど、恐らく死ぬことは無い。
 逃げられる。

(-_-)(この飛び降りが成功したら……働くんだ)

 飛び降りという恐ろしい手段を選びながらも、ヒッキーの顔には未来への希望が満ち溢れていて。

(-_-)(いろんな所で働いて、国にきちんと税金を納めて年金を払って、立派に生きるんだ。カーチャンから逃げるんだ。頑張るぞっ!)

 決意を胸に、窓に向かって駆け出したヒッキー。


83 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:10:22.40 ID:SVwUQY3EO

 しかし、ヒッキーは知らなかった。
 ヒッキーが窓から飛び出すことを想定して、その墜落点と思われる場所一面には、細工がしてあることを。
 ヒッキーが落ちてきたら、地面から槍が出る。
 ギロチンもいっぱい降ってくる。
 カーチャンの本気。
 ヒッキーはたぶん簡単に死ぬ。
 ていうか殺しちゃダメだろカーチャン。

 それをなぜか知っていたからか、どこからかヒッキーの姿を見る白い猫が――

lw´‐ _‐ノv「えいっ」

 そう、声を出して――


84 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:13:07.92 ID:SVwUQY3EO





J( 'ー`)し「ただいまヒッキー」

 カーチャン、帰宅。

J( 'ー`)し「アルバイト、ねぇ」

 カーチャン、二階へ向かう。

J( 'ー`)し「社会は厳しいのよヒッキー」

 ぎし、ぎし、と階段の軋む音。

J( 'ー`)し「怖い人がいっぱいいるのよ」

 ぎし、ぎし、ゆっくりゆっくり、音が響く。

J( 'ー`)し「そんな社会に出るだなんて」

 カーチャン、扉の前に着く。

J( 'ー`)し「カーチャン心配」

 ドアノブを握るも、回らない。


85 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:14:41.01 ID:SVwUQY3EO

J( 'ー`)し「鍵? 悪い子ねぇ。お仕置きしなくちゃね」

 目から怪光線を出し、扉を消し飛ばすカーチャン。
 このカーチャンは化け物だ。

J( 'ー`)し「ヒッキー?」

 暗い部屋。
 その真ん中に、三角座りをしている影があった。

J( 'ー`)し「ヒッキー。お仕置き、しようね」

「……ぃや」

 微かに聞こえた声。

J( 'ー`)し「電気点けようね。今日はカーチャン、ノコギリ買ってきたからね。楽しもうね」

「……ぃや」

 ぱちりと音がして、部屋が光に包まれる。

 そこに――


87 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:16:09.94 ID:SVwUQY3EO



(*・_・*)「カーチャンぴぃや」



 変わり果てたヒッキーの姿があった。



J( 'ー`)し「」



(*・_・*)「カーチャンぴぃや」

J( 'ー`)し「ヒッキーなのかい?」

(*・_・*)「違うぴぃや。よしおぴぃや」

J( 'ー`)し「あなたはヒッキーよ。小島じゃないのよ」


88 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:19:17.80 ID:SVwUQY3EO

(*・_・*)「カーチャン大好きぴぃや」

J( 'ー`)し「あらやだ素敵。嬉しいわ」

(*・_・*)「大好きぴぃや。大好きぴぃや」

J( 'ー`)し「あらあらヒッキーったら。いや、そんなに素敵なことを言うヒッキーは、今日からはステッキーだね」

(*・_・*)「ぴぃやぴぃや」

 上手いこと言ったつもりなのか、キリッとしたドヤ顔をするカーチャンを無視して、ステッキーは部屋の中をぐるぐる回る。
 三角座りをしたまま、お尻の力だけでぐるぐる回る。

J( 'ー`)し「うふふ」

(*・_・*)「ぴぃやぴぃや」

 ずっとずっと、小さな家の狭い部屋からは、幸せそうな声が聞こえてきたんだってさ。


89 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:20:39.26 ID:SVwUQY3EO





lw´‐ _‐ノv「……うん。人格、変えちゃった。てへっ☆」

 どこかの屋根の上に、お茶目で可愛い白い猫の姿があった。

lw´‐ _‐ノv「どうしたらいいか、わからなかった」

 はぁ、と溜め息を吐いて、また一言。

lw´‐ _‐ノv「まぁ、染まっちゃえば、幸せだよね」

 そのまま姿を消そうとした白い猫。

 しかしそれは――

( ・∀・)「ねぇ」

lw´‐ _‐ノv「え?」

 一人の男の声により、遮られた。


92 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:22:27.48 ID:SVwUQY3EO




【母親のはなし:ほんとは悲しい話にしたかった。だけどキャラが、勝手に、動いちゃった。僕は悪くない。裸で何が悪い】





98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/17(水) 01:26:09.45 ID:SVwUQY3EO
ちょっと失礼。

今、やっと半分手前くらいです。
自分は時間を作って投下してるので大丈夫ですが、追ってくださってる方、下手したら朝までかかるので、眠い方は寝てください。ほんと、無理すんな!

あと〇〇の人?と、言ってくださってる方、合ってます。酉が違いますが、後書きに書きますね。

今日はまださる喰らってない!
こんなスムーズに投下できてるの初めてっ!
支援ありがとう!

ではでは、再開します。


99 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:28:21.42 ID:SVwUQY3EO

【絵描きのはなし】


lw´‐ _‐ノv「……えっと」

( ・∀・)「こんばんは、素敵なおチビさん」

 夕焼けに染まる街のどこかの家、屋根の上に座る白い猫の横に、並んで座る男がいた。

lw´;‐ _‐ノv「なに?」

( ・∀・)「僕、絵描きなんだ」

 紺色のパーカーに青いジーンズ、ボサボサの長い黒髪に、わりと男前な顔面。

lw´‐ _‐ノv「……こんばんは」

( ・∀・)「僕ね、鍵尻尾の黒猫を探しているんだ」

lw´‐ _‐ノv「鍵尻尾?」

 白い猫は自分の尻尾を見る。
 幸せの扉を開く、鍵尻尾がそこにあった。
 白い猫の、自慢の鍵尻尾。


100 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:30:17.02 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「黒猫がよかったけど、見つからないから白猫でもいいや」

lw´‐ _‐ノv「は?」

( ・∀・)「僕ら、よく似てるね」

 そう言って、白い猫を抱き上げるモララー。

lw´;‐ _‐ノv「ちょ、ちょっと」

 驚いた顔をしながらも、なぜか抵抗はしない白い猫。

( ・∀・)

lw´‐ _‐ノv

( ・∀・)「あれ?」

lw´‐ _‐ノv「ん?」

( ・∀・)「嫌じゃないの?」

lw´*‐ _‐ノv「撫でて」

( ・∀・)「あれぇ?」


105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[>>100 モララー×絵描き〇] 投稿日:2010/11/17(水) 01:35:03.00 ID:SVwUQY3EO

 白い猫は、人に抱かれるの好きだった。
 撫でてもらうのはもっと好きだった。

( ・∀・)「もがいて、引っ掻いて、逃げて。追い掛けるから」

lw´‐ _‐ノv「は?」

 意味がわからない、と白い猫は思う。

( ・∀・)「……ダメだ」

 言って、抱えていた白い猫を隣にちょこんと座らせる絵描き。

lw´‐ _‐ノv「……」

 絵描きの手の中は居心地が良かったのか、少し不機嫌そうな顔をする白い猫。

( ・∀・)「少し予定は狂ったけどいいや。君の名前は、ホーリーナイトだ。聖なる夜。優しさも温もりも全て詰め込んで、僕は君をそう呼ぶ」

 また意味不明な事を言うモララー。

lw´‐ _‐ノv「名前?」


106 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:36:29.20 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「僕は絵描き。君の絵を描く」

lw´‐ _‐ノv「……そろそろ頭痛くなってきた」

( ・∀・)

lw´‐ _‐ノv

 変な、間があった。

( ・∀・)「あれ、BUMP OF CHICKENって、知らない?」

lw´‐ _‐ノv「……なに?」

( ・∀・)「あ、知らないんだ。僕、好きなんだよね」

lw´‐ _‐ノv「?」

 この人はどうして、屋根の上にいるんだろう。
 なんかもう話の流れがどうでもよくなって、そんな事を考え出した白い猫。

( ・∀・)「じゃあさ」

lw´‐ _‐ノv「なに?」


108 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:39:05.00 ID:SVwUQY3EO

 ある程度、予想の幅を広げる白い猫。
 どんな言葉がきても驚かない様に、対策を練った。
 可愛くて賢い、白い猫。

 が――



( ・∀・)「僕、死ぬから、さ。手紙、届けて。故郷で僕の帰りを待つ恋人に」



lw´゜ _゜ノv「」



( ・∀・)「結構大変みたいで、子供に石を投げられたり、走って、転んで、満身創痍なところを罵声と暴力に襲われて、手足ちぎれそうになるけど、頑張って」



lw´‐ _‐ノv「………………故郷、どこ?」



 精一杯、絞り出した声。


111 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:41:26.46 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「雪のあるどっか」

lw´‐ _‐ノv「ズコーッ!」

 わざとらしく声を出すも、本気で屋根から落ちそうになって、足をバタつかせながら屋根をはい上がる白い猫。

( ・∀・)「さすがに絵が売れなくて貧しい生活はしてないから……うん。飛び降りるね。よいしょっ」

 驚く程軽く、簡単に屋根から落ちた絵描き。
 ごんっ、という音が響いた。

lw´‐ _‐ノv「……なにしてんの」

 屋根の上から顔だけを出して、落ちた絵描きを見る白い猫。

( ;ー∀・)「手紙っ! 手紙取りに来てっ! 僕死ぬから、亡き親友との約束をその口にくわえて走ってっ! あ、親友は僕で、約束は手紙の事だからね」


112 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:43:31.63 ID:SVwUQY3EO

 頭から血を流し、説明口調でそう言うモララー。

lw´‐ _‐ノv「……次は、どこへ行こうかな」

 白い猫は――

「ちょ、待って! 手紙を読んだ恋人はもう動かない君を庭に埋めてくれるからっ! アルファベット一つ加えて、聖なる騎士を埋め――」

 叫ぶモララーの声を無視して、フッと消えた。

「うわぁぁぁぁぁ!! 僕の夢がぁぁぁぁぁぁ!!」

 その叫びは、誰にの耳にも、届くことはなかった。


113 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:45:04.20 ID:SVwUQY3EO




【絵描きのはなし:元ネタはBUMP OF CHICKENの「K」でした】




118 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/17(水) 01:47:47.20 ID:SVwUQY3EO
なにこれ誤字はあるわ絵描きで統一するつもりが名前の八割がモララーになってるわ無茶苦茶だ!
モララー好き過ぎて気付かないorz
ほんとすみません。

アホ過ぎる。

再開しますー

120 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:49:17.40 ID:SVwUQY3EO




【えっちなはなし・その1】





122 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:50:31.43 ID:SVwUQY3EO



( *´_ゝ`)「弟者のココ、凄く大きい。コレを、俺のピーに、早くッ! 入ピー」



「待てよ。兄者のコレだって、こんなにカチンコチンだぞ。俺がコレをピーしてやるからピーしよう」(´<_`* )



( *´_ゝ`)「流石だな、俺達」(´<_`* )







lw´‐ _‐ノv「なにがだよ」


123 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:51:37.15 ID:SVwUQY3EO




【えっちなはなしその1:誰得】





124 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:52:34.50 ID:SVwUQY3EO




【えっちなはなし・その2】





125 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:54:01.19 ID:SVwUQY3EO

ミ,*゚Д゚彡「デレたん」

「フサきゅん」ζ(゚ー゚*ζ

 デレはフサギコの服を脱がす。

「……デレたん」

 黒のボクサーパンツの中に手を入れ、彼の彼自身に触れる。
 その感触はぬるっとしていて、デレの手を濡らす。

「あふぅん」

 そんな声が聞こえてきて、デレは一層興奮する。
 彼の反り返った彼自身を表に出し、舌を這わせ、唾液を絡める。

「んっ、気持ち……いいよ……デレたん」

 口を一杯に広げて、彼自身をくわえる。
 いやらしい音をたてながら、上目遣いで彼を見る。

ミ,*´∩`彡

 とろんとした目。
 逞しい体つき。
 乳首からちょっぴり生えた毛。
 全てがデレの性欲を掻き立てて――


126 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 01:55:38.00 ID:SVwUQY3EO





lw´*> _<ノv「ネ、ネタが無いからこんな事してるわけじゃないんだからねッ!」




130 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:00:14.53 ID:SVwUQY3EO




【えっちなはなしその2:女性目線のAVが発売したら、予約するけど絶対に買わない】





133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/11/17(水) 02:02:33.80 ID:SVwUQY3EO
ふふッ!
さる喰らったと避難所に報告してきたわッ!
戻ってきたら解かれていたわッ!
貴方達の支援、鬼畜。わたし、恥ずかしかった。

ありがとうございます。
ここから長いです。

では、再開します。


135 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:06:01.59 ID:SVwUQY3EO

【最終電車のはなし】


 クリスマスイブの夜。
 街は賑わい、人通りは多く、そのほとんどが肩を寄り添い合っている。
 そんな中、駅のホームに、一組のカップル。

(,,゚Д゚)「また、来年な」

(*゚ー゚)「……うん」

 最終電車を待つ二人の姿。
 体格の良い男は黒いコートを着て、大きな鞄を持っている。
 ショートカットで目鼻立ちのくっきりした可愛らしい女は、肌色のコートに水色の毛糸のマフラーをしていて、黒いミニスカートから伸びた足が寒空の下、微かに震えている。


136 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:08:00.63 ID:SVwUQY3EO

(,,゚Д゚)「もっと一緒に居たいんだけどなぁ」

(*゚ー゚)「仕事なら、仕方ないよ」

 そう言った女の声は、寂しそうなそれで――

(,,゚Д゚)「……しぃ」

 女の名を呼ぶ男の胸を、掻き乱す。

 仕事なんて、捨ててしまおうか。
 何度も何度も、思ったこと。

(,,゚Д゚)「しぃ、俺やっぱり、帰らな――」

 言いかけた声を、ホームへ流れてきた電車の音が遮る。


138 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:10:34.56 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「なぁに? ギコ君」

 電車から降りて来る人、乗り込む人。
 手を繋ぎ、並んで立つ二人の周りが、騒がしくなる。

(,,゚Д゚)「いや、なんでもない。じゃあ、行くよ」

(*゚ー゚)「……うん」

 繋いでいた手を解き電車に乗り込む、ギコと呼ばれた男。

(,,゚Д゚)「また、な?」

 ギコはまだ閉まらない扉の内側から声をかけ――

(*゚ー゚)「うん」

 しぃは外側から、返事をする。

 ほんの少しだけ、見つめ合う二人。

(* ー )「違う車両に行って」

(,,゚Д゚)「え?」

(* ー )「いいから! これ以上顔を見てると私、泣いちゃうから……見ないで」


139 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:12:02.13 ID:SVwUQY3EO

(,;゚Д゚)「……悪い。気付かなくて。じゃあ、また来年な」

 しぃに背を向けて、違う車両に歩き出そうとしたギコ。

 その背に向けて――

(* ー )「無理なのに、帰らないなんて言われたら、女は余計に寂しくなるんだよ?」

 投げつけられた、しぃの言葉。

(,;゚Д゚)「――ッ!」

 ギコは慌てて振り返るが、既にしぃの姿は無くて――

(,,゚Д゚)「ほんと、俺は……」

 ギコは一人、拳を強く握るだけだった。


141 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:15:01.14 ID:SVwUQY3EO





(*゚ー゚)「ほんと、私って嫌な女」

 心からの笑みではなく、無理して作ったそれを顔に貼付けて、しぃは帰り道を歩く。

(*゚ー゚)「いつもこうだよね、私」

 その笑みの理由はきっと、街を歩く人々が皆、揃って笑顔だったから。

(*゚ー゚)「別れ際は、最後に声を聞いた側が、辛いんだよね」

――私が我慢をすればよかった。
 私のせいで、ギコ君は最後に聞き手に立ってしまった。
 ギコ君に安心して帰ってもらう為に、私が聞き手であるべきだった。

 そんな後悔を胸に潜ませ、しぃは街を歩く。


142 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:16:47.94 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「思い出が少ないなぁ」

 きらきらと輝く街を見ても、そこで笑った思い出は少ない。

 ギコとしぃは同い年で、もう付き合って五年になる。
 二十二歳から付き合い始めて、今は二十七歳。

 二十歳の頃、大学で出会い、二年の歳月をかけ、二人は親密になった。

 そして――

(*゚ー゚)「あ、この場所は」

 街から少し外れた、しぃの家の近くにある、小さな公園。
 数年前の今日と同じ日、ブランコと滑り台しかないこの公園で、ギコはしぃに告白した。

(*゚ー゚)「顔真っ赤にして、付き合ってくれ、って言ったんだよね」


144 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:19:40.33 ID:SVwUQY3EO

 沢山デートをしたわけではなく、会った回数より電話やメールの方が多かったくらい。
 それでも、二人は付き合った。

 男らしく強く、優しさも持っているが、見栄っ張りな一面があるギコと、その見栄を包み込み、時々は従って、時々は見栄を解くしぃ。

 黙っていても笑顔と安心感が生まれる、素敵な関係だった。

(*゚ー゚)「あー、寒かった」

 家に着いたしぃは、コートとマフラーを壁にかけ、服も着替えずベッドに身を投げる。

 1LDKの、小綺麗な部屋。
 ベッドの横にある丸いガラステーブルの上に置かれた、二人分の食器。


147 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:22:08.33 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「……洗わなくちゃ」

 立ち上がり、やはり服は着替えないままキッチンに立ち袖をめくって、冷たいままの水で食器を洗う。

 かちゃかちゃと、洗い終えた食器を置く。
 水は、出したまま。

(* ー )「……もう洗い終えちゃった」

 一日分の、食器。
 それは二人にとっては、一年分で――

(* ー )「……寂しいなぁ」

 震える声で呟くしぃの心は、寂しさのみに支配されていて。
 次第に溢れる涙。
 声となって、辺りに散らばる。
 流れ続ける水の音だけが、その泣き声を掻き消してくれていた。


151 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:37:44.38 ID:SVwUQY3EO





(,,゚Д゚)(俺は、どうすればいいんだろう)

 ギコは扉の前に立ち、景色を眺めながら考える。
 これは癖で、席が空いてもギコは座らない。
 自分が立っている分だけ、他の誰かが座ることができる。
 いつもそう考えるが、それに限っては単なる見栄ではなく、良くも悪くも純粋な、ギコの優しさだった。

 数時間で、家には着く。
 明日の始発で帰ったって、大して変わらない。

(,,゚Д゚)(だけど……)


154 名前: ◆HAaUyuY2Cg[さるってました] 投稿日:2010/11/17(水) 02:39:58.42 ID:SVwUQY3EO

 ギコは、仕事の鬼と呼ぶに相応しかった。
 三日寝ない、一週間何も食べない、一ヶ月家に帰らない。
 そんな事はザラだった。

 特別な仕事ではない、大手でもない、どこにでもある様な会社に勤める地味なサラリーマン、それがギコ。
 しかし、仕事に対する想いは半端なものではなく、時を忘れて仕事に打ち込み、既に年上の部下を抱えているほど周りからも信頼されていた。

(,,゚Д゚)(仕事を捨てるのは、無理だ)

 ギコが異常な程に仕事に執着するのには、理由がある。

 それは、ギコの父の存在だった。
 働かない。
 常に金が無い。
 借金を作る。
 家族を殴る。
 女好き。
 絵に描いた様な、堕落した人間。


156 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:42:47.47 ID:SVwUQY3EO

 しかし、ギコは荒れたりはしなかった。

(,,゚Д゚)(……母ちゃん)

 母の存在が、とても大きかったから。
 働き倒して借金を返しながらも、ギコを大学にまで入れて、ギコがアルバイトをして学費を払う様になった途端、安心したのか突然亡くなった母。
 ギコが十九歳の頃の出来事だった。

 父もその半年後に、ガンで亡くなった。
 母と違って、半年間苦しんで苦しんで苦しみ尽くして、亡くなった。

(,,゚Д゚)(だから俺は、働くんだ)

 もしもギコがお金に執着をしていたら、全く違った人生だっただろう。


158 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:44:53.10 ID:SVwUQY3EO

 電気とガスが停まって、真っ暗な部屋で母とインスタントラーメンをかじって食べた思い出。
 中学も高校も、母が必死な思いで積み立ててきた、修学旅行に必要な金を酒と女に変えた父と、泣きながら自分に土下座をしてきた、母の姿を見た時の思い出。

 過酷だった環境。
 お金に執着する要素は沢山あったが、ギコは仕事に執着した。

(,,゚Д゚)(金があっても遣えば無くなるんだ。仕事しないと、生きてはいけない)

 働かない父の、曲がってもいないのに丸まった背中を見る度に沸いた、熱い感情。
 怒りの様な、憎しみの様な。


159 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:47:28.84 ID:SVwUQY3EO

 そして、ギコが働き倒す理由は他にもある。

 それは、ギコ自身が仕事を楽しんでいること。
 仕事をして、お金を稼いでいる時にのみ覚える安心感と、心の余裕。
 そして、頑張った分だけ評価をしてもらえている環境。
 それら全てが苦痛ではなく、楽しいと思えていた。

(,,゚Д゚)(……しぃ)

 そんなギコが悩むのは、しぃのこと。
 本当は、もっと会ってやりたい。
 一緒に居てやりたい。
 思うが、甘えに走ると必ず、心に迷いが生まれる。
 そんな状態で一緒にいると、お互いに堕落してしまう。
 だから、ギコはいつも仕事を選ぶ。

(,,゚Д゚)(くそっ)

 仕事においては立派なギコだが、恋愛面では非常に厄介な性格をしているギコ。


162 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:51:47.36 ID:SVwUQY3EO

 一年に一度、クリスマスイブの日にだけは、会う様にしている。
 本当は就職してから数年の間は、しぃの事は忘れようと思っていた。
 付き合ったばかりだった頃、決まった就職。
 遠くの地の、就職先。
 そこで、俺は仕事を選んだ。
 しぃが嫌がるなら、別れようとすら思っていた。

 だけど、しぃは言った。

――付き合った日、クリスマスイブだけは、会いに来て。それなら、私は満足よ。

 その言葉を真っ直ぐに信じたギコだが、徐々にそれは壊れていって――


165 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:53:22.18 ID:SVwUQY3EO

(,,゚Д゚)(大丈夫じゃない、よな)

 クリスマスイブの朝に会って、その日の夜に帰る。
 そんなので、一年分の寂しさが埋まるわけがない。

 悩むギコを乗せた電車は、音を鳴らして目的地へと走って行った。


169 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:56:06.39 ID:SVwUQY3EO





(*゚ー゚)「ただいま」

 夜、しぃは家に着き、そう呟く。
 地味なOLとして歩き回った足は、少しむくんでいた。
 誰もいない真っ暗な部屋。
 電気を点けて、ベッドに倒れ込む。

(*゚ー゚)「んーと」

 薄目で鞄からピンク色の携帯を取り出し、開いてメールをチェックする。

(*゚‐゚)「無し、か」

 一週間連絡が無いことも多い。
 昔はそれでも耐えられたが、しぃはもう――

(* ー )「あはは、寂しいよ。ギコ君……」

 感情の無い笑いを部屋に飛ばして、涙を零す。
 眠る度に、枕が涙で濡れるようになった。


172 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 02:58:31.97 ID:SVwUQY3EO





 冬を越えて、春が過ぎ、夏を通り越して秋を迎え、風が冷たくなってきた、ある日の午後。

(,,゚Д゚)「ん?」

 パソコンに向かい、書類を作成していたギコの手元、デスクの上で、黒い携帯が震えている。

(,,゚Д゚)「誰だ?」

 開いてディスプレイを確認すると、しぃの名前。


176 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:00:08.62 ID:SVwUQY3EO

 席を立ち、使われていない部屋に入り、通話ボタンを押す。

(,,゚Д゚)「もしもし」

 しぃから電話なんて珍しい。

 ギコはそんなことを軽く考え、話す。
 自分から電話をかけることすら、数ヶ月も無かったことにも気付かなくて。

「……ギ……コ、はぁ……君?」

(,;゚Д゚)「しぃ!? どうした!?」

 電話の向こうからは、途切れそうな細い声。

「……苦……しい……の」

 その言葉を聞き終えた途端、通話が切れる。

(,;゚Д゚)「なんだ!? どうしたんだしぃ!」

 会社だという事も忘れ大声を出し、ボタンを素早く押して電話をかけ直すギコ。

(,;゚Д゚)「くそッ!」

 電源が入っていないだかのアナウンス。


179 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:06:16.88 ID:SVwUQY3EO

(,;゚Д゚)「早退します!」

 部屋から飛び出し叫び、返事も聞かず走って外へ出るギコ。
 スーツ姿のままコートを手に持ち、走る。

 きっと、その姿はとても醜い。
 今のギコの姿を見た誰かは、言うだろう。
 調子が良い、と。
 規則でも無いのに、自分の都合で恋人を振り回して、と。
 自己中心に、生きている男。

 しかし、不器用なギコにとっては、そのどれもが真剣で、何の、計算も無かった。

(,; Д )「ハァッ! ハァッ!」

 電車に飛び乗って、扉に手をついて肩で息を吐くギコ。

(,;゚Д゚)(しぃ……しぃ)

 無事でいてくれ、と願う。
 数時間かけて、ギコはしぃの家へと向かっていた。


182 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:09:04.99 ID:SVwUQY3EO





(,;゚Д゚)「しぃ!」

 夜、しぃの部屋の扉を乱暴に開いて、現れたギコ。

(; ー )「ギコ、君?」

 ギコの記憶の中にある、小綺麗なそれとは少しだけ違う、散らかった部屋の隅に置かれたベッドの上、ピンク色の毛布に包まって、顔だけを出すしぃがいた。

(,;゚Д゚)「風邪か? 大丈夫か?」

 ベッドのすぐ傍の床に膝をついて、ギコはしぃの頭を撫で、額を触る。
 熱は、なさそうだった。

(* ー )「あ……ギコ君の手だ。嬉しいなぁ」

(,,゚Д゚)「……今日はずっとここにいる」

(* ー )「わぁい。ほんとに嬉しい、な」

(,,゚Д゚)「そうか」

 頭を撫でながら、ギコはじっと、死んだ様に感情の見えない、しぃの瞳を見つめていた。


184 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:12:26.65 ID:SVwUQY3EO

(* ー )「ねぇ」

(,,゚Д゚)「なんだ?」

 ゆっくりと体を起こし、そのままギコに抱き着いたしぃ。

(* ー )「……ギコ君」

 ギコの耳元で、甘く、囁く様に――

(* ー )「抱いて……濡れてきちゃった」

 しぃは、言った。

(,,゚Д゚)「――なッ!」

(* ー )「ねぇ、早く、ねぇ」

(,,゚Д゚)「……やめろよ。そういうの」

 しぃは背が低く、もう二十八になる頃だが、童顔で、二十歳と言われても納得できる。
 そんなしぃには全く似合わないその言葉。
 ギコは冷静に、言葉を返す。


188 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:14:44.68 ID:SVwUQY3EO

(,,゚Д゚)「お前は、そんな女じゃないだろう?」

(* ー )「どうして? 私だって大人の女だよ? そしてギコ君は大人の男。私達は恋人同士。自然な流れじゃない?」

(,,゚Д゚)「俺が愛しているしぃは、そんな事言わない」

(* ー )「――ッ!」

 黙る、しぃ。
 肩は震えていて、徐々に瞳に感情が見え始める。

(*゚ー゚)「嫌いに、なった?」

(,,゚Д゚)「なるわけないだろ」

 ぺちんと、軽くしぃの頭を叩くギコ。

(*゚ー゚)「ふふふ。いたいなぁもう」

 頭を両手で押さえ、子供の様に楽しそうに笑うしぃ。
 幼く見えるが、人一倍母性の強いしぃには珍しい、無防備にはしゃいだ姿。
 その姿も、ギコは不思議に思う。


191 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:17:59.16 ID:SVwUQY3EO

(,,゚Д゚)「どうしたんだよ。変だぞお前。なにかあったのか?」

(*゚‐゚)「……なに……か?」

(,,゚Д゚)「?」

 突然、無表情になったしぃ。
 いつも照れている様に朱い頬だけが、ギコの知ってるしぃで。

(*゚‐゚)「寂しい……からだよ」

(,,゚Д゚)「寂しいってお前、もう何年も変わら――」

(* ‐ )「わからないよッ! 寂しいんだもんッ!」

 ギコは、やはり何もわかっていなかった。
 愛する人を、ただじっと待つという事の辛さを。


194 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:20:22.51 ID:SVwUQY3EO

 叫び、顔を両手で隠すしぃ。

(* ‐ )「どんどん、どんどんどんどんどんどんどんどん心が苦しくなって!! 汚くなって!! 寂しくて、頭がおかしくなりそうで、私は、私はッ!!!!」

(,,゚Д゚)「――お前ッ!」

 ギコには、見えた。
 長袖のピンク色のパジャマを着るしぃの腕、顔を隠す腕。
 袖から、白い包帯が一瞬、見えた。

(* ‐ )「やッ――!」

(,;゚Д゚)「なんだよこれ! なにやってんだよお前!」

 両腕の手首に巻かれた、真っ白な包帯。


198 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:22:15.23 ID:SVwUQY3EO

(; ‐ )「いやッ! 見ないでッ! 触らないでッ!」

 しぃは、病んでしまっていた。
 ゆっくりゆっくり、心を寂しさに食べられてきた。

(; ‐ )「嫌なの! 寂しいだなんて言って、ギコ君に迷惑をかけて、私は! 私は、そんな女になりたくなかった! だけど、どこかに寂しさをぶつけないと、おかしくなる!、だから自分の――」

 ギコの手を払おうと暴れるしぃ。
 それを、ギュッと強く、ギコが抱きしめる。

(,,;Д;)「もういい! もうわかったから! ちくしょう……バカヤロォ……痛いだろうに……辛いだろうに……ちくしょう、ちくしょう」

 抱きしめ涙を流し、しぃの背中を優しく叩くギコ。


202 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:24:49.08 ID:SVwUQY3EO

 ぽんぽん、ぽんぽんと、何度も何度も、そうしていた。
 それはギコの目一杯の優しさと、泣き顔を見せたくないという、ほんの少しの見栄。

 それは――

(; ‐ )「……うぅ」

 しぃの心を癒すには、十分過ぎるほどのもので――

(* ‐ )「ギコ君、ギコ君、寂しいよ……ギコ君がいなくて寂しいよ。一人はもう、嫌だよ」

 ギコの肩に顔を埋め、涙を隠しながら、しぃは言う。

(,,;Д;)「大丈夫だ。もう大丈夫だから。ずっと傍にいるから。な?」

(* ‐ )「うん……うん」

 抱き合う二人は、いつまでもそのままで――


205 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:26:36.56 ID:SVwUQY3EO





 朝、カーテンの隙間から柔らかい陽射しが零れる、部屋の中。

(,,ーД゚)「ん……うん?」

 ギコは目を覚ます。

(*゚ー゚)「おはようギコ君」

(,,゚Д゚)「おはよう……あれ、仕事は大丈夫なのか?」

 時計を見ると、あと2時間程で、昼になる。

(*゚ー゚)「あはは。ギコ君、今日は日曜日だよ。普通のサラリーマンやOLは休み。ふつーのなら、ね」

 皮肉っぽく言うものの、しぃは楽しそうで。

(,,゚Д゚)「あぁ、そうか。俺やっぱり馬鹿だな」


209 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:28:39.67 ID:SVwUQY3EO

 いつもはぱりっとスーツを着こなしているギコも、この日は髪の毛を色んな方向にはねさせていた。

(*゚ー゚)「今頃気付いたの?」

 くすくすと笑って、一度ギコに抱き着くしぃ。

(*゚ー゚)「朝ご飯、出来てるよ」

(,,゚Д゚)「ありがとう。一緒に食べよう」

(*゚ー゚)「うん。持ってくるね」

 鼻歌を唄いながら、キッチンへ向かうしぃ。

 その小さな背中を見ながらもギコは――

(,,゚Д゚)(会社に……連絡入れないとな)

 そんな事を、考えていた。


212 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:30:49.20 ID:SVwUQY3EO





 昼が過ぎ、夕方になって。

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「……」

 並んでソファーに座り、しぃはギコの肩に頭を預け、ギコはしぃの手を握って、まったりと映画のDVDを観ていた。

(*゚ー゚)「良い映画だったね」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「ギコ君?」

(,,゚Д゚)「ん? あ、ああ。そうだな」

 はっとして、頭を振るギコ。

(*゚ー゚)「……ギコ君」


213 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:32:13.48 ID:SVwUQY3EO

 その姿を見て、しぃは――

(,,゚Д゚)「しぃ、明日買い物にでも行――」

(*゚ー゚)「帰っていいよ。ギコ君」

 そう、告げた。

(,,゚Д゚)「え?」

(*゚ー゚)「仕事、あるんでしょ?」

(,,゚Д゚)「でも……」


216 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:34:32.44 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「私は、大丈夫だから」

 言って、立ち上がり、キッチンへ向かうしぃ。

 戻ってきたしぃの手には、黒い大きなお弁当箱。

(*゚ー゚)「これ、電車で食べて。お昼に作っといたんだ」

(,,゚Д゚)「……しぃ、なんで」

(*゚ー゚)「ギコ君の性格はわかってるよ、大丈夫。それに、もうすぐクリスマスイブだし、また会いに来てくれるよね?」

(,,゚Д゚)「あ、ああ」

 笑顔のまま話すしぃ。
 それは、ギコが愛している、しぃの笑顔そのままで。

(*゚ー゚)「寂しい時は寂しいって言うから。もう、おかしな真似はしないから」

(,,゚Д゚)「……わかった」


220 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:37:21.34 ID:SVwUQY3EO

 立ち上がって、黙ったままスーツに着替え、壁に掛かったコートを手に持つギコ。

(,,゚Д゚)「なぁ、しぃ」

(*゚ー゚)「なぁに?」
(,,゚Д゚)「あと少し金を貯めれば、家が買えるんだ」

(*゚ー゚)「へぇ、凄いね」

(,,゚Д゚)「そしたら今よりずっと安定する。あと三年……いや、二年。そしたら俺達、けっ――」

(*゚ー゚)「三年、でしょ? 見栄張らないの。それと、その先はその時まで言わないで」

(,;゚Д゚)「わ、悪い」

(*゚ー゚)「今日は見送りには行かないね。余計に寂しくなるから」

(,,゚Д゚)「わかった」


223 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:39:37.11 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「ねぇギコ君」

(,,゚Д゚)「ん?」

(*゚ー゚)「帰る前に」

 ――キス、して?

(,,゚Д゚)「……そんな言われ方すると、照れるな」

(*゚ー゚)「ふふっ。色っぽいかな?」

 楽しそうに笑うしぃ。
 返事は無く少しの沈黙があって、そっと、唇は重なって――


226 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:44:26.43 ID:SVwUQY3EO





 電車の中、ギコは珍しく窓際の席に座って、弁当を食べる。

(,,゚Д゚)「うまいなぁ。しぃの弁当」

 卵焼きに、ウインナーに、煮物。
 他にも色々あるが、ギコはとりあえず好きな物を口に運んで、声を漏らす。

(,,゚Д゚)(しぃ……ごめんな、しぃ)

 手首の包帯。
 見るだけで、心が痛かった。
 しぃはもっと、痛かったはず。

 自分の性格は、わかってる。
 だけど、直せと言われて直るものじゃない。

 だから、だから――

(,, Д )「あぁ、本当にうまい。馬鹿だなぁ俺。しぃは、こんなにうまい弁当を作るのに……馬鹿、だなぁ」

 俯いて、呟いて。
 ギコの頬をそっと伝うそれは、お弁当の味を、ほんの少し塩辛くさせて。


230 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:47:05.06 ID:SVwUQY3EO





(*゚ー゚)「やっとこの日が来た」

 部屋の隅に置かれた鏡の前で、しぃは洋服を手にする。

(*゚ー゚)「ギコ君、スカート好きだよね」

 黒いミニスカートを履いて、くるりと回る。

(*゚ー゚)「あと二年もしたら三十代なのに、似合うな私」

 胸を張るものの、若干の虚しさが心に残って。

(*゚ー゚)「巨乳でスタイルの良い女は、みんな爆発しろ」

 黒い言葉を鏡に放ち、肌色のコートを羽織って、水色の毛糸のマフラーを巻いて、しぃは外に出る。

(*゚ー゚)「さむい」

 偶然にもその姿は、一年前のクリスマスイブと同じものだった。


232 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:49:16.31 ID:SVwUQY3EO





 お昼前の駅前通り。
 多くの人で賑わう中。

(,,゚Д゚)「どこへ行きたい?」

(*゚ー゚)「買い物、行こう」

 手を繋いで歩く、二人の姿。

(,,゚Д゚)「何を買う?」

(*゚ー゚)「時計が欲しいな」

 ギコはいつもと同じ、黒いコートを羽織っていた。

(,,゚Д゚)「色々あるなぁ」

(*゚ー゚)「ギコ君はどんな時計が好きなの?」

(,,゚Д゚)「わかんねぇ。買わないから」

(*゚ー゚)「あはは。遅れてるぅー」


235 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:51:08.43 ID:SVwUQY3EO

 ぺちんと、軽く頭を叩く音がして、二人は笑い合う。

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「さっきからずっとそれ見てるね」

(,,゚Д゚)「ん? いや、見てない。全然見てない」

 言いながらもギコの目線は、綺麗なガラスケースの中にある、二つの時計に集中していた。

 銀色に輝く、綺麗な時計。

(,,゚Д゚)「なんでこれ、でかいのと小さいのと、二つセットなんだ?」

(*゚ー゚)「見てるんじゃない。ペアウォッチだよ」

 くすくすと笑うしぃ。

(,,゚Д゚)「ふぅん。めんどくさいな」

 そう漏らしながらもやはり、ギコの目線は離れない。


238 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:52:38.59 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「欲しいの?」

(,*゚Д゚)「ば、いや、欲し、欲しくはないよ。俺は欲しくはない。しぃが欲しがるかなーって」

 慌てて早口になるギコを見て、しぃはまた笑う。
 静かな店内に響かないよう、口を塞いで声を殺して。

(*゚ー゚)「時計、買ってくれるの?」

(,,゚Д゚)「あぁ、しぃへのクリスマスプレゼントだ。買うよ」

(*゚ー゚)「……ギコ君、雰囲気とかそういうの、わかってないよね」

(,,゚Д゚)「ん?」

 笑うしぃの横、不思議そうな顔をするギコ。

(,,゚Д゚)「じゃあこれ、買うか」

(*゚ー゚)「待って」

(,,゚Д゚)「ん?」


242 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:53:48.74 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「私、これがいい」

 しぃが指差したのは、ギコが見ているそれより少し離れた場所にある、ペアウォッチ。

(,,゚Д゚)「いやこれ、ピンク……」

(*゚ー゚)「このキャラ好きなんだ」

 ピンクゴールドで、文字盤には可愛らしいウサギの絵が彫られている。

(,,゚Д゚)「考えなおそう、しぃ」

(;゚ー゚)「えぇ」

(,,゚Д゚)「あっちの方が、高級だぞ?」

(*゚ー゚)「……なんにもわかってないんだから」


245 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:56:02.95 ID:SVwUQY3EO

 たしかに、ピンクゴールドのペアウォッチは、銀色のそれの半分以下の値段で売られている。

(*゚ー゚)「私はこれが欲しいの!」

(,,゚Д゚)「だってピンク……」

(*゚ー゚)「嘘つくの? プレゼントなのに?」

(,;゚Д゚)「う、わ、わかったよ」

(*゚ー゚)「やった!」
 はしゃぐしぃを見て、ギコもなんとなく喜ぶ。
 嬉しさの中に、少しの安心感を潜ませて。


250 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 03:58:03.27 ID:SVwUQY3EO





 お昼ご飯を食べ、街を歩き回る二人。
 用も無いのにスポーツ用品店に入ったり、楽譜も読めないのに楽器屋に入ったり。
 とても楽しそうな、二人の姿。

(,,゚Д゚)「次は?」

(*゚ー゚)「アイスが食べたい」

(,,゚Д゚)「寒いのに?」

(*゚ー゚)「うん」

 繋がれていた手の指は、いつの間にか交互になっている。
 そこには、ずっと笑顔が浮かんでいて。

(*゚ー゚)「今何時?」

(,,゚Д゚)「えっと」

 携帯を開こうとするギコ。


252 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:00:00.86 ID:SVwUQY3EO

 しかし――

(*゚ー゚)「違う」

 それは、しぃに奪われて。

(,,゚Д゚)「おい、返せ」

(*゚ー゚)「あるでしょ、時計。ねぇ、何時?」

(,;゚Д゚)「……う」

 恥ずかしそうにしながら、左腕を伸ばすギコ。
 コートの袖から出てきたのは、ピンクゴールドの時計。
 彫られたウサギの目と、ギコのそれが重なる。

(,,゚Д゚)「もう4時だ」

(*゚ー゚)「ふふ、知ってるよ」

 笑って、ギコの腕に頭を寄せるしぃ。


257 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:03:30.84 ID:SVwUQY3EO

 その腕には、時計。
 ギコのそれより小さい、ピンクゴールドの時計。

(,,゚Д゚)「くそぅ」

(*゚ー゚)「ふふふ」

 恥ずかしそうに頭を掻くギコと、それを見て笑うしぃ。

 二人はそのまま、同じ時を過ごして。

(*゚ー゚)「帰らなくちゃね」

(,,゚Д゚)「……そうだな」

 ギコの顔が、強張る。

(*゚ー゚)「今日は楽しかった。凄く楽しかった」

(,,゚Д゚)「俺もだよ。しぃ」

 そして訪れた、別れの時――


258 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:04:55.07 ID:SVwUQY3EO





(*゚ー゚)「別れよう」

 暗くなった駅のホームに、そんな声が響いた。

(,,゚Д゚)「え?」

(*゚ー゚)「もう、終わりにしよう」

(,;゚Д゚)「な、なんで?」

 戸惑うギコを置いて、しぃは言葉を続ける。


260 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:06:09.95 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「あれから、電話とメール、増えたよね? いつも、心配してくれてたんだよね」

(,,゚Д゚)「あ、あぁ」

(*゚ー゚)「今日も、私の望みを全て聞いてくれた」

(,,゚Д゚)「あぁ」

(*゚ー゚)「嬉しい、嬉しいの。私はすごく嬉しいから、だから」

 ――終わり。

(,;゚Д゚)「意味が、わからないぞ」

(*゚ー゚)「わかってよ。最後なんだから」

(,;゚Д゚)「わからないものはわからない!」

(*゚ー゚)「ギコ君は、優しくなった。物凄く」

(,,゚Д゚)「そうか?」

(*゚ー゚)「怖いんでしょ? また私が、おかしな真似をするんじゃないかって、不安なんでしょ?」

(,,゚Д゚)「――ッ!」


265 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:09:44.72 ID:SVwUQY3EO

 否定、できなかった。

(*゚ー゚)「それは、私が愛しているギコ君の優しさじゃない。ギコ君は、そんな男じゃない。似てるけど、違う」

(,,゚Д゚)「……しぃ」

(*゚ー゚)「だから、ね? 別れよう」

 沈黙。
 重たい重たい、沈黙。

(,,゚Д゚)「今日、最初から、別れるつもりで会ったのか?」

(*゚ー゚)「違うよ」

(,,゚Д゚)「え?」

 一つ息を吐いて。

(*゚ー゚)「あの日だよ、ギコ君が家に来てくれたあの日、決めた」

(,,゚Д゚)「どういう事だ?」

(* ー )「大丈夫なわけ、ないじゃない。三年? 待てるわけ、ないじゃない」

(,,゚Д゚)「……」


267 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:14:21.06 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「だから、私はギコ君を忘れたいの。じゃないとまたおかしくなる。ギコ君の傍にいる私は最後まで、ギコ君が愛してくれた私のままでありたい」

(,,゚Д゚)「なんで……笑えるんだよ」

(*゚ー゚)「女は強いのよ」

 しぃは笑う。
 やはり、ギコが愛している笑顔で、笑う。

 だからこそギコは――

(,,゚Д゚)「……わかった」

 そう言った。

 薄々は、ギコも気付いていた。
 自分が少しずつ、変わってきていたと。
 しぃに対する恐怖と不安が、少なからずあったと。

 しぃの笑顔を見ると、安心する。
 どこまでが愛情なのか、どこからが恐怖なのか、ギコにはわからなくなっていた。


269 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:15:54.09 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「携帯、出して」

(,,゚Д゚)「……お前が奪ったままだぞ」

(*゚ー゚)「あ、そうか」

 へへへと笑い、自分とギコの携帯を、コートのポケットから出したしぃ。

(*゚ー゚)「アドレスも、番号も、履歴も、メールも、全部消して」

(,,゚Д゚)「そこまでするのか?」

(*゚ー゚)「いいから」

 少し戸惑いながらも、カチカチとボタンを押して、しぃの言う通りにしたギコ。

(,,゚Д゚)「消した」

 そこまでして離れたいのかと、ギコは少し、不機嫌になった。

 しかし――


272 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:18:34.57 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「これで、時計だけになったね」

 しぃは、言う。

(,,゚Д゚)「何がだ?」

(*゚ー゚)「二人を繋ぐもの」

(,,゚Д゚)「そういえば、別れるならなんで買ったんだ?」

(*゚ー゚)「会いに来て」

(,,゚Д゚)「え?」

(*゚ー゚)「何年経ってもいいから、ギコ君の中の迷いが消えた時、会いに来て」

(,,゚Д゚)「いや、忘れたいって言っ――」

(*゚ー゚)「家、買うんでしょ? 三年はかかるんでしょ?」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「それ以下でも、それ以上でも、私はどこかにいるから」

(,,゚Д゚)「どこかって」


274 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:20:55.48 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「待つのは辛い。またおかしくなりそう。そうしたら、ギコ君の荷物になる。ギコ君が頑張れない。だから、私は待たない。部屋も引き払うと思う。ギコ君も、良い人がいればその人の隣にいればいい」

――だけど。

(*゚ー゚)「だけど、それでもいつかまた、出会えるのなら」

――奇跡が、あるのなら。

(*゚ー゚)「その時は、もう離れない」

(,,゚Д゚)「……」

(*゚ー゚)「その希望のカケラが、この時計」

 ギコは、目の奥が熱くなるのを感じた。

(,, Д )「お前は、さ」

(*゚ー゚)「なぁに?」

(,, Д )「良い、女だなぁ」

 俯いて、そう言った。


276 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:24:47.13 ID:SVwUQY3EO

(*゚ー゚)「雰囲気も読めないギコ君に言われても、あんまり嬉しくないかな?」

(,, Д )「ははっ」

 しぃの笑顔と、ギコの笑い声。

 それを止めたのは、ホームに流れてくる電車の音。

(,,゚Д゚)「……行くわ」

(*゚ー゚)「うん。元気でね。ちゃんとご飯食べるんだよ?」

 繋いだ手を解いて、ギコは一歩、踏み出した。

 そして、振り返らずに立ち止まって。

(,, Д )「なぁ、しぃ?」

(*゚ー゚)「なぁに?」

(,, Д )「俺は本当にお前を……愛し――」

(*゚ー゚)「言わないで」

 言いかけた言葉を、しぃが遮る。


280 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:27:16.47 ID:SVwUQY3EO

(* ー )「しっかりしてよね、ギコ君」

(,, Д )「ははっ。悪いな」

 また一歩踏み出して、ギコは車内に乗り込む。

(,,゚Д゚)「……しぃ」

 ドアの内側に立つギコと――

(*゚ー゚)「……ギコ君」

 離れた場所で、壁にもたれて、目だけでギコの顔を見るしぃ。

(,,゚Д゚)「きっと、きっとだ……きっとまた、会える」

 その声は、しぃの耳には届かなくて。

 このまま背を向けると、しぃは泣くのだろうか?
 泣きながら、帰り道を歩くのだろうか?

(,, Д )「いや……ないな」


282 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:30:44.26 ID:SVwUQY3EO

 きっと、家に帰ってから泣くのだろう。

(,, Д )「いつも強がって……俺よりずっと、見栄っ張りじゃないか」

――本当に、良い女だ。

 ギコは、まだ遠くから自分を見つめるしぃに背を向ける。

(,, Д )「やべぇ、俺が泣く」

 同時に、鳴り出したベル。
 二人の別れを告げる、最終電車の最後のベル。

(,,゚Д゚)「……」

 まだ閉まらない扉、どうしてか振り向いてしまったギコ。
 しぃの姿を探すも、どこにも無い。

 このまま、足を踏み出してしまおうか。
 電車から降りてしまおうか。

 今にも動き出しそうな足を、ギコは拳で叩く。

(,, Д )「くそ……くそ」


284 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:33:22.95 ID:SVwUQY3EO

 ふと、ギコの頭を過ぎった思い出。

 自分は泣いて、しぃも泣いて、抱きしめたあの日。
 ぽんぽん、ぽんぽんと、背中を叩いて泣き明かしたあの日。

 守ってやりたいと、思った。

(,,゚Д゚)「――ッ!」

 その思い出が、一瞬の甘えを生んで――


287 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:35:09.70 ID:SVwUQY3EO





(* ー )「終わっちゃったなぁ」

 発車のベルが鳴り響く中しぃは、ギコの目の届かない場所に立って、電車を見ている。

(* ー )「帰ったら、泣こう」

 きっと、ギコ君も泣くから。
 そう思い、家に帰ろうとした時、ふと、しぃの目に止まった人がいた。

(*゚ー゚)(あれ?)


289 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:38:02.43 ID:SVwUQY3EO

 電車の最後尾、乗り込もうとするも、慌てていたのか滑って転んでしまった、パンツスーツ姿の女性がいた。

(*゚ー゚)「大丈夫ですか?」

 近付き声をかけ、手を貸したしぃ。

「ごめんなさい。ありがとうございます」

 しぃの手をとって起き上がり、電車に乗り込む女性。
 笑顔をお礼を言っていた。
 歳は、おそらくしぃとそう変わらない。

(*゚ー゚)(彼氏、いるのかな? いや、結婚しててもおかしくないか)

――幸せ、なのかな?

 しぃがそう思った、その時だった。

lw´‐ _‐ノv「えいっ」

 遠く離れたどこかの屋根の上、ずっと二人を見守っていた白い猫が、そう言った。

 同時に、しぃの背後から、声。


292 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:41:57.48 ID:SVwUQY3EO

「ちょ、どいて!!」

(*゚ー゚)「え?――きゃっ!」

 降り口の前に立ったまま考えていて、後ろから慌てて走ってきたサラリーマンを避けられずにぶつかり、しぃは――

(;゚ー゚)「いたたたた」

「大丈夫ですか? すみません。急いでて」

(*゚ー゚)「大丈夫で――あれ?」

 サラリーマンに押されて、電車の中に、入ってしまった。

(;゚ー゚)「え、えぇ!?」

 扉が閉まり、走り出す電車。

 自分が居たはずホームが、すぅっと流れて見えて。


294 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:44:16.22 ID:SVwUQY3EO

 しぃはその中に――



(,;゚Д゚)



 立ちすくむ、ギコの姿を見つけた。


296 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:47:37.74 ID:SVwUQY3EO





 ギコは、飛び出してしまった。
 いけないと思いながらも、甘えに負けてしまった。

 ドアが閉まる直前、降り立ったホーム。
 そこに、しぃの姿は無い。

(,,゚Д゚)「え?」

 動き出した電車。
 それを見ると、電車の中、扉の近く、窓に手を当てる――

(;゚ー゚)

 しぃが居た。

(,;゚Д゚)「……な、なんで?」

 追う事もせずギコはただ、立ちすくむだけで。

(,, Д )「はははっ、なんなんだよ、もう」

 甘えに負けたなら負けたで、いいと思った。
 それが楽ならいいと、思った。


299 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:52:32.94 ID:SVwUQY3EO

 なのに、なのに――

 静かになったホームにしゃがみ込み。

(,,;Д;)「なんなんだよぉ! マジで、俺は何をやってるんだよぉ!」

 泣いて、叫んだ。

(,,;Д;)「馬鹿じゃねぇのほんと。ちくしょう、くそぉ!」

 ついに膝をついてしまい、胸をギュッと掴んで、ギコは溢れる涙を地面に落とす。


302 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:56:20.27 ID:SVwUQY3EO

 もう、駄目な気がした。
 こうやって甘えに負けて、しぃの傍にいようとしたって、何かが邪魔をするのだろう。

 なぜか、そんな気がした。

 もう、会えないかもしれない。
 あの笑顔、見れないかもしれない。
 何もわからない。
 もう二度と、会えないのかもしれない。

 だけど、だけど――

(,,;Д;)「願ってやるさ! みっともなくてもな!」

 立ち上がり、左腕を伸ばして、時計を見る。
 可愛らしいウサギが彫られた、ピンクゴールドの時計。
 しぃとお揃いの、時計。


304 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 04:58:09.75 ID:SVwUQY3EO

 ギコは時計の竜頭に指を当て――

(,,;Д;)「待っててくれよ。いつかまた、始めるから。この時間から、始めるからな!」

――時を、止めた。

 全てを無視して流れ続ける時の中。
 ギコのしぃの約束は止まったまま、動かない。
 いつかまた、動き出すのか。
 それとも、永遠に止まったままなのか。

 それは、誰にもわからない事だった――


306 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:03:25.05 ID:SVwUQY3EO





lw´‐ _‐ノv「これで、良いんだよね」

 どこかの屋根の上、耳を伏せて、悲しそうな顔で言った、白い猫。

( ・∀・)「そうだね」

 隣には、変な人。

lw´‐ _‐ノv「幸せって、なんだろう」

( ・∀・)「わからない。けど一つだけ」

lw´‐ _‐ノv「?」

( ・∀・)「君は間違ってない。僕は、そう思う」

 やけに真剣味のある声を聞き、白い猫はふっと笑う。


308 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:05:14.89 ID:SVwUQY3EO

lw´*‐ _‐ノv「……ありがとう」

 少しだけ、変な人が良い人に見えた。

lw´‐ _‐ノv(なんで隣にいるのこの人)

( ・∀・)(この猫、可愛いなぁ)

 少し不思議な空気は、漂っていたが。


309 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:06:06.76 ID:SVwUQY3EO




【最終電車のはなし:今見える簡単な幸せの味と、未来に願う過酷な幸せの味。どちらの方が、美味しいのだろう】





311 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:09:26.56 ID:SVwUQY3EO

【笑顔のはなし】


lw´‐ _‐ノv「……」

 屋根の上で、白い猫は喋らない。
 もしかしたら、あの二人に余計な事をしたのかもしれない。
 そんな思いが胸にあって、白い猫は、少し落ち込んでいた。

( ・∀・)「ふぅ」

lw´‐ _‐ノv「だから、なんで居るの? そしてなんで無傷?」

 やはり隣には、変な人。

( ・∀・)「名乗るほどたいした名じゃないが、誰かがこう呼ぶラフ・メイカー」

lw´‐ _‐ノv「はい?」

( ・∀・)「君に、笑顔を持ってきた。寒いから入れてくれ」

lw´‐ _‐ノv「外だよ」

 ひゅうっと冷たい風が吹いて、変な人はぶるっと震える。


312 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:10:37.87 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「頼むから消えてくれ、って言って」

lw´‐ _‐ノv「えっ嫌だ」

( ・∀・)「あれ? なんで?」

 人が大好きな、白い猫。

lw´‐ _‐ノv「別にいいよ。居ても」

( ・∀・)「そんな言葉を言われたのは、生まれてこのかた初めてだ。非常に悲しくなってきた。どうしよう、泣きそうだ」

lw´‐ _‐ノv「泣くの?」

( ・∀・)「いや、そうじゃなくて。うーん。まぁいいや」

 やはりよくわからないと、白い猫は思う。


315 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:14:54.13 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「泣いて。しゃっくり混じりの泣き声で」

lw´‐ _‐ノv「えっ嫌だ」

( ・∀・)「……」

lw´‐ _‐ノv「……」

( ・∀・)「鉄パイプ、ある?」

lw´‐ _‐ノv「無い」

( ・∀・)「小さな鏡」

lw´‐ _‐ノv「無い」

 また、ひゅうっと吹き抜ける、冷たい風。

( ・∀・)「あっダメだもうダメだ。再現できないコレは」

lw´‐ _‐ノv「なんの話かわからない」

( ・∀・)「もういい、笑って?」

lw´*^ ー^ノvニコッ

( ・∀・)「あっ可愛い」


318 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:18:21.66 ID:SVwUQY3EO

lw´*^ ー^ノv

( ・∀・)「君の泣き顔笑え――あっこの子すっごい可愛いどうしよう可愛い」

lw´*^ ー^ノv

( ・∀・)「喋って」

lw´‐ _‐ノv「はい」

( ・∀・)「楽しいね」

lw´‐ _‐ノv「楽しいね」

 ふふふと、笑い声二つ。

 少し落ち込んでいた白い猫は、変な人のおかげで笑えた。
 気持ちが、軽くなった。

 呆れたりは、しなかった。

lw´‐ _‐ノv(この人、面白いな)

( ・∀・)(可愛い)

 少しだけ、二つの心は重なっ――てないけど、まぁいいや。


320 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:20:34.06 ID:SVwUQY3EO




【笑顔のはなし:BUMP OF CHICKENで「ラフ・メイカー」でした】





322 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:24:40.15 ID:SVwUQY3EO

【君のはなし】


( ・∀・)「君は、どこから来たの?」

lw´‐ _‐ノv「どっか。あなたは?」

( ・∀・)「どっか」

 一人の人間と、一匹の白い猫。

lw´‐ _‐ノv「明日は、どこへ行くの?」

( ・∀・)「どっか。君は?」

lw´‐ _‐ノv「どっか」

 不思議な不思議な、その会話。

 少しだけ、穏やかな時間が流れてから、変な人は口を開く。


323 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:26:12.02 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「大丈夫」

lw´‐ _‐ノv「え?」

( ・∀・)「君の願いは、ちゃんと叶うよ」

lw´‐ _‐ノv「願い?」

( ・∀・)「楽しみに、しておくといい」

 言葉の意味はよくわからなかったけど――

lw´*‐ _‐ノv「うん」

 猫はそう呟いて、姿を消した。

( ・∀・)「あれ、どこ行くの? プラスチックのナントカ剣で――」

 やはり意味不明な事を言い続ける、変な人を一人残して。


327 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 05:39:42.68 ID:SVwUQY3EO




【君のはなし:BUMP OF CHICKENで「魔法の料理〜君から君へ〜」でした】





328 名前: ◆HAaUyuY2Cg[連続でさるっ!] 投稿日:2010/11/17(水) 06:00:30.05 ID:SVwUQY3EO




【えぴろーぐ】





329 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:06:03.48 ID:SVwUQY3EO

 夕焼けに染まる坂道。
 自転車のペダルを漕ぐ、少年がいる。

( *^ω^)「ツン、今日はデートするお! 制服プレイだお!」

ξ#゚听)ξ「あ? なんて?」

 少年の腰に手を回し、怒る少女がいる。

( ;^ω^)「制服デート、するお」

 幼いが故に輝く二人の恋は、ゆっくりゆっくり、前に進んで。

ξ*゚听)ξ「もう、しょうがないんだから」

 頬に朱に染めて、照れ臭そうな声が空へと響く。

 小さな幸せが、そこにはあって――


330 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:11:49.48 ID:SVwUQY3EO





J( 'ー`)し「ステッキー、ご飯よ」

 小さな家の中、響く声は明るくて。

(*・_・*)「ご飯だぴぃや」

 歪んだ愛情を一身に受けた青年は、すっかり馴染んでいて。

J( 'ー`)し「カーチャンこれから、愛人の警察官と火遊びしてくるからね」

(*・_・*)「嫌だぴぃや」

J( 'ー`)し「ワガママ言わないの」

(*・_・*)「ぴぃやぴぃや。ぴぃやはカーチャンが大好きぴぃやぴぃや」

J( 'ー`)し「あらあらうふふ」

 こいつらは一体何なの?
 キャラが、勝手に、動くッ!

 まぁ、これはこれで一つの幸せで――


331 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:19:15.36 ID:SVwUQY3EO





 そして、白い猫の心に残った、小さな蟠り。

 その、約束は今――

「しぃ!」

「え? ギコ……君?」

 ついに果たされて。

「家、買ったんだ。良い家だぞ。25年ローンだ。頑張るからさ。俺と……結婚してくれ」

「ローンて……。もう、変わってないなぁギコ君は」

 あの駅のホームで止まった時計の針も、歩み出して。


332 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:25:41.28 ID:SVwUQY3EO

「しぃは綺麗になった。サンタモニカの風の様に」

「なぁにそれ?」

「あれ? ドラマでは上手くいってたのに」

「……もう」

 くすくすと、懐かしい笑い声が寒空に溶けて行く。

「しぃ、指輪を買いに行こう。給料の三ヶ月分とはいわず高いやつ、買ってやる」

「それ、プロポーズの前に用意しとくもんだよ」

「えっ」

「高くなくていいから、可愛いやつがいいな。お揃いの」

「えっ嫌な予感がする」

「ていうか、私まだ返事してないよ?」

「えっダメなの?」

「……もうっ! ぐだぐだじゃない!」


334 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:33:59.67 ID:SVwUQY3EO

 自己中心に走り続けた男と、それを待ち続けた女。

「ダメなわけないよ。愛してるよ、ギコ君」

 大人であるが故に、甘くはいられなかった二人の愛。

「……いぃぃやったぁぁぁぁ!!!! あ、いや今の大声はアレじゃなくてソレで……うん。俺も愛してるよ、しぃ」

 それはようやく、結ばれる。

「ふふふ」

 喜びの声と弾ける様な笑顔を連れて、二つだった影は一つに重なる。

 最終電車のベルが鳴っても、二人は抱きしめ合ったまま。
 寒空の下、そこには確かな幸せがあった。

 それはきっと、ずっとずっと変わらないもので――


335 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:39:42.85 ID:SVwUQY3EO





( ・∀・)「ね? 願い、叶ったでしょ?」

lw´‐ _‐ノv「うん」

 不思議な一人と一匹が、それを見ていて――

( ・∀・)「さぁアルエ、君の心に巻いた包帯を――」

lw´‐ _‐ノv「またなんか始まった」

 白い猫の頭を撫でながら、変な人は喋り倒す。

lw´‐ _‐ノv(この人は結局、なんなんだろう?)

( ・∀・)(不思議な猫だけど可愛いからいいや)

 いつの間にか仲良くなった一人と一匹は、考える事も同じ――ではないが、それなり楽しくて。

( ・∀・)「午前2時になったら踏み切りに行こう。望遠鏡を担いで」

lw´‐ _‐ノv(この人たまに怖い)


336 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:42:09.37 ID:SVwUQY3EO

 そうだ、と一言。

lw´‐ _‐ノv「えいっ」

 右が青、左が黄色の大きな瞳を細めて、人々を幸せにする不思議な力を使う白い猫。

 すると――

( ・∀・)「そして僕は君と二人、ホウキ星を探すんだ、それから」

lw´‐ _‐ノv「あれ、変わらない」

 ――まさか。

lw´‐ _‐ノv「今が、幸せなの?」

( ・∀・)「うん」

lw´‐ _‐ノv「返事したッ!」

( ・∀・)「君もそうでしょ? 名前も知らない可愛い猫」

 変な人は頭を撫でて、白い猫に言う。


338 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:51:09.71 ID:SVwUQY3EO

lw´*‐ _‐ノv「……」

( ・∀・)「なんだろうね。頬が朱いよ白い猫」

 不思議な白い猫と、不思議な人間。

( ・∀・)「君はいつも、人々を幸せにするね」

lw´‐ _‐ノv「うん。幸せ、すき」

( ・∀・)「だったら僕は、君の幸せを願う」

lw´‐ _‐ノv「え?」

( ・∀・)「僕は、いつだって君の幸せを願うんだ。そして、それが僕の幸せだよ。可愛い猫」

 またまた、白い猫の頭を撫でる変な人。

lw´*‐ _‐ノv「なに、それ」

 二人の間には、不思議な不思議な幸せがあった。


339 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 06:54:05.49 ID:SVwUQY3EO

( ・∀・)「僕、吊橋を渡って雷に打たれるから、君、タンポポの役やって」

lw´‐ _‐ノv(役って言っちゃった)

 よくわからないけど――

lw´‐ _‐ノv「またね」

( ・∀・)「あれ、また消える。僕はただの人間だから、君を捜すの結構大変なんだけ――まぁいいか」

 ずっとずっと、白い猫は幸せだった。

 幸せに生きる不思議な白い猫は、人々を少しだけ、幸せにすることが出来たんだってさ。


340 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 07:00:47.40 ID:SVwUQY3EO

 そして、これからも――

lw´‐ _‐ノv「あ、あの人がいいかな」

 白い猫は、自慢の鍵尻尾を揺らしながら――

lw´‐ _‐ノv「えいっ」

 人々を幸せにするんだってさ。


341 名前: ◆HAaUyuY2Cg 投稿日:2010/11/17(水) 07:02:39.97 ID:SVwUQY3EO




lw´‐ _‐ノv白い猫はいつだって、君の幸せを願っているようです




【おしまい】






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