ニュー速ヴィッパーズ所属
('A`) 毒田剛 ２７歳 右投げ右打ち
ニュー速所属の二塁手。
３割を超える打率と勝負強い打撃とお笑いな守備が持ち味。
某掲示板ではあまりのブサイクさに『毒男』の勲章が授けられている。
フライの追い方の危うさや送球の際よく滑る手はもはや芸術の域。
最近は打撃がスランプに陥り、守備の不安定さと相まってベテランの茂等にポジション脅かされ中。
ニュー速所属の投手。
１５０キロを超える速球と縦に大きく割れるカーブが持ち味。
しかしピンチになるとあがるチキンハートで、解説席の元同僚からバカにされることも。
高卒の選手としては遅咲きで、前年度９勝でローテーションの一角に。
（Ｋ‘ー｀） 川島慶三 ２３歳 右投げ右打ち
ニュー速所属の遊撃手。
シュアなバッティングと堅実な守備が持ち味。
生意気な性格で先輩である毒田のこともよくいじる。
最近外野からショートにコンバートされたが慣れないながらもよくやっている。
ニュー速所属の外野手。
イースタンリーグで本塁打王を獲得した期待の大砲。
あがりやすい性格だがそのショタ顔も相まってファンは多い。
J（ ﾟ_ゝﾟ)し アーロン・ガイエル ３８歳 右投げ左打ち
ニュー速所属の外野手。
ボールを不思議な力で操る『魔空間』の力を持つ。
相手のホームランボールをファールにしたり、フライにしたりするが自分でも制御できないことも。
陽気な性格でホームランを打った際には毒田の顔面にラリアットを叩きこむ。
東京ビックバンズ所属の外野手。
圧倒的な打棒と無難な守備、そして豊富なAV知識で日本野球界を牽引してきたスーパースター。
まさかワールドシリーズでMVP取るとは思わんかった。おめでとう。
アメリカにいるほうが肌がきれいな気がする。
この物語ではFA宣言しておらず、日本球界で頑張っている。
<ヽ｀∀´> 朴弐陀 ３４歳 左投げ左打ち
東京ビックバンズ所属の三塁手。
キムチパワーでボールを運ぶアジアの大砲にして韓国の国民的打者。いい人。
昨年までニュー速ヴィッパーズに所属していた。
東京ビックバンズ所属の投手。
パワプロで自分の能力を上げてもらいたくて必死に練習した。
ほぼ全方向に曲がる変化球が持ち味。
アニメが好き。よくオフの日に秋葉原にいるところが目撃されている。
あまりにも溶け込んでいるので周りの人間は気づかない。
(´・_ゝ・｀) 盛岡出満 ３０歳 右投げ右打ち
東京ビックバンズ所属の捕手。
暴走しがちな兄者の手綱を握る女房役。
そこそこのリードとそこそこの打撃でチームを牽引。
地味。だがそれがいい。
昨年までニュー速ヴィッパーズに所属していた元三冠王。
コーチ転身の話もあったが解説者の道へ。
選手の裏話が聞けるので割とファンは多い。
北海道に行った際、武田勝にお寿司をおごってシュートを投げないように頼んだ、
という話をした際は少し問題になった。
（ ＞＜）＜やりません 稚内弘人 実況
局アナ。
暴走しがちなゲスト解説者をしっかり抑制するのが役目。
解説席近くに飛んできたファールボールを取ろうとするスーパースターを抑えるのが役目。
実は和手枡と幼馴染、という裏設定があるが使われることはないだろう。
次から本遍。
ビックバンズの本拠地である東京ドームにて、俺たちヴィッパーズの面々は打撃練習をしていた。
('A`) 「……ふっ！」
少し息を吐きながら打撃投手が投げた球を打つ。
バットの芯に当たったそのボールはボテボテと内野手のグラブに消えていった。
('A`)「……」
打撃投手に会釈をしてバッターボックスを離れる。
代わりに若手の伊陽がボックスに入る。
(=ﾟωﾟ)「いよぅ！」
その鋭いスイングから放たれたボールは綺麗な放物線を描きスタンドへ。
係員の注意を促す笛の音が鳴る。
それを見て俺ははあ、とため息をつく他なかった。
(；'A`)
先ほどのミーティングで、俺のスタメン落ちが言い渡された。
もともと守備は不得手だし、これで打撃がイマイチならば仕方もない、というものだ。
代わりに入ったのは代打や守備固めで活躍していた茂等さん。
（ ･∀･）
スタメンを言い渡す時は顔色は変わっていなかった。
が、やはり内心は嬉しいのではないだろうか。
本日は東京エッグドームよりニュー速ヴィッパーズ対東京ビックバンズの第８回戦をお送りします。
実況はニュー速テレビアナウンサー、稚内弘人。そして解説は』
(´･ω･`) 『どうも』
（ ＞＜） 『ニュー速ヴィッパーズに所属。長年４番に座り、三冠王にも輝きました。
昨年引退を表明した諸本信彦さんです。本日はよろしくお願いします』
(´･ω･`) 『はい、よろしくお願いします』
（ ＞＜） 『さて、諸本さん、今日は古巣であるヴィッパーズの試合ですが、気になる選手はいますか？』
(´･ω･`) 『そうですね。個人的には同僚である茂等ですね』
（ ＞＜） 『ほう、それはどのあたりが気になるのでしょう』
それをおくびにも出さないのは称賛に値しますね』
（ ＞＜） 『そうですか。では、対するビックバンズについてはどうでしょう』
(´･ω･`) 『そうですね。やはり注目はあの若さで現在首位打者の坂本君ですね』
（ ＞＜） 『やはり、元三冠王の目から見てもあのバッティングは……』
(´･ω･`) 『正直、嫉妬するほどのセンスです。長岡君と将来ライバルになり得る選手だと思います』
（ ＞＜） 『開幕から速いもので、すでに３０試合が消化されました。
ビックバンズは１８勝１０敗２分の首位。貫禄の強さを見せています。
しかしヴィッパーズは……』
(´･ω･`) 『１１勝１９敗の借金８ですか。昨年の快進撃が信じられないほどの成績ですね』
（ ＞＜） 『この低迷を諸本さんはどう見ていますか？』
また、大事な先発のコマである山本省、貴重な中継ぎの流石もケガで出遅れています。
そして打線なんですが……毒田でしょうね』
（ ＞＜） 『流石は今日から１軍登録されたそうです。今日にも初登板があるのでしょうか。
そしてその毒田なんですが……打率.243・本塁打2・打点8と苦しんでいます』
(´･ω･`) 『もともと守備があまり良くない選手ですから。このままだとスタメン落ちもありますね』
（ ＞＜） 『そうですか。……おっと、今スタメン発表のアナウンスがかかりました』
『先攻、ニュー速ヴィッパーズ。スターティングメンバーの発表をいたします。
１番、ショート、川島慶。背番号００』
(´･ω･`) 『！』
（ ＞＜） 『おっとこれは……１番は毒田の指定席のはずなんですが』
(´･ω･`) 『打順が下がっているのか、それとも……』
(´･ω･`)『あー……毒田はスタメン落ちですね』
（ ＞＜）『開幕からスタメンを守ってきた毒田、スタメン落ちです！
荒巻監督代行、堪忍袋の緒が切れたか！』
(´･ω･`)『こういう時彼は現実逃避しますからね。
今頃ベンチ裏で二次元のエロ本でも読んでるでしょう』
（ ＞＜）『そ……そうですか。では一旦ＣＭです』
（ ＞＜）「ちょっと諸本さん」
(´･ω･`)「ん？」
（ ＞＜）「勘弁してくださいなんです！
またこんな夕飯時の午後六時に下ネタ飛ばして！
いちいちフォロー入れて始末書書かされるこっちの身にもなって欲しいんです！」
(´･ω･`)「はっはっは。ごめんごめん、そんなつもりはないんだけど」
（ ＞＜）「とにかく！ 下ネタ禁止！ お願いなんです！」
――ＣＭ終わり――
(´･ω･`)『まあ、でも僕のバットがいつ火を噴くかは分からないけど』
（ ＞＜）『 』
(´･ω･`)『あ、音声入ってる？ ごめん、また下ネタ入れちゃった』
（ ＞＜）『……』
(´･ω･`)『開幕から大型連勝で波に乗ってますから。
スタメンをいじることはしないでしょう』
（ ＞＜）『そうですか……あ、今スタメン発表が両軍出揃いました』
打順 守備位置 名前 ＡＡ 年齢
打率 本塁打 打点
1 SS 川島慶 （Ｋ‘ー｀） 23
.284 3 13
2 CF 擬古 (,,ﾟДﾟ) 32
.267 0 8
3 3B マリントン |;;;;| ,'っﾉVi ,ｺｺつ 31
.243 6 14
4 1B 宝 ( ＾Д＾) 28
.347 6 23
5 RF ガイエル J（ ﾟ_ゝﾟ)し 38
.301 2 12
6 LF 伊陽 (=ﾟωﾟ) 25
.261 3 9
7 2B 茂等 （ ･∀･）37
.284 1 6
8 C 和手枡 ( <●><●>) 25
.123 0 2
9 P 内藤 （ ＾ω＾） 26
1勝2敗 防4.34
打順 守備位置 名前 ＡＡ 年齢
打率 本塁打 打点
1 SS 坂本 〈 ｀∇´〉 21
.361 3 11
2 CF 松本 ［ё.―ё］ 25
.273 0 3
3 1B マーク [ヽﾟ∀ﾟ] 36
.346 10 27
4 LF 松井 にしこり 35
.357 11 29
5 RF 亀井 〈ヽ´亀｀〉 27
.289 5 13
6 2B 木村拓 ヽ・ω・〉 37
.270 0 4
7 3B 朴 <ヽ｀∀´> 33
.247 7 19
8 C 盛岡 (´・_ゝ・｀) 30
.233 2 9
9 P 流石 （ ´_ゝ`） 30
2勝2敗 防3.67
(´･ω･`)『そうですね……
お互いの一番打者に注目しましょう。
まず川島・坂本ともに若い。若いということはそれだけで武器です。
川島は足が速いですから、出塁すれば盗塁を狙って来るでしょう。
対して坂本は一撃必殺のパンチ力を秘めています。
お互いの先発に対してどう戦っていくか見物ですね』
（ ＞＜）『そうですか、ありがとうございます。
ニュー速ヴィッパーズ対東京ビックバンズ第８回戦、
プレイボールまで今しばらくお待ちください』
俺はベンチ裏でハルヒの同人誌を読んでいた。
('A`)「うわぁ〜すっげぇ〜ハルヒがスカトロしてるぅ〜
ご飯三杯はいけるぅ〜」
（Ｋ；‘ー｀）
（；＾ω＾）
('A`)「あんれぇ〜天下のスタメン様じゃないですか〜
何してんですかぁこんなベンチ裏の隅でぇ〜」
（ ＾ω＾）「いや……」
（Ｋ‘ー｀）「なんでもないです……」
一向に俺には話しかけてこない様子なので同人誌を読みふける。
('A`)（わぉ、キョンの禁則事項をハルヒが……ｳｯ）
そんなことをしていると、意を決したように内藤が話しかけてきた。
結構真剣な目だ。
（ ＾ω＾）「ドクオ！ 今はスタメン落ちして辛いかもしれないけど……」
そう言いかける内藤を手で制す。
('A`)+「わかってるよ。冗談だ冗談。
プロだもんな、実力で奪い返して見せるよ」
心配したお、さっきは人生に失敗したような濁った目をしてたから……」
（Ｋ‘ー｀）（レイプ目……）
('A`)+「はっはっは、冗談だよ冗談。見ろよこの肌のツヤ」
（ ＾ω＾）「おお！ その張りは若者のそれだお！」
('A`)+「はっはっは」
（Ｋ‘ー｀）（つーか、イカくせぇ……毒田さんか？）
('A`)+「はっはっは」
（Ｋ‘ー｀）（引くわー）
('A`)+「はっはっは」
（Ｋ‘ー｀）（……）
かくして賢者になった俺はベンチに続く通路を歩く。
慶三が俺の下腹部を注視しているがまさかそっちの気があるのだろうか。
そんなことを思いながら歩いていると、目の前に思いもかけない人が現れた。
そこに立っていたのは兄者さん。
今日の相手である東京ビックバンズのエースだ。
今日の試合も先発が発表されている。
('A`)「兄者さん？」
（ ´_ゝ`）「……」
兄者は俺を睨みつけたまま動かない。
何だろう。俺、なんかやった？
よく見るとその目は血走っており、なおかつ濁っている。
（ ´_ゝ`）「毒田……」
地獄の釜で湯通ししたような声を出す兄者さん。
正直、こんな兄者さんはマウンドでも見たことがない。
('A`)「な、なんでしょう」
『平成野球娘。〜今夜の野球は野球拳！？ だめっ、そのバットはレギュレーション違反です〜』
二時間スペシャル、あるだろ」
世界の時間が停止したかと思われた。
いきなり姿を現してギルガメッシュナイトに匹敵するエロさのアニメを言うプロ野球選手。
未来ある野球少年には見せられないワンシーンだ。
後ろを見ると２人の引きつった顔が見える。
ありますね、と言おうとした。
しかしそれを言う前に俺の体は兄者さんによって前後に揺さぶられた。
（#´_ゝ`）「なあ！！ お前録画してないか！？
よりにもよって二時間スペシャルの時に！！
俺は！！１ 録画するのを忘れたんだ！」
('A`)「し、してません。今日はハルヒの日なんでそっちを」
（ ´_ゝ`）
（Ｋ‘ー｀）（こいつ……なんて晴れやかな顔をしてやがる……）
（ ´_ゝ`）「シッ！」
兄者さんがしばらく呆然としていた。
と思っているとボクサーもかくやな素早い動作で俺の同人誌を奪い取った。
(#'A`)「ｱｯｰ! 何すんだ俺の
『涼宮春日さんのデンジャラスなラブ体験』！
返せ！！」
（ ´_ゝ`）「やだねー！！ この京アニ信者が！！
お前なんかエンドレスエイトを１５５１４回見ればいいんだ！！」
そう言い捨てながら駆けていく兄者さん、否、流石兄者。
俺の同人誌を握り締めながら流石兄者の姿は見えなくなった。
(#'A`)「まったく……酷いな……なあ！？」
そう言って後ろの二人に同意を求める。
振り向いた先には、誰もいなかった。
俺は、少しだけ泣いた。
(´･ω･`)『今日の始球式はブッシュ元大統領ですか。麻雀でもしに来たんですかね』
――マウンド上――
ブッシュ「Hi.」
（ ´_ゝ`）「Nice to meet you.」
ブッシュ「What do you like？」
（ ´_ゝ`）「Sex．」
ブッシュ「me too．」
ブッシュ＆（ ´_ゝ`）「HAHAHA」
ふと、毒田が怨みの目でこちらを見ているのが見えた。
十中八九、先ほどの同人誌のことだろう。
（ ´_ゝ`）（悪いな毒田……同人誌は頂いた……
でもスカトロは正直引いた……）
(#'A`)（じゃあ返せよう……）
（Ｋ‘ー｀）（この２人のアイコンタクトは読み取りたくないな）
(´･ω･`)『先手を取るのはどちらでしょうかね』
――マウンド――
（ ´_ゝ`）（……平成野球娘。が始まるのが午後１１時。
試合後の色々を考えると午後９時には試合を終わらせたい。
……よし）
『１番ショート、川島慶三。背番号００』
（ ＞＜）『さあ、プレイボールです！』
（ ＞＜）『今シーズン初めて１番に座る川島。注目すべき点は』
(´･ω･`)『そうですね。１番ですからよく球を見極めることが重要です』
（ ´_ゝ`）（完封勝ち……生で平成野球娘。を見るにはそれしかない）
（Ｋ‘ー｀）（……）
（ ＞＜）『さあ、ピッチャー流石第一球を……投げた！』
肩慣らしのストレート。
だいたいいつも１番は初球バットを振ってこない。
だから、この球にはいきなり気持ちが籠もっていなかった。
（Ｋ‘ー｀）（１番が初球打ちしないって……）
（Ｋ#‘ー｀）（誰が決めたんだよ！）
（;´_ゝ`）（！）
（ ＞＜）『打った！ 川島いきなり初球打ち！ ボールは二遊間を抜けセンターへ！』
(´･ω･`)『……いきなり初球打ちしてきましたね』
一塁の川島は俊足。
既に５個の盗塁を決めている。
流石はクイックが早く、ランナーを苦にしないタイプの投手だ。
(´・_ゝ・｀)（でも、油断すんなよ）
捕手である盛岡が十分警戒するよう指示を出す。
兄者が頷いた。
もちろんそのたびに川島はベースに帰る。
そして流石がセットポジションから投球動作に入った。
(,,ﾟДﾟ)（……）
（ ´_ゝ`）（『平成野球娘。』……）
この時兄者の脳内タスクマネージャーは平成野球娘。４割、川島が４割。
しかし、本来最も警戒しなければならない打者の擬古に対しての注意を払っていなかった。
擬古はあまり打撃が得手な選手ではない。
２番に入っているのもどちらかというと小技を期待されてのことだ。
そんな擬古がビックバンズのエースの球をそうそう打てるものではない。
本来ならば。
(;´・_ゝ・｀)（っ……）
要求したところより、高く入るストレート。
その甘い球を――例え打撃が不得手でも――見逃す打者はいない。
(,,#ﾟДﾟ)（舐めんなゴルァ！）
（ ＞＜）『また初球打ち――！』
（；´_ゝ`）（！）
ヴィッパーズはいきなりチャンスを迎える。
(´・_ゝ・｀)（ノーアウト一・二塁……）
『３番サード、マリントン。背番号４４』
３番に座るマリントン。
ホームランこそ及第点ではあるが、打率では３番には似つかわしくない。
ファンの間では『マリントンは扇風機』と揶揄されているらしい。
(´・_ゝ・｀)（こいつぐらいは抑えてくれよ……）
右打席で土をならすマリントンを横目に兄者を見る。
相変わらずどこかぼけーっとして心ここにあらず、という感じだ。
（ ´_ゝ`）（……）
（ ＞＜）『投げた！』
(；´・_ゝ・｀)（！）
兄者が放ったボールはとんでもなく高いボール球。
慌ててなんとかボールを確保する。
(´・_ゝ・｀)（なんて球投げんだよ……）
（ ´_ゝ`）（わりーわりー）
昨年のビックバンズ。
５月頃まではいいムードで首位を快走。
しかし梅雨入りと同時に怪我人が続出。
せっかくの良い流れを不意にしてしまったチームは再び浮き上がることはなかった。
(´・_ゝ・｀)（できるだけいいムードで行きたいんだ……
エースのお前がしっかりしなくてどうする……！）
（ ´_ゝ`）（……）
兄者が第二球を投げる。
悪くはないコース。
しかしマリントンは、バットを振ってきた。
そしてそのバットは、ボールを捉える。
レフトに高い、高い当たり。
広いニュー速スタジアムならフライだと安心できる当たりだ。
しかし、ここは全球団フランチャイズの球場の中でも格段に狭い。
こすった当たりがスタンドに入ることも、ままある。
(；´・_ゝ・｀)（やめろ……入るな……！）
（ ＞＜）『良い当たり――！
レフト松井下がる下がる！』
ボールを見つつ、下がる。下がる。
そして自分の背中に、フェンスが当たる。
（；´_ゝ`）（……）
マウンドでこちらを見る兄者がふと見えた。
心なしか、不安定そうに見える今日の兄者。
にしこり （お前の球は一球品だよ。だって……）
上を見上げる。
レフトスタンドのヴィッパーズファンはボールが来るのを待ち望んでいる。
しかし、それは叶えられそうにない。
にしこり （……マリントンの打球を、こんなに押し返すんだから）
ボールは、フェンスギリギリに構えた松井のグラブに収まった。
これでワンアウト。
(´･ω･`)『少しこすりあげた分、上に上がりすぎた感じですね』
（ ＞＜）『しかしなおもチャンス。バッターは打撃好調の四番・宝です！』
宝はここまで三割を超える打率・２０を超える打点を記録している。
かねてから目指していた『４番』としての自分。
それに近づいてきた自信があった。
( ＾Д＾) （慶三・擬古さん・マリントン……全員早いカウントから打った）
前２人は初球打ち、マリントンもファーストストライクを打った。
つまりそれは兄者の調子が良くないということだ。
４番として、一撃で仕留める。
(；´・_ゝ・｀)（さっきのも危なかった……宝なら持っていかれていたな）
まだ、４球しか投げていない。
それでもわかる、兄者の不調。
( ＾Д＾) （……）
不敵に笑う、宝。
(´・_ゝ・｀)（こいつが兄者を……見逃してくれるか……？）
宝が、右打席に入る。
レフトスタンドから、歓声が上がった。
ビジターゲームであってもレフトスタンドはヴィッパーズファンで埋まる。
『たっかっら！ たっかっら！』
ならば、応えなければならない。
この声援に。
『４番ファースト、宝。背番号５』
( ＾Д＾) （……初球を狙うぜ）
兄者はまだ直球しか投げていない。
変化球を中心とする兄者。
直球で宝に挑むのは無謀に近い。
だが、今日の出来では変化球がちゃんと入るか怪しい。
（ ´_ゝ`）（……）
(；´・_ゝ・｀)（仕方ない、一つストライクを取れば兄者も落ち着くはずだ）
出したサインは苦し紛れのストレート。
兄者が頷いた。
投球動作に入る。
兄者がストレートを投げる。
その時盛岡は見た。
――宝の顔が歪むのを。
(；´・_ゝ・｀)（しまっ……）
(#＾Д＾) （行けぇ！！）
徹底した初球攻め。
宝の漆黒のバットが、兄者の純白のボールを捉えた。
打球は強烈なピッチャー返し。
思わず手で顔を抑える。
ボールは兄者の足元を抜け、センターへ。
ヽ；・ω・〉（ちょ、待てよ！）
セカンドの木村拓がダイビング。
しかし、速い打球に追いつくことは叶わない。
（ ＞＜）『抜けた――！ 二塁ランナー川島は俊足！！』
(´･ω･`)『これは帰ってこれるでしょう！』
全速力で走る川島。
取れる。エースの兄者から、理想の形での先取点。
（Ｋ#‘ー｀）「おおおおっ！！」
三塁を蹴り、本塁を狙う。
ボールが帰ってくる前に、帰ってみせる。
育成出身のセンター松本。
べらぼうに広い守備範囲とべらぼうに強い肩が持ち味だ。
［#ё.―ё］（行け！！）
地を這うように、しかし力強いボールが本塁に飛んでいく。
川島は、全力で本塁に駆けていく。
(´・_ゝ・｀)（よし！）
微妙なタイミング。
しかし松本はナイスボールを投じてくれた。
(´・_ゝ・｀)（刺せる！）
ボールは受け取った。
あとは、グラブを川島に叩きつけるだけだ。
（Ｋ；‘ー｀）（くっ……）
微妙だが、わかる。
アウトのタイミング。
ならば。
（Ｋ‘ー｀）（タッチされなければいい！）
できるだけ盛岡から体を遠ざける。
そして、左腕だけをホームに伸ばす。
そこに向かって、盛岡がグラブを当てる。
２人が、交錯した。
球場全体が球審に注目する。
『……』
(´・_ゝ・｀)（どっちだ……？）
微妙なタイミング。
当事者である自分にもわからない。
『……セーフ！』
（Ｋ‘ー｀）「よしっ！」
手を叩いて喜ぶ川島。
沸くレフトスタンド。
唇を噛むバッテリー。
先制点が、入った。
Ｖ １‐０ Ｂ
右中間を深々と破るツーベースヒット。
J（ ﾟ_ゝﾟ)し「え！？ 見せ場省略されるのん！？」
( ＾Д＾) 「よっしゃー」
宝も生還し、３点目。
Ｖ ３‐０ Ｂ
およそエースらしからぬ投球。
マウンドに内野陣が集まる。
(´・_ゝ・｀)「兄者……」
（ ´_ゝ`）「……」
(´・_ゝ・｀)「今日はどうした。お前らしくない」
（ ´_ゝ`）「……やっぱ片手間はダメな」
(´・_ゝ・｀)「は？」
(；´・_ゝ・｀)「は、はあ？ 本当にどうした？」
（ ´_ゝ`）「俺の見通しが甘かった。野球を嘗めてたよ」
(´・_ゝ・｀)「……」
（ ´_ゝ`）「生で見れなくてもいい。ようつべの糞画質で我慢してやるさ」
(´・_ゝ・｀)「……よくわからんが」
盛岡が兄者の胸をグラブでポン、と叩く。
兄者の目をまっすぐ見る。
(´・_ゝ・｀)「お前を殴るのは、ヴィッパーズを抑えてからだ」
打席に向かう前に宝に言われた一言。
偉大な先輩の言葉だ。
( ＾Д＾) 『今日の兄者はダメだ。しぶとく狙っていけよ』
(=ﾟωﾟ)（……）
マウンド上の兄者を見る。
先ほどのインターバルで立ち直ったのだろうか。
兄者が投じた球は伊陽の顔近くに。
思わずのけぞり尻餅をつく。
(=；ﾟωﾟ)（あっぶねえ……）
スピードガンを見る。
１４９キロが記録されていた。
（ ＞＜）『と、言いますと』
(´･ω･`)『今まではどこか躊躇があるような投球でした。
しかし、盛岡くんが何かアドバイスしたんでしょうが、思い切りがよくなった』
（ ＞＜）『そうですか。では、伊陽の打席を見ていきましょう』
(=；ﾟωﾟ)（……こんな球を、みんなは連打したのかよぅ？）
（ ´_ゝ`）（……）
兄者の第二球。
鋭く落ちるフォーク。
伊陽は力なく空振り。
３球目はスライダーを見逃しストライク。
これでカウント２‐１。
(=；ﾟωﾟ)（あ……甘い球一つもないよぅ……）
（ ´_ゝ`）（悪いな。ショタ顔）
そして、４球目。
今までの剛球が嘘のような遅いボール。
(=；ﾟωﾟ)（よぅ！？）
その変化についていけず、空振り。
伝家の宝刀カーブ。
三振である。
（ ´_ゝ`）（よしっ！）
散々粘るものの第八球。
（＃´_ゝ`）（いい加減黙れよ！）
（；･∀･）（くっ……）
最後は伊陽に投じたのと同じカーブ。
茂等はバランスを崩し、泳ぐように三振。
（＃´_ゝ`）「っしゃあ！！」
普段は感情を滅多に出さない兄者が吠えた。
そこには紛れもない、エースがいた。
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３ ３４
Ｂ
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
ふー、と目を瞑り息を吐く。
スコアボードには『３』の文字が入っている。
援護点がこんなに早く入るとは思わなかった。
( <●><●>)「内藤さん……」
マウンドにはほぼ自分の専属捕手となっている和手枡。
数多くの試合を一緒に戦ってきた。
〈 ｀∇´〉（……）
（；＾ω＾）（……）
打席には３年目の若手ながら三割を大きく超える成績の坂本。
重量打線を相手にしなければならない。自分にできるのか。できる。
（；＾ω＾）（だって、前の僕はやれたんだお）
自分の先発としての初勝利はビックバンズ相手にだ。
打線に助けられた感はあるけれど、れっきとした勝利だ。
内藤の１番の武器であるストレートを要求する。
内藤が頷く。
大柄な体から、ダイナミックなフォームで直球がミットに叩きこまれる。
『ストライク！』
〈；｀∇´〉（……）
球速は１５０キロ。
球場内が、ざわめく。
坂本はファールで逃げるが、カットと言うより詰まっているだけだ。
( <●><●>)（……最後はストレートで）
（；＾ω＾）（把握）
カーブを投げた後のサイン。
１３０キロのカーブから１５０キロのストレートを打つのは難しい。
空振りは取れなくとも、ゴロにはなるだろう。
和手枡のサイン通り投じられたインハイストレート。
その球威に思わず手が出る。
そして、ボールがバットに当たった瞬間、バットがへし折れた。
( <●><●>)（よし……）
（；＾ω＾）（！）
(；<●><●>)「危ない！」
しかし、その折れたバットはボールと共に内藤に向かう。
バットが内藤の体に当たる。
それに構わずボールを拾おうとするが、見失う。
結局、内藤がボールを拾った時には坂本は一塁を駆け抜けていた。
（ ･∀･）「大丈夫か？」
すぐさまベンチからトレーナーが飛んでくる。
セカンドの茂等さんが心配そうに声を掛ける。
（；＾ω＾）「大丈夫ですお。
そんなに勢いもなかったし、先頭を出しちゃったことの方が痛いですお」
仕切り直しでノーアウトランナー一塁、バッターは２番の松本だ。
［ё.―ё］（……）
バスターのような独特のフォーム。
粘っこい打撃の嫌な２番だ。
（；＾ω＾）（……）
（；＾ω＾）（松本は俊足だお。よほど正面を突かない限り厳しいお）
( <●><●>)（松本はしょうがありません。バントも考えつつ、目先のアウトを）
（；＾ω＾）（わかったお）
（ ＞＜）『さあ、松本に対して第一球！』
（；＾ω＾）（いけっ！）
投じたのはカーブ。
縦の変化を松本は見送る。
外れてカウント０‐１。
ストレートが入らず、フォークも見られる。
４球目のストレートはなんとか入るが、未だ打者有利のカウント１‐３。
( <●><●>)（フォークは完全に見極められています……）
（；＾ω＾）（かといってカーブもコントロールが不安だお）
( <●><●>)（その他の球もここで使うには不安……）
（；＾ω＾）（なら……）
( <●><●>)（最高の直球で行きましょう）
（；＾ω＾）（把握！）
内藤が直球を投じる。
常時１５０キロを記録する自慢のストレート。
松本はそれを待っていた。
［ё.―ё］（もらった！）
育成枠から這い上がる為になりふり構わず身につけたバスター打法。
そのスイングを持って、ボールを捉える。
(；<●><●>)（！）
鋭い音が、球場に響いた。
――鋭く、捉えすぎた。
完璧なスイング、真芯で捉えた当たり。
その打球はセカンド茂等の正面に飛んでいった。
さしもの俊足も鋭い正面の当たりではゲッツーを崩せない。
ショート、ファーストと渡りダブルプレーが成立した。
（；＾ω＾）（あぶなー……）
内藤は続くマークをピッチャーフライに抑える。
ぴしゃり、とは行かないが順調な滑り出しであった。
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３ ３４
Ｂ ０ ０１
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
完全に立ち直った兄者は和手枡・内藤を三振に打ち取る。
そしてツーアウトでバッターは川島。カウント２‐３。
（ ´_ゝ`）（おらっ！）
（Ｋ；‘ー｀）（く……ううっ！）
ストライクからボールになるスライダーで三振。
これまでチームを牽引してきた右腕が、真価を発揮し始めた。
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３０ ３４
Ｂ ０ ０１
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
にしこり （さあ、内藤くん。兄者の借金返させてもらおう）
打席には日本を代表する４番、松井。
左打席から放たれる威圧感は、並の選手のそれとは比較にならない。
慎重に、慎重に。そう心に銘じながら投球を進める。
慎重に、なりすぎたか。
カウントは投手不利の１‐２。
バッティングカウントだ。
（；＾ω＾）（次は……ストライクを入れないと……）
にしこり （……）
ワンスリーで松井と相対する。
それほど最悪のシナリオはない。
次は確実にストライクを入れなければならない。
内藤が４球目を投げる。
恐らく、直球だ。カウントを悪くしたくないならそれしかない。
真っ向勝負すれば、押し返される。
内藤の直球は、それほどまでに鋭い。
にしこり （だから……真っ向勝負はしない）
アウトローへの直球。
自分が待ち望んでいた球だ。
にしこり （この狭い球場……無理に勝負して引っ張らなくても……）
松井がバットを出す。
それほど力は込めない。初めからおっつけて左方向へ持っていくスイング。
確かに、捉えた感触があった。
打球としては、初回のマリントンと同じような当たり。
しかし違うのは――
にしこり （僕がバッター、ということだ）
打球は、レフトスタンドの前段ギリギリに吸い込まれた。
（ ＞＜）『入った――！！ 松井第１２号ソロホームラン！！
ビックバンズ反撃の狼煙が上がった――！！』
歓声の中ダイヤモンドを回りながら、マウンドで呆然とする内藤。
広いスタジアムなら、フライの当たりだろう。
にしこり （でも兄者も条件は一緒だしね）
三塁コーチャーとハイタッチする。
ホームベースを、踏んだ。
にしこり （１５０ｍ飛ばそうが、ギリギリだろうが、入る点は同じだからね）
Ｖ ３‐１ Ｂ
（；＾ω＾）（うう……）
内藤は続く亀井にライト前のヒットを許す。
後続の６番木村拓はなんとかフライに抑えるものの、次のバッターは強敵である。
ヽ；・ω・〉（ちょ、省略かよ、待てよ！）
<ヽ｀∀´>（……）
（；＾ω＾）（朴さん……）
（ ＞＜）『さあ古巣対決です』
(´･ω･`)『しかし朴を７番に置けるとは……改めてビックバンズの層の厚さを感じます』
（；＾ω＾）（朴さんはとにかく低めの変化球が苦手だお）
( <●><●>)（そうですね、決め球に使いましょう）
<ヽ｀∀´>（……）
（；＾ω＾）（追い込んだ……）
ストレートで押し、カウントは２‐２。
ヴィッパーズの時はとにかく低めの変化に弱かった。
( <●><●>)（ボールになって構いません。カーブです）
（；＾ω＾）（把握）
投球動作に入る。
そして、渾身のカーブを投げ込んだ。
低めのカーブに手が出かける。
しかし、なんとかそれを押しとどめようとする。
ボールを振ったか、振っていないか。
( <●><●>)（振りました！）
自信を持って三塁審にスイングの判定を求める。
しかし、三塁審のだした結論はノースイング。
(；<●><●>)（なっ……）
（；＾ω＾）（ちょ……）
（ ＞＜）『そうですね……あっ、今リプレイが入りました』
(´･ω･`)『うーん……』
（ ＞＜）『今画面では先ほどの朴のスイングをご覧頂いています』
(´･ω･`)『リプレイでも微妙ですね……振っているようにも見えますが……』
（ ＞＜）『判定はノースイング。ボールです。カウントはフルカウント』
( <●><●>)（……）
（；＾ω＾）（……）
( <●><●>)（仕方がありません。ストレートしかないでしょう）
（；＾ω＾）（でも……）
自分のストレートは松井に持っていかれている。
狭い東京ドーム。どこに打てばホームランになるのか知り尽くした一打だった。
( <●><●>)（大丈夫です。内藤さんの球威なら）
（；＾ω＾）（……）
グラブの中のボールを見つめる。
どうすべきか。直球か、変化球か。
フルカウントからの、投球。
内藤が投じた球。
<ヽ｀∀´>（……）
余裕で見送る朴。
カーブを見極められた。
（；＾ω＾）（……）
あの見送り方。
まるでカーブが来ることがわかっていたかのようだった。
（；＾ω＾）（……読まれてたんだお、僕が勝負を避けることを）
朴は四球でワンアウトランナー一塁二塁。
松井のホームランからやや内藤が崩れている。
( <●><●>)（……）
（；＾ω＾）（……）
どうすれば、この悪い流れを断ち切れる。
点差は２点。ビックバンズ相手に２点のリードを守れるのか。
その瞬間、三塁ベンチから馬鹿でかい声が響いた。
この声だけでブサイクとわかる声は毒田しかいない。
(＃'A`)「てめーら俺を差し置いてスタメンの癖に何ひよっちゃってますかー！」
（；＾ω＾）（……）
( <●><●>)（……）
(＃'A`)「このふぐり！ ギョロ目！ やる気ないなら変われ！」
（；＾ω＾）（今……無性にガルベスしたいお……）
( <●><●>)（同感です）
ふー、と溜め息をつく。
確かに、少し浮かれていたかもしれない。
( <●><●>)（……）
（；＾ω＾）（……ま）
( <●><●>)（……）
（；＾ω＾）（ガルベスするのは、試合が終わってからだお）
( <●><●>)（……ええ）
(´・_ゝ・｀)
（；＾ω＾）（盛岡さん……）
重量打線の中で比較的抑えやすい相手。
しかし、盛岡も勝負強い一面を持っている。
( <●><●>)（……）
（；＾ω＾）（……でも、抑えるお）
( <●><●>)（はい）
インコースに決まるストレート。
(；´・_ゝ・｀)（む……相変わらず速いな……）
スピードガンは１５２キロを計測している。
軟投派のピッチャーが増えている中、貴重な速球タイプのピッチャーだ。
(´・_ゝ・｀)（進塁打は打っておきたい……）
狙うは右打ち。
内野の頭を越えれば最高だが、それを簡単にさせてくれるほど内藤は甘くない。
大きく縦に割れるカーブに空振り。
(；´・_ゝ・｀)（あっさり追い込まれた……か）
振り切らずに右打ちを狙っているのに空振り。
内藤が凄いのか、自分が劣っているのか。
(´・_ゝ・｀)（両方、かな）
盛岡は少し、自虐的に笑った。
高めいっぱいに決まるストレート。
(´・_ゝ・｀)（いくらバッティングがアレだからって……）
(＃´・_ゝ・｀)「嘗めんな！」
バットを振る。ボールは高々と舞い上がって――
セカンドのグラブに収まった。
(；´・_ゝ・｀)（セカンドフライ……最悪だ）
ランナーを進めることすら出来なかった。
次はピッチャーの兄者なので同じと思うかもしれないが、大きく違う。
ピッチャーだってヒットを打つ時もあるし、ワイルドピッチやパスボールもある。
とにかく、一つでも次の塁にランナーを進めることが大事なのだ。
(；´・_ゝ・｀)（それなのに……）
そう思いながらベンチに帰ろうとする。
するとニヤニヤ笑う兄者と目があった。
（ ´_ゝ`）「嘗めんな(笑)」
(´・_ゝ・｀)「あ？」
（ ´_ゝ`）「セカンドフライ(笑)」
(＃´・_ゝ・｀)「お前を殴ることにした」
（；´_ゝ`）「わー、待って待って！」
兄者はグリップテープが巻かれたバットを持ってボックスに向かう。
ニヤニヤ笑いを浮かべて盛岡を見る。
（ ´_ゝ`）「そんなクヨクヨすんなって」
ヘルメットを一旦外して、髪をかきあげる。
そしてまたヘルメットを被った。
（ ´_ゝ`）「自分のケツぐらい、自分で拭くさ」
(´・_ゝ・｀)「……ああ」
『９番ピッチャー流石』
(´・_ゝ・｀)「打撃練習まともにやらねえ奴が内藤の球打てるかよ」
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３０ ３４
Ｂ ０１ １３
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
もはや立ち直った兄者にヴィッパーズは手も足も出ない。
(,,ﾟДﾟ)「はにゃーん」
２番擬古は三振。
|;;;;| ,'っﾉVi ,ｺｺつ（……）
３番マリントンはセカンドゴロに倒れた。
(´・_ゝ・｀)（よし……いい感じだ。今の兄者なら……）
『４番ファースト、宝』
( ＾Д＾) 「……」
(´・_ゝ・｀)（こいつも抑えれる）
腕をしならせての第一球。
右打者の宝の膝元に決まるストレート。
球速は１４７キロを記録している。
( ＾Д＾) （……やっぱはえーべ）
一打席目の兄者とはまるで別人の球である。
何があったのかは知らないが、立ち直ったのだろう。
ここで４番の自分が倒れれば、兄者が調子づく。
そうなると更に点を加えるのが難しくなってくる。
( ＾Д＾) （そうはさせねー）
(´・_ゝ・｀)（カーブがかなり良くなってきたからな……）
（ ´_ゝ`）（把握った）
ビックバンズバッテリーはカーブを選択。
比較的直球に強い宝。変化球で攻めるのはセオリーだ。
盛岡が要求したのはアウトコースに落ちていくカーブ。
兄者はそのサイン通りの所に投げ込む。
(´・_ゝ・｀)（ピッタリだ！）
完璧なボール。
これは振っても当たらないだろう。
そう思った時だった。
(＃＾Д＾) （うらぁ！）
(；´・_ゝ・｀)（！）
宝が、スイングした。
そのスイングに巻き込まれ、ボールは右方向に飛んでいく。
おっつけた打球は右中間を破るツーベース。
悠々とセカンドベースに到達する。
（ ´_ゝ`）（あの球を持っていかれるか……）
(；´・_ゝ・｀)（調子よく来てただけに痛いな……崩れなければいいが）
『５番ライト、ガイエル』
J（ ﾟ_ゝﾟ)し（ナイスやタカラ！ ワシがホームに返したんで！）
※結果は察してください
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ３５
Ｂ ０１ １３
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
３回のウラ、内藤は１番坂本・２番松本を打ち取る。
しかし。
[ヽﾟ∀ﾟ] （BUSHパワーでウチマース！）
３番マークにレフトへのヒットを許す。
これもコーナーいっぱいのナイスボール。
奇しくも先程の兄者と似た状態になった。
（；＾ω＾）（うう……）
『４番レフト、松井』
にしこり （……）
(；<●><●>)（……）
先程の松井の打席を思い出す。
ストレートをコンパクトなスイングでレフトに持っていかれた。
自慢のストレートは通じない。どうすればいい。
(；<●><●>)（……）
結局結論は出ないまま中途半端な投球。
そしてカウント１‐３からの５球目。
（ ＞＜）『ボール！ ストレートが大きく外れてフォアボール！』
(´･ω･`)『自分から傷口を広げてしまいましたねえ』
（；＾ω＾）（……）
にしこり （……）
ツーアウト、ランナー一塁二塁。
ピンチを広げて対するは５番の亀井。
日本代表に選ばれたこともあるスラッガーだ。
〈 ´亀｀〉（イチ、チャンスでの打撃を見せたるわ）
（；＾ω＾）（うう……）
ロージンを手につけながら、思う。
自分は何を投げれば、この人を抑えれるだろう？
〈 ´亀｀〉
不適に笑う、亀井。
（；＾ω＾）
怖じ気づく、自分。
開き直れ。打たれたからなんだ。
（；＾ω＾）（……）
頬に流れる汗を拭う。
ロージンを落とす。白い煙が舞った。
( <●><●>)（初球は変化球から……）
（；＾ω＾）（……）
( <●><●>)（！）
カーブのサインに首を振る。
そんな弱気の攻めでは、勝てっこない。
力一杯、今自分が持てる最高の直球を投げ込む。
高めへ少し外れるボール球。
〈；´亀｀〉（ぬうっ！）
しかし、その球威につられて振ってしまう。
球速は１５５キロ。
〈；´亀｀〉（ありえん……）
和手枡はサインを出す。
( <●><●>)（決めましょう）
高めへのストレート。
内藤の、ウイニングショット。
〈 ´亀｀〉（ストレートが来る……！）
（；＾ω＾）（読まれたところで……）
ゆっくりとセットポジションから、しかし力強いフォーム。
思い切り、腕を振った。
白球が一瞬にして、マウンドとホームベースの１８．４４ｍを埋める。
予想外に速いストレート。
おそらく、一球目よりも速い。
だが、負けるわけにはいかない。
圧倒的な戦力を持ちながら優勝から遠ざかっているビックバンズ。
〈 ´亀｀〉（もう……負けるわけには……）
ベンチで試合を見つめる監督。
まだ若い自分を５番に抜擢し、結果が出ないときも我慢して使ってくれた。
〈＃´亀｀〉（……）
まことしやかに囁かれる監督解任の噂。
きっと、今年優勝できなければ現実のものになる。
さっきの松井さんのホームランと同じだ。
勝負には負けて構わない。だが、点は取る。
えてして、そういう点の方が投手にとって重荷になることもある。
〈＃´亀｀〉「おらっ！」
思いきり、バットを振った。
構わず振り切る。
ボールが上がる。
（；＾ω＾）（……）
〈 ´亀｀〉（ぐ……）
手にはジンジンとした痛みが走っている。
しかし、勝利を確信した。
（；＾ω＾）「落ちるな――！！」
ふらふらと上がった球は、ふらふらとセカンドとセンターの間に落ちた。
ツーアウトだから、スタートはいい。
二塁ランナーのマークは、ボールがホームベースに来る前に、駆け抜けた。
唇を噛む。
打ち取った当たり。
だからこそ、悔しい。
（； ω ）（……）
気持ちが、沈んでいきそうになる。
Ｖ ３‐２ Ｂ
じわり、じわりと追いすがるビックバンズ。
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ３５
Ｂ ０１１ ２５
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
ヴィッパーズはすっかり立ち直った兄者に手も足も出ない。
対する内藤もランナーは出すもののなんとか凌いでいた。
そして、６回オモテ。
（＃´_ゝ`）「せいやっ！！」
(=；ﾟωﾟ)（よぅ……）
（ ＞＜）『見逃し三振！！ 流石４連続三振！！』
（＃´_ゝ`）「っしゃあ！！」
完全に試合はビックバンズペースであった。
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ３６
Ｂ ０１１ ００ ２７
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
なおも内藤はマウンドに立っていた。
（ ＞＜）『さあ６回の内藤。
ここまではランナーを出しながらもなんとか２失点に抑えています』
(´･ω･`)『勝負所のストレートがキレてますね。
しかし、ここからも踏ん張れるかどうか』
（；＾ω＾）（……）
球数は８０を越えている。
だが、疲れは感じない。
いけるとこまで、行ってやる。
〈 ´亀｀〉（……）
（ ＞＜）『さあバッターボックスには先ほどタイムリーの亀井』
(´･ω･`)『チャンスメーカーの働きを期待したいですね』
（；＾ω＾）（……）
一球目。
サインは様子見のストレート。
やや外目に外して亀井の様子を見る。
そう思い、リラックスして投げる。
(；<●><●>)（！）
しかし裏を返せば。
その球は気持ちの入っていないボールだった。
そしてそれが、コントロールミスで中に入ってきた。
〈 ´亀｀〉（チャンス！）
そして、亀井は甘い球を見逃してくれるバッターではない。
思いきりよく振り切った打球はセカンドの頭を越えライト前へ。
先頭打者のヒットだ。
（ ＞＜）『諸本さん、今のバッティングをどう見ますか』
(´･ω･`)『甘い球を逃さず振りましたね。
カウントに関わらず甘い球は振る。非常に積極的だと思います』
（ ＞＜）『そうですか。次のバッターは６番木村拓です』
ヽ・ω・〉（ちょ、待てよ！）
（；＾ω＾）（むむ…）
続く木村拓は難なくバントを決める。
これでワンアウト二塁。一打同点の場面だ。
<ヽ｀∀´>（悪いな。内藤。ヒーローの座はいただきだ）
（；＾ω＾）（……）
( <●><●>)（……）
朴には先ほどの打席レフトにツーベースを打たれている。
ヴィッパーズ時代弱点だったアウトローの変化球をおっつけてのツーベースだった。
<ヽ｀∀´>（……）
（；＾ω＾）（……）
とりあえず、ストレートのサインを出す。
カウントを整えるのに内藤のストレートは大きな武器だ。
( <●><●>)（しかし……決め球は……？）
朴は直球に強い。
いくら内藤のストレートでもすんなり空振りしてはくれないだろう。
決め球に何を使うべきか。
( <●><●>)（やはり……ストレートか？）
（；＾ω＾）（……）
頭の中でセオリーを組み立てる。
そして出した結論。
（；＾ω＾）（……把握だお）
内藤が、頷いた。
内藤が決め球として投じた球。
<ヽ；｀∀´>（カーブ……！）
データを信じた、渾身のカーブ。
先ほどのツーベースを打たれたコースと同じ。
しかし朴は変化についていけず空振り。
三振だ。
（；＾ω＾）（……よし）
( <●><●>)（……）
いくら練習しても、長年の癖はなかなか治らない。
さっきのツーベースは決め打ちだったのだろう。
まさか、ヒットを打たれた所と同じコースに投げるとは思っていなかったのではないだろうか。
（；＾ω＾）（とにかく……抑えたもん勝ちだお）
強打者の朴さんを打ち取って、次の打者は守備面で起用されている盛岡さん。
どこかで、嘗めていたんだろう。
（ ＞＜）『盛岡打った――！！』
（；＾ω＾）（！！）
スライダーを右に捉えられた。
擬古さんが走る。ガイエルが走る。
しかし、ボールは２人の間に落ちた。
（ ＞＜）『抜けた――！
二塁ランナー亀井ホームイン！！
盛岡は二塁へ！！ ビックバンズついに追いついた！
盛岡のタイムリーツーベース！！』
勝利が、指の間を抜けていったような気がした。
まるで『お前なんていつでも打てる』と言わんばかりに。
三振。しかし、スコアボードには『３』が２つ並んでいた。
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ３６
Ｂ ０１１ ００１ ３９
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
７番・８番と倒れ打順は９番の内藤へ。
（ ＞＜）『さあピッチャーの内藤の打順ですが……』
(´･ω･`)『微妙ですね。ベンチは７回までは投げてほしいんじゃないですかね。
中継ぎ陣が手薄ですから』
（ ＞＜）『そうですか……あっと、内藤がヘルメットを被って出てきました』
(´･ω･`)『続投ですね。吉とでるか凶とでるか』
内藤は三振。
試合は終盤に突入していく。
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ０ ３６
Ｂ ０１１ ００１ ３９
Ｖ 内藤‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
投げた球は１００球近くに達している。
そろそろ握力も弱くなっていくころだ。
（；＾ω＾）（……）
打席には１番に戻って坂本。
甘い球は逃さず振ってくる。
（；＾ω＾）（……）
サイン交換し、内藤が投球動作に入る。
その時坂本の手に力が入った。
〈 ｀∇´〉（甘い！）
真ん中近くの半速球。
緊迫したゲームでは御法度の失投。
己の感覚に合わせ、バットを出す。
ボールが自分からバットの芯を避ける姿を。
〈；｀∇´〉（くそっ！ ツーシームか……！）
打者の手元で少しだけ動き、芯を外すボール。
坂本はまんまとそれに乗ってしまった。
打球は転々とセカンドへ。
茂等が難なく捌き、ワンアウト。
（；＾ω＾）（滅多に使わないツーシームだけど……うまくいったお）
ストレートでカウントを２‐１としての４球目。
（；＾ω＾）（カーブで……）
( <●><●>)（来い！）
（；＾ω＾）（終わりだおっ！）
［ё.―ё］（……）
ストライクゾーンに決まるカーブ。
しかし松本は力を入れずバットを振り……
「ファール！」
ボールは三塁側の内野スタンドに消えていった。
場内にファールボールに注意するよう促すアナウンスが流れる。
もうなんかすごい粘る。
一塁側や三塁側、果てはバックネットまで使って右や左やの粘り打ち。
（；＾ω＾）（う……）
球数を投げさせられ、カウントも悪くなる。
疲労がたまる。肉体はもちろん、精神的にも。
［ё.―ё］（……）
そして松本に対しての１２球目。
(´･ω･`)『これは内藤は厳しい……。
１２球も使わされた上にヒットまで許してしまった』
（ ＞＜）『さあ次は３番マーク……おっと、ヴィッパーズブルペン誰か投げています』
(´･ω･`)『んー……杉浦ですね。４番５番が左ですから、
内藤はマークまででしょうか』
[ヽﾟ∀ﾟ] （……）
強打者のマークを迎えての第一球。
内藤と和手枡は一瞬松本に気が回っていなかった。
（ ＞＜）『さあ第一球……あっと松本走った！』
（；＾ω＾）（！）
(；<●><●>)（く……）
慌てて二塁に送球するがセーフ。
不用意な守備で傷を広げてしまった。
そしてヴィッパーズベンチから投手コーチが出てきた。
(´･ω･`)『交代ですね』
（ ＞＜）『はい、恐らく杉浦でしょう。
内藤６回１／３でマウンドを降ります！』
（；＾ω＾）（……）
満点の出来ではない。
でも、これが自分にできた精一杯の投球だ。
ベンチに戻ると毒田が声をかけてきた。
タオルで汗を拭き、ドリンクを飲んで答えた。
（ ＾ω＾）「後は頼んだお」
('A`)「……おう」
ピッチャー内藤に代わりまして、杉浦。背番号５４』
レフトスタンドから歓声が上がる。
ヴィッパーズ不動のセットアッパーの杉浦。
コーチからボールを受け取り、投球練習を始める。
（ ＞＜）『さあ、同点の場面で杉浦です』
(´･ω･`)『しかし、中継ぎ陣の不安さから杉浦１人に負担がかかっていますね』
（ ＞＜）『今日から中継ぎ陣の柱、怪我で離脱していた流石弟者が復帰していますが……』
(´･ω･`)『まだ使わないみたいですね』
にしこり （杉浦か……正直顔も見たくないんだがな）
（ ФωФ）「……」
杉浦は左のサイドハンドからＭＡＸ１５５キロの速球・大きく曲がるスライダーを駆使する。
左右関係なしに低い被打率を誇っているが、左打者には特に強い。
更に更に左打者の中でも松井にはめちゃくちゃ強い。
にしこり （早く引退してくれ……）
松井自身、杉浦からのヒットは数回しか思い出せない。
日本を代表するスラッガーの松井だが、杉浦にだけは手も足も出ない。
変則的なフォームで直球を投げ込む杉浦。
その球は左打者から見ると背中から来るようだ。
にしこり （っ……）
思わず見逃す。
しかし、アウトコースに決まるクロスファイアは見事にコーナーギリギリに決まっていた。
にしこり （……）
にしこり （スライダーが来る……！）
わかっている。
日本最高峰のスライダーが来ることなど。
（＃ФωФ）「ぬうん！」
にしこり （わかってるんだ……！）
しかし、打てない。
杉浦のスライダーについていけず、三振。
にしこり （ぐ……）
松井は杉浦を半ば怨みの目で見つめていた。
松井を三振に取った杉浦。
次の打席、立場は逆転する。
杉浦は亀井を苦手にしているのだ。
〈 ´亀｀〉（やったるでー）
亀井を睨みつける杉浦。
今年亀井とは４回対戦した。
その内打ち取ったのは１回。あとの３回は全てヒットだ。
だが、光明はあった。
（ ФωФ）（まだ俺は、スライダーを打たれていない）
得意球であるスライダーはまだ打たれていない。
打たれたのはチェンジアップやストレートのみだ。
（ ФωФ）「……」
亀井に対しての第一球。
力いっぱい踏み込み、力いっぱい投じる。
その球種に亀井は虚を突かれた。
〈；´亀｀〉（スライダー……！）
いきなり決め球のスライダー。
カウントを組みたてたがる杉浦には珍しい光景だ。
次は何だ。またスライダーか。
（ ФωФ）「むんっ！」
〈；´亀｀〉（！）
テンポが早い。
キャッチャーからボールを受け取ったかと思うとサインを交換し、投げる。
こちらに考える時間を与えないつもりだ。
そして投じられたボールはストレート。
〈；´亀｀〉（ぐうっ！）
その速球についていくのがやっとだった。
ボールはなんとかバットに当たるも、三塁側のスタンドに消えていく。
少し間を取る。
次は何が来るだろうか。カウントは２‐０。
一球外してくるか。
〈 ´亀｀〉（……いや）
きっと勝負してくる。
杉浦は、自分がそう判断して油断するのを待っている。
〈 ´亀｀〉（……スライダー）
きっと、スライダーだ。
しかし、打てるのか。松井さんがわかっていても打てないスライダー。
〈 ´亀｀〉（……打つ。せやないと、イチに顔向けできん）
そう心に刻んで、打席に入り直す。
( <●><●>)（……わかりました）
和手枡は迷っていた。
なんとなく、亀井がスライダーを待っている気がしたからだ。
しかしスライダー待ちの松井は三振した。
( <●><●>)（大丈夫です……大丈夫）
〈 ´亀｀〉（……）
（ ФωФ）「ぬうん！」
〈 ´亀｀〉（来た！）
予想通り、スライダー。
自分の背中から来るようなスライダー。
しかし、惑わされるな。
どんな軌道を辿ろうとも――
〈 ´亀｀〉（最終的には、打てるとこに来るんや！）
ボールゾーンに逃げていくスライダー。
それに向かって手を伸ばし、流し打ち！
（ ＞＜）『打った――！！ ボールはレフトへ――！！』
（；ФωФ）「！」
ツーアウト。打った瞬間にランナーはスタートする。
ボールはスライス回転を伴ってこちらに向かっている。
放っておいたらフェアゾーンに落ちるのは間違いない。
(=ﾟωﾟ)（ダイビング……）
頭に浮かぶ選択肢。
必死に走って、ボールに追いつこうとする。
結局、ダイビングはしなかった。
後ろにそらして２点献上するリスクを背負うより、
確実に１点を取られる方を選んだのだ。
ボールは伊陽のすぐ前に落ちる。
〈＊´亀｀〉（よっしゃ！！）
ライトスタンドから歓声が上がる。
俊足の松本が帰ってきて、ホームイン。
均衡が、破れた。
Ｖ ３‐４ Ｂ
（ ФωФ）「……」
ヽ・ω・〉「最後にピッチャーをして欲しかったです！」
残り回数、２回。
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ０ ３６
Ｂ ０１１ ００１ １ ４11
Ｖ 内藤〜杉浦‐和手枡
Ｂ 流石‐盛岡
マウンドにはなおも兄者が立っていた。
崩れたのは初回のみ。ここまで１１奪三振である。
（ ´_ゝ`）（完投してやるさ。ケツを拭いてもらったからにはな）
『１番ショート、川島慶』
しかしヴィッパーズも１番からの好打順である。
まだまだ１点差。諦める点差ではない。
（Ｋ‘ー｀）（……）
(´･ω･`)『ビックバンズは中抑えもいいですからね。
兄者も疲れが見える回ですしなんとか捉えたいところです』
（Ｋ‘ー｀）（……）
(´・_ゝ・｀)（大丈夫か？ 疲れてないか？）
（ ´_ゝ`）（ひかえおろう。天下のエース様に向かって何という口のききかた）
(´・_ゝ・｀)（後でぶん殴る）
（Ｋ；‘ー｀）「う、うわたっ！」
兄者の腕から投じられた球は川島の顔近くの危ない球。
場内がどよめきに包まれる。
(；´・_ゝ・｀)（何してんだ……）
（ ´_ゝ`）（わりーわりー）
（Ｋ＃‘ー｀）（……）
（ ＞＜）『さあ、気を取り直して２球目……おっと』
カーブが外れてボール。
（Ｋ‘ー｀）（……）
(´・_ゝ・｀)（……？）
そして三球目。
（＃´_ゝ`）（決まれっ！）
アウトローギリギリのストレートを投げる。
しかし、ボール二個ほど外れ、ボール。
カウント０‐３。
（ ´_ゝ`）（……）
(；´・_ゝ・｀)（あっ……）
（ ＞＜）『ボール！ これも外れてフォアボール！！
流石、ストレートのフォアボール！』
（Ｋ‘ー｀）（……よし）
悠々とレガースを外し、一塁に向かう。
兄者がまた崩れる兆しを見せている。
攻めるなら、今だ。
(´・_ゝ・｀)（兄者……）
少し、腕の振りが悪くなっている。
今まで三振を多く取ってきた。
裏を返せばそれは、球数が多いということ。
（ ´_ゝ`）（……完投は無理か）
(´・_ゝ・｀)（あに……）
（ ´_ゝ`）（残ったパワーあとアウト３つに注いでやるさ）
(´・_ゝ・｀)（！ ……ああ）
自分で言うのもなんだが、俊足だ。
……狙うっきゃないっしょ。
（Ｋ‘ー｀）（……）
マウンド上の兄者に集中する。
兄者の癖などは知らない。
信じるのは、自分の感覚だ。
（Ｋ‘ー｀）（！ 牽制！）
そう感じた瞬間、兄者がこちらを向いた。
頭から滑り込んで帰塁する。
本当の大一番で信じなければならないのはデータでも他人でもない。
（Ｋ‘ー｀）（信じるのは俺、ただ一つ）
だって、自分の感覚を信じれない奴に、何ができる？
何もできやしない。
（Ｋ‘ー｀）（牽制！）
またもや牽制。
ムダとばかりに頭から滑り込む。
なんとなく、そう感じた。
この『なんとなく』に自分はどれだけ助けられてきたか。
（Ｋ‘ー｀）（中学、高校、そんでプロ）
すべて、自分が切り開いてきた。
次に自分が目指すべきは、ほんのわずか先にある白いベース。
（Ｋ‘ー｀）（簡単っしょ）
兄者が足を上げる。
その瞬間に、走り出した。
歓声が上がる。その歓声すら切り裂いて、駆ける。
（；´_ゝ`）（！）
(＃´・_ゝ・｀)「うらっ！」
盛岡が捕球し、すぐ投げる。
しかし、最高のスタートを切った川島には届かない。
「セーフ！！」
（Ｋ＃‘ー｀）「っしゃあ！」
二塁ベース上で、獣が吠えた。
これでワンアウト三塁。
(´･ω･`)『……ここでバントですか』
（ ＞＜）『何か問題でも？』
(´･ω･`)『いえ、１点が重いゲームですからありといえばありでしょう』
（ ＞＜）『はあ』
(´･ω･`)『しかし結果的に兄者にワンアウトをプレゼントした形になります。
もし僕が采配するなら多少無理にでも擬古に打たせてましたね』
（ ＞＜）『そうですか』
(´･ω･`)『せっかく川島が盗塁を決めたので。
イケイケムードに水が差されなければいいんですが』
（ ＞＜）『そうですか。さあ、打順はクリーンナップ！
３番のマリントンです！』
今まで決まっていたきわどい球がことごとく外れていく。
そしてカウント１‐３からの５球目。
（；´_ゝ`）（チッ……）
(；´・_ゝ・｀)（……）
（ ＞＜）『フォアボール！！ 兄者このイニングまででフォアボール２つ！』
（Ｋ‘ー｀）（いける……いける！）
ビックバンズの投手コーチがマウンドに向かう。
「兄者」
（ ´_ゝ`）「……交代ですか」
「ああ。……ガイエルからな」
(´・_ゝ・｀)「！」
「山口とブームをスタンバイさせてある。宝を抑えてくれるだけでいい」
(´・_ゝ・｀)（そんな簡単に……）
（ ´_ゝ`）「……へえ、たったワンアウトでお仕事終わりですか」
「ああ。頼めるな？」
（ ´_ゝ`）「任せてください」
（ ´_ゝ`）「頭が高い。エース様になんて口利きやがる」
(´・_ゝ・｀)「死ね」
兄者の球数は１１０を越えている。
そんな状態で宝を抑えられるのか。
(´・_ゝ・｀)「……抑えろよ？」
（ ´_ゝ`）「モチ」
（ ＞＜）『さあ、コーチは行きましたが交代はなし！
エース対４番、真っ向勝負！』
(´・_ゝ・｀)（……）
（ ´_ゝ`）（あとたった１０球ばかしだ。簡単っしょ）
『４番ファースト、宝』
( ＾Д＾) （……）
兄者が本調子に入って、唯一ヒットを打っているのが自分だ。
調子は悪くない。だから打てる。
（ ´_ゝ`）（いけっ！）
(；＾Д＾) （！）
兄者の一球目はストレート。
思わず見送る球威。
球速は１４５キロ。
( ＾Д＾) （この回に来て１４０キロか……流石だな）
（ ´_ゝ`）（流石だな。俺）
(´・_ゝ・｀)（調子に乗るな）
そして四球目のストレートを空振り。
カウントは２‐２。
（ ´_ゝ`）（スライダー行くぞ）
(´・_ゝ・｀)（おう）
狙うは右打者から見て逃げていくスライダー。
うまくいけば三振してくれる。
( ＾Д＾) （……）
セットポジションからの５球目。
疲れを感じさせない腕の振りから放たれるスライダー。
(＃＾Д＾) （スライダー……！）
(´・_ゝ・｀)（決まれ！）
(；＾Д＾) （まだだ……！）
際どいスライダー。
宝はそれをなんとかバットに当て、ファール。
（ ´_ゝ`）（……宝きゅん、流石ね）
( ＾Д＾) （簡単に三振してたまるか……！）
(＃＾Д＾) （行けっ……！）
バットを振るが、バックネットに突き刺さるファール。
（；´_ゝ`）（あぶねえ……）
要求されていたコースより内に入った。
宝が打ち損じてくれて助かった。
(；＾Д＾) （むむ……チャンスボールが……）
（；´_ゝ`）（！！！）
(；´・_ゝ・｀)（バカ野郎……！！！）
( ＾Д＾) （来た！！）
スライダーの失投。
少し内に入った程度ではない。
完全にど真ん中のボール。
迷いなく、振り切る。
( ＾Д＾) （捉えた！）
（ ＞＜）『打った――！！ 大きい――！！』
(´･ω･`)『……力んだな、宝』
焦ったのか。
タイミングが早かった。
打球はレフトのポールの僅か左に逸れていった。
「ファール！！」
レフトスタンドからため息が漏れる。
三塁側ベンチから荒巻監督代行が飛び出す。
（ ＞＜）『荒巻代行が抗議に向かいます。今のはホームランではないか、と』
(´･ω･`)『……入ってないでしょう』
宝がまったく抗議に参加しなかったことと、
相手の抗議と間違えたガイエルが>>317をしてしまったことが大きかった。
（ ＞＜）『さあ気を取り直して第８球目』
（ ´_ゝ`）（あれをミスショットしてくれるとは……正直助かった）
(´・_ゝ・｀)（二度目はないぞ）
（ ´_ゝ`）（わかってる。少し頭が冷えた）
(´･ω･`)『こういう大ファールの後は……』
(；＾Д＾) （ぐううっ！！）
大きい曲がりのカーブについていけず、空振り。
三振だ。
（＃´_ゝ`）「っしゃあおらー！！ どんなもんじゃーい！！」
兄者が吼える。
流れが一気にビックバンズに傾いた。
(´･ω･`)『……こうなりますよね』
ピッチャー流石に代わりまして、山口。背番号４７』
山口「……」
(´・_ゝ・｀)「ガイエル相手だが大丈夫か？」
山口「大丈夫です。何とかなりますよ」
（ ＞＜）『さあピッチャー流石に代わりまして山口。
育成枠から這い上がった左腕。１５０キロの速球と鋭いスライダーが持ち味です』
(´･ω･`)『直接対戦したことはありませんが、
映像を見る限り杉浦に匹敵するであろう左腕ですね』
（ ＞＜）『恐らくガイエルに対してのワンポイント登板。
果たして山口抑えられるか！』
J（ ﾟ_ゝﾟ)し「そんじょそこらの若僧に負けるかい！」
ピッチャー山口に代わりまして、ブーム。背番号３６』
| ＾o＾ |「早くお家帰ってしょうゆ飲みたいです」
（ ＞＜）『さあツーアウトとなってピッチャーはブーム！』
(´･ω･`)『彼は一風変わった経歴を持っているんですよね』
（ ＞＜）『はい、アメリカの高校在学中に大リーグと間違って日本のプロ志望届を提出。
そしてそのままビックバンズに指名されました』
(´･ω･`)『決め球は無いんですが、高いレベルで安定している投手ですね』
（ ＞＜）『そのブームが相対するは伊陽！ 抑えられるか！』
昨年イースタンリーグで本塁打王に輝いた伊陽。
意気揚々と一軍に上がった伊陽を待っていたのは異次元だった。
(=ﾟωﾟ)（……）
有り得ない速度、有り得ない曲がり。
こいつら全員ドーピングじゃないか、と疑ったこともあった。
二軍とは比べ物にならない注目度。
期待の若手としての自分への注目は、生涯で一番のものだ。
(=ﾟωﾟ)（……）
あがる。
自分のスイングがわからなくなる。
スタンドが遥か彼方に見える。
| ＾o＾ |「しょうゆビーム！！ ズババババババ！！」
(；´・_ゝ・｀)（声に出てる声に出てる！）
(=ﾟωﾟ)「よぅ！」
(´･ω･`)『また……難しい球を振りましたね……』
（ ＞＜）『インハイの厳しい球を打ち上げた！
亀井が下がって……捕球した！』
(´･ω･`)『うーん……』
（ ＞＜）『スリーアウトチェンジ！ ビックバンズ最大のピンチを切り抜けた！』
| ＾o＾ |「ろーじんぺろぺろ」
(；´・_ゝ・｀)「早くベンチに帰るぞ！！」
(=ﾟωﾟ)（……）
手を握りしめる。
許せなかった。
自分が。自分を信じれない自分が。
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ００ ３６
Ｂ ０１１ ００１ １ ４11
Ｖ 内藤〜杉浦‐和手枡
Ｂ 流石〜山口〜ブーム‐盛岡
ピッチャー杉浦に代わりまして、流石。背番号３０』
（ ＞＜）『さあヴィッパーズピッチャーが代わります！
先ほどまで投げていた流石兄者の弟です』
(´･ω･`)『弟者がいるといないとでは中継ぎの層の厚さが段違いですから。
戻ってきてくれて荒巻代行はホッとしているでしょう』
（ ＞＜）『ケガで出遅れていた流石弟者。
今シーズン初のマウンドに向かいます！』
久々のマウンドがクソ兄貴に汚されてるのが気に食わんが……」
( <●><●>)「お帰りなさい、弟者さん」
（´<_｀ ）「ああ。３０試合も休んでしまったからな。これからは全開で行くよ」
（ ＞＜）『弟者は三振というよりはゴロを打たせるタイプです』
(´･ω･`)『そうですね。兄者は三振を多く取るタイプですから。
そういう意味では対照的な２人ですね』
（´<_｀ ）「ま、下位打線だしサクッと行くか」
『７番サード、朴』
<ヽ｀∀´>（久しいな。弟者）
（´<_｀ ）（ああ、ニダさん。ヴィッパーズ時代はメシ奢ってくれてありがとうございます。
あなたに見せつけられたソウルタワーは忘れません）
<ヽ｀∀´>（……それは忘れろ）
（ ＞＜）『さあヴィッパーズ時代は特に仲がよかった２人。
対決の時を迎えます！』
（´<_｀ ）「よっと」
スリークォーター気味のフォームから繰り出されるストレート。
その速さは大したことはない。
だが、弟者の武器・コントロール。
（´<_｀ ）（別に１５０キロ出す必要もムダに球を曲げる必要もない。
勝ちゃあいいんだ、勝ちゃあ）
<ヽ｀∀´>（ム……）
一球目はボールと見て見送る。
しかし審判のコールはストライク。
<ヽ｀∀´>（……）
だが、インローギリギリのストレート。
狙っても、そう打てる球ではない。
<ヽ｀∀´>（……）
２球目、３球目と見送る。
どうやらケガの影響は無いようだ。
昨年と同じ弟者。違うのは２人が向いている向きか。
弟者が投げた４球目。
アウトコースに入る半速球。
<ヽ＃｀∀´>（打てる！）
そう思い、バットを出す。
しかし、バットに当たる寸前ボールが動いた。
<ヽ；｀∀´>（！）
ボールは転々とショートへ。
難なく川島が処理し、ワンアウト。
（´<_｀ ）「……」
変化が小さい、ほとんどツーシーム並の動きのフォーク。
しかし、そんなフォークも精密なコントロールと合わされば魔球となる。
<ヽ｀∀´>（……やられた）
気のいい後輩にやられた悔しさ。
必ず返すと誓いながら、ベンチに引っ込んだ。
（´<_｀ ）「おお、三者凡退」
(´･ω･`)『弟者はこれからも問題なさそうですね』
（ ＞＜）『はい、下位打線ながらビックバンズを三者凡退。
ヴィッパーズにとっては明るい材料です。
さあ最終回！ ヴィッパーズの逆転はあるか！』
途中経過
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ００ ３６
Ｂ ０１１ ００１ １０ ４11
Ｖ 内藤〜杉浦〜流石‐和手枡
Ｂ 流石〜山口〜ブーム‐盛岡
当然出てくるのは守護神。
ヴィッパーズの斉藤。
レールウェイズのウィリアムズ。
ドラゴンフライズの岩瀬。
イーグルスの福盛(笑)。
各チームには名だたる名ストッパーが存在する。
そしてそれはビックバンズも例外ではない。
『ビックバンズ、選手の交代をお知らせします。
代打いたしましたモカーに代わりまして、Ｍ.中村。
９番ピッチャー、Ｍ.中村』
('A`)（……出てきたか）
(´・_ゝ・｀)「マイケル、大丈夫か？」
┝∀┥「大丈夫大丈夫。劇場の準備は任せてよ」
(´・_ゝ・｀)（出来れば劇場は止めて欲しいんだがな……）
（ ＞＜）『さあビックバンズ勝利の方程式。
マウンドにはマイケル中村が向かいます』
(´･ω･`)『彼もねえ……よく打たれてるんですか、最終的には抑えてるんですよ』
（ ＞＜）『はい、そのあまりのスリル感に、
「マイケルはわざとランナーを出している」
「試合を最後まで面白くするために劇場を用意している」
とまで言われています』
(´･ω･`)『普通なら一笑で終わらせるんですが実際に抑えてますからね』
（ ＞＜）『今宵も開演マイケル劇場！』
（ ･∀･）（……）
マイケルはサイドから放たれる速球とスライダーを主とするピッチャー。
簡単に打てる球ではないのだが、なぜか先頭打者の出塁率は高い。
┝∀┥（ポウ！）
（ ･∀･）（……）
そして自分の打席もたぶんに漏れず、ボール先行。
そしてカウント１‐３からの５球目。
（ ･∀･）（……）
（ ＞＜）『案の定である！
先頭打者にフォアボールを与えましたマイケル！』
(´･ω･`)『ライトスタンドのお客さんの顔が引きつってますね』
『８番キャッチャー和手枡』
( <●><●>)（バント……）
自分に出されたのはバントの指示。
確実に次のバッターにバトンを渡す。
それが自分の役目だ。
( <●><●>)（……）
（ ･∀･）（ナイスバント）
┝∀┥（ここまでは台本通り……）
（ ＞＜）『さあ和手枡確実に送りバントを成功させました』
(´･ω･`)『次はピッチャーの打順です』
（ ＞＜）『もちろん代打を送るでしょう！』
スレ開始４００レス超にしてやっとである。
('A`)（……）
ネクストサークルで素振りをする。
滑り止めをバットにふりかけ、重りを外す。
照明が当たるバッターボックスに歩を進める。
『ヴィッパーズ選手の交代をお知らせします。
バッター流石に代わりまして、毒田。背番号３７』
('A`)（……）
１点差。
守護神。
('A`)（打ってやる）
（ ＞＜）『さあ代打は毒田！
昨年の優勝決定サヨナラヒットは記憶に新しいところ！』
(´･ω･`)『チャンスに強いバッターではありますからね』
（ ＞＜）『しかし今年は極度の不振に陥り、ついに今日スタメン落ち。
今日は一打同点のチャンスに起用です！』
('A`)（……本当に打てるかな）
打てない相手ではない。
昨年は何度かヒットやタイムリーを放っている。
しかしそれは昨年の話である。
('A`)（……）
今年の俺とは初対戦。
マイケルの頭にはどんな台本が組まれているのだろうか。
┝∀┥（劇場で役者が死んでは意味がない。
教えてあげよう。劇場は決して炎上ではないことを）
サイドハンドから繰り出されるストレート。
┝∀┥（ポウ！）
('A`)（……クソ、速いな）
胸元に決まるストレート。
スピードガンの表示は１４２キロだ。
('A`)（……でも）
サイドハンドのややシュート回転のボール。
体感速度は、もっと速い。
鋭くはないけどまあまあ落ちるフォーク。
('A`)（この球は……見極める！）
ボールゾーンへ落ちるフォークを見極める。
本当に怖いのはスライダーであってフォークではない。
('A`)（それにしても……）
┝∀┥（……）
('A`)（接待プレイは終わりらしいな）
┝∀┥（……）
('A`)（上等）
そして４球目。
(；'A`)（！）
膝元に落ちるシンカーを引っ掛ける。
ボールはサードの朴さんのところにボテボテと転がっている。
(；'A`)（やっばーい！）
せめて内野安打に。
全力で一塁を目指す。
('A`)（……）
ボールはギリギリ朴さんがとる前に三塁線を割った。
本当にギリギリ。危なかった。
('A`)（でも……首皮一枚つながった）
まだ、打席に立てる。
チャンスは続いている。
１点差なのだから右打ちが絶対だ。
よほど強い当たりでない限り茂等さんの足なら三塁に行ける。
そして次のバッターは慶三。
('A`)（それが、最低限だな）
次に、何の球に狙いを絞るか。
マイケルの得意球・スライダー。
自分は自慢ではないがスライダーに強い。
なんとなく球筋が見えるのだ。
('A`)（だが……）
相手も俺がスライダーを得意なことなんて百も承知だ。
そう簡単に投げては来ない。
粘るしかない。
かつての自分のように。
しつこくねちっこくスライダーを待つ。
('A`)（作戦きーまり。……来い）
┝∀┥（……）
勝負のカウントだ。
マイケルは何を投げてくるか。
┝∀┥（……）
('A`)（……？）
マイケルが首を振った。
なんだ。なんだか不気味だ。
それほど球種の多くないマイケルが首を振る？
勝負か？
まだ球数の浅い、ここで勝負。
つまり、スライダー。
┝∀┥（……）
('A`)（……俺も嘗められたもんだ）
┝∀┥（相手の得意な球で抑える。それでこそ劇場は盛り上がる）
そして、マイケルが投球動作に入った。
┝∀┥（お前は俺の劇場の役者に過ぎない！）
スライダー。
杉浦さんほどではないが、大きい曲がり。
('A`)（でも）
球筋がはっきり見えた。
今年に入ってから一度も見えなかった球筋が、今はっきり見えていた。
('A`)（お前のわけわからん劇場に……）
┝∀┥（……）
(＃'A`)（付き合ってられるか！！）
その球筋に沿って、バットを振り抜いた。
鋭い当たり――！』
┝∀┥（くっ……！）
('A`)（よしっ！）
捉えた。
今年一番の当たり。
ライトスタンドの人間の顔はもはや死んでいる。
茂等さんがスタートを切った。
打球は、セカンドベース上を低い弾道で通過していく。
セカンドの木村拓がダイビングし、ボールはグラブに収まった。
……………………え？
（；･∀･）（しまっ……）
セカンドライナー。
スタートしていた茂等さんは戻れず、アウト。
……………………は？
『今日の試合は、４対３、ビッグバンズの勝利です。
本日は当球場にお越し頂き、ありがとうございました』
試合終了のアナウンスが鳴り響いても、俺はセカンドベースを見続けていた。
……夢だろ？
１２３ ４５６ ７８９ ＲＨ
Ｖ ３００ ０００ ０００ ３６
Ｂ ０１１ ００１ １０× ４11
Ｖ 内藤〜杉浦〜流石‐和手枡
Ｂ 流石〜山口〜ブーム〜Ｍ.中村‐盛岡
勝 流石 ３勝２敗
Ｓ Ｍ.中村 ８Ｓ
負 内藤 １勝３敗
本 松井12
（ ＞＜）『と言いますと』
(´･ω･`)『ライナーバックは基本中の基本です。
ベテランがあんなことをしているようでは勝つのは無理ですね』
（ ＞＜）『ヴィッパーズは今後どんな戦い方をしていけば？』
(´･ω･`)『流石が戻ったのは好材料です。
さっきの当たりを見る限り毒田もそろそろお目覚めでしょうか』
（ ＞＜）『そうですか。この放送は実況稚内弘人
解説諸本信彦さんでお送りいたしました。
諸本さん、ありがとうございました』
(´･ω･`)『失礼しました』
（ ＞＜）『それでは東京ドームから失礼します。ごきげんよう』
通路を歩く。
結果は、俺の打席で試合が終わった。
('A`)（……）
だが、収穫もあった。
あの感覚。確かに感覚が戻ってきている。
（ ･∀･）「毒田……すまんな」
('A`)「いやいや、木村さんが凄かっただけです」
（ ･∀･）「……」
('A`)「……？ なんだろ。茂等さん、失礼します」
（ ･∀･）「……ああ」
慶三に言われて監督室へと向かう。
何だろうか。最後のゲッツーについて何か言われるのだろうか。
『監督室』と書かれた扉をノックする。
「開いておるよ」
('A`)「失礼します」
承諾を得て、中に入る。
中には荒巻代行と、阿部打撃コーチがいた。
/ ,' 3「毒田、ご苦労様じゃったのう」
('A`)「いえ、とんでもありません」
/ ,' 3「して、最近暑いとは思わんか？」
('A`)「……？」
最近は夜中でも汗ばむときはある。
しかし、今この場でいう話題では――
/ ,' 3「『美府浜』に泳ぎにいってはどうじゃ？」
('A`)「――っ！」
/ ,' 3「……」
('A`)「そ、それは……」
/ ,' 3「ん？ 皆まで言わせるか？」
何も、言い返せない。
俺はこの妙齢のジジイに向かって、
('A`)「……はい」
と答えるのが精一杯だった。
観光地にして、有名な海水浴場がある。
しかし、それだけではない。
ニュー速ヴィッパーズ傘下、『美府浜パー速』。
――その、本拠地でもある。
( A )「――失礼します」
監督室から出て、通路を歩く。
さっきまで手に残っていたはずの感覚は、見えなくなっていた。
〜続く〜
阿部「……」
/ ,' 3「……毒田は行ったかの？」
阿部「はい」
その言葉を確認すると、荒巻は携帯を取り出す。
そして老人のように操作に戸惑うことなく番号を呼び出した。
/ ,' 3「もしもし」
『ああ、どうも』
/ ,' 3「おぬしの言うとおりにしたぞい」
『これはこれは、ありがとうございます』
『ええ、中継で見ていましたよ』
/ ,' 3「正直、現場としてはスタメンで使いたいんだがのう」
『……それではダメなのですよ。荒巻』
/ ,' 3「？」
あれではいずれ、更に大きな壁にぶち当たる』
/ ,' 3「……」
『それではダメなのです。彼には、末永くヴィッパーズを背負っていただかないと』
/ ,' 3「よう見とるのお。現場復帰してはどうじゃ？」
『病で自宅療養している老人を監督に？
荒巻も冗談がお好きだ』
/ ,' 3「代行に指名される身にもなれい。泥を被るのはいつもワシじゃ」
『ふふふ、申し訳ない』
/ ,' 3「さっきの毒田の顔を貴様にも見せてやりたいくらいじゃ」
『ふふふ。……毒田のことは、《彼女》にお任せしましょう。……それでは』
阿部「……」
/ ,' 3「……そうは言ってものう」
阿部「……」
/ ,' 3「明日からセカンドのレギュラー、どうする？」
阿部「それは監督が決めることかと」
/ ,' 3「……ちぇ。つれんのう」
〜続く〜