('A`)と歯車の都のようです

4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:11:20.91 ID:+ZdXz0/a0
ドクオの住んでいる築九十七年のアパートは、強風が吹いただけでも軋みを上げるほどの強度を持っている。
―――要するに、オンボロアパートだ。
家賃は月2万、十一畳一間、炊事場とトイレを完備。 更には、棺桶並の広さのあるシャワールームまで備え付いていた。
まさに一人暮らしをする者にとっては最高の設備、至れり尽くせりである。

そう思わなければ、このカビ臭いオンボロアパートに住める筈が無い。
事実、このアパートにある全8部屋全て、例外なくカビの被害にあっていた。
水周りは当然として、持ちこんだギター、煎餅、パン。
とにかく、カビの生える物に関しては持ち込んだら最後、二十四時間以内にカビの被害を受ける。

カビキラーを使って念入りにカビ取りをしようとも、翌日には洗面台で朝の挨拶を交わす事になる。
都の細菌学者をも唸らせる脅威の生命力を誇るカビの正体は、歯車王同様不明である。
ただ単に、学者が面倒臭がって正体を調べていないだけなのだが。
黄色だったり赤だったり、緑だったり黒だったり、白だったり青だったりするカビの正体など、知ってもいい事はないからだ。

当然ながら、このアパートの住人もその正体を知ろうとはしない。
知ってしまえば、絶対に引き返せない場所に自分がいる事に気付いてしまうだろう。
先日、運悪く知ってしまった住人が精神科に運び込まれたのがいい証拠だ。
故にドクオはカビと共に歩む事を心に決め、カビ取りを諦めた。

湿度の高いこの都でそんな事をしてしまえば、部屋中がカビに侵略されるのは必至。
カビに支配された部屋での生活は、当然のように人体に有害である。
しかし、ドクオの部屋の場合は何故か違った。
カビの繁殖地は主に水周りだけで、ドクオがよく使うトイレと寝床には不思議とカビは侵略していなかった。

6 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:16:09.59 ID:+ZdXz0/a0
それだけでなく、人体に害を与えるどころか逆であった。
何せここに住んでから病気になった事がなく、外傷と年一回の健康診断を除けば、病院に掛かった事など無い。
カビが思わぬ薬に転じたとしか、考えられない。
ところが、ただ一つだけ解決できない事があった。

('A`)「おお… 頭が痛い…」

時折ドクオを襲う頭痛。
それだけは、この天然の天才医も治せないでいる。
主に寝起きの際に襲う頭痛は、かれこれ数十年以上続いていた。
昨朝、作戦が終わり帰宅してからもこの頭痛は訪れた。

気絶するように煎餅蒲団に倒れ込んだドクオには、それから先の記憶が全くない。
大方、慣れていない仕事に体が悲鳴を上げたのだろう。
それにしては妙だ。
丸一日寝ていたにしては、いつも和らぐはずの頭痛が全く和らいでいない。

('A`)「なんと… 背骨も痛い…」

これは確実に筋肉痛だ。
ヒートに抱えられての五点着地、あれは精神的にも肉体的にも来た、いろいろ来た。
更には仮面の男達との死闘、そもそもドクオは戦闘に向いていない。
ヒートがいなければ、今頃筋肉痛どころではなく死んでいただろう。

7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:21:15.70 ID:+ZdXz0/a0
('A`)「ああ… 肩が痛い…」

もそもそと上半身だけ布団から這い出して、ドクオはため息と共に愚痴を漏らした。
左手を伸ばし、鈍痛の走る肩をもみつつ、枕元で湿った電子音を鳴り出した目覚まし時計を投げ飛ばす。
湿った音を立てて、目覚まし時計が壁にぶつかった。 その衝撃で電子音が止む。
首をコキコキと鳴らし、大きく伸びをする。

電池式ではなく歯車式の時計の為、衝撃で停止する事も無い。
壁際に落ちた時計の時針は、8の数字を指し示している。
24時間計が20を示していることから、今の時刻が20時である事を理解する。
デレデレから指示された時刻までは、後1時間あった。

このオンボロアパート、"硝子寮"からロマネスク一家までは徒歩で約20分。
家の前を通る道を一直線に進んだ位置にある為、いざとなれば単車を転がせば5分も掛からない。
時間的余裕が生まれると、人間は心にも余裕を持つ事が出来る。
眠気覚ましに珈琲を飲もうと、昨日の帰りに自動販売機で買った缶珈琲に手を伸ばす。

ところが、枕元に置いた筈のそれが無い。
寝ぼけ眼をこすりながら、ゆっくりと眼を周囲に泳がせる。
洗面台の上に、ポツンと乗っている金色の缶を見咎めた。
プルタブが上がっているのを見るに、当の昔に中身は空っぽだろう。

9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:26:07.38 ID:+ZdXz0/a0
('A`)「あれ?」

それを飲んだ記憶が全くないぞ、おい。
自販機の中でも一番高い缶珈琲を買ったというのに、その味を堪能していない。
嗚呼、何という無常。
何という悲劇。

('A`)「物忘れが酷くなってきたな…」

一缶350円という缶珈琲を失った今、ドクオに出来るのは慰み程度にインスタントコーヒーを淹れるだけだった。
筋肉痛と関節痛で軋みを上げる体に鞭を打って、布団から這い出て起き上がる。
布団から数歩の位置にあるガス台に歩み寄り、コンロの上に乗っかっているヤカンの中身を確認する。
ギリギリマグカップ一杯分がある事を確かめ、火に掛ける。

お湯が沸くまでには、後三分はかかるだろう。
その間にシンクに置いていたマグカップを丁寧に洗い、そこにインスタントコーヒーをスプーンで一杯入れる。
砂糖を五杯入れ、事前に粉と砂糖をスプーンで混ぜる。
こうしておくことで、砂糖と粉が均一に溶け、簡単に無難なインスタントコーヒーを淹れる事が出来るのだ。

それでもまだ一分は余るので、トイレと一体になっている洗面台に足を運ぶ。
湿った音を立てて開いた扉の先は、うっすらとしか視認できない。
滅多に帰宅しないドクオにとって、"トイレの電燈の一つや二つ切れた所で"何の問題も無い。
夜目の効くドクオならば、この程度の暗闇は何ら生活に支障が無かった。

13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:31:09.33 ID:+ZdXz0/a0
基本的にどこの組の仕事も受ける為、ドクオは一週間に一度ぐらいしかこのオンボロアパートに帰ってこない。
だからこそ、この部屋はカビに支配されつつも見事な共生っぷりを繰り広げているのだが。
便器の前にある洗面台の前に来て、ドクオは鏡を覗きこんだ。
鏡に映る自分の顔だけはピントが合っていたが、背後の様子は霞んで見えなかった。

そんな事はさて置き、ドクオは蛇口をひねり冷水を勢いよく流す。
両手を差し出し冷水を受け止め、顔をそれに近づける。
軽く呼吸を止め、受け止めた冷水を勢いよく顔に浴びせかけた。
漢の洗顔とは、大胆かつ複雑、繊細にして単純なものでいいのだ。

流石にカビの生えたタオルで顔を拭くわけにはいかないので、昨日の帰宅時にコンビニで購入した新品のタオルで顔を拭く。
ついでに買った歯磨きセットで適当に歯を磨き、適当に口を濯ぐ。
先ほどのタオルで口元を拭き、用済みとなったタオルを手近なごみ箱に投げ捨てる。
衝撃でごみ箱が倒れたが、ドクオは全く気にしない。

どうせ、この部屋は一週間に一回しか帰ってこないのだから。
そんな事を思いながら、ドクオは火に掛けっ放しのヤカンの元へと戻る。
あわてずに火を止め、ヤカンの中身をマグカップへと注ぐ。
珈琲独特の香りと共に、湯気がカップから立ち上がる。

('A`)「スズ……ズ」

優雅に飲んでいる暇はないが、こうして糖分を摂取する事は非常に大切な事。
立ちながらコーヒーを飲む様は、まじめに働くサラリーマンと似ている部分がある。
残念ながら、ドクオは"会社の歯車となって擦り切れるまで働く"気は毛頭ない。
"自分を見失ってまでも生き永らえる"ぐらいなら、自分を見失わずに鉄火場に足を突っ込んでいる方がいい。

16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:36:22.73 ID:+ZdXz0/a0
口の中に流れ込む熱い液体は、少しの苦みと多量の甘みを用いてドクオの意識を明確にしていく。
脳が覚醒してゆく様を自覚できる機会は、一般人が普通に生活していてもそうないだろう。
鉄火場もとい地獄の一丁目の曲がり角に佇む者にとっては、この感覚は好きなだけ味わえるものだ。
銃口を向け合えば、誰だっていつだって味わえる。

もっと手軽に味わいたいのであれば、高い場所から硬い地面へのコードレスバンジーをお勧めする。
―――どうなっても、責任は取れないが。
珈琲を飲みつつ、床に落ちて恨めしげにドクオを見つめる時計をちらりと確認する。
2040時、そろそろ出発しないと遅刻してしまう時刻だ。

('A`)「さて、そろそろ行くか」

時間的には単車を転がさなければ、まず間に合わないだろう。
急いで服を着替え、セントジョーンズ製の腕時計を腕に巻く。
ネクタイをスッと締め、左胸に下げたホルスターにM8000を差す。
腕時計で時刻を確認、2043時。 我ながら素早い行動だ。

そう内心で樮笑み、革靴に足を入れる。
軽くつま先を地面に叩き、奥にまで足を通す。
ドアノブに手を掛け、静かにドアを開け放つ。
後ろ手でドアを閉め―――

('A`)「おお?!」

ようとして、出来なかった。
思わず振り返り、乱暴にドアを押す。
しかし、鉄でも挟んでいるかのようにドアは全く閉まらない。
確かに建てつけも悪いし、カビも生えているが、この硬さは異常だ。

19 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:41:40.78 ID:+ZdXz0/a0
(#'A`)「ふんっ! 噴ぬ!」

掛け声と共に、思い切りドアを押す。
それでもやっぱり、ドアはビクともしない。
築97年は伊達では無いという事か。
五年前の抗争時も無傷だったというだけはある、こいつ、出来る。

('A`)「何てボロイんだ… これじゃあ鍵が掛けられん…」

とは言っても、ここまで努力して閉まらないならば大人しく諦めるのが立派な大人だ。
大人の対応マニュアルによれば、ここはクールに去り。
去り際に手を上げて、"アデュー"というのが適当らしい。
肩をすぼめ、キザな男を気取りつつ―――

('A`)「と、言うとでも思ったか!
    この糞ドアが! 調子に乗るなよ!」

大人しく諦めるかと思わせ、ドクオは軽く勢いをつけてドアに襲いかかった。
立派な大人で無いドクオは、如何なる時も諦めない。
諦めるぐらいなら、死んだ方がましだ。
例えそれが、ドア一枚の為だとしても。

('A`)「せりゃあああああ!!」

見よう見まねで、ヒートの格闘"技"をドアに対して試す。
確かこうして、気合の一声と共に高々と飛翔。
ドアノブに足を掛け、再び飛翔。
そして、空中で眼にもとまらぬ速さで蹴りを繰り出す。

"正中線連撃"!

22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:46:12.70 ID:+ZdXz0/a0
('A`)「どりゃああああ? あ、あ?
   うわあああああああああああああああ!!」

を繰り出したつもりだったのだが、残念ながらドアノブはドクオの体重に耐えられる程の強度が無く。
ドアノブが取れた影響で、虚しく空を切った脚は、見事に蝶番を直撃。
長年のカビによる浸食によって腐っていた木製のドアは、蝶番を残して無残に崩れ落ちた。
その様子は、まるで古の巨像が崩れ落ちる図にも似ている。

(;A;)「ちくしょおおおおおおお!!
   風通しが良くなったあああああああああ!!」

内側に向けて倒れた扉からは、ドクオの部屋が一望できた。
虚しく吹く風が、容赦なく部屋を突きぬけて行く。
半ベソをかきながら、ドクオは階段を駆け下りる。
近所迷惑な行動にも思えるが、この"硝子寮"の住人はただ一人。

―――ドクオ・タケシ、その人である。

(;A;)「もう知らねーよ!」

ドクオの声は虚しく闇に木霊した。

23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:49:26.72 ID:+ZdXz0/a0
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('A`)と歯車の都のようです
第二部【都激震編】
第一六話『備えよ常に、構えよ共に』

十六話イメージ曲『螺旋』鬼束ちひろ
ttp://www.youtube.com/watch?v=GYmOR5MnkvA&feature=related
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26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:54:24.56 ID:+ZdXz0/a0
三件連なって建っている事で有名な水平線会とクールノーファミリー、そしてロマネスク一家。
正面から見たら左端に位置するロマネスク一家、そこが今夜の会議の場である。
敷地を囲う鉄柵の前に単車を停め、ドクオはロマネスク一家の建物を見上げた。
雨あがりで少し冷え込んでいる為、ドクオの白い息は自然と空に向かって昇る。

金というのは、やはり衣食住に使うのが建設的な思考だ。
いくらペットや女につぎ込んでも、いつかは無駄になる。
その点、衣食住なら確実に自分の身になる。
まぁ、衣には最低限の金で十分だろう。

とりあえず、貯金がいい感じで貯まり始めたので。
いい加減、住に金を回してみようか。
ロマネスク一家の建物を見上げながら、ドクオがそんな事を考えていると。
敷地前の鋼鉄の門が、軋みを上げながら開いた。

ひと一人が通れる程開かれた扉は、まるで地獄の門にも見える。
―――あながち、大げさな表現でもないのだが。
観音開きの扉から、一人の女中が歩み寄ってくるのをドクオは見咎めた。
その姿を見るや否や、ドクオは出来るだけ冷静に腕時計が示す時間を確認する。

2053時。
遅刻はしていないが、少し遅かったか?
何せ、"銀狐"が出て来たのだ。
否応なしに、最悪の答えしか想像できない。

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 22:59:05.14 ID:+ZdXz0/a0
イ从゚ ー゚ノi、「そう慌てることも無かろう。
       まだ時間はある。 こっちじゃ、付いて来い」

どうやら、ドクオの思い過ごしだったようだ。
思わずため息をつき、ドクオは自身の六感を非難した。
銀色の髪を靡かせ、銀はドクオを邸内へと案内する。
敷地内に足を踏み入れた瞬間、銀は思い出したように告げた。

イ从゚ ー゚ノi、「単車で来るのは構わんが、人様の屋敷の前に停めるのは関心せんな。
       今回のは、手痛い教訓として取っておけ」

その言葉と同時に、鉄の扉が勢いよく閉まる。

('A`)「え?」

一瞬、ドクオは銀が何を言っているのか理解できなかった。
正確には言葉の一部、つまり"手痛い教訓"の部分が理解できない。
その言葉の意味を知ったのは、背後で可愛らしく爆発音が響き。
音の方へ反射的に振り返ったのを、ドクオが後悔してからだ。

(;'A`)「お、俺の単車が…」

単車と言えば響きがいいが、ドクオのそれは"原動機付自転車"と呼ばれる物だった。
フレームで構成された車体、座席の下に空いた外からも見える空洞。
特徴的な外見をするその単車は、他社のそれに近似するデザインが無い。
ホンダ社が作り上げた原動機付自転車、ズーマーである。

33 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:03:21.49 ID:+ZdXz0/a0
爆発炎上するドクオのズーマーが、ドクオの視線の先で真っ二つになって倒れているではないか。
長年の愛車であるズーマーがこうもあっさりと斬られるなんて、ドクオは夢にも思っていなかった。
ドクオの第六感が告げたのは、この事だったのだ。
そんなドクオを知ってか知らずか、銀は至極あっさりと告げた。

イ从゚ ー゚ノi、「自業自得、じゃな」

('A`)「……そうですね、私が悪かったです」

ドクオの名誉の為に言っておくが、ドクオは銀に掴みかかるぐらいの怒りは感じていた。
しかし、その怒りを鎮めたのはドクオの鋼の精神でも、賢者のささやきでもない。
その正体は、銀が背中に手を伸ばそうとしているのを見たからだ。
背中に背負った日本刀"厳狐"、の一閃を受ければ、ドクオは"ダルマ落とし"の要領で地面とお腹が合体してしまう事請け合いだ。

('A`)「…」

逆らうなんて出来ない。
想像すら出来ない。
ただ単にドクオの想像力が乏しいという訳ではなく、経験が想像する事を停止させたのだ。
例え今手元にM2重機関銃があろうとも、決して敵わないからだ。 達磨にされる光景など、想像したくも無い。

イ从゚ ー゚ノi、「賢明な判断じゃな」

ちらりとこちらを振り向き、幻想的な笑みを浮かべる。
その笑みの対価が、ズーマー一台。
改造費、満タンに入れていたガソリン代を含めて実に25万。
ちなみにその金額は、ドクオの一ヶ月分の収入に値する。

37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:07:14.54 ID:+ZdXz0/a0
('A`)「…」

あまりにも対価が高すぎるのではないか、この糞尼。
それでも今は、そんな事を思っているなど顔に出すわけにはいかない。
堪えろ、堪えろと自分に言い聞かせる。
それが顔に出てしまったのか、銀が意地の悪い声で言った。

イ从゚ ー゚ノi、「文句でも、あるのか?」

言いつつも銀は右手を脱力させ、厳狐を最速で抜き放つ準備をしている。
冗談だとは分かっていても、銀のそれは電気椅子のスイッチを半押しする行為と同義だ。
執行官が機嫌一つ損なうだけで、くしゃみをするだけでもドクオは容赦なくこの世と別れを告げなければならない。
それだけは御免こうむるので、ドクオは命と金を天秤に掛け、命を取った。

('A`)「いえ、ないです」

プライドが無いかと言われれば、そうなのかもしれない。
それでも、死ぬよりかはマシである。
これは諦めでは無い、賢明な判断だ。
そこのところを誤解してはいけない、履き違えてはいけない。

ドクオはかつて得た経験から、その事をよく知っていた。

38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:12:04.89 ID:+ZdXz0/a0
――――――――――――――――――――

ロマネスク一家にはクールノーファミリー同様、地下会議室が設けられている。
ただし、その広さはロマネスク一家の方が三倍ほど広い。
度重なる抗争を潜り抜けたロマネスク一家は、伝統的に地下室を拡大させる傾向があった。
その結果、地下階層が三階という秘密基地よろしくな設計となっている。

今回の会議は、その中でも一番大きな会議室。
"第三会議室"、最下層に位置する巨大な会議室で行われていた。
部屋の七割を一つの巨大な円卓が占め、その周囲を20の席が囲んでいる。
二席を除いて、全ての席が主を抱えていた。

入ってすぐの二席が空白なのを見るに、ドクオと銀の席がそこなのだろう。
というより、そこしかない。
ドクオの席の右隣に、水平線会のトラギコ。
入って来たドクオには眼もくれずに、ただ真っ直ぐ前を見ている。

頬に入った二本の傷とツンツンの金髪が、彼の本質を誤解させているが。
トラギコは兄貴気質が強く、年下の面倒見が良い事で知られている。
基本的にいい人であり、ドクオは何度か奢ってもらった経験がある。
その右隣には、同じく水平線会のミルナ。

トラギコ同様、目の前を真っ直ぐ見ているが、時折手元の資料に目を落としている。
そう言えば、空席にも資料が置かれている。
恐らくは同じ物だろう。
ミルナの横では、クールノーファミリーのギコが、ペニサスと共に何やら小言でやり取りをしている。

39 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:17:04.95 ID:+ZdXz0/a0
読唇術でも心得ていなければ、その内容は理解できないだろう。
ペニサスの横には、顔面に包帯をぐるぐる巻きにしたオサム。
何を考えているのか、席の後ろに棺桶を置いている。
親の形見だとしても、そこまでそれに拘る理由が分からない。

その横にいるのは、ドクオにとって初見の男だ。
ガタイがいいのに、これほど黒いスーツが似合わない男も珍しい。
青いツナギが似合いそうな、そんな男だ。
とりあえず、その眼がドクオの全身を舐め回すように見ている事は解る。

ついでに、貞操の危機でもありそうだ。 急いで眼を隣に移す。
その男の横、オールバックの似合う粋な男。
シャキン・ションボルト。
それまでNo.2だった渡辺の後に就き、短い間だったがNo.2に君臨していた"鉄足のシャキン"。

引退しても尚その人望は健在で、こうしてここに呼ばれたという事か。
趣味で経営していたバーボンハウスが経営不可能になり、その復興までナイチンゲールに料理人として派遣されていた。
ナイチンゲールも襲撃、爆破され今では使い物にならない。 何とも不遇な男ではあるが、本人は至って平気な風である。
その横では、銀髪灼眼の女が笑みを浮かべていた。 ハインリッヒ・高岡だ。

どこか幸せそうにも見えるが、狂気を孕んだ笑みにも見えるのは、やはり片目を銀髪で覆い隠しているからだろう。
ふと、ドクオに気付いたハインは、小さく手を振る。
そして、ドクオの席の真正面に位置する場所にはこの場で最も恐ろしい男が沈黙を守っていた。
片手に持ったグラスの中身をまわし、ちびりとそれを呑む様は、正に王にこそ相応しい。

41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:21:10.02 ID:+ZdXz0/a0
"魔王"杉浦ロマネスク。
両眼の上に大きな傷を負った初老のロマネスクは、"目を閉じたまま周囲を見渡している"。
傍らに置いた杖は、視力の無いロマネスクの眼の代わりでもある。
さらに、その横。

"女帝"デレデレと、"帝王"でぃが席をくっ付けて乳繰り合っていた。
すぐに眼を横に逸らし、その横の人物に目を向ける。
"グレートピンクエロス"ミセリ・フィディック。
続いてその右腕、"鉄仮面"都村トソン。

裏社会の風俗店経営の凄腕二人組が、なぜここにいるのだろうか。
そんな事を思い、ドクオはある事に気が付いた。
ミルナとトラギコの視線の先に、この二人がいる事に。
頭の中で浮かんだ想像を、一瞬で打ち消し。

ドクオはその横に目を移す。
母親譲りの金髪碧眼、"神槍"クールノー・ツンデレ。
その吊目が見つめる先にいるのは、この中でもっとも異質な存在のオサムである。
果たしてその視線が意味するのは何か、そんな事をドクオが知る由もないが。

どことなく、不思議な視線であった。 目線をゆっくり隣に移す。
ツンの隣で腕を組んで瞑想をしている人物に、ドクオは一番眼を奪われた。
珍しく、"戦乙女"素奈緒ヒートがまともな格好をしているのだ。
黒いスーツを皺一つなく着こなしているなど、奇跡では無いだろうか。

45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:25:29.60 ID:+ZdXz0/a0
失礼な事だとは分かっていても、これまで"何故か"パートナーを組まされてきた以上、奇跡としか思えない。
食事をさせれば喰い散らかすし、戦闘をさせれば鋼鉄の男どもを素手で破壊する始末。
動きやすい服装を選んでくるとばかり思っていたドクオにとって、ヒートのスーツ姿というのは新鮮なものでもあった。
ヒートのその姿に目を奪われたのは、ドクオだけでは無かったようだ。

横で露骨に横にいるヒートの胸を凝視する男、ジョルジュ・長岡。
嗚呼、最早何も語るまい。
最早未練は無い、俺はどんなことも厭わない、恐れない。
そういう眼だ。

人生を三十回ぐらいリベンジすれば、その考えも改まるだろう。
後は、ロマネスク一家の女中が二人。
二女狼牙、続いて三女千春。
気が付けば、銀も千春の横に座っていて、残る席は一つ。

必然的にドクオは銀とトラギコに挟まれる形で、席に着く事にした。
椅子を引いて腰を掛け、手元の資料を手に取る。
その瞬間、場に静寂が訪れた。 別に、ドクオが資料を手に取ったのが原因では無い。
女帝が口を開くのに、騒がしくする馬鹿はいないだろう。 極低温の静寂を、春の風が優しく取り払う。

ζ(゚ー゚*ζ「さて、と」

そう言いつつ席を立ち、デレデレは周囲を見渡した。
見渡す度に豪奢な金髪と豊かな胸が揺れ、男としては目のやり場に困ってしまう。
当人は全く涼しい顔で空席が無い事を確認し、満足げに頷くと。
デレデレは口を開いた。

46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:30:11.38 ID:+ZdXz0/a0
ζ(゚ー゚*ζ「全員揃ったわね。
       では、これから拡大会合を始めるわよ」

本来、拡大会合とは御三家が自らの配下を従えて行う会合である。
今回は特例として、ドクオ達も同席する事となった。
更に、会合の内容が裏社会に大きく関わる事なので、ミセリ達もここに呼ばれているとの事。
内容は先日言われたとおり、六日後に控えた歯車祭の打ち合わせだ。

ζ(゚ー゚*ζ「知っての通り、六日後に歯車祭があります。
       今年は五百周年という節目の年なので、その規模は前例がないわ」

歯車祭、都を上げて歯車王を尊ぶ祭りである。
三日三晩に渡って繰り広げられる祭りは、都が一年で最も賑わう行事だ。
一日毎に決められた行事を行う以外は、普通の祭りと大差ない。
行事とは言っても、それほど堅苦しいものでは無い。

一日目の行事は、【プレ・パレード】と呼ばれるもので、巨大なオープニングセレモニーを行う。
会場である大通りに沿って行進し、各都から招待されたエンターテイナー達がその優劣を競い合うものだ。
昨年は"情熱の都"代表が、総勢二万人による見事なカーニバルダンスを披露し、優勝を果たした。
優勝した暁には名誉と共に莫大な賞金が与えられるとあって、各都の代表は目を輝かせて参加していた。

二日目は、【王の御披露目】と呼ばれる、文字通り歯車王がその姿を人の前に現す数少ない行事である。
時間にして数分で終わるこの行事が、実は一番人気な行事であり、マスコミ達はここぞとばかりに歯車王の素顔の撮影を試みる。
しかし、如何なるカメラでも仮面の下の素顔を写す事は叶わず、今日に至るまでただ一つの成功例は無い。
噂では、アメリカの誇る諜報機関がその技術の粋を駆使して作ったカメラでも、撮影は不可能だったとの事。

三日目、即ち最終日に行われるのは【綺想円舞曲】。
祭りの中で最も盛り上がる、歯車祭最大のイベントである。
天候が悪く、常に暗い都の気候を最大限に利用した演出が見物だ。
去年は歯車城の最上階から連続して十八万二千百三十五発の花火を打ち上げ、都中が驚きに包まれた。

47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:35:47.53 ID:+ZdXz0/a0
更に、歯車の技術を駆使して作られたスピーカーを使い、どこに居ても騒音にならない程度の音量で音楽を流す。
流れる音楽に合わせ、人々は踊りを踊る。
その音楽は毎年直前まで発表が控えられ、まるで合格発表を待つ受験生の様に人々はそれを待つことになる。
その人気の立役者こそが彼ら、裏社会の面々であった。

約十三キロにも及ぶ大通りに沿って建ち並ぶ出店同士の調停から、前日のごみ掃除、当日の治安維持等も彼らの仕事である。
歯車城の周囲、半径五百メートル以内には一切の立ち入りを禁ずる為の防壁を展開。
迷子の世話も裏社会の面々の仕事だ。
こうして手伝う事が、上手いこと共生出来ている秘訣であった。

去年の裏社会の動員数は3000人。
各都からの観光客は20万人。
その他の入場者等を含めれば、合計で25万人を動員したことになる。
去年を上回ると規模ともなれば、今回の動員数は必然的に天井知らずだ。

ζ(゚ー゚*ζ「という訳で、今年の予算は例年の10倍に決定しました。
       詳しくは手元の資料に載ってるから、暇だったら見てね」

そう言われ、ドクオはちらりと予算欄に眼を向ける。
ドクオは目が悪いわけでは無い。
むしろ、両眼とも2.0と極めていい視力である。
そのドクオが、紙に書いてある数字を見間違える事は無かった。

(;゚A゚)「い、1兆?!」

規模がでかいのは理解できるが、この金額は何だ。
思わず声を上げたドクオを、デレデレは微笑ましい目で見る。
会議中に声を上げた者を咎めようとはせず、デレデレは口を開いた。

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:40:55.89 ID:+ZdXz0/a0
ζ(゚ー゚*ζ「そう、1兆よ。 まぁ、その予算以上の収益は見込めるから、問題はないわ。
       本当はもう少し増やしたいところだけど、これ以上増やすとギコ達の給料から差っ引く事になるのよ。
       あ、その方向で行きましょうか」

(,,゚Д゚)「え?!」

ちなみに、今のギコの給料は様々な事情によって、通常の三割減の状態であり。
今回の祭りで、六割増しの給料が貰えるとあって、ギコは秘かに給料に期待していた。
その期待をデレデレが知らないはずはなく、デレデレが思いついた提案はギコの心に鉛弾を撃ち込む事になった。

(,,゚Д゚)「あのーデレデレ様、今差っ引かれると非常にまずいんですよ。
    主に俺の財布に与えられる経済的損失がですね」

現に、ギコの財布の中身は大きめの硬貨が数枚しかない。
ファミレスでランチセットを頼めば、財布の中身は空になる程だ。
当然デレデレはその事を知っていて尚、ギコをからかっているのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「あらそう? じゃあ決定ね」

可愛い我が子を苛めるのは非常に面白く、見ていて飽きない。
特にギコは反応が可愛らしく、デレデレだけでなくペニサスにも苛められている。
その苛めに愛情がある事を知っている為、実はまんざらでもないのだが。

(,,;Д;)「そ、そんなぁ…」

しかし今回は、珍しくギコがへこんでいる。
高反発枕も真っ青なギコのタフで柔軟な心が、今では低反発枕並みにヤワになっていた。

52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:45:07.63 ID:+ZdXz0/a0
('、`*川「いいじゃない、特に使う予定も無いんでしょ」

義姉であるペニサスが、ギコの横で口を開いた。
ギコの財布の管理をしているペニサスは、ギコの財布の状況を冷静に分析し、結論を口にした。
しかし、ペニサスの思惑とは裏腹に、ギコは意外な反応を示した。

(,,゚Д゚)「あ、ある事もないしない事もありるえ」

ペニサスの問い掛けに対して、ギコは露骨に焦り出し、言葉をまともに紡げていない。
横にいるペニサスを見ようとせず、左隣りのミルナとトラギコに救いの眼を向ける。

(=゚д゚)「なーに焦ってるんラギ?
    あ、そうか!」

その眼を見て、トラギコは何か考え至ったのか。
手を打ち鳴らし、声を出して納得した。
それを見て、横のミルナはトラギコの肩を揺らそうとして。

( ゚д゚ )「なんだよ、教えろ…って、あぁ!
    あれか!」

ミルナもトラギコ同様、声を上げて納得する。

('、`*川「?」

仲の良い三人だけで納得されても、ペニサスには分からない。
後でギコをベットの上で尋問すれば、答えが聞けそうではあるが。
そうまでして知りたいとは、ペニサスは思わなかった。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:50:54.99 ID:+ZdXz0/a0
ζ(゚ー゚*ζ「…男三人、いえ、四人で内緒話かしら?」

デレデレは席に着いて、でぃを笑顔で見た。

(#゚;;-゚)「…話を戻そうか」

小さく咳をして会話を止め、でぃは会議の軌道修正をした。
デレデレに対して嘘は通用しない。
その事を知らない者は、御三家にはただの一人もいない。
デレデレの代わりに、でぃが説明を始めた。

(#゚;;-゚)「今回の祭りは聞いての通り、規模が半端じゃない。
    幸い、我々は"デッドスポット"に店を構えないで済む」

"デッドスポット"、都の中心に聳え立つ歯車城の周囲を囲む道路。
それは歯車城を囲むように緩やかな曲線を描き、都の真ん中を走る大通りの交通の流れを妨げないように考慮された設計となっている。
歯車城を中心に円を描いた道路と考えてもらえれば、まず間違いないだろう。
後は長さ13キロ、幅2キロの直線道路が都の中心にあると想像すれば、問題はない。

問題はその緩やかな曲線にこそあった。
否応なしに人の流れを二分する設計の為、客の数が半分になってしまうのだ。
その為、その曲線はデッドスポットと呼ばれ、毎年多くの出店が憂いの涙を流す羽目になっていた。
出店場所の指定は、歯車王が直々にするのだが。

如何なる作為か、これまで御三家がデッドスポットに店を構える事は無かった。
恒例とはいえ、この僥倖を喜ばずにはいられない。
ギコやミルナ達は、小さくガッツポーズをした。
出店場所はモチベーションに大きく関わる為、こうして喜ぶのは大げさとは言えない。

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/19(日) 23:55:14.68 ID:+ZdXz0/a0
(#゚;;-゚)「で、だ。 全出店の数は約3500。
    予想動員客数は百万近く、店側の人間は一万といったところだ。
    我々が出す店の数は4件、"こっち側"の動員数は5000人だ」

去年は3件、都合たった1件増えただけにも思えるが。
各都から押し寄せる強豪店を押しのけ、1件増やせただけでも凄い事だ。
一軒当たりに与えられる場所は、横約7メートル、縦約200メートル。
去年よりもずっと店の面積は狭くなり、密度も増している。

(#゚;;-゚)「本題はここからだ。 4件の店に、二人一組の店主を配置する。
    勘のいい奴はもう分かったと思うが、今回の出店はここにいる4組織が合同で行う。
    去年みたいに売り上げを競う事は出来ないが、これが最も効率がいい」

都合8人の精鋭が店を任されるという事は、必然的に残された者はそのサポート。
もしくは歯車祭実行委員に派遣され、雑務をこなすか。
厳つい外見と、その実力を買われて治安維持に貢献するのもまた、重要な仕事である。
何せ、この時を待っていたのは観光客だけでなく、彼らを狙う路上強盗も同じように心を躍らせているのだ。

ζ(゚ー゚*ζ「それでは、発表するわよ〜」

でぃの脇腹をつっついていたデレデレが、口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「一組目、バーボンハウス担当。
       シャキン、ヒート。 あなた達はE19の店を担当して」

大通りの長さは13キロ、それを一キロ毎に区切ると全部で13ブロック、左右に店を展開するのでブロック数は増える。
正確に言えば合計で26ブロック、一店舗の横が約7メートルの為、一ブロックに建ち並ぶ店は19店舗。
ラウンジタワーを北西に見て、西側が大文字のアルファベット。 東側を小文字のアルファベットで分類する。
更に一ブロック内の北から、1〜19の小ブロックを割り当てる。 つまり、ヒート達の店は西側のEブロックの19番目。

57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:00:04.98 ID:UQYi1MOz0
幸運にも、デッドスポットの直前に位置している事になる。
逆を言えば、最も客が混み合う合流地点にいるのだ。 並の精神力と体力では、到底保たない。
シャキンとヒートを組ませた事は、そう考えれば必然である。
新バーボンハウスの宣伝も兼ねた出店の為、今回はしくじる訳にはいかない。

シャキンとヒートは互いに手を上げ、会釈をする。

ζ(゚ー゚*ζ「このグループを以降、"ヤーチャイカ"と呼称します。
       他のグループも同様だけど、六日以内に全ての出店準備を完了させてね。
       上への報告とか色々あるから」

そう言うと、デレデレは手元のワイングラスを手に取った。
グラスの中にある淡い色の液体を少し呷ると、再び口を開いた。

ζ(゚ー゚*ζ「続いて二組目、酒処担当。
       ミセリ、トラギコ。 あなた達はk12の店をよろしくね」

k12、都へと続く橋から入った客がその足を緩める南のポイントに位置し、逆を言えば。
"北から来た"客が、シメに酒を煽ろうとする場所でもある。
丁度真後ろに路地裏がある為、他店よりも少し便利な場所でもあった。
風俗経験のあるミセリが接客を担当し、客が少しでも変な動きをすればトラギコがそれを制する。

虎と娼姫が手を組めば、正に怖いもの無しである。
少しだけ困惑した表情を浮かべた双方だったが、すぐに元通りの顔になった。
先ほどのヒート達と同様に手を上げ、互いに会釈をする。

ζ(゚ー゚*ζ「このグループは以降、"サラマンダー"と呼称します。
       恐らくというか、必然的に従業員に手を出す不逞の輩が出現するから。
       その際は、任意に排除してちょうだい。 幸い、後ろは路地裏だしね」

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:05:05.67 ID:UQYi1MOz0
さらりと恐ろしい事を言ったデレデレは、再びグラスを呷る。
ドクオの手元にも同じ物が置いてあり、液体の色からそれがロゼであると分かった。
香りから察するに、赤と白を混ぜたまがい物ではなく、発酵途中で皮を取り除いた正規品であるようだ。
ロゼは比較的飲みやすく、赤と白の両方の特性を兼ね備えた、初心者にも安心して薦められるワインである。

ドクオはひとまずそれを手に取り、二回ほどグラスの中身を回転させる。
そうする事によってワインが酸化し、ワイン独特の香りが漂うのだ。
チューリップ形のグラスに鼻を入れ、その香りを堪能する。
香りが出来るだけ逃げないように設計されたそのグラスの真意を知っている酒飲みは、実のところあまりいないのが現実だ。

鼻腔を擽るワインの香りは、春の陽だまりの様に淡く、それでいて夏の風のように力強かった。
口内に伝達した香りを、口から出すようでは失格だ。
鼻からゆっくりと吹き出し、ワインの真なる香りを味わう。
無論、口内で味わうワインの味は文句のつけようが無い。

赤と白を混ぜたまがい物ならば、こうもいかないだろう。
それぞれの製法が異なる二者を混ぜれば、必然的に味は"迷路"のようになってしまう。
しかし、正規品ならばその味はまさに"伏線"としか語れない。
赤の発酵途中で皮を取り除く手間を掛けたその味は、白ほど淡くなく、赤より強くない。

一口呑んでロゼの虜になる者がいるのも、納得がいく。
銘柄までは分からないが、相当いい銘柄に違いない。
高級品が美味いとは限らない為、味だけで銘柄を当てるのは至難の業だ。
それこそ星の数ほどあるワインを識別して推薦するソムリエは、正に酒のプロフェッショナルである。

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:10:24.37 ID:UQYi1MOz0
最近は本や野菜にもソムリエを語る者がいるが、ドクオから言わせれば彼らはただのミーハーの糞だ。
ソムリエとは酒に精通した者の事を指し示し、本や野菜、ましてや"タオル"のプロがそれを語るなど、笑止千万。
更に滑稽なのが、そのプロの中でも"女がソムリエ"を名乗っている事だ。
メディアが腐りきっているのは、裏社会の住人ならば誰もが知っている事だが、この事は意外と知られていない。

女がソムリエを名乗りたいなら、"ソムリエール"としなければならない。
男女差別だなんだと言う糞がいるかもしれないが、これは識別であり、差別では無い。

ζ(゚ー゚*ζ「そして次の三組目、射的屋。
       ミルナ、トソン。 あなた達はj18を担当して」

奇しくもミセリとトラギコの上のブロックに配属された二人は、実に奇妙な顔をしていた。
ミルナは口をあけっぱなしにしたまま、眉を下げてデレデレを見ているし。
トソンに至っては、手にしていたボールペンのペン先を忙しなくカチカチと出し入れしている。
何とも奇妙な二人だ、そう思いながらドクオはグラスを口元に運ぶ。

ζ(゚ー゚*ζ「以降、このグループは"ダスク"と呼称します。
       こちらで景品のいくつかを提供するわ。 丁度、去年のが余ってたから。
       まぁ、基本は子供相手だから力まなくてもいいわ」

デレデレのその言葉に頷き、双方は手を上げて会釈する。
残るは後1グループ、デッドスポットに店を構えないという事は、FfGgHhはまず無い。
誰と誰が、ペアになり。 何の店を任されるのか興味に堪えない。
自然とグラスを握る手に力が入り、思わずグラスの中身を全て呷ってしまった。

空になったワイングラスを円卓に置き、ドクオが一息つくと。
横にいたトラギコと銀が同時に、ワイングラスをドクオに差し出した。

('A`)「え?」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:15:09.33 ID:UQYi1MOz0
小声で双方に問いかけると、先に答えたのは銀だった。

イ从゚ ー゚ノi、「儂は女中なのでな、酒は呑めん」

姉の口調で話しかける銀の後に、トラギコが口を開く。

(=゚д゚)「俺は、ロゼが苦手なんだ。
     このまま捨てるのも勿体無いから、お前が呑んでくれ」

分かりやすい嘘を吐く二人だったが、その眼はとても穏やかなものだ。
もともと面倒見のいい二人なので、ドクオの様にだらしのなく、面倒見甲斐がある者は大歓迎。
最も、ドクオがその事を知っている筈も無く。
その事を知っているのは、ごく限られた一部の者だけだった。

('A`)「どうも…」

二人から差し出されたグラスを手元に寄せ、どちらから口を付けたものかと思案する。
左から差し出されたグラス、つまりは銀の差し出したグラスから先に干す事にした。

ζ(゚ー゚*ζ「最後、第四組。 焼きそば、タコ焼き、お好み焼き屋担当。
       ペニとギコ。 二人でA17を担当ね」

(;,,゚Д゚)「にゅう!?」

焼きそば、以降の二単語を聞いたギコは、思わず奇妙な鳴き声を上げてしまった。
何せ一店で三種類の食べ物を担当しなければならないのだ、その大変さは去年経験済みだ。
一種類でも匠の技よろしくな一品を作らなければならないのに、三種類など正直無理な話である。
それでもデレデレは許さないだろう。 何せ、クールノーの母は非常に厳しいのだ。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:20:24.53 ID:UQYi1MOz0
ζ(゚ー゚*ζ「一品足りとも、手抜きは許さないからそのつもりで。
       ペニ、ギコの事よろしく頼むわよ」

('、`*川「当然です」

ζ(゚ー゚*ζ「じゃあ、残りの人たちは紙に書いてある指示通りに。
       以上で拡大会合は終了。 次の会合は五日後、つまりは祭りの前日ね。
       場所はここ、時刻は2200時。 それまでに仕事を終わらせてないと、もれなく翌日は睡眠不足ね」

要するに、デレデレが言うには。
"四日で全ての作業を終わらせろ"、との事だ。
正直に言って、四日間ぶっ通しで作業をしなければ間に合う筈が無い。

ζ(゚ー゚*ζ「あ。 阿部、この前はありがとうね。
       急な話だったのに、無理言っちゃって」

デレデレに話しかけられた男は、軽く手を振り。
"そんな事無いですよ、我が母"、と言った。

ζ(゚ー゚*ζ「今度、"ギコに"折り菓子持たせるから。
       好きにしちゃっていいわ」

――――――――――――――――――――

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:25:22.30 ID:UQYi1MOz0
拡大会合が開かれてから四日後。
祭りの準備で賑わいを見せる表通りとは逆に、裏通りは人気が全くなかった。
いつもなら蓋が閉まらない程のゴミで溢れかえっているゴミ箱も、今日は珍しく蓋が閉まっていた。
その影響で、いつもゴミ箱から溢れていた生ゴミを漁る野良ネコや野良犬達は餌場を表通りへと移している。

それが、"人の策略"だとも知らずに本能で動く辺り、所詮は動物という事だ。
食欲だけでなく、生存欲をもう少しだけ働かせれば後二、三日は長生きできたのに。
野良犬や野良ネコの駆除は、一年に一度行われる重要な行事である。
毎年行うこの駆除作業で駆逐される犬猫の数は、数百にも及ぶ時があった。

今年は、いい加減学習したのか。
未だに76匹しか駆除し切れていない。
動物愛護団体が心臓麻痺で死にそうなこの行事は、当然のことながら表社会の面々が手を付けるはずもなく。
裏社会の面々が、この汚れ仕事を請け負っていた。

今年の駆除作戦の指揮を執るのは、ナイチンゲール看護婦長のちんぽっぽ・ボーイングである。
人肉の味を覚えた野犬は時に群れをなして、人を襲う事があった。
それが浮浪者ならば願ったり叶ったりなのだが、祭りが近付く今の時期に観光客が襲われると非常に面倒な事になる。
少しでも不吉なイメージが外に流れると、来年の来場者が減る可能性が出るからだ。

故に、水平線会は銃器を用いての駆除作業に踏み出した。
カラシニコフ片手に、ちんぽっぽは大通りへの出入口が封鎖された路地裏を、慎重に歩いていた。
二人一組が原則のこの作業を、ちんぽっぽは敢えて一人でこなしていた。
たかが野犬と油断すれば、奴らは音も無く背後に忍び寄り、"油断した"愚か者の喉元を喰いちぎる。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:30:44.39 ID:UQYi1MOz0
奴らの常套手段は、まず手足の自由を奪い。
押し倒した揚句に、喉元へ。
こうして"究極の動物愛護"が完成するのだ。
動物愛護なんて冗談じゃ無い、そうちんぽっぽは苦笑した。

水平線会きっての暗殺者であるちんぽっぽが、野犬如きに負ける要因が何処にも無いし。
そして何より、ちんぽっぽは動物愛護団体が大嫌いだった。
一度連中に、クジラの肉を食わせてやりたい。
無論、向こう持ちで。

「きゃ―――――!」

ふと、曇天を裂く程の叫び声がちんぽっぽの耳朶を叩いた。
急いで声の方に駆け、そして見つけた。

少女「ひっ…!」

野犬が三頭、少女に牙を向けて唸り声を上げている。
すぐさま少女の前に躍り出ると、ちんぽっぽは銃口を野犬に向けた。
ここですぐに銃爪を引くのは、初心者のする事だ。
奴らはこちらの動きの、ただの一つも見逃さない。

銃爪を引こうと指に力をこめれば、ちんぽっぽがその隙を突かれて喰い殺される事は必至だ。
今は牽制をして、背後の少女が逃げ切らせる事が優先である。
少女が走れば、こいつらは本能から足が動くだろう。
それを付けば、こいつらを殲滅する事など訳ない。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:35:46.13 ID:UQYi1MOz0
(*'ω' *)「早く逃げるっぽ!」

そう叫び、ちんぽっぽは左手を出して少女に逃げるよう指示をする。
だが。

(*‘ω‘ *)「?!」

気付いた。
"出入り口を塞いだ筈の路地裏に、何故少女がいるのか"。

気付いた時には既に遅く、ちんぽっぽが出した左手は手首から先が吹き飛ばされていた。
痛みより先に、冷たさが体中を駆け巡る。
遅れて響いた銃声、この音は聞き間違える筈が無い。
スチェッキンだ。

スローモーションで手首から血が飛び散り、視界の端に吹き飛んだ左手首が見える。
続いて、カラシニコフを構えていた右手に違和感が走った。
肘を打ち抜かれ、カラシニコフごと右手が地面に落ちる。
ようやく、両手に激痛が訪れた。

堪らず痛みに声を上げようとするのを、気合で封じ込める。
しかし、"背後から響いた銃声"を聞いた瞬間。
思わず声が上がった。

「ア゛ァ゛ぁぁぁぁ!?」

背後から聞こえた二発の銃声は、ベレッタM92Fに相違ない。
両膝を打ち抜かれ、ちんぽっぽは顔面から地面に崩れ落ちた。
その衝撃で鼻の骨が折れ、鼻血が噴き出す。
発生した事態を整理しようとしたちんぽっぽの後頭部を、硬い靴底が思い切り踏みつけた。

81 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:40:29.14 ID:UQYi1MOz0
折れた鼻の骨が、更に細かく折れ。
恐らくは粉砕骨折レベルのダメージを、ちんぽっぽに与えた。
悲鳴を押し殺そうとするが、折れた骨を"砕かれれば"、猛者といえども悲鳴を上げざるを得ない。
路地裏に響いた悲鳴は、誰にも聞こえない。

それが、"ちんぽっぽの頭を踏みつけている"少女でも、例外では無い。

少女「馬鹿だね〜おばさんは。
    本当に甘い。 流石は"ぬるい"水平線会の人間だ」

手にした硝煙の上がるM92Fを指先で回し、少女は口元を醜く歪めた。
心底楽しそうな声で言葉を紡ぐと、少女は背後に向かって声を掛ける。

少女「おい、もういいぞ」

声に合わせて、ゴミ箱の蓋が勢いよく開く。
そこから現れたのは、黒い外套を羽織った―――

( ^ω^)「お怪我は?」

"鉄壁"ブーンだった。
手にしたスチェッキンを懐にしまい、少女に歩み寄る。

少女「ない。 それよりこいつ、このおばさんどうする?
    じわじわ撃ち殺す? それとも屍姦趣味の糞に犯させる?」

笑みを浮かべたまま、少女は残酷な言葉を平気で紡ぐ。
それに対して、ブーンは無表情で口を開いた。

( ^ω^)「犬に食わせながら、犬に犯させればいいと思います」

83 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:45:34.26 ID:UQYi1MOz0
少女「へぇ、いい事言うじゃん。
    じゃあ、それでいこうか」

まるで新しい玩具を見つけた子供のように、少女は目を細める。
そして、踏みつけているちんぽっぽに向かって言い放った。

少女「安心してよ、おばさんの死体はこっちで処理するから。
    そうそう、後の事は気にしなくてもいいさ。 だから、大人しく死ね」

攻撃の手段はおろか、移動の手段も奪われたちんぽっぽに出来る事は何もない。
先ほどの野犬が唸り声を上げ始め、恐怖で心が壊れるのも時間の問題だ。
これ以上の追撃を掛けれられば、あっという"間に何もかも"が終わる。
水平線会で鍛え上げられたこの自分が、こんな糞餓鬼に殺されるだなんて。

「く……そっ………たれ…」

最後の足掻きと、毒づいたちんぽっぽの根性は賛嘆に値した。
しかし。

少女「くそったれ? 快楽と苦痛を一緒に与えるんだ。
    むしろ、僕に感謝してほしいね」

その言葉を最後に、少女―――

爪゚ー゚)「じゃあ、いい声で泣いてね」

じぃ・バレットと、ブーンはその場から姿を消した。
それを契機に、野犬達が行動を開始した。
耳が地面に近いとよく聞こえる。
奴らの肉球が、爪が地面を離れる音がよく聞こえる。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:50:22.30 ID:UQYi1MOz0
砂利を踏みしめ、三頭の野犬が尻尾を振りながらこちらにやってくるのが解る。
それだけで、常人ならば発狂して叫びかねないのだが。
ちんぽっぽはその恐怖を噛み殺し、諍い尽くして死ぬ事を選んだ。
それが、如何なる苦痛を伴おうとも。

吐き気すら覚える野生の臭いが、ちんぽっぽの鼻腔を刺激した。
臭いだけで恐怖がピークに達する。 そして、始まった。
まず、一匹がうつ伏せに倒れているちんぽっぽの左手に喰らい付く。
別の一匹は、肘から先の無い右手に喰らい付いた。
そしてスカートを噛み千切り、欲情しているのが一匹。

最初に耳朶を叩く音は、スカートが噛み千切られる音。
肉を喰いちぎる湿った音。 続いて激痛。
生きながらに、喰い千切られる肘から先を無くした右腕。
同様に喰い千切られる、手首から先を失った左手。

歯が震える。
涙が止めどなく流れる。
恐怖が体を震わせ、心を蝕もうとする。
思考が激痛で埋め尽くされる。

痛い。
怖い。
寒い。
恐い。

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 00:55:24.98 ID:UQYi1MOz0
死にたくない。
犬に犯されたくない。 喰い殺されたくない。
いやだ。
いやだ、誰か助けて。

下半身に、激痛以外の何かが訪れた。
違和感。
それも、この上なく気持ち悪い違和感。
あぁ、いよいよ私もお終いだ。

"犬に犯される"など、人間としてお終いだ。
出血多量と涙のせいで、視界が霞む。
下半身で出し入れされる犬の性器に、快楽など感じるはずもなく。
愛液の代わりに、ちんぽっぽは涙を流した。

野犬達は、恐らくちんぽっぽが息絶えてもなお。
性欲を処理しようとするだろう。
同時に、食欲も満たせるとなれば、ちんぽっぽは犬達にとって格好の獲物であった。
激痛で否応なく収縮し、犬の性器をちんぽっぽの性器が締め付ける。

犬でも快楽の声を上げるのだろうか。
それに合わせて、犬は少しだけ呻き声を上げた。
同時に、ちんぽっぽの膣内に吐き気を催す程の感触。
犬が、射精をしたのだ。

ちんぽっぽの口からだらしなく零れる涎は、決して快楽の為では無い。
遂に、ちんぽっぽの自我が壊れたのだ。
全身の力が抜け、脳が全身に最終的な信号を送る。
それは、いかなる状況においても決して諦めなかった脳が、ついに負けた時に発する信号。

91 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2009/04/20(月) 01:02:34.07 ID:UQYi1MOz0
"生命活動の停止"である。

人間の倫理など、野犬が知る由も無く。
屍と化したちんぽっぽの体を、野犬達は貪り、犯し。
野生の本能を全て使い果たした頃には、そこのあったのは。

変わり果てた姿の、ちんぽっぽ―――
否、"かつてそう呼ばれていた肉片"があった。

―――歯車は回り続ける。
誰かの手のひらの上で。
何があろうとも、回り続けるのだ。

第二部【都激震編】
第十六話 了


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