- 4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:22:11.40 ID:X+zh7Vd/O
( `ハ´)φ サラサラ ←作者代理
( `ハ´)そ ピキーン
( `ハ´)アイヤー、これはどうも作者アル 部活動を御贔屓にして下さって謝謝ネ
( `ハ´)読者様もまとめ様も、みんなみんな大好きアルよ
- 5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:24:26.73 ID:X+zh7Vd/O
( `ハ´)ちょっと前回『元ネタあるの』なんて質問をされたので、こんなん書いたヨ
( `ハ´)もちろん前にも言った通り、元ネタなんてないないアルよ
( `ハ´)ただ、元はと言うとこれはブーン系用に考えていた話ではなくて
( `ハ´)漠然と構想とかプロットを組んでいる時に、偶然ブーン系に触れるようになったアル
( `ハ´)あまりキャラのはっきりしない構想だったけど、ブーン系のAAたちを当てはめるとアラ不思議
( `ハ´)すごくキャラが立った(気がした)アルよ 生き生きとした登場人物になってくれたアル
- 7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:27:10.91 ID:X+zh7Vd/O
( `ハ´)最初の空手、剣道、科学、料理――の設定とかは同じだけど
( `ハ´)後々の展開とか生徒会の陰謀とかはブーン系として書き始めてからがスラスラ作れたアル
( `ハ´)その頃から設定の生きている他のキャラは 渋澤、トソン、荒巻、貞子くらいだと思うアル
( `ハ´)あぁ、失礼。荒巻と貞子は今回の話で名前が初登場するアル ネタバレごめんネ
( `ハ´)> ゴメンチャーイ
- 8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:29:20.25 ID:X+zh7Vd/O
( `ハ´)自分の中では、設定の時点で特にハインの色濃いキャラづくりを心がけていて
( `ハ´)むしろヒロインのはずのヒートが薄くなっていっていた気がするアル 当時は困っていたアルよ
( `ハ´)その点じゃ、やっぱりドクオのAAは万能で使いやすかったアル ビバ主人公
( `ハ´)フサも『ムキムキの料理人』っていう当初からの設定が生きる、いいAAアルよ
( `ハ´)部活動はブーン系に出会ったからこそ、作品として陽の目を見ることができたと思うアル
( `ハ´)改めてブーン系その物に深い畏敬と感謝を述べるアルよ 謝謝
- 9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:31:36.77 ID:X+zh7Vd/O
( `ハ´)で それはそうと
( `ハ´)ここ数日絵スレが盛り上がってるし トソンでも書いて投下しようとしたらPixiaが凍ったアル
_| ̄|( `ハ´)保存してなかった……死にたい
( `ハ´)むしゃくしゃしたのでスケブでヒートを描いたアル
( `ハ´)作者が自作品の絵を描くのはちょっとあざといかもしれないけど
( `ハ´)まぁ気軽に設定資料程度に扱って欲しいアル
- 10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:34:11.24 ID:X+zh7Vd/O
( `ハ´)あとスケブがでかすぎて画像が分割しちまったアルよ ごめんネ
( `ハ´)ノ□ ペタリ
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_111.jpg
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_112.jpg
http://boonpict.run.buttobi.net/up/log/boonpic2_113.jpg
( `ハ´)いや、長らくお付き合い本当に謝謝ネ
( `ハ´)今から本編始まるヨ 飛ばして読んでいた方もお待たせしましたアル!
( `ハ´)ノ アイヤー!
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:37:05.05 ID:X+zh7Vd/O
_、_
( ,_ノ` )y━・「辛いねぇ……」
鼻腔を突き抜ける爽やかなミントフレーバー。
今や彼がメンソールの清涼感にお世話になることも、家人他一同の禁煙強制によりもはや不可能。
仕方なく咥えるパイポが生命線――と言っても言い過ぎではないかもしれない。
クッキーやパッチなど色々試してはみたが、やはり何か咥えている方がずっと気が楽だった。
それでも物足りない味に思わず溜め息も出てしまう。
もたれかかる窓の向こうでは広々としたグラウンド。サッカー部が激しい練習に打ち込んでいる真っ最中だ。
勉強という名の堅っ苦しい義務活動から解放された彼らは、まさに水を得た魚。
サッカーボールへと夢中で向かっていく姿は、『青春の一ページ』という言葉が何よりもふさわしい。
思わず口の端を緩める。
そして同時に、ちょっとだけ残念な気分にもなるのだ。
もう少し。もう少しだけでも空手道部が、このように立派な部活動に励める状態であればなあ、と。
- 14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:40:14.05 ID:X+zh7Vd/O
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第十一話『Gunfight,Go Tight!』
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:43:19.11 ID:X+zh7Vd/O
/ ,' 3「春の良き陽気じゃな、渋澤先生」
ふと、彼は隣で佇む老人に気付く。
いつの間に現れたのか分からなかった。ふっくらと恰幅の良いその者は、皺だらけの顔にやんわりと笑みを浮かべている。
_、_
( ,_ノ` )y━・「やや、これは荒巻学園長。いらっしゃったとは……失礼しました」
思わずパイポをポケットに放り込む。
別に喫煙しているわけではないし、しまう理由もなかったのだがやはり気が引けるのだろう。
/ ,' 3「良い良い。こんな老いぼれ居ても居なくても変わらんものじゃ。気が付かんでも仕方ない。
学園のためにやれることも、ゴミを拾ったり、会議と称して同じ老いぼれ連中と片っ苦しい話で茶をしばくくらいじゃよ」
_、_
( ,_ノ` )「何を仰いますか……人の悪い。あなた以上に、ここで必要な人間などいませんよ」
- 17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:46:07.56 ID:X+zh7Vd/O
/ ,' 3「ワシは金を出して校舎を作り、人を集めただけじゃ。学園に必要なのは未来ある子供たちじゃよ」
くつくつと笑う老紳士。
幅広な身体を包むのはサンドベージュのダブルスーツ。頭はすっかりと白髪に覆われ、腰も曲がっていた。
突いたワインレッドの杖がなければ、こうして立ち話をするのも億劫そうである。
VIP学園学園長、荒巻。
巨額の資産と幅広い人望を掌握する、彼こそがこの学園都市の最高権力者。
その界隈では、名を知らぬ者はモグリと言われても仕方がないとまで。
齢も七十に届かんばかりの老体だが、その立ち居振る舞いには底知れぬ気品と自信が溢れていた。
/ ,' 3「しかしじゃ、手塩にかけて育てた彼らに……良くないことが起きているのは少々胸が痛む」
_、_
( ,_ノ` )「……生徒会ですか。ついに動きが?」
- 19 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:49:11.66 ID:X+zh7Vd/O
/ ,' 3「本人たちは知られていないつもりらしいが、噂程度なら小耳には挟んでおる。じゃが迂闊に動けん。
さすがはロマネスク、というところじゃな。確信を持てるような情報などおくびにも出さん。厄介な子じゃよ」
_、_
( ,_ノ` )「心中お察しします。やはり実の御家族……お気持ちは複雑かと」
しゃがれた喉から絞り出される、どこか自嘲めいた笑い。
/ ,' 3「血は争えんのだよ。父母兄弟にも見放された可哀相な子だ。それでも肉親、可愛い孫――見捨てることなど出来んかった。
故に全ての原因はワシに在るようなもの。尻拭いなどと青臭いことは言わんが、それでもワシがやるしかない」
_、_
( ,_ノ` )「…………」
/ ,' 3「だからこそじゃ、この老いぼれには君たちの力が不可欠なんじゃよ」
_、_
( ,_ノ` )「本当に、長かったですな。学園に潜り続けて数年……全く、本当に長い」
- 20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:52:12.02 ID:X+zh7Vd/O
/ ,' 3「恐らく近々、改めてお話しすることになろう。その時はアサピー先生、貞子先生、鈴木先生にも召集を掛ける。
一般の先生方が気付いていない、今しか始めることはできん。子供たちには辛い目に会わせてしまうかもしれんが……」
_、_
( ,_ノ` )「叩いて分からせるのもまた大人の仕事でしょう。欲を剥き出し闘いに望んでいる以上、彼らもその覚悟はあるかと」
/ ,' 3「ふむ……」
荒巻は窓から覗く広い広い空を仰いだ。
胸が空くような清々しい青に彩られた天蓋。細切れになった雲たちを、温かい嵐が吹き散らしていく。
運ばれる草の色香が、彼の立派な鷲鼻を舐めた。
/ ,' 3「春の嵐、かのぅ……」
そのつぶやきもまた、学園を取り巻く大きな渦の中へと吸い込まれていった。
- 22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:55:13.41 ID:X+zh7Vd/O
* * *
あまりにも突然。
あまりにも突発。
ドクオにはハインの叫び声に反応するだけでも精いっぱいだった。
爆裂する缶詰から回避。途端に視界を飲み込む白い闇。
着地する足元すらおぼつかない。それでもお構いなしに、白煙は拡大してゆく。
('A`)「何だよこれは!? 真っ白で何も見えねー!!」
从 ゚∀从「散るなよ! 敵はおそらく多数だ、バラバラになったら一気にやられる!」
ミ,,゚Д゚彡「ドクオ! ヒートにクー! みんな、返事をしろ! どこだ!?」
从;゚∀从「アホ!! そうやって敵まで呼び寄せたらどうする?!」
- 24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 00:58:17.28 ID:X+zh7Vd/O
自分の向いている方向すら危うい状況だが、ハインとフサギコの声は遥か彼方から響いた。
上下左右、前後から足元まで。竹刀を軽く振り回し、警戒を強めながらとにかく移動する。
確かに各個撃破は一番宜しくない状況。だが、ここまで最悪な視界では仲間を探しだすことも難しい。
ならば立ち止まっているわけにはいかない。とにかく動いて仲間の元へ。あわよくば煙幕の範囲外へ
しかしそう簡単にも行かないらしい。
突然のモーター音が耳を撫でる。それも一つ二つではない、かなりの数が四方からだ。
酷く嫌な予感が、ドクオの脳裏を支配する。
次いで、容赦なく襲いかかる銃弾の雨あられ。
(;'A`)「うおおおおおお!? 何だとおおおお!!」
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:01:15.23 ID:X+zh7Vd/O
ほぼ偶然。虫の知らせに従い身を屈めていなかったら、直撃は免れなかった。
掠める、額に喰らいつこうとする、跳ねる、竹刀を叩く。
もちろん実弾ではない。竹刀にめり込むそれは本物そっくりのゴム弾頭。
命に別状はないだろう――しかしあの勢いで当たれば痛いどころじゃ済まないはずだ。
('A`) (クソ野郎! 視界を遮って包囲殲滅、軍隊気取りかよ! 何者だこいつら――)
突如、視界がスライドする。
もっとも完全ホワイトアウトのこの場合、目に映る物は白煙と弾丸だけ。それでもドクオは何者かに引き寄せられたのを感じ取る。
敵か――と、一瞬の焦り。振り払おうにも体勢が崩れすぎていた。このままでがむしゃらに竹刀を振り回しても腰が入らない。
殴られるか、撃たれるか。いずれにせよ相応の覚悟を試される。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:04:35.53 ID:X+zh7Vd/O
だが意外。
両頬に触れるのは堅い暴力の権化ではなく、柔らかな感触。
右側は大きくてふっくらとしたもの、左側はボリュームは乏しいがやはりフニフニしたもの。
近場でようやく判断できる。ドクオを二人して脇に抱え込みながら、素直姉妹は畳に深く腰を落としていた。
(;'A`)「ヒートにクーか? ちょっと、俺の顔に『お』の付くアレが――」
川 ゚ -゚) (すまないが、もう少し声を落としてくれないか)
ノパ听) (フラフラ走ってんじゃねーよ危ねーな、全くぅ!)
('A`) (い、いやこんな状況じゃ動くより他に手段とかねーし……早く皆と合流するか煙の外に――)
ばしり、とヒートの平手がドクオの額を叩く。
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:07:31.31 ID:X+zh7Vd/O
(;'A`) (イデェ――っ! 何しやがんだよ!)
ノパ听) (お前の間抜けっぷりを諌めたんじゃい! 今、迂闊に外に飛び出してみろ!)
川 ゚ -゚) (それこそ袋叩きだ。ハインたちと合流するなら、八時の方角に七メートルに行け。
二人に動く気配はない。姿勢は低くしろ、おもちゃのようだが当たれば泣きっ面どころではないからな)
('A`) (……てか、分かるのか? 敵とか、俺たちの動きが)
二人はそろって肩をすくめると、畳を小突く。
ノパ听) ((それくらい音で聞き分けろ)) (゚- ゚ 川
同時に、突き飛ばすようにドクオを背後へ離脱させる。
彼が受け身を取り終えた時には、二名は畳を踏み抜き前方へと突進していた。
既に敵の位置取りを掴んでいるのだろう。勘や適当なわけではない、確信のこもった動き。
迫る銃弾の嵐など、一切恐れる様子もない。
- 29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:10:10.18 ID:X+zh7Vd/O
('A`)「音で聞き分けろとか……」
この混乱の中、射撃音のやかましい上に響きにくい畳上の足音を聞き取るのは至難の業。
そもそも、どの足音が誰のものなのか――などと聞いただけで分かるものなのか。
それを可能にするのは、場所は違えど数多の戦いに身を投じてきた二人の経験値なのだろう。
素直の家系は伊達じゃない、とも思わされてしまう。
ともかく、二強の作りだしてくれたチャンス。逃すわけにもいかなかった。
教えられた方向に、出来るだけ頭を低くして突っ走る。程なくして、顔面に暑苦しい感触。今度はもっと筋肉質だ。
見上げる剛筋の巨魁は、フサギコその人。
ミ,,゚Д゚彡「ドクオか!」
从 ゚∀从「遅ぇーぞマヌケ! 残り二人はどうした? あんなにバラけんなっつったのに……!」
両手に寸胴鍋を構えたフサギコと背中に張り付いているハイン。
二人に負傷の様子は見られない。寸胴を盾に、銃弾から身を隠すように小さく縮こまっている。
しかし、手薄だ。
クーの言っていたことは正しかった。まだ、こちらには敵は迫ってきていないらしい。
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:13:14.69 ID:X+zh7Vd/O
('A`)「すまん! ヒートとクーは先に突っ込んでいった。敵も多いらしい、囲まれてる!」
从 ゚∀从「くそっ、これじゃ統率が取れねー……。まったくもって駄目な意味での自由奔放だな、素直家の奴らは。
とにかくお前らは身を呈して俺を守れ! こうやってあらかた掃射してから、今度は近接格闘で一気に畳み掛けてくるぞ!」
さながら二流の台本通りに進む寸劇。
ハインの予想に呼応するかのように、銃撃は止んだ。そして煙の世界を刹那の沈黙が浸透していく。
次の瞬間には、白い壁を突き抜ける影が二つ。
(●ф●)「――――っ!」〈●ф●〉
全身を覆う迷彩服のアーミージャケット。ゴツいブーツに、メット、そして厚手のグローブが握るのは黒光りする特殊警棒。
ドクオの予想もいい処を突いている。これでは全く兵士としか言いようがない。
顔をすっぽり覆う大仰なガスマスクが、真っ赤なレンズに三人の姿をくっきりと映す。
そこに灯るのは、明確な敵意。
(●ф●)「シッ――!!」
『動くな』とか、せめて『覚悟しろ』だとか。そんなまどろっこしいすセリフ一つない。
マスクから鋭い吐息を吐き、警棒を振りかぶる彼らには一切の迷いも躊躇も見えなかった。
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:16:08.74 ID:X+zh7Vd/O
殲滅することが、あくまでも目的。
兵隊は思考しない。頭上から降り注ぐ命令に人形のように従うだけ。
故に機械的に、非感情的に動ける。躊躇いは敗北を招くからだ。
('A`)「ふっ、はぁぁああ!」
だが、ドクオも伊達や酔狂で武喝道に足を踏み込んだわけではない。
眼前へと迫る警棒を落ち着いて受け止める。リーチでは確実に竹刀の方が上。
むしろ、この状況のせいで焦りが生まれる方がまずい。
呼吸を整え、真っ直ぐに相手を見据える。目の前の敵は素性も良く分からないアーミーだ。だが、そう思わない。
自分の世界へと引き込む。彼は兵隊ではない。敵だ。
敵であることには何の変りもないのだ。
(●ф●)「ぐっ?!」
この奇襲に、思ったほどの動揺を誘えなかったことが逆に驚いたらしい。
竹刀を押さえ付ける力が僅かに緩む。ドクオは的確に、その隙を逃さない。
- 33 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:19:09.09 ID:X+zh7Vd/O
('A`)「鬱圓明流――『竜胆(りんどう)』ッッ!」
流れるように。
(●ф●)「がふ、ぁあ?!」
兵士の脇を韋駄天の如く、突き抜ける。振り払った一文字の軌跡。
確かな手応え、自分から見ても申し分ない胴打ちが決まった。
〈●ф●〉「――――っ?!」
相方が崩れ落ちるのを確認し、もう片方の兵士に焦りが走る。
勢いよく突っ込んできたのはどこの話か、途端に脚に根が生える。ドクオ、そしてフサギコを近づけまいと警棒を前方へ突き出す。
前進することに躊躇ってしまったのだ。知らず知らずの内、彼は後ずさっていた。
ミ,,゚Д゚彡「逃がさん!」
- 34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:22:29.79 ID:X+zh7Vd/O
寸胴を振り回し、フサギコが前に出た。抜け目なく入れ替わり、ドクオがハインを背に守る。
これでは弱所であり、また司令塔であるハインを叩くことはできない。兵士は向かう巨魁へとぶつからざるを得ない。
だがトラックのように力強く、荒々しく突撃してくるフサギコを相手にするには、彼は遥かに役不足だった。
〈●ф●〉「く、くそおおお!」
無茶苦茶に警棒を叩き下ろす。
だが霧の中、手に返ってくる感触は肉を強かに打つ感触ではない。もっと硬い、硬い何か。
そう、それは寸胴鍋。
フサギコが盾のように、ドリルのように前へ前へ突っ張り出した、寸胴の底だ。
ミ,,゚Д゚彡「ゴラアアアアア!」
押し潰す。
〈●ф●〉「うぁ――ぶしぃっ?!」
平たく分厚い鍋の底は正面から兵士の顔をクリーンヒット。マスクを砕き、その身は軽々と薙ぎ払われる。
まるで暴走機関車如き、底無しのパワー。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:25:09.95 ID:X+zh7Vd/O
空気が変わる。
奇襲を退けると共に、視界も徐々にクリアとなっていくようだ。
畳の目、割れた窓、だだっ広い武道場の全貌が再び帰ってくる。
そこに屹立する、二人の戦士。
ハインは周囲を警戒するフサギコとドクオの間から首を伸ばし、その光景を目に焼き付けると不服気に鼻を鳴らした。
从 ゚∀从「……作戦通りに動かねーのは気に食わないが、とりあえず心配無用だったらしいな」
突撃していったヒートとクーは、依然問題なくそこに在る。
ただ先程と違うのは、彼女らが積み上げられた雑兵たちの山に足を掛けていることだろう。
ノパ听)「へーん、なんでぃなんでぃ。飛び道具やら目くらましやら使いやがって、面白くない」
川 ゚ -゚)「その実、力量の程は大したことはなかったな。つまらない、と言えばそうかもしれん」
- 38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:28:07.10 ID:X+zh7Vd/O
ある者は畳に頭から突き刺さり。
ある者は砕けたマスクを顔に引っ掛けたまま痙攣し。
ある者は大の字にぶっ倒れたままピクリとも動かない。
('A`) (やっぱり……すげぇ。ヒートもそうだが、クーも遅れを取ってない――いや、むしろクーの方が圧倒しているのか?)
その数は軽く二十。
最悪な視界の中で、四方八方から襲い来たであろう敵を、負傷一つなく撃沈。
五感が封じられて尚、この壮絶な戦いっぷりは筆舌に尽くし難い。
今ドクオ達の目の前に立っているのは、本当に年端も変わらない少女たちなのだろうか。
彼らにはそんな疑問すらも浮かんでしまう。
仕方もないだろう。それほどの強さと格の違いを、今まさにまざまざと見せつけられているのだから。
「ブラボー! おぉ、ブラボー!」
喧騒と混乱の治まった武道場に、突如高らかとした声が響く。
- 39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:31:24.39 ID:X+zh7Vd/O
( ・□・)「すごいよすごいよ! さすがじゃあないか。ボクの軍隊をここまで粉微塵にしてくれるなんて!」
(‘_L’)「大佐(カーネル)、あまり喜ばしい状況ではないと思うのですが……」
( ・□・)「いいんだよー! まだこっちには君が残ってるんだし、雑兵くらいならいくらでも差し上げるさ!」
随分とちんまりとした小男と、鼻っ柱に横一文字の傷を持った屈強そうな男。
共に迷彩服に身を包み、ベレー帽を被る雰囲気たっぷりの彼らは、武道場の端で悠々とヒート軍団に臨んでいる。
誰でも分かる。先の兵隊たちを統率していた張本人たちだ。
襲って来た以上武喝道の参加者に違いはなく、そして彼らがバッチの持ち主でもあるのだろう。
血気盛んにヒートは吼えた。
ノパ听)「卑怯者はてめーらか! 何者だコラ、名乗りやがれ!」
食ってかかられた小男は芝居染みた口調で、身振り手振りも派手に名乗りを上げる。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:34:17.87 ID:X+zh7Vd/O
( ・□・)「これは失礼! ボクは一年C組ミリタリー研究会会長、ブーン! ブーンだ、覚えておきなよ」
(‘_L’)「同じくミリタリー研究会副会長、三年D組のフィレンクト・ミッドガルドです」
そして傷の男も主に続く。
一見して凸凹の二人組だ。しかし、声高らかに騒ぐブーンはまだしもフィレンクトという男は見過ごせない存在だった。
馬鹿丁寧にブーンに付き従っているようだが、その風貌といい立ち居振る舞いといい先のような雑兵とは空気が違う。
それを明確に感じ取ったのだろう。二の句を継ぐのはクーだった。
川 ゚ -゚)「君、フィレンクトとか言ったか? 随分と腰が低いな。とても人に従うような風体では無さそうだが」
(‘_L’)「そういうあなたは素直クール殿ですね。全国クラスの武人と相見えることになるとは……光栄です。
しかしあなたがどう思おうが、私は大佐の忠実な兵士。そしてあなた方の敵です。大佐のご命令とあらば――」
進み出るフィレンクト。
(‘_L’)「排撃するのみです」
- 42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:37:44.47 ID:X+zh7Vd/O
彼が腰に両手を掛け、勢い良く抜き放つそれは二本のスタンロッド。
黒い光沢と纏う紫電が凶悪な――そう、ドクオを襲った風紀委員が使っていた物と似たようなモデルだ。
その威力の程は、言うまでもなく強力。衝撃と電撃の二重の脅威を孕む凶器。
ノパ听)「クー姉ぇ!」
川 ゚ -゚)「いい。お前は小男の相手をしてやれ。こいつは私が仕留める」
猛るヒートを諌める。
クーの威厳に満ちていることはこの上なし
襟と袴をぴしりと正し、強敵の威圧にも恐れを一切見せない。女ながらもその胆力は、ヒートと同等かそれ以上か。
それだけで意思の疎通は十分だった。ヒートは首を縦に振ると目標をブーンへと定めた。
( ・□・)「ハハハ、噂は聞いてるよ『ヒート軍団』。結構厄介そうな奴らばっかだ。野球部もやっつけたらしいね。
それに噂の『凶星』とヤり合って生き残ったとか! 君らを倒せば僕らの格も少しは上がるかも!」
ノパ听)「やってみやがれ、三下! てめえごときにやられるような私じゃあないぞ!」
- 43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:41:19.10 ID:X+zh7Vd/O
( ・□・)「えー!? 僕は肉体労働とか嫌だなー! 軍曹(サージェント)、そっちの黒髪とっとと潰して助けてよぉ〜」
ノハ#゜凵K)「くぅー! 何かこいつムカつく! ぜってーブン殴る!」
固く握った拳を振り上げ、ヒートはブーンへとにじり寄っていく。
クーはヒートが戦闘態勢に入ったのを見届けると、こちらも静かに歩を進め、ちらりとドクオを振り返る。
その瞳に映る、意味ありげな揺らぎ。
('A`) (この戦いを……見届けろってことかよ……)
圧倒的に強き者。その艶姿は見る者を魅了し、また才ある者への刺激となる。
彼女もまた、己の戦いを持ってドクオに何かを伝えようとしているのだ。
慣れ親しんだヒートのような爆発的な力ではない、また別個の『強き力』の衝動を。
( ・□・)「やっちゃいな! 軍曹!!」
(‘_L’)「了解(イェッサー)!」
フィレンクトが、侵攻を開始した。
- 46 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:44:14.54 ID:X+zh7Vd/O
* * *
機動力、それだけ見てもこの男が只者ではないことは分かる。
(‘_L’)「シャッッ!!」
畳に豪快な足跡を付けながら八艘飛び。
目で追うこともやっとなスピード。鍛え上げられた動きはまさに豹。
(‘_L’)「りぃぃいやああっ!」
ゆらりと佇むクーを尻目に、豪快に間合いへと踏み込むフィレンクトは両手で十字を作る。
腰を深く落とした構え。迸る雷撃。
依然構えすらしない少女に、彼は瞬速の打撃を繰り出した。
光が描く軌跡は、眩いクロス。
川 ゚ -゚)「――ふむ、意外に速いな」
組み合う。
- 47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:47:28.79 ID:X+zh7Vd/O
いつ動いたのか、知覚させることを彼女は許しはしない。
打ち込まれた十字撃は受け止められている。
クーはただ抑え付けただけ。フィレンクトの手首をガッチリと掴み、彼女の首に警棒が触れるスレスレで留めたまで。
しかし、その腕力のこの上ないこと。
大の男であるフィレンクトが押せども引けども、捉えられた腕は動かない。血流が止まり、手が痺れるほどの握力。
(;‘_L’)「な、何と言う剛力……とても女性とは思えませんね。この私が動けないとは」
川 ゚ -゚)「心配せずとも、その手のセリフを吐いたのは君が初めてじゃないさ」
(‘_L’)「――――っ!」
大地が転回した。
フィレンクトの屈強な身体が凄まじい勢いで、上下逆に弾け回る。
(‘_L’)「ぐぅっ!!」
- 49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:50:14.73 ID:X+zh7Vd/O
背中から墜落。受け身を取る暇もなかった。
投げのモーションも分からない。明らかに、クーの動きはフィレンクトのそれを凌駕している。
ただ速い――なんてものではない。もはやどの動きも『見えない』のだ。
彼は恐怖する。予想以上の素直クールの恐ろしさに。
川 ゚ -゚)「随分と余裕だな」
(‘_L’)「ぬっ!?」
間一髪、身を起こす。頬を掠める手刀。
それは畳を、まるで豆腐か何かのように容易く貫いた。
受け身を取るフィレンクトは冷や汗が止まらない。あのままのろのろとしていたら、自分はどうなっていたのか。
粉々になる自身の頭蓋を想像し、無理矢理に振り払う。
(‘_L’)「恐れるなフィレンクト・ミッドガルド!! 相手は人間、そして女性だ! 勝率はゼロではないのだ!」
- 50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:53:11.43 ID:X+zh7Vd/O
大声で喝を入れる。
自らを鼓舞し、立ち上がる彼は警棒を構え、突撃。
もっと速く、もっと強く、もっと重く、攻め立てる。粘り強く、根気強く戦うこと。
彼は兵士。戦い、首級を上げることこそが任務。
(‘_L’)「うおおおおおおおおお!!」
眼前に臨むと共に立て続けの打撃。
上段からの打ち込みから、地面すれすれからの足払い。避けられようとも止まらずに突き、突き、薙いで突く。
すかさず奥襟を取られそうになるのを引き離し、蹴り。
これまた避けられるが距離は取れた。クーが後退と共に膝を突く、その一瞬を逃さずに肉薄。
肩まで振りかぶった警棒を、彼女の頸部へと定める。裾も袖も長さのある道着――その数少ない露出部。
生身に直接電撃を叩き込めば勝負は決まる。
(‘_L’) (接近戦で部が悪いことは分かる。だが、小細工の通じる相手でもない!)
- 52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:56:14.19 ID:X+zh7Vd/O
ここまで敵の懐に飛び込めば、投げるなり何なりとリスクは大きい。だがフィレンクトも、それを恐れて勝てる相手ではないとわかっていた。
どんな遅れも躊躇も許されない。冷徹に、正確に、機械のように。
クーは身を屈めたまま動かない。明らかに出遅れている。これでは上段から目一杯に覆いかぶさってくるフィレンクトを、受け止めることはできない。
――チャンスだ。
故に、勝利を確信する兵士が鬨(とき)の声を上げるのは当然のことだった。
(‘_L’)「勝った!! 喰らぇぇぇええい!!」
川 ゚ -゚)「いいや、勝つのはいつだって私だよ」
未だ立ち上がることすらしないクーが行ったのは、たった一つのシンプルな動き。
フィレンクトの振りかぶった肘を、ほんの少し押しただけだ。
紫電を迸らせクーの細い首をヘシ折ろうとしていた警棒は、渾身の一撃を加えるためギリギリにまで引き絞られていた。
そう、先端がフィレンクトの首に触れそうな――ギリギリまで。
それが、ほんのちょっとだけ押されたのだ。
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 01:59:08.80 ID:X+zh7Vd/O
(;‘_L’)「――うぎっあ?!」
バチン、と派手な音が弾ける。
剥き出しの太く逞しい首を、電撃が舐める。筋肉を萎縮させ、鋭い痛みを全身に走らせ、脳裏に焦燥を喚起させた。
川 ゚ -゚)「例え鋭利な刀とて、柄を取られれば如何ともしがたいものだ」
突然の出来事に警棒を取り落とすフィレンクトへ、彼女は容赦しない。
彼の喉仏に深く深く、手刀が叩きこまれる。
( ゚_L゚ )「ガハッ――!?」
血を吐きそうになるほどの、痛恨の一手だった。
ナイフのようにフィレンクトの喉を抉るクーの貫手。それは彼を一時的にも呼吸困難に陥れ、大きな動揺を誘うには充分過ぎた。
構えも防御もない、無防備になった両腕を取り彼女は踏み込む。
強引に押し上げられた片腕。体重が後方へと流れ、フィレンクトの足元が崩れていく。まるで見えない糸に引かれていくように。
自重も手伝い、彼の身体はクーを軸にふわりと宙を舞った。
そして――全力で地に墜ちる。
- 55 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:02:15.60 ID:X+zh7Vd/O
それは滑らかにして華麗な、破壊の流動。
川 ゚ -゚)「『天地投げ』っ!」
畳がへこみ、大地が咆哮を上げる。
後頭部へと投げの衝撃が余すことなく叩きこまれる。両足も投げ出して落ちた彼は、まるで人形。
( _L )「うぐぅおおおッッ……! あ……!」
断末魔を上げて倒壊。
兵士は無残にも、たった一回の投げでノックアウト。あまりにも激しく、華麗な投撃。
崩れるその身はぐたりと力無い。鍛え上げられた身体が大怪我を防いではいるが、白目を剥き動かない彼はもはや再起不能。
川 ゚ -゚)「安心しろ。君は決して弱くはないし、落ち度は無かった」
クーは手を払い、乱れた道着を直し、意識もないであろうフィレンクトへと呟く。
川 ゚ -゚)「ただし相手が悪かったな」
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:05:14.38 ID:X+zh7Vd/O
* * *
( ・□・)「ふはははははは! どうしたどうした!? 近づくこともできないのー?」
高らかに笑いを上げるブーン。
一体どこに隠し持っていたのだろう。煙幕のせいで目立たなかっただけなのだろうか。
M134機関銃。口径7.62mmのガトリング砲。
移動式の銃座に収まる、鋼の魔獣は牙を剥く。
もちろん本物の訳はない。恐らく精巧に作られたレプリカだ。
しかし重低音で唸る怪物は、凶弾の雨を吐き散らす。確かにゴム弾頭ようではある――だが畳を抉るそのすさまじい威力は、もはや玩具ではない。
吹雪のように吹き荒ぶ暴虐、それが照準を定めるのはいたいけな少女一人。
ノパ听)「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
いや、決していたいけなどではなかったらしい。
ヒートは恐れることなく弾丸の渦へと身を突っ込ませる。肩を、眉間を、腿を叩く衝撃は軽くはない。
それでもがむしゃらに突っ込んでいく。小細工も戦略もない特攻。
勇ましいが、同時に愚かだ。
- 59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/06(水) 02:08:12.67 ID:X+zh7Vd/O
( ・□・)「馬鹿だよね? 君、馬鹿だよね! この掃射の中を真っ直ぐ突っ込むなんてありえないし!
それも強がりだろうけどいつまでも持つわけないし! やられちゃえよ、勝つのは僕! ハハハハハ!」
ブーンの言う通り、それはあまりにも無謀すぎる。
敵は一人、それも背格好から判断するに大した身体能力を持ち合わせていない。故に、一撃で仕留める自信がヒートにはある。
だがリーチが違い過ぎる。機関銃と拳闘、肉薄するのも容易くはない。
だというのに、馬鹿正直に突っ込んでいても彼女自身が消耗するだけ。勝ち目は薄いはずだろう。
ノパ听)「うぐ、ぐ……弾丸には……!」
しかし、そんな窮地や不利が彼女の闘争心を奪うのは、百年経とうと無理な話。
ノパ听)「弾丸だ!!」
雄叫びを上げ、跳躍。
- 60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:11:09.89 ID:X+zh7Vd/O
銃撃の雨霰から、彼女はその豪快なまでの飛翔によって回避する。
しかし、それは付け焼刃の戦法だ。多少は固定された銃座と言えども、全く空中戦に対応できないわけがない。
( ・□・)「バァァァアカ!! 空に逃げたってことはもう、『避けることもできない』ってことなんだぞ!!」
がちり。砲身が傾く。
バネのきりきりと軋む音と共に、機関銃は仰角を上げていく。見る見るうちに照準がヒートへと舞い戻った。
これではもうお終いだ。彼の言う通り、これではもう回避運動は出来ない。
噛みついてくる銃撃の牙に為す術もなく、ヒートは撃墜される。誰もがそう思う。
思わなかったのはヒート一人だけ。
空中で器用に身を動かすと、彼女は頭部をブーンへと向けた。
天高く舞い上がる彼女が、ちょうど『気を付け』の体勢でブーンの真上に位置する。
ノパ听)「当たる面積を最小にして――『回転』ッッッ!!」
- 62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:14:17.05 ID:X+zh7Vd/O
捩られていた身体は、弾けそうな筋肉を唸らせ回転する。
独楽のように、渦のように、竜巻のように、車輪のように、モーターのように、ドリルのように。
弾丸の、ように。
(;・□・)「なっ――!!」
弾く、弾く、弾いて受け流す。
銃撃の中を突っ込んでいくヒートのスピンは止まらない。確かに当たる面積は最小、加えて回転が弾の軌道を反らす。
命中してはいるが直撃ではない。故にパワーは衰えず、強引に大地へと直行する彼女はまさに弾丸。
ブーンは終始小賢しい笑みを浮かべていた顔を引き攣らせ、甲高く喚く。
(;・□・)「ぼ、僕のそばに近寄るなぁああああ――!!!」
彼の願いは叶わない。
彼が気合を入れようが恐れを抱こうが、全自動の機関銃座が勢いを変えることなどないのだから。
一方のヒートはぐんぐんと距離を詰め、重力に後押しされさらにその勢いを増す。
真紅のポニーテールが身を取り巻き、赤々と燃えるような彼女の姿は火の玉。
- 63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:17:34.24 ID:X+zh7Vd/O
ノパ听)「おおおぁぁぁ!! 『熱血! 転地回天ヘッドバット』ォォォオオッ!!!」
激突。
( □ )「ぶっぱらああぁぁあぁあああ――――っ?!!」
見上げるブーンの額、その正中線を間違いなく命中するヒートの頭突き。
回転と自由落下によって最大限にまで引き出された威力は、折り重なる彼ごと機関銃座を叩き潰すには十分だった。
車輪に外装、砲身が砕け折れる。同時に、首が異様な方向に湾曲したブーンの意識も吹っ飛ぶ。
鼻から血の雨を吹き散らし、彼は鉄くずの墓標に沈んだ。
- 64 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:20:31.51 ID:X+zh7Vd/O
* * *
ノハ;゚听)「うぎゃ!」
まともな受け身も取れぬままドタドタと地面に叩き付けられるヒート。
ブーンと同等であろう衝撃を受けて、何故彼女が無事であるかは至って不明だ。運動神経の良さか、銃座がクッションになったのか。
とにかく無茶苦茶、破天荒に天衣無縫なファイト。
その勝者は彼女だった。
('A`)「ヒート!! 馬っ鹿野郎、無茶なことしやがる!」
駆け寄る相棒は竹刀を投げ捨てる。
見たところヒートには大きな怪我もなさそうだった。全くもって驚異の運と身体能力である。
しかしながら、頭頂部を両手で押さえる彼女はバタバタと畳の上で悶絶していた。
ノハ;凵G)「うどぁ――っ!! 超痛ぇ、これは痛ぇ! めちゃ痛い! やるんじゃなかった!」
('A`)「お前……アホだろ。あんな滅茶苦茶な特攻なんてするからだ」
ノハ;゚听)「くぉぉぉ……で、でもやっつけたぞ! 殴れなかったけどすっきりしたしな! 大勝利ぃ!」
- 66 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:23:17.09 ID:X+zh7Vd/O
川 ゚ -゚)「ドクオの言う通りだ馬鹿者。無茶苦茶すぎる上に斑(むら)っ気が多すぎる」
いつの間に現れたのだろう。
背後で悠然と佇むクーは呆れ顔でヒートの頭を軽く小突く。当たり所が悪かったのか、再び彼女は悶絶タイムに直行した。
ノハ;凵G)「おぎゃあああ!? 何すんだよクー姉ぇ!? そこはまだ痛いのに……」
川 ゚ -゚)「進歩の無い愚妹を諌めたのみ、だ。本当にお前は昔っから突っ込んでばっかりだな。
それじゃあ通用するのは素人相手までだぞ。力や速さに頼ってばかりじゃ駄目なんだ。分かるな?」
ノハ;゚听)「ぐ……で、でも今までだって頑張ってきたし! これからももっと闘って経験値増やして……」
川 ゚ -゚)「千の案山子を斬るよりも、たった一人の生身の人間と剣を交える方が学ぶことは多い。
いつまでもそんな調子では、これ以上の成長は見込めんな。お前も……ドクオもだ」
ノパ听)「そ、そんなぁ……」
('A`)「って俺も?!」
- 67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:26:08.69 ID:X+zh7Vd/O
突然の話題変更。恐れ多くも従姉様は、少々落胆の様子でドクオを見定める。
川 ゚ -゚)「聞いたぞ、彼の『凶星』と分けたとかいう話。だが当ててやろうか。……恐らくほとんど歯が立たなかったのだろう?」
(;'A`)「……さっすが、お見通しかよ」
川 ゚ -゚)「お前のことなら何でも知ってるからな」
確かにあの勝負は苦い結果だった。
フサギコの介入が無ければ、今ここで五体満足にクーと再会することも叶わなかったであろう。
そんな圧倒的窮地――あまりに一方的な、戦いとも言えぬような立ち会い。
川 ゚ -゚)「ドクオ、お前は自分が思っているほど小さな器じゃあない。磨けば光る。だが磨き方を知らんのだ。
だから実力に対し卑屈になって、成長の切っ掛けを掴めない。今の自分に諦めを持っているんじゃないか?」
('A`)「……別にそんなことは」
- 68 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:29:16.96 ID:X+zh7Vd/O
ないのだろうか。いや、そうでもない。
彼の周りにはヒートがいる。フサギコやハイン、そして今やクーも供に戦うことになるのだ。
皆々仕様は違えど、相当な実力を持っている。反面ドクオ自身はどうなのか。
剣道は扱える。並みの剣士よりは戦えると自負している。しかしそれだけ。事実、ショボンとの戦いの結果があれだ。
為す術もなかった、と言っていい。自分が思っている以上の脅威が、武喝道には待ち受けていた。
そんな中、ただ剣道が得意なだけという彼の持ち味は生かされない。生かすことができない。
ノハ;゚听)「…………」
只ならぬ空気を感じ取ったのだろう。ヒートもむっつりと黙りこむ二人を見比べる。
かつてからドクオを厳しく指導していた従姉。進学が理由で距離が出来てからは、三人の邂逅は長らく果たせなかった。
お互いににこやか賑やかな再会をする、そんな期待もヒートにはあった。
だがそう簡単なものでもなかったらしい。
腕を組み、自分の時よりも厳しい目つきで彼を見つめているクー。綺麗になって、とても大人っぽい。
だが厳しさもまた、一段別の次元へと至っているらしい。
片やドクオは拳を固く握り締め、俯いたまままともに前を向くこともできない。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:32:19.48 ID:X+zh7Vd/O
そんなヒートの心配もよそに、クーは大きな溜め息を一つ。
再び口を開いた。
川 ゚ -゚)「――ドクオ、『進化』を諦めるな。練磨しろ、反復しろ。そして価値を見出すんだ。己を閃け」
クーの言葉は重く辛い、だがどこかに情けを孕んでいた。故に、ドクオが感じる不甲斐なさは一層深まる。
もう時間は無いのだ。武喝道にショボン、既に全ては動き出している今は。
そんな切羽詰まった中、どうやって自己を練磨しろと彼女は言うのだろうか。
从 ゚∀从「もうそのくらいでいいだろ。この低能だって言われて分かるんなら苦労しねーしな」
どこか重々しい空気が立ち込めるクーとドクオの間に、ハインとフサギコが割って入る。
从 ゚∀从「ウチには優秀な人材が多いから、一人くらいヘタレでもいいんじゃねーの?」
ミ;,,゚Д゚彡「お前は……いちいち意地の悪い奴だな」
- 71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:35:42.53 ID:X+zh7Vd/O
フサギコの肩にちょこんと乗っかった彼女は、切れ長の瞳を細めながら険悪な二人を流し見る。
相も変わらず容赦ない口八丁だが、どこかでドクオのことを庇ってくれたかのようにも見えた。
クーも概ね悟ってくれたのか、説教は店仕舞いとチームの参謀へと話をふる。
川 ゚ -゚)「そっちも何とかなったようだな。それでどうする参謀さん。このまま学校に留まるのは危険じゃないかな?」
从 ゚∀从「チーム結成を宣言した途端、デカい規模の部活に二つも襲われた。今は事無きだが気に食わねーな。
背中がうすら寒くなるくれーのだだ漏れっぷりだ。まぁこれも本来の目的だが……ちょっと効果抜群すぎたな」
ミ,,゚Д゚彡「……一度撤退するか」
ノパ听)そ 「えー! 何で何で! これからじゃねーのかよお!」
- 72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:39:14.81 ID:X+zh7Vd/O
从 ゚∀从「アホ、もう放課後、んでそろそろ下校時間だ。そうしたら教師どもだって怪しく思うだろう。
ここは一旦引いた方がいい。まだ二日目、そんなに焦る必要もねーよ」
ハインは勢いよく地に降り立つと、鉄屑の上でノックアウトされているブーンに近づく。
懐を物色し、取り出した物は銀のバッチ。『ミリタリー研究会』の武喝道バッチだ。
从 ゚∀从「ほれ、受け取れ。てめーの首級だ」
ノパ听)「わっ」
放物線を描く銀の煌めき。
ぶすっと残念そうにしていたヒートの手に吸い込まれるように、バッチは着地する。
从 ゚∀从「んで、今度はこいつを付けて……」
- 73 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/06(水) 02:42:16.02 ID:X+zh7Vd/O
逆にハインが懐から何かを取り出す。指先ほどの小さなピンマイク。
それをブーンの襟に隠すように取り付けた。
ミ,,゚Д゚彡「何だそれは? マイクか」
从 ゚∀从「小型の盗聴機だ。ちょっと調べたいことがあるんでな。よしっ……問題なし」
川 ゚ -゚)「では一度解散――とするか」
从 ゚∀从「おう、校外戦闘は禁止だが全員気を付けろよ。出来るだけ複数で行動を心がけるんだ」
そして喧騒の内に二日目も終了する。
('A`)「…………」
少年の心にまた大きな試練を残して。
第十一話・終
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