- 3 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 21:56:12.90 ID:v8067IJFO
居並ぶトロフィーに賞状、金の刺繍が煌びやかな校旗。
壁に陳列された額縁には、大判の写真がはめ込まれている。
縁に年表を打たれたそれらは、一年毎に一枚あるらしく、結構な数だ。十枚弱はあるだろうか。
/ ,' 3「…………」
VIP学園創立者にして現学園長、荒巻スカルチノフは葉巻をくゆらしながら、まだ日も浅い学園の歴史を眺め回す。
新興にして強大、彼の手腕と財力によりものの数年で確固たる地位を会得した学び舎。
ここは彼の城であり、財産だ。
/ ,' 3「十年なんて、長いようで短いもんじゃ。取り分け、年寄りには早い」
- 5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 21:59:17.04 ID:v8067IJFO
呟きが漏れる、そこは校長室。
小奇麗でどこか葉巻の香りが染みついた部屋で、彼は一人ごつ。
節くれ立ち、血管の浮き出た皺だらけの手が壁を撫でる。元は真っ白だったそれも、煙と時間で黄色く変色していた。
/ ,' 3「ほほ。全てが終わった暁には、一度全面改装でもしてみるかのう」
愉快気だが、どこか寂しさも含めて。
彼は壁から離れると、机の上の灰皿に葉巻を押し付ける。眩いガラス製のそれに、黒白の混ざり合った灰の跡が咲く。
杖に頼り頼り、彼がふかふかとしたソファーに腰掛けたその時だ。
金具を軋ませ、木製のドアが開かれる。
_、_
( ,_ノ` )「遅れました、学園長」
渋澤だった。
- 7 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:02:22.07 ID:v8067IJFO
身を包む焦げ茶色のスラックスと、ぴっちりとしたワイシャツ。それは隆々たる身体を隠し切れていない。
胸板に、肩に、筋肉の隆起が並々ならぬ様子で表れていた。捲くられた袖から覗くのは、色黒で逞しい剛腕。
だが、その荒々しい肉体からは予想できない程、足取りは静かで軽い。
飛来し、水面を音もなく滑空する鷲のようだ。
_、_
( ,_ノ` )「貞子先生とアサピー先生、それに『彼女』もいます。捜すのに苦労しました。
運良く登校していなかったら、直接自宅を訪ねるまで見つかりませんでしたよ」
/ ,' 3「ほほほ、部活に熱心な子なのじゃな。良い良い、構わんよ。して、鈴木先生は?」
_、_
( ,_ノ` )「彼女は見回りに出ています。少し気になることがある、と言っていましたので」
部屋に踏み入る渋澤の後に続き、二人の人影が現れた。
- 10 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:05:17.19 ID:v8067IJFO
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第十七話『七星連合』
- 12 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:08:08.76 ID:v8067IJFO
川д川「失礼いたします……」
(-@∀@)「ヒヒ、久しぶりですね。この顔ぶれが学園長直々に呼び出されるのは」
一人は、物腰の柔らかそうな女性。
たっぷり――というよりも、もっさりとした黒髪は柳のように枝垂れて彼女の顔を隠している。
身に纏っている白地のワンピースもすっぽりとそれに覆われてしまい、随分とコントラストの利いた見た目になっていた。
目元まで髪がかかっていて、本当に見えているのか。しきりに部屋の中を見回しては、こんこんと小さく咳を繰り返す。
川;д川「こほ、こほ……やっぱり、学園長先生のお部屋は煙たいです。お煙草を吸ってらっしゃったんですか? こほっ」
/ ,' 3「葉巻を一本吹かしておったんじゃが、すまんのぅ。貞子先生にはちと酷じゃったな」
川;д川「すみません、やっぱり喉に良くないし、髪にも臭いが付きますので……こほっ、こほっ」
貞子と呼ばれた彼女は、繰り返し咳をしては苦しそうに喉を押さえた。
- 15 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:11:19.47 ID:v8067IJFO
(-@∀@)「ヒヒヒ、女性は神経質ですね。まぁ、学園長も老い先短い。モクも大概にした方が身のためでは?」
/ ,' 3「ほっほっほ、全くじゃ」
_、_
( ,_ノ` )「そういうあんたは、いちいち言うことが余計です。アサピー先生、学園長に失礼だ」
片や、アサピーという名らしいその男。
よれよれのワイシャツに、きちんと結ばれていない際どい柄のネクタイ。頭はぼさぼさ、眼鏡も傾いてかけている。
みすぼらしく、貧相な男だった。
枯れ木のようなスリッパ履きの足は、痩せぎすの身体を支え切れていないらしい。常に重心が伴わず、ふらふらと。
体格は弾けるばかりだが身なりは綺麗な渋澤と対象に、だらしない上にそれを気にかける様子もない。
ただ、その意地の悪そうに尖がった顔の上で、眼だけはギラギラと生気を帯びている。
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:14:13.73 ID:v8067IJFO
(-@∀@)「知りませんよ、礼儀なんて。こんな死に難い世の中だ。年の功なんて言葉はとっくに死語です」
_、_
( ,_ノ` )「ああ言えばこういう、その口は相変わらずですな。教師生活で身に付く教養もなかったようで」
(-@∀@)「ヒヒヒ! ガキ共の世話なんて糞の足しにもならない。おまけに今回はその尻拭いと来ている、下らない!
かく言うあんたは甘ったれたようですね、渋澤。モクの臭いが消えた代わりに、乳臭いガキの臭いが染み付いている!」
_、_
( ,_ノ` )「……学園(ここ)では『先生』を付けて呼べ、アサピー。捻り潰されたくなかったら――」
/ ,' 3「そこまでじゃ」
ぴしゃり、と。
一声に飲まれる渋澤とアサピー。
- 18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:16:36.68 ID:v8067IJFO
- _、_
( ,_ノ` )「申し訳ありません」
(-@∀@)「ヒヒ、分かりましたよ学園長。今日集まったのはいがみ合う為じゃあない」
双方、これ以上彼の眼の前でいざこざを起こすつもりはないらしい。
肩をすくませながら、互いに距離を取る。
/ ,' 3「そうじゃ、分かってくれたようだな。それでは貞子先生、『彼女』をここへ」
川д川「はい……。さぁ、いらっしゃい」
貞子のしなやかでほっそりとした腕が、扉の向こうへと伸びる。
蚊の鳴くような小さな、それでいて透き通るような彼女の声に誘われてやって来たのは一人の女生徒。
跳ねっ毛の黒いショートが特徴的の、小柄な女の子だ。
灰色のセーターの裾をしっかりと握りしめ、恐る恐るといった様子で彼女は足を踏み入れる。
大きな瞳は行ったり来たり。
初めに貞子を見て、渋澤、アサピー、そして学園長の姿を捉えると「ひっ」と小さく悲鳴を上げた。
- 20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:19:10.18 ID:v8067IJFO
(;゚;;-゚)「……失礼、します」
一年、新聞部副部長、そしてしぃの妹――でぃ。
彼女は促されるままに、ソファーへと腰かける。目の前には、皺だらけの顔に笑みを浮かべた荒巻。
一切、落ち着けられなかった。まだ立っている方がマシに思えた。
彼女は何も知らされていない。ただ、姉と取材のために休日返上で学校に訪れ、その場で貞子に連れて来られた。
しかし、嫌な予感だけはひしひしと感じている。それが目の前の柔和な老人から、ありありと放たれている故。
/ ,' 3「でぃ君じゃね、お姉さんと一緒に新聞部の部長・副部長をやっているという」
しゃがれ声が唐突に耳を突く。思わず身が震える。
声が裏返らないように気を付け、彼女は一言一言しっかりと返した。
- 23 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:21:36.93 ID:v8067IJFO
(;゚;;-゚)「え、えぇ……はい、そうです。学園長先生」
/ ,' 3「ほっほ、そんな緊張せんでもいい。会って話をするのは初めてじゃったかな。
聞く所によると新聞部の活動、お姉さんと一緒に頑張っとるそうじゃないか。良く耳に挟むわい」
(#゚;;-゚)「いえ、そんな、私は写真を撮るのが好きで、それでお姉ちゃんの助けになったらな――って」
/ ,' 3「有望じゃな、将来は写真家かのう。今の内に、ワシも一枚撮ってもらいたいくらいじゃ。カッコよく頼めるかね?」
(#゚;;-゚)「あ、はい是非。学園長先生のことも記事にしたいなって、お姉ちゃん言ってたこともありますし」
でぃは、首からぶら下げていたデジタルカメラを取り外し、構える。
一言断りを入れてから立ち上がり、座っている荒巻をアングルに捉えようとしきりに背面の液晶を覗した。
やんわりと開かれる、200万画素の画面に映った彼の口。
- 25 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:24:11.31 ID:v8067IJFO
/ ,' 3「おぉ、お姉さんがワシを記事に? しかし不思議じゃな。今の君たちはもっと、他に大事なことを記事にしなければならないはずじゃが」
(#゚;;-゚)「――えっ?」
/ ,' 3「例えばそう、『武喝道』のこととか」
がたん、と派手な音が立つ。
取り落としたデジタルカメラが床を跳ねていた。衝撃で電源が落ちたのか、液晶はブラックアウトし何も映さない。
(;゚;;-゚)「…………」
震えていた。
棒立ちのでぃはただただ震えていた。手も足も、極度の緊張と恐怖によって。
辺りを見回す、そこに居並ぶ教師たちはジッと自分を見つめて離さない。
息を整える。出来るだけ平静に。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:26:38.59 ID:v8067IJFO
(;゚;;-゚)「え、ブカツドウ? それって、クラブ活動のことですか? クラブ紹介の記事なら四月に――」
/ ,' 3「すまんのぅ、でぃ君。大体知っておるんじゃ。学園を舞台にしたバトルロワイヤル、既に始まっておるんじゃろうて」
怖い。
優しくて、柔らかいその笑みが堪らなく恐ろしい。
/ ,' 3「しかし、まだ詳細が把握できん。故に君を呼んだんじゃ。お姉さんは頼んでも、頑なに拒むと思ってな。
出来ればワシも楽をしたい。どうじゃろう、良かったらこの老いぼれに知っていることを全部教えてくれんかのう?」
腰の曲がった老齢の紳士。
彼はあくまで物腰柔らかに、でぃへ『お願い』をしている。
(;゚;;-゚)「……いや、私は知らないです。お姉ちゃんも、知らないっ。武喝道なんか、知らない……」
しどろもどろだ。口が渇く。
でぃ自身、自分で何を言っているのか分からない部分もあった。
- 27 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:29:09.18 ID:v8067IJFO
/ ,' 3「……ワシらに嘘を吐くのかね?」
(#;;;-;)「ち、ちが、違います! 違うんです! ごめんなさい、ごめんなさい!」
気付いた時には、涙が眼の縁にたっぷりと溜まっていた。
(#;;;-;)「だって言ったら、言ったら新聞部が、お姉ちゃんの部が! なくなっちゃう、消される、う、うぅ……」
/ ,' 3「……可哀想にのう。脅されてるんじゃな、生徒会に。いや、こちらも脅かすような物言いで申し訳ない」
傍らに立てかけてあった杖を頼りに。
立ち上がった荒巻は覚束ない足取りで、でぃに近づく。
鼻を鳴らしてむせび泣く、彼女の細い肩に皺まみれの手が乗っかった。
/ ,' 3「こういうのはどうじゃろう? 今日、君は貧血で倒れたんじゃ。そして保健の伊藤先生に送られて家に帰った。
目覚めた時には家のベッドの上。無論、君はその間のことは何も知らないし、覚えてもいない。そして何も喋っていない」
- 30 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:31:36.94 ID:v8067IJFO
(#;;;-;)「え……?」
/ ,' 3「意味が分からないかの。ならそれでもいいわい」
終始、微笑みを湛えていた表情が一変する。
細められていた目が見開かれ、顕になった瞳。
それが、明るい部屋の中だというのに陽炎のように光る。歪み、揺らぎ、吸い込まれるように透き通った光。
でぃは目が離せない。釘付けだった。
/ 。゚ 3「『恐怖』したのなら、眼を見るんじゃ。ワシの眼をな」
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:34:09.41 ID:v8067IJFO
渦を巻く。
瞳はぐるりぐるり、深く暗い闇を掻き混ぜた。空間ごと歪めるような、圧倒的プレッシャー。
見つめるでぃの心が飲み込まれていく。さながら、振り解こうとしても抜けられない蜘蛛の巣。
軽く肩に手を乗せられているだけなのに、そこにとてつもない重圧を感じる。
(; ;;- )「うあ、あ、あぁ、ぁ、ああああ……――」
精神を侵食する。
魂を汚染する。
無限に広がる波紋に包みこまれ、彼女は全てを奪われる。
糸が切れた人形のように、ぐしゃりと膝を突くでぃ。
その耳元へ、荒巻は溜め息と共にそっと囁く。
- 34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:36:37.26 ID:v8067IJFO
/ ,' 3「さぁ、立つんじゃ。そして答えなさい、武喝道に関して君の知っている全てを」
不自然な揺れ。
ふらり、と。うな垂れていたでぃが唐突に立ち上がる。
色の消えた瞳、呆けたまま閉じることもしない唇、脱力し切った肩。
まるで何の感情も汲み取れない、その姿は不気味の一言。
(# ;;- )「は……い、答えます。知っていること、全て……」
抑揚も何もない、ただ垂れ流される棒読みの声。
荒巻はそれを聞くと、再びやんわりと微笑みを浮かべた。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:39:20.38 ID:v8067IJFO
* * *
( ゚∋゚)「HAAAAAAAA!! RUSH! RUSH! RUUUUUUSH!!」
熊のように大柄で肉質な身体。盛り上がった胸板は岩の如し。構える腕は丸太のよう。
紅のシャツにプロテクター。一歩踏み締める度にガリガリと、不協和音を立てるゴツいスパイク。
天を突く金色のモヒカンヘッドを揺らしながら、重装備の大男は弾丸突撃を繰り出してくる。
ミ,,゚Д゚彡 (デカい……、俺とタメをはるぐらいのタッパだ。しかし――)
地を揺らす突進。男はぐんぐんと加速してくる。
さっきまで曲がり角にいたというのに、もう彼は目と鼻の先にまで迫っていた。
体躯からは想像もつかない、驚異的な加速。
- 38 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:41:37.84 ID:v8067IJFO
ミ,,゚Д゚彡「俺より速いか! 『麺の結界』っ!!」
背負う寸胴鍋から湯切り網を抜き放つ。同時に超スピードで展開される、黄金色の軌跡たち。
弾け、巻き付き、空間を縦横無尽に覆う麺の束は、フサギコたちと男の前に壁を作る。
『凶星』ショボンの攻撃すらも、一度は止めた強力な防御技。
並みの者には突き破ることすら難しい。その上迂闊に近づけば、手足を容易に絡め取られ動きを拘束される。
例えその威力を知らぬと言えども、突然眼前へと障害物が現れれば足を止めないわけがない。
しかし、
( ゚∋゚)「――RUUUUUUUUUUUSH!!!」
臆せず突っ込んだ。
- 39 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:44:09.96 ID:v8067IJFO
-
直線的な動き――加えて、思いっきりパワーの込められたタックル。
凄まじい弾性と耐久力を持つ麺の結界の前で、彼は己の力の反動に吹き飛ばされるはずだった。
だが予想は覆される。
ぶちり。
ぶちぶちぶちぶちり。
ミ;,,゚Д゚彡「――なっ!?」
鈍い音を立て、金色の束が断裂した。
止まらない。
連続するその音は崩壊を意味している。
鉄壁にして、敵の攻撃を反射する絶対の防御――その敗北を。
( ゚∋゚)「ぬぅうううん!!」
突き抜けた。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:46:40.23 ID:v8067IJFO
ミ,,゚Д゚彡「ぬ、おおおおおおおおおお!!」
咄嗟に突き出す豪腕。
麺の結界を突破してきた大男の肩を突っ張り、なんとか踏ん張った。
その暴走機関車が如き規格外の剛力。体格とスピードを生かした強烈なブチかましだ。
衝撃に全身が震える。両者の足元で床がひび割れる。
パワーとパワーの真っ向からのぶつかり合い。
一瞬でも気を抜いた方が吹き飛ばされるであろう、僅差の闘いだ。
( ゚∋゚)「クックルを止めるか。……面白いぞ、Japanese」
野太い声のイントネーションは、どこか突飛。睨み込んでくる瞳は深いブルー。
フサギコも何となくだが、彼の日本人離れした力と体格に納得がいった。
- 43 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:49:14.28 ID:v8067IJFO
しかして気は緩められない。一度は止められたものの、そのクックルと名乗る異邦人は前進を止めない。
更なる力が両脚部に込もり、床のひび割れが拡大した。
徐々に、徐々にフサギコが押し負け始める。
ミ;,,゚Д゚彡「くぉ! 何て、馬力だ……この、鳥頭……!!」
( ゚∋゚)「ぬはああああああ! GO、GOGOGOGOGO――!!」
押して、押して、押し退ける。
強引にして豪快。クックルは我武者羅に、膠着状態を突破する気だった。
パワーなら互角なのかもしれない。だが、この状態からさらに加速するスタミナ。
それにおいては彼の方が上だ。
このままでは間違いなく、フサギコは吹き飛ばされる。
- 45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:51:37.11 ID:v8067IJFO
ノパ听)「フサ! そのまま押さえてろよ!」
均衡が今にも破れそうな、その時だ。
床に埋まるほど踏み込まれたフサギコの両足。
大股に開かれたそこから、紅のポニーテールを棚引かせてスライディングしてくる者あり。
『熱血喧嘩屋』、荒れ狂う暴風雨、素直ヒートだ。
( ゚∋゚)「――ぬっ!!」
ノパ听)「射程範囲に捉えた! 『熱血――……」
体勢は床に滑り込んだまま。
狙いはフサギコと組み合い、フリーとなったクックルの土手っ腹。
繰り出されるのは、吹き荒れる拳の嵐。
ノパ听)「天衣無縫ラッシュパンチ』ィィィッッ!!」
- 47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:54:24.28 ID:v8067IJFO
雄叫びと共に、肉弾の雨霰が吹き荒んだ。
打つ打つ打つ、打って打って打ちまくる。
( ゚∋゚)「ぬぶうううううううああああああああ!!」
分厚い腹筋にヒートの拳が突き刺さっては引き抜かれ、叩き砕いて打ちのめした。
ノパ听)「がああおおおおおおおおおおおおお――ッッ!!」
止まらない乱打、容赦無きラッシュ。
女の細い腕のどこに、そんな膂力が隠されているのか。
踏ん張られていたクックルの足が浮き上がる。巨体が打ち込まれる拳に押し上げられ、宙を舞った。
同時に、押し切られる寸前だったフサギコへの負荷も、また消える。
ノパ听)「今だっ!!」
- 49 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:57:08.96 ID:v8067IJFO
ミ,,゚Д゚彡「とどめぇぇええええ――!!」
ヒートの掛け声に呼応し、振り上げられる逞しい両腕。
ミ,,゚Д゚彡「『バーガー・ショット』ォォオオ――ッ!!」
叩き降ろされた。
( ∋ )「――んぶぅっ!!」
掌が挟み込むように、クックルの顔面を激しく打つ。
喰らった彼の視界を星が散った。顔の両側面――耳に繰り出された衝撃が、脳震盪を起こさせたのだ。
着地と共にふら付く巨体に、立ち上がるヒートが回転を付け――
- 50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 22:59:06.95 ID:v8067IJFO
ノパ听)「ピクルス抜き――でッ!!」
ダメ押しの回し蹴り。
胸板を寸分狂わず、スニーカーが撃ち抜く。
体勢が崩れた絶妙のタイミング。鋭い蹴りに貫かれるまま、クックルは反対側へと吹き飛ばされた。
ノパ听)「ラッシュのおかわりはご自由に、だぜ!」
ミ,,゚Д゚彡「残さず喰らいな、メリケン野郎!」
- 52 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:01:37.50 ID:v8067IJFO
* * *
(,,゚Д゚)「ゴラゴラゴラァアア――!! 覚悟しやがれ、ヒート軍団!」
緑の地に黒のストライプが入ったポロシャツ、使い込まれた白い半ズボン。
小柄だが中身の詰まった良い体格。日に焼けた肌と、ウルフカットの髪が爽やかな二枚目だ。
こちらもまたスパイクを踏み鳴らし、豪勢に三つのサッカーボールをドリブルしながら直進してくる。
川 ゚ -゚)「おやおや、今度の相手はサッカー部か?」
対するクーは冷静に、立ち向かう暴徒へと構えを向け、摺り足を次ぐ。
と、そこで違和感に眉根を潜める。脚周りの涼しさがどうも気がかりのようで。
チェックスカートの裾を摘み上げては、残念そうに溜め息をついた。
- 53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:04:06.91 ID:v8067IJFO
川 ゚ -゚)「ふむ、いかんな。やはりスカートだとヒラヒラして動きにくい。道着で補習を受ければ良かった」
(;'Aメ)「暢気なこと言ってんなよ、クー! 来るぞ!」
突っ込みを入れるドクオが、彼女の傍らに踏み出る。
その瞬間、ドリブルを続けていた男が構えを変えた。
器用にくるり、と。踵が三つのボールを順繰りに撒き込んでは叩く。
床に打ち付けられるボールが、ふわりと宙に舞い上がった。
(,,゚Д゚)「喰らえや、『連続ハットトリック』っ!!」
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:06:37.55 ID:v8067IJFO
飛び上がると共に、彼の脚がしなやかな鞭の如く唸る。
息もつかせぬ三連蹴。
三発とも、ほぼ同じタイミングのシュート。
風を切り、強烈なスピンとスピードでボールは迫る。
川 ゚ -゚)「あまり動きたくないな。よし、私が一発止めるから、ドクオは二発頼むぞ」
('Aメ)そ 「ちょ、マジかよ! 速いって、あれは!」
レーザービームのように一直線。ボールの軌道は真っ直ぐに、寸分の狂いもなくこちらに伸びてくる。
避けるのは容易いかもしれない。だが背後にはヒートとフサギコ、そしてハインにしぃがいる。
ましてやしぃは無関係の新聞部。巻き込むわけにもいかない。
- 56 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:09:21.53 ID:v8067IJFO
从 ゚∀从「だったらよー」
当惑するドクオを押し退け、いきなり前衛に立つハインは構えた。いつも戦いは人任せの彼女には珍しいことだ。
その手に握られるのはスリングショットと、黒い球――爆薬。
引き絞られるその照準は、前に。
从 ゚∀从「俺が三発とも吹き飛ばすってのはどうだい?」
そして、射出。
(,,゚Д゚)「――むっ!」
ゴムはしなり、弾ける。
放たれる漆黒の彗星は一つのサッカーボールへと接近、そして迎撃した。
衝突と共に爆裂。耳を劈く轟音と共に、爆煙が視界を覆い尽くす。
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:11:11.31 ID:v8067IJFO
しかし、むせ返る熱気を肌で感じる暇もない。
分厚い煙の壁を突き抜けて、二つのボールは雷鳴のように空を翔ける。
ハインの癇癪玉が吹き飛ばせたのは、どうやら一発だけらしい。
これだけの威力の爆風の前でも、スピードも勢いも衰えないロングシュート。
決して、並大抵の者が放てる技ではないだろう。
从 ゚∀从「っと、おいおい一発だけか? ちと見誤ったな」
川 ゚ -゚)「いや、充分だ。助かるよ」
('Aメ)「公平に一人一発――か」
大地を揺らす踏み込みの音。JET竹刀の鍔が鳴る音。
二つが重なり――響き合う。
- 59 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:13:38.78 ID:v8067IJFO
川 ゚ -゚)「『明王流し』!」
クーの振るう、鎌のように返した右手首。
吸い込まれるように突っ込むボールは絡め取られ、引き寄せられる。
突き抜ける直線運動を飲み込んでいた。巻き込まれるまま、舞うように次がれる足裁きはボールの回転を喰らう。
床に叩き付けられ時点で、既に不動。回転は死んでいた。
('Aメ)「鬱圓明流! 『JET・竜胆(りんどう)』っ!!」
片や打たれる神速の居合。
圧縮空気に後押しされる、目にも止まらぬ抜刀術。
力に対し真っ向から力で立ち向かう。愚直だが付け入る隙は無い。
それだけ彼の居合は強力で、シュートの威力を真向に受けても対応できた。
横一文字の軌跡はボールを薙ぎ、窓ガラスの向こうへと吹き飛ばす。
- 61 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:16:12.10 ID:v8067IJFO
川 ゚ -゚)「ドクオ! 打ち返してやれ!」
そして垂直に振り下ろされる、クーの掌。
動きの死んでいたサッカーボールに再び衝撃が打ち込まれ、息を吹き返す。
魂を吹き込まれたかのように、力強く弾けた黒と白の斑模様。
反動に浮き上がるそれはドクオの眼の前へ。
('Aメ)「――鬱圓明流・外法、『JET・鳳仙花』ぁあああ!!」
再び打たれる居合。
爆風を鞘から吹き上げ、象牙色の切っ先は球を強かに打つ。
固く丈夫なサッカーボールの表皮。その形状が拉げた瓜のようにひん曲がった。
刀身のめり込むまま、一瞬の静止さえ起きる。左手を柄へと添え、渾身の力を込めてドクオはJET竹刀を振り抜いた。
- 63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:18:45.28 ID:v8067IJFO
それは居合の構えというよりも、野球のフルスィングに近い。
(#'Aメ)「喰らえええええええ――っ!」
カッ飛ばす。
空気の層をブチ抜きブチ抜き、一直線に持ち主の元へと飛んでいくボールはさながら大砲。
JET竹刀の高速居合を打ち込まれたのだ。威力は折り紙付きの重砲撃。
(,,゚Д゚)「…………」
ゆらり、と。
男も姿勢を低く構え、左足を深く背後へと引き寄せる。
このままボールを迎撃する気だ。避けよう、防ごうなんて気概は一切感じられない真っ向からの対抗心。
だが、ボールを撃ち落とすのは彼の蹴りではなかったらしい。
- 65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:21:11.08 ID:v8067IJFO
――爆裂する。
(;'Aメ)「うぉっ!」
耳障りな破裂音。
特大の風船を針で突いても、こんな音が出るかどうか。
空中で無残に弾け飛んだサッカーボールの残骸。ひらりひらりと宙を舞う皮革。
その一片を射抜いている――ボールを破壊した原因は二本の矢だ。
木製とカーボン製。それぞれ材質の違う二種類の矢が、寸分狂わずボールの中心部を貫いている。
( ´,_ゝ`)「プッ、見ろよ弟者。ギコの奴、自分のボールを打ち返されてやがる」
(´<_` )「やめとけ、兄者。あいつはただでさえ勝負の邪魔をされると荒れるんだ。茶化すと後が怖い」
- 67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:23:54.73 ID:v8067IJFO
まるで鏡合わせ。
髪形から体格、制服の着こなしから表情まで全てがそっくりそのままの二人組。恐らく双子なのだろう
唯一の違いと言えば、それぞれの持つ武器のみ。
兄者と呼ばれた男が持つのは、シンプルな木製の和弓。細身の形状だが、長さだけならかなりの大きさだ。
弟者と呼ばれた者が携えるのは、あちこち部品で装飾されたアーチェリーの弓。割と小振りなサイズの、コンパウンドと言われる種類。
同じ弓とはいえ、全く対照的な二つの装備を構える二人。いつの間に現れたのか、粉塵の中で彼らはニヤリとほくそ笑む。
片や戦いに水を刺された男――ギコは、振り返ると恐ろしい剣幕で彼らに食ってかかった。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:26:37.93 ID:v8067IJFO
(#,,゚Д゚)「ゴラァ! てめぇら邪魔しやがって、舐めたことしてんじゃねえ!」
( ´_ゝ`)「おいおい、せっかく助けてやろうしたのに……。年上を敬えってんだ、二年坊」
(´<_` )「確かに酷いな。邪魔したのは確かだが、あくまで善意からの行いをここまで突っ撥ねられるとは」
(#,,゚Д゚)「んだとぉ……?!」
どうにもよろしくない雰囲気だ。傍目でも険悪な空気が容易に見える。
( ´∀`)「モナモナモナ。まぁ双方言い分はあれど、結局やることに変わりはないモナ。
ギコがクックルと先行し、挟撃を仕掛けてくれたおかげで奴らを包囲出来たモナ。素直に感謝するモナよ」
- 70 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:29:14.11 ID:v8067IJFO
ドス黒い雰囲気を一蹴。
随分とマイペースな喋りで、背後から三人のいがみ合いの場に踏み込むのは柔道着の男。
背丈はそこそこ、幅はやや太り気味か。むっちりとした体躯に、スポーツ刈りの頭。
顔に浮かべるのは笑顔なのか、ただ単に目が細いだけなのか。
(´<_` )「モナーの言う通りだ。確かにこれで――」
( ´_ゝ`)「ふん、ヒート軍団は逃げ場無しってね」
八つの瞳が一斉に、ドクオ達へと向けられた。そこにあるのは、ただ明確な敵意のみ。
- 72 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:31:36.69 ID:v8067IJFO
* * *
川 ゚ -゚)「まずいな……新手か。ヒート、フサギコ、そっちはどうなっている?」
スカートの裾をばしりと正し、固く構えるクーは背後へと声を投げかける。
返って来るのは、どうにも悪い状況の報告だけらしい。
ノハ;゚听)「くっそ! 何だあのトリ野郎は? クー姉ぇ、こっちもダメだ。囲まれている!」
ミ,,゚Д゚彡「それに、こっちも新しいお客が追加だ」
苦々しい、二人の声。
( ゚∋゚)「ぬふぅ……、効いたっ。久々だ、これほどのRUSHは」
その原因の一翼を担うのはこの男だ。
- 73 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:34:13.40 ID:v8067IJFO
確かにメッタ打ちにしたのに。ヒート、そしてフサギコが持てる限りの力で吹き飛ばしたはずなのに。
むくりと身を起こす彼は眼を回してすらいない。昏倒必須のラッシュを受けて、尚健在。
太い首が回される度に豪快な音が響く。
ばきりばきり、ばきり。
硬い、そしてタフな男だ。恰好から判断するにアメフトプレーヤーなのか。
その不屈の闘志と肉体はお墨付きというわけだ。
そしてもう一つ。
ヒートたちを容易に追撃へと向かわせない、抑止力の存在がある。
- 74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:36:35.72 ID:v8067IJFO
( ゚д゚ )「クックル、大事ないか?」
背後から現れたのは援軍だ。
床でうずくまっていたクックルに声をかける者。
すっぱりと剃りあげられたスキンヘッドが眩しく、表情は彫刻のように険しく影を落とす。
細身だが絞り上げられた肉体に、制服をぴっちり着こなしている青年。
異様なのはその得物だ。
長さ二メートル。垂直に床へ立て、傍らに携えるそれは十字鎌槍。
天井をかすりそうなスケールだ。練習用の槍らしく、先は丸くなっているらしいが決して馬鹿に出来ない。
重硬で強靭な赤樫製。突かれればひとたまりもないのは、拝んでいるだけで想像ができる。
- 75 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:38:58.47 ID:v8067IJFO
彼に手を借り立ち上がるクックル。息は荒い。しかし疲労しているわけでもなさそうだ。
その証拠と言わんばかり。彼の彫りの深い顔に、歯を剥き出した凶暴な笑みが炸裂する。
( ゚∋゚)「HAHAHAHAHA――ッ!! YES! 気にするな、ミルナ。クックルは楽しいぞ!」
( ゚д゚ )「元気そうで何よりだ。しかし無茶は控えろ」
淡々とそう述べる、ミルナ。その名前に、敏感に反応するヒート。
ノパ听)「ミルナ……おい、何か聞いたことあるぞ」
独り言が自然に洩れ始めている。いつの間にやら血が滾っていた。
- 76 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:41:37.44 ID:v8067IJFO
ノパ听)「確か……二年A組槍術部部長の――」
ミ;,,゚Д゚彡そ 「おいっ! 迂闊に近づくな!」
フサギコが止めるのも遅かった。
ふらりふらりと前に出て行くヒートは制止も振り切り、次の瞬間には猛獣のように駆け出す。
固く握った拳を振りかぶる、彼女の姿がミルナの無機質な瞳に映り込んだ。
沸々と煮えたぎる闘争本能が抑えられない。ヒートの心臓は歓喜に踊り狂う。
ノパ听)「――てめえええ!! 『壱の槍』、ミルナだなあああっ!!」
( ゚д゚ )「――――っ」
剛拳が唸る。
- 77 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:44:10.07 ID:v8067IJFO
ミルナの顔面を寸分狂わず叩き砕き、明後日の彼方にまで吹き飛ばすはずの殴打。
それは見事なまでにあっさりと、空振る。
ノハ;゚听)そ 「う、おぉっ!?」
彼は僅かに首を反らしたのみ。
必要最低限の動きで、最大限に彼女の先制攻撃を無に帰す。
( ゚д゚ )「お前の噂は耳に挟んでいるぞ、『熱血喧嘩屋』」
その長大過ぎるリーチを、全く歯牙にもかけずに。
携えていた十字鎌槍をコンパクトに振り回し、ヒートの腹へと叩きつける。
リーチがある故の、加速としなり。パンチが外れたことへの動揺も含め、油断していた彼女には十分な威力だ。
- 79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:46:46.19 ID:v8067IJFO
ノハ )「う、どぉおあっ!?」
文字通り、薙ぎ払われる。
ミ;,,゚Д゚彡「ヒート!!」
吹っ飛ばされ放物線を描く彼女を、飛び込むフサギコがファインセーブ。
ノハ;-听)「げほっ、げほっ、糞……速ぇ……!」
ミ;,,゚Д゚彡「馬鹿野郎、何の考えも無しに突っ込むからだ!」
('Aメ)「おい! 大丈夫か!?」
ドクオ達も駆け寄ってきた。本格的に囲まれている。
このままでは逃走は不可能、しかして真っ向から戦った所で果たして勝負になるのか。
六対五。数の上では、まず不利な戦い。
- 80 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:49:24.44 ID:v8067IJFO
从;゚∀从「くそ……マズッた! 祝勝会なんて浮かれちまって……最初から学校に来るべきじゃなかった!」
いつもは平静、冷徹なハインも焦っている。
この絶望的な状況で、さすがの彼女にも起死回生の一手は思いつかないのだろうか。
皆が戦々恐々と、新打ち六名を眺め回す最中。
隅で小さくなっていたしぃが声を上げた。
(;゚ー゚)「あの、こう言っちゃなんだけど説明の手間が省けたかな? さっきの、チームの話とか」
从;゚∀从「どーいうことだ、さっさと言え!」
(;゚ー゚)「も、もぅ怖い娘なんだから。勘弁してよ、私も被害者なのに……」
从#゚∀从「くぉら! 早くしろってんだ!」
- 82 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:52:07.80 ID:v8067IJFO
罵声に不満げな表情を浮かべながらも、こんこんと咳払い。
(;゚ー゚)「居ないのよ! 他のチームは! 正確にはいくつか『いた』んだけど、もうすっきり全滅させられたの!」
声を裏返しながらも、しぃは説明を続ける。
(;゚ー゚)「誰でもない、その犯人はあるチーム。とんでもないスピードだったのよ。記事にする暇もないくらいの!
今を時めくあなたたちの快進撃の裏では、着々と彼らが勝利の基盤を築いていたってこと! そのメンバーは――……」
( ゚∋゚)
(;゚ー゚)「三年B組、外国人留学生にしてアメフト部部長! 『キャノン・ボール』、クックル・ドゥドゥドゥ! バッチは八個!」
( ´_ゝ`)(´<_` )
(;゚ー゚)「共に三年D組、そしてそれぞれが和弓・洋弓部部長! 『双死双翼』の流石兄弟! バッチは二人で六個!」
- 84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:54:37.99 ID:v8067IJFO
( ´∀`)
(;゚ー゚)「二年B組、柔道部部長! 『考える柔術家』、モナー! バッチは四個!」
(,,゚Д゚)
(*゚ー゚)「はにゃーん♪ 二年D組、サッカー部部長! そしてマイダーリン♪ 『鎌鼬(かまいたち)』のギコ君! バッチは四個!」
(;,,゚Д゚)「ゴルァア! しぃ、そのだーりんとかいう呼び方はやめろ!」
( ゚д゚ )
(;゚ー゚)「そ、それで二年A組、槍術部部長! 『壱の槍』、ミルナ! 彼は『凶星』に次ぐランカーよ、バッチは十三個!」
- 87 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:57:07.95 ID:v8067IJFO
息を呑む面々。
(;'Aメ)「じゅ、十三って……マジか。ショボンと一個違うだけじゃねーか!」
从;゚∀从そ 「ちょっと待て! なら何だ、こいつらは全員チームで、そのバッチ総数は――」
(;゚ー゚)「三十五個。個人の成績になるのなら、まず間違いなくトップよ。あなた達では遠く及ばないわ」
ミ;,,゚Д゚彡「まさに運動部のオールスターか……。なるほど、強いわけだ」
ノハ;゚听)「…………っ」
川 ゚ -゚)「――まさに、『恐れていた事態』だな。ハイン」
そう、もっとも起きてはならない事態。
確かにヒート軍団は『凶星』ショボン――バッチ保持数一位の男を見事倒した。それは確かな戦績だ。
しかし、保持数二位以降の人間たちがどう動いているか。
ハインが見落としていたのはその点だ。
从;-∀从「――チィッ! くそが!」
- 89 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/14(日) 23:59:35.65 ID:v8067IJFO
( )「いいや、それは違うな」
もはや絶体絶命。その時、彼方より声が反響してくる。
廊下の床に靴音をかつんかつんと高く響かせ、誰かが近づいてきているのだ。
( )「バッチ総数は、僕の囲碁将棋部のを合わせて三十六個。それが正しい戦績だ」
にじり寄り、包囲を狭めていたクックルとミルナがその存在に気付き、道を空ける。
( )「『凶星』ショボン――彼は哀れな男だったな。強すぎるが故の暴走、そして破滅だ。しかし僕たちは違う」
- 92 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/15(月) 00:02:06.67 ID:UaZgHo+HO
そこから現れた、異様なオーラを放つ人物。
( )「彼が一つの強大な恒星だとするならば、僕らは七人でそれを凌駕する」
背丈はそんなに高くはない。厚い唇に、小さめの目。あまり良い見栄えとは言い難い面構え。
身震いするしぃは絞り出すような声で囁く。
(;゚ー゚)「そう、そうだったわ。そして最後の一人、一年D組の囲碁将棋部部長にしてチームリーダー。
毎年全国各地で行われる、アマの囲碁・将棋・チェスの大会を総なめにするボードゲームの貴公子!」
( )「そして付いたあだ名が『絶対王者』。なるほど、覇者たる僕に相応しい二つ名だ」
- 93 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/15(月) 00:04:40.18 ID:UaZgHo+HO
卑しく微笑む男は、背負う真紅のマントを棚引かせた。
(’e’)「初めましてだ、ヒート軍団。僕の名はセントジョーンズ。そして彼らは、僕に付き従う反逆の同志たち――」
――『七星連合(ビックディッパー)』
(’e’)「覚えておきたまえ。この戦いの王たるべき者たちの名だ」
不愉快な笑いを張り付け、彼は己らをそう名乗った。
- 94 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/06/15(月) 00:06:09.84 ID:UaZgHo+HO
第十七話・終
戻る 次へ