- 1 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:40:48 ID:CI4RvHSE0
-
“かつて子供だった大人たちと、これから大人になる子供たち、全てに”
- 2 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:41:35 ID:CI4RvHSE0
◆ ◆ ◆ ◆
――寄せては引き、引いては寄せる波を見つめながら、老人はそのリズムに合わせるようにして腰かけた安楽椅子をぎっちぎっちと揺らす。
色とりどりの貝殻がそこここに落ちる砂浜には、老人の他には幼い少女が一人、潮干狩りに興じているだけだった。
/ ,' 3「あまり遠くに行っては駄目だよ」
*(‘‘)*「はーい」
安楽椅子から30トール(約32メートル)程離れた波打ち際から元気に手を振ると、少女は再び眼下の砂浜との睨みあいに戻る。
幼い少女の無邪気な戯れに老人は頬を緩めると、再び眼前の大海原へと視線を向けた。
太陽の光を受けて燦々と輝く紺碧の水面はとても穏やかで、見る者全ての時間を止めるような美しさを持っている。
かつてはこの海の上を幾つもの船が行き交い、この砂浜にも様々な人々が降り立ったことがあった。
大嵐の中を何日も航海し続けやっとの思いで此の地に辿りついた者や、通りがかりにちらと島を覗いただけで、三日も停泊しない者も居た。
今ではこの島の辺りを航海するものもめっきり減ってしまい、たまに通りがかっても港も街も無いこの島に錨を下ろそうとする船は居るはずも無かった。
- 3 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:42:57 ID:CI4RvHSE0
- / ,' 3「……ふぁ…あ」
一つ大きな欠伸をすると、老人は安楽椅子から立ち上がる。
遠くで貝殻拾いに夢中になっていた少女も、老人が立ち上がったのを見て駆け寄ってきた。
*(‘‘)*「ねえ、お爺ちゃん見て!綺麗でしょ〜!」
/ ,' 3「おお、おお、これまた随分と良い物を見つけたもんだの」
小さな両の掌いっぱいに抱えた色とりどりの戦利品を突き出し、得意げな顔をする少女の頭を、老人は優しく撫でる。
少女はいっそうその笑みを深めると、肩から下げたポーチにお宝をしまいこみ、よろよろと歩く老人の隣に並んでその手を握った。
海岸線の背後にはなだらかな丘が連なっており、丘の一際高い所には一本の杉の木と、それに寄り添うようにして小さな丸木小屋が立っている。
地図にすら載っていないこの小さな小さな島には、この丸木小屋以外の建物は存在しない。
少女と老人は、丘の上のその丸木小屋を目指して青々と茂る下生えの上を、ゆっくり、ゆっくり登って行った。
*(‘‘)*「お爺ちゃん、疲れない?大丈夫?」
/ ,' 3「ほっほっほ。爺だからと馬鹿にしなさんな。木登りでなら、まだまだお前さんにも負けんぞ」
*(‘‘)*「むぅ〜!」
- 4 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:44:19 ID:CI4RvHSE0
- 仲睦まじいやり取りのうちに丸木小屋の前まで辿りつくと、少女は率先して扉を開けて老人をエスコートする。
口ではああ言ったものの、老人の身体にはしっかりと歳月の重みが刻み込まれていた。
*(‘‘)*「はい、お爺ちゃんはここに座って下さいねー」
/ ,' 3「一人で座れるっちゅうとろうに」
*(‘‘)*「はいはい、わかってますよー」
/ ,' 3「まったく、誰に似たんだか……」
ぶつくさと抗議を上げながらも、老人は少女が壁際から引っ張ってきた安楽椅子に深々と腰掛ける。
小屋の中は見た目通り一間だけであり、猫の額ほどの台所と木組みの食卓、壁の一つを埋める本棚、二人が寝る為のダブルベッド、そこに二人が入った所でぎゅうぎゅう詰めであった。
*(‘‘)*「ねえねえお爺ちゃん、ご本読んで!」
/ ,' 3「本じゃと?ここにあるのはもうみんな読んで聞かせたじゃろが」
*(‘‘)*「へっへー。これなーんだ?」
得意げに少女が取りだした一抱えもある茶色の包みを見て、老人はそのしょぼくれた目を大きく見開く。
瞬間、老人の胸に様々な思いが去来し、束の間目の前の景色が歪むような錯覚を覚えた。
- 5 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:47:02 ID:CI4RvHSE0
- *(‘‘)*「地下室のお掃除してる時に見つけたのー」
/ ,' 3「――これは……」
差し出された包みを受け取り、その日に焼けた化粧紙をゆっくりと剥ぎ取る。
麻紐で括られた、辞典程もある大判の書物が五つ、その姿を老人の前に現した。
/ ,' 3「もう既に処分してしまったと思っていたが……そうか、地下室に置いていたか」
老人は懐かしそうに目を細めると、一冊々々を食卓の上に並べていく。
一つ一つがとても分厚い書はそれぞれ、緑、黒、赤、白、青の色をした革装丁の大変に値の張りそうな代物だった。
記憶を辿るように老人はそのうちの一冊を開くと、慈しむようにしてページを捲って行く。
*(‘‘)*「ねえ、これってどんなお話なの?」
額を突き合わせるようにして老人の手元を覗きこんでくる少女に、何と答えたものかと老人は思案していたが、やがて少女をその膝の上に招くと、遠くを見るような目で告げた。
/ ,' 3「これは、五つと一つの物語。五つの物語が絡まり、一つの伝説になる、そういうお伽噺じゃよ」
少女は老人の言葉を意味を暫く考えていたが、諦めて首を傾げる。
- 6 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:47:57 ID:CI4RvHSE0
- *(‘‘)*「よくわかんないや。取り合えず読んで聞かせてよ」
/ ,' 3「ほっほっ。まあ、それが一番早かろうて」
老人は苦笑すると、五つの本の表紙をもう一度眺めた。
/ ,' 3「さて、それでは最初はどれにする?」
*(‘‘)*「んーとねー……先ずはあ……」
- 7 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:52:54 ID:CI4RvHSE0
/ ,' 3五つと一つの物語のようです*(‘‘ )*
- 8 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:53:37 ID:CI4RvHSE0
†――目録――†
〜緑の本〜
【森の申し子らの冒険】
〜黒の本〜
【背国の黒騎士】
〜赤の本〜
【熱風の豪傑】
〜白の本〜
【悪徳商人と白磁の使途】
〜青の本〜
【見習い魔術師の受難】
- 9 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:55:08 ID:CI4RvHSE0
【緑の本】
「森の申し子らの冒険」
- 10 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:56:11 ID:CI4RvHSE0
“ギデアス山よりも高く ノール海よりも青く
地に満ち満ちて緑の 広くも深き我が故郷の上に
エルフもセムも トロールもレンも 集えよ集え 集いて踊れ
今宵 命の滴の猛き風音を鳴らし
讃えよ讃え 讃えて踊れ
偉大な我らの父祖へと捧ぐ 緑の子らの喜びの太鼓は遠く“
――ムンバイ、知られざる生命の揺り籠 第2巻 14項「大父祖を讃える歌」
- 11 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:57:12 ID:CI4RvHSE0
第一幕
〜枝苔の里〜
- 12 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 21:58:20 ID:CI4RvHSE0
〜1〜
――天から降り注ぐ光が、緑の天幕の網目を縫って、木々の根に覆われた大地をしめやかに照らす。
灰色の幹々の向こう、30トール(約36メートル)程先に見知った小さな湧水を見つけ、モララーはほうっと一つ溜息をつく。
五年もこの地を離れていては培ってきた土地勘も無駄になるかと思っていたが、自分の記憶と変わらぬ景色があるのは実に有り難い事だった。
( ・∀・)「どれ、ここらで一休みとしようか」
長旅のうちに染みついた独り言に苦笑すると、疲れた脚に気を張りもう一息。
茶色と緑のまだら模様になった落ち葉の絨毯を踏みしめ湧水の下まで来ると、モララーはマントを脱いで岩の上に腰を下ろした。
太く古い根に覆われた岩と、地面の間から湧き出る清流に手を浸す。
記憶の中と寸分違わぬ冷たさに、僅かに頬を綻ばせると掌柄杓で一杯。
澄んだ清流の一掬いは、乾いた喉と疲れた体の隅々に染み渡り、自分が故郷に戻ってきた事を教えてくれた。
- 13 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:00:16 ID:CI4RvHSE0
- 頬を撫でる涼やかな風が、湿った土と落ち葉の臭いを鼻孔に運ぶ。
束の間瞼を閉じると、モララーはムンバイの大樹海が立てる原始の息遣いに耳を傾ける。
遠くで聞こえる、梢を渡る獣達の声。
風に乗って届く、樹上の葉達のひそやかな囁き。
聞こえる音の全てに懐古を見出しては、モララーはいちいち感慨に耽るのだった。
( ・∀・)「俺は、帰って来たのだな」
感触を確かめるように言葉に出してから、ここから苔枝の里までの距離を頭の中で軽く計算する。
もう二刻(約1時間)程も歩けば故郷が見えて来る事を確信すると、立ち上がり大きく伸びをする。
モララーの長く尖った耳がその音を聞いたのは、まさにその瞬間だった。
( ・∀・)「――ん?」
初め、それは遥か遠くで打ち鳴らされる太鼓の音に思われた。
里の連中がトロール狩りでもしているのか、と考えた次の瞬間、音が確かな地響きを伴ってこちらに近付いてきている事に気付く。
反射的に立ち上がり、腰に吊るしたつがいの曲刀をそれぞれ両手に握る。
音のする方、薄暗き木々の群れの向こうから、落ち葉を蹴立てて何かが近付いてきていた。
「……ぉぉぉおおおおおお……」
曲刀の握りを確かめながら眼を凝らす。
100トール(約120メートル)先からこちらへと一心不乱に走ってくる人影。
顔は見えないが、その声には聴き覚えがあった。
- 14 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:01:45 ID:CI4RvHSE0
- 果たしてこの声は誰のものだったか。
記憶を呼び起こして思い出そうとするも、あと一歩の所で答えが出ない。
「ぉぉぉぉおおおおお……!」
もう少し。もう少しで思い出せる。
そう、モララーが思った時だった。
(;^ω^)「うおおおおおおおお!勘弁してくれおおおおお!」
腹の底からの絶叫を上げながら、木々のカーテンを突き抜けて、その答えが飛び出してきた。
( ・∀・)「ブーン!」
今まで喉元でつかえていたその名前が、するりと抜け出て森の空気を震わせる。
(;^ω^)「お?え?お!?」
名前を呼ばれたその少年は、束の間振り返り――。
(;^ω(#)「へぶっ!」
顔面から、落ち葉の絨毯に着地した。
- 15 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:03:44 ID:CI4RvHSE0
- (;^ω^)「痛ててて……」
這いつくばり、積もった落ち葉から頭を引っこ抜いたその少年の浅黒く日に焼けた顔には拭いきれない幼さが残っている。
枝苔のエルフに特有の深い緑の髪は、頭のてっぺんで蔓で結わえられ、不揃いな絵筆のようになっていた。
1トールと1オーツ(約150センチ)程の小柄な身体には、モララーの記憶の中の悪童にはなかった、未熟ながらもしなやかな筋肉がついている。
この五年間で彼がきちんと自分の言いつけを守ってきた事を窺い、モララーの頬が自然とほころんだ。
( ・∀・)「久しぶりだな、ブーン!」
懐かしそうな顔で手を差し出すモララーを認めると、痛みに頬を摩っていたブーンは慌てて立ち上がる。
(;^ω^)「え?モララー兄ちゃん?帰ってきてたのかお?」
驚きを顔に浮かべるブーンのその独特の口調が変わっていない事に、モララーは思わず苦笑した。
( ・∀・)「いや、これから里に顔を出す所さ。お前が一等だよ」
(;^ω^)「お、お、そうかお……」
( ・∀・)「しかし、見ない間に大きくなったな。前は俺の腰くらいだったか?」
(;^ω^)「おっおっ……」
- 16 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:04:55 ID:CI4RvHSE0
- ( ・∀・)「それがこんなに立派になって…ははっ!俺も随分と年寄り臭い事を言っているな」
(;^ω^)「おっおっ……」
( ・∀・)「どうした?」
先から妙に歯切れの悪い弟分の顔をモララーは覗き込む。
(;^ω^)「いや、僕も再会を喜びたい所なんだけど……」
ひきつった笑顔で背後を振り返るブーン。
(;^ω^)「今は、そう言うわけにはいかないんだお」
つられて視線を移したモララーは、そこで先に地をどよもしたあの音の事を、嫌でも思い出さずにはいられなかった。
(;・∀・)「なっ…」
木々の枝々を薙ぎ払いながらこちらへ向かって一直線に突き進んでくる轟音。
岩のように硬い苔緑色の肌。サイよりも逞しい四つの脚。大蝦蟇のように開けた口にびっしりと並ぶ乱杭歯。
血走り、見開かれた爬虫類が如き四つの眼。木の幹程もある首の回りを覆う、毒々しい色彩のエリマキ。頭から尾までで3トール(約3.6メートル)にも迫る体躯。
樹海の暴れ牛、怒り狂えるベーモスに他ならなかった。
- 17 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:05:53 ID:CI4RvHSE0
- (;^ω^)「うおおおお!」
叫ぶや否や、一目散に走り出すブーン。
両の手の曲刀を一時は構えたものの、モララーもすぐに考え直した。
(;・∀・)「冗談じゃない!こんなの相手にしてられるか!」
涎を撒き散らしながら突進してくるベーモスに踵を返すと、今までの疲れも忘れて疾走する。
(;・∀・)「ブーン!お前まだベーモスの巣に熊の糞を投げて遊んでるのか!」
(;^ω^)「そんなのとっくに卒業したお!今は蜂の巣だお!」
減らず口を叩く弟分と並走しながら、モララーは胸中で溜息をついた。
まさか、帰郷一番で樹海の猛獣と徒競争をするなど、思ってもみなかった。
(#・∀・)「大なる父祖の腕(かいな)にかけて!まったく!飛んだ帰郷祝いだ!」
(;^ω^)「喜んでもらえてなによりだお!」
草葉を巻き上げ、地を這う根を飛び越えて、モララーは全力で脚を回転させる。
自分よりも僅かに前を行くブーンは、低木の枝々を器用に潜りながら、危うげ無い足取りで樹海を駆け抜けていく。
- 18 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:07:51 ID:CI4RvHSE0
- (;^ω^)「後のことはにーちゃんに任せたお!」
言うが否や、ブーンは疾走の勢いのままに跳躍すると、木々の梢の間を猿のように飛び跳ねて緑の天井の中へと姿を消した。
(;・∀・)「なんてすばしっこいやつだ…!」
暫く見ぬ間に、随分とエルフらしい身のこなしをするようになったものだ、と呆れ半分に感心するも束の間、背後に追いすがったベーモスが、狂ったような唸り声を上げる。
(;・∀・)「くそっ!俺は何もしていないだろうが!」
毒づけど、怒りに震える獣が聞き分けるわけも無い。
故郷を目前にして巨獣の胃袋へ収められては敵わぬと、長旅で疲れ果てた身体に鞭打ち足の回転を速める。
マントの裾を何度か噛み千切られながらも走り続けると、やがて眼前の木々の群れの向こうに、見知った門と櫓が見えて来た。
(;・∀・)「おお、父祖よ!」
目算にして大体500トール程(約600メートル)。巨獣を見つけた見張りのエルフが、櫓の上で弓に矢をつがえるのを見て取ると、モララーは持てる力を振り絞って最後の20トールを駆け抜けた。
首筋に冷や汗をかきながら、櫓と櫓の間の丸太門を潜る刹那、頭上を一筋の風がひょう、と吹き抜ける。
頭から門の内側に滑り込むのに一拍遅れ、モララーの背後でどうっという音と共に地が揺れた。
- 19 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:08:58 ID:CI4RvHSE0
- 荒んだ呼吸を整えながら、背後を振り返り溜息をつく。
枝苔の射手の矢を受けて、巨獣から一転ハリネズミとなったベーモスが、僅か5トール程後ろで永遠の沈黙に伏していた。
(;・∀・)「まったく…帰郷早々とんでもない事もあったものだ……」
緊張の途切れと共に、忘れていた疲れがどっと押し寄せて来る。
「なんだなんだ、何があったんだ?」
「ベーモスが出たって?どれ、俺の矢を一発くらわせてやろう」
「おや、あそこにおるのはモララーじゃあないか」
丸太で組まれた小さな家々から、里のエルフ達が飛び出す様をぼんやりと見つめていると、背後で土を踏みしめる音がした。
(;^ω^)「……ふう。一時はどうなる事かと……」
振り返るモララーに、ブーンは額の汗を拭いながら近づいてくる。
(;^ω^)「しかしモララー兄ちゃん、相変わらず良い走りっぷりだったお」
へらへらと笑うその間抜け面に恨みごとの一つでも言ってやろうと口を開きかけた瞬間、モララーの脇を小柄な少女が駆け抜けた。
- 20 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:09:56 ID:CI4RvHSE0
- (;゜ω(#)「ぶふぉっ!?」
鈍い打突音と共に、ブーンの身体が後ろに吹き飛ぶ。
豚のような苦鳴を漏らして地に這いつくばった少年の前、拳を振り抜いた形のままに仁王立ちするその少女を、モララーは矢張り知っていた。
ξ゚听)ξ「あんた、今日の晩御飯抜きだから」
五年前と変わらぬあどけなさを残しながらも、少しだけ背の伸びた妹分が、そこに居た。
- 21 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:11:54 ID:CI4RvHSE0
- 〜2〜
――薬壺の中から人差し指を引きぬくと、少女は指の上にたっぷりと乗ったヒースの軟膏をブーンの鼻面に乱暴に塗りたくる。
(;^ω^)「あだだだ!もっと優しくしてくれお!」
たまらず悲鳴を上げるブーンだったが、少女はそんな事などおかまいなしとばかりに葉編みのポシェットから包帯を取りだすと、目だけを出して顔面をぐるぐる巻きにした。
(;^三^)「い、息が……」
濁った声音でもごもごと苦鳴を漏らすブーンに、少女は特大の溜息をつく。
ξ゚听)ξ「あんたって、ほんっ――とに馬鹿ね」
にべもない少女の弁に、ブーンは木組みの椅子の上で小さくなるしか無かった。
ξ゚听)ξ「ベーモスの巣穴には近付くなって、最初に言われたのはいくつの時よ?」
(;´三`)「……五つの時だお」
ξ゚听)ξ「あんた今年でいくつ?」
(;´三`)「……十三だお」
少女の吐き出した重い溜息は、木組みの小屋の中を満たさんばかりだった。
- 22 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:13:16 ID:CI4RvHSE0
- ξ゚听)ξ「――で、今度は何したの?火薬玉でも投げ込んだの?」
(;´三`)「流石にそこまではしてないお。蜂の巣を投げ込んだだけだお」
ξ゚听)ξ「答えなくていいわよ。阿呆が移るから」
そんな理不尽な、という言葉をブーンはすんでで飲みこむ。
目の前の幼馴染には、今は何を言っても火に油を注ぐだけだと、本能で知っていた。
(;´三`)「ツン、怒ってるのかお……?」
ξ゚听)ξ「呆れてる」
里唯一の薬師の娘はこともなげに言い捨てると、薬壺や包帯を壁際の棚にてきぱきと戻して行く。
木彫りの棚には大小様々な軟膏の壺や乳鉢、干した薬草やら香草やらが整然と並んでいる。
薬師の跡継ぎとは言え、よくもこれだけの種類の薬の見わけがつくものだ、とツンの家に来る度にブーンは感心するのだった。
ξ゚听)ξ「何度言ったって聞かないから、最近じゃ言うのもめんどくさかったけど」
小屋に一つだけのベッドにツンはどっかと腰を下ろす。後ろの方で二つに纏めた若草色の髪が、白いうなじの上で稲穂のように揺れた。
- 23 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:14:06 ID:CI4RvHSE0
- ξ゚听)ξ「あんたが一つ馬鹿をする度に、私が里の大人達になんて言われるか知ってる?」
(;^三^)「おっ……」
ξ゚听)ξ「“またあの二人組がやらかした。まったく、何時になったら落ちつくものやら”」
ベッド脇の壁に掛けられた栗色のバンダナを頭に巻きながら、彼女は続ける。
ξ゚听)ξ「二人組」
(;^三^)「ええと……」
ξ゚听)ξ「あんたと私が一括りにされているのは、気に入らないけど仕方ない。
あんたのお守役としてあちこちついて回ってるものね。それは認めるわ」
(;^三^)「……」
ξ゚听)ξ「ねえ、ブーン。私、もう多くは望まない。ただ、もう少しだけ賢くなってちょうだい。
せめて一緒に居る私が、後ろ指をさされないくらいには、賢明になって欲しいの」
(;^三^)「……はい」
ξ゚听)ξ「お分かり?」
(;^三^)「おっ!おっ!」
かくかくと頷くブーンに再び溜息をつくと、ツンは足元のバスケットを掴んで立ち上がり、キュロットの裾をはたいた。
- 24 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:15:16 ID:CI4RvHSE0
- ξ゚听)ξ「さ、行きましょ。モララーさんの帰郷祝い、もう始まっちゃってるわよ」
戸口の前で振り返った彼女の顔に、先刻までの怒りが浮かんでいないのを見て取ると、ブーンはほっと胸を撫で下ろしてその後に続く。
(;^三^)「おっ、でもこんなに包帯巻いたままじゃクランベリーパイが食べられないお……」
少女の腕に下がったバスケットをちらりと観やる。今日の為にツンが腕を振るって拵えた御馳走を思うと、にわかに涎が滲んできた。
ξ゚听)ξ「言わなかった?晩御飯抜きって」
不思議そうに小首を傾げるその様に、自分の幼馴染が如何に無慈悲かを思い知らされ、ブーンは項垂れるしか無かった。
- 25 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:16:58 ID:CI4RvHSE0
- 〜3〜
――地平線の彼方までをも埋め尽くさんばかりに広がる緑の大海原。
針葉樹、広葉樹、ありとあらゆる木々の群れ集う生命の揺り籠、ムンバイの大樹海。
我も我もと枝々を伸ばして密集する木立の中に、ときたま虫食いのようにして木々の無い広場がある事を、空を飛ぶ鳥達は知らない。
昼尚暗き鬱蒼とした密林を歩む獣達は、時折思い出したようにこの広場の側を通る事があるが、そのような気まぐれを起こした者達は、概ね木々の合間を歩む彼の民の放った矢によって、眉間を貫かれる定めにあるようだった。
知恵ある獣が避けて通る樹海の空僻地に、倒木で小屋を組んで住む、賢く素早い民が居る。
緑を愛し、弓を射る事を得意とする彼らは、昼は獣を追いかけ樹海を渡り、夜は矢筒のほつれを繕いながら太鼓や横笛を奏で、その日の獲物に感謝を捧げる。
生きた木を決して傷つけず、一日に決めた以上の獣は狩らず、厳粛なる大自然の掟に従い、森が齎す恵みに感謝する素朴な彼らは自らをエルフと呼び、尖った耳と草色の髪を持つその姿は樹海の外で暮らす人間達の間でも、広くその名を知られていた。
- 26 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:18:31 ID:CI4RvHSE0
- 樹海の外の人々が国という名の下に集い商売をしたり政に耽る一方で、エルフ達は少数の一族で集まっては、それぞれが広大な森の各所に集落を築き、自分達が決めた最低限の戒律と大父祖の掟だけを守り、各々が好き勝手に生きていた。
部族によって様々な毛色がある中で、枝苔の一族はこれと言って特別言う所の無い、ごくごく平凡なエルフの集まりだと言える。
弓と曲刀を使って狩りを為し、倒木で組んだ昔ながらのエルフの家に住まう彼らの生活は、よく言えば平和ではあったが、齢13になるブーンにとっては、しばしば退屈なものでもあった。
同年代の童が、清水の流れる小川で小魚取りに興じたり、枝々に成ったプグの実を覚えたての弓で射っては喜ぶ様を遠目に眺めては、ブーンは何時も溜息をつくのである。
彼にとっての興味の矛先は、もっぱら森の外に広がる世界にあり、そこで暮らす人々の日々の営みや、異国の地の鎧武者達が交わす剣戟の響きを夢想しては、何時か自分も遥けき大陸を冒険してやろうと心に誓うのであった。
故に、野伏せりとして異国の地を回っていたモララーの帰郷は、ブーンにとっては一月先に迫った成人の儀よりも遥かに重要な意味を持つものだった。
- 27 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:20:02 ID:CI4RvHSE0
- 〜4〜
――円形に立ち並ぶ家々の中心、暮れなずむ夕日に照らされた里の広場には、大人から子供まで、既に多くの人々が集まっていた。
群衆の中心には、数年に一度の催しということもあり、普段では見られないような大掛かりな焚き火の為の組み木が敷かれている。
傍らには、今朝がたブーンが引き連れて来たベーモスの巨体が荷車に乗せられ、宴の主催になる時を無言で待っていた。
三十人余りの人の川の中には、家々から持ちよられた宴の為の長テーブルが中州のように浮かび、根菜やキノコの酒漬け、鹿や熊の肉の乗った木皿が並んでいる。
木々の枝々や家々の柵には苔生したカンテラが下げられ、中には気の早い人によって既に火の灯されたものもあった。
大人達は各々に談笑し合い、今宵の主賓の事を口に上らせては、木彫りの盃に満たされた蜂蜜酒を飲み交わす。
子供達はと言えば、テーブルの鹿肉をつつく者もいるにはいたが、その大部分は主賓席に腰かけたモララーの周りに集まり、彼が語る異国の話に耳を傾けていた。
( ・∀・)「父祖様を超えて森を出ると、そこから西に進んだ平原に人間達の帝国がある。
オズワルド皇帝が治めるその国で、俺は五年間過ごしてきたのだ」
「人間達の耳が丸いって本当?」
( ・∀・)「ああ、本当だとも。それと、彼らの子供たちは弓を引けない子ばかりだったな」
「くすくす…弓も引けないなんて、にんげんは情けないねー」
- 28 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:22:09 ID:CI4RvHSE0
- ( ・∀・)「それと、帝国には人間の他にも、ノーンという種族が暮らしていた」
「ノーン?なあにそれ?」
( ・∀・)「こいつらは、白い金属の鎧武者のような格好をしているのだが、
沼地のダーク・エルフどもの彫刻のように、細っこくて貧弱な奴らでな」
「わかんないよ、そんなの。ねえ、絵に描いて見せて!」
( ・∀・)「むぅ、絵は苦手なんだがな……」
目を輝かせる小童達にせがまれ、モララーは足元に置いた背負い袋から骨片と木炭を取りだすと、不承不承に絵筆を振るう。
五、六人の少年少女が一斉に彼の手元を覗きこんでいる脇では、あぶれた二、三の悪戯小僧達が、土産は無いかと若き野伏せりの旅荷物を漁っていた。
テーブルの上でモララーの描いたノーンなるものの絵に、少年達がやれ下手糞だの臨場感が伝わってこないだのと好き勝手な事を口にしているうち、足元で乞食をしていた少年が一巻の羊皮紙を掴みだした。
まだ八つかそこらの小さなエルフの少年は、慣れた手つきで羊皮紙の紐をほどくと、そこに記された文言を広場中に響く幼い声で読み上げる。
(=゚ω゚)ノ「わたしのこころのアジサイであるサマラよ。いま、こきょうへのきろにあってもなお、
きみのことを思い出さないことはかたときもない。ねがわくば、きみのそのかたを……」
(;・∀・)「止めんか!」
恐らく文の意味もわかっていないだろう少年の手から羊皮紙をひったくると、モララーは慌てて周りを見渡した。
子供たちの殆どは怪訝な顔で一様に首を傾げるばかりだが、大人達はその誰もが皆意地の悪い笑みを浮かべて彼を囃し立てるのだった。
- 29 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:22:59 ID:CI4RvHSE0
- 「24にもなれば、色を知る歳か……」
「相手は帝国の娘か?」
「いやだ、あの子も隅に置けないわねえ」
(;・∀・)「くうっ……」
訳知り顔の大人連中の視線に晒され、ホオズキよりも真っ赤な色になった顔を俯かせるモララーを遠目に眺めながら、ツンはクランベリーパイを口元に運んだままに阿呆のように口を開けていた。
ξ゚听)ξ「……」
宴の中心よりも少し外れた小卓には、ツンとブーン以外に座している者はいない。
錆の浮いた角灯の光に照らされる幼馴染の間抜け面を眺めながら、ブーンは小さく肩を竦める。
彼の顔には、未だにツンが巻いた包帯が張り付いていた。
( ^三^)「モララー兄ちゃんの相手が、気になるのかお?」
ξ;゚听)ξ「はっ?え?なに?聞いてなかった」
振り返ると同時にナイフの上のクランベリーパイを膝に落としたツンは、慌てて肩から下げたポシェットを探る。
呆れたような顔でブーンは尻のポケットから手拭いを取りだすと、ツンへと放った。
( ^三^)「別に、何でもないお」
むくれたような顔でそっぽを向くブーンに眉を顰めると、キュロットについた赤い染みと格闘しながらツンは訊き返した。
- 30 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:24:08 ID:CI4RvHSE0
- ξ゚听)ξ「そういうあんたは、モララーさんの土産話、聞きに行かなくていいの?
あんた、誰よりもモララーさんが帰ってくるの楽しみにしてたじゃない」
当然の疑問をぶつけるツンに、何やら意味ありげな笑みを返すと――と言っても、目元しか見えないのだが――ブーンは粗末な椅子の上でふんぞり返った。
( ^三^)「ふふん。僕はあのチビ共とは違って特別な約束があるんだお」
目元しか見えないものの、ブーンがこのような笑みを浮かべている時は、大抵何か碌でもない悪だくみをしているものと相場が決まっている。
ふてぶてしく笑う幼馴染の顔を、気味の悪いものでも見るような目で睨みながら、ツンは蜂蜜酒の盃に口をつけた。
広場の中央では、いよいよ今回の主菜であるベーモスが火にかけられ、既に“出来上がった”里の男連中が、モララーの肩を組んで馬鹿騒ぎを始める所だった。
( ´∀`)「ほう、特別な約束ねえ。それは興味があるモナね」
(;^三^)「お、族長……」
ブーンの背後に立った恰幅のいい中年のエルフは、御年四十と八にして枝苔の民草達をまとめる頭目、モララーその人である。
開いているのか閉じているのか分からないその瞳は、明らかな侮蔑と憤懣に満ち満ちたままにブーンを見下ろしていた。
- 31 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:25:00 ID:CI4RvHSE0
- ( ´∀`)「良かったら、是非とも私にも教えてほしいものだ。次はどんな悪事を計画しているのかな?」
(;^三^)「いや、それはその……」
若き族長は小卓の上のクランベリーパイを一切れ掬い取ると、素手のままにばくりと飲みこんだ。
( ´∀`)「ん、これは美味い。ツンが作ったのかね?」
ξ゚听)ξ「え、あ、はい」
(;´∀`)「今度の狩りの弁当、私の分も作ってくれないか。
あまり大きな声では言えないのだが、女房には料理の才が無くてな……」
ξ;゚听)ξ「……はあ、分かりました」
ブーンにかけるのとは対照的な軟らかい声音でツンに弁当の約束を取り付けると、モナーは再び表情を一転させてブーンを振り返る。
( ´∀`)「…で、聞けばあのベーモスもお前さんのお手柄だって言うじゃないか。大したものだよ、まったく」
(*^三^)「おっおっおっ!いやーそれほどでも無いお!」
( ´∀`)「はっはっはっ」
(*^三^)「おっおっおっ」
- 32 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:25:40 ID:CI4RvHSE0
- ( ´∀`)「……」
( ^三^)「……」
( ´∀`)「……」
(;^三^)「……」
( ´∀`)「全く、大した奴だよお前は。こないだトロールとかくれんぼをしていたかと
思ったら、今度はベーモスか。次は何だ?ワームと鬼ごっこでもするか?」
何も言い返せず視線を逸らすブーン。
溜息をつくと、モナーは沈痛な面持ちで目頭を揉んだ。
( ´∀`)「今日は幸い男連中が多く残っていたから何とかなったが、
もしも里に子供しか残っていなかったらどうなっていたと思う?
お前はその事を一度でも考えた事があるのか?」
(;^三^)「……」
( ´∀`)「いい加減にしてくれ。お前は一体いつになったら落ちついてくれるのだ?
モララーを抜かしたら、お前とツンが里の子供の中では年長なのだぞ」
(;^三^)「ごめ……」
- 33 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:26:33 ID:CI4RvHSE0
- ( ´∀`)「ツン、お前もだ。ミセリが居ない今、お前がブーンの姉のようなものだ。
年上として、ちゃんとブーンを律して貰わんと困る」
ξ゚听)ξ「……はい」
モナーの厳しい言葉に、少女は唇を噛んで俯く。
( ´∀`)「全く…こんな事になるのだったら、
あの時ミセリを突っぱねてでもお前を捨て置くべきだったよ」
言ってから、しまったというような顔になると、モナーは慌てて二人の顔を窺う。
彼の失言に、少年と少女は微かに肩を震わせ、黙って俯いていた。
(;´∀`)「兎に角、二人とももっと年長の自覚を持つことだ」
ばつの悪くなったモナーは、言い捨てるようにして話を締めくくると、足早に二人の下を離れて行った。
( 三 )「……」
ξ゚听)ξ「……」
残された二人は、そのまま暫く俯いていたが、そのうちツンがのろのろとナイフを手に取ると、美味くもなさそうな顔で自分の皿の上のクランベリーパイをもそもそと咀嚼し始めた。
族長の言葉が相当こたえたのか、相変わらずブーンは俯いたままで動こうとはせず、二人の間には重苦しい沈黙が圧し掛かっていた。
- 34 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:27:46 ID:CI4RvHSE0
- ξ゚听)ξ「言い過ぎた、だけでしょ」
ナイフを止めて、ツンがぽつりと呟く。
ぴくりと肩を震わせて、ブーンがゆっくりと顔を上げた。何とも情けない表情であった。
ξ゚听)ξ「何も、本気でそんなこと思っているわけ無いわ。本気だったら、今頃あんた、ワームの胃袋の中よ」
( ^三^)「そう…なのかお…?」
ξ゚听)ξ「知らないわよ。ただの予想。私がそう思うってだけ」
( ´三`)「おっ……」
ξ゚听)ξ「……ちょっと、その辛気臭い顔止めてくれる?パイが不味くなるわ」
しょぼくれた顔のままに項垂れる幼馴染を、ツンは苛立たしげな顔で睨んでいたが、やがてパイを勢いよく頬張ると、何度も咀嚼してから呑み込みぶっきらぼうに口を開いた。
ξ゚听)ξ「少なくとも、私は後悔してないから。母さんも私と同じだと思う。……多分」
( ^三^)「ツン……」
ξ゚听)ξ「……それだけ」
吐き捨てるように言うと、ツンは再び目の前のクランベリーパイにかぶりつく。
不器用な彼女なりの気遣いであった。
( ^三^)「僕にも一切れ分けてくれお」
ξ゚听)ξ「ダメ」
ぴしゃり、と手を叩く彼女は、相変わらずであった。
- 35 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:43:45 ID:CI4RvHSE0
- 〜5〜
――月明かりを受けて青白く輝く下生えの上を、黄緑色の光の点となった蛍の群れが、たゆたうようにぼんやりと踊っている。
宴の音から遠ざかった里の外れ、森と集落の境界の辺りでは、森の民達の奏でる祝いの唄も僅かに届くばかりで、夜が持つ本来の静けさが満ち満ちていた。
里の中央ではいよいよ宴が佳境に入ったらしく、大人連中が叩く太鼓の律動的なリズムに乗って、童子達の調子っぱずれな笛の音色が微かに聴こえて来る。
祝いの音色にただ一人背を向けたブーンは、さわさわと揺れる下生えの上に寝転がり、ネコジャラシを指で弄びながら星々の海に浮かぶ青ざめた三日月を、見るともなしに見上げていた。
ξ゚听)ξ「……こんな所で何やってんのよ」
月を押しのけるようにして眼前に現れたツンの顔に、幾度か瞬きを繰り返すとブーンは寝返りを一つ打って起き上がる。
幼馴染の自分を見る目は相変わらず胡乱な者を見る時のそれだったが、彼はどこ吹く風と言った様子で下手糞な口笛を吹いてみせるのだった。
ξ゚听)ξ「ほらこれ、あんたの分」
ぶっきらぼうに差し出された木皿の上には、赤々としたベーモスの輪切り肉が、骨をつけたままで肉汁を滴らせている。
あれだけきつく言ってはみたものの、詰めの所で甘さが出るあたりが我が幼馴染の泣き所であり美徳でもあるのだな、などと考えながらブーンは皿を受け取った。
- 36 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:44:38 ID:CI4RvHSE0
- (;^三^)「おっ…でもこのままじゃ食べらんないお」
ξ゚听)ξ「解けばいいじゃない」
(;^三^)「解いてもいいのかお?」
ξ゚听)ξ「別に、大した傷でも無いわけだし」
(;^三^)「それじゃあ、包帯巻く意味あったのかお……」
ξ゚听)ξ「それは私の悪意」
とんでもない事を何でもないように言ってのけると、少女はその日初めての笑顔を浮かべて――と言っても多少の皮肉がこもったものだったが――忍び笑いを漏らす。
今まで氷のように表情の無かったその顔も、笑みの形に崩れれば年相応の少女らしいあどけなさがしっかりと刻まれていた。
ξ゚听)ξ「はい、動かないでね」
白く華奢な腕をブーンの頭に回すと、ツンは薬師の娘らしく鮮やかな手際で包帯を解く。
久方ぶりに世界と触れたブーンの日に焼けた鼻っ面をか細い指ではじくと、彼女は一瞬表情を消し去り、すぐさま悪戯っぽい笑みをその白く繊細な面(おもて)に浮かべた。
ξ゚听)ξ「あーん、してあげましょうか?」
(;^ω^)「じ、自分で食べれるお」
からかう様な一つ上の幼馴染の申し出を頑として突っぱねると、少年は何処となく調子が狂ったような様子で自らの手柄である巨獣の肉を口に運んだ。
- 37 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:45:41 ID:CI4RvHSE0
- 歯ごたえがあり余る肉は、一度や二度では噛み切れず、お世辞にも上質な食感とは言えなかったが、胡椒の利き具合が絶妙であった為、長い間口の中でくっちゃくっちゃとやる分には申し分ないと言った所だった。
ξ゚听)ξ「美味しい?」
( )^ω^()「おっおっ。これはこれで…なかなか……」
ξ゚听)ξ「私のも食べていいわよ?」
普段は出さないような妙な猫撫で声に、少年は言いようも無い違和感を覚えてナイフを止める。
どうかしたかしらん、とでも言うように小首を傾げてこちらを窺うその態度といい、先から時折見せる笑顔といい、どうにも腑に落ちない不気味さが今のツンにはあった。
( ^ω^)「何を企んでいるんだお……」
途端、今までのは全て幻だったとでもいうかのように、少女の顔から笑顔が消えた。
ξ゚听)ξ「そっちこそ、何を企んでるのよ」
眉間にしわを寄せて剣呑な声を出すその顔は何時もの彼女そのもので、変なことではあるのだがブーンは胸中でほうっと安堵するのであった。
ξ゚听)ξ「宴会が始まる前からなんかニヤニヤしちゃって…またどうせ碌でもない悪戯を考えているんでしょ」
( ^ω^)「別に、悪戯なんか企んでないお」
- 38 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:47:09 ID:CI4RvHSE0
- ξ゚听)ξ「嘘おっしゃい。あんたがいきなり含み笑いしたり気持ちの悪い顔で笑ってる時は、
大方碌でもないことが起こる前触れなのよ。正直に言いなさいよ」
( ^ω^)「だから、全然、何も、これっぽっちも……」
ξ゚听)ξ「父祖様にかけられる?」
( ^ω^)「か、かけるお」
ξ゚听)ξ「じゃあ、母さんにかけられる?」
(;^ω^)「……ミセリおばさんを出すのは、ずるいお」
予想通り言葉に詰まったブーンを見ながら、ツンは僅かな心苦しさを感じつつも言葉を続ける。
ξ゚听)ξ「ブーン、本当の所を言いなさい。怒ったりしないから」
(;^ω^)「ぐぬぬっ……」
いよいよもって追い詰められたブーンが、皿を持ったまま立ち上がろうとした時だった。
( ・∀・)「おーい、待たせたな」
背負い袋を担いだモララーが、空いた右手を大きく振りながら二人の方へと歩いてくる。
彼の姿を認めるや、ブーンは待ってましたとばかりに顔をほころばせると、肉の乗った皿をツンに押し付け立ち上がった。
- 39 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:48:06 ID:CI4RvHSE0
- (*^ω^)「おっおっ!遅いお兄ちゃん!」
( ・∀・)「すまんな、なかなか皆が離してくれなくて」
(*^ω^)「そんなことより早く!早くあれを!」
( ・∀・)「わかったわかった、そう焦るな」
逸るブーンをいさめつつ背負い袋を地に置くと、モララーは両の腰に下がった曲刀のうち右の方を抜く。
野伏せりとして斥候の任に就いたおりに里の皆から彼へと贈られたその刃は、三日月の光を受けてきらきらと銀の輝きを見せていた。
( ・∀・)「帰って来たら、こいつをお前にくれてやる。そういう約束だったな?」
(*^ω^)「おっおっ!」
玩具を前にした子供同然にはしゃぐブーンを眺めながら、五年前にモララーが旅立つ際あの曲刀が欲しいと言ってブーンが駄々をこねていたのをツンは思い出す。
約束とは、つまりはそう言う事だったのか、と得心がいった。
( ・∀・)「あれから五年経って、お前も剣を握ってもいい歳になった事だしな。これはお前に譲ろう」
その言葉にいよいよもって浮かれたブーンが曲刀へと手を伸ばすと、一転それを引いてモララーは唐突に表情を険しくする。
- 40 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:54:52 ID:CI4RvHSE0
- ( ・∀・)「だが一つ、渡す前に確かめておかなければならない」
( ^ω^)「お?」
( ・∀・)「ブーン、お前は剣を握るというのがどういう意味を持つか、わかるか?」
( ^ω^)「どういう意味って……」
恐らくは何も考えていなかったのであろう。首を傾げるブーンに、モララーは粛々とした口調で語り聞かせる。
( ・∀・)「剣を握るということは、即ちそいつが一人前のエルフの男になったということだ。この意味はわかるか?」
( ^ω^)「えーと…一人で狩りに出てもいいってことかお?」
( ・∀・)「それもある。だが、俺が今お前に言いたいのはもっと別の事だ」
( ^ω^)「別の事?」
( ・∀・)「一人前の男になったなら、自分のことは自分で決められる。
自分が何処へ行き、何をしようと、それは全てお前の自由だ」
全てが自由、という言葉にブーンは目を輝かせる。自由。彼にとってそれは、どのような宝石よりも一等価値のあることのように思えた。
- 41 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:56:25 ID:CI4RvHSE0
- ( ・∀・)「だが同時に、全てが自分の自由であるということは、
自分の面倒は全部自分で見なければならないということでもある」
( ^ω^)「自分の面倒を見る……」
( ・∀・)「ベーモスの巣に蜂の巣を投げ込もうが構わない。俺みたいに樹海の外へ旅に出ても構わない」
( ・∀・)「だが、その行動の責任は全部自分で取れ。ベーモスに追いかけられようが、
樹海の外で飢えに苦しもうが、全て自分で何とかするんだ」
( ^ω^)「おっ……」
( ・∀・)「今のお前にその覚悟があるのなら、この剣を受け取るがいい。
その時から、俺はお前を一人前の大人のエルフだと認めよう」
( ^ω^)「……」
目の前に差し出された曲刀をじっと見つめたまま、ブーンは沈黙のうちにモララーの言葉を噛みしめる。
いやがおうにも、今朝のベーモスのことが頭を過る。
自分がしでかした悪戯の果てに、モナーに告げられた言葉を思い出す。
責任。
果たして、今の自分に、それは背負い切れるだろうか。
正直な所、ブーンには自信が無かった。だが、何よりも自由、その言葉が魅力的で仕方が無かった。
- 42 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:57:59 ID:CI4RvHSE0
- ( ^ω^)「……」
無言のままゆっくりと手を伸ばすと、モララーの差し出した曲刀の柄を握る。
モララーが手を離した瞬間、ずしりとした重みが腕に掛った。
( ・∀・)「おめでとう。これでお前は、一人前のエルフの男だ」
軟らかな笑みを浮かべてモララーが祝福する中、ブーンは自分の掌に握られた曲刀をしっかと見つめる。
五年間の旅路をモララーと共にしたその曲刀は、使いこまれてこそいたがよく手入れされており、一点の曇りも無い刀身には歯こぼれの欠片すら見当たらなかった。
( ・∀・)「どうだ、初めて剣を握った感想は?」
( ^ω^)「……思ってたより重いお」
この日を夢見て倒木から削りだした棒きれを振るってきたが、いざ本物の剣を手にしてみると鉄と木が如何に違うかと言う事が良く分かる。
これを満足に振り回すには、もっと鍛錬が必要そうだった。
( ・∀・)「…そうだ、一つ言い忘れていた」
( ^ω^)「おっ?」
- 43 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:59:05 ID:CI4RvHSE0
- ( ・∀・)「お前もこうして目出度く一人前の男になったわけだ。
これからは、お前がツンを守ってやるんだぞ」
(;^ω^)「僕が、ツンを?」
( ・∀・)「一人前の男なのだ、当然だろう」
おずおずといった様子でブーンは自らの姉代わりを振り返る。
ξ゚听)ξ「……」
一つ上の幼馴染は、何も言わずにただ自分を見つめるばかりで、表情の無いその顔からは、彼女が何を思っているのかは窺い知れなかった。
責任だとか、自分の面倒は自分で見るだとか、そういったことはブーンにも良くわからない。
分からないが、自分の隣に立つ少し怒りっぽい姉代わりを守るということについては、自然としっくりくるものがあった。
( ^ω^)「おっ。約束するお」
言葉にすると中々どうして気恥しいものであったが、何よりもそれは、自分も望んでいる事のように思えた。
- 44 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 22:59:55 ID:CI4RvHSE0
- ( ・∀・)「はっはっ!良く言った!それでこそ一人前の男だ!」
精悍な顔に相応しい豪快な笑みを浮かべて弟分の背中を勢いよく叩くと、モララーは広場の方へと歩き出す。
途中、ツンの脇を通り過ぎる時、彼は僅かに立ち止まると、彼女の耳元でブーンに聞こえぬようにこっそりと囁いた。
( ・∀・)「ブーンのことを、これからも頼むぞ。それから、少し早いけど誕生日おめでとう」
ツンがそれに答えを返そうと振り返った時には、既にモララーは200トール(約240メートル)程先まで行ってしまっていた後で、彼女は髪に挿されたかんざしを触りながら、口の中でもごもごとした音を出すしか無かった。
ξ゚听)ξ「……はぁ」
仕方なくブーンの方を振り返る。
青白い月光に照らしだされた一つ下の幼馴染は、貰ったばかりの“玩具”と未だ果てぬにらめっこに興じていた。
ξ゚听)ξ「……で、あんたが私を守ってくれるって?」
自分でそう言って、ツンは思わず噴き出しそうになる。
つい二年ほど前まで、夜中に寝小便をしたと言って彼女の家の戸を叩いていた鼻垂れ小僧が自分を守る為にあの剣を振るう所など、到底想像など出来なかった。
- 45 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:01:57 ID:CI4RvHSE0
- ( ^ω^)「おっ?何か言ったかお?」
ξ゚听)ξ「……何でもない」
( ^ω^)「そうかおー」
再び剣に視線を戻してうっとりとした表情を浮かべるブーンは、矢張り歳不相応な悪童にしか見えなかった。
- 46 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:04:22 ID:CI4RvHSE0
- 〜6〜
――こつこつ、という戸口を叩くその音がしたその時、ツンは眠りの壁の向こう側にある極彩色の花々が咲き乱れる小川の畔で花輪造りに興じていた。
ξ;‐凵])ξ「んう…むう……」
彼女を楽園から引きずり出そうと断続的に鳴り響くその音を振り払うべく、手狭な寝台の上で幾度も寝返りを打ってはみたものの、彼女の努力も虚しく現の世の騒音は鳴りやむ気配も無い。
徐々に大きく無遠慮になっていくその音に遂に耐えきれなくなった彼女は、薄い毛布を跳ねのけると悪鬼羅刹の相を浮かべて戸口に立った。
ξ#゚听)ξ「いい加減にしなさいよ!何よ、また寝小便でもしたっていうの!?」
窓から見える家々の明かりは全て消え、里の住民達が寝静まったことを告げる。
この時間に尋ねて来る人物など、この里の中では一人しか居ない。
案の定、扉の向こう側から聞こえて来たのは、幼馴染の押し殺した声だった。
「ち、違うお。そんなんじゃないお。ちょっと用があるんだお」
ξ#゚听)ξ「用って何よ。下らない事だったら許さないわよ」
「いいから開けてくれお。大事なことなんだお」
安眠を妨げられたことでツンの怒りは既に暴風域に差し掛かっていた。
故に彼女が木戸を開けて幼馴染を招き入れたのも、ひとえに直接的な手段による制裁をくわえる為であった。
- 47 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:05:18 ID:CI4RvHSE0
- ( ^ω^)「おっおっ、ありがとうだお」
木戸の向こう、玄関口に立つ幼馴染の姿に、ツンは目頭を押さえる。
夜中だというのに弓と背負い袋を担ぎ、腰に件の曲刀を下げた彼の姿は、どう見ても新たなる厄介事の前兆だとしか思えなかった。
( ^ω^)「早速だけどあまり時間を無駄にしたくないお。今すぐツンも支度をして……」
ξ゚听)ξ「却下」
(;^ω^)「ってちょ」
明らかに旅装束を纏ったブーンの画策していることなど、考えずとも分かる。
大方、これから里の外に出かけようとでも言うのだろう。
今朝の一件からいささかも反省の見えない幼馴染に、呆れを通り越して頭痛がしてきた。
ξ゚听)ξ「あんた、モララーさんに言われたこと覚えてる?」
( ^ω^)「はえ?」
“三歩歩けば忘れる”を体現したかのように首を傾げる悪童に、最早溜息さえも出てこない。
一体何と言って聞かせたならば、この白痴に彼の悪癖が齎す様々な社会的不都合を理解させる事が出来ようか。
それとも既に、言葉では不可能な域にまで事態は複雑さを極めているのだろうか。
- 48 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:06:09 ID:CI4RvHSE0
- ξ;‐凵])ξ「ごめんなさい、私ももうそろそろ限界かもしれない……」
( ^ω^)「何言ってるんだお!僕達まだまだこれからじゃないかお!一緒に頑張るお!」
ξ;‐凵])ξ「お気遣い有難う…とても…とても痛みいるわ……」
(*^ω^)「それほどでもないお」
皮肉の通じない幼馴染に微かな眩暈を覚えながらも、彼女は辛うじて壁に手をつき持ちこたえる。
ここで自分が折れたら、この悪童を止める事が出来る人物はこの里には居ない。
何としてでも、これから犯されるであろう彼の愚行を思いとどまって貰わなければ。
ξ;--)ξ「……それで、今度は何をするつもりなのかしら?」
( ^ω^)「大父祖様の聖域に行くんだお!」
危うく膝がくず折れそうになる。今まで居座っていた眠気も完全に吹き飛んだ。
彼は今、何と言った?
( ^ω^)「今から出発すれば、三日後の夕暮れ前には帰ってこれるお!さ、ツンも早く準備するお!」
ξ;゚听)ξ「あんたそれ、正気で言ってるの?」
- 49 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:07:30 ID:CI4RvHSE0
- ( ^ω^)「お?どうしてだお?」
ξ;゚听)ξ「どうしてって……」
樹海に暮らす生き物で大父祖の名を知らぬものは、たとえ知性を持たない虫の中にも居ないだろう。
全ての生命の親として崇められる彼の大樹は、ありとあらゆる樹海の生き物達の畏敬の念と崇拝を集めるこの樹海のまごうことなき主であり、軽々しくその聖域を犯して良い存在では無い。
枝苔のエルフ達の間でも、大父祖の聖域に立ち入って良いのは成人の儀を為す際のほんの一時限りであり、儀式が終わった暁には速やかに聖域から立ち去らねばならない決まりとなっている。
もしも里の者達に知られたのならば、嫌味を言われる程度のことでは済ませられない。
最悪、追放されるやもしれぬのだ。
ξ;゚听)ξ「聖域に行って、一体何をするっていうのよ」
( ^ω^)「……それは、着いてからのお楽しみだお」
ξ;゚听)ξ「着いてからのお楽しみって……ねえ、ブーン、
来月にはあんたも成人の儀があるじゃない。その時に厭でも聖域を訪れる事に……」
( ^ω^)「それじゃ遅いんだお!いいから早く準備してくれお!」
- 50 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:10:59 ID:CI4RvHSE0
- ξ;--)ξ「あのね、ブーン。どういう理由があるのかは知らないけど、
このまま引き下がってくれないんなら、私も族長を呼ばなきゃ……」
( ^ω^)「……ツンが行かないってのなら、僕一人でも行くお」
最後の札を切っても尚、頑として譲らないブーンを前に、さしものツンも戸惑う。
何かと懲りない性格のブーンではあったが、こうも真正面から意地を張るような性分では無かった。
ξ;゚听)ξ「一人で行くって…あんた道は……」
( ^ω^)「モララー兄ちゃんから地図は貰ってあるお」
そう言ってブーンは肩の背負い袋を揺する。
闇の中で分からなかったが、よく見ればそれはモララーが旅の友としていた背負い袋だった。
ξ;゚听)ξ「ちょっと!それモララーさんから……」
( ^ω^)「ちょっと借りるだけだお。帰って来たらちゃんと返すお」
あまりの準備の良さにツンも呆れかえるしかない。
ここまで用意周到であるのは、きっと前々から計画していたことなのだろう。
その知恵をもっと別のことに活かしてくれないものか、と叶わないことを願った。
- 51 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:12:32 ID:CI4RvHSE0
- ξ;゚听)ξ「どうしても、今、行かなきゃいけないの?」
( ^ω^)「おっおっ」
ξ;゚听)ξ「もしばれたら、里から追放されるかもしれないって、分かってる?」
( ^ω^)「そんなの、行かない理由にはならないお」
ξ;゚听)ξ「……」
真っすぐにこちらを見つめるブーンの瞳には、一点の揺らぎも無い。
一体何が彼をそこまで駆り立てるのかは全く分からなかったが、既にツンがとれる行動は一つしか残されていなかった。
ξ;--)ξ「……はぁ。私も飛んだ大馬鹿者だわ」
( ^ω^)「一緒に、来てくれるかお?」
ξ゚听)ξ「あんたを一人で放っといてワームを里に連れ込まれたらたまったもんじゃないわ」
深い、深い溜息を一つつくと、ツンは救いようも無い幼馴染に背中を向ける。
ξ゚听)ξ「半刻程待ってくれる?長旅になるんでしょ?」
(*^ω^)「おっ!おっ!有難うだお!」
つくづく、自分は甘い性格をしているものだ、とまた溜息がこぼれそうになった。
- 52 名前:名も無きAAのようです 投稿日:2012/05/23(水) 23:13:15 ID:CI4RvHSE0
――第二幕へ続く
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