ζ(゚ー゚*ζは天使でも悪魔でもないようです

94 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 19:10:06 ID:LhDHahrI0
この学校にはこのような抗争があったのか。
デレは身をもって体験した。
津雲ツンと都村トソン。過去、二人の間に何があったかは知らない。
だが何かしら起因となる事件があったのは確かだろう。

それにしても――。
不穏である。

あまりいい予感はしなかった。

午後からの授業は手につかなかった。

まだクラスメイトが荷造りにいそしんでいる中、デレは一番に教室を飛び出した。
チャイムすら鳴り止んでいない。
会いたい人物がいる。

幸いにも、職員室に向かう途中の廊下で都合よく発見できた。

ζ(゚ー゚*ζ「兄さん!」

(´・ω・`)「デ、デレ!? い、い、いや、鈴院さん」

兄である。

95 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 19:21:08 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「兄さん時間ある? ちょっと相談したいことがあるの」

(;´・ω・`)「こっ、こら! 学校では兄さんって呼ぶなって言ってるでしょ!
      僕だって馴れ馴れしくデレと呼ばないように細心の注意を払ってるんだから。
      うっかりで妹のバラ色の学園生活が終わってしまったら、僕は生きていけない!」

ショボンは耳元で叱った。
デレは少し呆れる。

ζ(゚ー゚;ζ「周りに誰もいないから大丈夫だよ……。
       いても私たちの会話なんて詳しくは聞かないだろうし」

(´・ω・`)「あー、おほん。それより鈴院さん。
      先生に相談があるとはどういうことでしょうか?」

あくまで他人を装ってショボンは尋ねる。
デレは気にせず、親族に対する態度のまま返答する。

ζ(゚ー゚*ζ「それなんだけど……一回場所変えようよ。
       このままじゃ兄さんとスムーズに受け答えできなさそうだし。
       折り入って話したいことなの。生徒と先生じゃなくて、兄と妹として」

(´・ω・`)「折り入って? そんな大事な話なんですか?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

96 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 19:32:45 ID:LhDHahrI0
ショボンは暫く頭を悩ませてから、

(´・ω・`)「ええと、それじゃあ、教員準備室にでも行きますか。社会科の。
      あそこなら放課後誰かが来ることはありませんし」

ζ(゚ー゚*ζ「ありがとう兄さん!」

(;´・ω・`)「だから兄さんはやめなさいって再三」

ζ(゚ー゚*ζ「早く連れていってよ、兄さん」

デレは段々焦る兄の様子がおかしくなってきた。

(´・ω・`)「その悪戯っぽい笑顔はなんなんだまったく……。
      ああもう! ついてきて!」

ショボンは半ば自棄気味に会話を打ち切ると、早足で歩き出した。
縦に伸びたひょろっとした背中をデレは追いかける。

ζ(゚ー゚;ζ「は、速いってば……」

歩幅がまるで違うから、デレはほとんど走るような移動になる。

97 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 19:45:00 ID:LhDHahrI0
渡り廊下を通過した先の北校舎二階、その最奥に教員準備室はあった。

北校舎はデレの教室がある南後者よりも建築が幾分古く、
準備室の床を踏むたびに小さくみしみしと不安を煽るような音がする。

(´・ω・`)「……ふう」

ショボンは回転椅子に腰かけると、ひとつ軽い溜め息を吐いた。

見回すと、あるのは資料らしき紙の束だけで、デレにとって面白そうな対象は何もない。
机にあるのもプリント。棚に並んでいるのもプリント。
だからインクの匂いが充満している。
目ぼしいものといえば地球儀ぐらいで、それすらも経年劣化からか金具が錆びついていた。

壁には世界地図が飾られている。至る箇所にシミが浮いている。

(´・ω・`)「ま、こんな具合でどうしようもなくしみったれた場所だから、
      他の生徒や先生なんて寄りつかないよ」

ショボンはようやく、自宅で見せるような弛緩した表情と口調に転じた。
そのことにデレは安心する。

98 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 19:54:12 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「誰も来ない、かあ……。
       けど兄さん以外にも社会科の先生はいるでしょ?」

(´・ω・`)「放課後になんて来ないよ。授業もないのに授業用の資料を漁ってどうするんだ。
      授業の準備は授業前にやるもんだよ
      自己満足で夜な夜な真っ白い壁に向かって高説を垂れたいっていうなら別だけどね」

それより、と兄は訊く。

(´・ω・`)「さて、相談ってなにかな? なんだか深刻そうな雰囲気は感じ取ってるけど」

ζ(゚ー゚*ζ「それなんだけど……」

デレは昼間に起きた出来事をショボンに伝えた。

天使委員会。津雲ツン。品性。規律。平等。拘束。告解。
悪魔委員会。都村トソン。逸脱。破戒。甘言。誘惑。赦免。

一切合財を語って聞かせた。

(´・ω・`)「ふうん……成程ねぇ」

ショボンは思惟しながら顎をさすっている。

99 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 20:05:02 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「初めて聞いたよ。そんなものがあるんだなあ、この高校」

ζ(゚ー゚*ζ「兄さん知らなかったの?」

(´・ω・`)「うん。初耳さ」

ζ(゚ー゚*ζ「そっかあ……」

デレは残念そうに俯く。

(´・ω・`)「なんだい、そんながっかり感を前面に押し出したりして」

ζ(゚ー゚*ζ「うん……あのね、私、ちょっと気になったの。
       先生たちの間でふたつの委員会がどういうふうに思われてるのかなって、
       兄さんなら知ってるかもって思ったんだけど……」

(´・ω・`)「ううん、少なくとも僕が職員室にいた時には聞かないなあ。
      まあ、誰も話題にしないってことは、存在が黙認されてるんだろうね。
      もし教師間で問題になってるのなら僕にも話がくるはずだ」

ショボンは淡々と解析していく。

100 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 20:23:49 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「黙認って……風紀委員会がふたつに別れちゃってるのに?」

(´・ω・`)「最近はどの高校も生徒の自主性とやらに任せてるからね。
      生徒の揉め事は生徒たちで解決しろってことじゃないかな。
      竹刀を持った体育教師がビシバシ取り締まる、なんて光景はもはや過去の遺物だね」

あるいは、とショボンは続ける。

(´・ω・`)「単純に関わりたくないだけかもしれない」

ζ(゚ー゚*ζ「どういうこと?」

(´・ω・`)「デレが目にした限りだと、その天使委員会と悪魔委員会というのは、
      どっちも周囲の人間に畏怖を与えつけてるように感じたんだろう? 特に会長が」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

天使委員会のツンの説教を聞くと、
当事者でもないのに全身を鋭い針で穿たれたと錯覚するほどに緊迫した。

一方、悪魔委員会の会長トソンからは、形容しがたい薄気味悪さを覚えた。
背中に冷水を少しずつ流し込まれているようでもあり、
体の内側で徐々に温度を上げていくとろけた炎を起こされたようでもあった。

101 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 20:31:39 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「じゃあ教師もデレと同じさ。口を出すのが怖いんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「怖い?」

デレはその発言にぴくりと反応した。

ζ(゚ー゚;ζ「先生なのに?」

珍妙な話である。

(´・ω・`)「先生ってのは生徒が怖いんだよ。
      大体みんなそうさ。各々理由は違えどね」

真顔でショボンは答えた。

ζ(゚ー゚*ζ「……兄さんも?」

(´・ω・`)「僕はおばけみたいな超自然的な存在のほうがよっぽど怖いよ」

そう言ってショボンは口元だけで笑った。

102 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 20:39:41 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「今回のケースだとそうした感情に加えて、
      厄介事に関与したくないという自己保身もあるんじゃないかな。
      こっちはよくある話さ。変に首を突っ込むと生徒から恨みを買いかねないからね。
      情けない話だけど」

ζ(゚ー゚*ζ「そういうものなのかな……」

合点はいかないが、現役の教師であるショボンが言うのだから、そういうことなのだろう。

(´・ω・`)「いずれにせよ、詳細が判明しないことにはなんとも言えないけどね。
      僕の話した内容はあくまでも憶測だから」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。でもなんとなく、先生たちの事情もわかったよ。
       付き合ってくれてありがとう、兄さん」

(´・ω・`)「そりゃどうも。しかし……天使と悪魔か」

天井を見上げながらショボンが呟いた。

ζ(゚ー゚*ζ「どうかしたの?」

(´・ω・`)「いや……よくできてるなあ、と思ってさ」

ひゅう、と隙間風が吹いて、ショボンの前髪が揺れた。
積み重ねられた資料の山がわさわさ音を立てる。

103 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 20:49:12 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「よくできてるって、何が?」

(´・ω・`)「『天使』と『悪魔』っていうネーミングだよ。
      デレの友達の話だと、その、高岡さんだっけか」

ζ(゚ー゚*ζ「そうだよ。私の隣の席だから、兄さんも授業の時に見てると思うけど」

(´・ω・`)「ああ、そうそう思い出した。あの快活そうな子か。
      で、その子から教わった話だと、
      ふたつの委員会は元来ひとつだったんでしょ?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん」

そう聞かされている。

(´・ω・`)「天使委員会が校則原理主義、悪魔委員会が校則排他主義、だったね。
      ……デレ、君はどっちのほうが風紀委員会として正常だと思う?」

ζ(゚ー゚*ζ「え? それは、常識的に考えたら天使委員会のほうだけど……」

天使委員会が掲げている方針自体は風紀委員会としては至って正しい。
ただ過度なだけだ。

104 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 20:58:47 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「ということは本流は天使委員会なわけだ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなるね」

(´・ω・`)「本流が天使なら、大元も天使だったはず。
      元々あった風紀委員会は、言うなれば天使委員会だったわけだ」

ζ(゚ー゚;ζ「でもそれって、どの学校でもそうだと思うけど」

当たり前のことだ。
風紀委員会の原則とは基本的にはツンの考えをマイルドにしたものである。

(´・ω・`)「そうさ。都村さんが異端なだけだよ。まあ是非は別としてね。
      とにかく、天使委員会から突然変異的に悪魔委員会が生まれたことになる。
      いやあ、これがよくできた話だ」

ζ(゚ー゚;ζ「全然わかんないよ」

デレには――兄が楽しんでいるように映った。

表情や声色にはっきりとした変化があったわけではないが、
長く一緒に暮らしているから、些細な心の揺らめきにも気づくし、区別がつく。

ただ、一体どの部分がこの青年の興味の種になっているのかはさっぱりだ。

105 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 21:20:36 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「悪魔というのは元を辿れば神に仕える使いだったんだ。
      要するに天使と源流が同じなんだよ」

ζ(゚ー゚;ζ「えっ、そうなの?」

(´・ω・`)「ああ。キリスト教では悪魔とは神に背いた天使が堕落した姿とされている。
      悪魔に対する西欧での見解は様々だね。
      人間を破滅に導くものだという点ではおおむね一致してるけど」

ζ(゚ー゚*ζ「破滅……」

トソンの感情のない顔が脳裏に浮かんだ。

(´・ω・`)「そうそう、芸術や文化と悪魔の関係も深いんだよ。
      たとえば音楽であれば技巧を極めた楽曲に悪魔の名を冠することは稀ではないし、
      そもそも素晴らしい演奏の腕や歌声の持ち主を、
      『悪魔に魂を売った』とある種の畏敬の念をもって迎えることもあったようだ」

ζ(゚ー゚*ζ「変な話。そんなことあるわけないのに……」

(´・ω・`)「それよりさらに昔の時代は『悪魔憑き』なんて言われる人もいたからね。
      もっとも悪魔憑きなんてのは今で言うパニック症候群や解離性障害なんだろうけど」

106 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 21:33:54 ID:LhDHahrI0
ショボンは背もたれに一度大きく寄りかかり、それから姿勢を直した。
上背があるから立っているデレとさほど目線の高さが変わらない。

(´・ω・`)「悪魔憑きといえばエクソシストだな。
      デレも映画とか漫画とかで見たことあるでしょ?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。悪霊退散悪霊退散とか唱えて、悪魔を追い出しちゃう人でしょ?」

(´・ω・`)「そう、それ。悪魔悪霊悪鬼退治の専門家」

ζ(゚ー゚*ζ「私、結構あの手のお話好きだなあ。ハラハラドキドキできるしね」

(´・ω・`)「信じられない趣味をしているなデレは……。
      僕は子供の頃エクソシストの映画を見て大泣きした記憶があるというのに」

ζ(゚ー゚*ζ「あはは、兄さんってその頃からおばけが苦手だったんだ」

(´・ω・`)「しっ、失礼だな。これでも克服できるよう毎日寝る前にお祈りしてるんだぞ。
      まあそんな僕のプライベートなエピソードはどうでもいいんだ。
      第一悪魔とおばけは別物だよ別物。元々はカトリック教会の儀式だったんだけど……」

そこでショボンは言い澱む。
暫時思考してから、感心したような表情を作る。

(´・ω・`)「ああ、そうか……ここでも構造が重なるのか」

107 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 21:46:15 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「どうしたの? 頷いたりして」

(´・ω・`)「いやあ、偶然って怖いなデレ。それとも必然だったのかな。
      僕らにとっての偶然は神の必然なのかも知れないよ」

ζ(゚ー゚;ζ「いきなり格言めいたこと言わないでよ。なにかあったの?」

(´・ω・`)「うん、ちょっとね」

反対側の校舎から吹奏楽部の練習が聴こえ出した。

(´・ω・`)「デレ、カトリックとプロテスタントの違いは知ってるよね?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、前の学校で一学期の時に習ったよ。
       キリスト教がふたつに別れたっていう……あ」

そういうことか。

(´・ω・`)「新教――プロテスタントはカトリック教会から分離したんだ。
      他にも分派はあるけれどプロテスタントはカトリックとは大きな相違があるから、
      多くの場合この二種で語られるね」

108 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 21:58:14 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「大きな違い……ってなに?
       私が習ったのは、神父と牧師の違いくらいだけど……」

(´・ω・`)「他に有名なのは懺悔の有無かな。新教にはない」

ζ(゚ー゚*ζ「懺悔……」

反省を促すツンの高い声が耳の奥で反響する。

(´・ω・`)「もっとも僕が着目したのはそういったとこじゃないんだけどね。
      もう一個抜き打ちテストしていいかな、デレ?
      性善説と性悪説ってわかるかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「えーと、人間は生まれた時からいい人って考え方と、
       生まれた時は悪い人って考え方だっけ?」

(´・ω・`)「大体それで合ってるよ。
      キリスト教からは少し離れるけど、この倫理観を提唱したのはそれぞれ孟子と荀子。
      どちらも中国の思想家だ」

ショボンは壁に張られた世界地図の、中国大陸の辺りを指差した。

ζ(゚ー゚;ζ「いきなり大陸ごと飛んじゃった」

(´・ω・`)「平面図上の大陸は動かないけど、口先なら簡単に飛躍できるからね。
      まったく仮定って論法は便利だよ。なんでもできる」

109 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 22:08:17 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「それより、なんでいきなり性善説だとか、そういう話になるの?」

(´・ω・`)「キリスト教にも関係があるからね。
      よくキリスト教は性悪説って紹介されるけどあれは勘違い。
      キリスト教は基本的には性善説が根底にある宗教だ。
      とはいえほとんどの宗教が性善説と言ってしまってもいいんだけどさ」

ζ(゚ー゚;ζ「勘違いもなにも、私は前提になる知識すらないよ」

ついていくのがやっとである。

(´・ω・`)「ううん、じゃあ、なんで勘違いされるかって話にしようかな。
      アダムとイヴはデレも知ってるだろう?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは知ってるよ。一番最初の人類でしょ?」

(´・ω・`)「そうだね。他にこの二人について既知のことはあるかな?」

ζ(゚ー゚;ζ「ええと……食べちゃいけないりんごを食べちゃって大変なことになったとか、
       そのくらいかな……」

我ながら幼稚な説明だとデレは思う。

110 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 22:18:54 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「そうそう。デレの言うとおりさ。
      二人は蛇の誘惑に乗ってしまって
      神様から絶対に手をつけるなと命じられた木の実――禁断の果実を食べてしまった。
      このことを神が知ったら、そりゃもう大激怒だよね。
      二人は永遠の生を失ってエデンから追い出されちゃったんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「え? でもそれって蛇が悪いんじゃないの?」

(´・ω・`)「そうだよ。だから神ヤハウェは蛇を一番に裁いたんだ。
      一説には蛇を容姿を偽った悪魔とする見方もあるくらいさ」

ζ(゚ー゚*ζ「へえ……」

(´・ω・`)「余談はともかく、アダムとイヴがこの犯した行動を『原罪』と呼ぶんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「原罪……」

なんとなく声に出してしまった。

(´・ω・`)「キリスト教によると、原罪はアダムとイブの子孫である
      僕ら人間すべてに受け継がれているとされている。
      そこから再び神聖との調和を目指すのが僕らの使命なんだってさ」

111 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 22:28:27 ID:LhDHahrI0
ショボンはデレの目を見た。

(´・ω・`)「もうわかったんじゃないかな?」

ζ(゚ー゚;ζ「いきなり『What?』だけで訊かれても全然だよ」

(´・ω・`)「ごめんごめん。じゃあこうしよう。
      さっきの話を聞いて、キリスト教は原罪から何を説いてるんだと思った?」

ζ(゚ー゚*ζ「ええと、人々は原罪を雪ぐために頑張るように……」

(´・ω・`)「性悪説とは、人間の本質を悪として、それを修正するために謹んで生きよとする」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ、そっか。一緒だ」

(´・ω・`)「うん。この原罪のせいで、キリスト教は性悪説だと誤解されがちなんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「違うの?」

事前知識がなかったデレとしてはすっきりとした解決である。

(´・ω・`)「最初に言ったじゃないか。勘違いだって。キリスト教は性善説だよ」

ショボンは首を軽く揉んだ。

112 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 22:39:51 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「性善説というのは人の本性を善人だとして、
      そこから悪の道に逸れないよう信仰を重んじるべしとする考えだけど、
      根本的にはキリスト教も同じだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「だけど、私たちには生まれた時から原罪があるんじゃ……」

(´・ω・`)「そんなものはあって当然なんだよ。
      原罪とは仏教でいうところの煩悩みたいなものだ。
      煩悩があるから仏教は性悪説だなんて誰も言わないでしょ?」

言われてみれば――である。

(´・ω・`)「キリスト教だけが元となった逸話が逸話だけに拡大解釈されがちなんだ。
      アダムとイヴは何も知らなかったから罪を犯さなかっただけだよ。
      犯そうにもそんなものはどこにもないんだから。
      僕たちは知ってしまったから、それどころか規範となる掟を作ってしまったから、
      それを破ってしまう可能性を秘めてしまってるんだ」

ζ(゚ー゚;ζ「よくわかんないよ」

(´・ω・`)「それじゃちょっと例え話でもしてみようか」

ショボンは右手をひらひらと動かす。

113 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 22:51:00 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「仮に僕が仕事がなくなって無一文になってしまったとする」

ζ(゚ー゚;ζ「いきなり不景気な例えだね」

(´・ω・`)「お金がないからデレにごはんを食べさせてやることもできない。
      満足に食事をとれないデレはお腹がすく。
      そりゃもう町を歩くとお腹がぐきゅぐきゅ鳴る音で皆が振り向くくらいに」

ζ(゚ー゚;ζ「もう! そういう描写はいいから!」

(´・ω・`)「そんな時、公園の水飲み場からの帰り道で」

ζ(゚ー゚;ζ「なんで私そんなところに行ってるの」

(´・ω・`)「もちろん胃を水でいっぱいにして餓えをしのぐためだよ」

ζ(゚ー゚;ζ「しないよそんなこと!」

(´・ω・`)「それはさておき、帰り道、デレはある家の庭に植えられた柿の木の枝が、
      塀を超えて伸びていて、しかもその先に実がなっているのを発見する!」

ζ(゚ー゚;ζ「サザエさんみたいな世界観だね」

至極どうでもよかった。

114 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 22:58:01 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「空腹のデレはその柿の実をこっそり持ち帰ろうとする。
      ところが塀の前には『この柿、取るべからず』の張り紙がしてあった」

ショボンは両手の親指と人差し指で長方形を作ってみせた。

(´・ω・`)「デレは伸ばした手を一旦引っ込めて、逡巡する」

ζ(゚ー゚*ζ「うんうん」

(´・ω・`)「悩んだ挙句、背に腹は代えられないデレは柿を取ってしまった」

ζ(゚ー゚*ζ「……それで?」

ショボンは顔をやや寄せる。

(´・ω・`)「デレはこの行為を悪いと思うかい?」

ζ(゚ー゚*ζ「え? そりゃあもちろん、いけないことだよ」

(´・ω・`)「どうしてだい?」

ζ(゚ー゚*ζ「だって、『ダメ!』って張り紙に書いてあるし……。
       それにたぶん窃盗罪だよ。法律がどうなってるかなんて、よくわかんないけど。
       何よりその家の人に悪いよ」

115 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 23:06:45 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「まあそうだろうね」

ショボンは満足げに二度小さく頷いた。

ζ(゚ー゚*ζ「……それがどうかしたの?
       全然見えてこないよ、兄さんの言いたいこと」

(´・ω・`)「いいかいデレ、『お腹がすいたから、ダメだけど柿を取っちゃおう』、
      こう考えることが『原罪』なんだよ」

ζ(゚、゚*ζ「考えたこと? やったことじゃなくて?」

(´・ω・`)「ああ。実際に行動に移したらそれはもう犯罪だ。
      ということはさっきの例え話だとデレは犯罪者だな」

ζ(゚ー゚;ζ「やめてよ、いじわる」

(´・ω・`)「はは。要するに、原罪とは心理状態のことさ。
      禁止されている事項をするかしないかの分岐点に直面した時、
      人間なら誰でも抱くことだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……じゃあ、どうしてそれが性善説どうこうになるの?」

116 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 23:18:44 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「デレ、なんで『やっちゃいけない』って悩むんだと思う?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは……ダメだって言われてるから……」

(´・ω・`)「じゃあそれを止めようとする自制心は?」

ζ(゚ー゚*ζ「それは自分で考えてだよ」

(´・ω・`)「そうでしょ? つまり――掟があるから原罪が生じるんだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「えっ……?」

ショボンは組んだ手を頭の後ろに回して、

(´・ω・`)「法律もない、張り紙もない、誰からも咎められない。
      この世界が素晴らしく適当な環境だったとしようか。
      そんなフリーダムな世界だったら何も考えずにデレは柿を取るでしょ?」

ζ(゚ー゚*ζ「うん、それなら……」

(´・ω・`)「アダムとイヴはそういう状況だったんだよ。
      純粋で、何も知らない。神様に与えられた楽園には掟なんてものはほとんどない。
      唯一あったルールが禁断の果実に関すること。だから原罪は生まれた」

117 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 23:27:56 ID:LhDHahrI0
ζ(゚ー゚*ζ「ええとじゃあ……取っちゃダメだっていう縛りがあるから……、
       『ダメだけど取ろうかな、どうしよう』って迷ってしまう、ってことかな?」

(´・ω・`)「そう! そのとおりだよ、デレ。
      そしてそれを制止するのは、人間が生まれ持った良心だ」

ζ(゚ー゚*ζ「あっ……そっか」

得心がいった。
けれどすぐ、デレは目を伏せてもじもじとした。

(´・ω・`)「どうしたんだい」

ζ(゚ー゚*ζ「だって私、悪いと思ったのは、その掟があるからでもあるんだよ」

どうにもデレは、兄が勝手に仮定した話の中であっても、現実の自分と照らし合わせてしまう。
恥じ入る必要がないのに申し訳なくなる。

ζ(゚ー゚*ζ「掟があるから生まれた気持ちを止めたのも、掟だよ?
       これっておかしくないかな?」

118 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/03(日) 23:41:40 ID:LhDHahrI0
(´・ω・`)「もっともな意見だね。
      だけど張り紙があるってことは、誰も監視してないってことと同義じゃないか。
      デレが柿を盗んでいるところを見られるわけではないんだよ。
      ここで最大の基準となるのは道徳心だけだ」

ζ(゚ー゚*ζ「……うん」

(´・ω・`)「何より掟破りを悪いと感じるのは、もうその時点で良心が働いてるんだよ。
      それに、最終的な判断をくだすのは、結局は自分自身だしね」

ショボンは穏やかな顔つきでそう結んだ。

ζ(゚ー゚*ζ「そう……なのかな。
       うん、なんとなくだけど、わかった気がする」

(´・ω・`)「デレは賢いね。さすがは僕の妹だ。
      ただ人類は現在に至るまでにあまりにも多くの規則を作ってきたからね。
      自分の判断なのかどうかが曖昧になってしまうんだ。
      それと同時に、原罪を感じる瞬間も多くなる」

ζ(゚ー゚*ζ「ああ……じゃあ」

規則。本質。

トソンの言葉が蘇る。
そして今ならば、当時はまったく理解できなかった彼女の発言の意図も、どことなく掴める。
そんな気がした。

119 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 00:04:13 ID:fqZn8Eh20
(´・ω・`)「……とまあ、そういうわけで、キリスト教は性善説が基礎なのさ」

ショボンは一度大きく背伸びをする。

(´・ω・`)「ところがだ、プロテスタントは性悪説的な面も備えている」

ζ(゚ー゚;ζ「ええっ? またややこしいなあ……」

(´・ω・`)「同じ分派の東方正教会なんかはわかりやすい性善説なんだけどね。
      プロテスタントは、厳密には多少違うんだけど、
      人間の本性を悪だというふうに定めている。
      基本的にプロテスタントの教義というのは勤勉であったり努力であったりだからね。
      誤った軌道を正すために自律を促してるんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「自分の力でやれって言ってるの?」

(´・ω・`)「そうだよ。だから教会は運用上の組織的な施設でしかないし、
      信者それぞれに聖書の解釈を委ねるんだ。民主主義的と言えるね。
      あと、やっぱり牧師と神父の違いも大きいな」

ζ(゚ー゚*ζ「どう違うの?」

(´・ω・`)「牧師は信徒たちのリーダーみたいなもので、特別な存在じゃない。
      神父はそうじゃないんだ。神父は神聖を認められてるから信徒とは一線を画してる。
      だから罪を曝け出す告解はカトリックにはあるんだよ。
      上下関係が成立しているからね。一方のプロテスタントは並列だ」

120 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 00:18:57 ID:fqZn8Eh20
ζ(゚ー゚*ζ「ふうん……」

デレはわかったような、わからないような気難しい顔をした。

(´・ω・`)「牧師と信徒の間に身分差はないから、つまり神と人の間には誰もいない。
      我が身を助けてくれるのは自分だけ。だから日々の研鑽を奨励しているんだ。
      カトリックには神と人との仲介人、そして先導者として神父がいる」

ζ(゚ー゚*ζ「プロテスタントは、人と神様が直接繋がってるってことかな?」

(´・ω・`)「そうさ。だからプロテスタントはカトリックと違って上からの抑圧は少ない。
      聖母マリアを特別視したりしないし、聖人も置かれない。聖書が神に近づくすべてだ。
      カトリック教会は結構ガチガチだからね。
      教会のルールはあるし、ミサへの参加も義務付けられてる。
      まあ、それは教会自体に神的な役割が与えられてるから仕方ないけど」

ζ(゚ー゚*ζ「神様への接近……やっぱり原罪が関係してるのかな……」

(´・ω・`)「だね。本当に解釈の違いがこうした分裂を生むんだよ。
      いや、解釈が違うからこそ、こういった教義の分派が出来あがったというべきかな。
      だからプロテスタントは悪魔祓いも盛んじゃない。
      カトリックと違って、邪悪なるものを後天的だとはしていないからね」

窓からは既に茜色に色づいた夕陽の光が漏れ入っている。
夜が迫ってきている。デレはなんとなく肘を抱えた。

121 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 00:32:56 ID:fqZn8Eh20
(´・ω・`)「……さてと、デレ」

ショボンは回転椅子ごと体を反転させる。
デレから見ると後ろ向きである。

(´・ω・`)「なんとなく、共通点がいくつか見つかったんじゃないかな?
      その、天使委員会と悪魔委員会に対して」

ζ(゚ー゚*ζ「うん。本物の天使と悪魔、カトリックとプロテスタント」

(´・ω・`)「それから、教義主義とロマン主義もだな」

ショボンがまた正面を向いて、追加する。

(´・ω・`)「決められた規則を重視する津雲さんは教義主義的で、
      人そのものの本質に委ねる都村さんはロマン主義的とも言い換えられるね」

ζ(゚ー゚*ζ「うん……」


ただ。

どこか違和感があった。


けれど違和感の正体までは判らない。
デレは下唇に親指を当てる。

122 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 00:41:14 ID:fqZn8Eh20
ζ(゚、゚*ζ(なんでだろ……綺麗に一致してるはずなのに……?)

どこかに『ズレ』がある。

だけど、どのピースがどのように喰い違っているのかは截然としていない。
絵全体がなんとなく歪んでいるように感じるだけだ。

(´・ω・`)「しかしまあ、本当によくできてるよ。うん。
      なんだか怖いね」

兄は目尻を撫でながらそんなことを呟いている。
訊くべきか。いや。
それを口にするのは躊躇われた。

椅子を左右に揺らすショボンの顔が――未だ真剣味を帯びていたからだ。

(´・ω・`)「よくできてるから……傷が目立つんだろうなあ」

独り言のようにそう零した。

ζ(゚ー゚*ζ「それって、どういう……・」

言いかけた先に、ショボンが割り込んだ。

123 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 00:49:29 ID:fqZn8Eh20
(´・ω・`)「天使と悪魔か。ここまで元ネタと近似性が確認できるなら、
      きっと天使の後ろには神がいるんだろうね」

ζ(゚ー゚*ζ「かみ?」

いきなり突拍子もないことを言い出したので、
デレはそれまで張り巡らせていた思索をすっかり忘れて、ただぽかんとした。

(´・ω・`)「うん。神様だよ。天使は神の御使いなんだから、単独ではありえない。
      僕がなぞった通りなら必ずその背後に神がいるはずだよ」

ζ(゚ー゚*ζ「ふうん。じゃあ悪魔にも似たような存在がいるのかな?」

世界史教師は短く考えてから、

(´・ω・`)「いや……それはいない。悪魔の後ろには誰もいない」

ζ(゚ー゚*ζ「そうなの? 私、魔王様みたいな人イメージしちゃったけど」

(´・ω・`)「魔王は悪魔の一種だよ。それに神を悪魔とする教典もあるしね。
      だから悪魔の前後には誰もいないし、上下にもいない」

ショボンは天井と床を交互に指しながら答えた。

125 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 01:01:43 ID:fqZn8Eh20
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあ、悪魔には誰もいないんだ。なんだか寂しいね」

(´・ω・`)「他の誰かがいるとすれば……傍らだな」

ζ(゚ー゚*ζ「傍ら……?」

どういうことだろう。

(´・ω・`)「うん。ああ、それよりだ!
      見てごらんデレ! もう外がダークブルーに染まってしまってるよ!
      まったく九月になると急に夜が早くなりだすな」

指示されるがままに窓の向こうの景色を眺めると、確か町は薄暗いベールに覆われつつある。
昼間とは違う風景。夕刻とも違う風景。
あえて挙げるならば夜明けを迎えたばかりの早朝に似ている。
デレは奇妙な胸騒ぎを覚える。

(´・ω・`)「もう帰宅しないとだ! デレ、先に帰っててくれないか?」

ζ(゚ー゚*ζ「まだお仕事残ってるの?」

(´・ω・`)「それもあるけど、何よりデレと僕の関係がバレないためのリスク回避さ。
      出来得る限り別行動をとっておきたいと願う兄心だよ」

ζ(゚ー゚;ζ「だと思ったよ」

126 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 01:11:04 ID:fqZn8Eh20
デレは長い息を吐きながらも身支度を済ませ、退室しようとする。

(´・ω・`)「あ、そうだ」

間際になって、ショボンはデレを呼び止めた。

ζ(゚ー゚*ζ「なあに? 兄さん。
       夕飯の準備ならちゃんとやっておくよ」

(´・ω・`)「そうじゃなくてさ……」

ショボンの表情から、ふっ、と穏和だとか柔和だとかいったものが消えて。
兄の顔でも、教師の顔でもなくなる。
目元に迫力がある。
男の顔だった。

(´・ω・`)「最後にした話は覚えておいた方がいいよ、デレ。
      黒幕に関わる話になるかも知れない」

静かなトーンで――そう告げた。

128 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 01:17:40 ID:fqZn8Eh20
心臓の脈動が大きくなるのを、少女は確かに自覚した。

ζ(゚ー゚;ζ「えっ……そ、それって!」

(´・ω・`)「そういう人がいればの話だけどね」

デレはずっこけそうになる。

ζ(゚、゚*ζ「もう!」

全身の筋肉が弛緩すると、湧いてくるのはちっぽけな怒りだった。

(´・ω・`)「ごめんごめん。いやさ、僕だって怖がらせたかったんだよ。
      僕が未知なるものを恐れる理由がなんとなくわかっただろう?」

兄は顔の前で手を合わせて、首を傾けおどけた仕草を見せた。
怒りの種は小さかったが芽はすくすく育ったらしく、

ζ(゚ー゚*ζ「兄さん、鍵は八時に閉めておきますから」

(;´・ω・`)「ちょっ、そんなに怒らないで……アイスモナカ買って帰るから……」

弁解を聞き終わる前に、デレはドアを乱暴に閉めた。
建てつけが悪いのかドアは完全には閉まり切らず、わずかに開いた隙間から準備室の灯りが、
廊下に広がる暗闇へとまっすぐに伸びていた。

129 名前:以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします 投稿日:2011/07/04(月) 01:28:28 ID:fqZn8Eh20
廊下の闇を裂いてデレは歩く。

北校舎に人の気配はない。
ふとガラス窓から南校舎に目をやると、いくつかの教室にはまだ照明がついている。

なんのために使われているかは知らない。
それでも、誰かがそこにいるということの証明にはなっているだろう。
学校は活動をやめていない。
目線を前に戻すとまた歩き始めた。

ζ(゚ー゚*ζ「そうだ」

渡り廊下を抜けた先でデレは足を止める。

ζ(゚ー゚;ζ「早く委員会の希望届提出しないと……結局今週中は無理だった……」

失念していたことを今になって思い出す。
今日は色々とありすぎた。
脳は起きた出来事をいちいち銘記するのに精一杯で、処理が追いついていなかった。

ζ(゚ー゚*ζ「どこがいいかな……」

ただ少なくとも――。

風紀委員会だけは選択肢からすっぱりと外していた。


戻る 次へ

inserted by FC2 system