ミセ*゚ー゚)リ変な森のようです

4 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 20:58:04.39 ID:BK2f6nDkO

 咳き込む声。
 血の混じった、水っぽい咳。

 暗闇の向こうに居るあなたは、どんな姿をしているの?

 あなたはどんな色、どんな形。
 どんな笑顔で、我が子を抱くの?


 知りたい、知りたくない、知りたい、知りたくない。

 友達の事をもっと知りたい。
 惨めになるから知りたくない。


 どれを選べば良いの。
 この手は、誰の手を選べば良いの。

 誰か教えてよ、ねぇ教えてよ。
 この口は、どんな言葉を吐き出せば良いの。


 ねぇ教えて─────ぃ。


8 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:02:24.01 ID:BK2f6nDkO


 【ミセ*゚ー゚)リ 変な森のようです】


  第五話 『ひつようあく。』 後編
        閲覧注意


 助けたいの、助けたいのよ。



9 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:07:27.43 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「あの……村、を……?」


 朝、薬草を摘んで戻ってきたレモナを待っていたのは、残酷な決断だった。

 二日酔いの抜けた仲間たちが投げ掛けた言葉は、次に狙う村を決めろと言う言葉。
 森の中でも特別大きな部類に入る、あの村。

 レモナの生まれ故郷である村は、有髪族の半数近くの生まれ故郷でもある。

 故にあの村を狙うのは、ごく当然の事でもあった。


 予想はしていた。
 あの村を狙うと言う事は、レモナの頭にもあった。

 けれど実際そうなると、どうしようもなく胸が締め付けられる。


11 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:10:26.30 ID:BK2f6nDkO

 あの村の住人を憎んでいないと言えば、嘘になる。
 この憎しみをぶつけたいと言う気持ちも強くある。

 けれどあの村には、彼が居るのだ。
 ひどく愛しい、彼が。


 彼が惨殺される場面が頭に浮かび、涙が出そうになった。
 けれどその涙を飲み込んで、レモナは奥歯をぎり、と噛み締める。

 この決断からは、決して逃げられない。
 これだけは、逃げられない。

 却下なんて出来やしない。
 仲間たちを率いて、あの村を襲撃するしか、道は無いのだ。

 どんなに嫌でも、苦しくても、これだけは。
 絶対に、実行せざるをえない。


 だって、ほら。
 仲間たちは、今にも走り出しそうな憎しみに満ちた顔をしているのだから。


14 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:14:23.61 ID:BK2f6nDkO

爪 ゚−゚)「先日の村が滅ぼされたと言う話が広まる前に、行きたいと思う、レモナ」

|゚ノ ^∀^)「…………」

瓜 ゚∀゚)「広まっちゃえば向こうも警戒するし、ね」

爪 ゚−゚)「早ければ明日、遅くても五日以内くらいには」

瓜 ゚∀゚)「善は急げって言うしね」


 善。

 何が、善なんだろう。

 もう何が善で何が悪なのか、分かりやしない。
 けれど仲間がそれを善と言うのなら、きっとそれが善なのだろう。


 ならば、その善に従おう。
 彼女らが正義とする物に、このリーダーは従おう。


16 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:18:17.75 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「明後日、よ」

爪 ゚−゚)「え、」

|゚ノ ^∀^)「明日では急ぎすぎよ、準備もろくに出来ないわ。
     今から準備を初めて、しっかり整えてから明後日に襲撃しましょ」

瓜 ゚∀゚)「レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「なあに? づー」

瓜 ゚∀゚)「あ、や……その……」

爪 ゚−゚)「……もっと、渋ると思った」

|゚ノ ^∀^)「あら、レモナもあの村の生まれよ?
     なのに、渋る理由があると思うの?」

瓜;゚∀゚)「ご、ごめん……」

爪 ゚−゚)「……ごめん、リーダー」

|゚ノ ^∀^)「気にしないで、道具と荷物の準備を始めておいてちょうだい」

爪 ゚−゚)「分かった、しっかり整えておく」


18 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:22:11.00 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「……レモナ、薬の調合をしてくるわ」

瓜 ゚∀゚)「傷薬ならもうあるんじゃないのか?」

|゚ノ ^∀^)「新しい、もっと効く薬を作って、試しておきたいの」

瓜 ゚∀゚)「なるほど……流石だね、リーダー」

|゚ノ ^∀^)「そんなコトないわ、レモナにはこれくらいしか出来ないから」

瓜 ゚∀゚)「そ、そんなコトっ」

|゚ノ ^∀^)「づー」

瓜;゚∀゚)「っ、な、何?」

|゚ノ ^∀^)「じぃたちと一緒に、準備しておいて」

瓜;゚∀゚)「……わ……わか、た……」

|゚ノ ^∀^)「お願いね、レモナもしておくから」


20 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:26:24.40 ID:BK2f6nDkO

∬´_ゝ`)「……レモナ、」

|゚ノ ^∀^)「ああ、そうだわ」

爪 ゚−゚)?

|゚ノ ^∀^)「これは復讐であって、虐殺ではないの
     だから、子供を殺す事と皆殺しは、しないでちょうだい」

∬´_ゝ`)「っ」

爪 ゚−゚)「けど、レモナ」

|゚ノ ^∀^)「子供に罪は無い筈よ?」

爪 ゚−゚)「……うん」

|゚ノ ^∀^)「かと言って、子供だけでは生きられないわ
     だから、皆殺しはしない、これは殺す為の行為ではないんだから」

爪 ゚−゚)「分かった……復讐するけど、それは殺すだけじゃ無いって事」

|゚ノ ^∀^)「忘れないで、レモナたちにも、未来を摘む権利はないって事を」


25 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:30:23.99 ID:BK2f6nDkO

 レモナに鋭く敬礼して、じぃとづーがその場から離れる。
 づーは少し納得いかなそうな顔をしていたが、
 どちらかと言うと冷静なじぃは、何かを察した様な真剣な顔で頷いた。

 あの冷静さを維持できたらな、とレモナは苦く笑う。
 そして自宅へ戻ろうとするレモナの髪を、姉者が引いた。


|゚ノ ^∀^)「んっ、……アレアレ? どしたの姉者さん?」

∬´_ゝ`)「……やってくれるわね、リーダー」

|゚ノ ^∀^)「アレアレ? 何の事かしら?」

∬´_ゝ`)「しらばっくれるの? 人の死に場所を奪っておいて」

|゚ノ ^∀^)「ンー? レモナ分かんないわぁ、姉者さんどうしたのー?」

∬´_ゝ`)「OK、面貸しなさいな。精神的ブラクラGETさせてあげる」

|゚ノ;^∀^)「ぶ、ブラクラ!?」


26 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:34:13.21 ID:BK2f6nDkO

 姉者がレモナを引っ張って、レモナの家へと入る。
 そして机にもたれ、腕を組んだところでやってレモナの髪から手を離した。

 引っ張られていた髪の根本を撫でながら、
 レモナが不機嫌そうに口を尖らせ、同じように腕を組んだ。


|゚ノ ^∀^)「ぶー、ひどいわ引っ張るなんて」

∬´_ゝ`)「お黙り小娘、それよりさっきのよ」

|゚ノ ^∀^)「さっきの?」

∬´_ゝ`)「何回言わせるつもり?」

|゚ノ ^∀^)「子供は狙うなって言うやつ?」

∬#´_ゝ`)「だからっ」

∬#´_ゝ`)

∬´_ゝ`)「えぇ、それよ」

|゚ノ ^∀^)(姉者さん恥ずかしそう……)


29 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:38:22.17 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「だって、レモナたちが憎んでるのは村の大人でしょ?
     レモナたちが村に居た時、今いる子供たちは生まれてなかったもの」

∬´_ゝ`)「……そうね、間違ってないわ。
     それは、さっき思い付いた事ではないのね?」

|゚ノ ^∀^)「この間から思ってたわ、子供たちの死体を見て。
     でもさっきはっきり言えたのは、姉者さんのお陰」

∬´_ゝ`)「…………あのね、レモナ」

|゚ノ ^∀^)「レモナは、誰にも死んでほしくないわ」

∬´_ゝ`)「っ!」

|゚ノ ^∀^)「これは最低なワガママだわ、すごく利己的で自分勝手。
     でもね、レモナは、近しい人たちには死んでほしくないの」

∬´_ゝ`)「…………それが……普通よ」

|゚ノ ^∀^)「そうね、きっとそうだわ。
     レモナたちは人の命を奪うのに、身近な人の死は嫌がる
     それがきっと普通なのよ」


30 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:42:12.65 ID:BK2f6nDkO

∬´_ゝ`)「…………レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「レモナは人を傷付けるわ、でも身近な人が傷付くのは嫌なの
     だからレモナは、姉者さんが傷付くところを見たくない」

∬´_ゝ`)「……ワガママ、ね」

|゚ノ ^∀^)「ワガママよ、悪い子でしょ?」

∬´_ゝ`)「えぇ……すごく、悪い子だわ」

|゚ノ ^∀^)「嫌っても良いわ、怒っても良いわ
     だってレモナは、このワガママを貫き通すんだから」

∬ _ゝ )「…………バカね……」

|゚ノ ^∀^)「バカよ、だから姉者さんに背中を向けちゃうわ
     姉者さんの顔が見えないから、何をしてるか分からないの」


 姉者に背を向け、レモナは机にある本の表紙を開いた。

 背後ですすり泣く声が聞こえた気がしたけれど、きっとそれは気のせいだった。


33 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:46:13.15 ID:BK2f6nDkO

 噎せる様に咳き込みながら、声を殺して静かに泣く姉者。
 それに背を向けたまま、レモナが本のページをめくる。

 もちろん本の内容なんて頭には入ってこないし、別に読みたいわけでもない。
 緑で色付けされた植物の絵を眺めながら、ただ背中で声を聞くだけ。

 しばらくして泣き声がおさまり、小さく咳き込んだ姉者が口を開く。


∬つ_ゝ`)「……もう、良いわよ」

|゚ノ ^∀^)「アレアレ? 何がもう良いの?
     レモナは本を読んでただけよ?」

∬´_ゝ`)「……本当に、もう」

|゚ノ ^∀^)「ふふっ……姉者さん?」

∬´_ゝ`)「ん?」

|゚ノ ^∀^)「死なないでね」

∬´_ゝ`)「……保証は出来ないわよ、バカね」


35 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:50:12.93 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「それでも、死なないで」

∬´_ゝ`)「善処はするわよ?」

|゚ノ ^∀^)「うん……姉者さんは、何だかお母さんみたいで……大好きだから」

∬´_ゝ`)「ちょっと待ちなさい、そこまで歳じゃ無いわよコラ」

|゚ノ;^∀^)「そ、そう言う意味じゃ……ないんだけど……てへっ」

∬´_ゝ`)「…………バカね」

|゚ノ ^∀^)「……バカよ?」

∬´_ゝ`)「ありがとう、ね、可愛いおバカさん
     あなたの気持ち、忘れたりなんかしないから」

|゚ノ ^∀^)「こちらこそ、姉者さん……大好きよ、本当に……」

∬´_ゝ`)「ふふっ、しつこいわねレモナも……私も大好きよ、安心なさい」

|゚ノ ^∀^)「あははっ、両思いね!」

∬´_ゝ`)「はいはい、じゃあ私も準備してくるわ」

|゚ノ ^∀^)「はーい、行ってらっしゃい!」


38 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:53:09.90 ID:BK2f6nDkO

 困った様に笑いながら、姉者がレモナの家から出て行く。

 自分たちがしようとしている事を思うと胸が苦しいが
 姉者が自ら死にに行く様な真似をさせたくはなくて、レモナは少し笑った。

 長い髪をひとつに束ねて、自分の出来る事
 薬の調合を繰り返して、風邪によく効く薬を作ろうと机に向かおうと動く。


 そんなレモナの視界の端に、入り込んだ赤い何か。
 不思議に思って、その赤に目を向けた。

 赤い何かは床にあった。
 それに近付き、しゃがみこんで見つめた時、レモナが背筋を凍らせる。

 机の上の布を掴んで、床の赤を拭った。
 布にべったりと付いた赤をまじまじと見つめ、眉を寄せる。


|゚ノ ^∀^)「これ…………血……?」


42 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:56:30.94 ID:BK2f6nDkO

 少し黒い赤、布に染み込んでゆっくりと乾いて行くそれは
 ついさっき、姉者が立っていた場所に落ちていた物で。

 嫌な予感がレモナの背中にのし掛かる。
 布を握り締めて立ち上がり、レモナは思い詰めた表情で、机に向かった。


 杞憂であってほしい。
 思い過ごしであってほしい。

 ああ、どうして悪い事ばかりが頭に過る。


 静かに本を開いて、薬草を瓶から取り出す。
 そして知識を片手に様々な薬草を合わせてすりつぶし、煎じては口に入れた。

 風邪に効く薬。
 風邪に効く薬。

 あれはきっと風邪なんだ、風邪、なんだ。

 ただひたすら、自分に言い聞かせた。


43 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 21:59:20.43 ID:BK2f6nDkO

 その日の夜中も、レモナは薬を片手に森を歩く。
 顔も名前も知らない誰かに会う為、闇の中を進んでいた。

 そしていつもと同じ場所。
 具体的な場所は分からなくても何故だか分かる、彼女の居場所。

 こんこん、と静かに咳をする彼女は、
 レモナの足音に、あっと声を上げて、その居場所を示した。


|゚ノ ^∀^)「こんばんは、具合はどう?」

 『ん……まだ、だるい、かな……』

|゚ノ ^∀^)「むー……なかなかよくならないわねー……」

 『ご……ごめん、ね……』

|゚ノ ^∀^)「アレアレ? どうしてあなたが謝るの? あなたは病人なんだから!」

 『う、ん……』


44 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:02:17.90 ID:BK2f6nDkO

 『けほっ…………ね、レモナ……?』

|゚ノ ^∀^)「ン? どしたの?」

 『あ、の……あの、ね』

|゚ノ ^∀^)「?」

 『……村のみんな、も、げほっ……咳をする様に、なった、の』

|゚ノ;^∀^)「っ!」

 『これ、やっぱり……けほっ、私のせい、だよ……ね』

|゚ノ ^∀^)「……分からないわ、みんなはどんな症状なの? 咳だけ?」

 『ん、と……熱もあるみたい、なの……』

|゚ノ ^∀^)「…………子供は? 熱や咳、出てる?」

 『ううん……子供は大丈夫、元気よ……げほっ、けほっ』


46 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:05:25.05 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「…………」

 『レモ、ナ……?』

|゚ノ ^∀^)「…………」

 『ぁ……ぅ』

|゚ノ ^∀^)「明日、薬を持ってくるわ、たくさん」

 『へ、』

|゚ノ ^∀^)「今日は少ししか持ってきてないから、みんなと分けて飲んで。
     症状は熱と咳だけなのね? 咳はひどい?」

 『あ、ぅ、ううん……軽い、と、思う……』

|゚ノ ^∀^)「じゃあ明日、量が多くなるけど大丈夫かしら?」

 『う、うん…………レモナ、?』

|゚ノ ^∀^)「大丈夫、レモナが絶対、治してみせるから」


48 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:08:35.89 ID:BK2f6nDkO

 薬の包みを誰かに渡すとレモナは勢い良く立ち上がり、挨拶もせずに走り出した。

 暗闇に髪を靡かせて、レモナが全速力で己の集落へと戻って行く。


 その見えない後ろ姿を追い掛けようと、誰かが立ち上がる。
 けれど立ちくらみと咳、森を包む闇がそれを許さなかった。

 こんこん、咳き込む高い声。
 渡された薬を片手に、胸を押さえて咳き込んでいると、ごぽ、と水が逆流する音。

 慌てて口許を押さえた誰かの手は、闇に紛れながら赤く濡れていた。

 しかしそれに気付く者は、今は居なくて。
 咳き込んだ本人ですら、それが己が吐いた血だとは思いもしなかった。


51 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:12:25.48 ID:BK2f6nDkO

 息を切らして戻ってきたレモナは、すぐさま机に向かい
 夜が更にふけても、辺りが明るくなっても、机から離れようとはしなかった。

 一晩中、必死になって薬の調合をした。
 少しでも良い物をと繰り返しすりつぶして、繰り返し煎じる。

 朝が来た事に気付いたら、仲間達の食事を作り、激励してから仮眠した。
 そして数時間で目を覚まし、また薬を作る。

 あっという間に訪れた夜も、変わらずに机に向かう。
 休憩がてらに自分の武器を研ぎ直し、襲撃に向けて準備をする。

 それが終わるとまた机に向かって、深夜には出来た薬を持って森を走った。


 あの場所で待つ彼女に話を聞いて、大量の薬を渡し
 以前渡した薬がいまいち効いていないと分かれば、改善点を考えながら自宅に戻る。

 咳き込む声に水気が増している事に気付いたレモナは
 焦りを隠す事も出来ず、一睡もしないまま、朝を迎えてしまった。


53 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:15:50.04 ID:BK2f6nDkO

 この数日で、レモナが書いた本のページはずいぶん増していた。

 薬を自分で試して、納得のいく物が出来なければ少しを残して捨てる。
 それを何度も何度も繰り返している内に訪れた朝。

 目の下に出来たクマと、艶を失った金髪。
 ふらふらと自宅から出たレモナは、冷たい水で顔を洗い、空を見上げる。


 最悪のコンディションで迎えてしまった、襲撃の日。

 なんて愚かなリーダーだ、自分の体調も整えずに、大事な日を迎えるなんて。

 自嘲気味に笑ったレモナが、傷薬などの入った荷物を腰にくくりつけ
 長く黒い蓋を被せた大きな刃物を握り、振り上げる。

 始まりの刃物を使うのは、有髪族のリーダーたるレモナ。
 その禍々しいまでの輝きを放つ刃物は、非常によく切れた。

 相手が木であろうと、ヒトの体であろうと、
 その刃物はするり、と、引っ掛かりもせず全てを滑らかに断ち切れる。

 それは有髪族にとっての強みでもあり、また、恐怖の対象でもあった。


56 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:19:31.44 ID:BK2f6nDkO


|゚ノ ^∀^)「準備は、良いかしら?
     最後に確認するわ、守るべき事を」

爪 ゚ー゚)「ひとつ、子供を狙わない」

瓜 ゚∀゚)「ふたつ、皆殺しはしない、だね」

∬´_ゝ`)「みっつ、村長は殺さない……でしょ?」

|゚ノ ^∀^)「ええ、完璧よ…………行くわよ、みんな!!」


 レモナが刃物を掲げて高らかに叫ぶ。
 それに従う様に、皆が拳を突き上げて閧の声を響かせる。

 そしてレモナに率いられた有髪族が、集落を後にして走り出す。
 ひとかたまりで走るのではなく、複数の班にわかれての行動。

 あらゆる方向から村を襲う予定の彼女達は、
 少人数のグループをいくつも作り、森を駆け抜けて村を目指す。


 その後は、とても簡単な事ばかりだった。


59 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:22:43.00 ID:BK2f6nDkO

 一日半かけて辿り着いた村は、平和そのものの穏やかさ。
 今にも牙を剥こうとする獣が、そこに居るとは思ってもいない様な情景。

 大人達は楽しそうに談笑し、子供ははしゃぎながら走り回る。

 それはひどく羨ましくて、ひどく憎らしい情景だった。


瓜 ゚∀゚)「…………ね、じぃ」

爪 ゚ー゚)「何?」

瓜 ゚∀゚)「何で、村長を殺しちゃいけないわけ?」

爪 ゚ー゚)「づーは知らない? 最近、村長が代わったの」

瓜 ゚∀゚)「だから?」

爪 ゚ー゚)「新しい村長に賭けてみるのも良いんじゃないか、って」

瓜 ゚∀゚)「ふーん……確かにそれは言えてるけど、レモナはお人好しだからなぁ」

爪 ゚ー゚)「言わないの、それがリーダーの良さでもあるんだからさ。
     殺すだけが復讐じゃないんだから、やり過ぎないでよ? づー」

瓜 ゚∀゚)「…………はい、こないだはすんませんでした」


61 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:25:28.68 ID:BK2f6nDkO

爪 ゚ー゚)「づーは殺す事を楽しむ、それは良くないよ?」

瓜 ゚∀゚)「分かってるよ……レモナにも姉者にも言われた……」

爪 ゚ー゚)「殺すばっかりじゃ、バカの一つ覚えだからね」

瓜 ゚∀゚)「…………殺すだけじゃない、か……」

爪 ゚ー゚)「ん?」

瓜 ゚∀゚)「殺す以外に、どんな復讐があんの?」

爪 ゚ー゚)「バカだな、づー……傷付けるのは、体だけじゃないんだよ」


 じぃとづーが二人、草むらに隠れながらの小さな談笑。
 少し納得のいかなそうな顔のづーは、笑いながらレモナは甘いと文句を言う。

 けれどその顔は怒ったり呆れたりするのではなく、どこか嬉しそうな顔。
 それを見たじぃもまた、嬉しそうに口の端を持ち上げて、静かに命令も待った。


62 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:28:16.12 ID:BK2f6nDkO

∬´_ゝ`)「……ねぇ、大丈夫なの? レモナ」

|゚ノ ^∀^)「大丈夫よ、少し緊張して、眠れなかっただけだから」

∬´_ゝ`)「…………バカね」

|゚ノ ^∀^)「え、えへっ……ごめんなさい、バカで……」

∬´_ゝ`)「ねぇ……レモナ、あなた夜に、どこに行ってるの?」

|゚ノ ^∀^)「……変な事は、してないわ」

∬´_ゝ`)「そう……なら、良いんだけど」

|゚ノ ^∀^)「そろそろ、行きましょうか」

∬´_ゝ`)「……OK、準備は出来てるわ」

|゚ノ ^∀^)「じゃあ─────全員、突撃ッ!!」


65 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:31:29.51 ID:BK2f6nDkO

 立ち上がったレモナが刃物を掲げ、声高らかに号令をかけた。

 草むらに身を潜めていた有髪族がそれを聞き、
 次々に草むらから飛び出して、声を上げながら各々の武器を振り上げる。


 叫びながら突撃する有髪族の姿に、村人は口々に悲鳴を溢れさせて逃げ惑う。
 その背中を切り裂き、四肢を引き裂いて有髪族は血を浴びる。

 突然の事に全く抵抗が出来ず死んで行く村人達。
 それは先日の、小さな村となんら変わらない景色。

 ただ逃げるだけで、何も出来ずに消えて行く命。
 親を目の前で殺された子供達は泣きわめき、恐怖に震えていた。


 その中に、見覚えのある顔を見つけた。


67 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:35:37.40 ID:BK2f6nDkO

(;´_ゝ`)「おとじゃー! 逃げろーっ!」

(´<_`;)「アホか! あにじゃも逃げろ!」

(;´_ゝ`)「うるさい! おとじゃは俺が守るんだよ!」

(´<_`;)「うるさいアホ! 逃げるぞ!」


∬ _ゝ )「…………」


 姉者は自分に似た顔の双子を見つけ、深く俯く。

 その顔を見られない様に双子へと手を伸ばして、二人の首根っこを掴んだ。


(;´_ゝ`)「ぎゃー!! はなせーっ!!」

(´<_`;)「おいはなせっ! 何をするんだっ!!」

∬ _ゝ )「……うるさいわね、静かにしてなさい」

(;´_ゝ`)「うぎゃっ!」

(´<_`;)「いてっ!」


68 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:38:21.67 ID:BK2f6nDkO

 そこらへんの物置の扉を、器用にも足で開けて
 双子を投げる様に、その中へと叩き込んだ。

 そして力一杯に扉を閉めて、中から開けないように閂を下ろす。


 鞘におさめていた刃物を引き抜き、姉者が走る。

 目に映る大人を後ろから縦に切り裂いては血を浴び、
 癖のある長い髪から血を滴らせて、唇を噛んだ。


 せめて、この惨たらしい死を見せない様に。
 ヒトゴロシである姉の姿を見せない様に。

 弟の代わりに死ねないならば、
 せめて少しでも、姉として彼らを守ってやりたかった。

 そのやり方が間違っているかなんて、どうでも良かった。


70 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:42:21.75 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「一歩も退くな、切り刻みなさいッ!!
     有髪族の憎しみを、この下劣な者共に刻み付けろッ!!」


 レモナが叫べば、有髪族は返事をする様に刃を煌めかせる。
 精一杯の虚勢と命令を響かせて、レモナもまた、その身を返り血に染めた。

 よく切れる大きな刃物は、それだけで村人達に恐怖を植え付ける。
 多く殺さなくても、その力を見せ付けられる。

 それは出来る限り殺したくはないレモナにとって、有り難い事だった。


 この行いがプラスに向かう事はない。
 新たに有髪族が生まれたら、その子は更にひどい目に合うだろう。

 けれどもう後戻りは出来なくて
 今さら「この行いは間違っているか」だなんて、思う事も出来やしない。


 だったら、悪に徹すれば良い。

 自分はこの虐殺劇を起こした張本人。
 そう思わせ、そう思えば良い。


 そう、誰かを傷付ける事に、徹すれば良いのだ。

74 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:46:45.61 ID:BK2f6nDkO

 レモナが次々に村人を襲い、叩き斬る。
 地面にぶちまけられる血と臓物を蹴散らして、レモナは駆けた。

 その後ろ姿にかけられた物は、耳によく馴染む優しい声。


(;´∀`)「レモ、ナ……?」

|゚ノ; ∀ )「っ!!」

(;´∀`)「お前……何を、してるモナ……?」

|゚ノ; ∀ )「…………」

(;´∀`)「レモナ……答えるモナ、お前、何を」

|゚ノ; ∀ )「……気安く、話し掛けないで」

(;´∀`)「ぇ、」

|゚ノ; ∀ )「気安く話し掛けないでッ!
     私は有髪族リーダー、お前たちを粛正するッ!!」

(;´∀`)「レモナっ……モナッ!?」

|゚ノ; ∀ )「触れるな、我らが有髪族を迫害する下劣な民ッ!
     私たち有髪族がお前たちに負わされた傷を、お前たちにも与えるッ!!」


76 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:50:08.59 ID:BK2f6nDkO

 お芝居はうまく出来たかしら、こんな言葉、生まれて初めて口にした。
 なんだか少し恥ずかしいし、すごく胸が痛むわ。


 レモナの背後から声をかけた新たな村長、モナーの腕へ
 振り向きざまに刃をずるりと動かし、浅い傷を付けた。

 赤く染まったモナーの白い右腕。
 どくんどくんと溢れる赤にレモナは眉を寄せて、その胸を蹴り飛ばす。

 蹴られた衝撃で背中から地面へと倒れ込む、愛しい人。

 痛そうに腕を押さえて、体を起こそうとするモナーに再び背を向け
 レモナは刃を構えながら、地を蹴って走り出した。


 ああ、ああ、ああ。
 あの白い体に、この手で傷を付けた。

 なんて事を、なんて事を、自分はなんて事をしているんだ。

 あの体を、傷を癒すのではなく、傷を付けるだなんて。


78 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:54:20.29 ID:BK2f6nDkO

 泣き叫んで謝罪し、すぐにでも手当てをしてやりたかった。

 けれどその衝動を無理やり飲み込んで、爆発しそうな感情を虐殺へと向ける。

 殺しすぎない様に、気を付けてはいた。
 だがこの感情すべてを飲み込むだなんて、耐えるだなんて出来ない。


 なんて役立たずで愚図なリーダーなのだろう。
 誰も守れないし誰も救えない、ただ自分の事ばかり考えている。

 最低なリーダー。
 上っ面の綺麗事ばかり並べても、性根が腐ってちゃどうしようもない。


 本当は、レモナはリーダー等に向きやしない。
 そんな事は、皆が分かっていた。

 優しくて優柔不断で甘ったれ、気が弱い上に偽善的だし若すぎる。
 そう最初から姉者は思っていたし、皆も薄々感付いてはいた。

 けれど必死にリーダーであろうとするレモナの姿は、
 そんな事を吹き飛ばすほどに健気で、愚かで、どうしようもなく哀れだった。


80 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 22:58:08.59 ID:BK2f6nDkO

 『いやぁっ! やめっ、きゃああっ!』

 『……さん、大丈夫、ですか……?』

 『いたっ……痛い、痛いよ……』


 止まない悲鳴と断末魔。


 数多の被害を出し、村を破壊して、二度目の復讐は終わった。

 村の大人達の殆どを殺して、幾つもの小屋を壊した。

 見るも無惨な村の状態、為す術もなく弱者と化した村人達。


 高慢な態度で有髪族を迫害していた人々は、殆どその有髪族によって殺された。

 生き残ったのは傷を負った若い村長と
 ほんの少しの大人、軽い怪我だけをした子供達だけ。

 十数人しか居ない有髪族の手により、森の中でも特別大きな村は無惨な姿に。

 その状態に満足した有髪族が村を後にし、
 残されたのは、嫌と言うほどの血の臭いと、子供達の泣き声だけ。


83 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:02:11.74 ID:BK2f6nDkO


瓜 ゚∀゚)「ふはー、疲れたね」

爪 ゚ー゚)「ん、しかしこれで、私たちがただの弱者じゃない事は分かった筈だよ」

瓜 ゚∀゚)「殺さない以外の復讐か……恐怖なら、植え付けられたね」

爪 ゚ー゚)「たっぷりな、……子供たちは、大丈夫かな」

瓜 ゚∀゚)「んー…………子供に罪はないからね、今のとこ……」

爪 ゚ー゚)「皆殺しって手は楽だけど、子供を殺すのは気分が悪いからな……」

瓜 ゚∀゚)「さすがにね、子供が多かったから……あれをみんな殺すと思うと」

爪 ゚ー゚)「いくら何でも夢見が悪すぎる、か…………
     駄目だ駄目だ、復讐を決めた時に、良い事は諦めた筈なのに」

瓜 ゚∀゚)「うー…………そうだけど、ね……」

爪 ゚ー゚)「……でも復讐した事は、後悔しない」

瓜 ゚∀゚)「当たり前だい、…………復讐される様な事をしてきたのは、奴らだ」


89 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:06:10.42 ID:BK2f6nDkO

 帰りはゆっくり、二日をかけて戻ってきた。
 にも拘わらず、疲れ果てている筈の有髪族は、またも宴を開く。

 誰が一番殺したか、誰が一番血を浴びたか。
 下らなく非道な話題を酒の肴に、浴びる様に酒を飲んだ。

 二度目で慣れた事もあってか、今回はほぼ全員が宴に参加した。

 最初に参加してすぐに抜けたレモナと、疲れたからと自宅に戻った姉者。

 二人を除いた宴は夜が更けても続けられ、皆が寝静まったのは夜中の事。


 仮眠をしたレモナが目を覚ました頃には、皆は既に寝静まった後だった。


 寝ぼけた頭で目元を擦り、ふらふらと血の臭いをさせたまま集落を出る。

 何も考えてはいなかったが、足は自然とあの場所を目指していた。


91 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:09:09.27 ID:BK2f6nDkO

 『あ…………レモナ……?』

|゚ノ ^∀^)「こんばん、は……具合はどう?」

 『私は、げほっ、大丈夫……レモナ、どうしたの?』

|゚ノ ^∀^)「レモナはいつも通り、よ……えへ……」

 『けほっ、げほっ……レモナ、血のにおい、する……』

|゚ノ ^∀^)「え、ぁ……あ、あは……あははは……」

 『レモナ、どう、げほっ、したの?
  最近のレモナ……げほっげほっ……変、よ?』

|゚ノ ^∀^)「そんな事ないわ、ないわ……また、咳がひどくなってる」

 『ん…………あの、ね……レモナ』

|゚ノ ^∀^)「ン?」

 『村のヒト、が……死んだの……』


92 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:12:11.82 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ^∀^)「……え、?」

 『血を吐いて、ね……ぜぇぜぇしながら、咳して……動かなくなったの……』

|゚ノ;^∀^)「そん、な……」

 『寝たまま、起きられないヒトも、増えた……村のヒトたちみんな、咳して』

|゚ノ;^∀^)「嘘……」

 『……私、も……血、吐いたの…………どうしよう、レモナ……』

|゚ノ;^∀^)「ぁ、あ……こ、子供たちは、大丈夫?」

 『うん……村に子供は二人しか居ないけど、大丈夫みたい……でも……』

|゚ノ;^∀^)「咳をして、熱を出して、みんな寝込んだの? 他に変わった事は?」

 『えと、えと……げほっ、げほ、ぇほっ、かっ、ぁふっぅ、ぇぶっ』

|゚ノ;^∀^)「大丈夫!? 今、まさかっ!」

 『だいじょ、ぶ……けほっ……はっ、ぁ……大丈夫、よ……』

|゚ノ;^∀^)「っ……もう、無理せず寝て……明日また、薬を持ってくるから」

 『は、けほっ、ぜっ……はっ……ありが、と……げほっ』


96 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:15:50.26 ID:BK2f6nDkO

 咳き込んだ拍子に聞こえた、びちゃりと言う水の音。
 喉に何かが絡まった様に、胸をぜこぜこいわせる誰か。

 その背中を必死にさすってやり、もう帰る様に促した。

 ふらふら木にぶつかりながら帰る誰か。
 家まで送って、看病出来るならつきっきりで看病したい。

 けれどそれは出来なくて、レモナは小川で手を洗ってから、帰路についた。


 そしてくたくたに疲れた体に鞭を打ち、再び机に向かって薬の調合をする。

 大量の薬草を鍋で煎じて、自分で試す。
 薬草をすりつぶして丸めては、自分の口に放り込む。

 副作用の加減と効果を知るために、自分の体で実験を繰り返した。


 いつしか、レモナの体は薬漬けになっていた。


98 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:18:17.44 ID:BK2f6nDkO

 二日酔いの仲間達の世話をして、薬草を摘んでは調合。
 薬草のストックが無くなればまた摘みに行き、また調合。

 その姿は何かに追われる様に切羽詰まっていて、必死の形相。
 レモナが寝る間も惜しんで薬を作っていると、その背中に、誰かが声をかけた。


∬´_ゝ`)「…………ねぇレモナ」

|゚ノ ^∀^)「ぁ……な、なあに? 姉者さん」

∬´_ゝ`)「ちょっと具合が良くないんだけど……診てもらえるかしら?」

|゚ノ ^∀^)「え、えぇ……どうしたの?」

∬´_ゝ`)「けほっ、ちょっとね、咳が……げほっ」

|゚ノ;^∀^)「ッ!!」

∬´_ゝ`)「熱もあるみたいだし、風邪かしら? 薬を貰える?」

|゚ノ;^∀^)「そう、ね……風邪だわ、きっと……ちょ、ちょっと、待ってね」


100 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:21:15.91 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ;^∀^)「えっと、これ、ね……」

∬´_ゝ`)「みんなも咳をしてるし……風邪が流行ってるのかしらね」

|゚ノ;^∀^)「…………ぇ?」

∬´_ゝ`)「みんなもちょっと風邪っぽいのよ、咳をしてて微熱があるみたい」

|゚ノ; ∀ )「う、そ……でしょ……」

∬´_ゝ`)「レモナ? どうしたの?」

|゚ノ; ∀ )「そんな、そん、な……嘘……」

∬´_ゝ`)「レモナ、レモナ? 何が……」

|゚ノ;^∀^)「あ、な、何でもないわ! 有髪族は病気に弱いから、心配で」

∬´_ゝ`)「そう……確かにそうね、風邪だからって甘く見ない方が良いわね」

|゚ノ;^∀^)「はいこれ、お薬よ。朝昼晩とちゃんと飲んでね」

∬´_ゝ`)「はいはい、ありがと……あら、薬変わったの?」

|゚ノ;^∀^)「え、えぇ……みんなにも、渡さなきゃね……」


102 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:24:18.70 ID:BK2f6nDkO

 この集落にまで、広まってきている。
 それはもう一目瞭然で、疑う余地もなかった。

 最近出来た咳と熱に効く薬を姉者に渡し、レモナは大慌てで薬草を摘みに出る。
 カゴに山盛り摘んだ薬草を持ち帰り、手持ちの中でも一番大きな鍋を引っ張り出す。

 大鍋で作られる、大量の薬。
 それは端から見れば、まるで黒魔術でもしているかの様だった。

 奇妙な甘い匂いを溢れさせ、異様な色の煙を立ち上らせる。
 その薬には見えない様な暗い色は、薬と言うよりも毒に見えた。


 薬草を摘んで、薬を作って。
 少し離れた場所まで薬草を摘みに行って、遅くに帰ってきてまた薬を作る。

 本に書き記されて行く薬の作り方、効果、改良点。

 ページが進んでもその改良点が消える事はなく、薬の未完成さを表していた。

 いくら作っても咳が止まない。
 いくら作っても熱が下がらない。

 レモナの体に染み付いた薬の匂いが、虚しく広がるばかり。


104 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:27:15.77 ID:BK2f6nDkO

 そんな日々が七日近く続いた頃。
 誰かの村だけではなく、有髪族の集落全体に、謎の咳と熱が蔓延していた。

 そして、七日目の朝。


|゚ノ ∀ )「…………」

爪 ゚−゚)「けほっ……レモナ、」

|゚ノ ∀ )「う、ん……」

爪 ゚−゚)「レモナは、けほっ……出来る事、みんなしたんだから……げほっ」

|゚ノ ∀ )「……うん」

爪 ゚−゚)「だから、ほら……あんなに咳をしてたのに
     眠るみたいに、穏やかな顔をして、げほっ、るよ」

|゚ノ ∀ )「ごめん、なさい…………ごめんなさい……」

爪 ゚−゚)「謝らないでレモナ、けほっ……レモナが謝る事、ないよ」


106 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:30:23.29 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ∀ )「病気を治せない医者、なんて……」

爪 ゚−゚)「それでも治そうとしてくれた、レモナはやれるだけ、けほっ、やった」

|゚ノ ∀ )「結果が出せなきゃっ…………出せなきゃ……何にも、ならない」

爪 ゚−゚)「レモナは悪くない、悪くないよ……げほっげほっ」

|゚ノ ∀ )「じぃ……でも、でもっ……!」

爪 ゚−゚)「けほっ……姉者は最年長で、余計、病気に弱くなってたんだよ……」

|゚ノ ∀ )「う、ぅ……うぅううう……っ」

爪 ゚−゚)「……泣かないで、レモナ……レモナは笑ってて、みんなの為にも」

|゚ノ ∀ )「泣か、ない……泣かないわ……っ、ごめんなさい…………姉者さんっ」


 有髪族最初の犠牲者は、
 最年長である、姉者だった。


109 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:33:33.53 ID:BK2f6nDkO

 嫌と言うほど薬を作って飲ませても、その効果はさっぱりで。
 焦るレモナは自分の事を後回しにして、
 有髪族とラムダ族の為に、ひたすら薬を混ぜ続けた。

 そんな中、姉者がベッドから起きられなくなった。
 血を吐きながら咳をして、下がらない熱に虚ろな目。

 レモナの必死の看病も虚しく、姉者は、朝には動かなくなっていた。

 長い巻き毛に艶は無く、痩せ細ったその姿は、一週間前の面影もないほど。

 その口から最後に発せられた言葉は、


∬; _ゝ )「ごめん、なさい……」

|゚ノ;^∀^)「喋らないで姉者さんっ! すぐ良くなるわ、だからっ」

∬; _ゝ )「レモナ……兄者、弟者……ごめ……なさ……」

|゚ノ;^∀^)「止めてよ姉者さん、止めてっ! 止めてッ!!」

∬; _ゝ )「大好き、よ……レモ、ナ……」


112 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:36:16.88 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ∀ )「…………」

爪 ゚−゚)「レモナ、戻ろう……」

|゚ノ ∀ )「え、ぇ……」


 動かなくなった姉者を埋葬し、レモナは宙を見つめる。
 虚ろな目から涙が溢れる事はなく、ただ拳を握って、自宅へと戻って行った。


 なんて呆気ないんだろう。
 なんて、ヒトは容易く死ぬのだろう。

 でもショックを受けている暇は無い。
 少しでも早く、少しでも被害を減らさなければ。


 けれど、はやる思いは空回りばかり。
 どんなに焦って薬を作っても、その結果はひどい物だった。


117 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:39:09.26 ID:BK2f6nDkO

 数日経ち、仲間が更に二人死んだ。
 生き残っている有髪族もみな倒れ、苦しそうに咳き込んでいる。

 そんな中、レモナは火にかけ続けて外側の焦げた大鍋を、力無くかき混ぜる。


 仲間達が死んで行く。
 顔の見えない彼女も、あの場所になかなか訪れなくなった。

 効かない薬を作り続けるその背中は、ひどく切なくて。
 苦しむ仲間達は、その背中に薬が効かないと文句を言う事なんて出来なかった。


 もう無駄なのだろうか。
 不味く苦い薬ばかり飲ませるよりも、静かに死なせてやった方が良いのだろうか。

 レモナの頭に浮かぶのは、安楽死と言う文字と、
 どうしたら苦しまずに殺せるか、その方法。
 それを振り払うように、ぱさぱさになった髪を振って俯いた。

 助けたい、助けたい。
 でも、助けられない。


120 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:42:11.04 ID:BK2f6nDkO

 深夜、薬を持ってあの場所に足を運ぶと
 久しぶりに、彼女が座っていた。

 ぜぇぜぇ、と胸を鳴らせて浅い呼吸を繰り返している。
 その音を聞いたレモナは拳を握り、溢れそうになる涙を飲み込んだ。


|゚ノ ^∀^)「こんばん、は」

 『ぁ……こんば、は……げほっ、レモナ……』

|゚ノ ^∀^)「……良くならない、わね…………」

 『ん……でも、ね、けほっ、少し……楽になって来たの』

|゚ノ ^∀^)「え、?」

 『本当よ……げほっ、ちょっと、体が軽いの……けほっけほっ……手が、冷たい』

|゚ノ;^∀^)「ぁ、あ、あぁあ」

 『このまま……げほっ……苦しまずに……』


121 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:45:06.39 ID:BK2f6nDkO

|゚ノ ∀ )「…………」

 『レモ、ナ……?』

|゚ノ ∀ )「ラムダ族は……また、死んじゃった、?」

 『う、……うん……生きてるヒトも、みんな、もうあんまり……動けない』

|゚ノ ∀ )「……そう」

 『……どうしたの、レモナ……?』

|゚ノ ∀ )「ここからラムダ族の村まで……どう、行くの?」

 『ぇ……まっすぐ行って……けほっ、大きい木から、東に行ったら……』

|゚ノ ∀ )「…………そう」

 『レモナ…………ねぇ、レモナ……』

|゚ノ ∀ )「……ごめんなさい、救えなくて」

 『へ……ぁ、レモナ……っ』


122 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:48:29.65 ID:BK2f6nDkO

 レモナが薬を投げ捨てて、走り出した。


 もう無理だ。無理なんだ。
 この手ではもう、あの病を治せない。

 血を吐いた時点で、本当は分かっていた。
 本当は気付いていたけれど、目を背け続けたんだ。

 もう助からない。
 みんなみんな、もう助からない。

 腐っても医者の端くれ、それくらいの事は、レモナにも分かった。


 なら、
 もう助けられないのなら、


 この手で、楽に殺してやろう。


126 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:51:16.96 ID:BK2f6nDkO

 集落に戻ったレモナは、仕舞い込んでいた刃物を引きずり出した。
 大きな刃をしっかり研ぎ直し、まだ斬れるかどうかを試してから壁に立て掛ける。

 そして薬の用意をする事も無く、ベッドの上で膝を抱えた。


 これで最後にしよう。
 何もかも、これで最後だ。

 誰かを助ける為に薬を作るのも
 誰かを殺すために刃を振るうのも。

 もうおしまいにしよう、おしまいにしよう。
 みんなみんな壊して、終わりにしてしまおう。

 そうすれば楽になれる、自分もみんなも、楽になれるんだ。


 だから悪を、全て背負おう。


127 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:54:11.73 ID:BK2f6nDkO

 翌朝、ベッドに伏す仲間達の元にレモナが足を運び、
 苦しそうに寝ていた彼女達を叩き起こして、武器を持ち広場に集まる様に言った。

 ふらふらと各家から出て来た仲間達に背を向けたレモナが、刃を片手に口を開く。


|゚ノ ∀ )「襲撃するわ」

爪;゚−゚)「え……レモナ、げほっ……何を……?」

|゚ノ ∀ )「言ったでしょ、襲撃するのよ」

爪;゚−゚)「どこ、に?」

|゚ノ ∀ )「ラムダ族の村へ」

爪;゚−゚)「けほっ、ラムダ族、!? でも彼らは……げほっ、何も……」

|゚ノ ∀ )「…………」

爪;゚−゚)「レモナ……いきなり、どうし……けほっ」

|゚ノ ∀ )「口答えをしないで」

爪;゚−゚)「へ……」

|゚ノ ∀ )「これは命令よ、口答えをしないで」


130 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/26(日) 23:57:36.57 ID:BK2f6nDkO

爪;゚−゚)「おかしい、よ……レモナ、げほっ……そんな、」

|゚ノ ∀ )「黙りなさい」

爪;゚−゚)「っ……なん、で……?」

|゚ノ ∀ )「何が、かしら?」

爪;゚−゚)「げほっ……っ何で無関係のラムダ族まで、ごほっ……そんなっ!」

|゚ノ ∀ )「命令に背くの? じぃ」

爪;゚−゚)「私はっ……けほっ、理由を聞いてるんだっ!」

|゚ノ ∀ )「……」

爪;゚−゚)「答えてレモナ……っげほ、レモナは、理由もなく、そんな事っ」

|゚ノ ∀ )「人を、偽善者に仕立てあげないでくれるかしら?」

爪;゚−゚)「っ!!」


132 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:00:25.49 ID:yOswqr0pO

爪;゚−゚)「おかしいよ……おかしいよレモナっ!!」

|゚ノ ∀ )「おかしくなんかない、レモナはいつも通りよ?
     さあ行くわよ、レモナの命令に背く事は、許さないわ」

爪;゚−゚)「そん、なっ……げほっ、けほっ……ぇほっ」


 すらりと黒い鞘から刃を引き抜き、鞘を投げ捨てた。
 そしてその刃を、戸惑いを隠せずに拒絶するじぃへと向ける。

 ぎらぎらと鋭利に煌めく銀色のそれは、病人であるじぃには余計に恐ろしく見え
 悔しそうに顔を背けて、己の武器を強く握り、小さく頷いてみせた。

 そんなじぃの姿に、今にも倒れそうな仲間達も頷くしかなくて。
 震える手に、笑う膝。息苦しそうな呼吸音ばかりが広がる。


 じぃ達にしてみれば、レモナが突然おかしくなったと思っただろう。

 けれどレモナは、もう後には退けなくなっていた。


133 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:03:20.66 ID:yOswqr0pO

|゚ノ ∀ )「一つは子供を狙わない事、そしてもう一つは、即死させる事
     この二つを守れば、後はどうでも良いわ」

爪;゚−゚)「…………分かっ、た……」

|゚ノ ∀ )「さあ行くわよ、武器以外、何も持たなくて良い」


 ふらつく仲間を率いて、レモナが集落を後にした。
 のろい動きで歩く者を叱咤し、立ち止まる者を罵倒する。

 その姿は、昨日のレモナからすら想像も出来ない程に冷酷で
 仲間達はレモナに怒りや悲しみを感じると同時に、激しい恐怖を抱いていた。

 あの優しいレモナが、甘ったれでお人好しのレモナが、病人を罵倒して歩かせる。
 そんな事が起こるだなんて、こんな姿を見る事があるなんて、思いもしなかった。

 戸惑いながらも、レモナが発する異様な威圧感に気圧されて
 抵抗する事も反論する事も、もはや出来なくなってしまっていた。


135 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:06:12.74 ID:yOswqr0pO

 そして十分やそこらを歩いたところで、大きな木が目に入った。
 昨夜聞いた誰かの言葉が正しければ、ここから東に行けばラムダ族の村がある。

 レモナは躊躇い無くその木から東へと方向を変えて、ざくざくと歩いた。
 後ろでは武器を杖の様にして歩く仲間達。

 吐息、咳き込む声、転ぶ音、うめき声。
 耳へと舞い込むそれらに意識を向けない様、レモナは黙って歩くだけ。


 耳を傾けてしまえば、決心が揺らぐ。
 優しくしてしまえば、もうここから動けない。


 最後の最後まで、仲間達を苦しませてしまっている。
 どんなに感情を抑え込んでも、このどうしようもない罪悪感だけは残ってしまう。

 ああ、ごめんなさい、ごめんなさい。


139 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:09:26.73 ID:yOswqr0pO

 東に向かってから少ししたところで見つけた物は、人の足跡。
 小さな足跡が微かに残っていて、
 それは真っ直ぐ、レモナ達が進む方向へと続いている。

 近い。
 そう感じたレモナが、後ろを歩く仲間達に気遣いの欠片も見せず、足を速める。

 突然歩くスピードを上げたレモナに遅れないように、皆はよたよたとついてゆく。
 何度も転びかけ、何度も咳をして血を吐いた。

 それでも従順にレモナを追い、やっとその背中に追い付くと
 レモナは、村の入り口に立っていた。


 小さな村。
 数の多くはないラムダ族の殆どが住む、ごく小さな村。

 不思議と人の声が聞こえない村に首を傾げながら、
 顔色の悪いじぃが、やっとレモナに声をかけた。


141 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:11:19.01 ID:yOswqr0pO

爪;゚−゚)「レモナ……」

|゚ノ ∀ )「全員居るわね?」

爪;゚−゚)「う……うん」

|゚ノ ∀ )「そう、なら行くわ。全員、突撃ッ!!」

爪;゚−゚)「あっ、レモナっ!? 待っ、ぇほっ、けほっ」


 振り返る事もせずに命令をして、レモナが村の中へと走って行く。
 それを追わない訳にはいかなくて、じぃ達は咳き込みながら走る。

 しかしもう走る体力など残ってはいなくて、
 汗を流して、小走り気味に歩くのが精一杯。

 各々の手に握られた刃を振るう事すら困難で
 皆が、膝をついてその場に崩れ落ちる。

 レモナの背中と金髪を見つめるじぃすらも、転んで起き上がれなかった。


143 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:14:19.03 ID:yOswqr0pO


 レモナが村の中を走っていると、小屋の扉が開き、
 中から一人のラムダ族がふらりと出て来て、レモナの姿をじっと見つめる。

 そして小さく頭を下げてから跪き、首を差し出した。


|゚ノ ∀ )「…………あぁ……そう言う、事」


 切り落とせと言わんばかりに差し出される首、
 そこに刃を当ててから刃物を高く掲げ、まっすぐに降り下ろした。

 ざくりと、引っ掛かる事なく断ち切られる肉と骨。
 刎ね飛ばされた頭が地面に転がり、頭部を失った体が地面に倒れる。


 一瞬だけ戸惑いを見せたレモナの顔には、
 もう、諦めに似た何かが浮かぶだけ。


144 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:16:29.26 ID:yOswqr0pO

 どの小屋の前を通っても、住人は皆、同じ反応を見せた。

 レモナの足音を聞くと小屋から出て来て、その姿を目に焼き付ける。
 そして静かに首を差し出し、切り落とす様に、レモナに促した。


 死を望むラムダ族の態度に、レモナは表情を失う。
 顔には仮面の様な笑顔を張り付けたままで、何も言わずに首を刎ねる。

 ラムダ族は、知っていた。
 自分達に残された時間はもうほとんどない事を。
 レモナがそんな彼らに、死を与えようとしていた事を。


 何故、と言う疑問は、もう浮かばなかった。

 こんな事が分かるのは、一人しか居ないのだから。


146 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:19:11.13 ID:yOswqr0pO

 被害者が認めた虐殺は、あっと言う間に終わりを迎えようとしていた。
 ラムダ族は皆、何も言わずに殺される事を望んだ。
 そのお陰と言うべきか、大した時間もかけずに、ラムダ族の殆どを殺し終えた。

 最後の一つである小屋の前に移動していると
 一足早く扉が開いて、住人が姿を現す。

 ラムダ族最後の一人、はまだ殺していないと気付いていた、彼女。

 二人の子供を除いて、これでラムダ族を皆殺しにする事となる。
 レモナは刀身に付いた血を振って飛ばし、彼女の傍へと、ゆっくりと歩いた。


 これで最後、

 あなたを殺して、ラムダ族の村が終わる。

 静かな虐殺行為が、やっと終わろうとしていた。


150 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:22:03.17 ID:yOswqr0pO

 彼女の目の前までやって来たレモナが、静かに静かに頭を下げた。
 それにつられて彼女も頭を下げて、小さく笑った。

 頭巾をかぶって頭を隠す彼女。
 その顔は、やはりよく見えなくて。


|゚ノ ∀ )「こんにちは」

 『こんにち、は……レモナ』

|゚ノ ∀ )「あなたね? レモナが殺しに来るって、みんなに教えたの」

 『え、えへ……ごめん、ね、レモナ……』

|゚ノ ∀ )「……どうして、分かったの?」

 『分かるよ……レモナの考える、コト……簡単』

|゚ノ ∀ )「は……あはっ、簡単、か……」

 『うん…………ありがとう、レモナ』


152 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:25:07.49 ID:yOswqr0pO

 『ね……お願い、きいて……くれる、?』

|゚ノ ∀ )「なあに?」

 『…………子供たちを、お願い』

|゚ノ ∀ )「……任せて」

 『はっ……げほっ……ありが、と……ありがとう…………』

|゚ノ ∀ )「ねぇ……最後に、もう一度名前を、教えてくれる?」

 『ん……良いよ、レモナ……』


 彼女が小さく頷いて、その場に跪いてから、そっと頭巾をはずした。

 やっとレモナの目に映った顔、その姿。

 それは初めて見るのに、何故だかひどく懐かしく感じた。


156 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:28:08.32 ID:yOswqr0pO

(#゙;;-`)「……びぃ、私は、びぃ」

|゚ノ ∀ )「びぃ……?」

(#゙;;-`)「うん……びぃが、私の名前……これが、私の姿……けほっ」

|゚ノ ∀ )「びぃ…………あなた、耳……」

(#゙;;-`)「……えへ……私、ね……本当は、ラムダ族じゃ……げほっ、ないから」

|゚ノ ∀ )「え、?」


 傷だらけで潰れた顔、ボロボロになり変色した体のびぃ。
 その頭には、千切れた右耳と、形の壊れた左耳。

 形は崩れているけれど、びぃの耳は、ラムダ族特有の先折れ耳ではなかった。

 様々な傷跡。
 切り傷から擦り傷、火傷の跡や、皮を剥がれた跡すらある、びぃの体。

 生々しく痛々しい姿に息を飲んだが、レモナはすぐに肩を落とす。


160 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:31:11.83 ID:yOswqr0pO

|゚ノ ∀ )「ラムダ族じゃないのに、何故……?」

(#゙;;-`)「……昔ね、大怪我して……こんなになって、みんなに気持ち悪いって」

|゚ノ ∀ )「な……」

(#゙;;-`)「それで、村を追い出されて……げほっ
     フラフラしてたら、ここの人たちに助けられたの……」

|゚ノ ∀ )「…………」

(#゙;;-`)「けほっ……フラフラしてる時ね……私、壊れちゃったの……
     何も考えられなくて、げほっ、お腹がすいて……喋れなくなった」

|゚ノ ∀ )「そんな……」

(#゙;;-`)「でも、ね……ここの人たちのお陰で、良くなって……
     親が早くに死んじゃった子の……母親代わりになって……」

|゚ノ ∀ )「……」


163 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:34:21.11 ID:yOswqr0pO

(#゙;;-`)「私、幸せだった……みんな優しかったし、いろいろもらった……けほ
     レモナにも会えた……優しく、気遣ってくれた……」

|゚ノ ∀ )「っ……止めて、レモナは……っ!」

(#゙;;-`)「ありがとう、レモナ…………大好きな、友達……」

|゚ノ ∀ )「ッ!!」

(#゙;;-`)「……苦しく、なって……来ちゃった…………レモナ……」

|゚ノ ∀ )「ぁ、あ……分かった、わ……」

(#゙;;-`)「ありがとう…………ああ……そう言えば、」

|゚ノ ∀ )「何? 何か、あるの?」

(#゙;;-`)「ううん……歳の離れた妹が居るの、思い出した……だけ……
     …………レモナ、お願い……そろそろ、げほっ」

|゚ノ ∀ )「……覚悟は、出来てるのね」

(#゙;;-`)「もちろん……」


166 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:37:11.73 ID:yOswqr0pO

 小さく頷いたびぃが、その場に跪く。
 差し出された首が、早く楽になりたいと告げていた。

 そんなびぃの姿にレモナは何も言わず、ただ黙って刃を振り上げ
 勢い良く振り────下ろそうとした、その時。

 すぐそばにある物置小屋の扉が、ばぁんと開かれた。


|゚ノ ∀ )「!?」

(;ノAヽ)「おかーさんっ、おかーさん!」

|゚ノ ∀ )「ぁ……」

(;ノAヽ)「お、オマエ! おかーさんになにしてるノーネ!?」

|゚ノ ∀ )「……」

(#ノAヽ)「おかーさんからはなれるノーネ! ヒトゴロシ!!」

(;`ー´)「あ、ノーネなにしてんだオマエ!! 出るなっていわれてただろ!!」

(#ノAヽ)「うっさいノーネ! ネーノのタコ!! はなせなノーネ!!」


168 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:40:14.87 ID:yOswqr0pO

 物置小屋から飛び出してきたのは、二人の子供。
 この村で二人しか存在しない子供が、この二人なのだろう。

 小さな緑の体に、先折れ耳。
 純血たるラムダ族の姿をした子供が、びぃを助けようと声を荒らげていた。

 ネーノと呼ばれた、目の釣った子供に押さえ付けられている為、
 こちらへ来たくても来られない、ノーネと呼ばれた子供。

 あの押さえ付けられている方がびぃの子供なのか、と
 レモナは少しだけ、本心から微かに笑った。


 そして二人に背を向けて、再び刃を振り上げる。

 困った様な、悲しそうな顔で微笑むびぃ。


 その首をしっかりと狙っい、
 ひゅおん、と空気を引き裂きながら、力強く降り下ろした。


170 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:42:18.56 ID:yOswqr0pO

 ざくり、刎ね飛ばされた頭。

 数回震えてから崩れ落ちた体は、首の断面が吹き上がった血に赤く染まる。

 地面に長い刃を突き刺して、転がった頭をそっと掬い上げる。
 穏やかな顔で目を瞑る、びぃの頭。

 傷だらけで、血まみれで、それでも何故かひどく美しく見えた。


 ぐ、と涙が込み上げて来るのを感じた時
 子供達が悲鳴を上げながら、びぃとレモナの元に駆け寄ってきた。

  _,,
( ;A;)「おかーさん、おかーさんっ!?」

(;`−´)「おばさんっ!!」
  _,,
( ;A;)「おがぁざんっ! ぁっ、うわぁぁああああああんっ!!」


|゚ノ ∀ )「…………」


 子供の泣き声は、どうしてこうも、苦しくなるのだろう。


172 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:44:49.29 ID:yOswqr0pO

 親を殺されて泣き叫ぶ子供。
 その傍らで、友人の母を呼び続ける子供。

 レモナはびぃの頭をそっと置いて、刃物を地面から引き抜き、歩き出した。


 適当な小屋に入って、枯れ草と油を引きずり出す。
 そして小屋から出ると、その二つを辺りにまき散らかした。

 油が入っていたビンを投げ捨て、別のビンを掴んで村の入り口まで足を運ぶ。
 すると村の入り口には、有髪族がぐったりと折り重なりながら倒れていた。

 もう息がある者は殆ど居らず、生きていても虫の息。
 今にもその命の灯火が消えんばかり。


 ざ、と倒れる仲間達の前にレモナが立つ。

 虚ろな目をよろよろ動かして、血を吐きながら、じぃがレモナを見上げた。

 そしてその手に握られている刃と、返り血で赤くなった金髪に、眉を寄せ
 ああ終わったのか、と諦め気味に笑った。


174 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:47:28.77 ID:yOswqr0pO

爪; − )「レモ……ナ……」

|゚ノ ∀ )「…………」

爪; − )「? ……レモ、」


 ざん。

 じぃの頭が宙を舞い、ごとん、と地面に落ちた。


 右手に握る刃を持ち上げては首を狙い、振り下ろす。
 首を刎ねたならまた持ち上げて、振り下ろす。

 それを何度も繰り返して、レモナは仲間達の息の根を止めた。

 村の入り口に広がる物は、小さな山になった有髪族の死骸。
 首の断面からびゅうと血を吹き出させて、体はまだ少し痙攣していた。

 その死体の山にビンの中身をどぽどぽとぶちまけて、
 中身が無くなるとまた、空になったビンをその辺りに投げ捨てる。


178 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:50:07.73 ID:yOswqr0pO

 刃物と疲れた体を引き摺って、びぃの元まで戻ろうと後ろを振り返った。

 そこにはネーノが立っていて、レモナに怯えた目を向けている。

 ああ見られたのか。
 これで狂った同族殺しね、と口の端を歪めて笑う。
 幼いネーノには、それすらも恐怖の対象だった。


|゚ノ ∀ )「…………おいで」

(;`−´)「だ、だれが……オマエなんかのっ」

|゚ノ ∀ )「死にたいの? 早く来なさい」

(;`−´)「いっ……いやだ! ノーネっ! にげるぞ!!」

|゚ノ ∀ )「あ……待ちなさい、ほら」

(;`−´)「うわぁあっ!?」


179 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:52:18.48 ID:yOswqr0pO
  _,,
( ;A;)「ひぐっ……ぇぐっ……ネ、ノ……?」

(;`−´)「おいノーネにげろっ!! はやくっ!!」

|゚ノ ∀ )「暴れないで、怪我するわよ」
  _,,
( ;A;)「ねっ……ネーノをはなすノーネっ!!」

|゚ノ ∀ )「はぁ…………しょうがない、わね……」


 刃物を捨ててネーノ捕まえたレモナが、ノーネの元に移動する。
 腕の中で暴れるネーノ、それを見たノーネが、また声を荒らげた。

 逃げられちゃ困るのよね、と言う思いと
 人殺しに捕まったら、こうなるのは当然だと言う思いがぐるりと混ざりあう。


 びぃの亡骸にすがり付いて泣きじゃくるノーネの傍まで、ゆっくりと歩いて
 獲物を捕まえる猫の様な素早い動きで、ノーネの体を掴んだ。


182 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:54:50.17 ID:yOswqr0pO

 突然奪われた自由にじたばたと手足を振り回し、
 体をくねらせてレモナの腕から逃げようと暴れるノーネ。

 それを助けようと、更に暴れるネーノ。

 どれだけ拒絶されても、約束を守る為にレモナは腕を緩ませない。


 すると、レモナの耳に激痛が走った。


|゚ノ; ∀ )「きゃっ!!」
  _,,
( ;皿;)「うぎぎぎぎっ!」

|゚ノ; ∀ )「か……噛まないでよ、もう……っつ」
  _,,
( ;A;)「うるざいノーネっ!! このヒトゴロシっ!!」

|゚ノ; ∀ )「いたた……もう、暴れないで……」
  _,,
( ;A;)「だれがオマエなんかのっ」

|゚ノ ∀ )「暴れたら、怪我するわよ」
  _,,
( ;A;)「っ!!」


184 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:57:16.64 ID:yOswqr0pO

 びくんとノーネとネーノの体が震えて、動きが大人しくなる。
 ノーネに噛まれた耳から血を流して、レモナは小さく溜め息を吐いた。

 この状態で優しくしても、二人は暴れるだけ。
 ならば恐怖を植え付けて、大人しくさせる方が良策だ。

 辺りを見回すと、大きな皮袋が落ちていた。
 すっと皮袋を持ち上げ、やっと少しだけ大人しくなった二人を、その中に押し込む。

 そして袋の口を縛ると、それを肩に担いで歩き出した。

 袋の中では、狭い袋の中に押し込まれて暴れ叫ぶ二人の子供。
 中から聞こえる罵倒や泣き声を聞かない様に眉を寄せながら、村の入り口へ。

 物置小屋から火の点いたカンテラを拝借して移動し、
 頭を失った仲間が重なって出来た山を一瞥する。


 そして村を出てすぐに、その山へと、カンテラを投げ付けた。


185 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 00:59:22.94 ID:yOswqr0pO

 燃え上がる死体の山。
 まき散らかした枯れ草と油に燃え移って、あっという間に炎が回る。

 レモナの背後で燃え上がる、ラムダ族の村。
 袋に火が飛んでいない事を確認すると、レモナはその場を後にした。


 異常を感じて泣き叫ぶ二人の子供。
 子供を運んで歩くレモナが向かった先は、己の集落。

 フラフラと自宅に入って子供の入った袋を床に置き、薬の準備を始めた。

 二人に病が移っていないかを確かめて、この二人を安全な場所まで連れて行こう。
 袋から二人の頭だけを出させて、耳に注射をした。

 先程よりも激しく泣き叫ぶその声が、ひどく堪える。
 けれど逃げないように、奥歯を噛み締めて二人の検査をした。


 一晩経って出た結果は、良性。
 泣き疲れて眠った二人は病にかかっておらず、レモナは深い安堵の溜め息を吐く。


187 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:01:59.40 ID:yOswqr0pO

 二人が眠っている内にそっと袋から出して、両腕で抱き締める。
 柔らかくて暖かくて、レモナは空虚に笑った。

 起こさない様にそっと抱き上げ、レモナが家から出る。
 そして我が家を一度だけ振り返ると、無言で集落を出て行った。


 お腹が減ってるだろうな、疲れただろうな。
 こんなレモナが言えた事では無いけれど、元気で居てほしいな。

 どの面を下げてと思うだろうな。
 けど優しい彼は、きっと受け入れてくれるんだろうな。


 ごめんねを飲み込んで、レモナは歩く速度を早める。
 歩くから早歩きに変わり、小走りに変わり、全速力に変わる。

 それでも疲れきった二人は起きる事もなく、レモナの髪を握って眠っていた。

 深夜の森を駆け抜けて、レモナは顔を歪める。
 悲しいやら苦しいやら、様々な物がぐちゃぐちゃに混ざり合う。

 楽になんかなれない。


189 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:03:48.89 ID:yOswqr0pO

 辺りがうっすら明るくなり、早朝を告げる。
 そんな森の中で、レモナは肩を上下させながら立っていた。

 目の前には、生まれ故郷。
 更にその先には、愛しい幼馴染み。

 箒を片手に掃除をしていた白い森の人、モナーが慌ててこちらへと走って来た。


(;´∀`)「レモナっ!!」

|゚ノ;^∀^)「しっ……寝てる、から」

(;´∀`)「あ、わ、悪いモナ…………その子たち、は?」

|゚ノ ^∀^)「…………友達の、子供」

(;´∀`)「友達って、その子たちはラムダ族…………おい、レモナ」

|゚ノ ^∀^)「……滅ぼしたわ、ラムダ族の村を」

(;´∀`)「なっ……!」


192 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:06:06.06 ID:yOswqr0pO

|゚ノ ^∀^)「…………」

(;´∀`)「…………」

|゚ノ ^∀^)「……ね、」

(;´∀`)「何が、あったモナ?」

|゚ノ ^∀^)「……え?」

(;´∀`)「顔、無理してるモナ
      それにレモナは、意味もなくんなコトしないモナ」

|゚ノ ^∀^)「……レモナ、は、」

(;´∀`)「ここに恨みがあって襲うのは分かるモナ
      でもラムダ族は無関係で、会うコトすらまれモナ」

|゚ノ ^∀^)「……」

( ´∀`)「……教えろモナ。教えたら、その子たちを引き取るモナ」

|゚ノ ^∀^)「…………分かった、わ」


194 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:09:05.32 ID:yOswqr0pO

 モナー君に嘘や隠し事は出来ないな、とレモナが困った様に笑った。

 そしてぽつぽつと、自分の身に起きた事を洗いざらい話した。

 仲間達との襲撃も、びぃとの出会いも、仲間の死も、
 皆殺しにして、これ以上病が広がらない様に、ラムダ族の村を焼き払った事も。

 溢れそうになる涙を溢す事はせず、レモナはただ淡々と言葉を紡いだ。
 レモナが話せば話すほど、モナーは顔を歪めて俯く。

 悲しそうに眉を寄せて、苦しそうに項垂れる。
 そんなモナーを見つめたまま、レモナがゆっくりと話し終えた。


( ´∀`)「…………バカ」

|゚ノ ^∀^)「へ……」

( ´∀`)「言ってくれれば、モナは……村長なのに」

|゚ノ ^∀^)「……バカね、村長だから、言えないんでしょ」

( ´∀`)「…………ごめん、モナ」


197 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:12:14.70 ID:yOswqr0pO

( ´∀`)「……引き取るモナ、一人や二人増えたところで、なんも変わらんモナ」

|゚ノ ^∀^)「良い……の?」

( ´∀`)「モナの子供として育てるモナ、この若さで二児の父モナ」

|゚ノ ^∀^)「あ、あははっ……モナー君、まだ20年くらいだもんね……」

( ´∀`)「母親はレモナで」

|゚ノ ^∀^)「はい?」

( ´∀`)「はい決定、子供を寄越すモナ。名前は?」

|゚ノ;^∀^)「え、こ、こっちの子がネーノ君で、この子がノーネ君……え?」

( ´∀`)「ノーネーノよろしくモナ、今日からパパモナー
      まあ最初は嫌がるだろうけど、パパはスパルタだから覚悟しろモナ」

|゚ノ;^∀^)「や、あの、え? ママ?」

( ´∀`)「ママ」

|゚ノ;^∀^)「そ……それはナイナイ、この子たちのお母さんは……」


199 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:14:35.24 ID:yOswqr0pO

( ´∀`)「…………オマエめんどくせぇモナ」

|゚ノ;^∀^)「え、えぇぇ……そんな今さら……」

( ´∀`)「そんなめんどくせぇ奴を嫁にするつってんだモナ」

|゚ノ ^∀^)

|゚ノ ^∀^)「へ?」

( ´∀`)「まあ今は無理だけど、いつかちゃんと嫁にするモナ
      その頃にはお互いジジババだろうけど」

|゚ノ ^∀^)「…………え、アレアレ? あれ? なんか、幻聴が、」

( ´∀`)「おい調子乗んな」

|゚ノ ^∀^)「ごめんなさい」

( ´∀`)「この嫁が、ふざけんなモナ」


|゚ノ;^∀^)(モナー君、なんか理不尽……)


200 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:16:08.54 ID:yOswqr0pO

|゚ノ ^∀^)「……じゃあレモナ、行くね?」

( ´∀`)「……おう」

|゚ノ ^∀^)「あ、そうだ」

( ´∀`)「モナ?」

|゚ノ ^∀^)「お嫁にするなら、早くね?
     じゃないとレモナ、おばあちゃんになる前に死んじゃうから」

( ´∀`)「あ……そう、モナ……有髪族は……」

|゚ノ ^∀^)「ん……だから早くね?
     その時は、村長さんが迫害されない環境を作ってる事、祈っちゃうから」

( ´∀`)「おうよ……おうよ、かかって来やがれモナ」

|゚ノ ^∀^)「ふふっ、バイバイ……モナー君」

( ´∀`)「……また、モナ」


202 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:18:18.75 ID:yOswqr0pO

 子供たちをモナーに差し出して、レモナが背を向け歩き出す。
 ずいぶん傷んだ長い金髪が、無性に悲しく見えた。

 モナーは二人の子供を抱いて、家へと戻って行く。
 目が覚めたら、また泣くのだろう。
 きっと彼女の事を罵りながら、憎しみに飲み込まれるのだろう。

 自分くらいは、彼女の本当を知っておいてやりたかった。
 これから伝説などになりかねない、悪逆非道の有髪族リーダーを。

 自分が愛したバカな女の事を、ちゃんと知っておきたかった。


 バカな奴だと溜め息混じりに溢して、二人をベッドに寝かせてから
 もう一度外に出て、箒を拾い上げる。

 いつもより明るい空が悲しくて、
 若い村長は、静かに静かに涙を溢した。

 ぽろぽろとあふれる涙の意味は、よくわからなかったけれど
 取り敢えず、視界がぼやけて掃除がしづらいな、と苦笑した。


204 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:20:09.69 ID:yOswqr0pO

 モナーの前から去って、レモナは真っ直ぐ、ラムダ族の村に向かった。

 森の木は水分が多いから、滅多な事では燃えない。
 だからあの村は、そこだけが燃えかすになっているだろう。

 一晩経てば火も収まっているだろうから、残った骨を、ちゃんと埋めてやろう。
 そこまでしっかりやり遂げて、やっとリーダーの名を捨てられる。


|゚ノ ^∀^)「…………綺麗に、無くなったわね……」


 時間をかけて辿り着いたラムダ族の村は、跡形もなく、灰になっていた。

 村を囲っていた柵すら無くなり、ただ一面の焼け野原。
 人が住んでいた痕跡すら存在しない平らな空間に、胸が空っぽになるのを感じた。

 村の入り口、ここに仲間達が倒れていた。
 からりと軽くなった骨が、ほんの少し残っている。

 村の中、あちこちに残る少しの骨を広い集めて、村の隅に重ねて行く。


207 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:22:19.94 ID:yOswqr0pO

 おそらく全員分の骨が集め終わると、レモナは素手で地面に穴を掘る。
 指先に血が滲んでも、泥で汚れても、気にせずに穴を掘った。

 そして二つの穴を掘り終えると、
 混ざりあってどれが誰の骨かも分からなくなったそれを、穴の中へと入れる。

 もう片方の穴には仲間達の骨。
 一緒にしてごめんねと小さく呟き、土をかけて、骨を埋めた。


 焼け残っていた木材を合わせて小さな十字を二つ作れば、
 粗末な墓に、それを突き刺す。

 倒れないように固定をして、埋葬が終わる。
 地面にぺたりと倒れ込んだレモナは全身泥だらけで、髪も茶色くなっていた。


 ああ、終わった。
 これで眠れる。

 眠れる。


209 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:24:49.40 ID:yOswqr0pO

 虚ろな目で二つの墓を見つめ、何となく、自分の喉に触れた。
 皆と違い、全く咳をしない喉。

 仲間達を殺した、感染源であろう自分。
 なのにこの体だけは、何故か健康そのものだった。

 次に、耳に触れた。
 ノーネに噛まれて血を流した、左耳。

 触っても撫でても、指に触れるのはごわついた傷痕だけ。
 小さな傷とは言え、治るには早すぎる。


 はっと顔を上げたレモナが、辺りを見回しながら立ち上がる。

 その時、目に入った物は、刃物。

 何故か傷一つ付かずに生き残っている、大きなレモナの武器だった。


 地面に突き刺さり、ぎらりと輝くそれを見ると、背筋に冷たい嫌な物が走る。
 けれど唾を飲み込んで、その刃に手を伸ばしながら近付いた。


212 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:27:07.93 ID:yOswqr0pO

 ず、と地面から引き抜けば、その刃は曇りもなく輝く。
 呪いに似た何かを感じながらも、レモナは剥き出しの刃を持って、自分に向ける。

 そして、ずん、と突き刺した。


 胸から全身へと駆け巡る、熱を帯びた痛み。
 息苦しさに血を吐いて、胸から刃物を引き抜いてから崩れ落ちた。

 悲鳴を奥歯で噛み殺し、脂汗を流して胸を押さえる。

 刃物は胸の真ん中を貫通した。
 胸からも背中からも血を流して、痛みに震えながら地面に這いつくばっている。

 放っておけば、間違いなく死に至る。


 至る、筈なのに。

 何故この傷は、もう塞がろうとしているのだろう。


216 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:30:14.06 ID:yOswqr0pO

|゚ノ;^∀^)「な……でっ…………何で……っ!?」


 おかしい。
 胸の傷は早くも血を止めて、痛みも消えていた。

 息苦しさも熱も感じない、瘡蓋の様に傷の表面に皮膚が張っている。

 どう言う事だ、これはいったい、どう言う事なんだ。


 死ねない体に戸惑いを隠せないレモナが、口に残った血を吐いて、頭を抱えた。

 どうして、どうして死ねない。
 この傷の治りは何だ、いくらなんでも早すぎる。

 これでは、本当に、化け物じゃないか。


 死ねない絶望に包まれるレモナ。
 その頭に浮かぶ物は、その原因になりうる事。


220 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:32:35.59 ID:yOswqr0pO

|゚ノ;^∀^)「…………副……作用……?」


 頭の中でぶわりと開かれるページ。
 自分が書いた本、そこに記された薬。

 確かに自分で試した、幾度となく薬を口にした。
 けれどその殆どは失敗作で、レモナの口以外に入る事なく、捨てられた。

 納得いくものか。

 たかが薬、それも風邪薬の類い、それを口にしただけで死ねなくなるなんて。


 へた、とレモナが、肩を落として、宙を見つめた。

 納得いかなくても、薬の所為だとかは関係なく
 自分についた傷はすぐ治り、病にもかからない。

 もしかしたら、ほんとに死ねないのかも知れない。
 このままずるずると、生き続けるしかないのかも知れない。


 嫌だ、嫌だ、死にたい、早く。
 どうして、どうして神は、そこまで私を嫌うのか。


221 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:34:10.86 ID:yOswqr0pO

 やっと流した涙が、虚しく頬を伝った。
 みんなの後を追いたかった、幸せになんかなれなくて良いから、楽になりたくて。

 薄汚れた自分の髪を握って、引っ張る。

 これさえ無ければ、この髪さえ無ければ、幸せになれたかも知れないのに。
 誰も殺さずに、幸せな女として生きられたかも知れないのに。

 どうしてこんな物がある、髪なんて要らなかった。
 こんな物要らないから、だから安らぎを与えてほしい。

 すぐに奪われる一時の安らぎじゃなくて、
 友達や恋人との、ゆったりとした暖かい安らぎを。

 ああどうして、どうして、どうして、私ばかり────



 「ね、そこなあなた」


 少女の声が、孤独に涙を溢すレモナの背中へ、ぶつけられた。


223 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:36:17.58 ID:yOswqr0pO

|゚ノ ∀ )「…………だ、れ……?」

 「……ね、お医者さん、しらない?」

|゚ノ ∀ )「知らない……わ、ここに居るのは、悪人だけよ……」

 「悪人?」

|゚ノ ∀ )「そ……ふふっ、死ねない、人殺しなの……あははっ、ははははっ」

 「ふぅん……じゃあ悪人さん、あなたでかまわないわ
  膝をケガしたの、治してちょうだいな?」

|゚ノ ∀ )「へ、?」

 「わたしもこの子も、そう言うの下手なの
  だからほら、治してちょうだいな?」

|゚ノ ∀ )「ぁ、あ……わか、た……」

 「ふふっ、ありがと」


226 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:39:10.79 ID:yOswqr0pO

 レモナが慌てて水と薬草を取りに行き、レモナに話し掛けた少女は
 すました顔で辺りを見回し、小さな仔猫に似た動物に腰掛けた。

 ぎゅ、と首を絞められた様な声を出した仔猫? の頭を撫でて、少女は笑う。

 水と薬草を持ってきたレモナを見ると、スカートをたくしあげて膝を出す。
 白い膝に血が滲み、土が付着していた。

 丁寧に傷を洗い、水に浸けた薬草を傷に貼る。
 髪を結っていた紐を外すと、薬草が剥がれないように固定して、
 ほっ、と安心した顔でレモナは笑った。


|゚ノ ^∀^)「んしょ……もう大丈夫よ」

 「ありがと、悪人さんったらお医者さんみたいね?」

|゚ノ ^∀^)「え、ぁ、う……」

 「あら、言ってほしくなかった?」

|゚ノ ^∀^)「そんな、事は……」


229 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:41:08.35 ID:yOswqr0pO

 「……ねぇ」

|゚ノ ^∀^)「ぁ、な、何?」

 「わたしもこの子もね……ケガを治すの、出来ないの」

|゚ノ ^∀^)「は、ぁ」

 「だからあなた、ついてきなさいな?」

|゚ノ ^∀^)「は?」

 「だから、ついてきなさいな?」

|゚ノ ^∀^)「え……でも、え?」

 「三回目、言う? あんまり気はながくないんだけど」

|゚ノ;^∀^)「あ、いえっ、でも、あの……レモナ……人殺しで……」

 「だから?」

|゚ノ;^∀^)「だからって……」


232 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:43:24.17 ID:yOswqr0pO

 「どうする? わたしはあなたを求めてるんだけど、あなたは?」

|゚ノ;^∀^)「あ…………」

 「あなたはいらない子? それとも、いる子?
  わたしみたいに、いらない子?」

|゚ノ; ∀ )「…………」

 「決めないなら、いいわ。わたしたちだけで行くから、手当てありがとね」

|゚ノ; ∀ )「ま、待って! …………待って……」

 「……どうする? 悪人さん」

|゚ノ; ∀ )「…………行く、わ……ついてく」


234 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:46:09.27 ID:yOswqr0pO

 「あれ、いいの? いらない子じゃないの?」

|゚ノ ^∀^)「いらない子じゃ、ないの…………だから、ついてくわ」

 「……ふふん、じゃあついてきなさいな、レモナって言うの?」

|゚ノ ^∀^)「え、えぇ、あなたは」

 「好きな食べ物は? ここのご飯はパンかしら?」

|゚ノ;^∀^)「は、はい? ま……まあ、パンだけど……」

 「つまんないの。ああほら寝てないで起きなさい、いくわよ?」

|゚ノ;^∀^)「今、踏んでなかった……?」

 「踏んでない、座ってたの。そうだ、後で他のケガも治してちょうだいね」

|゚ノ;^∀^)(どっちもどっちだ……)

 「この子がレモナ、新しい旅のなかまよ
  なかよくしなさいね────」



  ─────ロマネスク。


239 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:49:02.84 ID:yOswqr0pO
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


|゚ノ ^∀^)「それからレモナは、その子たちと一緒に旅したの。
     何年か一緒に居たんだけど、いろいろ悪いコトもしたわ」

|゚ノ ^∀^)「で、集落に戻ってみたら手紙があってね、そこに書かれた場所がここ
     モナー君がレモナの為に、お家を建ててくれてたの」

ミセ*゚ー゚)リ「……モナーさんかっこいいね」

|゚ノ ^∀^)「レモナの荷物を全部移動させてて…………って、あげないわよ?」

ミセ;゚ー゚)リ「いや、良い良い」

|゚ノ ^∀^)「むぅ……
     ……まあ、レモナはもう赤ちゃん埋めないから、関係ないかもだけど」

ミセ ゚−゚)リ「へ?」

|゚ノ ^∀^)「不老不死になったかわりにね、性別が無くなっちゃったの」

ミセ ゚−゚)リ「……うそ、」

|゚ノ ^∀^)「ホント、見る?」

:(;∵):

|゚ノ ^∀^)「冗談よう……」

242 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:51:38.39 ID:yOswqr0pO

(; A )「…………」

(;`−´)「…………」

<ヽ`Д´>「ノーネ、ネーノ……」

|゚ノ ^∀^)「……言い訳じゃない、けど
     これがレモナに起きたコトと、レモナがしてきたコトよ」

(; A )「そん、な……オマエ…………」

|゚ノ ^∀^)「改めて……初めて、口に出してあなたたちに言うわ
     本当に、ごめんなさい。傷付けて、ごめんなさい」

(; A )「っ……ぁ、う……うぁぅ……」

(;`−´)「……何で……」

(; A )「何でっ……何も、言わなかったノーネ……っ!
      なん、で……いっこも、否定しないで……」


243 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:53:29.46 ID:yOswqr0pO
|゚ノ ^∀^)「レモナがしたコトは、悪だもの」

(; A )「そんなっ、」

|゚ノ ^∀^)「それにね、レモナが悪で居れば……楽になれる人も居るのよ
     レモナを憎む事で生きられる人も居る、レモナが悪なら、落ち着ける」

ミセ ゚−゚)リ「だから……誰にも、何も言わないの?」

|゚ノ ^∀^)「レモナ……魔女と言う存在はね、便利なのよ?
     子供をしつけるのにも役立つし、下手に近付かないから森も壊れない」

ミセ ゚−゚)リ「そう、だけど……」

|゚ノ ^∀^)「魔女が居ると、便利なのよ……みんな、魔女に擦り付けられるから」

ミセ ゚−゚)リ「っ!」

|゚ノ ^∀^)「レモナはそれも、全部レモナへの罰だと思ってる
     みんなに怖がられて、誰も近付かない場所で、一人で居るのが」

ミセ ゚−゚)リ「レモナ……」

|゚ノ ^∀^)「……それに、旅してる時もハジケちゃったりしたから
     もう、モナー君にも嫌われちゃっただろうし……ね」

(;`−´)「は?」

|゚ノ ^∀^)「え?」

247 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:55:20.53 ID:yOswqr0pO

|゚ノ ^∀^)「……え?」

(;`−´)「あ、や……これは後で良いか……」

|゚ノ ^∀^)?


 荷物から何かを出そうとしたネーノの手が止まり、一人頷きながら座り直す。

 レモナが不思議そうに首を傾げていると、ミセリの膝で震えていたノーネが
 ぴょん、と床に飛び降りて、レモナの元まで駆け寄り。


 ぱちん。


|゚ノ#)∀^)「ぁ……」

(; A )「こっの……バカ! バ、ばぁか!!」

ミセ;゚−゚)リ「の、ノーネっ!」

|゚ノ#)∀^)「…………」

(; A )「オマエなんかっ、オマエ……なんかっ…………」


250 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:57:10.15 ID:yOswqr0pO

 レモナの頬を叩いたノーネが、ぺた、とその場に座り込む。
 駆け寄ったネーノがノーネの肩を掴んで抱き寄せ、小さく俯いた。

 ぼたぼたと大粒の涙を溢して、ノーネがしゃくりあげる。


 どうすれば良いのか分からない、この気持ち。
 憎しみだけじゃない何かが、胸の中をぐろぐろと回っている。

 母親のびぃを殺したのは、レモナ。
 でも母親を楽にさせてくれたのもレモナ。

 ただ虐殺しただけだと思っていたノーネには、
 レモナの言葉の一つ一つが、過去の一つ一つが、重すぎた。


 今さら、今さら手のひらを返す様に、はい許しましたとは言えない。

 確かに母を殺したけれど、そのままだったら母は苦しみながら死んだ。
 幼い自分は何も出来ず、ただ泣きじゃくるしか出来なかった筈。

 自分たちをモナーの元に連れていってくれたのは、レモナ。
 それはつまり、命を助けてくれたと同義。


 じゃあ自分は、今まで命の恩人を罵倒していたと言うのか。


252 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 01:59:36.57 ID:yOswqr0pO

 頭の中がぐちゃぐちゃになりすぎて、もうノーネは泣く事しか出来なかった。
 そんなノーネを抱き締めて、背中をさするネーノ。

 きっと二人にしか分からない、
 二人だけの気持ちがあるのだろう、と、ミセリは黙ってそれを見つめていた。


|゚ノ ^∀^)「…………ね……?」

ミセ ゚−゚)リ「へ、?」

|゚ノ ^∀^)「……本当の事を知ると、余計に傷付く……
     だから、あまり言いたくは、無かったの……」

ミセ ゚−゚)リ「…………その理屈は、おかしい」

|゚ノ ^∀^)「え、」

ミセ ゚−゚)リ「や、おかしくないかもしんない
     でもミセリでも、事実は知りたいし」

|゚ノ;^∀^)「け、けど……」


253 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:01:13.55 ID:yOswqr0pO

ミセ ゚−゚)リ「ノーネもネーノも、本当の事を知るって事は傷付く事だって
     すくなからず、覚悟はしてたと思うんだけど」

|゚ノ;^∀^)「あ、う……」

ミセ ゚−゚)リ「レモナは、その覚悟を無駄にすんの?
     色々いっぱい覚悟して聞いて、傷付いて、だから言いたくなかったって」

(;´ー`)「おい、ミセリ……」

ミセ ゚−゚)リ「それ、なんか、二人に失礼だと思う
     二人だっていっぱい苦しんで、それでも聞いたのに、」

(;´ー`)「ストップ、はいストップ、もう止めとけヨ」
  _,,
ミセ#  )リ「むぐー! むぐがー!!」

(;´ー`)「あでっででで、尻尾を噛むなヨ!」

<;ヽ´Д`>「申し訳ないニダ、
      カッとなると空気を読まずに子供っぽいコトを言い出す子で……」

|゚ノ;^∀^)「い……いえいえ……」


255 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:03:48.36 ID:yOswqr0pO

( ノAヽ)「何あそんでるノーネ」

(;´ー`)「立ち直りはえーヨ」

( ノAヽ)「悩んでもどーしよーもないノーネ。おい魔女」

|゚ノ;^∀^)「そんなもともこも……あ、は、はい!?」

( ノAヽ)「ビンタしたから怒るの終わりなノーネ、あとはありがとうなノーネ」

|゚ノ;^∀^)「へ、え? き、切り替えはやっ!」

( ノAヽ)「やかましーノーネ、おかーさん楽にしてくれてありがとなノーネ
      でもオマエ、ノーネのおかーさんのコトなんだから教えろよ」

|゚ノ;^∀^)「ご、ごめんなさい……」

(;`ー´)「切り替えも立ち直りも早すぎじゃネーノ……?」

( ノAヽ)「うっさいノーネ、このオタンコナスのポンポコピーが」

(;`ー´)「罵倒がよくわかんねぇ!!」


( ∵)ゴコウノスリキレ……

257 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:06:21.29 ID:yOswqr0pO

ミセ*゚ー゚)リ「……何? もう仲直り?」

( ノAヽ)「そう言うコトにしてやるノーネ」
  _,,
ミセ ゚−゚)リ「これだけ引っ張っといて?」

(;ノAヽ)「そう言うのは良いからだまれなノーネ」
  _,,
ミセ#゚Д゚)リ「ミセリ主人公だよねぇ!? ねぇ!? メインヒロインだよねぇ!!?」

(;ノAヽ)「でかいの! ミセリの口ふさぐノーネ!!」

( ´ー`)「よしきた、任せろヨ」
  _,,
ミセ#  )リ「もぐぁー! むぐごぁー!! もげぁー!!」

(;`ー´)「ヒロインの奇声じゃねーんじゃネーノ……?」

<ヽ`∀´>「ふつうヒロインは奇声をあげないニダ。はい次次」



|゚ノ;^∀^)(これが……普段の彼ら……?)


260 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:08:15.21 ID:yOswqr0pO

( `ー´)「はい気をとりなおして」

( ノAヽ)「取り敢えず、もうオマエににくにくしいのは無いノーネ」

|゚ノ;^∀^)「う、うん……」

( `ー´)「俺も、元々許したかったんだし、これでスッキリなんじゃネーノ?」

|゚ノ ^∀^)「あ……ありが、とう……」

( ノAヽ)「でもムカついてるノーネ
      話せなノーネ、話さないのも逃げなノーネ」

|゚ノ ^∀^)「……ごめんなさい、反省するわ」

( `ー´)「反省だけなら」

( ノAヽ)「サルでも出来るノーネ」

  ( ノAヽ)人(`ー´ )


( ´ー`)(コイツらもアホだヨ……)


263 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:10:11.34 ID:yOswqr0pO

ミセ*゚ー゚)リ「それはさておき、ネーノ?」

( `ー´)「あ、戻った。なんだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「さっき、何か渡そうとしてなかった?」

( `ー´)「ああそうそう、忘れるとこだった。レモナ、これ」

|゚ノ ^∀^)「ン?」


 ネーヨの上に座るミセリに促され、ネーノが荷物をあさって
 くるりと巻かれた羊皮紙を取り出して、レモナに渡す。

 それを受け取ったレモナが、紐を外して羊皮紙を広げ
 少しいびつにつらつらと書かれた文字を見て、はっと身を強張らせる。

 見覚えのある文字。
 それはあの愛しい彼の文字で、手紙を持つレモナの手が微かに震えた。

 そして手紙をゆっくりと読み進め、切なそうに眉を寄せる。


266 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:13:02.48 ID:yOswqr0pO
レモナへ

 いきなりの手紙とお使いに、驚いたでしょうか。
 まあお前がいくら驚こうが、別にどうでも良いんですが。
 ですが、この手紙を出したのにはちゃんとワケがあります。あとお使いにも。

 もうずいぶん経ちましたね、お前がそこに住むようになってから。
 あの日以来、お前とは会っていませんね。
 今でもどうせ、寂しくて泣いたりしてるんでしょう。

 しょうがないヤツなんだお前は、自分で全部しょいこんで。
 手を伸ばしてくれたなら、僕はその手を握ったのに、お前はバカだ。

 生き残ったラムダ族のネーノを使いに出した理由はわかりますか?
 留守にしてたりしたら殴ります、ネーノに無駄足を踏ませたら殴ります。

 よわっちいお前には苦しいコトかも知れないけれど、そろそろ立ち直れバカ。

モナーより。


追伸
 彼女に会ったらよろしくお願いします。
 お前となら、ちゃんと話が出来ると思います。
 だからあの小さいニンゲンに、優しくしてあげて下さい。
 せっかくだから説教もしてやって下さい。

 罰だ何だってのはもう良いから
 彼女たちの力になってあげて下さい。あと本物の魔女によろしく。

267 名前: ◆tYDPzDQgtA 投稿日:2009/04/27(月) 02:15:12.57 ID:yOswqr0pO
|゚ノ ∀ )「あ…………モナー君……」

( `ー´)「俺はその手紙、読んでないけど……
      嫌いだったら、手紙なんか書かないだろ?」

|゚ノ ∀ )「そう……ね、…………そうね……」

ミセ*゚ー゚)リ「……レモナ、何て……?」

|゚ノ ∀ )「ふっ、うふふ……モナー君らしいわ、……ひねくれてるの……」


 手紙の中に隠された、村長モナーの想い。
 それを読んだレモナは、ぽろ、と涙をこぼした。


 バカでどうしようもない自分を許してくれた人。
 こんな自分を愛してくれた人に、罪を背負って伝えたい。


 レモナも、愛してる。

 ごめんなさい、そして、ありがとう。



五話 後編、おわり。


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