- 4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/08(金) 23:48:29.63 ID:B9VwivUE0
川 ゚ -゚) 『津波殺し』 素直クール
【AGE】18歳
【GRADE】三年F組
【CLUB】合気道部
【HEIGHT】165cm
【WEIGHT】50kg
【THREE SIZES】B91・W59・H87
【破壊力】A
【耐久力】C+
【スピード】A
【正確性】A+
【頭脳】 B+
【持続力】B
【成長性】C
・ヒートの従姉にして素直の血統を十分に受け継いだ強者。武喝道には積極的でなかったが、ドクオの闘いと成長を見届けるために重い腰を上げる。
・伝統の技と十年に一人と言われる才能を有する拳士。かつて大海のように迫る数十の敵を何なく叩き潰したことから、付いた仇名が『津波殺し』。
文武両道、冷静で大人びた女性だがドクオにはことさらに厳しい。だがそれも、彼の進歩と成長を願っての思いから出る感情である。
・鍛え抜かれた合気道はヒートすら圧倒し、触れるどころか影を踏むことさえそう簡単ではない。腕力、速度、正確性はトップクラス。
打たれ強さに難はあるが、彼女が打たれることはそうそう少ない。また技も能力も境地に達したもので、成長性は低い。
- 5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/08(金) 23:51:13.60 ID:B9VwivUE0
( ・∀・) 『旋風』 モララー
【AGE】??歳
【GRADE】?年?組
【CLUB】???部
【HEIGHT】175cm
【WEIGHT】57kg
【破壊力】A−
【耐久力】B−
【スピード】A+
【正確性】A
【頭脳】 C+
【持続力】B−
【成長性】D−
・孤独と風を供とし、闘いに一陣の旋風を吹き荒れさせる一匹狼。闘いの目的は不明だが、何やら生徒会と関係があるらしい。
・日がな寝っ転がって昼寝をするのが趣味の風来坊。しかし、起きている時は武喝道参加者たちを陰で削除する冷酷な狩人。
どうにも優勝するために戦っているようではない。集めたバッチは、全て生徒会に横流し。その理由、また生徒会の思惑とは?
・音速を超えた蹴りが生み出す真空波の前では、何人たりとも近づくことを許されない。ヒートすら慄かせる、卓越した足技の持ち主。
斬撃となったキックは速度・威力共にAクラス。しかし、彼が一体何の部活に所属し、どうしてそこまで蹴りにこだわるかは不明である。
- 6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/08(金) 23:55:03.13 ID:B9VwivUE0
(´・ω・`) 『凶星』 ショボン
【AGE】17歳
【GRADE】二年F組
【CLUB】卓球部
【HEIGHT】168cm
【WEIGHT】54kg
【破壊力】A
【耐久力】A
【スピード】A
【正確性】B+
【頭脳】 C−
【持続力】B+
【成長性】C+
・凶暴性と残虐性では群を抜いた、武喝道参加者で最も危険な人物。ドクオとの邂逅から、彼との対決を至上の歓びとする。
・卓球の選手ではあるが、追従を許さない実力と荒々しいプレースタイルから『凶星』と恐れられ、まともに対戦できる相手がいない。
闘争欲求を抑えられず、日々に鬱屈としていたところ武喝道に参加。本能の赴くまま、弱者強者を問わず人を襲い続ける死神となる。
・鉄のラケットに鉄球を駆使し、並はずれたパワー・スピード・耐久力で触れる物全てを破壊する。まさに規格外の化け物。
弱点と思える弱点も存在しそうにない、まさに闘うために生まれてきた男。ドクオはこの悪魔に、如何にして立ち向かえば良いのだろうか?
- 7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/08(金) 23:58:09.13 ID:B9VwivUE0
おまけにブーム君も
| ^o^ | 『助手(アシスタント)』 ブーム
【AGE】18歳
【GRADE】三年B組
【CLUB】科学部(副部長)
【HEIGHT】226cm
【WEIGHT】163kg
【破壊力】A−
【耐久力】A
【スピード】C
【正確性】C−
【頭脳】 E
【持続力】C+
【成長性】E
・科学部副部長にしてハインの忠実な僕だった男。対ヒート戦で敗北、以後は行方不明。
・もとはヒョロヒョロのもやしで、受験生と言うのに成績も散々だった。それを、ハインに勉強を教えてもらう交換条件に副部長(モルモット)となる。
初対面の人に会うとすぐにコーヒーを御馳走しようとするが、よく熱々の醤油と間違える。当然だが悪気があってのことではない。
・度重なるトレーニングと人体実験の果てに手に入れた肉体は、驚異的なポテンシャルを持っている。だが知性は低い。
鎧のような『筋肉装甲』に身を包まれた彼に、生半可な攻撃は通用しない。しかしそれも、ヒートの前には無意味だった。
- 8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:01:12.26 ID:ZHNci12f0
― CAUTION ―
なお、ここで表す能力値はあくまで目安的なものなので、その差が本編での勝敗に必ず影響するわけではありません。
ご理解のほど、あしからず。では本編入ります
- 9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:04:11.90 ID:ZHNci12f0
春の夜はまだ、冬の名残か肌寒さが残る。
夜風が青葉を散らす。少しずつ近づいてくるはずの夏の気配もまだ遠い。
('A`)「…………」
七時。ちょうど晩御飯時。ドクオは一人部屋で鍋を掻き混ぜていた。
ぐつぐつと静かに煮立つ鍋の中は、さながら混沌のように深く渦巻く。
ぼーっとする頭の中では、夕方のクーの言葉が反芻していた。
――ドクオ、『進化』を諦めるな。
('A`)「進化とか……」
クーの言いたいことも分かる。年上として、武芸の先を行く者として自分を導こうとしていると。
その優しさや厳しさは肌で感じるほどだ。実際、己の不甲斐なさも承知している。
それでも、成長のための切っ掛けとやらは霧の中。掴もうと思っても容易ではない。
- 10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:07:15.18 ID:ZHNci12f0
ふと、玄関から賑やかな声が響く。
ノパ听)「ちーっす! 飯食いに来てやったぞー!」
('A`)「またか、頼んでねーっての。あとチャイムくらい鳴らしてくれ」
台所から覗き込む。
突っ掛けを雑多に放り投げるヒートは、黒いタンクトップ一丁にホットパンツ。
被ったキャップ坊からお馴染みのポニーテールがするりと伸びている。
さすがに見ていて寒々しい格好。夏でもないのに些か薄着過ぎるのではないかと、ドクオは首をひねる。
(;'A`)「お前、五月の夜にその格好は寒くないか?」
ノパ听)「全然、ていうか五月とかもう夏だろ! 知ってるぞ、確か旧暦だと五月から七月が夏なんだよな!」
('A`)「授業なんかまともに受けたことがないお前が珍しく博識だな。ちょっと感心」
ノハ*゚听)「マジで!? ふふん、これからはヒートちゃんも勉強頑張っちゃおうかな?」
- 11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:10:33.44 ID:ZHNci12f0
('A`)「やめとけやめとけ、長続きしねーよ」
ノパ听)「ひでぇー。人がたまに頑張ったらそれかよ。まぁいいや、ご飯まだ?」
('A`)「カレーに御座います。温めるだけだから、座って待ってろ」
ノハ*゚听)「ほほう! カレーか! カリカリカレーはうっきうき〜♪」
勝手知ったる人の家、ということなのか。
遠慮もせずにリビングへと邁進していったヒートは、どかりと座布団に腰を据えた。
ブーメランのようにキャップを投げる。着地点はきっちりかっちりベットの上。トリプルAだ。
カレーの香りにピコピコ揺れる紅い髪。とても喜ばしそうな彼女の様子は、見ている者さえ頬が綻んでしまいそうになる。
そしてスプーンとテーブルが刻む8ビートが、ドクオに催促をし始めた。
ノパ听)「早ぅ! 早ぅ、カレーを持てぃ! 殿は御立腹であるぞ! お腹と背中がくっつきそうじゃ!」
('A`)「全くもって行儀悪ぃー殿様だな。静かにしろ」
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:13:17.32 ID:ZHNci12f0
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第十二話『華麗なる食卓』
- 14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:16:14.99 ID:ZHNci12f0
やがて、手慣れた様子で二人分のカレーライスとサラダをよそったドクオが、器用にも一度で四つの皿を運んできた。
('A`)「ドックン特製カレーだ。ありがたく食えよ」
地味な陶器の皿に並々と積もった白と茶色の霊峰。鼻をくすぐるスパイシーな香りと、ゴロゴロと大きな具が食欲をそそる。
ニンジン、ジャガイモ、ナスにカボチャ。野菜のオールスターたちを引き立てるように、セールの鶏肉が少々ころりころり。
香り立つフレーバーのオーケストラ。その中で、コーヒーのまろやかな匂いが見え隠れ。
相当待ちきれなかったらしい。皿が着地すると共に、ヒートはスプーンを乱舞させた。
ノハ*゚听)「いっただきます!! ハムッ、ハフハフ、ハフッ!!」
('A`)「もう言い飽きたセリフだけどさ、もっと落ち着いて食えよ。いただきます」
ノハ*゚听)「ムグ、んぐ……お代わりくれっ!」
(;'A`)「速ぇーな!」
- 15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:19:24.41 ID:ZHNci12f0
まだドクオが一掬い口に含んでる最中だというのに、ヒートの皿はすっかり綺麗な状態だ。
キラキラと輝く瞳は、まだまだ食べたりないと一心に訴えかけてくる。これには彼もどうしようもない。
名残惜しく匙を置き、再び鍋へとUターン。
多めに作って後日食べようと思っていた彼の目論見は、ヒートの底無しの胃袋により崩れ去りそうだ。
ノハ*゚听)「やっぱドクオのカレーは美味いなー。私なんかサラダも作れねーのに大したもんだ」
('A`)「コツは木ベラで混ぜることだな。ジャガイモが煮崩れしにくい。あとは隠し味にインスタントコーヒーを入れるとより美味い」
ノハ*゚听)「おおお、スゲー! 嫁に貰ってやりたくなるな!」
('A`)「勘弁してくれ。主夫はご免だぞ」
二杯目の皿の上で、トロリととろけるルーが純白の上に照り映える。
幼馴染の二人にとっては馴染み深い、変わらぬ賑やかな夜の一時だった。
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:22:24.61 ID:ZHNci12f0
* * *
食事を作るのがドクオならば、それを片づけるのもまたドクオ。
せっせと皿洗いの仕事に専念する彼を尻目に、ヒートは小さなテレビをボーっと眺めている。
一定の間隔でチャンネルを切り替えているところから察するに、それほど見たい番組があるわけでもないようだ。
ついには退屈に痺れを切らしたらしい。生足をパタパタと上下させながら、床に寝っ転がる彼女は気だるげな声を上げる。
ノパ听)「なー、ドクオ。お皿洗うの手伝っちゃダメなのか? 暇で死にそうだー」
('A`)「いいよ、お前がやると皿割られちまうから洒落にもならないし。適当にくつろいどけ」
ノパ听)「あー……まぁそれもそうだなー。自分ながら高確率で皿を落とす自信があるわー」
('A`)「ジョ○ョでも読んでろよ。まだ全部読み終わってないだろ?」
ノパ听)そ 「そーだな! 昨日は吉良が爪切り落とすとこまで読んだし!」
起き上がる彼女は軽やかに、ベット脇の小さな本棚へと駆け寄る。
雄々しくも偉大に立ち並ぶ、人間賛歌の背表紙たちの中から四十四の数字に指を掛けた。
読み古され年季の入ったコミックスを小脇に、今度はベットの上へとダイブ。スプリングが軋む音が規則的に続く。
- 17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:25:20.40 ID:ZHNci12f0
('A`)「ベットに寝るなって。飯食った後だから眠くなるぞ」
ノパ听)「大丈夫、大丈夫」
ドクオの忠告を突っぱねると、ヒートはうつ伏せにベットへと沈み込み読書を始める。
やれやれ、と溜め息。
概ね皿洗いが片付いた彼は、エプロンを畳みながら御寛ぎ中の幼馴染をちらりと覗いた。
尻を向けて寝そべったヒートは、相変わらず白くて肉質な生足をバタバタと上下に踊らせている。
蹴ったり飛んだり走ったりとかなり酷使しているはずだが、改めて見ても意外に綺麗な脚線。
細くはないが、スポーツ選手のようにゴツくもない。もっちりと柔らかそうな質感。
ホットパンツから窺えるヒップラインも、形の良い小振りな丘陵を描き背中へと伸びる。
また彼女がページをめくる度に、肩甲骨微かな影を落としながら上下していた。その様はどこか生々しい。
無茶な話だろう。意識せずとも、思わず喉が鳴ってしまう。
('A`) (勘弁してくれよ、ヒート相手にそれはないって……)
エプロンでごしごしと顔を擦る。湿った布地からは洗剤とほのかなカレーの香りがした。
何か、何か気の紛らわせる物を。
若干頭を火照らせながら、彼はふらふらと台所を出る。
- 18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:28:25.71 ID:ZHNci12f0
ノパ听)「ドクオ」
('A`)「おぅふっ」
とりあえずテレビでも見るかと、腰を落ち着けようとしていた矢先である。
突然のヒートの呼びかけにビビるドクオ。思わず足の小指をテーブルの角にぶつけてしまう。
脳天を駆ける、痺れにも似た痛み。それと驚きも相まって、思わず声も裏返った。
(;'A`)「ななななんですねん、ヒートすわん。別にやま、やましいことなんかは――」
ノパ听)「『凶星』のことどう思う?」
人のケツじろじろ見てんじゃねー、なんて言われると思っていた彼にはちょっと意外な言葉だった。
電気を帯びているかのようにジンジンと嘆き続ける爪先を押さえながら、少しアヒル口になる。
浮かべるのは、どこか少しふてくされたような表情。
('A`)「またその話か。もういいだろ」
ノパ听)「どう思うって聞いただけじゃん」
('A`)「どうも思わねーよ。お前は何か思うのかよ?」
- 20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:31:27.81 ID:ZHNci12f0
読み終わった漫画本を枕元に置くと、狭いベットの上を器用に引っくり返る。
仰向けになった彼女のタンクトップからへそが見え隠れ。だらしないな、とドクオは心中で呆れかえった。
ノパ听)「私さ、やっぱ強い奴と喧嘩して決着とか着かなかったらすごくイライラする。
そういう時はもう我慢してるのも馬鹿らしいし、すぐにでもそいつの所に再挑戦しに行くと思うんだ」
('A`)「それが?」
ノパ听)「何かあいつと私って似てるなーって思ったから」
胃がひっくり返りそうになる。急速に喉が渇き、目頭が熱くなった。
ドクオの握り締める拳は、手の平に爪が食い込むほど。
彼女の口から一番聞きたくもなかったような言葉が、今まさに紡がれている。
やはり、ヒートは感じ取っていた。
少なからず、ショボンと己に通じる何かが存在していることを。
ノパ听)「だから私は、あいつは絶対今日中に何かしてくるだろうって予想してた。私みたいにイラついて、勝負しかけてくるって。
結局何も無かったけど、何か納得できないんだ。私がショボンの立場だったら、絶対に耐えきれなくなるだろうって思うし」
心底不思議そうに頬杖を突くヒートは、ギシギシと安っぽいベットの軋みに身を委ねる。
ドクオは出来るだけ平静を保ちながら、渇き切った口を何とか動かした。
- 21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:34:02.59 ID:ZHNci12f0
('A`)「……気にし過ぎだろ。ほら、お前とショボンなんて似ても似つかねーし。多分」
根拠も何もない慰め。それはヒートに言っているのではなかった。
彼女の言葉に確信に似た感覚を覚える、自分の心をはぐらかそうとしていたのだ。
ノパ听)「そーかな? ツラ見た時から似たものを感じるなー、とは思ってたんだけど」
('A`)「似てないって」
ノパ听)「いや、でもやっぱり似てる気がする。ムカつく野郎だけど、妙に波長が合うっていうか……」
('A`)「似てない」
ノハ#゚听)「……ドクオっ。お前ちゃんと私の話――」
ムッとしたヒートが身を起こそうとした時だった。ドクオ自身、頭に血が上っていたのか。
どうしてそんなことをしようと思ったのかは定かではない。
彼はヒートを乱暴に、ベットへと押し倒していた。
- 22 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:37:33.59 ID:ZHNci12f0
スプリングが一際大きく悲鳴を上げる。ぎしりぎしり、ぎしぎし。二人分の体重は安物ベットには酷なのだ。
覆い被さられたヒートは、只ならぬ剣幕で見下ろしてくるドクオを凝視する。ぱちくりとする大きな瞳は、どこか揺れていた。
細いが大きなドクオの手が、剥き出しの肩に触れている。その指の先まで血の巡りを感じるような、不思議な感覚。
ドクオもまた怒りにも恥ずかしさにも似た感情が頭の中を席巻し、何が何だか分からない。
ただヒートの言葉に、無性に心が煮えたぎってしまった。どうしようもない、この憤り。
互いに同じなのは、心臓が早鐘のように鳴っていること。
吐息の匂いも感じ取れる距離にある顔。ドクオの枝垂れるような前髪が、ヒートの額に触れる。
彼女は思わず顔を反らす。ドクオには見られたくない顔だった。頬が林檎のように真っ赤なのが、鏡を見ずとも分かる。
恥ずかしそうに身を小さく捩らせ、拱(こまね)く両腕は少し震えていた。細く柔らかな糸で縛りあげられたように、胸の奥が苦しい。
ノハ;゚听)「ど、ドクオ…………何を?」
('A`)「…………」
- 23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:40:05.35 ID:ZHNci12f0
黙った彼がどこか怖い。気が付けばヒートは、目を閉じていた。
ノハ*--)「そんな……ちょっと……」
('A`)「もしかしたら似ているところもあったかもしれない」
降る、一粒の言葉。
ノパ听)「え――?」
思わず聞き返してしまう自分を、何だか間抜けだとヒートは思う。
('A`)「でも今は違う。俺がいる。お前には俺が付いている。仲間が付いている」
ノパ听)「ドクオ……?」
('A`)「ショボンはひとりだ。一人ぼっちだったからあんな怪物になっちまったんだ。俺はそう思う」
ノハ--)「――――っ」
- 24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:43:07.19 ID:ZHNci12f0
ドクオは身を起こす。ヒートもずれたタンクトップを直し、ベットに腰かけ直した。
ノパ听)「もしかしてお前がショボンとの戦いにこだわる理由って、それと関係あるのか?」
('A`)「……そうだな」
生まれついての悪はいない。
環境がショボンを闇に落としたというのなら、その違いは仲間だ。
彼は振り返らない。背後には踏み潰し、砕き散らした破壊の荒野しか広がっていないからだ。
ヒートはどうだろうか。その闘力、性質に似たところはあるだろう。しかしてやはり、彼女はショボンとは違う。
彼女の背中にはドクオがいる。フサギコ、ハイン、クーがいる。
振り返るべき仲間たちが待っているのだ。
('A`)「……いきなり乱暴してすまん。ちょっと頭に血が昇ってた」
ノハ--)「いーよ、私も無神経なこと聞いたし。でも――」
立ち上がり様、ヒートの細腕が豪快に降り上げられる。
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:46:31.20 ID:ZHNci12f0
ばちん。
( A )「あぽわっ?!」
風船でも弾けたかのような、激しい音。その原因はフルスィングの張り手のせいだ。
貧相な頬にくっきりと紅葉を付けたドクオは吹っ飛ぶ。頭っからテーブルに突っ込むまま、ドタドタと床を転げ回った。
(;'A`)「ななな、何すんだよ!? 謝ったろ――っていうか顎外れるわ! 手加減しろ!」
ノハ#゚听)「うっせーボケ!! グーで殴られなかっただけでもありがたく思え! バカ!」
('A`)「な、何が何だか」
わけわかめ、とでも言いたい気分。
怒髪天を突くという言葉がふさわしい。ヒートは悪鬼羅刹の如く怒り狂いながら、床を踏み抜く勢いで地団駄を繰り返す。
殴られたドクオにはさっぱりその理由が分からない。
とにかく興奮しまくっている彼女を放置していては、このまま自分の部屋を破壊されかねないのは確かだ。
('A`)「おい、おいゴメン。押し倒したのは謝るって。別に変なことするつもりはなかったんだよ!」
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:49:08.44 ID:ZHNci12f0
ノハ#゚听)「だから分かってないって言うかさー! なんかさー……あああぁあ! もう、やっぱグーで殴らせろ!」
(;'A`)「ちょ、勘弁――」
拳を振り上げるヒートが、逃げ惑うドクオを組み伏せようとした時である。
味気ない電子音が部屋に響き渡った。
緑色の光を規則的に放ち、ドクオの携帯電話が激しいバイブレーションと共に机を叩く。
今まさに鉄拳の餌食になりかけていた彼には、その単調なメロディーが天使のラッパにも聞こえる。
('A`)「とっとっと、失礼」
ヒートにタンマをかけ、携帯へと飛び付く。救い主の名前を確認してみるが非通知。
ちょっと訝しげな思いに駆られながらも、通話ボタンをクリックした。
b('A`)「はい、鬱田ですけど」
川 ゚ -゚)d【お、通じたな? 私だよ。それにしてもドクオも携帯を持つ年なんだな。年月の流れも早いものだ】
b(;'A`)「あれ? クーか?」
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:52:17.47 ID:ZHNci12f0
耳に入ってくる声は聞き覚えのある、そしてまたどこか懐かしさの抜けない凛とした声。
b('A`)「なんだ、俺の番号知ってたのかよ。非通知だから誰かと思ったぞ」
川 ゚ -゚)d【ハインに教えてもらったんだよ。それにお前たちのことだ、どうせ一緒に飯でも食っているんだろ。
まとめて二人に伝えておきたいことがあってな。突然かもしれんが、明日の朝は暇か?】
b('A`)「朝? いや、ちょっと待ってくれ。俺はいいけど、一応ヒートにも聞いてみる」
ドクオは耳を携帯から離し、何やら不完全燃焼を起こして絶賛不機嫌なヒートに手招きする。
('A`)「クーからだ。明日の朝暇かって」
ノパ听)「クー姉ぇが? 何だ突然」
- 29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:54:28.64 ID:ZHNci12f0
さすがにクーのことになると、多少は落ち着きを取り戻してくれたようだ。ヒートは両手で大きく丸を作る。
b('A`)「大丈夫だそうだ。でも朝っぱらから一体何するんだ? 部活の朝練じゃあるまいし」
川 ゚ -゚)d【勘がいいじゃないか、進歩してるなドクオ。お察しの通り朝練をするんだ。お前とヒートのな】
b(;'A`)「ま、マジで朝練なのか?!」
五月のまだ肌寒い夜。
小さなドクオの部屋に、彼の素っ頓狂な声がほのかに反響していった。
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 00:58:02.59 ID:ZHNci12f0
* * *
まだ朝もやがほんのりと漂う朝。
人気もないVIP学園の中庭には、静かだが重圧を含んだ声が木霊していた。
( `ハ´)「はぅ、ほっ……ふぅっ! ホォォ――、はいっ!」
弁髪を模した三つ編みに、派手な刺繍のチャイナ服に身を包む男――シナーは珠の汗を散らしながら舞い踊る。
石畳を華麗に踏み叩き、滑らかな腕の動きはゆらりゆらりと空を撫でる。
脱力しているようで、芯には万力のような力がこもった動き。
次いで、流れるような足さばき。剛の力強さと柔の繊細さを孕んだ歩法は、洗練された流れとなってシナーを運ぶ。
<ヽ`∀´>。゜「ふぁぁ……早起きはいい加減疲れるニダ。まだ終わらないニカ?」
傍らの噴水に腰掛けながら退屈そうな生欠伸をする、しっかりとしたエラが特徴的な相棒。
彼の発言にシナーも手を止め、額の汗を拭いながら隣に座り込む。
- 31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:01:10.71 ID:ZHNci12f0
( `ハ´)「毎朝の太極拳は健康の秘訣アル。ニダーも退屈なら一緒にやるアル」
<ヽ`∀´>「そんな爺の趣味みたいなこと恥ずかしくてできないニダ。それよりこれからのことを考えるニダ。
もう武喝道も三日目に入ったが相変わらずバッチはゼロ、その代わりに周りは化け物みたいな奴ばかり。
このままじゃ優勝なんて到底無理。のんきに太極拳なんてしてる場合じゃないニダよ」
( `ハ´)「それなら弱っちそうな部活を狙えばいいヨ。文化部なら何とか倒せるはずアル」
<;ヽ`∀´>「ウリたちはその文化部に初日から負けかけたんじゃないニカ……」
小悪党二人の脳裏を、鍋を振り回す野獣の姿が見え隠れした。
溜め息も止まらないものである。これでは一体どうやってバッチを集めればいいのだろうか、と。
頭を抱えるニダーはさておき、シナーはピシャリと頬を打つと再び立ち上がる。
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:04:12.37 ID:ZHNci12f0
( `ハ´)「クヨクヨしても始まらないヨ。ああいう強い奴らに対抗するためにも、私はこうやって日々功夫(クンフー)を積み重ねてるアル」
<ヽ`∀´>「ポジティブな奴はうらやましいニダ。そんな簡単に強くなれたら苦労しないニダ」
( `ハ´)「さっそく気功の訓練をするアルヨ。ニダー、今から十秒数えて欲しいアル!」
どしり、と両足を大地に根差す。先の太極拳の動きとはまた違い、突き出した両腕も静止する。
しかし単に構えているわけではない。
その証拠に、真剣な面持ちで深呼吸を繰り返す、シナーの額から早くも汗が噴き出ていた。
<ヽ`∀´>「数えるニダよ……1(イル)、2(イー)、3(サム)、4(サー)、5(オー)」
(;`ハ´)「フゥゥゥゥゥウウウウ――…………ッ!」
血管が大きく浮かび上がり、筋肉がビシビシと鉄の爆ぜるような音を立て痙攣した。
彼の呼吸に合わせるように、周囲の空気が渦を巻いて集まっていく。
木の葉を巻き上げ、小石を引き寄せ、外気からエネルギーを蓄えているのだ。
- 34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:07:36.68 ID:ZHNci12f0
<ヽ`∀´>「6(ユク)、7(チル)、8(パク)、9(ク)――」
指を折って数えるニダーは、過酷な訓練に身をやつす相棒をじっと見つめている。
普段は悪さばかりする彼らだ。授業だってサボったりもする。嫌なことは他人に押し付けてトンズラばかりこいている。
しかしシナーに限るならば、彼は日々の鍛錬だけは怠ったことはなかった。
こうやって毎朝、雨の日も風の日も功夫を欠かさない。
どうせ格闘技など、喧嘩に使う程度のものと思っているニダーには、彼の目を見張るような努力の程は眩しいくらいだった。
と思いつつも、こうやって毎度付き合ってやる自分も相当物好きだとは自覚している。
<ヽ`∀´>「――10(シプ)! 十秒経ったニダよ」
最後に小指を折り曲げて、気を練り続けていたシナーに呼びかける。
途端、圧縮されたエネルギーは霧散する。
溜め続けていた力が弾け飛ぶと同時に、構えを解いた彼は後ろからバタリと地に伏した。
顔は汗でびっしょりとなり、呼吸も早い。いつの間にか鼻血まで出ている始末だ。相当難儀な技なのだろう。
その表情は芳しくはない。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:10:32.30 ID:ZHNci12f0
(;`ハ´)「ふぅ、ふぅ、駄目アル。また失敗したヨ。どうしても短時間じゃ上手く気を練ることができないアル」
<ヽ`∀´>「もっと時間をかけてじっくりとやればいいんじゃないニカ?」
(;`ハ´)「それじゃ実戦で使い物にならないアル。問題は山積みヨ。これさえ習得できれば、他の奴らにも対抗できそうなのに……」
<ヽ`∀´>「自分で言ってたろうに、クヨクヨしても仕方ないニダ。今日はとりあえずこれでやめにして――」
言いかけたニダーは、目下の石畳に何かを見つける。
徐々に顔を出し始めた朝日の、柔らかい陽光がキラリと反射していた。何かちいさな、ビール瓶の蓋ほどの大きさの物。
拾い上げてフッと息を吹きかける。砂埃が散り、表面に浮かび上がった文字が見えてきた。
『園芸部』の、三文字が。
<ヽ`∀´>そ 「こ、これは武喝道バッチニダ!」
( `ハ´)「突然大声を出してどうしたアル?」
<ヽ`∀´>「ホルホルホル、これはツイているニダ! どんな奴かは知らないが、バッチを落とすとは相当の間抜けニダ!」
- 37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:14:05.10 ID:ZHNci12f0
首をかしげるシナーに、彼は誇らしげにバッチを見せつける。まるで自らの手で勝ち取ったかのように。
拾っただけの割には、随分とおこがましい行いである。
( `ハ´)そ 「アイヤー、これは驚いたアル。確かにちょっと抜けてるアルね、この園芸部部長とやらは」
<ヽ`∀´>「しかし儲けは儲けニダ。拾ったバッチはウリたちが頂くということで、問題無しニダ」
( `ハ´)「…………」
いそいそと懐にバッチをしまおうとするニダー。その腕を、シナーは唐突に制する。
( `ハ´)「いや、待つアルよニダー。私ちょっといいこと思いついたアル。今からそれを園芸部の人に返しに行くアル」
<#ヽ`д´>「はぁ? 何を言っているニカ! せっかく戦わずにしてバッチが手に入ったっていうのに――」
チッチッチッと指を振り、シナーは細目をさらににんまりと細めた。
- 38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:17:06.66 ID:ZHNci12f0
( `ハ´)ヾ「考えてみるアル。大切なバッチを無くして困っている園芸部の元に、颯爽と現れる私たち。
互いに敵同士とは言え、わざわざバッチを返しに来てくれたのなら、そりゃあもう感謝するはずアル」
<ヽ`∀´>「それが何の得になるって言うニカ? お礼に花なんて貰っても嬉しくないニダよ」
( `ハ´)「園芸部なんて情緒溢れる部活に、ムサい男なんていないものアル。言葉通りまさに花園、きっと可愛い女の子がいるアル。
そんな部活に今の内に恩を売っておけば、ゆくゆくはイイ関係――いやまず間違いなくチヤホヤされるアル!」
<ヽ`∀´>「……ほほぅ」
言われてみて彼は考える。確かに、シナーの理論も叶うところはあるかもしれない。
バッチはこの戦いでかなり重要な部分を司っている。それをただ同然で手に入れられたのだ。
みすみす捨てるような行いをするのは勿体ない。だが、今の彼らにとってたった一つのバッチが戦況にどう影響するのか。
強豪でもなさそうな文化部のバッチ一つ。正直言って焼け石に水なところもあるかもしれない。
それならば、後々の豊かな学園生活への肥やしとするのは決して悪くない選択だ。
- 39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:20:14.50 ID:ZHNci12f0
なにも、今一時の武喝道にそこまで躍起になることもないんじゃあないか。それは間違った考えではない。
ニダーは高らかに笑う。もう腹の内は決まったようだ。
<ヽ`∀´>「ホルホルホル、その話乗ったニダ! では早速返しに行くニダよ。園芸部の部室はどこニカ?」
( `ハ´)「私、確か外れに小さな温室があるって話を聞いたことがあるヨ。きっとそこが部室兼活動場所アル」
<ヽ`∀´>「では急いで向かうニダよ! 我らのバラ色の学園生活のために!」
愉快そうな笑い声を二人で上げ、彼らはスキップを踏みながら中庭を後にした。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:23:03.48 ID:ZHNci12f0
* * *
ミ;,,゚Д゚彡「おう、おはようさん」
从 -∀从。゜「……はよっす」
金曜日の朝。武喝道三日目の早朝である。
フサギコは校門に待たされていた。ハインから内密に連絡が来てのことだった。
予定していた時間から十分ほど遅れてきた彼女は、髪はボサボサ制服はヨレヨレ。加えて、大きな目の下にびっしりと隈を作っている。
眠そうに繰り返し繰り返し欠伸をしていた。明らかに十分な睡眠をとっていないらしい。
ミ,,゚Д゚彡「大丈夫か? 足元がフラフラしてるぞ」
从 -∀从。゜「うっせーな……頭に響くから大声で喋んなよ……」
眉間にたっぷりと皺を寄せる彼女は、握っていた栄養ドリンクの小瓶を呷る。
吐き出す溜め息からはツンと鼻に付く、栄養剤独特の臭いが混ざっていた。
- 41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:26:07.27 ID:ZHNci12f0
从 -∀从。゜「ふぁぁ……ったく。こういう日にゃ学校サボるのが一番なんだが、そういうわけにもいかねーしな」
未だ半開きの目をフサギコに向ける。
小山のような巨躯を包む制服は桁違いのサイズ。大人が二人でも簡単に包みこめそうな大きさだ。
しかしながら、その上から被っている古ぼけたエプロンがどこか可笑しさを漂わせる。
端々に布を継いだ跡が見られるそれは、大柄な彼には少し小さめにも見えた。随分と年季物だ。
元は普通のサイズだった物を、手ずから布を足していって自分のサイズに合わせていったのだろう。
大して他人に興味を持たない彼女にしては、その口は驚くほどに自然と動いていた。
从 ゚∀从「お前、いつもそのエプロンを着てるんだな」
ミ,,゚Д゚彡「あ? あぁ……いや、これが無いと落ち着かなくてな」
少し照れくさそうに、フサギコはエプロンを撫でる。
労わるように、懐かしむように。
- 42 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:29:13.00 ID:ZHNci12f0
从 -∀从「にしてもボロ切れ同然だな。サイズも合ってねえだろ。新しいのを買わねーのか?」
ミ,,゚Д゚彡「……いや、いいんだ。ちょっと思い入れがあってな。そう買い替えるような物じゃない」
从 ゚∀从「? ん、まぁそう言うんならそれでいいんだろーけど」
眠気も晴れてきたらしい。目頭をゴシゴシと擦り、ハインはフサギコの前を行く。
その背には、彼女の身長に不釣り合いな物が背負われていた。大きめの黒い筒状のバック――ちょうど竹刀などを入れて持ち歩くためのものだ。
ミ,,゚Д゚彡「お前こそ、背中のデカいのは何だ?」
从 ゚∀从「え? あぁ、ちょっとな、土産だよ。昨日はこいつを作るのに手間取って完徹しちまった」
ミ;,,゚Д゚彡「作ったって……一体何なんだよ」
从 ゚∀从「少なくともお前には関係の無いモンだよ。それより、こっちの方が興味がわくかもな」
- 43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:32:16.70 ID:ZHNci12f0
後ろ手に彼女が何かを放り投げる。慌てたフサギコが掴み取った、それは録音機器らしき機械。
彼女は顎をしゃくってくる。どうやら再生してみろということらしい。
指示されるままに、フサギコは三角形の描かれたボタンを押していた。
一瞬の甲高くノイズが入り、不明瞭な音が続く。どこか人の声のような、しかしハッキリとは聞き取りにくい雑音。
【また…………てくれ……ね。と…………くも……校時……す。……で彼…………棟へ運……い】
ミ,,゚Д゚彡「何だこれは?」
从 ゚∀从「昨日のミリ研に取り付けておいた盗聴機だ。ちゃんと聞いてろ、上手く音を拾えなかったからな」
ハインが言うや否や、キィンと走るノイズ。
再び人の声だが、先程よりはハッキリとしていた。
【い…………待ちな……い。さっ……襟……ッチ…………何か……ました。少……べ……、確……こに……これは】
ブツンと低く鳴ると共に、風を切るような音が一瞬聞こえる。
- 44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:35:37.73 ID:ZHNci12f0
从 ゚∀从「恐らくここで盗聴機の存在がバレた。今のは外された音だな」
ミ;,,゚Д゚彡「バレたって誰に?」
从 ゚∀从「さっきから聞いてばっかりだな、お前。もう言わなくても分かるだろ?」
ミ,,゚Д゚彡「――風紀委員か」
从 -∀从「ご明察ってね。最後の一言だけはハッキリと拾えたみたいだぜ」
【――コソコソ嗅ぎ回るのはやめた方が身のためですよ】
ミ;,,゚Д-彡「――――っ!!」
爆ぜるような音がフサギコの耳を刺す。録音機からは、それきり音は止んでしまった。
恐らく、最後に踏み潰しでもして壊されたのだろう。今のノイズはそのせいだ。
- 47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:39:07.12 ID:ZHNci12f0
ハインは深刻な面持ちで機器を眺めるフサギコから、乱暴にそれを取り上げる。
从 ゚∀从「誘拐事件のことは知ってるよな。オレはその犯人どもは生徒会と風紀委員だと睨んでいる」
ミ,,゚Д゚彡「その話なら何となく耳には挟んでいる」
从 -∀从「奴らが何を企んでいるのか、居なくなった連中はどこにいるのか、そもそも『武喝道』とは何なのか。
すべて分からず仕舞いだ。あわよくば手がかりになる話でも聞ければよかったんだが、そう甘くもないらしい」
ミ,,゚Д゚彡「……お前、大丈夫なのか? こいつらも馬鹿じゃないだろう、疑われるようなことになったら――」
从 ゚∀从「わかってる、派手なことはしないさ」
ハインはもう一度手の中の録音機を見つめる。
敵も一筋縄ではいかないようだ。いや、この場合は『敵』と呼称するのもまた複雑な心境だった。
- 48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:42:19.95 ID:ZHNci12f0
今ハインは、恐らく余計なことに首を突っ込んでいる。
彼女がやるべきことは武喝道を生き抜くこと。わざわざその主催者である生徒会たちの動向を探るなど、あまりにも危険な行為だ
しかし、踏み出してしまった自分を止めることは出来ない。
巻き込まれた大切な人を守るためには、ただ戦って生き残るだけではダメなのかもしれない。
それに彼女は武喝道そのものにすら、どこか疑問を覚えている。何故、生徒会はこんなことをするのか。
溢れ返る好奇心が、己の身をも蝕むやもしれない。しかし、やるしかないのだ。
ふと、彼女はフサギコに背を軽く叩かれて思考の渦から我に帰る。
ミ,,゚Д゚彡「それで? 今日はそれだけで呼んだわけじゃないんだろ?」
从 ゚∀从「あぁ、ちょっと渡辺の件でな。もう一度話そうと思ったんだが、お前がいたら話もしやすいかなって」
昨日、渡辺の心中がまとまらないため一度後にしてしまった。
ハインも待つと言ったが、気が気ではなかったのだろう。だからこうしてわざわざ早朝から出向いているのだ。
いつもクールで人を寄せ付けようとしない態度の彼女にも、こんな一面があるのだとフサギコも頬が緩む。
ミ,,^Д^彡「優しいじゃないか。やっぱり友達ってのはいいもんだな」
- 49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:45:47.08 ID:ZHNci12f0
从#゚∀从「ば、バッカ! このトンチキ! 渡辺はボヤボヤした奴だから放っとけないだけなんだよ!」
ミ,,^Д^彡「照れるな照れるな、他人を思いやれるのはいいことだぞ」
从*-∀从「あーもう、お前人の話聞いてんのかよ! くそ、これだからアホは嫌いなんだ、ったく!」
ガシガシとフサギコに頭を大雑把に撫でられ、顔を真っ赤にする彼女は怒っているのか照れているのか分からない。
彼の大きな手を滅茶苦茶に振り払うと、プンスカと肩を怒らして先を急ぐ。
从#-∀从「も、もう先行くからな! さっさと付いて来いノロマ!」
ミ,,゚Д゚彡「はいはい、今行きますよっと」
从*゚∀从「い、いややっぱあんま近くに寄るな! 離れて歩け! バカ!」
ミ;,,゚Д゚彡「結局どうしたらいいんだよ俺は?」
从#-∀从「知るか!!」
太い脚をガシガシと蹴られながらも、フサギコは首を傾げるのだった。
- 51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:48:47.91 ID:ZHNci12f0
* * *
一方その頃、渡辺はひどく困惑していた。
从;'ー'从「ど、どうしよう! ない、ない、どこにもないよぉ!」
少し肌寒さも感じる早朝。しかし、寒かろうが暑かろうが温室の花に水やりは欠かせない。
この時間帯はいつも温室に向かう。それが彼女の日課。
そしてやってきたほんのり温かい室内。だが彼女は、荷物を整理しているとあることに気が付いた。
無いのだ、武喝道バッチが。
制服の内ポケット、鞄の奥底、ポーチの中。ない、ない、バッチは影すら見つからない。
そうそう入れ替えたり触ったりする物でもないのだ。家に置き忘れたなんてことはないはずだった。
では考えられるのは? 一つだけ、落としたのだ。
昔からの悪い癖だった。どれだけ注意していても、ふっと気を抜くといつの間にか持ち物を落としている。
弁当、手帳、リップ、今までに探したり失くしたりした物の数は両の手でも数えられない。
しかしだ。まさか、まさかこんな時に何て物を落としてしまったのだろうか。
- 52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:51:34.20 ID:ZHNci12f0
从;ー;从「ふわ、わ、どうしよう、どうしよう。う、うぅ、私……またやっちゃった」
クリっとした眼の縁に涙を一杯溜めて、彼女は温室の地面にへたり込んでしまった。
お気に入りのピンクのエプロンに、こぼれる雫の跡がいくつもいくつも作られる。
混乱と後悔にぐるぐると渦巻く頭の中で、ハインの言葉が反響していた。
――バッチを失えばもっと良くないことが起きる
一体何が起こるのか。それはどんな恐ろしいことなのだろうか。
渡辺には想像できなかったし、またしたくもなかった。ただハインの言うことなら、それは間違いなく真実であろう。
恐怖に肩が震える。ぎゅっと膝を抱えて、彼女は静かに声を押し殺して泣いた。
鼻の頭がつんと痛い。目頭が熱くなる。泣いていても仕方ないと自身で分かっているのに、泣くことしかできない。
ただただ恐ろしかった。ハインの言う『良くないこと』が、今まさにドアをノックしてやって来そうな気までしてくる。
从;ー;从「ハインちゃん、ハインちゃん……怖いよ……助けて……」
- 53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:54:07.03 ID:ZHNci12f0
悲痛で弱々しい呟きがぽつりと漏れる。それとほぼ同時だった。
ゴン、ゴン、と。
渇いた音が響き渡る。目を向ける温室のドアの向こう。摺りガラスになったそこには、人影が二つ。
渡辺の背筋に冷たい物が走った。
正体の分からない二つの影。ゆらりゆらりと朝日に歪んでいるそれらから、細い腕のようなものがニュッと伸び――
ゴン、ゴン。
再びのノック。今度はどこか、さっきよりも力が入ったものだ。
从;ー;从「うぅ……うぅ……! うぅぅぅ!」
もう恐ろしさに声も出なくなってしまった。
打ち鳴らされる心臓が胸の中で暴れ回り、息が乱れる。
もしハインなら。もしハインが来てくれたのなら、まず彼女はノックなどしてこない。
一言軽く挨拶を交わして入ってくる彼女を招き、二人で紅茶を飲みながらお喋りするのが安らぎの一時。
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/05/09(土) 01:57:19.01 ID:ZHNci12f0
しかし、この来訪者は間違いなくハインではない。では一体誰なのか?
普段から覗きに来るような一般生徒もいない。教師だってそれは同じ。さらに言えば今は早朝。
嫌な予感は募り、溢れ返りそうになる。
良くないこと。
それが息のかかりそうな距離にいると、渡辺はそう絶望した。
影がゴソゴソと動いている。取っ手が喧しく泣き喚いている。
やがて少しずつ、少しずつ扉が開かれた。そこから漏れ出てくる陽光に目が眩む。影の姿も逆光にハッキリしない。
从;ー;从 (ハインちゃん……私、怖い……)
渡辺は届きそうにもない友への叫びを、心の中で必死に叫んでいた。
第十二話・終
戻る 次へ