- 2 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 21:53:53.24 ID:RBFTQRxu0
渦巻くのは、ただ濃厚な憎悪。
闇と溶け合うことさえも拒むそれは、ギコの全身を蛇のように取り巻く。
(#,,゚Д゚)「お前は……どうして、ここに! どうして……!」
うわ言のように繰り返す。
ギコはもうフサギコを見てはいない。傍らで、二人の対立を見返す彼を見てはいない。
目に映るのは、モララーの気だるげな立ち姿のみ。
どこか悲しげで、どこか哀れむような少年の姿を。
(#,,゚Д゚)「俺の前にもう一度現れることの意味――分かっているのか?」
( ・∀・)「もちろんだよ。その意味とやらはずっと――」
グッと、その言葉を噛みしめるように。
- 4 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 21:56:54.93 ID:RBFTQRxu0
( -∀-)「俺の胸の中にある。だが、もう腐り始めているかもしれないがね」
( ・∀・)「やるなら、今しかないのさ」
(#,,゚Д゚)「――――っ」
加速してゆく両者のボルテージ。
ミ,,゚Д゚彡「…………」
そんな中で、フサギコはただ見つめることしかできなかった。
睨み合う二匹の狂犬。彼らの、呼吸すら憚ってしまうほどの対立に魅せられる。
足に根が張ってしまったかのようだ。
( ・∀・)「行きなよ、デカい人」
- 5 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 21:59:20.78 ID:RBFTQRxu0
モララーの一言。
むせ返るような闘気の満ちるこの場で、何とも涼やかな声色。
フサギコは額に伝う嫌な汗を拭い、答える。
ミ;,,゚Д゚彡「……何が目的だ?」
( ・∀・)「言ったろう。俺の目当ては君じゃなくてあいつさ。ここはもう君の戦場じゃない」
ミ,,゚Д゚彡「だからと言って貴様を信用するわけには……!」
( ・∀・)「助けたい人がいるんじゃないのかい?」
背中越しの語りかけ。
それでいて全てを見透かしているかのような。
- 6 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:00:42.23 ID:RBFTQRxu0
フサギコにとって今一番大切なのは、ここを突破することだ。
忘れてはいけない。戦いが目的ではないのだ。護ることが、第一に為すべきこと。
そのためには、例え信用できなくともその要素を利用しなければ。
全員が生き残るために。たった一人も欠けない為に。
全てはそこに帰結する。
ミ,,-Д-彡「――礼は言わんぞ!」
( ・∀・)「こちらも遠慮するよ」
思い立ったら行動は速かった。駆け出す。
振るう武器、調理器具たちを背に収める。がしゃがしゃと賑やかに音を立てながら、彼は大股に突っ切った。
ギコの傍を横ぎる瞬間、もしや襲われるかもと一瞬身構えたがそれもいらぬ心配。
モララーの目的が彼であるように、彼が臨む現在の敵はモララーなのだ。
- 8 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:03:44.18 ID:RBFTQRxu0
ミ,,゚Д゚彡 (凄まじい。身震いするほどの――)
憎しみ。
フサギコはそれを背に、加速する。
一体、あの二人の間にどれほどの因縁があるのか。何が、ギコをそこまでの憎悪へと駆り立てるのか。
今は考えるべきことではない。
目指すは西校舎。危機に瀕するハインの元だ。
そして訪れる静寂。
( ・∀・)「これでようやく……」
(,,゚Д゚)「あぁ、始められるな」
- 9 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:06:14.95 ID:RBFTQRxu0
本当の意味で二人っきりとなった渡り廊下。
ゆっくりと歩を進めるのはモララーだ。
静かに、静かに足音が木霊する。まるで何かの秒読みにように。
ひとつ、ふたつ、みっつ。
( ・∀・)「ギコ、お前は俺の心だ。過去に残してきた、俺の良心なんだ」
よっつ、いつつ、むっつ。
( ・∀・)「それでも、俺はもう一度捨てなくちゃあならない。心を――お前をだ。
今の立場は相当ヤバくてね。勝手をやってる俺に、そろそろ疑いの目が掛けられている」
ななつ、やっつ、ここのつ。
( ・∀・)「証明しなくちゃならない。非情であることを、『人でなし』であることをな」
最後の一歩。
- 11 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:09:35.47 ID:RBFTQRxu0
(,,゚Д゚)「…………」
それは必殺の間合い。
手を伸ばせば触れられる、脚を放てば切り裂ける。
互いの息もかかる距離、二人は視線をぶつけ合った。
(,,゚Д゚)「モララー、お前は変わったのか? 変わらないのか?」
( ・∀・)「俺は変わらないよ」
(,,゚Д゚)「『人でなし』でいることが、お前の選択なのか?」
( -∀-)「……そうさ」
(,,゚Д゚)「……なら、安心した」
ギコはゆっくりと右足を下げる。
上方、側頭部付近への蹴り――ハイキックを狙う溜めだ。
動きはスローだったが、既に構えは整っていた。ギコがその気になればすぐにでも放つことができる。
- 13 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:12:37.70 ID:RBFTQRxu0
大気を切り裂く瞬速の蹴撃が、だ。
(,,゚Д゚)「これで何の遠慮もなく、お前を切り刻むことが出来る」
( ・∀・)「結構なことだ」
(,,゚Д゚)「余裕を吐けるのは今の内だぞ、クソ――」
(#,,゚Д゚)「野郎ぉぅうううう!!」
炸裂。
至近距離。
絶対必殺の距離。
鉄を断ち、空を薙ぎ、肉を切り裂く斬撃脚は放たれる。
- 14 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:17:14.92 ID:RBFTQRxu0
避けれるはずがない。防げるはずがない。
そもそも生身でギコの蹴りを受ければ、あえなく斬り飛ばされるのがオチだった。
風を切り、閃光と化したハイキックはモララーの側頭部に噛み付こうとする。
それでも、
( ・∀・)「――しゃぉっ!!」
絡み合った。
(;,,゚Д゚)そ「ぐっ!?」
互いに打ち込んだ上段蹴りが、頭上でぶつかる。
渇いた音と大気を揺るがす衝撃が、夜の空気へと響き渡った。
ギコの脛に走る、鈍い痛み。
- 16 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:20:11.33 ID:RBFTQRxu0
まさに同等の力。間違いなく、相殺。
( ・∀・)「馬鹿な――って思うかい?」
(;,,゚Д゚)「何を!」
本音はそうだった。
ギコは手を抜いていない。
寸分狂わず、本気の蹴りを叩き込んだ。
構えも取っていないモララーには、決して防御の間に合わない速度。
間合いに踏み込んでいながら、与太話に夢中となっていたモララー。
彼がノックアウトされるのは当然の結果だったはず。
それでも、受け止められた。
- 17 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:23:06.80 ID:RBFTQRxu0
全く同じ脚力と、スピードと、狙いで。
それは脅威に値する実力を示すと共に、ギコを嘲笑うかの如き行為。
(,, Д ) (こんな、こんなことが。部を辞めたお前に、現役の俺が拮抗されるなんて!)
唇を噛む。血が滲む。それも全て瑣末なこと。
この屈辱に比べれば。この怒りに比べれば。
ギコは決着を着けなければならなかった。
過去に置き去りにしてきたもの。もう二度と目にすることもないと思ったこと。
それが自分からやってきた。自分の理由でやってきた。こちらの気持ちには目もくれずに。
堪らなく憎い者が、限りなく強い者が、帰って来た。
全てを置き去りにしてきたのは、ギコの優しさだったのに。
- 18 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:25:33.99 ID:RBFTQRxu0
(#,,゚Д゚)「お前はまた俺の気持ちを裏切るのか!!」
( ・∀・)「……ギコ」
(#,,゚Д゚)「着けてやる、決着を! 俺を、俺たちを裏切ったお前に思い知らせてやる!!」
なるほど。それならば全て終わらせてやろう。
この苦しみも痛みも全て。
(#,,゚Д゚)「モララあああああああああああああああ!!!」
それが、ギコの血を吐くような思いだった。
- 20 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:27:33.58 ID:RBFTQRxu0
ノパ听)と('A`)は部活動に勤しむようです
第二十一話『漢たち 後編』
- 21 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:30:11.87 ID:RBFTQRxu0
* * *
( A )「ぐぁあっ!?」
反動に、ドクオの身体が吹っ飛ぶ。
横薙ぎに弾かれるまま、壊れた窓の冊子へと激突。危機一髪だった。
直接窓ガラスに衝突していれば、そのまま突き破って階下へと落下していただろう。
ガラスの破片を撒き散らしながら、床に叩き付けられる。
(;'Aメ)「う……ぐ!」
窓にぶつかった方とは逆の肩――右のそれに、焼き鏝を押し付けられたかのような痛み。
見れば矢が突き刺さっていた。深く抉り込む、それは竹の矢。
弟者の物ではない。
- 24 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:32:39.37 ID:RBFTQRxu0
(´<_` ;)「お、おいおい……」
驚くのはドクオばかりではない。弟者も、その光景に開いた口が塞がらなかった。
今まさに、ドクオの居合と己の射撃が交差したはずだった。事実から言えば、弟者はやられていただろう。
しかし居合は外れた。横合いからドクオを打ち抜いた、その矢のお陰で剣の軌道が変わったのだ。
弟者は救われた。
突然の介入者。
それが誰なのか、言わずとも推して知れる。
( ´_ゝ`)b+「じゃじゃ〜ん! 兄者見参〜!」
三階への階段から現れる、『双死双翼』の片割れ、鷹の目の持ち主、脅威たる狙撃手。
そして、この戦場の空気に全くそぐわないノリの男。
流石兄者であった。
- 26 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:35:26.00 ID:RBFTQRxu0
(´<_` #)「よし! 馬鹿だな? 兄者はやっぱり馬鹿だったんだな!?」
途端、激昂し大声を上げる弟者。
(; ´_ゝ`)「え、え、何で? 今、俺って弟者を助けたよね? 何でそれが怒られなきゃなんないの?」
(´<_` #)「当たり前だ! 俺がどういう意図をもって鬱田ドクオと単騎でやり合ってたと思ってる!?」
( ´_ゝ`)「えーっと……勢い?」
(´<_` #)「あんたを護るためだよ、馬鹿!!」
怒るのも当然だろう。
本来、『双死双翼』としてコンビで闘う弟者が、敢えて単独でドクオに挑んだのは兄者を守護するため。
最悪の場合は、兄者が一旦この場を逃げるための時間稼ぎにだ。
弟者は出来るだけ手傷をドクオに負わせ、食い止める。倒せれば尚いいが、ドクオはそれほど柔な相手じゃなかった。
- 28 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:38:10.97 ID:RBFTQRxu0
故に、出会い頭と打って変わり、弟者は相討ち覚悟で戦っている。
兄者の身を守れれば、自信のリタイアは損害にならないと。
(´<_` #)「どうするんだ! これであんたがやられればセントジョーンズの作戦がふいになる!
せっかく俺たちが分断したってのに、奴らを自由にさせちまうじゃないか! 分かってるのかよ兄者!!」
( ´_ゝ`)「まーまー、落ち着けよ弟者。見方によっちゃ二対一だ。有利だぜ?」
(´<_` ;)「そういうことじゃなくてだなぁ……!」
喰ってかかる弟者も何のその、兄者は飄々と流し続ける。
( ´_ゝ`)「聞けよ弟者。俺だってな、正直言うと逃げたい。お前がボコボコにされてるの見りゃあ、尚更な」
(´<_` )「なら――」
- 29 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:40:38.50 ID:RBFTQRxu0
( ´_ゝ`)「でもそれ以上にだ。やられそうなお前を置いて逃げる――んなこたぁは出来ない」
(´<_` )そ「……兄者っ」
『七星連合(ビッグディッパー)』の一員である前に、武喝道の参加者である前に。
一人の兄として。
( ´_ゝ`)「こんなんでも、一応お前の兄貴だからな。少しはそれらしく、カッコつけたっていいだろ?」
(´<_` )「…………」
正直、弟者は下らない理由だと思う。
多少の犠牲や被害は許容するべきだ。セントジョーンズは完璧主義に拘るが、実際は違う。
戦いは今この場で起きている。遠くで作戦を練っているセントジョーンズが、敵と直接戦っているわけではない。
- 31 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:43:05.63 ID:RBFTQRxu0
判断は現場が下すもの。
そもそも、クックルが突破されていること自体がアクシデントなのだ。
状況は一定ではない。柔軟で素早い判断が鍵を握る。
( <_ ) (いや、それなら俺の考え方も堅苦しいものだったのか)
『双死双翼』は二人で一つ。二人でこそ真価を発揮する。
それが一人で闘って、全力を出せるわけがない。
(´<_` )「負けたよ、兄者」
( ´_ゝ`)「馬鹿言うなよ。今から勝つんだ、俺たちがな」
何より兄者が傍らにいること。
戦場において、その安心は例えようのないものだった。
観念し立ち上がる弟者と、笑みを浮かべる兄者。
- 32 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:45:55.71 ID:RBFTQRxu0
( ´_ゝ`)「さぁ、役者は揃った。あとはお前だぜ、鬱田ドクオ」
ゆったりと弓を構え、矢を番える。
弟者のと比べれば遥かに遅い。至って普通の番え方。
しかし、スローであるが故に底知れぬプレッシャーがある。息を呑む威圧感がある。
やがてそれは、鋭い先端を蹲るドクオへと定めた。
(;'Aメ)「ぐ……くそっ」
当のドクオは気が気ではない。
矢が突き立った右の肩は、激しい痛みを訴え続けている。
二の腕を伝う血の温かさと、気持ちの悪さがしっかりと感じ取れる。
苦しい。痛い。辛くて逃げ出したい。
出来ることなら床に丸くなったまま、じっと痛みを耐えていたかった。
- 34 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:49:10.87 ID:RBFTQRxu0
(#'Aメ)「うぐぅうう、くそ、おおおお!」
負傷した右腕では満足に剣すら振れないかもしれない。
それでも立ち止まっていられないのだ。
自分一人が、情けなく倒れている暇などはなかった。
( A ) (こんな負傷、クーのものに比べれば!)
彼は地に足を着き、矢に手をかける。
歯を砕けそうなほどに食い縛り、激痛の原因を抜き放った。
( ´_ゝ`)「おぉう、こいつぁー」
(´<_` )「いい肝っ玉してるよ」
舌を巻く流石兄弟を前に、ドクオは矢を思いっきり投げ捨てた。
噴き出る血を抑える。だが止まらない。そんな事は彼も分かっている。
- 36 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:51:34.06 ID:RBFTQRxu0
(;'Aメ)「来いよ……二人まとめて……!」
標的が、のこのこと目の前にやって来てくれた。
だが逆に奇襲を受けてしまったなど、これまた間抜けな話だ。
チャンスは今――流石兄弟を潰し、戦場を開放するのはこの瞬間しかない。
膨れ上がってゆく、闘志。
(;'Aメ)「追いかける手間が省けた。ここからが、俺の……」
竹刀を取り落とさぬように、もう一度強く握り直す。
指先が鬱血するほどに強く強く握り締め、迷いと痛みを断ち切るように空を薙ぐ。
(#'Aメ)「俺の本当の闘いだ!! 乗り越えさせてもらうぞ、流石兄弟ッ!!」
極限化する戦闘。
それでもドクオには、負ける予感は微塵も存在しなかった。
- 37 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:54:04.67 ID:RBFTQRxu0
* * *
( ´_ゝ`)「弟者! 目一杯浴びせかけろ! 奴を近づけさせるな!!」
(´<_` ;)「もうやっている!!」
ドクオが踊り場へと上昇してくる前に、兄者は弟者へと指示を飛ばす。
それでいて彼も、あらかじめ知っていたかのように洋弓を構えていた。番える速度は高速、弦の音は高々と。
横っ腹から、弟者の掃射がドクオを襲った。
('Aメ)「りぃいいやああああ――――っ!!」
油断はない。
『新世界(ニュー・ワールド)』を駆使し、迫り来る矢の雨をかわし、弾く。
だが手負いの身には辛い猛攻だ。受け止めるより避けた方が得策であろう。
- 40 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:56:34.22 ID:RBFTQRxu0
(;'Aメ) (だが避け続ければっ……!)
退くしかない。
考えるよりも先に足が動く。
地を走る稲光は彼らから距離を取っていた。ドクオはそれに従わざるを得ない。
足を継ぎ、かわし、下がる。廊下の奥へと。
('Aメ) (くそ! もう少しで間合いに捉えれたのに!)
迫る銀の雨を頬で、肩で、足元で掠めながら後退していく。
かなり弟者との距離が開いてしまった。危険を承知で踊り場へと踏み込むべきだったのか。
いや、それでは左腕まで破壊されていただろう。
( ´_ゝ`)「グッドだ。充分に間合いが取れたな。弟者、手を緩めるなよ」
(´<_` )「だが兄者、こいつには飛び道具が効かない! 厄介な技を持っている!」
- 41 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 22:59:06.09 ID:RBFTQRxu0
絶え間なく連射を続ける弟者は、背後の兄者へ訴える。
確かに、彼らにとってドクオは厄介だ。最悪の相性なのは、むしろ流石兄弟。
『新世界』に飛び道具は効かない。
( ´_ゝ`)「理解している」
だが兄者は一切の焦りを見せない。
掃射を続ける弟者を包み込むように、弓を構える姿は雄々しい。
( ´_ゝ`)「だが、鬱田ドクオの『能力』には穴があると見た」
(´<_` )「穴?」
( ´_ゝ`)「撃ち続けろ、弟者! 間隙を縫って俺も射る。鬱田ドクオは――」
涼やかな立ち姿。
静かな挙動に引き絞られる、鋭く細い弦がきりきりと唸りを上げた。
狙い澄ますは一点、ドクオの身体の正中線上。
- 44 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:01:35.29 ID:RBFTQRxu0
( ´_ゝ`)「三発以内に仕留めてみせるッ!」
かんっ、と弾けた。
一陣の疾風が、闇の中を駆け抜ける。
('Aメ)「――――!!」
乱れる。
ドクオの呼吸が、感覚が、リズムがかき乱される。
ある一定の間合いと力と数で叩き込まれ続けた、弟者の連射。
その嵐のような矢の群れの中で、しかして異様な気配が一つ。
勢いも、音も違う。異質な存在が向かってくる。
速度も段違いだ。
- 45 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:04:07.51 ID:RBFTQRxu0
(;'Aメ)「何だ……これは!!」
気が付いた時にはもう遅い。
足元を覆う光の道標――それは大いに乱れる。
普段のように明確なルートを示してはくれない。不規則に折れ、回り、重なり、揺れる。
ドクオの動揺を表すかのように暴れ出していた。
そのせいで、回避可能だった弟者の矢の軌道さえ、今は危うい。
避け切れず、仕方なしに竹刀を振るった。
刀身が矢を弾く度に、肩の傷口に鋭い痛みが連続する。
(;'Aメ) (マズい! 速度が違いすぎる――)
一本の、竹の矢。
瞬く間に、それはドクオを貫かんとした。
- 47 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:06:34.86 ID:RBFTQRxu0
(;'Aメ)「ぬぅあああありゃあああああ!!」
避けれない。受け止めるしかない。
しかし、正眼の構えへと叩き込まれた初撃。それは今までに比類ないほどの重さ。
こんな細い矢の一本に、どれだけの力が込められているというのか。
('Aメ) (威力を殺し切れない?!)
踏ん張った足が宙に浮く。
肩の傷口から盛大に血が噴き散る。
吹き飛ばされた。
( A )「があぁあああああっ?!」
- 48 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:09:41.39 ID:RBFTQRxu0
ハンマーで叩かれたかのような重み。
ドクオの痩せぎすな身体が宙を舞い、地に落ち、滑り、何度も何度も叩き付けられる。
あまりの衝撃は、脳内をシェイクするかのよう。
這いつくばる彼の視界は、出血とダメージで歪んでいた。
(;'Aメ)「げほっ! げほっ、くそ! なんて重さ……だ!」
弟者の射撃とはまるで威力が違う。
まともに受けてはいられない。容易く吹き飛ばされる。
ドクオがいくら痩せた体躯とはいえ、矢の一本で人を数メートルも弾き飛ばすなど。
ありえない。
('Aメ) (精密さだけじゃない! 流石兄者はズバ抜けたパワーを持っていやがる!)
今さっき、肩に受けた一撃は冊子に阻まれた故に、それ程の威力は感じなかった。
しかし、これが本領発揮。彼の狙撃は万物を貫き、砕く。
- 50 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:12:36.32 ID:RBFTQRxu0
(;'Aメ) (こんな攻撃、受けていられないぞ……! だが『新世界』が乱れた今、回避も難しい!)
ドクオの『新世界』
唯一の弱点があるとすれば、時間だ。
この技――というより感覚は、万能のものではない。
初めて遭遇する相手に対し、無条件で発動することは出来ないのだ。
何故ならその本質が、『学習』にある故。
敵と戦い、その動きや戦略、思考をトレース。
そこから天性の感覚が自動で導き出す、死角へと滑り込む道。
ドクオ自身が考えてやっているわけではない。
全ては閃きに似たようなものであり、身体が勝手に思考した結果。
- 51 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:15:22.83 ID:RBFTQRxu0
('Aメ) (流石兄者の動きを把握するまで時間がかかる。まとめてかかって来られたのはやっぱりマズい!)
弟者の動きは既に把握していた。
しかしそこに、兄者の攻勢が加わってしまった。
一対一でないのなら、動きを読むのもまた困難になる。
恐らくこの戦闘中に、兄者相手に『新世界』を使えはしないらしい。
(;'Aメ)「ぐぅう、ああっ!!」
思考の最中にも追撃が迫って来る。
弟者の掃射がドクオを釘付けにし、兄者の狙撃のために時間を稼いでいるのだ。
今なら攻められる。弟者が一人で撃ち掛け続ける、今だけなら。
(;'Aメ) (JET竹刀の残弾は残り一発! 大事に当てるぞ!)
- 53 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:17:30.35 ID:RBFTQRxu0
走る。
左手は鞘に。痛みに軋む右手は柄に。
地を舐めるほどに身を低く沈め、的を出来るだけ小さくし、駆け抜ける。
ダメージの蓄積で、『新世界』の光も滲み始めていた。
ドクオの感覚の鋭敏さが失われ始めている故に。
('Aメ)「うぉおおおおおおおぉおお!」
時間は限られている。
兄者が、狙撃体勢に入る前に。
自分の感覚に、陰りが出てしまう前に。
兄弟の間合いへ。少なくとも、どちらか一人は倒せる距離へと走る。
(´<_` )「まただ! 野郎、兄者が二発目を打つ前に斬り込んでくるぞ!」
( ´_ゝ`)「落ち着け、徐々に後退するんだ! 下がりつつ撃ちかけ、時間を稼げ!」
- 54 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:20:07.36 ID:RBFTQRxu0
対する兄弟は後方へと下がりながらも、照準は向かってくるドクオから決して離さない。
( ´_ゝ`)「距離は稼いでいる。間に合うさ、至近距離で俺が奴を撃ち抜く!」
(´<_` )「――流石だな、兄者!」
兄者の焦りを見せぬ、頼りがいのある態度。
普段のおどけた姿が嘘のように、その頼もしさは弟者に勇気を与える。
やがて勇気は強い集中へ、集中はより正確な狙いへと繋がっていく。
(´<_` )「鬱田ドクオ!! これでも喰らってろ!」
撃つ。
それは何気ない軌道。
本来ならば、ドクオの前でただ回避されるだけの一発に過ぎなかった。
しかし、違う。その一発だけは、幾数回の射撃の中で異質であった。
- 57 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:22:49.96 ID:RBFTQRxu0
矢の先がほんの僅かに、壁際を舐める。
壁に弾かれてしまう角度でぶつかってはいない。
ほんのちょっぴり、軌道が反れる程度。いわば跳弾だ。
だがそのほんのちょっぴりの乱れが、ドクオの感覚全てに狂いをもたらす。
('Aメ)「ぐっ――!?」
気が付いた時には、『新世界』が歪み始めていた。
光の帯の先が、三つにも四つにも裂け、道を違う。
('Aメ) (迷いがっ?!)
生じた。
弟者の放ったイレギュラーな一発により、矢の群れへの読みにズレが生じた。
小さな、一瞬のズレ。しかしその一瞬は、ドクオの『新世界』を乱すのには十分たるもの。
学習や予測で軌道を計算するこの能力に、偶然という要素は鬼門中の鬼門だ。
- 58 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:25:05.40 ID:RBFTQRxu0
案の定、『新世界』の乱れを前にドクオは遅滞する。
そんな彼の足元を、一発の矢が掠めていった。
(;'Aメ)「がっ!?」
直撃ではない。
しかし、足元に被弾したのは不味かった。
重心が崩れ、否が応でも減速してしまう。兄者はそこを逃さなかった。
弟者の時間稼ぎにより、彼の狙撃体勢は整っている。
( ´_ゝ`)「二発目だ、鬱田ドクオ!!」
ドクオまでの距離、僅か15メートル。
100メートル先までを見据え、射抜く彼にとっては、あまりにも容易すぎる距離。
兄者の第二撃が翔ける。
- 60 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:27:34.73 ID:RBFTQRxu0
初撃はドクオの間合いと動きを測るため。
故に、今度こそ本当の意味でのとどめの一撃。
彼が『三発以内』と宣言したのは、本当は『二発』という意味でだ。
三発目は予備として。
万が一、ドクオに起死回生の一手が生まれた時のために。
( ´_ゝ`)「避けられるか? 防ぎきれるか? どちらも否!!」
(´<_` )「敗北しろ! 勝つのは――」
『双死双翼』也。
- 62 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:30:06.10 ID:RBFTQRxu0
刹那、ドクオの眼前へと迫って来る矢。
速度と威力、共に人体を破壊するに十分である。
('Aメ) (回避――)
不可能。
('Aメ) (防御――)
無意味。
('Aメ) (無理だ! 当たる、確実に、今度こそ!)
初撃のように距離があるわけでもない。
既に手遅れ。居合で撃ち返す余裕もない。負傷した右腕では、追いつかない。
手詰まり。チェック。本当の意味での、終わり。
被弾は避けられない。
- 63 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:32:35.59 ID:RBFTQRxu0
('Aメ) (それでもいい!!)
確かに、『矢が当たること』は免れない結果であろう。
しかし、それは『敗北』から逃れられないという意味ではない。
勝機は、ある。依然変わりなくだ。
( A ) (無傷で勝とうとするな! 傷を恐れるな! 真の勝利者は――)
迷わず、柄から手を離した。
(#'Aメ)「痛みを乗り越えられる奴だッ!!」
受け止める。
胸を庇うように掲げた、その傷付いた右腕でだ。
- 65 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:35:22.84 ID:RBFTQRxu0
( A )「うわああああああ゛あ゛あ゛――ッ!!」
貫く。
クーがやられたように、矢は深々と根元まで突き刺さった。
痛い、なんて言葉では片付けられないほどの激痛が、ドクオの脳を焼き尽くす。
同時に身体が後ろへ吹っ飛んだ。その衝撃を、余すことなく受け止めた故。
それでも、前へ。
(#'Aメ)「下がらないいいいいいい――ッ!!」
鞘を地面へとブチ当てる。つっかえ棒のように。
床との摩擦で火花が舞い上がり、鞘はドクオが吹き飛ぶのを防ごうとする。
左手一本で、弾け飛ぶ全身を踏ん張ろうとした。
- 67 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:37:38.34 ID:RBFTQRxu0
それは悪足掻きだが、無駄じゃない。
少なくとも20メートルも30メートルも距離が離れることは、免れた。
夜の虚空に、ドクオの血塗れの身体が反動で踊り上がる。
(; ´_ゝ`)「こいつは……!!」
目の前で繰り広げられる、ドクオのでたらめな防御に兄者は息を呑む。
彼は仕留めるつもりで第二射を撃った。左の肩を撃ち、もう鞘も剣も握れなくしようとした。
本気で倒しにかかった一撃。
弟者のサポートも相まって、それは確実なものであったはず。
(´<_` ;)「兄者ぁあ!!」
(; ´_ゝ`)「うろたえるんじゃあ、ないッ!」
- 68 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:40:05.26 ID:RBFTQRxu0
本当にうろたえているのは自分だ。
狙った相手は誰でも貫き倒す、真なる鷹の目。
『双死双翼』――無敵の狙撃手たる自分が、この至近距離で相手を仕留められなかった。
何故か。何故、鬱田ドクオはまだ戦えるのか。
(; ´_ゝ`) (こいつは尋常じゃない! 普通の奴は腕を犠牲にするなんて出来っこない!)
誰だって痛いことは嫌だ。怖いことはお断りだ。
避けたい、遠ざけたい、拒みたい、背けたい、考えたくもないこと。
今、この状況。左肩を撃たれて戦闘不能になるよりは、確かに傷付いた右腕を犠牲にするのは良い判断だ。
だが、それは分かっていても出来ることなのか。
そんな荒技を瞬時に考え、迷わず右腕を差し出すことが出来るのか。
- 69 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:42:35.04 ID:RBFTQRxu0
普通は諦める。流石兄者の高速の射撃を前にして、まず諦めが先に立つ。
肩を撃たれて戦闘不能になれば、その一発の痛みで終わる。これ以上の苦しみはない。
だが、ドクオは違った。
更なる痛みを――闘うことを選んだ。
痛みを受け入れて、闘い続けることを選んだ。
(; ´_ゝ`)「同じだよ! 三発目、これで本当にリタイアだ!」
誰に対する呼びかけでもない。
敢えて言うなれば、自分への鼓舞なのか。
(; ´_ゝ`)「なめるなよ! 弄るなよ! 右腕を捨てて何が出来る!?」
- 71 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:45:15.01 ID:RBFTQRxu0
そう、ドクオは右利き。
二発の矢を受けた今、もう右腕で竹刀も鞘も握れない。
居合は不可能――と、言うより剣を抜くことすらできないはず。
ならば、もう終わりだ。彼は決死の覚悟で左腕を守ったが、両腕が使えなければ戦えない。
どちらにせよ戦闘不能。
(´<_` ;)「兄者、待て! 奴は――」
(# ´_ゝ`)「温いんだよおお! こいつは今、ここで仕留めなきゃならないんだ――ッ!!」
ドクオはまだ空中で無防備な状態だ。
滅茶苦茶な減速のせいで、体勢はままならない。今度こそ回避も防御も、反撃すらも不可能。
自身が興奮しているのも分かる。だが、今がチャンスであることも事実。
( ´_ゝ`) (問題ない、奴は的だ! 今度こそ、今度こそ倒――)
- 74 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:47:51.44 ID:RBFTQRxu0
そこで、気付く。
ドクオが左腕を振りかぶったことに。
鞘の根元、引き金に指をかけている。鬼気迫る眼光は寸分狂わずこちらへ。
逃げの姿勢、守りの意志は感じ取れない。
そこにあるのは全身全霊で攻めようとせん、闘志。
(; ´_ゝ`) (何を――!?)
するつもりか。
その答えはすぐに明かされた。
(#'Aメ)「うりぃいやあああああああああ――――ッッ!!」
空中で身体ごと、左腕を振り下ろす。
- 75 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:50:20.38 ID:RBFTQRxu0
同時に引かれるトリガー。圧縮空気のマガジン、その最後の一発が唸りを上げた。
爆裂する圧力と遠心力に後押しされ、振り回した鞘から射出される刀身。
その勢いは強烈だ。
凄まじきスピードで回転し、兄弟へと向かって行く。
迫る。
迫る、迫る迫る迫る、迫る迫る迫る迫る迫る。
(´<_` ;)「兄者、マズい!!」
弟者の叫びも、どこか遠くから聞こえるよう。
( ´_ゝ`) (やられた――)
- 78 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:52:52.80 ID:RBFTQRxu0
完全に、してやられた。
剣の間合いにいないと油断した結果がこれだ。想像もつかない手段。
JET竹刀の爆発力は、飛来する剣に必殺の威力を加えるには十分過ぎた。
トマホークの如し、轟々と風を切りながら向かってくる竹刀を前に、兄者は手が出せなかった。
未だ構えが定まらない。それに、距離が近すぎた。
ドクオの起死回生の投剣は、今まさに兄者の頭蓋を破壊しようと牙を剥く。
( ´_ゝ`) (まぁいい、俺が倒れても弟者が何とかしてくれる……)
諦めが心を支配した。
敵の不屈っぷりとは対照的だ、と。心の中で彼は自嘲を洩らす。
それももう終わり。JET竹刀は兄者に命中――
- 79 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:55:37.12 ID:RBFTQRxu0
(´<_` #)「兄者あぁあああぁあああああああぁあ――ッ!!」
しなかった。
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
目の前で自分の額を砕こうとしていた竹刀に、弟者が身を広げて立ち向かう。
叫ぶ暇もない。喉の奥で、声に似たような音が競り上がったかと思った時には、
( <_ )「がっは、あッ!?」
弟者が身代わりになっていた。
(; ´_ゝ`)「お、お、弟者ぁああああ――っ!?」
- 80 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/18(火) 23:58:09.53 ID:RBFTQRxu0
竹刀をモロに脳天へと受け、崩れ落ちる弟者の身体。
先の戦闘で、ダメージは充分に蓄積していた。この一撃が弟者を沈める。
竹刀は回転を残したまま、二人の後方へと飛んで行った。
( ;_ゝ;)「お、おと、弟者! 馬鹿野郎……!」
情けない声を洩らして、崩れる弟者を支えようとするも、彼の裏返りかけた瞳が訴えかけてくる。
それは決して助けを求めるような意志を秘めてはいない。
( <_ )「――――っ」
勝利しろ、勝て、鬱田ドクオを倒せ。
- 83 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:01:07.40 ID:gYu5h2wx0
( ´_ゝ`)「――弟者っ!」
小さな微笑みを残し、弟者は兄者の目の前で倒れる。
ピクリとも動かない。リタイアだろう。
( _ゝ )「弟者っぁあ……!!」
もはや『七星連合』も、作戦も何も関係ない。
弟者が倒された。故に兄者はその敵を討たなければならなかった。
心を支配するのは、純粋なる怒り。
その矛先――いや、矢の先はドクオへと向けられた。
(# ´_ゝ`)「弟者のぉおおおおおお!!」
弾けて切れてしまいそうなほどに、滅茶苦茶な勢いで弦を引っ張る。
(# ´_ゝ`)「かぁあたきいいいいいいい!!」
- 84 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:03:37.37 ID:gYu5h2wx0
宣言通り、最後の一発。
これを外せば、もう終わりだ。間合いへと踏み込まれる。
(#'Aメ)「こっちだって負けてられないんだよ!」
着地するドクオも、鞘を捨てて向かってゆく。
距離は開いたが、走って詰められない距離ではなかった。
足元で『新世界』が明滅する。感覚が途切れる寸前、ギリギリのライン。
兄者の射撃を避けられる確率は、高くはない。
それでも前進し続ける。
(# ´_ゝ`)「剣を捨てたお前に! 武器の無い丸腰のお前に何が出来る!?」
- 87 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:06:06.60 ID:gYu5h2wx0
兄者の照準は、精一杯に蛇行しながら向かってくるドクオへ。
時間はかかるが、間に合わないことはない。正確に、怒りを集中へと変え、狙う。
やがて全てが重なり、鷹の目が輝いた。
(# ´_ゝ`)「これで終わりだぁああああ!」
ちょうど正面に躍り出たドクオへと、射出される第三撃。
目と鼻の先、息がかかる距離、もはや常人では絶対に避けられない速度と間合い。
( A )「しゅぅっ!」
ドクオは深く息を吸い込み、脚を運んだ。
頼りなかった光の道も、今この瞬間だけは目も眩むほどに強く、激しく輝く。
('Aメ)「見える――っ!!」
『新世界』、発動。
- 89 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:08:34.94 ID:gYu5h2wx0
(; ´_ゝ`)「こんな――」
回避は成功した。
外れた矢は虚空へと吸い込まれる。
(; ´_ゝ`)「短時間で……!」
学習、完了。
兄者の矢の軌道を学んだ。
故に避けられる。無効化できる。
そして絶対の死角、一足一刀の距離へと踏み込める。
そう、兄者の背後へ。
- 90 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:11:05.45 ID:gYu5h2wx0
(; ´_ゝ`)「だが! それでもお前の武器は――」
('Aメ)「ブーメラン、だ」
ぽつりと、一言。
( ´_ゝ`)「は?」
兄者が振り返ったそこで、背を向けるドクオは歯を食いしばりつつ右腕を振るう。
矢を番えようとしていた兄者の目に映る、巻き付けられた彼の手首の鎖。
それは、遥か彼方の闇へと続いていた。
そして聞こえてくる、不吉な風切り音。
(; ´_ゝ`)「そ、んな、馬鹿な!?」
思わず呆け、矢を番える手も止まってしまう。
- 93 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:13:35.44 ID:gYu5h2wx0
次の瞬間には回転するJET竹刀が、鎖に導かれてドクオの左手に舞い戻る。
吸い込まれるようにして握られた柄。鎖が蛇のように空中を踊り、兄者の視界を覆った。
( A )「鬱圓明流――……」
半回転、兄者へと臨むドクオは腰溜めの構えに、竹刀を目一杯に引き寄せた。
切っ先は狙いを喉元に、踏み込む足の音は高らかに、吐き出す呼吸は鋭利に。
放たれる、久々にドクオの腕力のみでの技。
('Aメ)「『片手鬼灯(かたてほおづき)』ッ!!」
そして決着の一撃であった。
- 95 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:16:08.57 ID:gYu5h2wx0
* * *
先程までの戦いの喧騒が嘘のような静けさ。
響くのは、ドクオの荒い呼吸のみ。
彼は立っている。地に伏すのは流石兄弟の方だ。
弟者は頭部への打撃、兄者は頸部への突撃によって倒された。
勝利者はドクオである。
(;'Aメ)「ん、はぁ、っはぁ、あ、く、うぅ……かはっ!」
呼吸が、砂漠の風のように熱い。
壁を背に座り込む、東校舎二階廊下。
止め処なく溢れだす血液を、彼は滅茶苦茶に巻き付ける包帯で抑えていた。
クーの治療の後、念のためと持って来たのは吉と出たらしい。
- 96 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:18:40.03 ID:gYu5h2wx0
(;'Aメ)「はぁ、はぁ、あぁー……くそ、痛ぇ」
右の肩と腕に空いた風穴は、ズキズキとドクオの脳を激痛で炙ってくる。
そちらを支えにも出来ないので、JET竹刀を杖代わりに立ち上がった。
近付く、気絶中の流石兄弟へ。
跪いて弟者の懐に手を突っ込むと、彼の『洋弓部』のバッジを毟り取った。
他のポケット、ズボンも探ってみるが他のバッジは見当たらない。
( ´_ゝ`)「バッジは……俺が、持って、る」
('Aメ)「――――ッ!」
背後で微かな呻き声。
振り返れば、痙攣する兄者が身を起こし、こちらに視線を寄こしていた所だ。
- 98 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:21:06.68 ID:gYu5h2wx0
(;'Aメ)「お前っ!」
( ´_ゝ`)「……勘弁、してくれ。もう、闘う意志も……力も、ない」
ひらひらと片手を振り、力無くそれを床に投げ出す。
彼の呼吸も荒い。渾身の突きを叩き込んだ喉には、真っ黒な痣が出来ていた。
恐らく、その言葉に嘘はないだろう。
('Aメ)「…………」
ドクオは黙って、兄者へと臨むと制服を引き剥がし、バッジを物色する。
『和弓部』のものと共に、四つのバッジが転がり出てきた。
これでドクオの撃破数は二十一。
個人成績では、更なる独走態勢に入ったということだ。
その姿をジッと眺め続けていた兄者は、ふっと声を洩らす。
- 99 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:23:36.65 ID:gYu5h2wx0
( ´_ゝ`)「くそ、悔しいねぇ……もう少しで、勝てると、思ったが……」
('Aメ)「……あぁ、そうかもな」
ドクオも自然と答えていた。
('Aメ)「弟者があんたを庇ったのには焦った。あの時、俺はあんたを仕留める気で竹刀を投げたからな」
( ´_ゝ`)「へぇ……そう、かい」
('Aメ)「弟者の攻撃なら、距離なんて関係なく避けられる。でも、あんたの射撃はまだ見切れていなかった」
破れかぶれ、行き当たりばったり――捨て鉢の攻めではない。
ドクオはあの滅茶苦茶な体勢からでも、勝つための攻撃を放った。あくまで勝利に執着したのだ。
('Aメ)「ほんの一瞬の差で『新世界』が発動できたが、もしかしたら俺は負けていたかもしれない」
( ´_ゝ`)「よせよ……あんまり、惨めな思いをさせるな」
- 102 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:26:09.28 ID:gYu5h2wx0
('Aメ)「あんたの弟は、最後まであんたを護ったんだ」
自身を犠牲にして、兄者を護った。
そしてほんの少しでも勝率がある方へ、彼もまた賭けていた。
間違いなく、弟者も勝利を望んでいた。
流石兄弟としての、勝利を。
('Aメ)「あんたたち『兄弟』は、間違いなく強敵だった。ありがとう」
バッジをポケットに詰め込み、ドクオはよろよろとその場を後にする。
後腐れなく、残すものは何一つなく。
ドクオの勝利により、戦局はここから未知の領域へと動き出した。
- 105 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:28:36.88 ID:gYu5h2wx0
再び静かになった廊下で、兄者は浅い呼吸を繰り返す。
( ´_ゝ`)「ありがとう、なんて……」
ふざけた男だと、心中で笑った。
とどめを刺すならまだしも、敵に礼を言ってそそくさと立ち去るとは。
甘ったれてるのか、ただの馬鹿なのか。
( ´_ゝ`)「でも、負けちまったからなぁ……弟者、聞こえるか?」
( <_ )「――――」
返事はない。
弟者の意識は飛んでいる。間違いなく気絶状態。
がっかりと言わんばかりに、一際大きな溜め息を吐く兄者は、ひとりごつ。
- 107 名前: ◆b5QBMirrJE 投稿日:2009/08/19(水) 00:31:10.84 ID:gYu5h2wx0
( ´_ゝ`)「ありがとよ。護ってくれて」
言ってみて、その言葉の余韻に浸る。
敵の真似ごと。単に思いついただけの行為。
それでも、悪くはない。
やがて、閉じる瞼が意識にもカーテンをかけた。
流石兄者は気絶する。戦場を支配していた狙撃手二人は、こうして敗北した。
それでも、どこか二人の表情は満足そうで。
第二十一話・終
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