- 3 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:19:52.82 ID:pgbu2VuWO
第十七話「選択の時」
- 4 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:21:25.22 ID:pgbu2VuWO
- ('A`)「よし……」
戸棚を開くとそこには幾つかの包丁があった。
やはり無難に調理実習室を選んで正解だったな。
適当に刃渡り十五センチほどのセラミック包丁を二本手に取り、何回か振ってみる。
(*'A`)「…………」
小さい頃に憧れていた正義のヒーローになったみたいで、少し照れ臭くなった。
ふと開いた戸棚の隣を見ると、やけに横に長い戸棚があった。
何の気なしにそれを開くと、今の俺にとって最も理想の武器が入っていた。
('A`)「これは……」
刃渡り六十センチはある鉄製の出刃包丁が一本、そこにあった。
しっかり手入れされているようで、刃こぼれはしていないようだ。
学校で魚を捌く事なんて無いだろうに、何故こんなものがここにあるのかは知らないが有り難く拝借させてもらうとしよう。
- 6 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:22:53.93 ID:pgbu2VuWO
- 出刃包丁をベルトに通し、セラミック包丁を一本だけ手に取る。
よし、これで少しは戦えるだろう。
後はここから抜け出す方法を考えるだけだ。
それも実はここに来た時点で思い付いたんだがな。
('A`)「やるしかねぇよな……」
部屋の隅にある掃除用のバケツに目を移し、俺はブレザーとカッターシャツ、その下に着ていた肌着を脱ぎ捨てた。
水道水でそれらを充分に濡らし、バケツに水を溜める。
(;-A-)(嫌だなー冷てーよなー傷に染みるよなー……)
意を決してそれを被る。
心臓が止まりそうな冷たさだ。
ローファーからズボンから下着まで、存分に水を吸ってぐっしょりと重くなる。
(;'A`)「駄目押しだ!」
さらに脱ぎ捨てたブレザーやらシャツやらを水に浸し、たっぷり水を吸わせる。
- 7 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:23:41.84 ID:pgbu2VuWO
- 足速に歩を進める。
目指す先は燃え盛る炎が行く手を阻む階段だ。
(;'A`)「…………」
茹だるような熱さを前に唾を飲み込む。
だがまぁ行くしかないよな。
どちらにせよこのまま此所に居たところで明日には焼死体となって発見されるのが関の山だからな。
最後の懸念事項?
そんなもの、答えは既に決まってるさ。
モララーと内藤のどちらにつくかなんて考えるのも馬鹿馬鹿しい。
しっかりしろよ数分前の俺。
そんな事よりも俺を散々ぶん殴ってくれたモララーの顔面に、俺をこんなところにほっぽり出した内藤の顔面に怒りの鉄拳をお見舞いしてやらないことには、俺の怒りは収まりそうにない。
(#゚A゚)「とっつげきーっ!!」
出刃包丁をベルトに引っ掛け、半裸で濡れたシャツとブレザーを振り回しながら、俺は燃え盛る炎の中へ突っ込んだ。
- 8 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:24:48.55 ID:pgbu2VuWO
- ――
( ω^)「おっおっおっ!」
(#メ・∀・)「ちょこまかうざってぇんだよぉぉぉっ!!」
モララーの激昂をそのまま具現化したかのように赤く燃える炎が地面から吹き出てくる。
火山の噴火を連想させるそれは次々に僕目掛けて吹き出ているけれど、怒りに身を任せた単調な攻撃なんかがこの僕に通用する筈がない。
( ω^)「風が気持ち良いおー」
(#メ・∀・)「てめえぇぇっ!!」
より一層激しく燃え上がる炎を僕は軽く躱す。
やれやれだ、地面から来る攻撃なんか此所にいれば楽に躱す事が出来るのに……
此所、空ではね。
(#メ・∀・)「さっさとくたばれぇぇっ!!」
モララーは両手を空に翳し始めた。
あらら……確か君、僕に腕折られてなかったかな?
- 10 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:25:47.96 ID:pgbu2VuWO
- 本日三度目の炎の狼。
そりゃ単調な攻撃よりかはよっぽど厄介だけどさ、そろそろ意味が無い事に気が付かないかなぁ?
駆け上がり、襲い来る狼をぎりぎりまで引きつけて躱す。
それでも狼は僕という標的を見失うことなく、迂回してくる。
( ω^)「ブリューナク!」
瞬時に槍を形成し、僕を食らわんと大きく広げた口に叩き込む。
内側から貫かれた炎は散り散りになり、消え失せる。
(;メ・∀・)「なっ……!?」
モララーは驚愕の表情を浮かべている。
それもそうだろう。さっきまでの僕ではこの炎をこうもあっさり打ち破ることは出来なかったから。
それをモララーは分かっていたから。
だからこその驚愕。お前の気持ちは痛いほど分かるよ。
流石兄弟を相手取った時に似たような経験をしたからね。
- 11 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:26:39.81 ID:pgbu2VuWO
- ( ω^)「お前は何にも分かってねーお」
(#メ・∀・)「あぁっ!?」
憤り、思考を停止させたモララーを見て、僕は何ともいたたまれない気持ちになった。
( ω^)「適応者の力の源は強く願う気持ち。これがどういう意味か分かるかお?」
(#メ・∀・)「んなもん分かりきってらぁ! てめーをブチ殺す!! 今の俺にとってそれが全てだ!」
( ω^)「……くっだらねーお」
いたたまれない気持ちが哀れみとなって確かな形になるのが分かった。
これが無ければモララーは僕を、ドクオすら越える最強の適応者となり得る力を持っているというのに。
強者ゆえの驕り。
それがモララーの神にも届き得る才能の弊害だ。
- 13 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:27:23.53 ID:pgbu2VuWO
- 適応者なんて大層な力を持たなくてもモララーは人の上に立つ資質を持っていた。
一年と半分同じクラスで過ごしてきて、ましてや体のいい遊び道具というある意味かなり近いところでモララーと過ごしてきた僕には解る。
文武両道、容姿端麗、この二つの才があれば僕達のような高校生という団体の中では中心に立てる。
だけどそれだけじゃない。
モララーの才能で特筆すべきなのは、そのカリスマ性。
自分が他者より優れていると自負しているからこそ、身体から滲み出るそのオーラが人を従わせる。
たとえそれが自分の意志じゃないとしても。
力ある者の前では持たざる者は平伏すしかないのだ。
それが僕が力を手にしてから牙を研いでいた期間にモララーから感じ取ったことだ。
- 17 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:29:13.97 ID:pgbu2VuWO
- だからこそ自分と対等に張り合える者が現われると狼狽する。
そしてその動揺を悟られない為に怒りに身を任せ、牙を剥く。
高く積み上げた威光こそ、薄く、脆い。
( ω^)「…………」
ドラム缶の中に大量に詰め込んだロケット花火が一気に点火された時のように、モララーが放つ炎はデタラメな軌道を描いて飛び交っている。
もっとも、『ように』とは言ったものの、僕はそんな危険な遊びなどしたことないのだけれど。
(#メ ∀ )「あぁぁぁぁああ゛っ!!」
危険なのは見てくれだけで、中身は空っぽ。
想いの篭っていない力は何の強さも持たない、薄っぺらな虚勢だ。
( ω^)「躱す必要もないお」
これならばまだ弟者への想いを宿した兄者、僕への想いを宿したツンの方が張り合い甲斐がある。
- 19 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:30:29.44 ID:pgbu2VuWO
- 標的をモララーに構え、風を切って突っ込む。
撒き散らされた炎が時折僕の身体を焼くが、そんなことは関係ない。
その全てが僕の意識、反応の枠に収まっているから実質、僕の力によって全てが無力化される。
身体への負荷も大したものじゃない。
こんな薄い攻撃ならドクオのパンチを防ぐ方がよっぽど堪えるさ。
( ω^)「つーかまーえた」
一直線にモララーの元へと駆け抜け、折れている腕を左手でがっしりと掴んだ。
(;メ・∀・)「なっ!?」
さっきまでの怒りが嘘のように、モララーの顔は青褪めた。
だけどそんな事知るもんか。
僕の前に立ち塞がる者には苦痛を与えるだけだ。
(;メ ∀ )「ぐあああああっ!!」
僕は既にへし折れたモララーの腕を、容赦無く握り潰した。
- 23 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:31:35.75 ID:pgbu2VuWO
- 肉が手の中で爆ぜる感触。
骨が粉々に砕ける感触。
鼻腔を突き抜ける鉄の匂い。
両耳を突き抜けるソプラノの悲鳴。
あぁ、なんて気持ちの良い景観だろう。
僕には世界変革を成し遂げるという大義名分がある。
だけどそんな事を抜きにしても僕は人を殺すだろう。
この感触、この愉悦を味わえる限り。
( ω゚)「ふふ……ふふふふ」
(メ ∀ )「あ……ぁ……」
駄目だ。このままじゃ喰われてしまう。
楽し過ぎて……
気持ち良過ぎて……
( ω゚)「あぁああああああっ!!!」
力任せに掴んだ腕を引っ張る。
ひしゃげた腕は大した抵抗もなく、ぶちりと音を立てて引き千切れた。
(メ ;∀;)「やめろぉおおおおおっ!!!」
- 25 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:33:09.37 ID:pgbu2VuWO
- 声にならない声を上げて、モララーは地に倒れ伏せた。
噴水のように溢れ出る血が僕の視界を埋めてゆく。
( ω゚)「あああああああああああっ!!!!!」
いい気味だ。
嫌味ごとの一つでも言ってやりたい気分だ。
でも……
どうしてだろう。言葉にしたい事は沢山あるのに、それを言語化するのも何故か億劫で……
おかしいな……
こんな筈じゃなかったのに……
何でお前がでしゃばるんだ?
ベルゼブブ。
( ω;)「うわああああああああっ!!!!」
視界が滲み、世界が歪む。
閉塞する意識の中で、僕が最後に見たのはモララーの血の赤と校舎を燃やす炎の赤、そして遠くから近付いてくる何かの赤い光だった。
僕は君に賭けるよ……
ドクオ
- 27 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:33:59.36 ID:pgbu2VuWO
- ―
――
―――
全く……
この少年は自分の器の限界というものを知らないらしい。
まぁそれはそれで、我輩がこの世界の空気を吸える理由となるので不満は無いがな。
( ω゚)「…………」
完全にこっちに出られたわけではないようだな。
あの狂気の中でよく自分の身体を保てたものだ。
(; ∀ )「ぁ……な……いと…」
さて、この喋る肉塊をどうしたものか。
このまま一撃の元に葬り去るのはあまりにも面白みがなさ過ぎる。
かといって殺さないわけにもいかない。
適応者内藤ホライゾンの想いの元に召喚された我輩に、宿主に逆らう権利は与えられてないからな。
( ω゚)「…………」
( ∀ )「…………」
そうだ、弄んでやろう。
- 31 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:35:06.14 ID:pgbu2VuWO
- ( ω゚)「そこの少年」
(メ ∀ )「…………」
呼び掛けるが返事は無い。
なんと無礼な話だろう。我輩が直々に声をかけてやっているというのに。
地獄では考えられぬ事なのだが、最近のこの世の若者は些か常識に欠けているようだ。
( ω゚)「おい」
(;メ ∀ )「っ! ぎゃああああああああっ!!!」
一瞬、声が出せないのかとも思ったがそうではないようだ。
それにしても良い声で鳴いてくれる。
ただ千切れた腕の断面を踏み付けただけなのに。
(メ ;∀;)「いやだああああああっ!!! やめろ! やめてくれっ!!」
( ω゚)「む?」
内藤ホライゾンの内側から見ていた限りでは傲慢を絵に描いたような少年だったが、こうなると脆いものだな。
全く、遊び甲斐が無い。
- 35 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:37:37.16 ID:pgbu2VuWO
- 先程からずっと無視していたのだが、近付いてくる音が煩わしく思えてきた。
( ω゚)「消防車……とかいったかな」
この世の文明も栄えたものよ。
やはり内藤ホライゾンの内面から見るのと直接肌で感じるのとでは、感慨の大きさがまるで違う。
と、そんなことはさておき……
( ω゚)「おい少年、起きろ! 人だ、人が来るぞ! お前の怪我も治してもらえるかもしれん」
(;メ ∀ )「あ……あ……」
立つ気力も無いようで、少年は芋虫のように醜く這ってゆく。
対する消防車の方も校門へと差し掛かっていた。
希望の赤い光に生を求め、醜くも力強く進む人間。
あぁ……
なんと感動的で……
滑稽な絵なのだろうか。
- 37 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:39:13.61 ID:pgbu2VuWO
- ( ω゚)「ほらもう少しだ! 頑張れ! 希望の光は直ぐそこだ!」
我輩の本来の姿のそれと同じ形に変化した左手と、いたって普通の少年の手。
その両手を叩き、ぱんぱんと高らかに音を立てて少年を鼓舞する。
(;メ ∀ )「たす……かる……? いき……れ……」
血と汗と涙とその他諸々の何かでくしゃくしゃになっている顔に希望の色が差し込む。
目の前に希望があれば人はそれに向かって何処までも頑張れる。
うむ、やはり美しいな人類。
( ω゚)「そうだ! 怪我を治療して貰えば少年は生きられるぞ! 頑張れ!」
(メ ;∀;)「あっ……ありがどう……! ありがどぅ…………」
消防車は既に敷地内に入ってきている。
もう少し、もう少しでこの少年は救われるのだ。
- 39 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:41:30.22 ID:pgbu2VuWO
- ( ω゚)「まぁ壊すのだがな!」
指を鳴らしてやる。
それだけで消防車は音も無く砕け散った。
中に居たであろう人間もろとも。
(メ ∀ )「あ……」
目の前で繰り広げられた、というにはあまりにも短か過ぎる惨劇を見て、少年の表情は一転して絶望の色へと変わる。
(;メ ∀ )「あ……ぁ」
この瞬間ほど美しいものは無い。
希望の光が黒く塗り潰されてゆく、究極の愉悦。
(;メ ∀ )「ああああああああああああっ!!!!」
( ω゚)「はは、ワロス」
我輩はそれを鼻で笑ってやる。
絶望の色を高みで眺める。
それこそが我輩の至高にして究極の娯楽なのだ。
と、まぁそれはさておき。
( ω゚)「うむ。人が居なくなってしまっては助かるものも助からん。もし良ければ我輩が治してやろうか?」
- 41 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:43:06.47 ID:pgbu2VuWO
- (メ ∀ )「え……?」
というより我輩が強制的に治す。
この少年に拒否権など与えられてないのだ。
我輩がたった今、そう定めたからな。
( ω゚)「治れ」
ぱちんと指を弾く。
それだけでこの少年の身体は元通り、優良健康体。
千切れた腕も腫れた顔面も元通り、我輩がたった今、そうなるように定めたからな。
(; ・∀・)「え……?」
( ω゚)「何も言うな。感謝される覚えはないぞ。我輩が好きでやった事だからな」
(; ・∀・)「内藤……? お前は……」
おっと、我輩としたことが致命的なミスを犯してしまった。
名乗る前にこうも馴々しく話し掛けては、警戒するなという方が無理な話だろう。
( ω゚)「しかと聞け。我輩の名は蝿の王ベルゼブブ……」
( ω゚)「内藤ホライゾンの力の主だ」
- 45 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:45:45.08 ID:pgbu2VuWO
- (; ・∀・)「お前があのベルゼブブだってのか……?」
( ω゚)「うむ」
我輩の名を聞いて、少年の顔がより一層青褪めた気がする。
そこに我輩を倒そうという意志は感じられない。
まぁそれも当然だろう。勝てないと思い込んでしまえば決して届く事のない高み。
それが我輩がいる領域だ。
(; ・∀・)「嘘だろ……どうすんだよ……」
立ち上がる余裕も無いようで、少年は芋虫のように這って我輩から距離を置こうとする。
( ω゚)「…………」
残念だ。
少しの歯ごたえも無い。
この少年は今、自分の手で我輩に勝つ可能性を潰したのだ。
( ω゚)「腸を撒き散らせ」
( ・∀・)「え?」
抵抗する暇も、思考する猶予も与えない。
少年の胴は内側から弾け、臓物を撒き散らした。
- 46 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:49:29.65 ID:pgbu2VuWO
- ( ∀ )「ぎゃああああああああっ!!!」
囀るな小僧が。
戦いの意志を放棄した人間に我輩を楽しませる事は出来ない。
ならばせめて、ここで血を撒き散らして我輩に媚びるのが道理だろう?
( ω゚)「治れ」
( ∀ )「……ぁ」
( ω゚)「腸を撒き散らせ」
(; ∀ )「あが……ぁ……!」
再生し、再び壊される。
これを何十、何百と繰り返して人格を壊す。
その行動に意味など無い。
無いが、与えられた玩具で与えられた範囲で遊ぶ。
非常に良心的で温厚な遊び方だとは思わないか?
( ω゚)「治れ」
( ω゚)「弾けろ」
死ぬ事は許さない。
よってこの少年は何度殺されようと死ねない。
我輩がたった今……
そう定めたからな。
- 48 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:51:30.00 ID:pgbu2VuWO
- ――
(#゚A゚)「ヒャッハーッ! 熱いぜえぇぇっ!!」
纏わりつく炎をブレザーで打ち払う。
規格外の熱さに頭がどうかなりそうだ。というより既になっているのかもしれない。
(#゚A゚)「うおおおおおおっ!!」
ズボンは途中で脱いだ。
よって今の俺はパンツ一丁の姿……ではなく、パンツ一丁+靴下とローファーだ。
(#゚A゚)「おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
変態だ。変態である。
上から見ても下からみても、何も知らない他人が見れば即座に警察或いは黄色の救急車を呼ぶレベルの、生粋の変態だ。
装備品はほうちょう、ステテコパンツ、かわのくつ。
どう見てもゲーム序盤的な装備で上位悪魔に挑もうというのだから、自分でもどうかしているとしか思えない。
- 50 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:53:20.32 ID:pgbu2VuWO
- そんな俺の変態的、衝動的な行動の賜物か、多少の火傷は負いながらも何とか一階に辿り着く事が出来た。
(#゚A゚)「いえぇあああああっ!!」
窓の向こうに内藤とモララーが見えた。
何やらモララーが這いつくばっているようだがそんな事は関係無い!
どっちが勝っていようがこの怒りの鉄拳をあの二人に叩き込む。
それだけだ。
窓ガラスを出刃包丁の柄で叩き、駄目押しに空いた手で殴り付ける。
軽快な音を立てて硝子は割れ、俺と内藤とモララーを繋げた。
(#゚A゚)「WRYYYYYYYYY!!」
感きわまって吠える。
ようやく辿り着けたんだ。
それくらい羽目を外しても罰は当たらないだろう?
( ω゚)「……」
( ・∀・)「……」
え、お二方何でそんな哀れむような目で見るの?
- 54 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:55:32.25 ID:pgbu2VuWO
- ( ω゚)「ドクオ? ドクオなのか……?」
内藤はやけに重苦しい口調で疑惑の声を上げている。
キャラに合わないから辞めた方が良いと思うんだがなぁ。
(; -∀・)「取り敢えずは感謝しとくぜ……ありがとよ」
大した外傷は無いのにモララーは何故か苦しそうだ。
感謝されるような事はしてないと思うのだが、それにしても何があったのだろうか?
至る所に血が飛び散っているのに二人共怪我はしてなさそうだ。
疑問ばかりを残していく奴等だな、まったく。
( ω゚)「ドクオ……いや、ドックン……」
(;'A`)「え?」
俺が窓を踏み越えて外に着地した瞬間、内藤の瞳がギラついた気がした。
何故だろう。
この命のやり取りをする場所で、俺の貞操というかその類のモノが危ない気がする。
- 55 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:57:20.96 ID:pgbu2VuWO
- (* ω゚)「うおおおおおおっ!!」
(;'A`)「えっ? なんで? 何で!?」
内藤が物凄い勢いで抱き着いてきた。
そりゃあもう文字通り全身の骨が砕けそうなほど強く。
(* ω゚)「会いたかったぞ少年! 何という感動!! 何という衝動!!」
(;'A`)「おまっ……ベルゼブブか!?」
あまりにも内藤らしからぬ言葉遣いに、俺はようやくこの状況を把握しつつあった。
こんな堅苦しい話し方をする人間を俺は一人しか知らない。
言わずもがな、魔王ベルゼブブの事である。
もっとも、人間としてカウントして良いのかと問われると首を縦には振り難いものがあるが……
( ω゚)「我輩! 不覚にも勃起してしまいそうだ!! ドックン!! どうしたら良い!?」
- 56 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 17:58:47.39 ID:pgbu2VuWO
- やたらと一語一語を強調してくるのが何とも言えない恐怖心を煽る。
これ以上は不味い、色々と不味い。
(;'A`)「離せ! こんにゃろっ!!」
手に持っていた出刃包丁の柄でこめかみを殴りつける。
勿論手加減は一切しないし、一発だけなんて生易しい真似もしない。
頭をカチ割るぐらいの勢いで何度も、何度も。
(* ω゚)「おぅふ! これは! なかなか……」
十五撃目。
ようやくベルゼブブは俺から手を離した。
というより力無く倒れ込んだ。こめかみから血を流しながら。
(; ・∀・)「なんつーやつだよ……」
('A`)「そりゃ誰に対して言ってんだ?」
( ・∀・)「お前だよお ま え」
そう言うモララーの表情は何故か苦しそうだ。
怪我一つしていないのに瀕死の重傷を負ってしまったかのように。
- 59 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 18:00:38.08 ID:pgbu2VuWO
- ( -∀・)「それはそうと……」
ごろりとアスファルトの上で仰向けになり、モララーは煙草に火を点けた。
( ・∀・)「結局お前は俺と内藤、どっちに着くんだ?」
('A`)「…………」
そうだった。
いや、決して忘れていたわけではないが、予想外の展開につい流されかけてしまった。
俺はそれを選択する覚悟を決めたからこそ此所に来たのだ。
パンツに靴下では大した威厳も説得力も無いが。
('A`)「それについてはもう決まってるんだ」
俺はモララーに歩み寄り、ブレザーを肩にかけて手を差し伸べた。
('A`)「立てよ」
( ・∀・)「…………」
モララーは無言で俺の手を取った。
その表情に敵意は無く、ただただ安堵の色を浮かべている。
- 60 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 18:01:58.63 ID:pgbu2VuWO
- (#゚A゚)「どっせえええいっ!!」
( ∀ )「ぶへらっ!」
俺の手を掴み、立ち上がったモララーの顔面に渾身のフックを叩き込む。
小気味の良い音と共に再びモララーは倒れ込んだ。
(# ・∀・)「何の真似だ!?」
('A`)「どーもこーもねぇよ。散々人をボコボコにしといてそんぐらいでいきり立つんじゃねぇ!」
モララーの顔も見らぬまま、俺は気を失った内藤を引き摺り起こし、頬を思い切りはたいた。
(; ω^)「あだっ!」
('A`)「起きろー」
(; ω^)「もう起きてるお!」
五、六回往復ビンタをしたところで内藤の頬が蝿になった。
こういう時ぐらい大人しくやられておけばいいものを。
('A`)「内藤か? ベルゼブブじゃないよな?」
( ω^)「僕だお」
うむ、よろしい。
- 62 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 18:03:37.00 ID:pgbu2VuWO
- ('A`)「内藤、耳を貸せ。良い作戦がある」
( ω^)「ん……」
内藤が無警戒で俺に耳を傾けたのを確認すると、俺は左手で握り拳を作った。
(#゚A゚)「しえぇぇぇぇっ!!」
(; ω゚)「たわばっ!!」
綺麗に見事に、俺の拳が内藤の顔面にめり込む。
これまた小気味の良い音を立てて、内藤は仰向けに倒れた。
( -∀・)「何がしたいんだよお前はぁ……」
モララーがふらふらと立ち上がりつつ言う。
そんな事、分かりきった事だろうよ。
モララーは俺をボコボコにした。内藤は俺を燃え盛る校舎の中にほっぽり出した。
俺が怒り狂って復讐に走るには充分過ぎるほどの動悸だろう。
と、まぁここらへんで……
('A`)「茶番は終わりだ」
( ・∀・)「あ?」
( ω^)「お?」
- 64 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 18:05:31.52 ID:pgbu2VuWO
- ('A`)「モララー、悪いが俺はお前の味方にはなれない」
( -∀-)「そうかい」
モララーはあたかも既に知っていたかのようにぶっきらぼうに答える。
( ・∀・)「理由を聞こうか」
威圧するでもなく、嘆くでもなく、純粋な疑問として俺に問い掛けたのだろう。
モララーの表情は敵である俺を前にしても、とても穏やかなものだった。
('A`)「俺はもう人を殺してるからさ」
津出 麗子、流石兄弟。
もうこの世には居ない三人の顔が脳裏に浮かぶ。
('A`)「俺が殺したやつらは不条理にも俺の延命と内藤の野望の犠牲となって死んだ」
だから。
('A`)「成し遂げて償うんだ。内藤の野望が世界にどんな影響を与えるとしてもな」
- 66 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 18:07:08.56 ID:pgbu2VuWO
- ( ・∀・)「お前が内藤に荷担することで多くの人間が死ぬかもしれないんだぞ?」
('A`)「知ったことかよそんなもん。この償いが俺のエゴなのは分かってるし、これ以上の犠牲が出るのも分かる」
償いという名の一方的な感謝、エゴ。
津出 麗子が居なければ俺は自分の生き方を省る事をしなかった。
流石兄弟が居なければ俺は人の情の温もりを知る事は無かった。
だからこそ……
('A`)「俺は償い、感謝する。人間が食卓に並んだ家畜達にいただきますを言うようにな」
成し遂げなければ津出 麗子の命は何処で報われる?
生きなければ流石兄弟の命は何処で報われる?
凄惨な過去と守るべき未来を天秤にかけて、前向きに未来を選べるほど俺は強くはないんだよ。
- 67 名前: ◆4KLmqjbvG6 投稿日:2010/06/05(土) 18:10:40.47 ID:pgbu2VuWO
- ( ∀ )「へぇ……お前から見れば俺達は家畜同然ってわけか」
('A`)「卑屈になるなよ。そういう事じゃない」
( ∀ )「じゃあどういう事なんだよ」
('A`)「言ってしまえばそんな事は建て前でしかない。俺はお前を殺す。お前は俺を殺す。それだけで充分だろ?」
一陣の風が吹き抜ける。
風が炎を介した生温い感覚が俺の身体を舐めた。
( ∀ )「良いね。そういうシンプルなのは最っ高だよ!」
モララーは紅蓮の炎を撒き散らし、歪んだ笑みを浮かべる。
俺が校舎に放り出される前とはまた違ったその歪みが恐怖心を煽るような気がした。
( ω^)「ベルゼブブめ……いらん事しやがるお」
内藤が俺の肩に手を掛け、のっそりと立ち上がる。
( ω^)「いくお」
地を殴る内藤の左腕の毛が逆立ち……
('A`)「おうよ」
モララーに向けて突き出した刃が俺の手の中で鈍色に輝いた。
俺は未だに靴下にパンツのままだった。
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