- 3 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:06:31.14 ID:sAEg1PfMO
- 村を出てすぐに、僕は彼女にどれだけ頼っていたのかよく思い知る事になった。
まず、ガイドという役割を果たしてくれてた事だ。
彼女と二人で歩いていたときは、彼女が道を示していてくれた。
もちろん、一歩でも道を間違えるようなら、即座に訂正してくれた。
だが、今は自分の勘と、地図と、僕が歩く道を信じて進む事しか出来なかった。
どこかで道を間違えるんじゃないか、このまま迷わないか、本当に不安だった。
次に、彼女の能力の恩恵を受けられなくなったこと。
確かに彼女の能力自体は引き継いでる。
それは、あの時既に確認済みだ。
植物は出るし、あの男から受けた傷も、もう六割方治ってる。
だが、彼女の強運までは、そのまま引き継げなかったらしい。
- 4 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:08:09.37 ID:sAEg1PfMO
- ( ^ω^)「……ついてないお」
今先程、僕はあるものと遭遇した。
熊だ。それも、僕の二倍近くもある巨体な親熊。
知ってるだろうが、熊はその巨体に似合わず俊敏だ。
僕ら人ごときが走ったところで逃げ切れる訳がない。
それに、熊は木も登れる。
近くの木に登ってもアウトだ。
もちろん、適切な対処法はあるし、知っている。
だが僕は、明らかな敵対行動を取った熊へのそれについては、生憎だが知らない。
僕は舌打ちをしながら剣を抜いた。
真っ向からの力勝負は即ち死を意味する。
それに、利き手じゃないとはいえ、僕は怪我をしている。
万全の状態とは言い難たい。
けど、だからといって向こうが退いてくれる訳でもない。
ええいままよと、僕も身構えた。
- 5 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:09:59.98 ID:sAEg1PfMO
- 緊迫した空気が流れる。
その空気を破ったのは向こうだ。
間合いを一気に詰めるかのような突進。
これは下手には躱せない。
ならばと、僕は近くの木々に、蜘蛛の巣のように蔓と蔦を絡ませながら展開した。
これで止めることは出来なくても、幾らか勢いを殺すことは出来るはず。
そう信じて、頼りない盾を突き出し、迫り来る衝撃を待った。
腕に確かな手応えを感じると同時に、僕は宙を舞った。
そして、受け身を取れることなく、地面にその身を打ち付けた。
( ω )「ガハッ……」
胃液が逆流する。
激しい眩暈も覚えた。
甘かった。相手を過小評価し過ぎたと、心に弱音も生まれた。
だが立たなくてはと、それだけを思い、震える足に鞭打って立ち上がった。
- 6 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:11:03.31 ID:sAEg1PfMO
- 敵は……よかった。絡まった蔦を外そうと、躍起になってる。
逃げることは叶わないまでも、休みながら策を練る時間はあるようだ。
どうする?
突進はあの速度と体格だ。
まず避けれるといった考えは除外すべきだ。
受け止める? いや、それも無理だ。
今ので充分思い知った。
なら接近戦に持ち込むか?
いや、それこそ無茶だろう。
のし掛かりをされたら一発で死ねる。
じゃあ……?
(;^ω^)「クソッ! 時間かお」
そうこう考えてる内に、敵も体にへばり付いた邪魔者を払い終え、こちらに対し、突進の構えを見せた。
- 7 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:11:50.49 ID:sAEg1PfMO
- このままじゃじり貧だ。
なんとかしないと。
しかし、手は? ……いや、ある。だけど成否を考える暇はない。
僕は手頃な木の枝に蔓を伸ばし、それを伝って登り始めた。
背後からはそうはさせまいと巨大な殺気が迫ってくるのを感じた。
頼む! 間に合え!
(;^ω^)「ハッ、ハッ、ハー……」
間一髪。
僕が丁度登りきったところに、熊が体当たりしてきた。
鈍い音と共に、多少揺れはしたものの、幹が折れることはなかった。
- 9 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:13:39.44 ID:sAEg1PfMO
- ( ^ω^)「さて、ここからが正念場だお」
今度はほんの少し離れた木の枝に、蔓を伸ばした。
もちろん、その長さが地面からその枝より、長いようにはしない。所謂ターザンごっこだ。
後は熊がよじ登って来ればいいのだが、向こうは僕の行動に不審感を抱いてか、なかなか登ろうとしない。
早くこい。蔓が思ったより張ってて、こっちは結構キツいんだ。
やがて痺れを切らしたのか、熊はゆっくりと登り始めた。
そうだ。もっと、もっとだ。
いいぞ……今だ!
- 10 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:15:44.71 ID:sAEg1PfMO
- ( `ω´)「やぁっ!」
機を見計らって飛び下りる。
気分は完全にターザンだ。
だが、このまま終わる訳じゃない。
(#`ω´)「くらえっ!」
重力に従って落ちるスピードを生かし、熊の肩口に剣を突き刺した。
嫌な感触が手に伝わる。
それでも僕は、出来る限り深く差し込んだ。
当然抵抗はあったが、後ろという死角に周っていたため、こちらに攻撃が届くことはなかった。
そして、しっかり根元まで差し込んだところで剣を手放した。
そのまま僕は、蔓に引かれるままに落ちて、木に足をつける形で着地した。
- 11 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:17:08.77 ID:sAEg1PfMO
- ( ^ω^)「終わりだお」
枝に結びついている蔓を消して地に降り立った僕は、新たに蔓を使い、差し込んだ剣を抜き取った。
血が吹き出るのなんて、マンガの中の話くらいだと思ってた。
命のやり取りなんて、物語の中だけだと思ってた。
今更ながら、僕は、断末魔の叫びと共に消えゆく命を眺めながら、そう感じていた。
( ^ω^)「……」
この胸に広がる気持ちは、きっといつまでも拭い切れるものではないと、僕は思った。
そして、それに慣れたくないとも思った。
- 12 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:18:08.60 ID:sAEg1PfMO
- ( ^ω^)「……行くかお」
僕はまた歩み始めた。
馬を引き、追っ手に追い付かれるか心細い思いをしながら。
今、誰も僕を支えてくれる人はいない。
そう。デレがいなくなって、一番辛いのは、「彼女の存在がない」ことだ。
彼女は常に僕を支えてくれていた。
ガイドはもちろんのこと、時に僕の相談役として、時に僕の愚痴を聞いてくれる人として、僕をサポートし続けてくれた。
それもこの世界にきてずっとだ。
その彼女がいない。
彼女の存在を当り前の様に受け入れていたことに対する仇か。
まるで僕の体の一部が無くなった気分だ。
( ^ω^)「デレ、早く帰ってきてくれお……」
ぽつりと呟いた言葉は、森のざわめきに消えた。
- 13 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:19:28.75 ID:sAEg1PfMO
- それからは特に何も問題はなかった。
未だに追っ手はないし、野生動物との遭遇もなかった。
一日の野営を過ぎて、僕は無事に隣村へと辿り着くことができた。
( ^ω^)「着いたお……」
どうやらイヨウさんの恩は無駄にはならなかった。
ありがとう。イヨウさん。
しかし、これからはどうすればいいのだろうか?
取りあえず、この村の長に会えば分かるかな。
そう結論付け、僕はその宅を探し始めた。
( ^ω^)「しかし、この村もいい場所だお……」
- 14 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:20:43.91 ID:sAEg1PfMO
- こちらの村も、イヨウさんの村と同じくらい田舎だ。
山の斜面に作られたそれは、僕がいる上の方から見ると、とても素晴らしい眺めだった。
こんな自然に溢れる景色など、今の日本にはもう数少ないだろう。
やがて、幾多の案内を受けた後、やっと目的の家に辿り着いた。
ノックをし、中に入る。
中には、中年の男性が一人、椅子に腰掛けていた。
( ´ー`)「ん、あんた見ない顔だーヨ。
もしかして隣村から来たかーヨ?」
( ^ω^)「え? あ、はいですお」
突然の質問に少し戸惑った。
いきなりなんだろう?
それによく僕が隣村から来たと分かったな。
- 16 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:23:16.62 ID:sAEg1PfMO
- ( ´ー`)「先日、うちの村の占い師がおかしなことを言ったもんだから、村長の俺としては、事実確認をしたいんだーヨ」
( ^ω^)「占い?」
( ´ー`)「話を纏めると、隣村が存亡の危機に陥って、そこを精霊神の使いが助けるといった話だーヨ。
その後、その使いがここに来るとかって言ってたーヨ」
そう言うも、彼はどうにも信じてると言った風ではない。
平たく言えば、そのことに呆れてるといった感じだろうか。
そんな事など信じないといった態度だ。
( ´ー`)「で、どうなんだーヨ? まぁ、どうせ嘘なんだろーけどヨ。
あんたが精霊神の使いには到底見えないからヨ」
- 17 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:24:33.83 ID:sAEg1PfMO
- そんな彼に、ちょっとした憤りを感じたが、大人しく手紙を渡すことにした。
文面に目を通す村長。
その目が動くごとに、村長の顔も青くなっていく。
そして、手紙を読み終わった頃には、もう凄い顔をしていた。
しかも、彼の目は、僕を人として見ていない。
何というか、畏怖のまなざしというか、化け物を見るというか、取りあえずそんなもの。
( ^ω^)(またその目かお……)
正直、もうその視線にも少しながら慣れてしまった。
……慣れたくはなかったが。
- 19 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:25:49.38 ID:sAEg1PfMO
- (;´ー`)「さ、先程は失礼したーヨ。
取りあえず、うちの占い師が会いたがってたから、是非会って欲しいんだーヨ。
その間に船の方はこっちがなんとか都合をつけるーヨ」
そう言い残して、村長は走り去ってしまった。
あの、せめてその場所だけでも教えて下さいよ。
そして、また歩き回るハメになった訳だが、田舎の情報の伝達速度というのは、どうやら相当速いらしい。
今度は占い師を探すことになった僕だが、行き交う人々は、僕を見るや拝み始めたり、やたら触りたがったり、果てには逃げ出したりした。
- 20 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:26:54.37 ID:sAEg1PfMO
- そんな風に今度は案内をしてもらえなかったため、村を一周する結果になったが、ようやくその占い師がいる家に着いた。
実はその家だけ避けてたのだが。
(;^ω^)「ヒー、ハー……。つ、辛かったお」
斜面のキツい道を登り降りするのはやはりキツい。
平然と歩くこの村の人々は凄いと思った。
(;^ω^)「じ、じゃあ……入るかお」
だが、どうしても尻込みしてしまう。
だって、そうだろう?
他の家は至って普通だが、その家ときたら、壁は青色、屋根は水玉模様ときてる。
そのせいで、この村の素晴らしい景色が、思い切り崩れ去っている。
- 21 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:28:12.11 ID:sAEg1PfMO
- 普通なら入りたくはないが、そうも言ってられない。
僕は勢いに任せてその家の扉を開けた。
|゚ノ ^∀^)「あらあら、いらっしゃい」
中は、正に占いの場と言った所か。
辺りには訳の分からない書物が積み上がり、机の上には水晶玉や、上に石ころを載せた六芒星の模様の布があった。
そして、机を挟んでいたのは、フードを被った不思議な感じの女性だった。
|゚ノ ^∀^)「あらあら、あらあらあら」
入口に立ち尽くす僕を一目見るや、彼女は僕のそばに寄って、覗きこむように僕を見た。
|゚ノ ^∀^)「あなたねー、精霊神の使いは」
- 22 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:29:36.08 ID:sAEg1PfMO
- ( ^ω^)「精霊神の使い?」
|゚ノ ^∀^)「あらあら、惚けちゃってー。いいのよ、分かってるからー。
ささ、遠慮せずにおねーさんに話してー」
精霊神とは一体何なのだろうか。
それに、この人は僕の事をどれだけ知ってる?
迂闊に情報は話せない。
かといって、このままでは堂々巡りだ。
ここは一つ、この先のことを占ってもらうためにも、話した方が良さそうだ。
( ^ω^)「実は……」
――
――――
――――――
- 23 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:30:43.43 ID:sAEg1PfMO
- |゚ノ ^∀^)「なるほどねー、それでこの村に来たのねー」
( ^ω^)「はいですお」
精霊と旅をしてること、隣村の事、僕が指名手配になってること、この世界にきてからのことを事細かに話した。
もちろん、僕自身の事や、旅の目的は伏せた。
その方が面倒が無くて良さそうだったから。
|゚ノ ^∀^)「取りあえず、ラウンジに行くことはおねーさんも賛成よー。
素晴らしい出会いがあるしねー」
それにねー、と、そう付け加えた彼女の目は、キラキラと輝いていた。
|゚ノ ^∀^)「あなたのお友達もラウンジに着けばすぐ帰って来るわよー。
よかったわねー」
- 24 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:32:51.71 ID:sAEg1PfMO
- (;^ω^)「え……」
笑い声を上げる女性を余所に、僕は一瞬だが戸惑った。
何故分かるのだろう。占いの結果だろうか。
まぁいい、それよりラウンジまで逃げれば、デレが、彼女が帰ってきてくれるのは僕にとって、かなりありがたい。
それが間違えてないことを祈るのみだ。
にこやかな彼女の視線を浴びながら、僕はガッツポーズを取った。
|゚ノ ^∀^)「結構話したわねー。もう準備も出来てるんじゃないかしらー?」
( ^ω^)「そうですかお。
では、そろそろ失礼しますお」
|゚ノ ^∀^)「あらあら、もう行っちゃうのー? 残念だわー」
- 26 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:34:27.61 ID:sAEg1PfMO
- 色々教えてもらったが、今は何より追っ手から逃げる事が第一だ。
ここでゆっくりしてる暇はない。
終始笑顔だった彼女に挨拶をして、僕はその場を後にした。
港の桟橋に行くと、準備はほとんど済んでるらしい。
この村の人は、とても手際の速いのだと少し感心した。
船はというと、小さくなく大きくもなくといった所だ。
僕の世界基準だと、クルーザーや漁船より一回り大きいくらいか。
出港の時間までそんなにかからないそうなので、船内で待たせてもらうことにした。
( ^ω^)「デレ……」
揺らぐ船室の中で、僕は彼女が早く帰ってくるよう、祈るのだった。
ラウンジの道へは、まだ遠い。
- 27 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:35:57.52 ID:sAEg1PfMO
- |゚ノ ^∀^)「あの子……僅かにだけど死相が出てたわねー……。
大丈夫かしらー、おねーさんちょっと心配だわー」
|゚ノ ^∀^)「ま、なるようにしかならないわよねー。
あの子が死なないよう願うのみだわー」
|゚ノ ^∀^)「けどやっぱりちょっとだけ占ってみましょうかー」
|゚ノ ^∀^)「……」
|゚ノ;^∀^)「あらあら、あらあらあら……」
|゚ノ;^∀^)「大丈夫かしらねー、あの子……」
- 28 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/24(日) 14:36:50.59 ID:sAEg1PfMO
- その頃、イヨウの村にて。
(=゚ω゚)ノ「だ、だから知らないといったら知らないよぅ!」
( )「ふむ、ラウンジあたりに逃げるかな? イヨウ殿はそこら辺、どう思う?」
(;゚ω゚)ノ「!? ……し、知らないよぅ! おいらに聞かないでほしいよぅ」
( )「なるほど、図星か。早速手配しよう」
(;゚ω゚)ノ「ち、ちょっと待つよぅ! 勝手に何言ってるんだよぅ! おいらは知らないって言ってるんだよぅ!」
( )「ふむ。君も覚えて置くといい。そんな無回答も、また一つの回答だとね」
(;゚ω゚)ノ「クッ……」
第十話――逃走――
完
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