( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 20:47:04.16 ID:IT/UW27z0

「くそっ、またやられてるよ……」

VIP市内のラウンジ社の保有するとある倉庫。そこでひとりの若い工員が小さく毒づいていた。

「ん? どうした」

機嫌の悪そうな若い工員に、少し歳のいった工員が声をかける。

「あ、先輩。例の暴走したって回収されてきたTASIROのことなんすけどね……」

「あぁ、そういえばお前の担当だったな。何かあったのか?」

言われて若い工員はため息をついて「ちょっと見てください」と、目の前にあるTASIROを指差す

「なんだこれは……?」

若い工員の目の前にあるのは、家庭用として販売されているクリーム色のボディをしたTASIROだ。
家庭、店舗などで暴走し器物を破損したTASIROは、すべてラウンジ社の自主回収によりVIP市内にある四つの倉庫に収められている。
いま彼らの目の前にあるTASIROも、そのうちの一つである。
普通ここに収容されたTASIROは、暴走させないために手足をワイヤーで拘束されるが、彼らの目の前にあるTASIROにはそれがなかった。
いや、正確にはワイヤーそのものはあったのだ。
TASIROの足元に、まるで引きちぎられるような形で。

3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 20:48:32.88 ID:IT/UW27z0

「なにをどうやったら、業務用のワイヤーがこんなちぎれ方するっていうんだ?」

そういってワイヤーを拾い上げた年配の工員は、それを目の前にもっていって断面を覗き込む。
そして次にTASIROのボディを見て、顔をしかめた。

「それにこのTASIRO、随分とボロボロじゃないか」

目の前のTASIROの、家庭用であることをあらわすクリーム色のボディ。滑らかな丸みをおびたそれはところどころすすけて、へこんでいる箇所もいくつか見られる。
「もとからこうだったのか?」と聞く年配の工員に、若い工員は首を横に振って否定の意を伝える。

「最近いっつもこうなんですよ。朝倉庫に入ってくると収容されてるうちの何体かが、こんなふうにボロボロになってる」

「ひどいやつに限ってはCPUが破壊されてることもあるし……」と若い工員は目の前のTASIROのボディを慈しむように撫でた。

「TASIRO反対派のやつらの仕業かねえ……」

腕を組んだ年配の工員が、静かにため息を吐いた。

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 20:54:50.23 ID:IT/UW27z0

TASIROが普及してから、世の中は随分便利になった。
お年寄りの一人暮らしは楽になったし、単純な作業に人件費を割くことに頭を悩ませていた企業は大いに経費を削減することができるようになった。
ただ、多くの科学の産物がそうであるように、TASIROの普及で被害をこうむった人も多くいる。
介護師やベビーシッター、ハウスメイドやその日暮らしのアルバイターなどがその例だ。
とくに小さなアルバイトなどは大幅に減り、アルバイターだけでなく中高生なども頭を悩まされている。
トーキーの普及による無声映画の活動弁士の不要化や、紡績技術の発達による手織り業の衰退などと同じように、TASIROの普及により職を失った人も少なくない。

「だからって、こんなことをして良いとは言えないっすけどね」

TASIRO反対派の抗議活動によるデモは多く見られるが、その中で公衆の面前でTASIROを破壊する人がいるのを見るたびに、若い工員は胸が痛んだ。
たしかにTASIROが憎いというのは分かる。しかし彼らがやっているのはあくまで講義活動のはずなのだ、企業に「TASIROより自分たちを雇え」というのは分かるが、公衆の面前でTASIROを破壊するなんてお門違いも良いところである。
ある技術が生まれてしまった以上、人は自らが生み出したその技術とともに歩んでいくしかない。
人と科学は、もはや切っても切れないものになっているのだから。

「それで? 監視カメラに犯人は映ってなかったのか?」

ふいに年配の工員の声が聞こえ、若い工員は思考の底から引っ張り上げられた。

「あ、それがですね、カメラは真っ先にぶっ壊されちまったんすよ」

「いま換えのカメラの設置を倉庫の管理社さんのほうで検討してもらってるとこで」と、若い工員は苦笑しながら頭をぽりぽりとかく。

5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:02:21.25 ID:IT/UW27z0

「それにしたって、カメラを壊したやつの映像くらい映っててもよさそうなもんだが……」

「いや、それがですね不思議なことになんも映ってなかったんですわ。かわりにへんなもんは映ってましたけど……」

「『へんなもん』?」

「ええ、いや、カメラの不具合とかそういうもんだと思うんですけどね、カメラがぶっ壊れる直前の映像に画面いっぱいに妙な”赤い光が”―――」

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:03:09.53 ID:IT/UW27z0





     ( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです
            第七話「予兆」





8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:12:37.54 ID:IT/UW27z0

チャイムの音が鳴る。
賑やかな高校のお昼休み。今日もブーンたちは机をくっつけ、昼食をとっていた。

ξ゚听)ξ ……

(*^ω^) おっお、ツン。このだし巻きおいしいお!!

ξ;゚听)ξ ふぇ!? あ、ありがとう……

( ・∀・) ふむ、たしかにこれは中々……

ξ;゚听)ξ な、何どさくさにまぎれてあんたまで食べてるのよ!!

( ^ω^) お? ツンなんだか今日は元気がないお?

( ・∀・) そうだね、ツッコミにもなんだかキレがないし

川 ゚ -゚) どうかしたのか? 悩みがあるならお姉さんに話してみろ

ξ゚听)ξ

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:13:38.26 ID:IT/UW27z0

ξ゚听)ξ あ、えっとじゃあちょっといいですか?

( ^ω^) どうしたんだお? あらたまって

( ・∀・) なになに? なんかおもしろそうだね

川 ゚ -゚) なんだ? なんでも聞いてやるぞ?

ξ゚听)ξ

川 ゚ -゚)

ξ゚听)ξ 誰?

疑問に満ちた表情で、ツンが恐る恐る目の前に座る黒髪の美少女に指をむける。
それにつられてツンと黒髪美少女に挟まれるように机をくっつけて座る二人が、ゆっくりと黒髪美少女に目をやった。

( ^ω^) …… (・∀・ )

川 ゚ -゚) ん?

(;^ω^)て ク ー せ ん ぱ い !!? そ(・∀・;)

10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:14:36.17 ID:IT/UW27z0

川 ゚ -゚) なんだ、突然人の名前を叫んだりして。さっきからずっといたじゃないか

(;^ω^) い、一体いつからいたんだお!?

(;・∀・) 気付かなかった……あまりに自然に溶け込みすぎてて気付けなかった!!

ξ゚听)ξ あ、ブーンたちも気付いてなかったんだ

「よかった、てっきり私だけ置いていかれてるのかと」とツンがホッとため息を吐く。

川 ゚ -゚) なんだ、人を存在感の薄い陰キャラ少女Aみたいに……

(;^ω^) いやいやいや、っていうかなんでここに居るんですか先輩!!

( ・∀・) っていうかどっからもって来たのその机……

川 ゚ -゚) 自分の教室からもってきたが?

ブーンたちは二年生である。クーは三年生。ちなみに三年生の教室は二年生の教室の上の階にある。
彼らの脳裏には、黒髪長身の美少女が机を持って階段を下りてくる姿がありありと映し出されていた。
……かなりシュールである

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:22:09.28 ID:IT/UW27z0

ξ゚听)ξ で、誰なのよこの人

川 ゚ -゚) 三年生の素直クールという、クーと呼んでくれ

( ・∀・) ブーンの浮気相手だよ

ξ; 凵@)ξて !?

(;^ω^) ちょ、何言ってんだおモララー……

( ・∀・) ちなみに手紙(果たし状)で屋上に呼び出されてそのまま押し倒されたり(剣とかで)された仲だよ

ξ; 凵@)ξ 手紙(ラブレター)で屋上に呼び出されてお、おおおお押したおされ(性的な意味で)……!?

(;^ω^) ツン、落ち着くお!! たぶん色々と勘違いしてるお!!

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:23:18.30 ID:IT/UW27z0

ツンは恐る恐る目の前の黒髪美少女を見やる。
小柄で幼い体つきの自分とはまるで正反対で、長身でスタイルのいい彼女。
しかも先輩……最近の男の子は年上の頼れる女性が好きだと雑誌で読んだような……
しかも巨乳……自分は貧乳……ブーンハキョニュウガスキ……?

ξ 凵@)ξ ブーンの……ブーンの……

(;^ω^) あのー……ツンさん? もしも〜し

ξ;凵G)ξ ブーンのバカ!! おっぱい星人!!!

(;^ω^) ちょ、ツン!? つううううううううううん!!!!!!

自分にできる限界の罵倒の言葉を叩きつけ、走り出す少女と、それを追う少年。

( ・∀・) う〜ん、付き合い始めてさらにおもしろくなったね。あいつらは

川 ゚ -゚) おまえ、そうとうの性悪だな……

教室に残ったにやにやとした笑みを浮かべる少年と、これ幸いとばかりにツンの弁当をつまみ出す美少女。
とりあえず彼らは、ブーンたちが教室に戻ってくるのを待つことにした。

14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:24:12.50 ID:IT/UW27z0

ξ#゚听)ξ もぉ〜らぁ〜らああああああ!!!!

(;^ω^) お、おさえるお!! ツン!!

十分後。教室にもどってきたブーンは、目標を補足するなりモララーに殴りかかろうとするツンを必死に羽交い絞めにしていた。
それを横目でみながら、モララーは水筒から注いだ食後のお茶を啜っている。

( −∀・) 騒がしいねえキミは、ボクはなんにも嘘は言ってないよ?

ξ#゚听)ξ 言い方ってもんがあるでしょうが!!

( ―∀―) えー? ボクそんな変な言い方したかな〜?

ξ#゚听)ξ 言ったわよ!! ブーンが屋上に呼び出されて……その、お、押し倒されたって!!

( ・∀・) あー、そういえばそんなことも言った気がするねえ

ξ#゚听)ξ ほ、ほらみなさいよ!! そんな人の勘違いを誘うような……

( ・∀・) 勘違いってどんな?

ξ;゚听)ξ え?

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:24:56.98 ID:IT/UW27z0

ξ///)ξ え? あ、いやそれはその……

( ・∀・) ボクは手紙で呼び出されて押し倒されたっていっただけだよね〜? ツンちゃんはいったいなにを想像しちゃったのかな〜?

ξ///)ξ そ、そんなの言えるわけないじゃない!!

( ・∀・) へー、人に言えるわけないようなこと想像しちゃったんだ。へぇ〜ふぅ〜ん

ξ#///)ξ こ い つ……!!!!!

(;^ω^) ツン、どうどうだお……あーもう!! っていうかモララーも話をややこしくしないで欲しいお!!

( ・∀・) だっておもしろいんだもーん

ξ#///)ξ うっがあああああああああああ!!!!!

川 ゚ -゚)(このベーコンアスパラうまいな……)

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:31:31.93 ID:IT/UW27z0

ξ゚听)ξ こほん、ちょっと取り乱してしまったわ

さらに十分ほどあと、ブーンになだめられようやくおとなしくなったツンは席に座ってひとつ咳払いをした。

( ・∀・) ちょっとってレベルじゃなかったと思うけどね〜

ξ#゚听)ξキッ

(・∀・ )アーコワイコワイ

川 ゚ -゚) ツンとやら、このベーコンアスパラもっとないのか?

ξ#゚听)ξ ないです!! ってかあああー!!!! 私のお弁当!! なに勝手に食べてるんですか!?

川 ゚ -゚) おいしかったぞ

ξ;゚听)ξ え、あ、ありがとうございます……

ξ#゚听)ξ ってちっがああああああああああう!!!!!!

( ^ω^)ヨシヨシ ツン……

ξ*゚听)ξ な、なによその哀れむような目は!! ひ、人前で頭撫でないでよねッ!!

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:35:36.43 ID:IT/UW27z0

( ^ω^)ヨシヨシ(あ、二人のときはいいんだ)

ξ*゚听)ξ こほん、で、本題に入りましょうか。あとブーン、もうよしよしはいいから

( ^ω^) おっお

言われてブーンはツンの頭から手を離す。一瞬ちょっと残念そうな顔をした彼女を見てあとでまたなでてやろうと思った。

ξ゚听)ξ クーさんだっけ? 私たちになんか用事があるんじゃないの?

川 ゚ -゚) ああ、なんだそのことか

「実はな」と一言いって、彼女は声のトーンを落とす。これはなにやら重要な話題らしいと三人は真剣に耳を傾けた。

川 ゚ -゚) このベーコンアスパラの作り方を教えて欲しいんだが

ξ#゚听)ξ ベーコンアスパラはもういい!!!!!!

雷鳴のごとくすばやい手の動きで、ツンがツッコミのモーションを行う。
近年まれにみるツッコミの鋭さにブーンとモララーは感嘆の声をあげた。

(;^ω^) っていうか先輩料理するんですかお……?

川 ゚ -゚) 私はしないぞ、作るのはドクオだ

(;^ω^)(あれだけ引っ張りまわされて、そのうえ料理まで作らされてるのかお……)

平然と答えるクーの姿を見て、クーに料理を作らされるドクオの姿が容易に想像できたブーンは心底あの少年に同情した。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:36:29.39 ID:IT/UW27z0

川 ゚ -゚) ふむ、ではベーコンパスパラの作り方はあとに回すとして

ξ#゚听)ξ なにさりげなく私があとで教えるっていう方向にもっていってるんですか!!

川 ゚ -゚) 話というのは”セキラ”についてなのだが

憤るツンを、クーは華麗にスルー。机につっぷし、がっくりとうなだれるツンの頭をブーンはありったけの憐憫の情をこめてなでた。

川 ゚ -゚) 君たちはどれくらいセキラを持っているんだ?

( ・∀・) ”どれくらい”ですか?

川 ゚ -゚) そうだ、具体的に全体の何%くらいのセキラを保有している?

そう聞かれた瞬間、鳴り出すのはブーンとモララーの携帯電話。
ブーンたちが携帯電話の着信ボタンを押すと、彼らの携帯電話に宿ったセキラたちの声がスピーカーから発せられる。

ζ(゚ー゚*ζ ブーンさんは現在7%ほどの私たちを保有しています

( ΦωΦ) モララー殿は8%くらいである

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:38:26.91 ID:IT/UW27z0

川 ゚ -゚) ほう、ドクオからは聞いていたが本当に喋るんだな。君たちのデバイスは

( ^ω^) 先輩やドクオのは喋らないのかお?

川 ゚ -゚) 喋ることには喋るが、必要なとき以外声はださん。普段会話はメールとか文字形式でやりとりしている

そういうとクーは自分の携帯電話をとりだし、少しいじってから「ほれ」とブーンたちのほうに見せた。
向けられた画面には、一通のメールが表示されている。


From:ミセリ

やっほー☆ くーたんげんきー? みせりんだょ


(|l|^ω^)(軽ッ!!!)(・∀・|l|)

目の前に表示されている携帯の画面と、持ち主の無表情な女性を何度か見比べる。
「ギャップありすぎだろ」と二人は心の中で突っ込んだ。

川 ゚ -゚) 初めてあったころはもっと無機物的な文章だったんだがな、さいきん妙に人間味が出てきて

「ときどき私には分からない言葉で話しかけてくるから心底困っている」と彼女はため息をついた。

( ・∀・) それで? 先輩たちはどれくらいのセキラを持ってるんですか?

川 ゚ -゚) 私たちか? 私が9%でドクオが10%。あとジョルジュというやつもいるが……こいつはよく知らん

21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:41:09.50 ID:IT/UW27z0

ζ(゚ー゚*ζ それで、なんでクーさんはそんなことを聞くんですか?

( ΦωΦ) 自分たちの保有量も平然と話すあたり「敵情視察」というわけではなさそうであるが

「敵情視察」という物騒な言葉を聞いてブーンは思い出す。そうだ、今自分たちがやっているのは”セキラの持ち主を決めるための戦い”なのだ。
今、自分たちの敵はあくまでTASIROたちだが、最終的にセキラをめぐって人間同士で争わなくてはいけないかもしれない。
もしかすると、目の前の親友とも……

( ・∀・) あ、一応「敵情視察」って可能性は考えた上で喋ってたんだね

( ΦωΦ) セキラの量を教えた程度でモララー殿が負けるとも思えなんだしな

ζ(゚ー゚*ζ ”私たち”の量なんてまた敵を倒せば増えますし

そんなことを平然と話す彼らを見て、ブーンはどこか不気味さに似たものを覚えた。

川 ゚ -゚) ふむ、ちょっと考えていることがあってな。最近TASIROの事件が少なくなってきただろう?

(;^ω^) ―――ッ!!

何気なく発せられたその言葉にブーンの心臓は跳ね上がる。
TASIROの事件が少なくなって来たと言うことは確かに喜ばしいことだが、裏を返せばそれは人間同士の戦いが始まる前兆だということでもあるからだ。

( ・∀・) そういえば、ニュースではあまり見なくなってきましたね

川 ゚ -゚) うむ、特にここ一週間というもの、TASIROの事件は二件しか報告されていない。これは私たちの活躍によるところが大きいと思うのだが、ちょっと不安要素があってな?

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:49:32.94 ID:IT/UW27z0

「見てくれ」と言ってクーは自分の机の中から紙を丸めたものを出し、広げる。
それはVIP市内の地図のようだった。所々に四つほど、赤い丸で印がつけられている。

川 ゚ -゚) この赤い丸は、市内にあるラウンジ社の倉庫だ。情報によれば、暴走したTASIROはラウンジ社の自主回収によりこの倉庫に集められているらしい

暴走したTASIROというのは、つまりセキラを保有している可能性の高いものということだ。そんなものが一箇所に、しかも大量に集められている。
その事実から想像できるのは、一つの最悪の事態。

(;^ω^) !! ……それって

川 ゚ -゚) ああ、たぶん君の予想通りだと思う。私も試しに行ってみたのだが、かなりの量のセキラの気配を私のデバイスが察知した。

やっぱりか、とブーンは思った。それと同時に得体の知れない不安が心のなかをよぎる

( ・∀・) まさに敵の巣窟ってわけか、おもしろいね

それに対して、彼の親友はまるで新しいおもちゃを見つけた子どものような目で、嬉々とした表情を見せていた。

川 ゚ -゚) 収容されたTASIROが何者かによって破壊される事件も多発しているらしくてね

(;^ω^) ”セキラ同士の潰しあい”かお……

川 ゚ -゚) おそらくはな

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:50:16.24 ID:IT/UW27z0

まずいな、とブーンは思った。
セキラを宿したTASIROが大量に一箇所に集められているというだけでも厄介なのに、おまけにそのTASIRO同士が潰しあいまでしているという。
セキラの宿ったTASIROの強さは、当然のことながら、そのTASIROに宿っているセキラの量に比例する。そしてTASIROに宿るセキラは、TASIROがTASIROを破壊するごとに増量する。
それによって生み出されるTASIROは、今まで相手にしてきたものとは比べ物にならない強さを有しているだろう。

(;^ω^) とんでもなく強いTASIROが現れる前に、なんとかしないと……

川 ゚ -゚) ああ、そこで……だ

そう言うと、クーはぴっと人差し指を立てる。

川 ゚ -゚) 明日、この倉庫に行ってみようと思う

( ・∀・) 行ってどうするんです?

そう聞くモララーの顔は、しかしもうすでに答えが分かっているという風ににやにやしている。
ブーンにも、大体想像はついた。というより、この状況で自分たちができることはこれしかないだろう。

川 ゚ -゚) 工場に忍び込んで、収容されているTASIROを破壊する。かたっぱしからだ。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:51:23.01 ID:IT/UW27z0

(;^ω^) そんなことして、大丈夫なんですかお?

川 ゚ -゚) 大丈夫なわけないだろう? 不法侵入に器物損壊。違法行為であることは間違いない。

もちろん、それをして大丈夫じゃないことくらいブーンにも分かっていた。
そして、自分たちがそれをやるより他ないということも理解していた。自分たちがやらなければ、多くのセキラを勝ち取り強化されたTASIROがより多くのセキラを求めて人を襲うかもしれない。それは彼にとって許せないことだった。

しかし、やはり聞かざるをえなかったのだ。「セキラ」という常識を逸脱した異常なものを武器に戦う身になったとは言え、彼はつい最近までごくごく普通の高校生としての生活を送っていたのだ。「普通の高校生」はたぶん集団で企業の倉庫を襲撃したりはしないだろう。
ブーンはまだこのセキラを使って戦うという状況について、十分に慣れていない自分がいることを強く実感した。

( ・∀・) いいね……倉庫襲撃なんてなかなかアグレッシブで面白そうだ

そんなブーンとはとは真逆に、彼の親友はうれしそうに言った。それを見て「モララーも変わったなあ」とブーンは思う。
ちょっと前までの彼は、自分以外の前でこんな”素”の態度をとることはなかった。唯一ツンをイジるときだけは素だったような気もするが、やはりそれもどこか一歩引いた態度だったような印象がある。

川 ゚ -゚) この作戦に異論はないな?

そういって訊ねてくるクー。
考えてみれば、彼女だってセキラを手に入れたのはほんの二週間ほど前のことだったはずなのだ。
なのに今彼女は、倉庫襲撃というとんでもないことを平然とやろうと言ってきている。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:53:33.88 ID:IT/UW27z0

(;^ω^) おっお……僕はないですお

答えながらブーンは、セキラを通じて変わっていく周りとの温度差のようなものをひしひしと感じていた。

( ・∀・) ひとつ訊ねたいことがあるんですけど、いいですか?

ふと手を挙げるモララー。先程まで一番乗り気だった彼が手を挙げたことをブーンは意外に思う。

川 ゚ -゚) ん? なんだ、言ってみろ

( ・∀・) 素直先輩は、なんで”そんなこと”をしようと思うんです?

川 ゚ -゚) ”そんなこと”? ……それは、倉庫襲撃のことか?

( ・∀・) はい、倉庫襲撃なんてたいそれたこと、よっぽどの理由がないとできないと思うんですけど

それは調度自分も疑問に思うところだった、自分たちはセキラの被害から人を守るために戦っている。しかし、それは彼女も同じとは限らない。
セキラという危機があるとは言え、なぜ彼女は自分の身の危険を省みず倉庫を襲撃するなどという破天荒なことができるのだろう? ブーンはクーに視線を向ける。
彼女は困ったように腕を組み、「うーん」と唸っていた。
しばらくそうやって考えていた彼女は、不意にばっと顔をあげると、シンプルに一言、こう答えた。

川 ゚ -゚) そんなものは、ない

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 21:59:05.95 ID:IT/UW27z0

(;^ω^) お?

川 ゚ -゚) なんだそんな狐につままれたような顔をして、だから倉庫を襲撃するのに大層な理由などない、と言っているのだ

ふん、と鼻を鳴らしながらクーは胸をそらしふんぞり返る。こころなしか視界の端で、自分の恋人がその立派な胸を恨めしげに眺めていたような気がするが、たぶん気のせいだろう。

( ・∀・) ……でも、ボクたちは一応普通の高校生なんですよ? 倉庫を襲撃なんてたいそれたこと、ばれたら将来にだって響くかもしれないし

川 ゚ -゚) そうだな、「倉庫の襲撃」は確かに褒められたことではないかもしれない、でも私たちの目的は”それ”じゃないだろう?

クーは指を一本顔の前で立てると、ちっちっちと左右に動かす。

川 ゚ -゚) 私たちは、ただご町内の平和を守りにいく。それだけだと思うのだが?

( ・∀・) ……

真顔で答えるクーにモララーは沈黙した。
が、ふいに「ぷっ」と噴きだすと、やがて腹を抱えて笑い始めた。

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:00:04.99 ID:IT/UW27z0

川# ゚ -゚) ん? なんだ、なにがおかしい? あ、ひょっとしてバカにされているのか?

( ;∀;) ははははは……そ、そんなことないですよ、ただ面白い人だなあ。と

「やっぱりバカにしているじゃないか」と怒るクー。モララーはただただ笑いながら弁解し、一通りおちつくと「ボクも先輩の作戦に異議はないです」と言った。
おそらく「ご町内の平和を守る」という単純な目的のためにラウンジ社の倉庫を襲撃するという、彼女の破天荒というか迷いのない人柄が気に入ったのだろう。少なくともブーンは自分やツン以外の前でモララーがこんな大声を出して笑っているのを見たことがなかった。
そして、自分はどうなんだろうとブーンは考える。

( ^ω^)(僕はきっと、迷ってるお……少なくとも、この二人に比べれば)

別に「自分にできることをやりたい」という彼の意思に揺らぎはない。
しかし、人を守るためとは言え、企業の倉庫を襲撃するという大きなことがはたして「自分にできること」なのだろうか? そんな小さな疑問が、彼の心に小さな迷いを生じさせていた。
いや、実際には彼に迷いを生じさせる要因はあといくつかある。

ζ(゚ー゚*ζ

ブーンは目の前の机に置かれた携帯電話に目をやった。
彼の目の前にある携帯電話に宿っているセキラには「デレ」という立派な人格が宿っている。もし、明日行った倉庫にいるであろうTASIROに、彼女と同じような人格が備わっていたら?
それは、ずっと前から頭の隅にぼんやりと抱えていた不安だった。

( ^ω^)(もし人格があったら……そのときは)

―――自分は、どうするのだろう?
そんな彼の不安をよそに、得意げに明日の集合場所などを話す先輩を、ブーンはボーっと見ていた。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:01:45.46 ID:IT/UW27z0

放課後、ブーンたち四人は(なぜかクーもついて来た)帰り道を一緒に歩いていた。
しばらく歩くと、見慣れた橋の上で、見覚えのある野球帽の少年を見つける。

( ^ω^) あれ……ドクオかお?

川 ゚ -゚) ほんとうだな、なにやってるんだあいつは

('A`) ……

橋の上から夕日を眺める彼の顔は、どこか遠い目をしているように見えた。
その深刻そうな表情を見て、話しかけるべきかどうかブーンたちは迷ってしまう。

川 ゚ -゚)ノシ おーい!! なにしてるんだドクオー!!!

しかし、目の前の先輩の辞書に「遠慮」の二文字は無いらしい。手をぶんぶんと振りながら彼女はどんどんドクオのほうに歩いていった。
半ば呆れながらも、ブーンたち三人がそれに続く。

('A`) クー……あんたらも、なにやってんだこんなとこで

川 ゚ -゚) 今ちょうど一緒に帰っていたところだ、ちょうどいい、お前に話しておきたいことがある

('A`) ……?

怪訝な表情を浮かべるドクオに、クーは明日の倉庫襲撃作戦の全容を語る。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:03:29.18 ID:IT/UW27z0

川 ゚ -゚) そんなわけで、お前も参加しろ

びっと指をさしながら、クーはドクオに言う。
なぜ命令口調なのか気になるところではあるが、人を守るために戦う彼なら当然この戦いには参加してくれるだろうとブーンは思った。

('A`) ……悪ぃ、明日は無理だ

だから彼のその言葉を聞いたときは、一瞬自分の耳を疑ってしまった。

川 ゚ -゚) ……理由を聞こう

('A`) ……

川 ゚ -゚) まただんまり、か。なるほどな……

ふむ、と腕を組みクーは頷く。

川 ゚ -゚) ……ジョルジュのことか?

(;'A`) ―――ッ!!

32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:04:54.31 ID:IT/UW27z0

図星を突かれたのだろう、「ジョルジュ」という名前を聞いた瞬間、彼はびくりと跳ね上がるように頭を上げる。

川 ゚ -゚) 私たちには話せないことなんだな?

(;'A`) あ、ああ

川 ゚ -゚) そうか、ならば深くは詮索しない

そう言った彼女は、彼の肩にぽんと手を乗せると一言「がんばれ」とだけ言ってすたすたと歩いていく。
ブーンたちはその場に呆然と立ち尽くしていた。

(;^ω^) ……なんだかんだで上級生なんだおね、あの人も

ξ;゚听)ξ え、ええ……そうだったのね

(;・∀・) 侮っていた……「おとなげ」って言葉は彼女の辞書にはないものだとばかり……

何気にひどいことを言いながら、ブーンたちはクーの「何してるんだ、いくぞ」という言葉が聞こえるまで、驚愕のあまりその場を動くことができなかった。

立ち去る際に、ドクオのほうをちらりと見ると、彼はまた、何かを思いつめたような目で夕日を眺めていた。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:18:59.87 ID:IT/UW27z0

皆と別れた帰り道をブーンは一人で歩いていた。
本当はモララーも一緒に帰るはずだったのだが、彼はちょっと用事があるとかで、ツンと別れたすぐあとにどこかへ行ってしまったのだ。
歩きながら少し考えたあと、彼はポケットから自分の携帯電話を取り出した。

ζ(゚ー゚*ζ ブーンさん、どうかしましたか?

( ^ω^)】 おっお……ちょっと話があるんだお

番号を入力してワンコールもしないうちに彼女は電話に出た。いや、そもそも彼女はブーンの携帯電話そのものといってもいいので、「電話に出る」という表現が正しいのかは分からないが。

( ^ω^)】 明日のことなんだけど……

そして、口から出てくるのは、今まで誰にも語ることのできなかった弱音。
今後の戦いのことや、もし人格を持つTASIROが現れたときのことを考えると不安になってしまうこと、そして周りに対して変われない自分をもどかしく思っていることなど。
この際なので、ブーンは思っていることを洗いざらい彼女に話してしまうことにした。

( ^ω^)】 デレ……僕はどうすればいいのか、正直分からないんだお

ζ(゚ー゚*ζ ……

自分の声が思いのほか小さくて、ブーンはそのことに少し驚く。デレに言うまで気付かなかったが、どうやら自分は、このことでよっぽど思いつめていたらしい。
それに対し彼女はしばらく沈黙したが、やがてきっぱりと答えた。

ζ(゚ー゚*ζ それは……私にはわかりません。私は所詮あなたの”道具”に過ぎませんから

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:19:55.65 ID:IT/UW27z0

”道具”という言葉に、ブーンは自分に対してそんな言い方をすることはないんじゃないかと思った。
たしかに彼女は人間ではない。その正体は実体のない宇宙からきたコンピュータが作り出した擬似人格だ。
でも、実際彼女はこうやって自分と話しているではないか、笑ったり怒ったり、自分たちと何が違うというのか。
そう言おうとするブーンを制すように、デレは強い口調で続ける。

ζ(゚ー゚*ζ でも、”道具”だからこそ私には分かることがあります

( ^ω^)】 ?

ζ(゚ー゚*ζ 私は、あなたに”私たち”の所有者になってもらいたいと思っている

( ^ω^)】 お……?

一瞬、彼女が何を言っているのか分からなかった。
”彼女たち”が求めているのは”もっとも強いハードウェア”のはずだ。自分はクーのように行動力や決断力がある訳でもなく、ドクオやモララーのように強くもない。それどころか、こんな小さなことで迷い、くよくよ悩んでいる弱虫だ。
そんな自分のどこが、”彼女たち”の所有者にふさわしいというのか?
そう思ったブーンが彼女に訊ねると、彼女は笑って答えた。

ζ(゚ー゚*ζ だからこそ、ですよ

36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:20:57.36 ID:IT/UW27z0

ζ(゚ー゚*ζ あなたは、確かに他の”私たち”を持っている人とは違う。人と戦うことを嫌うし、人格をもっている”私たち”とも戦いたくないという

「でも、あなたはそれでいいんです」と、彼女はどこかうれしそうに言った。

ζ(゚ー゚*ζ 喧嘩がなにより嫌いで、でも誰かが傷つくのは嫌で、だから戦う。自分ではないだれかのために

そう言われてブーンは少し困ってしまった。
なんだか彼女の言っていることが、自分が実際やっていることと比べて、随分たいそうなことのように聞こえたからだ。

( ^ω^)】 なんだかそれじゃまるで、僕が”正義の味方”みたいじゃないかお……僕はただ、「自分にできることをやってる」だけだお?

ζ(゚ー゚*ζ ふふふっ、そうですね

楽しそうに彼女は笑った。思えば、この娘もずいぶん変わったものだ。出会ったときはあんなに無機質で、淡々とした喋り方しかしなかったのに

ζ(゚ー゚*ζ とにかく、私はそんな優しいあなたこそ、”私たち”の所持者にふさわしいと信じています。

そう言って彼女は、ほんの少し声のトーンを落とした。それは、何かを決意したような、そんな雰囲気を感じさせる声だった。

ζ(゚ー゚*ζ だから、そのために私も私にできることをやります

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:21:53.69 ID:IT/UW27z0

( ^ω^)】 ”そのため”って……「僕がセキラの所有者になるため」ってことかお?

首をかしげるブーンに彼女は「ええ」と言って肯定する

ζ(゚ー゚*ζ 私は、ブーンさんに”私たち”の所持者になって欲しい。だから私はそのために、あなたの武器となってあなたと友に戦います。それが私にできること

少し間をおいて、「でも、私にはできないこともあります」と彼女は付け足す

ζ(゚ー゚*ζ それは、ブーンさんのかわりに戦うこと。当たり前のことですが、それだけはどうしても私にはできません

( ^ω^)】 ……

いまいちデレの言わんとすることがわからず、ブーンは黙って彼女の次の言葉を待つ。

ζ(゚ー゚*ζ 私は、ブーンさんは今のブーンさんでいいと思っています。私の知っている今のあなただからこそ、私は自分の所有者であって欲しいと思うのですから

「でも、もしブーンさんが今の自分に納得がいかないというのなら」と彼女は続ける。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:24:09.45 ID:IT/UW27z0










ζ(゚ー゚*ζ どうか、戦うことを迷わないでください。その先にきっと、あなたの求めるあなたが在るから











39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:35:45.57 ID:IT/UW27z0

「私に言えることはそれだけです」とだけ言って、彼女は通話を切った。
ブーンはしばらく頭の中でボーっと彼女の言ったことの意味を考えていた。
そしてなんとなく、理解した。自分が戦う理由、それはセキラの被害にあう人を少しでも減らすため、そのために自分にできることをする。つまりは他人のための戦い。
いまでもその理由は変わらないけれど、きっともう、自分の戦う理由はそれだけじゃないんだ。

( ^ω^)(この戦いは、僕のためのものでもあるのかお)

セキラと関わる中で変わっていく人たちを見て、自分は羨ましいと思った。
強くなっていく人たちの姿を見て、心底まぶしいと感じた。
彼らと比べて弱い自分を見て、心底嫌になってしまった。
弱い自分が嫌だから、誰かを守れるほど強い自分でありたいと、心の底から願った。
きっと、それも自分の戦う理由。
そして、その強さを得るためには

( ^ω^) 「この戦いを戦い抜くしかない」のかお

ブーンは夕闇に染まる空を見上げる。
うだうだと迷っている自分の心とは正反対に、今日の空は晴れ渡り、どこまでも広がっている。

自分もいつか、この空のような広い心を持つことができたなら

それを望んでいる自分に気付いて、ブーンは自嘲ぎみにため息を吐き

( ^ω^)=3 ほんっと、ハードだお……

そう言って、笑った。

40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:36:35.91 ID:IT/UW27z0









この次の日、彼の人生でおそらく最もハードな出来事が待ち受けているのだが、とりあえず今のブーンには知る由もなかった。









41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:37:35.89 ID:IT/UW27z0

そのころ、VIP市内のとある携帯ショップから出てきたモララーは、ブーンと同じく晴れ渡った空を眺めていた。
ふと、自分の携帯が鳴っていることに気付いた彼は電話に出る。通話の相手は彼の親友と同じ声で、しかしなぜだかダンディーな口調で喋る彼のセキラだった。

( ΦωΦ) モララー殿、そんなにたくさん携帯電話を買ってどうするのである?

不思議そうに訊ねるロマの質問に、モララーは「よくぞ聞いてくれた」と言わんばかりに得意げな顔で答える。

( ・∀・)】 これかい? ……そうだね、ちょっとした『秘密兵器』ってとこかな

( ΦωΦ) 『秘密兵器』……?

( ・∀・)】 むふふふ……まあそれは明日のお楽しみってことで

楽しそうに笑うモララー、しかし彼はふいにその笑顔を収め、真剣な表情になる。

( ・∀・)】 ねえ、ロマ

( ΦωΦ) うむ?

( ・∀・)】 キミは、ボクについてきてくれるのかな?

( ΦωΦ) なんであるか、唐突に

( ・∀・)】 いや、もしもね、ボクが”キミたち”の主人になったとして、キミはボクについてきてくれるのかなって

( ΦωΦ) ……あたりまえである、我輩はモララー殿の”道具”なのだから

声のトーンを落としていつになく真剣な口調で話す主人に、彼の”道具”を自負するロマは平然と答える。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:57:32.45 ID:IT/UW27z0










(  ∀ )】 ボクが、”キミたち”をどんなことに使うとしても?

だからその主人の口から、掠れて消えてしまいそうなか細い声が出たときロマは一瞬なんと答えたらいいか分からなかった。










46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:58:22.08 ID:IT/UW27z0

しばらく考えたあと、ロマはゆっくりと答える。

( ΦωΦ) それがモララー殿の意志ならば、我輩はそれに従うだけである

( ・∀・)】 ……そっか

どこか安心したように呟くモララー。そんな彼にロマは「どうしたのであるか?」と聞いたが彼は「なんでもないよ」とはぐらかして通話を切った。

( ・∀・) 頑張らなきゃね、明日は

ポケットに携帯電話をしまいながらモララーはそう呟いて、夕闇に染まり、星の輝き始めた空を見上げた。

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 22:59:08.58 ID:IT/UW27z0









     ( ^ω^)彼らは携帯電話を武器に戦うようです
             第七話「予兆」
               おわり





52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 23:01:39.90 ID:IT/UW27z0

     ―次回予告―

川 ゚ -゚) 叫び声からしてムカつくな、お前は

(;^ω^) ちょ、モララー落ち着くお! どういうことだお?

ζ(゚ー゚;ζ ブーンさん、気をつけてください!

( ・∀・) ―――ちょっと”試してみたいこと”があってね?





     第八話:「襲撃」





53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 23:03:19.22 ID:IT/UW27z0





     +おまけ:「解説」+





54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 23:05:32.16 ID:IT/UW27z0

セキラの形態:
セキラはその所持者の思考を読み取り、『剣』や『鞭』など、その形態を所持者の想像した通りの武器へと変化させる。
ちなみに形態変化の際、ボタン入力などの入力行為を行うのは、その行為を介してセキラが持ち主の思考とリンクするためである。

Form Change:「ふぉーむちぇんじ」
セキラの形態変化時にセキラが音声、または文字という形で使用者に対し表示させることば
この行為により、セキラの形態が変わることを「形態変化」と呼ぶ。
言っておくが、けっしてダジャレではない

Assault:「あさると」
意味は「猛攻撃」、入力の際、武器ではなく特定の行為をイメージすると発動する。
セキラの流動、活性化などを行う
いわゆる必殺技的なもの

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2010/03/06(土) 23:07:02.47 ID:IT/UW27z0

Sword:「そーど」
セキラを『剣』の形に形態変化させたもの。強度・切れ味はそのデバイスに宿るセキラの量に比例する。
攻撃向きではあるが、セキラを全て剣に回しているため防御範囲は狭い。
使用者はブーン、モララー、クー

Fighter:「ふぁいたー」
セキラを体全体にまとった姿。身体能力が強化され、セキラがネットワークから得た情報から戦闘技術も向上する。
全身をセキラで覆っているため、防御範囲が広いが、単純な破壊力で言えばSwordに劣る。
使用者はドクオ、ブーン、モララー

Fencer Gauntlet:「ふぇんさーがんとれっと」
セキラを『剣』と、利き手を守る『籠手』に変えた姿。意味は「剣士の籠手」
セキラを籠手に回しているため、剣そのものの切れ味はSwordに比べて劣るが、防御範囲が広く、技術面をセキラが補ってくれるというメリットがある
使用者はブーン、モララー

Whip:「うぃっぷ」
セキラを『鞭』に形態変化させたもの。鞭の長さはデバイスに宿るセキラに比例する。
攻撃範囲が広く、また相手のセキラと同化する性質を持つため、剣などの武器に対して有効である。
使用者はブーン。しかしせっかくの鞭だというのに、なぜ女性キャラに持たせなかったのか……
ああ、しばかれたい

Shot:「しょっと」
携帯のレンズからセキラでできた弾丸を発射する形態。
攻撃範囲はとても広いが、他の形態変化に比べ威力は低め。ちなみに放たれたセキラは透明化してデバイスに戻るので、デバイスに戻る前にセキラを使い切り、一時的に弾切れすることはあってもセキラそのものの全体量が減ることはない。
使用者はクー


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