- 3 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:28:24.97 ID:6YWqHJXdO
- 阿鼻叫喚とは正にこのことだろう。
燃え上がる家。逃げ惑う人々。
僕には一生縁がなかったであろう光景が、今、僕の眼前に広がっていた。
(;゚ω゚)「い、一体何が!?」
「わーん!! 来ないでよぅ!」
そこに、一人の女性と女の子が僕の方に追われてきた。
間違いない。船にいたときのあの親子だ。
助けないと!
(;^ω^)「下がってて!」
(゚、゚;トソン「あ、ありがとうございますっ」
*( ; ;)*「わあああああん! 怖いよぅ!」
- 4 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:30:13.40 ID:6YWqHJXdO
- 逃げて行く二人を尻目に、僕は追いかけていた男に立ち塞がった。
怖い。こんなあからさまな敵意と殺意を向けられた事は今までなかった。
けど、あの人達のためにも……
(;^ω^)「ここから先には行かせないお!」
「ああ!? 邪魔だテメェ」
そう言って有無を言わさず斬り掛かってきた。
やはり、遅い。
あの時の兵士の動きも遅く感じたが、やはりか。
敵の一撃を受け止めながら、僕は心の中で謝った。
ごめんなさい。ギコさん。
次に会っても、あなたは僕の師匠です。
どんな理由があろうと、僕をここまで育ててくれたあなたに、剣を向けられません。
- 5 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:32:04.19 ID:6YWqHJXdO
- 「どうした? 最初の威勢は何処へ行ったよ?」
(;^ω^)「ウゥ……」
相手の実力は明らかにギコさんやしぃちゃんより下だ。
とはいえ、向こうも喧嘩慣れしてるというのだろうか、どうにもやりにくい。
「お前を殺したら、次はあの女と餓鬼だな。
見るからに金目のものを持ってそうだったしな」
(;^ω^)「くぅ、行かせないと言ったお!」
鍔競り合いになるが、どうにも力負けしている。
段々と体勢が悪くなってきた。
「うるせぇ奴だな。テメェはさっさと死ねぇ!」
(#^ω^)「ぬあぁ、断る!」
- 6 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:33:32.40 ID:6YWqHJXdO
- だが、このままだと負けるかもしれない。
そうなったらあの子は?
あの子……そうだ!
そこから僕は迷わずイメージした。
敵の視界を奪うよう、目隠しになるように蔓が巻き付くイメージを。
(#^ω^)「んぎぎ、くらえっ!」
「うわっ、なんだこりゃ!?」
相手が怯んだところを狙って、剣を思い切り弾いた。
そして、すぐさま相手の利き手を思い切り蹴り上げる。
それが持っていた剣は、持ち主から手放され弧を描きつつ、炎の中に消えていった。
- 7 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:35:02.24 ID:6YWqHJXdO
- 「なんじゃこりゃ、前が、前が見えねぇ!」
敵は思わぬ事態にパニックに陥っていた。
必死で目隠しを取ろうともがいている。
だが関係ない。僕は、剣を持ち直して相手に向けた。
ζ(゚ー゚;ζ『ブーンさん!
丸腰の相手に何を!?』
分かってる。向こうにもう戦意はない。
それも分かってる。けど、こんなことをする人間は許せなかった。
こんな略奪行為をする人間が。
もし僕がいなかったら、あの親子は死んでいたかもしれない。
それをこいつはどんな顔でやった?
考えれば考えるほど、僕の心にどす黒い何かが広がっていった。
「ヒッ! 助けてくれ! 誰かっ!」
( ω゚)「……」
どの口がそんな事を言うのか。
侮蔑のまなざしと共に、尻餅をついてる賊に一撃を加えようと剣を振り上げた。
- 8 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:36:16.44 ID:6YWqHJXdO
ζ(>△<;ζ『ダメッ! ブーンさん!』
( ω )「……ッ!!」
- 10 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:38:26.37 ID:6YWqHJXdO
- 一瞬戸惑った。
そこを見事に突かれた。
何処からか飛んで来た短剣が、僕の剣を弾き飛ばしたのだ。
(;^ω^)「ッ! しまった!」
「おーおー、やってくれるじゃないの」
下品な笑い声と共に、一人の男がやってきた。
( ゚∀゚)「ウヒャヒャヒャ、全く、俺様がいないと屑ばっかだな、おい!」
そんなことを言って、手を振る。
白い線が、男から伸びて――
「ギャッ!」
直後に、短い断末魔を残して、先程僕と対峙していた賊は息絶えた。
喉元には、短剣が突き刺さっていた。
あんな小さなモーションでこんな芸当をこなすなんて……。
(;^ω^)「……」
- 11 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:40:23.97 ID:6YWqHJXdO
- こいつ……強い。
恐らく、ギコさんと同じか、それ以上に。
咄嗟に身構えた。
もしさっきのが来たら、躱せるとは到底思えない。
だが、急所を外すくらいなら……。
( ゚∀゚)「こいつは礼だよ。受けとんな」
(;^ω^)「ウッ……」
来た。
いや、そう思った時は遅かった。
既に僕の左の二の腕にそれは刺さっていた。
回避行動すら取れなかった。
いや、いつ飛んできたかも分からなかった。
そんな僕に出来たのは、相手を睨み付ける事だけ。
( ゚∀゚)「さーて、奪うもんも奪ったし、行くとするか。
じゃーなー、ウヒャヒャヒャ」
- 12 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:41:45.45 ID:6YWqHJXdO
- 奴等の手際は素早かった。
奪った品を運び込むと、すぐさま船を出して行った。
( ^ω^)「……」
どうやら助かったみたいだ。
幸い急所には刺さってない。
多分わざとだろう。
それが余計癪に触った。
(#^ω^)「……クソッ!」
あんな奴に、見逃されたなんて。
そして、全く手が出せなかった自分にも腹が立った。
天狗になっていた部分もある。
だが、それが無くても力の差は歴然としていた。
悔しかった。
自分の無力さが。
ζ(゚ー゚*ζ『ブーンさん……』
彼女の言葉が痛い。
けど、今は感傷に浸っている場合じゃないのだ。
僕は無言で燃え盛る村に駆け込んで行った。
- 13 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:43:46.01 ID:6YWqHJXdO
- しかし、勢いで飛び込んでみたはいいものの、次の行動にはなかなか移れなかった。
辺り一面血の海と炎の壁。
瓦礫をどかそうにも僕一人の力じゃどうにもならないし、デレの力もこれじゃ使えない。
(;^ω^)「クソッ、どうすれば……」
ζ(゚ー゚*ζ『……ブーンさん。ちょっといいでしょうか』
こんな時に何を一体と思った。
彼女と話す時間すらも惜しい。
下らない用件だったら、怒鳴りつけてやろうと思った。
ζ(゚ー゚*ζ『炎だけなら、消す方法があります』
- 14 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:44:48.62 ID:6YWqHJXdO
- 思わず腕輪を見つめた。
そんな手があるならどうして……。
そう言おうと思ったが、彼女の声は真剣そのもので、反論する気はすぐに失せた。
ζ(゚、゚*ζ『ただ……』
(;^ω^)『ただ、なんだお!?』
ζ(゚、゚*ζ『しばらく私は休眠状態になるんです。
能力などに影響はありませんが、私とは休眠中は会話出来ません』
(;^ω^)『え……』
ζ(゚、゚*ζ『どう……しますか?』
この状況を打破するには多分それしかないのだろう。
しかし、如何せんリスクが高過ぎる。
この先デレがいないということは、つまり優秀なガイドがいなくなるということだ。
そうなると、この先の苦難は計り知れない。
だが、今は迷ってる暇はない。
今この時は、目の前のことに集中すべきだ。
- 15 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:46:10.40 ID:6YWqHJXdO
- ( ^ω^)『頼むお!』
ζ(゚ー゚*ζ『……分かりました。
では、水場に行ってください』
僕は駆けた。
途中、僕に助けを求める声も聞こえたが、まだ行けない。
ごめんなさい。ごめんなさい。
後できっと行きますから、今は耐えてください。
( ^ω^)『……きたお。次は?』
ζ(゚ー゚*ζ『腕輪を水に浸してください。
あとは私が』
すぐさま手を水に突っ込んだ。
僕に出来る事はこれだけだ。
デレ。あとはお願い。
ζ(゚ー゚*ζ『――――……向日葵!』
彼女が叫び声に合わせるかのように水面が光った。
そして、水面が盛り上がったと思うと……。
- 16 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:48:46.71 ID:6YWqHJXdO
- (;^ω^)「なっ、うわっ!」
水面から巨大な茎が凄いスピードで生えて来た。
やがてその異常なまでの成長が止まると、その先からまた巨大な花が咲いた。
( ^ω^)「これは……」
向日葵だ。
花びらが薄い青をしているが、間違いない。
そしてその花から、何かが吹き出しはじめた。
あれは……水か!
まるでシャワーのように、それから出た水は、片っ端から燃え盛る火を消しはじめた。
『ブーンさん……』
( ^ω^)「そうだ! 今なら行けるお!」
呆然とそれを眺めてた僕も、改めて救助作業に移る事にした。
- 17 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:50:10.80 ID:6YWqHJXdO
- (#^ω^)「うー……ダリャァ!」
これで十。
瓦礫をどかした数だ。
今は力の秘密だろうが燃費だろうが関係ない。
僕はできる限り持てる力を全て使った。
蔓で瓦礫を絡めて引っ張ったり、蔦で崩れそうな瓦礫を支えたり。
僕に救助されたり、元々作業に携わっていた男衆は皆、僕と共に走り回った。
女子供は負傷者の手当てをお願いした。
皆必死だった。自分の怪我に弱音を吐く人はいなかった。
多分、村を見守るように咲く向日葵が、僕らを励ましていたのだろう。
(;^ω^)「ハー、ハー……」
そんななか、僕は途中から、眩暈を覚えた。
けど動いた。僕の助けを待ってる人がいるから。
助けられる人は全て助けたかった。
(#^ω^)「ああああああ!!」
- 21 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:53:01.21 ID:6YWqHJXdO
- 腕が思うように動かない。足も重い。
気を抜いたら倒れそうだ。
けどまだ動ける! だから動く!
「おーい! 誰かこっち手伝ってくれ!」
(;^ω^)「今行くお!」
――
――――
――――――
気付けば、夜は明けていた。
死者は大勢いたが、助かった者もそれ以上にいた。
( ^ω^)「……終わったお」
気付けば、僕達を見下ろしていた向日葵も、まだ消えてはいないものの、その役目を終えたのか水を出さなくなっていた。
- 22 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:54:04.58 ID:6YWqHJXdO
- 「誰だか知らないけど助かったよ」
「ありがとう! 本当にありがとう!」
( ^ω^)「いや、そんな……」
当たり前の事をしたにすぎない。
よかった。きっと僕の頑張りも無駄じゃなかったんだ。
そう安堵感が広がったときだ。
ぐらりと、視界が揺れた。
ああ、しまった。これはダメだ。
その思考を最後に、僕の意識は闇に呑まれた。
- 23 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:55:26.10 ID:6YWqHJXdO
- ( ^ω^)「……」
また、あの部屋にいた。
僕をこの世界に引きずり込んだあの部屋。
今回は、ゲーム機はなかった。
代わりに、テレビがついていた。
なんてことはない。
ただ僕の世界の光景が流れていた。
だが、僕はそれがとても愛しく見えた。
画面は、僕の学校を写していた。
ダメだ。この先は見ちゃいけない。
何故か直感がそう告げた。
しかし、僕は目を離せなかった。
それは、やがて教室の中へと移っていった。
- 24 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:56:32.37 ID:6YWqHJXdO
- みんないる。
友人達が皆机に向かって授業を受けている。
ミチャダメダ。ヤメロ。
ああ、この科目の授業は眠くなるんだよな。
もう何人か寝てる奴がいるや。
ああ、ツンもいる。
今、僕の事どう思ってるんだろうか。
そうそう、僕の席は……あれ?
ミルナ。モウミルナ。
僕の席は窓際の一番後ろのベストポジションだ。
前から数えて六番目なのだが……。
(;^ω^)「あれ……ない?」
空席ならまだ分かる。
しかし、画面には僕の席だけなかったのだ。
つまり、僕の存在がない世界という事になる。
(;^ω^)「そんな……そんな!」
ミチャッタネ。ミルナトイッタノニ。
- 25 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 16:58:50.62 ID:6YWqHJXdO
- (;゚ω゚)「あ、ああ……」
モウ、ムコウノセカイデハイラナイソンザイナンダヨ。
(;゚ω゚)「嘘だ……そんなの嘘だ……」
ウソジャナイサ。
ダッテ。
ダ レ モ キ ミ ヲ オ ボ エ テ ナ イ ン ダ カ ラ
(;゚ω゚)「うわあああああああ!」
- 26 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:00:13.92 ID:6YWqHJXdO
- *(‘‘)*「あ! お兄ちゃんが起きた!」
(;゚ω゚)「ハッ、ハッ、ゆ、夢……?」
辺りを見渡すと、村の近くの木陰に僕は横になっていたようで、そんな僕の周りに、村人達は集まってきた。
どうやら女の子の声と、僕の声を聞いて集まって来たらしい。
周りから安否を尋ねる声が次々に上がった。
(;つω゚)「だ、大丈夫ですお……。
ちょっと、悪い夢を見ただけですお」
それらにはそう返した。
村人達は少し怪訝そうな顔をしたが、やがて各々の作業へと戻っていった。
しかし、そんな中である人だけは戻らずにそこに佇んでいた。
やがて、僕の呼吸が落ち着いた頃、その男性が話しかけてきた。
- 27 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:01:23.42 ID:6YWqHJXdO
- (=゚ω゚)ノ「君がこの村を救ってくれた人かよぅ?」
( ^ω^)「救ったと言えればいいですけど、救助作業には参加させてもらいましたお」
*(‘‘)*「私見たよ! このお兄ちゃんが水辺に行ったらいきなりあの綺麗な向日葵が咲いたの!」
(=゚ω゚)ノ「……やっぱりかよぅ」
(;^ω^)「……」
しまった。
今更だけど、この能力は秘密なんだっけ。
ヤバイな。どう切り抜けようか。
(=゚ω゚)ノ「まぁ、詮索はしないよぅ。そもそも恩人にそんな真似なんてするわけないよぅ。
ところで、挨拶が遅れたけどおいらはイヨウ。この村の長の息子だよぅ」
( ^ω^)「それは助かりますお。
あ、僕はブーンといいますお」
- 28 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:02:13.78 ID:6YWqHJXdO
- 助かった。
正直どう切り抜ければいいか分からなかったから、そう言う気遣いは本当に助かる。
(=゚ω゚)ノ「この村を救ってくれたこと、村を代表してお礼を言わせてもらうよぅ。
本当にありがとうだよぅ」
( ^ω^)「いえいえ……」
(=゚ω゚)ノ「本当ならゆっくりと休んで欲しかったんだけど、村はこの有様だし、ちょっとおかしな情報が入ったんだよぅ」
( ^ω^)「?」
おかしな情報だって?
あまり良い予感がしない。
それに正直聞きたくない。
- 29 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:03:26.38 ID:6YWqHJXdO
- (=゚ω゚)ノ「まず聞くけど、この剣、君のかよぅ?」
差し出されたのは、間違いなく僕の剣。
よかった。万一焼失なんてされてたら泣くに泣けないもの。
( ^ω^)「あ、そうですお。
わざわざありがとうございますお」
(=゚ω゚)ノ「……やっぱりかよぅ。
正直言うと、君のであってほしくなかったよぅ」
僕に手渡すとき、彼はそう呟いた。
うわ、なんかまた嫌な予感が当たりそうだ。
もう勘弁して欲しい。
(=゚ω゚)ノ「実は、王女誘拐の罪でとある男がついこの間指名手配されたんだよぅ。
名前こそ分からないけど、青い剣という特徴的な得物を振るってたそうだよぅ」
(;^ω^)「は? え?」
- 30 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:04:29.00 ID:6YWqHJXdO
- (=゚ω゚)ノ「で、似顔絵なんかも出たらしくて、たまたま買い出しに行ってた奴が、その中の一つを貰って来たんだよぅ」
そう言って彼は、懐から一枚の紙を取り出して僕に見せた。
( ^ω^ )
(;^ω^)「……」
(=゚ω゚)ノ「多分、いや、きっと君で間違いないよぅ」
絶句した。
それには、多少の違いこそあれ、間違いなく僕の顔が描かれていた。
まさかこの僕が犯罪者の仲間入りするなんて、思いもしなかった。しかも冤罪で。
そう思うと、また気が遠くなるようだった。
- 31 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:05:13.27 ID:6YWqHJXdO
- いや、その前に身の振り方も考えないとならない。
そもそもこの人達が僕を引き渡す可能性だって考えられる。
(=゚ω゚)ノ「安心するよぅ。少なくともこの村の人間は、みんな君の味方だよぅ」
(;^ω^)「ほ、本当ですかお!?」
思わず飛び付いた。
そんな僕を、彼は苦笑しながら引き離した。
(=゚ω゚)ノ「恩人を売る真似なんておいらにできるわけないよぅ。
それに、もしそうだとしたら、君にこんな情報は教えないよぅ」
ああ、そうか。確かにそうだ。
そう思うと、少しだが安心感に包まれた。
- 32 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:05:55.83 ID:6YWqHJXdO
- (=゚ω゚)ノ「取りあえず、今は隣村から船でラウンジに逃げるといいよぅ。
本当はここから行ければよかったんだけど、使える船は一艘も残されてないんだよぅ。
かといって定期便を待つのは危険だよぅ。
だからちょっと大変だけど、また山道を通ってもらって隣村に行ってほしいよぅ」
味方になってくれるばかりか、僕の今後についても真剣に考えてくれていた。
デレのいない僕には本当に有り難いことだ。
(=゚ω゚)ノ「気にしないでほしいよぅ。
それに、君に受けた恩はこの程度で返せるとは思ってないよぅ」
(゚、゚トソン「そうですよ。私達が助かったのも、あなたのお陰なのですから」
からからと笑う彼に、彼女がそう付け加えた。
よかった。この人も無事だったのか。
- 33 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:07:26.10 ID:6YWqHJXdO
- (゚、゚トソン「申し遅れました。私、都村トソンと申します。
この度はこの子共々に助けていただいてありがとうございました」
とても物腰が柔らかい人だなというのが、その人に対する印象だった。
(゚、゚トソン「今は訳あってお礼の類は出来ませんが、主の住む鬼国まで御足労願えれば、改めてさせて頂きたいと存じます」
*(‘‘)*「そうそう、絶対来てねー」
( ^ω^)「ありがとうございますお。機会があれば是非そうさせてもらいますお」
そう言って、二人と別れた。
どうやら彼女達は定期便を待つみたいで、港の方へと歩いて行った。
- 34 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:10:17.65 ID:6YWqHJXdO
- (=゚ω゚)ノ「別れの挨拶は済んだかよぅ?
追っ手が来ない今の内に急ぐよぅ」
そうして、彼は隣村への道筋を丁寧に教えてくれた。
(=゚ω゚)ノ「おいらはここの復旧作業があるから道案内は出来ないけど、この手紙を向こうの村長に渡せば大丈夫だと思うよぅ」
( ^ω^)「何から何まで……本当にありがとうございますお」
思わず腕輪を見る。
宝石の輝きは消え、それが僕にこの先の不安を与えてた。
だけど、ねぇデレ。
もしかしたらどうにかなりそうだよ。
君が助けた命が、僕を助けてくれる。
ありがとう。デレ。君のお陰だ。
君がいなかったら……。
- 35 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:12:10.05 ID:6YWqHJXdO
- (=゚ω゚)ノ「どうしたんだよぅ? 左手をじっと見つめちゃって」
( ^ω^)「あ、いえ、なんでもないですお」
荷物は既に準備されていた。
どうやら、あの親子がまとめておいてくれてたらしい。
更には、餞別としてたくさんの食料も貰った。
自分達の村は、こんなに大変なのに。
そう思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
だが、彼は笑って大丈夫だと言ってくれた。
この好意を無下には出来ない。
この餞別は有り難くいただくことにした。
そして、イヨウさんに急かされ、村人全員に見送られ、僕は隣村へと足を向けた。
- 36 名前: ◆F3K21PdX56 投稿日:2009/05/09(土) 17:13:10.53 ID:6YWqHJXdO
- そして、これから始まるのだ。
僕一人だけの、見えない敵からの逃走劇が。
第九話――襲撃――
完
第十話へ続く→
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