( ・∀・)モララーと不思議な消しゴムのようです

103 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:33:22.25 ID:lJlGFWVL0
 
.              Chapter II
               第二章
 
 
                -1-
 
 突き抜けるような青空。
 
モララーはクーと、家から大分離れた県外の、とあるショッピングモールの駐車場に来ていた。
そこは空色の海に面していて、近くにある広場の遊具で遊ぶ観光客の子供の姿もあった。
 
 辺りを潮風が包み、水鳥が飛んでいる。
 
 
川 ゚ -゚)「海か、初めて見たが良いものだな」
 
( ・∀・)「海ってことは知っているのかい」
 
川 ゚ -゚)「うーん、‥‥知っているというより、知っていた、だな。
     もう少しだけ海を見ていていいか?」
 
( ・∀・)「‥‥時間の許す限りなら、いくらでも見ていていいよ」
 
 わざわざ早起きして来ただけの価値はある。
モララー自身、内陸の県に住んでいるので海は懐かしい存在であった。
一人暮らしをするようになってからというもの、なかなか遠くに旅行する機会がなかったのだ。
 
 
そして予想通り、クーの姿は見とれてしまうほどにその景色に溶け込み、より一層輝いていた。

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:34:45.25 ID:lJlGFWVL0
 
 
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105 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:37:57.31 ID:lJlGFWVL0
 
家にあった、昔にモララーが履いていた青いサンダルでコンクリートの堤防の上に立ち、
行く途中に買った、赤いリボンの麦わら帽子を潮風に攫(さら)われないように左手でおさえながら、
 空色のワンピースを身にまとい、快晴とそれを映す海の狭間に身を委ねていた。
 
 
川 ゚ー゚)「‥‥‥‥」
 
 まるで、水彩画のようにも思えるほどだった。
この景色を四角に切り取って、いつでも眺めることができたらどれだけ幸せなのだろうか。
 雲はひとつなく、太陽はぎらぎらと照り輝いていた。
さざ波の音、風の通り抜ける音――たまに水鳥の鳴き声が聞こえる。
 
 実際は5分程しか経っていなかったが、
モララーは、そのなかでどのような時間の流れ方を感じたのだろう。

106 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:42:37.15 ID:lJlGFWVL0
 
川 ゚ -゚)「うん、満足した。ほら、君も満足したろう?」
 
 
( ・∀・)「ああ。んじゃ、店内で買い物でも楽しもうかな」
 
川 ゚ -゚)「そうだな」
 
 
 そのショッピングモールは、道の駅というには幾らか大規模な複合店で、
大きな長い円筒を縦に切って、切り口を下にして地面に置いたような形をしている。
 
天井の一部は強化ガラスになっていて、店内は光に溢れている。もちろん通路の明かりなどついていない。
中には十字に、幅のある通路が走っていて、海鮮系の食処や地元も土産屋など、所狭しと犇(ひしめ)いている。
 
 
 三連休に合わせたのか観光客も多かった。
おかげでただでさえ気温が高いのに、余計暑く感じる。
この建物は日中扉を全開にしているので、冷房なんてありえないのだ。
 
 
 まずは喉の渇きを潤すために、何か飲み物でも買おうか。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:46:21.73 ID:lJlGFWVL0
 
  ガタン。
 
 自販機が投げやりに黒いラベルの缶コーヒーを吐き出した。
それを取り上げ、タブを起こし一口含むと、一杯にあの苦味が広がる。
 
(゚、゚トソン「はぁ」
 
(*゚∀゚)「どうしたい、溜め息なんぞ吐いて」
 
(゚、゚;トソン「わ、そうやって突然話し掛けるの止めてくださいよ。
      それにしても溜息だって吐きたくなりますよ。休日出勤なんて、全く聞かされていませんでしたし」
 
(*゚∀゚)「アンタは木曜コチラに赴くとき、一日休んだだろ? その振替みたいなもん、ってことで納得しなさんな。
     それにアタシだって境遇は同じさ。振り回される上司の身になってほしいもんさ」
 
(゚、゚;トソン「あ、申し訳ございません‥‥?」
 
(*゚∀゚)「ふふ、アンタが謝る必要なんてないさね。お互い、聞いたこともないような無茶ばかりをする会社の被害者だわ。
     しかしアンタ、コーヒーばかり飲んでるね。 コッチ来てから、少なくとも二桁は空けてるんじゃないかい」
 
(゚、゚トソン「よく見ていらっしゃいますね‥‥」
 
(*゚∀゚)「それが上司の務めのひとつでもあるからね」
 
 
(゚、゚トソン「‥‥あれ、つーさんて煙草を吸われるんですか」
 
(*゚∀゚)「ありゃまだ残ってんのかい。
     いやね、昼にヤニ臭い奴と会ってきたのさ」

109 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:49:31.80 ID:lJlGFWVL0
 
(*゚∀゚)「でもアタシはそれ、嫌いじゃないんだ。
     コーヒーの次くらいに好きな匂いかも知れないさね。
     ‥‥そういやアンタはコーヒーの何が好きで飲んでんだい」
 
(゚、゚トソン「好きってより、私が飲むのは、彼氏の影響なんですよ」
 
(*゚∀゚)「ほお。分からんでもないよ。
     どうやらアンタ、かなり彼氏に依存しているようだし」
 
(゚、゚;トソン「え‥‥まぁ、依存しているでしょうね」
 
 会社の中の廊下の一角、追いやられたように佇む休憩スペース。
プールサイドにあるような白いテーブルに2つの座りにくそうなイスが付き、
自動販売機が壁に沿って二台、プラスチックでできた観葉植物が角に腰掛けていた。
 
足元にはすっかり汚れた、ネズミ色とオレンジ色した絨毯が交互にはめ込まれている。
 唯一の窓も水垢だらけで、澄んでいるはずの空がひどくくすんで見えた。
 
(゚、゚トソン「可笑しな話なんですけど私、いまも、
     彼が助けてくれるんじゃないかと思っているんですよ」
 
(*゚∀゚)「その悩みの種が彼氏なのにかい?」
 
(゚、゚トソン「ええ」
 
 
(゚、゚トソン「‥‥私は彼が居る限り、彼が手を引いてくれないと前に進めないんですよ」
 
 空になった缶コーヒーをゴミ箱に落とす。金属同士がぶつかり合う音が響いた。

110 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:52:33.03 ID:lJlGFWVL0
 
あるお土産屋の、とある陳列スペース。
そこは、数々のヌイグルミで溢れていた。
 
 
( ・∀・)「何をそんなに見ているんだい」
 
川 ゚ -゚)「このイルカのヌイグルミ、可愛くないか?
     ほら、腹を押すと変な鳴声がするぞ」
 
クーがイルカのお腹を押すと、キュウキュウという音がした。
 
(* ・∀・)「ぷッ‥‥くくく」
 
川 ゚ -゚)「おいどうした、ちょっと気持ち悪いぞ」
 
 
 こんなこどもが買うような玩具を手にして、
無表情にきゅうきゅう、なんて笑わずにはいられないだろう。
 
( ・∀・)「いやいや、見苦しいところをお見せしたよ。
      そんなに気に入ったなら、買ってあげようか」
 
川 ゚ -゚)「い、いいのか。 別段、取り上げて欲しいというわけではないのだが」
 
 発言に態度が噛み合っていない。
顔にこそ出ないが、勘付ける程度に挙動がおかしかった。
まあ彼女を知らない人だったら普通のように見えるのだろうが。
 
 まったく、ある意味正直なヤツだ。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 12:58:37.00 ID:lJlGFWVL0
 
(゚、゚トソン「そんなに私って正直ですかね?」
 
(*゚∀゚)「大体アンタはアタシに『彼に会いたい、助けてもらいたい』としか、
     言っていないようなもんさね」
 
(゚、゚トソン「うーん‥‥」
 
 
 窓のほうに目をやる。
確か、私はアッチの方から来たんだっけか。
 
(*゚∀゚)「アンタ見てるともどかしいわ。
     若い頃のアタシなんて、狂ったように愚直だったけどね」
 
(゚、゚トソン「狂ったようですか」
 
(*゚∀゚)「今になって思うと、ドン引きされてもおかしくなかったさね。
     こう考えてみると、アイツは懐の深いヤツだったわ」
 
つーさんはその安っぽいプラスチックのテーブルに肘を立て、頬杖をしながら窓のほうに顔を向けた。
 その横顔は、普段のお喋りな印象とは掛け離れた、憂いのようなものを感じさせる。
 
 肩にかかる程度の長さの茶色っぽい髪の毛を、余った手で弄りながら、
独り言のようにボソッと何かを呟いて緩ませた頬は自嘲しているようでもあった。

112 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:01:49.92 ID:lJlGFWVL0
 
 広々としたのトランクには、小さな紙袋がひとつ。
その前で腕組みをしながら、モララーはクーに話し掛けた。
 
( ・∀・)「本当に、このイルカのヌイグルミだけで良いの?」
 
川 ゚ -゚)「居候の分際で、そんなにいろいろ買って貰うのも気がひけるしな。
     昼ご飯だって結構なものをいただいてしまったし。
     第一、そういう君こそ何も買ってはないじゃないか」
 
( ・∀・)「僕は良いの。まだ寄るところがあるしね」
 
 
 そう言うとモララーはバタンとトランクを閉め、
助手席のドアを開けた後、反対側の運転席に乗り込んだ。
 続いて、クーもたどたどしく助手席に乗り込む。
 
( ・∀・)「繰り返すけど、シートベルトをしっかりつけてくれよ」
 
川 ゚ -゚)「ああ、シートベルトってコレだよな。
     全くいまいち、この車というやつのシステムが分からん」
 
 
 四苦八苦するクーを横目に、モララーは鍵を回す。
エンジンのかかる音と共に、車は煙を吐き出しはじめた。

114 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:04:49.26 ID:lJlGFWVL0
 
( ・∀・)「さて、多分1時間以上かかるけど、
      起こすのが面倒だから寝ないでくれよ」
 
川 ゚ -゚)「来る途中に寝てしまったのは、朝早かったからなだけだ」
 
 
 改めて思うが、クーは分かり易いヤツだ。
こっちが欲しい返事をそのままするんだから面白い。
 
 運転席の窓からは海の香で一杯の風が吹き込み、
その外では堤防とテトラポットの風景が変わらず流れつづけている。
助手席から吹き込むそれは、クーの艶やかな髪を波のようにゆらゆらたなびかせている。
その向こうでは、黒ずんだ木造の古めかしい民家や民宿の景色が流れつづけている。
 
クーは膝の上に麦わら帽子をのせ、全開の窓に肘を置いて、
この見慣れない街並みを精一杯に楽しんでいたようだった。
 
それが段々都会じみたものになりはじめた辺りで、車は海沿いを離れ、市街へと進む。
 目的地は、この付近では一番大きいアーケード街だ。
適当に空いている駐車場に車をとめると、案の定、隣で寝てしまっているクーを起こす。
 
 
( ・∀・)「ほらほら、着いたよ」
 
川 ー ー)「うーん、あと8時間だけ‥‥」
 
(;・∀・)「‥‥‥‥」

115 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:08:01.32 ID:lJlGFWVL0
 
 ようやく目を覚ましたクーを連れ、アーケード街を歩く。
 
といっても、クーがサンダルのままではまずいので、先に靴屋に寄って、
お洒落な靴や、歩きやすいワンピースにも合うような靴を買っておいた。
 今更だがクーは靴を持っていなかったのだ。
 
背の高い建物がそこらに居座り、どれも賑わっているように見えた。
ここでも人は溢れていて、様々な表情をした様々な人々とすれ違う。
 時刻は3時半を少し回った辺り、まだまだ太陽の日差しが鋭い。
 
( ・∀・)「じゃあ、そこの洋服屋にでも入ってみようか」
 
川 ゚ -゚)「別に構わんが、どうして洋服屋なんだ?」
 
 どう答えようか少し迷ったが、
隠す必要もないのでここは正直に言う。
 
( ・∀・)「単純にクーに服を買ってあげようと思っただけだよ。
      ほら、クーはワンピースしか服がないじゃないか」
 
川 ゚ -゚)「なんだ、そんなことか。全く要らん世話を焼かなくてもいいのにな」
 
( ・∀・)「まぁまぁ」
 
 
 ひとまず店内では、2人は別行動をすることになった。
ここは洋服屋などという言い方があまり似合わない店で、
海外の流行まで意識していそうな、いかにも今風の服も多く取り揃えてあった。
やはりクーは女の子のようで、その広い店内を忙(せわ)しなくうろついている。

117 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:13:26.36 ID:lJlGFWVL0
 
「あのー、アチラのワンピースの方の彼氏ですか?」
 
 
( ・∀・)「え、まぁそんなところです」
 
 厄介な女店員に捕まってしまった。
都会のこういった店の女店員は、タチが悪いのは言うまでもない。
 
「彼女さん、スタイルがとても良いので、このデニムスカートとか‥‥
 新作の、そちらのマネキンが召しているお洋服も良いんじゃないでしょうか?」
 
( ・∀・)「はぁ」
 
「ほらほら、彼氏さんから薦めてあげれば、彼女さんきっと喜びますよ」
 
( ・∀・)「そうですかねぇ」
 
「それでですね、いまコチラのお洋服が、
 これだけのデザインで、これだけの生地を使っているのに、とーっても安いんです」
 
(;・∀・)「へぇ‥‥」
 
 
川 ゚ -゚)「おい、ちょっと試着したの見てみてくれないか?」
 
(;・∀・)「あぁ、分かった。すぐに行くよ」
 
なんとか助かったみたいだ。今回はクーに感謝しよう。

120 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:17:36.61 ID:lJlGFWVL0
 
川 ゚ -゚)「ほらほら、どうだ」
 
 クーはひらりと一回転してみせる。
わりと濃い青のチュニックに、膝が隠れるほど丈の、
タイトで色褪せた――空色っぽいジーンズを合わせていた。
 
 いかにもクーらしいようなファッションだった。
 
 
( ・∀・)「すごく良いと思うよ」
 
川 ゚ー゚)「そうか、じゃあこれにする」
 
 簡素なデザインの割には驚くような値段がしたが、
一人暮らしでお金を使う機会のあまりないモララーにとっては、そこまで大した痛手でもなかった。
 
 折角なので、ついでにもう数着をクーに選ばせて買ってやっておく。
 
「ありがとうございましたー」
 
 
川 ゚ -゚)「あの店員はしつこかったみたいだな」
 
( ・∀・)「クーもいろいろ言われたのかい」
 
川 ゚ー゚)「いや、君と女店員のやりとりを見ていたんだよ。
     困っている君の姿、なかなか見ていて面白かったぞ」
 
(;・∀・)「さいですか」

121 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:23:31.85 ID:lJlGFWVL0
 
それからしばらく歩き、気紛れに色々な店に寄ってみたりもした。
 
 
最後に、ということで入ってみたのは名の通った大型デパートであった。
 
 入口の案内掲示板によると、10階まであるらしい。
階が一桁までしかない地元の駅ビルとは比べものにならない。
 
 
川 ゚ -゚)「ラストはデパートか」
 
( ・∀・)「うん。また別行動で良いよね? お金はある程度渡しておくから。
     パジャマといったような他の服や、歯ブラシみたいな生活必需品も併せて買っておいてほしいんだ」
 
川 ゚ -゚)「ここまでしてもらうと申し訳ないな」
 
( ・∀・)「別に遠慮することはないさ」
 
川 ゚ -゚)「そう言われてもだな」
 
( ・∀・)「いいさ、とにかく終わる頃には本屋にいるだろうから一通り買い揃えたら来てね」
 
川 ゚ -゚)「‥‥わかった」
 
 
 クーより先に、足早に歩き去った。
 
思っていた以上にそこらじゅう人がいて息苦しいので、本屋へ行く前に屋上で休むことにした。
 さすがにクーも10分やそこらでは来ないだろう。エレベーターで一気に上を目指した。

122 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:26:09.54 ID:lJlGFWVL0
 
 屋上に出ると、一気に視界が開けた。
 
日も傾き始め、小さな野外遊園地で遊ぶ子供もまばらであった。
すぐ近くに自動販売機があったので、あれこれ考えず目についた缶コーヒーを買い、
塗装が剥がれて錆付きつつある、寂しいベンチにどっかり腰をおろした。
 
 缶のタブを起こし、コーヒーに口をつける。
大して美味いわけでもなかったが、今はそれでも充分だった。
田舎とはまるで違う、無機質な建物が届かない空を目指しているだけの景色。
 真っ白な頭で、何となくそれを見つめていた。
 
ふと、小さな子供を連れた若い夫婦の姿が目に入った。
 幸せを惜しげもなく噛みしめているその姿を、
なんだか見ていられなくなってコンクリートの地面に視線を落とした。
 
なにか考えなくてはいけないのは確かに理解できているのだが、
 それ以上に、考えたくない気持ちがあるのも確かだった。
 
今日の帰り際に、旅行のことをちょっとクーに話してみようか。
 
 きっとクーも、喜んでついてきてくれるだろう。
この都会とはまるで反対の、山間の宿にはもう数週間前から予約が入っている。
 思い切り背筋を伸ばして休んでみたいものだ。
 
 
 太陽がビルの後ろに隠れはじめ、辺りが燈色に染まる。
例えばあのビルにいる人からは、自分やこの夕陽はどう見えているのだろうか。

123 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:28:02.28 ID:lJlGFWVL0
 
(*゚∀゚)「もう会社は終わったのに、なんでまたアンタはこんな寂しい場所にいるのさ」
 
(゚、゚トソン「ちょっと夕陽でも見ていただけです」
 
(*゚∀゚)「ふぅん‥‥」
 
 
(゚、゚トソン「つーさん」
 
(*゚∀゚)「なんだい」
 
 
(゚、゚トソン「私、彼のところに行ってきます」
 
(*゚∀゚)「‥‥そうかい。ま、頑張りなよ」
 
(゚、゚トソン「ありがとうございます」
 
 
(*゚∀゚)「さて、じゃコーヒーでも飲みにいこうかね」
 
(゚、゚トソン「またですか」
 
(*゚∀゚)「あっ! アタシのミチノナンビョウが疼いたら、誰が介抱してくれるのかしら」
 
(-、-トソン「はいはい、素直なつーさんを介抱するのはこの私めですよ」
 
 
 そうして誰も居なくなった休憩スペースは、じきに真っ暗になった。

124 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:36:14.50 ID:lJlGFWVL0
 
             -2-
 
 
 日曜日の天気は晴れ時々曇り。
しかし、雨の心配は無いとのことだ。
 
 今日の旅行に際して、クーは快く同行してくれた。
目的地は、足を海まで伸ばした昨日のとは違って、そう遠くない県境付近である。
 
 車は山間の曲がりくねった道を進んでいた。 
モララーの住む県は山に囲まれているため、県境に近づくにつれ起伏や曲折が激しくなるのだ。
運転席のミラーにぶら下がっている小さなキーホルダーも大きく揺れていた。
  
 
川;゚ -゚)「すまん、ちょっと気分が悪い」
 
( ・∀・)「あぁ、慣れない人には確かにキツイかもね。
      近くにコンビニがあるはずだから、ちょっと寄ってこうか」
 
川; - )「悪いな‥‥」
 
 
助手席でクーは、左腕で顔を覆いへばっている。
 
 気分が紛れるようにと、ラジオを入れてみた。
ピコピコした音楽と共に、取り留めのないような話が延々と流れる。
 
 
しばらくして、山道のカーブの膨れからそれが見えてきた。

125 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 13:42:00.24 ID:lJlGFWVL0
 
 コンビニといっても都会のものとは違って、すっかり山にのまれてしまっているようだった。
この方向の他県へ抜ける度にこの道を通るのだが、モララーは同名の店舗を他では見たことがない。
 
( ・∀・)「コンビニには着いたけど、大丈夫かい」
 
川;゚ -゚)「なんとかな。‥‥とはいっても少しは休ませてくれよ」
 
( ・∀・)「じゃそのあいだ僕は外をふらふらしているから、
      気分が良くなったら捕まえにでも来てくれ」
 
川;゚ -゚)「分かった」
 
一応冷房は入れたままにして、ドアをバタンと閉める。
ついでに、念のため鍵の場所と抜き方も教えておいた。
 
 
( ・∀・)「ふぅ」
 
駐車場の片隅の木陰で、背骨を思い切り伸ばしてみる。体のもやもやがすぅっと抜けていく感じが堪らない。
 
少し歩いて、車道の向こうのガードレールに浅く腰掛け、目下の谷を見下ろす。
ほとんど舗装されていない石たちの間を、水が心底気持ちよさそうに流れている。
 その川端のところどころで、遊ぶ子供達や家族連れを見ることができた。
暑さ寒さも彼岸まで、なんて言われているが、彼岸を回った今日も、まだ半袖で充分なくらいの残暑。
 
日常、何もしないで居ることには、なんとも耐えがたい焦燥感や虚無感を覚えずにはいられないが、
こういった自然に囲まれていると、このゆっくりとした時の流れにすら不満を抱いてしまいそうだ。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:16:34.25 ID:lJlGFWVL0
 
川 ゚ -゚)「こんなところで待っていたのか」
 
 そう言いながらもクーはコチラに歩み寄る。
 
 今日のクーの服は、昨日買った内のひとつだ。
白を基調としたワンピースで、腰から足元にかけて蒼の生地が入っている。
 
( ・∀・)「もう具合のほうは良いのかい?」
 
川 ゚ -゚)「おかげさまでな。 それにしても清々しい自然だな。
     いままで、これを感じられなかったんだと思うと惜しいくらいだ」
 
 そよそよと風が通り過ぎ、クーの髪が少しだけ揺らいだ。
顔にかかったその真っ黒な髪を、こちら側の手で後ろへと流した。
 
 
川 ゚ -゚)「ほら鍵と財布だ。置いておくわけにもいかないしな」
 
( ・∀・)「おお、ありがとよ」
 
 モララーはそれらを受け取ると大事そうに両手で握りこむ。
そして両肘を膝の上に立て、背骨を曲げその手の上に顎を乗せた。
クーはガードレールに両手をつき、寄りかかるようにして体重を預けている。
 
川 ゚ -゚)「その鍵についてる交通安全のお守り、なかなか年季が入っているようだな」
 
( ・∀・)「なんせ僕がまだ子供の頃におふくろから貰ったものだからね」
 
川 ゚ -゚)「ほう」

133 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:19:14.60 ID:lJlGFWVL0
 
( ・∀・)「ここに小さく『沙尾』ってあるだろ?
      これは母方の旧姓なんだ。だからよっぽどなんだろうよ」
 
川 ゚ -゚)「‥‥‥‥。君の母親は子思いの良い母親だ。そして君も母親思いだな」
 
 
(* ・∀・)「‥‥もう休憩はいいだろ。行くぞ」
 
川 ゚ -゚)「まぁまぁそう照れるな」
 
(* ・∀・)「つまらないことばかり言っていると置いてくぞ?」
 
川 ゚ -゚)「分かった分かった」
 
 二人は再び車に乗り込む。
クーはようやく車に慣れたらしく、ぎこちなさも目立たなかった。
 
道は小さな川の流れる谷沿いに走っていて、大きな山々に見下ろされている。
 
 
( ・∀・)「あと15分もしないうちに旅館に着くだろうから、今日こそは寝ないでくれよ」
 
川 ゚ -゚)「昨日に寝てしまったのは、ちょっと疲れていたからなだけだ。
     今日は午前中に十二分寝たし、不安要素は何もない」
 
( ・∀・)「ふぅん‥‥」
 
 
 モララーは空返事をすると、エンジンをかけた。

135 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:26:24.57 ID:lJlGFWVL0
 
 木々の狭間から、古びた建物が垣間見えた。
これまでは閑散とした集落が点在するだけだったが、今回のはすこしだけ規模が大きい。
 
それは起伏が比較的穏やかな、小さな盆地の外れにあった。
 
 一車線しか無い、忘れられたように寂れた橋を渡り、
車の出す音以外しないのではないかと思う程静かな小道をゆく。
時々、地元の子供達や農家の方らしき人とすれ違うばかりだった。
 
この盆地へと開けてから道には信号は一つしかなかったので、
目指す旅館には大した時間もかからずに着くことができた。
 
 
 予定より少々早い時刻の到着であったのに、
着物の女性が二人、お出迎えに出て来てくれていた。
一方は30代前半あたり、もう一方は50代後半といったところだろうか。
二人とも、どことなく顔立ちが似ていて特徴的なクセっ毛をしているから、たぶん親子なんだろう。
 
 若い方が、砂利敷きの駐車場の一角へと誘導してくれた。
それに従い適当な場所に車をとめると、運転席へと駆け寄ってきた。
 
 
ξ*゚听)ξ「ようこそおいでくださいました、我が『葦安(あしやす)旅館』へ!」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:29:27.79 ID:lJlGFWVL0
 
ζ(゚ー゚*ζ「そちらの方はお疲れのようですね」
 
 助手席の方へと回った、もう一人が言う。
そのようですね、なんてありもしないようなことを言って、
モララーは猫のように丸まっているクーを助手席からぴっぺがした。
 
ξ゚听)ξ「お荷物お持ちしますよ」
 
( ・∀・)「じゃあお願いします」
 
 
川 ー ー)「あと2泊3日‥‥‥‥」
 
 
( ・∀・)「‥‥あの、この荷物もお願いできますか」
 
ξ;゚听)ξ「はい?」
 
( ・∀・)「冗談ですよ。コイツはこっちで何とかするんで、
      部屋まで案内していただけませんか」
 
ξ;゚听)ξ「はぁ、かしこまりました」
 
 
若い方は、二人分の荷物を軽々と持ち上げ、もう一人のほうが先導した。
庭は、広くはないながらもちゃんと手入れがなされているようで、岩や松がそこら中でくつろいでいる。
 
 親らしい方に連れられるままに入った旅館は、
内装もなかなか厳かだったが、一方で玄関の靴入はがらがらであった。

138 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:35:26.53 ID:lJlGFWVL0
 
 この建物は東棟と西棟に分かれているらしいのだが、
諸事情でいまは、この東棟しか使用していないんだとか。
 
 その諸事情に彼女たちは触れなかったが、部屋まで案内されているあいだ、
客どころか従業員とすらすれ違うことがなかったので、その諸事情とやらはなんとなく想像が出来た。
 
村全体を包む寂寥(せきりょう)感はここにも伝染しているらしく、それがなんとも切なかった。
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「お料理はこちらのお部屋に19時頃お持ちいたします。
       浴場は、途中に御座いましたあちらになります。
       18時から25時まであいておりますので、どうぞその間にご利用ください。
 
ξ゚听)ξ「私共も25時までは、入り口玄関の受付に最低1人は居るように致しますので、
       何か御用が御座いましたらお気軽にどうぞ。‥‥では、ごゆっくり」
 
 
礼儀正しく揃って頭を垂れると、2人は笑顔を残し去っていった。
 
 備え付けの時計を見ると、時刻は大体3時過ぎ程度。
持ってきた荷物を辺りにバラすと、ふたりして部屋を漁ってみた。
 何度訪れても、旅館への感銘というのは色褪せないものだ。
特有の匂いや雰囲気、御持て成し、そしてこの何とも言えない、心浮く気分が良い。
いつしかモララーは以前に泊まった旅館のことまで思い出しそうになったが、寸でのところで止めた。
 
 部屋にはいかにも高そうな大きめの机と、
座布団が敷いてある腰掛け付きの椅子がふたつ。
奥の障子を開けるとちいさな机とふたつの椅子が置いてある小部屋があり、
その向こうにある窓を開けると、なるほど素晴らしい自然が広がっていた。

140 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:38:18.81 ID:lJlGFWVL0
 
 ここまできてテレビを見るなんて無粋で勿体無い真似はできないので、
外を少し歩いてみることにした。荷物を端に寄せて、道に迷いつつも玄関へ。
 
 受付で応じてくれたのは、先ほど部屋へと案内するときに先導してくれた親の方で、
名前はデレというんだと教えてくれた。彼女は御淑(おしと)やかな笑みで、いってらっしゃいませと送り出ししてくれた。
 
 
川 ゚ -゚)「寂れたところだな」
 
( ・∀・)「まぁそうだな」
 
 旅館の周りは田んぼや畑だらけで、来る途中の“大きな集落”も遠く見える。
住居はないといってもいいほどに少なく、所々廃屋が忘れ去られたかのように朽ちていた。
 
 確かに寂しいところだろう。
旅館から伸びるこの道は山に沿って造られていて、反対側は空き地や田んぼがほとんど。
臨む風景は、曇の多いぐずついた空の灰色と、くすんだ緑とそれの枯れかけた黄土色ばかりだった。
 
黙って歩く2人の辺りには、他にあってせいぜい生ぬるいそよ風と足音と虫の音くらいだ。
 
 
( ・∀・)「それでも、どうしてもこの自然が好きなんだよな。
      非日常に憧れているのも確かだけど、それ以上に心打たれるものがあるというか」
 
川 ゚ -゚)「変なことを尋ねるが、君は不安や寂しさを感じないのか?
     取り残された気がしてしまうのは悲しいことなんだろうか」
 
 大きい風が吹いた。すぐ傍にある山々が囁き合う。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:43:16.91 ID:lJlGFWVL0
 
クーは畑沿いに置かれた、小さなブロックの上を危なげに渡っている。
 
( ・∀・)「それはどうだろうね。感じ方も考え方も人それぞれだし。
      けれど、そういった気持ちを少なくともいま、抱いてはいないよ」
 
 ふらふらとしたクーの遅い歩調に合わせてモララーが言う。
 
川 ゚ -゚)「君は、実は何かから逃げているのではないか」
 
 
 そう言うと、クーは少し離れたブロックに飛び移った。
 
( ・∀・)「誰だって、何かから逃げているものさ。それに――
 
川 ゚ -゚)「おっと」
 
 クーはバランスを崩し、下に足を着いてしまった。
慌ててモララーはクーの方を見るが、別になんともなかったようだ。
 
 そんなクーの向こうに、だいぶ小さくなったあの旅館が見えた。
 
( ・∀・)「そろそろ戻ろうか」
 
川 ゚ -゚)「そうだな」
 
そこから、二人は来た道を戻る。
 
 その間二人に会話はなかった。
かといって気まずさがあったわけでもなかった。

143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:45:39.64 ID:lJlGFWVL0
 
 今度は若い方が受付にいた。
 
ξ゚听)ξ「おかえりなさいませ。
       お食事の準備ができておりますが、どうなさいましょう」
 
( ・∀・)「折角だからすぐいだだきましょうか。いいよねクー」
 
川 ゚ -゚)「ちょうど腹も減っていたことだし、それでいいぞ」
 
( ・∀・)「じゃあそういうことで」
 
ξ゚听)ξ「かしこまりました」
 
 
 若い方の人は奥に引っ込んでしまった。
 
そういえば彼女たち以外に目にはいる人がいないということは、
若い方はいわゆる若女将さんなのかもしれない。いや、きっとそうなんだろう。
 
二人は再び道に迷いそうになりながらも、なんとかして部屋に着いた。
 
 
川 ゚ -゚)「ふう。 昨日もそうだがこうやって歩くのはなんだか久しぶりだな」
 
( ・∀・)「僕は会社への通勤が徒歩だから何ともなかったけど、大変だったかい」
 
川 ゚ -゚)「いや、体を動かせて気持ちよかったよ」
 
( ・∀・)「‥‥‥‥」

144 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:48:11.28 ID:lJlGFWVL0
 
( ・∀・)「さっきはごめん」
 
川 ゚ -゚)「ん? さっきの会話は謝るようなものだったか?」
 
(;・∀・)「あ、なら別にいいんだ」
 
川 ゚ -゚)「なんだ、変なの」
 
 
間のいいところで、扉をたたく音がした。
 
( ・∀・)「ど、どうぞ」
 
 
ξ゚听)ξ「失礼します」
 
 来たのは若女将さんの方だった。
どうやって持ってきたのか分からないくらいの量の料理を、手際よく机に並べる。
 
少々値の張るコースを選んでおいたのだが、どうであろうか。
 
 ともあれ、いい匂いが部屋を満たした。
 
 
川 ゚ -゚)「これは美味そうだな」
 
( ・∀・)「そうだね。期待通りだ」

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 14:50:28.23 ID:lJlGFWVL0
 
 盛り付けも素晴らしいし、旬のものや特産の果物が食事に色を添えていた。
話によると裏の山で採れた山菜や傍の川から捕った魚もつかわれているらしい。
若女将さんはマッチを擦り銀紙に包まれた青色の燃焼材に火を分けると、ビールをお酌してくれた。
 
美味しい料理に舌鼓をしながら、他愛のない話を三人でしていたそんな中、
突拍子もなく建物の奥が騒がしくなり、どたどたという音さえ響いてきた。
 
 
 『 ――――ツン! 』
 
 
 慌しい足音は、徐々にコチラへ近づいてくる。
ふと見た若女将さんの顔は、なぜか一瞬綻(ほころ)んだようだった。
 
 
( ^ω^)「ツン! おっおっおっ」
 
 豪快に襖を開け、男が部屋に入ってきた。
この人も30代前半といったところか、若女将さんと同じくらいの年齢に思える。
 
 そんな彼を若女将は赤子のようにあやす。
予期せぬ突然の訪問者にただただ唖然とするモララー。口をもぐもぐさせるクー。
 ハッと我に返った若女将さんは、少し照れながらも弁解する。
 
ξ*゚听)ξ「こ、この人は私の夫でして‥‥
      ワケあって私の名前と『お』しか喋れないんですが、
      ‥‥えと、あっ、どうも申し訳ないです!」
 
 いままでの恭(うやうや)しい態度はどこへやら、なんとも微笑ましい謝罪だ。

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:16:22.39 ID:lJlGFWVL0
 
( *^ω^)「おー」
 
ξ;゚听)ξ「アンタ、お客様の処に行っている時はダメだってアレほど言ったでしょ!」
 
( ^ω^)「お? ツン、ツン!!」
 
ξ*゚听)ξ「ちょ、離れなさいよ!」
 
 
(;・∀・)「‥‥‥‥」
 
川 ゚ -゚)「いやぁ夫婦とは良いものですね、ツンさん」
 
 
若女将、もといツンさんはハッとする。
 
ξ////)ξ「も、申し訳ございません‥‥」
 
( ^ω^)「おっおっおっ」
 
(;・∀・)「‥‥」
 
 
クーの一言にツンさんは耳まで真っ赤にして萎縮してしまった。
 
 今更だが、少ない人数で切盛しているのなら、
彼女たちが初めに名前を教えてくれなかったのはなぜだろうか。
ここを訪れる人が限られているからなのか、はたまた以前はもっと人がいたからなのか。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:18:32.73 ID:lJlGFWVL0
 
( ・∀・)「ところで、そちらの方はなんという名前なんですか?」
 
ξ゚听)ξ「夫は‥‥とりあえずブーンとでも呼んでやってください。
      私のツンも、津村という旧姓からきたあだなですから」
 
( ^ω^)「おー」
 
 なんと二人は本当に夫婦だったようだ。
しかしクーがどこまでわかっていて先程のようなことをいったのかは謎だ。
 
 
川 ゚ -゚)「あだなでお互いを呼び合うなんて、若々しいですね」
 
ξ*゚听)ξ「い、いえそんな」
 
( ・∀・)「はは‥‥‥‥」
 
(;・∀・)「!」
 
 気が付くと机の上の豪勢な食事は、
まだ半分ほど残っていたモララーの分も含めて全て無くなっていた。

165 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:21:43.11 ID:lJlGFWVL0
 
ξ*゚听)ξ「あっ、もうお食べになられたんですね」
 
照れ隠しなのか、空いた食器をツンさんは素早くお盆に載せ、
 絶妙なバランス感覚でそれを持ち上げた。
 
ξ゚听)ξ「では、ごゆっくりどうぞ。先程も申し上げましたが、
       もうお風呂の準備ができていますのでお入りになることができますよ」
 
 仕事モードに戻ったツンさんは、そう言ってささっと部屋から出て行ってしまった。
ひどく汗をかいてしまっていたので、できるなら先に風呂に入ってしまいたい気分になった。
 
 
( ・∀・)「僕は風呂へ行ってくるけど、クーはどうする?」
 
川 ゚ -゚)「私はちょっと食べ過ぎたみたいだから、少しだけ休んでから後を追うよ。
     そうそう、浴衣ならそこの戸棚に入っていたぞ」
 
( ・∀・)「うん、どうもね」
 
 
 ゆっくり立ち上がり、持つものを持って部屋を後にした。
部屋から出て行くとき、一人残り外を見つめるクーをみてふと思うことがあった。

168 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:25:11.16 ID:lJlGFWVL0
 
 木張りを軋ませ廊下を少し迷いながらも歩くと、浴場に着いた。
男湯と女湯の入り口が対面していることから、あんなことやこんなことは起きないらしい。
 
 そんな雑念はさておき暖簾をくぐって脱衣所に入る。
棚から篭まですべて木製で、どれも年季が入っているものの、やはり手入れなされているようだ。
 
 
( ・∀・)「あれ?」
 
 誰か先客がいるようだ。
しかしなかなかワイルドな脱ぎ方。
あまり大きな声で言えないが正直がらがらなこの旅館には、
モララー以外の男性客のいる気配がない。
 
 早々に服を脱いで浴場へ踏み入れた。
ここの浴場は脱衣所から直接露天風呂に繋がっている。
夜になっても相変わらず外の気温は下がらなかったため、あまり肌寒くは感じない。
 
 
 そういえば、この湯はなんでも肩こり腰痛によく効くんだとか。

170 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:29:35.44 ID:lJlGFWVL0
 
体を洗い、湯煙の方へと進む。
 
 
( ・∀・)「失礼しますね」
 
( ^ω^)「お?」
 
 
 ブーンさんは顔だけコチラにやったかと思うと、
またすぐにあちら側に向き、顔半分をお湯に埋めぶくぶく小さな泡を立てはじめた。
 先ほどのやんちゃも影を潜め、いまはリラックスしているようで黙っている。
 
どうやらブーンさんも、風呂は黙って入るのを良しとしているらしい。
 僕もその意思を酌んで黙ってゆっくり湯につかることにした。
 
 
  天を仰ぐ。
 
 夜空もまたこちらを見下ろしている。
黒とも紫ともつかない闇の中で、ぽつぽつと点が輝いていた。
 
 
 大小の雲がのんびりと空を泳ぐ。

173 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:31:18.96 ID:lJlGFWVL0
 
 どれほど時間が経っただろうか、
脱衣所からなにか音がしたと思いそちらを見てみると、
浴場とを仕切る曇り硝子の扉に人影がうつった。
 
 
「ブーン! お客様が居る時間に入っちゃダメだってあれほど言ったでしょ」
 
 
 湯船の奥でくつろいでいた肩がびくっと震えた。
 
「もしお客様がいらして、ご迷惑おかけしたらどうするつもりなのよ!
 また後ならで入っても構わないから、ひとまず出てらっしゃい」
 
ブーンさんは音のする方に顔をやってしばらく固まった後、モララーをちらりと見た。
 
 
( ・∀・)「私は迷惑だなんて全く思っちゃいませんよ。
      もし差支えなければ、このままブーンさんとご一緒させて下さい」

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:34:09.04 ID:lJlGFWVL0
 
「えっ、お客様いらしたんですか。でも‥‥」
 
 声色が一気に変わった。
 
よほど焦っていたのか、いつも客がいないからなのか、
 モララーの浴衣にまるで気付かなかったようだ。
 
 
( ^ω^)「おっおー、お?」
 
「はいはい、わかったわよ‥‥。
 でも、今日だけだからね!」
 
( ^ω^)「ツン、おっおっお!」
 
うつった影はドア越しでもわかるように脱力した。
 
 
( ・∀・)「あの、ツンさん」
 
消えかけた影をモララーは呼び止める。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:37:49.55 ID:lJlGFWVL0
 
「はい」
 
( ・∀・)「この埋め合わせというわけじゃないんですが、
      もしよろしければ、お時間があるときでいいので、ちょっとお話を聞かせていただけませんか」
 
「お話、ですか。構いませんよ。いつにいたしましょうか」
 
( ・∀・)「いつでもいいですよ。機会があったときで。
      もし機会がないようでしたら結構です」
 
(;^ω^)「おっおっ!」
 
(;・∀・)「いやいや、変なことはしませんよ」
 
 
「‥‥‥‥ふふっ、わかりました」
 
(;・∀・)「ん、なにか?」
 
「いやぁ、分かり易い人でしょう? 主人は」
 
( ・∀・)「はあ、そうかもしれませんね」
 
 
当初はなぜツンさんとブーンさんは会話できるのか、
ちょっと不思議な気もしていたが今はそうでもない。
 
 モララーは少しだけ頬を緩ませた。

180 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:46:46.45 ID:lJlGFWVL0
 
 それからまたしばらく経って、
のっそりブーンさんが浴場から去っていった。
 
やたらと浴場が広く、そして静かに感じる。
 
 
( ・∀・)「‥‥‥‥‥」
 
一人になってみると、先に出ておけばよかったなどと思った。
後を追うように脱衣所に姿を現すのもなんだか気が引ける。
 
 一人にはあまりなりたくない気分だった。
ぼさっとしていると考え事に頭が支配されそうで。
 
 
なにかないものかと浴場を見渡すと、辺りを照らす外灯が目に留まった。
 
 経年劣化したそれはくすみ、青色がかった、
――まるで昼の空のような白い光を与えている。
 
( ・∀・)「あっ」
 
 
 モララーは、それが公園の外灯にそっくりなことに気付いてしまった。
 
(;・∀・)「‥‥」
 
目を塞ぎ頭を左右に振って立ち上がると、シャワーの方へ行き水を顔面に浴びた。
 早く脱衣所にいる影が居なくならないかと願いながら。

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 15:48:32.98 ID:lJlGFWVL0
 
部屋に戻ってみると、意外なことにクーがいた。
 
川 ゚ -゚)「ようやく帰ったか」
 
( ・∀・)「えっ、そんなに長風呂だったかな。
      あんまり自覚ないんだけど」
 
川 ゚ -゚)「私も早く上がったつもりはないが。
     まぁ時計を見てみろ。一時間以上浸かっていても長風呂とは言わないのか」
 
( ・∀・)「‥‥楽しい時間は早く過ぎるもんだね」
 
 木製の古そうな掛時計を眺めたあと、
両腕を裾にしまってクーの対面に腰掛けた。
 
 
川 ゚ -゚)「ところで一時期やけに騒がしかったが、あれは何だったんだ?」
 
( ・∀・)「いやぁ、それがさ‥‥」
 
川 ゚ -゚)「うむうむ」
 
 
取り留めのないような話をしながら二人は夜を更かし、
 日付が変わったあたりで眠りに就くことにした。

241 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 20:36:27.73 ID:lJlGFWVL0
 
             -3-
 
 
何時ともつかぬとき、モララーは目を覚ましてしまった。
時計が秒針を刻む音とクーの小さな寝息だけが聞こえる。
浴衣でも寒さを感じない様子だったので、音をたてないようにして部屋を出た。
 
 月明かりだけに照らされた廊下は、その息遣いをこちらにまで聞こえさせている。
当てもなく歩を進めながら、ふと窓の外に目をやると、庭園のある大きくない石に座っている影が見えた。
 
 玄関にあった突っ掛けを拝借して外にでる。
近づいて見てみると、正体はツンさんであった。
 先ほどとは違って、小洒落た私服姿をしている。
 
( ・∀・)「こんばんは」
 
ξ゚听)ξ「あら、こんな夜分遅くに」
 
( ・∀・)「ちょっと目が覚めてしまいまして」
 
ξ゚听)ξ「そうなんですか。
       実は私も、今晩はどういうわけか寝付けなくて」
 
( ・∀・)「‥‥お隣、よろしいですか」
 
ξ゚听)ξ「ええ、どうぞ」
 
 横にずれてくれたツンさんの隣にモララーは腰掛ける。
夜空を見上げるツンさんにならって、モララーも夜空を見上げた。

242 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 20:38:58.93 ID:lJlGFWVL0
 
( ・∀・)「垣間見える月が綺麗ですね」
 
ξ゚听)ξ「それだけが田舎の取り柄ですから」
 
 ちらりと隣を見る。
ツンさんは空を見上げたままだ。
 
( ・∀・)「僕は田舎好きですよ」
 
ξ゚听)ξ「えぇ、私も田舎は大好きですよ」
 
( ・∀・)「ツンさんの地元もこちらなんですか」
 
ξ゚听)ξ「そうですよ。主人の地元もそうです」
 
 
ξ゚听)ξ「そういえばお話、お聞きになりたいんでしたっけ」
 
( ・∀・)「差支えなければ‥‥」
 
 ツンさんがモララーの方を見つめる。
その端整な顔立ちを、モララーは見返すことができなかった。
 
ξ;゚听)ξ「うーん、どこからお話すればいいんでしょうか」
 
 
( ・∀・)「ではお二人がお付き合いなさったあたりから」
 
ξ*゚听)ξ「え」

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 20:41:57.65 ID:lJlGFWVL0
 
ξ*゚听)ξ「私達が付き合いだしたときの話ですか」
 
( ・∀・)「お願いできますか」
 
ξ゚听)ξ「そうですね‥‥、確かそれは高校一年の夏だったと思います。
       私達は幼馴染で、そりゃもうこんな田舎に生まれたもんですから、
       遊ぶときはいつもブーンと一緒でした」
 
( ・∀・)「ぶーん?」
 
ξ*゚听)ξ「すみません、夫のあだななんです。
       変なあだ名ですよね」
 
( ・∀・)「あ、そうでしたね。すみません、話を続けてください」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
 
ξ*゚听)ξ「告白は夫の方からでしたね。
       きっとお互い、ずっと以前から‥‥」
 
( ・∀・)「以前から?」
 
ξ////)ξ「きっと‥‥お互いのことを好きだったんでしょうけど‥‥」
 
 
 ツンさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
きっと今も、二人は愛し合い続けているんだろう。

244 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 20:46:30.00 ID:lJlGFWVL0
 
( ・∀・)「確かに、幼馴染から恋人へ発展するのには何かこそばゆいものがありますよね」
 
ξ*゚听)ξ「そ、それで友人に助けてもらいながらも、私達は付き合いだしたんです」
 
( ・∀・)「青春ですね」
 
ξ゚听)ξ「いま思うと青春を謳歌していましたね」
 
( ・∀・)「僕はあんまり良い青春を送れなかったので羨ましいですね。
      彼女と付き合いだしたのは社会人になってからなんで」
 
ξ゚听)ξ「彼女さん、可愛いですよね」
 
( ・∀・)「あっ」
 
ξ゚听)ξ「えっ?」
 
(;・∀・)「いや、何でもないんです。
     話を続けていただけますか?」
 
ξ゚听)ξ「はい」
 
 
 今度はモララーが俯く。
足元の砂利を弄ってみても、動揺はどうすることもできなかった。

246 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 22:15:51.33 ID:K/1/NT7h0
 
ξ゚听)ξ「言い忘れてましたが、私たち高校は市の方だったんですよ」
 
( ・∀・)「僕たちが住んでるあたりですか」
 
ξ゚听)ξ「モララーさんたちの?」
 
 ツンさんは何かを思い出すような素振をした。
たぶん昼のチェックインの際の書類のことを思い浮かべているんだろう。
 
 
ξ゚听)ξ「えぇ! 丁度そこらへんですね」
 
( ・∀・)「よくそんな遠いところまで」
 
ξ゚听)ξ「いま思い出すと、私もそう思いますね。
      毎朝バスで、一時間以上かけて高校まで行って、また同じように帰ってくるんです」
 
( ・∀・)「それはそれは。大変でしたね」
 
ξ゚听)ξ「けど、当時はあまり苦にならなかったんですよね‥‥」
 
 
(*・∀・)「‥‥」
 
ξ*゚听)ξ「なんで黙るんですか」
 
(*・∀・)「いや」

248 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 22:18:58.80 ID:K/1/NT7h0
 
ξ゚听)ξ「寝坊したら、覚悟のときですね。
       一時間目は欠席確定ですから」
 
( ・∀・)「それはまた」
 
ξ゚听)ξ「それに、ブーンのヤツったら毎朝ギリギリで‥‥」
 
 過去を見るツンさんは楽しそうだった。
前を向いたツンさんの横顔も、若々しかった。
 
 
( ・∀・)「バスを逃したら、次のバスまではどうしてらしゃったんですか」
 
ξ゚听)ξ「バス停の近くに、山へ入る小道があって、
      菖蒲が群生するいわば自然の菖蒲畑に抜けれるんですが」
 
( ・∀・)「はい」
 
ξ゚听)ξ「いつもそこで時間を潰していましたね。
      こんな田舎で浮いた一時間かそこらじゃその程度しかできませんし」
 
 
( ・∀・)「菖蒲畑ですか‥‥見てみたいですね」
 
ξ゚听)ξ「それでしたら、あなた方が散歩に行かれたあの道沿いをいけば」

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 22:43:13.88 ID:K/1/NT7h0
 
ξ゚听)ξ「目印は道祖神とバス停です。
       それに挟まれるように小道がありますので」
 
 ツンさんは、どこか意識して見ているようだった。
彼女の見ていた方向は、昼に散歩したのと粗方同じようだ。
目線の先を追って見ると、紫がかった空に縁取られた山々がある。
 
 這うように焦点を徐々に近くに持っていくと、
すっかり静まり返った田舎の夜の風景がそこにはあった。
 
 
( ・∀・)「道祖神とバス停は、どれほど行くとあるんでしょうか」
 
ξ゚听)ξ「小道までは差して遠くありませんよ。
       見なかったのなら、たぶんほんの手前で折り返したんでしょう」
 
( ・∀・)「そうかもしれませんね。
      翌朝、連れが首を横に振らなかったら行ってみることにします」
 
ξ゚听)ξ「きっと後悔はさせませんよ。
       ‥‥ただ、小道はちょっと見つけにくいので気をつけてください」
 
( ・∀・)「わかりました」
 
 
 それから少し、お互いが何も喋らない時間があった。

251 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 22:47:01.76 ID:K/1/NT7h0
 
( ・∀・)「デレさんは、ツンさんの母親ですよね」
 
ξ゚听)ξ「そうです。やっぱり似ていますか?
      私は似ていないと思うんですが‥‥」
 
ツンさんは、ウェーブのかかった髪を指に絡めて弄っている。
 
( ・∀・)「家族っていいですよね」
 
ξ゚听)ξ「そうですね」
 
( ・∀・)「年を食う度に、その考えが強くなります。
      僕、一人っ子だったんですが、家族はもう僕だけで、近い親族もなかなか居なくて」
 
ξ゚听)ξ「そうですか‥‥」
 
(;・∀・)「あっ、変な話してすみません。
     とにかく家族はいいなって思っただけです。暖かいですよね」
 
ξ;゚听)ξ「そ、そうですねー」
 
 ツンさんは先からのこともあってか、モララーになにも尋ねなかった。
モララーも伝えたかったことをうまく言えなくてなんともやりきれなかった。
 
 
 また、暫しの静かな時間。
口を開いたのは、今度はツンさんだった。

253 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 22:52:29.33 ID:K/1/NT7h0
 
ξ゚听)ξ「ブーンがああなったのは‥‥」
 
( ・∀・)「‥‥‥‥」
 
ξ゚听)ξ「単なる事故です。
       乗り合わせた電車に不運が訪れただけなんですよね」
 
( ・∀・)「それは‥‥」
 
ξ゚听)ξ「まぁ皮肉にも、それが私にあれこれ決意させたんですけど‥‥。
      ほんとそれだけです。話して面白いようなことは他にはありませんよ」
 
 ツンさんは苦笑いしてみせた。きっと今できる精一杯の笑顔なんだろう。
事故の件については、たぶん彼女の経験したことなどまでもを話すと、一晩では語りきれないほどなのかもしれない。
 しかし、事実とだけ話すと、確かにツンさんのさっきの僅かな言葉だけで足りてしまうのだ。
 
そして彼女は、モララーに対しては、その言葉にその一件をすべて乗せてしまいたいと思ったんだろう。
したくない不幸話の尾を追い捕まえあれそれ調べるようなマネをするほど、モララーは愚かではない。
 
 
ξ゚听)ξ「あれ、チェックアウトは明日の昼でしたっけ。
      といっても、もう日付も変わってしまったでしょうけど」
 
( ・∀・)「そうですね。昼御飯も食べていければよかったのですが」
 
ξ゚听)ξ「でしたら、おつくりいたしましょうか」
 
( ・∀・)「大丈夫ですよ。時間的な問題で断念したので」

254 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 22:57:07.73 ID:K/1/NT7h0
 
( ・∀・)「さて、お互い翌朝はゆっくりできないでしょうから、ここらで」
 
ξ゚听)ξ「そうですね」
 
( ・∀・)「今晩、いや今日はありがとうございました」
 
ξ゚听)ξ「いえいえこちらこそ。
      明日もまたお願いいたしますね」
 
( ・∀・)「はい。では、おやすみなさい」
 
ξ゚听)ξ「おやすみなさい。
      私も、もう5分ほどしたら戻りますので」
 
 
 モララーはツンさんに手を振った。
ツンさんも、先ほどとは違う笑顔で手を振りモララーを送った。
 
 振り返ってみると、お互い最後のほうは、
話したいクセに話したくないことばかりを言っていたようだった。
 そんなとき、正しく忖度をするのはとても難しい。
言葉は重なるばかりのに、どれもが各々の本懐に触れていないからだ。

255 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:01:02.73 ID:K/1/NT7h0
 
                -4-
 
 
 旅館の朝はとても静かだった。
誰にも急かされず、何も背負わずに迎える朝は清々しい。
 障子は拒むことなく射し込む黄色い光を受け入れ、
部屋にあるものはそれを使い、それぞれの持つ暖かな雰囲気をより一層引き立たせていた。
 
双眸を擦り明かりの方を見ると、のそりと動く影。
周りを見ると、整った布団だけが残されていた。
 
 モララーが窓際の小さな部屋とを分かつ障子を開けると、
椅子で脚組むまだ浴衣姿のままのクーが、モララーの方を見た。
 
 
( ・∀・)「おはよう」
 
川 ゚ -゚)「おはよう」
 
 モララーはテーブルを挟んだクーの対面の椅子に座った。
部屋の窓は半分ほど開いている。いまは電燈の出番もなかった。
 
( ・∀・)「今日は早いんだね」
 
川 ゚ -゚)「あぁ、なんだが目が覚めてしまってな」
 
 
 趣ある旅館で迎える朝。
ふたりは会話したり景色を見たりして暫しの平穏を楽しんだ。

257 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:05:17.33 ID:K/1/NT7h0
 
 朝食は近くにある別の座敷で振舞われる。
宴会もできるほどの大きさであろう座敷は襖で狭く分けられているが、
それでもモララーとクーとだけで空間を埋めるにはいささか広すぎるようだった。
 
 
ζ(゚ー゚*ζ「もういらっしゃってますね。
       すぐにお食事をお持ちいたしますので」
 
 襖から少しだけ見えた姿はデレさんだった。
彼女が姿を見せただけで、この部屋の雰囲気まで変わった。
 
 
( ・∀・)「もうここでの食事は最後なんだね」
 
川 ゚ -゚)「言われてみるとそうだな」
 
( ・∀・)「この旅館の味を楽しめるのは二回だけか」
 
川 ゚ -゚)「うむ‥‥残念だ」
 
 
( ・∀・)「だからこそ、良い食事を楽しんでよ」
 
川 ゚ー゚)「言われなくてもさ」

258 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:10:29.47 ID:K/1/NT7h0
 
 食事を運んで来たのはツンさんだった。
信じられない量を軽々と運んできては、整然と机にならべる。
そのときになって初めて、モララーはツンさんの左手薬指に輝く青色をみつけた。
 
ξ゚听)ξ「自慢の食事ですので。
       ゆっくり御賞味下さいね」
 
( ・∀・)「ありがとうございます」
 
ξ゚听)ξ「いえいえ、こちらこそ」
 
 
 ツンさんはいつもの笑顔で座敷を去った。
 
並べられた美味しい食事は楽しい時間と共に、瞬く間に無くなっていった。

259 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:13:38.06 ID:K/1/NT7h0
 
川 ゚ -゚)「この後部屋に戻ったら、まず何をする?」
 
( ・∀・)「そうだな。とりあえず荷物をまとめるとか、
      とにかく出れるようにしておかないと。
      そう尋ねるってことは、なにかあるのかい?」
 
川 ゚ -゚)「えーと、悪いんだが、
     朝にもう一度お風呂に入っておきたくて」
 
( ・∀・)「いや全然構わないよ。
      出れるようにするといっても、二人でやるまでのことじゃない」
 
川 ゚ -゚)「申し訳ないな。着替えを取りに行くから、
     とりあえず部屋まで一緒に行かないか」
 
( ・∀・)「そうだね」
 
 
 クーは空になった食器を前にして、
最後にお茶を美味しそうに一口飲んだ。
 
川 ゚ -゚)「ごちそうさまでした」
 
( ・∀・)「ごちそうさまでした」

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:17:42.10 ID:K/1/NT7h0
 
 部屋に着くと、クーは間もなく浴場へいってしまった。
 
 座敷へ離れるとき、布団を寄せたりといった簡単な片付けはしておいたが、
帰ってきてみると、部屋は、初めて足を踏み入れた時のように綺麗になっていた。
流石といったところか、荷物はというと端に寄せておいたままの手付かずの状態だった。
 こうしてモララーがクーを待つ間にすべきことはだいぶ減ってしまっていた。
 
 
 モララーは、残った僅かな片付けをしている途中に見つけた、
様々な形をした木のパズルのようなもので遊んで時間を潰すことにした。
 
しかし家とも矢印ともつかない図形を作ろうとしても、どうも頭が回らない。
 
 
 仕方がないから、テレビをつけることにした。
勿論テレビなんて点けたくない。だがモララーはそうするしかなかった。
 
一人でいる、いまのモララーに与えられた選択肢は限られているのだ。
たとえば外の風景だって、いまの彼だけにとっては、なんの意味も価値も無かった。
 
 
 モララーは旅館に来て初めて、風というものを感じた。
とはいえそれは、当然初めての風ではなく、窓際に吊るされた風鈴がようやく気付かせたものだった。

262 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:24:33.63 ID:K/1/NT7h0
 
(  ∀-)「ん」
 
川 ゚ -゚)「お、起きたか」
 
( ・∀・)「あれ、寝てたのか」
 
川 ゚ -゚)「まぁ寝ていたといっても、私が来てまだ5分も経ってないが」
 
( ・∀・)「そうか、それはよかった」
 
 どうやらすっかり眠ってしまっていたようだが、
時間が潰せて好都合だとモララーは思ってしまった。
 
( ・∀・)「‥‥‥‥」
 
川 ゚ -゚)「ん?」
 
風呂上りのクーは、頬がほんのり紅らんでいてとても魅力的だった。
このとき、不意にモララーはクーがとても愛おしく思ってしまった。
 それにどれだけの他意が含まれていたかは知る由もないが。
 
( ・∀・)「あ、ここを出る前に行きたいところがあるんだけど」
 
川 ゚ -゚)「行こう行こう。
     私はどうするかなんて考えてもいなかったから」
 
( ・∀・)「荷物はまとめたから、もう出るでいいよね」
 
川 ゚ -゚)「いいさ、ありがとう」

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:26:47.16 ID:K/1/NT7h0
 
( ・∀・)「さてと」
 
 
川 ゚ -゚)「なんだ、また散歩がしたかったのか」
 
( ・∀・)「正確にいうなら、散歩の続きかな」
 
川 ゚ -゚)「続き?」
 
 無窮の空には、遠いとも近いともつかない距離に無数の雲。
それは何層にもなっていて、一番上のものは太陽の光を受け綿のような色形をしていた。
きっと古代の人は、己が空を鳥のように飛べるのであれば、その雲の上に寝そべりたいという夢を抱いたに違いない。
 
 一方で、下の層にある雲は泥に汚れた雪のようだった。
高くそびえる四方(よも)の山々の嶺は、それによって覆われ臨むことができない。

266 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:28:29.42 ID:K/1/NT7h0
 
( ・∀・)「ここかな」
 
川 ゚ -゚)「なんだなんだ」
 
モララーは道祖神の前で立ち止まった。例えは悪いが、それは一見すると墓のようにも思える。
腰の高さほどまでの土台が岩と砂利で固められ、その上に腕を広げたほどの高さの岩が立っている。
土台は粗くも加工された石段で昇れるようになっていて、その両脇には背の高さほどのごつごつとした石柱。
 
川 ゚ -゚)「これはなんなんだ」
 
( ・∀・)「道祖神さ。
      簡単に言うなら、昔の土地区分の印さだよ」
 
川 ゚ -゚)「よくわからないな」
 
( ・∀・)「とりあえずそれは置いといて」

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:34:23.07 ID:K/1/NT7h0
 
 モララーが道祖神の近く、道路の山側を探してみると、
コンクリートに足元を固められた、触るとぼろぼろ削れ落ちてきそうなバス停をみつけた。
 
 そしてツンさんの言った通り、それらの間に木々の薄い入口らしいものがある。
 
 
( ・∀・)「今日はここをいってみよう」
 
川 ゚ -゚)「ここか」
 
 山の奥へと伸びる小道を見て、クーはあっさりと言った。
よく見ると小道の最初は階段になっていて、まるで神社にでも続いているようだった。
 

 中へ進んでみると、外見ほどは悪くなく広かった。
階段が終わると、蒲鉾(かまぼこ)をひっくり返したような半円状に林が削られている。
踏み均してできただけの道ではないようで、足元には木の根こそあれ植物はほとんど生えていない、土と小石ばかりだ。
 
 
川 ゚ -゚)「自然のトンネルだな」
 
( ・∀・)「そうだね」
 
 道を覆うように伸びる緑から射し込む、木漏れ日を受けながら二人は歩いた。
二人が足繁く通った道なだけあって、それはそれは素敵なものだったようにモララーは思えたが、クーはどうだったのだろうか。

268 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/08(土) 23:39:03.42 ID:K/1/NT7h0
 
 10分かそれくらいしたとき、急に道が開けた。
 
道は平坦になり、それに沿って芝が同じくらいの幅に生えている。
 いつの間に随分昇っていたようで、辺りは薄く霧がかっていた。
そのせいで、雲のない日なら切り取られたように陽の当たるこの場所も、不思議な雰囲気を醸し出している。
 
 
川 ゚ -゚)「ここまでゆったりと上り坂が続いていたんだな」
 
( ・∀・)「疲れた?」
 
川 ゚ -゚)「まさか。この程度じゃ大丈夫さ。
     しかし霧がかかるほどここは高いところなのか」
 
( ・∀・)「もともと標高が高いのさ。
      あの旅館だって、海抜何メートルか調べれば結構なものだと思うよ」
 
 
 暫くすると、紫色が現れはじめた。菖蒲である。
 
点々とあるだけだったそれは次第に芝の緑を塗り潰すほどになり、道が終わる頃には辺りが紫色で溢れた。
道の終わりはちょっとした広場のようになっていて日曜大工で作ったようなベンチが幾つか置いてあった。
 少しくつろごうかとも思ったモララーだったが、それがジメジメと湿っていたせいでできなかった。
 
川 ゚ -゚)「綺麗だな」
 
( ・∀・)「うん。ここらへんじゃ珍しくない花らしいけど、
      これだけ群生しているのを見られる場所は少ないと思うよ。
      僕だって、こんなの見るの初めてだしね」

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/09(日) 00:00:32.54 ID:0lw/sm/N0
 
川 ゚ -゚)「そういえば、なんでここを知っているんだ」
 
( ・∀・)「旅館の人から聞いたんだよ」
 
川 ゚ -゚)「ほう」
 
 
 二人の話し声が止むと、辺りは静謐さを取り戻した。
 
 
川 ゚ -゚)「なぁ」
 
( ・∀・)「ん?」
 
川 ゚ -゚)「少しぼおっとしていかないか」
 
( ・∀・)「そうだね」
 
 
そうして、二人は植物のように時間を過ごした。
どちらともなく、ここを離れようと切り出すまで。

272 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/09(日) 00:03:58.35 ID:0lw/sm/N0
 
 それから、菖蒲畑を出て旅館に着くまでは、
二人とも堰を切ったかのように沢山のことを話した。
 
この菖蒲畑や森林浴の感想だったり、旅館の三人についてだったり。
お喋りをして過ごす時間もまたあっという間に過ぎてしまい、旅館に着いたのに驚いたほどだった。
 
 
川 ゚ -゚)「やけに面白い散歩だったな」
 
( ・∀・)「楽しんでもらえてよかったよ」
 
川 ゚ -゚)「モララーはどうなんだ」
 
( ・∀・)「僕だって楽しかったさ。 すぐに時間が過ぎてしまったしね」
 
 
話し声が聞こえたのか、旅館からデレさんが出てきた。
 
ζ(゚ー゚*ζ「おや、おかえりなさいませ」
 
川 ゚ -゚)「わざわざどうもありがとうございます」
 
( ・∀・)「あぁ、ところで。
      大変名残惜しいのですが、もうじきチェックアウトしますね」
 
ζ(゚ー゚*ζ「そうですか‥‥。
       残念ですが、準備してまいりますね。
       どうか、最後までおくつろぎください」

273 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/09(日) 00:06:42.78 ID:0lw/sm/N0
 
間もなく、モララーたちはチェックアウトした。
 
 旅館にいる三人に見送られ、車を出す。
盛況こそしてなかったが、とても満足のいくものだった。
 
 
川 ゚ -゚)「良かったな、ここで過ごした2日間も」
 
( ・∀・)「是非ともまた来たいね」
 
川 ゚ -゚)「そうだな‥‥」
 
 
 クーは窓を開け、山々に目をやった。
曲がりくねった道に、ぬいぐるみもお守りも揺れる。
疎らだった人影も多くなり、無機質なモノが徐々にその両手を広げる。
 
 
暫く静かにしていたと思ったら、やはりクーは寝てしまっていた。
 
県境の山々から離れ盆地の方へ行くと、当然のように周囲から彩度がなくなってゆく。
空を覆う雲が徐々に多くなり、太陽の光を遮るとそれはより一層際立つものとなった。
 
 連休の最後のいうこともあり、車がどんどん道を埋め尽くしてゆく。
それは存外に酷く、予想よりも帰宅するのに時間がかかってしまった。
 
まだ日は完全に落ちきってはいないものの、更に厚みを増す雲により、夜が前倒して訪れたようだった。
そうしてモララー達がアパートに着くころ頃には、まるで図ったかのようにぽつぽつと雨が降り始めた。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/09(日) 00:09:17.57 ID:0lw/sm/N0
 
( ・∀・)「ほら着いたよ。ほら、クーってば」
 
川 ー ー)「あぁ‥‥」
 
( ・∀・)「傘、持ってくるね」
 
川 つ- )「いや‥‥大丈夫‥‥‥‥」
 
(;・∀・)「やれやれ」
 
 
モララーは、駐車場に収まった車の運転席のドアの閉めると、
 古アパートの二階へと続く錆びた階段を駆け足で昇った。
 
 
( ・∀・)「ん‥‥?」
 
 すると、二階の階段から一番遠い、
モララーの部屋の扉の前に蹲(うずくま)る人影があった。
 
( ・∀・)「‥‥‥‥」
 
 
(゚、゚トソン「あ、おかえり‥‥」

276 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/09(日) 00:13:02.15 ID:0lw/sm/N0
 
 彼女は目を覚ますかのように顔を振ると、
立ち上がり、もう一度モララーに向かって言葉を投げかけた。
 
 
(゚、゚トソン「おかえり、モララーくん」
 
( ・∀・)「‥‥‥‥」
 
 
黙ったまま動かないモララーの右手から、車の鍵がずり落ちた。
 
勢いを増す雨は、その鍵の落ちる音も、階段を昇る音さえも掻き消した。
 
 
(゚、゚トソン「どうかしたの?」
 
( ・∀・)「‥‥‥‥」
 
 
川 ゚ -゚)「いや、雨が強いな。
     荷物を運ぶには結局部屋から傘を持ってこないと‥‥ん?」
 
(゚、゚トソン「あ‥‥‥‥」

277 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/08/09(日) 00:15:32.91 ID:0lw/sm/N0
 
( 、 トソン「あっ、そういうことね! なんだぁ」
 
 彼女は俯いたまま、いかにも明る気な口調で言い放った。
何かを納得したのかそうでないのかは定かでないが、彼女は駆け出した。
 
立ち竦(すく)むモララーとクーの横をすり抜け、傘も差さずに雨に呑まれていく。
 
 
川;゚ -゚)「おい! いいのか」
 
 
(  ∀ )「‥‥‥‥」
 
 
 モララーは遂に何も口にしないまま部屋の中へ入った。
アスファルトを打ち、跳ね返った雨水が置き去りにされたお守りを濡らした。
 
雨は更に強くなるばかりで、アパートの前の道路はさながら小川のようになっていた。


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