- 2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:33:22.16 ID:VjN4vi260
第十一話【黒い塔の戦い】
- 4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:35:06.44 ID:VjN4vi260
- (;^ω^)「……」
ノリ ゚ -゚)「……」
ξ#゚听)ξ「……」
ヤバい。
なんだこの険悪なムードは。
めっちゃ気まずい。
僕がなんとかしなくては。
(;^ω^)「そ、そういえばこんな話知ってるかお?」
ξ#゚听)ξ「知らない」
(;^ω^)「まだ何も言ってないお」
- 5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:37:05.36 ID:VjN4vi260
- ノリ ゚ -゚)「私に話とやらを聞かせてくれないか?」
フィーが僕と無理やり腕を組んだ。
柔らかい物が肘に当たる。
ξ#゚听)ξ「なっ……!?」
ノリ ゚ -゚)「どうした?」
ξ#゚听)ξ「何ブーンに馴れ馴れしくしてんのよ!」
ノリ ゚ -゚)「別にエルフの間じゃこれくらい普通だぞ?」
ξ#゚听)ξ「嘘つけ!」
ノリ ゚ -゚)「本人は嫌がってないじゃないか。な?」
- 6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:38:59.86 ID:VjN4vi260
- フィーが僕の顔を覗き込んだ。
彼女の銀色の瞳に僕の顔が映っているのが見える。
それくらい、顔が近づく。
ノリ ゚ -゚)「それとも嫌なのか?」
僕が返事に困っていたら、フィーが悲しそうな顔をして聞いてきた。
(;^ω^)「ああ……えっと……」
ツンが物凄い形相で僕を睨んだ。
いったい僕はどうしたらいいんだ。
- 7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:41:11.66 ID:VjN4vi260
- だんだんと風が強くなってくる。
昼間だというのに空は暗い。
ノリ ゚ -゚)「草も生えないのか」
フィーが地面を見て呟いた。
さっきまでの綺麗な草原が嘘だったかのようだ。
雑草一本生えてない。
そして、やがてニュー速の門が見えてきた。
( ^ω^)「不気味な門だお」
魔王の紋章が象られた巨大な黒い門。
そしてその向こうにあるのが第二の魔王城、ニュー速だ。
近くで見て、その大きさを改めて実感した。
もしかするとラウンジの街よりも大きいんじゃないか。
- 8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:43:14.58 ID:VjN4vi260
- ξ゚听)ξ「さて、どうしたものかしら」
ツンが門の前に座り込んだ。
( ^ω^)「入んないのかお?」
ξ゚听)ξ「どうやって入るのよ」
確かに。
僕は手で門を押してみたがもちろんびくともしない。
そもそもどうやってこんな大きな鉄の門を開くのだろう。
( ^ω^)「誰かが通るのを待つかお?」
ξ゚听)ξ「そんなんじゃ日が暮れるわ」
- 9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:45:48.41 ID:VjN4vi260
- ノリ ゚ -゚)「仕方がない奴らだ。私に任せろ」
フィーが手をかざし、何かを唱えた。
普通の魔法じゃない。
彼女の手に銀色の光が集まる。
そして眩い閃光とともにそれを放った。
ノリ ゚ -゚)「む……」
しかし、門には傷どころか埃一つついていない。
ξ゚听)ξ「ダサッ」
フィーはツンを睨むと、僕の横にしゃがみ込んで袖を掴んだ。
ノリ ゚ -゚)「あいつ嫌い」
(;^ω^)「僕に言わないでくれお」
- 10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:47:32.89 ID:VjN4vi260
- ( ^ω^)「で、どうするんだお?」
開かないし壊すこともできない。
どうすることもできないというか。
ξ゚听)ξ「しょうがないわね。登りましょう」
(;^ω^)「は?」
登るって、この門を?
(;^ω^)「無茶言うなお。どんだけ高いと思ってるんだお」
僕が反論しようとした時には、既にツンは登り始めていた。
ξ゚听)ξ「この模様に手をかけていけば登れるわ」
模様に手をかけて登るって、どんだけ指の筋肉使うんだよ。
ノリ ゚ -゚)「残念だがそれしかないな。ほら、行こう」
フィーが僕の手を引っ張った。
やたらとボディタッチが多いのは気のせいだろうか。
ツンが見ていなくてよかった。
- 11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:50:16.03 ID:VjN4vi260
- (;^ω^)「指先パネェお……」
ほんのわずかな凹凸を利用して、門を登っていく。
少しでも指を滑らしたらアウトだ。
既に落ちたら怪我じゃ済まない高さに来ていた。
ノリ ゚ -゚)「もし登っている途中に門が開いたら?」
フィーが下で呟いた。
ξ゚听)ξ「落ちるわね」
(;^ω^)「縁起でもないこと言わないでくれお」
その時、門が揺れた。
(;^ω^)「うおっ!?」
ノリ;゚ -゚)「動くぞ!」
ξ;゚听)ξ「二人とも落ちないでよ!」
門がゆっくりと開いていく。
僕は振り落とされないよう指先に力を込めた。
- 13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:54:23.96 ID:VjN4vi260
- ノリ ゚ -゚)「見ろ!」
フィーが叫んだ。
中からたくさんのオークの大軍が出てくるのが見える。
数千、いや一万はいるだろうか。
オークの足音で空気が震える。
ξ゚听)ξ「どこへ向かうのかしら」
( ^ω^)「北西に向かってるお」
ノリ ゚ -゚)「VIPだな」
まさかVIPを攻めるつもりなのか。
あの大軍に襲われたらひとたまりもない。
やがて門がゆっくりと閉じ始めた。
僕はまた指先に力を入れた。
- 14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/19(金) 23:58:09.05 ID:VjN4vi260
- 門の上からニュー速を眺める。
( ^ω^)「すごいお……」
目の前の光景に、思わず言葉が漏れた。
ぽっかりと開いた深い大穴の真ん中に、黒金の砦が浮かんでいる。
門の遥か下では炉の赤い光がまるで血飛沫のように点々と輝いている。
そしてその奥に聳え立つ、三本の黒い塔。
ノリ ゚ -゚)「これがニュー速……」
あまりに大きすぎる。
こんなのを相手に戦えるはずがない。
フィーもそう思ったのだろう。
この光景に圧倒されているようだった。
しかしツンは違った。
ξ゚听)ξ「まあ、魔王城とあんま変わんないわよ」
僕には魔王城の記憶もないから比べようがない。
ただ、そんな簡単なものではないのは見ればわかる。
- 15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:00:13.59 ID:x2xutVpe0
- 城壁の上には矢倉のような建物が立てられている。
そしてその隣には、巨大なトロルが数体、鎖で繋がれていた。
ノリ ゚ -゚)「なるほど」
フィーが呟いた。
ノリ ゚ -゚)「あのトロルたちが門の開け閉めをしているんだ」
( ^ω^)「おお、頭いいお」
ノリ*゚ -゚)「そ、そうか?」
フィーが少し顔を赤らめた。
別に彼女を誉めたわけではないのだが。
ふと振り返ると、ツンが怒ったように僕を睨んでいた。
- 16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:02:09.51 ID:x2xutVpe0
- ノリ ゚ -゚)「さて、どうにかして城内に入りたいが」
( ^ω^)「まずはあの横を通らなきゃだお」
僕はトロルを指差した。
ξ゚听)ξ「そうね、こっから飛び降りるわけにもいかないし」
ツンがブーツの紐を結び直す。
僕も剣の柄に手をかける。
ノリ ゚ -゚)「私に任せろ」
フィーが僕らを制し、前に出た。
一人でトロルたちのもとへ歩いていく。
- 17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:04:22.38 ID:x2xutVpe0
- (;^ω^)「何をするつもりなんだお?」
ξ゚听)ξ「あいつ、捻り潰されるわよ」
トロルが彼女に気づいた。
腕を振り回して雄叫びをあげる。
(;^ω^)「危ないお!」
途端、暗い空から光が射したように思えた。
トロルたちがゆっくりと腕を下ろし、じっと彼女を見つめている。
自然と僕の目も彼女から離せなくなった。
視界に映るのは彼女だけだ。
その銀色の髪の一本一本が美しく、目が釘付けになる。
やがて不思議な幸福感が心を満たしていく。
体の感覚が無くなる。
彼女を見ているだけで、幸せすぎて魂がどこかへ飛んでいってしまいそうだ。
彼女を見ていられるのなら、このまま死んでもしまっても構わない。
- 19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:06:28.33 ID:x2xutVpe0
- ξ#゚听)ξ「このバカっ!!」
ツンの声で一気に現実に引き戻される。
それと同時に、息ができないくらいの激痛に襲われた。
ツンが僕の大事なところを思いっ切り蹴り上げたのだ。
(;゚ω゚)「はぅひひふぅはへ……」
痛みのあまり言葉が喋れない。
腹の奥に鉄球を落とされたようだ。
いろんな意味で、このまま死んだほうがマシだった。
ノリ ゚ -゚)「後で後悔するぞ? もう二度と彼と出来なくなったらどうするんだ?」
フィーが恍惚としているトロルたちを背にツンに言った。
しかし、今の僕には彼女の冗談に答える余裕はなかった。
ξ///)ξ「ば、何バカなこと言ってんのよ! まだ……」
ノリ ゚ -゚)「“まだ”?」
ξ///)ξ「うるさいっ!!」
- 20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:08:24.84 ID:x2xutVpe0
- だいぶ痛みも引いてきた。
だんだん彼女たちの会話に耳を傾ける余裕もできてきた。
ノリ ゚ -゚)「そうか、なら私が早いところ貰っとこうか」
ξ///)ξ「ふ、ふざけないでよね! 私だってその気になれば!」
この人たちは一体なんて話をしているんだ。
ξ゚听)ξ「だいたいいきなり誘惑呪文使うあんたが悪いのよ! ブーンまでかかっちゃったじゃない!」
ノリ ゚ -゚)「まあ、貴様の愛とやらも呪文に負けてしまう程度だったってことだ」
ξ#゚听)ξ「なっ……!?」
ツンが僕の手を引っ張った。
ξ#゚听)ξ「行きましょ、ブーン!」
(;^ω^)「お、おお……」
- 21 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:10:10.67 ID:x2xutVpe0
- フィーが笑みを浮かべながらそのあとをついて来る。
やがて城壁から降りる階段が見えた。
だがその横には数人の敵兵がいる。
(;^ω^)「ツン、見つかるお!」
ツンは気にせずずかずかと歩いていく。
「なんだ、おまえ!」
「どこから入った! 止まれ!」
兵士が剣を抜く。
その瞬間、ツンが地面を蹴った。
彼女の身体が兵士たちの頭上を舞う。
「なっ!?」
強烈な踵落としを兵士に喰らわせる。
あろうことか兜が砕け散った。
- 22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:11:45.22 ID:x2xutVpe0
- 「なんだこの女!」
続けて回し蹴りで同時に二人を伸す。
さらに後ろから振り下ろされた剣を捌き、肘で顎を砕く。
身体を捻り、別の二人を城壁から蹴り落とす。
足払いで目の前の敵を地面に叩きつける。
最後に残りの一人の鳩尾に拳を叩き込んだ。
ξ゚听)ξ「口ほどにもないわね」
(;^ω^)「……」
ノリ;゚ -゚)「……」
ものの数秒で全員蹴散らしてしまった。
だが、階段の下にさらに敵がいるのが見えた。
一斉に矢が放たれる。
- 23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:13:34.08 ID:x2xutVpe0
- ( ^ω^)「危ないお!」
それを剣で叩き落とす。
ξ゚听)ξ「さんきゅ、助かったわ」
ツンが階段を駆け下りていく。
遅れて僕とフィーも駆け出す。
「敵だ!!」
そう叫んだ敵の顔面をツンの蹴りがとらえた。
それが戦いの合図となった。
僕が剣で、ツンが拳で、フィーが弓と魔法で、敵をどんどん蹴散らしていく。
- 24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:15:37.84 ID:x2xutVpe0
- 「敵襲だ! 捕らえろ!」
( ^ω^)「できるもんならやってみろお!」
たとえ記憶が消えていっても、身体が覚えている戦闘は忘れないのだろうか。
敵の剣先から筋肉の動きまで、全てが見切れる。
「こ、こいつ、勇者だ!」
気付くのが遅い。
僕は敵を斬り伏せた。
ξ゚听)ξ「このままニュー速をぶっ潰すわよ!」
ツンが同時に六人の敵を吹き飛ばしながら叫んだ。
- 26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:17:33.39 ID:x2xutVpe0
- ノリ ゚ -゚)「今ので何人だ?」
ξ゚听)ξ「五十人くらいかしら」
ノリ ゚ -゚)「七十だ」
フィーが誇らしげに笑った。
まあ魔法を使える彼女の方が倒した数が多いのは当然だろう。
しかしツンはそれが我慢できなかったようだ。
悔しそうに唇を噛みしめ、フィーを睨んだ。
ξ#゚听)ξ「いいわよ! 私を本気にさせたらどうなるか思い知らせてやるわ!」
跳躍。
彼女は側の小さな塔に飛び移った。
窓を蹴り砕き、中へと入る。
(;^ω^)「ツン、単独行動は……」
直後、轟音とともに塔が崩れた。
(;^ω^)「えぇ!?」
崩れる塔からツンがこちらへと跳んでくる。
ξ゚听)ξ「今のでざっと百人かしら」
唖然とする僕らを前に、ツンが服の埃を払いながら言った。
- 28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:19:55.17 ID:x2xutVpe0
- 〜〜〜〜〜〜
「どこへ行った!」
「向こうを探そう!」
敵の声と足音が遠ざかっていく。
なんとかまいたみたいだ。
(´<_` )「大丈夫ですか、クーさん」
川;゚ -゚)「大丈夫じゃない……」
彼女のわき腹からはまだ血が流れ出ている。
だいぶ傷が深いようだ。
全ては順調だったはずだ。
途中までは。
ヒートが捕らえられている牢屋の場所は聞き出せたんだ。
しかし、そこに行くまでで道に迷ってしまった。
仕方なく俺たちは再び道を尋ねた。
そこで、クーさんが女だとバレてしまった。
敵がクーさんを襲おうとしたので、しょうがなく戦闘となった。
だが、敵が多すぎたのだ。
- 29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:22:07.58 ID:x2xutVpe0
- ここに隠れてからだいぶ時間が経った。
何回か敵がすぐ側を通ったりもした。
見つからなかったのは奇跡だ。
川; - )「はぁ……はぁ……」
次第にクーさんの息遣いも弱々しくなってきた。
このままではマズい。
どうにかして彼女を助けなくては。
(´<_` )「クーさん、ちょっと待っててください。すぐ戻ってきますから」
俺は彼女を階段の陰に隠した。
そして剣で自分の掌をすっと斬った。
- 31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:23:48.78 ID:x2xutVpe0
- (´<_` )「なあ」
近くを通った兵士に声をかける。
「なんだ?」
(´<_` )「剣で手を怪我したんだ。医務室みたいなものはどこだ?」
「おまえ、新入りか?」
(´<_`;)「あ、ああ」
兵士が兜の隙間から俺の顔を覗き込んだ。
「なんだ、男か」
(´<_`;)「ああ、男だ」
「女の敵が紛れ込んでるって話聞いたか? 見つけたら好きにしていいんだとよ」
兵士が下品な笑みを浮かべた。
- 32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:25:30.12 ID:x2xutVpe0
- (´<_`;)「へぇ……」
「医務室なら四つ下だ。自分の剣で怪我するなんてヘマしてんじゃねえよ」
そう言うと兵士は笑いながら行ってしまった。
俺は階段の陰に戻った。
(´<_` )「クーさん、医務室は四つ下にあるみたいです」
川;゚ -゚)「捕まったら好きにされるらしいな」
クーさんが苦しそうに笑った。
聞いていたのか。
(´<_` )「行きますか?」
川;゚ -゚)「頼む」
俺はクーさんをおぶった。
俺はそっと、かつ素早く、階段の陰から出た。
- 33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:27:14.41 ID:x2xutVpe0
- 心臓が物凄い速さで鼓動する。
誰にも見つからずに医務室に行かなくては。
医務室にも敵がいるかもしれないが、それぐらいなんとか倒すしかない。
俺は壁から顔を覗かせた。
誰もいないのを確認して、静かに階段を降りる。
川;゚ -゚)「止まれ」
クーさんが俺の背中で呟いた。
心臓が止まるかと思った。
目の前を二人の兵士が話しながら通り過ぎて行ったのだ。
(´<_`;)「……」
二人は話に夢中で、俺たちには目もくれなかった。
奴らが廊下の角を曲がるのを見届けて、俺は胸をなで下ろした。
その直後だった。
- 34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:28:58.11 ID:x2xutVpe0
- 「なにしてんだぁ?」
思わず飛び上がった。
振り向くと、三人組の兵士が立っていた。
(´<_`;)「な、なにも……」
「背中にいんのはなんだ?」
(´<_`;)「ぐ、具合が悪いらしいんだ。今、医務室に連れてくんだ」
「やけに髪がなげえな」
真ん中の男がクーさんの顔を覗き込もうとする。
俺はゆっくりと後ずさった。
- 35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:31:38.59 ID:x2xutVpe0
- 「んー?」
男が眉間に皺を寄せて俺を睨んだ。
そして、口をひん曲げて醜い笑みを浮かべた。
「さては例の女だな? 一人占めはよくねえぜ?」
ヤバい。バレた。
戦うか?
だが相手は三人だ。
しかもこんなところで戦ったらすぐに敵が来てしまう。
逃げるしかないか。
だがクーさんを背負った状態で逃げ切れるか?
その時、地鳴りとともに何かが崩れるような音がした。
- 36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:33:35.24 ID:x2xutVpe0
- 「なんだ?」
一人の兵士が窓に駆け寄って外を見た。
「おい! 居住塔が崩れたぞ!」
遅れて鐘の音が鳴り響く。
「敵襲だ! 援護へ向かえ!」
魔法で拡大された声が響きわたる。
「ちっ」
兵士は俺を一瞥して舌打ちすると、階段を駆け下りていった。
他の兵士たちも皆そのあとを追う。
(´<_` )「なんだかわからないけど助かりましたね」
俺はほっとため息をついた。
- 38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:35:24.32 ID:x2xutVpe0
- 敵がいなくなったお陰で、医務室へ行くのは簡単だった。
中には医者らしき魔法使いが一人いるだけだった。
「どうした? 敵襲なんじゃないのか?」
(´<_` )「俺らには関係ないね」
「は?」
俺は魔法使いを思いっ切り殴り飛ばした。
魔法使いは白目を剥いて床に倒れた。
俺はクーさんをベッドに横たわらせる。
(´<_` )「たぶん敵もとうぶん来ないでしょうね」
いいところで敵襲が来てくれた。
どこの誰だか知らないけど、実にありがたい。
- 39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:37:33.23 ID:x2xutVpe0
- 俺は棚の戸を開いた。
“上級回復薬”と書かれたビンがある。
たぶんこれだろう。
川;゚ -゚)「治療できるのか?」
(´<_` )「兄者に昔習いました」
川 ゚ -゚)「ほう、あの兄にも少しは長所があるんだな」
(´<_` )「『とりあえず傷口にぶっかけろ』らしいです」
川;゚ -゚)「それのどこが治療なんだ」
クーさんの傷口に直接薬をかけた。
白い煙が上がり、彼女は小さく悲鳴をあげた。
川;゚ -゚)「めちゃくちゃ痛い」
(´<_` )「痛いのは効いてる証拠です。たぶん」
- 42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:40:14.61 ID:x2xutVpe0
- その時、部屋の扉が勢いよく吹き飛んだ。
(´<_`;)「な、なんだ?」
( ゚∋゚)「……」
一瞬、それが人間かすらわからなかった。
巨人を実際に見たことはないが、むしろそれのほうが近いだろう。
普通の人間の二倍はあるだろうか。
頭は天井に届きそうだ。
筋骨隆々とした身体つき。
上半身裸なのは、その筋肉が鎧の代わりになるからなのだろうか。
( ゚∋゚)「……」
(´<_`;)「……」
その小さな瞳と目があった。
なぜかそれだけで足が震える。
自然と全身に鳥肌が立つ。
- 44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:41:56.94 ID:x2xutVpe0
- ( ゚∋゚)「……」
筋肉の怪物は、何も言わずに俺とクーさんを見た。
頼む、そのまま何もしないで帰ってくれ。
俺は心の中で祈り続けた。
その時、怪物がすっと腕をあげた。
川;゚ -゚)「避けろ!」
彼女の声に反応し、すんでのところで身をかわす。
腕が振り下ろされるのは、見えなかった。
直後、空気が振動し、床が砕けた。
(´<_`;)「……」
おかしい。
人間じゃない。
( ゚∋゚)「……」
怪物が静かに床に突き刺さった拳を引き抜いた。
- 45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:44:15.93 ID:x2xutVpe0
- 無理だ。
勝てるはずがない。
なんでこんなバケモノがこんな所にいるんだ。
さっさと敵襲を迎え撃ちに行ってろよ。
( ゚∋゚)「……」
怪物が“諦めろ。おまえに勝ち目はない”とでも言うように、俺を見た。
その通りだ。
俺に勝ち目はない。
だが、気がつくと俺は剣を抜いていた。
( ゚∋゚)「……」
憐れみを浮かべながら、怪物が俺を見る。
自分でも何故戦うつもりになったのかわからない。
ただ、もしこの場に俺一人だったら、俺は潔く殺されていただろう。
- 46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:46:22.79 ID:x2xutVpe0
- (´<_`;)「うおおおお!!」
恐怖を紛らわすように、雄叫びをあげる。
怪物の肩の筋肉が動くのが見えた。
一撃でも喰らったら死ぬ。
絶対に避けろ。
全神経を奴の腕に集中する。
(´<_` )「!!」
ほぼ直感だった。
身体を反らすと同時に、鼻先を奴の拳が掠めた。
だが、その風圧で俺は体制を崩した。
(´<_`;)「くっ!」
とっさに地面を転がる。
さっきまで俺が横たわっていた床が大きく抉れた。
あの攻撃を喰らったらどうなるか想像して、背筋が凍った。
- 48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:49:19.60 ID:x2xutVpe0
- ( ゚∋゚)「……」
怪物がゆっくりと俺に向き直った。
腰を低く落とす。
そして、消えた。
(´<_`;)「!?」
一瞬だった。
あの巨体が、目にもとまらぬ速度で移動したのだ。
後ろを振り向いたときには既に、奴の腕が振り上げられていた。
あ、死ぬ。
そう思った瞬間、眩い閃光に目が眩んだ。
川 ゚ -゚)「今だ!」
クーさんが叫んだ。
見ると、怪物が目を押さえて苦しんでいる。
今しかない。
剣を奴目掛けて振り下ろす。
- 49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:51:11.29 ID:x2xutVpe0
- (´<_`;)「!!」
奴の身体を両断するつもりで渾身の力を込めたはずだ。
だが、刃はまるで木の棒のように弾かれた。
(´<_`;)「嘘だろ?」
川;゚ -゚)「危ない!!」
気がつくと、奴の拳が目の前に迫っていた。
避けきれない。
俺は剣でそれを防いだ。
(´<_`;)「!!」
爆発的な衝撃波。
一瞬足が地面から離れたかと思うと、次の瞬間俺は壁に叩きつけられた。
- 50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:52:54.75 ID:x2xutVpe0
- (´<_`;)「がはっ!!」
呼吸が止まりそうになる。
だが、追撃は来なかった。
( ゚∋゚)「……」
奴の拳からは血が流れていた。
流石の怪物も、剣の刃を直に殴るのは無理があったようだ。
( ゚∋゚)「!!」
連続した低い音。
見ると、怪物の背中に数本の矢が刺さっていた。
- 51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:55:29.55 ID:x2xutVpe0
- 川 ゚ -゚)「私を忘れていないか?」
クーさんがベッドの上に立って弓を構えている。
(´<_`;)「大丈夫なんですか?」
川 ゚ -゚)「おまえのお陰で治った」
絶対に嘘だ。
どう見ても顔色が悪い。
傷口からはまだ血が流れ出ている。
( ゚∋゚)「……」
無表情だった怪物が、初めて表情を変えた。
笑っているのか。
さしずめ、“いいぞ、もっと俺を楽しませてくれ”といったところか。
直後、奴の姿が再び消えた。
轟音とともに、ベッドが砕け散る。
川;゚ -゚)「ちっ!」
(´<_`;)「クーさん!」
川;゚ -゚)「おまえは自分の身を心配しろ!」
- 52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 00:57:28.27 ID:x2xutVpe0
- 一瞬、奴の姿を視界にとらえた。
同時に奴の攻撃目標が俺へと移ったのも感じた。
(´<_`;)「うおっ!?」
拳は俺の顔の僅か横を掠め、背後の壁に突き刺さる。
その衝撃で塔の壁が崩れ落ちた。
(´<_` )「食らえ!」
突き出された腕を切り落とそうと剣を振るう。
だがまたしてもその筋肉の鎧に弾かれる。
- 54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:00:12.75 ID:x2xutVpe0
- (´<_`;)「くそっ!」
( ゚∋゚)「……」
屈むと同時に、回し蹴りが頭上を掠めた。
壁が完全に崩れ落ち、塔の外が見えた。
(´<_`;)「高っ!!」
俺は思わず後ずさりをした。
それが間違いだった。
川;゚ -゚)「危ない!」
振り向くと同時に、体がふわりと浮いた。
奴の手が、俺の襟を掴んでいた。
直後、視界が反転する。
衝撃。
気がつくと、俺は床に叩きつけられていた。
- 56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:02:34.17 ID:x2xutVpe0
- (´<_`;)「がっ……」
首を押さえつけられる。
骨が軋む。
さらに怪物が拳を振り上げた。
その拳を、クーさんの矢が貫いた。
( ゚∋゚)「……」
怪物は拳を空中に止めたまま、クーさんを見た。
俺を押さえつける奴の左手が一瞬緩んだ。
その瞬間を俺は見逃さなかった。
床に落ちた剣に手を伸ばし、奴の心臓目掛けて突き刺した。
つもりだった。
(´<_`;)「んなバカな……」
刀身は奴の拳によって軽々と砕かれていた。
俺は使い物にならなくなった剣を見て悟った。
コイツには勝てない。
俺は目を瞑った。
- 57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:04:50.07 ID:x2xutVpe0
- だがいつまでたっても、奴の拳は振り下ろされなかった。
俺は恐る恐る目を開いた。
(´<_` )「!」
( ゚∋")「ッ!!!」
奴の左目に、折れた刃が突き刺さっていた。
おびただしい量の血が流れ出る。
完全な偶然だ。
だが勝機が見えた。
どんな強靭な肉体を持つ怪物でも、眼を鍛えることはできないのだ。
- 58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:06:49.09 ID:x2xutVpe0
- (´<_` )「これでどうだ!」
俺は右手に持っていた折れた剣を、奴の右目に突き刺した。
( "∋")「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
怪物が初めて悲鳴をあげた。
両目を失った哀れな怪物は、闇雲に暴れ始めた。
川 ゚ -゚)「奴から離れろ!」
言われなくてもそうする。
俺はまるで嵐のように暴れ狂う怪物から離れた。
あれに巻き込まれたら一瞬にしてただの肉塊になってしまうだろう。
- 60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:09:10.51 ID:x2xutVpe0
- クーさんが静かに呪文を唱える。
光の矢が怪物の顔面に直撃し、炸裂した。
怪物がよろめいた。
その背後に、壁はもう無い。
(´<_` )「食らえ!!」
( "∋")「!?」
俺は渾身の力を込めて、奴を突き飛ばした。
ゆっくりと、奴の身体が視界から消える。
そして、塔の遥か下へと落ちていった。
(´<_` )「た……倒した?」
俺はへなへなと床に膝を着いた。
流石にあの怪物も、この高さから落ちたら生きてはいないだろう。
- 61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:11:06.37 ID:x2xutVpe0
- 川 ゚ -゚)「まさか一人で倒すとはな」
(´<_` )「いや、クーさんの援護がなかったら二回ぐらい死んでましたよ」
川 ゚ -゚)「しかし、なかなか男らしかったぞ」
クーさんが微笑んでみせた。
(´<_` )「え?」
なんだか顔が熱くなるのを感じた。
その時、視界の片隅で稲妻が走った。
雷鳴が轟く。
- 62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:13:00.81 ID:x2xutVpe0
- (´<_` )「なんだ?」
俺は外を見下ろした。
遥か下で戦闘が起きている。
ここからは顔は確認できないが、三人の人影が見える。
たった三人で、何百という敵を相手にしている。
川 ゚ -゚)「ブーンとツンじゃないか。それと、もう一人はエルフだな」
(´<_` )「マジですか?」
あの二人がここに来ているのか。
なんと頼もしい。
川 ゚ -゚)「まさかたった三人で正面きって突っ込んでくるとはな」
クーさんは笑っていた。
久しぶりに仲間の顔を見れて嬉しいのだろう。
- 63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/06/20(土) 01:15:30.87 ID:x2xutVpe0
- (´<_` )「合流しますか?」
川 ゚ -゚)「いや、その必要はない」
(´<_` )「でも、三人だけじゃ……」
川 ゚ -゚)「あいつらなら平気だ」
クーさんは笑って答えた。
完全に彼らを信頼しているのがわかった。
川 ゚ -゚)「それより、あいつらのお陰で敵が減った。今のうちにヒートを探そう」
なるほど、それが得策だ。
また道に迷う気もしなくもないが、敵も少ないしなんとかなるだろう。
俺とクーさんは医務室を出て、牢屋を目指した。
つづく
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