( ^ω^)ブーンのエピローグのようです

11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 22:52:09.80 ID:wTnrWWiCP




第五話【夕闇を舞う悪魔】

12 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 22:54:36.94 ID:wTnrWWiCP
(´<_` )「大丈夫ですか?」

俺は体を起こして、向かいの牢屋に声をかけた。
足の痛みがだんだん戻りつつあった。

川 ゚ -゚)「ああ、まあまあだ」

床に横たわった彼女は微かに体を動かして返事をした。

川 ゚ -゚)「悪いな、私のせいで巻き込んでしまって」

(´<_` )「いやいや、クーさんが謝ることじゃないですよ」

俺は足の鎖を弄りながら答えた。
相当頑丈そうだ。
剣を使っても壊せないだろう。

15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 22:57:41.44 ID:wTnrWWiCP
(´<_` )「これ、クーさんの魔法でなんとかなんないですかね」

川 ゚ -゚)「魔法返しがかけてあるな」

クーさんが鎖を見つめながら言った。

(´<_` )「はぁ」

魔法返しってのはよくわからないけど、ようするに無理ってことなのだろう。
俺はため息をついて石の床に寝そべった。

(´<_` )「どうするんですか?」

川 ゚ -゚)「どうしようもないな。助けが来るのを待つしかない」

(´<_` )「ああ」

勇者のパーティーは仲間のピンチは助けに来てくれるのか。
うちの兄は……来ないな。

17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:00:05.15 ID:wTnrWWiCP
「ぎゃあああああああ!!!」

突然、地下牢に悲鳴が響き渡った。

(´<_`;)「な、なんだ?」

川 ゚ -゚)「ちょっと静かにしろ」

クーさんが俺を制して耳を澄ました。

「目がああ! 目がああああ!!!」

「おい、大丈夫か!」

看守の声が微かに聞こえる。

「こいつ、鎖を溶かしてやがる!」

「誰か、モララーさんを……うわあっ!」

人の倒れる音。
沈黙。

18 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:02:44.97 ID:wTnrWWiCP
(´<_`;)「なんなんだよ……」

川 ゚ -゚)「しっ。何かこっちに来る」

(´<_`;)「え!?」

何が来るんだよ。
まさか化け物じゃないだろうな。
看守は化け物に食われたのか?
石の床をひたひたと走る音が聞こえてくる。

ノパ听)「む?」

(´<_`;)「子供?」

真っ赤な髪に真っ赤な瞳。
まるで火のように赤い少女が姿を現した。

20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:04:54.15 ID:wTnrWWiCP
川 ゚ -゚)「ヒートじゃないか」

(´<_`;)「え?」

クーさんが少女に声をかけた。

ノハ;゚听)「うおっ!? クーこんなとこで何してんだ!? どうしたんだそのケガ!?」

川 ゚ -゚)「捕まったんだ」

ノハ;゚听)「クーも大変なんだなー」

ちょっと待て。
なんでこいつらこんな親しく話しているんだ。

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:07:33.82 ID:wTnrWWiCP
(´<_`;)「もしかして知り合い?」

川 ゚ -゚)「まあな」

俺はヒートと呼ばれたその少女を見た。
少女の服は焦げて穴だらけだったが、彼女自身は無傷のようだ。

ノパ听)「じろじろ見るなっ!」

(´<_`;)「すいませんでした」

川 ゚ -゚)「ヒートはこんなとこで何をしてるんだ?」

ノパ听)「脱獄!!」

川 ゚ -゚)「それはすごいな」

ノパ听)「すごいだろ!!」

会話が成立しているような成立していないような。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:09:34.80 ID:wTnrWWiCP
ノパ听)「じゃ、行くから!」

川 ゚ -゚)「おう」

ノパ听)「クーも頑張るんだぞ!」

川 ゚ -゚)「おう」

(´<_`;)「ちょっと待ったあ!!」

俺は今にも駆け出そうとしていたヒートを呼び止めた。

ノパ听)「なんだ! こっちは急いでるんだ!」

(´<_` )「一つ質問していいか?」

ノパ听)「いいぞっ!」

(´<_` )「脱獄ってもしかして君も捕まってたのか? だったらどうやって牢を抜け出したんだ?」

ノパ听)「……ん?」

(´<_`;)「だから、どうやって君は脱獄したんだ?」

ノパ听)「ああ!」

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:11:45.73 ID:wTnrWWiCP
ヒートは俺の牢屋に駆け寄り、鉄格子を掴んだ。
次の瞬間、俺もクーさんも目を疑った。
鉄格子は赤く輝いたかと思うと、突然ぐにゃりと曲がったのだ。
しかもそれだけにとどまらなかった。
それはまるで液体のように崩れた。
床に落ちたそれは蒸気をあげ、元の黒い鉄に戻った。

(´<_`;)「いったい……」

鉄が液体のように溶ける光景は鍛冶屋で見たことがある。
しかし、人間にそれが出来るわけがない。

(´<_`;)「なんかの魔法か?」

川 ゚ -゚)「言っただろ。この牢には魔法返しがかけてある。おそらく……」

ヒートが俺の足に繋がれている鎖を溶かしている。
クーさんはそれを興味深そうに見つめた。

川 ゚ -゚)「おそらく、純粋に体温で溶かしてるのだろうな」

体温?
彼女の平熱はいったい何度なんだ?

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:15:22.77 ID:wTnrWWiCP
ノパ听)「こんな感じで逃げたのだ!」

(´<_`;)「お、おう……ありがと……」

ヒートは片手に赤く光る鉄の塊を持っている。

(´<_`;)「それ、熱くないのか?」

ノパ听)「全然。ほら」

(´<_`;)「うおっ!! 危ないから投げるなって!!」

それからヒートはクーさんの鎖も溶かした。

川 ゚ -゚)「すまないな」

ノパ听)「いいってことよ!」

(´<_` )「よし、自由になったことだし、はやくこんなところから逃げよう」

ノパ听)「おうっ!!」

28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:17:40.45 ID:wTnrWWiCP
川 ゚ -゚)「……敵の声がするな」

クーさんが耳に手を当てながら呟いた。

(´<_` )「え?」

俺は耳を澄ました。

「おい、大丈夫か!」

看守の声だろうか。

「ひどい火傷だ! 手当てを!」

「ガキがいないぞ!」

ノハ#゚听)「ガキって言うなっ!!」

あろうことかヒートが叫び返した。

「向こうから声がしたぞ!」

(´<_`;)「バカ! なんで言い返すんだよ!」

ノハ#゚听)「ガキって言われたからだ!」

川 ゚ -゚)「こっちに来るぞ」

(´<_`;)「ああ、せっかくの脱獄のチャンスが……」

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:19:43.55 ID:wTnrWWiCP
「いたぞ!」

「殺さない程度に捕らえろ!」

看守たちが剣を抜きながら走ってくる。
殺す気満々じゃないか。

(´<_`;)「おい、逃げ……」

ヒートの姿が消えた。
次の瞬間、看守が二人ほど吹き飛んだ。

(´<_`;)「ええ!?」

「くそっ! このガキっ!」

ノハ#゚听)「ガキって言うなーっ!!!」

ヒートの踵が別看守の顎を蹴り上げた。
子供とは思えないスピード。
まさか、強いのか?

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:22:01.12 ID:wTnrWWiCP
「このっ!」

ノハ;゚听)「うおっ」

身を屈め剣を避ける。
看守の振った剣が壁に当たって止まった瞬間をヒートは見逃さない。
ヒートはその剣の腹をつーっと指でなぞった。

「け、剣が……」

剣はどろどろの液体へと姿を変えた。
もはや武器としての役目を持たなくなったそれを見て、看守は唖然とした。

ノパ听)「とうっ!」

「ぐっ……」

ヒートの拳が看守の鳩尾を突く。
あっというまに四人の男をのしてしまった。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:24:46.11 ID:wTnrWWiCP
ノパ听)「ふー」

川 ゚ -゚)「やるな」

ノパ听)「ツンに習ったのだ!」

川 ゚ -゚)「なるほど」

「動くな!」

声のする方を振り向くと、看守がこちらに向けて弓を構えている。

「三人とも動くなよ!」

川 ゚ -゚)「動いたらどうする?」

クーさんが駆け出す。

(´<_`;)「危ない!」

矢が放たれる。
しかしそれは次の瞬間には彼女の手に収まっていた。
まさか、空中で掴んだのだろうか。

34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:26:59.64 ID:wTnrWWiCP
「このっ!」

続けて矢が放たれるが、それも全てキャッチしていく。

ノハ*゚听)「すげえええええ!!!」

(´<_`;)「……」

敵が怯んだ隙をつき、彼女は一瞬で間合いを詰めて看守を殴り飛ばした。
看守は床に倒れて白目を剥く。
彼女は左手に掴んでいた矢の束を床に投げ捨てて息を吐いた。

ノハ*゚听)「すげえな! さっきのどうやるんだ!」

川 ゚ -゚)「どうやると言われても。普通に取るだけだ」

ノハ*゚听)「なるほど!!」

(´<_`;)「……」

こいつらいったい何なんだ。
女と子供の皮を被った化け物か。

川 ゚ -゚)「何突っ立ってるんだ? 置いてくぞ」

(´<_`;)「お、おう」

35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:28:59.90 ID:wTnrWWiCP
〜〜〜〜〜〜




だいぶ時間が過ぎた。

( ^Д^)「あのー、早くしないと日没っスよ?」

(#゚∀゚)「んなこたわかってるよ!」

(#´_ゝ`)「考えるのが見てわかんねえのか!」

(;^Д^)「すいませんでした……」

('A`)「とにかくだ」

ドクオがテーブルに手を置いた。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:31:28.53 ID:wTnrWWiCP
('A`)「俺は何としてもクーを助けたい」

( ´_ゝ`)「俺だって弟者を助けたい!」

( ゚∀゚)「助け出すとなると、敵のど真ん中に突っ込むことになるぜ」

('A`)「俺は構わない」

( ´_ゝ`)「俺は困る!」

ξ゚听)ξ「突っ込むのは無謀すぎるわ。オークはいないだろうけど、ラウンジの兵士やあの賢者を相手にすることになるわ」

( ゚∀゚)「多勢に無勢ってヤツだな」

( ´_ゝ`)「言っとくが俺は弱いぞ」

( ^ω^)「見ればわかるお」

(#´_ゝ`)「なんだと!?」

(#^ω^)「自分で言ったんじゃねえかお!」

(#´_ゝ`)「俺はいいんだよ!」

(#^ω^)「んなもん知るかお!」

(#゚∀゚)「うるせえてめえら!!」

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:35:13.82 ID:wTnrWWiCP
( ゚∀゚)「でだ。やっぱそうなると何か作戦をたてなきゃならねえが」

( ^ω^)「『でだ』ってなんだお?」

( ´_ゝ`)「俺も気になる」

(#゚∀゚)「なんでもいいだろ!」

( ゚∀゚)「……ったく、話が進まねえ。とにかく敵を攪乱してその隙に……」

( ^ω^)「そういえばなんでジョルジュが仕切ってるんだお」

( ´_ゝ`)「目立ちたがりやなんだろ」

(#゚∀゚)「誰かこいつら黙らせろ」

ξ゚听)ξ「クーがいたらもっと酷かったわよ」

('A`)「うんうん」

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:37:22.99 ID:wTnrWWiCP
( ^Д^)「これがラウンジの地図です」

プギャーがテーブルの上に街の見取り図を広げた。

('A`)「地図で見ると川が多い街だな」

( ^ω^)「僕らは今どこだお?」

( ^Д^)「ここですね」

( ゚∀゚)「公開処刑が行われるとしたらどこだ?」

( ´_ゝ`)「この大広場だろうな」

兄者が地図の真ん中の広場を指差した。
広場からはラウンジ城へと大通りが真っ直ぐに伸びている。

( ゚∀゚)「助け出すとしたら処刑直前しかねえな」

( ^ω^)「城に突入すればいいんじゃないかお?」

ξ゚听)ξ「城の中探し回ってるうちにお縄よ。ちょっとは頭使いなさいよ」

(;^ω^)「おっおっ……」

42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:40:44.62 ID:wTnrWWiCP
そのとき、兄者が急にテーブルを叩いて立ち上がった。

( ´_ゝ`)「俺に良い案がある!」

( ゚∀゚)「却下」

(;´_ゝ`)「ちょっとは聞けよ」

('A`)「聞くだけ聞いてやる」

( ´_ゝ`)「名付けて“おとり大作戦”だ!」

なんてわかりやすい作戦名なんだ。

( ´_ゝ`)「おとりは一人。残りは弟者とクーの救出班だ」

('A`)「そのおとりは何をするんだ?」

( ´_ゝ`)「勇者の役だ」

勇者ってまさか僕のことか?
おとりだなんて冗談じゃない。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:44:24.93 ID:wTnrWWiCP
(;^ω^)「ちょっと待つお! 僕はおとりなんて……」

( ´_ゝ`)「ただし……」

兄者はプギャーの襟を掴んで引き寄せた。

( ´_ゝ`)「勇者はコイツだ」

(;^Д^)「俺ッスか!?」

( ´_ゝ`)「おまえが犠牲になってもとくに支障はない」

(;^Д^)「どういうことッスか!?」

( ´_ゝ`)「おまえがこの中で一番弱くて使えない」

(;^Д^)「俺も数に入ってたんスか!? というか兄者さんのほうが絶対弱いですよ!」

( ´_ゝ`)「俺にはコイツがあるだろ」

兄者が自分のこめかみの辺りを指差した。
僕にはとてもそうには見えないが。

( ゚∀゚)「ブーンの顔はわれてんだぞ? 偽物だなんて見てわかる」

( ´_ゝ`)「ちっちっち、甘いよジョルジュくん」

兄者の指を振る仕草が癪に障ったのだろう。
ジョルジュは兄者をにらみつけた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:47:31.49 ID:wTnrWWiCP
( ゚∀゚)「じゃあなんだってんだよ」

( ´_ゝ`)「だからのこそコイツなんだよ」

('A`)「どういう意味だ?」

( ´_ゝ`)「よく見ろって」

兄者が僕の目を指差し、プギャーの目を指差した。

( ´_ゝ`)「目が似てる」

( ^ω^)「……」

( ^Д^)「……」

('A`)「たしかに」

ξ゚听)ξ「言われてみればそうね」

48 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:49:45.69 ID:wTnrWWiCP
( ゚∀゚)「口の形がちげえだろ」

( ´_ゝ`)「口ぐらいなんとかしろよ」

(;^Д^)「なんとかしろと言われても……」

ξ゚听)ξ「オメガっぽくよ」

( ^Ω^)「こうっスか?」

( ´_ゝ`)「おまえ才能ないな」

(#^Д^)「あんなキンタマみたいな口出来るわけないじゃないですか! だいたいオメガっぽくって何なんすか!」

(#^ω^)「今のセリフは聞き捨てならねーお」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:51:51.18 ID:wTnrWWiCP
('A`)「さっきのでいいよもう」

ξ゚听)ξ「そうね、よく見ない限り気づかないわ」

( ゚∀゚)「似てる似てる」

そんな馬鹿な。
僕の口はあんなキモいのか。

( ^Ω^)「この顔意外と疲れますね」

( ^ω^)「“お”をつけろお偽物」

( ^Ω^)「いつもこんな顔してて疲れないんスかお?」

(#^ω^)「……」

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:54:51.78 ID:wTnrWWiCP
( ゚∀゚)「よし、じゃあまとめるぞ」

ジョルジュが紙を広げ、さっと広場の見取り図を写し取った。

( ゚∀゚)「まずクーと弟者が大通りを連行されてくるわけだ」

ジョルジュが指で大通りをなぞっていく。

( ゚∀゚)「真ん中あたりまで来たら、プギャーが勇者に扮して処刑場に乱入」

( ^Д^)「でも俺一人じゃそんな時間稼ぎできないっスよ? もって十秒ですって」

('A`)「俺が手伝ってやるよ」

ドクオが手を挙げた。

('A`)「全体魔法で場を攪乱できるだろ」

( ゚∀゚)「じゃあそういうことでよろしく」

ドクオが手を下ろす。
一瞬、彼の手のひらに血まめが見えた。
親指の爪も割れていた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:56:35.68 ID:wTnrWWiCP
( ゚∀゚)「で、勇者逮捕のために処刑場に敵が集中した隙に俺たちがクーと弟者を助け出すっと」

ξ゚听)ξ「ドクオたちはどうするの?」

('A`)「なんとかして逃げるさ」

ドクオが笑って答えた。
少し心配な気もするが、彼ならなんとかできるだろう。

( ´_ゝ`)「ほれ」

兄者が赤い石を取り出した。

('A`)「なんだこれ?」

ドクオはそれを受け取り、不思議そうな顔をした。

( ゚∀゚)「伝心石だな。珍しいもん持ってんじゃん」

( ´_ゝ`)「こっちの石で合図を出す」

兄者を手に持った青い石を見せた。
その石の表面を兄者が指で擦ると、ドクオの赤い石が光り輝いた。

('A`)「へぇー」

ドクオは感心したようにそれを見つめた。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/10(日) 23:58:28.93 ID:wTnrWWiCP
( ゚∀゚)「俺たちが上手く助け出したとする。そのあとは?」

( ´_ゝ`)「ここの橋から下を通る川に飛び込め。俺が船で待ってるよ」

兄者が地図の橋を指差した。
大通りからは少し距離がある。
さらに兄者は川をなぞっていく。

( ´_ゝ`)「川を下ったところに俺と弟者しか知らない隠れ家がある。そこなら絶対に見つからない」

( ^Д^)「俺も知ってますけど」

('A`)「おいおい、大丈夫なのかよ」

(;´_ゝ`)「ま、まあ三人しか知らない隠れ家だ」

( ^Д^)「ただの地下水路ですよ」

本当にこれで大丈夫なのだろうか。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:00:31.99 ID:7/KRgB7pP
僕は窓の外を見た。
もうすぐ日が沈み始める。

( ゚∀゚)「まあいい。よし、全員作戦の準備だ」

('A`)「よしきた」

( ´_ゝ`)「俺は船の用意だな」

ξ゚听)ξ「ブーン、ちょっとこっち来なさい」

ツンが僕を手招いた。

( ^ω^)「なんだお?」

ξ゚听)ξ「魔王メイクするわよ」

(;^ω^)「お……」

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:02:30.10 ID:7/KRgB7pP
〜〜〜〜〜〜



(;・∀・)「んー……」

モララーは盤の上の駒を見つめて眉間にしわを寄せている。
その向かい側ではミルナがコーヒーをすすっている。
こいつらは事の重大さがわかってないのか。

( ゚д゚ )「無理ですよ。詰みました」

(;・∀・)「いいや、まだ諦めないよ」

从#゚∀从「うおい!」

( ・∀・)「なんだよ、静かにしてくれよ」

モララーが顔をしかめてこちらを向いた。

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:04:40.14 ID:7/KRgB7pP
从#゚∀从「なんだよじゃねえよ!」

( ・∀・)「うるさいなあ。というか何しに来たの?」

从#゚∀从「おまえがエレメンタルを捕まえたって言うから、はるばるこんな所まで来たんだよ!」

( ・∀・)「はいはい偉い偉い」

从#゚∀从「なのに逃げられたってどういうことだよ!」

( ・∀・)「しょうがないじゃーん」

マジでこのにやけた顔をぶん殴ってやりたい。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:06:41.96 ID:7/KRgB7pP
( ・∀・)「今ラウンジ兵が必死に追ってるから少し我慢しなさい」

从#゚∀从「いーや我慢できねえ! 俺がどんなに待ちわびたことか! 貴様はわかってねえ!」

( ゚д゚ )「そんなことより……」

ミルナが俺の言葉を遮った。
そんなことよりってなんだよ。
コイツもわかってねえ。

( ゚д゚ )「あの二人にも逃げられましたけど、どうしましょうか」

( ・∀・)「そうだね。これじゃ計画が」

ミルナがちらっと俺を見た。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:08:43.92 ID:7/KRgB7pP
( ゚д゚ )「せっかく来てもらったんだし、彼女の“泥人形”を借りるというのは?」

从#゚∀从「はぁ?」

( ・∀・)「ざっつぁぐだいでぃあ! さすがミルナ!」

从#゚∀从「なんで俺がおまえらを手伝わなきゃなんねえんだよ!」

( ・∀・)「手伝わないとエレメンタルの追跡打ち切るよ?」

从#゚∀从「てめえ……」

( ・∀・)「じゃ、さっそく準備にかかろうか!」

从#゚∀从「くそったれどもが……」

63 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:10:41.30 ID:7/KRgB7pP
〜〜〜〜〜〜


日は傾き、夕焼け空が真っ赤に染まっている。
僕らは大通りに面した建物の屋根の上で待機していた。

( ФωФ)「夕焼けが綺麗だお」

ξ゚听)ξ「その顔でそんなセリフ言わないでよ」

下の通りには大勢の人が集まっている。

( ФωФ)「どうしてこんなに人が多いんだお?」

( ゚∀゚)「弓使いのクーって言ったら絶世の美女だって噂で有名だぜ? 一目見たい野次馬が集まったんだろ」

( ФωФ)「へぇー」

65 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:12:45.98 ID:7/KRgB7pP
そんなに美女なのか。
僕もぜひ見てみたいものだ。
無事助け出せれば会えるだろう。

ξ゚听)ξ「ねえねえ、私の噂とかってないの?」

( ゚∀゚)「ない」

ξ゚听)ξ「最強の美女とか」

( ゚∀゚)「ない」

ξ゚听)ξ「戦う美しき武闘家ツンとか」

( ゚∀゚)「ない」

ξ#゚听)ξ「なんなのよ!」

(#゚∀゚)「俺に言うなよ!」

66 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:14:10.06 ID:7/KRgB7pP
急に野次馬がどよめき始めた。
城のほうが騒がしい。

ξ゚听)ξ「なにかしら」

( ФωФ)「来たのかお?」

( ゚∀゚)「もう少し引きつけてから合図を出そう」

ジョルジュが兄者に貰った青い石を取り出した。
だんだん木製の檻を乗せた車が近づいてくるのが見える。

( ФωФ)「あの車を引っ張ってる生き物はなんだお?」

ξ゚听)ξ「パパオマスね」

( ゚∀゚)「へぇー、物知りだな」

ξ゚听)ξ「村にたくさんいたじゃない」

( ФωФ)「そうだったかお?」

今初めて気づいた。
僕には既に故郷の記憶は無かった。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:16:26.66 ID:7/KRgB7pP
( ゚∀゚)「そろそろだな」

檻を乗せた馬車が僕らの真下に来た。
ジョルジュが石を撫でる。
石が明るい青色に輝き始める。

( ゚∀゚)「これであいつらに伝わるはずだ」

直後、視界の片隅で稲妻が走った。
雷鳴が轟き、振動が空気を伝わってくる。
広場に何発もの雷撃が落ちるのが見える。
ドクオが始めたんだ。

ξ゚听)ξ「派手にやってるわね」

「勇者が広場に現れた!」

「応援に向かえ!」

通りの兵士たちが広場へと走っていく。
檻の周りの兵士の数が減る。
作戦通りだ。

69 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:18:53.29 ID:7/KRgB7pP
( ゚∀゚)「準備はいいか?」

ξ゚听)ξ「オーケー」

ツンがブーツの紐を締め、拳を握る。
僕も剣の柄に指をかける。

( ゚∀゚)「よし、行くぞ!」

屋根から下の大通りへと飛び降りる。
敵の目が一斉に僕らに向けられる。

「なんだ、おまえt」

ξ゚听)ξ「とりゃ!」

ツンの踵が近づいて来た兵士の顎を捉えた。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:20:49.13 ID:7/KRgB7pP
「敵だぁ!!」

剣を抜く。
減ったとはいえ、まだかなりの数の兵士が残っている。

( ゚∀゚)「早く檻を壊せ!」

ξ゚听)ξ「まかせて!」

ツンが身を屈める。
敵の剣をかわし、そのまま足を払う。
さらに倒立。
横にいた二人の兵士を蹴り飛ばす。
そのまま手で地面を弾き、宙返りしながら別の兵士の顔を踏みつけ、跳躍。
彼女の細い身体が宙を舞った。
そして車の上に飛び乗った。

( ゚∀゚)「ナイス!」

ジョルジュが手を叩いた。

( ФωФ)「ツンは身軽だお」

「死ね!」

(;ФωФ)「うおっ!?」

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:22:34.98 ID:7/KRgB7pP
振り下ろされた剣を弾き返し、剣の腹で敵を吹き飛ばす。
敵とはいえ、相手は人間だ。
なるべく殺したくはない。
しかしそれでは存分に戦えない。
どうしたものか。

「このっ!」

( ФωФ)「そうだお!」

敵の攻撃を剣で受け止め、反対の手で鞘を構える。
それで敵の鳩尾を突く。
さらに後ろで剣を振りかぶっていた兵士の腕を叩き、顎を殴り飛ばす。
一瞬、周りの敵が怯んだ。

( ФωФ)「二刀流だお! 死にたいヤツから前に出るお!」

両手で剣と鞘をくるりと回す。
決まった。

( ゚∀゚)「バカやってねえで真面目にやれ!」

バカとは失敬な。
これでも僕は大真面目だ。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:24:58.74 ID:7/KRgB7pP
ξ;゚听)ξ「みんな、ちょっと!」

ツンが叫んだ。

( ФωФ)「どうしたお!?」

僕が振り向いた瞬間だった。
木で出来た檻は粉々に砕け散った。
ツンが吹き飛ばされる。

( ゚∀゚)「危ねえ!」

ジョルジュが魔法でツンを受け止める。

ξ;゚听)ξ「助かったわ」

( ФωФ)「何が起きたんだお?」

ξ;゚听)ξ「わかんない。クーが急に……」

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:27:42.77 ID:7/KRgB7pP
悲鳴。
兵士たちが吹き飛ばされていく。

(;゚∀゚)「おいおい、あれは本当にクーか?」

ジョルジュの目線の先には二人の人影。
一人は兄者にそっくりな顔をしている。
そしてもう一人は女の人だ。
たしかに綺麗な人だ。
しかし兵士たちを紙くずのように吹き飛ばしていくその姿はとても人間には思えない。

川 ゚ -゚)「……」

(;ФωФ)「うっ」

目が合った。
彼女は片手で軽々と馬車を持ち上げた。
そして、投げた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:30:21.44 ID:7/KRgB7pP
(;ФωФ)「うおっ!?」

僕はすんでのところでそれを避けた。
馬車が音をたてて砕け散る。
信じられない。
どこの世界に馬車を片手で投げつける人間がいるんだ。

(;ФωФ)「こんな化け物が仲間だったのかお?」

ξ;゚听)ξ「バカ、どう見ても人間じゃないわ!」

(;ФωФ)「じゃあ本物はどこだお!」

ξ;゚听)ξ「私が知るわけないでしょ!」

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:32:31.27 ID:7/KRgB7pP
そのとき、身の毛もよだつような鳴き声が辺りに響き渡った。

ξ;゚听)ξ「何よこれ!」

僕もツンも思わず耳を塞いだ。
血が凍ってしまうような感覚に襲われる。

(;ФωФ)「うおおお……」

僕は耳を押さえながら空を見上げた。
赤く染まった空を、たくさんの黒い影が舞っている。

ξ;゚听)ξ「わ、ワイバーン?」

(;゚∀゚)「マジかよ……なんでこんなに……」

空を覆い尽くす程の数のワイバーンが上空を旋回している。
兵士も野次馬も皆、恐怖で凍りついていた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:34:53.45 ID:7/KRgB7pP
ξ;゚听)ξ「ブーン、危ない!」

(;ФωФ)「お?」

振り返ると目の前に拳が迫ってきていた。
屈んでそれを避け、距離をとる。
兄者の顔をしたその化け物はゆっくりと僕の方に向き直った。
こいつらの存在を忘れていた。

(;ФωФ)「おまえらなんなんだお!」

(´<_` )「……」

化け物が腕を振り上げる。
踏み込んで体を捌き、腕をかわす。
そして剣を肩めがけて振り下ろす。

(;ФωФ)「うおっ!?」

肉を斬った感触はない。
僕は思わず前につんのめった。
その斬り口を見て、僕はそいつが生き物ではないことを知った。

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:36:31.28 ID:7/KRgB7pP
( ФωФ)「こいつ、泥でできてるお!」

そう叫びながら僕はそいつの首を斬り落とした。
兄者の形をしていたそれは、一瞬にしてただの泥へと姿を変えて崩れた。
ちょうどツンが、もう一体の化け物の心臓にナイフを突き刺しているところだった。

ξ゚听)ξ「泥になっちゃったわ!」

( ゚∀゚)「おい、そんなことより……」

鳴き声。
僕は耳を覆った。
ジョルジュも顔をしかめて耳を塞ぐ。

「く、来るぞぉ!!」

人々の悲鳴。
空からワイバーンたちが滑空してくるのが見える。
その光景はもはや恐怖でしかない。

(;ФωФ)「マジでヤバいお!」

(;゚∀゚)「よし、逃げよう!」

ξ;゚听)ξ「賛成!」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:38:25.13 ID:7/KRgB7pP
〜〜〜〜〜〜



(;'A`)「なんなんだよこれは……」

こんな数のワイバーン見たことがない。
軽くラウンジを滅ぼすぐらいの数だ。

(;^Д^)「逃げましょうって! 食われますって!」

その方がよさそうだ。
さっきから伝心石も光りっ放しだ。
おそらく“作戦中止”を意味する信号だろう。
さっきまで俺たちと戦っていた兵士たちも、今はワイバーンのことで精一杯の様子だ。

(;'A`)「とりあえず逃げるぞ」

( ・∀・)「やあやあ」

行く手を遮られた。
目の前にはにやついた顔の男が立っていた。
コイツ、見覚えがある。

85 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:40:35.38 ID:7/KRgB7pP
( ・∀・)「処刑場で騒ぎがあるっていうから来たのに」

男が背負っている、背の丈ほどある長い杖。
間違いなく賢者の杖だ。
隠れ村を襲ったあの賢者か。

( ・∀・)「こいつら本当に勇者の仲間なの? 見るからに弱そうじゃん」

( ゚д゚ )「アレは間違いないですね」

目の大きな男が俺を指差した。
コイツも見たことがある。
守備隊の男だ。

( ゚д゚ )「魔法使いです。なかなかの腕ですよ」

( ・∀・)「ふーん」

賢者は興味無さそうな様子で頭をかいた。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:42:31.32 ID:7/KRgB7pP
('A`)「おまえら、クーはどうした」

( ・∀・)「こっちが聞きたいぐらいだよ」

('A`)「どういうことだ?」

( ・∀・)「逃げられちゃったんだよ」

賢者は笑いながら言った。
そうか、クーは無事か。
俺は少し安心した。

( ・∀・)「まあ別に関係ないけどね」

('A`)「?」

( ・∀・)「勇者の一味である君に面白い話をしに来たんだ」

男はにやつきながら通りを指差した。

( ・∀・)「今、君の仲間たちは通りで馬車を襲ってる」

( ・∀・)「君たちは処刑場を襲撃している」

( ・∀・)「そして空にはたくさんのワイバーン」

( ・∀・)「君にはこの意味がわかるかな?」

男はローブの下から何かを取り出した。
角笛?

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:44:25.18 ID:7/KRgB7pP
( ・∀・)「きっと大事件になるよ」

男は笑った。

( ・∀・)「“勇者一味、悪の化身ワイバーンの大群を率いてラウンジを壊滅させる”」

(;'A`)「まさか……」

男が角笛を吹いた。
背筋の凍るような叫び声とともに、ワイバーンが滑空を始める。

( ・∀・)「これで僕らの仕事がやりやすくなるよ」

悲鳴が聞こえる。

(;'A`)「てめえら……」

信じられない。
俺らをはめるためにワイバーンに街を襲わせているというのか。

88 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:46:14.70 ID:7/KRgB7pP
( ・∀・)「わざわざ罪被りに来てくれてありがとねー」

男がもう一度角笛を吹く。
一匹のワイバーンが下りてきた。
男と守備隊はその背中に飛び乗った。

( ・∀・)「せいぜい生き残ってねー」

ワイバーンが飛び立つ。
あっという間に奴らの姿は見えなくなった。

(;'A`)「くそっ!」

(;^Д^)「とりあえず皆さんと合流しましょう!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」

ワイバーンの爪が目の前の兵士を捕らえた。
哀れな兵士は空中へとさらわれる。
俺は目をそらした。
しかし叫び声から彼の末路は容易に想像できた。

(;^Д^)「……」

(;'A`)「走るぞ!」

逃げ惑う人々をかき分けて俺たちは走った。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:47:54.13 ID:7/KRgB7pP
〜〜〜〜〜〜


まさに地獄絵だった。
人々はただ怯え、逃げ惑うことしかできない。
ときどき空中で引き裂かれた肉片が血と一緒に降ってくる。

(;ФωФ)「どこへ逃げるんだお!」

ξ;゚听)ξ「建物の中へ逃げましょ!」

ツンがそう言った瞬間、その選択肢は消えた。
目の前の建物に数体のワイバーンが突っ込んだのが見えたからだ。
中にいたら助かる見込みはないだろう。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:49:37.52 ID:7/KRgB7pP
(;゚∀゚)「とりあえず空が狭いところへ!」

僕らは路地裏へと逃げ込んだ。
悪魔のような鳴き声。
振り返るとワイバーンが路地裏の入り口にいた。
翼が引っ掛かって通れないようだ。
蛇のように長い首を振り回し、赤い獰猛な瞳でこちらを睨んでいる。

(;ФωФ)「すぐそこにいるお! 早くもっと奥に!」

ξ;゚听)ξ「押さないでよ!」

路地裏を抜けると川が流れていた。
川?
そういえば何か忘れているような。

(;ФωФ)「兄者はどこだお!?」

(;゚∀゚)「やっべえ、忘れてた!」

ξ゚听)ξ「橋はこの先よ!」

( ゚∀゚)「急ぐぞ!」

94 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:51:30.01 ID:7/KRgB7pP
川沿いに必死に走る。
やがて橋が見えてきた。

( ´_ゝ`)「うおーい」

兄者が船の上でのんきに手を振っている。

( ´_ゝ`)「こりゃ一体なんの騒ぎだ? 気持ち悪い叫び声が聴こえるし。あれ、おまえら弟者とクーは?」

( ゚∀゚)「作戦失敗だよ! とにかく逃げるぞ!」

ジョルジュが橋から船に飛び乗った。
ツンも欄干に足をかける。

( ´_ゝ`)「失敗だぁ? おまえら何を……」

兄者の顔に恐怖が浮かぶのが見えた。

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:54:11.46 ID:7/KRgB7pP
直後、耳をつんざく鳴き声。

(;´_ゝ`)「ブーン、後ろ!!!」

振り返ったときにはもう遅かった。
ワイバーンの鉤爪が僕の肩に食い込んだ。
ふわりと身体が浮く。

ξ;゚听)ξ「ブーン!!」

ツンが僕の足にしがみついた。
肩に激痛が走る。
あっという間に僕らは空中に運ばれていた。

(;ФωФ)「ツン! お願いだから放すお!」

ツンの体重がワイバーンの爪を余計に肩に食い込ませる。
かなりの量の血が流れ出るのを感じる。

ξ;゚听)ξ「もう遅いわよ!」

たしかにもう遅い。
地面があんなにも遠い。
このまま巣に連れ帰るつもりなのだろうか。
ラウンジが遠ざかっていく。

98 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:56:07.28 ID:7/KRgB7pP
ξ;゚听)ξ「横!」

ツンが叫んだ。
別のワイバーンが僕らに向かって飛んでくる。
僕は剣を抜いた。

(;ФωФ)「くっ!!」

牙を剣で受け止める。

ξ#゚听)ξ「このっ!」

(;ФωФ)「あああああ!!!!」

ツンが足でワイバーンの顎を蹴り砕いた。
その反動でさらに僕の肩に鉤爪が深く食い込む。
失神しそうな痛みをなんとか堪える。
ツンに顎を砕かれたワイバーンが地面へと落ちていくのが見えた。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:58:25.06 ID:7/KRgB7pP
僕を掴んでいるワイバーンが鳴き声をあげた。

(;ФωФ)「うおおっ!」

ξ;゚听)ξ「ああっ!」

両手が塞がっているせいで耳を覆えない。

ξ;゚听)ξ「ちょっとちょっとちょっと……」

僕らはその光景に戦慄した。
今の鳴き声に呼び寄せられ、数体のワイバーンがこちらに向かって来る。

(;ФωФ)「終わったお……」

諦めるしかない。
あの数のワイバーンとこの状況で戦うのは不可能だ。
そのとき、ツンが叫んだ。

ξ;゚听)ξ「ブーン、下!」

僕は下を見た。
湖だ。
水ならこの高さでも助かるかもしれない。
僕は迷わず肩を掴んでいたワイバーンの足を斬った。

102 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 00:59:57.75 ID:7/KRgB7pP
(;ФωФ)「うおおおおおおおお!!!」

ξ;゚听)ξ「きゃあああああああ!!!」

水面に叩きつけられる。
深さがあって助かった。

(;^ω^)「ぶはぁ!」

顔を出すとワイバーンたちが諦めて飛び去っていくのが見えた。
やつらは水が苦手なのか。

ξ;゚听)ξ「はぁ、はぁ、助かったわ……」

(;^ω^)「痛っ!」

肩にはまだワイバーンの足が食い込んだままだった。

ξ゚听)ξ「あらー、かなり深いわね」

(;^ω^)「あなたのせいなんですけど」

ξ゚听)ξ「?」

105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 01:02:09.90 ID:7/KRgB7pP
僕らは湖岸に上がり、傷の手当てをした。
目が霞む。

(;^ω^)「頭がくらくらするお」

ξ゚听)ξ「あたりまえよ。そんな血流しながら水の中泳いだんだから」

僕は横になった。
辺りはだいぶ暗くなっていた。

ξ゚听)ξ「ラウンジからどのくらい離されたのかしら」

空から見た景色からして、相当離されたのだろう。

ξ゚听)ξ「みんな大丈夫かしら」

( ^ω^)「きっと大丈夫だお」

ジョルジュだってドクオだって強いから大丈夫だろう。
問題は僕たちだ。
これからどうしたものか。
ヒートを助け出すにしてもなんの手がかりも無い。
クーという人だって、僕は全く知らない。
僕の記憶?
今さら取り戻したいとは思わなかった。
このまま何もかも忘れて、どこかでひっそりと暮らしたほうが楽に違いない。
世界が再び魔王の手に落ちたら、それはそれだ。
もう正直、僕は旅の目的を失っていた。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 01:03:39.39 ID:7/KRgB7pP
日は完全に沈み、湖岸は暗闇に包まれた。
僕らは集めてきた木で焚き火をおこし、濡れた服を脱いで干していた。
焚き火のおかげで寒さもなんとか堪えられる。

( ^ω^)「ツンが魔法使えるなんて知らなかったお」

ξ゚听)ξ「昔少し使ったじゃない。火の魔法は旅の基本よ」

ツンが指先に小さな火を灯してみせた。
その灯りで彼女の裸の上半身が照らされた。
何の感情もわき上がってこない。
それは決してツンの胸が小さいからとか、そういう理由ではないと思う。
しかし、彼女の裸からは何も感じることができなかった。
僕にはそれが、ただのガラス細工のように見えた。

ξ///)ξ「な、何じろじろ見てんのよ!」

(;^ω^)「み、見てないお」

よかった。
こういうやり取りはまだ忘れちゃいない。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 01:05:26.54 ID:7/KRgB7pP
静かだ。
木の焼ける音と湖の波の音が微かに聴こえるだけ。
空にはたくさんの星が見える。
このままここでのんびりと暮らすのもいいかもしれない。
湖で魚を釣って、森で木の実を取って、そのうち自分たちで家を建てて。
もう勇者だったなんて過去は忘れて。
もう世界のことなんて忘れて。

ξ゚听)ξ「明日は西のオカルト山脈を越えるわよ」

そんな僕の妄想をツンが遮った。
しかも相当厳しい現実まで突きつけてきた。

(;^ω^)「なんでまたそんな……」

ξ゚听)ξ「ラウンジに戻るのは危険でしょう?」

(;^ω^)「たしかにそうだけど……」

山脈を越える?
なんの準備も無しに?

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/05/11(月) 01:06:56.38 ID:7/KRgB7pP
ξ゚听)ξ「大丈夫よ。オカルト山脈は一度越えたことあるじゃない」

全く記憶にございません。

(;^ω^)「食料とかは……」

ξ゚听)ξ「ふもとに小さな村があったはずよ」

(;^ω^)「せめてみんなと合流とかは……」

ξ゚听)ξ「目的地は一緒なんだからそのうち会えるでしょ」

(;^ω^)「目的地って……」

ξ゚听)ξ「死の山でしょ?」

マジかよ。
僕はため息をついたが彼女には聴こえなかったようだ。


つづく


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