('A`)は異世界で魔法少女に出会うようです

7 名前: ◆r6WlJKDcuM 投稿日:2011/07/29(金) 21:49:26.05 ID:H1eJ8KFL0
第一話「異世界へ」
ドクオにとってもはや世界は意味のない世界だった。
両親は幼い頃に事故で死に、預けられた親戚に虐待され、
学校では虐められ、ようやく社会に出て働き始めたが、
学歴しか取り柄のない馬鹿な同僚に仕事を押し付けられた挙げ句、
同僚が犯したミスを擦り付けられて会社をクビになった。
自分の人生を振り返ってみれば、実に惨めだったとドクオは思う。
もっと上手く立ち回れれば、要領が良ければ――いや、それよりも両親が死ななければ、
まだましな人生だったのかもしれない。
だがもう全ては遅い。今更望んだものが手に入ったとしても、もう一度歩き出そうとは思わない。
何故なら、この世界がどれだけ醜く、どれだけ汚れ腐っているかを知ったから。
そして、自分もそれに飲み込まれつつある。

('A`)「ふー。やっぱ煙草はいいな」

煙草を吹かしながら、夕焼けに染まった空を仰ぐ。
出来ることならこのまま時間が止まればいい。
生きることもなく、死ぬこともなく、この美しい時間がいつまでも続けばいいのに。

('A`)「……俺も焼きが回ったかな」

根本まで吸った煙草を靴で踏み消し、ドクオはようやく下を見た。
たくさんの建物、たくさんの車、たくさんの人、人、人。
汚いとさえ思ったそれらは、ほんのりと茜色に染まり、いとおしく感じた。
ドクオは決意する。
もう、未練はない。
生きる理由も、意味も、何もない。
世界の歯車から外れた人間は、いなくなればいい。
だから、その日、ドクオはビルの上から飛んだ。

10 名前: ◆r6WlJKDcuM 投稿日:2011/07/29(金) 21:56:30.52 ID:H1eJ8KFL0
―――――――

ξ゚听)ξ「はぁ、あいっかわらずめんどくさいことばっかり押し付けるのね、あの校長」

箒にまたがった巻き毛の少女――ツンが自分に話しかけてきたのだと気付き、彼女はなんと返すべきか考えていた。
しかし、ツンははなから返事を期待していなかったのか、校長に対する文句をぶつぶつと呟いている。

从'ー'从「んー、でも大事なことだから仕方ないんじゃないかなぁ」

ξ゚听)ξ「それにしたって頼む人間はたくさんいるじゃない。毎っ回私たちばっかじゃない」

从'ー'从「きっとみんな忙しいんだよぉ」

ツンの愚痴を聞きながら、渡辺は校長から依頼された今回の任務について考えていた。
今ツンと渡辺が向かっているのは、二人が通う魔法学校から西に位置する森で、
そこはこの世界で魔法を使うための『マナ』を生み出す大樹が生息してるのである。
マナが生み出されているのはけしてマナの大樹からだけではないが、世界のマナの半分以上はこの大樹から作られている。
しかし、ここ最近になってマナの量が減っているとの報告があがり、
マナを管轄している政府の魔法庁からその原因を調べてくれと依頼が来たのだった。
本来であれば、魔法学校の生徒である渡辺とツンがこういった依頼を受けるのは前代未聞であるが、
この島の王家が抱えている魔法兵団は、島で起きている問題にかかりっきりになっており、
調査団を結成するには人数が足りない状態だった。
そこで魔法学校でも優秀な生徒であるツンにその依頼が回ってきたのであるが・・・・・・。

11 名前: ◆r6WlJKDcuM[sage] 投稿日:2011/07/29(金) 22:03:10.85 ID:H1eJ8KFL0
从'ー'从「でもなんで私もここにいるのかなぁ」

ξ゚听)ξ「別にいいじゃない。あんたは単位足りないんだからこういうときにきっちり稼いでおかないといつまでたっても卒業できないわよ」

ツンの言うとおり、渡辺は学校の単位が足りない。どころか、成績もよくなかったりする。
別に不真面目な性格ではない。むしろ真面目さが取り柄である。
にもかかわらず、渡辺の単位が足りない原因は一言で言えばドジな性格だった。

从'ー'从「うぅー、でも私だってちゃんとやれば出来るんだよー」

ξ゚听)ξ「はいはい。って、ようやく着いたわね。あんたちゃんと箒から降りられる?」

从'ー'从「馬鹿にしないでよー。ちゃんと降りられるんだから」

とは言うものの、渡辺はいつまでたっても地に足をつけることはなかった。
渡辺は箒の高さを調整するのが苦手で、上に行ったり下に行ったりを繰り返してしまうのだ。
ちなみに箒で空を飛んだりするのは、学校では一番最初に覚える魔法である。

从'ー'从「あれれー、箒が安定しないよー。ツンちゃーん、助けてー」

ξ゚听)ξ「あんたさっき降りられるって言ったばかりじゃない・・・・・・」

ツンにため息を吐かれながら助けてもらい、渡辺はようやく箒から降りることが出来た。
やはり人間は大地を踏みしめ、しっかりと歩かなければ駄目なのだ。
空を飛んだりするのは愚の骨頂、自分の足を使い、体を使い、汗を流す。これが一番大事。

ξ゚听)ξ「何をぶつぶつ言ってるのよ。さっさと終わらせて帰るわよ?」

从'ー'从「あ、待ってよツンちゃーん」

15 名前: ◆r6WlJKDcuM[sage] 投稿日:2011/07/29(金) 22:10:15.25 ID:H1eJ8KFL0
森の中に入ると、渡辺は違和感に気付いた。
いつもならば大量のマナで溢れているはずなのに、ほんのわずかしか感じられない。

ξ゚听)ξ「これは予想以上にひどいわね」

从'ー'从「マナの大樹に何かあったのかなぁ」

ξ゚听)ξ「どうかしらね。ま、実際に見てみれば分かるでしょ」

道中、ツンが校長から渡された機械を使ってマナの量を計測していく。
どこで測定しても、マナの量は通常の半分以下の値だった。
しかもそれはマナの大樹に近付くにつれてだんだんと下がっていっている。

ξ゚听)ξ「ちょっと、これって相当やばいんじゃない?」

从'ー'从「だねぇ」

ξ゚听)ξ「渡辺、いそ――」

と、ツンが何かを言おうとした瞬間だった。
いきなり爆発音が聞こえた。しかもこの方角は、マナの大樹がある方だ。

从'ー'从「ねえ、ツンちゃん。今のって・・・・・・」

ξ゚听)ξ「マナの大樹のほうだわ!急ぐわよ!」

17 名前: ◆r6WlJKDcuM 投稿日:2011/07/29(金) 22:17:23.85 ID:H1eJ8KFL0
―――――――

('A`)「・・・・・・んー」

どこからか自分を差してくる日差しでドクオは目を覚ました。
鬱蒼と生い茂る木々を見て、ドクオは首を捻る。
ここはどこだろうか。死後の世界だろうか。
まあ少なくともビルの上から飛び降りたのだ。生きているということはないだろう。
しかしその割には死んだという実感は湧かない。
自分の体を確かめてみればきちんと足もついているし傷もない。

('A`)「まあ、死んだあとなんてこんなもんなのかもな」

とりあえず自分は死んだということにしておこう。
そしてここは死後の世界だ。では、他に死んだ人などはいないのだろうか。
もう一度辺りを見渡してみても、自分のほかに人がいる様子はない。

('A`)「・・・・・・とりあえず、誰か探すか」

このままでは埒が明かないと判断し、ドクオは辺りを散策することにした。
どうせここは死後の世界だ。もしかしたら地獄というやつかもしれない。
どちらでもいい。もうあの世界に未練などないし、全てがどうでもよかった。
出来る限り人が歩けそうな道を選びながら歩いていくと、やがて大きく開けた場所に出た。
その中心には見たこともないほど大きな木がそびえたっている。

('A`)「おお、でけぇ。さすがはあの世ってところか」

一体何十メートルあるのかと思うような大木だ。十階建てのマンションくらいの高さはあるんじゃないだろうか。

('A`)「しっかし、人いないな。死んだあとの手続きとかないのか?」

21 名前: ◆r6WlJKDcuM 投稿日:2011/07/29(金) 22:24:56.64 ID:H1eJ8KFL0
そんなどうでもいいことを考えながら、ドクオは大木の近くに腰を下ろし、煙草を取り出そうとして・・・・・・。
目の前が爆発した。

(;'A`)「うおっ!」

ドクオの体は宙に浮き、大木に打ち付けられる。息が出来ない。
さらに連続して爆発。今度は一度ではなかった。二回三回と立て続けに爆音が響いていく。

(;'A`)「な、なんなんだよ」

ようやく爆発が収まり、身を小さくしていたドクオは頭を上げる。
砂煙が辺りを包んでおり、何が起きたのかは把握できない。
しかし、ドクオは何かの気配を感じていた。この砂煙の中に、何かがいる。
しかも、おそらく人ではない。動物的な興奮した息遣いが聞こえるのだ。
まるで、獲物を狩るような、そんな気配だ。
――今ならまだ逃げることが出来る。
瞬時にそう判断し、ドクオは脱兎のごとく駆け出した。
が、ドクオは目の前に現れた毛むくじゃらの犬のような生き物を見て足を止める。

('A`)「か、囲まれてる!」

辺りには似たような生き物が数匹、ドクオを囲むように歩き回っている。
逃げられない。こちらが動けばすぐに襲ってくるだろう。
しかもこちらの退路を塞ぐような陣形を取っている。こいつらは間違いなく自分を狩るつもりだ。
どうすることも出来ず、恐怖で身を強張らせていると、犬のような生き物が一斉に飛び掛かってきた。

('A`)「うわあああああああああああ!」

23 名前: ◆r6WlJKDcuM[sage] 投稿日:2011/07/29(金) 22:34:24.59 ID:H1eJ8KFL0
思わずドクオは目を閉じる。もう駄目だ。死後の世界にまで来てこんな目にあうとは思っても見なかった。
しかし、いつまで経ってもやつらの鋭い牙やら爪やらが自分を引き裂くことはなかった。
さすがにおかしいと思ったドクオがおそるおそる目を開けると、そこには燃え盛る炎に焼かれている犬のような生き物がいた。

('A`)「なんぞこれ」

ξ゚听)ξ「あんた大丈夫?」

どこからか三角帽子にマントをはためかせ、箒に跨って空を飛ぶ少女が現れた。

('A`)「・・・・・・俺は夢を見ているんだろうか」

ξ゚听)ξ「怪我はないっぽいわね。てか、質問に答えなさいよあんた」

('A`)「あ、はい。怪我はないです」

ξ゚听)ξ「さて、と」

少女が手をこちらに向けると、複雑な紋様が浮かび上がり、そこから炎が発現した。

('A`)「え」

なんでこちらに炎が向かってくるんだろう。この人は自分を助けてくれたんじゃないのだろうか。
あまりの事態にドクオの頭は混乱した。しかし、炎はドクオの横を通り抜けて、後方で爆発、炎上した。
同時に犬のような生き物の泣き声も聞こえた。どうやら助けてくれたようだ。

26 名前: ◆r6WlJKDcuM[sage] 投稿日:2011/07/29(金) 22:39:03.99 ID:H1eJ8KFL0
ξ゚听)ξ「とりあえず掃除はこれでおしまいっと」

从'ー'从「ツンちゃーん」

ξ゚听)ξ「あんた今までどこに行ってたのよ。もう終わったわよ」

从'ー'从「えへへ、ごめんね。迷子になっちゃった」

ξ゚听)ξ「まったく、ちゃんとついてきなさいって言ったじゃない」

再びどこからか現れた少女は、ツンと呼ばれた少女とああでもないこうでもないと押し問答を繰り広げている。
正直展開についていけず、ドクオは呆然とその様子を見ているしかなかった。

――――――

大木の周辺をツンは持っていた機械で何かをしながら歩いていく。
一体何をしているのかはわからないが、真剣な顔をしていることから結構大事なことをしているのだろう。
そして、ドクオの隣にいる渡辺は先ほどからどうでもいいことを楽しそうに話をしていた。

('A`)「はぁ・・・・・・」

思わずため息が出た。せっかく意を決してビルの上から飛び降りたというのに、どうやら自分は生きているらしいのだ。
つい先ほど犬のような生き物――ここでは魔物というらしい――に襲われたあと、
ドクオはツンに質問攻めにあい、その過程で今自分がどういう状況にいるのかを教えてもらった。
どうやらここはドクオがいた世界とは違う、別の世界らしい。
魔法があり、魔物がいる、いわばゲームのような世界。
そして、ドクオはどういうわけかは知らないが、この世界に迷い込んでしまったらしいのだ。
ようやく死ねたと思ったのに・・・・・・。
それを考えると気分が落ち込んでいく。

28 名前: ◆r6WlJKDcuM 投稿日:2011/07/29(金) 22:48:48.60 ID:H1eJ8KFL0
从'ー'从「ねえねえ、ドクオ君聞いてるー?」

('A`)「あ、うん、聞いてる」

从'ー'从「それでね、えっとえっと」

先ほど会話していて思ったのだが、ツンはかなり真面目な委員長タイプだが、この渡辺という少女はかなり天然系だ。
ツンが言うには召喚術を用いずに異世界にやってくるというのはかなり異常な事態らしいのだが、
渡辺はそんなことまるで気にしていないかのような振る舞いだ。
しかも、またいつ魔物に襲われるかも分からないというのに。

ξ゚听)ξ「お待たせ」

('A`)「ご苦労さん。それで、なんかわかったのか?」

ξ゚听)ξ「何にも。ただ、この辺のマナの量が異常に少ないってことはわかったわ」

('A`)「そうか・・・・・・」

29 名前: ◆r6WlJKDcuM 投稿日:2011/07/29(金) 22:54:20.87 ID:H1eJ8KFL0
ξ゚听)ξ「とりあえず、あんたがここに来たことも含めて報告に行くから、ついてきなさい。悪いようにはしないわ」

从'ー'从「それならドクオ君に街を紹介してあげるねー。あのね、すっごくおいしいクレープ屋さんがあるんだよー」

ξ゚听)ξ「報告が終わったらいくらでも出かけていいから、今はさっさと帰るわよ」

从'ー'从「はーい」

ドクオはツンの箒の後ろに乗って森を出る。
自分が何故こんなところにいるのか、そしてこの先自分はどうすればいいのか皆目検討もつかない。
だが、いつか元の世界に帰らなくてはならないのだろう。
だったら、いっそこの世界で死んでしまいたい。

('A`)「・・・・・・どうせ生きてたっていいことないしな」

ドクオの呟きは誰にも聞かれることはなかった。

第一話「異世界へ」終


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